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特許7365050融合タンパク質、及びそれを用いた高密度リポタンパク質の測定キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】融合タンパク質、及びそれを用いた高密度リポタンパク質の測定キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20231012BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231012BHJP
   C07K 14/775 20060101ALI20231012BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20231012BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231012BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231012BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231012BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231012BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231012BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231012BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231012BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231012BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
C07K14/775
C07K16/12
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
G01N33/53 W
G01N33/531 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020500503
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019005007
(87)【国際公開番号】W WO2019159934
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018024007
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療研究開発事業費補助金 橋渡し研究戦略的推進プログラム補助事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501176923
【氏名又は名称】沢村 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】沢村 達也
(72)【発明者】
【氏名】垣野 明美
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-100585(JP,A)
【文献】特開2015-010879(JP,A)
【文献】IWAMOTO, Shin et al.,J Atheroscler Thromb,2011年,Vol.18, No.9, p.818-828
【文献】BESLER, Christian et al.,J Clin Invest,2011年,Vol.121, No.7, p.2693-2708
【文献】HUANG, Ying et al.,Nat Med,2014年,Vol.20, No.2, p.193-203
【文献】KAKINO, Akemi et al.,International Symposium on Atherosclerosis(ISA)2018 Abstracts,Vol.32, p.35, P1.008,2018年06月09日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00~19/00
C12N 15/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LOX-1へ結合するLOX-1結合タンパク配列を有するタンパク質に、ApoA Iの全タンパク配列又は部分フラグメントタンパク配列を有するタンパク質が、直接又はスペーサを介して連結されていることを特徴とする融合タンパク質。
【請求項2】
前記LOX-1結合タンパク配列が、抗LOX-1抗体、又はそれのLOX-1結合ドメイン配列であることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記抗LOX-1抗体、又はLOX-1結合ドメイン配列が、LOX-1に抗原抗体反応により結合する抗体への活性部位を有していることを特徴とする請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記抗LOX-1抗体が、前記活性部位を、Fv型抗体の活性部位とすることを特徴とする請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記ApoA Iの部分フラグメントタンパク配列が、ヒトApoA Iにおけるアミノ酸番号31-267aaの領域を含むものである請求項1~4の何れかに記載の融合タンパク質。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載の融合タンパク質をコードするものであることを特徴とする核酸。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸が導入されていることを特徴とするベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを有することを特徴とする細胞。
【請求項9】
LOX-1と抗ApoA I抗体とに対して、変性高密度リポタンパク質が結合することによる変性高密度リポタンパク質の測定方法であって、請求項1~3の何れかに記載の融合タンパク質を変性高密度リポタンパク質の標準品として用いつつ前記標準品と検体試料中の変性高密度リポタンパク質とを、光学的検知及び/又は放射線量検知で、前記標準品との比較によって求めることを特徴とする検体試料中の変性高密度リポタンパク質の測定方法。
【請求項10】
LOX-1と抗ApoA I抗体とに対して、変性高密度リポタンパク質が結合することによる変性高密度リポタンパク質の測定キットであって、請求項1~3の何れかに記載の融合タンパク質を変性高密度リポタンパク質の標準品として有し、
光学的検知及び/又は放射線量検知で測定するためのものであることを特徴とする変性高密度リポタンパク質測定キット。
【請求項11】
検体試料中の前記変性高密度リポタンパク質の濃度及び質を、光学的検知及び/又は放射線量検知で、前記標準品との比較によって求めるためのものであることを特徴とする請求項10に記載の変性高密度リポタンパク質の測定キット。
【請求項12】
LOX-1及び/又は抗ApoA I抗体をさらに含む請求項10~11の何れかに記載の変性高密度リポタンパク質の測定キット。
【請求項13】
前記検体試料が、全血、血漿又は血清であることを特徴とする請求項11に記載の変性高密度リポタンパク質の測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性高密度リポタンパク質の測定の標準品にするための融合タンパク質、それを形成するための核酸やベクターや細胞、及び変性高密度リポタンパク質の測定方法並びに測定キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
血中のコレステロールには、いわゆる善玉コレステロール(高比重リポタンパク質;HDL:High Density Lipoprotein)と、いわゆる悪玉コレステロール(低比重リポタンパク質:LDL:Low Density Lipoprotein)がある。血中でのそれらの濃度は、中性脂肪の濃度とともに、健康診断の指標として汎用されている。
【0003】
本来のHDLは、主要構成タンパク質であるApoA Iとリン脂質とを主成分とするもので、LDLの酸化を抑制するだけでなく、NOの増加などを介して酸化LDLによる細胞毒性を軽減し、抗動脈硬化効果を発揮するものである。しかし、HDLも酸化などの修飾を受ける。動脈硬化患者の血中には、変性HDLが高値に存在することがわかっている。非特許文献1には、冠動脈疾患患者で、変性HDLが増えており、それがLOX-1を介して血管に作用することが、開示されている。
【0004】
変性HDLは、本来HDLが有する抗動脈硬化作用を失っているだけでなく、動脈硬化発症、進展において、重要であることが分かってきた。非特許文献2には、ヒトの動脈硬化巣にはHDLのアポタンパク質であるApoA Iが変性したものが多量に蓄積していることが、開示されている。
【0005】
これらの結果は、実際の患者で測定したものであるから、変性HDLが、ヒトの病態において大きな意義を持っていると考えられる。従って、善玉コレステロールの中でも変性HDLが動脈硬化等の各種疾患の原因となる可能性があるから、単にHDLの量のみでなく、変性HDLの量と質とを測定する必要がある。
【0006】
従来の変性HDLの測定方法として、抗変性HDL抗体によって測定するという測定法が知られている。この方法では、抗体の認識する特定のエピトープの量しか測定できない。しかもエピトープの量が測定できるだけであり、肝心の様々な変性を受けたHDLを同時に、かつ生理活性を反映する形で測定できないという問題がある。
【0007】
また、測定の際の検量線作成のリファレンスにも問題がある。例えば、4-hydroxynonenal(HNE)により修飾されたHDLを測定する場合は、HNE修飾HDLをリファレンスとして用い、malondialdehyde(MDA)により修飾されたHDLを測定する場合はMDA修飾HDLをリファレンスとして用いることになる。したがって、様々な変性を受けたHDLを単一の測定法で測定しようとしても、抗体が違うだけでなく、リファレンスが異なるために実質的に測定することが不可能である。これを解決するには銅イオンなどの存在下でHDLの酸化を行う方法がある(以下、酸化HDLとよぶ)。しかし、酸化HDLやHNEやMDAにより修飾して作製したHDLは、不安定で長期保存できないばかりか、不安定であるが故に測定毎に検量線作成をし直さなければならない。さらに、ロット間での品質のばらつきを生じ易く、再現的に調製して測定することが不可能である。そのため標準品のロット差を考慮して試験結果を補正しなければならず正確性に問題がある。従って、たとえ試験検体中の真の変性HDLの濃度が同じであったとしても、長期にわたる試験、大規模な試験、及び測定試験間ごとに、一定の測定値を得ることが困難であり、測定値自体の示す意味に信憑性の問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Besler C et al.: “Mechanisms underlying adverse effects of HDL on eNOS-activating pathways in patients with coronary artery disease.”, J Clin Invest., Vol.121, p.2693-708, 2011
【文献】Huang Y et al.: “An abundant dysfunctional apolipoprotein A1 in human atheroma.’’, Nat Med, Vol.20, p.193-203, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは前記の課題を解決するための方策について、鋭意検討を重ねた。その結果、LOX-1と抗ApoA I抗体により同時に認識されるHDLを測定することにより様々な変性を受けたHDLを測定できること、及びLOX-1に対する抗体(抗LOX-1抗体)のLOX-1結合部位等のようにLOX-1に対して特異的に結合するタンパク質とApoA Iとを融合させた融合タンパク質が、LOX-1と抗ApoA I抗体に対して変性HDLと同様の特異的結合性を示すばかりか、安定な標準品として使用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、善玉のはずのHDLが変性HDLとなって動脈硬化発症、進展に影響を及ぼすのでHDLの質を測定するために用いられ、また、様々な変性を受けたHDLを同時に認識でき、受容体結合活性を測定して生理活性そのものを測定するために用いられるもので、脂質を含まず、長期保存が可能で、再現的に調整でき、測定試験間ごとのばらつきを低減して信頼性を高くすることができるリファレンスとなり得る融合タンパク質、それを形成するための核酸やベクターや細胞、及び、LOX-1と抗ApoA I抗体により認識される高密度リポタンパク質を正確に再現性・信頼性良く測定する方法並びに測定キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされた本発明の融合タンパク質は、レクチン様酸化LDL受容体:LOX-1へ結合するLOX-1結合タンパク配列に、アポリポタンパク質A1:ApoA Iの全タンパク配列又は部分フラグメントタンパク配列が、直接又はスペーサを介して連結されている。
【0012】
この融合タンパク質は、例えば、前記LOX-1結合タンパク配列が、抗LOX-1抗体、又はそれのLOX-1結合ドメイン配列であるというものである。
【0013】
この融合タンパク質は、前記抗LOX-1抗体、又はLOX-1結合ドメイン配列が、LOX-1に抗原抗体反応により結合する抗体への活性部位を有していてもよい。
【0014】
この融合タンパク質は、前記抗LOX-1抗体が、前記活性部位を、Fv型抗体の活性部位とするものであってもよい。
【0015】
この融合タンパク質は、前記ApoA Iの部分フラグメントタンパク配列が、ヒトApoA Iにおけるアミノ酸番号31-267aaの領域を含むものであることが好ましい。
【0016】
前記の目的を達成するためになされた本発明の核酸は、前記の融合タンパク質をコードするものである。
【0017】
前記の目的を達成するためになされた本発明のベクターは、前記の核酸が導入されているものである。
【0018】
前記の目的を達成するためになされた本発明の細胞は、前記のベクターを有するものである。
【0019】
前記の目的を達成するためになされた本発明の検体試料中の変性高密度リポタンパク質の測定方法は、LOX-1と抗ApoA I抗体とに対して、変性高密度リポタンパク質が結合することによる変性高密度リポタンパク質の測定方法であって、請求項1~3の何れかに記載の融合タンパク質を変性高密度リポタンパク質の標準品として用いつつ前記標準品と検体試料中の変性高密度リポタンパク質とを、光学的検知及び/又は放射線量検知で、前記標準品との比較によって求めるというものである。
【0020】
前記の目的を達成するためになされた本発明の変性高密度リポタンパク質測定キットは、LOX-1と抗ApoA I抗体とに対して、変性高密度リポタンパク質が結合することによる変性高密度リポタンパク質の測定キットであって、前記の融合タンパク質を変性高密度リポタンパク質の標準品として用いつつ、光学的検知及び/又は放射線量検知で測定するためのものである。
【0021】
この変性高密度リポタンパク質測定キットは、検体試料中の前記変性高密度リポタンパク質の濃度及び質を、光学的検知及び/又は放射線量検知で、前記標準品との比較によって求めるためのものである。
【0022】
この変性高密度リポタンパク質測定キットは、LOX-1及び/又は抗ApoA I抗体をさらに含むことが好ましい。
【0023】
この変性高密度リポタンパク質測定キットは、例えば前記検体試料が、全血、血漿又は血清である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の融合タンパク質は、善玉のはずのHDLが変性HDLとなって、動脈硬化の発症や進展に影響を及ぼすので、変性HDLの質を測定するために、測定のリファレンスとなる普遍的な標準品として用いられる。
【0025】
この融合タンパク質は、脂質を含まない、人工的な融合組換タンパク質であり、長期保存が可能で、再現的に調製でき、ヒトから採取した全血やそれを処理した血漿・血清のような検体試料に対して、測定日や測定時刻がずれても、測定試験間ごとのばらつきを低減して、信頼性を高めて信憑性のある実測値を得るのに用いられる標準品である。
【0026】
従来の変性脂質の測定は、脂質の不安定性のために測定が容易でないという問題があり、さらに検体試料の迅速な処理が必要であった。検体試料自体の不安定性の問題は保存方法の適正化や測定時間の短縮により解消することが可能であるものの、測定の基準となる標準品が不安定で測定の安定性・再現性を担保できないという問題があった。しかし、この融合タンパク質は、脂質を有さずに、測定系のLOX-1タンパク質と抗ApoA I抗体の両方に親和性を持つ人工的なタンパク質を組換えDNA技術により作製し、これを安定かつ再現的に生産可能な標準品である。
【0027】
この融合タンパク質は、それを形成するための核酸、それが導入されたベクター、それを有する動物細胞のような細胞を用いれば、同じ品質のものを適時に調製される。
【0028】
この融合タンパク質を用いた本発明の変性高密度リポタンパク質の測定方法は、変性HDLに結合するLOX-1を利用した基質特異的な測定である。この測定方法は、様々な変性を起こしたHDLを、単一の方法で検出・測定できるので、極めて簡便である。
【0029】
一概に変性HDLと言っても実際の変性の種類は様々であり、同時に定量すればよいわけではなく、変性HDLが実際にどの程度の生物活性を持つかが、重要である。そこで、LOX-1受容体が様々な変性HDLに結合し得ること、LOX-1受容体への結合程度により生物活性を評価できることを利用し、変性高密度リポタンパク質の測定方法では、変性HDLの量と質とを検出・測定することができる。
【0030】
この測定方法は、前記の融合タンパク質を定量や質の測定の対照となる標準品として用いるものである。この測定方法は、この融合タンパク質を、LOX-1結合タンパク質として抗LOX-1抗体の可変領域を中心としたLOX-1認識部分として用い、これとApoA Iタンパク質とのキメラタンパク質を作製し、それを用いて、検体試料中の変性HLDを測定するというものである。
【0031】
この測定方法によれば、変性HDLに対して様々なエピトープを同時に認識でき、受容体結合活性を測定して生理活性そのものを測定するために用いることができるので、変性HDLの量及び質を正確にかつ再現性・信頼性良く測定できる。
【0032】
また、この測定方法のために用いられる本発明の変性高密度リポタンパク質の測定キットによれば、簡便かつ迅速に、性HDLの量及び質を正確にかつ再現性・信頼性良く測定でき、動脈硬化や血栓症をはじめとする各種心疾患や虚血性疾患の検査や予測に役立ち、それらの疾患の予防に資することができる。
【0033】
この測定キットは、LOX-1を固相化して、LOX-1に結合するApoA I含有リポタンパク質活性を受容体結合アッセイとしてELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ:Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)により評価するというものであり、汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明を適用する融合タンパク質のアミノ酸配列を一文字標記で表した図である。
図2】LOX-1又はDectin-1が、HDL、酸化HDL、LDL、酸化LDLに結合するか否かを試験した結果のグラフを示す図である。
図3】本発明を適用する融合タンパク質及びLOX-1結合と、本発明を適用外の人工酸化HDL及びLOX-1結合との試験を行った結果の対比にグラフを示す図である。
図4】人工酸化HDLと、融合タンパク質のLOX-1への反応性をロット間で比較したELISAの結果を示すグラフである。
図5】ヒト血漿中のLOX-1結合変性HDLを検出した結果を示すグラフである。
【0035】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0036】
本発明の融合タンパク質は、LOX-1へ結合するLOX-1結合タンパク配列に、ApoA Iの全タンパク配列又は部分フラグメントタンパク配列が、直接又はスペーサを介して連結されているキメラタンパク質である。
【0037】
そのためこの融合タンパク質は、LOX-1に対する特異的結合性と抗ApoA I抗体に対する特異的結合性とを備えている。この融合タンパク質は、例えば、LOX-1と抗ApoA I抗体を用いたサンドイッチイムノアッセイによる変性HDL測定において、従来の標準品(人工酸化HDL)に代えて、安定であって精度を管理し易い標準品として使用できる。
【0038】
この融合タンパク質は、脂質を有していないため、安定である。また、組換えDNA技術による大量生産が可能であり、同一ロットの標準品を大量に得ることができる。
【0039】
この融合タンパク質は、ApoA Iの全長である全タンパク配列より低分子であるその部分フラグメントタンパク配列を有していると、全タンパク配列を有するよりも組換えDNA操作による調製を行い易い。
【0040】
この融合タンパク質は、LOX-1結合タンパク配列が、例えば抗LOX-1抗体、又はそれの一部であってLOX-1に特異的に結合し得るLOX-1結合ドメイン配列であり、抗体やそれと構造上・機能上の関連を持つ免疫グロブリンIgが挙げられる。その免疫グロブリンIgは、そのアイソタイプのクラスやサブクラスが限定されず、例えばIgG1、IgG2、IgG3等のようなIgG、IgM、IgA、IgD、IgE等が、挙げられる。
【0041】
LOX-1結合タンパク配列が全長の免疫グロブリンIgからなる抗LOX-1抗体である場合、LOX-1に結合する抗体であれば特に限定されず、例えば動物由来のものでヒト、マウス、ウシ等に由来のものが挙げられ、より具体的にはヒトLOX-1に対して特異的に結合するマウス抗LOX-1モノクローナル抗体#10-1(“LOX-1-MT1-MMP axis is crucial for RhoA and Rac1 activation induced by oxidized low-density lipoprotein in endothelial cells.”, Sugimoto K., et al., Cardiovasc Res, Vol.84, p124-136, 2009 参照)が挙げられる。
【0042】
またLOX-1結合タンパク配列が、免疫グロブリン可変領域を含む抗体の機能的断片となる抗LOX-1抗体の一部とするLOX-1結合ドメイン配列である場合、VH、VL、Fv、Fab、及びF(ab’)2等が挙げられる。
【0043】
この融合タンパク質は、例えば抗LOX-1抗体、又はLOX-1結合ドメイン配列が、LOX-1に抗原抗体反応により結合する抗体への活性部位、好ましくはFv型抗体の活性部を有していてもよい。Fv型抗体(scFv、VH-VL)は、図1に示すように、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)とが連結された抗体の機能的断片である。
【0044】
この融合タンパク質中、ApoA Iの全タンパク配列又は部分フラグメントタンパク配列は、ApoA Iとして作用するものであれば特に限定されず、例えば動物由来のものでヒト、マウス、ウシ等に由来のものが挙げられる。
【0045】
この融合タンパク質は、より具体的な一例としては、図1に一文字表記で、配列番号1に三文字表記で示した通りのものであり、LOX-1へ結合するLOX-1結合タンパク配列として抗LOX-1抗体(#10-1)のLOX結合ドメイン(破線部分)と、ApoA Iの部分フラグメントタンパク配列として抗ApoA I抗体結合タンパクであるヒトApoA Iにおけるアミノ酸番号31-267aaの領域とを有するものである。
【0046】
この融合タンパク質中、LOX-1へ結合するLOX-1結合タンパク配列や、ApoA Iの全タンパク配列又は部分フラグメントタンパク配列は、天然由来のものに限定されず、その機能を発現する限り、アミノ酸の一部が置換、欠損、挿入された変異タンパク質配列であってもよい。
【0047】
この融合タンパク質は、LOX-1結合タンパク配列のN末端側にApoA Iの全タンパク配列又は部分フラグメントタンパク配列のC末端側が結合して連結していてもよく、LOX-1結合タンパク配列のC末端側にApoA Iの全タンパク配列又は部分フラグメントタンパク配列のN末端側が結合して連結していてもよい。それらは、アミド結合で直接結合して連結していてもよく、ApoA IやLOX-1の作用を阻害しないポリペプチドであるスペーサ基を介したアミド結合で間接的に連結していてもよく、ポリペプチド及び/又は非ポリペプチドのスペーサ基を介してアミド結合以外のエーテル結合等の共有結合で間接的に結合していてもよい。
【0048】
本発明を適用外の酸化HDL含有タンパク質と本発明を適用する融合タンパク質とを対比する。この融合タンパク質は、酸化脂質が不安定でリファレンスや標準品として不適当な生体由来の酸化HDLと異なり、酸化HDLを人工タンパク質に置換したものであり、リン脂質を有しないから安定かつ再現的に生産可能なものである。
【0049】
この融合タンパク質の製造方法は、特に限定されず、公知の遺伝子技術によって調製してもよく、化学合成によって調製してもよい。
【0050】
遺伝子技術によれば、例えば、その融合タンパク質をコードする核酸を調製し、その核酸を導入したベクターを作製し、そのベクターを用いて宿主細胞、例えば、COS細胞やCHO細胞のような動物細胞、酵母、大腸菌のような細菌などから製造することができる。
【0051】
一態様であるこの融合タンパク質を、抗LOX-1抗体と抗ApoA I抗体結合タンパク質であるヒトApoA Iとから作製する概要を、説明する。
【0052】
より具体的には、この融合タンパク質は、LOX-1へ結合するLOX-1結合タンパク配列(例えば抗LOX-1抗体の全アミノ酸配列である全長又はそれの一部でありLOX-1へ結合するアミノ酸配列である部分断片)をコードするDNAと、ApoA Iの全タンパク配列である全長又はそれの一部であり抗ApoA I抗体に結合する部分フラグメントタンパク配列である部分断片をコードするDNAを、それぞれ抗LOX-1抗体とApoA Iから、既知の塩基配列情報を基にして、PCR等の操作により、又は化学合成により取得する。
【0053】
次に、LOX-1結合タンパク質部分をコードするDNAとApoA Iの全長又は部分断片をコードするDNAとをフレームが一致するように連結して、融合タンパク質をコードするキメラ遺伝子を調製する。
【0054】
次いで、制限酵素と連結酵素とを用いて、このキメラ遺伝子を、大腸菌プラスミドのようなベクターに適宜組み込み、融合タンパク質発現ベクターとなる組換えベクターを調製する。この組換えベクターの概要を説明する。
【0055】
この組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換して、融合タンパク質発現細胞となる組換え細胞を作製する。
【0056】
さらに、この組換え細胞を培養する。その培養物から、融合タンパク質を、遠心分離、塩析、膜分離、アフィニティクロマトグラフィーのようなクロマトグラフィーなどの適切な分離方法により、精製して採取する。
【0057】
検体試料中の変性高密度リポタンパク質の測定方法は、この融合タンパク質を標準品として用い、LOX-1と抗ApoA I抗体とに対して、変性高密度リポタンパク質が特異的に結合するという反応を利用して、測定するというものである。
【0058】
具体的には、(1)この融合タンパク質を標準品として濃度や活性と光学強度や放射線量等の測定値との相関関係の基準となる検量線や対比表や換算式等を作成する。例えば、段階的に希釈した融合タンパク質の標準溶液を調製し、イムノアッセイを行い、濃度毎に、吸光度のような光学強度や放射線強度のような放射線量等の標準液測定値を測定し、融合タンパク質の濃度と、標準液測定値との検量線又は対比表等を作成する。
【0059】
(2)一方、ヒトの全血や血漿や血清のような検体試料の変性HDLについて測定する。例えば、標準液での測定と同様なイムノアッセイを行い、検体試料の変性HDLによる光学強度や放射線量等の測定値を求める。
【0060】
(3)次いで、変性HDLによる光学強度や放射線量等の測定値と、検量線や対比表等との比較や、測定値の換算式への代入により、変性HDLの量や質を包括的に検出・測定するというものである。例えば、変性HDLによる光学強度や放射線量等の測定値を、検量線や対比表に当てはめ又は換算式に代入して、融合タンパク質相当量を、変性HDLの量や質について融合タンパク質に対する相対値として、得る。この検量線や対比表から得られた換算式に代入して、融合タンパク質相当量を、算出してもよい。
【0061】
この変性高密度リポタンパク質の測定方法は、LOX-1と抗ApoA I抗体を用いたイムノアッセイが用いられる。このようなイムノアッセイは、サンドイッチ法、競合法など公知の方法で行われる。
【0062】
この変性高密度リポタンパク質の測定方法は、検体試料を測定するには、例えばLOX-1及び抗ApoA I抗体の何れか一方が支持体に固定化されている、いわゆる固相法により、行われる。支持体は、マイクロプレートの各ウェル、及び/又はビーズが挙げられる。
【0063】
この変性高密度リポタンパク質の測定方法は、LOX-1と抗ApoA I抗体とを用いたイムノアッセイとして、従来のように測定のリファレンスとして酸化HDLを用いる酸化HDL測定法に代えて、又はそれにさらに付加して、行うことができる。
【0064】
この変性高密度リポタンパク質の測定方法は、例えば、LOX-1をマイクロプレートのウェル等の支持体に固相化した例で説明すると、そのウェルにヒトから採取した全血や血漿や血清のような検体試料を加え、検体試料中に存する変性HDLをLOX-1上に捕捉させる。次に、そこへ標識された抗ApoA I抗体を添加し又は予め添加しておき、捕捉された変性HDLに、その抗体を結合させる。結合した抗ApoA I抗体の標識を指標にして、検体試料中の変性HDLを光学的検知及び/又は放射線量検知で測定することができる。
【0065】
この標識は、光学的検知及び/又は放射線量検知により測定するためのもので、例えば酵素(エンザイムイムノアッセイ、EIA、ELISA)、蛍光物質(蛍光イムノアッセイ、FIA)、放射性物質(ラジオイムノアッセイ、RIA)などが挙げられる。
【0066】
抗ApoA I抗体を標識することに代えて、抗ApoA I抗体を非標識とし、抗ApoA I抗体に結合する標識2次抗体を用いてもよい。抗ApoA I抗体は、モノクローナルであってもよく、ポリクローナルであってもよい。
【0067】
LOX-1は公知の方法(例えば、特開平9-98787号公報など)により、調製できる。抗ApoA I抗体は、市販のものを用いてもよい。
【0068】
この変性高密度リポタンパク質の測定方法で測定できる変性HDLとして、例えば、HClO-HDL、HNE-HDL、Carbamylated HDL及びMDA-HDLなどが挙げられる。これらの変性HDLは、血管壁の血管内皮細胞を障害し、動脈硬化や血栓形成を引き起こす心疾患や虚血疾患等の動脈硬化性疾患のような各種疾患の発症リスクを高めるものである。
【0069】
この変性高密度リポタンパク質の測定方法は、動脈硬化性疾患のリスク評価指標、特に脳梗塞との強い関係性や頚動脈内膜肥厚との関連のような評価指標、さらに動脈硬化進展のサロゲートマーカー、動脈硬化治療効果判定指標として、診断、治療法の選択、診察結果の数値化に、用いることができる。
【0070】
この変性高密度リポタンパク質の測定方法によれば、単なるHDL・LDLの測定結果による健康診断のみでは測定し得ない変性HDLの量や質を測定して、必要に応じて変性LDLの測定と共に、変性コレステロールの適切な評価・診療に供することができる。
【0071】
この変性高密度リポタンパク質の測定方法は、LOX-1と抗ApoA I抗体とに対して、変性高密度リポタンパク質が結合することによる本発明の変性高密度リポタンパク質の測定キットを用いて行うことができる。
【0072】
この変性高密度リポタンパク質の測定キットは、一方では、前記の融合タンパク質を変性高密度リポタンパク質の標準品として用いつつ、融合タンパク質の濃度毎に光学強度を光学的に測定して、検量線や対比表や換算式などを作成し、他方では、検体試料例えばヒトの全血や血漿や血清について、LOX-1又は抗ApoA I抗体のいずれかがマイクロプレートの各ウェルやビーズのような支持体に固定化されLOX-1又は抗ApoA I抗体の他の片方が添加されているいわゆる固相法により、光学強度を光学的に測定して、検量線や対比表などと比較して又は換算式に代入して、検体試料中の変性HDLの濃度を検出・測定するのに、用いられる。
【0073】
この変性高密度リポタンパク質の測定キットは、必要に応じた支持体例えばマイクロプレートのウェル上にLOX-1が固定され、それに結合する融合タンパク質と、その融合タンパク質に結合する抗ApoA I抗体と、緩衝液とを有し、また必要に応じた別な支持体例えば変性HDLを測定すべき検体試料を添加可能なマイクロマイクロプレートのウェル上にLOX-1が固定され、LOX-1に変性HDLが結合したらそれに結合する抗ApoA I抗体と、緩衝液とを有している。抗ApoA I抗体は、標識され、又は標識されずに二次標識と共存する。
【実施例
【0074】
以下に、本発明を適用する融合タンパク質と、それを用いた変性高密度リポタンパク質の測定キットとを作製し、そのキットによる変性高密度リポタンパク質の測定方法を行った詳細について説明する。
【0075】
先ず、以下のようにして本発明の融合タンパク質を調製した。
【0076】
(調製例1)融合タンパク質の調製
LOX-1タンパク質と抗ApoA I抗体の両方に親和性を持つタンパク質を得るため、先ず、抗LOX-1抗体遺伝子(可変領域(Fv領域))とApoA I遺伝子からなる融合タンパク質遺伝子を作製した。Fv型抗体遺伝子は、マウスモノクローナル抗ヒトLOX-1抗体(#10-1)産生ハイブリドーマのcDNAからクローニングした可変領域遺伝子をもとに作製したanti-LOX-1-Fv遺伝子を用いた(”LOX-1-MT1-MMP axis is crucial for RhoA and Rac1 activation induced by oxidized low-density lipoprotein in endothelial cells.”, Sugimoto K, et al., Cardiovasc Res, Vol.84, p127-136, 2009に記載)。ApoA I遺伝子はヒト肝臓cDNAよりクローニングした。
【0077】
(調製方法2)ApoA I遺伝子のクローニング
ヒトApoA I全長遺伝子(GenBank accession no. NM000039.2; 1,239 bp)を、Human MTC Panel II (Clontech)の肝臓cDNAライブラリーを鋳型とし、プライマーセットApoAI-F (CACCATGAAAGCTGCGGTGCTGACCTTG)(配列番号2), ApoAI-R (CTGGGTGTTGAGCTTCTTAGTGTAC)(配列番号3)、PrimeSTAR HS DNA Polymerase (TAKARA#R010A)を用いてPCRを行い、ApoA I全長遺伝子を得た。次に、この全長遺伝子をpcDNA Gateway Directional TOPO Expression kit (Invitrogen)を用いてpcDNA6.2/V5/GW/D-TOPO vector (Invitorgen)にサブクローニングし、ABI PRISM Cycle sequencing kitにより塩基配列を確認した。
【0078】
(調製方法3)Fv型抗LOX-1抗体とApoA Iとの融合タンパク質の作製
Fv型抗LOX-1抗体のC末端側とApoA IのN末端側とがリンカー配列を介して連結された融合タンパク質を、以下の手順により作製した。
上記のFv型抗LOX-1抗体発現ベクターを鋳型とし、フォワードプライマー(Fv-H-Fプライマー:CACCATGGATTTTGGGCTGATTTTTTTTA)(配列番号4)及び3’末端にリンカー配列の一部を含むリバースプライマー(Fv-L-Linker-Rプライマー:ACCAGAGCCGCCGCCGCCGCTACCACCACCACCTTTCAACTCCAGCTTGGTCCC)(配列番号5)、PrimeSTAR HS DNA Polymerase (TAKARA#R010A)を用いてPCRを行い、Fv型抗LOX-1抗体遺伝子を再増幅した。
また、上記で調製したApoA I全長遺伝子を鋳型とし、リンカー配列の一部を5’末端に含むフォワードプライマー(Linker-ApoAI-Fプライマー:AGCGGCGGCGGCGGCTCTGGTGGTGGTGGATCCCGGCATTTCTGGCAGCAAGATGAAC)(配列番号6)及びリバースプライマー(ApoAI-Rプライマー:CTGGGTGTTGAGCTTCTTAGTGTACTC)(配列番号7)、PrimeSTAR HS DNA Polymerase (TAKARA#R010A)を用いてPCRを行い、ApoA Iをコードする遺伝子を再増幅した。
これらを、overlap-extension PCR法を用いることにより、Fv型抗体とApoA I(55-801bp)をそれぞれリンカー配列を介してVLのC末端側とApoA IのN末端側を連結させ、この融合タンパク質遺伝子をpEF6-V5-His vector (Invitrogen)に挿入した。
続いて、KOD-Plus- Mutagenesis Kit (TOYOBO#SMK-101)、Linker Rプライマー(GGATCCACCACCACCAGAGCCGCCG)(配列番号8)、ApoA1-31aa Fプライマー(CCCTGGGATCGAGTGAAGGACCTGG)(配列番号9)を用いて、ApoA Iの翻訳後切断部位Gln24(“cDNA cloning of human apoA-I: amino acid sequence of preproapoA-I.”, Law SW., et al., Biochem Biophys Res Commun, Vol.112, p257-264, 1983 参照)を含む19-30番目のアミノ酸配列を欠失させた。ABI PRISM Cycle sequencing kitにより塩基配列を確認し、これをタンパク質発現系に用いた。
融合タンパク質の発現はExpi293 Expression System (Invitrogen)を用いて行い、培地中に分泌された融合タンパク質をNi Sepharose excel resin (GE)を用いてHis精製した。得られたタンパク質はPBS中で透析した後、0.22μmのフィルターろ過滅菌を行い実験に使用した。
【0079】
(試験例1)LOX-1結合変性HDL検出系の構築
まず、ヒトEDTA血漿からKBr密度勾配遠心法により分離したHDLまたはLDLを、濃度が3mg/mlとなるようにPBSで調整し、硫酸銅を7.5μMとなるように添加した後、37℃、5%CO2インキュベーター内で16時間インキュベーションした。続いて、この溶液を、2mM EDTAを含有する0.15M塩化ナトリウム溶液を外液として透析し、ヒト酸化HDL、酸化LDLとした。
受容体LOX-1に、この酸化HDLが結合するかどうかをLOX-1タンパク質と抗ApoA I抗体を用いたサンドイッチELISAにより検討した。
【0080】
LOX-1及び抗ApoA I抗体を用いたサンドイッチELISA
組換えヒトLOX-1(61-273aa)または対照としてLOX-1と同じファミリーに属するタンパク質Dectin-1を、ELISAプレートに4℃で終夜固相化した。PBSで洗浄した後、3%BSA含有HEPESバッファー(10mM HEPES,150mM NaCl,pH7.4)によりブロッキングした。PBSで3回洗浄後、酸化HDL、HDL、酸化LDL、LDLをそれぞれ添加しインキュベートした。PBSで洗浄した後、ニワトリ抗ApoA Iモノクローナル抗体(chicken monoclonal anti-ApoB antibody)あるいはHRP標識抗ApoA Iポリクローナル抗体(Sheep polyclonal anti-ApoB antibody-HRP)を添加した。ニワトリ抗ApoA Iモノクローナル抗体を用いる場合には、ニワトリ抗ApoA Iモノクローナル抗体を添加し、室温で1時間反応させた後、PBSで洗浄した後、二次抗体HRP-labeled Donkey anti-chicken IgYを添加し、室温で1時間インキュベートした。
抗体反応後PBSで5回洗浄し、TMB solutionをプレートに添加し室温で反応させた。2M硫酸で反応を停止させ、450nmの吸光度をSpectraMax 340PC384 (Molecular Devices)を用いて測定し、結合した酸化HDLを検出した。
【0081】
その結果を、図2に示す。図2は、LOX-1結合変性HDL検出系が構築できるかを調べるため、LOX-1又はDectin-1へのHDL、酸化HDL、LDL、酸化LDLの結合を、抗ApoA I抗体で検出した結果を示すグラフである。図2から明らかな通り、酸化HDLのLOX-1への濃度依存性の結合が観察され、酸化していないHDL並びにLDL及び酸化LDLのLOX-1への結合は検出されなかった。一方、dectin-1は、酸化HDLにもHDLにも結合しなかった。これにより、LOX-1に結合する変性HDLをELISAで検出できることが分かった。
【0082】
(試験例2)人工酸化HDL-LOX-1結合と融合タンパク質-LOX-1結合との対比
前記の試験例1で作製した人工酸化HDLと、前記調製例1で作製した融合タンパク質とを夫々用い、前記試験例1の方法に準じ、人工酸化HDL又は融合タンパク質のLOX-1及び抗ApoA I抗体への結合を検討した。その結果を、図3中に、●で示す。図3から明らかな通り、作製した融合タンパク質は、LOX-1と抗ApoA I抗体に同時に結合し、同図中、△で示すように、LOX-1を固相化していない場合には検出されなかった。このように、融合タンパク質も人工酸化HDLと同様の方法で、ELISAで検出できることが分かった。
【0083】
なお、人工酸化HDLは、脂質を含んでいるため脂質が空気に触れて酸素で容易く酸化し経時的に化学変化を起こして劣化してしまうので、再現性に劣る。しかし、作製した融合タンパク質を用いれば、脂質を有しておらず空気に触れても酸化し難く経時的に化学変化を起こし難く高品質のまま維持でき、再現性に長ける。従って、この融合タンパク質を用いた測定によれば、常に同じ結果が得られる尺度となるので、普遍的な検量線や対比表や換算式作成の標準品となり得る。
【0084】
(試験例3)人工酸化HDL、融合タンパク質のロット間比較
ヒト血漿より調製したHDLを人工的に酸化させた酸化HDLについて、ロット間の違いにより測定値にどの程度影響するのかを、LOX-1と抗ApoA I抗体を用いたサンドイッチELISA(上記(試験例1))により検討した。また、本実施例で作製した融合タンパク質でのロット間の違いも同様に検討し、融合タンパク質の有用性を検証した。その結果を、図4に示す。図中、〇、●、▲はロットが異なる人工酸化HDL又は融合タンパク質を示す。人工酸化LDL(oxHDL)は3つの異なるロットで反応性に差が見られた。一方、融合タンパク質ではロット間でほとんど差はみられなかった。
【0085】
(試験例6)ヒト血液中の変性HDLの検出
前記試験例1の方法に準じ、ヒト血液中の変性HDL検出を試みた。測定検体には、健常人ボランティア6名から採取したEDTA血漿を用いた。
結果を図5に示す。すなわち、LOX-1と抗ApoA I抗体を用いたサンドイッチELISAにより、ヒト血液中の変性HDLを検出できることが示された。
【0086】
この試験により、作製した人工組換タンパク質が、LOX-1とApoA I抗体の両方を同時に認識できるかどうかを、LOX-1タンパク質と抗ApoA I抗体を用いたサンドイッチELISAにより、確認できた。このことから、作製した人工組換タンパク質は、LOX-1とApoA I抗体に同時に結合し、抗ApoA I抗体により検出されることが分かった。従って、安定かつ再現的に生産可能な標準検体の作製に成功したことが分かった。
【0087】
このように、高密度リポタンパク質の測定の標準品にするための融合タンパク質、それを形成するための核酸やベクターや細胞、及び高密度リポタンパク質の測定方法並びに測定キットについて、詳細に説明した通り、本発明によれば、変性HDLを正確、かつ簡便に再現性よく迅速に検出して測定できる。
【0088】
このような変性HDLの測定は、その量のみならず質を検知するものであるから、血液中のHDL・LDLの測定が健康診断の指標として用いられているのと同様に、いずれ標準的な測定方法になるであろう。
【0089】
この変性HDLの測定によれば、これまで見逃されてきた動脈硬化や血栓形成のような動脈硬化性疾患や心疾患等のリスクの評価法を提供することができるようになる。また、動脈硬化性疾患や心疾患等の生活習慣病の一次予防、診察、治療方針の検討、治療、治療効果判定、二次予防に役立てることができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の融合タンパク質は、高密度リポタンパク質を正確に再現性・信頼性良く測定する方法並びに測定キットの標準品として、有用である。この高密度リポタンパク質を形成するための核酸やベクターや細胞は、高密度リポタンパク質の調製のために有用である。
【0091】
この融合タンパク質を用いた本発明の高密度リポタンパク質を正確に再現性・信頼性良く測定する方法並びに測定キットは、動脈硬化性疾患や心疾患等の予防、診療を行う際の重要な情報を得るのに有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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