IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人早稲田大学の特許一覧

特許7365048二次電池の正極の製造方法、および、二次電池
<>
  • 特許-二次電池の正極の製造方法、および、二次電池 図1
  • 特許-二次電池の正極の製造方法、および、二次電池 図2
  • 特許-二次電池の正極の製造方法、および、二次電池 図3
  • 特許-二次電池の正極の製造方法、および、二次電池 図4
  • 特許-二次電池の正極の製造方法、および、二次電池 図5
  • 特許-二次電池の正極の製造方法、および、二次電池 図6
  • 特許-二次電池の正極の製造方法、および、二次電池 図7
  • 特許-二次電池の正極の製造方法、および、二次電池 図8
  • 特許-二次電池の正極の製造方法、および、二次電池 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】二次電池の正極の製造方法、および、二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1397 20100101AFI20231012BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20231012BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231012BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
H01M4/1397
H01M4/136
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020031539
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021136150
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】三栗谷 仁
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/032454(WO,A1)
【文献】特表2019-505964(JP,A)
【文献】特開2018-200827(JP,A)
【文献】特開2019-179606(JP,A)
【文献】特開2012-186143(JP,A)
【文献】特開平06-196169(JP,A)
【文献】特開平11-111272(JP,A)
【文献】特表2019-537233(JP,A)
【文献】特開2015-032466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M4/64-4/84
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素粒子と硫黄とを、硫黄の融点以上の温度において混合し、混合体を作製する工程と、
前記混合体にバインダーと溶媒とを加えてスラリーを作製する工程と、
多孔板に前記スラリーをコーティングする塗布工程と、
前記溶媒を蒸発する乾燥工程と、
前記多孔板をプレス加工し、厚さを75%以下とする圧縮工程と、を上記順序に具備し、
前記塗布工程から前記乾燥工程が、繰り返し行われることを特徴とする二次電池の正極の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程と前記乾燥工程との間に、前記多孔板に気体を吹き付けるブロー工程を更に具備することを特徴とする請求項1に記載の二次電池の正極の製造方法。
【請求項3】
前記正極の硫黄担持量が、5mg/cm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の二次電池の正極の製造方法。
【請求項4】
正極が、多孔板と、前記多孔板の内部の壁面に配設されている正極活物質と、電解質と、を有し、
前記正極活物質は、硫黄が含浸した炭素粒子と、バインダーと、を含み、
前記正極の硫黄担持量が、5mg/cm以上であり、
前記正極の表面に、面積が100μm以上の開口が、0.2個/mm以上あることを特徴とする二次電池。
【請求項5】
前記正極の前記表面の開口率が、5%以上であることを特徴とする請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
複数の正極を含む正極積層体を有することを特徴とする請求項5に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔集電体を含む正極を具備する二次電池の正極の製造方法、および、多孔集電体を含む正極を具備する二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末の普及、および、環境問題に対応した電気自動車の開発に伴い、高容量の二次電池が要望されている。二次電池としてはリチウムイオン二次電池が普及している。
【0003】
リチウムイオン二次電池よりも、さらに高容量の二次電池として、正極活物質として硫黄を有するリチウム硫黄電池が注目されている。硫黄は理論容量が1670mAh/g程度であり、リチウムイオン電池の代表的な正極活物質であるLiCoO(約140mAh/g)よりも、理論容量が10倍程度高い。また、硫黄は低価格かつ資源が豊富である。
【0004】
電池のエネルギー密度向上には、より多くの正極活物質を正極に担持することが有効である。特開2018-200827号公報には、表面積の広いニッケル多孔板の表面を硫化することによって、正極活物質である硫化ニッケルを生成したリチウム硫黄二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-200827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、製造が容易なエネギー密度が高い二次電池の正極の製造方法、および、製造が容易なエネギー密度が高い二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の二次電池の正極の製造方法は、炭素粒子と硫黄とを、硫黄の融点以上の温度において混合し、混合体を作製する工程と、前記混合体にバインダーと溶媒とを加えてスラリーを作製する工程と、多孔板に前記スラリーをコーティングする塗布工程と、前記溶媒を蒸発する乾燥工程と、前記多孔板をプレス加工し厚さを75%以下とする圧縮工程と、を上記順序に具備し、前記塗布工程から前記乾燥工程が、繰り返し行われる。
【0008】
本発明の実施形態の二次電池は、正極が、多孔板と、前記多孔板の内部の壁面に配設されている正極活物質と、電解質と、を有し、前記正極活物質は、硫黄が含浸した炭素粒子と、バインダーと、を含み、前記正極の硫黄担持量が、5mg/cm以上であり、前記正極の表面に、面積が100μm以上の開口が、0.2個/mm以上ある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、製造が容易なエネギー密度が高い二次電池の正極の製造方法、および、製造が容易なエネギー密度が高い二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の二次電池の構成図である。
図2】実施形態の変形例の二次電池の構成図である。
図3】実施形態の二次電池の製造方法のフローチャートである。
図4】実施形態の二次電池に用いた多孔板の写真である。
図5】実施形態の二次電池に用いた圧縮処理前の正極の写真である。
図6】比較例の二次電池に用いた圧縮処理前の正極の写真である。
図7】実施形態の二次電池の正極の写真である。
図8】比較例の二次電池の正極の写真である。
図9】実施形態の二次電池の充放電特性である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<電池の構成>
図1に示すように、本実施形態の二次電池1(以下、「電池」ともいう。)は、集電体である多孔板を含む正極20と、セパレータ30と、リチウムイオンを吸蔵脱離する負極活物質を含む負極40と、を具備する。電池1は、ラミネートパック50に封入されている。
【0012】
正極20は、多孔板と、多孔板の内部の壁面に配設されている正極活物質と、電解質と、を有する。多孔板として用いた発泡アルミニウムであるセルメット(登録商標)は、気孔率98%、比表面積8500m/m、孔径0.45mm、厚さ1.0mmである(図4)。
【0013】
正極活物質は、硫黄が含浸した炭素粒子と、バインダーと、を含む。電解質は、正極活物質が壁面にコーティングされた多孔板の内部空間を充填している。
【0014】
バインダーは、CMC(カルボキシメチルセルロース)およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)である。正極20と負極40の間に配置されているセパレータ30は、必須の構成要素ではないが、セパレータ30は、極間距離を短くする機能および電解質の担持機能を有する。
【0015】
後述するように、電池1は、製造が容易であるが、正極20の硫黄担持量が、5mg/cm以上であるため、エネギー密度が高い。すなわち、電池1は、正極20の硫黄担持量が多いにもかかわらず、正極20の表面に、面積が100μm以上の開口が、0.2個/mm以上ある。
【0016】
なお、図2に示す変形例の二次電池1Aは、複数の正極20と複数のセパレータ30と複数の負極40とが交互に積層された積層電池である。正極20とセパレータ30と負極40とを有する複数の電池セルは、隣り合う電池セルと正極20および負極40を共有した状態である。負極40は、厚さ8μmの銅板を芯材とし、両面に60μmの金属リチウム板を有する。複数の電池セルは並列接続されているため、電池1Aの電圧は、電池1と同じである。
【0017】
<電池の製造方法>
図3のフローチャートにそって電池1の正極20の製造方法を説明する。
【0018】
<ステップS10>混合体作製工程
炭素粒子と硫黄とが、硫黄の融点以上の温度において混合されることによって、混合体が作製される。
【0019】
例えば、炭素粒子であるケッチェンブラック(KB)40wt%と硫黄(S)粉末60wt%とが、125℃において12時間、混合撹拌される。硫黄の融点は、113℃である。溶融した硫黄は、多孔質である炭素粒子の表面および孔に含浸し、S/KB複合体が作製される。
【0020】
炭素粒子としては、好ましくは、KB等の多孔質グラファイト、グラフェン、カーボンナノホーン、フラーレン、および、カーボンナノチューブの少なくともいずれか、または、これらの凝集体である。
炭素粒子としては、2nm以上50nm以下の空孔がある中空シェル構造を有する多孔質の炭素粒子または多孔質の炭素粒子の凝集体であることが特に好ましい。
【0021】
<ステップS20>スラリー作製工程
混合体(S/KB複合体)96.5wt%に、バインダー3.5wt%と溶媒とを加えてから、ボールミルを用いて12時間、混合することによって混合体のスラリーが作製される。
【0022】
バインダーは、平均分子量25万のCMCおよび平均分子量100万のSBRを含み、重量比は、(CMC/SBR=2/1)である。バインダーは電解液と反応しないものであれば特に限定されることはない。
【0023】
バインダーとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)、エチレンオキシド、もしくは、一置換エポキサイドの開環重合物などのポリアルキレンオキサイド、または、これらの混合物が挙げられる。
【0024】
溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶剤でもよいが、扱いが容易である水を用いることが好ましい。なお、電解液に替えて固体電解質を用いてもよい。
【0025】
本実施形態の正極20の製造方法では、後述するように、スラリー作製工程(S20)における、スラリーの粘度および固形分率の調整が重要である。
【0026】
<ステップS30>繰り返し回数初期化
塗布工程(S40)および乾燥工程(S50)の繰り返し回数Nが、初期値の1に設定される。すなわち、本実施形態の正極の製造方法では、塗布工程(S40)および乾燥工程(S50)が、所定の回数k、繰り返し行われる。
【0027】
<ステップS40>塗布工程
多孔板の表面にスラリーが塗布される。多孔板の表面に混合体のスラリーを滴下すると、スラリーは多孔板の内部の空間に吸い込まれていく。すなわち、スラリーは界面張力により、多孔板の孔(空隙部)の内部に浸透する。スラリーをスプレーコートしてもよい。スラリーを一度に過剰に塗布すると、多孔板の表面に広がってしまう。
【0028】
実施形態の製造方法では、1回にコーティングするスラリーの量は予め設定される。例えば、硫黄担持量が、15mg/cmの正極20を、6回塗布によって製造する場合には、1回の塗布による硫黄担持量が、2.5mg/cmとなるようにスラリーが調整される。なお、1回の塗布による硫黄担持量は、3mg/cm以下が好ましい。
【0029】
硫黄量(担持量)は、(塗布/乾燥)工程の前後の重量測定から算出される。
【0030】
多孔板の比表面積は、1500m/m以上が好ましく、3000m/m以上が特に好ましい。広い表面積を得るために、多孔板は、気孔率が50%以上で、連続気孔を有し、さらに、閉気孔をほとんど含まないことが好ましい。なお、空孔率が98%超の多孔板は機械的強度が弱く取り扱いが容易ではない。
【0031】
二次元表面を有する平板の表面積は平面視寸法に比例する。これに対して三次元網目構造を有する多孔板の表面積は、平面視寸法(外面面積)および厚さに比例する。多孔板の表面積は、同じ平面視寸法の二次元表面を有する平板の表面積の2倍以上が好ましく、5倍以上が特に好ましい。なお、技術的な観点から多孔板の表面積は、同じ平面視寸法の二次元表面を有する平板の表面積の100倍以下である。
【0032】
比表面積は、例えば、静電容量法によって測定される。静電容量法は、試料の静電容量が表面積に比例することを利用する測定方法である。表面積が既知の金属板等を複数枚用意し、それぞれの静電容量を測定する。そして、「静電容量」対「面積」の検量線を作成することで、試料の表面積が検量法により算出される。一方、気孔率は、試料の比重と体積とから算出される。
【0033】
多孔板には、発泡金属、金属不織布、金属繊維集合体、または金属粒子集合体等を用いることができる。多孔板は、例えば、発泡樹脂の孔の内面(壁面)に金属層をコーティングした後、発泡樹脂を分解することで作製される。発泡樹脂としては、気孔率が高く、セル径の均一性が高く、熱分解性に優れている発泡ウレタンが好ましい。金属層がニッケルの場合には、発泡樹脂の孔の壁面にカーボン粉末等を塗布して導電化処理したり、ダイレクトめっき法を用いたりして、ニッケルめっき膜がコーティングされる。水溶液を用いた電気めっき法により成膜困難な金属層、例えばアルミニウム層は、溶融塩浴を用いた電気めっき法により行われる。
【0034】
<ステップS45>ブロー工程
より効率的に多孔板の深部にスラリーを侵透するためには、多孔板の表面に気体を吹き付けることが好ましい。
【0035】
例えば、コンプレッサで加圧した空気、または、窒素ガスが、スプレーノズルを用いて、多孔板に吹き付けられる。
【0036】
<ステップS50>乾燥工程
スラリーの乾燥温度は溶剤の沸点よりも、低く設定される。溶媒が水の場合には、例えば、乾燥温度は、75℃である。このため、溶剤は急激に蒸発することなく、正極活物質が多孔板の内部の壁面に層状に配設される。もちろん、乾燥工程において、徐々に温度を上昇し、最終的に溶剤の沸点以上にまで加熱されてもよい。しかし、少なくとも溶剤の90重量%以上が蒸発するまでは乾燥温度は沸点以下に保持されることが好ましい。
【0037】
<ステップS60、ステップS70>繰り返し
所定の回数kになるまで、塗布工程S40から乾燥工程S50が、繰り返し行われる。繰り返し回数kは、2回以上50回以下であることが好ましく、特に好ましくは、3回以上10回以下である。
【0038】
繰り返し回数kが、前記下限以上であれば、広い表面積の正極を得ることができる。また、繰り返し回数kが、前記上限以下であれば、生産性が低下することがない。
【0039】
図5に、本製造方法によって作製された圧縮前の正極の写真を示す。比較のため、1回の塗布によって同じ硫黄担持量とした正極の写真を図6に示す。
【0040】
図5に示す本製造方法によって作製された圧縮前の正極の表面には複数の開口がある。図4に示した多孔板の表面の写真と比べると、孔の壁面に正極活物質が塗布されていることがわかる。これに対して、図6に示す比較例の正極の表面には、ひび割れの溝だけがある。
【0041】
<ステップS80>圧縮工程
図5に示した正極(70mm角)が、プレス装置(圧力:90kN)によって圧縮される。例えば、1mm厚の厚さの正極が、0.4mm厚の正極20に圧縮される。圧縮条件は、厚さが75%以下となることが好ましく、50%以下が特に好ましい。
【0042】
厚さ変化が前記範囲以下であれば、電池1は、体積当たりのエネルギー密度が高くなり、小型化できる。さらに、正極20に含まれる電解液が少ないため、電池1は、重量当たりのエネルギー密度が高くなり、軽量化できる。さらに、活物質の表面と多孔板との距離が短くなるため、密着性が向上する。さらに、電子伝導性が向上するため、高電流における充放電特性(レート特性)が改善する。
【0043】
図7に示すように、本実施形態の正極20の表面には、大きな開口がある。具体的には、面積が100μm以上の開口が、0.2個/mm以上ある。そして、正極20の表面の開口率は、5%以上である。
【0044】
図6に示した正極を正極20と同じ条件にて圧縮加工した正極を、図8に示す。表面に開口はない。このため、図8に示す比較例の正極では、正極として作用する面積は、二次元表面の表面積と略同じである。これに対して正極20の比表面積は、100m/mであり、平板正極0の比表面積(1m/m)の100倍であった。正極20の比表面積が、10m/m以上であれば、電池のエネルギー密度改善効果が顕著である。
【0045】
製造された正極20を用いて電池1が作製される。例えば、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、正極20に電解液を滴下してから、正極20の上にセパレータ30が配設される。セパレータ30に電解液を適量加えてから、60℃で60分間保持することによって電解液をセパレータ30に浸漬させた。
【0046】
セパレータ30としては、例えば、電解液を吸収保持するガラス繊維製セパレータ、樹脂からなる多孔シートおよび不織布を挙げることができる。多孔シートは、例えば、多孔樹脂で構成される。
【0047】
多孔シートを構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリイミド、アラミドなどが挙げられる。特にポリオレフィン系微多孔セパレータおよびガラス繊維製セパレータは、有機溶媒に対して化学的に安定であり、電解液との反応性を低く抑えることができることから、多孔シートとして好ましい。
【0048】
電池1では、セパレータ30は、厚さ25μmのポリプロピレン多孔シートである。多孔シートであるセパレータの厚みは限定されないが、車両のモータ駆動用二次電池の用途においては、単層または多層で全体の厚みは4μm~60μmであることが好ましい。また、多孔シートからなるセパレータの微細孔の内径は、最大で10μm以下であり(通常は、10nm~100nm程度)、空孔率は20%~80%であることが好ましい。
【0049】
電解液は、リチウム塩1モルを、G1(モノグライム)0.5モルおよびG3(トリグライム)0.5モルからなる溶媒に溶解し、添加溶媒であるハイドロフルオロエーテル(HFE:HFCFCHC-O-CFCFH)4モルにて希釈したグライム系溶媒和イオン液体である。リチウム塩は、Li-TFSI(リチウム(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドである。
【0050】
電解液の溶媒としては、ジメトキシエタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ブチロラクトン、およびスルホラン等のリチウム二次電池用として一般的な非プロトン性有機溶媒を用いる。電解液に替えて固体電解質を用いてもよい。
【0051】
正極20の上のセパレータ30に負極40を配設し、さらに電解液を注入した後、ラミネートパック50の中に封入することによって、図1に示す構造の電池1を作製した。
【0052】
負極40は、厚さ8μmの銅板を芯材とする60μmの金属リチウム板である。負極としては、リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵脱離可能な炭素からなる群から選択される1以上の負極活物質を含んでいればよい。負極に含まれる負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵脱離する。
【0053】
なお、電池1Aの製造方法では、正極20、セパレータ30、および、負極40の配設が、繰り返し行われる。
【0054】
<電池の特性>
上記方法で作製した実施形態の電池1の特性評価結果を以下に示す。充放電評価は、カットオフ電位を、1.0V-3.3V(vs.Li/Li+)、充放電速度を0.01C、電流密度1.52mA/cmとした。
【0055】
図9に示すように、電池1の5サイクル後の容量は、1167mAh/g-Sであった。なお、上記容量は、正極20の硫黄担持量で規定した容量である。電池の容量は、担持している硫黄量に比例する。すでに説明したように正極20の硫黄担持量が、15mg/cmであり、同じ平面視寸法の平板正極(硫黄担持量0.3mg/cm)の10倍以上である。このため、電池1の正極20の平面面積で規定した容量(エネルギー密度)は、平板集電体を有する電池の10倍以上である。
【0056】
なお、6層の正極20を含む正極積層体を具備する電池1Aが、電池1の6倍の容量を有することは言うまでも無い。例えば、電池1Aは、正極積層体の硫黄担持量が、15.4mg/cmであり、総容量5.3Ah、重量エネルギー密度269Wh/kg、体積エネルギー密度430Wh/Lであった。
【0057】
なお、正極20の比表面積を、10m/m以上とするためには、スラリーの粘度(25℃)が、2mPa/s以上70mPa/s以下となるように溶媒量が調整されることが好ましい。さらに、スラリーの固形分率は、10wt%以上20wt%以下であることが好ましい。
【0058】
本発明は、上述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更、組み合わせ、および応用が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
1、1A・・・二次電池
20・・・正極
30・・・セパレータ
40・・・負極
50・・・ラミネートパック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9