(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ミシンのモーター制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/028 20160101AFI20231012BHJP
D05B 69/00 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
H02P29/028
D05B69/00 A
(21)【出願番号】P 2019130060
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】南 潔
(72)【発明者】
【氏名】下川 丈治
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-089296(JP,A)
【文献】国際公開第2018/041854(WO,A1)
【文献】特開2009-017690(JP,A)
【文献】特開平07-336879(JP,A)
【文献】特開2001-173345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/028
D05B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象のモーターに対する目標回転数を設定する設定入力部と、
前記モーターの動作速度を検出するための検出部と、
前記モーターの動作速度が前記目標回転数となるようにPWM制御を行うフィードバック制御部と、
前記モーターの駆動中において、周期的に前記フィードバック制御部が定める前記モーターに対する駆動電流のオン期間の長さ又は比率が予め定められた期間閾値以上となる場合にカウント値を加算し、前記期間閾値未満となる場合にカウント値を減算し、前記カウント値が規定値を超えた場合に前記モーターの過負荷の発生と判定する第一負荷判定部と、
前記モーターの過負荷の発生時に、負荷回避制御を実行する駆動制御部とを備え
、
前記第一負荷判定部は、前記検出部で検出される前記モーターの動作速度又は前記目標回転数が予め定められた判定閾値に満たない場合に、前記モーターの過負荷の発生の有無を判定し、
前記フィードバック制御部は、前記PWM制御における前記モーターに対する駆動電流のオン期間の長さ又は比率について予め定められた制限値を超えないようにPWM制御を行い、
前記検出部で検出される前記モーターの動作速度又は前記目標回転数が前記判定閾値以上であって、前記目標回転数に対して、周期的に前記検出部で検出される前記モーターの動作速度が予め定められた速度閾値未満となる場合にカウント値を加算し、前記速度閾値以上となる場合にカウント値を減算し、前記カウント値が規定値を超えた場合に、前記モーターの過負荷の発生と判定する第二負荷判定部を備えることを特徴とするミシンのモーター制御装置。
【請求項2】
前記第一負荷判定部は、前記目標回転数ごとに、前記期間閾値を定めていることを特徴とする請求項1に記載のミシンのモーター制御装置。
【請求項3】
前記駆動制御部は、前記負荷回避制御として、前記モーターを停止させることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載のミシンのモーター制御装置。
【請求項4】
前記駆動制御部は、前記負荷回避制御として、前記モーターの過負荷の発生を報知する制御を行うことを特徴とする請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載のミシンのモーター制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンのモーター制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ミシンに搭載されたモーター、例えば、ミシンモーターは、目標回転数となるようにPWM(Pulse width modulation)制御が行われていた。即ち、ミシンの操作者により目標回転数が設定されると、周期的にミシンモーターの駆動電流がオン-オフされ、目標回転数に満たない場合にはデューティー比を大きくし、目標回転数に達するとデューティー比を小さくする電流制御が行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のモーター制御装置では、駆動系に何らかの外的要因により停止には到らない程度の異常負荷が生じると、PWM制御により駆動電流が大きな状態でモーターが駆動を継続する。
このように大きな電流が流れ続けることで、モーターの発熱や破損、不調、短寿命化を生じるおそれがあった。
【0005】
本発明は、モーターを適切に保護するミシンのモーター制御装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、ミシンのモーター制御装置において、
制御対象のモーターに対する目標回転数を設定する設定入力部と、
前記モーターの動作速度を検出するための検出部と、
前記モーターの動作速度が前記目標回転数となるようにPWM制御を行うフィードバック制御部と、
前記モーターの駆動中において、周期的に前記フィードバック制御部が定める前記モーターに対する駆動電流のオン期間の長さ又は比率が予め定められた期間閾値以上となる場合にカウント値を加算し、前記期間閾値未満となる場合にカウント値を減算し、前記カウント値が規定値を超えた場合に前記モーターの過負荷の発生と判定する第一負荷判定部と、
前記モーターの過負荷の発生時に、負荷回避制御を実行する駆動制御部とを備え、
前記第一負荷判定部は、前記検出部で検出される前記モーターの動作速度又は前記目標回転数が予め定められた判定閾値に満たない場合に、前記モーターの過負荷の発生の有無を判定し、
前記フィードバック制御部は、前記PWM制御における前記モーターに対する駆動電流のオン期間の長さ又は比率について予め定められた制限値を超えないようにPWM制御を行い、
前記検出部で検出される前記モーターの動作速度又は前記目標回転数が前記判定閾値以上であって、前記目標回転数に対して、周期的に前記検出部で検出される前記モーターの動作速度が予め定められた速度閾値未満となる場合にカウント値を加算し、前記速度閾値以上となる場合にカウント値を減算し、前記カウント値が規定値を超えた場合に、前記モーターの過負荷の発生と判定する第二負荷判定部を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のミシンのモーター制御装置において、
前記第一負荷判定部は、前記目標回転数ごとに、前記期間閾値を定めていることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のミシンのモーター制御装置において、
前記駆動制御部は、前記負荷回避制御として、前記モーターを停止させることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のミシンのモーター制御装置において、
前記駆動制御部は、前記負荷回避制御として、前記モーターの過負荷状態を報知する制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、モーターの過負荷状態を適正に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】発明の実施形態であるミシンのブロック図である。
【
図2】目標回転数200[spm]であってミシンモーターの無負荷状態におけるモータードライブ信号の変化とモーター電流の変化を示す線図である。
【
図3】目標回転数200[spm]であってミシンモーターの異常負荷状態におけるモータードライブ信号の変化とモーター電流の変化を示す線図である。
【
図4】目標回転数が200[spm]、330[spm]、420[spm]のそれぞれの場合において、ミシンモーターの無負荷時と異常負荷時のそれぞれ場合に得られたオン期間の最小値と最大値とを示す図表である。
【
図5】
図5(A)は目標回転数200[spm]におけるミシンモーターの無負荷時と異常負荷時のそれぞれ場合に取り得るオン期間の値の数値幅を示すグラフ、
図5(B)は目標回転数330[spm]における同グラフ、
図5(C)は目標回転数420[spm]における同グラフである。
【
図6】目標回転数1500[spm]であってミシンモーターの無負荷状態におけるモータードライブ信号の変化とモーター電流の変化を示す線図である。
【
図7】複数の目標回転数で駆動するミシンモーターに対して大きさの異なる複数段階の負荷を加えた場合の検出回転数を示した図表である。
【
図9】モーター制御装置によるミシンモーターの制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発明の実施形態の概要]
以下、本発明の実施形態であるモーター制御装置90を搭載したミシン100について説明する。
図1はミシン100の制御系を示すブロック図である。
【0015】
[ミシン]
ミシン100は、縫い針を保持する針棒の上下動を行う針上下動機構、縫い針の上糸に下糸を絡める釜機構、針板上で生地を送る布送り機構、上糸を引き上げて縫い目を締結する天秤機構、上糸に張力を付与する糸調子装置、上記各構成を格納又は保持するミシンフレーム等のように、ミシン一般に設けられている周知の構成を備えている。
そして、ミシン100は、針上下動機構の駆動源となるミシンモーター16を制御するモーター制御装置90を備えている。
なお、ミシン100は、一般的なミシンと同一の構成からなるので、モーター制御装置90を除く周知の構成については、詳細な説明は省略する。
【0016】
ミシンフレームは、ミシンベッド部とミシンアーム部と立胴部とを有し、ミシンベッド部における針落ち位置には針穴が形成された針板が設けられている。
【0017】
針上下動機構は、ミシンフレームの内部において回転可能に支持された上軸と、上軸を回転駆動するサーボモーターからなるミシンモーター16と、ミシンモーター16の回転数を検出するエンコーダ161と、上軸の一端部に固定装備された針棒クランクと、針棒クランクと針棒とを連結するクランクロッド等を備えている。
上記構成により、針上下動機構は、ミシンモーター16が上軸を回転させ、針棒は上軸一回転につき一往復分の上下動を行う。
【0018】
釜機構は、針板の下側に設けられており、ボビンを内側に擁する中釜と、中釜の外周においてミシンモーター16を駆動源として回転動作を行う外釜とを備えている。そして、外釜に設けられた剣先により縫い針の上糸のループを捕捉して中釜から繰り出された下糸に上糸を絡めて縫い目の形成を行う。
【0019】
布送り機構は、ミシンモーター16を駆動源として、針板の下側で送り歯を布送り方向に沿って周回移動させる。その際、送り歯は、その上端部が針板の開口から出没し、針板上に載置された布地に下から接して布送り方向に所定のピッチで送ることができる。
天秤機構は、ミシンモーター16を駆動源として往復回動動作を行う天秤を備え、上糸が縫い針に向かう糸経路の途中で縫い針の上下動と同期的に上糸の引き上げと解放とを行い、上糸と下糸からなる縫い目に適度に締め付け力を付与する。
糸調子装置は、上糸の供給源から天秤に向かう糸経路の途中に設けられ、縫い目の形成の際に、上糸に適度に糸張力を付与する。
【0020】
[モーター制御装置]
図1に示すように、モーター制御装置90は、マイコン91及びメモリ92を備え、メモリ92内に格納された各種のプログラム及び各種の設定データに従ってマイコン91が後述するミシンモーター16の動作制御を実行する。
また、マイコン91には、ミシンモーター16の目標回転数を入力するための設定入力部としてのペダル93がインターフェイス93aを介して接続されている。
【0021】
さらに、マイコン91には、ミシンモーター16がモータードライバ16aを介して接続されている。
そして、ミシンモーター16には、その軸角度を検出する検出手段としてのエンコーダ161が併設されており、エンコーダ161は、モーター角度検出回路161aを介してマイコン91に接続されている。
エンコーダ161は、ミシンモーター16の出力軸の軸角度の変化に伴い、一定の微小な角度間隔でパルス出力を行い、モーター角度検出回路161aは、エンコーダ161からのパルスをカウントする。そして、マイコン91は、そのカウント値からミシンモーター16の出力軸角度を算出する。
なお、ミシンモーター16の出力軸角度は、上軸角度と一致している。上軸角度は一回転(0~360°)で縫い針の一往復の上下動に対応している。そして、以下の説明では、上軸角度0°が縫い針の上死点に対応し、180°が下死点に対応するものとする。
マイコン91は、一定の周期でエンコーダ161のパルスのカウント値をモーター角度検出回路161aから取得しており、周期的なパルスカウント値の変化からミシンモーター16の動作速度である回転数を取得している。つまり、エンコーダ161及びモーター角度検出回路161aは、ミシンモーター16の動作速度を検出するための検出部として機能する。
【0022】
ペダル93は、ミシンの操作者が足で踏み込む踏板を備え、踏板の踏み込み量に応じて、ミシンモーター16の目標回転数を設定入力することができる。
【0023】
[ミシンモーターの動作制御]
上記マイコン91は、メモリ92内に格納された各種のプログラムを実行することにより、フィードバック制御部94、第一負荷判定部95、第二負荷判定部96、駆動制御部97として機能する。
以下、これら各種の機能について説明する。なお、以下の説明において挙げられる具体的な数値は全て例示であり、当該数値に限定されるものではなく、全て、装置の特性等に応じて、適宜調整や変更が可能である。
【0024】
[フィードバック制御部]
フィードバック制御部94は、ペダル93から入力される目標回転数とエンコーダ161からモーター角度検出回路161aを介して得られるミシンモーター16の検出回転数との差分を求め、差分値の大きさに応じて、ミシンモーター16に対して行われるPWD制御のデューティー比を決定し、モータードライバ16aに入力する。
【0025】
図2は、目標回転数200[spm]であってミシンモーター16の無負荷状態における、モータードライブ電圧(モータードライブ信号とする)の変化とその際のミシンモーター16に流れるモーター電流の変化を示す線図である。
PWM制御では、
図2のモータードライブ信号の線図に示すように、例えば、モーター電源の電源周波数50[Hz]の場合、10[ms]をPWM制御の一周期Tとして、当該一周期Tの間で電源のオンとオフとを切り替え、オン期間T
ONの比率(デューティー比)の大きさを調整することにより、ミシンモーター16に流れる電流量を調整して、モーター出力を制御する。
従って、フィードバック制御部94は、目標回転数に対する検出回転数の差分値が大きくなると、デューティー比を大きくし、差分値が小さくなるとデューティー比を小さくする制御を周期Tで繰り返し実行する。
なお、
図2のモータードライブ信号の線図では、電圧の立ち上がり部分がオフ期間を示し、電圧の立ち下がり部分がオン期間T
ONを示している。
【0026】
なお、モーター保護のために、PWM制御におけるオン期間TONの制限値は、オフ期間が0とならない範囲で一定の値(例えば、8[ms])に定められており、フィードバック制御部94は、差分値が大きくなってもオン期間TONは制限値を超えないように制御される。
【0027】
[第一負荷判定部]
第一負荷判定部95は、フィードバック制御部94が実行するPWM制御におけるミシンモーター16に対する駆動電流のオン期間TONの長さに応じて、ミシンモーター16の過負荷の有無を判定する。
なお、この第一負荷判定部95によるミシンモーター16の過負荷の有無の判定は、ミシンモーター16の目標回転数が予め定められた判定閾値に満たない場合(低速域である場合)に実行され、ミシンモーター16の目標回転数が判定閾値以上である場合(高速域である場合)には、後述する第二負荷判定部96によって過負荷の有無の判定が行われる。
【0028】
ミシンモーター16は、目標回転数を一定値に固定した場合に、ミシンモーター16に加わる負荷の増加に対して、目標回転数を維持するためにオン期間TONが長く(デューティー比が大きく)なる。
【0029】
図3は目標回転数200[spm]であってミシンモーター16の異常負荷状態における、モータードライブ信号の変化とミシンモーター16のモーター電流の変化を示す線図である。
また、
図4は目標回転数が200[spm]、330[spm]、420[spm]のそれぞれの場合において、ミシンモーター16の無負荷時と異常負荷時のそれぞれの場合に得られたオン期間T
ONの最小値と最大値とを示す図表である。
また、
図5(A)は目標回転数200[spm]におけるミシンモーター16の無負荷時と異常負荷時のそれぞれの場合に取り得るオン期間T
ONの値の数値幅を示すグラフ、
図5(B)は目標回転数330[spm]における同グラフ、
図5(C)は目標回転数420[spm]における同グラフである。
なお、「無負荷」とは、無負荷に加えて、適正に縫製が行われている状況でミシンモーター16に生じる程度の負荷状態を含む意味であり、「異常負荷」とは、適正に縫製が行われている状況でミシンモーター16のPWM制御の一周期に生じる負荷を逸脱する程度に大きな負荷の発生状態をいう。「過負荷」とは、異常負荷の発生が続くことで、モーターの発熱や破損、不調、短寿命化を生じるおそれがある状態をいう。
【0030】
フィードバック制御が行われている状況下では、
図3に示す異常負荷の場合には、前述した
図2と比べて、オン期間T
ONが長くなり、デューティー比が大きくなる。
また、
図4及び
図5(A)~
図5(C)に示すように、目標回転数が高くなるほどオン期間T
ONが長くなる。
【0031】
従って、第一負荷判定部95では、目標回転数ごとに、フィードバック制御部94が決定するオン期間TONの値について期間閾値を定め、当該期間閾値を超えた場合にミシンモーター16に異常負荷が生じていると判定する。
【0032】
より具体的には、
図5(A)~
図5(C)に示すように、目標回転数について0~200[spm]、200~330[spm]、330~420[spm]のように、複数の帯域を設定し、各帯域ごとにオン期間T
ONの期間閾値を設定する。
例えば、
図5(A)の場合には、期間閾値の上限として5.44[ms]、下限として4.00[ms]、
図5(B)の場合には、期間閾値の上限として5.96[ms]、下限として4.24[ms]、
図5(C)の場合には、期間閾値の上限として6.44[ms]、下限として4.52[ms]として、下限と上限の間で期間閾値が設定される。
【0033】
そして、第一負荷判定部95では、フィードバック制御部94が決定するオン期間TONの値が期間閾値以上となる場合には異常負荷発生を決定するカウント値を1加算し、期間閾値未満となる場合にはカウント値を1減算する。そして、このカウントをPWM制御の周期で繰り返し実行し、カウント値が規定値を超えた場合に過負荷の発生と判定する。
なお、この判定の結果は、後述する駆動制御部97に入力される。
【0034】
[第二負荷判定部]
第二負荷判定部96は、ミシンモーター16の目標回転数が前述した判定閾値以上となる高速域であって、目標回転数に対する、ミシンモーター16の検出回転数の低下状態から過負荷の発生を判定する。
【0035】
図6は目標回転数1500[spm]であってミシンモーター16の無負荷状態における、モータードライブ信号の変化とその際のミシンモーター16に流れるモーター電流の変化を示す線図である。
また、
図7は目標回転数200~1500[spm]の範囲内の複数の目標回転数で駆動するミシンモーター16に対して大きさの異なる複数段階の負荷を加えた場合の検出回転数を示した図表、
図8は
図7の検出回転数を示す線図である。
なお、
図7及び
図8における負荷の数値は、200[spm]でミシンモーター16がロックする負荷トルクを100%としたときの百分率で示している。
【0036】
前述した第一負荷判定部95では、
図5(A)~
図5(C)に示すように、目標回転数が高くなるにつれて、無負荷状態でもオン期間T
ONが徐々に長くなることから、異常負荷を判定するための境界となる期間閾値の数値選択が困難となる。
一方、フィードバック制御部94では、前述したように、ミシンモーター16の保護のために、オン期間T
ONの制限値(前述の例では8[ms])を定めている。
従って、
図6に示すように、目標回転数を高くすると無負荷状態でもオン期間T
ONがほぼ上限値に近くなり、オン期間T
ONをそれ以上長くする余地がないため、ミシンモーター16の駆動速度(検出回転数)は目標回転数に達することなく低下を生じる。
従って、目標回転数の高速域では、オン期間T
ONの値ではなく、目標回転数に対する検出回転数の低下から過負荷の発生を良好に判定することができる。
【0037】
具体的には、第二負荷判定部96では、[目標回転数-10%]を検出回転数の速度閾値とし、検出回転数が上記速度閾値以上となる場合には異常負荷発生を決定するカウント値を1加算し、上記速度閾値未満となる場合にはカウント値を1減算する。そして、このカウントをPWM制御の周期で繰り返し実行し、カウント値が規定値を超えた場合に過負荷の発生と判定する。
【0038】
図8において符号Lは速度閾値のラインである。図示のように、ミシンモーター16の低速域では負荷が過大となるまでラインLを下回らないが、高速域では過大となる手前の負荷によって回転数の減少が生じるので、速やかに過負荷を検出することができる。
なお、速度閾値として目標回転数から減じる比率は10%に限らず、適宜選択可能である。
また、第二負荷判定部96の判定の結果も、後述する駆動制御部97に入力される。
【0039】
[駆動制御部]
駆動制御部97は、第一負荷判定部95又は第二負荷判定部96からのミシンモーター16の過負荷の発生の判定に基づいて負荷回避制御を実行する。
負荷回避制御は、具体的にはミシンモーター16の駆動停止である。但し、負荷回避制御は、これに限定されず、例えば、モーター制御装置90に表示装置や音声出力装置を設け、過負荷の発生を表示又は音声で報知しても良い。また、負荷回避制御として、過負荷の発生を表示又は音声で報知してミシンモーター16の駆動停止を行っても良い。
【0040】
[モーター制御装置によるミシンモーターの制御]
上記モーター制御装置90によるミシンモーター16の制御について
図9のフローチャートに基づいて説明する。
ミシンの操作者によりペダル93が踏み込まれると、フィードバック制御部94がペダル93の踏み込み量に応じて目標回転数を設定すると共にミシンモーター16の駆動を開始する(ステップS1)。
また、ミシンモーター16の駆動開始と共に、第一負荷判定部95及び第二負荷判定部96において過負荷発生を決定する異常負荷のカウント値C1,C2を0にリセットする(ステップS3)。
【0041】
次に、現在の目標回転数V0が低速域か高速域かを判定する回転数の判定閾値V1以上であるか否かを判定する(ステップS5)。
そして、目標回転数V0が判定閾値V1よりも小さく、ミシンモーター16が低速域で回転している場合には(ステップS5:NO)、第一負荷判定部95が、ミシンモーター16におけるPWD制御のオン期間TONが期間閾値T1以上か判定する(ステップS7)。
【0042】
その結果、オン期間TONが期間閾値T1未満の場合には(ステップS7:NO)、異常負荷のカウント値C1を1減算する(ステップS9)。但し、C1>0とする。
一方、オン期間TONが期間閾値T1以上の場合には(ステップS7:YES)、異常負荷のカウント値C1を1加算する(ステップS11)。
そして、上記カウント値C1が規定値Cr1に達したか否かを判定し(ステップS13)、達した場合には、ステップS15に処理を進め、達していない場合にはステップS5に処理が戻される。
なお、上記ステップS5~S13までの処理は、PWD制御の一周期と同期して実行される。
【0043】
また、前述したステップS5において、ミシンモーター16の目標回転数V0が判定閾値V1以上の高速域となった場合には(ステップS5:YES)、第二負荷判定部96が、ミシンモーター16の検出回転数Vが目標回転数V0の係数(例えば0.9)倍に定められた速度閾値より小さいか否かを判定する(ステップS17)。
【0044】
その結果、ミシンモーター16の検出回転数Vが速度閾値以上の場合には(ステップS17:NO)、異常負荷のカウント値C2を1減算する(ステップS19)。但し、C1>0とする。
一方、ミシンモーター16の検出回転数Vが速度閾値未満の場合には(ステップS17:YES)、異常負荷のカウント値C2を1加算する。
そして、上記カウント値C2が規定値Cr2に達したか否かを判定し(ステップS23)、達した場合にはステップS15に処理を進め、達していない場合にはステップS5に処理が戻される。
なお、上記ステップS5~S23までの処理は、PWD制御の一周期と同期して実行される。
【0045】
そして、ステップS15において、駆動制御部97により、負荷回避制御が実行され、ミシンモーター16に過負荷が発生しているとの判定に従って、ミシンモーター16の駆動が停止される。
【0046】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記ミシン100のモーター制御装置90は、ミシンモーター16の駆動中において、周期的にフィードバック制御部94が定める、PWM制御におけるミシンモーター16に対する駆動電流のオン期間TONの長さ(デューティー比)に応じて、ミシンモーター16の過負荷の有無を判定する第一負荷判定部95を備えている。
ミシンモーター16は、異常負荷の際には、デューティー比が大きくなりオン期間TONが長くなる傾向が顕著に現れるので、第一負荷判定部95は、ミシンモーター16の過負荷を適正に検出することができ、ミシンモーター16の過負荷による発熱や破損、不調、短寿命化等を効果的に回避することが可能となる。
【0047】
特に、第一負荷判定部95は、駆動電流のオン期間TONの長さ又は比率(デューティー比)が予め定められた期間閾値T1を超えた場合にミシンモーター16の異常負荷の発生と判定するので、過負荷の判定をより明確且つ適正に判定することができる。
さらに、第一負荷判定部95は、駆動電流のオン期間TONの長さが期間閾値T1を超えるか超えないかによってカウント値を増減させてミシンモーター16の過負荷の発生を判定するので、一時のノイズ等の影響を緩和して、より適正に過負荷の発生を検出することができる。
【0048】
また、第一負荷判定部95は、目標回転数Vが予め定められた判定閾値V1に満たない場合に、ミシンモーター16の過負荷の有無を判定する。
ミシンモーター16の回転数が上がると、無負荷と異常負荷の駆動電流のオン期間TONの長さ又はデューティー比の数値範囲の境界となる数値幅が狭くなり、これらを精度良く判定することが難しくなる。従って、第一負荷判定部95は、目標回転数Vの制限値を判定閾値V1とする回転数の範囲で過負荷の判定を行い、判定の精度を高く維持することを可能としている。
【0049】
また、目標回転数Vが予め定められた判定閾値V1以上である場合には、目標回転数に対して、検出回転数が速度閾値未満となる場合に、ミシンモーター16の過負荷の発生と判定する第二負荷判定部により判定を行っている。
これにより、ミシンモーター16をより広範囲の回転数で過負荷の発生を検出することが可能となる。
また、第二負荷判定部96の場合も、検出回転数が速度閾値を超えるか超えないかによってカウント値を増減させてミシンモーター16の過負荷の発生と判定するので、第一負荷判定部95と同様に、一時のノイズ等の影響を緩和して、より適正に過負荷の発生を検出することができる。
【0050】
また、駆動制御部97は、負荷回避制御として、ミシンモーター16を停止させるので、過負荷でのミシンモーター16の駆動を低減回避することが出来、ミシンモーター16を効果的に保護することが可能である。
また、モーター制御装置90に表示部や音声出力部を設けて、駆動制御部97が負荷回避制御として、ミシンモーター16の過負荷状態を報知する制御を行う構成とした場合には、ミシンの操作者にすぐにミシンモーター16の過負荷を知らしめることが出来、その時の状況に応じた対応策をとることが可能である。
【0051】
[その他]
上記モーター制御装置90において、フィードバック制御部94、第一負荷判定部95、第二負荷判定部96、駆動制御部97の各種機能は、マイコン91がメモリ92内のプログラムを実行することにより実現する構成を例示したが、これらの各種機能に一部又は全部については、チップや回路等のハードウェアにより構成してもよい。
【0052】
また、モーター制御装置90では、目標回転数を判定閾値と比較して第一負荷判定部95と第二負荷判定部96のいずれにより過負荷の判定を行うかを決定する場合を例示したが、目標回転数ではなく検出回転数を判定閾値と比較して第一負荷判定部95と第二負荷判定部96のいずれにより過負荷の判定を行うかを決定するように処理を行っても良い。
【0053】
また、第二負荷判定部96の速度閾値を、目標回転数の1未満の係数倍とする例を示したが、これに限定されない。
例えば、第二負荷判定部96の速度閾値を、目標回転数から所定数減じた回転数を速度閾値としても良い。この場合、目標回転数から減じる所定数は、目標回転数の大きさごと(一定の帯域ごとでも良い)に個別に定めても良い。
【0054】
また、モーター制御装置90の制御対象はミシンモーター16に限定されない。
例えば、ミシン100がミシンモーター以外の他のモーターも備えている場合には、当該他のモーターに対して、上述したミシンモーター16のモーター制御装置90と同一の構成で過負荷を判定するモーター制御装置をミシンに搭載しても良い。
【符号の説明】
【0055】
16 ミシンモーター(モーター)
16a モータードライバ
90 モーター制御装置
91 マイコン
92 メモリ
93 ペダル(設定入力部)
94 フィードバック制御部
95 第一負荷判定部
96 第二負荷判定部
97 駆動制御部
100 ミシン
161 エンコーダ(検出部)
161a モーター角度検出回路(検出部)
T1 期間閾値
TON オン期間
V 検出回転数
V0 目標回転数
V1 判定閾値