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特許7365073トレプロスチニルナトリウムの新規な結晶形および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】トレプロスチニルナトリウムの新規な結晶形および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 59/13 20060101AFI20231012BHJP
   C07C 51/43 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C07C59/13 CSP
C07C51/43
A61K31/192
A61P7/02
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/10
A61P9/12
A61P11/00
A61P11/06
A61P27/02
A61P43/00 112
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021569935
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 CN2020091218
(87)【国際公開番号】W WO2020233588
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】201910425686.1
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910899910.0
(32)【優先日】2019-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521511173
【氏名又は名称】ジァンスー フォアフロント ファーマシューティカル カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU FOREFRONT PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 888, Zhujiang Road, Juegang Street, Rudong County (life And Health Industrial Park, Rudong High-tech Zone), Nantong, Jiangsu 226000, China
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】リ,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】レン,イ
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109734580(CN,A)
【文献】特表2017-535538(JP,A)
【文献】国際公開第2018/197653(WO,A1)
【文献】特表2014-518226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物であって、粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルにおいて、以下の2θ角の位置に特徴ピークがあるもの:
4.3゜±0.2゜、8.7゜±0.2゜および17.6゜±0.2゜。
【請求項2】
粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルにおいて、さらに、以下の2θ角の位置に特徴ピークがある請求項1に記載のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物:
13.1゜±0.2゜、19.7゜±0.2゜および24.3゜±0.2゜。
【請求項3】
粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルは図1に示された通りである請求項1に記載のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物。
【請求項4】
請求項1に記載のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(1) トレプロスチニルを水酸化ナトリウム水溶液に溶解させる;
(2) アセトニトリルをトレプロスチニルの水酸化ナトリウム溶液に入れて結晶させ、固体を得
(3)ろ過によって前記固体をとり、および25±2℃および相対湿度60±5%で乾燥し、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物を得る。
【請求項5】
薬物組成物を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
1)請求項1に記載のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物を活性成分のトレプロスチニルの原料の固体形態として使用する;
2)請求項1に記載のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物を薬学的に許容される担体と混合することで、薬物組成物を製造する。
【請求項6】
請求項1に記載のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物と、薬学的に許容される担体とを含むことを特徴とする薬物組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の使用であって、単独で、あるいはほかの薬物と併用して肺動脈性肺高血圧症、肺高血圧、肺線維化、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、喘息、虚血性疾患、心不全、動脈硬化、術後抗凝血、網膜中心静脈閉塞症、血栓性微小血管症、末梢性血管疾患、または心肺移植の疾患を治療する薬物の製造に用いられることを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物製造の分野に関し、具体的に、トレプロスチニルナトリウムの新規な結晶形および製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
トレプロスチニルは、肺動脈性肺高血圧症の治療薬であり、プロスタサイクリン誘導体で、血小板集合を抑制したり、血管を拡張させたりする活性を有する。その市販を許可された剤形は、注射剤、吸入剤および経口投与錠剤があり、中では、注射剤および吸入剤の原薬はトレプロスチニルナトリウムである。
既存の技術では、トレプロスチニルナトリウムの結晶形および製造に関する報告が少なく、中では、米国特許第9550716号およびWO2016/055819では、それぞれ、トレプロスチニルナトリウムの有機溶媒と水混合溶媒系における製造が記載されている。発明者らは、2つの文献で報告された方法に従ってそれぞれトレプロスチニルナトリウムを製造したところ、結晶の効果が劣る、濾過過程において吸湿して粘稠状の物質になる、固形安定性が欠けるといった問題が存在し、原薬および製剤の商業的生産における品質の安定性に対する要求を満たせないことを見出した(実施例3および実施例4)。
【0003】
通常、原薬として、保存、輸送の要求を満たせるするように、優れた安定性、吸湿性および結晶性を有すること、そして後の製剤の製品の品質が制御可能であるように、品質が安定することが必要である。
そのため、重要な肺動脈性肺高血圧症の治療薬として、品質が制御可能で、安定性が原薬の要求を満たせるトレプロスチニルナトリウムの結晶形および安定して相応する結晶形を製造する方法が切望されている。それで、より治療のニーズに応え、高品質のトレプロスチニル製品を提供することができる。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、トレプロスチニルナトリウム(構造式は式1を参照する)の新規な結晶形およびその製造方法を開示する。具体的に、本発明は、トレプロスチニルナトリウムの5.5水和物およびその部分脱水結晶形およびそれらの製造方法を開示するが、前記の新規な結晶形は、優れた安定性および吸湿性を有し、トレプロスチニルの原薬として保存、輸送の要求を満たし、そして後の製剤の製品の品質が制御可能であるように、品質が安定する。
【化1】
本発明の第一の側面では、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物であって、粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルにおいて、以下の2θ角の位置に特徴ピークがあるものを提供する:
4.3゜±0.2゜、8.7゜±0.2゜および17.6゜±0.2゜。
【0005】
本発明の第一の側面の一つの実施形態では、前記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルにおいて、さらに、以下の2θ角の位置に特徴ピークがある:
13.1゜±0.2゜、19.7゜±0.2゜および24.3゜±0.2゜。
本発明の第一の側面のもう一つの実施形態では、前記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルでは、表1に挙げられた2θ角の位置に特徴ピークがある。
本発明の第一の側面のにサンプル一つの実施形態では、前記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルは図1に示された通りである。
本発明の第二の側面では、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物であって、表2で示された格子定数を有するものを提供する。
【0006】
本発明の第三の側面では、上記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法を提供する:
(1) トレプロスチニルを水酸化ナトリウム水溶液に溶解させる;
(2) アセトニトリルをトレプロスチニルの水酸化ナトリウム溶液に入れて結晶させる。
上記工程(1)および(2)では、温度、時間、撹拌などには、特別な制限がなく、当業者は実際の要求に応じ、適切な条件を選択することができる。
本発明の第三の側面の一つの実施形態では、トレプロスチニルと水酸化ナトリウム水溶液の重量(g):体積(ml)の比率は1:1~1:5で、たとえば1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5または1:5である。
本発明の第三の側面の一つの実施形態では、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は5wt%~15wt%で、たとえば5wt%、6wt%、7wt%、8wt%、9wt%、10wt%、11wt%、12wt%、13wt%、14wt%または15wt%である。
本発明の第三の側面の一つの実施形態では、水酸化ナトリウム水溶液とアセトニトリルの体積(ml):体積(ml)の比率は1:15~1:55である。
本発明の第三の側面の一つの実施形態では、結晶温度は0℃~30℃で、たとえば0℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃または30℃である。
【0007】
本発明の第四の側面では、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形Iであって、粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルにおいて、以下の2θ角の位置に特徴ピークがあるものを提供する:
4.8゜±0.2゜、9.6゜±0.2゜および19.3゜±0.2゜。
本発明の第四の側面の一つの実施形態では、前記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形Iの粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルにおいて、さらに、以下の2θ角の位置に特徴ピークがある:
20.9゜±0.2゜、22.1゜±0.2゜および23.5゜±0.2゜。
本発明の第四の側面のもう一つの実施形態では、前記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形Iの粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルでは、表7に挙げられた2θ角の位置に特徴ピークがある。
本発明の第四の側面のもう一つの実施形態では、前記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形Iの粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルは図5に示された通りである。
【0008】
本発明の第五の側面では、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIであって、粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルにおいて、以下の2θ角の位置に特徴ピークがあるものを提供する:
5.3゜±0.2゜、10.6゜±0.2゜および16.0゜±0.2゜。
本発明の第五の側面の一つの実施形態では、前記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIの粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルにおいて、さらに、以下の2θ角の位置に特徴ピークがある:
20.1゜±0.2゜、21.4゜±0.2゜および26.8゜±0.2゜。
本発明の第五の側面のもう一つの実施形態では、前記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIの粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルでは、表8に挙げられた2θ角の位置に特徴ピークがある。
本発明の第五の側面のもう一つの実施形態では、前記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIの粉末X線回折(Cu-Kα、1.54178 Å)スペクトルは図6に示された通りである。
【0009】
本発明の第六の側面では、薬物組成物を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法を提供する:
(1)上記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形Iおよび/またはトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIを活性成分のトレプロスチニルの原料の固体形態として使用する;
(2)前記のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形Iおよび/またはトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIを薬学的に許容される担体と混合することで、薬物組成物を製造する。
本発明の第七の側面では、上記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形Iおよび/またはトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIと、薬学的に許容される担体とを含むことを特徴とする薬物組成物を提供する。
【0010】
本発明の第八の側面では、上記トレプロスチニルナトリウム5.5水和物、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形I、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIおよび/または薬物組成物の使用であって、単独で、あるいはほかの薬物と併用して肺動脈性肺高血圧症、肺高血圧、肺線維化、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、喘息、虚血性疾患、心不全、動脈硬化、術後抗凝血、網膜中心静脈閉塞症、血栓性微小血管症、末梢性血管疾患、心肺移植などの疾患を治療する薬物の製造に用いられることを特徴とする使用を提供する。
既存技術と比べ、本発明の主な利点は以下のものを含む。
(1)本発明で開示されるトレプロスチニルナトリウムの5.5水和物は、優れた安定性および吸湿性を有し、原薬が保存、輸送の要求を満たし、そして品質が安定するようにさせる。
(2)本発明で開示されるトレプロスチニルナトリウムの5.5水和物は、優れた不純物除去効果を有し、高品質のトレプロスチニルナトリウムの原薬の製造に有利である。
(3)本発明で開示されるトレプロスチニルナトリウムの5.5水和物は、製造プロセスが安定し、高品質のトレプロスチニルナトリウムの原薬および製剤の製造に有利である。
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好ましい技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物のXRPDスペクトルである。
図2図2は、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の単結晶の分析結果である。
図3図3は、WO2016055819で提供される一水和物(Form A)および多水和物(Form C)のXRPDスペクトルの比較である。
図4図4は、連続した3ロットのレプロスチニルナトリウム5.5水和物のXRPDスペクトルの比較である。
図5図5は、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IのXRPDスペクトルである。
図6図6は、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIのXRPDスペクトルである。
【0012】
具体的な実施形態
本発明者は、長期間にわたって深く研究したところ、意外に、トレプロスチニルナトリウムは5.5水和物になることが可能で、当該5.5水和物は結晶性が良く、優れた安定性および吸湿性を有し、同時に良い精製効果を示し、そしてその部分的に脱水してなる結晶形Iおよび結晶形IIも良い結晶性を有することを見出した。上記の知見に基づき、発明者らは本発明を完成させた。
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例において、具体的な条件が記載されていない実験方法は、通常、通常の条件、あるいはメーカーの薦めの条件で行われた。
【0013】
用語
XRPD 粉末X線回折
DVS 動的水分吸着
Rel. Int. 相対強度
wt% 重量百分率
【0014】
実施例1
トレプロスチニルの遊離酸の製造
文献J. Org. Chem. 2004,69,1890-1902で報告されたトレプロスチニルの遊離酸の製造方法を参照し、(1R,2R,3aS,9aS)-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-1-[(3S)-3-ヒドロキシオクチル]-1H-ベンゾ[f]インデン-2,5-ジオールを出発原料とし、トレプロスチニルの遊離酸を34.5 g得たが、HPLC純度が98.9%であった。
【0015】
実施例2
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の製造
1 gのトレプロスチニルの粗製品を50 mlナシフラスコに量り取り、1.5 mlの7wt%水酸化ナトリウム水溶液を入れ、清澄になるまで撹拌した。
撹拌の条件下において、ゆっくり28.5 mLのアセトニトリルを滴下し、懸濁液とした。この懸濁液25℃を一晩撹拌した。
ろ過によって固体を取り、25±2℃および相対湿度60±5%の条件下において1日乾燥し、1.2 gの白色固体を得たが、収率が~90%であった。固体について高速液相クロマトグラフィーによって純度を測定し、XRPDによって固体の形態の特徴づけを行い、カールフィッシャー法によって含水量を測定した。具体的な測定方法は以下の通りである。
高速液相クロマトグラフィー:クロマトグラフィーカラム:Agilent Proshell C18、カラム温度:30゜C、流速:0.5mL/min、検出波長:210nm。
XRPD:Cuターゲット、Kα波長、管電圧40 kV、管電流40 mA。走査範囲:3~40゜ 2θ、ステップ幅:0.02゜、走査速度:1ステップ/秒。
カールフィッシャー法:容量法水分滴定装置。
液相クロマトグラフィーの分析結果から、トレプロスチニルの粗製品は塩を形成して結晶させてトレプロスチニルナトリウム5.5水和物になると、その純度が元の98.9%から99.9%に向上したことがわかる。明らかな不純物除去効果がある。
カールフィッシャー滴定の結果から、乾燥後の含水量が20.9wt%であったことがわかる。
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物ののXRPDスペクトルは図1に示された通りである。主要な回折ピークおよび相対強度は表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の単結晶回折スペクトルは図2に示された通りである。単結晶回折の結果から、結晶水の数は5.5個であることがわかる。格子定数は表2に示す。
【0018】
【表2】
【0019】
水酸化ナトリウム濃度、アセトニトリル体積および温度を含む、異なる結晶化プロセスのパラメーターをスクリーニングし、その操作工程は上記の通りで、表3に示すように、結果から、異なる結晶化プロセスのパラメーターのいずれでも同様の結晶形のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物が得られたことがわかる。
【0020】
【表3】
【0021】
実施例3
US9550716に記載のトレプロスチニルナトリウム
US9550716に記載された方法に従ってトレプロスチニルナトリウムを製造したが、その過程は以下の通りである。
1.5 gのトレプロスチニルの粗製品を37 mlのアセトンに溶解させ、30℃に加熱し、ゆっくり5M NaOHを0.9 ml滴下し、30℃撹拌15分間維持した。反応系を室温で1時間撹拌すると、白色の結晶が析出した。そして反応系を氷水浴において続いて1時間撹拌した。固体をろ過してアセトンで洗浄すると、洗浄・ろ過の過程において固体がすぐに粘稠になったのが見られ、得られた固体を室温で乾燥した後、0.8 gの固体を得たが、収率が~52%であった。
当該固体を25度、相対湿度80%の条件下において24時間置くと、固体が潮解して粘稠な溶液になったのが見られ、その吸湿性が非常に強く、薬物の製品の品質安定性に対する要求を満たせないことが証明された。
【0022】
実施例4
WO2016055819に記載のトレプロスチニルナトリウム
WO2016055819に記載された方法に従ってトレプロスチニルナトリウムを製造したが、当該特許に記載された結晶形が得られなかった。具体的な過程は以下の通りである。
【0023】
Form A
0.25 gのトレプロスチニルの粗製品を3.3 mlのエタノールに溶解させ、87 mgの炭酸ナトリウム一水和物を入れ、N2の保護下において室温で16時間撹拌し、測定溶液のpH値は6で、WO2016055819に記載のpH7~9の要求に達せず、それは炭酸ナトリウムのエタノールにおける溶解度が低いからである。溶解しなかった炭酸ナトリウムをろ過で除去した後、エタノール溶液をロータリーエバポレーターで回転乾燥し、油状物を得た後、メチル-t-ブチルエーテルの飽和水溶液を2 ml入れ、一晩撹拌し、白色の粘稠な半固体を得たが、偏光顕微鏡によって無定形であったことが確認された。
【0024】
Form B
0.25 gのトレプロスチニルの粗製品を3.3 mlのエタノールに溶解させ、87 mgの炭酸ナトリウム一水和物を入れ、N2の保護下において室温で16時間撹拌し、測定溶液のpH値は6で、WO2016055819に記載のpH7~9の要求に達せず、それは炭酸ナトリウムのエタノールにおける溶解度が低いからである。溶解しなかった炭酸ナトリウムをろ過で除去した後、エタノール溶液をロータリーエバポレーターで回転乾燥し、油状物を得た後、メチル-t-ブチルエーテルを2 ml入れ、一晩撹拌し、白色の粘稠な半固体を得たが、偏光顕微鏡によって無定形であったことが確認された。
WO2016055819の記載によると、Form AおよびForm Bは相対湿度60%でいずれもForm Cに転換するとされていることから、この2つの結晶形の固形安定性はいずれもトレプロスチニルナトリウムの原薬/製剤の商業的生産の要求を満たせないことになる。
【0025】
多水和物Form C
WO2016055819の記載によると、Form CはForm Aおよび/またはForm Bからの転換だけでられるとされており、そして直接結晶化で得られるという記載がなく、また、WO2016055819で提供された一水和物(Form A)および多水和物(Form C)のXRPDスペクトル(図4)を比較すると、Form Cは単一の結晶形ではなく、Form A(*で標識された回折ピーク)とほかの結晶形(で標識された回折ピーク)の混合物であることがわかる。混合結晶形として、混合の比率を異なるロットの間で維持することが困難であるため、多水和物Form Cはトレプロスチニルナトリウムの原薬/製剤の商業的生産の結晶形安定性に対する要求を満たせない。
【0026】
実施例5
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の吸湿性
吸湿性は、薬物の重要な物理・化学的性質の一つで、薬物安定性、粉体学的性質および後続の加工プロセスに顕著に影響する。トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の吸湿性について、動的水分吸着(DVS)によって評価した結果を表4に示す。
【0027】
【表4】
【0028】
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物は、相対湿度が40%から80%に上がると、その含水量の増加値、すなわち、吸湿量が1.1 wt%で、欧州薬局方の吸湿性に対する定義では、その吸湿性が少し吸湿するものであることから、トレプロスチニルナトリウムは5.5水和物になると、通常の湿度の範囲内において低レベルの吸湿を維持し、そしてトレプロスチニルナトリウムの原薬の品質が安定するようにさせることが示された。
【0029】
実施例6
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物を時計皿に置き、厚さが1 mm以下の薄層とし、温度が40±2℃で相対湿度が75±5%の安定性試験ボックスの中に置き、6か月続けた。
HPLCによって安定性試験後のサンプルの純度を、カールフィッシャー滴定法によって水分含有量を、XRPDによって結晶形をチェックした。結果は表5に示す。トレプロスチニルナトリウム5.5水和物は優れた化学的安定性および固形安定性を示し、原薬の安定性に対する要求を完全に満たせる。
【0030】
【表5】
【0031】
実施例7
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の結晶化プロセス安定性
本発明の実施例2のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の結晶化プロセスを使用して連続して3ロットのトレプロスチニルナトリウム5.5水和物を製造し、結果は表6および図4に示すように、3ロットの結果から、当該結晶化プロセスは再現性が良く、製品の品質が安定し、完全に商業的生産の需要を満たすことがわかる。
【0032】
【表6】
【0033】
実施例8
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形I
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物を密閉容器中に置き、その環境の相対湿度が30%になるように制御し、重量が完全に一定になった後、XRPDによって固体形態の特徴づけを行った。
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IののXRPDスペクトルは図5に示された通りである。主要な回折ピークおよび相対強度は表7に示す。
【0034】
【表7】
【0035】
実施例9
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形II
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物を密閉容器中に置き、その環境の相対湿度が10%になるように制御し、重量が一定になった後、XRPDによって固体形態の特徴づけを行った。
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIののXRPDスペクトルは図6に示された通りである。主要な回折ピークおよび相対強度は表8に示す。XRPDスペクトルから、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIに少量のトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形Iが混ざっていることがわかる。
【0036】
【表8】
【0037】
実施例10
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形I、トレトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIおよびトレプロスチニルの遊離酸の水溶性の比較
20 mgのトレプロスチニルの遊離酸をメスフラスコに量り取り、200 mLの水を入れ、水浴鍋(温度を25±2゜Cに制御した)に置き、5分間ごとに、強く30秒振とうし、30分間内の溶解状況を観察した。結果から、トレプロスチニルの遊離酸は溶解せず、水溶解度が0.1 mg/mL未満であったことがわかる。
約100 mgのトレプロスチニルナトリウム5.5水和物、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形I、トレトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIをそれぞれメスフラスコに量り取り、1 mLの水を入れ、水浴鍋(温度を25±2℃に制御した)に置き、5分間ごとに、強く30秒振とうし、30分間内の溶解状況を観察した。結果から、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物、トレプロスチニ5.5水和物の部分脱水結晶形I、トレトレプロスチニルナトリウム5.5水和物の部分脱水結晶形IIはいずれも完全に溶解し、溶解度が100 mg/mL超であったことがわかる。
【0038】
トレプロスチニルナトリウム5.5水和物およびその部分脱水結晶形Iと部分脱水結晶形IIの水溶解度は遥かにトレプロスチニルの遊離酸よりも良い。溶解度は薬物の体内における放出を制限する要因で、溶解度不足によって薬物が完全に放出できずにその生物利用能に影響することがある。そのため、トレプロスチニルナトリウム5.5水和物およびその部分脱水結晶形Iと部分脱水結晶形IIはより良い実際の応用効果がある。
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6