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特許7364892製造スケジュール決定装置、製造スケジュール決定方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】製造スケジュール決定装置、製造スケジュール決定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20231012BHJP
   B22D 46/00 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
B22D46/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020002101
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021111086
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 幾太郎
(72)【発明者】
【氏名】足立 巧
(72)【発明者】
【氏名】小宮 直人
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-149850(JP,A)
【文献】特開平5-12303(JP,A)
【文献】特開2018-140420(JP,A)
【文献】特開2019-098350(JP,A)
【文献】特開2005-044082(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0137168(US,A1)
【文献】特許第5569413(JP,B2)
【文献】特許第6428375(JP,B2)
【文献】特許第3391261(JP,B2)
【文献】特許第3388128(JP,B2)
【文献】特開昭53-148683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
B22D 46/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造製品を製造する連続鋳造工程における製造スケジュール決定装置であって、
鋼種を含む前記鋳造製品の仕様情報、および前記鋳造製品を連続的に製造する単位であるキャストに関する情報を含むデータが入力されるデータ入力部と、
前記鋳造製品の仕様情報、および前記キャストに関する情報に基づいて、工程上の制約条件を満たすように前記鋳造製品の製造スケジュールを仮に決定する仮スケジュール決定部と、
前記仮に決定された製造スケジュールに含まれる第1の鋳造製品を、より製造優先度が高く、かつ前記第1の鋳造製品の鋼種を代替可能な別の鋼種の第2の鋳造製品に入れ替えることによって前記製造スケジュールを修正するスケジュール修正部と
を備える製造スケジュール決定装置。
【請求項2】
前記鋼種は、少なくとも前記鋳造製品の成分組成の許容範囲を規定する情報である、請求項1に記載の製造スケジュール決定装置。
【請求項3】
前記スケジュール修正部は、前記キャスト内の前記第2の鋳造製品の数または重量が所定の上限値に到達するまで前記鋳造製品の入れ替えを実行する、請求項1または請求項2に記載の製造スケジュール決定装置。
【請求項4】
前記所定の上限値は、前記キャスト内の前記第2の鋳造製品の数もしくは重量、または前記キャスト内の全鋳造製品に対する前記第2の鋳造製品の数もしくは重量の割合について設定される、請求項3に記載の製造スケジュール決定装置。
【請求項5】
前記スケジュール修正部は、前記第1の鋳造製品を前記第2の鋳造製品に入れ替えることによる前記第2の鋳造製品の製造コストの増加量が閾値を下回る場合にのみ前記入れ替えを実行する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の製造スケジュール決定装置。
【請求項6】
前記鋳造製品の仕様情報は、前記鋳造製品の次工程の通過期限、または前記鋳造製品の至急度を含み、
前記製造優先度は、前記通過期限の前後関係、または前記至急度の大小関係に基づいて判定される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の製造スケジュール決定装置。
【請求項7】
前記キャストは、第1の鋼種に対応する第1のキャストと、前記第1の鋼種とは異なる第2の鋼種に対応する第2のキャストとを含み、
前記仮スケジュール決定部は、前記第1のキャストおよび前記第2のキャストを連続して鋳造するための前記製造スケジュールを一括して仮に決定する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の製造スケジュール決定装置。
【請求項8】
鋳造製品を製造する連続鋳造工程における製造スケジュール決定方法であって、
鋼種を含む前記鋳造製品の仕様情報、および前記鋳造製品を連続的に製造する単位であるキャストに関する情報を含むデータが入力されるデータ入力ステップと、
前記鋳造製品の仕様情報、および前記キャストに関する情報に基づいて、工程上の制約条件を満たすように前記鋳造製品の製造スケジュールを仮に決定する仮スケジュール決定ステップと、
前記仮に決定された製造スケジュールに含まれる第1の鋳造製品を、より製造優先度が高く、かつ前記第1の鋳造製品の鋼種を代替可能な別の鋼種の第2の鋳造製品に入れ替えることによって前記製造スケジュールを修正するスケジュール修正ステップと
を含む製造スケジュール決定方法。
【請求項9】
鋳造製品を製造する連続鋳造工程における製造スケジュールを決定するためのプログラムであって、
鋼種を含む前記鋳造製品の仕様情報、および前記鋳造製品を連続的に製造する単位であるキャストに関する情報を含むデータが入力されるデータ入力部と、
前記鋳造製品の仕様情報、および前記キャストに関する情報に基づいて、工程上の制約条件を満たすように前記鋳造製品の製造スケジュールを仮に決定する仮スケジュール決定部と、
前記仮に決定された製造スケジュールに含まれる第1の鋳造製品を、より製造優先度が高く、かつ前記第1の鋳造製品の鋼種を代替可能な別の鋼種の第2の鋳造製品に入れ替えることによって前記製造スケジュールを修正するスケジュール修正部と
としてコンピュータを動作させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造スケジュール決定装置、製造スケジュール決定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の製造工程では、高炉で製造された銑鉄を転炉に輸送し、転炉で鍋(チャージ)単位に成分調整がなされた後、タンディッシュに流し込まれた溶鋼を連続的に冷却および切断し、スラブ、ブルーム、またはビレットなどと呼ばれる鋳造製品を製造する。この時、連続的に冷却、切断を行う工程を連続鋳造工程と呼び、鋳造製品を連続的に製造する単位をキャストと呼び、予め決定された鋳造製品のサイズ、品質および納期などに基づいて鋳造順序(製造スケジュール)を決定する作業をキャスト編成と呼ぶ。
【0003】
ここで、転炉で鍋(チャージ)単位に溶鋼の成分調整をする際の成分組成の目標値は、鋳造製品ごとに規定される鋼種に従って決定される。鋼種ごとに許容される成分組成範囲は異なり、例えば上位鋼種では許容される成分組成範囲が狭く、下位鋼種では許容される成分組成範囲が広い。また、上位・下位の関係にある鋼種以外にも、成分組成範囲が近しい鋼種もあるため、ある最終製品の注文仕様を満たす鋳造製品について複数の鋼種で製造が可能であることが多い。つまり、鋳造製品には、製造面で最適な「本来の鋼種」以外にも、当該鋳造製品を製造することが可能な複数の鋳造可能鋼種が存在することが多い。この点に関して、キャスト編成を考慮した場合、同じ鋼種の鋳造製品だけでキャストを編成できればよいが、鋳造製品ごとに規定される鋼種は数百種類に及び、全体では千種類を超える場合もあるため、現実的ではない。そこで、「本来の鋼種」以外の鋳造可能鋼種で製造を行う、流用や抱き合わせと呼ばれる手法が知られている。鋳造製品の注文仕様は鋼種そのものを指定するのではなく成分組成範囲を指定するものであるため、「本来の鋼種」以外の鋳造可能鋼種で製造した場合であっても、注文仕様は満たされ製品として問題は生じない。このような上位規格への集約や代替の鋳造可能鋼種でキャストの集約度を高める(ロットサイズを大きくする)ことにより、個々の製品の平均的な製造コストが下げられる可能性がある。特許文献1には、このような手法によって、キャストの集約度を高めてより効率よく製品を製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-140420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単純に代替可能な鋼種を同一キャストにまとめるように製造スケジュールを決定した場合、下位規格の鋼種が上位規格の鋼種のキャストに組み込まれる一方でその逆は発生しないため、上位規格の鋼種のキャストばかりが増えてしまう可能性がある。上位規格の鋼種は、例えば許容される成分組成範囲が狭いことによって製造コストが高いため、単純に代替可能な鋼種を同一キャストにまとめるとキャストは集約されるが製造コストが上がってしまう可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、鋼種間の代替を考慮してキャストを集約しつつ、鋼種の代替による製造コストの上昇を抑制し、より適切な製造スケジュールを決定することが可能な製造スケジュール決定装置、製造スケジュール決定方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある観点によれば、鋳造製品を製造する連続鋳造工程における製造スケジュール決定装置であって、鋼種を含む鋳造製品の仕様情報、および鋳造製品を連続的に製造する単位であるキャストに関する情報を含むデータが入力されるデータ入力部、鋳造製品の仕様情報、キャストに関する情報、および工程上の制約条件に基づいて鋳造製品の製造スケジュールを仮に決定する仮スケジュール決定部、および仮に決定された製造スケジュールに含まれる第1の鋳造製品を、より製造優先度が高く、かつ第1の鋳造製品の鋼種を代替可能な別の鋼種の第2の鋳造製品に入れ替えることによって製造スケジュールを修正するスケジュール修正部を備える製造スケジュール決定装置が提供される。
【0008】
本発明の別の観点によれば、鋳造製品を製造する連続鋳造工程における製造スケジュール決定方法であって、鋼種を含む鋳造製品の仕様情報、および鋳造製品を連続的に製造する単位であるキャストに関する情報を含むデータが入力されるデータ入力ステップ、鋳造製品の仕様情報、キャストに関する情報、および工程上の制約条件に基づいて鋳造製品の製造スケジュールを仮に決定する仮スケジュール決定ステップ、および仮に決定された製造スケジュールに含まれる第1の鋳造製品を、より製造優先度が高く、かつ第1の鋳造製品の鋼種を代替可能な別の鋼種の第2の鋳造製品に入れ替えることによって製造スケジュールを修正するスケジュール修正ステップを含む製造スケジュール決定方法が提供される。
【0009】
本発明のさらに別の観点によれば、鋳造製品を製造する連続鋳造工程における製造スケジュールを決定するためのプログラムであって、鋼種を含む鋳造製品の仕様情報、および鋳造製品を連続的に製造する単位であるキャストに関する情報を含むデータが入力されるデータ入力部、鋳造製品の仕様情報、キャストに関する情報、および工程上の制約条件に基づいて鋳造製品の製造スケジュールを仮に決定する仮スケジュール決定部、および仮に決定された製造スケジュールに含まれる第1の鋳造製品を、より製造優先度が高く、かつ第1の鋳造製品の鋼種を代替可能な別の鋼種の第2の鋳造製品に入れ替えることによって製造スケジュールを修正するスケジュール修正部としてコンピュータを動作させるためのプログラムが提供される。
【0010】
上記の構成によれば、製造スケジュールが仮に決定された後のスケジュール修正段階で考慮することによって、鋼種間の代替を考慮してキャストを集約しつつ、鋼種の代替による製造コストの上昇を抑制し、より適切な製造スケジュールを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】連続鋳造工程における製造スケジュールを概念的に示す図である。
図2図1に示された製造スケジュールに従ってストランドにスラブを割り当てた結果を概念的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る製造スケジュール決定装置の概略的な構成を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る製造スケジュール決定方法の概略的な工程を示すフローチャートである。
図5図4の例において用いられるスラブ情報ファイルの一例を示す図である。
図6】鋼種間の代替関係について説明するための図である。
図7】鋼種の代替によって発生する可能性がある事態の例を示す図である。
図8図4の例において用いられる同鋼種キャスト情報ファイルの一例を示す図である。
図9図4の例においてキャストの形状を決定する処理の例を示すフローチャートである。
図10図9の例における候補集合抽出処理について概念的に説明するための図である。
図11図9の例における候補集合抽出処理について概念的に説明するための図である。
図12図9の例におけるネットワーク生成処理および最適解算出処理について概念的に説明するための図である。
図13図9の例におけるネットワーク生成処理および最適解算出処理について概念的に説明するための図である。
図14図4の例における鋼種代替判定の処理の例を示す図である。
図15】製造スケジュールの決定における逐次処理と一括処理の違いについて説明するための図である。
図16】製造スケジュールの決定における逐次処理と一括処理の違いについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
図1は、連続鋳造工程における製造スケジュールを概念的に示す図である。図1に示された例では、連続鋳造工程において溶鋼から製造される鋳造製品であるスラブ集合1A,1B,1Cの製造スケジュールが決定される。ここで、溶鋼は取鍋と呼ばれる容器に注入され二次精錬工程などを経た後に連続鋳造工程へ搬送される。この取鍋一杯分の溶鋼をチャージと呼ぶ。図示された例において、同鋼種キャスト11Aは、同一成分組成のチャージ10A1、10A2の2チャージから構成され、同様に、同鋼種キャスト11Bは、10B1,10B2,10B3の3チャージから、同鋼種キャスト11Cは、10C1,10C2の2チャージから構成される。
【0014】
ここで、本実施形態の連続鋳造工程は、各同鋼種キャスト11A,11B,11Cの成分組成が相互に異なる異鋼種連々鋳である。つまり、連続鋳造機においてタンディッシュ交換から次のタンディッシュ交換までの間に連続的に鋳造される全キャスト12に含まれる複数の同鋼種キャスト11A,11B,11Cの間では成分組成が異なる。本実施形態では、それぞれ溶鋼の成分組成が同一の同鋼種キャスト11A,11B,11Cのそれぞれの中で、スラブ集合1A,1B,1Cの製造スケジュールを決定する。本実施形態において、同鋼種キャスト11A,11B,11Cは、スラブを連続的に製造する単位を構成する。
【0015】
図2は、図1に示された製造スケジュールに従ってストランドにスラブを割り当てた結果を概念的に示す図である。連続鋳造装置は、1つのタンディッシュに対して、1または複数のストランドを含む。ストランドは、タンディッシュから溶鋼が流し込まれる鋳型と、鋳型から引き出された鋳片を搬送しながら成型する一連の成型ロールとを含む。図示された例では、連続鋳造装置はストランドAおよびストランドBから構成されている。それぞれのチャージ10は、破線で示すように2つのストランドA、Bの両方に供給され、それぞれのストランドA、Bで別々にスラブ1が鋳造される。従って、図示された例では、それぞれのストランドA、Bで別々に扱われる同鋼種キャスト11(同鋼種キャスト11A,11B,・・・)ごとにスラブ1を割り当てて製造スケジュールが決定される。
【0016】
ここで、図2に示された例において、スラブ1の幅および長さはそれぞれ異なる。スラブ1の幅は、それぞれのストランドA、Bにおいて鋳型の幅を調節することによって変更することができる。なお、設備上の制約や品質面から、同鋼種キャスト11内では、スラブ1の幅が順次拡大または縮小するようにスラブ1が配列される。一方、スラブ1の長さは、成型ロールによる成型後のスラブを切断する位置を調節することによって変更することができる。なお、本実施形態では、同鋼種キャスト11内で異なるチャージ10の継目に位置するスラブを同鋼種継目スラブ1Pと呼び、同鋼種キャスト11同士の継目に位置するスラブを異鋼種継目スラブ1Qと呼ぶ。
【0017】
図3は、本発明の一実施形態に係る製造スケジュール決定装置の概略的な構成を示す図である。製造スケジュール決定装置100は、例えば、専用のコンピュータシステムにおいて実装されてもよいし、パーソナルコンピュータなどの汎用のコンピュータシステムにおいてアプリケーションソフトウェアとして実装されてもよい。あるいは、製造スケジュール決定装置100の各構成要素は、LAN(Local Area Network)やインターネットなどのネットワークを介して接続された複数のコンピュータに分散して実装されてもよい。製造スケジュール決定装置100は、データ入力部110、仮スケジュール決定部120、およびスケジュール修正部130を含む。これらの各部の機能は、プログラムに従って動作するプロセッサ、およびプロセッサにデータを入出力するためのインターフェースによって実現される。
【0018】
製造スケジュール決定装置100が処理に用いるスラブ情報ファイル101および同鋼種キャスト情報ファイル102は、オペレータによる操作や、定時での自動取り込み指示などによって読み込まれる。製造スケジュール決定装置100は、これらのファイルに記録された情報に基づいて実行した処理の結果を、キャスト編成結果ファイル104に記録する。また、製造スケジュール決定装置100は、仮スケジュール決定部120およびスケジュール修正部130で実行する処理において編成条件ファイル105を読み込む。これらのファイルは、例えばコンピュータに内蔵されたメモリ、またはコンピュータに接続可能なリムーバブル記録媒体に記録される。また、上記のファイルのうちのいずれか、または全部が、製造スケジュール決定装置100とは異なる情報処理装置において記憶され、LANやインターネットなどの電気通信回線を用いた通信を介して製造スケジュール決定装置100に読み込まれたり、製造スケジュール決定装置100によって書き込まれたりしてもよい。
【0019】
図4は、本発明の一実施形態に係る製造スケジュール決定方法の概略的な工程を示すフローチャートである。図4に示された処理は、例えば、製鋼工場が溶鋼を受け取る前に実行される。図示された例では、まず、データ入力ステップS110において、データ入力部110は、本実施形態における鋳造製品であるスラブの仕様情報(スラブ情報ファイル101)、および本実施形態において鋳造製品を連続的に製造する単位であるキャストに関する情報(同鋼種キャスト情報ファイル102)を含むデータを入力する。スラブ情報ファイル101は、これから出鋼されるスラブの予定情報を含む。予定情報は、(1)スラブの厚み、幅、長さ、重量の上下限値、鋼種などの製造仕様、および(2)次工程の通過希望日時や通過期限日時、鋳造を急ぐ至急指示情報などの工程情報を含む。同鋼種キャスト情報ファイル102は、それぞれの同鋼種キャストごとのチャージに関する情報を含む。この情報は、具体的には、それぞれの同鋼種キャストにおけるチャージ数および重量、製造可能な材質などを含む。
【0020】
図5は、図4の例において用いられるスラブ情報ファイルの一例を示す図である。なお、図5では説明を簡単にするため一部の項目のみを例示しているが、スラブ情報ファイル101は図示された項目に加えて製造仕様および工程情報に関するより多くの項目を含んでもよい。図5に示された例では、1つの行がスラブ1枚を表し、識別のためユニークなスラブIDが付与されている。図示された項目のうち、「スラブ幅」および「スラブ長さ」は鋳造予定のスラブの寸法を示し、「スラブ重量」は鋳造予定のスラブの重量を表す。また、「鋼種」は、スラブの成分組成の許容範囲や鋳造方法を規定する情報であり、図示された例ではコードによって表されている。「代替可能鋼種」は、本来の鋼種に規定された成分組成や鋳造方法を満足する別の鋼種を示すコードであり、当該スラブについては本来の鋼種に変えて代替可能鋼種で鋳造することも可能である。
【0021】
ここで、図6に示すように、例えば成分組成についていえば鋼種ごとの許容範囲が複数の鋼種で重複しており、従ってある鋼種(ここでは鋼種A)を別の鋼種(ここでは鋼種A1)で代替することが可能である。また、成分組成が近しい鋼種Aと鋼種Bとについて、最終製品の仕様、例えば、引張強度をいずれも満たす場合は、鋼種Aを鋼種Bで代替して製造することが可能である。ただし、成分組成の許容範囲が狭い上位規格の鋼種、あるいは、代替可能鋼種は一般に製造コストが高いため、図7に示すようにスラブが代替可能鋼種に集約されてしまうことは好ましくなく、製造コスト的には本来の鋼種で製造する方が望ましい。このような代替可能鋼種を考慮した製造スケジュールの決定については後述する。
【0022】
再び図5を参照して、スラブ情報ファイルにおいて、工程情報としては、「通過希望日時」、「通過期限日時」および「至急指示情報」が例示されている。「通過希望日時」は、次工程である熱間圧延工程の通過(例えば開始)日時であり、例えば納期や生産計画に基づいて決定される。また、「通過期限日時」は、次工程である熱間圧延工程での処理の最遅日時である。「至急指示情報」は、スラブの納期に関する情報であり、例えば次工程に進めるのを非常に急ぐスラブについては「A」、急ぐものについては「B」、といったように、鋳造の緊急度に応じたコードが設定される。
【0023】
図8は、図4の例において用いられる同鋼種キャスト情報ファイルの一例を示す図である。図8でも説明を簡単にするため一部の項目のみを例示しているが、同鋼種キャスト情報ファイル102は図示された項目に加えて他の項目を含んでもよい。図8に示された例では、1つの行が1つの同鋼種キャストを表しており、識別のためユニークな同鋼種キャストIDが付与されている。図示された項目のうち、「チャージ数」は、それぞれの同鋼種キャストに含まれるチャージ10の数を示す。「鋼種」は、それぞれの同鋼種キャストにおける鋼種(成分組成)であり、図5に示したスラブ情報ファイル101の例における「鋼種」および「代替可能鋼種」と同様のコードである。「重量下限」および「重量上限」については後述する。
【0024】
再び図4の説明に戻ると、続くステップS120からステップS140において、仮スケジュール決定部120が、スラブの仕様情報(スラブ情報ファイル101)、キャストの仕様情報(同鋼種キャスト情報ファイル102)、および連続鋳造工程における工程上の制約条件(編成条件ファイル105)に基づいて、連続鋳造工程でのスラブの製造スケジュールを仮に決定する。
【0025】
まず、キャスト形状仮決定ステップS120において、仮スケジュール決定部120は、以下で説明するようなネットワークにおける最短経路の探索の手法を用いて、製造スケジュール、具体的にはキャストの形状の最適解を算出する。上記で図2を参照して説明したように、連続鋳造装置においては、スラブの幅を変更することが可能であるが、設備上の制約や品質面から、仮スケジュール決定部120は、同鋼種キャスト内でスラブの幅が順次拡大または順次縮小するようにスラブを配列する。このようにして同鋼種キャスト内で配列されたスラブの形状を、以下ではキャストの形状ともいう。
【0026】
図9は、図4の例においてキャストの形状を決定する処理の例を示すフローチャートである。まず、仮スケジュール決定部120は、候補集合抽出ステップS121において、同鋼種キャストで製造することが可能なスラブの情報をスラブ情報ファイル101から抽出する。抽出する際は、あらかじめ設定されている同鋼種キャスト枠の鋼種と同一の鋼種を持つスラブを抽出する。ここで抽出されたスラブを、以下では候補スラブと称する。これらの候補スラブの中から、合計が所定の同鋼種キャストの重量に近くなるようにスラブの集合を抽出する(以下では「候補集合抽出処理」と称する)。ここで、同鋼種キャストの重量は、例えば上記で図8を参照して説明した同鋼種キャスト情報ファイル102の「重量下限」および「重量上限」によって特定される。スラブの組み合わせは複数あるので、複数のスラブ集合が抽出される。これを候補集合とし、候補集合の抽出をすべての同鋼種キャスト分繰り返す(ステップS122:No)。
【0027】
図10および図11は、図9の例における候補集合抽出処理について概念的に説明するための図である。図10には、1つの同鋼種キャストに対応する候補集合を決定する流れが示されている。当該同鋼種キャストで製造することが可能なスラブとして抽出された候補スラブは、スラブS1~S5である。このうち、スラブS2,S4では、圧延後のコイル厚みが後工程である圧延工程における薄物規制の対象になる。薄物規制は、厚みが薄いコイルを製造するためのスラブの熱間圧延ロット内での本数制約である。この例では、薄物規制に従って1つの圧延ロット内で圧延できる本数の上限が1本であるものとする。また、図8に示した例における同鋼種キャストの「重量下限」が58t、「重量上限」が62tであるものとする。
【0028】
このような例において、仮スケジュール決定部120は、まずスラブ重量の合計が60t前後になる候補集合を全列挙する。図示されているように、スラブ重量の合計が60t前後になる候補集合は10パターンあるが、スラブ重量の合計が58t~62tの範囲に収まるものは6パターンである(収まらないパターンを「重量NG」として示す)。この中から、薄物規制に適合しない(スラブS2,S4の両方を含む。「本数NG」として示す)2パターンを除外すると、4パターンの候補集合が抽出される。
【0029】
なお、実際は、上記のような候補集合の抽出において候補集合を全列挙すると数が膨大になる(例えば、50本の候補スラブから15本のスラブを含む候補集合を全列挙すると、5015≒2.3×1012パターンになる)ため、何らかのルールによって絞り込んで、つまり条件付きで列挙する必要がある。具体的には、例えば、図5の例に示したスラブ情報ファイル101において「至急指示情報」に「A」や「B」が設定されたスラブを多く含む候補集合のみを列挙してもよい。このとき、仮スケジュール決定部120は、スラブの納期が短いスラブを優先的に製造スケジュールに割り当てている。図11では、スラブS1の「至急指示情報」に「A」が設定されている場合の候補集合の列挙の例が示されている。この場合、至急材(スラブS1)を含まない候補集合を抽出すると後述する評価指標が低くなるため、スラブS1を必ず含む候補集合のみを列挙することで、全列挙の場合の10パターンを6パターンまで絞り込むことができる。
【0030】
再び図9の説明に戻ると、候補集合抽出ステップS121およびステップS122の繰り返しによってすべての同鋼種キャストについて候補集合が抽出されると(ステップS122:Yes)、仮スケジュール決定部120は、ネットワーク生成ステップS123において、それぞれの同鋼種キャストの候補集合から1つのスラブ集合を決定するためのネットワークを生成する(以下では「ネットワーク生成処理」と称する)。次に、仮スケジュール決定部120は、最適解算出ステップS124において、ネットワークにおける最短経路の探索を用いてそれぞれの同鋼種キャストにおける候補集合の最適解(1つのスラブ集合)を算出する(以下では「最適解算出処理」と称する)。
【0031】
図12および図13は、図10の例におけるネットワーク生成処理および最適解算出処理について概念的に説明するための図である。図12に例示されたネットワークにおいて、ノードa1,a2,・・・,aN(第1のノード)のそれぞれは、同鋼種キャスト11A(第1の同鋼種キャスト)について抽出された候補集合、すなわち同鋼種キャスト11A内で製造スケジュールに割り当てることが可能なスラブの組み合わせを示す。同様に、ノードb1,b2,・・・bM(第2のノード)のそれぞれは、同鋼種キャスト11B(第2の同鋼種キャスト)について抽出された候補集合、すなわち同鋼種キャスト11B内で製造スケジュールに割り当てることが可能なスラブの組み合わせを示す。ノードc1,c2,・・・,cL(第3のノード)のそれぞれは、同鋼種キャスト11C(第3の同鋼種キャスト)について抽出された候補集合、すなわち同鋼種キャスト11C内で製造スケジュールに割り当てることが可能なスラブの組み合わせを示す。ネットワークのエッジは、ノードa1,a2,・・・,aNのそれぞれとノードb1,b2,・・・bMのそれぞれとを接続し、またノードb1,b2,・・・bMのそれぞれとノードc1,c2,・・・,cLのそれぞれとを接続する。
【0032】
上記のようなネットワークにおけるノード間の距離d(エッジの長さ)は、例えば図13に示すように、エッジの両側のノードに対応する候補集合における至急材(上記のように、例えば「至急指示情報」に「A」や「B」が設定されたスラブ)の比率や、幅差、すなわちエッジの両側のノードに対応する候補集合におけるスラブ幅の最小値同士の差および最大値同士の差、ならびに余剰率、すなわちエッジの両側のノードに対応する候補集合に含まれる余剰重量(同鋼種キャスト内の全チャージの溶鋼重量と、候補集合に含まれるスラブ重量の合計との差分)の比率などの評価指標に基づいて決定される。図示された例においてこれらの評価指標に乗じる重みw1~w3は、例えば、至急材の比率が高い場合、幅差が小さい場合、および余剰率が低い場合に、それぞれ距離dが小さくなるように設定される。次に、生成したネットワークにおいて最短経路を求める。図13を参照して説明したように、本実施形態ではノード間の距離d(エッジの長さ)が評価指標に基づいて決定されるため、上記のネットワークにおける最短経路を求めることは、それぞれの同鋼種キャストにおける候補集合の中から最も妥当なものを選ぶことと等価である。
【0033】
再び図4を参照して、組込ユニット改善ステップS130では、仮スケジュール決定部120が、候補集合抽出処理において全列挙ではなく部分列挙をしたために十分に最適な候補集合を抽出できていない可能性を考慮して製造スケジュールを調整する。具体的には、仮スケジュール決定部120は、キャスト形状仮決定ステップS120で選定された候補集合のスラブと、候補スラブ(図10の例ではスラブS1~S5)のうち候補集合に組み込まれなかったスラブとを逐次比較し、評価指標が改善する場合に、候補集合のスラブを候補集合に組み込まれなかったスラブと入れ替える。なお、キャスト形状仮決定ステップS120において既に候補集合のスラブが選定されているため、上記のような調整のための演算量は、候補集合を選定するための演算量に比べて多くない(例えば、50本の候補スラブから15本のスラブを含む候補集合を選定した場合、残り35本のスラブとの入れ替えのために評価指標を比較する回数は15×35=525回)。
【0034】
次の制約違反解消ステップS140では、仮スケジュール決定部120が、連続鋳造工程における工程上の制約条件に基づいて、製造スケジュールをさらに調整する。キャスト形状仮決定ステップS120では、連続鋳造における制約条件が必ずしもすべて反映されるわけではない。例えば、候補集合抽出処理や最適解算出処理においては、評価指標を元に選択を行っており、図1に示された全キャスト12の先頭や末尾に配置されるスラブの条件や、図2に示された同鋼種継目スラブ1Pおよび異鋼種継目スラブ1Qの条件に合致するものが含まれるように制約を課していない。決定されたキャストの形状において連続するスラブの幅のギャップについての制約条件(鋳型の幅を円滑に変更できる範囲か否か)についても、小さくなるような評価指標で選択を行っており、このような条件下では、一般に、制約が満たされている可能性は低い。そこで、制約違反解消ステップS140では、仮スケジュール決定部120が、全キャスト12の先頭から末尾まで配置されているそれぞれのスラブ、および連続するスラブ同士の間で長さや重量を計算し、上記のような制約条件を満たしているか否かを判定する。制約条件に違反している場合は、組込ユニット改善ステップS130と同様に、選定された候補集合に組み込まれなかったスラブとの入れ替えを試みる。入れ替え可能なスラブが存在しない場合、適当な余剰スラブをキャストに挿入することで制約条件が満たされるようにする(例えば、連続するスラブの間で幅のギャップが大きすぎる場合、前後のスラブの中間の幅のスラブを挿入する)。
【0035】
上記のステップS140までの仮スケジュール決定部120の処理によって、スラブの仕様情報およびキャストに関する情報を反映し、さらに連続鋳造工程における工程上の制約条件を満たし、実際に鋳造を実行することが可能な製造スケジュールが仮に決定される。続くステップS150およびステップS160では、スケジュール修正部130が、仮に決定された製造スケジュールの修正を試みることによって、例えば納期面やコスト面から製造スケジュールをさらに最適化する。なお、上記のように仮に決定された製造スケジュールで実際に鋳造を実行することが可能であることから、スケジュール修正部130は例えばステップS150を省略してステップS160を実行してもよい。また、スケジュール修正部130は、先にステップS160を実行した後に、余剰スラブを対象としてステップS150を実行してもよい。
【0036】
余剰スラブ最小化ステップS150では、スケジュール修正部130が、余剰スラブの重量を最小化する観点から、製造スケジュールの修正を試みる。上記の制約違反解消ステップS140でキャストに挿入される余剰スラブは、本来、不要なスラブであるため、重量が小さいほうがよい。そこで、余剰スラブの前後のスラブとの接続性などを検証し、制約違反解消ステップS140で考慮した制約条件に再び抵触しない範囲で余剰スラブの重量を小さくすることを試みる。
【0037】
一方、鋼種代替判定ステップS160では、スケジュール修正部130が、スラブの鋼種間の代替可能性を考慮して製造スケジュールの修正を試みる。具体的には、図14に示されるように、スケジュール修正部130は、仮に決定された製造スケジュールに含まれるスラブ1Xを、より製造優先度が高く、かつスラブ1Xの鋼種を代替可能な別の鋼種のスラブ1Yに入れ替えることを試みる。なお、鋼種代替判定ステップS160でも、スラブの入れ替えにあたっては制約違反解消ステップS140までで考慮された幅差などの工程上の制約条件を満たすことが条件とされる。
【0038】
製造優先度は、例えばスラブの次工程の通過期限、またはスラブの至急度に基づいて決定されてもよい。本実施形態の場合、次工程の通過期限は、例えば図5の例に示されたスラブ情報ファイル101の項目のうち「通過希望日時」および「通過期限日時」によって示される。スケジュール修正部130は、例えば通過期限の前後関係に基づいて製造優先度を判定してもよい。また、至急度は、図5の例では「至急指示情報」によって示される。スケジュール修正部130は、例えば「至急指示情報」のコードによって示される至急度の大小関係に基づいて製造優先度を判定してもよい。また、スラブ1Xの鋼種を代替可能な鋼種は、図5の例では「代替可能鋼種」によって示されている。
【0039】
なお、制約違反解消ステップS140でキャストに挿入される余剰スラブは、本来製造する必要のないスラブであるため、例えばスラブ情報ファイル101に存在せず、次工程の通過期限や至急度は設定されていない。このような場合において、スケジュール修正部130は、スラブの製造優先度が最も低いと判定してもよい。あるいは、スケジュール修正部130は、余剰スラブについて優先的に、代替可能な別の鋼種のスラブに入れ替えることを試みてもよい。
【0040】
ここで、鋼種代替判定ステップS160において、スケジュール修正部130は、代替鋼種を考慮したスラブの入れ替えを、キャスト内で入れ替えられたスラブ(図14に示されたスラブ1Y)の数または重量が所定の上限値に到達するまで実行してもよい。所定の上限値は、例えばキャスト内で入れ替えられたスラブの数もしくは重量、または入れ替えられたスラブの数もしくは重量のキャスト内の全スラブに対する割合について設定されてもよい。スラブの本来の鋼種は、通常は注文仕様を満たす範囲で最も製造コストが低くなるように決定されているため、製造優先度が高くても制限なく代替鋼種での鋳造を行うと全体として製造コストが上昇する可能性がある。従って、上記のような上限値を設定することは、キャスト集約度を高めたことによる製造コストの低下と、代替鋼種での製造による製造コストの上昇のトレードオフを制御し、全体の製造コストの上昇を抑制するために有用である。なお、上限値に到達しなくても、入れ替え可能なスラブがなくなった場合にはスケジュールの修正は終了する。
【0041】
また、スケジュール修正部130は、スラブ1Xをスラブ1Yに入れ替えることによるスラブ1Yの製造コストの増加量が閾値を下回る場合にのみ入れ替えを実行してもよい。これによって、例えば、代替可能だからといって安易に成分組成の許容範囲が狭く製造コストが高い上位規格の同鋼種キャストで製造するのではなく、代替可能な範疇でなるべく製造コストの増加量が低い中程度の規格のスラブを優先的に代替して鋳造する、という判断を組み込むことができる。スケジュール修正部130は、上述した製造優先度をスコア化し、製造優先度のスコアと製造コストの増加量との重み付線形和として算出される総合的なスコアを閾値と比較することによってスラブを入れ替えるか否かを判定したり、総合的なスコアの大小関係によって入れ替えるスラブの優先順位を決定したりしてもよい。
【0042】
以上のようなステップで連続鋳造工程におけるスラブの製造スケジュールを決定することによって、スラブの仕様情報、キャストの仕様情報とともに、連続鋳造工程における製造スケジュールに関する制約条件、および鋼種間の代替関係が考慮される。従って、連続鋳造工程における要求仕様や制約条件が十分に反映された製造スケジュールを決定することができる。また、鋼種間の代替関係については、実際に鋳造を実行することが可能な製造スケジュールが仮に決定された後のスケジュール修正段階で考慮することによって、鋼種間の代替を考慮してキャストを集約しつつ、鋼種の代替による製造コストの上昇を抑制し、より適切な製造スケジュールを決定することができる。
【0043】
図15および図16は、製造スケジュールの決定における逐次処理と一括処理との違いについて説明するための図である。図15には、例えば特許第5928521号に記載されたようにキャスト(上記の実施形態における同鋼種キャスト)ごとにキャスト形状を逐次決定する例が示されている。この場合、まず鋼種Aのキャスト形状を決定する処理が実行され、例えば2つのストランドにそれぞれスラブを割り当てた場合の幅移行回数に基づいてキャスト形状が選択される。図示された例では、幅移行回数が4回のキャスト形状と幅移行回数が2回のキャスト形状とが候補として抽出され、幅移行回数がより少ない2回のキャスト形状が選択されている。次に、鋼種Bのキャスト形状を決定する処理が実行されるが、図示されているように、鋼種Bで鋳造されるスラブは幅の狭いものしかないため、鋼種Aのキャストで幅の広いスラブを集約したストランドAには幅移行量の制約のために接続することができず、鋼種BのキャストではでストランドAに割り当てられるスラブがないという事態が発生する。
【0044】
一方、図16には、上記の本発明の一実施形態のように鋼種Aに対応するキャストと鋼種Bに対応するキャストとを連続して鋳造するためのスケジュールを一括して決定する例が示されている。この場合、鋼種Aのキャスト形状と、鋼種Bのキャスト形状とが同時に決定される。図示された例では、鋼種Aのキャストにおける幅移行回数が4回、鋼種Bのキャストにおける幅移行回数が4回のキャスト形状と、鋼種Aのキャストにおける幅移行回数が2回、鋼種Bのキャストにおける幅移行回数が2回のキャスト形状とが候補として抽出されている。幅移行回数を基準にすれば後者のキャスト形状が選択されるが、後者の場合はストランドBにおいて幅移行量の制約のために鋼種Aのキャストと鋼種Bのキャストとが接続できないため、選択されるのは幅移行回数が多くても両方のストランドでキャストの接続が成立する前者のキャスト形状である。図16に示された例では、鋼種Aのキャスト形状を決定する際に、連続して鋳造される鋼種Bのキャスト形状、およびキャスト間の接続可能性についても考慮されるため、図15の例とは異なり両ストランドにスラブを割り当てた、実際に鋳造を実行することが可能な製造スケジュールを決定することができる。
【0045】
本発明の一実施形態では、仮スケジュール決定部120が図16の例のように複数の鋼種に対応する複数の同鋼種キャストを連続して鋳造するための製造スケジュールを一括して仮に決定し、その後にスケジュール修正部130が鋼種間の代替関係を考慮して製造スケジュールを修正する。ここで、各鋼種に対応するキャストの製造スケジュールを逐次決定する処理において鋼種間の代替関係を考慮しようとすると、例えば図15および図16に示された例において鋼種Bが鋼種Aで代替可能である場合に、本来は次の鋼種Bのキャストで鋳造することが製造コスト面で妥当なスラブが鋼種Aのキャストで鋳造されてしまう可能性があり、好ましくない。例えば、次の鋼種Bのキャストが存在する場合には鋼種Bのスラブを鋼種Aのキャストにおける代替鋼種での鋳造対象から除外するなどの制約条件を設定することによって上記のような事態を回避することは可能であるが、本実施形態では複数の鋼種に対応する複数のキャストを連続して鋳造するための製造スケジュールを一括して仮に決定することによって、そのような制約条件を設定しなくても上記のような事態を回避することができる。
【0046】
なお、上記で説明された実施形態では鋳造製品の例としてスラブの製造スケジュールを決定する例について説明したが、例えばブルームやビレットなどの他の鋳造製品についても同様に製造スケジュールを決定することが可能である。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0048】
1…スラブ、10…チャージ、11…同鋼種キャスト、12…全キャスト、100…製造スケジュール決定装置、101…スラブ情報ファイル、102…同鋼種キャスト情報ファイル、104…キャスト編成結果ファイル、105…編成条件ファイル、110…データ入力部、120…仮スケジュール決定部、130…スケジュール修正部。
図1
図2
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図5
図6
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図10
図11
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