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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】巻取機およびフィルム製造システム
(51)【国際特許分類】
   B65H 18/26 20060101AFI20231012BHJP
   F16F 9/24 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B65H18/26
F16F9/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019153654
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021031241
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-03-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】串▲崎▼ 義幸
(72)【発明者】
【氏名】二宮 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 素惟
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-138973(JP,A)
【文献】特開平10-220510(JP,A)
【文献】特開2019-051193(JP,A)
【文献】特表2001-509866(JP,A)
【文献】実公平08-003407(JP,Y1)
【文献】特開2008-043996(JP,A)
【文献】特開平08-307066(JP,A)
【文献】特開昭60-228347(JP,A)
【文献】特開平11-153171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 18/00- 18/28
F16F 9/00- 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを巻き取る巻取ロールと、
前記巻取ロールに前記フィルムを押さえ付ける押さえロールと、
前記押さえロールの姿勢を制御するエアシリンダと、
前記押さえロールの振動を抑制する振動抑制部と、
を備える、巻取機であって、
前記振動抑制部は、
粘性流体によって前記押さえロールの振動を抑制する第1機構部と、
弾性体によって前記押さえロールの振動を抑制する第2機構部と、
を有し、
前記第1機構部は、前記押さえロールの振動速度に比例する力を発生し、
前記第2機構部は、前記押さえロールの振動変位に比例する力を発生する、巻取機。
【請求項2】
請求項1に記載の巻取機において、
前記振動抑制部は、
変位可能なピストンロッドと、
前記ピストンロッドと一体的に変位するピストンと、
前記ピストンを内部に配置する外筒と、
前記外筒の内部に封入された前記粘性流体と、
前記ピストンロッドが挿入され、かつ、前記ピストンロッドの一端部と前記外筒の一端部との間に挟まれる前記弾性体と、
を含む、巻取機。
【請求項3】
請求項1に記載の巻取機において、
前記第2機構部により、前記第1機構部による前記押さえロールの復帰時間よりも短い復帰時間とする、巻取機。
【請求項4】
請求項に記載の巻取機において、
前記第1機構部により発生する前記力の位相は、前記第2機構部により発生する前記力の位相よりも遅れる、巻取機。
【請求項5】
請求項1に記載の巻取機において、
前記振動抑制部は、前記巻取ロールに生じる凸部に起因して前記巻取ロールへの前記押さえロールの接触が外れることによって発生する振動を抑制する、巻取機。
【請求項6】
請求項5に記載の巻取機において、
前記凸部は、前記フィルムを切断する際に発生する折れ皺である、巻取機。
【請求項7】
請求項1に記載の巻取機において、
前記フィルムは、樹脂フィルムである、巻取機。
【請求項8】
フィルムを巻き取る巻取機を含む、フィルム製造システムであって、
前記巻取機は、
前記フィルムを巻き取る巻取ロールと、
前記巻取ロールに前記フィルムを押さえ付ける押さえロールと、
前記押さえロールの姿勢を制御するエアシリンダと、
前記押さえロールの振動を抑制する振動抑制部と、
を有し、
前記振動抑制部は、
粘性流体によって前記押さえロールの振動を抑制する第1機構部と、
弾性体によって前記押さえロールの振動を抑制する第2機構部と、
を有し、
前記第1機構部は、前記押さえロールの振動速度に比例する力を発生し、
前記第2機構部は、前記押さえロールの振動変位に比例する力を発生する、フィルム製造システム。
【請求項9】
請求項に記載のフィルム製造システムにおいて、
前記フィルムを流すライン速度は、300m/分以上である、フィルム製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻取機およびフィルム製造システムに関し、例えば、樹脂フィルムを巻き取る巻取機に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2010-138973号公報(特許文献1)には、加圧手段や振動減衰手段の反発力や減衰力を調整可能であり、かつ、押圧ロールを巻取ロールに押さえ付けることが可能な振動抑制装置に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-138973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、巻取機は、フィルムの巻き取りを安定化させるために、押さえロールによってフィルムの表面に押し付け圧を加えながらフィルムを巻き取ることが行なわれる。そして、巻取機においては、ある一定の数量のフィルムを巻取ロールに巻き付けた後、連続して連なるフィルムを切断して、新しい巻取ロールに巻替えを実施する。この場合、折れ皺などによってフィルムの表面に凸部が発生することがある。この凸部を押さえロールが乗り越えようとする際、押さえロールが巻取ロールの表面からバウンドして、押さえロールが振動する結果、フィルムの巻きズレが生じる。このようなフィルムの巻きズレは、フィルムの品質低下を招くことになる。したがって、たとえ、フィルムを切断する際に折れ皺が発生したとしても、フィルムの品質を確保するための工夫が望まれている。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態における巻取機は、押さえロールの振動を抑制する振動抑制部を備える。このとき、振動抑制部は、粘性流体によって押さえロールの振動を抑制する第1機構部と、弾性体によって前記押さえロールの振動を抑制する第2機構部とを有する。
【発明の効果】
【0007】
一実施の形態によれば、巻取機におけるフィルムの巻きズレを抑制することができる。この結果、一実施の形態によれば、フィルムの品質低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態におけるフィルム製造システムの構成を示す模式図である。
図2】巻取機の簡略化した構成を示す模式図である。
図3】巻取機の動作を説明する模式図である。
図4】巻取機の動作を説明する模式図である。
図5】巻取機の動作を説明する模式図である。
図6】巻きズレが発生するメカニズムを説明するフローチャートである。
図7】巻きズレが発生するメカニズムを模式的に示す図である。
図8】巻きズレが発生するメカニズムを模式的に示す図である。
図9】関連技術における巻取機の一部を模式的に示す図である。
図10】関連技術におけるダンパを備える巻取機の一部を示す図である。
図11】(a)および(b)は、ダンパの具体的な構造例を示す模式図である。
図12】実施の形態における巻取機の一部を模式的に示す図である。
図13】ショックアブソーバを備える巻取機の一部を示す図である。
図14】(a)および(b)は、ショックアブソーバの構造例を示す図である。
図15】ダンパにおいて、ピストンロッドのストローク原点からの変位とピストンロッドがストローク原点まで復帰するのに要する復帰時間との関係を示す図である。
図16】ショックアブソーバにおいて、ピストンロッドのストローク原点からの変位とピストンロッドがストローク原点まで復帰するのに要する復帰時間との関係を示す図である。
図17】ライン速度を400m/分とした場合において、押さえロールの円周上の移動距離と押さえロールの原点からの変動量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0010】
<フィルム製造システム>
図1は、本実施の形態におけるフィルム製造システムの構成を示す模式図である。
【0011】
図1において、本実施の形態におけるフィルム製造システムは、単軸押出機EXと、ダイTと、原反冷却装置Cと、同時二軸延伸装置STと、巻取機WIとを有している。
【0012】
例えば、図1に示す単軸押出機EXの原料供給部Taに樹脂材料(ペレット)および添加剤などを供給する。そして、押出機EXにおいて樹脂材料を混合しながら輸送(搬送)して、混練物(溶融樹脂)をダイTのスリットから押し出す。その後、ダイTのスリットから押し出された混練物は、原反冷却装置Cにおいて冷却されてフィルム(薄膜)となる。そして、このフィルムは、例えば、同時二軸延伸装置STによりMD(Machine Direction)方向およびTD(Transverse Direction)方向に延伸された後、引き延ばされたフィルムは巻取機WIで巻き取られる。
【0013】
このようにして、本実施の形態におけるフィルム製造システムによれば、フィルムを製造することができる。なお、図1に示すフィルム製造システムは一例であり、製造するフィルムの特性に応じて、抽出槽を設けることもできるし、フィルム中の可塑剤(例えば、パラフィンなど)を除去することができるようにも構成することができる。
【0014】
<巻取機の構成および動作>
図2は、巻取機WIの簡略化した構成を示す模式図である。
【0015】
図2において、巻取機WIは、はさみロール10を有している。はさみロール10は、樹脂フィルムFMを挟みながら、回転することによって樹脂フィルムを搬送するように構成されている。さらに、巻取機WIは、押さえロール20と、巻取ロール30Aおよび巻取ロール30Bと、回転機構40とを備えている。巻取ロール30Aおよび巻取ロール30Bのそれぞれは、回転することによって樹脂フィルムFMを巻き取ることができるように構成されている。これらの巻取ロール30Aおよび巻取ロール30Bは、回転機構40に取り付けられている。そして、巻取ロール30Aおよび巻取ロール30Bは、回転機構40を回転させることによって、互いに配置位置を反転できるようになっている。
【0016】
次に、図2においては、巻取ロール30Aおよび巻取ロール30Bのうち、巻取ロール30Aで樹脂フィルムFMを巻き取る状態が図示されている。このとき、樹脂フィルムFMを巻き取る巻取ロール30Aには、押さえロール20が押し付けられている。これにより、巻取機WIは、押さえロール20と巻取ロール30Aとの間に樹脂フィルムFMを挟み込みながら、樹脂フィルムFMを巻取ロール30に巻き取ることができる。特に、巻取ロール30Aに押さえロール20を押さえ付けながら樹脂フィルムFMを巻取ロール30Aに巻き取ることにより、樹脂フィルムFMに皺を発生させることを抑制できる。すなわち、押さえロール20は、樹脂フィルムFMに皺を発生することなく、樹脂フィルムFMを巻取ロール30Aに巻き取るために必要不可欠な構成要素である。
【0017】
このように構成されている巻取機WIにおいて、図2に示すように、はさみロール10で挟まれた樹脂フィルムFMは、はさみロール10を回転させることにより巻取ロール30Aに向って送り出される。そして、巻取ロール30Aには、押さえロール20が押さえ付けられており、押さえロール20と巻取ロール30Aの間に樹脂フィルムFMを挟み込みながら、巻取ロール30Aを回転させる。これにより、巻取ロール30Aに樹脂フィルムFMが巻き取られる。このような動作を連続して続けると、図3に示すように、巻取ロール30Aに巻き取られる樹脂フィルムが、最終的に、巻取ロール30Aの巻取許容量に達する。この結果、巻取ロール30Aは、満巻ロールとなる。
【0018】
さらに、この状態から樹脂フィルムFMの巻き取りを続けるために、図4に示すように、回転機構40を回転させて、巻取ロール30Aの位置と巻取ロール30Bの位置とを逆転させる。すなわち、回転機構40によって巻取ロール30Aの位置と巻取ロール30Bの位置とを逆転させることによって、満巻ロールに替えて、巻取ロール30Bを使用して樹脂フィルムFMを巻き取るようにする。その後、図5に示すように、トラバースカッタ50を使用して、樹脂フィルムFMを切断する。この切断工程を経た後、押さえロール20と巻取ロール30Bの間に樹脂フィルムFMを挟み込みながら、巻取ロール30Bを回転させることにより、巻取機WIでの樹脂フィルムFMの捲き取り動作を継続することができる。このようにして、巻取機WIにおいては、巻取ロール30Aが満巻ロールになった後も、巻取ロール30Bに巻替えして、樹脂フィルムFMを巻き取ることができる。
【0019】
<改善の余地>
上述した巻取機WIでは、巻取ロール30Aから巻取ロール30Bに巻替えする際に樹脂フィルムFMを切断する切断工程が実施される。この点に関し、本発明者は、樹脂フィルムFMを切断する切断工程に起因して、樹脂フィルムFMに巻きズレが発生する結果、巻取ロール30Bに巻き取られる樹脂フィルムの品質が低下するおそれがあることを新規に見出した。以下に、本発明者が見出した新規な改善の余地について説明する。
【0020】
図6は、巻きズレが発生するメカニズムを説明するフローチャートである。
【0021】
図7および図8は、巻きズレが発生するメカニズムを模式的に示す図である。
【0022】
図7において、切断工程では、例えば、トラバースカッタ50で樹脂フィルムFMを切断する(図6のS101)。そして、トラバースカッタ50で切断した樹脂フィルムFMの先端部を巻取ロール30Bに密着させるため、樹脂フィルムFMの先端部にエアを吹き付ける(図6のS102)。このとき、図7に示すように、例えば、エアの流れなどに起因して樹脂フィルムFMの先端部に折れ皺が発生する(図6のS103)。そして、巻取ロール30Bが回転することによって、図8に示すように、樹脂フィルムFMに発生した折れ皺は、押さえロール20と巻取ロール30Bとの間まで移動する。これにより、押さえロール20は、折れ皺による凸部に乗り上げることで、押さえロール20と巻取ロール30Bとの接触が外れる(図6のS104)。そして、バウンドした押さえロール20は振動する(図6のS105)。この結果、押さえロール20による樹脂フィルムFMの押さえ付けが不充分となって、樹脂フィルムFMの巻きズレが生じる(図6のS106)。
【0023】
以上のようなメカニズムによって、樹脂フィルムFMに巻きズレが発生する結果、巻取ロール30Bに巻き取られる樹脂フィルムFMの品質が低下するおそれがある。
【0024】
ここで、樹脂フィルムFMに巻きズレが発生する直接的な原因は、切断工程で樹脂フィルムFMの先端部に発生する折れ皺である。したがって、巻きズレを抑制するためには、樹脂フィルムFMの先端部に発生する折れ皺を抑制できればよいことになる。
【0025】
この点に関し、例えば、折れ皺を発生させることなく、切断した樹脂フィルムFMを巻取ロール30Bに密着させるために、エアを樹脂フィルムFMに吹き付けるだけでなく、静電気付与機構によって樹脂フィルムFMに静電気を与えることが検討されている。ところが、静電気力によって樹脂フィルムFMを巻取ロール30Bに密着させる場合においても、折れ皺を充分に抑制するには至っていない。特に、フィルム製造システムのライン速度を上げる場合においては、巻取機に静電気付与機構を設けても折れ皺を充分に抑制することが困難となっている。つまり、現状の技術においては、樹脂フィルムFMに巻きズレが発生する直接的な原因である折れ皺を充分に抑制することは困難なのである。
【0026】
そこで、本発明者は、樹脂フィルムFMに折れ皺が発生することを前提として、たとえ、樹脂フィルムFMに折れ皺が発生したとしても、樹脂フィルムFMに巻きズレが発生しないようにする工夫を検討している。具体的に、本発明者は、折れ皺に起因して押さえロール20と巻取ロール30Bとの接触が外れて押さえロール20が振動することにより、押さえロール20による樹脂フィルムFMの押さえ付けが不充分となることが巻きズレの発生要因となる点に着目している。すなわち、本発明者は、押さえロール20が巻取ロール30bから離れて振動する振動期間に着目している。つまり、本発明者は、たとえ、樹脂フィルムFMに折れ皺が発生したとしても、この折れ皺に起因して押さえロール20が振動する振動期間を短くすることができれば、樹脂フィルムFMに発生する巻きズレを抑制できるのではないかと考えて、振動期間を短くするための工夫を検討している。
【0027】
この点に関し、巻取機には、押さえロール20の振動を抑制する振動抑制部が設けられている。以下では、まず、現状の振動抑制部の構造について説明し、この現状の振動抑制部の構造では、振動期間を短くする観点から改善の余地が存在することを説明する。なお、本明細書では、現状の振動抑制部を関連技術における振動抑制部ということにする。
【0028】
<関連技術に対する検討>
本明細書でいう「関連技術」は、新規に発明者が見出した課題を有する技術であって、公知である従来技術ではないが、新規な技術的思想の前提技術(未公知技術)を意図して記載された技術である。
【0029】
図9は、関連技術における巻取機の一部を模式的に示す図である。
【0030】
図9に示すように、巻取ロール30Bに接触するように押さえロール20が配置されている。この押さえロール20と固定部60との間には、エアシリンダ70が設けられているとともに、ダンパ80が設けられている。ここで、エアシリンダ70は、巻取ロール30Bと接触している押さえロール20の姿勢を制御する機能を有している。一方、ダンパ80は、押さえロール20の振動を抑制する振動抑制部として機能する。すなわち、関連技術における振動抑制部は、ダンパ80から構成されることになる。
【0031】
図10は、関連技術におけるダンパを備える巻取機の一部を示す図である。
【0032】
図10において、巻取ロール30Bに押さえロール20が接触されており、この押さえロール20は、ガイド90に取り付けられたダンパ80によって巻取ロール30Bに押し付けられている。
【0033】
図11(a)および図11(b)は、ダンパ80の具体的な構造例を示す模式図である。
【0034】
図11(a)および図11(b)において、ダンパ80は、変位可能なピストンロッド81と、ピストンロッド81と一体的に変位するピストン82と、ピストン82を内部に配置する外筒83と、外筒83の内部に封入された粘性流体(オイル)84と、変位可能なフリーピストン85と、フリーピストン85を隔壁として内部にガスを密閉するガス室86とを有する。このように構成されている関連技術におけるダンパ80は、図11(a)および図11(b)に示すように、ピストンロッド81と一体化したピストン82が粘性流体84中を変位することにより、復元力Fを発生する。すなわち、関連技術におけるダンパ80は、粘性流体84に起因する復元力Fによって押さえロールの振動を抑制するように構成されている。言い換えれば、関連技術におけるダンパ80は、粘性流体84によって押さえロールの振動を抑制する機能を有する振動抑制部ということができる。なお、本明細書において、「ダンパ」という語句は、粘性流体84に起因する復元力Fによって押さえロールの振動を抑制する構造を表現するために使用する。
【0035】
ダンパ80のピストンロッド81は、押さえロールと接触している。そして、例えば、押さえロールが樹脂フィルムの折れ皺に乗り上げると、押さえロールが巻取ロールから離れてピストンロッド81は外筒83に押し込まれる。すると、ガス室86に充填されているガスと外筒83に充填されている粘性流体84によって、外筒83に押し込まれたピストンロッド81には、ピストンロッド81を外筒83から押し出そうとする復元力Fが働く。この結果、ピストンロッド81と接触している押さえロールには、復元力Fが働くことになり、再び巻取ロールに押し付けられる。その後、再び、巻取ロールが回転して樹脂フィルムに形成されている折れ皺に乗り上げると、上述した動作を繰り返すことになる。これにより、押さえロールは振動する。ここで、ダンパ80による復元力Fは、粘性流体に起因する力であることから、復元力F=cvで表される。このとき、「c」は、粘性係数であり、「v」は、ピストンロッド81の速度である。つまり、ピストンロッド81が押さえロールと接触しており、押さえロールの変位に追従してピストンロッド81が変位することを考慮すると、「v」は、押さえロールの速度ということができる。
【0036】
例えば、押さえロールの変位xがx=sinωtで振動しているとすると、ダンパ80による復元力F=cv=c(dx/dt)=ωccosωt=ωcsin(ωt+π/2)となる。つまり、ダンパ80による復元力Fは、押さえロールの振動に対して、位相がπ/2だけ遅れることになる。このことは、押さえロールの振動に対して、ダンパ80による応答が遅れることを意味する。したがって、関連技術におけるダンパ80では、押さえロールの振動を抑制するための応答が遅くなることに起因して、押さえロールの振動期間が長くなる。この場合、押さえロールによる樹脂フィルムの押さえ付けが不充分になる期間が長くなることを意味する。このことから、関連技術では、樹脂フィルムに巻きズレが発生しやすくなる。すなわち、関連技術におけるダンパ80では、樹脂フィルムの巻きズレを抑制する観点から改善の余地が存在する。
【0037】
そこで、本実施の形態では、関連技術に存在する改善の余地に対する工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0038】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、押さえロールの振動に対して応答速度の速い復元力Fを発生できる振動抑制部を構成する思想である。つまり、本実施の形態における基本思想は、押さえロールの振動に対して位相ずれのない復元力Fを発生することを可能とする振動抑制部を実現する思想である。具体的に、本実施の形態における基本思想は、関連技術のように速度に比例する復元力ではなく、変位に比例する復元力(復元力F=kxという式で表せる復元力)を発生できる振動抑制部を実現する思想である。この場合、例えば、押さえロールの変位xがx=sinωtで振動しているとき、復元力F=kx=ksinωtとなり、復元力Fは、押さえロールの変位に対して位相遅れを生じない。このことから、本実施の形態における基本思想によれば、押さえロールの振動に対して、振動制御部による応答を早めることができる。したがって、本実施の形態における基本思想によれば、押さえロールの振動を抑制するための応答を早めることができることに起因して、押さえロールの振動期間を短くすることができる。この結果、本実施の形態における基本思想によれば、押さえロールによる樹脂フィルムの押さえ付けが不充分になる期間を短くすることができ、これによって、樹脂フィルムに巻きズレを抑制することができる。
【0039】
図12は、本実施の形態における巻取機の一部を模式的に示す図である。
【0040】
図12に示すように、巻取ロール30Bに接触するように押さえロール20が配置されている。この押さえロール20と固定部60との間には、エアシリンダ70が設けられているとともに、ショックアブソーバ100が設けられている。ここで、エアシリンダ70は、巻取ロール30Bと接触している押さえロール20の姿勢を制御する機能を有している。一方、ショックアブソーバ100は、押さえロール20の振動を抑制する振動抑制部として機能する。すなわち、本実施の形態における振動抑制部は、ショックアブソーバ100から構成されることになる。このショックアブソーバ100は、第1機構部100Aと第2機構部100Bから構成されている。具体的に、第1機構部100Aは、関連技術におけるダンパ80と同様の構造をしている。すなわち、第1機構部100Aは、粘性流体によって押さえロール20の振動を抑制するように構成されている。一方、本実施の形態における第2機構部100Bは、例えば、バネに代表される弾性体によって押さえロール20の振動を抑制するように構成されている。この結果、本実施の形態におけるショックアブソーバ100で発生する復元力は、復元力F=cv+kxで表される。ここで、「cv」の項は第1機構部100Aによる復元力を示している一方、「kx」の項は第2機構部100Bによる復元力を示している。なお、「k」はバネ定数を示しており、「x」は押さえロール20の変位を示している。したがって、例えば、押さえロール20の変位xがx=sinωtで振動する場合、本実施の形態におけるショックアブソーバ100で発生する復元力Fは、復元力F=cωcosωt+ksinωt=cωsin(ωt+π/2)+ksinωtとなる。これにより、本実施の形態では、復元力Fに位相遅れのない成分(第2項)が含まれることから、押さえロールの振動に対して、振動制御部(ショックアブソーバ100)による応答を早めることができる。このことから、本実施の形態における振動制御部によれば、押さえロール20の振動期間を短くすることができる。この結果、本実施の形態によれば、押さえロール20による樹脂フィルムの押さえ付けが不充分になる期間を短くすることができ、これによって、樹脂フィルムに巻きズレが発生することを抑制することができる。なお、図13は、本実施の形態におけるショックアブソーバを備える巻取機の一部を示す図である。図13において、巻取ロール30Bに押さえロール20が接触されており、この押さえロール20は、ガイド90に取り付けられたショックアブソーバ100によって巻取ロール30Bに押し付けられている。
【0041】
<ショックアブソーバの構造>
図14(a)および図14(b)は、ショックアブソーバ100の具体的な構造例を示す模式図である。図14(a)および図14(b)において、ショックアブソーバ100は、変位可能なピストンロッド101と、ピストンロッド101と一体的に変位するピストン102と、ピストン102を内部に配置する外筒103と、外筒103の内部に封入された粘性流体(オイル)104とを有する。また、ショックアブソーバ100は、変位可能なフリーピストン105と、フリーピストン105を隔壁として内部にガスを密閉するガス室106とを有する。さらに、ショックアブソーバ100は、図11(a)および図11(b)に示すダンパ80とは異なり、ピストンロッド101が挿入され、かつ、ピストンロッド101の一端部と外筒103の一端部との間に挟まれるスプリング107とを含む。このスプリング107は、弾性体の一例であるバネである。このように構成されている本実施の形態におけるショックアブソーバ100は、図14(a)および図14(b)に示すように、ピストンロッド101と一体化したピストン102が粘性流体104中を変位することによる復元力と、ピストンロッド101の変位に対応して伸縮するスプリング107による復元力との組み合わせにより、復元力Fを発生する。すなわち、本実施の形態におけるショックアブソーバ100は、粘性流体104に起因する復元力とスプリング107に起因する復元力との組み合わせによって押さえロールの振動を抑制するように構成されている。言い換えれば、本実施の形態におけるショックアブソーバ100は、粘性流体104とスプリング107とによって押さえロールの振動を抑制する機能を有する振動抑制部ということができる。
【0042】
なお、本明細書において、「ショックアブソーバ」という語句は、粘性流体104に起因する復元力とスプリング107に起因する復元力との組み合わせによって押さえロールの振動を抑制する構造を表現するために使用する。
【0043】
ここで、例えば、押さえロールの変位xがx=sinωtで振動しているとき、スプリング107に起因する復元力は、復元力=kx=ksinωtとなり、この復元力は、押さえロールの変位に対して位相遅れを生じない。このことから、本実施の形態におけるショックアブソーバ100によれば、押さえロールの振動に対して、振動制御部による応答を早めることができる。したがって、本実施の形態におけるショックアブソーバ100によれば、押さえロールの振動を抑制するための応答を早めることができることに起因して、押さえロールの振動期間を短くすることができる。この結果、本実施の形態におけるショックアブソーバ100では、押さえロールによる樹脂フィルムの押さえ付けが不充分になる期間を短くすることができ、これによって、樹脂フィルムに巻きズレが発生することを抑制することができる。すなわち、本実施の形態におけるショックアブソーバ100は、粘性流体104によって押さえロールの振動を抑制する第1機構部と、スプリング107(弾性体)によって押さえロールの振動を抑制する第2機構部とを備えている。この場合、ショックアブソーバ100の第1機構部は、押さえロールの振動速度に比例する復元力を発生する一方、ショックアブソーバ100の第2機構部は、押さえロールの振動変位に比例する復元力を発生する。このことから、第1機構部により発生する復元力においては押さえロールの振動に対して位相遅れが生じる一方、第2機構部により発生する復元力においては押さえロールの振動に対して位相遅れが生じない。したがって、ショックアブソーバ100において、第2機構部(スプリング107)による押さえロールの復帰時間は、第1機構部(粘性流体104)による前記押さえロールの復帰時間よりも短くなる。このようにして、本実施の形態におけるショックアブソーバ100によれば、押さえロールの接触外れからの復帰時間を短くできるため、巻きズレを抑制することができる。
【0044】
<実施の形態における効果>
例えば、図15は、ダンパにおいて、ピストンロッドのストローク原点からの変位とピストンロッドがストローク原点まで復帰するのに要する復帰時間との関係を示す図である。図15において、横軸は時間を示している一方、縦軸はピストンロッドのストローク原点からの変位を示している。図15に示すように、ダンパでは、粘性抵抗による復元力でピストンロッドをストローク原点まで復帰させることから、復帰時間T1が長くなる。これに対し、図16は、ショックアブソーバにおいて、ピストンロッドのストローク原点からの変位とピストンロッドがストローク原点まで復帰するのに要する復帰時間との関係を示す図である。図16においても、横軸は時間を示している一方、縦軸はピストンロッドのストローク原点からの変位を示している。ショックアブソーバでは、粘性抵抗による復元力とスプリング(バネ)による復元力とが含まれており、特に、ピストンロッドの最大変位点からストローク原点にまで戻る際には、位相ずれのないスプリングによる復元力が優先的に機能する。このことから、図16に示すように、ショックアブソーバを使用すると、ピストンロッドをストローク原点まで復帰させる復帰時間T2を短くすることができる。以上のことから、図15に示すダンパの応答特性と図16に示すショックアブソーバの応答特性とを比較すると、ダンパよりもショックアブソーバのほうが、押さえロールの巻取ロールからの接触外れから巻取ロールへの再接触するまでに要する復帰時間を短くできることが理解される。これにより、本実施の形態によれば、樹脂フィルムの巻きズレを抑制できる。特に、本実施の形態によれば、押さえロールの復帰時間を短くすることができるので、巻取ロールの回転速度を大きくしても樹脂フィルムの巻きズレを発生しにくくすることができる。したがって、本実施の形態における巻取機によれば、樹脂フィルムの巻きズレを発生させることなく、樹脂フィルムの巻き取り速度を向上できる。
【0045】
このことは、例えば、本実施の形態における巻取機をフィルム製造システムに適用すると、フィルム製造システムのライン速度を上げることができることを意味する。したがって、本実施の形態における技術的思想は、巻取機における樹脂フィルムの巻きズレを抑制できるだけでなく、フィルム製造システムにおけるライン速度の向上にも寄与する点で大きな技術的意義を有していることがわかる。さらに言えば、フィルム製造システムのライン速度を向上できるということは、フィルム製造システムを使用したフィルム製造のスループットを向上できることを意味することから、本実施の形態における技術的思想は、フィルム製造システムでのスループットの向上(樹脂フィルムの生産性向上)に繋がる点で優れていつということができる。具体的な一例を示すと、本実施の形態における巻取機を使用するフィルム製造システムにおいて、樹脂フィルムを流すライン速度を300m/分以上にしても、巻きズレを効果的に抑制することができる。
【0046】
特に、フィルム製造システムにおいて、樹脂フィルムを流すライン速度が400m/分~500m/分程度まで早くなると、押さえロールの振動周期が短くなる。このことから、ライン速度が400m/分~500m/分程度まで早くなっても押さえロールの巻取ロールからの接触外れを抑制するためには、振動抑制部の応答が早いことが必要である。この点に関し、本実施の形態におけるショックアブソーバによれば、関連技術におけるダンパよりも応答速度を速くできることから、本実施の形態におけるショックアブソーバは、ライン速度の速いフィルム製造システムに適用しても巻きズレの発生を抑制できる。
【0047】
図17は、ライン速度を400m/分とした場合において、押さえロールの円周上の移動距離と押さえロールの原点からの変動量を示すグラフである。図17において、押さえロールの径は500mmである。また、図17において、縦軸は、押さえロールの原点からの変動量を示している一方、横軸は押さえロールの円周上の移動距離を示している。
【0048】
さらに、図17において、実線は、振動抑制部として本実施の形態におけるショックアブソーバを使用する場合を示している。一方、一点鎖線は、振動抑制部として関連技術におけるダンパを使用する場合を示している。
【0049】
まず、図17において、破線に着目すると、ダンパの場合、押さえロールが突起に乗り上げた後、押さえロールの大きな接触外れが生じていることがわかる。これに対し、実線に着目すると、ショックアブソーバの場合は、突起に衝突した後、破線のような大きな接触外れは生じておらず、速やかに押さえロールが巻取ロールに接触することがわかる。このことは、振動抑制部をショックアブソーバから構成することにより、押さえロールの巻取ロールからの接触外れに起因するフィルムの巻きズレが生じにくいことを意味している。このように、本実施の形態によれば、関連技術に比べて、押さえロールの巻取ロールからの接触外れを回復するまでの復帰時間を短くすることができる結果、フィルムの巻きズレを抑制できることが図17から裏付けられていることがわかる。
【0050】
さらに、本実施の形態における有用性について説明する。
【0051】
本発明者は、巻取ロールに形成される凸部は、折れ皺の状態によって様々な突起形状を構成すること新規に見出すとともに、振動抑制部に突起が衝突する速度は、突起形状に依存することを新規に見出した。そして、振動抑制部の応答速度は、振動抑制部に突起が衝突する速度によって変化する。このことから、振動抑制部としては、適応可能な衝突速度範囲が広く、かつ、振動抑制部によるエネルギーの吸収が大きいほうが振動を抑制するためには望ましい。この点に関し、本実施の形態におけるショックアブソーバによれば、関連技術におけるダンパに比べて、適応可能な衝突速度範囲が広く、かつ、エネルギーの吸収が大きい。このため、本実施の形態におけるショックアブソーバを使用することにより、折れ皺の状態(種類)に関わらず安定した振動抑制機能を実現することができる。つまり、本実施の形態におけるショックアブソーバは、巻取ロールに形成される凸部の形状がどんな形状であっても安定的に振動抑制機能を発揮できる点で有用である。
【0052】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0053】
10 はさみロール
20 押さえロール
30A 巻取ロール
30B 巻取ロール
40 回転機構
50 トラバースカッタ
60 固定部
70 エアシリンダ
80 ダンパ
81 ピストンロッド
82 ピストン
83 外筒
84 粘性流体
85 フリーピストン
86 ガス室
90 ガイド
100 ショックアブソーバ
100A 第1機構部
100B 第2機構部
101 ピストンロッド
102 ピストン
103 外筒
104 粘性流体
105 フリーピストン
106 ガス室
C 原反冷却装置
EX 単軸押出機
FM 樹脂フィルム
ST 同時二軸延伸装置
T ダイ
WI 巻取機
WK 折れ皺
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17