(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ケーシングパイプ回収補助装置及び回収方法
(51)【国際特許分類】
E21B 19/18 20060101AFI20231012BHJP
E21B 17/05 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
E21B19/18
E21B17/05
(21)【出願番号】P 2020072193
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三上 登
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214507(JP,A)
【文献】特開平07-018657(JP,A)
【文献】特開平03-096594(JP,A)
【文献】特開2019-011670(JP,A)
【文献】特開2003-194019(JP,A)
【文献】特開平10-205264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 19/18
E21B 17/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングパイプ
(C1、C2、・・・)の端部のネジ部
(C1Nf、C2Nf、・・・)に螺合可能なネジ部
(1Nm)を有する接続部材
(1)と、
接続部材
(1)に回転を伝達する回転駆動装置
(2)を備え、
回転駆動装置
(2)及び接続部材
(1)には、膨張収縮装置
(3)及び膨張収縮装置
(3)に接続されたロッド
(4)が取り付けられており、
前記膨張収縮装置
(3)は、収縮した状態では
回収するべきケーシングパイプ
(C1)の内部空間
(C1S)に挿入可能であり、膨張した状態では
回収するべきケーシングパイプ
(C1)の内壁面に密着
して回転駆動装置(2)による回転力動力を回収するべきケーシングパイプ(C1)に伝達して当該ケーシングパイプ(C1)を回転する機能を有することを特徴とするケーシングパイプ回収補助装置
(10)。
【請求項2】
膨張収縮装置
(3)はパッカーであり、パッカー
(3)を膨張、収縮させるパッカー用流体が流下するパッカー用流体流路
(5)が設けられている請求項1のケーシングパイプ回収補助装置。
【請求項3】
ロッド
(4)の中心軸近傍にはパッカー用流体流路
(5)が形成されており、パッカー用流体流路
(5)の一端はパッカー
(3)に連通しており、他端は接続部材
(1)及び回転駆動装置
(2)内の経路
(6)を介してパッカー用流体供給源に連通している請求項2のケーシングパイプ回収補助装置。
【請求項4】
請求項1のケーシングパイプ回収補助装置
(10)を用いた方法において、
回転駆動装置
(2)及び接続部材
(1)にロッド
(4)を介して取り付けられた膨張収縮装置
(3)を収縮した状態で回収するべきケーシング
(C1)内に配置する工程
(A-1)と、
膨張収縮装置
(3)を膨張して回収するべきケーシングパイプ
(C1)の内壁面に密着させ
、回転駆動装置(2)による回転力動力を回収するべきケーシングパイプ(C1)に伝達して当該ケーシングパイプ(C1)を回転する工程
(A-5)を有することを特徴とするケーシングパイプの回収方法。
【請求項5】
膨張収縮装置
(3)はパッカーであり、パッカー用流体流路
(5)を介してパッカー用流体をパッカー
(3)に供給してパッカー
(3)を膨張させる工程
(A-5)を有する請求項4のケーシングパイプの回収方法。
【請求項6】
膨張収縮装置
(3)はパッカーであり、パッカー用流体流路を介してパッカー用流体をパッカー
(3)から排出しパッカー
(3)を収縮させる工程
(A-1)を有する請求項4、5の何れかのケーシングパイプの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良工事、法面補強工事で用いられるボーリングマシンを用いるボーリング作業で使用されるケーシングパイプ(本明細書では「ケーシング」と記載する場合がある)を回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーシングを用いたボーリング作業において、地中に挿入されたケーシングを回収(抜管)するに際して、従来は、
図10~
図12で示すような手順でケーシングを地中から引き抜き、地上側で地中に存在するケーシングとの接続(螺号)を解除して(所謂「切り継ぎ」を行い)、回収していた。
図10~
図12において、左側は地中側であり、右側は地上側である。ボーリング作業或いはケーシング引き抜きの方向は、垂直方向の場合或いは垂直方向に対して傾斜している場合がある。
図10において、符号「B-1」で示す工程では、最も地上側(上方)のケーシングC1をフロントデバイス7で保持し、接合箇所βにおいて、スウィベル2(回転駆動装置)のマスターカップリング1(接続部材)のネジ部1Nm(雄ネジ:工程B-2参照)はケーシングC1の上方端部の雌ネジ部C1Nf(
図1参照)と螺合している。係る状態で、スウィベル2のマスターカップリング1を、接合箇所βにおける螺合が解除される方向(ネジが切られる方向:矢印X方向)に回転する。
工程B-1におけるマスターカップリング1の回転により、接合箇所βは僅かに切られた(螺合解除された)状態、すなわち完全に螺合した状態から僅かに緩められた(僅かにネジ切りされた)状態になる(工程B-2)。
【0003】
工程B-2では、接合箇所βが僅かにネジ切りされた状態で、ケーシングC1、C2(ケーシングC1の地中側に隣接するケーシング)・・・をスウィベル2と共に上方(地上側)に引き抜く(工程B-2の矢印Y)。引き抜きの際に、フロントデバイス7はケーシングC1から離隔している。
工程B-2の矢印Yで示す引き抜きは、図示しないボーリングマシンでスウィベル2を上方に移動することにより行われる。その際に、接合箇所βは僅か緩められた状態であり、マスターカップリング1とケーシングC1は殆ど螺合(接続)された状態なので、スウィベル2を上方に移動する力は接合箇所βを介してケーシングC1、C2・・・に伝達され、ケーシングC1、C2・・・を地上側に引き抜くことが出来る。
添付図面において、ケーシングC1、C2のみが示されているが、その下方(地中側)には図示しない複数のケーシングが接続されている。
工程B-2の矢印Yで示す引き抜きが実行された状態が、
図10の工程B-3で示されている。
【0004】
工程B-3では、引き上げられて地上側に露出したケーシングC2をフロントデバイス7で保持し、地上側に引き上げられたケーシングC1をブレーカー8で挟み込み、ブレーカー8でケーシングC1を回転して(矢印X)、ケーシングC1、C2間の接合箇所αのネジ切り(螺合解除)を行う。
ブレーカー8による矢印X方向の回転で接合箇所αは僅かに螺合解除(ネジ切り)された状態となるが、ケーシングC1の矢印X方向の回転は接合箇所βにおける螺合する方向の回転(ネジ切りと反対方向の回転)となる。そのため、スウィベル2のマスターカップリング1を接合箇所βの螺合が解除される方向(ネジが切られる方向:工程B-1の矢印X方向)に回転し、接合箇所βを殆ど螺合解除された状態(1~2山のネジ山のみで螺合している状態)にする。その状態が
図11の工程B-4に示されている。
工程B-4において、接合箇所αにはケーシングC1のネジ部C1Nm(雄ネジ)が示されており、雄ネジC1NmはケーシングC2の図示しないネジ部(雌ネジ)と(僅かにネジ切りされた状態で)螺合している。
【0005】
図11に示す工程B-4の状態から、従来技術では、「押し切り」と呼ばれる手法により(工程「B-5」で示す)、ケーシングC1、C2間の接合箇所αのネジ切りを行っていた。
図11の工程B-5(従来、「押し切り」と呼ばれていた手法)では、スウィベル2を地中側(下側)に押圧し(矢印Z)、マスターカップリング1をネジ切り方向(螺合解除方向:矢印X方向)に回転する。スウィベル2が地中側に押圧されているので、マスターカップリング1をネジ切り方向に回転してもマスターカップリング1とケーシングC1は相対的に回転せず、接合箇所βにはスウィベル2による押圧力のみが付加される。そのため、マスターカップリング1とケーシングC1は一体的に回転し、ネジ切り方向の回転はケーシングC1、C2間の接合箇所αのみに伝達される。
その結果、工程「B-6」で示す様に、ケーシングC1とケーシングC2とは分離し、ケーシングC1、C2のネジ切りが完了する。接続箇所αがネジ切りされる結果、ケーシングC1は接合箇所βを介してスウィベル2のみと接続した状態になる。その後、工程「B-6」において、ケーシングC1と共にスウィベル2を地上側に引き上げる(矢印Y)。
【0006】
そして
図12で示す工程「B-7」において、接合箇所βを介してスウィベル2のみと接続したケーシングC1を作業者の手作業により保持し、その状態でマスターカップリング1をネジ切り方向(螺合解除方向:矢印X方向)に回転して、ケーシングC1とマスターカップリング1のネジ切りを行う。
図示はされていないが、マスターカップリング1に対してネジ切り(螺合解除)されたケーシングC1は、作業者に保持されてボーリングマシンから移動する。そして、所定の回収箇所に運搬される。
ケーシングC1がボーリングマシン(スウィベル2)から外れたならば、マスターカップリング1を下降して雄ネジ部1NmをケーシングC2の上端の雌ネジと螺合して、
図10の工程「P-1」の状態にする。
以後、工程B-1~B-7を繰り返して、地中側のケーシングを順次回収する。
【0007】
ここで、
図11の工程B-5で示す「押し切り」と呼ばれる手法は、難度の高い手法である。
通常、マスターカップリング1をネジ切り方向に回転する場合は、ケーシングCを引き抜く方向の力を作用させて行われる。それに対して、工程B-5における「押し切り」では、スウィベル1を地中側(下側)に押圧しつつ、マスターカップリング1をネジ切り方向(螺合解除方向)に回転しなければならない。しかも、接合箇所βが殆ど螺合解除された状態(1~2山のネジ山のみで螺合している状態)でケーシングC1をケーシングC2側(地中側)に押圧して回転する必要がある。係る理由のため、「押し切り」はスウィベル2及びマスターカップリング1を操作するオペレーターに高度な技量が要求される。
すなわち、従来のケーシング回収はオペレーターの高度な技量に頼って実行されており、熟練したオペレーターが確保できない場合にはボーリング後のケーシング回収を実行できなくなるという問題が存在する。
そのため、「押し切り」(
図11の工程B-5の作業)を必要としないケーシング回収技術が要望されているが、その様な要望に応えることが出来る技術は未だに提案されていない。
【0008】
その他の従来技術として、グラウンドアンカーの施工時にケーシングパイプを回収する技術が存在する(特許文献1参照)。
しかし、この従来技術(特許文献1)は地下水位以下でもケーシング内を閉塞することを目的としており、上述した押し切りに関する問題を解決することは意図していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、ケーシングパイプを容易且つ効率的に回収することを可能ならしめるケーシングパイプ回収補助装置及び回収方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のケーシングパイプ回収補助装置(10)は、
ケーシングパイプ(C1、C2、・・・)の端部のネジ部(C1Nf、C2Nf、・・・)に螺合可能なネジ部(1Nm)を有する接続部材(1:マスターカップリング)と、
接続部材(1)に回転を伝達する回転駆動装置(2:スウィベル)を備え、
回転駆動装置(2)及び接続部材(1)には、膨張収縮装置(3:例えばパッカー)及び膨張収縮装置(3)に接続されたロッド(4)が取り付けられており、
前記膨張収縮装置(3)は、収縮した状態では回収するべきケーシングパイプ(C1)の内部空間(C1S)に挿入可能であり、膨張した状態では回収するべきケーシングパイプ(C1)の内壁面に密着して回転駆動装置(2)による回転力動力を回収するべきケーシングパイプ(C1)に伝達して当該ケーシングパイプ(C1)を回転する機能を有することを特徴としている。
【0012】
本発明において、膨張収縮装置(3)はパッカーであり、パッカー(3)を膨張、収縮させるパッカー用流体が流下するパッカー用流体流路(5)が設けられているのが好ましい。
この場合、ロッド(4)の中心軸近傍にはパッカー用流体流路(5)が形成されており、パッカー用流体流路(5)の一端はパッカー(3)に連通しており、他端は接続部材(1)及び回転駆動装置(2)内の経路(6)を介してパッカー用流体供給源に連通しているのが好ましい。
【0013】
本発明のケーシングパイプ(C1、C2、・・・)の回収方法は、
前記ケーシングパイプ回収補助装置(10:請求項1のケーシングパイプ回収補助装置)を用いた方法において、
回転駆動装置(2)及び接続部材(1)にロッド(4)を介して取り付けられた膨張収縮装置(3:例えばパッカー)を収縮した状態で回収するべきケーシング(C1)内に配置する工程(A-1)と、
膨張収縮装置(3)を膨張して回収するべきケーシングパイプ(C1)の内壁面に密着させ、回転駆動装置(2)による回転力動力を回収するべきケーシングパイプ(C1)に伝達して当該ケーシングパイプ(C1)を回転する工程(A-5)を有することを特徴としている。
【0014】
ここで、膨張収縮装置(3)はパッカーであり、パッカー用流体流路(5)を介してパッカー用流体をパッカー(3)に供給してパッカー(3)を膨張させる工程(A-5)を有することが好ましい。
或いは、膨張収縮装置(3)はパッカーであり、パッカー用流体流路を介してパッカー用流体をパッカー(3)から排出しパッカー(3)を収縮させる工程(A-1)を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上述した構成を具備する本発明によれば、回収するべきケーシング(C1)内に収縮した状態で挿入された膨張収縮装置(3:例えばパッカー)を膨張してケーシングパイプ(C1)の内壁面に密着させて回転する(A-5)ことにより、パッカー(3)との摩擦力によって回収するべきケーシング(C1)が回転する。そのため、回転駆動装置(2:スウィベル)を地中側(ケーシングC2側)に押し付ける「押し切り」作業は行わなくても、回収するべきケーシング(C1)をネジ切り方向に回転することが出来る。
従って、オペレーターの高度な技量に頼って実行される押し切り作業が不必要となり、熟練したオペレーターが確保できない場合でも、ボーリング後のケーシング回収を容易且つ安全に実行することが出来る。
【0016】
膨張収縮装置(3)がパッカーであれば、パッカー(3)を膨張して回転する際に、回収するべきケーシング(C1)と接続部材(1:マスターカップリング)との螺合が解除されてしまっても、膨張収縮装置(3)とケーシング(C1)内壁面との摩擦力により、回収するべきケーシング(C1)を回転し続けることが出来る。
さらに、膨張収縮装置(3)とケーシング(C1)内壁面との摩擦力によりケーシング(C1)は膨張収縮装置(3)により保持されるので、回収するべきケーシング(C1)と接続部材(1:マスターカップリング)との螺合が解除されてしまっても、回収するべきケーシング(C1)は回転駆動装置(2)側に保持され、落下してしまうことが防止される。
【0017】
さらに本発明は、回転駆動装置(2:スウィベル)と接続部材(1:マスターカップリング)に膨張収縮装置(3:例えばパッカー)及びロッド(4)を付加することにより、既存の設備に対して容易に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図1で用いられるパッカー装置を示す説明図である。
【
図7】
図4に続く工程であって、
図5で示すのとは異なる工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
最初に
図1を参照して、本発明の実施形態で用いられるケーシングパイプ回収補助装置10について説明する。
図1において、ケーシングパイプ回収補助装置10は、マスターカップリング1(接続部材)とスウィベル2(回転駆動装置)を備えており、マスターカップリング1及びスウィベル2にはロッド4を介して膨張収縮装置3が取り付けられている。マスターカップリング1とスウィベル2は一体に構成されており、或いは、マスターカップリング1はスウィベル2の回転を伝達可能に構成されている。
図示の実施形態では膨張収縮装置3はパッカーであり、パッカー3は収縮させた状態でケーシングパイプC1の内部空間C1Sに挿入可能である。
図1ではパッカー3(膨張収縮装置)は膨張しており、ケーシングC1の内壁面に密着している。
図1~
図6において、膨張収縮装置3をパッカー3と記載する場合がある。
ロッド4の地上側端部はマスターカップリング1、スウィベル2に接続されており(接続の一態様は
図2、
図3を参照)、地中側他端がパッカー3に接続されている。
【0020】
図1において、ケーシングC1の地上側端部に形成された雌ネジ部C1Nfとマスターカップリング1の雄ネジ部1Nmは螺合可能であり、螺合することによりケーシングC1とマスターカップリング1(及びスウィベル2)を接続することが出来る。
ケーシングC1よりも地中側(
図1では右側)には、ケーシングC1に続いて回収するべきケーシングC2が位置しており、ケーシングC1に形成された雄ネジ部C1NmとケーシングC2に形成された雌ネジ部C2Nfが螺合している。
図10を参照して上述した様に、ケーシングC1とケーシングC2の螺合(接続)を解除する(ネジを切る)際は、ケーシングC2をフロントデバイス7で保持し、ケーシングC1をブレーカー8で挟み込み、ブレーカー8によりケーシングC1を螺合解除方向(矢印X方向)に回転する。
【0021】
図1において、ロッド4の中心軸近傍にはパッカー用流体流路5が形成されており、パッカー用流体流路5の地中側端部はパッカー3に連通しており、パッカー用流体流路5の地上側端部は、マスターカップリング1(接続部材)及びスウィベル2(回転駆動装置)に形成されたパッカー用流体流路6(
図2、
図3参照)に連通している。
図2、
図3で示す様に、スウィベル2側のパッカー用流体流路6は図示しないパッカー用流体供給源に連通している。
図示の実施形態において、パッカー用流体は水であるが、水以外の流体も使用可能である。
【0022】
図1~
図3において、パッカー用流体流路5、6は、スウィベル2、マスターカップリング1、ロッド4の中心軸に沿って中心軸を含む中空領域として構成されている。スウィベル、マスターカップリング、ロッドの中心軸を含む中空領域であるパッカー用流体流路5、6は、後述するように、スウィベル2、マスターカップリング1、ロッド4を回転しても、当該回転により捻じれてしまうことはない。
ただし、スウィベル2、マスターカップリング1、ロッド4が回転しても捻じれない様に構成されていれば(例えば回転自在継手等が介装されていれば)パッカー用流体流路をロッド4の外部からパッカー3に連通する管路で構成することが可能である。
【0023】
流体流路5、6を介してパッカー用流体(例えば水)がパッカー3に供給されると、パッカー3はケーシングC1の内部空間C1S内で膨張し、
図1で示す様に、内部空間C1Sの内壁面に密着する
パッカー3がケーシングC1の内壁面に密着することにより、スウィベル2が回転して、マスターカップリング1、ロッド4を介してパッカー3に回転力が伝達されると、その回転力はパッカー3とケーシングC1内壁面との摩擦力によりケーシングC1に伝達され、
図5の工程A―5においてケーシングC1をネジ切り方向に回転する。
また、パッカー3を膨張させてケーシングC1の内壁面に密着させた状態から、流体流路5、6を介してパッカー3内のパッカー用流体を排出すれば、パッカー3は収縮してケーシングC1の内壁面から離隔し、パッカー3をケーシングC1内から取り出すことが可能な状態となる。
【0024】
パッカー3及びロッド4をマスターカップリング1及びスウィベル2に接続した状態を示す
図2と、パッカー3及びロッド4をマスターカップリング1(接続部材)及びスウィベル2(回転駆動装置)から分離した状態を示す
図3において、パッカー3はロッド4を介してマスターカップリング1及びスウィベル2に接続さており、ロッド4におけるスウィベル2側の端部には雄ネジ部4Nmが形成されている(
図3)。マスターカップリング1及びスウィベル1にはロッド収容部1A、2Aが形成され(
図3)、ロッド収容部1A、2Aの中心軸近傍にロッド4が挿入、収容される(
図2)。そして、スウィベル2におけるロッド収容部2Aには雌ネジ部2Nfが形成されている(
図3)。ロッド4の雄ネジ部4Nmとスウィベル2におけるロッド収容部2Aの雌ネジ部2Nfが螺合することにより、パッカー3及びロッド4は、スウィベル2及びマスターカップリング1と一体化される。
【0025】
後述する様に、ロッド4にトルクが作用するのはケーシングC2をケーシングC1(マスターカップリング1側)から螺合解除する工程(ネジ切りする工程:
図5の工程A―5)であるため、当該工程(
図5の工程A―5)においてロッド4の雄ネジ部4Nmとスウィベルの雌ネジ部2Nfが緩まないように、雄ネジ部4Nmと雌ネジ部2Nfは、接合部β(
図5等)における(マスターカップリング1とケーシングC1の)螺合箇所等におけるネジと逆方向のネジ(いわゆる「逆ネジ」)とするのが好ましい。
上述した様に、ロッド4及びスウィベル2の中心軸近傍にはそれぞれパッカー用流体流路5、6が形成されている。パッカー用流体流路5、6は、パッカー3及びロッド4とマスターカップリング1及びスウィベル2が接続された状態(
図2)において連通しており、図示しないパッカー用流体供給源から当該流路6、5を介してパッカー3にパッカー用流体を供給することによりパッカー3は膨張し、パッカー3からパッカー用流体を排出することによりパッカー3は収縮する。
図2、
図3においてパッカー3が収縮した状態を実線で表示しており、
図2においてパッカー3が膨張した状態を破線で表示している。
【0026】
次に
図4~
図6を参照して、図示の実施形態によるケーシングパイプCの回収について説明する。
図10~
図12と同様に、
図4~
図6においても図中の左側は地中側であり、右側は地上側である。
図4~
図6において、ボーリング及びケーシング引き抜き方向は図中の左右方向すなわち垂直方向となっているが、引き抜き方向が垂直に対して傾斜した方向の場合もある。
なお、
図4~
図6において、パッカー3の形状を簡略化して表示されている。
図4において、「A-1」で示す状態では、最も地上側のケーシングC1の内部空間C1Sには収縮された状態のパッカー3が配置されている。パッカー3はロッド4によりマスターカップリング1、スウィベル2に接続されており、スウィベル2の回転をパッカー3に伝達する様に構成されている。ケーシングC1(ケーシングパイプ)はフロントデバイス7で保持されており、ケーシングC1とマスターカップリング1の接合箇所βにおいて、ケーシングC1の雌ネジ部C1Nf(
図1参照)とスウィベル2のマスターカップリング1の雄ネジ部1Nmが螺合している。
係る状態で、工程A-1では、スウィベル2のマスターカップリング1を接合箇所βの螺合が解除される方向(ネジが切られる方向:矢印X方向)に回転して、接合箇所βが僅かに切られた状態(僅かに螺合解除された状態)、すなわち完全に螺合した状態から僅かに緩められた(ネジが切られた)状態となり、工程A-2で示す状態になる。工程A-2では、マスターカップリング1の雄ネジ部1Nmが示されており、雄ネジ部1Nmは接合箇所βでケーシングC1の図示しない雌ネジ部と螺合する。
再び工程A-1において、パッカー3は収縮しており、ケーシングC1の内壁面には接触していない。そのため、スウィベル2がマスターカップリング1に回転力(ケーシングC1をマスターカップリング1からネジ切りする方向の回転力)を伝達しても、パッカー3及びロッド4は、ケーシングC1やマスターカップリング1とは干渉しない。
【0027】
工程A-1で、ケーシングC1とマスターカップリングが完全に螺合している状態から僅かにネジ切り(螺合解除)されたならば、工程A-2において、図示しないボーリングマシンによりスウィベル2、マスターカップリング1を地上側に移動し、ケーシングC1、C2(ケーシングC1の地中側に隣接するケーシング)・・・を地上側に引き抜く(工程A-2の矢印Y)。図示はされていないが、ケーシングC1、C2より地中側には、複数のケーシングCが接続されている。
工程A-2においてもパッカー3は収縮した状態であり、ケーシングC1とマスターカップリング1が僅かにネジ切りされた状態でスウィベル2が上方(地上側)に移動しても、パッカー3及びロッド4は、ケーシングC1、マスターカップリング1と干渉せず、問題なくケーシングC1を地上側に引き抜くことが出来る。
工程A―2でケーシングパイプC1を地上側に引き抜いた状態におけるケーシングパイプC1、ケーシングパイプC2、マスターカップリング1、パッカー3等の位置関係が、工程Aー3に示されている。
【0028】
図4における工程A-3では、引き上げられて地上側に露出したケーシングC2をフロントデバイス7で保持し、地上側に引き上げられたケーシングC1をブレーカー8で挟み込み、保持する。
そして、ブレーカー8でケーシングC1を保持した状態で、マスターカップリング1を矢印X方向に回転して、ケーシングC1とマスターカップリング1の螺合を完全に解除する。ケーシングC1とマスターカップリング1の螺合が解除された状態で、ブレーカー8によりケーシングC1を螺合解除方向(矢印X)に回転して、ケーシングC1、C2間の接合箇所αのネジ切り(螺合解除)を行う。係るネジ切りにより接合箇所αは僅かに螺合解除された状態となり、
図5の工程A-4の状態になる。
【0029】
図5の工程A-4において、接合箇所αにはケーシングC1の雄ネジ部C1Nmが示されており、雄ネジ部C1NmはケーシングC2の図示しない雌ネジ部と螺合している。
工程A-3、工程A-4において、パッカー3は収縮しているので、工程A-3でケーシングC1とマスターカップリング1の螺合が解除する際と、ブレーカー8によりケーシングC1をケーシングC2に対してネジ切りする際に、パッカー3及びロッド4は、ケーシングC1、マスターカップリング1と干渉しない。
図5の工程A-5では、工程A-4で示す状態から、図示しないパッカー用流体流路を介してパッカー3に流体(例えば水)を供給して、パッカー3を膨張させて、ケーシングC1の内壁面に密着させる。そしてパッカー3が膨張したならば、ブレーカー8をケーシングC1から離隔する。ブレーカー8をケーシングC1から離隔しても、ケーシングC1は膨張したパッカー3と内壁面との摩擦により保持される。
【0030】
図5の工程A-6では、スウィベル2によりロッド4及びパッカー3を、ケーシングC1とケーシングC2の螺合を解除する方向(矢印X)に回転する。
パッカー3はケーシングC1の内壁面に密着しているので、スウィベル2による回転力はパッカー3とケーシングC1の内壁面との摩擦力により、ケーシングC1に伝達される。
ここで、ケーシングC1とケーシングC2は、完全に螺合した状態から僅かに螺合解除されている(工程A-3参照)ので、パッカー3とケーシングC1の内壁面との摩擦力により伝達された回転力により、フロントデバイス7で保持されたケーシングCに対して、ケーシングC1を相対的に回転することが出来て、ケーシングC1をケーシングC2から螺合解除することが出来る。
【0031】
図5の工程A-6において、パッカー3とケーシングC1の内壁面との摩擦力によりケーシングC1を回転するので、スウィベル2を地中のケーシングC2側に押し付け、マスターカップリング1をネジ切方向に回転する「押し切り」作業(従来技術の工程P-5)を実行する必要がない。
上述した様に、工程A-6でパッカー3を回転(矢印X)する際にはケーシングC1とマスターカップリング1の螺合が解除されているが、パッカー3とケーシングC1の摩擦力によりケーシングC1を回転し続けることが出来る。そして、パッカー3とケーシングC1の摩擦力により、ケーシングC1が落下することが防止される。
工程A-6で、ケーシングC1を回転してケーシングC2から完全に係合解除したならば、
図6の工程A-7において、ケーシングC1と共にスウィベル2を更に地上側に引き上げる(矢印Y)。そして、
図6の工程A-8を実行する。
【0032】
図6に示す工程A-8では、ケーシングC1を作業者Mの手作業により保持し、その状態でパッカー3を収縮する。そして、ケーシングC1を収縮させたパッカー3及びロッド4をスウィベル1から取り外し、以てケーシングC1をボーリングマシン(スウィベル1)から取り外す。
工程A-8でケーシングC1をボーリングマシンから外す際に、パッカー3及びロッド4がケーシングC1と干渉しないように、従来技術における工程B-7(
図12)に比較して、パッカー3及びロッド4の分だけスウィベル2を余計に上昇させておくのが好ましい。
ケーシングC1を収縮したパッカー3及びロッド4から外した後、マスターカップリング1を下降してケーシングC2の上端と螺合して、
図4の工程「A-1」の状態にせしめる。以後、工程A-1~A-8を繰り返して、順次ケーシングを回収する。
【0033】
図4における工程A-3では、引き上げられて地上側に露出したケーシングC2をフロントデバイス7で保持し、地上側に引き上げられたケーシングC1をブレーカー8で挟み込んだ状態でマスターカップリング1を矢印X方向に回転してケーシングC1とマスターカップリング1間の螺合箇所βにおける螺合を解除している。しかし、
図4における工程A-3でマスターカップリング1を矢印X方向に回転せず、ケーシングC1とマスターカップリング1が螺合した状態で、ケーシングC1を回収することが出来る。
図4における工程A-3でマスターカップリング1を矢印X方向に回転せず、ブレーカー8により、ケーシングC1、C2間の接合箇所αのネジ切り(螺合解除)のみを行った状態が、
図7の工程A-4Bで示されている。
【0034】
図7の工程A-4Bでは、ケーシングC1、C2間の接合箇所αは僅かに螺合解除された状態であり、接合箇所αにはケーシングC1の雄ネジ部C1Nmが示されており、雄ネジ部C1NmはケーシングC2の図示しない雌ネジ部と螺合している。
図7の工程A-5Bでは、工程A-4Bで示す状態からパッカー3を膨張する。そして、スウィベル2によりロッド4及びパッカー3を、ケーシングC1とケーシングC2の螺合を解除する方向(矢印X)に回転する。
パッカー3とケーシングC1の内壁面との摩擦力により、スウィベル2による回転力は十分にケーシングC1に伝達される。そして、ケーシングC1とケーシングC2は完全に螺合した状態から僅かに螺合解除されているので、パッカー3から伝達された回転力により、ケーシングC1をケーシングC2に対して回転し、ケーシングC1とケーシングC2の螺合を解除することが出来る。
【0035】
図7の工程A-5Bにおいても、パッカー3とケーシングC1の内壁面との摩擦力によりケーシングC1を回転するので、スウィベル2を地中のケーシングC2側に押し付け、マスターカップリング1をネジ切方向に回転する「押し切り」作業(従来技術の工程P-5)を実行する必要がない。
なお、工程A-5Bでパッカー3を回転(矢印X)する際にケーシングC1とマスターカップリング1の螺合が解除されてしまっても、
図5の工程A-6で説明した様に、ケーシングC1を回転し続けることが出来て、ケーシングC1が落下してしまうことも防止される。
工程A-5Bで、ケーシングC1を回転してケーシングC2から完全に係合解除したならば、工程A-6Bにおいて、ケーシングC1と共にスウィベル2を更に地上側に引き上げる(矢印Y)。
【0036】
図8で示す工程A-7Bでは、接合箇所βを介してスウィベル2のみと接続したケーシングC1を作業者Mの手作業により保持し、マスターカップリング1をネジ切り方向(螺合解除方向、矢印X方向)に回転して、ケーシングC1とマスターカップリング1のネジ切りを行う。そして、パッカー3を収縮し、ケーシングC1を作業者Mの手作業によりボーリングマシンから取り外す。
工程A-7Bにおいても、ケーシングC1がパッカー3及びロッド4と干渉しないように、従来技術の同様の工程B-7(
図12)に比較して、パッカー3及びロッド4の分だけスウィベル2を余計に上昇させている。
ケーシングC1をボーリングマシンから外した後、
図5、
図6で説明したのと同様に
図4の工程「A-1」の状態にせしめる。以後、上述の工程により、順次ケーシングを回収する。
【0037】
上述した様に、
図4における工程A-3でケーシングC1とマスターカップリング1間の螺合を解除しても、解除しなくても、ケーシングC1を回収することは出来る。
ただし、
図4における工程A-3でケーシングC1とマスターカップリング1の螺合を解除しておけば、後の工程でパッカー3を収縮することによりケーシングC1を簡単に回収出来るので好都合である。
【0038】
次に、
図9を参照して、図示の実施形態の変形例について説明する。
図9の変形例では、膨張収縮装置3として、
図1~
図6の実施形態におけるパッカー3に代えて、伸縮治具3-1を使用する。伸縮治具3-1は、ケーシングパイプCを回収する際に、パッカー3と同様に、ケーシングパイプCの内部空間に配置される。
伸縮治具3-1は、マスターカップリング1、スウィベル2側に接続するロッド部3-1A、ケーシングCの内壁に密接する一対の密接部3-1B、リンク機構3-1Cを備えている。公知の機構によりロッド3-1Aを伸縮させると(矢印U)、リンク機構3-1Cは、
図9の上下方向(矢印W)に拡径し或いは縮径する。そのため、密接部3-1BはケーシングCの半径方向位置(
図9における矢印W方向位置)を変えることが出来る。すなわち、ロッド3-1Aの中心軸から離れた拡径位置(ケーシングCの内壁に密着する位置)と、ロッド3-1Aの中心軸に近い縮径位置(ケーシングCの内壁と干渉しない位置)を選択することが出来る。
図9に示す変形例の構成及び作用効果は、
図1~
図6と同様である。
【0039】
図示の実施形態に係るケーシングパイプ回収補助装置10及び回収方法によれば、回収するべきケーシングC1内に収縮した状態で挿入されたパッカー3(或いは伸縮治具3-1、膨張収縮装置)を膨張してケーシングパイプC1の内壁面に密着させて回転する(工程A-5)ことにより、パッカー3との摩擦力によって回収するべきケーシングC1が回転することが出来る。そのため、スウィベル2(回転駆動装置)を地中側(ケーシングC2側)に押し付ける「押し切り」作業は行わなくても、回収するべきケーシングC1をネジ切り方向に回転し、ケーシングC1をケーシングC2から螺合解除することが出来る。
そのため、オペレーターの高度な技量に頼って実行される押し切り作業が不必要となり、熟練したオペレーターが確保できない場合でも、ボーリング後のケーシング回収を容易且つ安全に実行することが出来る。
【0040】
また、パッカー3(或いは伸縮治具3-1)を膨張して回転する際に、回収するべきケーシングC1とマスターカップリング1(接続部材)との螺合が解除されてしまっても、パッカー3(或いは伸縮治具3-1)とケーシングC1内壁面との摩擦力により、回収するべきケーシングC1を回転し続けることが出来る。
さらに、パッカー3(或いは伸縮治具3-1)とケーシングC1内壁面との摩擦力によりケーシングC1はパッカー3により保持されるので、回収するべきケーシングC1とマスターカップリング1との螺合が解除されてしまっても、回収するべきケーシングC1はスウィベル2側に保持され、落下してしまうことが防止される。
【0041】
それに加えて図示の実施形態は、スウィベル2とマスターカップリング1にパッカー3(或いは伸縮治具3-1)及びロッド4を付加することにより、既存の設備に対して容易に適用することが可能である。
【0042】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0043】
1・・・マスターカップリング(接続部材)
1Nm・・・ネジ部
2・・・スウィベル(回転駆動装置)
3・・・パッカー(膨張収縮装置)
4・・・ロッド
5、6・・・パッカー用流体流路
10・・・ケーシングパイプ回収補助装置
C1、C2・・・ケーシングパイプ
C1Nf、C2Nf・・・ケーシングパイプのネジ部
C1S、C2S・・・ケーシングパイプの内部空間