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特許7364897スタッド溶接方法およびスパッタ付着防止用治具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】スタッド溶接方法およびスパッタ付着防止用治具
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/20 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
B23K9/20 C
B23K9/20 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020016568
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021122835
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】狩野 忍
(72)【発明者】
【氏名】三浦 教昌
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】実公昭51-034917(JP,Y1)
【文献】米国特許第03182173(US,A)
【文献】特開2004-276104(JP,A)
【文献】特開昭62-130774(JP,A)
【文献】特開昭62-077180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッド溶接ガンを用いて被溶接物とスタッドとを溶接するスタッド溶接方法であって、
前記スタッド溶接ガンは、前記スタッドを保持するスタッド取付治具を備え、
前記スタッドは、スタッド本体とスタッド基部とを備え、前記スタッド基部の外径が前記スタッド本体の外径よりも大きい形状を有しており、
前記スタッド取付治具は、その一端に前記スタッド本体が進入可能な第1開口を有し、その他端に前記スタッド本体の端面と接触するストッパーが挿入可能な第2開口を有する筒状部材であり、
底壁と側壁とを有する有底筒状部材で構成されており、前記底壁は、内径が前記スタッド基部の外径よりも小さくかつ前記スタッド本体を挿入可能な挿入口を備え、前記スタッド取付治具の先端側に密着する内表面を有しており、前記側壁は、前記スタッド取付治具の外側に密着する内表面を有するスパッタ付着防止用治具を、前記スタッド取付治具の前記第1開口側に装着して溶接する、スタッド溶接方法。
【請求項2】
被溶接物とスタッドとを溶接するスタッド溶接ガンのスタッド取付治具に装着されるスパッタ付着防止用治具であって、
底壁と側壁とを有する有底筒状部材で構成されており、
前記スタッドは、スタッド本体とスタッド基部とを備え、前記スタッド基部の外径が前記スタッド本体の外径よりも大きい形状を有するものであり、
前記底壁は、前記スタッド本体の挿入可能な挿入口を備え、前記スタッド取付治具の先端側に密着する内表面を有しており、前記底壁の前記挿入口の内径が前記スタッド基部の外径よりも小さいものであり、
前記側壁は、前記スタッド取付治具の外側に密着する内表面を有する、
スパッタ付着防止用治具。
【請求項3】
前記有底筒状部材がゴム素材またはフェルト素材からなる、請求項2に記載のスパッタ付着防止用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接物とスタッドとを溶接するスタッド溶接方法に関する。また、本発明は、スタッド溶接方法に使用されるスパッタ付着防止用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッド溶接とは、スタッド(例えば、ピン、ボルト、ねじ)を被溶接物(例えば、鋼板)の表面に押し当てて、両者の間にアークを発生させた後、スタッドを被溶接物へ押し付けて溶接する方法である。供給電力の種類に応じて、コンデンサー方式、電力アーク方式がある。コンデンサー方式は、CD(Capacitor Discharge)スタッド溶接とも呼ばれる。図5にコンデンサー方式によるスタッド溶接の模式図を示す。スタッド溶接ガン21には、スタッド溶接機34の陽極または陰極の配線35が接続される。支持台37に載置された被溶接物20には、それと逆の極性のアース配線36が接続される。スタッド10の先端には、小さい突起(図示を省略)が設けられている。
【0003】
スタッド溶接ガン21は、その先端にスタッドを保持するスタッド取付治具7を備えており、スタッド10を保持したスタッド溶接ガン21により、スタッド10の突起を被溶接物に押し付けて接触させる。そして、スタッド溶接ガン21のスイッチを入れると、スタッド溶接機34のコンデンサーに蓄えられた電気が極めて短時間のうちに、スタッド先端の突起に流れて、被溶接物20とスタッド10との間にアークが発生する。それとともに、スタッド10を被溶接物20へ押し付けて、瞬時に両者を溶接することができる。
【0004】
図6は、従来のスタッド溶接方法における溶接前の形態を示したものである。図6の(A)は、スタッド取付治具7にスタッド10(スタッドボルト)を取り付ける前の形態を示し、図6の(B)は、スタッド10がスタッド取付治具7の内部に進入した形態を示す。また、図7は、従来のスタッド溶接方法における溶接時および溶接後の形態を示したものである。図7の(A)は、溶接時の形態を示し、図7の(B)は、溶接後の形態を示す。
【0005】
図6の(A)に示すように、スタッド10をスタッド取付治具7の第1開口8に向けて挿入される。溶接前のスタッド10は、図6の(B)に示すように、スタッド取付治具7の内部に収納される一方で、スタッド本体11の一部がスタッド取付治具7の外に出た状態で保持されている。
【0006】
次いで、スタッド溶接を行った際は、図7の(A)に示すように、被溶接物(めっき鋼板26)とスタッド10との接合箇所における溶融によって生じる金属蒸気がヒューム25として周囲に飛散し、また、溶融した金属がスパッタ24として周囲に飛散する。そのため、図7の(B)に示すように、溶接後のスタッド10の表面には、飛散したスパッタ24やヒューム25が付着することが避けられない。例えばスタッドボルトを用いてスタッド溶接を行った場合、スタッドボルトのネジ部にスパッタ等の飛散物が付着すると、ネジ部の溝が埋まるため、他部材のナット部による締込みが困難になる。スタッド溶接においては、スパッタ等の付着に起因してスタッド溶接品の品質を低下させるという問題があった。なお、本明細書では、スパッタおよびヒュームのような溶接時の飛散物を総称して、「スパッタ」の語句で記載することもある。
【0007】
特に、被溶接物が亜鉛系めっき鋼板のような表面処理鋼板の場合、普通鋼に比べて高い電圧域を使用してスタッド溶接を行われている。溶接時には、亜鉛めっき鋼板の母材の溶融量が多くなるので、スパッタの飛散量も増加する。そのため、スタッドに対してスパッタが付着しやすくなり、スタッド製品の不良を誘発していた。
【0008】
従来、スパッタ飛散による問題を解決する方法として、特許文献1のスラグ付着防止液を塗布する方法が提案されている。当該スラグは、本明細書のスパッタと同じものを指している。特許文献1の方法は、環状の給液体を具備する塗布具が用いられる。前記給液体にスラグ付着防止液を付着した状態で、前記給液体を被溶接面に接触させて、前記被溶接面に環状の液付着部を形成する。その後、環状の中心位置にスタッドを溶接する。溶接時に飛散したスラグは、液付着部の上に浮遊するので、溶接後にウエス等で液付着部を拭き取れば、飛散したスラグを取り除くことができる。
【0009】
スタッドに対するスパッタ付着を防止する方法としては、特許文献2のスタッド溶接ガンによる手段が提案されている。特許文献2のスタッド溶接ガンには、スタッドを把持するチャックが取り付けられており、当該チャックは、溶接個所へ向けて気体を噴出させる噴出口を有する。噴出した気体は、チャックとスタッドとの隙間を流れて、溶接時に飛散したスパッタを吹き飛ばしてスタッドに対するスパッタの付着を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-155139号公報
【文献】特開2004-276104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1のスラグ付着防止液の塗布による方法は、スタッドを接合する被溶接物の表面についてはスパッタ付着を防止できるとしても、スタッドの表面に対するスパッタの付着を阻止することができない。特許文献2の方法は、スタッド溶接ガンに気体の噴出手段を設ける必要があり、スタッド溶接装置が複雑な構造を備えるため、作業コストが増加する。
【0012】
そこで、本発明では、スタッドへのスパッタ付着を抑制する簡便なスタッド溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、スタッド溶接ガンのスタッド取付治具の先端側に特定構造を有するスパッタ付着防止用治具を装着することに着目して、本発明を完成した。具体的には、本発明は、以下の実施形態を含むものである。
【0014】
(1)スタッド溶接ガンを用いて被溶接物とスタッドとを溶接するスタッド溶接方法であって、前記スタッド溶接ガンは、前記スタッドを保持するスタッド取付治具を備え、前記スタッドは、スタッド本体とスタッド基部とを備え、前記スタッド基部の外径が前記スタッド本体の外径よりも大きい形状を有しており、前記スタッド取付治具は、その一端に前記スタッド本体が進入可能な第1開口を有し、その他端に前記スタッド本体の端面と接触するストッパーが挿入可能な第2開口を有する筒状部材であり、前記スタッド本体の挿入可能な挿入口を有するスパッタ付着防止用治具を、前記スタッド取付治具の前記第1開口側に装着して溶接する、スタッド溶接方法。
【0015】
(2)被溶接物とスタッドとを溶接するスタッド溶接ガンのスタッド取付治具に装着されるスパッタ付着防止用治具であって、底壁と側壁とを有する有底筒状部材で構成されており、前記スタッドは、スタッド本体とスタッド基部とを備え、前記スタッド基部の外径が前記スタッド本体の外径よりも大きい形状を有するものであり、前記底壁は、前記スタッド本体の挿入可能な挿入口を備え、前記スタッド取付治具の先端側に密着する内表面を有しており、前記底壁の前記挿入口の内径が前記スタッド基部の外径よりも小さいものであり、前記側壁は、前記スタッド取付治具の外側に密着する内表面を有する、スパッタ付着防止用治具。
【0016】
(3)前記有底筒状部材がゴム素材またはフェルト素材からなる、上記(2)に記載のスパッタ付着防止用治具。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スタッドに対してスパッタ付着を防止できるので、溶接後のスタッドボルトに他の部材を取り付ける際、スタッドボルトのネジ部にナットを締め込むことが可能である。また、本発明に係るスタッド付着防止用治具は、再利用できるので、コストの低減に寄与する。スタッドの形状や寸法に応じて簡単に取り付けることができる。また、スタッド溶接ガンのスタッド取付治具についても、その先端部が当該スタッド付着防止用治具で覆われてスパッタの付着を抑制するため、スタッド取付治具の使用寿命を延ばす効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るスタッド溶接方法の実施形態を説明するための図であり、(A)は、スタッド取付治具にスタッドを取り付ける前の形態を示し、(B)は、スタッドがスタッド取付治具の内部に進入した形態を示す。
図2】本発明に係るスタッド溶接方法の実施形態を説明するための図であり、溶接時の形態を示す。
図3】本実施形態に係るスパッタ付着防止用治具を示す斜視図である。
図4】被溶接物に対するスパッタ付着防止手段の例を示す模式図であり、(A)は、付着防止用シートの平面図を示し、(B)は、スタッドに適用した形態を示す。
図5】従来のスタッド溶接方法を説明するための模式図である。
図6】従来のスタッド溶接方法における溶接前の形態を説明するための図であり、(A)は、スタッド取付治具にスタッドを取り付ける前の形態を示し、(B)は、スタッドがスタッド取付治具の内部に進入した形態を示す。
図7】従来のスタッド溶接方法における溶接時および溶接後の形態を説明するための図であり、(A)は、溶接時の形態を示し、(B)は、溶接後の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。本発明は、以下の説明に限定されるものではない。
【0020】
(スタッド溶接方法)
本発明は、スタッド溶接ガンを用いて被溶接物とスタッドとを溶接するスタッド溶接方法に関する。図1図3は、本発明に係るスタッド溶接方法の実施形態を示している。
【0021】
スタッド溶接ガンは、スタッドを保持するスタッド取付治具を備えている。スタッド取付治具の一例を図1の(A)および(B)に示す。図1の(A)は、スタッド取付治具7にスタッド10(スタッドボルト)を取り付ける前の形態を示し、(B)は、スタッド10がスタッド取付治具7の内部に進入した形態を示すものである。
【0022】
(スタッド)
図1の(A)、(B)に示すように、スタッド10は、スタッド本体11とスタッド基部12とを備え、スタッド基部12の外径がスタッド本体11の外径よりも大きい形状を有している。また、スタッド基部12の先端に突起13を設けてもよい。ここでは、スタッド10として、スタッドボルトを用いた例を示している。
【0023】
(スタッド取付治具)
図1の(A)に示すように、スタッド取付治具7は、その一端にスタッド本体11が進入可能な第1開口8を有し、その他端に前記スタッド本体11の端面と接触するストッパー22が挿入可能な第2開口9を有する筒状部材である。ストッパー22が第2開口9に挿入されて取り付けられた後、当該スタッド取付治具7は、スタッド溶接ガン(図示を省略)の先端に装着される。
【0024】
(スパッタ付着防止用治具)
本発明に係るスタッド溶接方法は、スパッタ付着防止用治具をスタッド取付治具に装着して溶接することに特徴がある。図1(A)に示すように、スパッタ付着防止用治具1は、スタッド本体11の挿入可能な挿入口2を有する部材である。上述したようにスタッド溶接ガンの先端側にはスタッド取付治具7が装着されているので、スパッタ付着防止用治具1をスタッド取付治具7の第1開口8の側に装着する。その後、スタッド取付治具7の第1開口8へ向けてスタッド本体11を進入させる。
【0025】
図1の(B)に示すように、スタッド本体11は、スタッド取付治具7の内部へ進入し、ストッパー22に接触する位置に達する。一方、スタッド基部12の外径がスタッド本体11の外径よりも大きいので、スタッド基部12は、スパッタ付着防止用治具1の挿入口2を通過できず、スパッタ防止用治具の底壁3に接触して保持される。そのため、スタッド本体の一部が第1開口8から外へ出た状態にある。このように、スタッド10は、スタッド取付治具7およびスパッタ付着防止用治具1により把持される。スタッド本体11がスタッド取付治具7の内部に進入して保持されるように、スタッド本体11の外径は、スタッド取付治具7の第1開口8および第2開口9の内径とほぼ同じ寸法である。また、スタッド基部12がスタッド取付治具7の第1開口8を通過しないように、第1開口8の内径は、スタッド基部12の外径よりも小さくすることが好ましい。
【0026】
スタッド本体11の一部は、スタッド取付治具7の中に収容されている。スタッド取付治具7の第1開口8の外に出ているスタッド本体11の他の部分は、スパッタ付着防止用治具1およびスタッド基部12によって封鎖されている。このように、スタッド本体11は、被溶接物の溶接個所と隔離された状態に置かれている。
【0027】
図2は、スタッド溶接時の形態を模式的に示す。これは、被溶接物としてめっき鋼板26を使用し、めっき層27の表面にスタッド10を溶接する例を示す図である。図2に示すように、スタッド10の先端の突起13をめっき鋼板26に接触させて電圧を印加すると、スタッド基部12及び突起13とめっき鋼板26との間にアーク23が発生し、アーク電流の加熱によりスタッド10とめっき鋼板26とが溶接される。その溶接時にスパッタ24とヒューム25が発生し、溶接個所の周囲に飛散する。しかし、本発明に係るスタッド溶接方法は、スタッド本体11が溶接個所と隔離されているため、溶接個所とその周辺でスパッタ24とヒューム25が発生しても、スパッタ等がスタッド本体11の表面に付着することを防止できる。
【0028】
本発明に係るスパッタ付着防止用治具は、被溶接物とスタッドとを溶接するスタッド溶接ガンのスタッド取付治具に装着されるものである。図1の(A)、(B)に示すように、当該スタッド10は、スタッド本体11とスタッド基部12とを備え、スタッド基部12の外径がスタッド本体11の外径よりも大きい形状を有するものが適用される。
【0029】
本発明に係るスパッタ付着防止用治具の構造を図3に示す。図3に示すように、スパッタ付着防止用治具1は、底壁3と側壁4とを有する有底筒状部材で構成されている。当該底壁3は、スタッド本体11の挿入可能な挿入口2を備えており、この構造により、スパッタ付着防止用治具1の挿入口2を通してスタッド本体11をスタッド取付治具7の中へ進入させることができる。スタッド本体11を進入し易くするため、例えば、底壁3の挿入口2の内径は、スタッド本体11の外径よりも大きいことが好ましい。1.1倍以下の大きさとしてもよい。
【0030】
本発明に係るスパッタ付着防止用治具は、その寸法をスタッドの大きさに応じて適宜に設定することができる。例えば、スパッタ付着防止用治具の底壁および側壁の厚みは、0.5~2.5mmとすることができる。底壁の外径は、12.0~15.0mm、側壁の高さは、10~15mmとすることができる。
【0031】
図3に示すように、スパッタ付着防止用治具1の側壁4には、スタッド取付治具7に装着しやすいようにスリット14を設けてもよい。その場合は、スリット14の広がりによって側壁4が裂けることを防止するため、スリット14の一端には、曲率Rの丸み16を付与することが好ましい。また、側壁4の周囲にバンド15などで締め付ける固定手段を用いてもよい。
【0032】
さらに、当該底壁3は、スタッド取付治具7の先端側に密着する内表面5を有している。「スタッド取付治具の先端側」とは、被溶接物と対向する側をいう。そして、底壁3の挿入口2の内径は、スタッド基部12の外径よりも小さいことが好ましい。さらに、当該側壁4は、スタッド取付治具7の外側に密着する内表面6を有することが好ましい。このような構造を備えることにより、スタッド取付治具7の中に収容されたスタッド本体11は、スパッタ付着防止用治具1およびスタッド基部12によって封鎖され、溶接個所と隔離された状態に置かれる。そのため、溶接個所とその周辺でスパッタが発生しても、スパッタ24及びヒューム25がスタッド本体11の表面に付着することを防止できる。
【0033】
本実施形態に係るスパッタ付着防止用治具は、有底筒状部材がゴム素材またはフェルト素材からなることが好ましい。ゴム素材としては、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン酢酸ビニルゴムなどを使用することができる。
【0034】
(被溶接物に対するスパッタ付着防止手段)
溶接後の被溶接物の表面にもスパッタが付着する。被溶接物に対するスパッタ付着を防止する場合は、図4に示すような付着防止用シート30を使用することができる。図4の(A)に示すように、当該付着防止用シート30は、一定の厚みを有する円盤状であって、中央にスタッドボルト33を挿入できる穴31を有する。当該シートの平面形状は、円形以外に多角形の形状でもよく、使用する場所に応じて適宜に変更してもよい。また、必須の形状ではないが、スタッド溶接ガンの支持部材と干渉しないように、当該シートの外周の複数個所において図3に示すような凹部32を設けてもよい。
【0035】
当該付着防止用シートを使用する際は、被溶接物のスタッド接合予定位置に配置し、その後、スタッドを装着したスタッド溶接ガンを被溶接物へ近づけて。スタッド溶接を行う。図4の(B)は、溶接後の形態を模式的に示した図である。溶接時に発生したスパッタ24は、当該付着防止用シート30の上に堆積する。そのため、溶接後に当該付着防止用シート30を取り除くことにより、簡単に被溶接物のスパッタ付着を防止することができる。
【0036】
当該付着防止用シートの素材としては、本発明に係るスパッタ付着防止用治具と同様のゴム素材やフェルト素材を使用することができる。厚みを1.0~2.0mm、直径を30~50mmとすることができる。
【実施例
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
スタッドボルトを用いてスタッド溶接を行った。スタッドボルトとして、日本ドライブイット株式会社製のストレートタイプのM8を使用した。スタッドボルトの材質は、軟鋼であった。
【0039】
被溶接物として、質量%でZn-6%AL-3%Mg組成のめっき層を有する亜鉛系めっき鋼板を使用した。板厚が2.3mm、めっき付着量が片面90g/mであった。上記のめっき鋼板を100mm×100mmの矩形に切断して試験用鋼板とした。試験用鋼板の端面は、基材の表面が露出していた。
【0040】
スタッド溶接は、コンデンサースタッド溶接機として、日本ドライブイット株式会社製のCDスタッド溶接機(JDI-80)を用いた。日本ドライブイット株式会社製スタッド溶接ガン(H100)のスタッド取付治具に保持されたスタッドボルトがプラス側(陽極側)であり、試験用鋼板がマイナス側(陰極側)であるように、それぞれの配線をスタッド溶接機の直流電源へ接続した。
【0041】
試験用鋼板に接続する配線は、試験用鋼板の端面の側に押圧するように通電治具の電極を端面へ当接させた。その際の加圧力は、68Nであった。溶接時の設定電圧は、160Vとした。
【0042】
本発明に相当するスパッタ付着防止用治具として、ニトリルゴムを素材とする厚み2.5mm、外径15mm、高さ15mmの有底筒状部材を作製した。それをスタッド溶接ガンのスタッド取付治具に装着した。このスタッド溶接ガンを用いた本発明例として、上記の溶接条件で試験用鋼板にスタッドボルトを接合させるスタッド溶接を行った。他方、比較例として、スタッド取付治具に何も装着しないで、同様の溶接条件でスタッド溶接を行った。
【0043】
溶接後のスタッドボルトの表面を目視で観察した。さらに、当該スタッドボルトにナットを締め込むことにより、ナットの締込み状態を確認した。
【0044】
それらの結果によると、本発明例は、スタッドボルトの表面にスパッタやヒュームの付着を観察されなかった。さらに、ナットを普通に締込むことができた。それに対し、比較例は、スタッドボルトの表面にスパッタやヒュームの付着が観察された。さらに、ナットの締込むことができなかった。
【0045】
以上のとおり、本発明に係るスタッド溶接方法とそれに使用されたスパッタ付着防止用治具は、溶接後のスタッド表面に対してスパッタやヒュームの付着が防止されて、溶接後のスタッドに他の部材を取り付けることができる点で有用である。このような有用な効果がスパッタ防止用治具をスタッド溶接ガンのスタッド取付治具に装着するという簡便な手段で達成できる点で有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 スパッタ付着防止用治具
2 挿入口
3 底壁
4 側壁
5 内表面(底壁)
6 内表面(側壁)
7 スタッド取付治具
8 第1開口
9 第2開口
10 スタッド
11 スタッド本体
12 スタッド基部
13 突起
14 スリット
15 バンド
16 丸み
20 被溶接物
21 スタッド溶接ガン
22 ストッパー
23 アーク
24 スパッタ
25 ヒューム
26 めっき鋼板
27 めっき層
30 付着防止用シート
31 穴
32 凹部
33 スタッドボルト
34 スタッド溶接機
35 配線
36 アース配線
37 支持台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7