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特許7364950回転電気機械及びその製造方法、並びにそれを備えた圧縮機、送風機、及び冷凍装置
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  • 特許-回転電気機械及びその製造方法、並びにそれを備えた圧縮機、送風機、及び冷凍装置 図1
  • 特許-回転電気機械及びその製造方法、並びにそれを備えた圧縮機、送風機、及び冷凍装置 図2
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  • 特許-回転電気機械及びその製造方法、並びにそれを備えた圧縮機、送風機、及び冷凍装置 図11
  • 特許-回転電気機械及びその製造方法、並びにそれを備えた圧縮機、送風機、及び冷凍装置 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】回転電気機械及びその製造方法、並びにそれを備えた圧縮機、送風機、及び冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/16 20060101AFI20231012BHJP
   H02K 3/46 20060101ALI20231012BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
H02K1/16 Z
H02K3/46 B
H02K15/04 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022056571
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 峻介
(72)【発明者】
【氏名】平野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】中 祥司郎
(72)【発明者】
【氏名】木津 よし美
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-181292(JP,A)
【文献】特開2003-343439(JP,A)
【文献】特開2002-233090(JP,A)
【文献】特開2014-027759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00- 1/34
H02K 15/00- 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸心まわりに回転自在に構成された回転子(60)と、前記回転子(60)と径方向で対向するように設けられた固定子(70)と、を有する回転電気機械(30)であって、
前記固定子(70)は、第1コア部(751)、前記第1コア部(751)と径方向で対向するように設けられた第2コア部(752)、前記第1コア部(751)及び前記第2コア部(752)の間に設けられた弾性変形部(753)、並びに前記第1コア部(751)に対して前記第2コア部(752)と反対側に設けられて前記第1コア部(751)から径方向に延びるように設けられたティース部(77)が一体に形成された固定子鉄心(71)と、前記固定子鉄心(71)の前記ティース部(77)に巻回された巻線(73)と、を有し、
前記ティース部(77)への前記巻線(73)の巻回時における前記ティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構が設けられており、
前記機構は、前記固定子鉄心(71)の軸方向の端に配置され、前記第1コア部(751)及び前記第2コア部(752)と軸方向視で重なる剛性部材であり、
前記剛性部材は、前記第2コア部(752)及び前記弾性変形部(753)との間に軸方向の空隙(721)が存在する回転電気機械。
【請求項2】
請求項において、
前記固定子(70)は、軸方向の端において、前記ティース部(77)と前記巻線(73)との間に介設されたインシュレータ(72)を更に有し、
前記剛性部材は、前記インシュレータ(72)である回転電気機械。
【請求項3】
回転軸心まわりに回転自在に構成された回転子(60)と、前記回転子(60)と径方向で対向するように設けられた固定子(70)と、を有する回転電気機械(30)であって、
前記固定子(70)は、第1コア部(751)、前記第1コア部(751)と径方向で対向するように設けられた第2コア部(752)、前記第1コア部(751)及び前記第2コア部(752)の間に設けられた弾性変形部(753)、並びに前記第1コア部(751)に対して前記第2コア部(752)と反対側に設けられて前記第1コア部(751)から径方向に延びるように設けられたティース部(77)が一体に形成された固定子鉄心(71)と、前記固定子鉄心(71)の前記ティース部(77)に巻回された巻線(73)と、を有し、
前記ティース部(77)への前記巻線(73)の巻回時における前記ティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構が設けられており、
前記機構は、前記ティース部(77)への前記巻線(73)の巻回時に、前記固定子鉄心(71)の軸方向の端に配置されて前記第1コア部(751)を固定する固定治具(80)が設けられる前記固定子鉄心(71)の治具押さえ部(78)であり、
前記固定子(70)は、軸方向の端において、前記ティース部(77)と前記巻線(73)との間に介設されたインシュレータ(72)を更に有し、
前記治具押さえ部(78)は、前記第1コア部(751)における前記インシュレータ(72)で覆われていない露出部分に設けられている回転電気機械。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれかにおいて、
前記機構は、前記ティース部(77)から径方向の部位に設けられている回転電気機械。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれかにおいて、
前記ティース部(77)は、周方向に間隔をおいて複数設けられ、
前記機構は、前記複数のティース部(77)のそれぞれについて相互に独立して設けられている回転電気機械。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれかにおいて、
前記ティース部(77)は、前記第1コア部(751)から径方向内向きに延びるように設けられている回転電気機械。
【請求項7】
回転軸心回りに回転自在に構成された回転子(60)と、前記回転子(60)と径方向で対向するように設けられた固定子(70)と、を有し、前記固定子(70)が、第1コア部(751)、前記第1コア部(751)と径方向で対向するように設けられた第2コア部(752)、前記第1コア部(751)及び前記第2コア部(752)の間に設けられた弾性変形部(753)、並びに前記第1コア部(751)に対して前記第2コア部(752)と反対側に設けられて前記第1コア部(751)から径方向に延びるように設けられたティース部(77)が一体に形成された固定子鉄心(71)と、前記固定子鉄心(71)の前記ティース部(77)に巻回された巻線(73)と、を有する回転電気機械(30)の製造方法であって、
前記ティース部(77)への前記巻線(73)の巻回時に、前記ティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構を機能させ、
前記機構は、前記固定子(70)の軸方向の端に設けられ、前記ティース部(77)と前記巻線(73)との間に介設されて、前記第2コア部(752)及び前記弾性変形部(753)を覆っている部分を有したインシュレータ(72)であり、
前記ティース部(77)への前記巻線(73)の巻回後に、前記インシュレータ(72)における前記第2コア部(752)及び前記弾性変形部(753)を覆っている部分を切除する回転電気機械の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれかの回転電気機械(30)を備えた圧縮機。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれかの回転電気機械(30)を備えた送風機。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれかの回転電気機械(30)を備えた冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電気機械及びその製造方法、並びにそれを備えた圧縮機、送風機、及び冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転子及び固定子を有する回転電気機械が知られている。特許文献1には、内径側に回転子及び外径側に固定子がそれぞれ設けられた回転電気機械において、外側の固定子とケーシングとの間に弾性部材を設け、それにより回転子及び固定子の間に作用する電磁力に起因した振動が外部に伝播するのを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-189812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転子及び固定子の間に作用する電磁力に起因する振動の伝播を抑制する構造として、固定子の固定子鉄心に、内側に第1コア及び外側に第2コアをそれぞれ設けるとともに、それらの間に振動吸収のための弾性変形部を設けることが考えられる。ところが、固定子鉄心には、第1コアから径方向内向きに延びるようにティース部が設けられており、そのティース部に巻線を巻回する際、ティース部が軸方向に往復変位する変形に伴う応力が発生し、その応力が低強度部分の弾性変形部に集中すると、弾性変形部が変形等して固定子鉄心が破損に至ることが想定される。
【0005】
本開示の目的は、ティース部への巻線の巻回時における固定子鉄心の破損を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、回転軸心まわりに回転自在に構成された回転子(60)と、前記回転子(60)と径方向で対向するように設けられた固定子(70)とを有する回転電気機械(30)であって、前記固定子(70)は、第1コア部(751)、前記第1コア部(751)と径方向で対向するように設けられた第2コア部(752)、前記第1コア部(751)及び前記第2コア部(752)の間に設けられた弾性変形部(753)、並びに前記第1コア部(751)に対して前記第2コア部(752)と反対側に設けられて前記第1コア部(751)から径方向に延びるように設けられたティース部(77)が一体に形成された固定子鉄心(71)と、前記固定子鉄心(71)の前記ティース部(77)に巻回された巻線(73)とを有し、前記ティース部(77)への前記巻線(73)の巻回時における前記ティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構が設けられている。
【0007】
第1の態様では、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構が設けられている。このため、ティース部(77)が軸方向に往復変位する変形に伴って発生する応力の低強度部分の弾性変形部(753)への集中が緩和される。その結果、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時における固定子鉄心(71)の破損を抑制することができる。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記機構は、前記固定子鉄心(71)の軸方向の端に配置され、前記第1コア部(751)及び前記第2コア部(752)と軸方向視で重なる剛性部材である。
【0009】
第2の態様では、剛性部材が第1コア部(751)及び前記第2コア部(752)と軸方向視で重なっている。このため、低強度部分の弾性変形部(753)が剛性部材により覆われて補強されるので、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくすることができる。
【0010】
第3の態様は、第2の態様において、前記固定子(70)は、軸方向の端において、前記ティース部(77)と前記巻線(73)との間に介設されたインシュレータ(72)を更に有し、前記剛性部材は、前記インシュレータ(72)である。
【0011】
第3の態様では、剛性部材がティース部(77)と巻線(73)との間に介設されたインシュレータ(72)である。このため、インシュレータ(72)は、ティース部(77)及び巻線(73)の間に介設されて絶縁する本来の機能に加えて、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構も兼ねる。
【0012】
第4の態様は、第1の態様において、前記機構は、前記ティース部(77)への前記巻線(73)の巻回時に、前記固定子鉄心(71)の軸方向の端に配置されて前記第1コア部(751)を固定する固定治具(80)が設けられる前記固定子鉄心(71)の治具押さえ部(78)である。
【0013】
第4の態様では、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時に固定治具(80)が固定子鉄心(71)の治具押さえ部(78)に設けられて第1コア部(751)を固定する。このため、弾性変形部(753)では、ティース部(77)への巻線(73)の巻回の影響が小さいので、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくすることができる。
【0014】
第5の態様は、第1乃至第4の態様のいずれかにおいて、前記機構は、前記ティース部(77)から径方向の部位に設けられている。
【0015】
第5の態様では、ティース部(77)への巻線(73)の巻回の影響が最も大きい部位に機構が設けられる。これにより、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくすることができる。
【0016】
第6の態様は、第1乃至第5の態様のいずれかにおいて、前記ティース部(77)は、周方向に間隔をおいて複数設けられ、前記機構は、前記複数のティース部(77)のそれぞれについて相互に独立して設けられている。
【0017】
第6の態様では、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構が、複数のティース部(77)のそれぞれについて相互に独立して設けられている。このため、巻線(73)が巻回されているティース部(77)の軸方向の変位が独立するので、その変位が上記機構を介して他のティース部(77)に影響するのを避けることができる。
【0018】
第7の態様は、第1乃至第6の態様のいずれかにおいて、前記ティース部(77)は、前記第1コア部(751)から径方向内向きに延びるように設けられている。
【0019】
第7の態様では、ティース部(77)が固定子(70)の内側に設けられることになる。このため、回転子(60)が内径側及び固定子(70)が外径側にそれぞれ設けられた回転電気機械(30)が構成される。
【0020】
第8の態様は、回転軸心回りに回転自在に構成された回転子(60)と、前記回転子(60)と径方向で対向するように設けられた固定子(70)と、を有し、前記固定子(70)が、第1コア部(751)、前記第1コア部(751)と径方向で対向するように設けられた第2コア部(752)、前記第1コア部(751)及び前記第2コア部(752)の間に設けられた弾性変形部(753)、並びに前記第1コア部(751)に対して前記第2コア部(752)と反対側に設けられて前記第1コア部(751)から径方向に延びるように設けられたティース部(77)が一体に形成された固定子鉄心(71)と、前記固定子鉄心(71)の前記ティース部(77)に巻回された巻線(73)と、を有する回転電気機械(30)の製造方法であって、前記ティース部(77)への前記巻線(73)の巻回時に、前記ティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構を機能させる。
【0021】
第8の態様では、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時に、ティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構を機能させる。このため、ティース部(77)が軸方向に往復変位する変形に伴って発生する応力の弾性変形部(753)への集中が緩和される。その結果、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時における固定子鉄心(71)の破損を抑制することができる。
【0022】
第9の態様は、第1乃至第7の態様のいずれかの回転電気機械(30)を備えた圧縮機(10)である。
【0023】
第10の態様は、第1乃至第7の態様のいずれかの回転電気機械(30)を備えた送風機(90)である。
【0024】
第11の態様は、第1乃至第7の態様のいずれかの回転電気機械(30)を備えた冷凍装置(1)である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施形態1の冷凍装置(1)の概略構成を示す図である。
図2図2は、実施形態1の圧縮機(10)の縦断面図である。
図3図3は、実施形態1の電動機(30)の回転子(60)の平面図である。
図4図4は、実施形態1の電動機(30)の固定子鉄心(71)の平面図である。
図5図5は、実施形態1の電動機(30)における固定子鉄心(71)にインシュレータ(72)を積層した状態を示す平面図である。
図6図6は、実施形態1の電動機(30)の固定子(70)の部分縦断面図である。
図7図7は、実施形態1の電動機(30)における固定子(70)のインシュレータ(72)を部分切除した状態を示す部分縦断面図である。
図8図8は、実施形態1の電動機(30)の変形例における固定子(70)の部分縦断面図である。
図9図9は、実施形態1の電動機(30)の別の変形例における固定子鉄心(71)にインシュレータ(72)を積層した状態を示す平面図である。
図10図10は、実施形態2の電動機(30)における固定子鉄心(71)にインシュレータ(72)を積層した状態を示す平面図である。
図11図11は、実施形態2の電動機(30)における固定子鉄心(71)が固定治具(80)で固定された状態を示す部分縦断面図である。
図12図12は、送風機(90)の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比または数を誇張または簡略化して表す場合がある。また、実施形態1及び2並びにその他の実施形態において、図面の同一名称の部分は、同一符号で示す。
【0027】
[実施形態1]
(冷凍装置(1))
図1は、冷凍装置(1)を示す。冷凍装置(1)は、冷媒が充填された冷媒回路(R)を備える。冷媒回路(R)は、圧縮機(10)、放熱器(2)、膨張弁で構成された減圧機構(3)、及び蒸発器(4)を有する。
【0028】
冷媒回路(R)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う。冷凍サイクルでは、冷媒は、圧縮機(10)によって圧縮された後、放熱器(2)において空気に放熱する。放熱した冷媒は、減圧機構(3)によって減圧された後、蒸発器(4)において蒸発する。蒸発した冷媒は、圧縮機(10)に吸入される。
【0029】
冷凍装置(1)は、空気調和装置であってもよい。空気調和装置は、冷房専用機、暖房専用機、又は、冷房と暖房とを切り換え可能な冷暖房機のいずれであってもよい。冷暖房機の空気調和装置は、冷媒の循環方向を切り換える例えば四方切換弁等の切換機構を有する。また、冷凍装置(1)は、給湯器、チラーユニット、庫内の空気を冷却する冷却装置等であってもよい。
【0030】
(圧縮機(10))
図2は、圧縮機(10)の縦断面図を示す。ここで、縦断面図は、軸方向に沿った平面で切断したと仮定した時の、その断面を径方向から見た図を意味する。圧縮機(10)は、ケーシング(20)、電動機(30)、駆動軸(40)、及び圧縮機構(50)を備える。圧縮機(10)は、ロータリ型の圧縮機である。厳密には、圧縮機(10)は、揺動ピストン型の圧縮機である。なお、圧縮機(10)は、スクロール型、スクリュー型、又は、ターボ型の圧縮機であってもよい。
【0031】
<ケーシング(20)>
ケーシング(20)は、電動機(30)、駆動軸(40)、及び圧縮機構(50)を収容する全密閉型容器である。ケーシング(20)は、金属材料で形成されている。
【0032】
ケーシング(20)は、胴体(21)、底部(22)、及び頂部(23)を有する。胴体(21)は、軸方向の両端のそれぞれが開口した筒状部材である。なお、本例では、胴体(21)の軸方向が鉛直方向に対応する。底部(22)は、胴体(21)の下側の開口を閉塞する部材である。頂部(23)は、胴体(21)の上側の開口を閉塞する部材である。
【0033】
<電動機(30)>
電動機(30)は、ケーシング(20)内の上側部分に支持されて設けられている。電動機(30)は、磁石埋込型の回転電気機械である。電動機(30)は、インナーロータ型である。したがって、電動機(30)は、回転軸心まわりに回転自在に構成された内径側の回転子(60)と、その回転子(60)と径方向で対向するように間隔をおいて設けられた外径側の固定子(70)とを有する。
【0034】
以下の説明において、軸方向とは、回転子(60)の回転軸心の延びる方向を意味する。径方向とは、軸方向と直交する方向を意味する。周方向とは、回転子(60)の回転方向に沿った方向を意味する。
【0035】
図3は回転子(60)の平面図を示す。ここで、平面図は、周方向と径方向に沿った平面で切断したと仮定した時の、その断面を軸方向から見た図を意味する。回転子(60)は、図3に示すように、回転子鉄心(61)及び永久磁石(62)を有する。
【0036】
回転子鉄心(61)は、複数枚のトロイダル形状の回転子用プレート(63)が軸方向に積層されて構成されたいわゆる積層コアである。各回転子用プレート(63)は、例えばプレス加工された電磁鋼板で形成されている。隣接する回転子用プレート(63)は、例えばカシメによって相互に固定されている。
【0037】
各回転子用プレート(63)には、同一形状の複数の長孔(64)が対称に配置されるように形成されている。回転子鉄心(61)では、これらの長孔(64)がそれぞれ軸方向に連続して複数の磁石スロット(65)が構成されている。各回転子用プレート(63)には、中央に丸孔(66)が形成されている。回転子鉄心(61)では、この丸孔(66)が軸方向に連続して軸受け孔(67)が構成されている。
【0038】
永久磁石(62)は、回転子鉄心(61)に構成された磁石スロット(65)に収容されている。永久磁石(62)は、例えば、希土類磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石、ボンド磁石などである。
【0039】
固定子(70)は、図4に示すように、固定子鉄心(71)、インシュレータ(72)、及び巻線(73)を有する。
【0040】
固定子鉄心(71)は、複数枚の環状の固定子用プレート(74)が軸方向に積層されて構成されたいわゆる積層コアである。各固定子用プレート(74)は、例えばプレス加工された電磁鋼板で形成されている。隣接する固定子用プレート(74)は、例えばカシメによって相互に固定されている。
【0041】
固定子鉄心(71)は、外周側の環状部分を構成するバックヨーク部(75)を有する。バックヨーク部(75)は、内側の環状の第1コア部(751)、第1コア部(751)と径方向で対向するように設けられた外側の環状の第2コア部(752)、並びに第1コア部(751)及び第2コア部(752)の間に設けられた中間の環状の弾性変形部(753)を有する。
【0042】
弾性変形部(753)は、例えば、第1コア部(751)及び第2コア部(752)の間に、周方向に沿って円弧状に延びる開口が断続的に形成されるとともに、開口間の第1コア部(751)及び第2コア部(752)が連結部(76)で連結された構造等である。この弾性変形部(753)は、回転子(60)及び固定子(70)の間に作用する電磁力に起因する第1コア部(751)の軸方向、径方向、及び周方向の振動が第2コア部(752)に伝播するのを規制する。
【0043】
固定子鉄心(71)は、各々、バックヨーク部(75)の内側の第1コア部(751)から径方向内向きに突出して延びるように設けられた複数のティース部(77)を有する。複数のティース部(77)は、周方向に間隔をおいて設けられている。
【0044】
固定子鉄心(71)は、バックヨーク部(75)の第1コア部(751)、第2コア部(752)、及び弾性変形部(753)の連結部(76)、並びに複数のティース部(77)が一体に形成されて構成されている。
【0045】
インシュレータ(72)は、図5に示すように、固定子用プレート(74)と略同一形状に形成されたプレート状部材である。インシュレータ(72)は、固定子鉄心(71)の軸方向の両端のそれぞれに積層するように設けられている。インシュレータ(72)は、例えば絶縁性の樹脂材料で形成された剛性部材で構成されている。
【0046】
図6は固定子(70)の部分縦断面図を示す。ここで、部分縦断面図は、軸方向に沿った平面で切断したと仮定した時の、その断面を径方向から見た図の内、任意の箇所を抜き出した図を意味する。巻線(73)は、図6に示すように、固定子鉄心(71)の複数のティース部(77)のそれぞれにインシュレータ(72)の上から巻回されている。したがって、インシュレータ(72)は、固定子鉄心(71)の軸方向の両端のそれぞれにおいて、各ティース部(77)と巻線(73)との間に介設されている。なお、巻線(73)は、図示しない電源に電気的に接続されている。
【0047】
ここで、電動機(30)の製造方法におけるティース部(77)への巻線(73)の巻回について説明する。
【0048】
ティース部(77)への巻線(73)の巻回は、巻線機を用いて行う。その巻回時には、軸方向の両端のそれぞれにインシュレータ(72)を積層した固定子鉄心(71)を巻線機の固定治具(不図示)で固定し、各ティース部(77)に巻線(73)を巻回する。このとき、ティース部(77)が軸方向に往復変位し、その変形に伴う応力が発生する。固定子鉄心(71)だけを考えれば、この応力は、ティース部(77)の基端側のバックヨーク部(75)における低強度部分の弾性変形部(753)に集中することが予想される。
【0049】
これに対し、上記構成の電動機(30)では、固定子鉄心(71)の軸方向の両端のそれぞれに、固定子鉄心(71)と同一形状の剛性部材のインシュレータ(72)が積層されている。各インシュレータ(72)は、第1コア部(751)及び第2コア部(752)と軸方向視で重なっている。これにより、低強度部分の弾性変形部(753)は、インシュレータ(72)で覆われて補強されるので、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位は小さくなる。したがって、このようなインシュレータ(72)による機構が設けられているため、ティース部(77)が軸方向に往復変位する変形に伴って発生する応力の低強度部分の弾性変形部(753)への集中が緩和される。その結果、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時における固定子鉄心(71)の破損を抑制することができる。なお、このインシュレータ(72)による機構は、固定子鉄心(71)の軸方向の一端のみに設けられていてもよい。
【0050】
しかも、インシュレータ(72)による上記機構は、固定子鉄心(71)の全周に設けられているので、巻線(73)が巻回されているティース部(77)との関係において、そのティース部(77)から径方向の部位、すなわち、ティース部(77)への巻線(73)の巻回の影響が最も大きい部位に設けられる。これにより、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくすることができる。なお、インシュレータ(72)による上記機構は、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくする機能を果たせばよいので、必ずしも固定子鉄心(71)の全周に設けられている必要はない。したがって、その機能に関与しない部分をインシュレータ(72)から除けば、材料減による省コスト化を図ることができる。
【0051】
以上の通り、インシュレータ(72)は、ティース部(77)及び巻線(73)の間に介設されて絶縁する本来の機能に加えて、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構も兼ねる。
【0052】
一方、弾性変形部(753)は、インシュレータ(72)で覆われていることにより軸方向の変形が規制されるので、軸方向の振動吸収能が減殺される。そこで、ティース部(77)への巻線(73)の巻回後には、図7に示すように、インシュレータ(72)の第2コア部(752)及び弾性変形部(753)を覆っている部分を切除してもよい。このようにすれば、弾性変形部(753)の軸方向の振動吸収能を機能させることができる。このとき、インシュレータ(72)の部分切除は、第1コア部(751)及び第2コア部(752)の間の開口を利用して行えば、固定子鉄心(71)を傷つけずに加工することができる。
【0053】
また、インシュレータ(72)は、図8に示すように、第2コア部(752)及び弾性変形部(753)を覆っている部分において、それらの第2コア部(752)及び弾性変形部(753)との間に空隙(721)を有していてもよい。つまり、インシュレータ(72)と第2コア部(752)及び弾性変形部(753)とは、その空隙(721)を介して軸方向に対向していてもよい。空隙(721)は、巻線(73)の卷回時の変位が大きい時には、弾性変形部(753)がインシュレータ(72)と接触し、その軸方向変位を小さくする一方、巻線(73)の巻回後の電動機(30)の回転駆動時の変位が小さい時には、弾性変形部(753)がインシュレータ(72)と接触せず、その振動吸収能が機能する大きさであることが好ましい。このようにすると、巻線(73)の卷回時には、弾性変形部(753)の軸方向の変位を小さくしつつ、巻線(73)の卷回後には、インシュレータ(72)の弾性変形部(753)を覆う部分を切除しなくても、弾性変形部(753)の軸方向の振動吸収能を機能させることができる。加えて、第2コア部(752)及び弾性変形部(753)は、インシュレータ(72)との間に軸方向の空隙(721)が存在するため、弾性変形部(753)は、径方向や周方向の変位に対してはインシュレータ(72)との間の摩擦が小さくなり、径方向や周方向の振動吸収能はより減殺されなくなる。なお、この空隙(721)は、固定子(70)の軸方向の両側でなく、一方にだけ設けられていてもよい。
【0054】
また、インシュレータ(72)は、図9に示すように、複数のティース部(77)のそれぞれに対応するように分割されていてもよい。この場合、インシュレータ(72)によるティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくする機構は、複数のティース部(77)のそれぞれについて相互に独立して設けられることになる。このため、巻線(73)が巻回されているティース部(77)の軸方向の変位が独立するので、その変位がインシュレータ(72)を介して他のティース部(77)に影響するのを避けることができる。
【0055】
分割された複数のインシュレータ(72)は、そのうちの一部がティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくする機能を果たす構成であってもよい。したがって、その場合、その機能を果たさないインシュレータ(72)は、絶縁の機能のみを果たせばよいので、ティース部(77)の大きさ程度に寸法を小さくすることができ、その材料減による省コスト化を図ることができる。
【0056】
この場合も、上記の図8の構成と同様、インシュレータ(72)は、第2コア部(752)及び弾性変形部(753)を覆っている部分において、それらの第2コア部(752)及び弾性変形部(753)との間に空隙(721)を有していてもよい。つまり、インシュレータ(72)と第2コア部(752)及び弾性変形部(753)とは、その空隙(721)を介して軸方向に対向していてもよい。なお、この空隙(721)は、固定子(70)の軸方向の両側の全てのインシュレータ(72)に設けられていることが好ましいが、固定子(70)の軸方向の両側の全てのインシュレータ(72)のうちの少なくとも1つに設けられていればよい。
【0057】
以上の構成の電動機(30)は、固定子(70)のティース部(77)に巻回された巻線(73)への通電により発生する回転磁界の動きに永久磁石(62)が吸い寄せられる作用により回転子(40)が回転軸心まわりに回転する。
【0058】
<駆動軸(40)>
駆動軸(40)は、ケーシング(20)内に軸心に沿って鉛直方向に延びるように設けられている。駆動軸(40)の下端部は、軸受け(41)によって回転可能に支持されている。駆動軸(40)の上側部分は、電動機(30)の回転子(60)の軸受孔に挿入されて固定されている。駆動軸(40)は、電動機(30)によって回転駆動される。
【0059】
<圧縮機構(50)>
圧縮機構(50)は、ケーシング(20)内の電動機(30)の下方の部分に支持されて設けられている。圧縮機構(50)は、シリンダ(51)及びピストン(52)を有する。ピストン(52)は、駆動軸(40)に結合するとともに、シリンダ(51)の内部に設けられている。シリンダ(51)の内周面とピストン(52)の外周面との間には、シリンダ室(53)が形成されている。
【0060】
圧縮機構(50)は、吸入管(54)及び吐出管(55)を有する。吸入管(54)は、ケーシング(20)の胴体(21)を径方向に貫通し、圧縮機構(50)のシリンダ室(53)と連通している。吐出管(55)は、ケーシング(20)の頂部(23)を軸方向に貫通し、ケーシング(20)の内部空間と連通している。
【0061】
圧縮機構(50)のシリンダ室(53)には、冷媒回路(R)からの低圧の冷媒が吸入管(54)を介して吸入される。圧縮機構(50)は、駆動軸(40)によって駆動されるピストン(52)によりシリンダ室(53)内の冷媒を圧縮する。ケーシング(20)の内部は、圧縮機構(50)から吐出される高圧の冷媒で満たされる。この高圧の冷媒は、電動機(30)内を流れた後、この吐出管(55)を介して冷媒回路(R)へ吐出される。
【0062】
[実施形態2]
実施形態2では、電動機(30)の固定子(70)は、図10に示すように、インシュレータ(72)が、固定子鉄心(71)のバックヨーク部(75)の第1コア部(751)の内周側部分及び複数のティース部(77)を合わせたような形状に形成されている。したがって、固定子鉄心(71)は、軸方向の両端のそれぞれにおいて、第1コア部(751)の外周側部分、第2コア部(752)、及び弾性変形部(753)が露出している。そして、その露出部分における各ティース部(77)から径方向の部位に治具押さえ部(78)が設けられている。
【0063】
ここで、電動機(30)の製造方法におけるティース部(77)への巻線(73)の巻回について説明する。
【0064】
ティース部(77)への巻線(73)の巻回は、巻線機を用いて行う。このとき、図11に示すように、固定子鉄心(71)の軸方向の両端において、巻線(73)を巻回するティース部(77)から径方向の部位の治具押さえ部(78)に、巻線機の固定治具(80)を配置して挟持することにより第1コア部(751)を固定する。そして、その第1コア部(751)を固定した状態で、ティース部(77)に巻線(73)を巻回する。
【0065】
上記構成の電動機(30)では、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時に巻回機の固定治具(80)が固定子鉄心(71)の第1コア部(751)を固定する。このため、弾性変形部(753)では、ティース部(77)への巻線(73)の巻回の影響が小さいので、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位が小さくなる。したがって、このような治具押さえ部(78)による機構が設けられているため、ティース部(77)が軸方向に往復変位する変形に伴って発生する応力の低強度部分の弾性変形部(753)への集中が緩和される。その結果、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時における固定子鉄心(71)の破損を抑制することができる。
【0066】
しかも、治具押さえ部(78)による上記機構は、巻線(73)が巻回されているティース部(77)との関係において、そのティース部(77)から径方向の部位、すなわち、ティース部(77)への巻線(73)の巻回の影響が最も大きい部位に設けられる。これにより、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくすることができる。
【0067】
また、治具押さえ部(78)による上記機構は、複数のティース部(77)のそれぞれについて相互に独立して設けられている。このため、巻線(73)が巻回されているティース部(77)の軸方向の変位が独立するので、その変位が他のティース部(77)に影響するのを避けることができる。
【0068】
その他の構成は、実施形態1と同一である。
【0069】
[その他の実施形態]
図12は送風機(90)の側面図を示す。ここで、側面図は、径方向から見た時の図を意味する。上記実施形態1及び2では、回転電気機械である電動機(30)を備えた圧縮機(10)を示したが、特にこれに限定されるものではなく、図12に示すように、同様の構成の電動機(30)を備え、その電動機(30)から延びる駆動軸(40)に羽根車(91)が取り付けられた送風機(90)を構成することもできる。このような送風機(90)は、例えば空気調和機の室外ユニット等に用いることができる。また、同様の構成の電動機(30)を備えた送風機として、シロッコファンを構成することもできる。
【0070】
上記実施形態1及び2では、インナーロータ型の電動機(30)を示したが、特にこれに限定されるものではなく、回転軸心まわりに回転自在に構成された外径側の回転子と、その回転子と径方向で対向するように間隔をおいて設けられた内径側の固定子とを有するアウターロータ型の電動機であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、回転電気機械及びその製造方法、並びにそれを備えた圧縮機、送風機、及び冷凍装置の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 冷凍装置
10 圧縮機
30 電動機(回転電気機械)
60 回転子
70 固定子
71 固定子鉄心
72 インシュレータ
73 巻線
751 第1コア部
752 第2コア部
753 弾性変形部
77 ティース部
78 治具押さえ部
80 固定治具
90 送風機
【要約】
【課題】ティース部への巻線の巻回時における固定子鉄心の破損を抑制する。
【解決手段】回転電気機械(30)は、ティース部(77)への巻線(73)の巻回時におけるティース部(77)の軸方向の変位を小さくするための機構(72)が設けられている。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12