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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】往復動工具
(51)【国際特許分類】
   B25D 17/24 20060101AFI20231012BHJP
   B25D 17/04 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B25D17/24
B25D17/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019199828
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021070128
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105120
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 哲幸
(74)【代理人】
【識別番号】100106725
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 敏行
(74)【代理人】
【識別番号】100125955
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 有三子
(72)【発明者】
【氏名】辻 英暉
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-217470(JP,A)
【文献】特開2010-131694(JP,A)
【文献】特開2011-131364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 17/24
B25D 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動工具であって、
出力シャフトを有するモータと、
前記モータの動力によって、駆動軸に沿って第1方向に往復動するように構成された往復動部材を含み、前記往復動部材の往復動に伴って、先端工具を直線状に駆動するように構成された駆動機構と、
前記モータと、前記駆動機構とを収容する本体ハウジングと、
使用者によって把持される把持部を含み、第1弾性部材および第2弾性部材を介して前記本体ハウジングに連結された可動部であって、初期位置と、前記初期位置よりも前記本体ハウジングに近接する近接位置との間で、前記本体ハウジングに対して前記駆動軸の延在方向に相対移動可能な可動部と、
前記本体ハウジングに設けられ、前記往復動部材の往復動に伴って、前記往復動部材と逆方向に移動するように構成された少なくとも1つのウェイトを含む制振機構とを備え、
前記少なくとも1つのウェイトの重心は、前記駆動軸に対して、前記駆動軸に直交する第2方向にずれた位置にあり、
前記第1弾性部材は、前記第2方向において、前記第2弾性部材よりも前記重心に近い位置に配置されており、
前記可動部が前記近接位置に配置されたときの前記第1弾性部材の荷重は、前記第2弾性部材の荷重よりも小さいことを特徴とする往復動工具。
【請求項2】
請求項1に記載の往復動工具であって、
前記把持部は、前記第2方向に延在することを特徴とする往復動工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の往復動工具であって、
前記第2方向において、前記第1弾性部材は、前記駆動軸に対して前記重心と同じ側に配置され、前記第2弾性部材は、反対側に配置されていることを特徴とする往復動工具。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1つに記載の往復動工具であって、
前記モータの一部は、前記駆動軸上に配置されており、
前記出力シャフトの回転軸は、前記駆動軸に交差することを特徴とする往復動工具。
【請求項5】
請求項4に記載の往復動工具であって、
前記把持部は、前記把持部の一部が前記駆動軸上に位置するように、前記第1方向において前記モータに対して前記駆動機構と反対側に配置されていることを特徴とする往復動工具。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1つに記載の往復動工具であって、
前記駆動機構は、前記出力シャフトの回転運動を直線運動に変換し、前記往復動部材を往復動させるように構成された運動変換機構を含み、
前記制振機構の少なくとも一部は、前記第2方向において、前記駆動軸を挟んで前記運動変換機構の少なくとも一部の反対側に配置されていることを特徴とする往復動工具。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1つに記載の往復動工具であって、
前記制振機構は、少なくとも1つの動吸振器を含むことを特徴とする往復動工具。
【請求項8】
請求項7に記載の往復動工具であって、
前記駆動機構は、前記出力シャフトの回転運動を直線運動に変換し、往復動部材を往復動させるように構成された運動変換機構を含み、
前記運動変換機構の駆動によって、前記ウェイトが加振されることを特徴とする往復動工具。
【請求項9】
請求項7または8に記載の往復動工具であって、
前記少なくとも1つの動吸振器は、前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に並んで配置された一対の動吸振器を含むことを特徴とする往復動工具。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1つに記載の往復動工具であって、
前記第1弾性部材および前記第2弾性部材は、同一構成を有するバネであって、前記本体ハウジングおよび前記可動部に対する取付け状態が互いに異なることを特徴とする往復動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端工具を直線状に駆動するように構成された往復動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の駆動軸に沿って直線状に往復動する往復動部材を用いて、先端工具を直線状に駆動するように構成された往復動工具が知られている。往復動工具では、駆動軸の軸方向に比較的大きな振動が発生する。そこで、振動低減のための制振機構を備えた往復動工具が知られている。例えば、特許文献1には、ウェイトと、駆動軸の軸方向においてウェイトの両側に配置されたバネとを含む動吸振器を備えた電動ハンマが開示されている。ウェイトは、円筒状に形成され、バレル部の内部空間において、ピストンを収容するシリンダの周囲、つまり、駆動軸周りに配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015―182167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された電動ハンマでは、上述のような配置により、駆動軸の軸方向の振動を効果的に抑制することができる。しかしながら、往復動工具の構造によっては、駆動軸周りに制振機構を配置するためのスペースを確保するのは難しい場合がある。
【0005】
本発明は、かかる状況に鑑み、往復動工具における制振機構の合理的な配置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、モータと、駆動機構と、本体ハウジングと、可動部と、制振機構とを備えた往復動工具が提供される。モータは、出力シャフトを有する。駆動機構は、モータの動力によって、駆動軸に沿って第1方向に往復動するように構成された往復動部材を含み、往復動部材の往復動に伴って、先端工具を直線状に駆動するように構成されている。本体ハウジングは、モータと、駆動機構とを収容する。可動部は、使用者によって把持される把持部を含み、第1弾性部材および第2弾性部材を介して本体ハウジングに連結されている。可動部は、初期位置と、初期位置よりも本体ハウジングに近接する近接位置との間で、本体ハウジングに対して駆動軸の延在方向に相対移動可能である。制振機構は、本体ハウジングに設けられている。制振機構は、往復動部材の往復動に伴って、往復動部材と逆方向に移動するように構成された少なくとも1つのウェイトを含む。
【0007】
また、少なくとも1つのウェイトの重心は、駆動軸に対して、駆動軸に直交する第2方向にずれた位置にある。第1弾性部材は、第2方向において、第2弾性部材よりも重心に近い位置に配置されている。言い換えると、第2方向における第1弾性部材と重心との距離は、第2方向における第2弾性部材と重心との距離よりも短い。更に、可動部が近接位置に配置されたときの第1弾性部材の荷重は、第2弾性部材の荷重よりも小さい。言い換えると、第2弾性部材よりも第1弾性部材の方が、本体ハウジングと可動部とを互いから離れる方向に付勢する付勢力が小さい。
【0008】
本態様の往復動工具では、少なくも1つのウェイトの重心が、第2方向において駆動軸からずれている。このような配置では、少なくとも1つのウェイトは、往復動部材の往復動に伴って本体ハウジングに生じる第1方向の振動を良好に低減できる一方、第2方向には振動が生じる傾向にある。この第2方向の振動は、特に、第1方向において、往復動部材が先端工具方向に移動し、少なくとも1つのウェイトが逆方向へ移動するときの衝撃の影響を受けやすいと考えられる。これに対し、本態様の往復動工具では、上述の荷重設定により、第1弾性部材をより弾性変形しやすくし、この衝撃を効果的に吸収することで、第2方向の振動が可動部に伝達されるのを効果的に抑制することができる。よって、駆動軸周りに制振機構を配置するためのスペースを確保するのが難しい場合であっても、制振機構の合理的な配置を実現することができる。
【0009】
本発明の一態様において、把持部は、第2方向に延在してもよい。この場合、把持部に対する第2方向の振動伝達が抑制されるため、把持の安定性を良好に維持することができる。
【0010】
本発明の一態様において、第2方向において、第1弾性部材は、駆動軸に対して重心と同じ側に配置され、第2弾性部材は、反対側に配置されてもよい。この場合、第2方向の振動が可動部に伝達されるのをより効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明の一態様において、モータの一部は、駆動軸上に配置されてもよい。出力シャフトの回転軸は、駆動軸に交差してもよい。更に、本態様において、把持部は、把持部の一部が駆動軸上に位置するように、第1方向においてモータに対して駆動機構と反対側に配置されていてもよい。
【0012】
本発明の一態様において、駆動機構は、出力シャフトの回転運動を直線運動に変換し、往復動部材を往復動させるように構成された運動変換機構を含んでもよい。制振機構の少なくとも一部は、第2方向において、駆動軸を挟んで運動変換機構の少なくとも一部の反対側に配置されていてもよい。本態様によれば、第2方向において、重量物である運動変換機構の少なくとも一部と制振機構の少なくとも一部とを、駆動軸を挟んで配置することで、良好な重量バランスを実現することが可能となる。
【0013】
本発明の一態様において、制振機構は、少なくとも1つの動吸振器を含んでもよい。更に、本態様において、駆動機構は、出力シャフトの回転運動を直線運動に変換し、往復動部材を往復動させるように構成された運動変換機構を含んでもよい。そして、運動変換機構の駆動によって、ウェイトが加振されてもよい。この場合、運動変換機構の駆動時に、積極的にウェイトを加振することができる。これにより、より効果的に振動を吸収することができる。
【0014】
本発明の一態様において、少なくとも1つの動吸振器は、第1方向および第2方向に直交する第3方向に並んで配置された一対の動吸振器を含んでもよい。この場合、1つの動吸振器が設けられる場合に比べ、各動吸振器を小型化することができ、全体としてもコンパクトな配置が可能となる。
【0015】
本発明の一態様において、第1弾性部材および第2弾性部材は、同一構成を有するバネであって、本体ハウジングおよび可動部に対する取付け状態が互いに異なっていてもよい。この場合、同一のバネを利用して、可動部が近接位置に配置されたときの第1弾性部材と第2弾性部材の荷重を容易に異ならせることができる。なお、本態様に代えて、第1弾性部材と第2弾性部材には、互いに異なるバネ定数を有する弾性部材が採用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電動ハンマの左側面図である。
図2】電動ハンマの斜視図である。
図3】電動ハンマの断面図である。
図4】ハンドル部を取り外した状態の電動ハンマの後端部の斜視図である(但し、電線は図示略)。
図5】電動ハンマの後端部の部分断面図であって、本体ハウジングと可動ハウジングの弾性連結構造の説明図である。
図6】可動ハウジングが初期位置にあるときの電動ハンマを示す説明図である。
図7】可動ハウジングが近接位置にあるときの電動ハンマを示す説明図である。
図8】電動ハンマの後端部の断面図である。
図9】ハンドル部およびリヤカバーを取り外した状態の電動ハンマの後端部の斜視図である(但し、電線は図示略)。
図10】ハンドル部、リヤカバーおよびコントローラケースのカバーを取り外した状態の電動ハンマの後端部の背面図である。
図11】アウタハウジング部の下側部分を取り外した状態の電動ハンマの底面図である。
図12図11のXII-XII線における断面図である(但し、下側部分が取り付けられた状態)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、実施形態に係る電動ハンマ101について説明する。電動ハンマ(以下、単にハンマという)101は、所定の駆動軸A1に沿って先端工具91を直線状に駆動する動作(以下、ハンマ動作という)を行うように構成された電動工具であって、ハツリ作業やケレン作業に使用される。
【0018】
まず、ハンマ101の概略構成について説明する。図1図3に示すように、ハンマ101の外郭は、主としてハウジング10によって形成されている。ハウジング10は、駆動軸A1に沿って延在する。
【0019】
駆動軸A1の軸方向(以下、単に駆動軸方向という)におけるハウジング10の一端部には、筒状のツールホルダ112が固定状に連結されている。ツールホルダ112は、駆動軸A1と同軸状に配置され、先端工具91を取り外し可能に保持するように構成されている。先端工具91は、その長軸が駆動軸A1と一致するように、ツールホルダ112の前端部のビット挿入孔に挿入され、ツールホルダ112に対する軸方向の移動が許容され、軸周りの回転が規制された状態で保持される。
【0020】
駆動軸方向におけるハウジング10の他端部には、使用者によって把持される長尺状の把持部181が設けられている。把持部181は、駆動軸A1に略直交する方向に延在し、その一部が駆動軸A1上に配置されている。把持部181には、使用者による押圧操作が可能なトリガ182が設けられている。なお、トリガ182は、把持部181の長軸方向における一端部側に設けられている。使用者がトリガ182を押圧操作すると、先端工具91が駆動軸A1に沿って直線状に駆動される。
【0021】
以下、ハンマ101の詳細構成について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、駆動軸方向(ハウジング10の長軸方向)をハンマ101の前後方向と規定する。前後方向において、ツールホルダ112が配置されている一端部側をハンマ101の前側、反対側(把持部181が配置されている側)を後側と規定する。また、把持部181の長軸方向をハンマ101の上下方向と規定する。上下方向において、トリガ182が配置されている一端部側を上側、反対側を下側と規定する。また、前後方向および上下方向に直交する方向を左右方向と規定する。
【0022】
まず、ハウジング10の構成について説明する。本実施形態のハウジング10は、いわゆる防振ハウジングとして構成されており、本体ハウジング11と、本体ハウジング11に対して相対移動可能に弾性連結された可動ハウジング15とを含む。
【0023】
図3に示すように、本体ハウジング11は、主に、モータ2と、駆動機構3とを収容するハウジングである。本体ハウジング11の前半部分は、円筒状に形成されている。この円筒状の前半部分を、バレル部111という。バレル部111の前端部には、ツールホルダ112がネジで固定されている。本体ハウジング11のうち、バレル部111以外の後半部分は、概ね矩形箱状に形成されている。この矩形箱状の後半部分を、本体部113という。
【0024】
図3および図4に示すように、本体ハウジング11(本体部113)の後壁114には、コントローラケース13およびリヤカバー12が固定されている。コントローラケース13は、長尺状の矩形箱状体である。コントローラケース13は、上下方向に延在するように配置され、本体部113の後壁114にネジで固定されている。リヤカバー12は、断面U字状に形成されている。リヤカバー12は、その両端部が後壁114の上下方向における中央領域(後述の露出領域117)の左端部および右端部に当接する状態で、コントローラケース13にネジで固定されている。リヤカバー12は、コントローラケース13の一部(詳細には、後述の第1収容空間131)を覆っている。このようにして、コントローラケース13およびリヤカバー12は、本体ハウジング11に一体化されている。
【0025】
図1図4に示すように、可動ハウジング15は、本体ハウジング11の一部を覆うとともに、把持部181を有するハウジングである。より詳細には、可動ハウジング15は、アウタハウジング部16と、バレルカバー17と、ハンドル部18とを含む。
【0026】
アウタハウジング部16は、本体ハウジング11のうち、本体部113の上面および左右側面の上部を覆う上側部分161と、本体部113の下面および左右側面の下部を覆う下側部分163とを含む。上側部分161および下側部分163は、何れも断面U字状のカバーであって、前後方向において、本体部113と概ね同じ長さを有する。上側部分161の左右の下端と、下側部分163の左右の上端とは、互いから離間している。つまり、上下方向において、上側部分161と下側部分163との間には間隙が設けられている。
【0027】
このような配置により、本体部113の左側面および右側面の夫々において、上下方向における中央領域は、上側部分161と下側部分163との間から外部に露出する。以下、これらの領域を、露出領域117という。露出領域117は、本体部113の前端から後端に亘って前後方向に延在する。
【0028】
バレルカバー17は、筒状に形成され、本体ハウジング11のうちバレル部111を覆う部分である。バレルカバー17は、上側部分161および下側部分163の前端部にネジで固定されている。なお、バレルカバー17には、補助ハンドル93を着脱可能である。
【0029】
ハンドル部18は、全体としては、側面視C字状の中空体として構成されている。ハンドル部18は、把持部181と、上側連結部185と、下側連結部187とを含む。把持部181は、長尺筒状の部分であって、上下方向に延在するように配置される。上側連結部185および下側連結部187は、夫々、把持部181の上端部および下端部に接続し、前方へ延びる。上側連結部185および下側連結部187は、夫々、上側部分161および下側部分163の後端部にネジで固定され、本体ハウジング11の上後端部および下後端部を覆っている。上下方向において、上側連結部185と下側連結部187の間には、コントローラケース13を介して本体ハウジング11に固定されたリヤカバー12が配置されている。
【0030】
このようにして、アウタハウジング部16と、バレルカバー17と、ハンドル部18とが一体化され、可動ハウジング15が形成されている。
【0031】
更に、図4および図5に示すように、本体ハウジング11と、可動ハウジング15との間には、弾性部材8が配置されている。より詳細には、本体ハウジング11の後壁114と、可動ハウジング15のハンドル部18の間には、4つの弾性部材8が介在し、本体ハウジング11と可動ハウジング15とを、前後方向において互いから離れる方向に付勢している。本体ハウジング11と可動ハウジング15とは、夫々、前方および後方に付勢された状態で、前後方向に相対移動可能である。
【0032】
本実施形態では、4つの弾性部材8のうち2つは、駆動軸A1よりも上側に配置され、残る2つは、駆動軸A1よりも下側に配置されている。以下では、弾性部材8を区別して指す場合、上側の弾性部材8を上側弾性部材81、下側の弾性部材8を下側弾性部材83ともいう。本実施形態では、4つの弾性部材8は全て、圧縮コイルバネである。
【0033】
上側弾性部材81は、前後方向に延在するように配置され、その前端部と後端部が、夫々、後壁114の後面側に設けられたバネ受け部811と、上側連結部185の後壁186の前面側に設けられたバネ受け部813に支持されている。なお、上側弾性部材81は、駆動軸A1を含み上下方向に延在する(駆動軸A1およびモータ2の回転軸A2を含む)仮想的な平面P(図10参照)に対して対称に配置されている。下側弾性部材83も、前後方向に延在するように配置され、その前端部と後端部が、夫々、後壁114の後面側に設けられたバネ受け部831と、上側連結部185の後壁186の前面側に設けられたバネ受け部833に支持されている。下側弾性部材83は、平面Pに対して対称に配置されている。また、下側弾性部材83は、夫々、上側弾性部材81の真下に位置する。
【0034】
このような弾性連結構造により、可動ハウジング15は、本体ハウジング11に近接する方向へ向かう力が加えられない初期状態では、図5および図6に示す初期位置に配置される。可動ハウジング15の初期位置は、本体ハウジング11に対する可動範囲内の最後方位置であるといえる。詳細な図示は省略するが、本体ハウジング11および可動ハウジング15には、互いに当接することで、可動ハウジング15の初期位置を規定する(初期位置よりも後方への移動を規制する)ストッパ部が設けられている。本体ハウジング11および可動ハウジング15が初期位置にある状態では、リヤカバー12の後壁の後面と、上側連結部185の後壁および下側連結部187の後壁188の後面は、概ね面一となる。
【0035】
一方、本体ハウジング11に近接する方向へ向かう力が加えられた場合には、可動ハウジング15は、弾性部材8の付勢力に抗して、本体ハウジング11に対して近接する方向(つまり、前方)に移動する。本実施形態では、可動ハウジング15は、図7に示す位置(以下、近接位置という)まで移動可能である。可動ハウジング15の近接位置は、本体ハウジング11に対する可動範囲内の最前方位置であるといえる。詳細な図示は省略するが、本体ハウジング11および可動ハウジング15には、互いに当接することで、可動ハウジング15の近接位置を規定する(近接位置よりも前方への移動を規制する)ストッパ部が設けられている。
【0036】
なお、本体ハウジング11の左右の露出領域117の上端および下端には、夫々、前後方向に延在する摺動ガイド118が設けられている。これらの摺動ガイド118は、本体ハウジング11の左側面および右側面から夫々左方および右方に突出する突条として構成されている。アウタハウジング部16の上側部分161の下端と、下側部分163の上端とが、夫々、露出領域117の上端および下端の摺動ガイド118に沿って摺動することで、可動ハウジング15は、本体ハウジング11に対して前後方向に移動案内される。
【0037】
本実施形態では、上側弾性部材81と下側弾性部材83とは、可動ハウジング15が近接位置に配置されたときの荷重(つまり、本体ハウジング11と可動ハウジング15とを互いから離れる方向に付勢する付勢力(弾性力))が異なっている。より詳細には、4つの弾性部材8には、同一構成を有する圧縮コイルバネが採用されている。つまり、4つの弾性部材8は全て、同一材料により形成された同一形状の圧縮コイルバネであって、同一のバネ定数を有する。但し、本体ハウジング11および可動ハウジング15に対する上側弾性部材81および下側弾性部材83の取付け状態は異なっている。
【0038】
より詳細には、上側弾性部材81の取付荷重(初期荷重ともいう)は、下側弾性部材83の取付荷重よりも大きく設定されている。なお、取付荷重とは、弾性部材8を取り付ける際、弾性部材8に所定の撓みを与えるために付加される荷重をいう。言い換えると、上側弾性部材81は、下側弾性部材83よりも大きく圧縮された状態で取り付けられており、図5に示すように、上側弾性部材81の取付高さD1(バネ受け部811とバネ受け部813の前後方向の距離)は、下側弾性部材83の取付高さD2(バネ受け部831とバネ受け部833の前後方向の距離)よりも小さい。
【0039】
このような取付荷重の差によって、可動ハウジング15と本体ハウジング11の相対移動時に、下側弾性部材83の方が上側弾性部材81よりも弾性変形しやすくなる。より詳細には、可動ハウジング15に加えられる荷重が下側弾性部材83の取付け荷重を超えると、下側弾性部材83は変形するが、上側弾性部材81は、可動ハウジング15に加えられる荷重が更に増大し、下側弾性部材83の取付け荷重を超えると変形を開始する。可動ハウジング15が近接位置まで相対移動されると、上側弾性部材81の圧縮量よりも、下側弾性部材83の圧縮量の方が小さいため、上側弾性部材81の荷重よりも、下側弾性部材83の荷重の方が小さくなる。このように、本実施形態では、取付け状態の異なる同一の圧縮コイルバネを利用して、上側弾性部材81と下側弾性部材83の荷重(付勢力)を容易に異ならせることができる。なお、可動ハウジング15の相対移動時の弾性部材8の作用については、後で詳述する。
【0040】
以下、ハウジング10の内部構造について説明する。
【0041】
まず、本体ハウジング11の内部構造について説明する。図3に示すように、本体ハウジング11内には、モータ2と、駆動機構3とが収容されている。駆動機構3は、ギヤ減速機構31と、運動変換機構33と、打撃要素35とを含む。
【0042】
モータ2は、本体ハウジング11の後端部(つまり、本体部113の後端部)内に配置されている。本実施形態では、モータ2には、電源コード191を介して外部の交流電源から供給された電力で駆動される交流モータが採用されている。モータ2は、出力シャフト25の回転軸A2が上下方向に延在するように(つまり、駆動軸A1と直交するように)配置されている。また、モータ2の一部(詳細には、ステータとロータの一部)は、駆動軸A1上にある。
【0043】
ギヤ減速機構31は、複数のギヤで構成される減速機構であって、モータ2の前側で、本体ハウジング11の上端部内に配置されている。ギヤ減速機構31は、出力シャフト25の回転を適宜減速した上で、運動変換機構33に伝達するように構成されている。
【0044】
運動変換機構33は、ギヤ減速機構31から伝達された回転運動を直線運動に変換するように構成された機構であって、モータ2の前側で、本体ハウジング11内に配置されている。本実施形態では、運動変換機構33は、クランク機構として構成されており、クランクシャフト331と、偏心ピン333と、連接ロッド335と、ピストン337とを含む。
【0045】
クランクシャフト331は、ギヤ減速機構31によって、上下方向に延在する回転軸周りに回転されるように構成されている。なお、クランクシャフト331は、駆動軸A1よりも上方において、本体ハウジング11(本体部113)の上壁に保持された軸受によって回転可能に支持されている。偏心ピン333は、クランクシャフト331の回転軸から偏心した位置に配置され、クランクシャフト331の下端に設けられたクランク板から下方に突出している。連接ロッド335は、偏心ピン333とピストン337とを連結する。ピストン337は、シリンダ338内に、摺動可能に配置されている。シリンダ338は、ツールホルダ112と同軸状に、バレル部111から本体部113の前端部に亘って、駆動軸A1に沿って延在している。
【0046】
打撃要素35は、ストライカ351と、インパクトボルト353とを含む。ストライカ351は、先端工具91に打撃力を加えるための打撃子である。ストライカ351は、シリンダ338内でピストン337の前側に配置されており、駆動軸A1に沿って摺動可能である。シリンダ338内のピストン337とストライカ351との間の空間は、空気バネとして機能する空気室を構成する。インパクトボルト353は、ストライカ351の運動エネルギを先端工具91に伝達する中間子である。インパクトボルト353は、ストライカ351の前側に配置されており、駆動軸A1に沿ってツールホルダ112内を摺動可能である。
【0047】
クランクシャフト331の回転に伴って、ピストン337が前後方向に往復動されると、空気室の圧力が変動し、空気バネの作用によってストライカ351がシリンダ338内を前後方向に摺動する。より詳細には、ピストン337が前方に向けて移動されると、空気室の圧力が上昇する。ストライカ351は、空気バネの作用で高速に前方に押し出されてインパクトボルト353を打撃する。インパクトボルト353は、ストライカ351の運動エネルギを先端工具91に伝達する。これにより、先端工具91は駆動軸A1に沿って直線状に駆動される。一方、ピストン337が後方へ移動されると、空気室の圧力が低下し、ストライカ351が後方へ引き込まれる。先端工具91は、被加工物への押し付けにより、インパクトボルト353と共に後方へ移動する。このようにして、ハンマ動作が繰り返される。
【0048】
次に、可動ハウジング15の内部構造について説明する。図8に示すように、可動ハウジング15のうち、ハンドル部18の把持部181には、スイッチ183が収容されている。スイッチ183は、常時にはオフ状態で維持される一方、トリガ182の押圧操作に応じてオン状態とされるように構成されている。
【0049】
また、上述のように、本体ハウジング11の後壁114には、コントローラケース13が固定されている。図4および図8に示すように、コントローラケース13の上下方向における略中央部(後述の第1収容空間131)は、リヤカバー12によって覆われる一方、コントローラケース13の上部および下部は、夫々、ハンドル部18の上側連結部185および下側連結部187によって覆われている。
【0050】
図8図9および図10に示すように、本実施形態では、コントローラケース13は、コントローラ41を収容するとともに、コントローラ41に接続された様々な電線40(コネクタを介して接続されたものを含む)の一部を収容する(図9では図示略)。より詳細には、コントローラケース13は、ケース本体140と、ケース本体140の一部を覆うカバー145とによって形成されている。本実施形態では、ケース本体140およびカバー145は、何れも合成樹脂で形成されている。
【0051】
ケース本体140は、後側が開放された長尺の矩形箱状体であって、概ね長方形状の前壁(底壁)と、前壁の外縁から後方に突出する周壁とを有する。ケース本体140は、上下に区画された2つの収容空間を有する。以下、ケース本体140のうち、上側の第1収容空間131を規定する部分を第1収容部141といい、下側の第2収容空間132を規定する部分を第2収容部142という。なお、本実施形態では、第1収容空間131と第2収容空間132とは、区画壁によって区画されている。カバー145は、ケース本体140の後端の開口のうち、第2収容空間132に対応する部分の概ね全体を覆うように配置されている。なお、カバー145は、ケース本体140にネジで固定されている。
【0052】
第1収容空間131には、コントローラ41が配置されている。コントローラ41は、モータ2の駆動を制御するように構成された制御装置である。詳細な図示は省略するが、コントローラ41は、回路基板と、回路基板に搭載された制御回路とを含む。コントローラ41には、複数の電線40が接続されている。電線40は、例えば、電源コード191とコントローラ41とを接続する電線401、コントローラ41とモータ2(ブラシホルダ)とを接続する電線403、コントローラ41とスイッチ183とを接続する電線405等を含む。これらの電線40のうち一部は、第2収容空間132に配置されている。本実施形態では、電線401および403の一部が、第2収容空間132に配置されている。
【0053】
なお、本実施形態では、モータ2は、出力シャフト25が駆動軸A1に直交するように配置されている。このような配置では、モータ2に隣接した領域に、出力シャフト25の延在方向に沿ったスペースが生じやすい。そこで、本実施形態では、このスペースを利用して、長尺状のコントローラケース13が、その長軸がモータ2の出力シャフト25の回転軸と平行に延在するように、後壁114に固定されている。また、このコントローラケース13の配置は、コントローラ41とモータ2とを接続する電線403を収容する上でも合理的である。特に、電線403はモータ2の下端部(ブラシホルダ)に接続されるため、第2収容空間132が第1収容空間131よりも下側に配置されることで、配線が容易となる。なお、電線403は、ケース本体140の前壁(底壁)と後壁114に夫々設けられた開口を通じて、本体ハウジング11内に挿入されている。
【0054】
また、図8に示すように、本実施形態では、第2収容空間132に配置された電線40の一部と、コントローラケース13の内面との間には、緩衝材130が配置されている。より詳細には、緩衝材130は、電線40の一部(少なくとも、モータ2に接続される電線403)とケース本体140の前壁(底壁)との間、および、電線40の一部(電線403)とカバー145の内面との間に配置されている。緩衝材130としては、合成樹脂製のスポンジ、ゴム等の弾性体が好適に採用される。緩衝材130は、コントローラケース13の内面と、第2収容空間132に配置された電線40の一部との衝突を防止し、本体ハウジング11、ひいてはコントローラケース13の振動から、電線40を保護する。
【0055】
更に、カバー145の後面(つまり、下側連結部187の後壁188と対向する面)には、電線40(あるいは電線40用のコネクタ)を保持するホルダ146が設けられている。なお、本実施形態では、ホルダ146は、可撓性を有し、電線40またはコネクタを挟持可能な一対の突起として構成されている。本実施形態では、ホルダ146は、電線405用のコネクタを保持している。電線405は、下側連結部187と把持部181の内部を通って、スイッチ183に接続されている。
【0056】
また、カバー145は、可動ハウジング15に摺動可能に係合する摺動部147を有する。より詳細には、摺動部147は、カバー145の下端部から後方に延在する板状部であって、ハンドル部18の下側連結部187の下端部に設けられた凹部189内に摺動可能に配置されている。
【0057】
コントローラケース13の一部は、電源コード191を保護するためのコードガード193を保持するように構成されている。つまり、コントローラ41および電線40の一部を収容するコントローラケース13は、コードガード193の保持にも利用されている。
【0058】
より詳細には、コントローラケース13のケース本体140およびカバー145の下端部には、夫々、前側保持部143および後側保持部148が設けられている。前側保持部143および後側保持部148は、コードガード193の外周部に整合する凹部を夫々有する。前側保持部143および後側保持部148は、カバー145がケース本体140に固定されると、コードガード193に前側および後側から係合し、コードガード193を保持する。なお、前側保持部143および後側保持部148は、可動ハウジング15の下端部(より詳細には、アウタハウジング部16の下側部分163の下後端部とハンドル部18の下側連結部187の下前端部)に形成された開口から、下方に突出している。
【0059】
更に、図3および図11に示すように、ハンマ101には、上述のハンマ動作に起因して本体ハウジング11に生じる前後方向の振動を低減するように構成された制振機構7が設けられている。本実施形態の制振機構7は、左右一対の動吸振器70を含む。なお、一対の動吸振器70は、同一構成を有するとともに、平面Pに対して対称に配置されている。一対の動吸振器70は、本体ハウジング11の下端部に取り付けられ、駆動軸A1に平行に、前後方向に延在している。動吸振器70は、アウタハウジング部16の下側部分163によって覆われている。
【0060】
なお、本実施形態では、左右一対の動吸振器70を採用することで、1つの動吸振器で振動を効果的に吸収しようとする場合に比べ、各動吸振器70を小型化することができ、全体としてもコンパクトな配置が実現されている。また、動吸振器70の後半部分は、駆動軸A1を挟んで、運動変換機構33の一部の反対側に配置されている。より詳細には、何れも重量物であるクランクシャフト331と、動吸振器70とが、駆動軸A1を挟んで上側と下側に配置されている。これにより、上下方向において、良好な重量バランスが確保されている。また、駆動軸A1に対してクランクシャフト331の反対側のスペースに配置する必要がある機構は特にないため、このスペースを利用して、制振機構7の合理的な配置が実現されているともいえる。
【0061】
図12に示すように、本実施形態では、各動吸振器70は、ウェイト71と、ウェイト71の両側に配置された2つのバネ72と、ウェイト71およびバネ72を収容する収容部73とを主体として構成されている。
【0062】
ウェイト71は、前後方向に延在する長尺の円柱状部材として形成されており、収容部73内を前後方向に摺動可能である。より詳細には、ウェイト71は、均一径を有する大径部711と、大径部711よりも径が小さく、大径部711の前端および後端から突出する小径部713を有する。2つのバネ72は、夫々、小径部713に嵌め込まれており、各バネ72の一端は、大径部711の端部に当接している。各バネ72の他端は、収容部73の両端部の内面側に設けられたバネ受け部に当接している。なお、以下では、2つのバネ72を総称する場合および何れかを区別なく指す場合、単にバネ72といい、2つのバネ72のうち、ウェイト71の前側に配置されたバネ72を指す場合には、前側バネ721といい、ウェイト71の後側に配置されたバネ72を指す場合には、後側バネ723というものとする。
【0063】
収容部73は、両端が閉塞された円筒状のケースである。本実施形態では、収容部73は、複数の部材が結合されることで構成されている。収容部73は、その長軸が前後方向に延在するように配置され、本体ハウジング11の下端部に取り付けられている。収容部73の内部空間は、ウェイト71(詳細には、大径部711)によって、ウェイト71の前側に形成される前側空間731と、ウェイト71の後側に形成される後側空間733とに区画されている。
【0064】
なお、本実施形態の動吸振器70は、バレル部111およびクランク室119の空気の圧力変動を利用してウェイト71を積極的に加振する方式(いわゆるエア加振方式)の動吸振器として構成されている。なお、クランク室119は、本体ハウジング11内の、クランクシャフト331(クランク板)および偏心ピン333が配置されている区画された空間であって(図3参照)、前側は、シリンダ338内のピストン337によって閉塞されている。詳細な図示は省略するが、クランク室119は、シール構造により概ね外部と非連通状態とされている。動吸振器70の前側空間731は、通路741を介して、シリンダ338(図12では図示略)を収容するバレル部111の内部空間と連通されている。また、後側空間733は、通路743を介して、クランク室119と連通している。
【0065】
ハンマ動作の遂行時には、バレル部111の内部空間およびクランク室119の圧力は、運動変換機構33および打撃要素35(図3参照)の駆動に伴って夫々変動し、その圧力変動は、概ね180度の位相差を有する。つまり、バレル部111の内部空間の圧力が上昇したときには、クランク室119の圧力が低下し、バレル部111の内部空間の圧力が低下したときには、クランク室119の圧力が上昇するという関係にある。よって、動吸振器70の前側空間731および後側空間733を、夫々、バレル部111の内部空間およびクランク室119に連通させることで、これらの圧力変動を利用して、動吸振器70のウェイト71を、ピストン337および打撃要素35と逆方向に積極的に駆動することができる。これにより、より効果的に振動を吸収することができる。なお、このエア加振方式自体は公知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0066】
以下、ハンマ101の動作について説明する。
【0067】
モータ2が駆動されると、ギヤ減速機構31を介して運動変換機構33が駆動される。ピストン337およびストライカ351が前後方向に往復動するのに伴い、動吸振器70のウェイト71は、ピストン337およびストライカ351と逆方向に往復動することで、本体ハウジング11に生じる前後方向の振動を低減する。また、図6および図7に示すように、弾性部材8を介して連結された本体ハウジング11と可動ハウジング15とが初期位置と近接位置の間で前後方向に相対移動することで、本体ハウジング11の振動が可動ハウジング15に伝達されるのを抑制することができる。
【0068】
本実施形態では、上述のように、一対の動吸振器70は、本体ハウジング11の下端部に取り付けられている。このため、図11に示すように、初期状態において(非駆動時に)、一対のウェイト71の全体としての重心Gは、左右方向では概ね駆動軸A1と同じ位置にあるが、図3に示すように、上下方向では駆動軸A1からずれており、具体的には、駆動軸A1に対して下側に位置する。つまり、重心Gは、駆動軸A1の概ね真下に位置する。このような配置では、動吸振器70によって、本体ハウジング11に生じる前後方向の振動を良好に低減できる一方、上下方向には多少の振動が生じる傾向にある。この上下方向の振動は、特に、ピストン337およびストライカ351が前方へ移動してインパクトボルト353が先端工具91を打撃するとともに、動吸振器70のウェイト71が後方へ移動するときの衝撃の影響を受けやすいと考えられる。
【0069】
これに対して、本実施形態では、上下方向において、ウェイト71の重心Gにより近い下側弾性部材83の取付荷重が、上側弾性部材81の取付荷重よりも小さく設定されている。これにより、下側弾性部材83は上側弾性部材81よりも弾性変形しやすく、この衝撃を効果的に吸収することができるため、上下方向の振動が可動ハウジング15に伝達されるのを抑制することができる。特に、本実施形態では、下側弾性部材83は駆動軸A1に対して重心Gと同じ側に配置され、上側弾性部材81は反対側に配置されているため、上下方向の振動が可動ハウジング15に伝達されるのをより効果的に抑制することができる。また、上下方向に延在する把持部181に対する把持の安定性を良好に維持することができる。このように、本実施形態では、制振機構7を駆動軸A1からずれた位置に配置しつつ、可動ハウジング15への振動伝達を抑制可能な合理的な構成が実現されている。
【0070】
また、本実施形態では、コントローラ41に接続された電線40の一部は、コントローラケース13内で、コントローラ41が配置された第1収容空間131に隣接して設けられた第2収容空間132内に配置されている。そして、第2収容空間132内の電線40の一部は、コントローラケース13の内面との間に配置された緩衝材130によって覆われている。これにより、ハンマ101の駆動に伴って振動が生じても、第2収容空間132内の電線40の一部に対する振動の影響を低減し、電線40を保護することができる。
【0071】
更に、第2収容空間132は、ケース本体140のみならず、カバー145によって覆われているため、電線40のコントローラケース13外への移動が防止される。これにより、電線40をより安定してコントローラケース13内で保持することができる。特に、本実施形態では、可動ハウジング15が本体ハウジング11に対して前方に相対移動した場合でも、カバー145により、電線40が可動ハウジング15の一部(具体的には、下側連結部187の後壁188)に接触するのを防止することができ、より確実に電線40が保護される。
【0072】
なお、上述のように、露出領域117に設けられた摺動ガイド118が、アウタハウジング部16の前後方向の相対移動を案内する。これに加え、カバー145に設けられた摺動部147は、ハンドル部18の下側連結部187の下端部に設けられた凹部189内で摺動し、ハンドル部18の前後方向の相対移動を案内することができる。
【0073】
本実施形態の各構成要素と本発明の各構成要素の対応関係を以下に示す。但し、実施形態の各構成要素は単なる一例であって、本発明の各構成要素を限定するものではない。電動ハンマ101は、「往復動工具」の一例である。モータ2および出力シャフト25は、夫々、「モータ」および「出力シャフト」の一例である。駆動機構3およびピストン337は、夫々、「駆動機構」および「往復動部材」の一例である。駆動軸A1は、「駆動軸」の一例である。制振機構7およびウェイト71は、夫々、「制振機構」および「ウェイト」の一例である。本体ハウジング11は、「本体ハウジング」の一例である。可動ハウジング15および把持部181は、夫々、「可動部」および「把持部」の一例である。下側弾性部材83および上側弾性部材81は、夫々、「第1弾性部材」および「第2弾性部材」の一例である。
【0074】
運動変換機構33は、「運動変換機構」の一例である。動吸振器70は、「動吸振器」の一例である。ウェイト71、バネ72、収容部73は、夫々、「ウェイト」、「バネ」、「収容部」の一例である。クランク室119は、「内部空間」の一例である。
【0075】
なお、上記実施形態は単なる例示であり、本発明に係る往復動工具は、例示されたハンマ101の構成に限定されるものではない。例えば、下記に例示される変更を加えることができる。なお、これらの変更は、これらのうちいずれか1つのみ、あるいは複数が、実施形態に示すハンマ101、あるいは各請求項に記載された特徴と組み合わされて採用されうる。
【0076】
上記実施形態では、往復動工具として、ハンマ101が例示されている。しかしながら、往復動部材の往復動に伴って、先端工具を直線状に駆動するように構成された往復動工具は、ハンマ101に限られるものではない。例えば、往復動工具は、先端工具を直線状に駆動するハンマ動作に加え、先端工具を回転駆動するドリル動作を遂行可能なハンマドリルであってもよい。なお、ハンマ101およびハンマドリルは何れも打撃工具の一例である。また、往復動工具は、先端工具によって、被加工材を切断するように構成された往復動切断工具(例えば、レシプロソー、セーバーソー、ジグソー)であってもよい。
【0077】
また、往復動工具に応じて、モータ2、駆動機構3、モータ2および駆動機構3を収容する本体ハウジング11、把持部181を有する可動ハウジング15の構成や配置関係は適宜変更されうる。以下に、これらについて採用可能な変更について例示する。
【0078】
モータ2は、ブラシを有するモータでなく、ブラシレスモータであってもよい。また、モータ2は、直流モータであってもよい。この場合、本体ハウジング11には、バッテリ(例えば充電式のバッテリ。バッテリパックともいう)を着脱可能なバッテリ装着部が設けられる。また、駆動機構3の運動変換機構33として、上記実施形態のクランク機構に代えて、揺動部材を用いる周知の運動変換機構が採用されてもよい。更に、モータ2は、出力シャフト25が駆動軸A1に直交するように配置される必要はなく、例えば、出力シャフト25が駆動軸A1に斜めに交差してもよいし、駆動軸A1と平行であってもよい。
【0079】
本体ハウジング11および可動ハウジング15の形状は、適宜変更されうる。例えば、上記実施形態では、本体ハウジング11に弾性連結された可動ハウジング15は、本体ハウジング11を部分的に覆う構造を有するが、可動ハウジング15が覆う本体ハウジング11の部分やその範囲は、実施形態の例示に限られるものではない。本体ハウジング11と可動ハウジング15の前後方向の相対移動を案内するための摺動部は、摺動ガイド118に限られるものではない。例えば、摺動ガイド118は、上下方向において1箇所のみに設けられてもよい。また、複数の摺動部が、上記実施形態で例示されたのとは異なる位置に設けられてもよい。あるいは、摺動部は省略されてもよい。
【0080】
可動ハウジング15に代えて、使用者によって把持される把持部を含み、実質的に本体ハウジング11を覆わないハンドル部が、本体ハウジング11に弾性連結されてもよい。ハンドル部は、駆動軸A1上ではなく、本体ハウジング11に対して上下または左右に突出する一対の把持部を含んでもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、本体ハウジング11の後壁114に、コントローラ41および電線40の一部を収容するコントローラケース13が設けられている。しかしながら、コントローラケース13は、省略されてもよい。例えば、コントローラ41は、本体ハウジング11内または可動ハウジング15内に設けられ、電線40によって、各種電気部品と接続されていてもよい。
【0082】
制振機構7の動吸振器70の構成、数、配置位置等は、適宜変更されうる。
【0083】
例えば、動吸振器70は、ウェイトと、少なくとも1つのバネを含めばよい。つまり、バネの数は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、収容部73の少なくとも一部は、本体ハウジング11の一部によって形成されていてもよい。上記実施形態では、動吸振器70はエア加振方式の動吸振器として構成されており、バレル部111およびクランク室119の圧力変動を利用して、ウェイト71が積極的に加振される。しかしながら、動吸振器70は、ウェイト71を積極的に加振しない通常の動吸振器であってもよい。また、収容部73の内部空間は、クランク室119にのみ連通し、クランク室119の圧力変動のみによってウェイト71が加振されてもよい。また、ウェイト71は、空気の圧力変動ではなく、何らかの部材によって、機械的に加振されてもよい。例えば、クランクシャフト331に連結されたレバーによって、ウェイト71が機械的に加振されてもよい。制振機構7は、動吸振器70ではなく、少なくとも1つのカウンタウェイトを含む機構であってもよい。
【0084】
また、動吸振器70の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。例えば、1つの動吸振器70を、平面P上で、駆動軸A1と平行に、本体ハウジング11の下端部に設けることができる。また、例えば、2つの動吸振器70が、本体ハウジング11の左側部または右側部に設けられてもよい。
【0085】
本体ハウジング11と可動ハウジング15の間に介在する弾性部材8の数、配置位置、種類等も、適宜変更されうる。
【0086】
例えば、弾性部材8は、駆動軸A1に直交し、駆動軸A1と少なくとも1つのウェイト71の重心とを通る軸の軸方向において、互いから離間して配置された2つの弾性部材8を少なくとも含めばよい。そして、2つの弾性部材8のうち、少なくとも1つのウェイト71の重心Gにより近い一方の弾性部材8について、可動ハウジング15が近接位置に配置されたときの荷重を、他方よりも小さく設定すればよい。よって、例えば、ウェイト71の重心が駆動軸A1に対して左側または右側にずれている場合には、2つの弾性部材8は、左右方向に離間して配置される。
【0087】
更に、上記実施形態では、同一構成を有する上側弾性部材81および下側弾性部材83の取付け状態(詳細には、取付荷重、取付高さ)を変えることで、可動ハウジング15が近接位置に配置されたときの荷重を異ならせている。この例に代えて、例えば、上側弾性部材81および下側弾性部材83は、互いに異なるバネ定数を有する弾性部材であってもよい。より詳細には、下側弾性部材83には、上側弾性部材81よりも小さいバネ定数を有する(柔らかい)弾性部材(例えば、圧縮コイルバネ)を採用してもよい。この場合、上側弾性部材81および下側弾性部材83の取付荷重が同じであっても、可動ハウジング15が近接位置に配置されたときの荷重は、下側弾性部材83の方が小さくなる。この場合も、上述の実施形態と同様、制振機構7を駆動軸A1からずれた位置に配置しつつ、可動ハウジング15への振動伝達を効果的に抑制可能な合理的な構成を実現することができる。
【0088】
また、弾性部材8として、例えば、圧縮コイルバネとは異なる種類のバネ、ゴム、弾性を有する合成樹脂(例えば、ウレタン発泡体)、フェルト等を採用することができる。
【0089】
更に、本発明および上記実施形態の趣旨に鑑み、以下の態様が構築される。以下の態様のうち少なくとも1つが、上述の実施形態とその変形例、および各請求項に記載された発明の1つまたは複数と組み合わされて採用されうる。
[態様1]
前記駆動機構は、前記往復動部材の往復動に伴い、空気バネの作用で前記先端工具を打撃するように構成された打撃要素を含む。
打撃要素35は、本態様における「打撃要素」の一例である。
[態様2]
前記運動変換機構は、偏心ピンを有するクランクシャフトを含み、
前記制振機構の一部は、前記駆動軸を挟んで前記クランクシャフトの反対側に配置されている。
クランクシャフト331および偏心ピン333は、夫々、本態様における「クランクシャフト」および「偏心ピン」の一例である。
[態様3]
前記少なくとも1つの動吸振器は、ウェイトと、少なくとも1つのバネとを含む。
[態様4]
態様3において、
前記少なくとも1つのバネは、前記第1方向において前記ウェイトの両側に配置された一対のバネとを含む。
[態様5]
前記出力シャフトは、前記第2方向に延在する。
[態様6]
前記往復動工具は、前記本体ハウジングに対する前記可動部の前記第1方向の相対移動を案内する摺動ガイドを更に備える。
摺動ガイド118は、本態様における「摺動ガイド」の一例である。
【符号の説明】
【0090】
101:電動ハンマ(ハンマ)、10:ハウジング、11:本体ハウジング、111:バレル部、112:ツールホルダ、113:本体部、114:後壁、117:露出領域、118:摺動ガイド、119:クランク室、12:リヤカバー、13:コントローラケース、130:緩衝材、131:第1収容空間、132:第2収容空間、140:ケース本体、141:第1収容部、142:第2収容部、143:前側保持部、145:カバー、146:ホルダ、147:摺動部、148:後側保持部、15:可動ハウジング、16:アウタハウジング部、161:上側部分、163:下側部分、17:バレルカバー、18:ハンドル部、181:把持部、182:トリガ、183:スイッチ、185:上側連結部、186:後壁、187:下側連結部、188:後壁、189:凹部、191:電源コード、193:コードガード、2:モータ、25:出力シャフト、駆動機構3、31:ギヤ減速機構、33:運動変換機構、331:クランクシャフト、333:偏心ピン、335:連接ロッド、337:ピストン、338:シリンダ、35:打撃要素、351:ストライカ、353:インパクトボルト、40(401、403、405):電線、41:コントローラ、7:制振機構、70:動吸振器、71:ウェイト、711:大径部、713:小径部、72:バネ、721:前側バネ、723:後側バネ、73:収容部、731:前側空間、733:後側空間、741:通路、743:通路、8:弾性部材、81:上側弾性部材、811:バネ受け部、813:バネ受け部、83:下側弾性部材、831:バネ受け部、833:バネ受け部、91:先端工具、93:補助ハンドル、A1:駆動軸、A2:回転軸、G:重心、P:平面
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