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特許7364960光ファイバ装置、温度測定システム、および光ファイバ装置の製造方法
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  • 特許-光ファイバ装置、温度測定システム、および光ファイバ装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】光ファイバ装置、温度測定システム、および光ファイバ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/00 20060101AFI20231012BHJP
   G02B 6/44 20060101ALI20231012BHJP
   G01K 11/324 20210101ALI20231012BHJP
   G02B 6/02 20060101ALN20231012BHJP
【FI】
G02B6/00 B
G02B6/44 341
G01K11/324
G02B6/02 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022507030
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010180
(87)【国際公開番号】W WO2021181501
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼須 庸一
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/012616(WO,A1)
【文献】特開平07-218780(JP,A)
【文献】特開平02-203303(JP,A)
【文献】特開2019-148524(JP,A)
【文献】特開2011-106986(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0010846(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00
G02B 6/44
G01K 11/32-11/324
G02B 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバが挿入された第1金属可撓管と、
前記第1金属可撓管が挿入され、液体タンク内の液体に浸けられた第2金属可撓管と、
前記液体の密度よりも大きい密度を有し、前記液体内で前記第2金属可撓管に接続された錘と、を備え
前記第1金属可撓管の外壁と前記第2金属可撓管の内壁とが、互いに固定されておらず摺動可能であることを特徴とする光ファイバ装置。
【請求項2】
前記第2金属可撓管は、前記液体タンクに接続されたチャンバから前記液体タンク内にかけて設けられており、通気・通液性を有していないことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ装置。
【請求項3】
前記チャンバは、不活性ガスによってパージされており、
前記第1金属可撓管は、前記チャンバから前記液体タンク内にかけて設けられており、通気・通液性を有していることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ装置。
【請求項4】
前記第2金属可撓管は、前記液体タンクの前記液体に浸けられている部分において、通気・通液性を有していることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ装置。
【請求項5】
前記第2金属可撓管は、前記液体タンクに接続されたチャンバから前記液体タンク内にかけて設けられており、前記チャンバ内では通気・通液性を有していないことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ装置。
【請求項6】
前記第1金属可撓管は、通気・通液性を有していることを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ装置。
【請求項7】
前記第1金属可撓管および前記第2金属可撓管は、通気・通液性を有しており、
前記第1金属可撓管および前記第2金属可撓管は、前記液体タンクに接続され不活性ガスによってパージされているチャンバにおいて、通気・通液性が無いようにシールされていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の光ファイバ装置と、
前記光ファイバからの後方散乱光の検出結果から、前記液体タンク内の前記液体の温度を測定する温度測定装置と、を備えることを特徴とする温度測定システム。
【請求項9】
前記液体は、LNGであり、
前記温度測定装置は、前記温度測定装置の測定結果を用いて前記液体タンクのロールオーバーの発生時期を予測する予測部を備えることを特徴とする請求項8記載の温度測定システム。
【請求項10】
液体が貯蔵された液体タンクに対して、前記液体の密度よりも大きい密度を有する錘が接続された第2金属可撓管を前記液体タンクの入り口から導入し、
前記第2金属可撓管内に、光ファイバが挿入された第1金属可撓管を挿入し、
前記第1金属可撓管の外壁と前記第2金属可撓管の内壁とを、互いに固定せずに摺動可能とする、ことを特徴とする光ファイバ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、光ファイバ装置、温度測定システム、および光ファイバ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LNGタンクに貯蔵されているLNG(液化天然ガス)の温度測定を行う技術として、光ファイバのような可撓性を有する温度センサを用いる温度測定技術が開示されている。光ファイバを保護する構造として、金属管などを用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-203303号公報
【文献】特開平7-218780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LNGタンクなどの液体タンク内では、液体の受け入れ、液体の払出し、液体の対流、液体のミキシングなどによって液体が流動している。液体が流動すると、光ファイバの温度測定位置も変動するおそれがある。この場合、温度測定精度が低下するおそれがある。
【0005】
1つの側面では、本件は、光ファイバの温度測定位置の変動を抑制することができる光ファイバ装置、温度測定システム、および光ファイバ装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、光ファイバ装置は、光ファイバが挿入された第1金属可撓管と、前記第1金属可撓管が挿入され、液体タンク内の液体に浸けられた第2金属可撓管と、前記液体の密度よりも大きい密度を有し、前記液体内で前記第2金属可撓管に接続された錘と、を備える。
【0007】
1つの態様では、上記光ファイバ装置と、前記光ファイバからの後方散乱光の検出結果から、前記液体タンク内の前記液体の温度を測定する温度測定装置と、を備える。
【0008】
1つの態様では、光ファイバ装置の製造方法は、液体が貯蔵された液体タンクに対して、前記液体の密度よりも大きい密度を有する錘が接続された第2金属可撓管を前記液体タンクの入り口から導入し、前記第2金属可撓管内に、光ファイバが挿入された第1金属可撓管を挿入する。
【発明の効果】
【0009】
光ファイバの温度測定位置の変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)~(c)はロールオーバーについて説明するための図である。
図2】タンク設備の構造を例示する図である。
図3】LNGの液密度と温度との関係を例示する図である。
図4】(a)はLNGタンク内の上層および下層の液密度の経時変化を例示する図であり、(b)は上層および下層の温度の経時変化を例示する図である。
図5】実施例1に係る温度測定システムの概略図である。
図6】(a)は温度測定装置の全体構成を表す概略図であり、(b)は制御部のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
図7】後方散乱光の成分を表す図である。
図8】(a)は光パルス発光後の経過時間とストークス成分およびアンチストークス成分の光強度との関係を例示する図であり、(b)は(a)の検出結果を用いて算出した温度である。
図9】実施例1に係る光ファイバ装置を例示する図である。
図10】実施例2に係る光ファイバ装置を例示する図である。
図11】実施例3に係る光ファイバ装置を例示する図である。
図12】実施例4に係る温度測定システムを例示する図である。
図13】光ファイバ装置の製造方法を表すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施例の説明に先立って、液体タンクの一例であるLNGタンクにおけるロールオーバーの概要について説明する。図1(a)で例示するように、LNGタンク200には、LNGが貯蔵されている。効率化のため、様々な産地から密度の異なるLNGがLNGタンク200に貯蔵されることが求められている。例えば、LNGタンク200には、複数の船からLNGが受け入れられることがある。この場合、成分が異なるLNGが受け入れられるため、LNGタンク200内において、LNGの成分差に基づく密度差に起因して、LNGが多層状化する。図1(a)の例では、LNGタンク200内のLNGが2層化している。図1(b)で例示するように、下層は、密度の高いLNG成分である。上層は、密度の低いLNG成分である。
【0012】
この状態で、図1(a)で例示するように、LNGタンク200に熱が入ると、各層において対流(二重対流)が生じる。二重対流が生じると、上層と下層との境界を介して、各成分と熱とが少しずつ移動する。それにより、上層の密度と下層の密度とが次第に近づく。また、上層からのボイルオフガス(BOG)の発生によっても、上層の密度と下層の密度とが次第に近づく。上層の密度と下層の密度との差が小さくなると、上層と下層とが混合され、急激な対流が生じる(ロールオーバー)。
【0013】
2層化されていた状態では、上層のLNG成分の存在によって、下層のLNG成分からのボイルオフガスの発生は抑圧されている。しかしながら、図1(c)で例示するように、ロールオーバー時には、下層のLNG成分が上層へ移動するため、それまで抑圧されていた大量のボイルオフガスが発生し、LNGタンク200内の圧力が異常に上昇する。なお、図1(c)において、縦軸は、ボイルオフガス量を示す。
【0014】
次に、LNGタンク200を含むタンク設備について説明する。図2は、タンク設備の構造を例示する図である。図2で例示するように、タンク設備は、LNGタンク200の上部にチャンバ300が接続された構造を有する。チャンバ300は、LNGやボイルオフガスの大気への漏洩・飛散防止といった用途のために設けられている。上述したように、LNGタンク200内には、LNGが貯蔵されている。LNGタンク200とチャンバ300とは、互いに連通する箇所が備わっている。連通する箇所にはフランジなどでシールされているものの、この連通する箇所を介してLNGのボイルオフガスがLNGタンク200からチャンバ300に漏れ出すことがある。
【0015】
そこで、チャンバ300内のボイルオフガスをパージするため、チャンバ300に窒素ガス、希ガスなどの不活性ガスをパージガスとして供給する供給手段が設けられている。チャンバ300内にパージガスが供給されることにより、チャンバ300内がパージされる。
【0016】
ロールオーバー防止のためにはLNGタンク200の深さ方向の液密度分布を把握し、LNGタンク200内を攪拌することが好ましい。センサをLNGタンク200内に挿入する箇所からボイルオフガスが漏洩するおそれがあることから、図2で例示したタンク設備では、チャンバ300からセンサを挿入してLNGタンク200のLNG内に漬けることが求められる。
【0017】
例えば、液密度分布を測定するためのセンサとして、振動式液密度計を用いることが考えられる。タンクの高さは40~50m程度であるため、40~50mの長さについて測定ができることが望まれる。しかしながら、振動式液密度計は、サンプリングの必要があるため、空間的、時間的に連続した測定が困難である。また、測定作業において、信号取得のためのケーブル等に可撓性が必要となってくる。
【0018】
以上のことから、振動式液密度計以外のセンサを用いて、LNGタンク200に貯蔵されているLNGの液密度を測定することが望まれる。そこで、LNGの液密度と温度との関係に着目する。図3は、LNGの液密度と温度との関係を例示する図である。図3で例示するように、LNGの液密度と温度とは、密接な関係を有している。なお、図3では、種類A~CのLNGの液密度と温度との関係が例示されている。
【0019】
次に、図4(a)は、LNGタンク200内の上層および下層の液密度の経時変化を例示する図である。図4(b)は、当該上層および下層の温度の経時変化を例示する図である。図4(a)で例示するように、ロールオーバーが発生するまでに、上層の液密度と下層の液密度とが互いに近くなり、ロールオーバー発生時点で上層の液密度と下層の液密度とが略一致している。図4(b)で例示するように、ロールオーバーが発生するまでに、上層の温度と下層の温度とが互いに近くなり、ロールオーバー発生時点で上層の温度と下層の温度とが略一致している。以上のことから、温度センサを用いて温度の経時変化を測定することで、ロールオーバーの発生を推定できると考えられる。
【0020】
光ファイバは、空間的、時間的に連続した温度測定を実現することができる。また、光ファイバは、可撓性を有している。そこで、光ファイバを温度センサとして用いることが望まれる。しかしながら、LNGタンク200内のLNGは、受入・払出、対流、ミキシング等により、絶えず流動している。精度良く温度を測定するためには、光ファイバによる温度測定位置の変動を抑制することが望まれる。
【0021】
そこで、以下の実施例では、光ファイバの温度測定位置の変動を抑制することができる光ファイバ装置、温度測定システム、および光ファイバ装置の製造方法について説明する。
【実施例1】
【0022】
図5は、実施例1に係る温度測定システム100の概略図である。図5で例示するように、温度測定システム100は、温度測定装置10、光ファイバ20などを備える。光ファイバ20は、チャンバ300の外部からチャンバ300のシールフランジ301を通ってチャンバ300内に導入される。さらに、光ファイバ20は、チャンバ300とLNGタンク200との連通部に設けられたシールフランジ302を通ってLNGタンク200内に導入される。シールフランジ301は、チャンバ300と外気との間をシールしている。シールフランジ302は、チャンバ300とLNGタンク200との間をシールしている。
【0023】
図6(a)は、温度測定装置10の全体構成を表す概略図である。図6(a)で例示するように、温度測定装置10は、測定機30、制御部40などを備える。測定機30は、レーザ31、ビームスプリッタ32、光スイッチ33、フィルタ34、複数の検出器35a,35bなどを備える。制御部40は、指示部41、温度測定部42、判定部43などを備える。
【0024】
図6(b)は、制御部40のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。図6(b)で例示するように、制御部40は、CPU101、RAM102、記憶装置103、インタフェース104などを備える。これらの各機器は、バスなどによって接続されている。CPU(Central Processing Unit)101は、中央演算処理装置である。CPU101は、1以上のコアを含む。RAM(Random Access Memory)102は、CPU101が実行するプログラム、CPU101が処理するデータなどを一時的に記憶する揮発性メモリである。記憶装置103は、不揮発性記憶装置である。記憶装置103として、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどのソリッド・ステート・ドライブ(SSD)、ハードディスクドライブに駆動されるハードディスクなどを用いることができる。CPU101が記憶装置103に記憶されている温度測定プログラムを実行することによって、制御部40に指示部41、温度測定部42、判定部43などが実現される。なお、指示部41、温度測定部42、判定部43などは、専用の回路などのハードウェアであってもよい。
【0025】
レーザ31は、半導体レーザなどの光源であり、指示部41の指示に従って所定の波長範囲のレーザ光を出射する。本実施形態においては、レーザ31は、所定の時間間隔で光パルス(レーザパルス)を出射する。ビームスプリッタ32は、レーザ31が出射した光パルスを光スイッチ33に入射する。光スイッチ33は、入射された光パルスの出射先(チャネル)を切り替えるスイッチである。光スイッチ33は、指示部41の指示に従って、光ファイバ20の第1端に一定周期で交互に光パルスを入射する。
【0026】
光ファイバ20に入射した光パルスは、光ファイバ20を伝搬する。光パルスは、伝搬方向に進行する前方散乱光および帰還方向に進行する後方散乱光(戻り光)を生成しながら徐々に減衰して光ファイバ20内を伝搬する。後方散乱光は、光スイッチ33を通過してビームスプリッタ32に再度入射する。ビームスプリッタ32に入射した後方散乱光は、フィルタ34に対して出射される。フィルタ34は、WDMカプラなどであり、後方散乱光を長波長成分(後述するストークス成分)と短波長成分(後述するアンチストークス成分)とを抽出する。検出器35a,35bは、受光素子である。検出器35aは、後方散乱光の短波長成分の受光強度を電気信号に変換して温度測定部42に送信する。検出器35bは、後方散乱光の長波長成分の受光強度を電気信号に変換して温度測定部42に送信する。温度測定部42は、ストークス成分およびアンチストークス成分を用いて、光ファイバ20の延伸方向の温度分布を測定する。判定部43は、温度測定部42が測定した温度分布に基づいて、ロールオーバーが発生するか否かを判定し、ロールオーバーの発生時期などを予測する予測部として機能する。
【0027】
図7は、後方散乱光の成分を表す図である。図7で例示するように、後方散乱光は、大きく3種類に分類される。これら3種類の光は、光強度の高い順かつ入射光波長に近い順に、OTDR(光パルス試験器)などに使用されるレイリー散乱光、歪測定などに使用されるブリルアン散乱光、温度測定などに使用されるラマン散乱光である。ラマン散乱光は、温度に応じて変化する光ファイバ20内の格子振動と光との干渉で生成される。強めあう干渉によりアンチストークス成分と呼ばれる短波長成分が生成され、弱めあう干渉によりストークス成分とよばれる長波長成分が生成される。
【0028】
図8(a)は、光ファイバ20の第1端から光入射した場合において、レーザ31による光パルス発光後の経過時間と、ストークス成分(長波長成分)およびアンチストークス成分(短波長成分)の光強度との関係を例示する図である。経過時間は、光ファイバ20における伝搬距離(光ファイバ20における位置)に対応している。図8(a)で例示するように、ストークス成分およびアンチストークス成分の光強度は、両方とも経過時間とともに低減する。これは、光パルスが前方散乱光および後方散乱光を生成しながら徐々に減衰して光ファイバ20内を伝搬することに起因する。
【0029】
図8(a)で例示するように、アンチストークス成分の光強度は光ファイバ20において高温になる位置では、ストークス成分と比較してより強くなり、低温になる位置では、ストークス成分と比較してより弱くなる。したがって、両成分を検出器35a,35bで検出し、両成分の特性差を利用することによって、光ファイバ20内の各位置の温度を検出することができる。なお、図8(a)において、極大を示す領域は、光ファイバ20において局所的に加熱された領域である。また、極小を示す領域は、光ファイバ20において局所的に冷却された領域である。
【0030】
本実施例においては、温度測定部42は、経過時間ごとにストークス成分とアンチストークス成分とから温度を測定する。それにより、光ファイバ20内における各サンプリング位置の温度を測定することができる。すなわち、光ファイバ20の延伸方向における温度分布を測定することができる。なお、両成分の特性差を利用することから、距離に応じて両成分の光強度が減衰しても、高精度で温度を測定することができる。図8(b)は、図8(a)の検出結果を用いて算出した温度である。図8(b)の横軸は、経過時間を基に算出した光ファイバ20内の位置である。図8(b)で例示するように、ストークス成分およびアンチストークス成分を検出することによって、光ファイバ20内の各位置の温度を測定することができる。
【0031】
図9は、光ファイバ20を保護する構造(光ファイバ装置)を例示する図である。図9で例示するように、光ファイバ20は、接続用ファイバ21、融着スリーブ22および測定用ファイバ23を備える。接続用ファイバ21の第1端(光ファイバ20の第1端)は、温度測定装置10に接続されている。接続用ファイバ21の第2端は、融着スリーブ22を介して測定用ファイバ23の第1端に接続されている。測定用ファイバ23は、チャンバ300外からチャンバ300を通ってLNGタンク200内に延びている。したがって、測定用ファイバ23の第2端は、LNGタンク200のLNG内に位置している。
【0032】
接続用ファイバ21、融着スリーブ22、および測定用ファイバ23の第1端近傍は、接続用チューブ51内に挿入されている。接続用チューブ51は、可撓性を有するとともに、シール性を有している。すなわち、接続用チューブ51は、外部に対して通気・通液性を有していない。接続用チューブ51は、チャンバ300内からシールフランジ301を通って外部まで延びている。
【0033】
測定用ファイバ23のうち接続用チューブ51内に挿入されていない部分は、第1金属可撓管52の第1端から挿入され、第1金属可撓管52の第2端近傍まで延びている。第1金属可撓管52は、可撓性を有している。第1金属可撓管52は、通気・通液性を有していない。第1金属可撓管52の第1端は、チャンバ300内に位置している。第1金属可撓管52の第2端は、LNGタンク200のLNG内に位置している。第1金属可撓管52の第1端は、接続用チューブ51の第2端から挿入されている。接続用チューブ51内に第1金属可撓管52が挿入される部分は、シール部材54によって接続されている。シール部材54は、接続用チューブ51と第1金属可撓管52との間をシールしている。
【0034】
第2金属可撓管53は、可撓性を有している。第2金属可撓管53は、通気・通液性を有していない。第2金属可撓管53の第1端は、チャンバ300内に位置している。第2金属可撓管53の第2端は、LNGタンク200内のLNG内に位置している。第2金属可撓管53は、チャンバ300のシールフランジ302を通って、LNGタンク200内まで延在している。第1金属可撓管52は、第2金属可撓管53内を通って、LNGタンク200内のLNG内まで延在している。シールフランジ302は、シールフランジ302と第2金属可撓管53との間をシールしている。第2金属可撓管53が通気・通液性を有していないことから、LNGタンク200内のLNGがチャンバ300内に漏出することが抑制される。また、シール部材54が接続用チューブ51と第1金属可撓管52との間をシールしていることから、チャンバ300内のパージガスがチャンバ300外へ漏出することを抑制することができる。
【0035】
図5で例示するように、第2金属可撓管53には、錘55が接続されている。それにより、LNGタンク200内をLNGが流動しても、第2金属可撓管53の位置の変動が抑制される。その結果、光ファイバ20を用いた温度測定位置の変動が抑制され、温度測定の精度低下を抑制することができる。第2金属可撓管53に対する錘55の接続位置は、LNGタンク200内のLNG内であれば特に限定されるものではないが、例えば、第2金属可撓管53の第2端である。
【0036】
第1金属可撓管52の外壁と第2金属可撓管53の内壁とは、互いに固定されておらず摺動可能であるため、錘55の重さが第1金属可撓管52に印加されることが抑制される。それにより、光ファイバ20が第1金属可撓管52の内壁に対して引っ掛かっていたとしても、錘55の重さが光ファイバ20に印加されることが抑制される。それにより、光ファイバ20の伝送損失、光ファイバ20の断線などが抑制される。
【0037】
なお、第1金属可撓管52および第2金属可撓管53が可撓性を有するとともに光ファイバ20も可撓性を有することから、シールフランジ301およびシールフランジ302の位置に制限されず、チャンバ300外からLNGタンク200内に第1金属可撓管52、第2金属可撓管53および光ファイバ20を挿入することができる。
【0038】
また、第1金属可撓管52を覆う第2金属可撓管53が通気・通液性を有していないことから、シールがシンプルな構造を有していても、LNGなどの漏出を抑制することができる。また、第1金属可撓管52を第2金属可撓管53内から引き抜けば光ファイバ20の交換が可能であるため、光ファイバ20の交換が容易である。
【0039】
また、光ファイバ20は、小径を有している。さらに、光ファイバ20は、通電の必要がないことから防爆対策が不要であって、防爆用の保護管が必要ない。それにより、第1金属可撓管52および第2金属可撓管53にも大きい径が必要とされない。例えば、第2金属可撓管53の径を4インチ以下とすることができる。この場合、LNGタンク200に空ける孔のサイズを小さくすることができる。それにより、LNGやボイルオフガスの漏洩および飛散、ならびに断熱性能等の低下を抑制することができる。
【0040】
また、光ファイバ20、第1金属可撓管52および第2金属可撓管53は、一旦敷設すれば、移動させることなくLNGの深さ方向の複数測定点の温度測定が可能である。例えば、振動式液密度計のように、サンプリングのたびに上下動させる必要がない。したがって、光ファイバ20、第1金属可撓管52および第2金属可撓管53を上下動させる回数を最低限度にとどめることができる。その結果、チャンバ300に対するパージガス供給を停止しても、チャンバ300内の圧力が安定化する。その結果、チャンバ300内のガスの漏洩を抑制することができる。
【0041】
また、光ファイバ20を用いれば複数測定点の温度測定が可能であることから、深さ方向に連続した測定点での測定や経時変化を調査することが可能となる。したがって、LNGタンク200内の層状化やロールオーバーの予測が容易となる。また、LNGタンク200内における効率的な払出や攪拌により、ボイルオフガスの発生を最小化することができる。
【0042】
錘55の材質は、LNGと反応しないものであれば特に限定されるものではない。錘55は、例えば、ステンレスなどである。錘55は、可撓性を有していないことが好ましい。錘55の重さは、特に限定されるものではないが、第2金属可撓管53が破断しない範囲内にあることが好ましい。錘55は、LNGよりも大きい密度を有している。錘55を構成している材料自体の密度は、第2金属可撓管53を構成している材料自体の密度よりも大きいことが好ましい。LNGタンク200のLNG内に漬かっている第2金属可撓管53以内の体積と錘55の体積との合計体積分のLNGの重さよりも、当該LNG内に漬かっている範囲での第2金属可撓管53の重さと錘55の重さとの合計重さの方が大きいことが好ましい。
【0043】
第1金属可撓管52は、通気性を有していてもよい。例えば、金属可撓管に切れ目や孔などが形成されることによって通気性が得られる。この場合、チャンバ300内のパージガスが第1金属可撓管52内に充満し、水蒸気が排出される。したがって、水蒸気の凍結が抑制される。なお、この場合、接続用チューブ51内にパージガスが侵入するため、接続用チューブ51の第1端をシールすることによってチャンバ300外へのパージガスの漏出を抑制することができる。
【実施例2】
【0044】
図10は、光ファイバ20を保護する構造(光ファイバ装置)の他の例を例示する図である。図9の構造と異なる点について説明する。
【0045】
本実施例においては、第1金属可撓管52は通気・通液性を有していないが、第2金属可撓管53は通気・通液性を有している。この構成によれば、第2金属可撓管53内にもLNGが侵入する。それにより、第1金属可撓管52の外壁がLNGに曝され、LNGの温度と第1金属可撓管52内の光ファイバ20の温度との差が小さくなる。その結果、温度測定精度が向上する。
【0046】
なお、第2金属可撓管53が通気・通液性を有していることから、第2金属可撓管53からチャンバ300内にLNGが漏出するおそれがある。そこで、本実施例においては、第2金属可撓管53からチャンバ300内へのLNGの漏出を抑制するための構造が設けられている。
【0047】
図10で例示するように、第2金属可撓管53のLNGタンク200からチャンバ300へ延びる部分について、第2金属可撓管53に通気・通液性防止措置が施されている。例えば、当該部分について、第2金属可撓管53の外周をフィルム部材56が覆っている。フィルム部材56は、例えば、LNGに耐久性を有するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフィルム状部材である。
【0048】
さらに、第2金属可撓管53の第1端部に、シール部材57が設けられている。シール部材57は、第2金属可撓管53と第1金属可撓管52との間をシールしている。さらに、シール部材57を覆うように、シール部材58が設けられている。シール部材58は、第2金属可撓管53とシール部材57とをシールしている。シール部材57,58を設けることによって、第2金属可撓管53からチャンバ300内へのLNGの漏出を抑制することができる。
【実施例3】
【0049】
図11は、光ファイバ20を保護する構造(光ファイバ装置)の他の例を例示する図である。図10の構造と異なる点について説明する。
【0050】
本実施例においては、第1金属可撓管52および第2金属可撓管53の両方とも、通気・通液性を有している。この構成によれば、第2金属可撓管53内にLNGが侵入し、さらに第1金属可撓管52内にLNGが侵入する。それにより、光ファイバ20がLNGに曝され、LNGの温度と光ファイバ20の温度との差が小さくなる。その結果、温度測定精度が向上する。
【0051】
なお、第1金属可撓管52が通気・通液性を有していることから、第1金属可撓管52からチャンバ300内にLNGが漏出するおそれがある。そこで、本実施例においては、第1金属可撓管52からチャンバ300内へのLNGの漏出を抑制するための構造が設けられている。
【0052】
図11で例示するように、第1金属可撓管52のシール部材57内からシール部材54内に延びる部分について、第1金属可撓管52に通気・通液性防止措置が施されている。例えば、当該部分について、第1金属可撓管52の外周を覆うとともに、第1金属可撓管52と測定用ファイバ23との間をシールするように、シール部材59が設けられている。この構造によって、第1金属可撓管52からチャンバ300内へのLNGの漏出を抑制することができる。
【実施例4】
【0053】
実施例1~実施例3では、光ファイバ20の第1端は温度測定装置10に接続され、光ファイバ20の第2端はLNGタンク200内に浸漬されている。しかしながら、図12で例示するように、光ファイバ20は、第1金属可撓管52を通って、LNGタンク200内で折り返してまたは捲回され、さらに第1金属可撓管52を通って温度測定装置10に接続されてもよい。具体的には、光ファイバ20の第1端および第2端が光スイッチ33に接続されている。なお、実施例1~実施例3と同様にLNGタンク200内で第1金属可撓管52は第2金属可撓管53内に挿入されているが、図12では第2金属可撓管53および錘55の図示を省略してある。光スイッチ33は、レーザ31から入射された光パルスの出射先(チャネル)を切り替える。ダブルエンド方式では、光スイッチ33は、指示部41の指示に従って、光ファイバ20への光パルスの入射先として、第1端および第2端を選択することができる。それにより、光ファイバ20が途中で破断しても、継続して温度測定が可能である。
【0054】
(光ファイバ装置の製造方法)
図13は、光ファイバ装置の製造方法を例示するフロー図である。図13で例示するように、第2金属可撓管53の第2端に、錘55を接続する(ステップS1)。次に、錘55をシールフランジ302内に挿入することで、第2金属可撓管53をLNGタンク200内に導入する(ステップS2)。次に、第2金属可撓管53内に、測定用ファイバ23が挿入された第1金属可撓管52を挿入する(ステップS3)。
【0055】
この方法によれば、錘55を第2金属可撓管53に接続しておくことで、第2金属可撓管53の位置変動を抑制することができる。この状態において、測定用ファイバ23が挿入された第1金属可撓管52を第2金属可撓管53に挿入することで、錘55の重さが測定用ファイバ23に印加されることを抑制しつつ、測定用ファイバ23をLNG内に導入することができるようになる。
【0056】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 温度測定装置
20 光ファイバ
21 接続用ファイバ
22 融着スリーブ
23 測定用ファイバ
30 測定機
40 制御部
42 温度測定部
51 接続用チューブ
52 第1金属可撓管
53 第2金属可撓管
54 シール部材
55 錘
56 フィルム部材
57,58 シール部材
59 シール部材
100 温度測定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13