(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】トーションビーム
(51)【国際特許分類】
B60G 9/04 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
B60G9/04
(21)【出願番号】P 2019225373
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰弘
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121989(WO,A1)
【文献】特開2016-210399(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0191443(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02923865(EP,A1)
【文献】特開2005-029155(JP,A)
【文献】特開2013-256260(JP,A)
【文献】米国特許第05909888(US,A)
【文献】特開2001-113925(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02075146(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取り付けられるトーションビームであって、
前記車両の幅方向に延びる天板と、
前記天板の前端縁に接続されて下方及び前記幅方向に延びる側板と、
前記天板の後端縁に接続されて下方及び前記幅方向に延びる他の側板と、を備え、
前記天板の前記車両の前後方向の長さがL1であり、前記天板の前記前端縁から前記前端縁に接続される前記側板の上端縁までの前記前後方向の長さがL2fであり、前記天板の前記後端縁から前記後端縁に接続される前記側板の上端縁までの前記前後方向の長さがL2rであるとき、L2f/L1及びL2r/L1は0.60以下であり、
2つの前記側板のうち
、前記天板の前記前端縁に接続される一方の前記側板において、前記トーションビームの重心よりも下方に位置する下端部の前記前後方向の長さは、他の部分の前記前後方向の長さよりも長い、トーションビーム。
【請求項2】
車両に取り付けられるトーションビームであって、
前記車両の幅方向に延びる天板と、
前記天板の前端縁に接続されて下方及び前記幅方向に延びる側板と、
前記天板の後端縁に接続されて下方及び前記幅方向に延びる他の側板と、を備え、
前記天板の前記車両の前後方向の長さがL1であり、前記天板の前記前端縁から前記前端縁に接続される前記側板の上端縁までの前記前後方向の長さがL2fであり、前記天板の前記後端縁から前記後端縁に接続される前記側板の上端縁までの前記前後方向の長さがL2rであるとき、L2f/L1及びL2r/L1は0.60以下であり、
2つの前記側板のうち少なくとも一方の前記側板において、前記トーションビームの重心よりも下方に位置する下端部の前記前後方向の長さは、他の部分の前記前後方向の長さよりも長く、
L2fがL2rよりも大きい、トーションビーム。
【請求項3】
請求項1に記載のトーションビームであって、
L2fがL2rよりも大きい、トーションビーム。
【請求項4】
請求項1
から3のいずれか1項に記載のトーションビームであって、
前記一方の側板のうち、前記下端部は、前記幅方向に延びる筒状である、トーションビーム。
【請求項5】
請求項1
から3のいずれか1項に記載のトーションビームであって、
前記一方の側板のうち、前記下端部の板厚は、前記他の部分の板厚よりも厚い、トーションビーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に取り付けられるトーションビームに関する。
【背景技術】
【0002】
前輪駆動する車両(例:自動車)において、左右の後輪を懸架するためにトーションビームが用いられる場合がある。トーションビームは長尺な部材であり、車両の幅方向(以下、「車幅方向」ともいう。)に沿って配置される。トーションビームの車幅方向の両端それぞれに、トレーリングアームが接合される。各トレーリングアームの前端が車体に取り付けられる。各トレーリングアームは各々の後端で後輪を支持する。
【0003】
従来の設計において、トーションビームには、車両の高さ方向(以下、「車高方向」ともいう。)に沿った軸の回りの曲げに対して高い剛性が要求される。この曲げ剛性は、車両の前後方向(以下、「車長方向」ともいう。)の振幅に対する剛性である。さらに、トーションビームには、車長方向に沿った軸の回りの曲げに対して高い剛性が要求される。この曲げ剛性は、車高方向の振幅に対する剛性である。トーションビームにこのような高い曲げ剛性が要求されるのは、車両走行時に、後輪のタイヤ間の距離(すなわちトレッド)の変化を防止するためである。
【0004】
また、トーションビームには、適度なねじり剛性が要求される。これは、車両走行時に、路面の凹凸等に起因して左右の後輪相互間に生じる車高方向の相対変位を吸収するためである。
【0005】
高い曲げ剛性と適度なねじり剛性を有するトーションビームは、例えば、特開2005-029155号公報(特許文献1)、特開2013-256142号公報(特許文献2)、特開2013-256260号公報(特許文献3)、及び特開2018-058513号公報(特許文献4)に記載されている。
【0006】
特許文献1に記載のトーションビームは、U字形又はV字形の横断面プロファイルを有する。このトーションビームは、2つの脚と、該脚を結ぶ1つの弓形の嶺区分と、を備える。少なくとも1つの脚の自由な端部に、中空プロファイル状に湾曲した長さ区分が設けられている。該長さ区分がその端面の領域で、脚の内側の表面又はその外側の表面に接合されている。
【0007】
特許文献2及び3に記載のトーションビームは、U字状の開断面形状を有する。特許文献2に記載のトーションビームでは、トーションビームの開放端縁に厚肉部が形成されている。特許文献3に記載のトーションビームでは、トーションビームの横断面における厚みが周方向に変化しており、厚肉部が部分的に形成されている。
【0008】
特許文献4に記載のトーションビームは、車両下側に開口した略U字状の開断面形状を有する。このトーションビームでは、トーションビームの開口側の下端部は、車両前後方向で車両外側へ向けて折り曲げられている。トーションビームのうちで、車両後方側に位置する上記の下端部が最も高い剛性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-029155号公報
【文献】特開2013-256142号公報
【文献】特開2013-256260号公報
【文献】特開2018-058513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のとおり、従来の設計では、曲げ剛性及びねじり剛性という特性が検討されて、トーションビームの形状が決定される。しかしながら、曲げ剛性及びねじり剛性の検討のみでは、操舵性や乗り心地が不十分となる事態が生じ得る。走行中の車両にロールが発生するときに、この事態は生じやすい。
【0011】
本発明の目的は、曲げ剛性及びねじり剛性を確保しつつ、操舵性や乗り心地を向上できるトーションビームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態によるトーションビームは、車両に取り付けられるトーションビームである。当該トーションビームは、車両の幅方向に延びる天板と、天板の前端縁に接続されて下方及び上記幅方向に延びる側板と、天板の後端縁に接続されて下方及び上記幅方向に延びる他の側板と、を備える。天板の車両の前後方向の長さがL1であり、天板の前端縁から当該前端縁に接続される側板の上端縁までの上記前後方向の長さがL2fであり、天板の後端縁から当該後端縁に接続される側板の上端縁までの上記前後方向の長さがL2rであるとき、L2f/L1及びL2r/L1は0.60以下である。2つの側板のうち少なくとも一方の側板において、トーションビームの重心よりも下方に位置する下端部の上記前後方向の長さは、他の部分の上記前後方向の長さよりも長い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によるトーションビームは、曲げ剛性及びねじり剛性を確保しつつ、操舵性や乗り心地を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、トーションビームの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、ロールに関係する要素を示す模式図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態のトーションビームの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態のトーションビームの横断面形状の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態のトーションビームの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態のトーションビームの横断面形状の一例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態のトーションビームの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態のトーションビームの横断面形状の一例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、第4実施形態のトーションビームの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態のトーションビームの横断面形状の一例を示す模式図である。
【
図11】
図11は、変形例1のトーションビームの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図12】
図12は、変形例1のトーションビームの縦断面形状を示す模式図である。
【
図13】
図13は、変形例2のトーションビームの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図14】
図14は、変形例2のトーションビームの縦断面形状を示す模式図である。
【
図15】
図15は、変形例3のトーションビームの横断面形状を示す模式図である。
【
図16】
図16は、変形例4のトーションビームの横断面形状を示す模式図である。
【
図17】
図17は、実施例1において検討した溝形の横断面形状を示す図である。
【
図18】
図18は、実施例1において検討した比較のためのV字形の横断面形状を示す図である。
【
図19】
図19は、実施例1の結果として、横断面形状が溝形である場合のせん断中心位置を示す図である。
【
図20】
図20は、実施例1の結果として、横断面形状が溝形である場合の車高方向DHの曲げ剛性を示す図である。
【
図21】
図21は、実施例1の結果として、横断面形状が溝形である場合の車長方向DLの曲げ剛性を示す図である。
【
図22】
図22は、実施例1の結果として、横断面形状が溝形である場合のねじり剛性を示す図である。
【
図23】
図23は、実施例1の結果として、横断面形状がV字形である場合のせん断中心位置を示す図である。
【
図24】
図24は、実施例1の結果として、横断面形状がV字形である場合の車高方向DHの曲げ剛性を示す図である。
【
図25】
図25は、実施例1の結果として、横断面形状がV字形である場合の車長方向DLの曲げ剛性を示す図である。
【
図26】
図26は、実施例1の結果として、横断面形状がV字形である場合のねじり剛性を示す図である。
【
図27】
図27は、実施例2において検討した溝形の横断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明はそれらの例示に限定されない。
【0016】
上記の課題を解決するため、本発明者は、ロールが発生するときの状況を詳細に検討した。その結果、下記の知見を得た。
【0017】
[トーションビームの概要]
図1は、トーションビーム1の全体構成を模式的に示す斜視図である。
図1には、左右の後輪Wri、Wleが想像線で示されている。
図1を参照して、トーションビーム1は長尺な部材である。トーションビーム1は車幅方向DWに沿って配置される。別の観点では、トーションビーム1は車幅方向DWに延びる。つまり、トーションビーム1の長手方向は、車幅方向DWと一致する。
【0018】
本明細書において、トーションビーム1及びそれを構成する部材の方向について言及するときは、特に記載がない限り、トーションビーム1を車両に搭載して使用時の向きに配置した状態における方向を意味する。例えば、車幅方向(車両の幅方向)DWは、トーションビーム1の長手方向に対応する。この車幅方向DWは、車両の左右方向と一致する。車高方向(車両の高さ方向)DHは、トーションビーム1の上下方向に対応する。車長方向(車両の前後方向)DLは、トーションビーム1の前後方向に対応する。
【0019】
トーションビーム1には、車幅方向DWの両端である右端1ri及び左端1leのそれぞれに、トレーリングアーム10ri、10leが接合される。各トレーリングアーム10ri、10leは剛体であり、概ね車長方向DLに延びる。トレーリングアーム10ri、10leそれぞれの前端10ria、10leaが車体に取り付けられる。これにより、トーションビーム1が車体に取り付けられる。トレーリングアーム10ri、10leは、それぞれの後端10rib、10lebで後輪Wri、Wleを支持する。各トレーリングアーム10ri、10leには、サスペンション装置を構成するスプリングやショックアブソーバ、及びブレーキ装置等も取り付けられる。
【0020】
[ロールに関係する要素]
図2は、ロールに関係する要素を示す模式図である。
図2には、トーションビーム1、左右のトレーリングアーム10ri、10le、及び左右の後輪Wri、Wleが示される。
【0021】
車両がコーナリングするとき、車体が遠心力を受けるとともに、タイヤ(後輪Wri、Wle)が路面から横力を受ける。これらの遠心力及び横力に伴うモーメントによって、ロールが発生する。ロールは、車長方向の軸を中心とする車体の回転であり、路面に対する車体の左右への傾きとして現れる。ロールの回転中心はロールセンタRcと称される。
【0022】
ロールが過度に大きい場合、乗員が不快に感じたり、操舵が不安定になったりする。一方、ロールが過度に小さい場合、加速感及び減速感が乏しくなる。そのため、ロールには適量が存在する。サスペンションのジオメトリによって、ロールの度合いをある程度制御することができる。そのため、ロールを適量に設定できるようにサスペンションの設計自由度は高い方がよい。
【0023】
ロールは、路面に対するロールセンタRc回りの車体の傾きである。このため、ロールには、路面に対する後輪Wri、Wleの左右への傾き、及び車体に対する後輪Wri、Wleの左右への傾きが影響する。ここで、路面に対する後輪Wri、Wleの傾きの回転中心は、後輪Wri、Wleの接地点Tri、Tleである。車体に対する後輪Wri、Wleの傾きの回転中心は、瞬間回転中心Cri、Cleである。
【0024】
瞬間回転中心Cri、Cleは、トーションビーム1の車体への取付点Pri、Pleと、トーションビーム1のせん断中心位置Scによって決まる。取付点Pri、Pleは、トレーリングアーム10ri、10leの前端10ria、10leaの位置に相当する。
【0025】
ここで、右側の瞬間回転中心Criは以下のように定められる。トーションビーム1の左側の取付点Pleと、トーションビーム1のせん断中心位置Scと、を結ぶ仮想の直線l1riを描く。左右の後輪Wri、Wleの接地点Tri、Tleを含み、かつ路面に垂直な仮想の面Aを描く。直線l1riの延長線と面Aとの交点が右側の瞬間回転中心Criとなる。これと同じように、左側の瞬間回転中心Cleが定められる。具体的には、トーションビーム1の右側の取付点Priと、トーションビーム1のせん断中心位置Scと、を結ぶ仮想の直線l1leを描く。直線l1leの延長線と面Aとの交点が左側の瞬間回転中心Cleとなる。
【0026】
そして、ロールセンタRcは以下のように定められる。右側の瞬間回転中心Criと左側の後輪Wleの接地点Tleとを結ぶ仮想の直線l2riを描く。同じように、左側の瞬間回転中心Cleと右側の後輪Wriの接地点Triとを結ぶ仮想の直線l2leを描く。直線l2riと直線l2leとの交点がロールセンタRcとなる。
【0027】
したがって、ロールセンタRcの位置は、トーションビーム1のせん断中心位置Scに依存する。トーションビーム1のせん断中心位置Scが高くなれば、それに追従して瞬間回転中心Cri、Cleが高くなる。その結果、ロールセンタRcの位置も高くなる。
【0028】
車体の重心Gの位置は、ロールセンタRcの位置よりも高い。このため、ロールセンタRcの位置が高くなれば、ロールセンタRcと車体の重心Gとの距離Hが短くなる。この距離Hはロールモーメントアームと称される。ロールモーメントアームHが短くなれば、ロール角が小さくなる。
【0029】
上記より、トーションビーム1のせん断中心位置Scを自在に制御できれば、ロール角を適量に設定することが可能になると言える。特に、ロール角が小さければ、操舵性や乗り心地が向上する。このため、トーションビーム1の特性として、ロールモーメントアームHが短くなるように、せん断中心位置Scが高いことが望ましい。せん断中心とは、梁のような長尺な部材に曲げ変形を与えたときに、せん断応力によるモーメントが生じない点を意味する。せん断中心は、部材の横断面形状によって定まる。
【0030】
上記の知見をもとにして、本発明者は、板で構成したトーションビームの横断面形状を詳細に検討した。その結果、トーションビームの横断面形状が車高方向の下側に開口した開断面であって、トーションビームの重心よりも下方の領域の体積(質量に対応)が増加した形状であれば、トーションビームのせん断中心位置が高いことが分かった。特に、従来のようなU字形及びV字形の横断面形状よりも、溝形(コの字形)の横断面形状の場合に、せん断中心位置の上昇が著しいことが分かった。また、このような独特な横断面形状であっても、トーションビームに必要な特性(曲げ剛性及びねじり剛性)も確保できることが分かった。
【0031】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0032】
本発明の実施形態によるトーションビームは、車両に取り付けられるトーションビームである。当該トーションビームは、車両の幅方向に延びる天板と、天板の前端縁に接続されて下方及び上記幅方向に延びる側板と、天板の後端縁に接続されて下方及び上記幅方向に延びる他の側板と、を備える。天板の車両の前後方向の長さがL1であり、天板の前端縁から当該前端縁に接続される側板の上端縁までの上記前後方向の長さがL2fであり、天板の後端縁から当該後端縁に接続される側板の上端縁までの上記前後方向の長さがL2rであるとき、L2f/L1及びL2r/L1は0.60以下である。2つの側板のうち少なくとも一方の側板において、トーションビームの重心よりも下方に位置する下端部の上記前後方向の長さは、他の部分の上記前後方向の長さよりも長い(第1の構成)。
【0033】
第1の構成のトーションビームによれば、2つの側板が互いに向かい合い、トーションビームの横断面形状は車高方向の下側に開口した溝形の開断面となる。しかも、トーションビームの重心よりも下方の領域の体積が増加したものとなる。これにより、トーションビームのせん断中心位置は高い。したがって、操舵性や乗り心地を向上することができる。また、曲げ剛性及びねじり剛性も確保できる。
【0034】
第1の構成では、側板の上端縁は、天板の前端縁と直接接続されていてもよい。側板の上端縁は、天板の前端縁と間接的に接続されていてもよい。後者の場合、側板は別の板材を介して天板と接続される。この場合、その別の板材は側板と天板をつなぐコーナを形成する。このコーナ板の横断面形状は、円弧形であってもよいし、直線形であってもよい。このような天板の前端縁に対する側板の接続形態は、天板の後端縁に対する側板の接続形態にも適用される。
【0035】
L2f/L1及びL2r/L1の下限は特に限定されず、0(ゼロ)であってもよい。L2f/L1が0である場合、側板の上端縁が天板の前端縁と直接接続される。この場合、側板の上端縁と天板の前端縁との間に上記のコーナ板は存在しない。これと同様に、L2r/L1が0である場合、側板の上端縁が天板の後端縁と直接接続される。この場合、側板の上端縁と天板の後端縁との間に上記のコーナ板は存在しない。
【0036】
L2f/L1及びL2r/L1は0.60以下であれば特に限定されない。トーションビームのせん断中心位置を効果的に高める観点から、L2f/L1及びL2r/L1の上限は、0.50であることが好ましく、より好ましくは0.40である。L2f/L1及びL2r/L1が0.60を超えれば、トーションビームの横断面形状が従来のようなU字形に近づく。
【0037】
典型的な例では、天板は平坦である。ただし、天板は、厳密に平坦なもののみならず、僅かに起伏したものも含む。
【0038】
天板の前端縁に対する側板の接続形態、配置、及び形状等は、天板の後端縁に対する側板の接続形態、配置、及び形状等と同じ対称であってもよいし、それとは異なる非対称であってもよい。
【0039】
2つの側板のうちの両方の側板において、上記下端部の上記前後方向の長さが、上記他の部分の上記前後方向の長さよりも長いことが好ましい。効果的にトーションビームのせん断中心位置を高くすることができるからである。
【0040】
ただし、2つの側板のうちの一方の側板は、上記下端部の上記前後方向の長さが、上記他の部分の上記前後方向の長さよりも長く、他方の側板は、全域にわたって板厚が一定の単なる板であってもよい。例えば、天板の前端縁に接続する側板は、上記下端部の上記前後方向の長さが、上記他の部分の上記前後方向の長さよりも長く、天板の後端縁に接続する側板は、全域にわたって板厚が一定の単なる板であってもよい。この場合、トーションビームのせん断中心位置が車両の前方に寄り、その結果ロールセンタを高くすることができる。
【0041】
第1の構成において、典型的な例では、上記一方の側板のうち、上記下端部は、上記幅方向に延びる筒状である(第2の構成)。第2の構成の場合、筒状の下端部によって、トーションビームの重心よりも下方の領域の体積が増加したものとなる。筒状の下端部の横断面形状は特に限定されない。例えば、その横断面形状は、多角形(例:三角形、四角形、五角形)であってもよいし、円形や楕円形であってもよい。
【0042】
第1の構成において、別の典型的な例では、上記一方の側板のうち、上記下端部の板厚は、上記他の部分の板厚よりも厚い(第3の構成)。第3の構成の場合、板厚の増加した下端部によって、トーションビームの重心よりも下方の領域の体積が増加したものとなる。
【0043】
第1の構成において、トーションビームを横断面で見たとき、上記一方の側板の上記下端部は、内側と外側に交互に突出するような波形であってもよい。また、トーションビームを横断面で見たとき、上記一方の側板の上記下端部は、その先端が内側又は外側に突出するようなL字形であってもよいし、内側及び外側の両方に突出するようなT字形であってもよい。本明細書において、内側とは、当該側板とは異なる他方の側板に近づく方向を意味し、外側とは、当該側板とは異なる他方の側板から遠ざかる方向を意味する。別の観点では、内側とは、天板と2つの側板によって囲まれた空間の内部側を意味し、外側とは、その空間の外部側を意味する。これらの場合であっても、トーションビームの重心よりも下方の領域の体積が増加したものとなる。
【0044】
第1~第3の構成において、互いに向かい合う2つの側板は、天板から遠ざかるとともに互いの間隔が広がるように傾斜していてもよい。別の観点では、側板は外側に傾斜していてもよい。さらに別の観点では、トーションビームを横断面で見たとき、側板と天板とのなす角度が鈍角であってもよい。
【0045】
さらに、側板は、天板に対して垂直に配置されていてもよい。別の観点では、トーションビームを横断面で見たとき、側板と天板とのなす角度が90°であってもよい。
【0046】
第1~第3の構成において、L2fがL2rよりも大きくてもよい(第4の構成)。第4の構成の場合、トーションビーム1のせん断中心位置Scが車両の前方に寄り、その結果ロールセンタRcを高くすることができる。
【0047】
以下に、図面を参照しながら、本実施形態のトーションビームについてその具体例を説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0048】
[第1実施形態]
図3は、第1実施形態のトーションビーム1の全体構成を模式的に示す斜視図である。
図4は、第1実施形態のトーションビーム1の横断面形状の一例を示す模式図である。
図3を参照して、トーションビーム1は長尺な部材である。トーションビーム1は車幅方向DWに沿って配置される。別の観点では、トーションビーム1は車幅方向DWに延びる。つまり、トーションビーム1の長手方向は、車幅方向DWと一致する。
【0049】
トーションビーム1は、平坦な天板2と、2つの側板3及び4と、を含む。天板2は車幅方向DWに延びる。各側板3、4は車幅方向DWに延びる。側板3及び4はそれぞれ天板2の前方と後方に配置されている。前側の側板3の上端縁3aが天板2の前端縁2aと直接接続されている。後側の側板4の上端縁4aが天板2の後端縁2bと直接接続されている。天板2、前側の側板3及び後側の側板4の車幅方向DWの長さは同じである。
【0050】
図4を参照して、前側の側板3は、天板2に対して垂直に配置されている。後側の側板4も、天板2に対して垂直に配置されている。
【0051】
トーションビーム1の横断面形状は、車高方向DHの下側に開口した開断面となる。この開断面形状は、溝形である。換言すれば、この開断面形状は、従来のようなU字形やV字形ではない。
【0052】
ここで、天板2の車長方向DLの長さがL1である。天板2の前端縁2aから前側の側板3の上端縁3aまでの車長方向DLの長さがL2fである。天板2の後端縁2bから後側の側板4の上端縁4aまでの車長方向DLの長さがL2rである。第1実施形態の場合、各側板3及び4が天板2と直接接続されている。このため、L2f及びL2rはいずれも0(ゼロ)である。つまり、L2f/L1及びL2r/L1はいずれも0(ゼロ)である。
【0053】
本明細書において、L1、L2f及びL2rを算出するときの標点は、天板2、前側の側板3、及び後側の側板4のそれぞれの内面側にある。
【0054】
第1実施形態のトーションビーム1では、前側の側板3の下端部3bは、車幅方向DWに延びる筒状である。筒状の下端部3bの横断面形状は四角形である。前側の側板3において、その下端部3bを除く他の部分3cは単なる板である。本明細書では、この部分3cを上側部3cと称する場合がある。
【0055】
これと同様に、後側の側板4の下端部4bは、車幅方向DWに延びる筒状である。筒状の下端部4bの横断面形状は四角形である。後側の側板4において、その下端部4bを除く他の部分4cは単なる板である。本明細書では、この部分4cを上側部4cと称する場合がある。
【0056】
各側板3及び4の下端部3b及び4bは、トーションビーム1の重心Gvよりも下方に位置している。前側の側板3において、下端部3bの車長方向DLの長さ3btは、上側部3cの車長方向DLの長さ3ctよりも長い。上側部3cの車長方向DLの長さ3ctは上側部3cの板厚と読み替えることもできる。筒状の下端部3bの板厚は、上側部3cの板厚と同じである。
【0057】
これと同様に、後側の側板4において、下端部4bの車長方向DLの長さ4btは、上側部4cの車長方向DLの長さ4ctよりも長い。上側部4cの車長方向DLの長さ4ctは上側部4cの厚みと読み替えることもできる。筒状の下端部4bの板厚は、上側部4cの板厚と同じである。
【0058】
このような構成により、トーションビーム1の重心Gvよりも下方の領域の体積(質量)が増加したものとなる。これにより、トーションビーム1のせん断中心位置Scは高い。したがって、操舵性や乗り心地を向上することができる。また、曲げ剛性及びねじり剛性も確保できる。
【0059】
前側の側板3についてその下端部3bが筒状であり、後側の側板4については全域にわたって板厚が一定の単なる板であってもよい。これとは逆に、後側の側板4についてその下端部4bが筒状であり、前側の側板3については全域にわたって板厚が一定の単なる板であってもよい。
【0060】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態のトーションビーム1の全体構成を模式的に示す斜視図である。
図6は、第2実施形態のトーションビーム1の横断面形状の一例を示す模式図である。
図5及び
図6を参照して、第2実施形態の場合、前側の側板3の上端縁3aが天板2の前端縁2aとコーナ板5を介して接続されている。後側の側板4の上端縁4aが天板2の後端縁2bとコーナ板6を介して接続されている。天板2、前側の側板3及び後側の側板4、並びにコーナ板5及び6の車幅方向DWの長さは同じである。コーナ板5及び6の横断面形状は円弧形である。
【0061】
第2実施形態の場合、各側板3及び4が天板2と間接的に接続されている。つまり、各側板3及び4がコーナ板5及び6を介して天板2と接続されている。コーナ板5及び6の存在により、L2f/L1及びL2r/L1はいずれも0(ゼロ)を超える。また、L2f/L1及びL2r/L1はいずれも0.60以下である。このようなトーションビーム1の横断面形状も、溝形である。
【0062】
第2実施形態のトーションビーム1も、第1実施形態と同様に、トーションビーム1の重心Gvよりも下方の領域の体積が増加したものとなることに変わりはない。したがって、第2実施形態のトーションビーム1も、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0063】
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態のトーションビーム1の全体構成を模式的に示す斜視図である。
図8は、第3実施形態のトーションビーム1の横断面形状の一例を示す模式図である。
図7及び
図8を参照して、第3実施形態の場合、コーナ板5及び6の横断面形状は直線形である。
【0064】
第3実施形態の場合も、第2実施形態と同様に、L2f/L1及びL2r/L1はいずれも0(ゼロ)を超え、0.60以下である。このようなトーションビーム1の横断面形状も、溝形である。
【0065】
第3実施形態のトーションビーム1も、第1実施形態と同様に、トーションビーム1の重心Gvよりも下方の領域の体積が増加したものとなることに変わりはない。したがって、第3実施形態のトーションビーム1も、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0066】
[第4実施形態]
図9は、第4実施形態のトーションビーム1の全体構成を模式的に示す斜視図である。
図10は、第4実施形態のトーションビーム1の横断面形状の一例を示す模式図である。第4実施形態のトーションビーム1は、第1実施形態のトーションビーム1を変形したものである。
【0067】
図9及び
図10を参照して、第4実施形態のトーションビーム1では、前側の側板3の下端部3bは、上側部3cと同様に単なる板である。ただし、下端部3bの板厚は、上側部3cの板厚よりも厚い。つまり、前側の側板3において、下端部3bの車長方向DLの長さ3btは、上側部3cの車長方向DLの長さ3ctよりも長い。
【0068】
これと同様に、後側の側板4の下端部4bは、上側部4cと同様に単なる板である。ただし、下端部4bの板厚は、上側部4cの板厚よりも厚い。つまり、後側の側板4において、下端部4bの車長方向DLの長さ4btは、上側部4cの車長方向DLの長さ4ctよりも長い。
【0069】
第4実施形態のトーションビーム1も、第1実施形態と同様に、トーションビーム1の重心Gvよりも下方の領域の体積が増加したものとなることに変わりはない。したがって、第4実施形態のトーションビーム1も、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0070】
前側の側板3についてその下端部3bの板厚を増加させ、後側の側板4については全域にわたって板厚が一定の単なる板であってもよい。これとは逆に、後側の側板4についてその下端部4bの板厚を増加させ、前側の側板3については全域にわたって板厚が一定の単なる板であってもよい。
【0071】
第4実施形態のように各側板3及び4において下端部3b及び4bの板厚を増加させる形態は、第2及び第3実施形態に適用してもよい。前側の側板3についてその下端部3bの板厚を増加させる第4実施形態を適用し、後側の側板4についてはその下端部4bを筒状にする第1~第3実施形態を適用してもよい。これとは逆に、後側の側板4についてその下端部4bの板厚を増加させる第4実施形態を適用し、前側の側板3についてはその下端部3bを筒状にする第1~第3実施形態を適用してもよい。
【0072】
以下に他の変形例を示す。
【0073】
[変形例1]
図11は、変形例1のトーションビーム1の全体構成を模式的に示す斜視図である。
図12は、変形例1のトーションビーム1の縦断面形状を示す模式図である。変形例1のトーションビーム1は、一例として、第4実施形態のトーションビーム1を変形したものである。
【0074】
図11及び
図12を参照して、変形例1のトーションビーム1は、中板7ri及び7leを備える。中板7ri及び7leは、トーションビーム1の右端1ri及び左端1leそれぞれの近傍に設けられる。中板7ri及び7leは、天板2と2つの側板3及び4によって囲まれた空間の内部に設けられる。トーションビーム1を横断面で見たとき、天板2、2つの側板3及び4、及び中板7ri及び7leによって、閉断面が形成される。中板7ri及び7leによって、トーションビーム1の右端1ri及び左端1leそれぞれの近傍のみが補強される。
【0075】
[変形例2]
図13は、変形例2のトーションビーム1の全体構成を模式的に示す斜視図である。
図14は、変形例2のトーションビーム1の縦断面形状を示す模式図である。変形例2のトーションビーム1は、一例として、第4実施形態のトーションビーム1を変形したものである。
【0076】
図13及び
図14を参照して、変形例2のトーションビーム1は、棒8を備える。棒8は、天板2と2つの側板3及び4によって囲まれた空間の内部に設けられる。棒8は、トーションビーム1の長手方向(車幅方向DW)の全域にわたって延在する。棒8によって、トーションビーム1全体が補強される。
【0077】
[変形例3]
図15は、変形例3のトーションビーム1の横断面形状を示す模式図である。変形例3のトーションビーム1は、一例として、第4実施形態のトーションビーム1を変形したものである。
【0078】
図15を参照して、変形例3のトーションビーム1では、前側の側板3の下端部3bは、上側部3cと同様に単なる板である。ただし、下端部3bの板厚は、上側部3cの板厚よりも厚い。これに対して、後側の側板4は、全域にわたって板厚が一定の単なる板である。つまり、下端部4bの板厚は、上側部4cの板厚と同じである。この場合、トーションビーム1のせん断中心位置Scが車両の前方に寄り、その結果ロールセンタRcを高くすることができる。
【0079】
[変形例4]
図16は、変形例4のトーションビーム1の横断面形状を示す模式図である。変形例4のトーションビーム1は、一例として、第3実施形態のトーションビーム1と第4実施形態のトーションビーム1を組み合わせたものである。
【0080】
図16を参照して、変形例4のトーションビーム1では、前側の側板3の上端縁3aが天板2の前端縁2aとコーナ板5を介して接続されている。一方、後側の側板4の上端縁4aが天板2の後端縁2bと直接接続されている。変形例4の場合、L2fがL2rよりも大きい。この場合、トーションビーム1のせん断中心位置Scが車両の前方に寄り、その結果ロールセンタRcを高くすることができる。
【0081】
変形例1~変形例4は相互に組み合わせることができる。
【実施例1】
【0082】
実施例1では、溝形の横断面形状を有するトーションビームの有効性を調査した。
図17は、実施例1において検討した溝形の横断面形状を示す図である。
図18は、実施例1において検討した比較のためのV字形の横断面形状を示す図である。
図17に示す溝形の横断面形状、及び
図18に示すV字形の横断面形状のそれぞれについて、数値解析により、せん断中心位置Sc、車高方向DHの曲げ剛性、車長方向DLの曲げ剛性、及びねじり剛性を調査した。
図17及び
図18には、参考のため、各横断面形状のトーションビーム1におけるせん断中心位置Scと重心Gvを示している。
【0083】
図17を参照して、溝形の横断面形状は、天板2、2つの側板3及び4、並びに2つのコーナ板5及び6によって形成した。各側板3及び4の下端から天板2までの高さ(車高方向DHの長さ)は80mmであった。側板3及び4同士の間隔(車長方向DLの長さ)は80mmであった。コーナ板5及び6の横断面形状は円弧形であり、その曲率半径は10mmであった。つまり、L2f及びL2rはそれぞれ10mmであった。これらの寸法関係から、各側板3及び4の高さ(車高方向DHの長さ)は70mmであった。天板2の幅(車長方向DLの長さ)は60mmであった。つまり、L1は60mmであった。
【0084】
天板2を車長方向DLに沿って3つの領域に均等に区分した。それらの領域を前方から順に、前方領域(ii)、中央領域(i)及び後方領域(ii)とした。各コーナ板5及び6の領域をコーナ域(iii)とした。各側板3及び4を車高方向DHに沿って3つの領域に均等に区分した。それらの領域を上方から順に上方領域(iv)、中間領域(v)及び下方領域(vi)とした。少なくとも下方領域(vi)は、トーションビームの重心Gvより下方に位置していた。
【0085】
図18を参照して、V字形の横断面形状は、嶺板101、並びに2つの傾斜板102及び103によって形成した。各傾斜板102及び103の下端から嶺板101までの高さ(車高方向DHの長さ)は80mmであった。傾斜板102及び103同士のなす角度は60°であり、傾斜板102及び103の下端同士の間隔(車長方向DLの長さ)は80mmであった。嶺板101の横断面形状は円弧形であり、その曲率半径は14mmであった。
【0086】
嶺板101の領域を嶺域(i)とした。各傾斜板102及び103を傾斜面に沿って3つの領域に均等に区分した。それらの領域を上方から順に上方領域(ii)、中間領域(iii)及び下方領域(iv)とした。少なくとも下方領域(iv)は、トーションビーム1の重心Gvより下方に位置していた。
【0087】
溝形の横断面形状及びV字形の横断面形状のそれぞれにおいて、各領域(i)~(vi)の基本となる板厚tを4mmとした。そして、各領域(i)~(vi)の板厚を基本板厚tから種々変更した。板厚の変化量は、「+0.5mm」及び「+1.0mm」とした。
【0088】
図19~
図22は、横断面形状が溝形である場合の結果を示す。
図23~
図26は、横断面形状がV字形である場合の結果を示す。これらの図のうち、
図19及び
図23はせん断中心位置を示す。
図20及び
図24は車高方向DHの曲げ剛性(上下曲げ剛性)を示す。
図21及び
図25は車長方向DLの曲げ剛性(前後曲げ剛性)を示す。
図22及び
図26はねじり剛性を示す。
図19~
図26のいずれにも、板厚が基準板厚tであるときの結果に対する変化が示される。
【0089】
図19~
図26に示される結果から下記のことが言える。溝形の横断面形状及びV字形の横断面形状のいずれも開断面である。
図19に示すように、横断面形状が溝形である場合、各側板3及び4の下方領域(vi)の板厚が増加すれば、せん断中心位置Scが高くなる。
図23に示すように、横断面形状がV字形である場合でも、各傾斜板102及び103の下方領域(iv)の板厚が増加すれば、せん断中心位置Scが高くなる。つまり、トーションビーム1の重心Gvよりも下方の領域の体積(質量)が増加すれば、せん断中心位置Scが高くなる。ただし、V字形の横断面形状よりも、溝形の横断面形状の場合に、せん断中心位置Scの上昇が著しい。したがって、横断面形状を溝形とし、トーションビーム1の重心Gvよりも下方の領域の体積を増加させることは、せん断中心位置Scの上昇に有効である。
【0090】
さらに、
図20~
図22に示すように、横断面形状が溝形である場合、各側板3及び4の下方領域(vi)の板厚が増加すれば、曲げ剛性及びねじり剛性も高くなる。したがって、横断面形状を溝形とし、トーションビーム1の重心Gvよりも下方の領域の体積を増加させることは、曲げ剛性及びねじり剛性の確保にも有効である。
【実施例2】
【0091】
実施例2では、溝形の横断面形状を有するトーションビームにおいて、L2f/L1及びL2r/L1がせん断中心位置に与える影響を調査した。
図27は、実施例2において検討した溝形の横断面形状を示す図である。
図27に示す溝形の横断面形状について、数値解析により、せん断中心位置Scを調査した。
図27には、参考のため、トーションビーム1におけるせん断中心位置Scと重心Gvを示している。
【0092】
図27を参照して、溝形の横断面形状は、天板2、2つの側板3及び4、並びに2つのコーナ板5及び6によって形成した。コーナ板5及び6の横断面形状は直線形であった。各側板3及び4の下端から天板2までの高さ(車高方向DHの長さ)は80mmであった。側板3及び4同士の間隔(車長方向DLの長さ)は80mmであった。
【0093】
天板2の車長方向DLの長さL1、天板2の前端縁2aから前側の側板3の上端縁3aまでの車長方向DLの長さL2f、及び天板2の後端縁2bから後側の側板4の上端縁4aまでの車長方向DLの長さL2rを種々変更した。長さL2fと長さL2rは同じであった。なお、板厚は4mmで一定とした。
【0094】
図28は、実施例2の結果を示す。
図28には、L2f及びL2rが0(ゼロ)であるときの結果に対する比率が示される。
【0095】
図28に示す結果から下記のことが言える。L2f/L1及びL2r/L1が0.60以下であれば、せん断中心位置Scが高まる。L2f/L1及びL2r/L1が0.50以下であれば、せん断中心位置Scが効果的に高まる。L2f/L1及びL2r/L1が0.40以下であれば、せん断中心位置Scがより効果的に高まる。
【0096】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0097】
1:トーションビーム
2:天板
2a:天板の前端縁
2b:天板の後端縁
3、4:側板
3a、4a:側板の上端縁
3b、4b:側板の下端部
3c、4c:側板の上側部
5、6:コーナ板
3bt、3ct、4bt、4ct:長さ
Sc:トーションビームのせん断中心位置
Gv:トーションビームの重心
DW:車幅方向
DH:車高方向
DL:車長方向