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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ゲルを有する物体の製造法
(51)【国際特許分類】
   B29C 69/02 20060101AFI20231012BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20231012BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20231012BHJP
   B29C 33/40 20060101ALI20231012BHJP
   G09B 23/30 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B29C69/02
B29C64/112
B29C39/10
B29C33/40
G09B23/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019111880
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2019217770
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018115072
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512031183
【氏名又は名称】有限会社スワニー
(73)【特許権者】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169188
【弁理士】
【氏名又は名称】寺岡 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 良博
(72)【発明者】
【氏名】埋橋 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小島 正明
(72)【発明者】
【氏名】柴 克宏
(72)【発明者】
【氏名】酒井 武彦
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-146413(JP,A)
【文献】特開2017-026791(JP,A)
【文献】特開2003-011237(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099023(WO,A1)
【文献】特開2005-148578(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104658395(CN,A)
【文献】特開2017-032694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
B29C 33/00-33/76
B29C 39/00-39/44
G09B 23/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタを用いて、熱伝導率、表面の粗さ、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料を、成形型の部位毎に置して前記成形型を作製する工程と、
熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有する成形材料を前記成形型に供給し、成形物を得る工程、または、
熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有する1以上の成形材料を、前記成形物の部位毎に異なる物性を有するように、前記成形型を用いて成形し、前記成形物を得る工程と、
を有する、ゲルを有する物体の製造法。
【請求項2】
前記成形物は、生体組織を模した成形物である請求項1記載のゲルを有する物体の製造法。
【請求項3】
前記成形物中に、前記成形物とは異なる生体組織を模した成形物、または手術材料の一部または全部を埋設させることを特徴とする、
請求項1または2に記載のゲルを有する物体の製造法。
【請求項4】
前記生体組織を模した成形物、または手術材料の一部または全部、物性または色の違う複数の樹脂材料で製造する、
請求項3に記載のゲルを有する物体の製造法。
【請求項5】
前記成形物とは異なる生体組織を模した成形物、または手術材料は、3Dプリンタを用いて形のあるものを造形する造形物および/または、成形型を用いて成形する第2成形物を有する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のゲルを有する物体の製造法。
【請求項6】
前記成形材料が、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ゼラチン、キサンタンガム、カシアガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、グルコマンナン、タマリンドガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、アルギン酸塩、ペクチン、カードラン、澱粉、卵白、卵白加工物、ポリビニルアルコール、乳清タンパク質素材、ゼラチン酵素反応物、タマリンドガム酵素反応物、サイリウムシードガムから選ばれるいずれか1以上を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のゲルを有する物体の製造法。
【請求項7】
前記成形物とは異なる生体組織を模した成形物、または手術材料と、前記成形物が、それぞれ視覚により判別できる異なる色彩をなすことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のゲルを有する物体の製造法。
【請求項8】
前記ゲルを有する物体は、手術練習用、または医療用ロボットの操作の習得用の前記ゲルを有する物体である請求項1から7のいずれか1項に記載のゲルを有する物体の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルを有する物体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外科手術等の練習用等に医療モデルが提案されている。例えば、特許文献1では、3Dプリンタのインクにポリマーからなるゲル材料を用い、患者一人一人の臓器の3Dデータを基に造形を行うことにより、医療モデルを作製する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-026680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、外科手術等の練習用という観点からすれば、患者一人一人の臓器の3Dデータを基に造形を行うというのは、手間がかかるばかりでなく、高いコストを余儀なくされると思われる。これは、医療の分野に限らずいかなる分野においても言えることである。
【0005】
そこで本発明の目的は、製造を容易にすることを可能とし、且つ低コスト化を可能とするゲルを有する物体の製造法およびゲルを有する物体および成形材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の、ゲルを有する物体の製造法は、3Dプリンタを用いて、熱伝導率、表面の粗さ、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料を、成形型の部位毎に置して、成形型を作製する工程と、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有する成形材料成形型に供給し、成形物を得る工程、または、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有する1以上の成形材料を、成形物の部位毎に異なる物性を有するように、成形型を用いて成形し、成形物を得る工程と、を有する
【0007】
ここで、成形物は、生体組織を模した成形物であることとしても良い。
【0008】
また、成形物中に、成形物とは異なる生体組織を模した成形物、または手術材料の一部または全部を埋設させることとしても良い。
【0009】
また、生体組織を模した成形物、または手術材料の一部または全部、物性または色の違う複数の樹脂材料で製造することとしても良い。
【0010】
また、成形物とは異なる生体組織を模した成形物、または手術材料は、3Dプリンタを用いて形のあるものを造形する造形物および/または、成形型を用いて成形する第2成形物を有することとしても良い。
【0011】
また、成形材料が、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ゼラチン、キサンタンガム、カシアガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、グルコマンナン、タマリンドガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、アルギン酸塩、ペクチン、カードラン、澱粉、卵白、卵白加工物、ポリビニルアルコール、乳清タンパク質素材、ゼラチン酵素反応物、タマリンドガム酵素反応物、サイリウムシードガム、から選ばれるいずれか1以上を有することとしても良い。
【0012】
また、成形物とは異なる生体組織を模した成形物、または手術材料と、成形物が、それぞれ視覚により判別できる異なる色彩をなすととしても良い。
【0013】
また、ゲルを有する物体は、手術練習用、または医療用ロボットの操作の習得用のゲルを有する物体であることとしても良い。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の、ゲルを有する物体は、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有するものから選ばれるいずれか1以上を有する成形材料を使用し、部位により異なる物性を有するゲルを配置した成形物と、成形物に全部または一部が埋設される、成形物とは異なる生体組織を模したもの、または手術材料と、を有する。
【0015】
ここで、ゲルが、ハイドロゲル化剤を含有する水溶液において、ゾルからゲルに転移する、ゲル化転移温度より5℃高い溶液粘度と、ゲル化転移温度より20℃高い溶液粘度との溶液粘度の差が1~200mPa・sの範囲にあるゲル状の被膜素材、または、ゾルからゲルへの転移が1価および/または2価のカチオンを介して行われるゲル状の被膜素材のいずれか1以上を、少なくとも1層以上有することとしても良い。
【0016】
また、ゲルが、ネイティブジェランガム、κカラギーナン、または寒天であり、ゾルからゲルへの転移が1価または2価いずれか1以上のカチオンを介して行われるゲル状の被膜素材がアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、LMペクチン、脱アシルジェランガム、ナトリウム型κカラギーナン、から選ばれるいずれか1以上であり、1価および/または2価のカチオンがナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、のいずれか1以上であることとしても良い。
【0017】
また、成形物が含気されていることとしても良い。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の、3Dプリンタを用いて、物性または色の違う複数の樹脂材料により、熱伝導率、表面の粗さ、硬度、または弾力性から選ばれる1以上を、部位によって配置を調整した成形型により、ゲルを成形する成形材料は、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ゼラチン、キサンタンガム、カシアガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、グルコマンナン、タマリンドガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、アルギン酸塩、ペクチン、カードラン、澱粉、卵白、卵白加工物、ポリビニルアルコール、乳清タンパク質素材、ゼラチン酵素反応物、タマリンドガム酵素反応物、サイリウムシードガムから選ばれるいずれか1以上、を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、製造を容易にすることを可能とし、且つ低コスト化を可能とするゲルを有する物体の製造法およびゲルを有する物体および成形材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施の形態に係る成形型の製造法のフロー図である。
図2】第1の実施の形態で使用する一組の成形型の斜視図である。
図3】第1の実施の形態で使用する一組の成形型の図面代用写真である。
図4】第1の実施の形態の一組の成形型が閉じた状態を示す斜視図である。
図5】第1の実施の形態に係る成形の状態を示す模式図である。
図6】第1の実施の形態に係る成形型の転写凹部に成形物が入った状態を示す断面模式図である。
図7】第2の実施の形態に係る血管の外観図である。
図8】第2の実施の形態に係る肝臓の臓器モデルの外観図である。
図9】第2の実施の形態に係る一組の肝臓用の成形型の図面代用写真である。
図10】第2の実施の形態に係る一組の肝臓用の成形型の転写凹部に臓器モデルをはめ込んだ図面代用写真である。
図11】第2の実施の形態に係る臓器モデルの図面代用写真である。
図12】第3の実施の形態に係る成形物に水溶性樹脂を配置した状態を示す断面模式図である。
図13図12の状態から水溶性樹脂を溶かして、成形物に空洞を形成した状態を示す断面模式図である。
図14】第3の実施の形態の変形例に係る成形物に水溶性樹脂を配置した状態を示す断面模式図である。
図15図14の状態から水溶性樹脂を溶かして、成形物に通路を形成した状態を示す断面模式図である。
図16】第4の実施の形態に係る成形型の斜視図である。
図17】第4の実施の形態に係る成形型の斜視図である。
図18図16のA-A断面図である。
図19】第4の実施の形態に係る成形型の製造法のフロー図である。
図20】第4の実施の形態に係る血管の製造フロー図である。
図21】ゲルを成形型に入れる前の、血管の成形型への配置状態を示す斜視図である。
図22】第4の実施形態の変形例を示す血管の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、複数の実施形態について、図面に基づいて説明する。ここで、ゲルとは、たとえば、臓器または人間の皮膚程度に柔らかいものである。また、「ゲルを有する物体」とは、少なくともゲル単体を含む物体のことである。さらに、本明細書では、成形型等を用いて素材を一定の形に作ることを「成形」(molding)といい、後述する三次元プリンタ(3Dプリンタ)等で形のあるものをつくることを「造形」(shaping)という。さらに、本明細書において、「硬い」と表現される物は、ショア硬度95以上であり、ゲルのように「柔らかい」と表現されるものは、ショア硬度95未満である。また、本明細書では、「ゲル」を成形型で成形したものを「成形物」といい、第2の実施の形態において、生体組織を模した成形物(便宜上、以下「生体組織をもしたもの」と記す)を3Dプリンタでつくったものを「造形物」という。さらに、第2の実施の形態において、生体組織を模したものを成形型でつくったものを「第2成形物」という。また、本明細書において「樹脂材料」とは、単一樹脂、異なる樹脂を混合したもの、樹脂に金属またはセラミック等を混ぜた材料を含むものとする。
【0022】
(第1の実施の形態に係るゲルを有する物体の製造法の内容)
以下、第1の実施の形態に係るゲルを有する物体の製造法について、図面を参照しながら説明する。図1は、第1の実施の形態に係る成形型の製造法のフロー図である。図2は、第1の実施の形態で使用する一組の成形型の斜視図である。図3は、第1の実施の形態で使用する一組の成形型の図面代用写真である。図4は、第1の実施の形態の一組の成形型が閉じた状態を示す斜視図である。図5は、第1の実施の形態に係る成形の状態を示す模式図である。
【0023】
まず、図1に示す工程Sを行う。工程Sは、3Dプリンタを用いて物体の形状を転写した成形型を造形する工程である。3Dプリンタは、三次元印刷機器、三次元プリンタ、または三次元造形機等と言われるものである。また、3Dプリンタは、三次元CAD(computer-aided design)データに基づき、3Dの造形物を印刷し製造するものである。また、3Dプリンタの印刷は、例えば印刷する際に紫外線硬化樹脂材料等の光硬化性樹脂材料を一層ずつ形成し、その都度紫外線を照射して樹脂材料を硬化させる操作を繰り返すことで樹脂材料層を形成し、徐々に3次元形状を印刷、つまり造形していく。この光硬化性樹脂は、紫外線で硬化する樹脂以外に、ブラックライト、レーザー等の光で硬化する樹脂を含む。これは、第2,3また4の実施の形態にて用いられる3Dプリンタ用の光硬化性樹脂も同様である。
【0024】
三次元CADデータは、例えば三次元スキャナで対象物をスキャニングすることで、対象物の三次元CADデータの一部または全部が得られる。三次元スキャナとは、非接触式のものは、主に光つまり電磁波を使うもので、レーザーなどを対象物に照射してその反射光を解析し、三次元CADデータを得るものである。また、臓器モデルの三次元CADデータを得るには、MRI(Magnetic Resonance Imaging)または、CT(Computed Tomography)スキャナ等を用いることができる。また、三次元CADデータは、三次元スキャナまたはMRIまたは、CTスキャナ等を用いなくとも、コンピュータで三次元CADのソフトウェアを操作して、モデリングにより、その一部または全部を得ることもできる。
【0025】
そして、物体の形状を転写した一組の成形型1a,1bの三次元CADデータを作成する。この「物体」は、人間の心臓とする。人間の心臓の三次元CADデータ(A)は、人間の心臓をMRIまたは、CTスキャナ等でスキャニングして作成する(S1)。そして、一組の成形型1a,1bのそれぞれの、後述する転写部2a,2b以外の部分の三次元CADデータ(B1,B2)を一つずつ作成する(S2)。三次元CADデータ(B1,B2)は、コンピュータで三次元CADのソフトウェアを操作して作成する。
【0026】
そして、人間の心臓の三次元CADデータ(A)を加工する(S3)。加工点は、2つある。1つ目の加工点は、人間の心臓の三次元CADデータ(A)の凹凸を逆にする加工である。これは、一組の成形型1a,1bで人間の心臓を成形するため、その三次元CADデータ(A)の凹凸は逆にする必要があるためである。2つ目の加工点は一組の成形型1a,1bに、人間の心臓の形状を分配するため、人間の心臓の三次元CADデータ(A)の凹凸を逆にしたものを、約半分に分け、A1,A2の2つの三次元CADデータとする加工である(S3)。これらの加工も、コンピュータで三次元CADのソフトウェアを操作して行う。
【0027】
そして、三次元CADデータ(A1)と、三次元CADデータ(B1)を組み合わせる、または加える(S4)。同様に三次元CADデータ(A2)と、三次元CADデータ(B2)を組み合わせる、または加える(S4)。すなわち、
A1+B1→C1
A2+B2→C2
といったデータの操作を行い、三次元CADデータ(C1)と、三次元CADデータ(C2)を得る。三次元CADデータ(C1)は、成形型1aの三次元CADデータであり、三次元CADデータ(C2)は、成形型1bの三次元CADデータである。これらの操作も、コンピュータで三次元CADのソフトウェアを操作して行う。
【0028】
そして、一組の成形型1a,1bの三次元CADデータ(C1,C2)に基づいて、3Dプリンタを用いて、一組の成形型1a,1bをそれぞれ造形する(S5)。これで工程Sが完了する。これ以外の3Dプリンタで造形した成形型を作成する方法を採用しても良い。この成形型は、樹脂材料からなり、一組の成形型1a,1bの組み合わせからなる。片方の成形型1aには、人間の心臓の約半分の形状が転写されている転写凹部2aがあり、もう片方の成形型1bには、上述した人間の心臓の約半分の残りの約半分の形状が転写されている転写凹部2bがある。転写凹部2a,2bは、一組の成形型1a,1bが閉じた状態で、密着するように接触し合う基準面3a,3bよりも凹んでいる。
【0029】
片方の成形型1aには、「物体」の形状が転写されていない領域に凹部4a,4b,4cがあり、もう片方の成形型1bには、「物体」の形状が転写されていない領域に凹部4a,4b,4cと嵌め合わせることのできる凸部5a,5b,5cがある。この凹部4aと凸部5a、凹部4bと凸部5b、凹部4cと凸部5cとを嵌め合わることで、転写凹部2aと転写凹部2bとの位置が合う。このように位置を合わせて、一組の成形型1a,1bが閉じた状態、且つ基準面3a,3bが互いに密着するように接触し合うようになれば、両転写凹部2a,2bにより形成された空間が正確に人間の心臓の形状となるようにできる。
【0030】
一組の成形型1a,1bが開いた状態では、外部から転写凹部2a,2bに成形材料を供給する溝6a,6bが、一組の成形型1a,1bのそれぞれに設けられる。そして、一組の成形型1a,1bが閉じた状態では、2つの溝6a,6bが経路となり、外部から両転写部2a,2bに成形材料を供給する成形材料供給経路7となる。
【0031】
次に、成形材料を用意し、一組の成形型1a,1bを用いて成形する。成形材料は、熱可逆性のゲル化特性を有するものである。具体的な成形材料は、水に寒天を混ぜたものである。この混合比率は、水1000gに対して粉状の寒天が20gである。これを加熱溶解し寒天をゾル状態にした後、上述の一組の成形型1a,1bを閉じた状態で、成形材料供給経路7から成形材料を供給する。成形材料である、ゾル状の寒天の水溶液は、60℃程度では粘度が低く、転写凹部2a,2bの細かいところまで入り込むことができる。なお、ゾル状の寒天の水溶液は、一組の成形型1a,1bが閉じた状態、且つ基準面3a,3bが互いに密着するように接触し合う状態では、一組の成形型1a,1bの隙間から滲み出ることは殆どなかった。
成形材料は、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかによりゲル化する特性を有するハイドロコロイドより選択される。
熱可逆性のゲルは、加熱により溶解し冷却により凝固する性質を持ち、例えば、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ゼラチン、キサンタンガム、カシアガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、グルコマンナン、タマリンドガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、澱粉より選ばれる1以上の材料が例示される。このうち例えばキサンタンガムはカシアガム、タラガム、ローカストビーンガム、サイリウムシードガムのいずれか1以上との複合物によりゲル化する特性を持つ。
熱硬化性のゲルは、水またはぬるま湯で溶解し、加熱により凝固する性質を持ち、例えば、カードラン、卵白、卵白加工物などが例示される。
カチオン反応性を有するゲルは、溶解した水溶液にカルシウムイオンなどのカチオンを加えて架橋構造をとるなどにより凝固する性質を持ち、アルギン酸塩(アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムなど)、ペクチン、グアーガム、ポリビニルアルコールなどが例示される。
熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかによりゲル化する特性を有するハイドロコロイドは、ゲル化を阻害しない限りにおいて、上記材料から選ばれるいずれか1以上を配合することとしても良い。
これらの材料は、粉体の場合、事前に配合し混合されていてもいいし、この混合粉体を溶解して成形液にしてもいい。これらは使いやすいように計量され、包装されていることが好ましい。熱可逆性の成形液(液状の成形材料または成形物を言う、以下同じ)は常温に保存されゲル化している場合には、成型時には加熱再溶解して使用される。
カチオン反応性の成形液は、成形時にカルシウムなどカチオンを同時に加えて使用される。さらに成型物が腐敗しないように必要に応じて、メチルパラベンやエチルパラベンなどの防腐剤を加えることができる。
生体組織を模したゲルを有する物体の物性は、それぞれの生体組織に合わせることが好ましい。このために、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかによりゲル化する特性を有するハイドロコロイドの物性が重要である。
従来の3Dプリンタにおける工業材料では、その硬度にショア硬さを用いる場合が多い。本発明のショア硬さとしては、生体組織それぞれにより異なるが、例えばゴムショア硬さA10以下程度の硬さと表すことができる。
一方、本発明では、ゲル状物のレオロジー特性を表す測定として、テクスチャーアナライザーやレオメーターによる破断強度と破断歪みにより表現することができ、精度の高い生体組織の模倣が可能になった。
破断強度は、本発明のゲルに応力をかけ破断するときの荷重であり、破断歪みは本発明のゲルに応力をかけ破断するまでの変形距離で表すことができる。それぞれの生体組織に合わせて本発明のゲルを有する物体の材料を組み合わせることが出来る。
【0032】
本実施の形態における、ゲルを有する物体として使用できる、第1のゲル状の皮膜素材について述べる。ハイドロゲル化剤を含有する水溶液において、ゾルからゲルに転移する温度(ゲル化転移温度)より5℃高い溶液粘度と、ゲル化転移温度より20℃高い溶液粘度との溶液粘度の差が1~200mPa・sの範囲にあり、且つゲル形成能力が極めて高く、ゲル化転移温度より数度低い温度で目的のゲル強度に達し、その後は温度変化によるゲル強度の変化量が少ないゲル状の被膜素材としては、ネイティブジェランガム、κカラギーナン、寒天、キサンタンガムとガラクトマンナン、キサンタンガムとグルコマンナン、脱アシルジェランガム、があるが作業性が良く、液性の良好なネイティブジェランガム、κカラギーナン、寒天が好ましい。
本実施の形態における、ゲルを有する物体として好ましく使用できる皮膜素材について述べる。皮膜が均一に適度な厚さに形成されるために皮膜素材に要求される条件としては、
(1)皮膜を塗布する時に、ゲル化力を有するハイドロコロイド溶液(ゾル)の粘度が低いこと。粘度が高いと厚い皮膜になり、目的とする薄さの皮膜が得られない。
(2)塗布される温度付近のゾル粘度と、ゾルからゲルに転移する温度(ゲル化転移温度)付近のゾル粘度との差が小さく且つ低粘度であること(塗布後速やかにゲル化させるため、塗布はなるべくゲル化転移温度に近い温度で行うことが好ましいため)。
(3)ゲル化力を有するハイドロコロイド溶液(ゾル)が塗布された後は速やかにゲル化して固まること。
などが挙げられる。
また、ゲル化力を有するハイドロコロイド溶液(ゾル)として、1価または2価のカチオンと反応することにより瞬時にゲル化するものでもよい。
具体的には、
第1のゲル状の皮膜素材については、ゲル化力を有するハイドロコロイド水溶液においてゲル化転移温度より5℃高い溶液粘度と、ゲル化転移温度より20℃高い溶液粘度との差が1~200mPa・sの範囲であり、且つゲル形成能力が極めて高く、ゲル化転移温度より数度低い温度で目的のゲル強度に達し、その後は温度変化によるゲル強度の変化量が少ないことが挙げられ、ネイティブジェランガム、κカラギーナン、寒天が挙げられる。
第2のゲル状の皮膜素材については、ゾルからゲルへの転移が1価または2価のカチオンを介して行われることを特徴とするゲル状の被覆素材が挙げられ、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、LMペクチン、脱アシルジェランガム、アゾトバクタービネランジーガム、ナトリウム型κカラギーナンが挙げられる。
このような皮膜を少なくとも1層以上有する皮膜素材が、本実施の形態における、ゲルを有する物体として好ましく使用できる皮膜素材である。
【0033】
本実施の形態における、ゲルを有する物体として使用できる、第2のゲル状の皮膜素材について述べる。ゾルからゲルに転移が1価または2価のカチオンを介して行われることを特徴とするゲル状の被膜素材としてはアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、LMペクチン、脱アシルジェランガム、アゾトバクタービネランジーガム、ナトリウム型κカラギーナンが挙げられる。
ここで、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、LMペクチン、脱アシルジェランガム、アゾトバクタービネランジーガムは、カルシウムイオンと反応しゲルを形成する。脱アシルジェランガムはカルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン等と反応してゲルを形成する。ナトリウム型κカラギーナンはカリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等と反応してゲルを形成する。
【0034】
皮膜を設ける目的は、本発明のゲルを有する物体を、手術練習用または医療用ロボットの操作の習得用に使用する場合、臓器表面の漿膜などを模倣するためである。
皮膜を形成させる方法としては、第1のゲル状の皮膜素材ではゲルを有する物体に対し、(1)ハイドロゲル化剤を含有する水溶液に含侵させて引き上げる、(2)ハイドロゲル化剤を含有する水溶液を塗布する、(3)ハイドロゲル化剤を含有する水溶液を吹き付ける方法などがある。
第2のゲル状の皮膜素材では、(1)ゲルを有する物体にハイドロゲル化剤を含有する水溶液を浸漬、塗布、吹き付けなどにより付着させた後、1価又は2価いずれか1以上のカチオンを浸漬、塗布、吹き付けなどにより付着させる方法、(2)ゲルを有する物体に1価又は2価いずれか1以上のカチオンを浸漬、塗布、吹き付けなどにより付着や含侵させた後、ハイドロゲル化剤を含有する水溶液を浸漬、塗布、吹き付けなどにより付着させる方法などがある。また、ゲルを有する物体の製造時に1価又は2価いずれか1以上を溶解して混ぜ込み、成型後にハイドロゲル化剤を含有する水溶液を浸漬、塗布、吹き付けなどにより付着させる方法でも良い。
第1のゲル状の皮膜素材および第2のゲル状の皮膜素材としては、上記ハイドロゲル化剤溶液には、糖類、乳化剤、ポリオール、上記外のハイドロコロイド、ミネラル、色素、繊維、などを含んでも良い。糖類には単糖、2糖、オリゴ糖、デキストリン、これらの糖アルコール、乳化剤は一般的に使用されているものであれば特に限定されない。ポリオールはグリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどが挙げられる。ハイドロコロイドには、澱粉、ゼラチン、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、フェヌグリークガム、カシアガム、HMペクチン、タマリンドガム、などが挙げられる。ミネラル、色素、繊維は特にこだわらない。
【0035】
また、成形物に気体を含有させる(含気させることにより)ことにより、含気させないものに比重が小さく柔らかな成形物を作ることができる。気体の大きさ(直径)は特に限定されないが、ナノバブルと呼ばれるナノスケールの微細なものから5mm程度の大きいものでも良い。
含気させる方法としては、成形材料の溶液に乳化剤、タンパク、ペプチド、などの気泡剤を加え撹拌により気泡させ含気させる方法、成型材料の溶液に直接気体を吹き込んで含気させる方法、成型材料の溶液に重炭酸ナトリウムなどの気体を発生する物質または酸のいずれか一方を溶解しておき、この溶液にもう一方の気体を発生する物質または酸を添加して気体を発生させ含気させる方法などがあるが、含気させることができれば特に方法にこだわるものではない。
【0036】
また、成形物には、臓器の変性を模した、変性素材を添加してもよい。変性素材とは、たとえば、電気メスが臓器に接触したとき等に、タンパク変性により焦げたりするものを模したものである。変性素材の材料としては、糖類、タンパク質、ポリフェノール、アミノ酸、セルロース類などが挙げられる。変性素材は、フィルム状にして、臓器モデルに発布しても良いし、臓器モデルに練り込むように含ませても良い。フィルム状の変性素材の厚みは、10μm以上5mm以下が好ましい。臓器モデルに変性素材を添加することによって、例えば電気メスを使用して手術の練習をした場合において、表皮、血管付近、臓器深部などに、電気メスが接触して焦げた状態を臓器モデル等で表現することが可能となる。なお、メス等を通じて執刀者に伝わる変性素材の質感は、変性素材の材料を、糖類、タンパク質、ポリフェノール、アミノ酸、セルロース類などとしたときには、本物の表皮、血管、臓器等の「焦げ」にそっくりなものとすることができる。臓器モデルにフィルム状の変性素材を発布することによって、臓器モデル製造時に変性素材を練り込む必要がなく、製造が容易となる。また、フィルム状の変性素材とすることで、変性素材を必要な箇所にのみ発布できるので効率的である。また、フィルム状の変性素材は、それを塗布するだけで臓器モデル等に添加できるので、用時調整が可能である。さらに、フィルム状の変性素材は、血管周辺、表皮、などの電気メスの練習を行いたい箇所にのみ、簡易的に模倣試験ができる 。
ここで、変性素材を臓器モデルに練り込むように含ませる方法を説明する。たとえば、成形材料が熱可逆性のゲルの場合には、成形材料を水に溶解させる前、又は溶解させた後に変性素材を加え溶解する。この変性素材入りの成形材料を有する溶液を、成形型に流し込んで冷却しゲル化させることで、変性素材を熱可逆性のゲルを有する臓器モデルに練り込むように含ませることができる。
また、たとえば、成形材料が熱硬化性のゲルの場合は、成形材料を水又はぬるま湯に溶解又は分散後、また卵白などの溶液状態の成形材料は直接、変性素材を加え、この変性素材入りの成形材料を有する溶液を、成形型に流し込んで加熱しゲル化させる。これで、変性素材を熱硬化性のゲルを有する臓器モデルに練り込むように含ませることができる。
また、たとえば、成形材料がカチオン反応性ゲルの場合は、成形材料を水に溶解させる前、又は溶解させた後に変性素材を加え溶解する。この変性素材入りの成形材料を有する溶液に難溶性カルシウム等を加え成形型に流し込んで冷却しゲル化させる。これで、変性素材をカチオン反応性のゲルを有する臓器モデルに練り込むように含ませることができる。
次に、変性素材を、フィルム状にする方法について説明する。まず、寒天、こんにゃく、カラギーナン、ゼラチン、セルロース誘導体、プルラン等のフィルム基材を使用してフィルムを作製する場合において、フィルム基材が溶液の状態のときに、そのフィルム基材に変性素材を加えフィルム化する方法がある。
次に、成膜した状態のフィルムを、溶液状態の変性素材に浸漬したり、溶液状態の変性素材を噴霧したりしてフィルムに含浸させ乾燥する方法により変性素材を含んだフィルムが作製できる。
これらのフィルムを臓器モデルに直接、又は水などに膨潤させた後に発布する。これにより臓器モデルに密着させることができる。
また、予め成形型に接着剤等を使用してフィルムを貼り付け、この成形型に成形材料の溶液を流し込んでゲル化させても良い。
【0037】
十分に成形材料が転写凹部2a,2bの細かいところまで入り込んだ後、一組の成形型1a,1bの温度を20℃まで冷却する。これで成形が終了する。人間の心臓の臓器モデル8は、透光性を有するものである。一組の成形型1a,1bは、何度も成形材料の成形に用いることができる。なお、臓器モデル8の全体は、成形型1a,1bを用いて成形しているため、成形物19となる。以上で、第1の実施の形態に係るゲルを有する物体が製造される。
【0038】
図5は、一組の成形型1a,1bが透明であると仮定して、その成形物である人間の心臓の臓器モデル8が見えるようにした、模式図である。
【0039】
(第1の実施の形態によって得られる主な効果)
第1の実施の形態は、3Dプリンタで得られた成形型を用いることから、その成形物である人間の心臓の臓器モデル8の製造を容易にすることを可能としている。また、成形型1a,1bは、何度も成形材料の成形に用いることができることから、臓器モデル8の製造の低コスト化を可能とすることができる。
【0040】
第1の実施の形態によって得られる臓器モデル8は、触感が本物そっくりのものとすることが可能である。また、この臓器モデル8は、メスまたはペアンで切った感触を本物そっくりのものとすることが可能である。そのため、この臓器モデル8は、手術前の練習に用いたり、医者の研修の際に用いるのに適している。また、臓器モデル8は、手術の縫合練習の際に、その臓器モデル8に対して縫合練習できるため、有用である。また、臓器モデル8は、腫瘍等までに辿り着くまでのルートをシュミュレーションする際にも、その臓器モデル8を使ってシュミュレーションができるため、有用である。また、臓器モデル8は、手術の際等の、注射の練習の際に、その臓器モデル8に対して注射できるため、有用である。また、臓器モデル8等は、医療機器の評価および安全性等の試験、または検証の際に臓器モデル8を用いてできるため、有用である。また、臓器モデル8は、医療用ロボットの操作の習得の研修等の際に、その臓器モデル8に対して医療用ロボットを動かすことができ、有用である。また、臓器モデル8は、PTC(経皮経肝胆管造影法)またはPTCD(経皮経肝胆管ドレナージ)の練習の際に、臓器モデル8に対して検査等を行うことができるため、有用である。また、臓器モデル8は、超音波医療装置をシュミュレーションにも使える。また、臓器モデル8と同様のゲル(成形物)で食道から胃に至るチューブ状の物、または肛門から腸に至るチューブ状の物を作れば、内視鏡検査の練習ができる。臓器等を切る回数が多い程名医になるといわれるため、この臓器モデル8を用いて経験を積むことができる場合には、この臓器モデル8は医学に多大な貢献をするものと考えられる。また、この臓器モデル8は、食品の一種である寒天を主成分としているため、廃棄物になっても環境調和性が高い。また、生きている動物をわざわざ殺し、臓器を取り出して、人間の臓器モデル(代替物)を得るようなことが、従来は行われてきたことがあるが、本実施の形態では、そのような余計な殺生をする必要がない。また、成形材料の寒天等に対する水の量の増減により、成形物の柔らかさを調節できるし、繊維質のもの等を混ぜることにより、成形物の質感を変えることができるため、様々な柔らかさおよび質感の成形型を得る事ができる。
【0041】
第1の実施の形態では、3Dプリンタを用いて臓器モデル8の一組の成形型1a,1bを製造している。3Dプリンタは、三次元CADデータを驚くほど忠実に印刷物、つまり造形物の形状に反映できる特徴を有する。3Dプリンタは、16μmの細かい凹凸も表現できると言われている。そのため、血管等の細かい凹凸を忠実に転写凹部2a,2bに転写した成形型を製造できる。この細かい凹凸を忠実に転写する効果は、従来の金型等を採用した場合には、到底得られず、3Dプリンタを用いて成形型1a,1bを製造した場合に初めて得られる効果である。しかも、3Dプリンタを用いた一組の成形型1a,1bの製造に要するコストおよび時間は、従来の金型の約1/6とすることができる。
【0042】
転写凹部2a,2bは、例えば、図6に示すような成形型1aの転写凹部2aの断面模式図において、入り口9が奥側10よりも狭い形状の箇所があったとしても、臓器モデル8つまり成形物19は離型できる。その理由は、成形材料が寒天であり、液状とも言える成形物19が非常に低い粘性であるため、入り口9が奥側10よりも狭い形状であっても、形状を変えて入り口9の狭い形状を掻い潜ることができるためである。
【0043】
(第2の実施の形態に係るゲルを有する物体の製造法の内容)
以下、第2の実施の形態に係るゲルを有する物体の製造法について、図面を参照しながら説明する。図7は、第2の実施の形態に係る血管11(成形物とは異なる生体組織を模したもの、または手術材料)の外観図である。図8は、肝臓の臓器モデルの外観図である。図9は、第2の実施の形態に係る一組の肝臓用の成形型の図面代用写真である。図10は、第2の実施の形態に係る一組の肝臓用の成形型の転写凹部に臓器モデルをはめ込んだ図面代用写真である。図11は、第2の実施の形態に係る臓器モデルの図面代用写真である。なお、特に明記しない限り、第2の実施の形態に係る成形型の製造法、ゲルすなわち成形物21の材料および成形法は、第1の実施の形態と同様とし、その詳細な説明を省略する。
【0044】
第2の実施の形態に係るゲルを有する物体は、成形物21と血管11とを有する人間の肝臓の臓器モデル22である。臓器モデル22は、血管11の一部が成形物21の中に埋設されるものである。この血管11は、樹脂材料製で、3Dプリンタで造形したものである。また血管11は、青色と赤色で着色している。血管11は、成形物21よりも硬い部分となる。成形物21は、寒天と水を成形材料として製造する柔らかい物、すなわちゲルであるため、臓器モデル22は、第2の実施の形態に係るゲルを有する物体となる。なお、血管11には、太い幹11aとなる動脈部分と、細い血管部分11bがある。
このように、血管11等の生体組織と成形物21は、それぞれ視覚により判別できるように異なる色彩をなすことが好ましく、さらに人体または動物の生体組織を模した色彩をなすことがより好ましい。また、成形物21は、一の生体組織を模したもの(血管11)とは別の、生体組織を模したもの(肝臓)である。
【0045】
血管11は、成形の際に、成形型1a,1bと同様の成形型20a,20bの中で、その一部が成形物21に埋設される。その埋設をする方法について説明する。この一組の成形型20a,20bは、樹脂材料からなる。片方の成形型20aには、人間の肝臓の約半分の形状が転写されている転写凹部23aがあり、もう片方の成形型20bには、上述した人間の肝臓の約半分の残りの約半分の形状が転写されている転写凹部23bがある。転写凹部23a,23bは、一組の成形型20a,20bが閉じた状態で、密着するように接触し合う基準面24a,24bよりも凹んでいる。
【0046】
片方の成形型20aには、「物体」の形状が転写されていない領域に凹部25a,25b,25cがあり、もう片方の成形型20bには、「物体」の形状が転写されていない領域に凹部25a,25b,25cと嵌め合わせることのできる凸部26a,26b,26cがある。この凹部25aと凸部26a、凹部25bと凸部26b、凹部25cと凸部26cとを嵌め合わることで、転写凹部23aと転写凹部23bとの位置が合う。このように位置を合わせて、一組の成形型20a,20bが閉じた状態、且つ基準面24a,24bが互いに密着するように接触し合うようになれば、両転写凹部23a,23bにより形成された空間が正確に人間の肝臓の形状となるようにできる。
【0047】
なお、一組の成形型20a,20bが開いた状態では、外部から転写凹部23a,23bに成形材料を供給する溝27a,27bが、一組の成形型20a,20bのそれぞれに設けられる。そして、一組の成形型20a,20bが閉じた状態では、2つの溝27a,27bが経路となり、外部から両転写凹部23a,23bに成形材料を供給する成形材料供給経路28となる。
【0048】
転写凹部23a,23bには血管11の太い幹11aを配置する転写凹部23c,23dが含まれており、そのスペースに血管11を配置する。すると、一組の成形型20a,20bが閉じた状態では、血管11が動かなくなり、細い血管部分11bは、転写凹部23a,23bによって形成された空間に配置される。その後、転写凹部23a,23bの残りの隙間に、寒天と水からなる成形材料を成形材料供給経路28から充填し、第1の実施の形態と同様に成形物21を成形する。以上によって、成形物21に血管11が埋設された臓器モデル22を製造できる。図11に示すように、成形物21に埋設されているのは、主に細い血管部分11bであり、太い幹11a部分は、多くが成形物21に埋設されてない。
【0049】
(第2の実施の形態によって得られる主な効果)
第2の実施の形態は、血管11の部分の触感を異なるものとした人間の肝臓の臓器モデル18を得ることができた。臓器モデル22は、血管11の部分を固くし、成形物21を寒天と水で柔らかくしているため、血管11の部分が際立った臓器モデル22である。
【0050】
また、臓器モデル18は、血管11の位置を意識しながら手術の練習ができる。従って、より実践に近い手術練習用の臓器モデル18を提供できる。また、血管11は、1度臓器モデル22に使い、成形物21の部分をメス等で切った後、何度も再利用ができるため、臓器モデル22のより大きなコスト削減となる。
【0051】
また、第2の実施の形態によって得られる効果には、第1の実施の形態の効果を含む。
【0052】
(第3の実施の形態に係るゲルを有する物体の製造法の内容)
以下、第3の実施の形態に係るゲルを有する物体の製造法について、図面を参照しながら説明する。図12は、第3の実施の形態に係る成形物32に水溶性樹脂を配置した状態を示す断面模式図である。図13は、図12の状態から水溶性樹脂を溶かして、成形物32に空洞を形成した状態を示す断面模式図である。なお、特に明記しない限り、第3の実施の形態に係る成形型の製造法、ゲルすなわち成形物32の材料および成形法は、第1の実施の形態と同様とし、その詳細な説明を省略する。
【0053】
第3の実施の形態は、成形物32を人間の心臓の臓器モデル33とする。臓器モデル33には、空洞12が開いている。この空洞12は、第1の実施の形態に係る臓器モデル8と同様の成形の際に、80℃以下の水に溶ける物質、ここではポリビルアルコールからなる水溶性樹脂13を、成形材料の中に配置し、成形が終わったら、室温の約25℃で水溶性樹脂13を水に接触することで作る。水溶性樹脂13は、80℃以下の水に溶けるため、臓器モデル8bの中に仕込み、溶けた後は空洞12となる。
【0054】
(第3の実施の形態によって得られる主な効果)
第3の実施の形態によって臓器モデル33に空洞12を作ることができる。人間の心臓は、右心房、左心房、右心室、左心室等の空洞を有するため、第3の実施の形態によって、臓器モデル33をリアルに作ることが可能となる。また、臓器モデル以外の「物体」の場合には、第3の実施の形態によって、より複雑な形状を容易に作ることができる。
【0055】
水溶性樹脂13は、臓器モデル33の断面図において、入り口14が奥側15よりも狭い形状の箇所があったとしても、溶けてしまえば入り口14から排出できる。そのため、複雑な形状の空洞12を臓器モデル33に形成できる。
【0056】
また、第3の実施の形態によって得られる効果には、第1の実施の形態の効果を含む。
【0057】
(実験)
以下、上記ゲル化特性を有する材料の実施例について実験1から5を記述する。
実験1
熱可逆性の成形材料の成形実験
表1に示した配合にて成形物を作製した(作製量1000gとなるよう最終的に水の量を調節した)。
サンプル1~6は、水に成形物素材(成形材料の一部)を添加し分散後に加熱溶解した後、色素、グリセリンを加え混ぜ合わせ、成形材料を作製した。これを3Dプリンタで作製した成形型1a,1bに充填し10℃に冷却することにより成形物を作製した。また、第2の実施形態と同様に、血管11と共に成形材料を3Dプリンタで作製した成形型20a,20bに充填し10℃に冷却することにより、ゲルを有する物体を作製した。
【表1】
寒天:伊那寒天大和(商品名) 伊那食品工業株式会社製
カラギーナン:イナゲルE-150(商品名) 伊那食品工業株式会社製
ローカストビーンガム:イナゲル L-85(商品名) 伊那食品工業株式会社製
グルコマンナン:イナゲルマンナン100(商品名) 伊那食品工業株式会社製
キサンタンガム:イナゲルV-10(商品名) 伊那食品工業株式会社製
タマリンドガム:イナゲルV-250C(商品名) 伊那食品工業株式会社製
ネーティブジェランガム:LT-100(商品名) CPケルコ製
サイリウムシードガム:イナゲルA-450(商品名) 伊那食品工業株式会社製
実験1の実験結果:サンプル1~7の成形物19,21は、その成形物の形状を力(重力を含む)を加えない状態で維持でき、心臓または肝臓の細かい凹凸を忠実に再現でき、それらの触感とそっくりのものとすることが可能だった。
【0058】
実験2
熱硬化性の成形材料の成形実験
表2に示した配合にて成形物を作製した(作製量1000gとなるよう最終的に水の量を調節した)。
サンプル8は、水にカードランと澱粉、グリセリン、色素を添加し分散後に、3Dプリンタで作製した成形型1a,1bに充填した。これを95℃に加熱することにより成形物を作製した。
また、水にカードランと澱粉、グリセリン、色素を添加し分散後に3Dプリンタで作製した成形型20a,20bに、第2の実施形態と同様に、血管11と共に充填した。これを95℃に加熱することによりゲルを有する物体を作製した。
【表2】
カードラン:武田キリン食品株式会社製
澱粉 :マツノリンM(商品名) 松谷化学工業株式会社製
実験2の実験結果:サンプル8の成形物19,21は、その成形物の形状を力(重力を含む)を加えない状態で維持でき、心臓または肝臓の細かい凹凸を忠実に再現でき、それらの触感とそっくりのものとすることが可能だった。
【0059】
実験3
カチオン反応性の成形材料の成形実験
表3に示した配合にて成形物を作製した(作製量1000gとなるよう最終的に水の量を調節した)。
サンプル9は、水にアルギン酸ナトリウム、リン酸1カルシウム、グルコノデルタラクトンを溶解し、成形型に充填し24時間放置し成形物を作製した。
サンプル10は水にグリセリン、ポリビニルアルコール、硼砂を溶解し成形型に充填した。60℃に加温しカチオンと反応させ成形物を作製した。
サンプル11は水にジェランガムを分散し加熱溶解した。これに乳酸カルシウムの10%水溶液を添加した。熱時に成形型に充填し、20℃に冷却することによりカルシウムと反応させ成形物を作製した。

これら成形型は、3Dプリンタで作製した成形型1a,1b、および成形型20a,20bである。成形型20a,20bを用いる場合には、第2の実施形態と同様に、血管11と共にサンプル9~11を成形した。
【表3】
アルギン酸ナトリウム:イナゲルGS-130(商品名) 伊那食品工業株式会社製
ポリビニルアルコール:ハイビスワコー(商品名) 和光純薬製
ジェランガム:ケルコゲル(商品名) CPケルコ製
寒天:伊那寒天大和(商品名) 伊那食品工業株式会社製
カラギーナン:イナゲルE-150(商品名) 伊那食品工業株式会社製
ローカストビーンガム:イナゲル L-85(商品名) 伊那食品工業株式会社製
グルコマンナン:イナゲルマンナン100(商品名) 伊那食品工業株式会社製
キサンタンガム:イナゲルV-10(商品名) 伊那食品工業株式会社製
タマリンドガム:イナゲルV-250C(商品名) 伊那食品工業株式会社製

実験3の実験結果:サンプル9~11の成形物19,21,32は、その成形物の形状を力(重力を含む)を加えない状態で維持でき、心臓または肝臓の細かい凹凸を忠実に再現でき、それらの触感とそっくりのものとすることが可能だった。
【0060】
なお、実験1,2,3で使用した溶媒は、全て水としたが、溶質の種類によっては、溶媒の一部または全部をアルコール等の有機溶媒等としても良い。
以上のサンプル1~11以外の、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有する成形材料、たとえば、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ゼラチン、キサンタンガム、カシアガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、グルコマンナン、タマリンドガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、アルギン酸塩、ペクチン、カードラン、澱粉、卵白、卵白加工物、ポリビニルアルコールから選ばれるいずれか1以上を有する成形材料(配合比を変えたものを含む)は、概ねサンプル1~11と同等の実験結果が得られる。
【0061】
実験4
サンプル4で作製したゲルを有する物体に皮膜を形成した。
【表4】
実験結果
皮膜1~10は、いずれも良好な皮膜が形成された。
【0062】
実験5
サンプル1、サンプル8、及びサンプル9について含気を行った。
サンプル1は、成形型に充填前の50℃の溶液に重曹を0.5%添加溶解後、10%クエン酸溶液を5%添加して発泡させ含気させ、これを成形型に充填して急冷し成形させた。
サンプル8は、成型型に充填前の40℃の溶液に微細エアノズルを入れて空気を送り込んで含気させた。これを成形型に充填し、95℃に加熱して成形させた。
サンプル9は、成型型に充填前の20℃の溶液に、製菓用粉末卵白を2%添加し高速撹拌機で含気させ、速やかに成形型に充填して24時間放置して成形物させた。
サンプル1、サンプル8、及びサンプル9に含気したゲルを有する物体は、含気しないものに比べ比重が軽く柔らかい感触になった。
サンプル1、サンプル8、及びサンプル9に含気したゲルは、その感触から、人間の肺の臓器モデルの作製に特に適している。
【0063】
(第4の実施の形態に係るゲルを有する物体の製造法の内容)
以下、第4の実施の形態に係るゲルを有する物体の製造法について、図面を参照しながら説明する。なお、特に明記しない限り、第4の実施の形態に係る成形型の製造法、ゲルすなわち成形物の材料および成形法は、第2の実施の形態と同様とし、その詳細な説明を省略する。また、図16図17は、第4の実施の形態に係る成形型50a,50bの斜視図であり、図9および図10に示した成形型20a,20bと同じ形状のものである。そのため、成形型20a,20bと実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0064】
成形型50a,50bは、物性と色の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させたものである。樹脂材料の物性は、たとえば、硬さ、表面の粗さ、耐熱性、熱伝導率等である。その物性の樹脂材料が特定のものとなり、特定の配置となるように、3Dプリンタの印刷状態を調節して、成形型50a,50bを造形する。このとき、三次元CADデータには、樹脂材料の物性と色等を配置するデータ等が追加される。そして、3Dプリンタには、物性と色の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させることのできる機能を有するものが用いられる。
【0065】
図16図17および図16のA-A断面図である、図18を用いて、成形型50a,50bの樹脂材料と、その配置を説明する。基準面24a,24bおよび外壁54等、成形型50a,50bのうち、転写部23a,23bおよび後述する縁部233a,233b以外の部分の外壁54には、耐熱性が他の成形型50a,50bの部位よりも高い樹脂材料を用いる。これは、成形中に最も温度が上がるのは、基準面24a,24bおよび外壁54等だからである。
【0066】
そして、図18に示すように、成形型50aのうち、断面内層53には、靭性(弾力性)が他の部位よりも高い樹脂材料を用いる。これは、成形型50a,50bの略全体の柔軟性を付与するためである。仮に外壁54と同等の樹脂材料で成形型50a,50bを形成すると、成形型50aにヒビが入るおそれがある。なお、成形型50aだけでなく、成形型50bの断面も、図18に示すような柔軟性を有する断面内層53を有している。
【0067】
転写部23a,23bのうち、血管52(図中には示していないが、第4の実施の形態に係る血管は、血管11とは区別するため、血管52と記す。以下同じ。)以外の肝臓の形状を転写する転写部230a,230bには、熱伝導率が他の部位よりも低い樹脂材料を用いる。この場合、熱伝導率が0.15(W/m・K)のものを用いているが、この値以外でも良い。これは、転写部230a,230bが、非常に複雑な形状であるため、そこに流入するゲルを流動性が良いものとし、極力ゆっくりと硬化させ、成形不良等を起こし難くするためである。このように、ゲルの硬化速度を遅くすると、硬化速度を速くするよりも、一般にゲルの含水量が増えて、ゲルが柔らかくなる。
【0068】
そして、転写部23a,23bのうち、肝臓の血管52の太い幹52a部分を転写する転写部232a,232bには、熱伝導率が他の部位よりも高い樹脂材料を用いる。これは、血管52が血管11と同様に、樹脂材料製で、3Dプリンタで造形したものであるため、成形型50a,50bによって成形されるものでなく、成形不良等を起こすことがなく、ゆっくりと温度を下げる必要が無いためである。むしろ、血管52は、成形型50a,50bによる加熱を極力避けて、変形等を抑制する必要があるためである。
【0069】
そして、転写部23a,23bの周囲全体を約5mm囲う領域である、縁部233aは、ゴムのような感触で、弾力のある樹脂材料を用いる。ここで用いる樹脂材料のショア硬度は、60°である。縁部233a,233bは、ゲルを成形型50a,50bが閉じた状態で型内に入れる際に、ゲルが成形型50a,50bの間を流れ出さないために、密閉を保つためのものである。そのため、図16図17では明確に示していないが、図18に示すように、縁部233a,233bは、基準面24a,24bよりも若干突出している。この突出している部分により、基準面24a,24bを合わせて、成形型50a,50bを閉じた状態としたときに、前述の密閉を保っている。図16図17の破線は、縁部233a,233bの基準面24a,24bとの境界を示している。
【0070】
図19に、第4の実施の形態に係る成形型50a,50bの製造法のフロー図を示す。成形型50a,50bの製造法は、第1の実施形態における成形型1a,1bを示した図1の、ステップS1からステップS4と同じステップを経る(S11)。その後、ステップS1からステップS4で得られた三次元CADデータに、成形型50a,50bの、各部位が立体的形状で仕切られた複数の区画を設定する(S12)。次いで、三次元CADデータに、各々の区画に対してどのような物性と色の樹脂材料を供給するかを設定する(S13)。
【0071】
そして、一組の成形型50a,50bの三次元CADデータに基づいて、前述の3Dプリンタを用いて、一組の成形型50a,50bをそれぞれ造形する(S14)。このとき3Dプリンタは、複数種の樹脂材料を混ぜ合わせて、特定の物性を持った樹脂材料となるように噴射し、各区画を形成する。この成形型50a,50bは、一組の成形型50a,50bの組み合わせからなる。片方の成形型50aには、人間の肝臓の約半分の形状が転写されている転写凹部23aがあり、もう片方の成形型50bには、上述した人間の肝臓の約半分の残りの約半分の形状が転写されている転写凹部23bがある。転写凹部23a,23bは、一組の成形型50a,50bが閉じた状態で、密着するように接触し合う基準面24a,24bよりも凹んでいる。
【0072】
血管52は、物性または色の違う複数の樹脂材料で製造される。また、血管52は血管11と外形が同一である。たとえば、血管52には太い幹52aである動脈部分と、細い血管部分52bとがある。ここで、血管52の部位によって硬さ等を変更する。この血管52も、物性と色の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させることのできる機能を有する3Dプリンタを用いて製造される。製造方法は、成形型50aの製造法と同様である。図20にその製造フロー図を示す。血管52の三次元CADデータに、立体的形状で仕切られた複数の区画を設定する(S22)。次いで、三次元CADデータに、各々の区画に対してどのような物性と色をした樹脂材料を供給するかを設定する(S23)。そして、血管52の三次元CADデータに基づいて、血管52を造形する(S24)。
【0073】
第4の実施の形態において、成形型50a,50bで成形された人間の肝臓の臓器モデルには、血管52ではなく、第2の実施の形態で用いた血管11を用いても良い。また、血管52、血管11に代えて他の血管を用いても良い。
【0074】
図21は、ゲルを成形型50aに入れる前の、血管52の成形型50aへの配置状態を示す図である。動脈52aは、転写部232aにほぼ隙間なく嵌入されている。そのため、血管52は、動脈52aが転写部232aによって固定されていて、ガタツキ等は生じなかった。その上、動脈52aは、成形型50bの転写部232bにもほぼ隙間なく嵌入される。そのため、細い血管部分52bが転写部230a,230bに接触することなく転写部230a,230bの中で浮いている状態とすることができる。そのため、細い血管部分52bがゲル中に完全に埋まった成形物を得ることができる。このことは、第2の実施の形態でも同様である。なお、図21では、縁部233a,233bの記載を省略している。
【0075】
(第4の実施の形態によって得られる主な効果)
第4の実施の形態によって、成形型50a,50bの各区画の硬さ、表面の粗さ、耐熱性、弾力性および熱伝導率等を変えることができる。たとえば、成形型50a,50bの各区画の熱伝導率を変えることができると、ゲルの硬化速度を部分的に調整することができる。また、成形型50a,50bの各区画の硬さを変えることができると、成形型50a,50bの頑丈さまたは強度を部分的に調整することができる。また、成形型50a,50bの表面の粗さを変えることができると、成形型50a,50bの意匠性等を部分的に調整することができる。また、成形型50a,50bの各区画の耐熱性を変えることができると、成形型50a,50bの耐熱性を部分的に調整することができる。また、成形型50a,50bの各区画の弾力性を変えることができると、縁部233a,233bによる成形型50a,50bの密閉、または、断面内層53による成形型50a,50bの略全体の柔軟性の付与が実現できる。
【0076】
3Dプリンタは、樹脂材料を蓄積および供給するインクカートリッジを6本まで搭載でき、各々のカートリッジから樹脂材料を同時に噴射可能である。そのため、成形型50a,50bの製造に必要な樹脂材料を、一度の印刷作業で、繋ぎ部材を必要としない一体造形物(一つのかたまり)として配置し、成形型50a,50bを製造できる。
【0077】
第4の実施の形態のように、成形型50a,50bの各区画の硬さ等を変えることによって、人間の肝臓等の臓器モデルの、成形物の部分をよりリアルに作ることができる。人間の肝臓は、人工物ではないため、厳密に言えば各所の硬さ等が違うはずなのに、ゲルで成形物を作った場合には、どうしても人間の肝臓の各所が同じ硬さ等となってしまう。そのような人間の肝臓の微妙な質感を、臓器モデルで実現可能とするのが、第4の実施の形態である。
【0078】
縁部233a,233bの樹脂材料は、成形型50a,50bではなく、金型をベースに作った場合には、ゴム等を金型の所定箇所に貼り付けて形成するのが通常である。この金型に貼り付けたゴム等は、非常に剥がれやすいのが通常である。しかし、成形型50aは、一体造形物であるため、縁部233a,233bが極めて剥がれにくい。
【0079】
(他の形態)
上述した第1、第2、第3または第4の実施の形態に係るゲルを有する物体の製造法は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0080】
第1、第2、第3または第4の実施の形態では、「物体」を人間の心臓または肝臓の臓器モデル8,22,33としている。しかし、人間の腎臓の臓器モデル等、他の臓器モデルにしても良い。また、動物の臓器モデルとしても良い。さらに、人間等の皮膚、眼球、または脳等のいわゆる医療モデルを「物体」にしても良い。この医療モデルの「医療」には、外科医療等に加え、歯科、形成外科、美容外科等を含む。さらには、人形等の医療とは全く無関係の分野における、ゲルを有する物体にしても良い。たとえば、釣りの疑似餌に用いられるミミズ(ワーム)等を「物体」としても良い。ワームを寒天等で作れば、それを廃棄しても自然環境に悪影響を与えることは少ない。
【0081】
第1、第2、第3または第4の実施の形態では、成形物19,21,32の成形材料は、水と寒天との混合し加熱溶解したゾル状態としたが、その他に熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有するものまたは樹脂を含むもの等、ゲル強度や粘弾性の異なる材料を用いても良い。この理由は、臓器等の柔らかさに近い触感を実現できるためである。また、成形材料は、水に寒天を混ぜたものを用い、この混合比率を、水1000gに対して粉状の寒天が20gとした。しかし混合し溶解された溶液濃度は、適宜変えることができる。たとえば、成形物を柔らかくしたいときには、水分量を増やし、成形物を硬くしたいときには、水分量を減らす等する。また、実験1から5で用いたゲル等は、第1、第2、第3または第4の実施の形態で用いることができることは言うまでもない。
【0082】
3Dプリンタを用いて作製される、成形物19,21,32の成形材料としては、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有する材料が好ましく、たとえば、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ゼラチン、キサンタンガム、カシアガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、グルコマンナン、タマリンドガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、アルギン酸塩、ペクチン、カードラン、澱粉、卵白、卵白加工物、ポリビニルアルコール、サイリウムシードガムから選ばれるいずれか1以上を有することが好ましい。この理由は、臓器等の柔らかさに近い触感を実現できるためである。また、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有する材料は、通常は冷却、加熱、カチオン反応させることにより成形材料をゲル化させるが、それ以外の方法でゲル化させても良い。
【0083】
第1、第2、第3または第4の実施の形態では、臓器モデル8,22,33は、透光性を有するものである。しかし、臓器モデル8,22,33の色は任意の色とすることができる。たとえばその臓器そっくりの色とすることができる。また、硬い部分である血管11は、成形物19,21,32とは異なる色となる部分を有することとしても良い。また、たとえば、食品の着色料を成形材料に混ぜることで、臓器モデル8,22,33に着色ができる。また、成形後に臓器モデル8,22,33の表面に着色することもできる。
【0084】
第1、第2、第3または第4の実施の形態では、人間の心臓または肝臓の三次元CADデータは、人間の心臓を三次元スキャナでスキャニングして得ている。しかし、「物体」の三次元CADデータは、必ずしも三次元スキャナで得る必要はなく、たとえば、三次元CADを操作して得ても良い。
【0085】
第2の実施の形態では、人間の肝臓の臓器モデル22のうちで、際立たせる部分を血管11(成形物21とは異なる生体組織を模したもの)とした。しかし、臓器モデル8aのうちで、際立たせる部分は血管11に限らず、たとえば図8に示すように、腫瘍11cの部分とすることができる。腫瘍11cの部分は、人間の肝臓の中でも硬いため、腫瘍11cの部分を固くし、他の部分を柔らかくした人間の肝臓の臓器モデルは、よりリアルな臓器モデルとなる。また、そのような臓器モデルは、腫瘍摘出手術の練習に使うことができる。また、ゲルを有する物体には、臓器等を含む生体組織を模したものを、その一部または全部埋設させても良い。この生体組織には、腫瘍、結石、歯、歯石から選ばれるいずれか1以上を含むものとする。ここで、生体組織は、3Dプリンタを用いて造形してもよいし、成形型を用いて成形したものでもよい。
【0086】
前記生体組織としては、人体または動物の体の一部または全部を模したものであり、例えば人の場合、大脳、小脳、脳幹、心臓、肺、気管支、咽頭、舌、耳、眼、胃、小腸、大腸、胆のう、肝臓、腎臓、膵臓、食道、十二指腸、副腎、精巣、膀胱、子宮、乳房、筋肉、動脈、静脈、リンパ、脊髄、骨、爪、皮膚から選ばれるいずれか1以上を模しても良い。さらに正常細胞のみならず腫瘍などの異常細胞を成形、造形しても良い。
【0087】
また、「生体組織を模したもの」には、現実の生体組織の形状または質感とは、あえて異ならせたものを含む。たとえば、血管52と、第4の実施の形態では説明しなかった肝臓中の静脈があるとすると、その動脈52aと静脈の硬さは、医師が注射針等の医療処置器具を当てたときに、動脈52aに当てたのか静脈に当てたとかが、感触としてわかるように異なるものであっても良い。この、医療処置器具が当たったときの感触が異なる「生体組織を模したもの」は、研修医が手術等の練習をするときに、非常に有益である。このような、硬さ等の異なる「生体組織を模したもの」の造形には、第4の実施の形態で用いた3Dプリンタが適している。
【0088】
前記生体組織以外の成形物21とは異なる生体組織を模したもの、または手術材料としては、インプラントのような手術材料(たとえばチタンプレートまたはチタンネジのような、金属プレートまたは金属ネジ、人工弁、人工骨、カルシウムまたはカルシウム化合物、点滴針、樹脂製のチューブ、等の意図的に体内に残す人工物)がある。また、手術材料としては、摘出手術の摘出の対象となる、意図しないで体内に残ることがある人工物(ガーゼ、銃弾、注射針等)もある。
【0089】
第2の実施または第4の形態に係る血管11、52は、樹脂材料製で、3Dプリンタで造形したものとした。しかし、血管11、52は、樹脂材料製以外のたとえば、ガラス製等としても良いし、3Dプリンタ以外の手法、たとえば、射出成形、圧縮成形、または押し出し成形、ブロー成形、プレス成形、スラッシュ成形、ローテーション成形して得ても良い。ここで、血管11等の成形物とは異なる生体組織を模したものを、射出成形等の成形型を用いて成形したものを「第2成形物」と言うことにする。「物体」は、血管11、52のような造形物または第2成形物の部分を有し、造形物または第2成形物の部分の一部または全部を成形の際に、成形型の中に配置して、成形物19,21,32と共に成形し、成形物19,21,32に埋設しても良い。ここで、「造形物または第2成形物」は、成形物21と柔らかさが同等、または成形物21よりも柔らかいものであっても良い。「造形物または第2成形物」のうち造形物は、たとえば3次元プリンタ等で造形したものであり、第2成形物は、たとえば成形型によって成形されたものである。また、血管11、52等の生体組織は、中空のゴム製の、マシュマロまたは耳たぶ程度に柔らかいものを3Dプリンタで造形できるため、本物の血管そっくりの触感のものを作ることができる。また、そのような中空のゴム製の足などを模した造形物の、中空の中に成形物19,21,32のような柔らかいゲルを入れることで、足に膿(ゲルで作った)を持っている状態に近いものをつくることができ、その治療の練習等をすることができる。
【0090】
第3の実施の形態では、水溶性樹脂としてポリビルアルコールを用いているが、他の水溶性樹脂、たとえば、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース等を用いても良い。また溶媒は、水ではなく、アルコール等を用いても良い。たとえば、溶媒にアルコールを用いた場合には、低鹸化度のポリビルアルコールを溶質として用い、第3の実施の形態でポリビルアルコールを水に溶かして空洞12を形成したのと同様のことを行っても良い。
【0091】
第3の実施の形態では、臓器モデル8bに空洞12を形成している。しかし、臓器モデル33に通路のような入り口と出口を有する通路を形成しても良い。図14は、第3の実施の形態の変形例に係る成形物32に水溶性樹脂を配置した状態を示す断面模式図である。図15は、図14の状態から水溶性樹脂を溶かして、成形物42に通路を形成した状態を示す断面模式図である。臓器モデル43は、通路16を有している。通路16は、入り口17と出口18とを有している。水溶性樹脂13は、通路16となるべき空間に配置する。そして、水溶性樹脂13は、成形が終わった後に、25℃の水に接触させ、溶解させ、通路16を形成する。
【0092】
成形型1a,1b,20a,20b,50a,50bは、一部または全部が透明樹脂材料で構成されることとしても良い。透明樹脂材料を用いることで、臓器モデル8,22,33,43、が成形される様子の可視化が可能となる。また、成形型1a,1b,20a,20b,50a,50bは、その製造過程で、たとえば紫外線硬化樹脂材料の流動速度、熱伝導率による材料の硬化速度を変えることが出来るため、成形型1a,1b,20a,20b,50a,50bの硬さを変えることができる。さらに、成形物19,21,32の材料、すなわちゲル材料との密着性を調整することもできる。
【0093】
血管11,52等の硬い部分は、3Dプリンタ以外で造形または成形しても良いが、3Dプリンタを使う利点が大きい。たとえば、3Dプリンタの造形材料となる紫外線硬化樹脂材料とインクジェット方式の3Dプリンタの組み合わせにより、物性の違う材料を1回で造形できることができる。たとえば、一つの造形物であっても、部位によって色、硬さまたは、表面の摩擦係数を変えることができる。なお、色については、50万色以上の設定ができる。さらに、血管11,52等の硬い部分の中空形状化が実現できる。
【0094】
成形型1a,1b,20a,20b,50a,50bは、紫外線硬化樹脂材料等の光硬化性樹脂材料を一層ずつ形成し、その都度紫外線を照射して樹脂材料を硬化させる操作を繰り返すことで樹脂材料層を形成し、徐々に3次元形状を印刷、つまり造形していく。しかし、成形型1a,1b,20a,20b,50a,50bは、このような樹脂材料製のものに限らず、たとえば金属粉を含む樹脂材料を造形材料に用いて3Dプリンタで造形し、一旦樹脂材料製の成形型を作り、その後樹脂材料分の焼成および金属粉の焼結を経て、金属製の成形型を作り、用いることができる。
【0095】
第4の実施形態では、成形型50a,50bの、樹脂材料の熱伝導率、硬さ、耐熱性、弾力性を調整した。しかし、その他に、色,表面の粗さ,吸水性,表面温度,耐衝撃性,粘度,密着性から選ばれる1以上を調整しても良い。
【0096】
また、第4の実施形態では、ゲルの流動性、硬化速度、または表面の粗さから選ばれる1以上を、部位によって調整した。しかし、その他に、含水量等を調整しても良い。
【0097】
第4の実施形態では、成形型50a,50bの樹脂材料の配置に際し、各部位が立体的形状で仕切られた複数の区画を設定している(S12)。また、血管52の立体的形状で仕切られた複数の区画を設定している(S22)。しかし、造形物への、複数種の樹脂材料の配置に際し、立体的形状で仕切られた複数の区画を設定する以外の方法があれば、その方法を採用しても良い。
【0098】
第4の実施形態では、たとえば臓器モデルのうち、メス等で切ってはいけない箇所と、切っても良い箇所の硬さを変えることができる。これは、第4の実施形態で使用する3Dプリンタは、硬さを含む物性の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させることのできる機能を有するものだからである。たとえば、手術の最中、静脈は、絶対に切ってはいけない場合に、その静脈だけの硬さを他の部位より固くした臓器モデルを作製する。すると、執刀の最中に、メス等が静脈に当たると、「硬い」という感触がメス等を通じて執刀者に伝わるため、手術の練習に適した臓器モデルとなる。
【0099】
図22は、第4の実施形態の変形例であり、肝臓の臓器モデルの血管52を示したものであり、そのうち、細い血管部分52b等で切ってしまった場合に、血液色の断面55が露出するようにしたものである、従来の臓器モデルには、このような仕掛けを作ることは困難だったが、第4の実施形態に係る3Dプリンタには、色の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させることのできる機能を有するため、このような仕掛けを容易に作ることができる。このような仕掛けによって、メス等で誤って細い血管部分52bを切ってしまったときに、そのことを執刀者に気づかせることができる。なお、このような、血液色の断面55が露出する仕掛けは、血管52の太い幹52a部分に施しても良い。
【符号の説明】
【0100】
1a,1b,20a,20b,50a,50b 成形型
8,22,33,43 臓器モデル(ゲルを有する物体)
11、52 血管(造形物または成形物、成形物とは異なる生体組織を模したもの、または手術材料)
13 水溶性樹脂(80℃以下の水に溶ける物質)
19,21,32,42 成形物(ゲル)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22