(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 27/10 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
D05B27/10
(21)【出願番号】P 2017183351
(22)【出願日】2017-09-25
【審査請求日】2020-08-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】安田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】安西 哲也
(72)【発明者】
【氏名】金平 拓郎
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】金丸 治之
【審判官】森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-348792(JP,A)
【文献】中国実用新案第200940194(CN,Y)
【文献】特開2010-81982(JP,A)
【文献】特開2000-70582(JP,A)
【文献】特開2005-95367(JP,A)
【文献】特開2006-280764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00 - D05B 97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被縫製物を上から押さえる布押さえと、
送り歯により被縫製物を所定の送り方向に送る布送り機構と、
前記布押さえよりも送り方向下流側で前記被縫製物を送り方向下流側に送る先引きローラーと、
前記先引きローラーの回転駆動源である先引きモーターとを備えるミシンにおいて、
前記布押さえの高さから針板上の前記被縫製物の厚さを検出する布厚センサと、
前記先引きローラーを昇降させて前記被縫製物に対する前記先引きローラーの押さえ強さを調節するローラー昇降モーターと、
前記先引きモーターと前記ローラー昇降モーターを個別に制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記布厚センサによって検出された前記被縫製物の厚さ変化に応じて、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度と、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの押さえ強さを変更調節する
と共に
前記布厚センサの検出により、前記布押さえに対する前記被縫製物の段部の到達が認識された場合に、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの押さえ強さを基準圧力よりも高い圧力とする制御を行うことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記布厚センサの検出により、前記布押さえに対する被縫製物の段部の到達が認識された場合に、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度を基準速度よりも速い速度とする制御を行うことを特徴とする
請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記制御装置は、前記先引きローラーに対する前記被縫製物の段部の到達が認識された場合に、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの押さえ強さを基準圧力よりも低い圧力とする制御を行うことを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記制御装置は、前記先引きローラーに対する前記被縫製物の段部の到達が認識された場合に、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度を基準速度よりも速い速度とする制御を行うことを特徴とする
請求項3に記載のミシン。
【請求項5】
前記ミシンが二重環縫いミシンであって、縫製終了後に被縫製物に連ねて空環を形成するミシンにおいて、
前記被縫製物の先端部と終端部を検出し、前記布押さえの押さえ位置における前記被縫製物の有無を検出する布端センサを備え、
前記制御装置は、前記布端センサにより前記被縫製物の終端部を検出すると、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの前記被縫製物に対する押さえ強さを基準圧力よりも高い圧力とする制御を行うことを特徴とする
請求項1から4のいずれか一項に記載のミシン。
【請求項6】
前記制御装置は、前記布端センサにより前記被縫製物の終端部を検出すると、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度を基準速度よりも速い速度とする制御を行うことを特徴とする
請求項5記載のミシン。
【請求項7】
前記制御装置は、前記先引きローラーに対する前記被縫製物の先端部の到達が認識された場合に、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの前記被縫製物に対する押さえ強さを前記基準圧力よりも低い圧力とする制御を行うことを特徴とする
請求項5又は請求項6に記載のミシン。
【請求項8】
前記制御装置は、前記先引きローラーに対する前記被縫製物の先端部の到達が認識された場合に、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度を基準速度よりも速い速度とする制御を行うことを特徴とする
請求項7記載のミシン。
【請求項9】
前記布押さえの前記被縫製物に対する押さえ圧を調節する押さえモーターを備え、
前記制御装置は、前記布端センサにより前記被縫製物の先端部を検出すると、前記押えモーターによる前記布押さえの前記被縫製物に対する押さえ圧を基準圧力よりも高い圧力とする制御を行うことを特徴とする
請求項5から請求項8のいずれか一項に記載のミシン。
【請求項10】
前記布押さえの前記被縫製物に対する押さえ圧を調節する押さえモーターを備え、
前記制御装置は、前記布押さえの前記被縫製物の段部に対する乗り上げが認識された場合に、前記押さえモーターによる前記布押さえの前記被縫製物に対する押さえ圧を基準圧力よりも高い圧力とする制御を行うことを特徴とする
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布押さえに対して被縫製物の送り方向下流側に先引きローラーを備えるミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、針落ち位置において送り歯よりも送り方向下流側に配置された先引きローラーを備えるミシンがあった。このミシンは、送り歯とは別に、独立した駆動源によって回転駆動する先引きローラーによって、搬送力を高めた状態で被縫製物の縫製が行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のミシンは、被縫製物において厚さが厚くなる部分である段部が存在すると、段部が布押さえの下側に送り込まれる際に抵抗となり、送り量が低減してピッチが詰まってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、段部等の厚さ変動に対して良好な送りを実現するミシンを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、ミシンにおいて、
被縫製物を上から押さえる布押さえと、
送り歯により被縫製物を所定の送り方向に送る布送り機構と、
前記布押さえよりも送り方向下流側で前記被縫製物を送り方向下流側に送る先引きローラーと、
前記先引きローラーの回転駆動源である先引きモーターとを備えるミシンにおいて、
前記布押さえの高さから針板上の前記被縫製物の厚さを検出する布厚センサと、
前記先引きローラーを昇降させて前記被縫製物に対する前記先引きローラーの押さえ強さを調節するローラー昇降モーターと、
前記先引きモーターと前記ローラー昇降モーターを個別に制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記布厚センサによって検出された前記被縫製物の厚さ変化に応じて、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度と、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの押さえ強さを変更調節することを特徴とする。
【0007】
さらに、請求項1記載の発明は、
前記制御装置は、
前記布厚センサの検出により、前記布押さえに対する前記被縫製物の段部の到達が認識された場合に、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの押さえ強さを基準圧力よりも高い圧力とする制御を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、
前記布厚センサの検出により、前記布押さえに対する被縫製物の段部の到達が認識された場合に、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度を基準速度よりも速い速度とする制御を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、前記先引きローラーに対する前記被縫製物の段部の到達が認識された場合に、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの押さえ強さを基準圧力よりも低い圧力とする制御を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、前記先引きローラーに対する前記被縫製物の段部の到達が認識された場合に、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度を基準速度よりも速い速度とする制御を行うことを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
前記ミシンが二重環縫いミシンであって、縫製終了後に被縫製物に連ねて空環を形成するミシンにおいて、
前記被縫製物の先端部と終端部を検出し、前記布押さえの押さえ位置における前記被縫製物の有無を検出する布端センサを備え、
前記制御装置は、前記布端センサにより前記被縫製物の終端部を検出すると、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの前記被縫製物に対する押さえ強さを基準圧力よりも高い圧力とする制御を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項5記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、前記布端センサにより前記被縫製物の終端部を検出すると、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度を基準速度よりも速い速度とする制御を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項5又は6に記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、前記先引きローラーに対する前記被縫製物の先端部の到達が認識された場合に、前記ローラー昇降モーターによる前記先引きローラーの前記被縫製物に対する押さえ強さを前記基準圧力よりも低い圧力とする制御を行うことを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項7に記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、前記先引きローラーに対する前記被縫製物の先端部の到達が認識された場合に、前記先引きモーターによる前記先引きローラーの回転速度を基準速度よりも速い速度とする制御を行うことを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項5から8のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
前記布押さえの前記被縫製物に対する押さえ圧を調節する押さえモーターを備え、
前記制御装置は、前記布端センサにより前記被縫製物の先端部を検出すると、前記押えモーターによる前記布押さえの前記被縫製物に対する押さえ圧を基準圧力よりも高い圧力とする制御を行うことを特徴とする。
【0016】
請求項10記載の発明は、請求項1から9のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
前記布押さえの前記被縫製物に対する押さえ圧を調節する押さえモーターを備え、
前記制御装置は、前記布押さえの前記被縫製物の段部に対する乗り上げが認識された場合に、前記押さえモーターによる前記布押さえの前記被縫製物に対する押さえ圧を基準圧力よりも高い圧力とする制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、制御装置が、被縫製物の厚さ変化に応じて先引きローラーの押え強さと回転速度を変更調節することにより、段部等の厚さ変動に対して良好な先引き送りが行われ、段部によるピッチの詰まりを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】発明の実施形態である送り出し腕型二重環縫いミシンの斜視図である。
【
図2】発明の実施形態である送り出し腕型二重環縫いミシンの概略を示す正面図である。
【
図3】布押さえ機構及びローラー送り機構を面部側から見た左側面図である。
【
図7】制御装置のCPUが行うミシン全体の縫製時の各部の動作制御を示すタイミングチャートである。
【
図8】
図8(A)~
図8(D)はミシン全体の縫製時の各部の動作制御を順番に示した動作説明図である。
【
図9】
図9(E)~
図9(H)は、
図8(D)に続く、ミシン全体の縫製時の各部の動作制御を順番に示した動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施形態の概略構成]
以下、本発明の実施形態であるミシンについて詳細に説明する。
図1はミシン100の斜視図、
図2はミシン100の概略を示し、ミシンフレーム110の一部を二点鎖線で示した正面図である。
本発明の実施形態であるミシン100はいわゆる送り出し腕型二重環縫いミシンであり、ミシンフレーム110と、後述するミシンベッド部101に設けられた針板11の上面の被縫製物Cを布押さえ71により上から押さえる布押さえ機構70と、針板11上の被縫製物Cに対して二本の縫い針による針落ちを行う針上下動機構と、布押さえ71の下方で針板11上の被縫製物Cを図示しない送り歯によって所定の布送り方向に送る布送り機構と、縫い針側の上糸に対してルーパ糸を絡めるルーパ機構と、布押さえ71の布送り方向下流側で布送り機構とは別に被縫製物Cの送りを行う先引きローラー機構20と、上記各構成を制御する制御装置90とを備えている。
なお、上記ミシン100は、一般的な送り出し腕型二重環縫いミシンが備える、天秤機構、糸調子等の各構成を備えているが、これらは周知のものなので説明は省略する。
【0020】
[ミシンフレーム]
上記ミシンフレーム110は、ミシンの全体において下部に位置するミシンベッド部101と、ミシンベッド部101の一端部において上方に立設された立胴部102と、立胴部102の上端部から所定方向に延出されたミシンアーム部103とを備えている。
以下、ミシンアーム部103の長手方向に平行な水平方向をY軸方向とし、ミシンアーム部103の面部側を「左」、立胴部102側を「右」とする。また、水平方向であってY軸方向に直交する方向をX軸方向とする。このX軸方向はミシン100による被縫製物Cの送り方向に平行であり、被縫製物Cの送り方向下流側を「前」、上流側を「後」とする。また、X軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とし、その一方を「上」、他方を「下」とする。
【0021】
また、上記ミシンベッド部101は、立胴部102の下から布送り方向上流側(後方)に延出された第一延出部101aと、第一延出部101aの先端部からミシンアーム部103と同じ方向(左方)に延出された第二延出部101bと、第二延出部101bの先端部から布送り方向下流側(前方)に延出された第三延出部101cとを有している。
ミシンベッド部101は、被縫製物の作業台として使用されるので、上記第一から第三延出部101a~101cは、それぞれの上面が全体的にX-Y平面に沿った同一平面で連なって、全体的に平坦に形成されている。
【0022】
[針上下動機構]
針上下動機構は、ミシンアーム部103の内側に配設され、ミシンモーター16に回転駆動されると共にY軸方向に沿って配設された上軸と、二本の縫い針を下端部で保持する針棒と、上軸の回転力を上下動の往復駆動力に変換して針棒に伝達する図示しないクランク機構とを備えている。
また、ミシンベッド部101における二本の縫い針の針落ち位置にはX-Y平面に平行な針板11が設けられている。
ミシンベッド部101は平面視略U字状を呈している。
【0023】
[ルーパ機構]
ルーパ機構は、針板11の下側に設けられた二つのルーパと、これらのルーパの先端をY軸方向に沿って往動させる動作伝達機構とを備えている。
各ルーパは、尖鋭な先端部の糸通し孔にルーパ糸が挿通されている。そして、各ルーパは、針板の下で上昇する縫い針に対して、左方に向かって進出することにより、上糸のループにルーパ糸を挿通し、右方に向かって後退することにより、ルーパ糸にループが形成され、次の針落ちによりルーパ糸のループに縫い針が突入する。これらの動作を繰り返すことで、ルーパ糸のループと上糸のループとが交互に挿通されて結節が形成される。
動作伝達機構は、ミシンモーター16を駆動源とし、当該ミシンモーター16の全回転を往復回動に変換して各ルーパに伝達することで当該各ルーパをY軸方向に沿って往動させる。
【0024】
[布送り機構]
布送り機構は、針板11の図示しない開口部から出没する送り歯と、送り歯に対してZ軸方向の往復動作とX軸方向の往復動作とを合成して伝達する送り伝達機構とを備えている。
送り歯は、針板11に形成されたX軸方向に沿ったスリット状の開口部から出没する鋸歯状の歯を備えており、Z軸方向の往復動作とX軸方向の往復動作とを合成してなる長円運動を行い、長円における上部を移動する際に開口部から歯先が上方に突出しながら前方に移動して、被縫製物Cを前方に送ることを可能とする。
送り伝達機構は、ミシンモーター16を駆動源とし、当該ミシンモーター16の全回転をX軸方向に沿った往復動作とZ軸方向に沿った往復動作に変換して送り歯に伝達することで、当該送り歯に長円運動を付与している。
【0025】
[布押さえ機構]
図3は布押さえ機構70及びローラー送り機構20を面部側から見た左側面図である。
これら
図2及び
図3に示すように、布押さえ機構70は、被縫製物Cを上から押さえる布押さえ71と、布押さえ71を下端部で保持する押さえ棒72と、布押さえ71の昇降駆動源となる押さえモーター73と、押さえモーター73から押さえ棒72及び布押さえ71に昇降動作を伝える伝達機構74と、押さえ棒72を介して布押さえ71を下方に押圧する押さえバネ75と、布押さえ71の高さを検出する押さえ高さ検出部76とを備えている。
【0026】
布押さえ71は、底面が平滑であって布送り方向上流側(後側)が上方に反り上がったいわゆる舟形の押さえである。布押さえ71は、針板11の開口部の上に配置され、送り歯により送られる被縫製物Cを上から押さえて、送り歯の搬送力を被縫製物Cに適切に伝達させる。
押さえ棒72は、針棒の近傍においてZ軸方向に沿った状態でミシンアーム部103の内部において上下二箇所に配置されメタル軸受け721,721により上下動可能に支持されている。
押さえ棒72の上端部には手で摘んで布押さえ71を引き上げるための摘み部材724が装備されている。
押さえ棒72の上側のメタル軸受け721と下側のメタル軸受け721との間には、上下に上側棒抱き722と下側棒抱き723とがいずれも抱き締めにより押さえ棒72に固定装備されている。
【0027】
そして、上側棒抱き722の下側には押さえ棒72に対して上下に摺動可能なスリーブ725が装備され、当該スリーブ725と下側棒抱き723との間にはコイル状の押さえバネ75が装備されている。
なお、自然長の押さえバネ75とスリーブ725との合計長さよりも、上側棒抱き722と下側棒抱き723の上下間隔の方が狭く設定されており、側棒抱き722と下側棒抱き723の間において、常に押さえバネ75が圧縮され、押さえ棒72が常に下方に押圧されるようになっている。
【0028】
押さえモーター73は、ステッピングモーターであり、立胴部102の内側上部において板状のブラケット731により、その出力軸をX軸方向に向けた状態で支持されている。
また、押さえモーター73の出力軸にはエンコーダ732が接続されており(
図5参照)、出力軸の軸角度が検出され、制御装置90に入力されている。
【0029】
伝達機構74は、押さえモーター73の出力軸に固定装備された主動歯車741と、略扇形の従動歯車742と、二又の回動腕746,747を備えたベルクランク状のリンク部材745と、従動歯車742とリンク部材745とを連結する連結棒749と、を備えている。
主動歯車741と従動歯車742は平歯車であり、相互に噛合している。
従動歯車742は、X軸回りに回動可能であり、その半径方向外側に延出された腕部743が連結棒749の一端部にX軸回りに回動可能に連結されている。
リンク部材745は、ミシンアーム部103内でX軸回りに回動可能に支持されており、一方の回動腕746が連結棒749の他端部にX軸回りに回動可能に連結され、他方の回動腕747が角駒748を介してスリーブ725に連結されている。
角駒748はX軸回りに回動可能に回動腕747に連結され、スリーブ725に設けられたY軸方向に沿った溝に対して滑動可能に嵌め込まれている。
【0030】
これらにより、押さえモーター73が
図2における時計方向に駆動すると、主動歯車741、従動歯車742、連結棒749、リンク部材745、角駒748を介して、スリーブ725が上昇し、押さえモーター73が
図2における反時計方向に駆動すると、スリーブ725が下降する。
スリーブ725が下降して押さえバネ75が圧縮されると布押さえ71の押さえ圧が増加し、スリーブ725が上昇して押さえバネ75が伸長すると布押さえ71の押さえ圧が減少する。また、さらにスリーブ725が上昇して上側棒抱き722に当接すると、布押さえ71を上方に引き上げて被縫製物Cの解放位置に退避させることができる。
押さえモーター73は、スリーブ725をZ軸方向に沿って任意の高さに調節することができ、これにより、布押さえ71の被縫製物Cに対する押さえ圧を調節することができる。
【0031】
高さ検出部76は、下側棒抱き723に支持された被検出体761と、被検出体761の高さを光学的に検出するラインセンサからなる布厚センサ762とから構成されている。
被検出体761は、下側棒抱き723に支持されているので、布押さえ71及び押さえ棒72と共に上下に移動を行う。
布厚センサ762はミシンアーム部103内に固定され、Z軸方向に沿って受光素子が並んで形成されており、被検出体761に遮蔽されることにより、当該被検出体761の上端部のZ軸方向の位置(高さ)を検出して布押さえ71の高さを検出することができる。布押さえ71の高さは、針板11上の被縫製物Cの厚さに応じて変動することから、布厚センサ762は、針板11上の被縫製物Cの厚さを検出する「厚さ検出部」として機能する。
【0032】
[先引きローラー機構]
図4は先引きローラー機構20の斜視図である。
先引きローラー機構20は、
図3及び
図4に示すように、送りローラーとしての先引きローラー21と、先引きローラー21を支持するローラーアーム22と、先引きローラー機構20の全体構成を支持するモーター取り付け土台23と、ローラーアーム22を回動させるローラー昇降モーター24と、先引きローラー21の回転駆動源である先引きモーター25とを備えている。
【0033】
上記モーター取り付け土台23は、ミシンアーム部103の先端部の前側に配置され、ミシンフレーム110に対してその上端部がY軸回りに回動可能に支持されている。
このモーター取り付け土台23は、X-Z平面に沿った板状であり、その右平面側でローラー昇降モーター24と先引きモーター25とを支持している。
【0034】
ローラーアーム22は、中央部がモーター取り付け土台23の下端部においてY軸回りに回動可能に支持されており、一端部が前斜め上側に向かって延在すると共に第一及び第二リンク243,242を介してローラー昇降モーター24に連結され、他端部が後斜め下側に向かって延出されると共に先引きローラー21を回転可能に支持している。また、ローラーアーム22は、その他端部が後方に向けられており、これにより、先引きローラー21を布押さえ71の前側に配置している。
【0035】
先引きローラー21は、タイミングベルト211により回転駆動が行われており、当該タイミングベルト211を介して被縫製物Cの送りを行っている。
タイミングベルト211は、一端部が先引きモーター25の出力軸に固定装備されたスプロケット252に掛け渡されており、モーター取り付け土台23にY軸回りに回動可能に支持された伝達ローラー212とテンションローラー213を介して、他端部が先引きローラー21に掛け渡されている。
これにより、先引きローラー21は、タイミングベルト211を介して被縫製物Cに接して前方への送りを行っている。また、先引きモーター25の制御により、先引きローラー21の回転速度を任意に調節することができる。
【0036】
また、ローラーアーム22は、第一リンク243と第二リンク242を介してローラー昇降モーター24から回動動作が入力される。
即ち、ローラー昇降モーター24の出力軸には第一リンク243の一端部が固定装備されており、第一リンク243の他端部は、第二リンク242の一端部が連結されている。
ローラーアーム22は、いわゆるベルクランク構造を採っており、その一端部が第二リンク242の他端部に連結され、他端部が先引きローラー21に連結されている。
そして、ローラーアーム22は、その中央部がモーター取り付け土台23の下端部においてY軸回りに回動可能に支持されている。
従って、ローラー昇降モーター24の駆動により、第一及び第二リンク243,242を介してローラーアーム22の一端部が上方に回動動作を付与されると、他端部は下方に回動し、ローラーアーム22の一端部が下方に回動動作を付与されると、他端部は上方に回動する。これにより、ローラーアーム22の一端部と連動して、ローラーアーム22の先引きローラー側の端部を昇降させることができ、先引きローラー21の高さを任意に調節することができる。従って、ローラー昇降モーター24の制御により、針板11上の被縫製物Cに対する先引きローラー21の接触圧力を任意に調節することができる。
【0037】
ローラー昇降モーター24及び先引きモーター25は、いずれも、それぞれの出力軸にはエンコーダ241,251が接続され、出力軸の軸角度が検出されて制御装置90に入力されている。
【0038】
[ミシンの制御系]
上記ミシン100の制御系を
図5のブロック図に示す。この
図5に示すように、ミシン100は、各構成の動作制御を行う制御装置90を備えている。そして、この制御装置90には、ミシンモーター16、ローラー昇降モーター24、先引きモーター25、押さえモーター73が各々のモーター駆動回路16a,24a,25a,73aを介して接続されている。
また、ミシンモーター16、ローラー昇降モーター24、先引きモーター25及び押さえモーター73には、その回転数を検出するエンコーダ161,241,251,732が併設されており、このエンコーダ161,241,251,732もモーター駆動回路16a,24a,25a,73aを介して制御装置90に接続されている。
【0039】
制御装置90は、CPU91、ROM92、RAM93、EEPROM94(EEPROMは登録商標)を備え、後述する各種の動作制御を実行する。
ROM92には、後述する各種の制御を行うためのプログラムが格納されている。
また、EEPROM94には、各種の設定データ、例えば、ミシンモーター16の基準速度Vmn、先引きモーター25の先引き量の基準速度Vsn、布押さえ71の押さえ圧の基準圧力Pmn、先引きローラー21の先引き押さえ強さの基準圧力Psn、第一~第二の設定圧力Pm1,Pm2、第一~第三の設定圧力Ps1~Ps3、第一~第三の設定速度Vm1~Vm3、第一~第三の設定速度Vs1~Vs3、先引き押さえ強さとローラー昇降モーター24の軸角度との対応関係を示すテーブルデータ、布押さえ71に対するスリーブ725の高さと布押さえ圧との対応関係を示すテーブルデータ、スリーブ725と押さえモーター73の軸角度との対応関係を示すテーブルデータ、後述する段部Dとみなす布厚の閾値、段部乗り上げ針数T1、先引き段部乗り上げ開始針数T2、段部縫製針数T3、先引き段部乗り上げ針数T4、布先端縫い始め速度変更針数T5、先引き布先端乗り上げ開始針数T6、先引き布先端乗り上げ針数T7等が記憶されている。
【0040】
なお、ミシンモーター16の「基準速度Vmn」とは、被縫製物Cが段部Dのない通常の厚さとなる部分(平部とする)に対する縫製を行う場合の設定速度であり、先引きモーター25の先引き量の「基準速度Vsn」とは、被縫製物Cの平部に先引きローラー21が接して送る場合の設定速度であり、布押さえ71の押さえ圧の「基準圧力Pmn」とは、被縫製物Cの平部を布押さえ71が押さえる際の設定押さえ圧であり、先引きローラー21の先引き押さえ強さの「基準圧力Psn」とは、被縫製物Cの平部に先引きローラー21が接して送る場合の設定押さえ強さである。
【0041】
上記EEPROM94に記憶されている上記各種のデータは、制御装置90に接続されている操作入力部96によりその設定値を任意に再設定することができる。
なお、上記各種の設定データは、EEPROMに限らず、フラッシュメモリー、EPROM又はHDD等の不揮発性の記憶装置に記憶しても良い。
【0042】
上記操作入力部96がインターフェイス96aを介して制御装置90に接続されている。操作入力部96は、入力画面961を備えており、各種設定を入力する際に必要な情報を表示する。
また、踏み込み操作により縫製の開始及び停止を入力するペダル95がインターフェイス95aを介して制御装置90に接続されている。
【0043】
また、制御装置90には、布押さえ71の高さを検出する布厚センサ762がインターフェイス762aを介して接続されている。
また、ミシン100は、針板11上の布押さえ71による押さえ位置における被縫製物Cの有無により被縫製物Cの前側の先端部及び後側の終端部を検出する布端センサ77を布押さえ71の左斜め上方に備えており、当該布端センサ77がインターフェイス77aを介して制御装置90に接続されている。
【0044】
布端センサ77は、
図6に示すように、光源と受光素子からなる光電センサユニットであり、右斜め下に向かって光源から特定波長のセンサ光を針板11の針落ち位置近傍に設けられた反射板771に照射し、その反射光を受光素子で受光する。そして、制御装置90は、受光素子による反射光の受光強度から被縫製物Cの有無を判定することができる。
また、制御装置90は、送りが行われている被縫製物Cの先端部を、布端センサ77による「被縫製物Cなし」から「被縫製物Cあり」への検出状態の切り替わりから認識することができる。
同様に、制御装置90は、送りが行われている被縫製物Cの終端部を、布端センサ77による「被縫製物Cあり」から「被縫製物Cなし」への検出状態の切り替わりから認識することができる。
【0045】
[縫製制御]
制御装置90のCPU91が行うミシン100全体の縫製時の各部の動作制御について
図7のタイミングチャート及び
図8(A)~
図9(H)の動作説明図によって説明する。
縫製時において、被縫製物Cの平部を縫製する場合には、CPU91は、原則として、ミシンモーター16と先引きモーター25をそれぞれ前述した基準速度Vmn,Vsnで駆動し、押さえモーター73は布押さえ71が基準圧力Pmnとなる軸角度を維持し、ローラー昇降モーター24は先引きローラー21が基準圧力Psnとなる軸角度を維持するよう制御して縫製が行われる(
図7のa、
図8(A)参照)。
【0046】
そして、被縫製物Cの段部Dが布押さえ71に近づいて布厚センサ762による検出厚さが徐々に増加し、段部Dとみなす閾値を超えると(
図7のb、
図8(B)参照)、布押さえ71に対する被縫製物Cの段部Dの到達と認識して、CPU91は、ミシンモーター16を基準速度Vmnより遅い第一の設定速度Vm1に減速する。
また、先引きモーター25を基準速度Vsnより早い第一の設定速度Vs1に加速する。
また、先引きローラー21が基準圧力Psnより高い第一の設定圧力Ps1となるようにローラー昇降モーター24はスリーブ725を下降させる制御を行う。
一方、押さえモーター73については、布厚センサ762による検出厚さの増加に合わせてスリーブ725を上昇させる制御を行い、押さえ圧が一定の値である基準圧力Pmnを維持するよう調整される。
また、段部Dの認識のタイミングで、CPU91は、段部Dが到達してから布押さえ71が乗り上げるまでに要する段部乗り上げ針数T1と、段部Dが布押さえ71に到達してから先引きローラー21に到達するまでの先引き段部乗り上げ開始針数T2のカウントを開始する。針数のカウントはミシンモーター16のエンコーダ161の出力に基づいて行う。
【0047】
そして、被縫製物Cの段部Dに対して布押さえ71が完全に乗り上げた状態が、段部乗り上げ針数T1のカウントアップにより認識されると(
図7のc、
図8(C)参照)、CPU91は、先引きモーター25を基準速度Vsnより早く、第一の設定速度Vs1より遅い第二の設定速度Vs2に減速する。
また、先引きローラー21が基準圧力Psnより高く、第一の設定圧力Ps1より低い第二の設定圧力Ps2となるようにローラー昇降モーター24を上昇制御する。
また、布押さえ71が基準圧力Pmnより高い第一の設定圧力Pm1となるように押さえモーター73はスリーブ725を下降させる制御を行う。
また、布押さえ71による段部Dの乗り上げの認識のタイミングで、CPU91は、布押さえ71が段部Dを通過するまでに要する段部縫製針数T3のカウントを開始する。
【0048】
なお、被縫製物Cの段部Dに対する布押さえ71の乗り上げは、段部乗り上げ針数T1のカウントアップからではなく、布厚センサ762による検出厚さの値又はその増加率等から判定してもよい。
【0049】
次に、被縫製物Cの段部Dに対する布押さえ71の通過が、段部縫製針数T3のカウントアップにより認識されると(
図7のd、
図8(D)参照)、CPU91は、ミシンモーター16を基準速度Vmnに戻すように加速する。
また、先引きモーター25を基準速度Vsnに戻すように減速する。
また、先引きローラー21が基準圧力Psnに戻るようにローラー昇降モーター24を上昇制御する。
また、布押さえ71を基準圧力Pmnに戻すよう押さえモーター73はスリーブ725を上昇させる制御を行う。
【0050】
なお、被縫製物Cの段部Dに対する布押さえ71の通過を布厚センサ762による検出ではなく、段部縫製針数T3のカウントアップで判定しているので、被縫製物Cのバラつきによっては、実際の通過とタイミングが若干ずれるおそれがある。このため、布厚センサ762により、前述した段部Dとみなす閾値よりも低い値が検出されるまでは(
図7のe参照)、押さえモーター73によってスリーブ725の高さを布厚センサ762による検出厚さに追従させる制御(
図7のa-c区間における押さえモーター73の制御)は実施しない。
例えば、段部縫製針数T3のカウントアップ時に、布押さえ71が段部Dを通過し終わっておらず、これにより布押さえ71が上昇し過ぎて布押さえ圧の低下を生じることを避けるためである。
【0051】
また、被縫製物Cの段部Dに対しする布押さえ71の通過は、段部縫製針数T3のカウントアップからではなく、布厚センサ762による検出厚さに対する閾値との比較から判定してもよい。
【0052】
その後、被縫製物Cの平部に対して、CPU91は、ミシンモーター16と先引きモーター25をそれぞれ前述した基準速度Vmn,Vsnで駆動し、押さえモーター73は布押さえ71が基準圧力Pmnとなる軸角度を維持し、ローラー昇降モーター24は先引きローラー21が基準圧力Psnとなる軸角度を維持するよう制御して縫製が行われる。
【0053】
そして、先引きローラー21に対する被縫製物Cの段部Dの到達が、先引き段部乗り上げ開始針数T2のカウントアップにより認識されると(
図7のf、
図9(E)参照)、CPU91は、先引きモーター25を基準速度Vsnより早く、第二の設定速度Vs2より遅い第三の設定速度Vs3に加速する。
また、先引きローラー21が基準圧力Psnより低い第三の設定圧力Ps3となるようにローラー昇降モーター24を上昇制御する。
また、先引きローラー21に対する被縫製物Cの段部Dの到達のタイミングで、CPU91は、段部Dが到達してから先引きローラー21が乗り上げるまでに要する先引き段部乗り上げ針数T4のカウントを開始する。
【0054】
次に、被縫製物Cの段部Dに対する先引きローラー21の乗り上げが、先引き段部乗り上げ針数T4のカウントアップにより認識されると(
図7のg参照)、CPU91は、先引きモーター25を基準速度Vsnに戻すように減速する。
また、先引きローラー21が基準圧力Psnに戻るようにローラー昇降モーター24を下降制御する。
【0055】
そして、布押さえ71に対する被縫製物Cの終端部Ceの到達が布端センサ77により検出されると(
図7のh、
図9(F)参照)、CPU91は、ミシンモーター16を基準速度Vmn及び第一の設定速度Vm1より遅い第二の設定速度Vm2に減速する。
また、CPU91は、先引きモーター25を前述した基準速度Vsnより早い第一の設定速度Vs1に加速する。
また、先引きローラー21が前述した基準圧力Psnより高い第一の設定圧力Ps1となるようにローラー昇降モーター24を下降制御する。
一方、押さえモーター73については、布厚センサ762による検出厚さの減少に合わせてスリーブ725を下降させる制御を行い、押さえ圧が一定の値である基準圧力Pmnを維持するよう調整される。
【0056】
また、ミシン100は、送り出し腕型二重環縫いミシンであることから、布押さえ71に被縫製物Cの終端部Ceが到達し通過すると、被縫製物Cの終端部Ceから次の被縫製物Cの先端部Csまでの間には、上糸とルーパ糸の結節のみからなる空環Kが形成される。
【0057】
そして、布押さえ71に対する次の被縫製物Cの先端部Csの到達が布端センサ77により検出されると(
図7のi、
図9(G)参照)、CPU91は、ミシンモーター16を基準速度Vmnより遅く、第一の設定速度Vm1及び第二の設定速度Vm2より速い第三の設定速度Vm3に加速する。
また、布押さえ71が基準圧力Pmn及び第一の設定圧力Pm1より高い第二の設定圧力Pm2となるように押さえモーター73はスリーブ725を下降させる制御を行う。
この後、先引きローラー21は、先行する被縫製物Cの終端部Ceを通過して空環Kに接する状態となるので、先引きローラー21による搬送力が低下することが予想されるため、布押さえ71による押さえ圧を高めて送り歯による被縫製物Cの搬送力を高めている。
【0058】
また、布押さえ71に対する次の被縫製物Cの先端部Csの到達のタイミングで、CPU91は、被縫製物Cの先端部Csに対する基準速度Vmnより遅い第三の設定速度Vm3での搬送を継続する期間を定めた布先端縫い始め速度変更針数T5のカウントを開始する。
また、同時に、被縫製物Cの先端部Csが布押さえ71に到達してから先引きローラー21に到達するまでの針数である先引き布先端乗り上げ開始針数T6のカウントも開始する。
【0059】
そして、先引きローラー21に対する次の被縫製物Cの先端部Csの到達が、先引き布先端乗り上げ開始針数T6のカウントアップにより認識されると(
図7のj、
図9(H)参照)、CPU91は、先引きモーター25を基準速度Vsnより早く、第一の設定速度Vs1より遅い第二の設定速度Vs2に減速する。
また、先引きローラー21が基準圧力Psnより低い第三の設定圧力Ps3となるようにローラー昇降モーター24を上昇制御する。
また、先引きローラー21に対する次の被縫製物Cの先端部Csの到達のタイミングで、CPU91は、先引きローラー21が次の被縫製物Cの先端部Csに乗り上げるのに要する期間を定めた先引き布先端乗り上げ針数T7のカウントを開始する。
【0060】
そして、布先端縫い始め速度変更針数T5がカウントアップされると、CPU91は、ミシンモーター16を基準速度Vmnに加速する。
【0061】
さらに、先引きローラー21による次の被縫製物Cの先端部Csへの乗り上げが、先引き布先端乗り上げ針数T7のカウントアップにより認識されると(
図7のk参照)、CPU91は、認識されると(
図7のj、
図9(H)参照)、CPU91は、先引きモーター25を基準速度Vsnに戻すように減速する。
また、先引きローラー21が基準圧力Psnに戻るようにローラー昇降モーター24を上昇制御する。
また、布押さえ71を基準圧力Pmnに戻すよう押さえモーター73はスリーブ725を上昇させる制御を行う。
【0062】
そして、これ以降は、次の被縫製物Cに対して
図7のa-k区間の制御が繰り返し実行される。
【0063】
[実施形態による効果]
上記ミシン100は、制御装置90が、布厚センサ762によって検出された被縫製物Cの厚さ変化に応じて、先引きモーター25による先引きローラー21の回転速度と、ローラー昇降モーター24による先引きローラー21の押さえ強さを変更調節する制御を行っているので、被縫製物Cの段部等の厚さ変動に対して良好な先引き送りが行われ、段部によるピッチの詰まりを抑えることが可能である。
より具体的には、上記ミシン100は、制御装置90が、布厚センサ762の検出により、布押さえ71に対する被縫製物Cの段部Dの到達が認識された場合に、先引きモーター25による先引きローラー21の回転速度を基準速度Vsnよりも速い第一の設定速度Vs1とする制御を行っている(
図7のb)。
また、制御装置90は、布押さえ71に対する被縫製物Cの段部Dの到達が認識された場合に、ローラー昇降モーター24による先引きローラー21の被縫製物Cに対する押さえ強さ(先引き押さえ強さ)を基準圧力Psnよりも高い第一の設定圧力Ps1とする制御を行っている(
図7のb)。
これら各々の制御により、布押さえ71に被縫製物Cの段部Dが搬送された場合に、段部Dの乗り越えのために送り歯による搬送力の低下を先引きローラー21の回転速度増加が補い、先引きローラー21の押さえ強さを高めることでさらに搬送力を付与することができる。
従って、被縫製物Cが段部Dを有する場合であっても適正に送ることができ、縫いピッチの詰まりを抑制し、縫い品質の高い縫製を行うことが可能となる。
【0064】
また、ミシン100は、制御装置90が、先引きローラー21に対する被縫製物Cの段部Dの到達が認識された場合に、先引きモーター25による先引きローラー21の回転速度を基準速度Vsnよりも速い第三の設定速度Vs3とする制御を行っている(
図7のf)。
また、制御装置90は、先引きローラー21に対する被縫製物Cの段部Dの到達が認識された場合に、ローラー昇降モーター24による先引きローラー21の被縫製物Cに対する押さえ強さを基準圧力Psnよりも低い第三の設定圧力Ps3とする制御を行っている(
図7のf)。
これら各々の制御により、先引きローラー21に被縫製物Cの段部Dが搬送された場合に、段部Dの乗り越えのために先引きローラー21による搬送力の低下をその回転速度増加が補い、先引きローラー21の押さえ強さを低減することで段部Dの乗り越えを容易とし、段部Dによる搬送力の低下も低減することができる。
従って、被縫製物Cが段部Dを有する場合であっても、さらに良好に送ることができ、縫いピッチの詰まりを抑制し、さらに縫い品質の高い縫製を行うことが可能となる。
【0065】
また、ミシン100は、制御装置90が、布端センサ77により被縫製物Cの終端部Ceを検出すると、先引きモーター25による先引きローラー21の回転速度を基準速度Vsnよりも速い第一の設定速度Vs1とする制御を行っている(
図7のh)。
また、制御装置90は、布端センサ77により被縫製物Cの終端部Ceを検出すると、ローラー昇降モーター24による先引きローラー21の被縫製物Cに対する接触圧力を基準圧力Psnよりも高い第一の設定圧力Ps1とする制御を行っている(
図7のh)。
布押さえ71に被縫製物Cの終端部Ceが到達すると、上糸とルーパ糸からなる空環Kが布押さえ71と送り歯との間を通過することになり、送り歯による搬送力が大きく低下する。
しかしながら、上記各々の制御により、送り歯による搬送力の低下を先引きローラー21の回転速度増加が補い、先引きローラー21の押さえ強さを高めることでさらに搬送力を付与することができる。
従って、被縫製物Cの終端部Ceが布押さえ71を通過する場合でも被縫製物を適正に搬送することができ、良好に空環を形成しつつも縫製を行うことが可能となる。
【0066】
また、ミシン100は、制御装置90が、先引きローラー21に対する被縫製物Cの先端部Csの到達が認識された場合に、先引きモーター25による先引きローラー21の回転速度を基準速度Vsnよりも速い第二の設定速度Vs2とする制御を行っている(
図7のj)。
また、制御装置90は、先引きローラー21に対する被縫製物Cの先端部Csの到達が認識された場合に、ローラー昇降モーター24による先引きローラー21の被縫製物Cに対する押さえ強さを基準圧力Psnよりも低い第三の設定圧力Ps3とする制御を行っている(
図7のj)。
これら各々の制御により、先引きローラー21に被縫製物Cの先端部Csが搬送された場合に、当該先端部Csの乗り越えのために先引きローラー21による搬送力の低下をその回転速度増加が補い、先引きローラー21の押さえ強さを低減することで先端部Csの乗り越えを容易とし、先端部Csによる搬送力の低下も低減することができる。
従って、被縫製物Cが先端部Csに対しても良好に送ることができ、縫いピッチの詰まりを抑制し、さらに縫い品質の高い縫製を行うことが可能となる。
【0067】
また、ミシン100は、制御装置90が、布押さえ71の被縫製物Cの段部Dに対する乗り上げが認識された場合に、押さえモーター73による布押さえ71の被縫製物Cに対する押さえ圧を基準圧力Pmnよりも高い第一の設定圧力Pm1とする制御を行っている(
図7のc)。
これにより、厚みのある被縫製物Cの段部Dを布押さえ71が安定的に押さえながら送りを行うことができるので、被縫製物Cが段部Dを有する場合であっても安定して縫い品質の高い縫製を行うことが可能となる。
【0068】
また、ミシン100は、制御装置90が、布端センサ77により被縫製物Cの先端部Csを検出すると、押さえモーター73による布押さえ71の被縫製物Cに対する押さえ圧を基準圧力Pmnよりも高い第二の設定圧力Pm2とする制御を行っている(
図7のi)。
これにより、被縫製物Cの先端部Csが先引きローラー21に到達していない場合や先引きローラー21が空環の押さえている場合によって先引きローラー21の搬送力が低下を生じている場合であっても、送り歯による搬送力が高められ、安定して被縫製物Cを搬送して縫い品質の高い縫製を行うことが可能となる。
【0069】
[その他]
上記ミシン100は、二本針の送り出し腕型二重環縫いミシンを例示したが、縫い針の本数はより多くとも良い。また、
図7に示す縫製制御は、送り出し腕型二重環縫いミシンに限らず、送り歯と先引きローラーで被縫製物の送りを行うあらゆるタイプのミシンに適用可能である。但し、
図7におけるhからiの直前までの間の制御は、空環を形成する縫製に適しているので、当該制御については、空環が形成されないミシンについては適用されない。
【0070】
また、先引きローラー21の被縫製物に対する接地位置にも布厚検出部を設け、先引きローラー21に対する被縫製物Cの先端部Cs、終端部Ce、段部Dの到達や乗り上げ、通過を布厚検出部の検出から判断しても良い。
【0071】
また、ミシン100は、送り出し腕型二重環縫いミシンを例示したが、ミシンベッド部の形状はこれに限らず、いかなる形状のミシンであっても良い。
また、先引きローラー機構20は、先引きローラー21が直接、被縫製物に接触して送りを行う構成を例示したが、これに限らず、例えば、先引きローラー21が搬送ベルトを介して被縫製物を搬送する構成としても良い。
【符号の説明】
【0072】
11 針板
16 ミシンモーター
20 先引きローラー機構
21 先引きローラー
24 ローラー昇降モーター
25 先引きモーター
70 布押さえ機構
71 布押さえ
73 押さえモーター
76 押さえ高さ検出部
77 布端センサ
90 制御装置
100 ミシン
161,241,251,732 エンコーダ
762 布厚センサ
C 被縫製物
Ce 終端部
Cs 先端部
D 段部
K 空環
Pm1,Pm2 設定圧力
Pmn 基準圧力
Ps1~Ps3 設定圧力
Psn 基準圧力
Vm1~Vm3 設定速度
Vmn 基準速度
Vs1~Vs3 設定速度
Vsn 基準速度