(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02F 1/42 20060101AFI20231012BHJP
F02B 31/04 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
F02F1/42 F
F02B31/04 500A
(21)【出願番号】P 2019204414
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 直紀
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-090849(JP,A)
【文献】特開2019-044631(JP,A)
【文献】特開2003-262132(JP,A)
【文献】特開2016-118132(JP,A)
【文献】特開昭54-123614(JP,A)
【文献】特表平03-500674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/42
F02B 31/00~31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を備えるエンジンであって、
前記燃焼室に連通する吸気ポートが形成されるシリンダヘッド、を有し、
前記吸気ポートは、上流側から下流側にかけて設けられる内壁部として、バルブガイド孔が開口する第1内壁部と、前記第1内壁部に対向する第2内壁部と、を備え、
前記第1内壁部には、吸入空気の流れ方向を変える第1湾曲凹面が形成され、
前記第2内壁部には、吸入空気の流れ方向を変える第2湾曲凹面が形成され
、
前記バルブガイド孔の中心線を含む仮想平面上において、前記第1湾曲凹面の接線と前記バルブガイド孔の中心線とのなす角度のうち、鋭角側の角度は上流側から下流側にかけて縮小し、前記第2湾曲凹面の接線と前記バルブガイド孔の中心線とのなす角度のうち、鋭角側の角度は上流側から下流側にかけて拡大し、
前記第1湾曲凹面は、前記仮想平面上において前記吸気ポートの外側に向けて最も突出する第1部位と、前記仮想平面上において前記第1部位よりも下流側に設けられ、接線がバルブシートの中心部に向かう第2部位と、を有し、
前記第2湾曲凹面は、前記仮想平面上において前記吸気ポートの外側に向けて最も突出する第3部位と、前記仮想平面上において前記第3部位よりも下流側に設けられ、接線が前記バルブシートの中心部に向かう第4部位と、を有し、
前記第2部位及び前記第4部位は、前記吸入空気の流れ方向を、前記バルブシートの中心部に向かう方向に変える、
エンジン。
【請求項2】
請求項
1に記載のエンジンにおいて、
前記第1湾曲凹面と前記第2湾曲凹面との少なくとも一部は、互いに対向
し、
前記吸気ポートは、前記第1湾曲凹面と前記第2湾曲凹面とが対向する区間における断面形状が、前記仮想平面と直交する第1直線及び第2直線と、前記仮想平面と平行な第3直線及び第4直線と、によって囲まれる矩形状であり、
前記第1直線は、前記第1湾曲凹面に含まれ、前記第2直線は、前記第2湾曲凹面に含まれる、
エンジン。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンにおいて、
前記吸気ポートの前記区間において、前記第3直線及び前記第4直線の間隔は一定である、
エンジン。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンにおいて、
前記第1部位は、前記第1湾曲凹面において、上流側よりも下流側に寄せて配置され、
前記第3部位は、前記第2湾曲凹面において、上流側よりも下流側に寄せて配置される、
エンジン。
【請求項5】
請求項
4に記載のエンジンにおいて、
前記吸気ポートの流路断面積は、上流側から下流側にかけて拡大した後に縮小する、
エンジン。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のエンジンにおいて、
前記第1内壁部の、前記第1湾曲凹面よりも上流側には、第1湾曲凸面が形成され、
前記第2内壁部の、前記第2湾曲凹面よりも上流側には、第2湾曲凸面が形成される、
エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気ポートが形成されるエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダヘッドには、燃焼室に連通する吸気ポートが形成されている。この吸気ポートの形状は、吸入空気の流量増減に影響を与えるだけでなく、タンブル流等の強弱に影響を与える要因である。このため、吸入空気の流量を増加させる観点や、タンブル流等のガス流動を強くする観点から、様々な形状の吸気ポートが提案されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-262132号公報
【文献】特開2015-190373号公報
【文献】特開2016-180356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸気ポートの形状を設計する上で、吸入空気の流量増加と流動強化との双方を両立させることは困難である。つまり、吸入空気の流量を増加させるように吸気ポートを設計することは、吸入空気の流動を弱める要因であった。また、吸入空気の流動を強めるように吸気ポートを設計することは、吸入空気の流量を低下させる要因であった。
【0005】
本発明の目的は、吸入空気の流量の増加と流動の強化とを両立させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジンは、燃焼室を備えるエンジンであって、前記燃焼室に連通する吸気ポートが形成されるシリンダヘッド、を有し、前記吸気ポートは、上流側から下流側にかけて設けられる内壁部として、バルブガイド孔が開口する第1内壁部と、前記第1内壁部に対向する第2内壁部と、を備え、前記第1内壁部には、吸入空気の流れ方向を変える第1湾曲凹面が形成され、前記第2内壁部には、吸入空気の流れ方向を変える第2湾曲凹面が形成され、前記バルブガイド孔の中心線を含む仮想平面上において、前記第1湾曲凹面の接線と前記バルブガイド孔の中心線とのなす角度のうち、鋭角側の角度は上流側から下流側にかけて縮小し、前記第2湾曲凹面の接線と前記バルブガイド孔の中心線とのなす角度のうち、鋭角側の角度は上流側から下流側にかけて拡大し、前記第1湾曲凹面は、前記仮想平面上において前記吸気ポートの外側に向けて最も突出する第1部位と、前記仮想平面上において前記第1部位よりも下流側に設けられ、接線がバルブシートの中心部に向かう第2部位と、を有し、前記第2湾曲凹面は、前記仮想平面上において前記吸気ポートの外側に向けて最も突出する第3部位と、前記仮想平面上において前記第3部位よりも下流側に設けられ、接線が前記バルブシートの中心部に向かう第4部位と、を有し、前記第2部位及び前記第4部位は、前記吸入空気の流れ方向を、前記バルブシートの中心部に向かう方向に変える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1内壁部には、吸入空気の流れ方向を変える第1湾曲凹面が形成され、第2内壁部には、吸入空気の流れ方向を変える第2湾曲凹面が形成される。これにより、吸入空気の流量の増加と流動の強化とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態であるエンジンを示す概略図である。
【
図2】吸気バルブと共に吸気ポートおよび燃焼室を示す断面図である。
【
図3】シリンダヘッドに形成される吸気ポートおよび燃焼室の形状を示す図である。
【
図4】
図3の矢印α方向から吸気ポートおよび燃焼室の形状を示す図である。
【
図5】
図4の仮想平面Xに沿って吸気ポートおよび燃焼室を示す断面図である。
【
図6】
図5に示される吸気ポートの一部を拡大する断面図である。
【
図7】(A)は第1湾曲凹面の各接線とバルブガイド孔の中心線との関係を示す図であり、(B)は第2湾曲凹面の各接線とバルブガイド孔の中心線との関係を示す図である。
【
図8】(A)~(C)は、吸気ポートの部位毎の吸気流路を示す図である。
【
図9】実施例1の吸気ポートを通過する吸入空気の流れを簡単に示した図である。
【
図10】比較例の吸気ポートを通過する吸入空気の流れを簡単に示した図である。
【
図11】参考例1の吸気ポートを通過する吸入空気の流れを簡単に示した図である。
【
図12】参考例1および比較例の吸気ポートから燃焼室に流入する吸入空気の速度領域のシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】参考例2の吸気ポートを通過する吸入空気の流れを簡単に示した図である。
【
図14】参考例2および比較例の吸気ポートから燃焼室に流入する吸入空気の速度領域のシミュレーション結果を示す図である。
【
図15】実施例1および比較例の吸気ポートから燃焼室に流入する吸入空気の速度領域のシミュレーション結果を示す図である。
【
図16】吸気ポートにおける吸気流量とガス流動とのシミュレーション結果を示す図である。
【
図17】実施例2の吸気ポートおよび燃焼室の形状を示す図である。
【
図18】
図4の仮想平面Xに沿って吸気ポートおよび燃焼室を示す断面図である。
【
図19】吸気ポートを通過する吸入空気の流れを簡単に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図示するエンジンは、水平対向エンジンであるが、これに限られることはなく、直列エンジンやV型エンジン等に本発明を適用しても良い。
【0010】
[エンジン構造]
図1は本発明の一実施の形態であるエンジン10を示す概略図である。
図1に示すように、エンジン10は、一方のシリンダバンクに設けられるシリンダブロック11と、他方のシリンダバンクに設けられるシリンダブロック12と、一対のシリンダブロック11,12に支持されるクランク軸13と、を有している。シリンダブロック11,12に形成されるシリンダボア14にはピストン15が収容されており、ピストン15にはコネクティングロッド16を介してクランク軸13が連結されている。
【0011】
シリンダブロック11,12には、動弁機構17を備えたシリンダヘッド18が組み付けられており、シリンダヘッド18には、動弁機構17を覆うヘッドカバー19が組み付けられている。また、シリンダヘッド18には、燃焼室20に連通する吸気ポート21が形成されており、吸気ポート21を開閉する吸気バルブ22が組み付けられている。また、シリンダヘッド18には、燃焼室20に連通する排気ポート23が形成されており、排気ポート23を開閉する排気バルブ24が組み付けられている。さらに、吸気ポート21には、吸入空気を案内する吸気マニホールド25が接続されており、排気ポート23には、排出ガスを案内する排気マニホールド26が接続されている。
【0012】
[吸気ポート構造]
以下、実施例1の吸気ポート21について説明する。
図2は吸気バルブ22と共に吸気ポート21および燃焼室20を示す断面図である。
図3はシリンダヘッド18に形成される吸気ポート21および燃焼室20の形状を示す図であり、
図4は
図3の矢印α方向から吸気ポート21および燃焼室20の形状を示す図である。また、
図5は
図4の仮想平面Xに沿って吸気ポート21および燃焼室20を示す断面図である。
【0013】
なお、
図2~
図5には、
図1に示された状態から90°回転させた状態で吸気ポート21等が示されており、排気ポート23については省略して図示されている。また、
図2~
図5に示される上流側および下流側とは、燃焼室20に向かう吸入空気の流れ方向における上流側および下流側を意味している。さらに、
図4に記載される仮想平面Xとは、後述するバルブガイド孔33の中心線CL1を含み、かつ後述する第1および第2湾曲凹面41,42に交わる仮想平面である。
【0014】
図2~
図5に示すように、シリンダヘッド18に形成される吸気ポート21は、上流側から下流側にかけて設けられる内壁部として、エンジン10の外側つまりヘッドカバー19側に位置する第1内壁部31と、エンジン10の内側つまりシリンダブロック11(12)側に位置する第2内壁部32と、を有している。
図2に示すように、吸気ポート21の第1内壁部31にはバルブガイド孔33が開口しており、このバルブガイド孔33には吸気バルブ22の軸部22aを支持するバルブガイド34が挿入されている。このように、吸気ポート21には、バルブガイド孔33が開口する第1内壁部31と、第1内壁部31に対向する第2内壁部32と、が設けられている。なお、燃焼室20に対する吸気ポート21の開口端には、吸気バルブ22の傘部22bに接触するバルブシート35が設けられている。
【0015】
図2、
図3および
図5に示すように、吸気ポート21の第1内壁部31には、ヘッドカバー側に凹んで吸気流路40を拡張する第1湾曲凹面41が形成されており、吸気ポート21の第2内壁部32には、シリンダブロック側に凹んで吸気流路40を拡張する第2湾曲凹面42が形成されている。また、第1湾曲凹面41は上流側よりも下流側に寄せて第1内壁部31に形成されており、第2湾曲凹面42は上流側よりも下流側に寄せて第2内壁部32に形成されている。また、第1湾曲凹面41と第2湾曲凹面42との少なくとも一部は、互いに対向して配置されている。なお、
図3および
図5に示すように、第1湾曲凹面41とは、ヘッドカバー側に凹む領域、つまり第1内壁部31に現れる変曲点A1と変曲点A2との間の領域であり、第2湾曲凹面42とは、シリンダヘッド18側に凹む領域、つまり第2内壁部32に現れる変曲点B1と変曲点B2との間の領域である。
【0016】
ここで、
図6は
図5に示される吸気ポート21の一部を拡大する断面図である。この
図6には、バルブガイド孔33の中心線CL1を含む仮想平面Xに沿った断面図が示されている。また、
図7(A)は第1湾曲凹面41の各接線La1~La3とバルブガイド孔33の中心線CL1との関係を示す図であり、
図7(B)は第2湾曲凹面42の各接線Lb1~Lb3とバルブガイド孔33の中心線CL1との関係を示す図である。これら
図6および
図7に示される各接線La1~La3,Lb1~Lb3は、バルブガイド孔33の中心線CL1を含む仮想平面X上の接線である。
【0017】
図6に示すように、第1湾曲凹面41の各点Pa1~Pa3における接線La1~La3は、上流側から下流側にかけて徐々に中心線CL1に沿う方向に傾斜している。つまり、
図7(A)に示すように、中心線CL1と接線La3とのなす角度α3は、中心線CL1と接線La2とのなす角度α2よりも小さくなっており、中心線CL1と接線La2とのなす角度α2は、中心線CL1と接線La1とのなす角度α1よりも小さくなっている。すなわち、第1湾曲凹面41の接線La1~La3とバルブガイド孔33の中心線CL1とのなす角度のうち、鋭角側の角度α1~α3は上流側から下流側にかけて徐々に縮小している。
なお、第1湾曲凹面41の点Pa2は第1部位であり、第1湾曲凹面41の点Pa3は第2部位である。
【0018】
また、
図6に示すように、第2湾曲凹面42の各点Pb1~Pb3における接線Lb1~Lb3は、上流側から下流側にかけて徐々に中心線CL1に直交する方向に傾斜している。つまり、
図7(B)に示すように、中心線CL1と接線Lb3とのなす角度β3は、中心線CL1と接線Lb2とのなす角度β2よりも大きくなっており、中心線CL1と接線Lb2とのなす角度β2は、中心線CL1と接線Lb1とのなす角度β1よりも大きくなっている。すなわち、第2湾曲凹面42の接線Lb1~Lb3とバルブガイド孔33の中心線CL1とのなす角度のうち、鋭角側の角度β1~β3は上流側から下流側にかけて徐々に拡大している。
なお、第2湾曲凹面42の点Pb2は第3部位であり、第2湾曲凹面42の点Pb3は第4部位である。
【0019】
続いて、吸気ポート21の吸気流路40の断面積について説明する。
図8(A)~(C)は、吸気ポート21の部位毎の吸気流路Fa~Fcを示す図である。
図8(A)には
図3のA-A線に沿う吸気流路Faの断面が示され、
図8(B)には
図3のB-B線に沿う吸気流路Fbの断面が示され、
図8(C)には
図3のC-C線に沿う吸気流路Fcの断面が示されている。
【0020】
図8(A)および(B)に示すように、吸気流路Fbの断面積Abは、吸気流路Faの断面積Aaよりも大きくなっており、
図8(B)および(C)に示すように、吸気流路Fcの断面積Acは、吸気流路Fbの断面積Abよりも小さくなっている。このように、吸気ポート21の内壁部31,32に対して湾曲凹面41,42が形成されることから、吸気ポート21の吸気流路40の断面積(流路断面積)は、上流側から下流側にかけて拡大した後に縮小している。
【0021】
[吸入空気の流れ]
前述したように、吸気ポート21の第1内壁部31には第1湾曲凹面41が形成されており、吸気ポート21の第2内壁部32には第2湾曲凹面42が形成されている。このように、第1および第2湾曲凹面41,42を吸気ポート21に設けることにより、後述するように、吸入空気の流量(以下、吸気流量と記載する。)を増加させつつ、燃焼室20およびシリンダボア14内でのガス流動を強くすることができると考えられる。
【0022】
ここで、
図9は実施例1の吸気ポート21を通過する吸入空気の流れを簡単に示した図であり、
図10は比較例の吸気ポート100を通過する吸入空気の流れを簡単に示した図である。
図9に示すように、実施例1の吸気ポート21においては、矢印F1で示すように、第1内壁部31の近傍を流れる吸入空気が、第1湾曲凹面41に沿って流れ方向を変えながら燃焼室20に向けて流れている。また、矢印F2で示すように、第2内壁部32の近傍を流れる吸入空気は、第2湾曲凹面42に沿って流れ方向を変えながら燃焼室20に向けて流れている。そして、実施例1の吸気ポート21にあっては、燃焼室20およびシリンダボア14において、矢印F3で示すような吸入空気の流れが発生する。これに対し、
図10に示すように、燃焼室20に向けて真っ直ぐ伸びる比較例の吸気ポート100においては、矢印F10で示すように、吸入空気が燃焼室20に向けて直線的に流れる。
【0023】
次いで、比較例の吸気ポート100と参考例1,2の吸気ポート200,300とを比較しながら、実施例1の吸気ポート21による吸気流量の増加およびガス流動の強化について説明する。
図11は参考例1の吸気ポート200を通過する吸入空気の流れを簡単に示した図であり、
図12は参考例1および比較例の吸気ポート200,100から燃焼室20に流入する吸入空気の速度領域のシミュレーション結果を示す図である。また、
図13は参考例2の吸気ポート300を通過する吸入空気の流れを簡単に示した図であり、
図14は参考例2および比較例の吸気ポート300,100から燃焼室20に流入する吸入空気の速度領域のシミュレーション結果を示す図である。さらに、
図15は実施例1および比較例の吸気ポート21,100から燃焼室20に流入する吸入空気の速度領域のシミュレーション結果を示す図であり、
図16は吸気ポート21,100における吸気流量とガス流動とのシミュレーション結果を示す図である。
【0024】
なお、
図12、
図14および
図15に示される円形範囲Caは、
図5に二点鎖線Caで示すように、バルブシート35の近傍に設定される円形範囲である。また、
図5および
図12等に示される基準点Ca1は、シリンダボア14の中央側つまり径方向内側に位置する点であり、
図5および
図12等に示される基準点Ca2は、シリンダボア14の内壁側つまり径方向外側に位置する点である。さらに、
図12、
図14および
図15には、参考例1,2の吸気ポート200,300や実施例1の吸気ポート21から燃焼室20に流入する吸入空気の速度境界が実線で示され、比較例の吸気ポート100から燃焼室20に流入する吸入空気の速度境界が破線で示されている。つまり、
図12、
図14および
図15においては、実線や破線で囲まれる領域が、所定速度を超えて吸入空気が流入する高流速領域である。また、
図16の横軸に記載されるタンブル比はシリンダボア14内におけるガス流動の強さを示す指標であり、タンブル比の値が大きいほどにガス流動つまりタンブル流が強いことを意味している。さらに、
図16の縦軸には吸入空気が流れる流路の有効開口面積が示されており、有効開口面積の値が大きいほどに吸気流量が多いことを意味している。
【0025】
図11に示すように、参考例1の吸気ポート200は、前述した吸気ポート21の第1湾曲凹面41を備えた吸気ポートである。
図12に符号Xaで示すように、参考例1の吸気ポート200を用いた場合には、比較例の吸気ポート100を用いた場合よりも、基準点Ca2側に高流速領域が拡大される。これは、第1湾曲凹面41を備えた吸気ポート200において、
図11に矢印F20で示すように、第1湾曲凹面41に沿って吸入空気の流れ方向が変えられ、吸入空気がシリンダボア14の底、つまりピストン15のクラウン15aに向けて流れるためと考えられる。これにより、燃焼室20に対して吸入空気が流れ込む際に、吸気ポート21の開口面積を広く活用することができ、燃焼室20に対して吸入空気が流れ込み易くなる。この結果として、参考例1の吸気ポート200にあっては、比較例の吸気ポート100よりも燃焼室20に流入する吸気流量を増加させることができる。すなわち、吸気ポート200の第1湾曲凹面41に沿う流れは、吸気流量の増加に寄与する吸入空気の流れであると考えられる。
【0026】
また、
図13に示すように、参考例2の吸気ポート300は、前述した吸気ポート21の第2湾曲凹面42を備えた吸気ポートである。
図14に符号Xbで示すように、参考例2の吸気ポート300を用いた場合には、比較例の吸気ポート100を用いた場合よりも、基準点Ca1側に高流速領域が拡大される。これは、第2湾曲凹面42を備えた吸気ポート300において、
図13に矢印F30で示すように、第2湾曲凹面42に沿って吸入空気の流れ方向が変えられ、吸入空気がシリンダボア14の内壁14aに向けて流れるためと考えられる。これにより、吸入空気をシリンダボア14の内壁14aに沿って移動させることができ、燃焼室20に流れ込む吸入空気の流動を強めることができる。この結果として、参考例2の吸気ポート300にあっては、比較例の吸気ポート100よりも燃焼室20内でのタンブル流を強めることができる。すなわち、吸気ポート300の第2湾曲凹面42に沿う流れは、ガス流動の強化に寄与する吸入空気の流れであると考えられる。
【0027】
続いて、
図15に符号Xc,Xdで示すように、実施例1の吸気ポート21を用いた場合には、比較例の吸気ポート100を用いた場合よりも、バルブシート35のポートサイド部35aの近傍で高流速領域が拡大される。これは、第1および第2湾曲凹面41,42を備えた吸気ポート21において、
図9に矢印F1,F2で示すように、第1および第2湾曲凹面41,42に沿って吸入空気の流れ方向が変えられ、これらの流れが作用することで、矢印F3で示すような吸入空気の流れが発生するためである。すなわち、実施例1の吸気ポート21においては、吸気流量の増加に寄与する吸入空気の流れ(
図9のF1)と、ガス流動の強化に寄与する吸入空気の流れ(
図9のF2)とが相互に作用することにより、流量増加と流動強化との双方に寄与する吸入空気の流れ(
図9のF3)が発生すると考えられる。これにより、
図16に示すように、実施例1の吸気ポート21においては、比較例の吸気ポート100に比べて、吸気流量を増加させつつガス流動を強くすることができる。
【0028】
これまで説明したように、第1湾曲凹面41を設けることにより、吸気流量の増加に寄与する吸入空気の流れが強められ、第2湾曲凹面42を設けることにより、タンブル流等のガス流動の強化に寄与する吸入空気の流れが強められる。このため、第1湾曲凹面41と第2湾曲凹面42との双方を備えた実施例1の吸気ポート21においては、吸気流量の増加に寄与する吸入空気の流れと、ガス流動の強化に寄与する吸入空気の流れとの双方を確保することができ、吸入空気の流量の増加と流動の強化とを両立させることができる。
【0029】
[他の実施形態]
続いて、本発明の他の実施形態について説明する。
図17は実施例2の吸気ポート50および燃焼室20の形状を示す図であり、
図18は
図4の仮想平面Xに沿って吸気ポート50および燃焼室20を示す断面図である。また、
図19は吸気ポート50を通過する吸入空気の流れを簡単に示した図である。なお、
図17~
図19において、
図3および
図5に示す部位と同様の部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図17および
図18に示すように、吸気ポート50の第1内壁部31には、ヘッドカバー側に凹んで吸気流路40を拡張する第1湾曲凹面41が形成されており、吸気ポート50の第2内壁部32には、シリンダブロック側に凹んで吸気流路40を拡張する第2湾曲凹面42が形成されている。また、吸気ポート50の第1内壁部31には、シリンダブロック側に突出して吸気流路40を狭める第1湾曲凸面51が、第1湾曲凹面41の上流側に連なって形成されている。さらに、吸気ポート50の第2内壁部32には、ヘッドカバー側に突出して吸気流路40を狭める第2湾曲凸面52が、第2湾曲凹面42の上流側に連なって形成されている。つまり、吸気ポート50には、第1および第2湾曲凹面41,42からなる拡張部53が形成されるとともに、第1および第2湾曲凸面51,52からなる絞り部54が形成されている。
【0031】
このように、絞り部54を備えた吸気ポート50においても、第1湾曲凹面41と第2湾曲凹面42との双方が形成されることから、実施例1の吸気ポート21と同様に、燃焼室20に向けて吸入空気を案内することができる。つまり、
図19に示すように、実施例2の吸気ポート50においても、矢印F1で示すように、第1内壁部31の近傍を流れる吸入空気が、第1湾曲凹面41に沿って流れ方向を変えながら燃焼室20に向けて流される。また、矢印F2で示すように、第2内壁部32の近傍を流れる吸入空気が、第2湾曲凹面42に沿って流れ方向を変えながら燃焼室20に向けて流される。つまり、実施例1の吸気ポート21と同様に、吸気流量の増加に寄与する吸入空気の流れ(
図19のF1)と、ガス流動の強化に寄与する吸入空気の流れ(
図19のF2)とが相互に作用し、流量増加と流動強化との双方に寄与する吸入空気の流れ(
図19のF3)が発生すると考えられる。すなわち、実施例2の吸気ポート50においても、吸入空気の流量の増加と流動の強化とを両立させることができる。これにより、
図16に示すように、実施例2の吸気ポート50を用いた場合においても、比較例の吸気ポート100を用いた場合に比べて、吸気流量を増加させつつガス流動を強くすることが可能である。
【0032】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
図8に示した吸気ポート21の断面形状は、角を丸めた四角形であるが、これに限られることはなく、他の断面形状であっても良いことはいうまでもない。例えば、円形や楕円形の断面形状を備えた吸気ポート21,50に対し、第1湾曲凹面41および第2湾曲凹面42を形成しても良い。また、
図4に示す例では、互いに分離する2つの吸気ポート21を燃焼室20に連通させているが、これに限られることはなく、2つに分岐するポート部を備えた1つの吸気ポートを燃焼室20に連通させても良い。
【符号の説明】
【0033】
10 エンジン
18 シリンダヘッド
20 燃焼室
21 吸気ポート
31 第1内壁部
32 第2内壁部
33 バルブガイド孔
41 第1湾曲凹面
42 第2湾曲凹面
50 吸気ポート
X 仮想平面
CL1 中心線
La1~La3 接線
Lb1~Lb3 接線
α1~α3 角度
β1~β3 角度