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特許7364885ゴム材料情報を求める方法、及びゴム材料の選別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ゴム材料情報を求める方法、及びゴム材料の選別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/201 20180101AFI20231012BHJP
【FI】
G01N23/201
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019212722
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021085687
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆太郎
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-215070(JP,A)
【文献】特開2019-100814(JP,A)
【文献】特開2016-125844(JP,A)
【文献】特開2019-045390(JP,A)
【文献】国際公開第2014/071453(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亀裂を有するゴム材料の前記亀裂の進展のしやすさに関する前記ゴム材料の情報を求める方法であって、
前記ゴム材料と同じ材料からなり、前記亀裂を有しない第1のゴムサンプルを伸長させてX線散乱測定を行い、前記X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量と、前記第1のゴムサンプルの伸長によって前記第1のゴムサンプル内に生じる力学的物理量との対応関係を導き出すステップと、
前記ゴム材料と同じ材料からなり、前記亀裂を有する第2のゴムサンプルを伸長させて、前記第2のゴムサンプルの伸長方向と交差する方向に前記亀裂の先端から離れて位置する前記第2のゴムサンプルの測定対象部分のX線散乱測定を行い、当該X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量の値から、前記対応関係を用いて、前記力学的物理量の値を特定するステップと、
特定された前記力学的物理量の前記値を、前記ゴム材料の前記亀裂の進展のしやすさに関する情報として用いるステップと、を備えることを特徴とするゴム材料情報を求める方法。
【請求項2】
前記特徴量は、前記第1のゴムサンプル及び前記第2のゴムサンプルそれぞれにおけるX線照射位置からの距離に対する前記散乱光の強度の分布を示す散乱強度曲線の変化具合であって、前記X線照射位置からの前記距離が所定範囲内にある区間での変化具合である、請求項1に記載のゴム材料情報を求める方法。
【請求項3】
前記ゴム材料は、ゴム中に充填剤の凝集構造を有するゴム組成物からなり、
前記区間の範囲は、前記凝集構造のサイズに応じて定められている、請求項2に記載のゴム材料情報を求める方法。
【請求項4】
前記ゴム材料は、ゴム中に充填剤の凝集構造を有するゴム組成物からなり、
前記散乱強度曲線が示す前記散乱光の強度は、前記X線散乱測定によって検出用平面上に検出された前記散乱光の強度分布において、前記強度分布の中心から見た前記検出用平面内の方位方向であって、前記第1のゴムサンプル及び前記第2のゴムサンプルの伸長方向と対応する方位方向を含む所定の角度範囲における前記散乱光の強度の平均値である、請求項2又は3に記載のゴム材料情報を求める方法。
【請求項5】
前記力学的物理量は、歪、応力、及び歪エネルギーのいずれか1つである、請求項1から4のいずれか1項に記載のゴム材料情報を求める方法。
【請求項6】
前記情報として用いるステップでは、特定した前記力学的物理量の値の前記亀裂の先端からの距離に対する分布から求めた前記力学的物理量の変化具合を前記情報として用い、前記ゴム材料の前記亀裂の進展のしやすさを評価する、請求項1から5のいずれか1項に記載のゴム材料情報を求める方法。
【請求項7】
前記特定するステップでは、前記測定対象部分として、前記亀裂の先端からの距離が異なる複数の部分それぞれのX線散乱測定を行うことにより得られる前記特徴量の値それぞれと対応する前記力学的物理量の値を特定する、請求項1から6のいずれか1項に記載のゴム材料情報を求める方法。
【請求項8】
ゴム材料の選別方法であって、
請求項1から7のいずれか1項に記載のゴム材料情報を求める方法を行い、前記情報を用いるステップにおいて、特定した前記力学的物理量の値を前記情報として用い、前記ゴム材料の前記亀裂の進展のしやすさを評価するステップと、
前記亀裂の進展のしやすさの評価対象としたゴム材料の中から、評価結果に応じて選別したゴム材料をタイヤ用ゴム材料として用いるステップと、を備えることを特徴とするゴム材料の選別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の欠陥の進展のしやすさに関するゴム材料情報を求める方法、及びゴム材料の選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亀裂のあるゴム材料を伸長すると、亀裂先端に応力が集中し、その大きさが大きいほど、亀裂が進展しやすいことが知られている。このため、高い耐クラック性が要求されるゴム製品等において、亀裂先端における応力集中の程度が小さいゴム材料の開発が求められている。
【0003】
従来、高分子材料のエネルギーロスを評価する方法として、X線散乱測定により得られた散乱強度曲線に対しカーブフィッティングして得られる相関長の標準偏差を用いる方法が知られている(特許文献1)。この方法によれば、動的粘弾性測定法等の方法では、性能差を再現性良く評価できない異なる試料間についてもエネルギーロスの差を精度良く評価できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-125844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
伸長させたゴム材料の亀裂先端に生じる応力は、ゴム材料に加えた引張力から算出される見かけの応力よりも高く、しかも、ゴム材料の亀裂先端に近い位置であるほど大きくなる。しかし、このような亀裂先端における応力集中の程度を知る術がなく、耐クラック性に優れたゴム材料の開発は困難であった。
【0006】
本発明は、亀裂を有するゴム材料の当該亀裂の進展のしやすさに関するゴム材料の情報を求める方法、及びゴム材料の選別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、亀裂を有するゴム材料の前記亀裂の進展のしやすさに関する前記ゴム材料の情報を求める方法であって、
前記ゴム材料と同じ材料からなり、前記亀裂を有しない第1のゴムサンプルを伸長させてX線散乱測定を行い、前記X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量と、前記第1のゴムサンプルの伸長によって前記第1のゴムサンプル内に生じる力学的物理量との対応関係を導き出すステップと、
前記ゴム材料と同じ材料からなり、前記亀裂を有する第2のゴムサンプルを伸長させて、前記第2のゴムサンプルの伸長方向と交差する方向に前記亀裂の先端から離れて位置する前記第2のゴムサンプルの測定対象部分のX線散乱測定を行い、当該X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量の値から、前記対応関係を用いて、前記力学的物理量の値を特定するステップと、
特定された前記力学的物理量の前記値を、前記ゴム材料の前記亀裂の進展のしやすさに関する情報として用いるステップと、を備えることを特徴とする。
【0008】
前記特徴量は、前記第1のゴムサンプル及び前記第2のゴムサンプルそれぞれにおけるX線照射位置からの距離に対する前記散乱光の強度の分布を示す散乱強度曲線の変化具合であって、前記X線照射位置からの前記距離が所定範囲内にある区間での変化具合であることが好ましい。
【0009】
前記ゴム材料は、ゴム中に充填剤の凝集構造を有するゴム組成物からなり、
前記区間の範囲は、前記凝集構造のサイズに応じて定められていることが好ましい。
【0010】
前記ゴム材料は、ゴム中に充填剤の凝集構造を有するゴム組成物からなり、
前記散乱強度曲線が示す前記散乱光の強度は、前記X線散乱測定によって検出用平面上に検出された前記散乱光の強度分布において、前記強度分布の中心から見た前記検出用平面内の方位方向であって、前記第1のゴムサンプル及び前記第2のゴムサンプルの伸長方向と対応する方位方向を含む所定の角度範囲における前記散乱光の強度の平均値であることが好ましい。
【0011】
前記力学的物理量は、歪、応力、及び歪エネルギーのいずれか1つであることが好ましい。
【0012】
前記情報として用いるステップでは、特定した前記力学的物理量の値の前記亀裂の先端からの距離に対する分布から求めた前記力学的物理量の変化具合を前記情報として用い、前記ゴム材料の前記亀裂の進展のしやすさを評価することが好ましい。
【0013】
前記特定するステップでは、前記測定対象部分として、前記亀裂の先端からの距離が異なる複数の部分それぞれのX線散乱測定を行うことにより得られる前記特徴量の値それぞれと対応する前記力学的物理量の値を特定することが好ましい。
【0014】
本発明の他の一態様は、ゴム材料の選別方法であって、
前記ゴム材料情報を求める方法を行い、前記情報を用いるステップにおいて、特定した前記力学的物理量の値を前記情報として用い、前記ゴム材料の前記亀裂の進展のしやすさを評価するステップと、
前記亀裂の進展のしやすさの評価対象としたゴム材料の中から、評価結果に応じて選別したゴム材料をタイヤ用ゴム材料として用いるステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記態様の方法によれば、亀裂を有するゴム材料の当該亀裂の進展のしやすさに関するゴム材料の情報を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態で行うX線散乱測定を説明する図である。
図2】X線散乱測定により得られる散乱像の一例を示す図である。
図3】X線散乱測定により得られる散乱強度曲線の一例を示す図である。
図4】力学的物理量に対する特徴量の分布の一例を示す図である。
図5】亀裂先端からの距離に対する力学的物理量の分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態のゴム材料情報を求める方法、及びゴム材料の選別方法について説明する。
【0018】
(ゴム材料情報を求める方法の概略説明)
本実施形態のゴム材料情報を求める方法は、亀裂を有するゴム材料の亀裂の進展のしやすさに関するゴム材料の情報を求める方法であって、導き出すステップと、特定するステップと、情報として用いるステップと、を備える。導き出すステップでは、上記ゴム材料と同じ材料からなり、亀裂を有しない第1のゴムサンプルを伸長させてX線散乱測定を行い、X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量と、第1のゴムサンプルの伸長によって第1のゴムサンプル内に生じる力学的物理量との対応関係を導き出す。特定するステップでは、上記ゴム材料と同じ材料からなり、亀裂を有する第2のゴムサンプルを伸長させて、第2のゴムサンプルの伸長方向と交差する方向に亀裂の先端から離れて位置する第2のゴムサンプルの測定対象部分のX線散乱測定を行い、当該X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量の値から、上記対応関係を用いて、力学的物理量の値を特定する。情報として用いるステップでは、特定された力学的物理量の値を、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさに関する情報として用いる。
【0019】
第1のゴムサンプルと第2のゴムサンプルは同じゴム材料からなるため、一方のゴムサンプルを伸長させてX線散乱測定を行った結果得られる、散乱光の強度分布を特徴づける特徴量の値と同じ値を、伸長させた他方のゴムサンプルも示していれば、一方のゴムサンプルに生じる力学的物理量の値と同じ値の力学的物理量が、他方のゴムサンプル内にも生じていると考えることができる。このため、一方のゴムサンプルとして、亀裂のない第1のゴムサンプルを用いて、上記したように、特徴量と力学的物理量との対応関係を作成しておけば、他方のゴムサンプルとして、亀裂を有する第2のゴムサンプルを用い、得られた特徴量の値から、上記対応関係を用いて、第2のゴムサンプル内に生じた力学的物理量の値を特定できる。この力学的物理量の値は、亀裂先端に生じた力学的物理量(例えば亀裂先端における応力集中)の程度を反映したものであることから、例えば、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさを判断する指標に用いることができる。すなわち、特定した力学的物理量の値を、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさに関する情報(ゴム材料情報)として用いることができる。これにより、耐クラック性に優れたゴム材料の開発を効率よく行うことができる。
【0020】
(ゴム材料情報を求める方法の詳細説明)
本実施形態において、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさに関するゴム材料の情報には、ゴム材料を伸長させたときにゴム材料内に生じる力学的物理量の値のほか、例えば、当該値の亀裂先端からの距離に対する分布から求めた力学的物理量の変化具合(後述)を用いることができる。
本実施形態において、力学的物理量とは、ゴム材料を伸長させたときにゴム材料内に生じる物理量を意味し、例えば、歪、応力、歪エネルギーが挙げられる。歪は、ゴムサンプルに加えた引張力を、伸長方向と直交するゴムサンプルの断面積で割ることで求められる。応力は、歪を、ゴムサンプルのヤング率で割ることで求められる。歪エネルギーは、歪と応力との積で表される。したがって、これら3つの物理量は、互いに換算できる関係にある。
【0021】
(導き出すステップ)
導き出すステップでは、上述したように、第1のゴムサンプルを伸長させてX線散乱測定を行い、X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量と、第1のゴムサンプルの伸長によって第1のゴムサンプル内に生じる力学的物理量との対応関係を導き出す。
第1のゴムサンプルとしては、伸長させた状態でX線散乱測定を行うことが可能な形態のものが用いられる。そのような好ましい形態として、一方向に延びるシート状のゴム材料が挙げられる。シート状のゴム材料の厚さは、例えば、0.5~1mmである。
導き出すステップでは、第1のゴムサンプルを伸長させた状態でX線散乱測定を行う。第1のゴムサンプルの伸長は、例えば、引張試験(JIS K6251:2010)に準じて行われる。X線散乱測定は、第1のゴムサンプルの伸長量を異ならせて複数回行うことが好ましい。これにより、各伸長量と対応する力学的物理量に対する散乱強度曲線の上記変化具合の分布が得られ、特徴量と力学的物理量との対応関係として、亀裂を有するゴム材料内に伸長によって生じた力学的物理量の値を特定するのに適切な対応関係が得られる。この場合、第1のゴムサンプルには、例えば、伸長方向の歪(伸び率)が5~200%となる範囲で、引張力を5%あるいは10%ずつ異ならせて加えられる。
【0022】
X線散乱測定は、ゴム材料中の物質の構造情報が得られやすい点で、好ましくは超小角X線散乱法(USAXS)を用いて行われる。USAXSの中でも、X線のビーム径が細い(例えば30μm以下)X線を用いるμ-USAXSと呼ばれる方法が好ましく用いられる。
【0023】
図1に、本実施形態で行うX線散乱測定を説明する図を示す。図1には、第2のゴムサンプルを用いたX線散乱測定が示されているが、図1において、第2のゴムサンプル3を第1のゴムサンプルに置き換えることにより、導き出すステップで行うX線散乱測定を理解することができる。図1に示す例では、X線1の照射方向が短冊状のゴムサンプルの主表面に対して垂直となるよう、ゴムサンプルは配置されている。ゴムサンプルの長手方向の両端は、例えば引張試験機により保持され、長手方向を伸長方向(図1の上下方向)として伸長される。X線1の照射方向に沿ったゴムサンプルの後方(図1の右方)には、検出器5が配置される。検出器5には、例えば、X線照射方向に対して垂直な平面(検出用平面)を備える二次元検出器が用いられる。
【0024】
μ-USAXSを用いてX線散乱測定を行う場合の測定条件は、例えば、X線の波長は、0.05~0.5nmであり、散乱角θに関して、2θ≦10°であり、第1のゴムサンプルと検出器5とのX線の照射方向に沿った距離は、5~15mである。
【0025】
X線散乱測定の結果得られた散乱光の強度分布を用いて、特徴量と力学物理量との上記対応関係が導き出される。検出器5によって検出された散乱光の強度分布は、具体的には、図2に示すような、散乱光の強度分布を平面上に示す散乱像によって表される。図2は、X線散乱測定により得られる散乱像の一例を示す図である。散乱像の中心は、散乱光の強度分布の中心であり、第1のゴムサンプルのX線照射位置と対応する。散乱像の中心から見た方位方向は、第1のゴムサンプルのX線照射位置から見た第1のゴムサンプルの面内方向における方位方向と対応する。図2において、散乱像の上下方向は、第1のゴムサンプルの伸長方向と対応する。第1のゴムサンプルを伸長させずにX線散乱測定を行った場合に得られる散乱像では、強度分布が同心円状に表れるが、第1のゴムサンプルを伸長させてX線散乱測定を行った場合に得られる散乱像では、強度分布は、第1のゴムサンプル中の物質の構造の変化に起因して、図2に示すように伸長方向と対応する方向(上下方向)に延び、伸長方向及び伸長方向と垂直な方向に対称な模様として表れる。なお、図2に示す破線を間に挟んだV字状の実線は、伸長方向と対応する検出用平面内の方位方向を含む角度範囲(後述)を示す。
【0026】
特徴量は、散乱光の強度分布を特徴づける量である。一実施形態によれば、特徴量は、ゴムサンプルにおけるX線照射位置からの距離に対する散乱光の強度の分布を示す散乱強度曲線の変化具合であって、中心からの距離が所定範囲内にある区間での散乱強度曲線の変化具合であることが好ましい。特定の区間における散乱強度曲線の変化具合には、伸長によってゴム材料内に生じた歪等が精度よく反映される。また、特定の区間における散乱強度曲線の変化具合には、ゴム材料中の物質の構造の状態が、精度よく反映される。このような区間での変化具合を特徴量として用いることで、当該特徴量と、ゴム材料中の物質の構造に起因してゴム材料内に生じる力学的物理量との対応関係として、亀裂を有するゴム材料内に伸長によって生じた力学的物理量の値を特定するのに適切な対応関係を導き出すことができる。図3に、X線散乱測定により得られる散乱強度曲線の一例を示す。図3の散乱強度曲線は、散乱光の強度を縦軸とし、X線の波数q(nm-1)で表したX線照射位置からの距離を横軸とする両対数グラフに表されている。図3において、上記区間は、2本の破線の間の範囲で示される。なお、図3には、種々の伸長量で伸長させた第1のゴムサンプルのX線散乱測定の結果得られた複数の散乱強度曲線が示されている。
【0027】
散乱強度曲線の変化具合は、具体的に、散乱強度曲線に対しフィッティングを行うことにより求められる。例えば、対象とする区間において最小二乗法により求めた傾きを、変化具合とすることができる。この場合、特徴量を簡易に定めることができる。なお、変化具合を取得する区間の範囲は、ゴムサンプルの伸長量によらず一定である。
【0028】
導き出すステップでは、このようにして求めた特徴量と、当該特徴量と対応する力学的物理量とを用いて、特徴量と力学的物理量との対応関係を導き出す。この対応関係は、具体的に、図4に示すような、力学的物理量に対する特徴量の分布を用いて作成される。図4に示す分布は、特徴量として、図3に示した区間における散乱強度曲線の傾きを縦軸とし、力学的物理量として、伸長させた第1のゴムサンプル内に生じる応力(MPa)を横軸として示される。特徴量と力学的物理量との対応関係は、具体的に、このような分布に対し、フィッティングを行うことにより求められる。そのような対応関係として、図4には、最小二乗法を用いて求めた回帰直線が示されている。この回帰直線は、特定するステップにおいて、力学的物理量の値を特定するための検量線として用いられる。特定するステップでは、このような対応関係を用いて、力学的物理量の値を精度良く特定することができる。
【0029】
(特定するステップ)
特定するステップでは、上述したように、第2のゴムサンプルを伸長させて、第2のゴムサンプルの伸長方向と交差する方向に亀裂先端から離れて位置する第2のゴムサンプルの測定対象部分のX線散乱測定を行い、当該X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量の値から、上記対応関係を用いて、力学的物理量の値を特定することを行う。第2のゴムサンプルの伸長方向と交差する方向は、好ましくは、第2のゴムサンプルの伸長方向と直交する方向(亀裂の進展方向)である。
【0030】
第2のゴムサンプルは、表面に亀裂を有するゴム材料からなる。第2のゴムサンプルの形態は、亀裂を有する点を除いて、第1のゴムサンプルと同様であることが好ましい。第2のゴムサンプルが短冊状である場合の亀裂は、例えば、図1に示すように、第2のゴムサンプル3の短手方向のいずれかの端部における長手方向の中央部に、短手方向に延びるよう設けられる。
【0031】
特定するステップでは、第2のゴムサンプルを伸長させながら伸長状態でX線散乱測定を行う。第2のゴムサンプルの伸長は、例えば、引裂き試験(JIS K6252-1:2015)に準じて行われる。この場合、第2のゴムサンプルには、亀裂が進展しない程度の引張力が加えられる。X線散乱測定が行われるときの第2のゴムサンプルの伸長方向の歪(伸び率)は、90~100%の範囲内の値であることが好ましく、例えば100%である。
【0032】
X線散乱測定は、導き出すステップで行うX線散乱測定と同じ要領、同じ測定条件で行うことが好ましい。本実施形態では、伸長によって、亀裂を有するゴム材料内に生じる力学的物理量(特に亀裂先端における応力集中)を知るために、特定するステップでは、上記測定対象部分を測定対象としてX線散乱測定を行う。この観点から、測定対象部分は亀裂先端付近に位置することが好ましく、具体的に、測定対象部分の亀裂先端からの位置は、亀裂先端から亀裂の進展方向(伸長方向と直交する方向)に沿って、0μmを超え200μm以内であることが好ましい。このような第2のゴムサンプルの位置に生じる力学的物理量は、第2のゴムサンプルを伸長させた引張力から算出した見かけの力学的物理量(例えば応力)の値よりも高い値を示すためである。
【0033】
特定するステップにおいてX線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布の特徴量は、導き出すステップで特徴量を求めたのと同じ要領で、求めることができる。
【0034】
一実施形態によれば、測定対象部分として、亀裂先端からの距離が異なる複数の部分それぞれのX線散乱測定を行うことが好ましい。この結果得られる特徴量の値のそれぞれと対応する力学的物理量の値を特定することで、情報として用いるステップにおいて、例えば、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさ(あるいは、しにくさ)を直接的に表す指標(後述する力学的物理量の変化具合)を得ることができる。複数の測定対象部分は、亀裂先端から亀裂の進展方向に沿って位置する複数の部分であることが好ましい。測定対象部分の数は、特に制限されないが、例えば、上記指標として信頼性の高い指標を得る観点から、5以上であることが好ましい。また、このように複数の測定対象部分を測定対象とする場合に、一部の測定対象部分は、亀裂先端から亀裂の進展方向に沿って200μmを超える範囲に位置していてもよい。このような位置に生じる力学物理量をあわせて知ることで、亀裂先端付近に生じる力学的物理量の大きさの程度を理解することができる。なお、亀裂先端付近の狭い範囲内で複数の測定対象部分のX線散乱測定を行う観点から、X線散乱測定では、ビーム径の細いX線を用いることが好ましく、例えば0.1~20μmのビーム径のX線が用いられる。すなわち、μ-USAXSを用いてX線散乱測定を行うことが有効である。
【0035】
(情報として用いるステップ)
以上のようにして特定された力学的物理量の値を、情報として用いるステップでは、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさに関する情報として用いることを行う。
【0036】
上述したように、第1のゴムサンプルと第2のゴムサンプルは同じゴム材料からなるため、一方のゴムサンプルを伸長させてX線散乱測定を行った結果得られる、散乱光の強度分布を特徴づける特徴量の値と同じ値を、伸長させた他方のゴムサンプルも示していれば、一方のゴムサンプルに生じる力学的物理量の値と同じ値の力学的物理量が、他方のゴムサンプル内にも生じていると考えることができる。このため、一方のゴムサンプルとして、亀裂のない第1のゴムサンプルを用いて、上述したように、特徴量と力学的物理量との対応関係を作成しておけば、他方のゴムサンプルとして、亀裂を有する第2のゴムサンプルを用い、得られた特徴量の値から、上記対応関係を用いて、第2のゴムサンプル内に生じた力学的物理量の値を特定できる。この力学的物理量の値は、亀裂先端に生じた力学的物理量(例えば亀裂先端における応力集中)の程度を反映したものであることから、例えば、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさを判断する指標に用いることができる。すなわち、特定した力学的物理量の値を、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさに関する情報(ゴム材料情報)として用いることができる。これにより、耐クラック性に優れたゴム材料の開発を効率よく行うことができる。
【0037】
一実施形態によれば、情報として用いるステップでは、亀裂先端からの距離に対する、上記特定した力学的物理量の値の分布から求めた力学的物理量の変化具合を、亀裂の進展のしやすさに関する上記情報として用い、亀裂の進展のしやすさを評価することが好ましい。本発明者の検討によれば、このような力学的物理量の変化具合が、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさを判断する指標となりうることが明らかにされた。このような力学的物理量の変化具合は、例えば、特定するステップにおいて、上述したように第2のゴムサンプルの複数の測定対象部分のX線散乱測定を行って、測定対象部分ごとに力学的物理量の値を特定し、求めた力学的物理量の値を用いて下記式を得ることで求めることができる。下記式は、特定した力学的物理量の値と亀裂先端からの距離との関係を回帰させる回帰式である。
【0038】
E=E0×ra+Ec
式中、rは、亀裂先端からの距離を示す。
Eは、亀裂の進展方向に沿った亀裂先端からの距離がrの位置にある第2のゴムサンプルの部分に、第2のゴムサンプルの伸長によって生じる力学的物理量を示し、E0はrが0の位置にある第2のゴムサンプルの部分に生じる力学的物理量を示し、Ecはrが亀裂先端付近の外側にある第2のゴムサンプルの部分に生じる力学的物理量を示す。亀裂先端付近とは、亀裂先端からの距離が所定範囲内の領域を意味し、例えば、亀裂先端から0μmを超え200μm以内の領域を意味する。
aは、ゴム材料によって定まる定数である。
0、Ec、aは、第2のゴムサンプルに関して上記のように特定した力学的物理量Eを距離rとともに上記回帰式を用いて回帰させることにより定まる。
【0039】
上記式のa値は、例えば、各測定対象部分での力学的物理量の値を示すプロットを用いて求めた回帰線の所定の区間(亀裂先端付近)での傾きに相当する。すなわち、a値は、上記した力学的物理量の変化具合である。図5に、伸長によって第2のゴムサンプル内に生じた歪エネルギーの亀裂先端からの距離に対する分布の一例を示す。図5には、歪エネルギーの対数を縦軸とし、亀裂先端からの距離の対数を横軸とするグラフが示される。図5に示す屈曲した線は、上記式を表す回帰線である。この回帰線は、屈曲位置の両側の区間それぞれのプロットを用いて、最小二乗法により求められる。なお、歪エネルギーは、応力(MPa)×(歪(%)/100)として計算される。
【0040】
本発明者の検討によれば、a値の絶対値が小さいゴム材料であるほど、耐クラック性に優れた強靭なゴム材料であることが明らかにされた。このようなa値によって、亀裂を有するゴム材料を伸長させたときに亀裂先端に生じた力学的物理量の程度(例えば亀裂先端付近における応力分布)が可視化され、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさを簡易に評価することができる。例えば、上記式において力学的物理量が歪エネルギーである場合のa値が、-0.85<a<0、好ましくは-0.5<a<0の範囲内にあるものを、亀裂が進展し難いゴム材料であると評価し、この範囲を外れるものを、亀裂が進展しやすいゴム材料であると評価することができる。
【0041】
一実施形態によれば、ゴム材料は、ゴム中に充填剤の凝集構造を有するゴム組成物からなる。この場合に、導き出すステップ及び特定するステップにおいて、散乱強度曲線の変化具合を取得する上記区間の範囲は、凝集構造のサイズに応じて定められていることが好ましい。伸長によって亀裂先端に生じる力学的物理量の大きさは、ゴム中の充填剤の凝集構造の状態を1つの要因として変化すると考えられる。このため、ゴム中の充填剤の凝集構造の状態をよく反映した区間での散乱強度曲線の変化具合を用いることで、特徴量として、凝集構造のサイズを表した量を用いることができる。なお、凝集構造の状態とは、ゴム材料を伸長させたときに変化する凝集構造の大きさ、形のほか、引張力を受けて複数に分割された凝集構造の伸長方向に対する配向具合等が挙げられる。
【0042】
ゴム組成物は、ゴムと、充填剤と、を少なくとも含む。ゴムは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のジエン系ゴムを含む。充填剤は、シリカ等の白色充填剤を少なくとも含み、カーボンブラック(CB)を含んでいてもよい。シリカの配合量は、ゴム100質量部あたり20質量部以上であることが好ましい。これにより、X線散乱測定を行ったときに、特定の区間における散乱強度曲線の変化具合の、伸長量の相違による変化が明確になり、亀裂を有するゴム材料内に伸長によって生じた力学的物理量の値を特定するのに適切な対応関係を得ることができる。シリカの配合量は、より好ましくは、ゴム100質量部あたり15~90質量部である。
その他、ゴム組成物は、亜鉛華、シランカップリング剤、シリカ分散剤、硫黄、加硫促進剤等の成分を含むことができる。
【0043】
一実施形態によれば、ゴム材料が、ゴム中にシリカの凝集構造を有するゴム組成物からなる場合に、上記区間は、ゴム材料におけるX線照射位置から0.040~0.056nm-1の波数の距離にある区間であることが好ましい。この区間は、図3に示される。このような区間では、図3に示すように、ゴム材料を伸長させたときのシリカの凝集構造の変化が散乱強度曲線に表れやすく(図3の各散乱強度曲線において右上に膨らんだ部分(肩))、伸長量の相違による散乱強度曲線の変化具合の相違がはっきりとする。
【0044】
散乱強度曲線の変化具合には、上述した傾きのほか、散乱強度曲線に対し、所定の曲線を示す関数を用いてカーブフィッティングを行って得た変化具合を用いることも好ましい。関数には、例えば、充填剤の凝集構造のサイズを求めるために用いられる周知のものが用いられる。カーブフィッティングにより得られた変化具合は、具体的には、区間内での平均変化率である。このようなカーブフィッティングを行うことにより、特徴量として、凝集構造のサイズを表した量を用いることができる。
【0045】
一実施形態によれば、散乱強度曲線が示す散乱光の強度には、X線散乱測定によって検出用平面上に検出された散乱光の強度分布において、強度分布の中心から見た検出用平面内の方位方向であって、第1のゴムサンプル及び第2のゴムサンプルの伸長方向と対応する方位方向を含む所定の角度範囲における散乱光の強度の平均値を用いることが好ましい。この角度範囲は、凝集構造のサイズに応じて設定されることが好ましい。伸長させたゴム材料のX線散乱測定を行って得られる散乱像では、上述したように、伸長方向と対応する方向に延びた模様が表れるため、すべての方位方向の強度の平均値を用いて散乱強度曲線を求めると、伸長方向付近に表れる強度の特徴が表れない。このため、散乱光の強度には、上記したように、伸長方向と対応する方位方向を含む所定の角度範囲での強度の平均値を用いることが好ましい。その際、その角度範囲を、充填剤の凝集構造の大きさに応じて定めた範囲とすることで、充填剤の凝集構造に起因してゴム材料内に生じた力学的物理量を精度良く反映した散乱強度曲線を得ることができる。一実施形態によれば、上記角度範囲は、伸長方向と対応する方位方向を基準とした当該方位方向の周方向両側の好ましくは45度以内、より好ましくは30度以内、特に好ましくは15度以内の角度範囲における散乱光の強度の平均値である。一方、散乱光の強度が周方向にばらつく場合があることを考慮し、上記角度範囲は、伸長方向と対応する方位方向より広い角度範囲であることが好ましく、1度以上であることがより好ましい。
【0046】
(ゴム材料の選別方法)
本実施形態は、ゴム材料の選別方法であって、評価するステップと、タイヤ用ゴム材料として用いるステップと、を備える。
【0047】
評価するステップでは、上記実施形態のゴム材料情報を求める方法を行い、情報を用いるステップにおいて、特定した力学的物理量の値を、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさに関する情報として用い、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさを評価する。具体的には、特定した力学的物理量の値を用いて、上記式のa値を求め、これをゴム材料の亀裂の進展のしやすさに関する情報として用いる。a値が所定の範囲(力学的物理量が歪エネルギーである場合、-0.85<a<0)を満たす場合を、亀裂が進展し難いゴム材料であると評価し、この範囲を満たさない場合を、亀裂が進展しやすいゴム材料であると評価する。
【0048】
タイヤ用ゴム材料として用いるステップでは、亀裂の進展のしやすさの評価対象としたゴム材料の中から、評価結果に応じて選別したゴム材料をタイヤ用ゴム材料として用いる。これにより、耐クラック性に優れたタイヤを効率よく製造することができる。
【0049】
上記実施形態の力学的物理量を求める方法は、タイヤ用ゴム材料を選別する他、ベルト、ホース、防舷材等のゴム製品に用いるゴム材料の選別に用いることができる。
また、上記実施形態の力学的物理量を求める方法によれば、使用に伴って劣化したゴム材料を伸長させたときに当該ゴム材料内に生じる力学的物理量の値を求めることもできる。この場合、例えば、同じゴム製品の同じ部分から切り出した2つのゴム材料を、上記第1のゴムサンプル及び第2のゴムサンプルとして用いることができる。
【0050】
(実験例)
下記表1に示した製造条件に従って種々のゴム組成物を作製し、上記実施形態の力学的物理量を求める方法を行い、上記式のa値を求めた。また、これらのゴム組成物をトレッドゴムとして用いて空気入りタイヤを作製し、耐クラック性を調べた。
【0051】
表1に示したゴム組成物の原料は下記の通りとした。なお、表1中の原料の数値は、質量部数を示す。
・SBR:日本ゼオン社製 NIPOL 1502
・CB:キャボットジャパン社製 ショウブラックN339
・シリカ:ローディア社製 Zeosil 1165MP(CTAB比表面積:159m/g)
・亜鉛華1:正同化学工業社製 酸化亜鉛
・亜鉛華2:東邦亜鉛社製 銀嶺 R
・亜鉛華3:LANXESS社製 ZINKOXYD AK RU RUMUSTTER
・シランカップリング剤:Evonik Degussa社製 Si69
・シリカ分散剤:信越化学工業社製 KBE-3083
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ-G
【0052】
ゴム組成物は、表1に示した原料のうち、硫黄、加硫促進剤を除く成分を、1.8Lの密閉型ミキサーで、表1に示した混合時間、放出温度で混練し放出したマスターバッチを常温まで冷却後、表1に示す有無に従ってリミルを行い、さらに、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混練することにより調製した。表1中、「混合時間」は、マスターバッチを得るための混練時間を意味し、「放出温度」は、混練中のマスターバッチの温度を意味する。リミルとは、マスターバッチを放出し、冷却した後、シリカをよりよく分散させるため、再度ミキサー内で練りのみを行う工程をいう。なお、リミルの練り時間、放出温度は、マスターバッチを得るための上記混練を行う際の混合時間、放出温度と同じとした。
【0053】
得られたゴム組成物それぞれを用いて、短冊状のゴムシート(縦50mm×横10mm×厚さ1mm)を一対ずつ作製し、各対の一方を第1のゴムサンプルとし、他方を第2のゴムサンプルとして、上記実施形態の導き出すステップ及び特定するステップを行った。第2のゴムサンプルには、短手方向の一方の端部の長手方向の中心に、切込み装置の刃を用いて短手方向に延びる長さ1mmの亀裂を設けた。
【0054】
X線散乱測定は、ビーム径7μmのX線を用いてμ-USAXSを行った。散乱強度曲線を取得する際の散乱光の強度は、散乱像において伸長方向と対応する方向を基準とした周方向両側に5度の角度範囲での平均値とし、ゴムサンプルにおけるX線照射位置から0.040~0.056nm-1の波数の距離にある区間での散乱強度曲線の傾きを特徴量とした。
【0055】
導き出すステップでは、第1のゴムサンプルを、JIS K6251:2010に準じて、伸長方向の歪を5~200%の範囲で10%ずつ増やしながら引張試験を行い、各伸長量でX線散乱測定を行った。
【0056】
特定するステップでは、第2のゴムサンプルを、JIS K6252-1:2015に準じて、亀裂が進展しない程度の引張力で引裂き試験を行い、第1のゴム材料の伸長方向の歪(伸び率)が100%であるとき、亀裂先端から亀裂の進展方向に沿って200μm以内の範囲内の位置を含む計40箇所でX線散乱測定を行った。得られた結果から、測定箇所ごとに、対応関係を用いて歪エネルギーの値を特定し、グラフの直線部分の傾き(a値)を求めた。この結果、a値が、-0.85<a<0を満たすものを、亀裂が進展し難い、この範囲から外れるものを、亀裂が進展しやすいと評価した。
【0057】
次に、得られたゴム組成物からなるトレッドゴムをトレッド部に配置した未加硫タイヤを作製し、未加硫タイヤ全体を加硫することにより、タイヤ(タイヤサイズ:265/50R20 111W)を作製した。
【0058】
耐クラック性の評価のために、作製したタイヤをドラム試験機に装着し、空気圧850kPa、荷重3.9kN、速度80km/時の条件にて100,000km走行させた後、トレッド部に発生したクラックの個数を調べた。発生したクラックのうちランダムに抽出した所定数のクラックに関して、最大長さが1mm以上のクラックの数が全体の50%未満だった場合を「A」、最大長さが1mm以上のクラックの数が全体の50%を超えていた場合を「B」と評価した。「A」だった場合を、耐クラック性に優れる、「B」だった場合を、耐クラック性が悪いと評価した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1より、a値が-0.85<a<0を満たす実施例1~5は、耐クラック性に優れ、a値がこの範囲を外れる比較例1~3は、耐クラック性が悪かった。これより、a値を用いた亀裂に進展のしやすさに関する評価結果が、ゴム材料の耐クラック性の評価結果と一致することがわかる。
【0061】
以上、本発明のゴム材料情報を求める方法、及びゴム材料の選別方法について説明したが、本発明は上記実施形態及び実験例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0062】
1 X線
3 第2のゴムサンプル
5 検出器
図1
図2
図3
図4
図5