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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】窯業系化粧板
(51)【国際特許分類】
   B32B 18/00 20060101AFI20231012BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231012BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231012BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20231012BHJP
   A01P 3/00 20060101ALN20231012BHJP
   A01N 47/48 20060101ALN20231012BHJP
   A01N 43/80 20060101ALN20231012BHJP
   A01N 59/16 20060101ALN20231012BHJP
【FI】
B32B18/00 C
B32B27/00 E
B32B27/18 F
E04F13/08 A
A01P3/00
A01N47/48
A01N43/80 102
A01N59/16 A
A01N59/16 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019042855
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020142481
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000126609
【氏名又は名称】株式会社エーアンドエーマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 るり子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈尚
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-048917(JP,A)
【文献】特開2010-202733(JP,A)
【文献】特開平10-306240(JP,A)
【文献】特開2019-043089(JP,A)
【文献】特開2007-204966(JP,A)
【文献】特開平10-146913(JP,A)
【文献】特開2001-026075(JP,A)
【文献】特開2006-281580(JP,A)
【文献】特開2010-254597(JP,A)
【文献】特開2018-008418(JP,A)
【文献】特開2004-339278(JP,A)
【文献】特開2013-075368(JP,A)
【文献】特開2018-145359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
E04F 13/00-13/30
A01P 1/00-23/00
A01N 1/00-23/00
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窯業系基板の少なくとも片側の面の最表層にアクリルウレタン系樹脂を含有する着色層及び/又はクリア層を有する窯業系化粧板であって、
当該着色層及び/又はクリア層中に(a)金属イオン系抗菌・防かび剤と(b)アルキレンビスチオシアネート、3-イソチアゾロン系化合物、スルホンアミド系化合物、及びチアゾール系化合物から選ばれる1種以上の有機窒素イオウ系抗菌・防かび剤とを含有し、
(a)と(b)との合計含有量が、アクリルウレタン系塗料中の固形分100質量部当たり1.5~3質量部であり、かつ
(a)と(b)の含有質量比(a/b)が0.5~3であることを特徴とする
窯業系化粧板。
【請求項2】
(a)金属イオン系抗菌・防かび剤が、銀イオン系抗菌・防かび剤及び亜鉛イオン系抗菌・防かび剤から選ばれる1種以上である請求項1記載の窯業系化粧板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌防かび性に優れる窯業系化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化セメント板等の窯業系材料を基板とする窯業系化粧板は、十分な不燃性、強度を有することから、外装材及び内装材として広く使用されている。これらの窯業系化粧板は、通常基板の少なくとも片側の面にシーラー層や下塗り層に加えて、着色層及び/又はクリア層が形成されている(特許文献1~3)。
【0003】
一方、食品工場や厨房の内装材には、抗菌防かび性が求められており、窯業系化粧板においても、高い不燃性、強度に加えて抗菌防かび性の付与が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-168584号公報
【文献】特開2013-240935号公報
【文献】特開2015-120339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、着色層やクリア層にアクリルウレタン系樹脂膜が形成された窯業系化粧板においては、アクリルウレタン系樹脂の特徴である強固な架橋構造及び良好な成膜性により、優れた防汚性、弾性、密着性を有する反面、抗菌防かび機能を付与し難いという短所があることが判明した。塗料中に混入させた抗菌・防かび剤は、塗膜の表面から部分的に露出しているか、あるいは塗膜表面に付着した水分等に接触可能な状態で存在することで良好な抗菌防かび作用を発揮するものと考えられる。しかし、塗料としては好適なアクリルウレタン系樹脂の高い成膜性が、こうした抗菌防かび剤の機能を抑制している可能性が高い。実際、抗菌・防かび剤の塗料に対する添加量を多くしてやれば、塗膜表面に露出する割合が増すため容易に抗菌防かび効果を高めることができる。ただし、抗菌・防かび剤を多量に添加すると塗膜性能が低下してしまうほか、抗菌・防かび剤が持つ有害性のリスクが高まるため、化粧板としての安全性を損なう結果となる。
SIAA(抗菌製品技術協議会)では、適正で安心できる抗菌・防かび製品の普及を目的として、特に有害物が含まれやすい防かび剤については、その安全性・適切な使用濃度を評価・審査し、登録制度を設けてポジティブリストを公開している。ここで、抗菌・防かび剤とは、一般に抗菌剤あるいは防かび剤として販売されているものを含め、抗菌性と防かび性の両方の機能を示す機能性添加剤の総称とする。
従って、本発明の課題は、アクリルウレタン系樹脂を着色層やクリア層に施した窯業系化粧板において、SIAAのガイドラインに沿った安全性の高い抗菌・防かび剤を適切な使用濃度で用い、かつ優れた抗菌防かび性が付与された化粧板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、窯業系化粧板のアクリルウレタン系樹脂層に抗菌防かび性を付与すべく検討したところ、(a)金属イオン系抗菌・防かび剤と(b)有機窒素イオウ系等の一定の有機系抗菌・防かび剤とを併用することにより、少ない添加量で優れた抗菌防かび性が得られるとともに、アクリルウレタン系樹脂の耐光性等の特性も保持した窯業系化粧板が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の発明〔1〕~〔6〕を提供するものである。
【0008】
〔1〕窯業系基板の少なくとも片側の面の最表層にアクリルウレタン系樹脂を含有する着色層及び/又はクリア層を有する窯業系化粧板であって、当該着色層及び/又はクリア層中に(a)金属イオン系抗菌・防かび剤と(b)有機窒素イオウ系、有機ブロモ系及び有機窒素系から選ばれる有機系抗菌・防かび剤とを含有することを特徴とする窯業系化粧板。
〔2〕(a)金属イオン系抗菌・防かび剤が、銀イオン系抗菌・防かび剤及び亜鉛イオン系抗菌・防かび剤から選ばれる1種以上である〔1〕記載の窯業系化粧板。
〔3〕(b)有機系抗菌・防かび剤が、有機窒素イオウ系抗菌・防かび剤から選ばれる1種以上である〔1〕又は〔2〕記載の窯業系化粧板。
〔4〕(a)金属イオン系抗菌・防かび剤と(b)有機系抗菌・防かび剤の合計含有量が、アクリルウレタン系塗料中の固形分100質量部当たり1.5~3質量部である〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の窯業系化粧板。
〔5〕(a)金属イオン系抗菌・防かび剤と(b)有機系抗菌・防かび剤の含有質量比(a/b)が0.5~3である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の窯業系化粧板。
〔6〕(b)有機系抗菌・防かび剤が、アルキレンビスチオシアネート、3-イソチアゾロン系化合物又はその塩、及びチアジアジン系化合物から選ばれる1種以上の有機窒素イオウ系抗菌・防かび剤である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の窯業系化粧板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の窯業系化粧板は、優れた抗菌防かび性を有するとともに、優れた不燃性、強度、耐光性等を保持するので、学校、病院、食品工場、厨房等の内装材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】抗菌性試験工程を示す。
図2】抗菌性試験方法概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の窯業系化粧板は、窯業系基板の少なくとも片側の面の最表層にアクリルウレタン系樹脂を含有する着色層及び/又はクリア層を有する窯業系化粧板であって、当該着色層及び/又はクリア層中に(a)金属イオン系抗菌・防かび剤と(b)有機窒素イオウ系、有機ブロモ系及び有機窒素系から選ばれる有機系抗菌・防かび剤とを含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の窯業系化粧板の基板(窯業系基板、以下単に基板ともいう)としては、住宅等の壁面を形成する繊維強化セメント板(けい酸カルシウム板を含む)、木質系セメント板、木毛セメント積層板、火山性ガラス質複層板、押し出し成形セメント板、スラグせっこう板、軽量気泡コンクリート板、ガラス板、セラミックス板等が挙げられる。
これらの基板のうち、繊維強化セメント板がより好ましい。
【0013】
これらの基板は、例えばマトリックスを形成するための主原料としてポルトランドセメント等の水硬性セメントを使用し、繊維原料として石綿以外の繊維を使用するとともに、必要に応じてワラストナイトや炭酸カルシウム粉末等の混和材を原料として使用する基板であり、具体的にはJIS A 5430に規定された繊維強化セメント板等の基板である。特に、マトリックスを形成するための原料として、石灰質原料とけい酸質原料とを用い、養生工程においてオートクレーブ養生を行ってなる繊維強化セメント板の一種である0.8けい酸カルシウム板や1.0けい酸カルシウム板は、柔軟性に優れた基板であり、強度が高く吸水による長さ変化率が小さいので、本発明の窯業系化粧板の基板として好適である。
【0014】
前記繊維材料としては、例えばパルプ、合成パルプ、ポリプロピレン繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維、鋼繊維(スチール線繊維)、アモルファス金属繊維等の金属繊維、ガラス繊維、炭素繊維(カーボンファイバー)、ロックウール繊維、ウィスカー等の無機繊維などが挙げられるが、本発明では、前記のオートクレーブ養生を採用した場合であっても、化粧板の補強性及び靭性を向上できるという観点から、パルプを使用する場合が好ましい。なお、ここでいうパルプとは、木材などの植物原料を機械的または化学的に処理してセルロースを取り出した状態のものであり、いわゆるセルロースパルプを指す。
繊維強化セメント板中の繊維、特にパルプ等の有機繊維の含有比率は、マトリックスによっても異なるが、強度及び不燃性の確保の点から、5~9質量%であることが好ましく、6~8質量%であるのがさらに好ましい。パルプ等の有機繊維の含有比率が少ないと化粧板の機械的強度が低下し、熱負荷、乾燥、炭酸化や衝撃による割れを発生しやすくなる。逆にパルプ等の有機繊維の含有率が多いと、不燃性を維持することが困難となる。
【0015】
水硬性セメントとしては、当業界で一般的に用いられているものであればよく、例えばポルトランドセメントが挙げられる。
必要に応じて用いられる各種添加材としては、当業界で一般的に用いられているものが挙げられ、とくに制限されないが、例えばワラストナイト、マイカ、炭酸カルシウム等の粉末、繊維強化セメント板やせっこうボードの廃材粉末等が挙げられる。なお、オートクレーブ養生を行う場合は、セメント中の石灰との水熱反応硬化によりさらに強度を上げる点から、けい酸質原料、例えば粉末硅石等の結晶質シリカ、フライアッシュ等の非晶質シリカ等を添加するとともに、必要に応じて石灰質原料、例えば生石灰、消石灰等も追加して、マトリックス成分のCaO/SiO2のモル比が0.7~1.2となるように調整して用いるのが好ましい。
【0016】
本発明において、基板の厚さは、耐衝撃性、軽量性、施工性の点から、3~12mmが好ましく、4~8mmであるのがさらに好ましい。
【0017】
また本発明において、基板のかさ密度は、軽量性、機械的強度、施工性の点から、0.6~1.8g/cm3が好ましく、0.6~1.2g/cm3であるのがさらに好ましい。
【0018】
また本発明において、基板の総発熱量は、不燃性の点から、5MJ/m2以下であるのが好ましく、4.7MJ/m2以下であるのがさらに好ましい。
【0019】
なお、本発明において、基板又は化粧板の厚さは、JIS A 5430:2018、8.2.2項b)に従い測定した値である。かさ密度は、JIS A 5430:2018、8.5項に従い測定した値である。
基板の総発熱量は、JIS A 5430:2018、附属書JAに従い測定した値である。
【0020】
前記の基板の少なくとも片側の面の最表層に、アクリルウレタン系樹脂を含有する着色層及び/又はクリア層を有する。
着色層の膜厚は5~40μmが好ましく、10~40μmがより好ましく、15~35μmがさらに好ましい。
着色層は、無機系の着色顔料を含む。着色層に含まれる無機系の着色顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、黄土、酸化クロム緑、紺青、カーボンブラック、鉄黒などが挙げられ、これらのうちから選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いるのがより好ましい。また、必要に応じ有機顔料を併用することもできる。
【0021】
着色層の形成方法は、特に限定されるものではなく、スプレー法、ロールコーター法、フローコーター法等、通常の塗装において使用される公知の方法から選定でき、中でもロールコーターまたはフローコーターによる塗布が適しており、2回以上に分けて重ね塗りする場合にはこれらを適宜組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明においては、着色層の成分中の有機固形分量は、基板の単位面積(m2)当たり5~35gとなるように設定するのが好ましく、さらに10~30gとするのがより好ましい。
【0023】
本発明の窯業系化粧板は、着色層の表面上にクリア層を有していてもよい。クリア層の膜厚は、5~50μmが好ましく、10~40μmがより好ましい。
【0024】
クリア層を形成するための塗布方法は、フローコーター、ロールコーター、スプレーコーター等の既存の方法が適用できる。クリア層の乾燥塗膜での塗布量は、基板の単位面積(m2)当たり、5~100gが好ましく、10~80gがより好ましい。また、クリア層中の有機固形分量は、不燃性確保の点から、基板の単位面積(m2)当たり、4~45gが好ましく、8~35gがより好ましい。
【0025】
また、本発明の窯業系化粧板においては、着色層とクリア層の間に印刷層を設けることもできる。印刷層を設けることにより、化粧板に木目調あるいは石目調といった模様を付与することができる。印刷を施す方法としては、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、凸版式印刷、パット印刷等既存の方法を適用することができる。
【0026】
これらの着色層及び/又はクリア層に用いられる塗料は、アクリルウレタン系樹脂を含む塗料であり、2液硬化型アクリルウレタン樹脂塗料がより好ましい。
【0027】
本発明の窯業系化粧板においては、前記着色層及び/又はクリア層中に(a)金属イオン系抗菌・防かび剤と(b)有機窒素イオウ系、有機ブロモ系及び有機窒素系から選ばれる有機系抗菌・防かび剤とを含有する。
アクリルウレタン樹脂を含有する着色層及び/又はクリア層中にこれらの2種の抗菌・防かび剤を含有させることにより、少ない添加量で優れた抗菌防かび性が得られるとともに、耐光性等の特性も保持される。
【0028】
(a)金属イオン系抗菌・防かび剤としては、銀イオン系抗菌・防かび剤、亜鉛イオン系抗菌・防かび剤、銅イオン系抗菌・防かび剤等が挙げられ、このうち銀イオン系抗菌・防かび剤及び亜鉛イオン系抗菌・防かび剤から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0029】
金属イオン系抗菌・防かび剤のうち、有機系の有効成分としては、銀イオン、銅イオン及び亜鉛イオンから選ばれるイオンを含む有機錯体、例えば有機銀錯体、有機亜鉛錯体等が挙げられる。また、無機系の有効成分としては、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオン等をケイ酸塩系担体(ゼオライト等)、リン酸塩系担体、シリカ系担体、ガラス系担体に担持したものが挙げられる。有機亜鉛錯体の例としては、ジンクピリチオン(ビス(2-メルカプトピリジン-N-オキシド)亜鉛(II))等が挙げられる。
なお、これらの有効成分のみを抗菌・防かび剤として用いた場合、必要添加量が極端に僅かな量となることがあるため、濃度制御や分散性の確保が難しくなる場合には、分散助剤となる粘土鉱物の紛体等と混合して抗菌・防かび剤とすることがある。混合に好適な粘土鉱物の例としては、カオリナイト、ベントナイト、タルク等が挙げられる。
【0030】
有機窒素イオウ系抗菌・防かび剤の有効成分としては、アルキレンビスチオシアネート、3-イソチアゾロン系化合物、スルホンアミド系化合物、チアゾール系化合物が挙げられる。アルキレンビスチオシアネートとしては、メチレンビスチオシアネート、エチレンビスチオシアネートが挙げられる。3-イソチアゾロン系化合物としては、5-クロル-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンが挙げられる。スルホンアミド化合物としては、クロラミンT、N,N-ジメチル-N′-(フルオロジクロルメチルチオ)-N′-フェニルスルファミドが挙げられる。チアゾール系化合物としては、2-(4-チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウムが挙げられる。
【0031】
有機ブロモ系化合物としては、有機ブロモニトリル系化合物として2,2-ジブロモ-2-ニトロ-1-エタノール、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-ジアセトキシ-プロパン、β-ブロモ-β-ニトロスチレン、有機ブロモシアノ系化合物として2,2-ジブロモ-3-ニトリロ-プロピオンアミド;有機ブロモ酢酸エステル系化合物として1,4-ビス-(ブロモアセトキシ)-2-ブテン、有機ブロモスルホン系化合物としてビストリブロモメチルスルホンを用いるのが好ましい。
【0032】
有機窒素系化合物としては、S-トリアジン系化合物としてヘキサヒドロ-1,3,5-トリス-(2-ヒドロキシエチル)-S-トリアジン、ハロゲン化オキシム系化合物としてN,4-ジヒドロキシ-α-オキソベンゼンエタンイミドイルクロライド、アミノアルコール系化合物として2-(ヒドロキシメチルアミノ)エタノールを用いるのが好ましい。
【0033】
これらの有効成分のうち、有機窒素イオウ系化合物が好ましく、アルキレンビスチオシアネート、3-イソチアゾロン系化合物又はその塩、及びチアジアジン系化合物から選ばれる1種以上がより好ましい。
なお、これらの有効成分のみを抗菌・防かび剤として用いた場合、必要添加量が極端に僅かな量となることがあるため、濃度制御や分散性の確保が難しくなる場合には、分散助剤となる粘土鉱物の紛体等と混合して抗菌・防かび剤とすることがある。混合に好適な粘土鉱物の例としては、カオリナイト、ベントナイト、タルク等が挙げられる。また、常温域において液体である性状のものは、多孔質あるいは層構造を持った無機紛体に担持させて抗菌・防かび剤とすることがある。担持させる無機紛体の例としては、ゼオライト、ハイドロタルク等が挙げられる。
【0034】
(a)金属イオン系抗菌・防かび剤と(b)有機系抗菌・防かび剤の合計含有量は、抗菌防かび効果の点から、アクリルウレタン系塗料中の固形分100質量部当たり1.5~3質量部であるのが好ましく、2~3質量部であるのがさらに好ましい。
【0035】
(a)金属イオン系抗菌・防かび剤と(b)有機系抗菌・防かび剤の含有質量比(a/b)は、抗菌防かび効果の点から、0.5~3であるのが好ましく、0.75~2.5であるのがより好ましく、1~2であるのがさらに好ましい。
【0036】
本発明の窯業系化粧板においては、基板と下塗り層の間、すなわち基板の少なくとも片面には、シーラー層を設けるのが好ましい。シーラー層を設けることにより、基板の表層が強化されるとともに、表面へのアルカリの溶出が防止でき、その上層となる下塗り層との密着性も向上する。
シーラー層は、公知のシーラーを用いて形成させることができ、例えば湿気硬化型ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等の硬化性樹脂を用い、基板の表面に塗布し硬化させること等により行われる。シーラーは基板への含浸性が良く、高不揮発分であり、かつ、基板中の水分や雰囲気の湿気と反応して三次元架橋し、耐水性能等が良いポリイソシアネート又はポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物である遊離イソシアネート基を有するプレポリマー及び酢酸ブチルのような溶剤を主成分とする湿気硬化型ウレタン系のものが好適である。また、化粧板としての黄変が問題となる場合には、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)等の脂肪族イソシアネート、IPDI(イソホロンジイソシアネート)等の脂環族イソシアネートを使用することが好ましい。なお、昨今のVOC対策の観点から溶剤を含んでいない無溶剤シーラーまたは水系シーラーを使用することや、ケイ酸リチウムあるいはケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩系シーラー等の無機シーラーや、テトラエトキシシランやテトラメトキシシランなどを主成分とするシラン化合物系シーラーも使用できる。
シーラー層の形成は、例えば繊維強化セメント板の表面温度を50~60℃に加熱し、公知のロールコーター、スプレー等の方法でシーラーを塗布し、次いで硬化することにより行うことができる。含浸シーラーの粘度は、使用する含浸シーラーの種類、塗装方法を勘案して適宜決めることができ、硬化は、例えば加熱乾燥することにより行うことができる。
【0037】
また、本発明においては、基板の裏面も含浸シーラー処理して補強を行うことができる。化粧板の施工方法としては、接着工法が多く用いられており、基板の裏面を補強しておくと、施工性が向上するからである。基板の裏面についても含浸シーラー処理する場合、後述する下塗り層を形成する前に裏面の含浸シーラー処理を行うのが一般的であるが、下塗り層を形成した後に行ってもよい。
【0038】
本発明においては、含浸シーラーの成分中の有機固形分量が、基板の単位面積(m2)当たり3~50gとなるように設定するのが好ましい。有機固形分量が少なすぎると基板の表層がそれほど強化されない可能性がある。また、その上層となる下塗り層との密着性が低下する可能性もある。有機固形分量が多すぎると、基板の表層に余分な有機固形分が残り、この有機固形分が原因となってシーラー層内での凝集剥離や後工程での発泡、わき等の不良が生じる可能性がある。なお、わきとは発泡において、泡の中にある気体が塗膜を破ってできた微小な穴であり、塗装時の局部的厚膜に起因し、主に乾燥時の急激な昇温により生じる。含浸シーラーの成分中の有機固形分量は、基板の単位面積(m2)当たり10~40gとなるように設定するのがより好ましい。また、基板の裏面に含浸シーラー処理する場合、含浸シーラーの成分中の有機固形分量は、基板の単位面積(m2)当たり3~30gとなるように設定するのが好ましい。
【0039】
なお、本発明において、有機固形分量は、塗料原液の組成、希釈溶剤の使用量、実塗布量から簡単に算出することができる。
【0040】
本発明の窯業系化粧板は、シーラー層表面上に下塗り層を有する。下塗り層を形成することにより、基板の表面に存在する大小の凹凸部や、空隙部が塗料により充填され、凹凸感、塗料の吸い込み斑による光沢・色のばらつき感が抑制される。また、化粧板にピンホールのような不良が生じる可能性も減じられる。
【0041】
下塗り層の膜厚は、5~100μmであるのが、化粧板の表面平滑性及びその上下の塗膜との密着性、形成性、防水性、基材成分の析出防止性、塗膜ピンホールの防止、塗膜硬化性、表面異物埋没性、膜厚管理の容易性の点で好ましく、より好ましい膜厚は、20~90μmであり、さらに好ましくは25~70μmである。
【0042】
下塗り層を形成するための塗料は、表面平滑性、耐薬品性、塗膜密着性、研磨加工性、塗膜硬度、塗装容易性、クラック防止性の点から、不飽和ポリエステル系塗料が好ましく、具体的にはエポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、フタル酸ジアリルエステルなどのアリル系不飽和ポリエステル、無水マレイン酸やフマル酸などの不飽和二塩基酸とグリコール類との重縮合によるマレイン酸系不飽和ポリエステル、官能基としてカルボキシル基や水酸基を持つポリエステルモノアクリレート、アクリル酸と2塩基酸と2価アルコールから得られるポリエステルジアクリレート、3価以上の多価アルコールと2塩基酸とアクリル酸から得られるポリエステルポリアクリレート等のポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートオリゴマー、エポキシオリゴマー等のオリゴマー類、アクリルポリエーテル、ポリエーテルアクリレート等が挙げられる。また、下塗り層を形成するための塗料は紫外線硬化型塗料とすることが、塗布容易性や、塗膜の硬化速度が早い点、塗膜の被研削性や耐久性、基板や上塗り塗料との密着性に優れることから好ましい。
【0043】
下塗り塗料の塗布方法は、ロールコーターやフローコーター等を用いる方法が挙げられ、中でも、基板表面に存在する大小の凹凸部や、空隙部を塗料により充填する効果を考慮すると、ロールコーターが適している。また、塗料を均一に塗布するという観点からは、フローコーターが適している。
【0044】
本発明においては、下塗り層に含まれる有機固形分量は、基板の単位面積(m2)当たり3~70g、好ましくは10~65gに設定するのがよい。
【0045】
下塗り層を形成するための下塗り塗装は、1回で所定の膜厚の下塗り層を形成することもできるし、2回以上行って所定の膜厚の下塗り層を形成することもできる。例えば、下塗り塗装を2回行って所定の膜厚の下塗り層を形成する場合は、まず1回目の下塗り塗装をやや粘度の高い下塗り塗料(200~600dPa・s)で行い、紫外線の照射量を加減して完全には硬化しないように紫外線照射し、次にやや粘度の低い下塗り塗料(20~60dPa・s)で2回目の下塗り塗装を行った後に再度紫外線を照射して、下塗り塗料全体を完全に硬化させると良い。こうすることで1回目の下塗り塗装で基板表面に存在する大小の凹凸部や空隙部を塗料により充填する効果が得られ、2回目の下塗り塗装ではセルフレベリング効果により平滑な下塗り層の塗膜表面が得られることから、効率よく良好な下塗り層を形成することができる。また、下塗り塗料を完全に硬化させた後、ベルトサンダー等で研磨を行うことにより、さらに平滑な表面を有する下塗り層とすることもできる。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0047】
(1)繊維強化セメント板(基板)
基板として、ハイラック((株)エーアンドエーマテリアル製)を使用した。ハイラックは、JIS A 5430の表1において「けい酸カルシウム板 タイプ2 0.8けい酸カルシウム板」に該当する繊維強化セメント板である。なお、実施例及び比較例において使用したハイラックは、プラテン研磨機を用いて番手100番の研磨紙で研磨することにより、あらかじめ化粧層を形成する面(以下、表面)を平滑にしたものを使用した。
【0048】
(2)各塗膜層の形成
各塗膜層は、次の塗料と方法により形成した。
(a)シーラー層
ポリウレタン樹脂系無溶剤型シーラー:大日本塗料(株)
基板の表面に有機固形分が約30g/m2となるようロールコーターを用いて塗布した。
(b)下塗り層
下塗り1回目:変性エポキシ樹脂系紫外線硬化型下塗り塗料:大日本塗料(株)
シーラー層の上層に有機固形分が約37g/m2となるようロールコーターを用いて塗布した。
下塗り2回目:変性エポキシ樹脂系紫外線硬化型下塗り塗料:大日本塗料(株)
1回目の下塗り塗料を紫外線照射である程度硬化させた後、有機固形分量が約27g/m2となるようロールコーターを用いて塗布し、紫外線を照射して下塗り層全体を硬化させてから、ワイドベルトサンダーを用いて研磨材番手400番の研磨ペーパーで研磨して平滑な下塗り層とした。
(c)上塗り層(着色層)
2液硬化型アクリルウレタン樹脂系塗料(白):大日本塗料(株)
下塗り層の上層に有機固形分が約22g/m2となるようフローコーターを用いて塗布したのち、常温でセッティング後、雰囲気温度60℃にて2hr乾燥して着色層を形成した。
【0049】
(3)抗菌・防かび剤の添加
表1に示す水準で、(2)(c)の上塗り層形成前に、上塗り塗料中の固形分に対する割合で各抗菌・防かび剤を添加した塗料を用い、化粧板を作成し、試験体とした。使用した抗菌・防かび剤の種類は以下のとおりである。
A:富士ケミカル(株)製、TZA-206-200(金属イオン系:有機)
B:富士ケミカル(株)製、TZA301(有機窒素イオウ系)
C:(株)エム・アイ・シー製、PacificBeam MOLD/PBM-OK(ジヨードメチルパラトリルスルホン)
D:(株)シナネンゼオミック製、ゼオミックAJ(金属イオン系:無機)
【0050】
【表1】
【0051】
(4)抗菌性試験方法(JIS Z 2801:2010)
JIS Z 2801:2010に従い、図1に示す抗菌性試験工程を、図2に示す試験方法に従って行った。
【0052】
(5)かび抵抗性試験方法(JIS Z 2911:2018 付属書Aプラスチック製品の試験B法)
評価手順は<1>寒天培地の調整、<2>胞子懸濁液の調整、<3>試験片へのかびの接種、<4>培養、<5>目視による評価からなる。
<1>寒天培地の調整
シャーレにグルコース添加無機塩寒天培地を、培地の厚さが約5mmとなるように無菌的に分注し、放冷して固化させる。
<2>胞子懸濁液の調整
各かびの単一胞子懸濁液を同量ずつ混合し、混合胞子懸濁液とする。懸濁液の調整はグルコース添加無機塩溶液を用いる。かび種は表2の5種とする。
【0053】
【表2】
【0054】
<3>試験片へのかびの接種
試験片は40mm角に切断し、可能な限り水平に試験用寒天培地上に置く。このとき、試験片がシャーレの壁に触れないようにする。
試験片及び寒天培地表面に混合胞子懸濁液を適切量均等に噴霧、またはピペットで均一に滴下する。
<4>培養
試験用寒天培地の蓋をして、30℃、湿度95%以上で4週間培養する。このとき試験体表面に水滴が落ちないように注意する。
<5>目視による評価
最初は肉眼によって観察し、必要に応じて実体顕微鏡で観察する。かびの発育状態の評価方法は表3による。N=5で評価を行い、得られた5つの評価の中央値をもって評価結果とする。
【0055】
【表3】
【0056】
SIAA(抗菌製品技術協議会)では、防かび性ありと判断する条件として、(防かび加工されている)加工品の表示が2以下、ブランク(無加工品)の表示が2以上かつ、加工品の表示がブランクより1段階以上下回っていることと定められている。
また、抗菌性試験と同様に前処理として耐水区分と耐光区分があり、その両方で防かび性を有していないとSIAAでは防かび性を有すると認められない。内装化粧板を想定し、耐水区分は0、耐光区分は1として評価した。
なお、耐水区分、耐光区分は以下の基準による。
SIAA 試験法S08 抗菌力持続性試験法 耐水性
SIAA 試験法S09 抗菌力持続性試験法 耐光性
【0057】
結果を表4及び表5に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
表4及び表5より、実施例1~5については、優れた抗菌性と十分な防かび性を有しているのがわかる。また、比較例1及び2のように、実施例と同じ抗菌・防かび剤を単独で添加した場合には抗菌性と防かび性の両立ができなかった。また、比較例3は、ヨウ素を含む有機系の抗菌・防かび剤を添加しているが、かびに対するヨウ素の効果が大きく出ているものの、抗菌性は認められず、また、ヨウ素を含むことから塗膜が黄ばんでしまう傾向があり、耐光性試験後にはさらに黄変が確認されたため、化粧板への適用は難しいという結果であった。比較例4は、ゼオライトに銀イオンと亜鉛イオンを担持させたもので、単独で使用しても抗菌性は高いが、かび抵抗性は基準に達しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の窯業系化粧板は、優れた抗菌防かび性を有するとともに、優れた不燃性、強度、耐光性等を保持するので、学校、病院、食品工場、厨房等の抗菌防かび性が求められる建築物等の内装仕上材として広く適用することができる。
図1
図2