(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ブレーキ回路放電システム
(51)【国際特許分類】
H02P 3/04 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
H02P3/04 Z
(21)【出願番号】P 2020525619
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2019023276
(87)【国際公開番号】W WO2019240168
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2018112187
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】酒井 竜児
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-151729(JP,A)
【文献】特開2016-061283(JP,A)
【文献】特開2013-059485(JP,A)
【文献】特開2003-292257(JP,A)
【文献】特開2010-226897(JP,A)
【文献】実開昭53-036011(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P3/00-3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターを駆動させるモーター駆動回路と、
前記モーターの駆動を減速停止させるブレーキを駆動させ、電力遮断時に前記ブレーキを掛けるブレーキ駆動回路と、
前記モーター駆動回路および前記ブレーキ駆動回路の動作を制御し、前記ブレーキ駆動回路に対してブレーキ解除信号を継続的に送信する制御部と、
前記ブレーキ駆動回路の動力線に接続されたコンデンサと、
前記コンデンサが接続された動力線に
、前記コンデンサと並列に接続され、前記コンデンサに蓄えられた電荷を放電する放電抵抗と、
前記放電抵抗に直列接続された放電切替えスイッチと、
前記放電切替えスイッチに接続され、前記放電切替えスイッチの開閉の切替え指令信号を生成する放電指令生成回路と、
を備えたブレーキ回路放電システム。
【請求項2】
前記モーター駆動回路の動力線に直列接続されたモーター駆動回路用コンバータと、前記ブレーキ駆動回路の動力線に直列接続されたブレーキ駆動回路用コンバータと、前記制御部の動力線に直列接続された制御部用コンバータと、をさらに備え、
前記放電抵抗が、前記モーター駆動回路用コンバータ、前記ブレーキ駆動回路用コンバータおよび前記制御部用コンバータ、のそれぞれの入力段に接続されている請求項1に記載のブレーキ回路放電システム。
【請求項3】
前記モーター駆動回路、前記ブレーキ駆動回路、前記制御部および前記コンデンサが、ロボットに内蔵されている請求項
1または2に記載のブレーキ回路放電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ回路放電システムに関し、より詳細には、モーター等の動力源と、その動力源の駆動を減速停止させるブレーキと、それらの動作を制御する制御部と、を備えるブレーキ回路放電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の動力源であるモーターやモーターを備えたロボット等は、別途制御盤を用意して、制御盤の中にあるドライバでモーターへ供給する電力を調整することで、モーターの回転を制御していた。ところが、近年は、ドライバをモーターあるいはロボットに内蔵したものが世に出てきつつある。
【0003】
このようなドライバ内蔵モーターは、制御盤などから通信で命令を受け取ると、モーターへの供給電力を調整しモーターの回転速度を制御したり、ブレーキをかけたりする。特に減速停止は、ドライバが(1)ブレーキの駆動系を動作させてブレーキをかけてモーターの回転を止める、(2)モーターへの供給電力を回転方向とは逆の力がかかるように調整してモーターの回転を止める、または(3)モーターへの供給電力を0にしてモーターの回転を止める、といった方法が用いられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、緊急時に非常停止スイッチを操作することにより、サーボモータの駆動系の動力を遮断するとともに、ブレーキの駆動系を動作させて、多軸ロボットのロボットアームを停止させる動力遮断機能を備えている制御装置が記載されている。これにより、多軸ロボットの駆動モーターを安全且つ確実に停止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ドライバ内蔵モーターでは、ドライバが故障した場合や通信を行うための通信線が断線した場合を考えると、上記(1)の場合は、ブレーキをかけられず、モーターが回転し続ける可能性がある。また、上記(2)の場合は、調整がうまくできず、回転方向に力がかかるように電力供給されたり、回転方向に逆の力がかかり不十分な電力供給が行われたりして、モーターが制御不能に陥る可能性がある。上記(3)の場合はモーターへの動力遮断ができず、電力供給され続ける可能性がある。結果、非常停止がかからない、アームが落下する、ロボットが暴走する、などの危険状態に陥ることが考えられる。
【0007】
このような問題を解決するために、モーターの停止を行う際に、上述した減速停止を行うとともに、特許文献1の動力遮断装置と同様にドライバ内蔵モーターの動力を遮断することで、モーターへの電力供給を完全に0にすることが推奨される。ところが、動力を遮断したとしても、特許文献1の動力遮断装置とは異なり、内蔵されたドライバ内のコンデンサに電荷が残るので、短時間ではあるがドライバ内蔵モーター内に電力が残っている状態ができてしまい、確実にモーターを停止させることができない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、動力源を迅速かつ確実に停止させることができるブレーキ回路放電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係るブレーキ回路放電システムは、モーターを駆動させるモーター駆動回路と、モーターの駆動を減速停止させるブレーキを駆動させ、電力遮断時にブレーキを掛けるブレーキ駆動回路と、モーター駆動回路およびブレーキ駆動回路の動作を制御し、ブレーキ駆動回路に対してブレーキ解除信号を継続的に送信する制御部と、ブレーキ駆動回路の動力線または制御部の動力線の少なくとも一方の動力線に接続されたコンデンサと、コンデンサが接続された動力線に接続され、コンデンサに蓄えられた電荷を放電する放電抵抗と、放電抵抗に直列接続された放電切替えスイッチと、放電切替えスイッチに接続され、放電切替えスイッチの開閉の切替え指令信号を生成する放電指令生成回路と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るブレーキ回路放電システムによれば、ブレーキを駆動する回路に溜まっている電荷を放電し、動力源を迅速かつ確実に停止させることができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るブレーキ回路放電システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るブレーキ回路放電システムの非常停止時の動作を説明するグラフである。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るブレーキ回路放電システムの非常停止時の動作を説明するグラフである。
【
図4】従来例のブレーキ回路放電システムの構成を示すブロック図である。
【
図5】従来例のブレーキ回路放電システムの非常停止時の動作を説明するグラフである。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るブレーキ回路放電システムの構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るブレーキ回路放電システムの非常停止時の動作を説明するグラフである。
【
図8】本発明の第3実施形態に係るブレーキ回路放電システムの構成を示すブロック図である。
【
図9】本発明の第4実施形態に係るブレーキ回路放電システムの構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の第4実施形態に係るブレーキ回路放電システムの非常停止時の動作を説明するグラフである。
【
図11】本発明の第5実施形態に係るブレーキ回路放電システムの構成を示すブロック図である。
【
図12】本発明の第6実施形態に係るブレーキ回路放電システムの非常停止時の動作を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係るブレーキ回路放電システム100について説明する。
図1は、本実施形態に係るブレーキ回路放電システム100の構成を示すブロック図である。また、
図1は、各ブロック内の回路構成を簡単化して例示している。なお、
図1においては、本発明に関するブロックのみを図示しており、その他の各システムに必要なブロックについては省略している。
【0014】
図1に例示したように、ブレーキ回路放電システム100が対象とするアクチュエータは少なくとも、モーターMとモーターMの動作を制御して駆動させるためのモーター駆動回路101と、ブレーキBとブレーキBの動作を制御するためのブレーキ駆動回路102と、モーター駆動回路101およびブレーキ駆動回路102の動作を制御するための制御部103とで構成される。モーター駆動回路101は、直流を交流に変換するインバータ104を備えている。なお、モーター駆動回路101、ブレーキ駆動回路102および制御部103を合わせてドライバ部と呼ぶこととする。また、モーター駆動回路101、ブレーキ駆動回路102、制御部103それぞれには、動作の安定化のために取付けたコンデンサや回路パターンなど電荷を蓄えることのできる静電容量があり、それぞれを、モーター駆動回路用コンデンサ105、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106、制御部用コンデンサ107と呼ぶこととする。モーター駆動回路用コンデンサ105、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106および制御部用コンデンサ107は、それぞれモーター駆動回路101、ブレーキ駆動回路102および制御部103の各動力線に接続されている。
【0015】
このようなアクチュエータに対して、本実施形態に係るブレーキ回路放電システム100は、各コンデンサ105~107に蓄えられた電荷を放電する放電抵抗108、放電切替えスイッチ109および放電指令生成回路110を備えており、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106と並列に挿入される。本実施形態の放電抵抗108は、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106が接続された動力線に、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106と並列に接続されている。
【0016】
また、
図1において本実施形態では本発明の本質的な要素ではないものの、一般的にアクチュエータとして有している要素として以下を含む。本実施形態に係るブレーキ回路放電システム100は、ユーザーの指令を受け取ってそのとおりにアクチュエータの動作を制御したり電力供給を制御したりするためのドライバと、電源112からの電力供給の開閉を行うための電力遮断スイッチ113と、電源電圧をモーター駆動回路101、ブレーキ駆動回路102および制御部103それぞれに合った適切な電圧に変換するコンバータ114、115、116と、モーターMからの回生電力がコンバータ114や電源112に逆流することによる回路故障を防ぐためのダイオード部117とを含む。なお一般的に、コンバータ114、115、116には出力電圧を安定化させるためのコンデンサと、入力電圧を安定化させるためのコンデンサが接続されているが、説明を簡単にするためにモーター駆動回路用コンデンサ105、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106、制御部用コンデンサ107に含まれているものとして扱うものとし、必要に応じて別途説明を行う。
【0017】
次に、以下では、本実施形態に係るブレーキ回路放電システム100の構成要素についてより詳しく説明する。
【0018】
モーターMは、電力を機械的なエネルギーに変換するものであり、その原理や構成は特に限定されるものではない。例えば、DCモーターやACモーターなどの回転型モーターと呼ばれているものやソレノイドコイルを用いた直動型モーターと呼ばれているものである。
【0019】
モーター駆動回路101は、制御部103の信号に基づいてモーターMの回転量や回転速度などを調整する機能を有するものであればよく、特に限定されるものではない。また、モーターMの回転量や回転速度などの調整方法は、モーターMに供給する電圧あるいは電流を変化させる方法であっても良いし、PWMのよう短パルスの周期を変化させる方法であっても良い。さらに、特にモーターMの回転量や回転速度などの調整をする必要が無い場合は、モーター駆動回路101用いなくても良い。
【0020】
ブレーキBは、モーターMあるいはモーターMに接続された可動部に負荷をかけて、モーターMの回転を止めてモーターMの駆動を減速停止させるためのものである。その原理や形状は特に限定されるものではない。例えば、電磁ブレーキのような電磁力を利用したものや、ディスクブレーキやドラムブレーキといった摩擦力を利用したものが使用される。
【0021】
ブレーキ駆動回路102は、制御部103からの信号に基づいてブレーキBをかけるかどうかを操作してブレーキを駆動させるためのものである。単純なものとしてはブレーキBへの電力供給を切替えるためのスイッチでもよい。
【0022】
ただし、ブレーキBとブレーキ駆動回路102は、電力遮断時にブレーキBが掛かり、電力供給時にブレーキ解除状態になるものでなければならない。例えばディスクブレーキであれば、電力遮断時にはディスクブレーキでモーターMあるいはモーターMに接続された可動部を挟み込みブレーキBが掛かった状態であり、電力供給時には、ディスクブレーキが開いてブレーキ解除状態になる。
【0023】
制御部103は、コントローラ111から受けた信号をもとに、モーター駆動回路101あるいはブレーキ駆動回路102に信号を送ってモーターMあるいはブレーキBを制御するモジュールであればよく、その原理や構成について特に限定されるものではない。さらに、コントローラ111が制御部103の機能を含んでいるもので合っても良いし、モーター駆動回路101あるいはブレーキ駆動回路102それぞれに含まれているものでもよい。ただし、制御部103からブレーキ駆動回路102への信号は、制御部103への電力供給が絶たれたときに、ブレーキBが掛かるようにしていることが望ましい。
【0024】
放電抵抗108は、一例として、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106とコンバータ115との間にブレーキ駆動回路用コンデンサ106と並列に接続されている。このような放電抵抗108は、電気回路でよく用いられる抵抗器であり、印加された電圧に応じて電流を制限するとともに電圧降下を起こし、その電流と電圧降下に応じたエネルギーを消費するものであればよく、その形状や材質は特に限定されるものではない。しかしながら、放電抵抗108の目的であるブレーキ駆動回路用コンデンサ106に溜まった電荷を放電するためには、可能な限り小さな抵抗値を持つ抵抗器であることがよく、1Ω以上1,000Ω以下であることが望ましい。具体的には、放電抵抗108とブレーキ駆動用コンデンサ106の積を、放電完了させたい時間以下となるように抵抗値を設計すれば良い。例えば、放電完了させたい時間が1ミリ秒で、ブレーキ駆動用コンデンサ106の静電容量を10マイクロファラッド(μF)とすると、放電抵抗108の抵抗値は10Ω以下となる。また、電荷放電時に瞬時的に大電流が流れるため耐ラッシュ性のあるものが好ましい。なお、本明細書では詳細な記載は省くが、放電抵抗108は抵抗器に限らずとも、電力を消費して他のエネルギーに変換する素子であればよく、例えばLEDを使用して電力を光エネルギーに変換するなどしてもよい。
【0025】
放電切替えスイッチ109は、放電抵抗108とグラウンドとの間に直列接続されている。放電切替えスイッチ109は、放電切替えスイッチ放電抵抗108とブレーキ駆動回路用コンデンサ106とで閉回路を形成するか否かを切替えるためのものであればよく、その形状や材質、原理は特に限定されるものではない。例えば、トランジスタなどの半導体スイッチや電磁リレーが挙げられるが、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106に溜まった電荷を、必要なタイミングで可能な限り早く放電するためには、放電切替え指令を受け取ってからスイッチ切替えまでの応答速度が早い半導体スイッチが望ましい。なお、スイッチ切替えに必要な駆動回路については図示していないが、必要に応じて放電切替えスイッチ109に含まれているものとする。
【0026】
放電指令生成回路110は、その出力側が放電切替えスイッチ109に接続され、放電切替えスイッチ109の開閉の切替え指令信号を生成する。放電指令生成回路110は、放電切替えスイッチ109が開閉状態を切替えるタイミングを決定し、切替えを行わせるためのものであり、その形状や材質、原理は特に限定されるものではない。例えば、ロジックICやダイオードを用いた論理回路やコンパレータを用いた比較回路や、前述したコントローラ、制御部、外付けマイコンなどに含まれるソフトウェア処理などで実現されてもよい。放電指令生成回路110の入力側は、ユーザーが止めたいと指令(非常停止または停止命令)を出したのち、反応する箇所に接続すればよい。例えば、
図1において、放電指令生成回路110の入力側は、指令、コントローラ111、動力遮断スイッチ113の入力側、動力遮断スイッチ113の補助接点、動力遮断スイッチ113の出力側、制御部103またはブレーキ駆動回路102の入力側、のいずれかに接続することができる。
【0027】
コントローラ111は、ユーザーからの指令をもとに各部を制御するためのものである。一般的には、電力遮断スイッチ113の開閉およびユーザーからの指令を制御部103への指令値に変換する役割を有している。コントローラ111と制御部103および電力遮断スイッチ113とは接続されている。コントローラ111からそれぞれに対する制御信号は、ロジック信号や通信信号などどのような信号を用いても良い。本実施形態では、説明のために点線をロジック信号、ブロック矢印を通信信号とする。また、太線は各動力線である。
【0028】
電力遮断スイッチ113は、コントローラから信号を受け取り、信号に応じて電源112から後段に供給される電力のオンオフを切替えるためのものである。一般的には、ブレーカー、リレー、電磁開閉器やマグネットスイッチなどのメカニカル接点を持つものやFETやIGBTなどの半導体スイッチを使用できるが、これらに限定せずとも切替えさえできればどのようなものでも良い。なお、電力遮断スイッチ113は、説明の都合上コントローラ111から信号を受け取って、切替えを行う構成にしているが、ユーザーが直接操作できても良いし、制御部103からの信号で操作されるものでも良い。なお、スイッチ切替えに必要な駆動回路については図示していないが、電力遮断スイッチ113に含まれているものとする。また、電磁開閉器などには、スイッチの状態に合わせて開閉状態が変わる補助接点と呼ばれる物があるものが望ましい。
【0029】
コンバータ114~116は、入力電圧を任意の出力電圧に変換するためのモジュールであり、また、交流を直流に変換するといった機能を果たすものもある。本実施形態のコンバータ114~116は、電源112から供給された電圧を、モーター駆動回路101、ブレーキ駆動回路102および制御部103のそれぞれにあった電圧に変換するために用いられている。なお、コンバータ114~116は、それぞれをモーター駆動回路101の動力線に直列接続されたモーター駆動回路用コンバータ114、ブレーキ駆動回路102の動力線に直列接続されたブレーキ駆動回路用コンバータ115、制御部103の動力線に直列接続された制御部用コンバータ116と呼ぶこととする。電源112の電圧が各部の定格入力電圧に合っているのであればコンバータ114~116は不要であるし、モーター駆動回路101とブレーキ駆動回路102と制御部103のうち同じ定格入力電圧のものはまとめてしまっても良い。さらにはモーター駆動回路用コンバータ114の出力をブレーキ駆動回路用コンバータ115の入力とするような多段接続構成でも良い。
【0030】
ダイオード部117は、モーターMの停止時または減速時にモーターMで発生した回生電力が逆流して電源112やコンバータ114を破壊しないように保護するための整流素子である。回生電力が問題ない程度に小さいのであれば特に必要なものではない。
【0031】
次に、放電切替えスイッチが開閉状態を切替えるタイミングについて以下で説明する。
【0032】
本発明の目的はアクチュエータのブレーキを迅速かつ確実に駆動させることである。そのためには、ブレーキBを駆動させたいタイミングに合わせて、放電指令生成回路110が放電切替えスイッチ109に放電指令を出力する必要がある。ブレーキBの駆動には、まず平常時に行う制御停止がある。本実施形態では、コントローラ111が、ユーザーからブレーキBをかける指令を受け取った後、制御部103にブレーキBを駆動させるためにブレーキ開始指令を送る。そうすると制御部103がブレーキ駆動回路102を制御し、ブレーキBがかかる。このような場合、ユーザーからコントローラ111への指令、コントローラ111から制御部103への指令、制御部103からブレーキ駆動回路102への指令のいずれかを放電指令生成回路110の入力として用いれば良い。これは、ブレーキBをかけようとしてからブレーキBが掛かるまで、各部へ指令が送られるので、ブレーキBをかけようとするタイミングを知るには上記指令を監視しておけば良いためである。
【0033】
次に、緊急時に行う非常停止があげられる。非常停止は、アクチュエータが制御不能になった場合や人に危害を加えかねない場合に、全てに優先してアクチュエータを停止させる動作である。基本的には、前述した制御停止の動作と同じであるが、大きな違いとしてはコントローラ111が電力遮断スイッチ113に電力遮断指令を送り、電源112を遮断することである。なお、製品によっては電源112を遮断するとともに制御停止も同時に行うものもあるがこの場合に対してもブレーキ回路放電システム100は有効である。本実施形態では、非常停止時に制御停止も行う場合について説明する。
【0034】
このように電源112を遮断することの目的は、制御部103やブレーキ駆動回路102などブレーキ操作に関わる各要素のいずれかが故障した場合であっても、モーターMへの電力供給を停止し動けなくするとともに、ブレーキ駆動回路102への電力供給を停止しブレーキ解除状態を維持できない状態にすることでブレーキBをかけるためである。
【0035】
しかしながら、いくら電力供給を停止しても、前述したようにブレーキ駆動回路用コンデンサ106に電荷が溜まっていると、その間はブレーキ駆動回路用コンデンサ106に溜まっている電荷がブレーキ駆動回路102に供給され、ブレーキ解除状態を維持できてしまう。そこで、直ちに放電切替えスイッチ109を閉じてブレーキ駆動回路用コンデンサ106に溜まった電荷を放電させてやれば、ブレーキ駆動回路102が動作するための電力を早急になくし、ブレーキBが掛かるまでの時間を短縮することができる。
【0036】
すなわち制御停止の場合に加えて、コントローラ111から電力遮断スイッチ113への電力遮断指令や電力遮断スイッチ113の出力側の電圧低下をトリガとした信号を、放電指令生成回路110の入力として用いれば良い。しかしながら、コンバータ114の入力段などが持っている静電容量成分に電荷が蓄えられているため、電力遮断後であっても、電力遮断スイッチ113の出力電圧が瞬時に低下するわけではないため、電力遮断スイッチ113の出力電圧の低下をトリガとする場合は、電圧低下したと判断するしきい値電圧に達するまでに時間を要する。すなわち、実際に非常停止したいタイミングに対して遅延が発生してしまうと言った問題があることや、電力遮断スイッチ113が故障している場合にはそもそも電圧低下が起こらないといった問題があるため、コントローラ111の電力遮断指令やユーザーからの停止指令を利用することが望ましい。
【0037】
なお、電力遮断スイッチ113が故障した場合を考慮すると、放電切替えスイッチ109を閉じても、放電抵抗108ではコンバータ115からの供給電力を消費するだけで、ブレーキ解除に十分な電力が供給されている状態が起こりうる。このような場合は放電指令生成回路110の出力を利用してコンバータ115の動作停止を行うなど、電力遮断スイッチ113とは別にブレーキBへの電力を遮断するスイッチを追加して電力遮断できるようにしておくことが望ましい。なお、上述の説明では、制御停止と非常停止の差として電力遮断を上げたが、かならずしも区別をしなければならないものではなく、制御停止時にも電力遮断を行ってもよい。
【0038】
したがって、以下では、本実施形態における非常停止時の動作を例に上げて、ブレーキ回路放電システムの説明を行う。
【0039】
まず、どこも故障していない正常な状態において、非常停止信号が発生してから時間t後の各点での状態を
図2に示す。
図2は、本実施形態に係るブレーキ回路放電システム100の非常停止時の動作を説明するグラフである。ただし、使用している部品や制御方式によって、通信時間や動作時間による遅れ量が変わるため、本明細書の説明通りのタイミングにはならず多少のズレを生じうるが、このズレによって本実施形態の効果が損なわれるものではない。
【0040】
まず時間t0で非常停止信号が発生する。すると時間t1に、非常停止信号を受け取ったコントローラ111が、放電指令生成回路110に向けて放電信号を、制御部103に向けてブレーキ開始命令を、電力遮断スイッチ113に向けて電力遮断信号を、それぞれ送る。このとき、放電信号を受けとった放電指令生成回路110が、放電切替えスイッチ109を閉じて、放電抵抗108に電流が流れる状態にする。するとブレーキ駆動回路102の入力電圧が電圧降下し始めるが、ブレーキ駆動回路用コンバータから電力が供給されているので、この電圧降下は緩やかである。ここで、電力遮断信号と放電信号はロジック信号、ブレーキ開始命令は通信信号で説明しているが、前述したとおり信号の種別によって本発明の効果が損なわれるものではない。
【0041】
次に、時間t2になると、ブレーキ開始命令を受け取った制御部が、ブレーキ駆動回路102に向けてブレーキBをかけるようにブレーキ信号を送る。
【0042】
さらに時間t3になると、ブレーキ信号を受け取ったブレーキ駆動回路102が、ブレーキ解除をとき、ブレーキBがかかった状態になりモーターMが減速し始める。
【0043】
そして時間t4になると、電力遮断信号を受け取った電力遮断スイッチ113が、各コンバータ114~116への電力供給を遮断する。すると今まで放電抵抗108で消費されているエネルギーをまかなっていたブレーキ駆動回路用コンバータ115からの電力供給がなくなるので、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106に溜まっていた電荷が、放電抵抗108で消費されるようになる。結果、ブレーキ駆動回路102の入力電圧が急激に電圧降下する。
【0044】
なお時間t5になると、ブレーキ駆動回路102の入力電圧が、ブレーキ解除状態を保持できなくなるまで電圧降下するが、すでに時間t3でブレーキがかかっているので、とくに状態が変化することはない。
【0045】
また時間t6になると、ブレーキ駆動回路のコンデンサの電荷がなくなり、ブレーキ駆動回路102の入力電圧が0となるが、これもとくに状態が変化することはない。
【0046】
最後に時間t7になると、モーターMの回転数が0となり、アクチュエータは完全に停止した状態になる。
【0047】
なお、今回の例では、ブレーキ開始信号によってブレーキBが掛けられる場合を説明したが、ブレーキ開始信号がブレーキ駆動回路102に到達するまでの遅れと、ブレーキ駆動回路102の入力電圧の電圧低下の速度、電力遮断スイッチ109の遅れによっては、ブレーキ駆動回路102の入力電圧が、ブレーキBを解除するために必要な電圧を下回ることでブレーキをかける場合があるがこのような場合でも本発明は有効である。
【0048】
次に、本発明の効果を説明するために、本実施形態における制御部103が故障した状態について説明する。
図3は、本実施形態に係るブレーキ回路放電システム100におけるの非常停止時の動作を説明するグラフである。
図3は、非常停止信号が発生してから時間t後の各点での状態を示している。
【0049】
まず時間t0で非常停止信号が発生する。すると時間t1に、非常停止信号を受け取ったコントローラ111が、制御部103に向けてブレーキ開始命令を、電力遮断スイッチ113に向けて電力遮断信号を、放電指令生成回路110に向けて放電信号を、それぞれ送る。このとき、放電信号を受けとった放電指令生成回路110が、放電切替えスイッチ109を閉じて、放電抵抗108に電流が流れる状態にする。するとブレーキ駆動回路102の入力電圧が電圧降下し始めるが、ブレーキ駆動回路用コンバータ115から電力が供給されているので、この電圧降下は緩やかである。
【0050】
次に、時間t2になると、本来、ブレーキ開始命令を受け取った制御部103が、ブレーキ駆動回路102に向けてブレーキBをかけるようにブレーキ信号を送るはずが、制御部103が故障しているためブレーキ信号が送られない。
【0051】
すなわち、時間t3になっても、ブレーキ駆動回路102がブレーキ信号を受け取らないので、ブレーキ解除の状態が続き、ブレーキBがかからず、モーターMは減速しない。
【0052】
一方で時間t4になると、電力遮断信号を受け取った電力遮断スイッチ113が、各コンバータ114~116への電力供給を遮断する。すると今まで放電抵抗108で消費されているエネルギーをまかなっていたブレーキ駆動回路用コンバータ115からの電力供給がなくなるので、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106に溜まっていた電荷が、放電抵抗108で消費されるようになる。結果、ブレーキ駆動回路102の入力電圧が急激に電圧降下しはじめる。
【0053】
さらに時間t5になると、ブレーキ駆動回路入力電圧が、ブレーキ解除状態を保持できなくなるまで電圧降下することで、ブレーキ解除が解かれてブレーキBがかかり、モーターMが減速し始める。
【0054】
また時間t6になると、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106の電荷がなくなり、ブレーキ駆動回路102の入力電圧が0となるが、ここでとくに状態が変化することはない。
【0055】
最後に時間t7を経て時間t8になると、モーターの回転数が0となり、アクチュエータは完全に停止した状態になる。
【0056】
以上のように、正常な状態にくらべると時間はかかるものの、ブレーキ回路放電システム100によれば、アクチュエータを完全に停止させることができる。
【0057】
<従来例>
本発明の効果をよりわかりやすくするために以下では従来例の説明を行う。
図4は、従来例のブレーキ回路放電システムの構成を示すブロック図である。なお、
図4では、各ブロック内の回路構成を簡単化して例示している。
【0058】
ブレーキ回路放電システム400が対象とするアクチュエータは、第1実施形態のブレーキ回路放電システム100と同様に、モーターMと、モーター駆動回路401と、ブレーキBと、ブレーキ駆動回路402と、制御部403とで構成される。モーター駆動回路401は、インバータ404を備えている。また、モーター駆動回路401、ブレーキ駆動回路402、制御部403それぞれには、モーター駆動回路用コンデンサ405、ブレーキ駆動回路用コンデンサ406、制御部用コンデンサ407が取り付けられている。
【0059】
また、従来例に係るブレーキ回路放電システム400は、コントローラ411と、電源412からの電力供給の開閉を行うための電力遮断スイッチ413と、電源電圧をモーター駆動回路401、ブレーキ駆動回路402および制御部403それぞれに合った適切な電圧に変換するコンバータ414、415、416と、モーターMからの回生電力がコンバータ414や電源412に逆流することによる回路故障を防ぐためのダイオード部417とを含む。
【0060】
すなわち、従来例のブレーキ回路放電システム400は、第1実施形態のブレーキ回路放電システム100から、放電抵抗108、放電切替えスイッチ109および放電指令生成回路110を取り除いたシステムである。
【0061】
次に、従来例における制御部403が故障した状態について説明する。
図5は、従来例に係るブレーキ回路放電システム400におけるの非常停止時の動作を説明するグラフである。
図5は、非常停止信号が発生してから時間t後の各点での状態を示している。
【0062】
まず時間t0で非常停止信号が発生する。すると時間t1に、非常停止信号を受け取ったコントローラ411が、電力遮断スイッチ413に向けて電力遮断信号を、制御部403に向けてブレーキ開始命令をそれぞれ送る。ここで、従来例のブレーキ回路放電システム400は、放電抵抗を備えていないので、放電抵抗に電流が流れることによりブレーキ駆動回路402の入力電圧が電圧降下するという現象は起こらない。
【0063】
次に、時間t2になると、本来、ブレーキ開始命令を受け取った制御部403が、ブレーキ駆動回路402に向けてブレーキをかけるようにブレーキ信号を送るはずが、制御部403が故障しているためブレーキ信号が送られない。
【0064】
すなわち、時間t3になっても、ブレーキ駆動回路402がブレーキ信号を受け取らないので、ブレーキ解除の状態が続き、ブレーキBがかからず、モーターMは減速しない。
【0065】
そして時間t4になって、電力遮断信号を受け取った電力遮断スイッチ413が、各コンバータ414~416への電力供給を遮断する。すると、ブレーキ駆動回路用コンバータ415からの電力供給がなくなるが、ブレーキ駆動回路用コンデンサ406に溜まっていた電荷が、放電抵抗で消費されないので、ブレーキ駆動回路402の入力電圧が急激に電圧降下することはない。ただし、第1実施形態での説明は割愛したが、ブレーキ駆動回路402の消費電力やコンデンサ406の自然放電があるため、ブレーキ駆動回路402の入力電圧が緩やかに電圧降下することがある。以下では、このような場合について説明する。
【0066】
このまま時間t5から時間t8まで時間が経過しても、ブレーキ駆動回路402の入力電圧が、ブレーキ解除状態を保持できなくなるまで電圧降下しないため、ブレーキ解除状態が続き、とくに状態が変化することはない。なお、ブレーキBがかかっていないのでブレーキBによるモーターの回転数減少は見られないが、時間t4で電力遮断スイッチ413によってモーター駆動回路402への電力供給も断たれているため、モーターMの回転数を維持できなくなり、緩やかな減速が進む。ただし、このような現象については、モーター駆動回路用コンデンサ405にたまった電荷やモーターMの摩擦の影響などを受け、説明が煩雑となり、従来例の効果がわかりにくくなってしまうので、ないものとして説明する。
【0067】
やっと時間t9になると、ブレーキ駆動回路402の入力電圧が、ブレーキ解除状態を保持できなくなるまで電圧降下することで、ブレーキ解除が解かれてブレーキBがかかり、モーターMが減速し始める。
【0068】
以上のように、第1実施形態と従来例とを比較すると、第1実施形態のブレーキ回路放電システム100がより早くブレーキBをかけることができることがわかる。
【0069】
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態に係るブレーキ回路放電システム600の構成を示すブロック図である。また、ブレーキ回路放電システム600の各ブロック内の回路構成を簡単化して例示している。なお、
図6においては、本実施形態に関するブロックのみを図示しており、その他の各システムに必要なブロックについては省略している。
【0070】
本実施形態と第1実施形態との相違点は、第1に、放電指令生成回路の一例としてコントローラ111から電力遮断スイッチ113への信号を利用する構成であることである。第2に、モーター駆動回路用コンバータ114が、ブレーキ駆動回路用コンバータ115を共用した構成であることである。以下では、モーター駆動回路用コンバータ114とブレーキ駆動回路用コンバータ115をあわせて駆動回路用コンバータ114と、モーター駆動回路入力電圧とブレーキ駆動回路入力電圧を合わせて駆動回路入力電圧と、呼ぶこととする。
【0071】
本実施形態における放電指令生成回路はNOT回路601であり、NOT回路601には、入力信号の論理を反転させる回路と、放電切り替えスイッチ109を操作するための回路とが含まれている。コントローラ111から電力遮断スイッチ113へ接続された信号線がNOT回路601の入力にも接続されており、NOT回路601の出力が、放電切替えスイッチ109の信号入力端子に接続されている。ここで、電力遮断スイッチ113は、入力がHighレベルで閉、LOWレベルで開である。また、放電切替えスイッチ109も、入力がHighレベルで閉、LOWレベルで開である。すなわち、電力遮断スイッチ113と放電切替えスイッチ109とでおなじ論理であり、これは、アクチュエータ動作時には電力供給をして放電は行わない、アクチュエータ停止時には電力供給をせず放電は行う、という動作を実現するためである。したがって、電力遮断スイッチ113と放電切替えスイッチ109の論理自体が反対であれば、NOT回路601内の論理を反転させる回路は不要である。また、本実施例では、コントローラ111から電力遮断スイッチ113へ接続された信号線を用いたが、電力遮断スイッチがマグネットスイッチの場合は、補助接点にNOT回路601の入力を接続しても良い。ただしこの場合、マグネットスイッチ故障時には補助接点が動作しない可能性があるため、本実施例のようにコントローラ111からの信号を直接利用したほうが望ましい。
【0072】
本実施形態におけるコンバータ114は、モーターMとブレーキBそれぞれに電力供給を行っている。これは前述したようにモーター駆動回路101とブレーキ駆動回路102の定格入力電圧が許容可能な程同等である場合を想定している。このような構成をするにあたって、注意点としては、ダイオード部117よりもモーターMあるいはブレーキB側に放電抵抗108および放電切替えスイッチ108を接続する必要がある。なぜならば、もしダイオード部117よりもコンバータ114側に放電抵抗108および放電切替えスイッチ108を接続してしまうと、ダイオード部117によって、モーター駆動回路用コンデンサ105あるいはブレーキ駆動回路用コンデンサ106に溜まった電荷が、ダイオード部117の整流作用のせいで放電抵抗108に流れ込まなくなってしまい、本実施形態の効果が出ないためである。
【0073】
次に、本実施形態の制御部103が故障した状態において、非常停止信号が発生してから時間t後の各点での状態について
図7を用いて説明する。
図7は、本実施形態に係るブレーキ回路放電システム600の非常停止時の動作を説明するグラフである。
【0074】
まず、時間t0で非常停止信号が発生する。すると時間t1に、非常停止信号を受け取ったコントローラ111が、電力遮断スイッチ113に向けて電力遮断信号を、放電指令生成回路に向けて放電信号を、制御部103に向けてブレーキ開始命令をそれぞれ送る。このとき、放電信号を受けとった放電指令生成回路が、放電切替えスイッチ109を閉じて、放電抵抗108に電流が流れる状態にする。するとモーター駆動回路101の入力電圧が電圧降下し始めるが、モーター駆動回路用コンバータ114から電力が供給されているので、この電圧降下は緩やかである。ここで、モーター駆動回路101の入力電圧の電圧降下によって、モーターMに供給される電力が少なくなり回転数を維持できなくなるため、モーターMが減速し始める。
【0075】
次に、時間t2になると、本来、ブレーキ開始命令を受け取った制御部103が、ブレーキ駆動回路102に向けてブレーキBをかけるようにブレーキ信号を送るはずが、制御部103が故障しているためブレーキ信号が送られない。
【0076】
すなわち時間t3になっても、ブレーキ駆動回路102がブレーキ信号を受け取らないので、ブレーキ解除の状態が続き、ブレーキBがかからず、モーターMは減速しない。
【0077】
一方で時間t4になると、電力遮断信号を受け取った電力遮断スイッチ113が、各コンバータ114、116への電力供給を遮断する。すると今まで放電抵抗108で消費されているエネルギーをまかなっていた駆動回路用コンバータ114からの電力供給がなくなるので、モーター駆動回路用コンデンサ105およびブレーキ駆動回路用コンデンサ106に溜まっていた電荷が、放電抵抗108で消費されるようになる。結果、駆動回路入力電圧が急激に電圧降下し始める。
【0078】
さらに時間t5になると、駆動回路入力電圧が、ブレーキ解除状態を保持できなくなるまで電圧降下することで、ブレーキ解除が解かれてブレーキBがかかり、モーターMがさらに減速する。
【0079】
また時間t6になると、ブレーキ駆動回路用コンデンサ106の電荷がなくなり、ブレーキ駆動回路入力電圧が0となるが、これもとくに状態が変化することはない。
【0080】
最後に時間t7.5になると、モーターの回転数が0となり、アクチュエータは完全に停止した状態になる。
【0081】
以上のように、本実施形態に係るブレーキ回路放電システム600と第1実施形態に係るブレーキ回路放電システム100とを比較すると、駆動回路入力電圧の電圧降下によってモーターMの回転自体を抑えることができるため、ブレーキ回路放電システム600のほうがより早くブレーキBをかけることができることがわかる。
【0082】
<第3実施形態>
図8は、本発明の第3実施形態に係るブレーキ回路放電システム800の構成を示すブロック図である。また、ブレーキ回路放電システム800の各ブロック内の回路構成を簡単化して例示している。なお、
図8においては、本実施形態に関するブロックのみを図示しており、その他各システムに必要なブロックについては省略している。
【0083】
本実施形態に係るブレーキ回路放電システム800も、第2実施形態に係るブレーキ回路放電システム600と同様に、コントローラ111から電力遮断スイッチ113へ接続された信号線から枝分れして、NOT回路801が接続されている。本実施形態と第2実施形態との相違点は、過電圧検出回路802を追加し、過電圧検出回路802の出力信号と前述した切替え指令信号(放電信号指令)との論理和を放電切替えスイッチ109に出力するOR回路803を追加した構成であることである。ここで、NOT回路801と過電圧検出回路802とOR回路803とを備えたものが本実施例における放電指令生成回路である。なお、過電圧検出回路802は、ダイオード部117とモーター駆動回路101との間に接続されている。すなわち、過電圧検出回路802は、モーター駆動回路用コンデンサ105が接続されたモーター駆動回路101の動力線と放電抵抗108との間に接続されている。また、OR回路803は、NOT回路801の出力および過電圧検出回路802の出力に接続されている。
【0084】
また、本実施形態では、アクチュエータ810と、アクチュエータ810を除く要素を含む制御盤812とでそれぞれ別の筐体に格納されており、それぞれの信号線や動力線が筐体間ケーブルで接続されている。アクチュエータ810は、モーター駆動回路101、ブレーキ駆動回路102、制御部103および各コンデンサ105~107を含むドライバ811を備えている。本実施形態に係るブレーキ回路放電システム800は、一例として、ドライバ811を備えたアクチュエータ810を内蔵するロボットに適用することができる。
【0085】
ここで過電圧検出回路802は、ダイオード部117とモーター駆動回路101との間の接続部の電圧が、ある閾値を超えたときに放電切替えスイッチ109を閉じるような出力を生成する機能を有するものであればよく、その原理や構成について特に限定されるものではない。例えば、コンパレータと基準電圧を用いた比較回路や、ツェナーダイオードを利用したものでもよい。さらにはA/Dコンバータで電圧値をデジタル変換したものをマイコンなどに取り込みソフトウェア上で比較してもよい。
【0086】
過電圧検出回路802は、モーターMをブレーキBで減速したときや、外力によってモーターMが加速されたときに発生する回生電力によっておきる過電圧を検出するためのものである。このような過電圧を検出した際に、放電切替えスイッチ109を閉じることで回生電力を放電抵抗108で消費させ過電圧状態を抑制することで、回路の故障を防止することが出きる。
【0087】
<第4実施形態>
図9は、本発明の第4実施形態に係るブレーキ回路放電システム900の構成を示すブロック図である。また、ブレーキ回路放電システム900の各ブロック内の回路構成を簡単化して例示している。なお、
図9においては、本実施形態に関するブロックのみを図示しており、その他各システムに必要なブロックについては省略している。本実施形態と第1実施形態との相違点は、放電抵抗108が、ブレーキ駆動回路用コンバータ115ではなく制御部用コンバータ116の出力に、制御部用コンデンサ107と並列に接続されていることである。
【0088】
ここで、制御部103からブレーキ駆動回路102へ送る信号を、制御部103が電力不足により停止した際にはブレーキBをかけるようにしておく。具体的には、上記信号がHIGHレベルの時にブレーキBが解除されるようにすればよく、さらに好適には上記信号を伝えるための信号線をプルダウンしておけばよい。あるいは制御部103とブレーキ駆動回路102との間を通信によって接続し、ある周期でブレーキ解除信号を送らなければ、ブレーキBがかかるようにしておけば良い。
【0089】
このような構成であれば、制御部103が暴走した場合や故障した場合であっても、電力遮断スイッチ113によって制御部用コンバータ116への電力供給を断ち、放電抵抗108で制御部用コンデンサ107に溜まった電荷を放電することで、制御部103を電力不足により停止し、ブレーキBが掛かるので、結果アクチュエータの誤作動を防ぐことができる。
【0090】
次に、本実施形態の制御部103が故障した状態において、非常停止信号が発生してから時間t後の各点での状態を
図10に示す。
図10は、本発明の第4実施形態に係るブレーキ回路放電システムの非常停止時の動作を説明するグラフである。
【0091】
まず時間t0で非常停止信号が発生する。すると時間t1に、非常停止信号を受け取ったコントローラ111が、電力遮断スイッチ113に向けて電力遮断信号を、放電指令生成回路110に向けて放電信号を、制御部103に向けてブレーキ開始命令をそれぞれ送る。このとき、放電信号108を受けとった放電指令生成回路110が、放電切替えスイッチ109を閉じて、放電抵抗108に電流が流れる状態にする。すると制御部入力電圧が電圧降下し始めるが、制御部用コンバータ116から電力が供給されているので、この電圧降下は緩やかである。
【0092】
まず時間t0で非常停止信号が発生する。すると時間t1に、非常停止信号を受け取ったコントローラ111が、電力遮断スイッチ113に向けて電力遮断信号を、放電指令生成回路110に向けて放電信号を、制御部103に向けてブレーキ開始命令をそれぞれ送る。このとき、放電信号を受けとった放電指令生成回路110が、放電切替えスイッチ109を閉じて、放電抵抗108に電流が流れる状態にする。すると制御部入力電圧が電圧降下し始めるが、制御部用コンバー116本発明の第4実施形態に係るブレーキ回路放電システムの非常停止時の動作を説明するグラフである。力が供給されているので、この電圧降下は緩やかである。
【0093】
次に、時間t2になると、本来、ブレーキ開始命令を受け取った制御部103が、ブレーキ駆動回路102に向けてブレーキBをかけるようにブレーキ信号を送るはずが、制御部が故障しているためブレーキ信号が送られない。
【0094】
すなわち時間t3になっても、ブレーキ駆動回路102がブレーキ信号を受け取らないので、ブレーキ解除の状態が続き、ブレーキBがかからず、モーターMは減速しない。
【0095】
一方で時間t4になると、電力遮断信号を受け取った電力遮断スイッチ113が、各コンバータ114~116への電力供給を遮断する。すると今まで放電抵抗108で消費されているエネルギーをまかなっていた制御部用コンバータ116からの電力供給がなくなるので、制御部用コンデンサ107に溜まっていた電荷が、放電抵抗108で消費されるようになる。結果、制御部103の入力電圧が急激に電圧降下し始める。
【0096】
ただし時間t5になっても、ブレーキ駆動回路102の入力電圧が電圧降下しないので、ブレーキ解除状態が保持されている。
【0097】
さらに時間t6になると、制御部用コンデンサ107の電荷がなくなり、制御部103の入力電圧が0となり、制御部103が停止する。ここで制御部103が電力不足によって停止したため、前述のとおり制御部103からブレーキ駆動回路102へブレーキBをかける命令の信号が送られることになる。
【0098】
そして時間t7になると、ブレーキ解除が解かれ、モーターMの減速が始まる。
【0099】
最後に時間t8を経て時間t9になると、モーターMの回転数が0となり、アクチュエータは完全に停止した状態になる。
【0100】
以上のように、本実施形態に係るブレーキ回路放電システム900と第1実施形態に係るブレーキ回路放電システム100とを比較すると、駆動回路入力電圧の電圧降下によってモーターMの回転自体を抑えることができるため、ブレーキ回路放電システム900のほうがより早くブレーキBをかけることができることがわかる。また、ブレーキ回路放電システム900は、故障して制御不能となった制御部103を迅速かつ確実に停止することができるため、制御部103が誤った信号を送ることによる誤動作を防ぐことができる。
【0101】
<第5実施形態>
図11は、本発明の第5実施形態に係るブレーキ回路放電システム1100の構成を示すブロック図である。また、ブレーキ回路放電システム1100の各ブロック内の回路構成を簡単化して例示している。なお、
図11においては、本実施形態に関するブロックのみを図示しており、その他各システムに必要なブロックについては省略している。本実施形態と第1実施形態との相違点は、放電抵抗108がコンバータ114~116のそれぞれの入力段に接続されていることである。
【0102】
本実施形態に係るブレーキ回路放電システム1100の構成によれば、モーター駆動回路101、ブレーキ駆動回路102および制御部103それぞれのコンバータ114~116に含まれているコンデンサに溜まった電荷を同時に放電することでアクチュエータの回転および制御を同時に停止することが可能になる。ただし、コンバータ114~116より後の回路に逆流防止回路が含まれているような場合には、モーター駆動回路101、ブレーキ駆動回路102および制御部103の各コンデンサ105~107の放電効果を得ることはできないため注意が必要である。
【0103】
<第6実施形態>
次に、本発明の第6実施形態について、放電抵抗108の抵抗値、各種遅れ量の差による影響を説明する。本実施形態と第1実施形態との相違点は、放電抵抗108の抵抗値を可能な限り小さくしたことにある。本実施形態では、10Ωの放電抵抗108を用いている。このように、第1実施形態に係るブレーキ回路放電システム100と同様の構成を備える本実施形態に係るブレーキ回路放電システムに対して、どこも故障していない正常な状態の場合の非常停止信号が発生してから時間t後の各点での状態について
図12を用いて説明する。
図12は、本実施形態に係るブレーキ回路放電システムの非常停止時の動作を説明するグラフである。
【0104】
まず時間t0で非常停止信号が発生する。すると時間t1に、非常停止信号を受け取ったコントローラ111が、電力遮断スイッチ113に向けて電力遮断信号を、放電指令生成回路110に向けて放電信号を、制御部103に向けてブレーキ開始命令をそれぞれ送る。このとき、放電信号を受けとった放電指令生成回路110が、放電切替えスイッチ109を閉じて、放電抵抗108に電流が流れる状態にする。するとブレーキ駆動回路102の入力電圧が電圧降下し始めるが、放電抵抗108の抵抗値は可能な限り小さくしており、動力線とGNDがショートしたときに近い電流が流れる。したがって、ブレーキ駆動回路用コンバータ115から電力が供給されて入るものの、供給が追いつかず、急激に電圧降下する。
【0105】
次に、時間t1.5になると、ブレーキ駆動回路102の入力電圧が、ブレーキ解除状態を保持できなくなるまで電圧降下することで、ブレーキ解除が解かれてブレーキBがかかり、モーターMの減速が始まる。
【0106】
ここで第1実施形態に係るブレーキ回路放電システム100であれば、制御部103が、時間t2でブレーキ開始命令を受け取り、時間t3でブレーキBがかかるところ、本実施形態に係るブレーキ回路放電システムでは制御部103がブレーキ開始命令を受け取り終わる前にブレーキBをかけることができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、ブレーキ駆動回路を備えるブレーキ回路放電システムに関するものであり、産業上の利用可能性を有するものである。
【符号の説明】
【0108】
100、400、600、800、900、1100 ブレーキ回路放電システム
101、401 モーター駆動回路
102、402 ブレーキ駆動回路
103、403 制御部
104、404 インバータ
105~107、405~407 コンデンサ
108 放電抵抗
109 放電切替えスイッチ
110 放電指令生成回路
111、411 コントローラ
112、412 電源
113、413 電力遮断スイッチ
114~116、414~416 コンバータ
117、417 ダイオード部
601、801 NOT回路
802 過電圧検出回路
803 OR回路
810 アクチュエータ
811 ドライバ
812 制御盤
M モーター
B ブレーキ