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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】表面分析方法、表面分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20231012BHJP
   G01N 21/956 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N21/956 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020003757
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021110678
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】水村 通伸
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-111855(JP,A)
【文献】特開2019-186464(JP,A)
【文献】特開2014-153371(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0322760(US,A1)
【文献】米国特許第05991699(US,A)
【文献】特開平11-118604(JP,A)
【文献】古家 勇,画像解析の可能性を広げるハイパースペクトルカメラ,画像ラボ,日本,2019年02月04日,第30巻 第2号,74-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01J 3/00 - G01J 3/52
H05K 3/00 -H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光カメラを用いて、試料表面の分光画像データを取得する工程と、
取得した分光画像データにおける特定の波長範囲に分散するn個の波長を抽出して、前記分光画像データにおける各波長のスペクトルを画素毎にn次元の空間ベクトルとする工程と、
画素毎の前記空間ベクトルを正規化する工程と、
正規化された前記空間ベクトルを特定数の分類にクラスタリングする工程と、
前記分類にクラスタリングされた画素を前記分類毎に識別表示する工程とを有することを特徴とする表面分析方法。
【請求項2】
前記試料表面がTFT基板の表面であり、
前記分類にクラスタリングされた画素によって欠陥部が識別表示されることを特徴とする請求項1記載の表面分析方法。
【請求項3】
試料表面の分光画像データを取得する分光カメラと、
前記分光画像データを分析処理する情報処理部と、
前記情報処理の処理結果を表示する表示部とを備え、
前記情報処理部は、
前記分光画像データにおける特定の波長範囲に分散するn個の波長を抽出して、前記分光画像データにおける各波長のスペクトルを画素毎にn次元の空間ベクトルとする手段と、
画素毎の前記空間ベクトルを正規化する手段と、
正規化された前記空間ベクトルを特定数の分類にクラスタリングする手段と、
前記分類にクラスタリングされた画素を前記表示部にて前記分類毎に識別表示する手段とを備えることを特徴とする表面分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の表面分析装置を有し、前記情報処理部は、前記クラスタリングされた前記特定数の分類により欠陥部を認識できるものであり、認識した前記欠陥部に対して、レーザ光を照射して修正加工を行うレーザ修正装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面分析方法及び表面分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面分析の手法の一つとして、分光イメージングが知られている。これは、分光カメラ(ハイパースペクトルセンサなど)を用いて、画素毎に分光スペクトル情報が格納された分布データ(分光画像データ)を取得し、画素毎の分光スペクトル情報を解析することで、試料に含まれる物質や組成などの分布を可視化するものである(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-102769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した分光イメージングは、生体試料中の物質分析など、各種の分野で利用されており、分光画像データの解析には、多変量解析などの統計手法が用いられている。分光画像データを可視化する上で有効な手法が、分光スペクトル情報のクラスタリングであり、一つの分類にクラスタリングされた一群の分光スペクトル情報の画素を同一色で表示することで、分光画像データによる分析結果をカラー画像として可視化することができる。
【0005】
このような分光画像データの可視化において、多層膜状の試料の表面状態を分析する場合に、分光カメラで取得した反射光の分光画像データをそのままクラスタリングすると、多層膜の内部で反射した光の干渉などが影響して、不正確な分析結果になってしまうことが確認された。
【0006】
特に、薄膜トランジスタ(thin film transistor,TFT)などの多層膜基板における欠陥部の検知などを分光イメージングで行う場合、前述したように、多層膜の内部で反射した光の干渉などが影響して、欠陥部の輪郭が鮮明に可視化できない問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に対処するために提案されたものである。すなわち、分光イメージングにおける分析結果の可視化に際して、正確性の高い分析を可能にすること、特に、多層膜状の試料に対する分析を行う場合に、特定の分析対象の輪郭を鮮明に可視化できるようにすること、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
分光カメラを用いて、試料表面の分光画像データを取得する工程と、取得した分光画像データにおける特定の波長範囲に分散するn個の波長を抽出して、前記分光画像データにおける各波長のスペクトルを画素毎にn次元の空間ベクトルとする工程と、画素毎の前記空間ベクトルを正規化する工程と、正規化された前記空間ベクトルを特定数の分類にクラスタリングする工程と、前記分類にクラスタリングされた画素を前記分類毎に識別表示する工程とを有することを特徴とする表面分析方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る表面分析方法の工程を示した説明図。
図2】表面分析装置の構成を示した説明図。
図3】情報処理部の機能を示した説明図。
図4】n次元空間ベクトル化工程を説明する説明図。
図5】空間ベクトル正規化工程を説明する説明図。
図6】クラスタリング工程を説明する説明図。
図7】クラスタリングの可視化(識別表示)の例を示した説明図((a)が正規化クラスタリング、(b)が絶対値クラスタリング)。
図8】表面分析装置を備えたレーザ修正装置の構成例を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本発明の実施形態に係る表面分析方法は、図1に示すように、分光画像データ取得工程S1、画素毎のn次元空間ベクトル化工程S2、空間ベクトル正規化工程S3、クラスタリング工程S4、識別表示工程S5を有している。
【0011】
このような工程を実行するための表面分析装置1は、図2に示すように、試料Wの表面の分光画像データを取得する分光カメラ20と、取得した分光画像データを分析処理する情報処理部30と、情報処理部30の処理結果を表示する表示部40とを備えている。図2に示した表面分析装置1は、ステージS上に設置された試料Wである多層膜基板の欠陥部を拡大して認識するものであり、前述した分光カメラ20に対して顕微鏡10が設置されている。
【0012】
図2おいて、顕微鏡10は、試料Wである多層膜基板の表面Waに白色落射光を照射して、表面Waにおいて欠陥部を認識する単位領域(例えば、TFT基板の画素領域)の拡大像を得る光学顕微鏡であり、対物レンズ11やチューブレンズ17などの光学系を備えると共に、白色落射光を表面Waに照射するための白色光源12とその光学系(ミラー13及びハーフミラー14)を備えている。また、顕微鏡10は、必要に応じて、表面Waの拡大像のモニタ画像を得るためのモニタカメラ15とそのための光学系(ハーフミラー16)などを備えている。
【0013】
分光カメラ20は、顕微鏡10の光学系の光軸10P上に、スリット23とグレーティング素子(回折格子)21を配置して、表面Waにて反射される光を波長分離し、この分離された光を、リレーレンズ系24を介して2次元カメラ22の撮像面22aに結像し、ライン分光方式によって、表面Waの拡大像の分光スペクトル情報を撮像面22aの画素毎に取得するものである。
【0014】
図1における分光画像データ取得工程S1は、前述した分光カメラ20を用いて、試料Wにおける表面Waの分光画像データ(画素毎の分光スペクトル情報)を取得する。
【0015】
情報処理部30は、図3に示すように、前述した画素毎のn次元空間ベクトル化工程S2を実行するためのソフトウエアであるn次元空間ベクトル化手段31、空間ベクトル正規化工程S3を実行するためのソフトウエアである空間ベクトル正規化手段32、クラスタリング工程S4を実行するためのソフトウエアであるクラスタリング手段33、識別表示工程S5を実行するためのソフトウエアである識別表示手段34を備えている。これによって、入力された分光画像データを可視化して表示画像データとして出力する。
【0016】
情報処理部30による各分析処理工程を説明すると、n次元空間ベクトル化工程S2は、分光画像データ取得工程S1にて取得した分光画像データにおける特定の波長範囲に分散するn個の波長を抽出して、分光画像データにおける各波長のスペクトルをn次元の空間ベクトルとする。
【0017】
取得された分光画像データには、図4に示すように、2次元カメラ22の撮像面22aの一つの画素P(Xn,Yn)毎に、一つの分光スペクトル情報が格納されている。この分光スペクトル情報の波長範囲から、例えばλ1=400nm、λn=700nmの波長範囲を選択して、この波長範囲を(n-1)個(例えば、n=200)に分割し、n個の波長(λ1~λn)成分を抽出し、波長(λ1~λn)と各波長における強度(I1~In)との組み合わせによってn次元の空間ベクトルを得る。
【0018】
そして、空間ベクトル正規化工程S3では、図5に示すように、n次元の空間ベクトルを正規化して、n次元の正規化空間ベクトルを得る。ここで言う正規化とは、n次元空間ベクトルの方向を保ったまま、長さ(ノルム)が1になる単位ベクトルを得る処理であり、n次元の空間ベクトルに対して、その空間ベクトルのノルムの逆数を掛けて、ノルム1の単位ベクトル(n次元正規化空間ベクトル)を得る。
【0019】
クラスタリング工程S4は、正規化された画素毎のn次元の空間ベクトルを特定数の分類にクラスタリングする。ここでの分類の数は、分析対象に応じて設定される。例えば、TFT基板などの多層膜基板の欠陥部を抽出する場合には、TFT基板の構造に応じて規定数の分類が設定され、その分類に該当しないもの(分類不能)が入る分類枠を定める。
【0020】
クラスタリングには、機械学習によるGMM(Gaussian mixture models)法などを用いることができる。図6は、TFT基板の構造に応じて15個の分類を設定して、分類不能が入る分類枠を2個設け、画素毎の正規化された空間ベクトルをクラスタリングした結果の一例を示しており、ここでは、各分類に入る画素数のヒストグラムを正常なパターンのヒストグラムとの差分で示している。正常なパターンのヒストグラムとの差分が大きい分類を欠陥部と認識することができる。
【0021】
図7は、前述したクライスタリング工程S4の結果を可視化する識別表示工程S5の表示例を示している。ここでは、各分類にクラスタリングされた画素にコントラストや色分けを付して可視化(画像表示)を行っている。図7(a)がn次元の空間ベクトルを正規化したクラスタリングの結果(正規化クラスタリング)であり、図7(b)がn次元の空間ベクトルを正規化すること無くクラスタリングした結果(絶対値クラスタリング)である。
【0022】
図7(a)に示した正規化クラスタリングを可視化した場合には、図示のように特徴部分(例えば、欠陥部)の輪郭を鮮明に可視化することができる。これに対して、同じ試料表面の分光画像データを絶対値クラスタリングした場合には、図7(b)に示すように、多層膜の内部で反射した光の干渉などが影響を受けて、特徴部分の輪郭が不鮮明になる。
【0023】
このように、本発明の実施形態に係る表面分析方法或いは表面分析装置によると、取得した分光画像データをクラスタリングして可視化することで表面の特徴部分を分析するに際して、正確性の高い分析を行うことができる。特に、多層基板の欠陥部を識別表示する場合には、欠陥部の輪郭を鮮明に可視化することができるので、精度の高い欠陥部のリペア(レーザ修正)を実現することが可能になる。
【0024】
図8は、前述した表面分析装置1を備えたレーザ修正装置2の構成例を示している。レーザ修正装置2は、前述した情報処理部30の可視化によって認識された欠陥部に対して、レーザ光を照射して修正加工を行うものであり、顕微鏡10の光軸と同軸上にレーザ光Lを照射するレーザ照射部3を備えている。
【0025】
レーザ照射部3は、例えば、レーザ光源53、レーザスキャナ55などを備えており、レーザ光源53から出射されたレーザ光Lは、ミラー54とレーザスキャナ55のガルバノミラー55A,55Bを経由して、顕微鏡10の光学系内に入射され、顕微鏡10による拡大像が得られている単位領域の表面Wa上に照射される。
【0026】
図示の例では、顕微鏡10の光軸に進入・退避する切り替えミラー18が設けられており、切り替えミラー18を顕微鏡10の光軸上に進入させることで、分光カメラ20に表面Waからの反射光を入射させて、表面分析装置1を動作させ、切り替えミラー18を顕微鏡10の光軸から退避させることで、レーザ光Lを表面Waに照射するレーザ修正装置2を動作可能にしている。
【0027】
このような表面分析装置1を備えたレーザ修正装置2は、先ず、表面分析装置1を動作させることで、情報処理部30が欠陥部の有無、欠陥部が有る場合の欠陥部の位置などの情報をレーザ制御部50に送信する。レーザ制御部50は、情報処理部30から送信された前述の情報を基にして、レーザ修正を行うか否かの判断を行い、レーザ修正を行う場合には、欠陥部の位置情報などに基づいてレーザ照射範囲や加工レシピの設定を行う。
【0028】
また、図示の例では、顕微鏡10の拡大像は、モニタカメラ15にも結像されており、モニタカメラ15が撮像した画像を表示装置52で観察しながら、レーザ修正を行うことできるようになっている。この際、モニタカメラ15が取得した2次元画像は、画像処理部51で画像処理されてレーザ制御部50や情報処理部30に送信されており、この2次元画像によっても、レーザ照射部3の制御を行うことができるようになっている。
【0029】
このようなレーザ修正装置2によると、多層膜基板Wの欠陥部を、表面分析装置1によって鮮明な輪郭で詳細に認識することができ、この認識した情報を基にして、レーザ修正加工の設定を行うことができる。これにより、オペレータのスキルに影響されない高品質の修正加工が可能になり、また、欠陥部の認識から加工までを自動化して、高能率且つ高品質な修正加工を行うことができる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1:表面分析装置,2:レーザ修正装置,3:レーザ照射部,
10:顕微鏡,10P:光軸,11:対物レンズ,12:白色光源,
13:ミラー,14,16:ハーフミラー,15:モニタカメラ,
17:チューブレンズ,18:切り替えミラー,
20:分光カメラ,21:グレーティング素子,
22:2次元カメラ,22a:撮像面,23:スリット,
30:情報処理部,31:n次元空間ベクトル化手段,
32:空間ベクトル正規化手段,
33:クラスタリング手段,34:識別表示手段,
40:表示部,50:レーザ制御部,51:画像処理部,52:表示装置,
53:レーザ光源,54:ミラー,55:レーザスキャナ,
55A,55B:ガルバノミラー,
S:ステージ,W:試料(多層膜基板),Wa:表面,L:レーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8