(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】浚渫土の改質処理方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20231012BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20231012BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20231012BHJP
C02F 11/143 20190101ALI20231012BHJP
【FI】
E02D3/12 102
C09K17/10 P ZAB
C09K17/02 P
C02F11/143
(21)【出願番号】P 2019186375
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】野中 宗一郎
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172245(JP,A)
【文献】特開2012-149425(JP,A)
【文献】特開2016-215191(JP,A)
【文献】特開2016-196791(JP,A)
【文献】特開2019-148144(JP,A)
【文献】特開2001-226941(JP,A)
【文献】特開2002-038465(JP,A)
【文献】米国特許第04443260(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
C09K 17/10
C09K 17/02
C02F 11/143
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水比が1.1~2.0wL(wL:液性限界)である浚渫土を改質する改質処理方法であって、
浚渫土に製鋼スラグと改質材とを混合して改質処理土とし、
前記改質材としてペーパースラッジ焼却灰系改質材またはセメントを用い、
前記製鋼スラグの前記浚渫土に対する体積混合率を減らし、前記改質処理土の量に対する前記浚渫土の処理量を増加させ、
前記ペーパースラッジ焼却灰系改質材または前記セメントの混合により、前記改質処理土の強度を、前記体積混合率を減らす前の製鋼スラグと浚渫土とによる混合材料の強度と同等またはそれ以上とする、浚渫土の改質処理方法。
【請求項2】
前記製鋼スラグは、その最大粒径が5~40mmであり、前記浚渫土に対する体積混合率が10vol%以上30vol%未満である請求項1に記載の浚渫土の改質処理方法。
【請求項3】
前記ペーパースラッジ焼却灰系改質材の混合量は、前記浚渫土と前記製鋼スラグとの混合材料の単位体積(m
3)あたり50~200kgであり、
前記セメントの混合量は、前記浚渫土と前記製鋼スラグとの混合材料の単位体積(m
3)あたり50~200kgである請求項1または2に記載の浚渫土の改質処理方法。
【請求項4】
前記セメントを加水によりスラリー状としてから混合する請求項1乃至3のいずれかに記載の浚渫土の改質処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫土を改質する改質処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浚渫土は港湾工事によって発生するが、近年処分場の確保が課題となっていることから、浚渫土の有効利用が求められている。浚渫土を有効活用する方法として、浚渫土とカルシア改質材(転炉系製鋼スラグの粒径・成分を調整した材料)を混合したカルシア改質土があり(たとえば、特許文献1,2,非特許文献1参照)、港湾域で浅場・干潟の造成材、潜堤材、埋立材等として広く使用されている。
【0003】
特許文献3は、2.0wL以上の高含水比の泥土に吸水性材料を添加(25~100kg/m3)して材料分離を防ぎつつ、強度確保を図る高含水比泥土の改質土の製造方法を開示するが、高含水比の泥土の改質を目的とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-121167号公報
【文献】特開2011-206625号公報
【文献】特開2019-148144号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「港湾・空港・海岸等におけるカルシア改質土利用技術マニュアル」(沿岸技術研究センター、平成29年2月発行)
【文献】「発生土利用基準」国土交通省 技術調査課(2006) http://www.mlit.go.jp/tec/kankyou/hasseido/060810kijyun.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
浚渫土の有効活用を進める上で浚渫土の処理量を増やすことが望まれている。この解決策として、カルシア改質土における製鋼スラグ等からなるカルシア改質材の体積混合率を減らし、浚渫土の体積混合率を増やすことが考えられる。すなわち、カルシア改質材の体積混合率は、一般的に30vol%程度であるところ、製鋼スラグの体積混合率をたとえば、30vol%から20vol%へ減らすことで、その分浚渫土の体積混合率を増やすことができ、これにより、改質処理土量に対する浚渫土処理量が増える。しかし、カルシア改質材の体積混合率を下げると、固化に寄与するカルシア改質材が減少するためカルシア改質土の発現強度が小さくなり(非特許文献1(附2-7))、その利用範囲が制限されてしまう。
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、カルシア改質材である製鋼スラグの体積混合率を減らしても改質処理土の発現強度を維持し改質処理土量に対する浚渫土処理量を増やすことのできる浚渫土の改質処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための浚渫土の改質処理方法は、含水比が1.1~2.0wL(wL:液性限界)である浚渫土を改質する改質処理方法であって、
浚渫土に製鋼スラグと改質材とを混合して改質処理土とし、
前記改質材としてペーパースラッジ焼却灰系改質材またはセメントを用い、
前記製鋼スラグの前記浚渫土に対する体積混合率を減らし、前記改質処理土の量に対する前記浚渫土の処理量を増加させ、
前記ペーパースラッジ焼却灰系改質材または前記セメントの混合により、前記改質処理土の強度を、前記体積混合率を減らす前の製鋼スラグと浚渫土とによる混合材料の強度と同等またはそれ以上とするものである。
【0009】
この浚渫土の改質処理方法によれば、製鋼スラグの浚渫土に対する体積混合率を減らし浚渫土の体積混合率を増やしても、改質材としてペーパースラッジ焼却灰系改質材またはセメントを混合することで、改質処理土の強度を、体積混合率を減らす前の製鋼スラグと浚渫土とによる混合材料の強度と同等またはそれ以上とすることができる。このように、改質処理土量に対する浚渫土処理量を増加できるとともに改質処理土の発現強度を維持できる。また、改質処理土の混合後早期の強度発現性が向上する。
【0010】
上記浚渫土の改質処理方法において前記製鋼スラグは、その最大粒径が5~40mmであり、前記浚渫土に対する体積混合率が10vol%以上30vol%未満であることが好ましい。
【0011】
また、前記ペーパースラッジ焼却灰系改質材の混合量は、前記浚渫土と前記製鋼スラグとの混合材料の単位体積(m3)あたり50~200kgであり、前記セメントの混合量は、前記浚渫土と前記製鋼スラグとの混合材料の単位体積(m3)あたり50~200kgであることが好ましい。
【0012】
また、前記セメントを加水によりスラリー状としてから混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の浚渫土の改質処理方法によれば、浚渫土の改質処理における製鋼スラグの体積混合率を減らしても改質材を混合することにより改質処理土の発現強度を維持でき、改質処理土量に対する浚渫土処理量を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態による浚渫土の改質処理方法の主要な工程S01~S04を説明するためのフローチャートである。
【
図2】本実験例における材令28日の一軸圧縮試験の試験結果を示すグラフである。
【
図3】本実験例における製鋼スラグの体積混合率が20vol%の場合のコーン貫入試験による混合早期における強度発現状況を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本実施形態による浚渫土の改質処理方法の主要な工程S01~S04を説明するためのフローチャートである。
【0016】
図1に示すように、本実施形態による浚渫土の改質処理方法は、含水比が1.1~2.0wL(wL:液性限界)である浚渫土を用意し(S01)、次に、最大粒径が5~40mmである製鋼スラグを浚渫土に混合し(S02)、さらに、改質材としてペーパースラッジ焼却灰系改質材(以下、本明細書では「PS灰系改質材」ともいう。)またはセメントを混合し(S03)、これにより、浚渫土の改質処理土を得る(S04)ものである。なお、工程S02と工程S03とは同時に行ってもよいし、工程を入れ替えてもよい。
【0017】
製鋼スラグの浚渫土に対する体積混合率は、10vol%以上30vol%未満が好ましいが、改質処理土量に対する浚渫土処理量が増加するように減らし、たとえば、従来のカルシア改質土において製鋼スラグの浚渫土に対する体積混合率が30vol%であった場合、20vol%に減らすことで、改質処理土量に対する浚渫土処理量を増加させることができる。
【0018】
また、PS灰系改質材の混合量は50~200kg/m3、または、セメントの混合量は50~200kg/m3である。ただし、m3:浚渫土と製鋼スラグとの混合材料の単位体積である。
【0019】
製鋼スラグの浚渫土に対する体積混合率を減らすとカルシア改質土の強度は、低下するが、本実施形態によれば、改質材としてPS灰系改質材またはセメントをさらに混合することで、製鋼スラグの浚渫土に対する体積混合率を減らしても、改質処理土の強度は、体積混合率を減らす前の製鋼スラグと浚渫土とによるカルシア改質土の強度と同等かそれ以上となる。
【0020】
なお、製鋼スラグの浚渫土に対する体積混合率をたとえば30vol%から20vol%に減らし、浚渫土と製鋼スラグとの混合材料にPS灰系改質材またはセメントを50~200kg/m3混合した改質処理土の場合、混合量によりPS灰系改質材の体積混合率とセメントの体積混合率は異なるが、標準的な配合量である、50kg/m3混合した場合の両者の体積混合率は1vol%~2vol%、100kg/m3混合した場合は3vol%~4vol%となる。このため、改質処理土における浚渫土の体積混合率は、50kg/m3混合の場合78vol%~79vol%、100kg/m3混合の場合76vol%~77vol%となり、製鋼スラグの体積混合率30vol%のカルシア改質土の場合よりも増加する。
【0021】
また、ペーパースラッジ焼却灰系改質材(PS灰系改質材)とは、ペーパースラッジ焼却灰からなる改質材、または、ペーパースラッジ焼却灰を主成分とする改質材であり、製紙スラッジ焼却灰に他成分が混合されていてもよいが、他成分の混合は必ずしも必要ではない。ペーパースラッジ焼却灰とは、製紙産業において発生するペーパースラッジ(PS)を減容化のため焼却した際に生じる焼却灰(PS灰)である。
【0022】
PS灰系改質材またはセメントの混合方法は、PS灰系改質材またはセメントが粉体であって粉体のまま混合する場合は、ミキサやバックホウで混合を行う。また、セメントは粉体であっても加水してスラリー状としたものでもよく、スラリー状とする場合には、ミキサ混合、バックホウ混合、落下混合、管中混合等の工法を用いる。なお、セメントをスラリー状とするのは、セメントの混合量が50kg/m3程度と比較的小さい場合に適用することが好ましい。
【0023】
本実施形態による浚渫土の改質処理方法によれば、製鋼スラグの浚渫土に対する体積混合率を減らし浚渫土の体積混合率を増やしても、改質材としてPS灰系改質材またはセメントを混合することで、改質処理土の強度を、体積混合率を減らす前の製鋼スラグと浚渫土とによるカルシア改質土の強度と同等またはそれ以上とすることができる。このように、改質処理土量に対する浚渫土処理量を増加できるとともに改質処理土の発現強度を維持できる。このようにして、浚渫土の有効活用を実現でき、かつ、浚渫土の処理量を増やすことができるので、浚渫土の処分場不足の問題解決に寄与できる。
【0024】
また、本実施形態の浚渫土の改質処理方法により得られる改質処理土は、従来のカルシア改質土と比較して混合早期の強度発現性が改善されるという作用効果を奏し、ダンプトラックでの運搬が可能なコーン指数qc=200kN/m2(第4種建設発生土相当(非特許文献2))の目標値を確保できるため、混合後数時間でのダンプトラック運搬が可能である。
【0025】
次に、本発明についての実験例を説明するが、本発明は本実験例に限定されるものではない。
【0026】
[実験例]
浚渫土(液性限界wL=107.2%、含水比157.4%(1.5wL))に製鋼スラグ(最大粒径5mm、20vol%または30vol%)を混合したカルシア改質土、および、この製鋼スラグ20vol%混合のカルシア改質土にPS灰系改質材を所定量(50kg/m
3,100kg/m
3,200kg/m
3)混合した改質処理土をそれぞれ作製し、20℃で養生した後、一軸圧縮試験(JIS A 1216)およびコーン貫入試験(JIS A 1228)を実施した。
図2に材令28日の一軸圧縮試験の試験結果を示す。
図3に製鋼スラグの混合量が20vol%の場合のコーン貫入試験による混合早期における強度発現状況を示す。
【0027】
図2に示すように、カルシア改質土において製鋼スラグの浚渫土に対する体積混合率を30vol%から20vol%に減らすと発現強度が低下するが、製鋼スラグの体積混合率20vol%の改質処理土においてPS灰系改質材の混合量が増えるに従って材令28日強度が増加し、PS灰系改質材を100kg/m
3以上混合することにより、製鋼スラグ30vol%のカルシア改質土と同等以上の材令28日強度を発現することを確認できた。また、製鋼スラグの体積混合率を20vol%よりも若干大きくすることでPS灰系改質材の混合量が50kg/m
3程度であっても製鋼スラグ30vol%のカルシア改質土と同等程度の材令28日強度が発現すると考えられる。
【0028】
図3に示すように、製鋼スラグの混合体積率が20vol%の場合、PS灰系改質材の混合量が100kg/m
3以上の改質処理土において15時間後にコーン指数qc=200kN/m
2の目標値以上となった。カルシア改質土に比べてPS灰系改質材を混合した改質処理土は、混合早期の強度発現性が改善されることを確認できた。
【0029】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態における浚渫土の改質処理土は、浅場・干潟造成材、潜堤材、地盤材料等に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、浚渫土の改質処理において製鋼スラグの体積混合率を減らしても改質材としてペーパースラッジ焼却灰系改質材またはセメントを混合することにより改質処理土の発現強度を維持できるので、浚渫土の有効活用を実現しつつ改質処理土量に対する浚渫土処理量を増やすことができる。また、浚渫土の処理量を増やすことができるので浚渫土の処分場確保の問題解決に寄与できる。