(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】多層管状成形体
(51)【国際特許分類】
F16L 11/04 20060101AFI20231012BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20231012BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
F16L11/04
B32B1/08 B
B32B27/32 E
(21)【出願番号】P 2021119225
(22)【出願日】2021-07-20
【審査請求日】2022-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000134534
【氏名又は名称】株式会社トヨックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 大地
(72)【発明者】
【氏名】沼田 健一
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-237682(JP,A)
【文献】特開昭59-140046(JP,A)
【文献】特開平05-117409(JP,A)
【文献】特開2006-021530(JP,A)
【文献】特開2013-104511(JP,A)
【文献】特開2005-265185(JP,A)
【文献】実開昭61-045126(JP,U)
【文献】特表2015-509870(JP,A)
【文献】特開平05-301988(JP,A)
【文献】特開平04-228683(JP,A)
【文献】特開2008-132659(JP,A)
【文献】特開2008-039130(JP,A)
【文献】特開2006-334900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/04
B32B 1/08
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と、外層と、前記内層と前記外層との間に設けられ、これらを接着する中間層とを有する多層管状成形体であって、
前記内層は、ポリオレフィンを主成分として含有し、
前記外層は、熱可塑性ポリウレタンを主成分として含有し、
前記中間層は、接着性ポリオレフィンを主成分として含有し、
前記外層の厚さは、1~1.5mmであり、
当該多層管状成形体の厚さに対する、前記外層の厚さと前記中間層の厚さとの合計の割合は、0.7~0.88
であり、
前記熱可塑性ポリウレタンの軟化温度は、135~200℃であることを特徴とする多層管状成形体。
【請求項2】
前記内層の厚さに対する、前記中間層の厚さの割合は、0.1以上2未満である請求項1に記載の多層管状成形体。
【請求項3】
当該多層管状成形体の厚さに対する、前記内層の厚さの割合は、0.06~0.25である請求項1または2に記載の多層管状成形体。
【請求項4】
前記内層における前記ポリオレフィンの含有量は、75質量%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項5】
前記ポリオレフィンの軟化温度は、95~190℃である請求項1~4のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項6】
前記ポリオレフィンは、高密度ポリエチレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アイソタクティックポリプロピレンおよびポリメチルペンテンのうちの少なくとも1種を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項7】
前記内層の厚さは、0.05~2.5mmである請求項1~6のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項8】
前記外層における前記熱可塑性ポリウレタンの含有量は、75重量%以上である請求項1~7のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリウレタンは、アジペートエステル系熱可塑性ポリウレタン、エーテル系熱可塑性ポリウレタン、カプロラクトン系熱可塑性ポリウレタンおよびポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタンのうちの少なくとも1種を含む請求項1~
8のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項10】
前記中間層における前記接着性ポリオレフィンの含有量は、75質量%以上である請求項1~
9のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項11】
前記接着性ポリオレフィンの軟化温度は、120~185℃である請求項1~
10のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項12】
前記接着性ポリオレフィンは、側鎖に芳香族環を有するポリオレフィンを含む請求項1~
11のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項13】
前記接着性ポリオレフィンは、スチレングラフトポリオレフィンおよびポリスチレンを含む請求項
12に記載の多層管状成形体。
【請求項14】
前記接着性ポリオレフィンは、側鎖にエステル含有基を含む請求項1~
13のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項15】
前記接着性ポリオレフィンは、無水マレイン酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む請求項
14に記載の多層管状成形体。
【請求項16】
前記中間層の厚さは、0.01~1.5mmである請求項1~
15のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項17】
当該多層管状成形体の圧縮曲げ試験(スパン:200mm)における最大荷重は、19N以下である請求項1~
16のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【請求項18】
当該多層管状成形体の撓み量測定試験(温度:100℃)における撓み量は、40mm未満である請求項1~
17のいずれか1項に記載の多層管状成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層管状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは、耐熱性、透明性および撥水性に優れ、着香・着色もし難いが、柔軟性および脆化性に劣る。このため、ポリオレフィンにより肉厚の管状成形体を成形すると、柔軟性が損なわれ、折れ易くなり、肉薄の管状成形体を成形しても、やはり折れ易くなる。
一方、ポリウレタンは、耐熱性、柔軟性および透明性に優れているが、着香・着色し易く、撥水性に劣る。
したがって、ポリオレフィンとポリウレタンとを組み合わせて、多層管状成形体を製造すれば、ポリオレフィンの着香・着色し難い性質および優れた撥水性と、ポリウレタンの優れた柔軟性とを付与することができる。
【0003】
この多層管状成形体は、軟質塩化ビニル製の管状成形体(耐熱温度:70℃)とシリコーンゴム製の管状成形体(耐熱温度:150℃)との中間領域の耐熱温度(80~100℃)を有することができる。このため、かかる多層管状成形体は、食品や化粧品業界等において、上記軟質塩化ビニル製の管状成形体およびシリコーンゴム製の管状成形体と、性能面やコスト面で住み分けて、所望の用途や環境(配管や機械組み込み等)へ適用することができる。
例えば、特許文献1には、ポリオレフィン樹脂からなる内層と、ポリウレタン樹脂からなる外層と、前記内層と前記外層との間に、接着性ポリオレフィン樹脂からなる中間層とを有する多層チューブ(多層管状成形体)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の多層チューブは、柔軟性に優れると記載されているが、温度依存による課題が記されておらず、本発明者らの検討によれば、通過させる流体の温度や内層の厚さによっては、内面にシワが生じ、上記中間領域の温度では使用できないことが判明した。
また、本発明者らの検討によれば、常温においても、多層チューブの曲げの程度によっては、内面に容易にシワが発生することも判明した。
本発明の目的は、高い柔軟性を有し、かつ内面にシワが発生し難い多層管状成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の(1)~(20)の本発明により達成される。
(1) 内層と、外層と、前記内層と前記外層との間に設けられ、これらを接着する中間層とを有する多層管状成形体であって、
前記内層は、ポリオレフィンを主成分として含有し、
前記外層は、熱可塑性ポリウレタンを主成分として含有し、
前記中間層は、接着性ポリオレフィンを主成分として含有し、
当該多層管状成形体の厚さに対する、前記外層の厚さと前記中間層の厚さとの合計の割合は、0.7~0.92であることを特徴とする多層管状成形体。
【0007】
(2) 前記内層の厚さに対する、前記中間層の厚さの割合は、0.1以上2未満である上記(1)に記載の多層管状成形体。
【0008】
(3) 当該多層管状成形体の厚さに対する、前記内層の厚さの割合は、0.06~0.25である上記(1)または(2)に記載の多層管状成形体。
【0009】
(4) 前記内層における前記ポリオレフィンの含有量は、75質量%以上である上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0010】
(5) 前記ポリオレフィンの軟化温度は、95~190℃である上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0011】
(6) 前記ポリオレフィンは、ポリエチレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アイソタクティックポリプロピレンおよびポリメチルペンテンのうちの少なくとも1種を含む上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0012】
(7) 前記内層の厚さは、0.05~2.5mmである上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0013】
(8) 前記外層における前記熱可塑性ポリウレタンの含有量は、75重量%以上である上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0014】
(9) 前記熱可塑性ポリウレタンの軟化温度は、135~200℃である上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0015】
(10) 前記熱可塑性ポリウレタンは、アジペートエステル系熱可塑性ポリウレタン、エーテル系熱可塑性ポリウレタン、カプロラクトン系熱可塑性ポリウレタンおよびポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタンのうちの少なくとも1種を含む上記(1)~(9)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0016】
(11) 前記外層の厚さは、0.5~2.5mmである上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0017】
(12) 前記中間層における前記接着性ポリオレフィンの含有量は、75質量%以上である上記(1)~(11)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0018】
(13) 前記接着性ポリオレフィンの軟化温度は、120~185℃である上記(1)~(12)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0019】
(14) 前記接着性ポリオレフィンは、側鎖に芳香族環を有するポリオレフィンを含む上記(1)~(13)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0020】
(15) 前記接着性ポリオレフィンは、スチレングラフトポリオレフィンおよびポリスチレンを含む上記(14)に記載の多層管状成形体。
【0021】
(16) 前記接着性ポリオレフィンは、側鎖にエステル含有基を含む上記(1)~(13)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0022】
(17) 前記接着性ポリオレフィンは、無水マレイン酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む上記(16)に記載の多層管状成形体。
【0023】
(18) 前記中間層の厚さは、0.01~1.5mmである上記(1)~(17)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0024】
(19) 当該多層管状成形体の圧縮曲げ試験(スパン:200mm)における最大荷重は、19N以下である上記(1)~(18)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【0025】
(20) 当該多層管状成形体の撓み量測定試験(温度:100℃)における撓み量は、40mm未満である上記(1)~(19)のいずれか1つに記載の多層管状成形体。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高い柔軟性を有し、かつ内面にシワが発生し難い多層管状成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の多層管状成形体の実施形態を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【
図3】耐圧ホースの構成を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【
図4】圧縮曲げ試験の方法を説明するための図である。
【
図5】撓み量測定試験の方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の多層管状成形体を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<多層管状成形体>
図1は、本発明の多層管状成形体の実施形態を部分的に切り欠いて示す斜視図、
図2は、
図1中のA-A線断面図である。
図1に示す多層管状成形体1は、内層2と、外層3と、内層2と外層3との間に設けられた中間層4とを有している。
以下、各層の構成について、順次説明する。
【0029】
<<内層2>>
内層2は、ポリオレフィンを主成分として含有する層である。ポリオレフィンは、耐熱性、透明性および撥水性に優れ、着香・着色もし難い。このため、ポリオレフィンを主成分として含有する内層2を設けることにより、多層管状成形体1に、これらの特性に基づく優れた特性を付与することができる。
ポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高密度ポリエチレン(VHDPE)のようなポリエチレン、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンのようなポリプロピレン、ポリブテン、エチレンとα-オレフィンとの共重合体、ポリメチルペンテン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
中でも、ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリメチルペンテンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、LDPE、LLDPE、VLDPE、HDPE、VHDPE、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンおよびポリメチルペンテンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、HDPE、シンジオタクティックポリプロピレン、アイソタクティックポリプロピレンおよびポリメチルペンテンのうちの少なくとも1種を含むことがさらに好ましく、ポリプロピレンを含むことが特に好ましい。これらのポリオレフィンを使用することにより、内層2の耐熱性をより向上させ易い。
【0031】
ポリオレフィンの軟化温度は、95~190℃程度であることが好ましく、105~170℃程度であることがより好ましい。かかる軟化温度を有するポリオレフィンを使用することにより、多層管状成形体1に、軟質塩化ビニル製の管状成形体(耐熱温度:70℃)とシリコーンゴム製の管状成形体(耐熱温度:150℃)との中間領域の耐熱温度(80℃~100℃)を付与することができる。
なお、軟化温度は、動的粘弾性測定(Dynamic Mechanical Analysis:DMA)法により測定することができる。
【0032】
内層2におけるポリオレフィンの含有量は、75質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。この場合、内層2にポリオレフィンに基づく特性を十分に付与することができる。
【0033】
<<外層3>>
外層3は、熱可塑性ポリウレタン(Thermoplastic Polyurethane:TPU)を主成分として含有する層である。TPUは、耐熱性、柔軟性および透明性に優れる。ここで、ポリオレフィンを主成分として含有する内層2は、柔軟性(可撓性)が低くなり易いが、TPUを主成分として含有する外層3と組み合わせることにより、多層管状成形体1全体として、高い柔軟性(可撓性)を確保することができる。
TPUとしては、例えば、アジペートエステル系TPU、エーテル系TPU、カプロラクトン系TPU、ポリカーボネート系TPU等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、アジペートエステル系TPUは、凡用グレードのTPUであり、エーテル系TPUは、耐加水分解性および耐菌性に優れるグレードのTPUであり、カプロラクトン系TPUは、射出成形性に優れるグレードのTPUであり、ポリカーボネート系TPUは、加水分解性、耐菌性および耐熱性に優れるグレードのTPUである。
【0034】
TPUの軟化温度は、135~200℃程度であることが好ましく、155~190℃程度であることがより好ましい。かかる軟化温度を有するTPUを使用することにより、多層管状成形体1に、80℃~100℃の温度の流体を通過させた場合でも、外層3の変質および劣化を好適に防止または抑制することができる。
TPUの重量平均分子量は、40,000~200,000程度であることが好ましく、80,000~160,000程度であることがより好ましい。
【0035】
なお、TPUには、外層3の特性を損なわない範囲で、内層2で挙げたのと同様の各種の他のポリマーおよび添加剤を添加してもよい。
外層3におけるTPUの含有量は、75質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。この場合、内層2にTPUに基づく特性を十分に付与することができる。
【0036】
内層2と外層3との間には、接着性ポリオレフィンを主成分として含有する中間層4が設けられている。この中間層4は、内層2と外層3とを接着する機能を備えている。なお、中間層4の主たる機能は、接着機能であるが、中間層4は、その他、例えば、クッション機能、耐キンク機能、ガス透過抑制機能、UVカット機能、耐熱性向上機能等の他の機能を発揮してもよい。
接着性ポリオレフィンは、側鎖に芳香族環を有する第1ポリオレフィンおよび側鎖にエステル含有基を有する第2ポリオレフィンのうちの一方を含むことが好ましい。
【0037】
第1ポリオレフィンが有する芳香族環は、主鎖(脂肪族炭化水素鎖)の存在により電子の偏りが大きく、電子密度の低い部分(正に帯電する部分)が存在する。一方、TPUが有するウレタン結合は、分極により、負に帯電する部分を有している。このため、第1ポリオレフィンが有する芳香族環に、TPUが有するウレタン結合が強く引き寄せられ、ファンデルワールス力が働くことで安定する。すなわち、第1ポリオレフィンとTPUとが高度に相互作用することにより、外層3と中間層4とが接着すると考えられる。
【0038】
第2ポリオレフィンが有するエステル含有基は、互いに隣接するC=O結合およびC-O結合(または、C-O-C結合)を含む。C=O結合は、C-O結合より電子密度が高く、TPUが有するウレタン結合が強く引き寄せられ、ファンデルワールス力が働くことで安定する。すなわち、第2ポリオレフィンとTPUとが高度に相互作用することにより、外層3と中間層4とが接着すると考えられる。
【0039】
一方、第1ポリオレフィンおよび第2ポリオレフィンは、いずれも主鎖に飽和炭化水素構造(ポリオレフィン)を含むため、内層2のポリオレフィンとの親和性が高い。すなわち、第1ポリオレフィンまたは第2ポリオレフィンと内層2のポリオレフィンとが高度に相互作用することにより、内層2と中間層4とが接着すると考えられる。
【0040】
第1ポリオレフィンが有する芳香族環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピリジン環、フラン環等が挙げられる。中でも、内層2のポリオレフィンとの親和性の低下を抑制する観点からは、ベンゼン環が好ましい。
かかる第1ポリオレフィンとしては、例えば、スチレングラフトポリオレフィン、ポリスチレン等が挙げられる。
中でも、第1ポリオレフィンは、スチレングラフトポリオレフィンおよびポリスチレンを含むことが好ましい。かかる第1ポリオレフィンは、より高度にTPUと相互作用することができる。また、この場合、第1ポリオレフィンは、スチレングラフトポリオレフィンとポリスチレンとの混合物(ポリマーアロイ等)であってもよく、ポリスチレンのコアとスチレングラフトポリオレフィンのシェルとを有するコア/シェル構造物であってもよい。
【0041】
第2ポリオレフィンが有するエステル含有基としては、例えば、アルキルエステル基、アリールエステル基、マレイン酸無水物基、コハク酸無水物基、フタル酸無水物基等が挙げられる。
かかる第2ポリオレフィンは、例えば、無水マレイン酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。中でも、第2ポリオレフィンは、無水マレイン酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことが好ましい。かかる第2ポリオレフィンは、より高度に内層2のポリオレフィンと相互作用することができる。
エチレン-酢酸ビニル共重合体に対する無水マレイン酸の付加量またはグラフト量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、0.0001~15質量部程度であることが好ましく、0.001~10質量部程度であることがより好ましい。
【0042】
接着性ポリオレフィンの軟化温度は、120~185℃程度であることが好ましく、140~165℃程度であることがより好ましい。かかる軟化温度を有する接着性ポリオレフィンを使用することにより、多層管状成形体1に、80℃~100℃の温度の流体を通過させた場合でも、中間層4の変質を抑制して、内層2と外層3との剥離を防止することができる。
接着性ポリオレフィンの重量平均分子量は、40,000~200,000程度であることが好ましく、80,000~160,000程度であることがより好ましい。
【0043】
中間層4の粘・接着性を高める観点から、接着性ポリオレフィンには、各種タッキファイヤー(粘着向上剤)を添加してもよい。
タッキファイヤーとしては、例えば、ロジン系、ロジン誘導体系、テルペン樹脂系、テルペン誘導体系のような天然タッキファイヤー、石油樹脂系、スチレン樹脂系、クマロンインデン樹脂系、フェノール樹脂系、キシレン樹脂系のような合成タッキファイヤー等が挙げられる。
【0044】
また、接着性ポリオレフィンには、中間層4の特性を損なわない範囲で、内層2で挙げたのと同様の各種の他のポリマーおよび添加剤を添加してもよい。
中間層4における接着性ポリオレフィンの含有量は、75質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。この場合、中間層4に接着性ポリオレフィンに基づく特性を十分に付与することができる。
【0045】
本発明は、内層2の厚さ、外層3の厚さ、中間層4の厚さ、および、これらの関係を適切に設定した点に特徴を有する。以下、この点について説明する。
多層管状成形体1の厚さTT[mm]に対する、外層3の厚さT3[mm]と中間層4の厚さT4[mm]との合計の割合([T3+T4]/TT)は、0.7~0.92である。これにより、高い柔軟性を有し、かつ内面にシワが発生し難い多層管状成形体1を得ることができる。
柔軟性に劣る多層管状成形体では、強引に変形させて配管した際に、折れ、クラックが発生して、輸送ロスが生じる。また、内層と外層との剥離が生じて、中間層に流体が浸入することで、変色や雑菌繁殖に繋がる。一方、多層管状成形体1の内面(以下、単に「内面」とも記載する。)にシワが発生すると、内面が平滑ではなくなるため、流体の残液が滞留し易く、やはり雑菌繁殖に繋がる。
[T3+T4]/TTは、0.75~0.9程度であることが好ましく、0.8~0.88がより好ましい。これにより、上記効果をより向上させることができる。
【0046】
内層2の厚さT2[mm]に対する、中間層4の厚さT4の割合(T4/T2)は、特に限定されないが、0.1以上2未満であることが好ましく、0.3~1.7程度であることがより好ましく、0.5~1.5程度であることがさらに好ましい。これにより、内層2と外層3との剥離を防止しつつ、内面にシワが生じるのをより確実に防止することができる。
また、多層管状成形体1の厚さTTに対する内層2の厚さT2の割合(T2/TT)も、特に限定されないが、0.06~0.25程度であることが好ましく、0.08~0.23程度であることがより好ましく、0.1~0.2程度であることがさらに好ましい。これにより、内層2の厚さT2が大きくなるのを防止して、内面にシワが生じるのを防止し易い。
【0047】
内層2の厚さT2の具体的な値は、特に限定されないが、0.05~2.5mm程度であることが好ましく、0.1~2mm程度であることがより好ましい。これにより、多層管状成形体1の柔軟性が低下するのを防止しつつ、内層2にシワが生じ難くすることができる。
外層3の厚さT3の具体的な値も、特に限定されないが、0.5~2.5mm程度であることが好ましく、0.75~2mm程度であることがより好ましく、1~1.5mm程度であることがさらに好ましい。これにより、多層管状成形体1の柔軟性を十分に高めることができる。
また、中間層4の厚さT4の具体的な値も、特に限定されないが、0.01~1.5mm程度であることが好ましく、0.05~1mm程度であることがより好ましく、0.1~0.5mm程度であることがさらに好ましい。これにより、多層管状成形体1が必要以上に肉厚となることを防止しつつ、内層2および外層3への高い接着性を維持することができる。
【0048】
多層管状成形体1において、圧縮曲げ試験(スパン:200mm)における最大荷重は、19N以下であることが好ましく、17N以下であることがより好ましく、14.6N以下であることがさらに好ましい。かかる値を満足する多層管状成形体1は、高い柔軟性を有すると判断することができる。なお、最大荷重の下限値は、通常、13N程度である。
また、撓み量測定試験(温度:100℃)における撓み量は、40mm未満であることが好ましく、38mm未満であることがより好ましく、36mm未満であることがさらに好ましい。かかる値を満足する多層管状成形体1は、温度依存性が低く、内層2にシワが生じ難いと判断することができる。なお、撓み量の下限値は、通常、30mm程度である。
【0049】
このような多層管状成形体1は、内層2、中間層4および外層3の共押出成形による一体化物であることが好ましい。かかる多層管状成形体1は、内層2および外層3と中間層4との接着性がより向上し易い。
また、上記範囲の軟化温度を有するポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタンおよび接着性ポリオレフィンを使用することにより、軟化温度が互いに近似するため、安定かつ連続した共押出成形が可能となる。
以上のような多層管状成形体1は、十分な柔軟性を備え、内面にシワが発生し難く、かつ耐薬品性および耐熱性も優れる。このため、多層管状成形体1は、例えば、食品加工、化粧品製造、化学品製造等の分野で好適に使用される。
【0050】
本発明の多層管状成形体は、例えば、チューブ、ホース等として使用することができる。
また、本発明の多層管状成形体は、必要に応じて、補強線材等からなる補強層や最外層を設けることにより、耐圧ホースとすることもできる。
かかる耐圧ホースの一例を
図3に示す。
図3は、耐圧ホースの構成を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
図3に示す耐圧ホース10は、内層2、外層3および中間層4を備え、さらに外層3の外側に補強層5および最外層6を順に備える構造を有している。
【0051】
補強層5を構成する補強線材としては、例えば、ポリエステル、ナイロン(登録商標)またはアラミド繊維等からなる複数本または単数本のブレード、細いモノフィラメント(monofilament:単繊維)を編んだマルチフィラメント、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等からなるモノフィラメント、テープ状の糸からなるフラットヤーン(またはテープヤーン)、ステンレス等からなる金属線またはステンレスに類する硬質材料からなるコイル等が挙げられる。
【0052】
このような補強線材は、外層3に沿って螺旋状に巻き付けられることで網状に形成するか、または外層3に沿ってニット編みされることで中空円筒形の網状に編み込むことが好ましい。これにより、耐圧ホース10の耐圧性能、保形性能等の物性を向上させることができる。
また、最外層6の構成材料としては、外層3との密着性が良好な樹脂材料が好ましく使用される。
【0053】
以上、本発明の多層管状成形体について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではない。
本発明の多層管状成形体は、上述した実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各層形成用材料の準備
1-1.内層形成用材料
シンジオタクティックポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、「WELNEX RMG02」)を100質量%で含有する内層形成用材料を準備した。なお、ポリプロピレンの軟化温度は115℃であった。
【0055】
1-2.外層形成用材料
<外層形成用材料1>
熱可塑性ポリウレタン(大日精化工業株式会社製、「レザミン PH890」)を100質量%で含有する外層形成用材料を準備した。なお、熱可塑性ポリウレタンの重量平均分子量は500~3,000であり、軟化温度は183℃であった。
<外層形成用材料2>
高強度ウレタンゴム(Bayer AG社製、「ブルコラン」)を100質量%で含有する外層形成用材料を準備した。
【0056】
1-3.中間層形成用材料
<中間層形成用材料1>
接着性ポリオレフィン(三菱ケミカル株式会社製、「モディックGK110」)を100質量%で含有する中間層形成用材料を準備した。なお、接着性ポリオレフィンの重量平均分子量は5,000~110,000であり、軟化温度は155℃以下であった。
<中間層形成用材料2>
接着性ポリオレフィン(三井化学株式会社製、「アドマーNF528」)を100質量%で含有する中間層形成用材料を準備した。なお、接着性ポリオレフィンの重量平均分子量は50,000~110,000であり、軟化温度は155℃以下であった。
【0057】
2.多層管状成形体の製造
(実施例1)
内層形成用材料、中間層形成用材料1および外層形成用材料1を溶融させ、三層押し出し機を用いて共押出して、3層構成の多層管状成形体を製造した。
なお、内層の厚さを0.2mm、中間層の厚さを0.1mm、外層の厚さを1.3mm、内径を15mm、外径を18.2mmとした。
(実施例2)
内層の厚さを0.3mm、中間層の厚さを0.3mm、外層の厚さを1.0mmに変更した以外は、実施例1と同様にして、多層管状成形体を製造した。
【0058】
(実施例3)
内層の厚さを0.3mm、中間層の厚さを0.1mm、外層の厚さを1.2mmに変更した以外は、実施例1と同様にして、多層管状成形体を製造した。
(実施例4)
中間層形成用材料1に代えて、中間層形成用材料2を使用した以外は、実施例1と同様にして、多層管状成形体を製造した。
【0059】
(比較例1)
内層の厚さを0.1mm、中間層の厚さを0.1mm、外層の厚さを1.4mmに変更した以外は、実施例1と同様にして、多層管状成形体を製造した。
(比較例2)
内層の厚さを0.1mm、中間層の厚さを0.3mm、外層の厚さを1.2mmに変更した以外は、実施例1と同様にして、多層管状成形体を製造した。
【0060】
(比較例3)
内層の厚さを0.1mm、中間層の厚さを0.2mm、外層の厚さを1.3mmに変更した以外は、実施例1と同様にして、多層管状成形体を製造した。
(比較例4)
外層形成用材料1に代えて、外層形成用材料2を使用した以外は、実施例1と同様にして、多層管状成形体を製造した。
【0061】
3.評価
3-1.柔軟性
各実施例および各比較例で得られた多層管状成形体に対して、圧縮曲げ試験(スパン:200mm)における最大荷重を測定した。
なお、圧縮曲げ試験は、
図4に示すようにして行った。
具体的には、各実施例および各比較例で得られた多層管状成形体を、一対の圧縮板に挟持して、圧縮速度200mm/minでU字状に湾曲させ、スパン200mmに到達したときの最大荷重を測定した。なお、多層管状成形体の全長を400mmとした。
【0062】
測定された最大荷重から、柔軟性について、以下の評価基準に従って評価した。
◎:最大荷重が14.6N以下である。
〇:最大荷重が14.6N超、19.0N以下である。
×:最大荷重が19.0N超である。
すなわち、最大荷重(N)が小さい程、多層管状成形体が柔軟性に優れると判断することができる。
【0063】
3-2.熱によるシワの生じ易さ
各実施例および各比較例で得られた多層管状成形体に対して、撓み量測定試験(温度:100℃)における撓み量を測定した。
なお、撓み量測定試験は、
図5に示すようにして行った。
具体的には、各実施例および各比較例で得られた多層管状成形体を用意し、100℃で30分保持した。その後、長さ200mmの金属棒を、30mmの部分が多層管状成形体から突出するように挿入した状態で固定した。なお、多層管状成形体の全長を400mmとした。
そして、
図5に示すように、空中に200mmの部分を突出させた状態で、金属棒の30mmの突出部分を固定台に固定した。その後、空中に突出させた部分の端に、荷重(100g)を1分間加えたときの撓み量(δ)を測定した。
【0064】
測定された撓み量から、熱によるシワの生じ易さについて、以下の評価基準に従って評価した。
[評価基準]
◎:撓み量が36mm未満である。
〇:撓み量が36mm以上、40mm未満である。
×:撓み量が40mm以上である。
すなわち、撓み量(mm)が大きいほど、温度依存が高く、多層管状成形体の内面にシワが生じ易いと判断することができる。
【0065】
【0066】
表1に示すように、各実施例で得られた多層管状成形体は、高い柔軟性を有し、かつ内面にシワが発生し難いことが確認された。
これに対して、各比較例で得られた多層管状成形体は、柔軟性に劣るか、内面にシワが発生し易いことが確認された。
【符号の説明】
【0067】
1 多層管状成形体
10 耐圧ホース
2 内層
3 外層
4 中間層
5 補強層
6 最外層