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特許7364898材料評価装置、材料評価方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】材料評価装置、材料評価方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20231012BHJP
【FI】
G01N23/046
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020026975
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021131313
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】高山 透
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-215987(JP,A)
【文献】特開2019-174887(JP,A)
【文献】特開2019-082388(JP,A)
【文献】特開2017-173919(JP,A)
【文献】特開2018-171516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相を含む材料の特定の相を検出する材料評価装置であって、
前記材料の輝度情報として、画素毎の輝度値を含む情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記材料の輝度情報について、注目画素の周囲の所定のサイズの領域の画素の輝度値に基づいて、当該注目画素の輝度値を、当該注目画素の輝度値以上の輝度値に変更することを各画素に対して行う膨張処理を実行する膨張手段と、
前記膨張手段により膨張処理が行われた後の前記材料の輝度情報について、注目画素の周囲の前記所定のサイズの領域の画素の輝度値に基づいて、当該注目画素の輝度値を、当該注目画素の輝度値以下の輝度値に変更することを各画素に対して行う収縮処理を実行する収縮手段と、
前記膨張処理が実行される前の元の前記材料の輝度情報における各画素の輝度値と、前記収縮手段により収縮処理が実行された後の前記材料の輝度情報における各画素の輝度値との差に基づく輝度値が各画素の輝度値として含まれる検出用輝度情報を生成する生成手段と、
前記生成手段により生成された前記検出用輝度情報における各画素の輝度値に基づいて、前記特定の相を検出する検出手段と、を有し、
前記特定の相の輝度範囲の最低の輝度値は、前記複数の相のその他の相の輝度範囲の最低の輝度値よりも低いことを特徴とする材料評価装置。
【請求項2】
前記膨張手段は、前記所定のサイズの領域としてサイズの異なる複数の領域のそれぞれを用いて前記膨張処理を実行し、
前記収縮手段は、前記複数の領域のそれぞれを用いて前記収縮処理を実行し、
前記生成手段は、前記膨張処理が実行される前の元の前記材料の輝度情報と、前記複数の領域のそれぞれを用いて前記収縮手段により収縮処理が実行された後の前記材料の複数の輝度情報とを用いて、複数の検出用輝度情報を生成し、
前記検出手段は、前記複数の検出用輝度情報における各画素の輝度値に基づいて、前記特定の相を検出することを特徴とする請求項1に記載の材料評価装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記検出用輝度情報における各画素の輝度値と、閾値とを比較した結果に基づいて、前記特定の相の領域に対応する画素を検出することを特徴とする請求項2に記載の材料評価装置。
【請求項4】
前記複数の領域の大きさに応じて異なる前記閾値が設定されることを特徴とする請求項3に記載の材料評価装置。
【請求項5】
前記検出手段は、前記検出用輝度情報における各画素の輝度値と、閾値とを比較した結果に基づいて、前記特定の相の領域に対応する画素を検出することを特徴とする請求項1に記載の材料評価装置。
【請求項6】
前記材料は、焼結鉱であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の材料評価装置。
【請求項7】
前記特定の相は、前記材料に形成される穴の領域であることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の材料評価装置。
【請求項8】
前記特定の相の輝度範囲の一部は、前記複数の相のその他の少なくとも1つの相の輝度範囲の一部と重複することを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の材料評価装置。
【請求項9】
前記輝度情報は、前記材料のX線CT画像に基づいて得られる情報であることを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の材料評価装置。
【請求項10】
複数の相を含む材料の特定の相を検出する材料評価方法であって、
前記材料の輝度情報として、画素毎の輝度値を含む情報を取得する取得工程と、
前記取得工程により取得された前記材料の輝度情報について、注目画素の周囲の所定のサイズの領域の画素の輝度値に基づいて、当該注目画素の輝度値を、当該注目画素の輝度値以上の輝度値に変更することを各画素に対して行う膨張処理を実行する膨張工程と、
前記膨張工程により膨張処理が行われた後の前記材料の輝度情報について、注目画素の周囲の前記所定のサイズの領域の画素の輝度値に基づいて、当該注目画素の輝度値を、当該注目画素の輝度値以下の輝度値に変更することを各画素に対して行う収縮処理を実行する収縮工程と、
前記膨張処理が実行される前の元の前記材料の輝度情報における各画素の輝度値と、前記収縮工程により収縮処理が実行された後の前記材料の輝度情報における各画素の輝度値との差に基づく輝度値が各画素の輝度値として含まれる検出用輝度情報を生成する生成工程と、
前記生成工程により生成された前記検出用輝度情報における各画素の輝度値に基づいて、前記特定の相を検出する検出工程と、を有し、
前記特定の相の輝度範囲の最低の輝度値は、前記複数の相のその他の相の輝度範囲の最低の輝度値よりも低いことを特徴とする材料評価方法。
【請求項11】
請求項1~9の何れか1項に記載の材料評価装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料評価装置、材料評価方法、およびプログラムに関し、特に、材料内の特定の相を検出するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
材料にとって気孔情報は重要な指標である。高炉用原料である焼結鉱を例に挙げると、気孔率が少ない緻密な組織をもつ焼結鉱は強度が高く、一方で気孔が多く比表面積が高い組織をもつ焼結鉱は還元性が高くなる。この気孔率だけでなく、気孔の大きさやそれらの分布なども材料品質へ影響を与えていることから、材料品質を評価する上で気孔評価は重要である。そのため、材料中の気孔情報を高精度に識別する技術は、材料の高品位化や品質評価などにおいて重要である。特許文献1には、測定対象物のX線CT画像において、測定対象物の輪郭で囲まれた領域内に存在する全ての画素の総数に対する、基準CT値以下であるCT値を示す画素の総数の割合を、測定対象物の粗大気孔率として推定することが記載されている。粗大気孔は、測定対象物のX線CT画像を構成する1つの画素領域内の全体に存在する気孔である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-82388号公報
【文献】特開2009-30104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、CT値が基準CT値以下であるか否かによって、気孔であるか否かを判断する。しかしながら、焼結鉱等の材料では、材料内の画像において、異なる複数の相における輝度範囲の一部が重複することがある。このような場合、特許文献1に記載の技術では、気孔の未検出(気孔を検出できないこと)または誤検出(気孔以外の相を気孔として検出すること)が生じる虞がある。このような課題は、材料の気孔以外の特定の相を検知する場合においても共通に存在する課題である。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、材料内の特定の相を正確に検出することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の材料評価装置は、複数の相を含む材料の特定の相を検出する材料評価装置であって、前記材料の輝度情報として、画素毎の輝度値を含む情報を取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記材料の輝度情報について、注目画素の周囲の所定のサイズの領域の画素の輝度値に基づいて、当該注目画素の輝度値を、当該注目画素の輝度値以上の輝度値に変更することを各画素に対して行う膨張処理を実行する膨張手段と、前記膨張手段により膨張処理が行われた後の前記材料の輝度情報について、注目画素の周囲の前記所定のサイズの領域の画素の輝度値に基づいて、当該注目画素の輝度値を、当該注目画素の輝度値以下の輝度値に変更することを各画素に対して行う収縮処理を実行する収縮手段と、前記膨張処理が実行される前の元の前記材料の輝度情報における各画素の輝度値と、前記収縮手段により収縮処理が実行された後の前記材料の輝度情報における各画素の輝度値との差に基づく輝度値が各画素の輝度値として含まれる検出用輝度情報を生成する生成手段と、前記生成手段により生成された前記検出用輝度情報における各画素の輝度値に基づいて、前記特定の相を検出する検出手段と、を有し、前記特定の相の輝度範囲の最低の輝度値は、前記複数の相のその他の相の輝度範囲の最低の輝度値よりも低いことを特徴とする。
【0007】
本発明の材料評価方法は、複数の相を含む材料の特定の相を検出する材料評価方法であって、前記材料の輝度情報として、画素毎の輝度値を含む情報を取得する取得工程と、前記取得工程により取得された前記材料の輝度情報について、注目画素の周囲の所定のサイズの領域の画素の輝度値に基づいて、当該注目画素の輝度値を、当該注目画素の輝度値以上の輝度値に変更することを各画素に対して行う膨張処理を実行する膨張工程と、前記膨張工程により膨張処理が行われた後の前記材料の輝度情報について、注目画素の周囲の前記所定のサイズの領域の画素の輝度値に基づいて、当該注目画素の輝度値を、当該注目画素の輝度値以下の輝度値に変更することを各画素に対して行う収縮処理を実行する収縮工程と、前記膨張処理が実行される前の元の前記材料の輝度情報における各画素の輝度値と、前記収縮工程により収縮処理が実行された後の前記材料の輝度情報における各画素の輝度値との差に基づく輝度値が各画素の輝度値として含まれる検出用輝度情報を生成する生成工程と、前記生成工程により生成された前記検出用輝度情報における各画素の輝度値に基づいて、前記特定の相を検出する検出工程と、を有し、前記特定の相の輝度範囲の最低の輝度値は、前記複数の相のその他の相の輝度範囲の最低の輝度値よりも低いことを特徴とする。
【0008】
本発明のプログラムは、前記材料評価装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、材料内の特定の相を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、画像生成システムの構成の一例を示す図である。
図2図2は、材料評価装置の機能的な構成の一例を示す図である。
図3図3は、焼結鉱試料のX線3次元CT像の一例を示す図である。
図4図4は、焼結鉱試料の輝度情報から得られる輝度値のヒストグラムの一例を示す図である。
図5図5は、膨張処理と収縮処理の一例を説明する図である。
図6図6は、材料評価装置における処理の一例を説明する図である。
図7図7は、材料評価方法の一例を説明するフローチャートである。
図8図8は、4つのサイズのカーネルを用いて導出された検出用輝度情報と、これら4つの検出用輝度情報から検出された気孔の領域を示す図である。
図9図9は、検出用輝度情報の輝度値のヒストグラムの一例示す図である。
図10図10は、発明例の手法で決定された気孔の領域を示す図である。
図11図11は、図10の一部の領域に対する気孔の検出結果を示す図である。
図12図12は、気孔の球換算直径と気孔数との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。尚、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。
【0012】
本実施形態では、材料の特定の相が、焼結鉱の気孔の領域である場合を例に挙げて説明する。また、本実施形態では、材料の輝度情報として、X線CT(Computerized Tomography)により得られる輝度情報を用いる場合を例に挙げて説明する。
<画像生成システム>
図1は、X線CT画像を生成する画像生成システムの構成の一例を示す図である。図1では、マイクロフォーカスX線CTを用いる場合の画像生成システムの構成の一例を示す。
画像生成システムは、X線源1と、フィルター2と、試料ステージ3と、X線検出器4とを有する。
【0013】
X線源1は、X線5を発生するための陰極および陽極を有する真空管からなるマイクロフォーカスX線源である。X線源1は、真空および高電圧下において陰極で電子ビームを発生させ、当該電子ビームを収束して加速させ、陽極のターゲット(タングステン等)の焦点に衝突させることによりX線5を発生させる。
【0014】
フィルター2は、X線源1と試料ステージ3との間において、X線5の通過領域に配置され、X線5の低エネルギー成分を除去するためのものである。
試料ステージ3は、焼結鉱試料6を固定するとともに、焼結鉱試料6を、その中心軸の周りに回転し、焼結鉱試料6に対するX線5の照射方向を変えるためのものである。
X線検出器4は、焼結鉱試料6を透過したX線5(以下、透過X線と言う)を可視光画像に変換するためのイメージインテンシファイアー(Image Intensifier:I.I.)型検出器である。
【0015】
焼結鉱試料6が置かれた試料ステージ3を回転させることにより、X線源1で発生させたX線5は、焼結鉱試料6に対して、複数の方向から照射される。焼結鉱試料6を透過した透過X線は、X線検出器4で可視光画像に変換される。X線源1から照射したX線の強度と透過X線の強度とから、再構成計算によって、焼結鉱試料6の内部のX線吸収係数の空間分布が求められる。
【0016】
X線吸収係数は、水(密度=1)のCT値が0、空気(密度≒0)のCT値が、例えば-1000となるように、水を基準としたCTの相対値(無次元)とされ、CT値に応じた65536階調(CT=0(空気のCT)~65536)の濃淡(輝度)画像が、焼結鉱試料6の3次元CT像として得られる。焼結鉱試料6の3次元CT像は、CT値が高い画素領域で明るく(白に近く)なり、CT値が低い画素領域で暗く(黒に近く)なるように表示される。焼結鉱試料6の3次元CT像は、画素(ボクセル)毎の輝度値を含む。尚、焼結鉱試料6の3次元CT像から、焼結鉱試料6の2次元断面CT像が得られる。焼結鉱試料6の2次元断面CT像は、画素(ピクセル)毎の輝度値を含む。図3は、焼結鉱試料6のX線3次元CT像の一例を示す図(写真)である。以下の説明では、焼結鉱試料6の3次元CT像を、必要に応じて、焼結鉱試料6の輝度情報と称する。尚、焼結鉱試料6の輝度情報は、焼結鉱試料6の2次元断面CT像であってもよい。
焼結鉱試料6の3次元像または焼結鉱試料6の2次元断面像を生成する方法自体は、特許文献2等に記載されている公知の技術で実現することができる。従って、ここでは、その詳細な説明を省略する。また、焼結鉱試料6の3次元像または焼結鉱試料6の2次元断面像を生成する方法は、前述した画像生成システムによるものに限定されない。
【0017】
<材料評価装置200>
図2は、材料評価装置200の機能的な構成の一例を示す図である。材料評価装置200のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを有する情報処理装置、または、専用のハードウェアを用いることにより実現される。以下に、材料評価装置200が有する機能の一例を説明する。
【0018】
<<取得部201>>
取得部201は、画像生成システムにより生成された、焼結鉱試料6の輝度情報を取得する。画像生成システムの情報処理装置により焼結鉱試料6の輝度情報が生成される場合、取得部201は、画像生成システムの情報処理装置から送信された、焼結鉱試料6の輝度情報を受信することにより、焼結鉱試料6の輝度情報を取得することができる。また、画像生成システムの情報処理装置により生成された、焼結鉱試料6の輝度情報が記憶媒体に記憶される場合、取得部201は、焼結鉱試料6の輝度情報を記憶媒体から読み出すことにより、焼結鉱試料6の輝度情報を取得することができる。この他、取得部201は、X線検出器4で得られた可視光画像に基づいて、焼結鉱試料6の輝度情報を生成してもよい。
【0019】
<<ブラックトップハット処理部202>>
ブラックトップハット処理部202は、焼結鉱試料6の輝度情報に対してブラックトップハット処理を実行し、検出用輝度情報を生成する。検出用輝度情報は、焼結鉱試料6の気孔の領域を特定するために用いられる輝度情報(画素毎の輝度値を含む情報)である。
【0020】
図4は、焼結鉱試料6の輝度情報から得られる輝度値のヒストグラムの一例を示す図である。図4に示す輝度値の単位は、任意単位である。図4に示す例では、焼結鉱試料6の気孔(Pore)の領域が示す輝度範囲は、凡そ0~32500の範囲である。焼結鉱試料6のシリケートスラグ(Silicate Slag)の領域が示す輝度範囲は、凡そ18000~36500である。焼結鉱試料6のカルシウムフェライト(Calcium ferrite)の領域が示す輝度範囲は、凡そ32500~41000である。焼結鉱試料6のヘマタイト(Hematite)、マグネタイト(Magnetite)の領域が示す輝度範囲は、凡そ36500以上の範囲である。尚、これらの輝度範囲は、焼結鉱試料6の輝度情報に対する過去の知見から得られるものであり、一意に定まるものではない。
【0021】
図4に示すように、焼結鉱は複数の相を有し、複数の相の輝度範囲の一部が重複する。本実施形態では、材料評価装置200は、焼結鉱試料6の気孔の領域を特定する。焼結鉱試料6の気孔の領域の輝度範囲の一部は、焼結鉱試料6のシリケートスラグの領域の輝度範囲の一部と重複する。従って、特許文献1に記載されているように、焼結鉱試料6の輝度情報に対して閾値よりも輝度値が低い画素を、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素として特定すると、気孔の領域の未検出または誤検出が生じる。例えば、閾値が18000を下回ると、シリケートスラグの領域が気孔の領域として検出される可能性は低くなるが、未検出となる気孔の領域が多くなる。一方、例えば、閾値が18000を上回ると、未検出となる気孔の領域は少なくなるが、シリケートスラグの領域が気孔の領域として検出される可能性が高くなる。そこで、本発明者は、輝度の高い領域に囲まれた輝度の低い領域を強調するブラックトップハット処理を焼結鉱試料6の輝度情報に対して実行することにより、焼結鉱試料6の気孔の領域を検出することに想到した。
【0022】
また、焼結鉱の気孔には、一部の領域が焼結鉱の表面に露出した開気孔と、焼結鉱の表面に露出した領域がない閉気孔とがある。また、焼結鉱の気孔の形状および大きさは様々である。そこで、本発明者は、サイズの異なる複数のカーネルのそれぞれを用いてブラックトップハット処理を実行することにより、焼結鉱試料6の気孔の領域を検出することに想到した。尚、カーネルとは、注目画素の輝度値を変更する際に参照される画素領域である。また、ブラックトップハット処理は、元画像をクロージングした画像と元画像との差をとる処理であり、ブラックハット処理等とも称される。
【0023】
ブラックトップハット処理部202は、膨張部202aと、収縮部202bと、生成部202cとを有する。図5は、膨張処理と収縮処理の一例を説明する図である。具体的に図5(a)は、膨張処理の一例を説明する図である。図5(b)は、収縮処理の一例を説明する図である。図6は、材料評価装置200における処理の一例を説明する図である。図6では、図6(a)、図6(b)、図6(c)、図6(d)、図6(e)の順に焼結鉱試料6の輝度情報が変遷する様子を示す。
【0024】
図5および図6では、表記の都合上、焼結鉱試料6の輝度情報を2次元で表記する。また、図5および図6において、縦横に並ぶ矩形は画素(ボクセル)を表し、矩形内の数値は輝度値を表す。図5および図6において、注目画素および注目画素に隣接する8個の画素の合計9個の画素からなる矩形の領域がカーネルであるものとする。尚、本実施形態では、焼結鉱試料6の輝度情報は、焼結鉱試料6の3次元CT像であるので、カーネルの形状も3次元形状(例えば立方体)になる。
【0025】
<<<膨張部202a>>>
焼結鉱試料6の輝度情報は、画素(ボクセル)毎の輝度値を含む。膨張部202aは、焼結鉱試料6の輝度情報に対して膨張処理を実行する。
図5(a)において、画素501が注目画素であるとする。この場合、膨張部202aは、画素501に対するカーネルに含まれる9個の画素のうち、最も高い輝度値を有する画素502の輝度値(=10)に画素501の輝度値を変更する。
【0026】
膨張部202aは、焼結鉱試料6の輝度情報における全ての画素を注目画素として順番に選択して、以上のような注目画素の輝度値の変更を行う。焼結鉱試料6の輝度情報における全ての画素を注目画素として注目画素の輝度値の変更を行うことにより1回の膨張処理が実行される。ここでは、1回の膨張処理が実行される場合を例に挙げて説明する。ただし、膨張部202aは、膨張処理が行われた焼結鉱試料6の輝度情報に対して更に膨張処理を実行してもよい。膨張処理の実行回数は、予め設定されている。
【0027】
図6(a)は、膨張処理が実行される前の焼結鉱試料6の輝度情報の一例を示す図である。図6(a)に示す焼結鉱試料6の輝度情報に対して膨張処理が実行されると、焼結鉱試料6の輝度情報は、図6(b)に示すように変更される。
【0028】
<<収縮部202b>>
収縮部202bは、膨張部202aにより膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報に対して収縮処理を実行する。
図5(b)において、画素503が注目画素であるとする。この場合、収縮部202bは、画素503に対するカーネルに含まれる9個の画素のうち、最も低い輝度値を有する画素504の輝度値(=1)に画素503の輝度値を変更する。
【0029】
収縮部202bは、膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報における全ての画素を注目画素として順番に選択して、以上のような注目画素の輝度値の変更を行う。膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報における全ての画素を注目画素として注目画素の輝度値の変更を行うことにより1回の収縮処理が実行される。ここでは、1回の収縮処理が実行される場合を例に挙げて説明する。ただし、収縮部202bは、収縮処理が行われた焼結鉱試料6の輝度情報に対して更に膨張処理を実行してもよい。収縮処理の実行回数は、予め設定されている。また、膨張処理の実行回数と収縮処理の実行回数は同じにする。
【0030】
膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報(図6(b)に示す焼結鉱試料6の輝度情報)に対して収縮処理が実行されると、焼結鉱試料6の輝度情報は、図6(c)に示すように変更される。
【0031】
<<<生成部202c>>>
生成部202cは、膨張部202aにより膨張処理が行われる前の元の焼結鉱試料6の輝度情報の各画素の輝度値と、収縮部202bにより収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報における各画素の輝度値との差に基づく輝度値が各画素の画素値として含まれる検出用輝度情報を生成する。
【0032】
本実施形態では、生成部202cは、収縮部202bにより収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報における各画素の輝度値から、膨張部202aにより膨張処理が行われる前の元の焼結鉱試料6の輝度情報の各画素の輝度値を減算した値の輝度値が各画素の画素値として含まれる検出用輝度情報を生成する。尚、検出用輝度情報を生成する際には、収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報と、膨張処理が行われる前の元の焼結鉱試料6の輝度情報の、相互に同じ位置の画素の輝度値が減算される。
【0033】
収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報(図6(c)に示す焼結鉱試料6の輝度情報)の各画素の輝度値から、図6(a)に示す焼結鉱試料6の輝度情報の各画素の輝度値を減算すると、図6(d)に示す検出用輝度情報が生成される。
【0034】
<<<繰り返し処理>>>
以上のようにして、ブラックトップハット処理部202により、1つのカーネルを用いた場合のブラックトップハット処理が実行される。ブラックトップハット処理部202は、サイズの異なる複数のカーネルを用いて、以上のようにして検出用輝度情報を生成する。カーネルのサイズが小さいと、特定の相(本実施形態では、焼結鉱試料6の気孔の領域)の大きな領域の検出漏れが生じやすくなる。逆に、カーネルのサイズが大きいと、特定の相の小さな領域の検出漏れが生じやすくなる。カーネルのサイズは、このような観点から、例えば、焼結鉱試料6の大きさ、および、特定の相の大きさに応じて予め設定される。例えば、相互にサイズの異なる4つのカーネルを用いる場合、ブラックトップハット処理部202は、4つの検出用輝度情報を生成する。
【0035】
<<検出部203>>
検出部203は、トップハット処理部202(生成部202c)により生成された複数の検出用輝度情報における各画素の輝度値に基づいて、特定の相(本実施形態では、焼結鉱試料6の気孔の領域)を検出する。
本実施形態では、検出部203は、検出用輝度情報における各画素の輝度値のうち、閾値よりも高い輝度値を有する画素を、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素として検出する。検出用輝度情報における各画素の輝度値と比較する閾値として、カーネルのサイズに応じて異なる閾値を用いるのが好ましい。例えば、検出用輝度情報を生成するために実行された膨張処理および収縮処理に用いたカーネルのサイズが小さいほど、小さい値の閾値を用いることができる。尚、カーネルのサイズに応じて異なる閾値を用いていれば、カーネルの1つのサイズ毎に異なる閾値を用いても、カーネルの複数のサイズ毎に異なる閾値を用いてもよい。また、このようにせず、全ての検出用輝度情報における各画素の輝度値と比較する閾値を同じにしてもよい(この場合、閾値の数は1個である)。
【0036】
検出部203は、以上のような焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素の検出を、複数の検出用輝度情報のそれぞれについて実行する。
図6(d)に示す検出用輝度情報において、輝度値が4を上回る画素の領域(斜線で示す領域)が、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素として検出される。
本実施形態では、検出部203は、複数の検出用輝度情報から検出した、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素の全てを、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素として決定する。
【0037】
<<出力部204>>
出力部204は、検出部203により決定された、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素に関する情報を出力する。出力の形態として、コンピュータディスプレイへの表示、材料評価装置200の内部または外部の記憶媒体への記憶、および外部装置への送信のうち、少なくとも1つを採用することができる。
【0038】
<フローチャート>
次に、図7のフローチャートを参照しながら、本実施形態の材料評価装置200による材料評価方法の一例を説明する。
ステップS701において、取得部201は、画像生成システムにより生成された、焼結鉱試料6の輝度情報(材料の輝度情報)を取得する。
【0039】
次に、ステップS702において、ブラックトップハット処理部202は、予め設定されているカーネルの複数のサイズのうち、未選択のサイズを1つ選択する。
次に、ステップS703において、膨張部202aは、焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素のうち、未選択の画素の1つを注目画素として選択する。
【0040】
次に、ステップS704において、膨張部202aは、ステップS703で選択された注目画素の輝度値を、当該注目画素を中心とする画素の領域内の画素であって、ステップS702で選択されたサイズのカーネルに含まれる画素の領域内の画素のうち、最も高い画素値を有する画素の輝度値に変更する。
【0041】
次に、ステップS705において、膨張部202aは、焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素の全てを注目画素として選択したか否かを判定する。この判定の結果、焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素の全てを注目画素として選択していない場合、ステップS703の処理が再び実行される。焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素の全てを注目画素としてステップS704の処理が実行されるまで、ステップS703~S705の処理が繰り返し実行される。
【0042】
一方、ステップS705において、焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素の全てを注目画素として選択したと判定されると、ステップS706の処理が実行される。ステップS706において、膨張部202aは、膨張処理(ステップS703~S705の処理)が所定回数実行されたか否かを判定する。本実施形態では、膨張処理の実行回数は1回であるので、ステップS706の処理はなくてもよい。この判定の結果、膨張処理(ステップS703~S705の処理)が所定回数でない場合には、ステップS703の処理が再び実行される。この場合、ステップS701で取得された焼結鉱試料6の輝度情報に代えて、直前の膨張処理(ステップS703~S705の処理)が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報に対して、膨張処理(ステップS703~705の処理)が実行される。以下の説明では、ステップS706において膨張処理が所定回数実行されたと判定される直前のステップS704の処理(最後の膨張処理)が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報を、必要に応じて、所定回数の膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報と称する。
【0043】
ステップS706において、膨張処理(ステップS703~S705の処理)が所定回数実行されたと判定されると、ステップS707の処理が実行される。ステップS707において、収縮部202bは、所定回数の膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素のうち、未選択の画素の1つを注目画素として選択する。
次に、ステップS708において、収縮部202bは、ステップS707で選択された注目画素の輝度値を、当該注目画素を中心とする画素の領域内の画素であって、ステップS702で選択されたサイズのカーネルに含まれる画素の領域内の画素のうち、最も低い画素値を有する画素の輝度値に変更する。
【0044】
次に、ステップS709において、収縮部202bは、所定回数の膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素の全てを注目画素として選択したか否かを判定する。この判定の結果、所定回数の膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素の全てを注目画素として選択していない場合、ステップS707の処理が再び実行される。所定回数の膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素の全てを注目画素としてステップS708の処理が実行されるまで、ステップS707~S709の処理が繰り返し実行される。
【0045】
一方、ステップS709において、所定回数の膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報に含まれる画素の全てを注目画素として選択したと判定されると、ステップS710の処理が実行される。ステップS710において、収縮部202bは、収縮処理(ステップS707~S709の処理の処理)が所定回数実行されたか否かを判定する。本実施形態では、収縮処理の実行回数は1回であるので、ステップS710の処理はなくてもよい。この判定の結果、収縮処理(ステップS707~S709の処理)が所定回数でない場合には、ステップS707の処理が再び実行される。この場合、所定回数の膨張処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報に代えて、直前の収縮処理(ステップS707~S709の処理)が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報に対して、収縮処理(ステップS707~S709の処理)が実行される。以下の説明では、ステップS710において収縮処理が所定回数実行されたと判定される直前のステップS708の処理(最後の収縮処理)が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報を、必要に応じて、所定回数の収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報と称する。
【0046】
ステップS710において、収縮処理(ステップS707~S709の処理の処理)が所定回数実行されたと判定されると、ステップS711の処理が実行される。ステップS711において、生成部202cは、所定回数の収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報の各画素の輝度値から、ステップS701で取得された焼結鉱試料6の輝度情報を減算した値の輝度値が各画素の画素値として含まれる検出用輝度情報を生成する。
【0047】
次に、ステップS712において、ブラックトップハット処理部202は、予め設定されている全てのサイズのカーネルを選択したか否かを判定する。この判定の結果、予め設定されている全てのサイズのカーネルを選択していない場合、ステップS702の処理が再び実行される。そして、未選択のカーネルを用いて、ステップS702~S711の処理が再び実行される。
【0048】
ステップS712において、予め設定されている全てのサイズのカーネルを選択したと判定されると、ステップS713の処理が実行される。ステップS713において、検出部203は、ステップS711で生成された検出用輝度情報における各画素の輝度値のうち、閾値よりも高い輝度値を有する画素を、焼結鉱試料6の気孔の領域(特定の相)に対応する画素として検出することを、複数の検出用輝度情報のそれぞれについて個別に行う。検出用輝度情報の数は、ステップS702で選択されるカーネルの数と同じである。検出部203は、複数の検出用輝度情報から検出した、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素の全てを、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素として決定する。
【0049】
次に、ステップS714において、出力部204は、ステップS713で決定された、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素に関する情報を出力する。ステップS714の処理が終了すると、図7のフローチャートによる処理が終了する。
【0050】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、材料評価装置200は、焼結鉱試料6の輝度情報を取得し、焼結鉱試料6の輝度情報に対して膨張処理と収縮処理とをこの順で実行する。そして、材料評価装置200は、膨張処理が実行される前の元の焼結鉱試料6の輝度情報と、収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報との差に基づく輝度値が各画素の輝度値として含まれる検出用輝度情報を生成する。そして、材料評価装置200は、検出用輝度情報における各画素の輝度値に基づいて、気孔の領域を検出する。ここで、気孔の輝度範囲の最低値は、焼結鉱試料6のその他の相の輝度範囲の最低値よりも低い(気孔の輝度範囲はその他の相の輝度範囲よりも低い)。従って、特定の相の輝度範囲とその他の相の輝度範囲の一部とが重複している場合でも、特定の相を精度よく検出することができる。
【0051】
また、本実施形態では、材料評価装置200は、予め設定されている複数のサイズのカーネルのそれぞれを用いて膨張処理と収縮処理とをこの順で実行する。従って、特定の相の検出漏れをより抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態では、材料評価装置200は、検出用輝度情報の各画素の輝度値と閾値とを比較した結果に基づいて、特定の相の一例として気孔の領域を検出する。従って、特定の相の領域を自動的に検出することができる。また、予め設定されている複数のサイズのカーネルのそれぞれを用いて膨張処理と収縮処理とをこの順で実行する場合に、カーネルの大きさに応じて異なる閾値を設定することにより、特定の相の検出漏れをより一層抑制することができる。
【0053】
<変形例>
本実施形態では、材料が焼結鉱である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、材料は焼結鉱に限定されない。例えば、鉄鉱石や鉄鉱石疑似粒子(焼成前の焼結鉱原料)、石炭、コークス、鋼材等であってもよい。
【0054】
また、本実施形態のように複数のサイズのカーネルを用いれば、特定の相が種々の大きさをとり得る相である場合であっても、特定の相の検出漏れを抑制することができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、特定の相の大きさが、同じような大きさであることが予め分かっている場合には、カーネルのサイズは1つであってもよい。また、特定の相が種々の大きさをとり得る相であっても、所望の大きさの相(例えば、微細な気孔)のみを検出する場合には、カーネルのサイズは1つであってもよい。
【0055】
また、本実施形態では、特定の相が気孔(材料に形成される穴)である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、複数の相を含む材料の輝度情報において、特定の相の輝度範囲の最低の輝度値が、前記複数の相のその他の相の輝度範囲の最低の輝度値よりも低ければ(前記複数の相の輝度範囲のうち特定の相の輝度範囲が最低の輝度範囲であれば)、特定の相は気孔に限定されない。例えば、気孔のない鉄鋼材料内の錆の領域を特定の相の領域としてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、材料の輝度情報がX線CT画像である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、材料の輝度情報はX線CT画像に限定されない。例えば、材料を研磨することにより露出する断面の撮影画像を材料の輝度情報として用いてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報の各画素の輝度値から、膨張処理が実行される前の元の焼結鉱試料6の輝度情報の各画素の画素値を減算した値の輝度値が各画素の画素値として含まれる検出用輝度情報を生成する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、膨張処理が実行される前の元の焼結鉱試料6の輝度情報の各画素の画素値から、収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報の各画素の輝度値を減算した値の輝度値が各画素の画素値として含まれる検出用輝度情報を生成してもよい。このようにする場合、検出用輝度情報の各画素の輝度値は負の値をとり得る(図6(a)および図6(b)を参照)。従って、検出用輝度情報の各画素の輝度値のうち、閾値よりも低い輝度値(または絶対値が閾値よりも大きい輝度値)を有する画素を、焼結鉱試料6の気孔の領域に対応する画素として検出する。
【0058】
尚、以上説明した本発明の実施形態のうち、材料評価装置200の処理は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0059】
<実施例>
次に、実施例を説明する。尚、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
本実施例では、焼結鉱の気孔を検出する。発明例では、焼結鉱の3次元X線CT画像に対して、前述した実施形態の手法を適用して焼結鉱の気孔の領域を検出した。発明例では、カーネルのサイズとして4つのサイズを採用した。具体的に、注目画素の左右、上下、前後のそれぞれの方向において、100ボクセル、10ボクセル、3ボクセル、1ボクセルの範囲のカーネル(201×201×201のサイズのカーネル、21×21×21のサイズのカーネル、7×7×7のサイズのカーネル、3×3×3のサイズのカーネル)を採用した。
比較例では、発明例で用いた焼結鉱の3次元X線CT画像に対して、1つの閾値を設定し、閾値よりも低い輝度の画素の領域を焼結鉱の気孔の領域として検出した。
【0060】
図8は、前述した4つのサイズのカーネルを用いて導出された検出用輝度情報と、これら4つの検出用輝度情報から検出された気孔の領域を示す図である。前述したように検出用輝度情報には、膨張処理が実行される前の元の焼結鉱試料6の輝度情報と、収縮処理が実行された後の焼結鉱試料6の輝度情報との差に基づく輝度値が各画素の輝度値として含まれる。
【0061】
図8の上側(白抜き矢印線の基端側)に、検出用輝度情報801~804を示す。図8の下側(白抜き矢印線の先端側)に、当該検出用輝度情報801~804から検出される気孔の領域を強調した検出用輝度情報811~814を示す。図8の下側に示す検出用輝度情報811~814は、図8の上側に示す検出用輝度情報801~804に対し、閾値よりも高い輝度値を有する画素(気孔の領域に対応する画素)の領域を、所定の濃度で塗りつぶしたものである。図9は、最も大きいカーネル(注目画素の左右、上下、前後のそれぞれの方向において100ボクセルの範囲のカーネル(201×201×201のサイズのカーネル)を用いて生成された検出用輝度情報801の輝度値のヒストグラムを示す図である。図8に示す検出用輝度情報801に対し、195000よりも高い輝度値を有する画素が、図8に示す検出用輝度情報811において強調して表示されている(所定の濃度で塗りつぶされている)。尚、図8の下側に示す検出用輝度情報811~814において、黒い領域(濃度の濃い領域)は、気孔の領域に対応する画素ではない。
【0062】
図8の検出用輝度情報811~814において所定の濃度で塗りつぶされている画素の領域を全て足し合わせた領域が、気孔の領域として決定される。図10は、発明例の手法で決定された気孔の領域を示す図である。図10において、気孔の領域として決定された画素が所定の複数の濃度で塗りつぶされている。
【0063】
図11は、図10の一部の領域1001に対する気孔の検出結果を示す図である。図11(a)は、発明例の手法で得られた結果を示す。図11(a)は、図10の領域1001を拡大した図である。図11(b)は、比較例で得られた結果を示す。図11(b)は、図10の領域1001から比較例の手法で決定した気孔の領域を示す。図11(a)および図11(b)において、気孔の領域として決定された画素が所定の濃度で塗りつぶされている。
【0064】
発明例の手法で得られた結果である図11(a)と、比較例の手法で得られた結果である図11(b)とを比較すると、図11(b)においては領域1101、1102内で気孔として検出されなかった領域が、図11(a)においては領域1101、1102内で気孔として検出されることが分かる。尚、図11(b)において、領域1101、1102の中にある黒い点状の領域は、気孔の領域として決定された画素ではない。
【0065】
図12は、気孔の球換算直径と気孔数との関係の一例を示す図である。気孔の球換算直径は、当該気孔の領域と同じ体積を有する球の直径である。図12(a)は、気孔の球換算直径が相対的に小さい場合の関係を示し、図12(b)は、気孔の球換算直径が相対的に大きい場合の関係を示す。
発明例の手法で決定した気孔数は比較例の手法で決定した気孔数よりも多く、気孔の大きさが小さくなるほど、その差は顕著になる。特に、球換算直径が100μm以下の大きさの気孔については、発明例の手法の方が比較例の手法よりも未検出の気孔を大幅に減らせることが分かる(図12(a)を参照)。
【符号の説明】
【0066】
1:X線源、2:フィルター、3:試料ステージ、4:X線検出器、5:X線、6:焼結鉱試料、200:材料評価装置、201:取得部、202:ブラックトップハット処理部、202a:膨張部、202b:収縮部、202c:生成部、203:検出部、204:出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12