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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20231012BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B22D11/16
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019219382
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021087972
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】新井 貴士
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠幸
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-305399(JP,A)
【文献】特開平01-166863(JP,A)
【文献】特許第2957040(JP,B2)
【文献】特開2018-176251(JP,A)
【文献】特開2005-111522(JP,A)
【文献】特開平09-262643(JP,A)
【文献】国際公開第2020/079783(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、前記一対の冷却ドラムの圧力制御を行う際に、
前記和荷重差が限界値以下の場合には、前記実測和荷重が前記目標和荷重となるように前記一対の冷却ドラムの圧力制御を行い、
前記和荷重差が限界値を超えた場合には、前記限界値を超えた分を無視して、前記一対の冷却ドラムの圧力制御を行い、
鋳造開始時において前記一対の冷却ドラムを停止した状態で前記溶融金属溜まり部に前記溶融金属を供給した際に形成される前記薄肉鋳片の肉厚部が、前記冷却ドラムの回転起動後に前記一対の冷却ドラムの最近接点を通過するまでの第1ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に向けて押圧し、
前記第1ステップ後から前記冷却ドラムが1回転乃至2回転するまでの第2ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で、かつ、前記第1ステップよりも高い圧力で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に押圧し、
前記第2ステップ以後の第3ステップにおいて、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、前記一対の冷却ドラムの圧力制御することを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【請求項2】
前記和荷重差の限界値は、前記冷却ドラムのドラム幅1m当たり1kN以上8kN以下の範囲内とすることを特徴とする請求項1に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に、溶融金属を供給して薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、例えば、特許文献1、2に示すように、内部に水冷構造を有する冷却ドラムを備え、回転する一対の冷却ドラム間に形成された溶融金属溜まり部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ドラムの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合し、圧下して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法が提供されている。このような双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法は、各種金属において適用されている。
【0003】
ここで、上述の双ドラム式連続鋳造装置においては、板幅方向の厚さが均一な薄肉鋳片を製造するために、一対の冷却ドラムの互いの回転軸が平行に保持されるように、圧力制御を行う必要がある。
例えば、特許文献1においては、一方の冷却ドラムの両端部の押付力を検出加算し、これに基づく信号により、一方の冷却ドラムの両端の押付力の和が所定の値となるように、他方の冷却ドラムの両端を油圧シリンダーによって平行に移動させる方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2,3においては、鋳造開始直後と定常状態とで、一対の冷却ドラム間の圧力制御を切り替える方法が提案されている。
特許文献2においては、冷却ドラムを回転起動した後に薄肉鋳片の肉厚部が冷却ドラムの最近接点(ドラムキス点)を通過するまでの第1ステップでは、冷却ドラムの平行制御を行うことなく、一対の冷却ドラムが近接する方向に比較的低圧で押圧し、第1ステップの後からノズルからの溶鋼の吐出流によるシェル洗いの影響がなくなるまでの第2ステップでは、冷却ドラムの平行制御を行うことなく、第1ステップよりも高い圧力で押圧し、第2ステップの後の第3ステップでは、一対の冷却ドラムの回転軸が互いに平行となるように平行制御を実施している。
【0005】
また、特許文献3においては、鋳造開始時において前記一対の冷却ドラムを停止した状態で前記溶融金属溜まり部に前記溶融金属を供給した際に形成される前記薄肉鋳片の肉厚部が、前記冷却ドラムの回転起動後に前記一対の冷却ドラムの最近接点を通過するまでの第1ステップにおいては、冷却ドラムの平行制御を行うことなく、一対の冷却ドラムが近接する方向に比較的低圧で押圧し、前記第1ステップ後から前記冷却ドラムが1回転以上するまでの第2ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で、かつ、前記第1ステップよりも高い所定の圧力(第2圧力)で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に押圧し、前記第2ステップ以後の第3ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値が所定の値となるように、かつ、前記一対の冷却ドラムの互いの回転軸が平行に保持されるように圧力制御を行う構成とされている。
【0006】
これら特許文献2,3においては、凝固シェルの厚みの偏差が大きい鋳造開始直後の非定常時においては、一対の冷却ドラムを単純に押圧しているので、ドラムキス点において凝固シェル同士を十分に圧下することができ、薄肉鋳片の厚み中央部分に未凝固部が形成されることを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平01-166863号公報
【文献】特許第2957040号公報
【文献】特開2018-176251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2,3の第3ステップのように、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、前記一対の冷却ドラムの圧力制御を実施した場合であっても、薄肉鋳片の材質によっては、鋳造時に薄肉鋳片の破断が生じることがあった。
【0009】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、双ドラム式連続鋳造装置において、薄肉鋳片の破断を抑制でき、鋳造を安定して開始することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
双ドラム式連続鋳造装置においては、鋳造開始後には、上述のように、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、前記一対の冷却ドラムの圧力制御を実施することになる。
【0011】
ここで、図5(a)に示すように、一対の冷却ドラム11,11に地金Mの噛み込みが発生した場合には、反力が一時的に大きく上昇し、和荷重も大きくなる。このため、一対の冷却ドラム11,11が離間する方向に制御される。
すると、地金Mが冷却ドラム間に存在する状態では、図5(b)に示すように、薄肉鋳片1の温度が相対的に高くなった第1高温領域1aが形成される。
そして、地金Mが冷却ドラム11,11の間から抜けた時点では、薄肉鋳片1を冷却ドラム11で十分に押圧することができなくなってさらに薄肉鋳片1の温度が上昇した第2高温領域1bが形成されることになり、この第2高温領域1bにおいて薄肉鋳片1の破断が生じることが分かった。
【0012】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、前記一対の冷却ドラムの圧力制御を行う際に、前記和荷重差が限界値以下の場合には、前記実測和荷重が前記目標和荷重となるように前記一対の冷却ドラムの圧力制御を行い、前記和荷重差が限界値を超えた場合には、前記限界値を超えた分を無視して、前記一対の冷却ドラムの圧力制御を行い、鋳造開始時において前記一対の冷却ドラムを停止した状態で前記溶融金属溜まり部に前記溶融金属を供給した際に形成される前記薄肉鋳片の肉厚部が、前記冷却ドラムの回転起動後に前記一対の冷却ドラムの最近接点を通過するまでの第1ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に向けて押圧し、前記第1ステップ後から前記冷却ドラムが1回転乃至2回転するまでの第2ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で、かつ、前記第1ステップよりも高い圧力で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に押圧し、前記第2ステップ以後の第3ステップにおいて、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、前記一対の冷却ドラムの圧力制御することを特徴としている。
【0013】
この構成の薄肉鋳片の製造方法によれば、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、前記一対の冷却ドラムの圧力制御を行う際に、前記和荷重差が限界値を超えた場合には、前記限界値を超えた分を無視して、前記一対の冷却ドラムの圧力制御を行う構成としているので、例えば、地金の噛み込みによって、反力が一時的に大きく上昇し、上述の和荷重差が限界値を超えても、冷却ドラムが必要以上に離間することがなくなり、地金が通過した後に薄肉鋳片を冷却ドラムによって十分に押圧して冷却することができ、薄肉鋳片の局所的な高温領域の発生を抑制できる。よって、薄肉鋳片の破断を抑制することができ、安定して薄肉鋳片の鋳造を行うことができる。
また、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法においては、鋳造開始時において前記一対の冷却ドラムを停止した状態で前記溶融金属溜まり部に前記溶融金属を供給した際に形成される前記薄肉鋳片の肉厚部が、前記冷却ドラムの回転起動後に前記一対の冷却ドラムの最近接点を通過するまでの第1ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に向けて押圧し、前記第1ステップ後から前記冷却ドラムが1回転乃至2回転するまでの第2ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で、かつ、前記第1ステップよりも高い圧力で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に押圧し、前記第2ステップ以後の第3ステップにおいて、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、前記一対の冷却ドラムの圧力制御する構成としているので、鋳造開始時において前記一対の冷却ドラムを停止した状態で前記溶融金属溜まり部に前記溶融金属を供給した際に形成される前記薄肉鋳片の肉厚部が、前記冷却ドラムの回転起動後に前記冷却ドラムの最近接点を通過するまでの第1ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の所定の圧力(第1圧力)で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に向けて押圧しているので、肉厚部を比較的安定して冷却ドラム間を通過させることができる。さらに、第2ステップでは、第1ステップよりも高い所定の圧力(第2圧力)で冷却ドラムを押圧しているので、ドラムキス点において凝固シェル同士を十分に圧下することができ、薄肉鋳片の厚み中央部分に未凝固部が形成されることを抑制できる。
【0014】
ここで、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法においては、前記和荷重差の限界値は、前記冷却ドラムのドラム幅1m当たり1kN以上8kN以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、前記和荷重差の限界値が前記冷却ドラムのドラム幅1m当たり1kN以上とされているので、目標和荷重となるように精度良く圧力制御が可能となる。同時に、前記和荷重差の限界値が前記冷却ドラムのドラム幅1m当たり8kN以下とされているので、地金の噛み込みが発生した場合でも、冷却ドラムが必要以上に離間することがなく、地金が通過した後に薄肉鋳片を冷却ドラムによって十分に押圧して冷却することができる。よって、薄肉鋳片の破断をさらに抑制することができ、さらに安定して薄肉鋳片の鋳造を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本発明によれば、双ドラム式連続鋳造装置において、薄肉鋳片の破断を抑制でき、鋳造を安定して開始することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置の一例を示す説明図である。
図2図1に示す双ドラム式連続鋳造装置の一部拡大説明図である。
図3】第1ステップ及び第2ステップ、並びに、第3ステップにおける冷却ドラムの圧力制御方法を示す説明図である。
図4】実施例における冷却ドラムの圧力制御の条件を示すグラフである。
図5】従来の薄肉鋳片の製造方法において、地金噛み込み時における薄肉鋳片の温度分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
ここで、本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0020】
まず、本実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置10について説明する。
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置10は、一対の冷却ドラム11、11と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール12、13と、一対の冷却ドラム11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ドラム11、11とサイド堰15とによって画成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ18と、このタンディッシュ18から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル19と、を備えている。
【0021】
この双ドラム式連続鋳造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ドラム11,11に接触して冷却されることにより、冷却ドラム11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ドラム11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がドラムキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0022】
ここで、図2に示すように、冷却ドラム11の端面にサイド堰15が配設されることによって、溶鋼プール部16が画成されている。
溶鋼プール部16の湯面は、図2に示すように、一対の冷却ドラム11,11の周面と一対のサイド堰15,15によって四方を囲まれた矩形状をなしており、この矩形状をなす湯面の中央部に浸漬ノズル19が配設されている。
【0023】
上述の双ドラム式連続鋳造装置10において鋳造開始時には、一対の冷却ドラム11,11が停止した状態で、冷却ドラム11、11の間にダミーシート(図示なし)が挿入され、溶鋼プール部16に向けて溶鋼3が供給される。
そして、冷却ドラム11,11を回転起動し、薄肉鋳片1が冷却ドラム11,11の下方側から引抜かれていく。
【0024】
このとき、鋳造開始直後は、溶鋼プール部16の溶鋼3が凝固して薄肉鋳片1の厚みは厚くなり、こぶ状の肉厚部が形成される。
また、溶鋼プール部16においては、浸漬ノズル19からの溶鋼3の吐出流が凝固シェル5を洗い流すシェル洗いが発生する。このシェル洗いは、溶鋼プール部16における湯面高さが高くなると発生しなくなる。
【0025】
そこで、本実施形態においては、冷却ドラム11,11の圧力制御を、以下のようにして実施している。
【0026】
まず、一対の冷却ドラム11,11を停止した状態から、一対の冷却ドラム11,11を回転起動させて、薄肉鋳片1の肉厚部が一対の冷却ドラム11,11の最近接点(ドラムキス点)を通過するまでの第1ステップにおいては、図3(a)に示すように、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側に配設された油圧シリンダー21A,21Bによって、所定の圧力(第1圧力)で一対の冷却ドラム11,11が互いに近接する方向に向けて押圧する。本実施形態では、図3(a)に示すように、移動側の冷却ドラム11aに油圧シリンダー21A、21Bが配設されており、固定側の冷却ドラム11bに向けて移動側の冷却ドラム11aを押圧するように構成されている。第1圧力は、冷却ドラム11の起動に影響を与えない範囲で出来るだけ高い値を狙いとするが、その具体的数値は、主に、冷却ドラム11の幅、直径、溶融金属種類、ドラム最大駆動力から決まるものである。現実的には、事前の計算等にて適正値を求めるのは難しいため、実際の試験にて適正値を求めて設定される。
【0027】
次に、上述の第1ステップの後、冷却ドラム11,11が1回転乃至2回転するまでの第2ステップにおいては、図3(a)に示すように、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側に配設された油圧シリンダー21A,21Bによって、所定の圧力(第2圧力)で一対の冷却ドラム11,11が互いに近接する方向に向けて押圧する。なお、第2圧力は、冷却ドラム11の表面に変形等の損傷を与えない範囲で出来るだけ高い値を狙いとするが、主に冷却ドラム11の幅、直径、表面形状、表面材質、溶融金属種類、から決まるものである、現実的には、第1圧力と同様に、実際の試験にて適正値を求めて設定される。ここで、第2ステップにおける第2圧力は、第1ステップにおける第1圧力よりも高く設定されている。
【0028】
次に、第2ステップ以後の第3ステップにおいては、図3(b)に示すように、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値(すなわち、和荷重)が所定の値となるように、かつ、一対の冷却ドラム11,11の互いの回転軸が平行に保持されるように圧力制御を行う。具体的には、図3(b)に示すように、移動側の冷却ドラム11aに油圧シリンダー21A、21Bが配設され、固定側の冷却ドラム11bにロードセル22A、22Bが配設されており、ロードセル22A、22Bによって測定された反力信号が反力制御部24に送信され、この反力制御部24において、和荷重が所定値になるように、油圧シリンダー21A、21Bにおいて前後進するように指令を与える。これにより、一対の冷却ドラム11,11の互いの回転軸が平行に保持され、板厚制御された薄肉鋳片1が製造されることになる。なお、前記和荷重の所定値は、主に薄肉鋳片1の品質を満足する範囲で、操業の安定性の維持を狙いとするが、主に冷却ドラム11の幅、直径、溶融金属種類から決まるものである。現実的には、第1圧力、第2圧力と同様に、実際の試験にて適正値を求めて設定される。
【0029】
ここで、第3ステップにおいては、上述のように、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、一対の冷却ドラム11,11の圧力制御を実施している。
【0030】
このとき、一対の冷却ドラム11,11の間に地金を噛み込んだ場合には、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値(和荷重)が上昇し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差が大きくなる。
地金の噛み込みによる和荷重の上昇に応じて、一対の冷却ドラム11,11の圧力制御を行うと、地金が一対の冷却ドラム11,11の間から抜けたときに冷却ドラム11,11によって薄肉鋳片1を十分に押圧することができなくなり、薄肉鋳片1の温度が上昇して破断するおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態においては、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、一対の冷却ドラム11,11の圧力制御を実施する際に、和荷重差の限界値を設定し、和荷重差が限界値以下の場合には、実測和荷重が目標和荷重となるように一対の冷却ドラム11,11の圧力制御を行い、前記和荷重差が限界値を超えた場合には、前記限界値を超えた分を無視して、一対の冷却ドラム11,11の圧力制御を行う構成とされている。
【0032】
ここで、和荷重差の限界値は、和荷重検出上限値と目標和荷重との差よりも小さく、かつ、和荷重変化の検出下限よりも大きくする必要がある。
和荷重差の限界値は、上述の範囲内の中でも、地金の噛み込み等の突発的な和荷重の上昇に対して冷却ドラム11,11の圧力制御を行うことを抑制するためには、和荷重差の限界値の上限を、冷却ドラム11のドラム幅1m当たり8kN以下とすることが好ましく、5kN以下とすることがさらに好ましい。一方、目標和荷重となるようにさらに精度良く冷却ドラム11,11の圧力制御を行うためには、和荷重差の限界値の下限を、冷却ドラム11のドラム幅1m当たり1kN以上とすることが好ましく、3kN以上とすることがさらに好ましい。
【0033】
以上のような構成とされた本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法によれば、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値である和荷重を測定し、実測和荷重と目標和荷重との差である和荷重差に応じて、一対の冷却ドラム11,11の圧力制御を行う際に、和荷重差が限界値を超えた場合には、限界値を超えた分を無視して、一対の冷却ドラム11,11の圧力制御を行う構成としているので、例えば、地金の噛み込みによって反力が一時的に大きく上昇し、上述の和荷重差が限界値を超えても、一対の冷却ドラム11,11が必要以上に離間することがなくなり、地金が通過した後に薄肉鋳片1を一対の冷却ドラム11,11によって十分に押圧して冷却することができ、薄肉鋳片1の局所的な温度上昇を抑制することができる。よって、薄肉鋳片1の破断を抑制することができ、安定して鋳造を行うことができる。
【0034】
本実施形態において、和荷重差の限界値を、冷却ドラム11のドラム幅1m当たり1kN以上とした場合には、地金の噛み込み等の突発的な事象によって和荷重が一時的に上昇しても、一対の冷却ドラム11,11が必要以上に離間することをさらに抑制することができ、定常状態に戻った際に薄肉鋳片1を一対の冷却ドラム11,11によって十分に押圧することができ、薄肉鋳片1の鋳造をさらに安定して実施することが可能となる。
また、本実施形態において、和荷重差の限界値を、冷却ドラム11のドラム幅1m当たり8kN以下とした場合には、一対の冷却ドラム11,11の圧力制御をさらに精度良く行うことができ、薄肉鋳片1の鋳造をさらに安定して実施することが可能となる。
【0035】
また、本実施形態において、一対の冷却ドラム11,11を停止した状態から、一対の冷却ドラム11,11を回転起動させて、薄肉鋳片1の肉厚部が一対の冷却ドラム11,11の最近接点(ドラムキス点)を通過するまでの第1ステップにおいて、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側に配設された油圧シリンダー21A,21Bによって、所定の圧力(第1圧力)で一対の冷却ドラム11,11が互いに近接する方向に向けて押圧した場合には、薄肉鋳片1の肉厚部を、比較的安定して冷却ドラム11,11間を通過させることができる。
【0036】
さらに、本実施形態において、上述の第1ステップの後、冷却ドラム11,11が1回転乃至2回転するまでの第2ステップにおいては、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側に配設された油圧シリンダー21A,21Bによって、所定の圧力(第2圧力)で一対の冷却ドラム11,11が互いに近接する方向に向けて押圧し、第2ステップにおける第2圧力を、第1ステップにおける第1圧力よりも高く設定した場合には、ドラムキス点において凝固シェル同士を十分に圧下することができ、薄肉鋳片の厚み中央部分に未凝固部が形成されることを抑制できる。
【0037】
以上、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、図1に示す双ドラム式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これに限定されることはない。
また、冷却ドラムの押圧方式は、図3に示すものに限定されることはなく、実施形態で示したように圧力制御が実施可能な構成であればよい。
【実施例
【0038】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置を用いて、炭素量0.05mass%の炭素鋼からなる薄肉鋳片の製造を行った。
ここで、冷却ドラム径を600mm、冷却ドラム幅を400mmとした。また、定常鋳造の鋳片厚さを2.0mmとした。
そして、図4に示すように、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップを設定し、実施形態の欄に記載した方法で冷却ドラムの圧力制御を実施した。
【0039】
第3ステップにおいて、本発明例1-3では、和荷重差の限界値(冷却ドラムのドラム幅1m当たり)を、表1に示すように設定し、和荷重差が限界値を超えた場合には、限界値を超えた分を無視して、一対の冷却ドラムの圧力制御を実施した。
一方、比較例では、和荷重差の限界値を設定せずに、測定された和荷重差に応じて、一対の冷却ドラムの圧力制御を実施した。
【0040】
そして、本発明例1-3及び比較例において、鋳造回数、薄肉鋳片の破断が発生した回数、破断率、地金噛み込み後の反力の低下、鋳造状況について評価した。評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
和荷重差の限界値を設定せずに、測定された和荷重差に応じて一対の冷却ドラムの圧力制御を実施した比較例においては、破断率が63%と高く、安定して鋳造を行うことができなかった。また、地金噛み込み直後に大きく反力が低下した。
これに対して、和荷重差の限界値を設定し、和荷重差が限界値を超えた場合には、限界値を超えた分を無視して一対の冷却ドラムの圧力制御を実施した本発明例1-3においては、破断率が低くなった。なお、和荷重差の限界値が10kNと比較的大きく設定された本発明例1では、地金噛み込み後の反力低下がわずかにあった。
【0043】
以上の結果から、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法によれば、双ドラム式連続鋳造装置において、薄肉鋳片の破断を抑制でき、鋳造を安定して開始することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0044】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼(溶融金属)
5 凝固シェル
10 双ドラム式連続鋳造装置
11 冷却ドラム
15 サイド堰
16 溶鋼プール部(溶融金属溜まり部)
図1
図2
図3
図4
図5