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  • 特許-血中レボフロキサシン濃度測定方法 図1
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  • 特許-血中レボフロキサシン濃度測定方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】血中レボフロキサシン濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
G01N33/53 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021113543
(22)【出願日】2021-07-08
(65)【公開番号】P2023009891
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】399015388
【氏名又は名称】学校法人九州文化学園
(74)【代理人】
【識別番号】100114661
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 美洋
(72)【発明者】
【氏名】大磯 茂
(72)【発明者】
【氏名】大久保 伸哉
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/075376(WO,A1)
【文献】特開平07-267999(JP,A)
【文献】大磯 茂 ほか,抗レボフロキサシンモノクローナル抗体の作製およびレボフロキサシンELISAの開発,第26回日本医療薬学会年会講演要旨集,2016年,P1228-19-AM
【文献】是枝 亜子 ほか,抗クロロキンモノクローナル抗体を用いた免疫学的簡易検出システム,日本法医学雑誌,2004年,Vol.58, No.1,Page.79
【文献】浜田 祐成 ほか,ナイロン膜を用いたドットブロット法によるダビガトラン濃度の高感度簡易測定法の開発,日本薬学会年会要旨集,2019年,21PO-pm342S
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン膜の上で異なる濃度のレボフロキサシンとヒト血清アルブミンとの複合体に抗レボフロキサシンモノクローナル抗体を結合させた後に、アルカリホスファターゼ標識IgG抗体とブロモクロロインドリルりん酸-ニトロブルーテトラゾリウムを反応させ、発色とレボフロキサシンの濃度とが線形的に相関する範囲における線形近似式を求めておき、
ナイロン膜の上で血液検体に抗レボフロキサシンモノクローナル抗体を結合させた後に、アルカリホスファターゼ標識IgG抗体とブロモクロロインドリルりん酸-ニトロブルーテトラゾリウムを反応させ、得られた発色に基づいて血中のレボフロキサシンの濃度を発色とレボフロキサシンの濃度とが線形的に相関する範囲内で前記線形近似式を用いて測定することを特徴とする血中レボフロキサシン濃度測定方法。
【請求項2】
測定範囲を200ng/mL~800ng/mLとしたことを特徴とする請求項1に記載の血中レボフロキサシン濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中におけるレボフロキサシンの濃度を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レボフロキサシンは、ニューキノロン系の合成抗菌薬として優れた抗菌力と広い抗菌スペクトルを有することから様々な細菌感染症に臨床応用されている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0003】
このレボフロキサシンの適正使用においては、血中におけるレボフロキサシンの濃度が有用な情報となる。
【0004】
従来においては、血中におけるレボフロキサシンの濃度を測定する方法(血中レボフロキサシン濃度測定方法)として、既存の高速液体クロマトグラフィーを適用したものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-150364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記従来の高速液体クロマトグラフィーを適用した血中レボフロキサシン濃度測定方法では、測定装置が高額であり多量の有機溶媒を必要とすることなどの理由から、一部の限られた医療機関でしか血中におけるレボフロキサシンの濃度を測定することができなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意研究を重ね、大規模な医療機関に限られず一般の診療施設や薬局などにおいても導入することができる血中レボフロキサシン濃度測定方法を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1に係る本発明では、血中レボフロキサシン濃度測定方法において、ナイロン膜の上で異なる濃度のレボフロキサシンとヒト血清アルブミンとの複合体に抗レボフロキサシンモノクローナル抗体を結合させた後に、アルカリホスファターゼ標識IgG抗体とブロモクロロインドリルりん酸-ニトロブルーテトラゾリウムを反応させ、発色とレボフロキサシンの濃度とが線形的に相関する範囲における線形近似式を求めておき、ナイロン膜の上で血液検体に抗レボフロキサシンモノクローナル抗体を結合させた後に、アルカリホスファターゼ標識IgG抗体とブロモクロロインドリルりん酸-ニトロブルーテトラゾリウムを反応させ、得られた発色に基づいて血中のレボフロキサシンの濃度を発色とレボフロキサシンの濃度とが線形的に相関する範囲内で前記線形近似式を用いて測定することにした。
【0009】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、測定範囲を200ng/mL~800ng/mLとすることにした。
【発明の効果】
【0010】
そして、本発明では、高額な測定装置や高価な試薬などを必要とすることがなく、大規模な医療機関に限られず一般の診療施設や薬局などにおいても、血中のレボフロキサシンの濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】レボフロキサシン濃度100~800ng/mLにおける発色結果を示す写真。
図2】レボフロキサシン濃度100~800ng/mLと発色との相関を示すグラフ(a)、レボフロキサシン濃度200~800ng/mLと発色との相関を示すグラフ(b)。
図3】レボフロキサシン濃度200~1000ng/mLにおける発色結果を示す写真。
図4】レボフロキサシン濃度200~1000ng/mLと発色との相関を示すグラフ(a)、レボフロキサシン濃度200~800ng/mLと発色との相関を示すグラフ(b)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る血中レボフロキサシン濃度測定方法の具体的な構成について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
まず、レボフロキサシンの濃度と発色との相関について検討した。
【0014】
[工程1]
1%HSA溶液を浸漬させた濾紙上にナイロン膜(0.45μm Nylon transfer membrane)を載せ、3分間静置した後に、ナイロン膜を濾紙上から取出してドライヤーを用いて乾燥させた。ここで、1%HSA溶液は、HSA(ヒト血清アルブミン)をりん酸緩衝液(PBS)に溶解して1%に調整した。
【0015】
[工程2]
次に、異なる濃度(100,200,400,800ng/mL)のレボフロキサシン水溶液それぞれと、2%EDC溶液と、1%NHS溶液とを、チューブ内で混合し、5分間静置して、レボフロキサシン濃度が異なる混合液を作製した。ここで、レボフロキサシン水溶液は、レボフロキサシンを超純水に溶解して所望の濃度に調整した。2%EDC溶液は、EDC(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride)をりん酸緩衝液に溶解して2%に調整した。1%NHS溶液は、NHS(N-hydroxysuccinimide)をりん酸緩衝液に溶解して1%に調整した。
【0016】
[工程3]
次に、工程1で乾燥させたナイロン膜の上に、工程2で作製した各混合液と、ポジティブコントロールと、ネガティブコントロールを2μLずつ、それぞれ3点ずつブロット(滴下)し、その後30分間静置した。ここで、ポジティブコントロールとしては、レボフロキサシンとヒト血清アルブミンとの複合体を超純水に溶解して10μg/mLに調整したものを用いた。また、ネガティブコントロールとしては、超純水を用いた。
【0017】
[工程4]
次に、2%EDC溶液と1%NHS溶液との混合液に浸漬させた濾紙上に工程3のナイロン膜を載せ、10分間静置した。
【0018】
[工程5]
次に、工程4のナイロン膜をウォッシング溶液で振とう洗浄(5分間X3回)した後に、ブロッキング溶液中で30分間振とうした。ここで、ウォッシング溶液は、TBS-T(Tris Buffered Saline with Tween20)を用い、ブロッキング溶液は、5%スキムミルク/TBS-T溶液を用いた。
【0019】
[工程6]
工程5のナイロン膜をウォッシング溶液で振とう洗浄(5分間X3回)した後に、一次抗体溶液中で60分間振とうした。ここで、一次抗体溶液としては、5mg/mLの抗レボフロキサシン抗体(LVFX-mAb)を5%BSA(Bovine Serum Albumin)/TBS-T溶液に1000倍希釈したものを用いた。
【0020】
[工程7]
工程6のナイロン膜をウォッシング溶液で振とう洗浄(5分間X3回)した後に、二次抗体溶液中で60分間振とうした。ここで、二次抗体溶液としては、アルカリホスファターゼ標識抗マウスIgG抗体をブロッキング溶液に1000倍希釈したものを用いた。
【0021】
[工程8]
工程7のナイロン膜をウォッシング溶液で振とう洗浄(5分間X3回)した後に、BCIP-NBT(ブロモクロロインドリルりん酸-ニトロブルーテトラゾリウム)混合溶液で20分間振とうした。
【0022】
[工程9]
工程8のナイロン膜をイオン交換水ですすいでBCIP-NBT混合溶液を洗い流した後に、ナイロン膜上の発色を確認した。
【0023】
その結果を図1に示す。図1において、No.1で示す縦3個の発色がポジティブコントロール、No.2~No.5で示す各縦3個の発色が順に800,400,200,100ng/mLレボフロキサシン、No.6で示す縦3個の発色がネガティブコントロールによるものである。
【0024】
[工程10]
工程9のナイロン膜上の各発色を画像解析ソフトを用いて発色とレボフロキサシン濃度との相関を調べた。ここでは、ナイロン膜上の各発色を撮影した画像から各発色の密度を数値化し、No.2~No.5で示す各レボフロキサシン濃度の発色密度からNo.6で示すネガティブコントロールの発色密度を引いた値を各レボフロキサシン濃度の真の発色密度とし、最大濃度のレボフロキサシンの発色密度との相対的な比(相対発色密度比)を求めた。なお、画像解析ソフトとしては、市販のものを用いることができる。また、発色とレボフロキサシン濃度との相関が求められればよく、発色密度に限られず輝度や彩度や明度などを用いてもよい。
【0025】
その結果を図2(a)に示す。図2(a)に示すように、レボフロキサシン濃度(x)と相対発色密度(y)との間に線形的な相関が見られ、線形近似式を求めると、y=0.0012x+0.0948で、決定係数R2=0.9881となることがわかった。
【0026】
しかしながら、図2(a)に示すように、レボフロキサシン濃度が100ng/mLの場合だけが他の200~800ng/mLの場合よりも線形的な相関が低いことがわかった。
【0027】
そこで、レボフロキサシンの濃度範囲を200~800ng/mLに限定して、図2(b)に示す結果を得た。図2(b)に示すように、レボフロキサシンの濃度範囲を200~800ng/mLに限定すると、レボフロキサシン濃度(x)と相対発色密度(y)との間にほぼ線形な相関が見られ、線形近似式を求めると、y=0.0011x+0.1511で、決定係数R2=0.9978となることがわかった。
【0028】
このことから、発色とレボフロキサシン濃度との線形相関から定量化可能なレボフロキサシンの濃度範囲の下限を200ng/mLに設定することにした。
【0029】
次に、レボフロキサシンの濃度範囲の上限を調べるために、レボフロキサシンの濃度を200,400,600,800,1000ng/mLにして、上記工程1~工程10を行った。
【0030】
その結果、図3に示すナイロン膜上の発色が確認された。図3において、No.1で示す縦3個の発色がポジティブコントロール、No.2~No.6で示す各縦3個の発色が順に1000,800,600,400,200ng/mLレボフロキサシン、No.7で示す縦3個の発色がネガティブコントロールによるものである。
【0031】
また、図4(a)に示すように、レボフロキサシン濃度(x)と相対発色密度(y)との間に線形的な相関が見られ、線形近似式を求めると、y=0.0008x+0.2377で、決定係数R2=0.9612となることがわかった。
【0032】
しかしながら、図4(a)に示すように、レボフロキサシン濃度が1000ng/mLの場合だけが他の200~800ng/mLの場合よりも線形的な相関が低いことがわかった。
【0033】
そこで、レボフロキサシンの濃度範囲を200~800ng/mLに限定して、図4(b)に示す結果を得た。図4(b)に示すように、レボフロキサシンの濃度範囲を200~800ng/mLに限定すると、レボフロキサシン濃度(x)と相対発色密度(y)との間にほぼ線形な相関が見られ、線形近似式を求めると、y=0.001x+0.2044で、決定係数R2=0.9753となることがわかった。
【0034】
このことから、発色とレボフロキサシン濃度との線形相関から定量化可能なレボフロキサシンの濃度範囲の上限を800ng/mLに設定することにした。
【0035】
以上に説明したように、レボフロキサシンの濃度が200~800ng/mLの範囲では、発色とレボフロキサシン濃度との間に線形相関を有しており、線形近似式を求めることでレボフロキサシンの濃度を測定できることがわかった。
【0036】
これは、通常用量のレボフロキサシンを反復投与したときの血中濃度が500~6000ng/mLの範囲で推移することから、実用上において問題ない測定範囲であるといえる。
【0037】
また、検体量が2μLで測定可能であることから、指先穿刺により採取することができ、この点でも実用上において問題ない測定方法であるといえる。
【0038】
したがって、指先穿刺等により2μLの血液検体を採取し、ナイロン膜の上で血液検体及び様々な濃度のレボフロキサシンに抗レボフロキサシンモノクローナル抗体を結合させた後に、アルカリホスファターゼ標識IgG抗体とブロモクロロインドリルりん酸-ニトロブルーテトラゾリウムを反応させ、ドットブロット法を用いて得られた発色に基づいて血中のレボフロキサシンの濃度を測定することができることがわかった。
【0039】
以上に説明したように、本発明の血中レボフロキサシン濃度測定方法では、ナイロン膜の上で血液検体に抗レボフロキサシンモノクローナル抗体を結合させた後に、アルカリホスファターゼ標識IgG抗体とブロモクロロインドリルりん酸-ニトロブルーテトラゾリウムを反応させ、得られた発色に基づいて血中のレボフロキサシンの濃度を測定することにした。特に、測定範囲を200ng/mL~800ng/mLとすることにした。
【0040】
これにより、本発明では、抗レボフロキサシンモノクローナル抗体以外は安価に入手可能な市販の試材や試薬を用いることができ、また、通常のデジタルカメラで撮影した画像をImageJ等の無料で入手可能なソフトウェアで画像解析することができるので、導入コストを非常に低く抑えることができる。
【0041】
また、本発明では、検体の採取も2μLで済み、血糖値自己測定等で行われている指先穿刺によって行うことができる。
【0042】
さらに、本発明では、有機溶媒を使用することなく、また、プラスチック廃棄物の発生も抑制して濃度測定を行うことができる。
【0043】
そのため、本発明に係る血中レボフロキサシン濃度測定方法は、大規模な医療機関に限られず一般の診療施設や薬局などにおいても導入することができる。
図1
図2
図3
図4