(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】電気工学用の絶縁系の製造方法、それから得られる製品及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08G 59/62 20060101AFI20231012BHJP
C08G 59/20 20060101ALI20231012BHJP
C08G 59/42 20060101ALI20231012BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231012BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20231012BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231012BHJP
H01B 3/40 20060101ALI20231012BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C08G59/62
C08G59/20
C08G59/42
C08K3/013
C08K3/36
C08L63/00 C
H01B3/40 G
H01F27/32
(21)【出願番号】P 2018548848
(86)(22)【出願日】2017-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2017052952
(87)【国際公開番号】W WO2017157591
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-01-23
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-30
(32)【優先日】2016-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516342265
【氏名又は名称】ハンツマン・アドヴァンスト・マテリアルズ・ライセンシング・(スイッツランド)・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バイセル,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルベルス,フベルト
(72)【発明者】
【氏名】ベール,ダニエル
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】藤井 勲
【審判官】海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-067884(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第02804135(DE,A1)
【文献】特開2015-028132(JP,A)
【文献】特開昭59-008722(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105001598(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00 - 59/72
C08L 63/00 - 63/10
H01B 3/00 - 3/56
CA(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多成分熱硬化性樹脂組成物が用いられる
、真空注型による電気工学用の絶縁系の製造方法であって、
前記樹脂組成物は
(A)少なくとも1種のエポキシ樹脂と、
(B)少なくとも1種のカルボン酸無水物硬化剤と、
(C)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールからなる硬化促進剤
を含み、かつ、成分(A)と成分(B)と成分(C)を混合し、続いて
40~80℃に加熱すること及び減圧の適用により混合物を脱気することにより調製され、
前記樹脂組成物は少なくとも1種のエポキシ樹脂(A)の100重量部に基づき0.05乃至2.0重量部の2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを含み、
前記少なくとも1種のエポキシ樹脂(A)はビスフェノールAのジグリシジルエーテルであり、
前記樹脂組成物に添加剤が含められる場合、前記添加剤はポリプロピレングリコールジグリシジルエステルを含有する長鎖脂肪族化合物でない、
方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のカルボン酸無水物硬化剤(B)は、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物又はメチルヘキサヒドロフタル酸無水物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多成分熱硬化性樹脂組成物はさらに(D)充填剤を含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多成分熱硬化性樹脂組成物は成分(D)としてシリカ粉末を含有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂組成物はエポキシ当量当たり0.4~1.6酸無水物当量の量で成分(A)及び(B)を含有する、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記多成分熱硬化性樹脂組成物は、成分(A)と成分(B)と成分(C)と成分(D)
を混合
し、続いて減圧の適用により混合物を脱気すること、及び前記減圧の適用の前に40~80℃に加熱することにより調製される、請求項3~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
真空注型による電気工学用の絶縁系の製造のための、
(A)少なくとも1種のエポキシ樹脂と
(B)少なくとも1種のカルボン酸無水物硬化剤と
(C)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールからなる硬化促進剤
を含む多成分熱硬化性樹脂組成物
の使用であって
、
前記熱硬化性樹脂組成物は、成分(A)と成分(B)と成分(C)を混合し、続いて
40~80℃に加熱すること及び減圧の適用により混合物を脱気することにより調製され、
かつ、前記少なくとも1種のエポキシ樹脂(A)の100重量部に基づき0.05乃至2.0重量部の2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを含み、
前記少なくとも1種のエポキシ樹脂(A)はビスフェノールAのジグリシジルエーテルであり、
添加剤が前記樹脂組成物に含められる場合、前記添加剤はポリプロピレングリコールジグリシジルエステルを含有する長鎖脂肪族化合物でない、
多成分熱硬化性樹脂組成物の使用。
【請求項8】
中若しくは高電圧開閉装置又は中若しくは高電圧計器用変圧器の
真空注型による製造のための、
(A)少なくとも1種のエポキシ樹脂と
(B)少なくとも1種のカルボン酸無水物硬化剤と
(C)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールからなる硬化促進剤
を含む多成分熱硬化性樹脂組成物であって、かつ、
成分(A)と成分(B)と成分(C)を混合し、続いて
40~80℃に加熱すること及び減圧の適用により混合物を脱気することにより調製され、
前記少なくとも1種のエポキシ樹脂(A)の100重量部に基づき0.05乃至2.0重量部の2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを含み、
前記少なくとも1種のエポキシ樹脂(A)はビスフェノールAのジグリシジルエーテルであり、
添加剤が前記樹脂組成物に含められる場合、前記添加剤はポリプロピレングリコールジグリシジルエステルを含有する長鎖脂肪族化合物でない、
多成分熱硬化性樹脂組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多成分熱硬化性エポキシ樹脂組成物が用いられる自動加圧ゲル化(automatic pressure gelation)(APG)又は真空注型(vacuum casting)による電気工学用の絶縁系の製造方法に関する。本発明に従う方法により得られる絶縁物外郭製品(insulation encased articles)は、優れた機械的、電気的及び誘電的性質を示し、例えば絶縁体、ブッシング、空芯リアクトル、中空絶縁体(hollow core insulators)、開閉装置及び計器用変圧器として用いられ得る。
【背景技術】
【0002】
硬化促進剤としてのベンジルジメチルアミン(BDMA)と組み合わされた無水物硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物は、電気工学用の絶縁系の製造のために通常用いられる。しかしながら、BDMAは最近、毒性(頭蓋骨及び骨ラベル(skull & bone label)として分類された。
【0003】
さらに、BDMAの比較的高い蒸気圧はかなり複雑な脱気プロセスを必要とする。エポキシ樹脂、無水物及び充填剤を第1段階で混合し、非常に低い圧力下で脱気し、続いて後の段階に常圧でBDMAを加える;続いてあまり厳しくない減圧の適用により、最終的な組成物を脱気する。あるいはまた、最初の段階ですべての組成物を混合し、中度の減圧の適用により脱気を行い、それは部分放電(partial discharge)を引き起こす場合がある。
【0004】
これらの欠点は、BDMAを1-メチルイミダゾールのような毒性が低く且つ揮発性が低い促進剤で置き換えると避けられる可能性がある。しかしながら、無水物硬化剤及び硬化触媒としての1-メチルイミダゾールを含有するそのような硬化性エポキシ樹脂組成物の可使時間は、APG又は真空注型法における適用のためには短すぎる。さらに、硬化された製品は不十分な靭性により悪影響を受ける。
【0005】
今回、無水物硬化剤及び2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(TDMAMP)と組み合わされたエポキシ樹脂をAPG又は真空注型法に適用すると、上記の問題が満足に解決され得るという予想外のことが見出された。
【発明の概要】
【0006】
従って、本発明は多成分熱硬化性樹脂組成物が用いられる自動加圧ゲル化(APG)又は真空注型による電気工学用の絶縁系の製造方法に関し、前記樹脂組成物は
(A)少なくとも1種のエポキシ樹脂、
(B)少なくとも1種のカルボン酸無水物硬化剤及び
(C)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール
を含む。
【0007】
一般に絶縁系は重力注型、真空注型、自動加圧ゲル化(APG)、減圧ゲル化(VPG)、注入(infusion)、滴下含浸、引抜成形、フィラメントワインディングなどのような注型、ポッティング、封入及び含浸法により製造される。
【0008】
注型樹脂エポキシ絶縁体のような電気工学用の絶縁系の典型的な製造方法は、自動加圧ゲル化(APG)法である。APG法は、エポキシ樹脂の硬化及び成形により、エポキシ樹脂から作られる注型製品を短時間内に製造することを可能にする。一般にAPG法を行
うためのAPG装置は、1対の金型(下記で金型と呼ぶ)と、パイプを介して金型に連結された樹脂混合タンクと、金型を開閉するための開閉系とを含む。
【0009】
硬化性エポキシ樹脂組成物を高温の金型中に射出する前に、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む硬化性組成物の成分を射出のために準備しなければならない。
【0010】
予備充填系(pre-filled system)、すなわちすでに充填剤を含有する成分を含む系の場合、沈降を防いで均一な調製物を得るために、加熱しながら供給タンク中で成分を撹拌することが必要である。均一化の後、成分を合わせ、ミキサー中に移し、高められた温度及び減圧において混合し、調製物を脱気する。脱気された混合物を続いて高温の金型中に射出する。
【0011】
非-予備充填系の場合、エポキシ樹脂成分及び硬化剤成分を高められた温度及び減圧において個別に充填剤と混合し、樹脂と硬化剤の予備混合物を調製するのが典型的である。場合によりあらかじめさらなる添加剤を加える場合がある。さらなる段階に、高められた温度及び減圧において混合することにより2つの成分を合わせて最終的な反応性混合物を調製する。続いて脱気された混合物を金型中に射出する。
【0012】
典型的なAPG法において、予備加熱されて乾燥された金属導体又はインサートを減圧室(vacuum chamber)内に配置された金型中に入れる。開閉系により金型を閉じた後、樹脂混合タンクに圧力を適用することにより金型の底に位置する入口からエポキシ樹脂成分を金型中に射出する。射出の前、樹脂組成物は適切な可使時間(エポキシ樹脂の使用可能な時間)を保証するために通常49~60℃の中温(moderate temperature)に保たれるが、金型の温度は合理的に短い時間内に注型製品を得るために約120℃以上に保たれる。高温の金型中へのエポキシ樹脂組成物の射出の後、樹脂混合タンク中のエポキシ樹脂に適用される圧力を約0.1~0.5MPaに保ちながら樹脂組成物を硬化させる。
【0013】
APG法により、例えば20~60分の短時間内に10kgを超える樹脂から作られる大きい注型製品を簡単に製造する場合がある。通常、金型から離型される注型製品は、エポキシ樹脂の反応を完了させるために、別の硬化オーブン中で後硬化される。
【0014】
エポキシ樹脂(A)は、少なくとも1個のビシナルエポキシ基、好ましくは1個より多くのビシナルエポキシ基、例えば2又は3個のビシナルエポキシ基を含有する化合物である。エポキシ樹脂は飽和又は不飽和、脂肪族、脂環式、芳香族又は複素環式である場合があり、置換されている場合がある。エポキシ樹脂はモノマー性又はポリマー性化合物である場合もある。本発明における使用のために有用なエポキシ樹脂の概観は、例えばLee,H.and Neville,Handbook of Epoxy Resins,McGraw-Hill Book Company,New York (1982)中に見出され得る。
【0015】
本明細書に開示される態様において本発明の成分(A)として用いられるエポキシ樹脂は様々であり、従来技術の商業的に入手可能なエポキシ樹脂が含まれる場合があり、それを単独で又は2種以上の組み合わせで用いる場合がある。本明細書に開示される組成物のためのエポキシ樹脂の選択において、最終的な製品の性質のみでなく、粘度及び樹脂組成物の加工に影響を与える場合がある他の性質も考慮されるべきである。
【0016】
当業者に既知の特に適切なエポキシ樹脂は、多官能基性アルコール、フェノール、脂環式カルボン酸、芳香族アミン又はアミノフェノールのエピクロロヒドリンとの反応生成物に基づく。
【0017】
適切なポリグリシジルエーテルの形成のためのエピクロロヒドリンとの反応に関して考慮される脂肪族アルコールは、例えばエチレングリコールならびにジエチレングリコール及びトリエチレングリコールのようなポリ(オキシエチレン)グリコール、プロピレングリコール及びポリ(オキシプロピレン)-グリコール、プロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、ヘキサン-2,4,6-トリオール、グリセロール、1,1,1-トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールである。
【0018】
適切なポリグリシジルエーテルの形成のためのエピクロロヒドリンとの反応に関して考慮される脂環式アルコールは、例えば1,4-シクロヘキサンジオール(キニトール)、1,1-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキセ-3-エン、ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)メタン及び2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパンである。
【0019】
適切なポリグリシジルエーテルの形成のためのエピクロロヒドリンとの反応に関して考慮される芳香核を含有するアルコールは、例えばN,N-ビス-(2-ヒドロキシエチル)アニリン及び4,4’-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)ジフェニルメタンである。
【0020】
ポリグリシジルエーテルは、分子当たりに2個以上のフェノール性ヒドロキシ基を含有する物質、例えばレゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノール F)、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノール S)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノール AP)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチレン(ビスフェノール AD)、フェノール-ホルムアルデヒド又はクレゾール-ホルムアルデヒドノボラック樹脂、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール A)及び2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパンに由来することが好ましい。
【0021】
別のいくつかの限定的ではない態様は、例えばパラ-アミノフェノールのトリグリシジルエーテルを含む。2種以上のエポキシ樹脂の混合物を用いることも可能である。
【0022】
エポキシ樹脂成分(A)は、商業的に入手可能であるか又はそれ自体既知の方法に従って製造され得る。商業的に入手可能な製品は、例えばThe Dow Chemical
Companyから入手可能なD.E.R.330、D.E.R.331、D.E.R.332、D.E.R.334、D.E.R.354、D.E.R.580、D.E.N.431、D.E.N.438、D.E.R.736又はD.E.R.732あるいはHuntsman CorporationからのARALDITE(登録商標) MY 740又はARALDITE(登録商標) CY 228である。
【0023】
最終的な組成物中のエポキシ樹脂(A)の量は、例えば組成物中の成分(A)及び(B)の合計重量に基づいて30重量パーセント(重量%)~92重量%である。1つの態様において、エポキシ樹脂(A)の量は例えば成分(A)及び(B)の合計重量に基づいて45重量%~87重量%である。別の態様において、エポキシ樹脂(A)の量は例えば成分(A)及び(B)の合計重量に基づいて50重量%~82重量%である。
【0024】
本発明の好ましい態様において、エポキシ樹脂(A)はビスフェノール Aのジグリシジルエーテル又は脂環式エポキシ樹脂である。
【0025】
さらに好ましい態様において、エポキシ樹脂(A)はビスフェノール Aのジグリシジルエーテルである。
【0026】
原則として、例えばポリセバシン酸ポリ無水物又はポリアゼライン酸ポリ無水物あるいは環状カルボン酸無水物のような二官能基性及びもっと高い官能基性のカルボン酸のすべての無水物のような直鎖状脂肪族ポリマー性無水物が硬化剤(B)として適している場合があり、環状カルボン酸無水物が好ましい。環状カルボン酸無水物は、好ましくは脂環式単環式又は多環式無水物、芳香族無水物又は塩素化若しくは臭素化無水物である。脂環式単環式無水物の例は、無水コハク酸、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アルケニル置換無水コハク酸、ドデセニルコハク酸無水物、無水マレイン酸及びトリカルバリル酸無水物である。脂環式多環式無水物の例は、メチルシクロペンタジエンの無水マレイン酸付加物、ナジン酸無水物、無水マレイン酸のリノール酸付加物、アルキル化エンドアルキレンテトラヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物であり、後者の2つの異性体混合物が特に適している。ヘキサヒドロフタル酸無水物も適している。芳香族無水物の例は、ピロメリット酸二無水物、ピロメリット酸無水物及び無水フタル酸である。塩素化及び臭素化無水物の例は、テトラクロロフタル酸無水物、テトラブロモフタル酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物及び無水クロレンド酸である。
【0027】
好ましくは、本発明に従う多成分熱硬化性樹脂組成物において、液体又は容易に融解するジカルボン酸無水物を用いる。
【0028】
特に好ましいのは、カルボン酸無水物硬化剤(B)として無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物又はメチルヘキサヒドロフタル酸無水物を含有する組成物である。
【0029】
用いられるべきカルボン酸無水物(B)及び促進剤TDMAMP(C)の割合は、用いられるエポキシ樹脂のエポキシド含有率、無水物硬化剤の性質及び用いられる場合がある硬化条件のような因子に依存するであろう。最適の割合はルーティン実験により容易に決定される場合がある。
【0030】
熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ当量当たりに0.4-1.6酸無水物当量、好ましくはエポキシ当量当たりに0.6-1.4酸無水物当量、特にエポキシ当量当たりに0.8-1.2酸無水物当量の量で成分(A)及び(B)を含有するのが通常である。
【0031】
実際には、熱硬化性樹脂組成物はエポキシ樹脂の100重量部に基づいて0.05-3.0重量部、好ましくは0.1-2.0重量部、より好ましくは0.5-1.0重量部の2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを含有する。
【0032】
本発明の方法に従う多成分熱硬化性樹脂組成物は、電気絶縁において一般的に用いられる1種以上の充填剤(D)を含有する場合があり、それは金属粉末、木粉、ガラス粉末、ガラスビーズ、半金属酸化物(semi-metal oxides)、金属酸化物、金属水酸化物、半金属及び金属窒化物、半金属及び金属炭化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩及び天然又は合成鉱物からなる群より選ばれる。
【0033】
好ましい充填剤はけい砂、シラン化石英粉末、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、Mg(OH)2、Al(OH)3、ドロマイト[CaMg(CO3)2]、シラン化Al(OH)3、AlO(OH)、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、ドロマイト、チョーク、CaCO3、バライト、石
膏、ヒドロマグネサイト、ゼオライト、タルク、雲母、カオリン及びウォラストナイトからなる群より選ばれる。特に好ましいのはウォラストナイト、炭酸カルシウム又はシリカ、特にシリカ粉末である。
【0034】
充填剤材料は、場合により充填剤材料のコーティングに関して既知のシラン又はシロキサン、例えば架橋されている場合があるジメチルシロキサン又は他の既知のコーティング材料でコーティングされる場合がある。
【0035】
最終的な組成物中の充填剤の量は、例えば熱硬化性エポキシ樹脂組成物の合計重量に基づいて30重量パーセント(重量%)~75重量%のものである。1つの態様において、充填剤の量は例えば熱硬化性エポキシ樹脂組成物の合計重量に基づいて40重量%~75重量%のものである。別の態様において、充填剤の量は例えば熱硬化性エポキシ樹脂組成物の合計重量に基づいて50重量%~70重量%のものである。さらに別の態様において、充填剤の量は例えば熱硬化性エポキシ樹脂組成物の合計重量に基づいて60重量%~70重量%のものである。
【0036】
さらなる添加剤は、液体混合物樹脂の流動学的性質を向上させるための加工助剤、シリコーンを含む疎水性化合物、湿潤/分散剤、可塑剤、反応性又は非-反応性希釈剤、柔軟剤、促進剤、酸化防止剤、吸光剤、顔料、難燃剤、その他繊維及び電気的用途において一般に用いられる添加剤から選ばれる場合がある。これらの添加剤は当該技術分野における当業者に既知である。
【0037】
好ましい態様において、多成分熱硬化性樹脂組成物は成分(A)、(B)、(C)及び場合により(D)を混合し、続いて減圧の適用により混合物を脱気することにより調製される。脱気段階に通常適用される低圧は、0.1-5.0ミリバール、好ましくは0.5-2.0ミリバールである。
【0038】
さらなる好ましい態様において、成分(A)、(B)、(C)及び場合により(D)を含有する混合物は減圧の適用前に40-80℃に加熱される。
【0039】
本発明は、自動加圧ゲル化(APG)又は真空注型による電気工学用の絶縁系の製造のための、
(A)少なくとも1種のエポキシ樹脂、
(B)少なくとも1種のカルボン酸無水物硬化剤及び
(C)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール
を含む多成分熱硬化性樹脂組成物の使用にも言及する。
【0040】
電気工学用の絶縁系の製造は、多くの場合に自動加圧ゲル化(APG)又は真空注型により行われる。無水物硬化に基づく従来技術のエポキシ樹脂組成物を用いる場合、そのような方法は典型的にエポキシ樹脂組成物をその最終的な不溶解性の(infusible)三次元構造に成形するのに十分な時間、典型的には最高で10時間に及ぶ金型中での硬化段階と、硬化したエポキシ樹脂組成物の最終的な(ultimate)物理的及び機械的性質を発現する(develop)ための高温での離型された製品の後硬化段階とを含む。そのような後硬化段階は、製品の形及び寸法に応じて最高で30時間かかる場合がある。
【0041】
本発明に従う方法は、優れた機械的、電気的及び誘電的性質を示す包装製品の製造のために有用である。
【0042】
従って本発明は、本発明に従う方法により得られる絶縁系製品に言及する。製品のガラ
ス転移温度は既知の高温硬化無水物に基づく熱硬化性エポキシ樹脂組成物の場合と同じ範囲内にある。
【0043】
本発明に従って製造される絶縁系製品の可能な用途は、樹脂構造内に導電体を含有する、乾式変圧器、特に乾式配電変圧器、特に、真空注型乾式配電変圧器(vacuum cast dry distribution transformers)のための注型コイル;ブレーカー又は開閉装置用途のような屋内及び屋外用途のための中及び高-電圧絶縁;中及び高電圧ブッシング;ロングロッド、複合及びキャップ-型絶縁体としてならびにまた屋外電力スイッチ、測定変換器、ブッシング及び過電圧保護装置と関連する絶縁体の製造における、開閉装置構築における、電力スイッチ及び電気機械における中電圧区画(sector)中の基礎絶縁体(base insulators)のため、トランジスタ及び他の半導体部品のためのコーティング材料としてならびに/あるいは電気設備に含浸するためである。
【0044】
特に本方法に従って製造される製品は、中及び高電圧開閉装置用途及び計器用変圧器のために用いられる(6kV~72kV)。
【実施例】
【0045】
以下の実施例は本発明を例示するために役立つ。他にことわらなければ、温度は摂氏度で示され、部は重量部であり、パーセンテージは重量%に関する。重量部はキログラム対リットルの比において容量部に関する。
【0046】
【0047】
実施例1
加熱可能なスチールの容器で100gのARALDITE(登録商標) CY 228を85gのARADUR(登録商標)HY 918及び0.7gのTDMAMPと混合する。プロペラ攪拌機を用いてわずかに撹拌しながら混合物を約60℃に約5分間加熱する。撹拌下で345gのシリカW12を分けて加え、混合物を撹拌下で60℃まで約10分間加熱する。次いでミキサーを止め、減圧下で容器を注意深く脱気する(約1分間)。ゲルノルムゲルタイマー装置を用いて種々の温度でこの混合物の反応性を測定する。混合物の主要部(main part)を(離型剤QZ13で処理された)140℃の高温スチール金型中に注ぎ、厚さがそれぞれ4mm又は10mmの板を調製する(それぞれ機械的性質及び熱伝導率の決定のため)。次いでオーブン中140℃で10時間、金型を硬化さ
せる。その後、金型をオーブンから取り出して開け、4mmの板を取り出し、周囲温度に冷ます。
【0048】
実施例2
加熱可能なスチールの容器において100gのARALDITE(登録商標) CY 228を85gのARADUR(登録商標)HY 918-1及び0.7gのTDMAMPと混合する。プロペラ攪拌機を用いてわずかに撹拌しながら混合物を約60℃に約5分間加熱する。撹拌下で345gのシリカW12を分けて加え、混合物を撹拌下で60℃まで約10分間加熱する。次いでミキサーを止め、減圧下で容器を注意深く脱気する(約1分間)。ゲルノルムゲルタイマー装置を用いて種々の温度でこの混合物の反応性を測定する。混合物の主要部分を140℃の高温のスチールの金型(離型剤QZ13で処理された)中に注ぎ、厚さがそれぞれ4mm又は10mmの板を調製する(それぞれ機械的性質及び熱伝導率の決定のため)。次いで硬化のために金型を140℃におけるオーブンに10時間入れる。その後、金型をオーブンから取り出して開け、4mmの板を取り出し、周囲温度に冷ます。
【0049】
比較実施例1
加熱可能なスチールの容器で100gのARALDITE(登録商標) CY 228を85gのARADUR(登録商標)HY 918及び0.8gのDY 062と混合する。プロペラ攪拌機を用いてわずかに撹拌しながら混合物を約60℃に約5分間加熱する。撹拌下で345gのシリカW12を分けて加え、混合物を撹拌下で60℃まで約10分間加熱する。次いでミキサーを止め、減圧下で容器を注意深く脱気する(約1分間)。ゲルノルムゲルタイマー装置を用いて種々の温度でこの混合物の反応性を測定する。混合物の主要部分を140℃の高温のスチールの金型(離型剤QZ13で処理された)中に注ぎ、厚さがそれぞれ4mm又は10mmの板を調製する(それぞれ機械的性質及び熱伝導率の決定のため)。次いで金型をオーブン中で140℃において10時間硬化させる。その後、金型をオーブンから取り出して開け、4mmの板を取り出し、周囲温度に冷ます。
【0050】
比較実施例2
加熱可能なスチールの容器で100gのARALDITE(登録商標) CY 228を85gのARADUR(登録商標)HY 918-1及び0.8gのDY 062と混合する。プロペラ攪拌機を用いてわずかに撹拌しながら混合物を約60℃に約5分間加熱する。撹拌下で345gのシリカW12を分けて加え、混合物を撹拌下で60℃まで約10分間加熱する。次いでミキサーを止め、減圧下で容器を注意深く脱気する(約1分間)。ゲルノルムゲルタイマー装置を用いて種々の温度でこの混合物の反応性を測定する。混合物の主要部分を140℃の高温のスチールの金型(離型剤QZ13で処理された)中に注ぎ、厚さがそれぞれ4mm又は10mmの板を調製する(それぞれ機械的性質及び熱伝導率の決定のため)。次いで金型をオーブン中で140℃において10時間硬化させる。その後、金型をオーブンから取り出して開け、4mmの板を取り出し、周囲温度に冷ます。
【0051】
比較実施例3
加熱可能なスチールの容器で100gのARALDITE(登録商標) CY 228を85gのARADUR(登録商標)HY 918及び1gのDY 070と混合する。プロペラ攪拌機を用いてわずかに撹拌しながら混合物を約60℃に約5分間加熱する。撹拌下で345gのシリカW12を分けて加え、混合物を撹拌下で60℃まで約10分間加熱する。次いでミキサーを止め、減圧下で容器を注意深く脱気する(約1分間)。ゲルノルムゲルタイマー装置を用いて種々の温度でこの混合物の反応性を測定する。混合物の主要部分を140℃の高温のスチールの金型(離型剤QZ13で処理された)中に注ぎ、厚さがそれぞれ4mm又は10mmの板を調製する(それぞれ機械的性質及び熱伝導率の決
定のため)。次いで金型をオーブン中で140℃において10時間硬化させる。その後、金型をオーブンから取り出して開け、4mmの板を取り出し、周囲温度に冷ます。
【0052】
【0053】
Tg(ガラス転移温度)はISO 6721/94に従って決定された。
引張強さ及び破断点伸びはISO R527に従って23℃で決定された。
曲げ強さはISO 178に従って23℃で決定された。
K1C(臨界応力拡大係数(critical stress intensity factor))及びG1C(比破壊エネルギー)はダブルトーション実験(Huntsman内部仕様)により23℃で決定された。
CTE(熱膨張率)はDIN 53752に従って決定された。
TC(熱伝導率)はISO 8894に従って決定された。
SCT:クラック指数(シミュレートされたクラック温度)は、国際公開第2010/112272号パンフレットに示されている記述に従って、Tg、G1C、CTE及び破断点伸びに基づいて計算された。
【0054】
実施例4
鉄の部品を金型中に入れ、APG法において実施例1に従う調製物で封入し、140℃において10時間硬化させる。硬化した封入部品を熱サイクル試験に供する。
【0055】
比較実施例4
実施例4で用いられた部品と同じ形状の鉄の部品を金型中に入れ、APG法において比較実施例1に従う調製物で封入し、140℃において10時間硬化させる。硬化した封入部品を熱サイクル試験に供する。平均クラック温度(それぞれ20個の試料の1組に基づく)は実施例4の製品のそれより14K高い。
【0056】
APG法で今日広く用いられているわずかに異なる硬化剤との組み合わせが比較実施例1及び2に説明されている。比較的高いBDMAの蒸気圧のために賢明なことであるが、顧客が個別の成分としてBDAMを取り扱い、混合及び脱気プロセスの最後に十分に脱気された無水物と充填剤の混合物に促進剤を加える場合、そのような系は毒物学的に疑問がある。熱サイクルクラック性能の尺度としてのシミュレートされたクラック温度(Tg、CTE、破断点伸び及びG1Cから計算)はそれぞれ-21℃及び0℃の結果である。比較実施例3は、促進剤としてのBDMAを毒性の低い1-メチルイミダゾールで置き換えることが、傾向的により高いTg、より低い靭性(より低いG1C)、より低い強度及びより低い破断点伸びを有するより脆い系を生ずることを示す。本発明の実施例1及び2は、硬化促進剤に関してのみ比較実施例1及び2と区別される。本発明の利点は以下である:
・TDMAMPは毒物学的に問題がない。
・より低い蒸気圧のために、混合及び脱気プロセスのより早い段階に促進剤を加えることが可能であり、かくして後の段階に促進剤を加えるためにプロセスを中断する必要がない。混合及び脱気段階の間に促進剤が蒸留除去される非常に低い傾向しかない。
・両方の本発明の実施例は、もっと優れたSCT値を示す(両方の実施例に関して比較実施例と比べて-18K優れている)。
・本発明の調製物のさらなる利点は、少し優れた熱伝導率である。
・触媒としてのTDMAMPの使用はより有効である:0.7pbwのTDMAMPは0.8pbwのBDMAと同じ反応性を生ずる。
・1-メチルイミダゾールと比較して、TDMAMPの適用によってより長い可使時間(ゲル化時間)が達成される。
・APG法はより低い平均クラック温度を示す硬化製品を与える。