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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】スラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 11/10 20060101AFI20231012BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20231012BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20231012BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C21B11/10
C21C7/00 J
C21C1/02 L
C21C5/28 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020031243
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021134386
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 俊哉
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-092435(JP,A)
【文献】特開2011-084811(JP,A)
【文献】特開2019-151535(JP,A)
【文献】特開2011-006301(JP,A)
【文献】特表2014-521830(JP,A)
【文献】特開2009-114023(JP,A)
【文献】特開昭56-087614(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 11/10、11/00
C21C 5/28
C21C 1/02
C21C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種湯が収容された電気炉内に冷鉄源を装入し、冷鉄源の堆積部の上から溶融状態の製鋼スラグを装入し、直流または交流アーク加熱によって冷鉄源を部分溶解した後、溶融プールに還元剤として炭材を投入するとともに、成分組成としてSiOとAlの少なくとも一方を含むスラグ改質剤を投入して、スラグを還元すると共に溶解した溶鉄を加炭し、溶銑を出湯孔から種湯を残して排出した後、還元スラグをスラグ排出口から排出することを特徴とするスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
【請求項2】
前記製鋼スラグの装入は、前記電気炉の炉蓋を移動させるか、または炉蓋のスラグ投入口を開けることで形成する開口部を経由して行い、製鋼スラグを収容したスラグ鍋から直接または樋を介して装入するものとし、その際、装入する製鋼スラグは前記冷鉄源の堆積部の上、あるいは当該冷鉄源の堆積部の上にさらに堆積した固化した製鋼スラグの上に装入することを特徴とする請求項1に記載のスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
【請求項3】
前記還元剤およびスラグ改質剤を、アーク加熱をしながら炉蓋上に設けた原料投入管を通して供給することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
【請求項4】
スラグの還元中はランスをスラグ層内に挿入し、前記ランスを経由して攪拌ガスを吹いてスラグ内攪拌を行い、通電終了後は、溶鉄層内で底吹きまたはランスからガス攪拌することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
【請求項5】
前記還元剤、スラグ改質剤とともに、リン酸を含む廃棄物と高リン鉄鉱石の一方又は両方を、原料投入管を通じて投入することを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼スラグの排出量については、溶銑予備処理の改善により排出スラグ量が削減されつつある。一方、排出された製鋼スラグの利用については、製鋼スラグは高塩基度のため、利用に当たっては水浸膨張や高pH水溶出といった課題がある。それに対しては蒸気エージング等の対策が施されている。
【0003】
一方で、排出スラグを還元・改質して高炉スラグと同等のスラグに転換し、用途の拡大を図ると同時に、スラグに含まれる有価なFeやPを回収する技術が開発されている。その際、必要エネルギーを最小にするためには、高温の製鋼スラグを冷却固化せずにそのまま還元処理することが効果的であり、その方法が種々考案されている。
【0004】
特許文献1には、電気炉内に収容された溶鉄上に、スラグ供給容器(スラグ保持炉)から熱間製鋼スラグを流入させ、溶融スラグ層に還元材を供給し、溶鉄及び溶融スラグ層を通電して加熱し、溶融スラグ層の溶融スラグ、又は、前記溶鉄を間歇的に排出しながら、熱間製鋼スラグの還元処理を非酸化性雰囲気で継続する、製鋼スラグ還元処理方法が開示されている。製鋼スラグの還元処理を行い、製鋼スラグを、セメント原料、土工材料、セラミック製品等の種々の用途に使用可能な材料に改質するとともに、製鋼スラグ中のMn、P等の有価元素を溶鉄中に還元回収し、その後、Fe及びMnは、製鉄プロセスへリサイクルし、Pは溶鉄に酸化処理を施して酸化物として回収し、リン酸肥料やリン酸原料として利用することを目的としている。特許文献1の構造は、溶融スラグを電気炉に直接投入するのではなく、電気炉に隣接配置されたスラグ保持炉に一旦保持し、電気炉内の溶鉄層上に溶融スラグ層を緩衝帯として形成した上で、注入量を調整しながら、溶融スラグを徐々に注入しているため、設備の規模が大きくなるとの課題を有している。
【0005】
特許文献2に記載の発明は、溶鉄層と溶融スラグ層を形成する電気炉において、炉底部に浅底部を有し、スラグは搬送容器から溶融スラグを浅底部に向けて投入することを特徴とする。電気炉内で連続的に還元溶融改質することで、溶融スラグ中の有価物(Fe、P等の有価元素)を溶融スラグ層の下層である溶鉄層に回収する。回収された高リン溶鉄に対して脱リン処理を施して、溶鉄中のPを酸化させてスラグ中に移行させることで、高リン溶鉄が高リン酸スラグと溶鉄とに分離される。高リン酸スラグは、リン酸肥料やリン酸原料等としてリサイクルすることができる。また、溶鉄は製鋼工程にリサイクルされ、転炉等に投入される。溶融スラグが浅底部に注入されるので、注入された直後の溶融スラグと電気炉内の溶鉄層とが激しく混合されることを防止でき、フォーミング生成を防止できる。一方、浅底部を設けた結果として、炉内容積が減少するという課題を有する。
【0006】
電気炉では、スクラップなどの冷鉄源を溶解して溶鋼を形成する。電気炉で溶製した溶鋼を、転炉工場にて転炉で溶製した溶鋼とともに二次精錬、連続鋳造を行おうとすると、電気炉は通常転炉に比べてヒートサイズが小さく、転炉工場では既存の2次精錬、連鋳機とは取鍋容量が合致せず、時間的マッチングもうまくとれないため、転炉と併設することは難しい。また、電気炉鋼は、[N]やトランプエレメントが高く、転炉鋼でなければできない鋼種がある。
【0007】
特許文献3には、溶解室と、溶解室の上部に直結するシャフト型の予熱室とを具備し、溶解室で発生する排ガスを予熱室に導入して予熱室内の冷鉄源を予熱するアーク炉を用いた、アーク炉の操業方法が開示されている。アーク炉から出湯する溶湯の炭素濃度を1mass%以上としてアーク炉を操業する。溶湯の炭素濃度を1mass%以上とすることで、アーク炉を用いて製造した溶銑(溶湯)を高炉溶銑と混合し、高炉-転炉法によるプロセスフローの一部に組み込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開WO2014/003123号
【文献】国際公開WO2018/110171号
【文献】特開2010-265485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、溶鉄を収容する電気炉において製鋼スラグの還元処理を行い、製鋼スラグを、セメント原料、土工材料、セラミック製品等の種々の用途に使用可能な材料に改質するとともに、製鋼スラグ中のMn、P等の有価元素を溶鉄中に還元回収し、その後、Fe及びMnを回収した溶鉄を製鉄プロセスへリサイクルするに際し、特許文献1に記載のように規模が大きな設備を用いることなく、電気炉炉底形状において特許文献2に記載のような浅底部を設ける必要がなく、転炉プロセスにリサイクルが容易な溶鉄を製造することのできる、スラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法を提供することを目的とする。さらに、製鋼スラグを還元して生成したPは、溶鉄に酸化処理を施して酸化物として回収し、リン酸肥料やリン酸原料として利用することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]種湯が収容された電気炉内に冷鉄源を装入し、冷鉄源の堆積部の上から溶融状態の製鋼スラグを装入し、直流または交流アーク加熱によって冷鉄源を部分溶解した後、溶融プールに還元剤として炭材を投入するとともに、成分組成としてSiOとAlの少なくとも一方を含むスラグ改質剤を投入して、スラグを還元すると共に溶解した溶鉄を加炭し、溶鉄を出湯孔から種湯を残して排出した後、還元スラグをスラグ排出口から排出することを特徴とするスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
[2]前記製鋼スラグの装入は、前記電気炉の炉蓋を移動させるか、または炉蓋のスラグ投入口を開けることで形成する開口部を経由して行い、製鋼スラグを収容したスラグ鍋から直接または樋を介して装入するものとし、その際、装入する製鋼スラグは前記冷鉄源の堆積部の上、あるいは当該冷鉄源の堆積部の上にさらに堆積した固化した製鋼スラグの上に装入することを特徴とする[1]に記載のスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
[3]前記還元剤およびスラグ改質剤を、アーク加熱をしながら炉蓋上に設けた原料投入管を通して供給することを特徴とする[1]又は[2]記載のスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
[4]スラグの還元中はランスをスラグ層内に挿入し、前記ランスを経由して攪拌ガスを吹いてスラグ内攪拌を行い、通電終了後は、溶鉄層内で底吹きまたはランスからガス攪拌することを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載のスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
[5]前記還元剤、スラグ改質剤とともに、リン酸を含む廃棄物と高リン鉄鉱石の一方又は両方を、原料投入管を通じて投入することを特徴とする[1]~[4]のいずれか1つに記載のスラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、溶鉄を収容する電気炉において製鋼スラグの還元処理を行い、製鋼スラグを、セメント原料、土工材料、セラミック製品等の種々の用途に使用可能な材料に改質するとともに、製鋼スラグ中のFe、P等の有価元素を溶鉄中に還元回収し、その後、Fe分を回収した溶鉄を製鉄プロセスへリサイクルするに際し、種湯が収容された電気炉内に冷鉄源を装入し、冷鉄源の堆積部の上から溶融状態または高温固化した製鋼スラグを装入することにより、設備の規模を大きくすることなく、また炉内容積を減少させることもなく、処理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の冷鉄源の溶解方法において、冷鉄源の堆積部の上から製鋼スラグを装入する状況を示す図である。
図2】本発明の冷鉄源の溶解方法において、炭材とスラグ改質剤の添加状況を示す図である。
図3】本発明の冷鉄源の溶解方法において、溶鉄層の攪拌状況を示す図である。
図4】本発明の冷鉄源の溶解方法において、冷鉄源の堆積部の上から製鋼スラグを装入する状況を示す図である。
図5】本発明の冷鉄源の溶解方法において、炭材とスラグ改質剤の添加状況及びスラグ層の攪拌状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明に好適な実施形態について詳細に説明する。
まず、本発明の電気炉を使用して行う、スラグ還元を伴った冷鉄源の溶解方法の概要を説明する。
【0014】
製銑工程で高炉を用いて溶銑が製造され、製鋼工程で転炉等を用いて銑鉄が鋼に精錬される。この製鋼工程は、溶銑中の硫黄、リン、炭素等を除去する脱硫、脱リン、脱炭の各工程と、溶鋼中に残った水素等の気体や硫黄等を除去して成分調整を行う二次精錬工程と、連続鋳造機で溶鋼を鋳造する鋳造工程とを含む。
【0015】
製鋼工程のうち、主に脱リン、脱炭が転炉にて行われる。転炉内で、酸化カルシウムを主成分とするフラックスを用いて溶銑が精錬される。この際、転炉内に吹き込まれた酸素により溶銑中のC、Si、P、Mn等が酸化され、当該酸化物は酸化カルシウムと結び付きスラグになる。また、脱硫、脱リン、脱炭の各工程では、それぞれ成分の異なるスラグ(脱硫スラグ、脱リンスラグ、脱炭スラグ)が生成される。連続鋳造が完了した取鍋内に残存するスラグは、取鍋スラグと呼ばれる。
【0016】
本発明で製鋼スラグとは、製鋼工程で生成されるスラグの総称であり、当該製鋼スラグは、脱硫スラグ、脱リンスラグ、脱炭スラグ、取鍋スラグを含む概念である。また、高温の溶融状態にある製鋼スラグを溶融スラグと称し、同様に、溶融状態にある脱硫スラグ、脱炭スラグ、脱リンスラグをそれぞれ、溶融脱硫スラグ、溶融脱リンスラグ、溶融脱炭スラグと称する。
【0017】
スラグ処理工程では、上記製鋼工程で生成された製鋼スラグを、溶融状態のままで転炉から電気炉に搬送し、電気炉内に装入した製鋼スラグを連続的に還元溶融改質することで、溶融スラグ中の有価物(Fe、P等の有価元素)を溶融スラグ層の下層である溶鉄層に回収する。
【0018】
従来、電気炉内に予め溶鉄浴を形成し、この溶鉄浴の上から溶融した製鋼スラグを添加し、溶融プールに還元剤として炭材を投入して、スラグの還元溶融改質処理が行われていた。この際、スラグ投入時のスラグフォーミングを抑制することが重要である。このため前述のように、特許文献1においては、電気炉内の溶鉄層上に還元された溶融スラグ層を緩衝帯として形成した上で、注入量を調整しながら、溶融スラグを徐々に注入する手段を採用している。また、特許文献2では、電気炉の炉底部に浅底部を有し、スラグは搬送容器から溶融スラグを浅底部に向けて投入することを特徴とする。
【0019】
ところで、電気炉においては、鉄スクラップ、型銑、還元鉄等の冷鉄源を電気炉内に装入し、アーク加熱によって溶解して溶鉄を形成している。冷鉄源の溶解促進のため、電気炉内には種湯が形成され、種湯及び溶解が進行した溶鉄中の炭素濃度を高めることにより、冷鉄源の溶解が促進される。冷鉄源を電気炉内に装入した後の溶解初期においては、電気炉の底部に種湯が貯留し、冷鉄源が山積みで堆積部を形成している。
【0020】
本発明においては、冷鉄源が電気炉内に装入されて冷鉄源の堆積部が形成されている段階で、溶融した製鋼スラグを冷鉄源の堆積部の上から注ぎ込むことにより、溶融スラグと溶鉄との攪拌を抑制し、結果としてスラグのフォーミングを抑制することを着想した。
そして図1図4に示すように、種湯28が収容された電気炉1内に冷鉄源23を装入し、冷鉄源23の堆積部の上から溶融状態または高温固化した製鋼スラグ24を装入し、直流または交流アーク加熱によって冷鉄源23を部分溶解した後、図2図5に示すように、溶融プールに還元剤として炭材26を投入することにより、スラグフォーミングが抑制され、スラグの還元溶融改質が良好に進行することを見いだした。この際、電気炉内では、スラグ改質剤27の投入によってスラグの塩基度の調整処理などが行われ、溶融スラグ中のFe、P等の酸化物の還元や、スラグから粒鉄(鉄分)の分離が進行する。スラグが投入される直下に形成された冷鉄源23の堆積厚さが十分ではない場合、固化スラグ25を投入し、冷鉄源23堆積部の上に固化スラグ25を堆積させ、製鋼スラグを山積み状態の固化スラグ25及び未溶解冷鉄源23の上に装入することとしても良い(図4参照)。
【0021】
電気炉内に装入する冷鉄源としては、鉄スクラップ、型銑、還元鉄等を用いることができる。電気炉に冷鉄源を予熱する予熱炉を併設し、予熱炉で予熱した冷鉄源を電気炉内に装入することとすると好ましい。予熱炉としては、図4に示すように、電気炉の上部に直結するシャフト型の予熱炉7を具備し、電気炉内で発生する排ガスを予熱炉に導入して予熱炉7内の冷鉄源を予熱することができる。
【0022】
電気炉内に装入する製鋼スラグとしては、溶融状態にある製鋼スラグ、または高温固化した製鋼スラグを用いることができる。
【0023】
還元剤及び加炭材として用いる炭材には、コークス、石炭などを用いることができる。炭材を添加することにより、スラグ層中Fe、P等の酸化物の還元反応を進行させ、また溶鉄層に加炭して溶鉄の炭素濃度を上昇させる。溶鉄の炭素濃度を1質量%以上とすれば、溶鉄をそのまま、あるいは溶鉄の脱リン処理を行った上で、高炉溶銑と混合して転炉装入主原料とすることができる。
【0024】
電気炉内に装入する製鋼スラグは、塩基度(CaO/SiO質量比)が高い高塩基度スラグであり、そのままでは融点が高いので溶解しづらい。また、スラグ中のP成分を還元して溶鉄層中に移行するためには、スラグの塩基度が低い方が好ましい。そこで本発明では、電気炉内にはさらに、成分組成としてSiOとAlの少なくとも一方を含むスラグ改質剤を投入する。製鋼スラグとスラグ改質剤が混合することにより、スラグの塩基度が低下し、Al濃度が増大し、結果として混合後のスラグの融点を低下させることができ、製鋼スラグの溶解とスラグ還元を速やかに進行させることが可能となる。スラグ改質剤添加後のスラグ成分として、塩基度が0.8~1.3、Alが8~13質量%の範囲とすれば好適である。
【0025】
スラグ改質剤中のSiO濃度、Al濃度、スラグ改質剤の添加量(装入する製鋼スラグに対する比率)の好適範囲については、装入する製鋼スラグの成分によっても変動する。製鋼スラグとスラグ改質剤が混合した後において、スラグの塩基度が1.3以下、Al濃度が8質量%以上となれば良い。例えば、SiO濃度99質量%の珪砂、Al濃度83質量%のレンガ屑、およびSiO濃度59質量%、Al濃度23質量%のフライアッシュを適切に配合することにより、スラグ組成を最適範囲に調整し、スラグ溶解を好適に促進させることができる。スラグ改質剤としては、フライアッシュ、珪砂、レンガ屑の他に、下水汚泥灰、アルミドロス、等を用いることができる。
【0026】
この結果、溶融スラグから分離されたリン分等を含む高リン溶鉄が回収されるとともに、製鋼スラグである溶融スラグが還元・改質されて、高炉スラグ相当の高品質の還元スラグが回収される。この還元スラグは、還元前と比べてFeO、P等の含有量が低いため、セメント原料、セラミック製品等にリサイクルできる。また、溶融スラグの塩基度が低くなるように成分を調整すれば低膨張性となるため、路盤材や骨材、石材として使用できる。
【0027】
さらに、上記回収された高リン溶鉄に対して脱リン処理を施して、溶鉄中のPを酸化させてスラグ中に移行させることで、高リン溶鉄が高リン酸スラグと溶鉄(低リン溶銑)とに分離される。高リン酸スラグは、リン酸肥料やリン酸原料等として製品化することができる。また、溶鉄(低リン溶銑)は、製鋼工程にリサイクルされ、高炉溶銑と混合した上で転炉等に投入される。
【0028】
以上、本実施形態に係るスラグ処理プロセスの概要について説明した。本プロセスは、上記製鋼工程で生成される種々の製鋼スラグのうち、溶融脱リンスラグを処理対象とすることが好ましい。溶融脱リンスラグは、溶融脱炭スラグよりも低温であるが、粒鉄やリン酸を多く含有しており、また一般に低塩基度である。このため、溶融脱リンスラグを、酸化処理ではなく、還元処理によって溶融改質することで、本プロセスによる有価元素(Fe、P等)の回収効率が高くなる、また低塩基度化のための改質剤を削減できるため必要エネルギーの低減にもつながる。そこで、以下の説明では、処理対象の溶融スラグとして、主に溶融脱リンスラグを用いる例について説明する。しかし、本発明の溶融した製鋼スラグとしては、溶融脱リンスラグに限定されず、溶融脱硫スラグ、溶融脱炭スラグ等、製鋼工程で発生する任意の製鋼スラグを使用することが可能である。
【0029】
電気炉で還元することにより、スラグの上熱が有利に働き、スラグ中に還元剤を懸濁させることによって、スラグメタル間のCO反応を抑制し、スラグフォーミングを抑制することができる。
【0030】
本発明で用いる電気炉として、据置式の直流電流炉、傾動式の直流電流炉、交流電流炉のいずれを用いてもよい。図2図4に示すように、電気炉1の炉蓋2を通して電極3が設けられており、電極3による加熱で、冷鉄源、製鋼スラグを加熱し、電気炉内に溶鉄層21、溶融したスラグ層22を形成する。
【0031】
図1図3に示す電気炉では、炉蓋にスラグ投入口が設けられておらず、電気炉1にスラグを装入するに際しては、炉蓋2を横に移動し、それによって形成された開口部を経由してスラグ鍋4から電気炉1内に製鋼スラグ24を装入する(図1参照)。
【0032】
図4、5に示す電気炉では、炉蓋2にスラグ投入口6が設置されている。炉蓋2のスラグ投入口6を開けることで形成する開口部を経由して電気炉内に製鋼スラグを装入する。図4に示す例では、樋5が設けられ、スラグ鍋4を傾転して製鋼スラグ24を樋5に流下し、樋5を経由してスラグ投入口6から電気炉1内に製鋼スラグ24が装入される。また図4、5に示す電気炉は、炉蓋2に予熱炉7が配置されている。冷鉄源ホッパー8から予熱炉7内に冷鉄源が供給され、電気炉排ガスの顕熱を利用し、予熱炉7内で冷鉄源を昇温する。電気炉1において、スラグ投入口6と予熱炉7の配置位置に関しては、図4に示す例では電気炉1の中心軸に対してスラグ投入口6と予熱炉7が互いに180°の位置に配置されているように作図している。好ましくは、電気炉1の中心軸に対してスラグ投入口6と予熱炉7が互いに90~120°の位置に配置されていると良い。
【0033】
炉蓋2には、図2図5に示すように、原料投入管9が配設されている。原料投入管9を経由して、炭材26、スラグ改質剤27を電気炉内に投入することができる。炭材26、スラグ改質剤27を顆粒状とし、アーク加熱をしながら原料投入管9から供給すると好ましい。電気炉内への空気の侵入による脱炭ロスを防ぐためには、できるだけ電気炉の密閉状態を維持し、非酸化性雰囲気での還元処理及び加炭を行うと好ましい。炭材の添加については、粉体の炭材をスラグ層に吹き込んで添加することとしても良い。
【0034】
本発明で好ましくは、電気炉1内のスラグ層22あるいは溶鉄層21内にランス13を挿入し、ランス13先端から攪拌ガスを吹き込むことにより、スラグ層22あるいは溶鉄層21を攪拌することができる。ランス13は、電気炉1のスラグドア12を開放し、その開放部から炉内に挿入することができる(図3図5参照)。
【0035】
スラグの還元中において、アーク加熱でスラグを優先的に加熱し、スラグ内攪拌を促進させるためには、スラグ層内にガス吹込ランスを挿入してガス攪拌を行うとよい。図5に示す例では、スラグドア12を経由して挿入したランス13の先端がスラグ層22中に浸漬し、ランス13先端から不活性ガスを吹き込むことにより、スラグ層22の攪拌を行っている。
【0036】
冷鉄源が完全に溶解し、溶鉄層中の炭素濃度が上昇するとともに温度が上昇した時点で通電を停止し、通電終了後、ランス13の先端を溶鉄層21内に浸漬してガス攪拌を行うことにより、スラグメタル温度の均一化を図ることができる。図3に示す例では、スラグドア12を経由して挿入したランス13の先端が溶鉄層21中に浸漬し、ランス13先端から不活性ガスを吹き込むことにより、溶鉄層21及びスラグ層22の攪拌を行っている。溶鉄層21内へのガスの吹き込みは、上記ランス浸漬に代えて、底吹きによってガスを吹き込んでも良い。
【0037】
前記還元剤、スラグ改質剤とともに、リン酸を含む廃棄物と高リン鉄鉱石の一方又は両方を、原料投入管を通じて投入することができる。リン酸を含む廃棄物としては、下水処理等で発生するリン酸源も回収可能であり、そこに含まれるシリカ源はスラグ改質剤として利用できる。特に汚泥焼却灰を好ましく用いることができる。これにより、溶鉄中のP濃度を上昇し、次工程で溶鉄の脱リン処理を行い、脱リンスラグ中のP濃度を増大し、リン酸肥料原料またはその他のリン製品原料としての価値を増すことができる。下水汚泥に含まれるCdやAs、Pbといった低沸点の有害元素は、高温のアークフレームによって気化除去され、溶銑や高リン酸スラグには残らないため、安全にリサイクルできる。
製鋼スラグの装入量を増やすことにより、溶鉄中のP濃度を上昇させることもできる。
【0038】
電気炉を用いた冷鉄源の溶解方法において、本発明を適用することにより、冷鉄源溶解時に新たなフラックスを投入する必要がなく、P濃度の高い製鋼スラグで代用することができる。
【0039】
高炉法で製造される鉄源は、鉄鉱石をコークスで還元して製造するため、CO発生量が多い。そのため、地球温暖化対策の一環として、高炉法の比率を下げ、鉄スクラップを電気エネルギーで溶解する電気炉製鋼法の比率増大が求められている。一方、前述のように、電気炉で溶製した溶鋼を、転炉工場にて転炉で溶製した溶鋼とともに二次精錬、連続鋳造を行おうとすると、電気炉は通常転炉に比べてヒートサイズが小さく、転炉工場では既存の2次精錬、連鋳機とは取鍋容量が合致せず、時間的マッチングもうまくとれないため、転炉と併設することは難しい。また、電気炉鋼は、[N]やトランプエレメントが高く、転炉鋼でなければできない鋼種がある。
【0040】
それに対して本発明においては、電気炉で炭素濃度が1質量%以上の溶銑を溶製する。たとえ電気炉のヒートサイズが転炉のヒートサイズに比較して小さい場合でも、電気炉で製造した溶銑と高炉溶銑とを混合することにより、転炉のヒートサイズに合致させることができる。その結果、転炉を有する製鋼工場において、電気炉で溶銑を製造することが可能となる。また、電気炉で冷鉄源を溶解しても、そのあと高炉溶銑で稀釈し、転炉で吹錬することにより、トランプエレメント濃度および溶鋼窒素濃度を低減することができる。
【実施例
【0041】
[実施例1]
図1図2に示すように、電気炉1の炉蓋2を外して鉄源を装入する電気炉を用いて、本発明を実施した。
【0042】
種湯28として溶銑約40tの入った電気炉1(直流または交流電気炉)の炉蓋2をスライドして開け、装入バケット(図示せず)で800℃に予熱された冷鉄源60tを電気炉内に装入した。冷鉄源として鉄スクラップと型銑を用いた。図1に示すように、電気炉1内において、底部に種湯28の層が形成され、冷鉄源23が堆積部を形成している。
【0043】
製鋼スラグ24として転炉で生成した溶融脱炭スラグまたは溶融脱リンスラグを用い、スラグ鍋4で搬送し、図1に示すように、スラグ鍋4を傾動することにより、電気炉1内に山積みされた冷鉄源23の上方から溶融状態のまま50tの製鋼スラグ24を装入した。装入された製鋼スラグは、温度:1350℃、成分組成がCaO:37.1%、SiO:15.3%、T.Fe:21%、P:3.2%であった。
【0044】
製鋼スラグ装入完了後、炉蓋2を閉めて電極3を降下し、50MWの出力でアーク加熱処理を開始した(図2参照)。
溶融プールができた段階で、図2に示すように、炉蓋2に設けた原料投入管9を経由して、炭材26としてコークス粉を上方からトータル7.5t、断続的に投入した。空気の侵入による脱炭ロスを防ぐためにできるだけ密閉状態を維持した。
途中、炉蓋を開けて60tの冷鉄源の追加装入を行った。
炭材26の添加と合わせて、スラグ改質剤27として珪砂7.0t、アルミナ主体のレンガ屑4.0tを添加した。スラグ改質剤27の全体平均組成は、SiO:63質量%、Al:30質量%であった。スラグ中の還元反応およびメタル層への浸炭促進のために、スラグドア12からランス13を炉内に挿入し、スラグ層内にランスを浸漬し、60Nm/hで窒素ガス攪拌を行った(ランス13の配置について図5参照)。
【0045】
冷鉄源が完全に溶解し、溶銑[C]2%、温度1500℃を超えた時点で通電を停止し、図3に示すようにランス13先端を溶鉄層21内に浸漬して60Nm/hの窒素ガス攪拌を行い、スラグメタル温度の均一化を図った。
【0046】
電気炉精錬完了後、電気炉を傾動して溶鉄層21を構成する溶銑を出湯孔11から取鍋(図示せず)に排出し、炉内に種湯約40tを残した。電気炉を反対側に傾動し、スラグドア12を開けてスラグ排出口とし、スラグ口から還元スラグを排出した。排出された溶銑量は133t、還元スラグは46tであった。メタル成分はC:2.1%、P:0.41%、Si:0.12%であった。スラグ成分は、T.Fe:1.0%、P:0.31%、CaO:39.6%、SiO:31.6%であった。
【0047】
取鍋に収容した溶銑は、酸素および酸化鉄の酸化剤と生石灰を含む脱リン剤で脱リン処理を行って、溶銑中のP:0.11%とした。脱リン処理後溶銑に高炉溶銑137tを加えて270tとし、転炉に装入した。脱リン処理で得られたスラグは6.1tで、スラグ成分は、T.Fe:12.5%、P:15.1%で、冷却後、粉砕して肥料原料とした。
【0048】
[実施例2]
図4図5に示すように、予熱炉7を併設し、予熱炉7から冷鉄源を装入する電気炉1を用いて、本発明を実施した。冷鉄源として鉄スクラップを用いた。炉蓋2には、電気炉1の中心軸に対して予熱炉7から120°の位置に、スラグ投入口6が配置されている。また、スラグ鍋4から流出した溶融スラグをスラグ投入口6に導くための樋5が設けられている。
【0049】
冷鉄源ホッパー8から予熱炉7に冷鉄源を投入し、予熱炉7で冷鉄源23を約800℃に昇温した後、断続的に冷鉄源23を電気炉1内に払い出した。次いで、スラグ投入口6の蓋をあけた。スラグ投入口6の直下に形成された冷鉄源23の堆積厚さが若干薄かったので、スラグ投入口6から固化した製鋼スラグ(固化スラグ25)を20t投入し、冷鉄源23堆積部の上に固化スラグ25を堆積させた。次いで、スラグ鍋4から、樋5を経由して溶融した30tの製鋼スラグ24をスラグ投入口6から炉内に注入し、直下の山積み状態の固化スラグ25及び未溶解冷鉄源23の上に全量装入した。その際、スラグの還元反応を抑制するため、通電は中止した。装入された製鋼スラグは、温度:1350℃、成分組成がCaO:37.1%、SiO:15.3%、T.Fe:21%、P:3.2%であった。
【0050】
スラグ装入完了後、スラグ投入口6を閉めて電極3を降下し、50MWの出力でアーク加熱処理を開始した。
溶融プールができた段階で、図5に示すように、炉蓋2に設けた原料投入管9を経由して、炭材26としてコークス粉を上方からトータル7.5t、断続的に投入した。空気の侵入による脱炭ロスを防止するため、できるだけ密閉状態を維持した。
炭材26添加と合わせて、スラグ改質剤27として珪砂7.0t、アルミナ主体のレンガ屑4.0tを添加した。スラグ改質剤27の全体平均組成は、SiO:63質量%、Al:30質量%であった。スラグ層中の還元反応および溶鉄層への浸炭促進のために、スラグドア12からランス13を炉内に挿入し、図5に示すように、ランス13先端からスラグ層22内に、60Nm/hで窒素ガスを吹込み、攪拌を行った。
【0051】
装入した120tの冷鉄源が完全に溶解し、溶鉄層21のC:2%、温度1500℃を超えた時点で通電を停止した。ランス13の先端が溶鉄層21内に浸漬する位置までランス13を下降し(図3を参照)、60Nm/hの窒素ガス吹込み攪拌を行い、スラグメタル温度の均一化を図った。
【0052】
電気炉精錬完了後、電気炉を傾動して溶鉄層21を構成する溶銑を出湯孔11から取鍋(図示せず)に排出し、炉内に種湯約40tを残した。電気炉を反対側に傾動し、スラグドア12を開け、スラグ口から還元スラグを排出した。排出された溶銑量は133t、還元スラグは52tであった。メタル成分はC:2.1%、P:0.41%、Si:0.12%であった。スラグ成分は、T.Fe:1.0%、P:0.31%、CaO:39.6%、SiO:31.6%であった。
【0053】
取鍋に収容した溶銑は、酸素および酸化鉄の酸化剤と生石灰を含む脱リン剤で脱リン処理を行って、溶銑中のP:0.11%とした。脱リン処理後溶銑に高炉溶銑137tを加えて270tとし、転炉に装入した。脱リンで得られたスラグは6.1tで、スラグ成分は、T.Fe:12.5%、P:15.1%で、冷却後、粉砕して肥料原料とした。
【符号の説明】
【0054】
1 電気炉
2 炉蓋
3 電極
4 スラグ鍋
5 樋
6 スラグ投入口
7 予熱炉
8 冷鉄源ホッパー
9 原料投入管
11 出湯孔
12 スラグドア
13 ランス
21 溶鉄層
22 スラグ層
23 冷鉄源
24 製鋼スラグ
25 固化スラグ
26 炭材
27 スラグ改質剤
28 種湯
図1
図2
図3
図4
図5