(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】搬送先決定装置、予測モデル構築装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20231012BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20231012BHJP
G06Q 10/08 20230101ALI20231012BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20231012BHJP
B65G 1/137 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
G06Q50/04
G06Q10/04
G06Q10/08
G05B19/418 Z
B65G1/137 A
(21)【出願番号】P 2020002826
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】川上 孝介
(72)【発明者】
【氏名】森田 彰
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】西尾 健太
(72)【発明者】
【氏名】阿多利 いずみ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 邦春
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-159230(JP,A)
【文献】特開2017-120561(JP,A)
【文献】特開2004-086291(JP,A)
【文献】特開2017-068788(JP,A)
【文献】特開2015-193479(JP,A)
【文献】特開2019-174865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G05B 19/418
B65G 1/137
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の置き場のうちいずれかの置き場に製品を搬送して在庫として保管するときの搬送先とする置き場を決定する搬送先決定装置であって、
搬送先を決定する対象製品の情報を入力する入力手段と、
製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する、機械学習により構築された予測モデルを用いて、前記入力手段で入力した前記対象製品の情報に基づいて、前記対象製品の消化工期を予測する消化工期予測手段と、
前記消化工期予測手段で予測した前記対象製品の消化工期に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定する搬送先決定手段とを備えたことを特徴とする搬送先決定装置。
【請求項2】
前記搬送先決定手段は、更に、消化工期に応じて製品をどの置き場に搬送すればよいかを判断するための搬送基準に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定することを特徴とする請求項1に記載の搬送先決定装置。
【請求項3】
前記入力手段は、消化工期実績を含む、過去にいずれかの置き場に搬送された実績がある製品の情報を入力し、
消化工期実績から置き場毎の製品の消化工期の合計値を求め、各置き場の合計値の割合に基づいて、前記搬送基準を決定する搬送基準決定手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の搬送先決定装置。
【請求項4】
前記入力手段は、置き場の情報を入力し、
前記入力手段で入力した前記対象製品の情報、及び前記置き場の情報に基づいて、前記対象製品が置き場に搬送可能であるか否かを判定する搬送可否判定手段を備え、
前記搬送先決定手段は、更に、前記搬送可否判定手段で判定した前記対象製品の搬送可否の結果に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の搬送先決定装置。
【請求項5】
消化工期実績を含む、過去にいずれかの置き場に搬送された実績がある製品の情報を入力する入力手段と、
前記入力手段で入力した前記製品の情報に基づいて、製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する予測モデルを機械学習により構築する予測モデル構築手段とを備えたことを特徴とする予測モデル構築装置。
【請求項6】
複数の置き場のうちいずれかの置き場に製品を搬送して在庫として保管するときの搬送先とする置き場を決定する搬送先決定方法であって、
搬送先を決定する対象製品の情報を入力する入力ステップと、
製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する、機械学習により構築された予測モデルを用いて、前記入力ステップで入力した前記対象製品の情報に基づいて、前記対象製品の消化工期を予測する消化工期予測ステップと、
前記消化工期予測ステップで予測した前記対象製品の消化工期に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定する搬送先決定ステップとを
コンピュータにより実行させる搬送先決定方法。
【請求項7】
消化工期実績を含む、過去にいずれかの置き場に搬送された実績がある製品の情報を入力する入力ステップと、
前記入力ステップで入力した前記製品の情報に基づいて、製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する予測モデルを機械学習により構築する予測モデル構築ステップとを
コンピュータにより実行させる予測モデル構築方法。
【請求項8】
複数の置き場のうちいずれかの置き場に製品を搬送して在庫として保管するときの搬送先とする置き場を決定するためのプログラムであって、
搬送先を決定する対象製品の情報を入力する入力手段と、
製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する、機械学習により構築された予測モデルを用いて、前記入力手段で入力した前記対象製品の情報に基づいて、前記対象製品の消化工期を予測する消化工期予測手段と、
前記消化工期予測手段で予測した前記対象製品の消化工期に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定する搬送先決定手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項9】
消化工期実績を含む、過去にいずれかの置き場に搬送された実績がある製品の情報を入力する入力手段と、
前記入力手段で入力した前記製品の情報に基づいて、製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する予測モデルを機械学習により構築する予測モデル構築手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送先決定装置、予測モデル構築装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
多段の工程を経て最終製品を製造する製造工場では、上工程と下工程の間で中間製品を置き場に保管することがある。中間製品には、材質・品質や形状等、客先に要求されるスペックを規定する注文情報が紐付けられており、この注文情報に基づいて中間製品に加工が施される。しかしながら、例えば中間製品の加工途中に設備トラブルによって当該中間製品に品質劣化が生じ、当該中間製品が現在紐付けられている注文情報のスペックを満たせなくなる場合がある。このような場合、当該中間製品と注文情報の紐付けをいったん解消し、当該中間製品を置き場に搬送して在庫として保管することになる。
【0003】
中間製品の搬送先となる置き場が複数存在し、各置き場の搬送コスト(各置き場に搬送するための一中間製品あたりの費用)が異なる場合がある。例えば
図8に示すように、鉄鋼業における製造工程において、上工程である製鋼工程で製造された中間製品であるスラブを下工程である熱延工程に搬送するまでに、一時的に3つの置き場(置き場A、置き場B、置き場C)に保管する。
図8の例で、置き場Aや置き場Bは、上工程からの受け入れ位置及び下工程への払い出し位置に対して近くに位置する。一方、置き場Cは、上工程からの受け入れ位置及び下工程への払い出し位置に対して遠方に位置し、車両での搬送が必要となるため、置き場Aや置き場Bと比べて搬送コストが高い。このように置き場によって搬送コストが異なるため、できる限り搬送コストが安い置き場への中間製品の搬送回数を増やして、搬送費用を抑えることが求められている。
【0004】
製品を置き場に搬送するのに利用される技術として、特許文献1には、予想品目ピッキング・レートに従う在庫配置のための方法及びシステムであって、在庫品目のそれぞれについて、予想ピッキング・レートをそれぞれ求め、予想ピッキング・レートに応じて、各品目について、在庫貯蔵エリアのいくつかのゾーンのうちの対応するゾーンを選択する技術が開示されている。
また、特許文献2には、倉庫内の在庫レイアウト方法およびその在庫レイアウト装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-502535号公報
【文献】特開2001-335122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
注文情報との紐付けが切れた中間製品を置き場に搬送する場合に、搬送費用を抑えるには、中間製品の注文情報との紐付付きやすさ、すなわち中間製品と注文情報の紐付きが切れてから当該中間製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期に応じて搬送先を決定することが望ましい。例えば搬送コストが安い置き場と、搬送コストが高い置き場の二種類を考えたとき、搬送コストが安い置き場に消化工期が短い中間製品を搬送し、搬送コストが高い置き場に消化工期が長い中間製品を搬送するようにすれば、搬送費用を抑えることができる。
【0007】
特許文献1に開示されている手法は、ピッキング・レートに応じて在庫置き場を決定するものであり、消化工期に着目して置き場を決定するものではない。また、小ロット、多品種生産では、過去の履歴データが少ないため、ピッキング・レートを高精度に計算できず、製品の搬送先を決定することが難しい課題がある。
また、特許文献2に開示されている手法は、需要予測手法を用いて予測した各品番の出庫数に基づいて入出庫作業負荷を算出し、入出庫作業負荷が高い品番順に品番の割付順序を決めた上で、在庫を配置エリアに割り付けるものであり、消化工期に着目して置き場を決定するものではない。また、小ロット、多品種生産では、同じ品番の出庫数の統計が十分に存在しないため、製品の搬送先を決定することが難しい課題がある。
【0008】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、搬送費用を抑えることがより確実にできるように、消化工期に着目して製品の搬送先を決定する搬送先決定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 複数の置き場のうちいずれかの置き場に製品を搬送して在庫として保管するときの搬送先とする置き場を決定する搬送先決定装置であって、
搬送先を決定する対象製品の情報を入力する入力手段と、
製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する、機械学習により構築された予測モデルを用いて、前記入力手段で入力した前記対象製品の情報に基づいて、前記対象製品の消化工期を予測する消化工期予測手段と、
前記消化工期予測手段で予測した前記対象製品の消化工期に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定する搬送先決定手段とを備えたことを特徴とする搬送先決定装置。
[2] 前記搬送先決定手段は、更に、消化工期に応じて製品をどの置き場に搬送すればよいかを判断するための搬送基準に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定することを特徴とする[1]に記載の搬送先決定装置。
[3] 前記入力手段は、消化工期実績を含む、過去にいずれかの置き場に搬送された実績がある製品の情報を入力し、
消化工期実績から置き場毎の製品の消化工期の合計値を求め、各置き場の合計値の割合に基づいて、前記搬送基準を決定する搬送基準決定手段を備えたことを特徴とする[2]に記載の搬送先決定装置。
[4] 前記入力手段は、置き場の情報を入力し、
前記入力手段で入力した前記対象製品の情報、及び前記置き場の情報に基づいて、前記対象製品が置き場に搬送可能であるか否かを判定する搬送可否判定手段を備え、
前記搬送先決定手段は、更に、前記搬送可否判定手段で判定した前記対象製品の搬送可否の結果に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定することを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の搬送先決定装置。
[5] 消化工期実績を含む、過去にいずれかの置き場に搬送された実績がある製品の情報を入力する入力手段と、
前記入力手段で入力した前記製品の情報に基づいて、製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する予測モデルを機械学習により構築する予測モデル構築手段とを備えたことを特徴とする予測モデル構築装置。
[6] 複数の置き場のうちいずれかの置き場に製品を搬送して在庫として保管するときの搬送先とする置き場を決定する搬送先決定方法であって、
搬送先を決定する対象製品の情報を入力する入力ステップと、
製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する、機械学習により構築された予測モデルを用いて、前記入力ステップで入力した前記対象製品の情報に基づいて、前記対象製品の消化工期を予測する消化工期予測ステップと、
前記消化工期予測ステップで予測した前記対象製品の消化工期に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定する搬送先決定ステップとをコンピュータにより実行させる搬送先決定方法。
[7] 消化工期実績を含む、過去にいずれかの置き場に搬送された実績がある製品の情報を入力する入力ステップと、
前記入力ステップで入力した前記製品の情報に基づいて、製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する予測モデルを機械学習により構築する予測モデル構築ステップとをコンピュータにより実行させる予測モデル構築方法。
[8] 複数の置き場のうちいずれかの置き場に製品を搬送して在庫として保管するときの搬送先とする置き場を決定するためのプログラムであって、
搬送先を決定する対象製品の情報を入力する入力手段と、
製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する機械学習により構築された予測モデルを用いて、前記入力手段で入力した前記対象製品の情報に基づいて、前記対象製品の消化工期を予測する消化工期予測手段と、
前記消化工期予測手段で予測した前記対象製品の消化工期に基づいて、前記対象製品の搬送先を決定する搬送先決定手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
[9] 消化工期実績を含む、過去にいずれかの置き場に搬送された実績がある製品の情報を入力する入力手段と、
前記入力手段で入力した前記製品の情報に基づいて、製品と注文情報の紐付きが切れてから当該製品に後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である消化工期を予測する予測モデルを機械学習により構築する予測モデル構築手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、消化工期に着目して製品の搬送先を決定するため、搬送費用をより確実に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るスラブの搬送先決定システムの機能構成を示す図である。
【
図2】実施形態において予測モデル構築装置が消化工期予測モデルを構築する処理を示すフローチャートである。
【
図3】ランダムフォレストによる予測結果と消化工期実績の関係を示す特性図である。
【
図4】ランダムフォレストによる予測結果と消化工期実績の関係を示す特性図である。
【
図5】実施形態において搬送先決定装置がスラブの搬送先を決定する処理を示すフローチャートである。
【
図6】横軸を消化工期、縦軸を延べ日数の割合とする特性図である。
【
図7A】各置き場における本手法の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
本実施形態では、鉄鋼業における製造工程において、上工程である製鋼工程で製造された中間製品であるスラブを下工程である熱延工程に搬送する場合に、注文情報との紐付けが切れて余材となったスラブ(以下、単にスラブと呼ぶ)の搬送先を決定するプロセスに本発明を適用する例を説明する。本実施形態では、
図8に示すように、上工程と下工程との間に3つの置き場(置き場A、置き場B、置き場C)がある例を説明する。
【0013】
本発明者は、搬送費用をより確実に抑えるためには、消化工期に応じてスラブの搬送先とする置き場を決定すればよいと考えた。消化工期とは、スラブと注文情報の紐付きが切れてから当該スラブに後続の注文情報が紐付けられるまでの期間である。スラブに注文情報が紐付けられると、基本的にはその後すぐに下工程である熱延工程へと送られるので、消化工期は熱延投入までの期間を表すといえる。消化工期が短いスラブを、搬送コストが安い置き場にできる限り搬送し、消化工期が長いスラブを、搬送コストが高い置き場に搬送するようにすれば、搬送コストが安い置き場への搬送回数を増やし、搬送コストが高い置き場への搬送回数を減らすことができる。
【0014】
図1に、実施形態に係るスラブの搬送先決定システムの機能構成を示す。
スラブの搬送先決定システムは、予測モデル構築装置100と、搬送先決定装置200とを含んで構成される。予測モデル構築装置100は、スラブの消化工期を予測する予測モデル(以下、消化工期予測モデルと呼ぶ)を構築する。搬送先決定装置200は、予測モデル構築装置100で構築された消化工期予測モデルを利用して、複数の置き場のうちいずれかの置き場にスラブを搬送して在庫として保管するときの搬送先とする置き場を決定する。
【0015】
予測モデル構築装置100は、入力部101と、データ前処理部102と、予測モデル構築部103と、出力部104とを備える。
入力部101は、データベース400から、消化工期予測モデルを構築する上で必要な学習データとして、過去にいずれかの置き場に搬送された実績があるスラブの情報(以下、搬送実績情報と呼ぶ)を入力する。
データ前処理部102は、入力部101で入力した搬送実績情報に対して、消化工期予測モデルを構築するための前処理を行う。
予測モデル構築部103は、データ前処理部102で処理したデータに基づいて、機械学習により消化工期予測モデルを構築する。
出力部104は、予測モデル構築部103で構築した消化工期予測モデルをデータベース400に出力し、データベース400に記憶する。
【0016】
このようにした予測モデル構築装置100は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により構成され、CPUが例えばROMに格納されているプログラムを読み出し、このプログラムを実行することにより各部101~104の機能が実現される。
【0017】
搬送先決定装置200は、入力部201と、搬送基準決定部202と、搬送可否判定部203と、消化工期予測部204と、搬送先決定部205と、出力部206とを備える。
入力部201は、データベース400から、スラブの搬送先を決定する上で必要となる、搬送先を決定する対象スラブの情報と、置き場の情報と、搬送実績情報とを入力する。また、入力部201は、データベース400から、予測モデル構築装置100で構築された消化工期予測モデルを入力する。
搬送基準決定部202は、入力部201で入力した情報に基づいて、消化工期に応じてスラブをどの置き場に搬送すればよいかを判断するための搬送基準を決定する。
搬送可否判定部203は、入力部201で入力した情報に基づいて、対象スラブが各置き場に搬送可能であるか否かを判定する。
消化工期予測部204は、入力部201で入力した消化工期予測モデルを用いて、対象スラブの消化工期を予測する。
搬送先決定部205は、搬送基準決定部202で決定した搬送基準と、搬送可否判定部203で判定した対象スラブの搬送可否の結果と、消化工期予測部204で予測した対象スラブの消化工期とに基づいて、対象スラブの搬送先を決定する。
出力部206は、搬送先決定部205で決定した対象スラブの搬送先を例えば出力装置301に出力する。
【0018】
このようにした搬送先決定装置200は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により構成され、CPUが例えばROMに格納されているプログラムを読み出し、このプログラムを実行することにより各部201~206の機能が実現される。
【0019】
データベース400は、スラブの情報(搬送実績情報、対象スラブの情報)や置き場の情報を格納する。なお、本実施形態では、データベース400からスラブの情報や置き場の情報を入力する例を示したが、それ以外にも、例えばネットワークを介して外部機器から入力したり、ユーザが直接入力したりする形態であってもよい。また、本実施形態では、データベース400に消化工期予測モデルを記憶する例を示したが、データベース400とは別の記憶装置に記憶するようにしてもよい。
【0020】
入力装置300は、ユーザが情報を入力するための手段であり、ポインティングデバイスやキーボード等により構成される。
出力装置301は、ディスプレイ等の表示装置により構成され、出力部206から出力された求解結果を表示する。なお、出力装置301は、音声情報を出力するスピーカ等の音声出力装置等や、出力部206から出力された求解結果を不図示の記憶領域に保存、登録する記憶装置等であってもよい。
【0021】
以下、実施形態に係るスラブの搬送先決定システムによる搬送先決定処理について説明する。
まず、予測モデル構築装置100が、消化工期予測モデルを構築する処理を説明する。
図2は、予測モデル構築装置100が消化工期予測モデルを構築する処理を示すフローチャートである。
ステップS101において、入力部101は、データベース400から、消化工期予測モデルを構築する上で必要な学習データとして、上述した搬送実績情報を入力する。
表1に、搬送実績情報の例を示す。過去にいずれかの置き場に搬送された実績があるスラブを識別するためのスラブID毎に、材質・品質を表わす特性値と、形状を表わす巾、重量、長さと、実際に搬送された置き場を表す搬送先(置き場A~C)と、後続の注文情報に紐付けられるまでに要した実際の消化工期である消化工期実績とが紐付けられている。
【0022】
【0023】
ステップS102において、データ前処理部102は、ステップS101で入力した搬送実績情報に対して、消化工期予測モデルを構築するための前処理を行う。例えばカテゴリ変数を数値に変換したり、欠損値を補完したりする。
【0024】
ステップS103において、予測モデル構築部103は、ステップS102で処理したデータに基づいて、機械学習により消化工期予測モデルを構築する。本実施形態では、アンサンブル学習の一種であるランダムフォレストにより消化工期予測モデルを構築する。
表2に、予測モデル構築部103により構築した消化工期予測モデルを用いて予測した予測結果(消化工期予測)と、消化工期実績とを示す。表2に示すように、スラブ毎に消化工期を予測している。また、
図3及び
図4は、消化工期予測モデルにより予測した予測結果と消化工期実績との関係を示す特性図である。
図3は、学習データを消化工期の予測結果の昇順で10分割し、予測結果の平均値と消化工期実績の平均値とを比較したリフトチャートである。
図3に示すように、予測結果の平均値と消化工期実績の平均値とが略一致した結果が得られている。また、
図4は、予測結果と消化工期実績との散布図である。
図4に示すように、予測結果と消化工期実績とに相関がある結果が得られている。
中間製品の消化工期は、中間製品の材質・品質や形状、将来の注文投入状況によって変化するため予測することが難しいが、単なる統計情報ではなく機械学習により消化工期予測モデルを構築することにより消化工期を適切に予測することが可能になる。特に、アンサンブル学習の一種であるランダムフォレストにより消化工期予測モデルを構築することで、学習データが比較的少ない場合であっても高精度に消化工期を予測することができる。
【0025】
【0026】
ステップS104において、出力部104は、ステップS103で構築した消化工期予測モデルをデータベース400に出力し、データベース400に記憶する。
【0027】
次に、搬送先決定装置200が、予測モデル構築装置100で構築された消化工期予測モデルを利用して、複数の置き場のうちいずれかの置き場にスラブを搬送して在庫として保管するときの搬送先とする置き場を決定する処理を説明する。
図5は、搬送先決定装置200がスラブの搬送先を決定する処理を示すフローチャートである。
ステップS201において、入力部201は、データベース400から、スラブの搬送先を決定する上で必要となる、対象スラブの情報と、置き場の情報と、搬送実績情報とを入力する。また、入力部201は、データベース400から、予測モデル構築装置100で構築された消化工期予測モデルを入力する。
【0028】
表3に、対象スラブの情報の例を示す。消化工期を予測する対象となるスラブを識別するためのスラブID毎に、材質・品質を表わす特性値と、形状を表わす巾、重量、長さとが紐付けられている。
【0029】
【0030】
また、表4に、置き場の情報の例を示す。本実施形態では、
図8に示すように3つの置き場(置き場A、置き場B、置き場C)があり、置き場ID毎に、受け入れ可能な最大スラブ長、最大スラブ重量等の制約条件が与えられる。また、置き場ID毎に、搬送コスト(各置き場に搬送するための一中間製品あたりの費用)が与えられる。
図8の例では、搬送コストは、置き場A、置き場B、置き場Cの順番に高くなる。消化工期が短いスラブは置き場Aに搬送することが求められ、逆に消化工期が長いスラブは置き場Cに搬送することが求められる。
【0031】
【0032】
また、搬送実績情報は、表1と同様であり、ここではその説明を省略する。
【0033】
なお、消化工期予測モデルを毎回入力する必要はなく、搬送先決定装置200において消化工期予測モデルを保持しておき、予測モデル構築装置100において消化工期予測モデルが新たに構築された場合、新たに構築された消化工期予測モデルを入力して、現在保持している消化工期予測モデルと置き換えるようにしてもよい。
【0034】
ステップS202において、搬送基準決定部202は、ステップS201で入力した情報に基づいて、消化工期に応じてスラブをどの置き場に搬送すればよいかを判断するための搬送基準を決定する。
本発明者は、搬送コストが安い置き場に消化工期が短いスラブを搬送するためには、消化工期予測モデルで予測される消化工期に応じて搬送先を決定すればよいと考えた。これを実現するために、搬送基準として消化工期に閾値を設けて、閾値に応じてスラブの搬送先を割り当てることを考えた。この閾値は、置き場毎のスラブの消化工期の合計値(以下、延べ日数と呼ぶ)が実績値又は所定の目標値となるように決定すればよいと考えた。
【0035】
ここで、延べ日数を用いた消化工期の閾値の決定方法の具体例を説明する。
表5は、ステップ201で入力した搬送実績情報に含まれる消化工期実績から置き場毎のスラブの消化工期の合計値(延べ日数)を求め、各置き場A~Cの延べ日数の割合を求めた結果である。表5の割合に示すように、置き場Aには全体の15.6%分の日数のスラブが、置き場Bには全体の6.9%分の日数のスラブが、置き場Cには全体の77.5%分の日数のスラブが搬送されていることがわかる。
【0036】
【0037】
また、
図6は、過去に搬送した実績があるスラブの消化工期実績を昇順にソートして作成した累積度数分布グラフである。横軸を消化工期、縦軸を延べ日数(消化工期実績の累積)の割合として図示した結果である。
図6は、もし、スラブの消化工期が既知であった場合に、消化工期に対して全体の延べ日数に占める割合の対応を表している。
本実施形態では、消化工期の閾値を、消化工期予測モデルで予測されるスラブの延べ日数が表5の割合に一致するように決定する。例えば、
図6に示すように、置き場Aに搬送されたスラブの消化工期の延べ日数は、全体の15.6%分を占めるため、縦軸の延べ日数の割合が0.156となるときの消化工期は、17.9日(X
1)となる。これは、消化工期が短いスラブから順番に置き場Aに搬送された場合に、17.9日以下のスラブをすべて置き場Aに搬送すれば、延べ日数の合計値が15.6%となることを表す。
同様に、置き場Bに搬送されたスラブの消化工期の延べ日数は、全体の6.9%分を占め、全体の15.6%+6.9%を合わせて22.5%分となるため、縦軸の延べ日数の割合が0.225となるときの消化工期は、21.7日(X
2)となる。これは、実績で消化工期が17.9日から21.7日となったスラブをすべて置き場Bに搬送すれば、延べ日数の合計値が全体の6.9%になることを表している。
本実施形態では、上記X
1、X
2を消化工期の閾値とし、新たに得られたデータ(対象スラブの情報)を予測モデルに入力することで得られる消化工期が閾値X
1を下回るスラブは置き場Aに搬送し、X
1以上X
2未満のスラブは置き場Bに搬送し、X
2以上のスラブは置き場Cに搬送するように割り当てる。このようにスラブの搬送先を決定すれば、各置き場へのスラブの搬送数を実績と一致させながら、消化工期が短いスラブを優先的に搬送コストが安い置き場に搬送可能であると着想した。
【0038】
このように消化工期の閾値を決定するためには、閾値となる消化工期の周辺の値での消化工期予測モデルと実績の間にバイアスが発生していないことが前提である。消化工期予測モデルにバイアスが発生している場合は、閾値の過大/過小評価が発生する可能性があり、正しく閾値を設定することができない。本実施形態では、
図3に示したように予測結果の平均値と消化工期実績の平均値が略一致した結果が得られていることを確認済であり、バイアスを極力抑えた消化工期予測モデルとなっている。
なお、置き場の数は3つに限らず、それ以上の置き場の数が存在しても同様に、延べ日数の割合から消化工期の閾値を決定することが可能である。
また、消化工期の閾値のような搬送基準は、消化工期を予測する対象スラブの情報が入力される毎に決定するのではなく、間隔をあけて(例えば定期的に)決定するようなアルゴリズムとしてもよい。
【0039】
ステップS203において、搬送可否判定部203は、ステップS201で入力した情報に基づいて、対象スラブが各置き場に搬送可能であるか否かを判定する。
例えば表3に示す対象スラブの情報において、スラブID「PZ2567-32」はスラブ長さが123000[mm]、重量が42.69[ton]である。一方、表4に示す置き場の情報において、置き場Cが受け入れ可能な最大スラブ長は12000[mm]、最大スラブ重量は35[ton]である。このようにスラブID「PZ2567-32」の対象スラブは、最大スラブ長及び最大スラブ重量共に違反しているため、置き場Cに搬送することができない。表6に、各対象スラブに対して置き場A~Cへの搬送可否を判定した結果を示す。
【0040】
【0041】
ステップS204において、消化工期予測部204は、ステップS201で入力した消化工期予測モデルを用いて、対象スラブの消化工期を予測する。具体的には、消化工期予測部204は、対象スラブの情報を消化工期予測モデルに入力したときに出力される値を消化工期の予測結果とする。この際、消化工期の予測には、予測モデル構築装置100で構築されたランダムフォレストモデルを利用する。
表7に、スラブID毎に消化工期を予測した結果(予測消化工期)を示す。
【0042】
【0043】
ステップS205において、搬送先決定部205は、ステップS202で決定した搬送基準と、ステップS203で判定した対象スラブの搬送可否の結果と、ステップS204で予測した対象スラブの消化工期とに基づいて、対象スラブの搬送先を決定する。
本実施形態では、次に説明するロジックに従って対象スラブの搬送先を決定する。基本的には、消化工期に応じて対象スラブの搬送先を決定するが、消化工期の閾値に収まる置き場に搬送できない場合は、搬送可能な置き場から予測消化工期に最も近い閾値を持つ置き場を検索し搬送する。
1:If 対象スラブが置き場Aに搬送可能 and 対象スラブの消化工期<X1 then
対象スラブを置き場Aに搬送
2:Else if 対象スラブが置き場Bに搬送可能 and X1≦対象スラブの消化工期<X2 then
対象スラブを置き場Bに搬送
3:Else if 対象スラブが置き場Cに搬送可能 and X2<対象スラブの消化工期 then
対象スラブを置き場Cに搬送
4:Else 搬送可能な置き場から対象スラブの消化工期に最も近い閾値を持つ置き場を検索し搬送
【0044】
表8に、表3に示す対象スラブに対して、搬送先とする置き場を決定した結果の例を示す。
【0045】
【0046】
ステップS206において、出力部206は、ステップS205で決定した対象スラブの搬送先を例えば出力装置301に出力する。
【0047】
以上のように、機械学習により構築した消化工期予測モデルを用いて高精度に消化工期を予測し、そのような消化工期に応じて製品の搬送先を決定しているため、搬送コストが安い置き場に消化工期が短いスラブを搬送し、搬送コストが高い置き場に消化工期が長いスラブを搬送することができ、搬送費用をより確実に抑えることができる。
【実施例】
【0048】
実施形態の手法(本手法と呼ぶ)によってスラブの搬送先を決定するシミュレーションを実施した結果と、実績を比較する。
図7A、
図7Bに、各置き場の消化工期をヒストグラムで比較した結果を示す。
図7A(a)~(c)が、置き場A~Cにおける本手法の結果(シミュレーションの結果)を示す。また、
図7B(a)~(c)が、置き場A~Cにおける実績を示す。
また、表9に、各置き場へのスラブの搬送回数を示す。
図7、表9に示すように、本手法では搬送費用が安い置き場Aに搬送されたスラブの回数は3020回となり、実績の2573回に比べて増加させることができた。一方、本手法では搬送費用が高い置き場Cに搬送されたスラブの回数は3040回となり、実績の3404回に比べて低減させることができた。
【0049】
【0050】
表10に、本手法による搬送費用の削減効果を、表4の搬送コストを用いて見積もった結果を示す。表10に示すように、本手法によって、搬送費用を約7%程度削減できることがわかった。
【0051】
【0052】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、上記実施形態は本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
例えば
図1では、予測モデル構築装置100と搬送先決定装置200とを別々の装置として図示したが、一台の装置として構成されるようにしてもよい。
また、本発明は、本発明の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。
【符号の説明】
【0053】
100:予測モデル構築装置、101:入力部、102:データ前処理部、103:予測モデル構築部、104:出力部、200:搬送先決定装置、201:入力部、202:搬送基準決定部、203:搬送可否判定部、204:消化工期予測部、205:搬送先決定部、206:出力部