(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタの制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20231012BHJP
B41J 2/17 20060101ALI20231012BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B41J2/165 207
B41J2/17
B41J2/175 171
(21)【出願番号】P 2019228746
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【氏名又は名称】小平 晋
(72)【発明者】
【氏名】竹花 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】山辺 勝利
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-046969(JP,A)
【文献】特開2018-039228(JP,A)
【文献】特開2008-162211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、
インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、前記インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともに前記インクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、前記インクジェットヘッドへのインクの供給経路において前記圧力調整機構と前記インクジェットヘッドとの間に配置され前記インクジェットヘッドに供給されるインクを温めるインク加温機構と、インクの温度を検知するための温度センサと、前記インクジェットプリンタを制御する制御部とを備え、
前記インク加温機構は、インクが通過するインク通過部が内部に形成されるブロック状の加温部本体と、前記加温部本体を加熱するヒータとを備え、
前記温度センサは、前記インクジェットヘッドの内部のインクの温度または前記インク通過部の中のインクの温度を直接または間接的に検知し、
印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、
前記制御部は、前記温度センサで検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、前記インクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行うとともに、印刷を休止している印刷休止時に、前記温度センサで検知される温度が前記インク吐出適正温度よりも低い所定の第1基準温度未満となっている状態で前記ヒータを起動する場合、前記ヒータの起動後、前記インク加温機構によってインクが温められて前記温度センサで検知される温度が前記第1基準温度よりも高くかつ前記インク吐出適正温度よりも低い所定の第2基準温度を超えると、前記メンテナンス領域に前記インクジェットヘッドを移動させて、前記メンテナンス領域において前記インクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記第2基準温度は、前記温度センサで検知される温度が前記第2基準温度になったときの前記インクジェットヘッドの内部圧力が負圧となるように設定されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
インクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、
インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、前記インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともに前記インクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、前記インクジェットヘッドへのインクの供給経路において前記圧力調整機構と前記インクジェットヘッドとの間に配置され前記インクジェットヘッドに供給されるインクを温めるインク加温機構と、インクの温度を検知するための温度センサと、前記インクジェットプリンタを制御する制御部とを備え、
前記インク加温機構は、インクが通過するインク通過部が内部に形成されるブロック状の加温部本体と、前記加温部本体を加熱するヒータとを備え、
印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、
前記制御部は、印刷を休止している印刷休止時に、前記温度センサで検知される温度が所定の第1基準温度未満となっている状態で前記ヒータを起動する場合、前記インクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行う前に、起動後の前記ヒータの駆動時間が、前記ヒータの起動時に前記温度センサで検知される温度に基づいて設定される所定の第1基準時間を超えると、前記メンテナンス領域に前記インクジェットヘッドを移動させて、前記メンテナンス領域において前記インクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記第1基準時間は、起動後の前記ヒータの駆動時間が前記第1基準時間になったときの前記インクジェットヘッドの内部圧力が負圧となるように設定されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルが形成され、
前記インクジェットヘッドは、複数の前記ノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備え、
前記制御部は、前記メンテナンス領域において、前記吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させることで前記インクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
インクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、
インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、前記インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともに前記インクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、前記インクジェットヘッドの内部のインクの温度を検知するための温度センサと、前記インクジェットプリンタを制御する制御部とを備え、
前記インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルと、複数の前記ノズルが繋がる複数のインク流路とが形成され、
前記インクジェットヘッドは、複数の前記ノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備え、
印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とし、前記ノズルからインクを吐出させて印刷を行う印刷時における所定の第2基準時間の間に、1本の前記インク流路に繋がる複数の前記ノズルのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和を総和吐出量とすると、
前記制御部は、前記温度センサで検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、前記吐出エネルギー発生素子を駆動し前記ノズルからインクを吐出させて印刷を行うとともに、前記吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、前記温度センサで検知される温度が前記インク吐出適正温度よりも高い所定の第3基準温度を超え、かつ、前記温度センサで検知される温度が前記第3基準温度を超えた時点から前記第2基準時間
の分だけ前
に遡ったときの前記総和吐出量が所定の第1基準量未満となる前記インク流路である第1インク流路が存在すると、前記メンテナンス領域に前記インクジェットヘッドを移動させて、前記メンテナンス領域において、少なくとも、前記第1インク流路に繋がる前記ノズルからインクを強制的に排出させることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項7】
インクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、
インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、前記インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともに前記インクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、前記インクジェットヘッドの内部のインクの温度を検知するための温度センサと、前記インクジェットプリンタを制御する制御部とを備え、
前記インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルと、複数の前記ノズルが繋がる複数のインク流路とが形成され、
前記インクジェットヘッドは、複数の前記ノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備え、
印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、
前記制御部は、前記吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、所定の基準時点から所定の第3基準時間内に駆動する複数の前記吐出エネルギー発生素子の駆動回数が、前記基準時点において前記温度センサで検知される温度に基づいて設定される第1基準回数を超え、かつ、前記基準時点から前記第3基準時間を経過するまでに、1本の前記インク流路に繋がる複数の前記ノズルのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和である総和吐出量が所定の第2基準量未満となる前記インク流路である第1インク流路が存在すると、前記メンテナンス領域に前記インクジェットヘッドを移動させて、前記メンテナンス領域において、少なくとも、前記第1インク流路に繋がる前記ノズルからインクを強制的に排出させることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記制御部は、前記メンテナンス領域において、前記吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させることで前記ノズルからインクを強制的に排出させることを特徴とする請求項6または7記載のインクジェットプリンタ。
【請求項9】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、前記インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともに前記インクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、前記インクジェットヘッドへのインクの供給経路において前記圧力調整機構と前記インクジェットヘッドとの間に配置され前記インクジェットヘッドに供給されるインクを温めるインク加温機構と、インクの温度を検知するための温度センサとを備え、
前記インク加温機構は、インクが通過するインク通過部が内部に形成されるブロック状の加温部本体と、前記加温部本体を加熱するヒータとを備え、
前記温度センサは、前記インクジェットヘッドの内部のインクの温度または前記インク通過部の中のインクの温度を直接または間接的に検知するインクジェットプリンタの制御方法であって、
印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、
前記温度センサで検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、前記インクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行うとともに、印刷を休止している印刷休止時に、前記温度センサで検知される温度が前記インク吐出適正温度よりも低い所定の第1基準温度未満となっている状態で前記ヒータを起動する場合、前記ヒータの起動後、前記インク加温機構によってインクが温められて前記温度センサで検知される温度が前記第1基準温度よりも高くかつ前記インク吐出適正温度よりも低い所定の第2基準温度を超えると、前記メンテナンス領域に前記インクジェットヘッドを移動させて、前記メンテナンス領域において前記インクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることを特徴とするインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項10】
前記第2基準温度は、前記温度センサで検知される温度が前記第2基準温度になったときの前記インクジェットヘッドの内部圧力が負圧となるように設定されていることを特徴とする請求項9記載のインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項11】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、前記インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともに前記インクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、前記インクジェットヘッドへのインクの供給経路において前記圧力調整機構と前記インクジェットヘッドとの間に配置され前記インクジェットヘッドに供給されるインクを温めるインク加温機構と、インクの温度を検知するための温度センサとを備え、
前記インク加温機構は、インクが通過するインク通過部が内部に形成されるブロック状の加温部本体と、前記加温部本体を加熱するヒータとを備えるインクジェットプリンタの制御方法であって、
印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、
印刷を休止している印刷休止時に、前記温度センサで検知される温度が所定の第1基準温度未満となっている状態で前記ヒータを起動する場合、前記インクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行う前に、起動後の前記ヒータの駆動時間が、前記ヒータの起動時に前記温度センサで検知される温度に基づいて設定される所定の第1基準時間を超えると、前記メンテナンス領域に前記インクジェットヘッドを移動させて、前記メンテナンス領域において前記インクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることを特徴とするインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項12】
前記第1基準時間は、起動後の前記ヒータの駆動時間が前記第1基準時間になったときの前記インクジェットヘッドの内部圧力が負圧となるように設定されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項13】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、前記インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともに前記インクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、前記インクジェットヘッドの内部のインクの温度を検知するための温度センサとを備え、
前記インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルと、複数の前記ノズルが繋がる複数のインク流路とが形成され、
前記インクジェットヘッドは、複数の前記ノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備えるインクジェットプリンタの制御方法であって、
印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とし、前記ノズルからインクを吐出させて印刷を行う印刷時における所定の第2基準時間の間に、1本の前記インク流路に繋がる複数の前記ノズルのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和を総和吐出量とすると、
前記温度センサで検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、前記吐出エネルギー発生素子を駆動し前記ノズルからインクを吐出させて印刷を行うとともに、前記吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、前記温度センサで検知される温度が前記インク吐出適正温度よりも高い所定の第3基準温度を超え、かつ、前記温度センサで検知される温度が前記第3基準温度を超えた時点から前記第2基準時間
の分だけ前
に遡ったときの前記総和吐出量が所定の第1基準量未満となる前記インク流路である第1インク流路が存在すると、前記メンテナンス領域に前記インクジェットヘッドを移動させて、前記メンテナンス領域において、少なくとも、前記第1インク流路に繋がる前記ノズルからインクを強制的に排出させることを特徴とするインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項14】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、前記インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともに前記インクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、前記インクジェットヘッドの内部のインクの温度を検知するための温度センサとを備え、
前記インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルと、複数の前記ノズルが繋がる複数のインク流路とが形成され、
前記インクジェットヘッドは、複数の前記ノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備えるインクジェットプリンタの制御方法であって、
印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、
前記吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、所定の基準時点から所定の第3基準時間内に駆動する複数の前記吐出エネルギー発生素子の駆動回数が、前記基準時点において前記温度センサで検知される温度に基づいて設定される第1基準回数を超え、かつ、前記基準時点から前記第3基準時間を経過するまでに、1本の前記インク流路に繋がる複数の前記ノズルのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和である総和吐出量が所定の第2基準量未満となる前記インク流路である第1インク流路が存在すると、前記メンテナンス領域に前記インクジェットヘッドを移動させて、前記メンテナンス領域において、少なくとも、前記第1インク流路に繋がる前記ノズルからインクを強制的に排出させることを特徴とするインクジェットプリンタの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドの内部圧力を調整するための圧力調整機構を備えるインクジェットプリンタに関する。また、本発明は、かかるインクジェットプリンタの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構とを備えるインクジェットプリンタが知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のインクジェットプリンタでは、プリンタ本体に取り付けられるインクカートリッジとインクジェットヘッドとを繋ぐインク供給路に、インクジェットヘッドの内部圧力を負圧に調整するための調圧ダンパが設けられている。
【0003】
特許文献1に記載のインクジェットプリンタでは、
図10に示すように、調圧ダンパは、ダンパ本体部100を備えている。ダンパ本体部100には、開放弁(開放バルブ)101が収容される開放弁収容室(左バルブ収容室)102と、封止弁(封止バルブ)103が収容される封止弁収容室(右バルブ収容室)104とが形成されている。開放弁収容室102と封止弁収容室104とは、連通孔105を介して繋がっている。開放弁収容室102には、インクジェットヘッドに向かって流出するインクが収容され、封止弁収容室104には、インクカートリッジから流入するインクが収容されている。
【0004】
図10(A)に示すように、封止弁103は、バネ106によって連通孔105を閉鎖する方向に付勢されており、インクジェットヘッドからインクが吐出されていないときに、連通孔105を閉鎖している。開放弁収容室102は、ダンパ本体部100に固定される可撓膜107によって封止されている。開放弁101は、バネ108によって封止弁103から離れる方向に付勢されている。可撓膜107の中心部は、バネ108に付勢される開放弁101によって、ダンパ本体部100の外側に向かって押されている。なお、
図10(B)では、バネ106、108の図示を省略している。
【0005】
特許文献1に記載のインクジェットプリンタでは、インクジェットヘッドからインクが吐出されると、インクジェットヘッドの内部圧力および開放弁収容室102の内部圧力が低下するため、可撓膜107がダンパ本体部100の内側に向かって変形して、吐出量に応じたインクが開放弁収容室102からインクジェットヘッドに供給される。所定量のインクがインクジェットヘッドから吐出されると、
図10(B)に示すように、可撓膜107がダンパ本体部100の内側に向かって所定量変形して、開放弁101の先端が封止弁103に接触し、連通孔105を開放する方向に封止弁103が移動する。
【0006】
連通孔105を開放する方向に封止弁103が移動すると、連通孔105を介して封止弁収容室104から開放弁収容室102にインクが供給される(
図10(B)の矢印参照)。開放弁収容室102にインクが供給されて開放弁収容室102の内部圧力が上昇すると、ダンパ本体部100の外側に向かって可撓膜107が変形し、その変形に伴ってバネ108の付勢力で開放弁101が封止弁103から離れる方向に移動する。開放弁101が封止弁103から離れる方向に移動すると、封止弁103によって連通孔105が閉鎖され、封止弁収容室104から開放弁収容室102へのインクの供給が停止される。
【0007】
また、従来、インクジェットヘッドとキャリッジとキャリッジ駆動機構とを備えるインクジェットプリンタとして、インクジェットヘッドに供給されるインクを温めるインク加温装置(ヘッド外加温装置)を備えるインクジェットプリンタが知られている(たとえば、特許文献2参照)。特許文献2に記載のインクジェットプリンタでは、インクジェットヘッドから紫外線硬化型のインクが吐出される。インク加温装置は、インクジェットヘッドの外部に配置されている。インク加温装置は、インクジェットヘッドから吐出されるインクを所定の適正温度まで温めて、インクジェットヘッドから吐出されるインクの粘度を低下させる機能を果たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-46070号公報
【文献】特開2015-168243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明者は、特許文献1に記載されたインクジェットプリンタにおいて、調圧ダンパとインクジェットヘッドとの間のインクの供給経路にインク加温装置を設置して、インクジェットヘッドに供給されるインクを温めることを検討している。この場合、インクジェットプリンタで印刷が行われていない印刷休止状態(印刷停止状態)が一定時間続いてインクジェットヘッドの中のインクの温度が所定温度よりも低くなっている状態において、印刷を行うために、インク加温装置によってインクを適正温度まで温めると、インクの温度が適正温度に到達する前に、インクジェットヘッドのノズルからインクが漏れるいわゆる「ボタ落ち」が発生することが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0010】
本願発明者は、まず、所定温度よりも温度が低下したインクジェットヘッドの中のインクをインク加温装置で温めたときに、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れが発生する原因を究明することを試みた。その結果、インクジェットヘッドの中のインクの温度が所定温度よりも低くなると、インクが収縮してインクの体積が減り、インクジェットヘッドの内部圧力、インク加温装置の内部圧力および開放弁収容室102の内部圧力が低下して、封止弁収容室104から開放弁収容室102にインクが流れ込むことが本願発明者の検討によって明らかになった。また、その後、インク加温装置によってインクを温めていくと、インクが膨張してインクの体積が増え、インクジェットヘッドの内部圧力、インク加温装置の内部圧力および開放弁収容室102の内部圧力が高まっていくことが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0011】
さらに、開放弁収容室102の内部圧力が高まると、可撓膜107がダンパ本体部100の外側に向かって変形し、その変形に伴ってバネ108の付勢力で開放弁101が封止弁103から離れる方向に移動するため、開放弁収容室102の内部圧力が高まっても、連通孔105が開放されて開放弁収容室102から封止弁収容室104にインクが逆流することはないことが本願発明者の検討によって明らかになった。すなわち、インクジェットヘッドの内部圧力、インク加温装置の内部圧力および開放弁収容室102の内部圧力が高まっても、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができないことが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0012】
また、インクジェットヘッドの中のインクの温度が所定温度よりも低くなったときに封止弁収容室104から開放弁収容室102にインクが流れ込んでいるため、インク加温装置によってインクを温めていくと、インクジェットヘッドの内部圧力、インク加温装置の内部圧力および開放弁収容室102の内部圧力が印刷休止状態となる前の内部圧力よりも高くなって、やがて、インクジェットヘッドの内部圧力が正圧になり、その結果、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れが発生することが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0013】
そこで、本発明の第1の課題は、インクジェットヘッドの内部圧力を負圧に調整するための圧力調整機構と、インクジェットプリンタに供給されるインクを温めるためのインク加温機構とを備えるインクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、所定温度まで低下したインクを温めたときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能なインクジェットプリンタを提供することにある。
【0014】
また、本発明の第1の課題は、圧力調整機構とインク加温機構とを備えるインクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、所定温度まで低下したインクを温めたときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能となるインクジェットプリンタの制御方法を提供することにある。
【0015】
また、特許文献1に記載のインクジェットプリンタでは、内部に複数のインク流路が形成されたインクジェットヘッドが使用されることがある。たとえば、特許文献1に記載のインクジェットプリンタでは、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(B)の4色のインクのそれぞれが流れる4本のインク流路が形成されたインクジェットヘッドが使用されることがある。この場合、インクジェットヘッドには、4色のインクのそれぞれを吐出する複数のノズルが形成されている。すなわち、インクジェットヘッドには、4本のインク流路のそれぞれに繋がる複数のノズルが形成されている。また、インクジェットヘッドは、複数のノズルのそれぞれからインクを吐出させる圧電素子(ピエゾ素子)を備えている。
【0016】
特許文献1に記載のインクジェットプリンタにおいて、内部に複数のインク流路が形成されたインクジェットヘッドが使用される場合、印刷条件によって、インクジェットヘッドのノズルからインクが漏れるいわゆる「ボタ落ち」が印刷中に発生することが本願発明者の検討によって明らかになった。具体的には、印刷中の所定時間の間に、特定の色のインクが続けて吐出されこの特定の色のインクの使用量は多いが、その特定の色を除いた他の色のインクの使用量が少なくなったときに、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れが発生することが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0017】
すなわち、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路を除いたその他のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときに、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れが発生することが本願発明者の検討によって明らかになった。たとえば、印刷中に、特定の色のインクのみが続けて吐出されるが、その特定の色を除いた他の色のインクが所定時間、吐出されない場合に、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れが発生することが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0018】
本願発明者は、まず、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路を除いたその他のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときに、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れが発生する原因の究明を試みた。
【0019】
その結果、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が多いと、この複数のノズルからインクを吐出させる圧電素子の駆動回数が多くなるため、圧電素子が発生する熱の影響で、特定のインク流路を除いたその他のインク流路で滞留するインクが過剰に温められることが本願発明者の検討によって明らかになった。また、インク流路で滞留するインクが過剰に温められると、インクが膨張してインクの体積が増え、インクが滞留しているインク流路の内部圧力および開放弁収容室102の内部圧力が過剰に高まることが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0020】
さらに、上述のように、開放弁収容室102の内部圧力が高まっても、連通孔105が開放されて開放弁収容室102から封止弁収容室104にインクが逆流することがないため、すなわち、インクジェットヘッドの内部圧力および開放弁収容室102の内部圧力が高まっても、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができないため、インクが滞留しているインク流路の内部圧力および開放弁収容室102の内部圧力が過剰に高まると、インクが滞留しているインク流路の内部圧力が正圧になり、その結果、印刷中に、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れ(具体的には、インクが滞留しているインク流路に繋がるノズルからのインクの漏れ)が発生することが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0021】
そこで、本発明の第2の課題は、インクジェットヘッドの内部圧力を負圧に調整するための圧力調整機構を備えるインクジェットプリンタにおいて、内部に複数のインク流路が形成されるインクジェットヘッドが使用され、かつ、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路を除いたその他のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能なインクジェットプリンタを提供することにある。
【0022】
また、本発明の第2の課題は、圧力調整機構を備えるインクジェットプリンタにおいて、内部に複数のインク流路が形成されるインクジェットヘッドが使用され、かつ、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路を除いたその他のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能となるインクジェットプリンタの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の第1の課題を解決するため、本発明のインクジェットプリンタは、インクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともにインクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、インクジェットヘッドへのインクの供給経路において圧力調整機構とインクジェットヘッドとの間に配置されインクジェットヘッドに供給されるインクを温めるインク加温機構と、インクの温度を検知するための温度センサと、インクジェットプリンタを制御する制御部とを備え、インク加温機構は、インクが通過するインク通過部が内部に形成されるブロック状の加温部本体と、加温部本体を加熱するヒータとを備え、温度センサは、インクジェットヘッドの内部のインクの温度またはインク通過部の中のインクの温度を直接または間接的に検知し、印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、制御部は、温度センサで検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、インクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行うとともに、印刷を休止している印刷休止時に、温度センサで検知される温度がインク吐出適正温度よりも低い所定の第1基準温度未満となっている状態でヒータを起動する場合、ヒータの起動後、インク加温機構によってインクが温められて温度センサで検知される温度が第1基準温度よりも高くかつインク吐出適正温度よりも低い所定の第2基準温度を超えると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域においてインクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることを特徴とする。
【0024】
また、上記の第1の課題を解決するため、本発明のインクジェットプリンタの制御方法は、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともにインクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、インクジェットヘッドへのインクの供給経路において圧力調整機構とインクジェットヘッドとの間に配置されインクジェットヘッドに供給されるインクを温めるインク加温機構と、インクの温度を検知するための温度センサとを備え、インク加温機構は、インクが通過するインク通過部が内部に形成されるブロック状の加温部本体と、加温部本体を加熱するヒータとを備え、温度センサは、インクジェットヘッドの内部のインクの温度またはインク通過部の中のインクの温度を直接または間接的に検知するインクジェットプリンタの制御方法であって、印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、温度センサで検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、インクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行うとともに、印刷を休止している印刷休止時に、温度センサで検知される温度がインク吐出適正温度よりも低い所定の第1基準温度未満となっている状態でヒータを起動する場合、ヒータの起動後、インク加温機構によってインクが温められて温度センサで検知される温度が第1基準温度よりも高くかつインク吐出適正温度よりも低い所定の第2基準温度を超えると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域においてインクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることを特徴とする。
【0025】
本発明において、第2基準温度は、たとえば、温度センサで検知される温度が第2基準温度になったときのインクジェットヘッドの内部圧力が負圧となるように設定されている。すなわち、本発明において、第2基準温度は、たとえば、温度センサで検知される温度が第2基準温度になったときのインクジェットヘッドの内部圧力が正圧にならない温度に設定されている。
【0026】
本発明では、印刷を休止している印刷休止時(印刷停止時)に、温度センサで検知される温度がインク吐出適正温度よりも低い所定の第1基準温度未満となっている状態でヒータを起動する場合、ヒータの起動後、インク加温機構によってインクが温められて温度センサで検知される温度が第1基準温度よりも高くかつインク吐出適正温度よりも低い所定の第2基準温度を超えると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域においてインクジェットヘッドからインクを強制的に排出させている。
【0027】
そのため、本発明では、温度センサで検知される温度が第2基準温度になったときのインクジェットヘッドの内部圧力が負圧となるように第2基準温度が設定されていれば、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、所定温度まで低下したインクを温めたときに、インクジェットヘッドの内部圧力が正圧になるのを防止することが可能になり、その結果、所定温度まで低下したインクを温めたときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【0028】
さらに、上記の第1の課題を解決するため、本発明のインクジェットプリンタは、インクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともにインクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、インクジェットヘッドへのインクの供給経路において圧力調整機構とインクジェットヘッドとの間に配置されインクジェットヘッドに供給されるインクを温めるインク加温機構と、インクの温度を検知するための温度センサと、インクジェットプリンタを制御する制御部とを備え、インク加温機構は、インクが通過するインク通過部が内部に形成されるブロック状の加温部本体と、加温部本体を加熱するヒータとを備え、印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、制御部は、印刷を休止している印刷休止時に、温度センサで検知される温度が所定の第1基準温度未満となっている状態でヒータを起動する場合、インクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行う前に、起動後のヒータの駆動時間が、ヒータの起動時に温度センサで検知される温度に基づいて設定される所定の第1基準時間を超えると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域においてインクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることを特徴とする。
【0029】
また、上記の第1の課題を解決するため、本発明のインクジェットプリンタの制御方法は、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともにインクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、インクジェットヘッドへのインクの供給経路において圧力調整機構とインクジェットヘッドとの間に配置されインクジェットヘッドに供給されるインクを温めるインク加温機構と、インクの温度を検知するための温度センサとを備え、インク加温機構は、インクが通過するインク通過部が内部に形成されるブロック状の加温部本体と、加温部本体を加熱するヒータとを備えるインクジェットプリンタの制御方法であって、印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、印刷を休止している印刷休止時に、温度センサで検知される温度が所定の第1基準温度未満となっている状態でヒータを起動する場合、インクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行う前に、起動後のヒータの駆動時間が、ヒータの起動時に温度センサで検知される温度に基づいて設定される所定の第1基準時間を超えると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域においてインクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることを特徴とする。
【0030】
本発明において、第1基準時間は、たとえば、起動後のヒータの駆動時間が第1基準時間になったときのインクジェットヘッドの内部圧力が負圧となるように設定されている。すなわち、本発明において、第1基準時間は、たとえば、起動後のヒータの駆動時間が第1基準時間になったときのインクジェットヘッドの内部圧力が正圧にならないように設定されている。
【0031】
本発明では、印刷を休止している印刷休止時に、温度センサで検知される温度が所定の第1基準温度未満となっている状態でヒータを起動する場合、インクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行う前に、起動後のヒータの駆動時間が、ヒータの起動時に温度センサで検知される温度に基づいて設定される所定の第1基準時間を超えると(すなわち、インク加温機構によってインクが温められてインクの温度が所定の基準温度を超えたと推定されると)、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域においてインクジェットヘッドからインクを強制的に排出させている。
【0032】
そのため、本発明では、起動後のヒータの駆動時間が第1基準時間になったときのインクジェットヘッドの内部圧力が負圧となるように第1基準時間が設定されていれば、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、所定温度まで低下したインクを温めたときに、インクジェットヘッドの内部圧力が正圧になるのを防止することが可能になり、その結果、所定温度まで低下したインクを温めたときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【0033】
本発明において、インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルが形成され、インクジェットヘッドは、複数のノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備え、制御部は、メンテナンス領域において、吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させることでインクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることが好ましい。このように構成すると、たとえば、ノズルが形成されるインクジェットヘッドのノズル面をキャップで覆ってノズルからインクを吸引することでインクジェットヘッドからインクを強制的に排出させる場合と比較して、短時間で容易に、インクジェットヘッドからインクを強制的に排出させることが可能になる。
【0034】
また、上記の第2の課題を解決するため、本発明のインクジェットプリンタは、インクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともにインクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、インクジェットヘッドの内部のインクの温度を検知するための温度センサと、インクジェットプリンタを制御する制御部とを備え、インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルと、複数のノズルが繋がる複数のインク流路とが形成され、インクジェットヘッドは、複数のノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備え、印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とし、ノズルからインクを吐出させて印刷を行う印刷時における所定の第2基準時間の間に、1本のインク流路に繋がる複数のノズルのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和を総和吐出量とすると、制御部は、温度センサで検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、吐出エネルギー発生素子を駆動しノズルからインクを吐出させて印刷を行うとともに、吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、温度センサで検知される温度がインク吐出適正温度よりも高い所定の第3基準温度を超え、かつ、温度センサで検知される温度が第3基準温度を超えた時点から第2基準時間の分だけ前に遡ったときの総和吐出量が所定の第1基準量未満となるインク流路である第1インク流路が存在すると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域において、少なくとも、第1インク流路に繋がるノズルからインクを強制的に排出させることを特徴とする。
【0035】
また、上記の第2の課題を解決するため、本発明のインクジェットプリンタの制御方法は、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともにインクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、インクジェットヘッドの内部のインクの温度を検知するための温度センサとを備え、インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルと、複数のノズルが繋がる複数のインク流路とが形成され、インクジェットヘッドは、複数のノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備えるインクジェットプリンタの制御方法であって、印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とし、ノズルからインクを吐出させて印刷を行う印刷時における所定の第2基準時間の間に、1本のインク流路に繋がる複数のノズルのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和を総和吐出量とすると、温度センサで検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、吐出エネルギー発生素子を駆動しノズルからインクを吐出させて印刷を行うとともに、吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、温度センサで検知される温度がインク吐出適正温度よりも高い所定の第3基準温度を超え、かつ、温度センサで検知される温度が第3基準温度を超えた時点から第2基準時間の分だけ前に遡ったときの総和吐出量が所定の第1基準量未満となるインク流路である第1インク流路が存在すると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域において、少なくとも、第1インク流路に繋がるノズルからインクを強制的に排出させることを特徴とする。
【0036】
本発明では、吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、温度センサで検知される温度がインク吐出適正温度よりも高い所定の第3基準温度を超え、かつ、温度センサで検知される温度が第3基準温度を超えた時点から第2基準時間前まで遡ったときの総和吐出量が所定の第1基準量未満となるインク流路である第1インク流路が存在すると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域において、少なくとも、第1インク流路に繋がるノズルからインクを強制的に排出させている。
【0037】
すなわち、本発明では、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が多くて、この複数のノズルからインクを吐出させる吐出エネルギー発生素子の駆動回数が多くなり、その結果、吐出エネルギー発生素子が発生する熱の影響で、温度センサで検知される温度が高くなったときに、総和吐出量が少ないインク流路である第1インク流路が存在すると、第1インク流路に繋がるノズルからインクを強制的に排出させている。
【0038】
そのため、本発明では、第1インク流路で滞留するインクが、吐出エネルギー発生素子が発生する熱によって温められても、第1インク流路の内部圧力が正圧になるのを防止することが可能になる。したがって、本発明では、内部に複数のインク流路が形成されるインクジェットヘッドが使用され、かつ、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路を除いたその他のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【0039】
さらに、上記の第2の課題を解決するため、本発明のインクジェットプリンタは、インクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともにインクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、インクジェットヘッドの内部のインクの温度を検知するための温度センサと、インクジェットプリンタを制御する制御部とを備え、インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルと、複数のノズルが繋がる複数のインク流路とが形成され、インクジェットヘッドは、複数のノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備え、印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、制御部は、吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、所定の基準時点から所定の第3基準時間内に駆動する複数の吐出エネルギー発生素子の駆動回数が、基準時点において温度センサで検知される温度に基づいて設定される第1基準回数を超え、かつ、基準時点から第3基準時間を経過するまでに、1本のインク流路に繋がる複数のノズルのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和である総和吐出量が所定の第2基準量未満となるインク流路である第1インク流路が存在すると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域において、少なくとも、第1インク流路に繋がるノズルからインクを強制的に排出させることを特徴とする。
【0040】
また、上記の第2の課題を解決するため、本発明のインクジェットプリンタの制御方法は、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジと、キャリッジを主走査方向に移動させるキャリッジ駆動機構と、インクジェットヘッドに供給されるインクが収容されるとともにインクジェットヘッドの内部圧力を調整する圧力調整機構と、インクジェットヘッドの内部のインクの温度を検知するための温度センサとを備え、インクジェットヘッドには、インクを吐出する複数のノズルと、複数のノズルが繋がる複数のインク流路とが形成され、インクジェットヘッドは、複数のノズルのそれぞれからインクを吐出させる複数の吐出エネルギー発生素子を備えるインクジェットプリンタの制御方法であって、印刷が行われる印刷領域から主走査方向において外れた領域をメンテナンス領域とすると、吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、所定の基準時点から所定の第3基準時間内に駆動する複数の吐出エネルギー発生素子の駆動回数が、基準時点において温度センサで検知される温度に基づいて設定される第1基準回数を超え、かつ、基準時点から第3基準時間を経過するまでに、1本のインク流路に繋がる複数のノズルのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和である総和吐出量が所定の第2基準量未満となるインク流路である第1インク流路が存在すると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域において、少なくとも、第1インク流路に繋がるノズルからインクを強制的に排出させることを特徴とする。
【0041】
本発明では、吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させる印刷時に、所定の基準時点から所定の第3基準時間内に駆動する複数の吐出エネルギー発生素子の駆動回数が、基準時点において温度センサで検知される温度に基づいて設定される第1基準回数を超え(すなわち、複数の吐出エネルギー発生素子が駆動時に発生する熱の影響でインクの温度が所定の基準温度を超えたと推定され)、かつ、基準時点から第3基準時間を経過するまでに、1本のインク流路に繋がる複数のノズルのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和である総和吐出量が所定の第2基準量未満となるインク流路である第1インク流路が存在すると、メンテナンス領域にインクジェットヘッドを移動させて、メンテナンス領域において、少なくとも、第1インク流路に繋がるノズルからインクを強制的に排出させている。
【0042】
すなわち、本発明では、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が多くて、この複数のノズルからインクを吐出させる吐出エネルギー発生素子の駆動回数が多くなったときに(すなわち、吐出エネルギー発生素子が発生する熱の影響で、温度センサで検知される温度が高くなったときに)、総和吐出量が少ないインク流路である第1インク流路が存在すると、第1インク流路に繋がるノズルからインクを強制的に排出させている。
【0043】
そのため、本発明では、第1インク流路で滞留するインクが、吐出エネルギー発生素子が発生する熱によって温められても、第1インク流路の内部圧力が正圧になるのを防止することが可能になる。したがって、本発明では、内部に複数のインク流路が形成されるインクジェットヘッドが使用され、かつ、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路を除いたその他のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【0044】
本発明において、制御部は、メンテナンス領域において、吐出エネルギー発生素子を駆動してインクを吐出させることでノズルからインクを強制的に排出させることが好ましい。このように構成すると、短時間で容易に、ノズルからインクを強制的に排出させることが可能になる。
【発明の効果】
【0045】
以上のように、本発明では、インクジェットヘッドの内部圧力を負圧に調整するための圧力調整機構と、インクジェットプリンタに供給されるインクを温めるためのインク加温機構とを備えるインクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、所定温度まで低下したインクを温めたときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【0046】
また、本発明では、インクジェットヘッドの内部圧力を負圧に調整するための圧力調整機構を備えるインクジェットプリンタにおいて、内部に複数のインク流路が形成されるインクジェットヘッドが使用され、かつ、インクジェットヘッドからインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路を除いたその他のインク流路に繋がる複数のノズルから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときの、インクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明の実施の形態にかかるインクジェットプリンタの斜視図である。
【
図2】
図1に示すインクジェットプリンタの構成を説明するための概略図である。
【
図3】
図2に示すキャリッジの周辺部分の一部の斜視図である。
【
図4】
図1に示すインクジェットプリンタの構成を説明するためのブロック図である。
【
図5】
図2に示すインクジェットヘッドの構成を説明するための底面図である。
【
図6】
図3に示す加温部本体の構成を説明するための断面図である。
【
図9】
図5に示すインクジェットヘッドのノズルからのインクの漏れ防止動作を説明するためのグラフである。
【
図10】従来技術にかかる調圧ダンパの構成を説明するための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0049】
(インクジェットプリンタの構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかるインクジェットプリンタ1の斜視図である。
図2は、
図1に示すインクジェットプリンタ1の構成を説明するための概略図である。
図3は、
図2に示すキャリッジ4の周辺部分の一部の斜視図である。
図4は、
図1に示すインクジェットプリンタ1の構成を説明するためのブロック図である。
図5は、
図2に示すインクジェットヘッド3の構成を説明するための底面図である。
図6は、
図3に示す加温部本体20の構成を説明するための断面図である。
図7は、
図3に示す圧力調整機構11の断面図である。
図8は、
図7のE部の拡大図である。
【0050】
本形態のインクジェットプリンタ1(以下、「プリンタ1」とする。)は、たとえば、業務用のインクジェットプリンタであり、インクを吐出して印刷媒体2に印刷を行う。印刷媒体2は、たとえば、印刷用紙、布帛または樹脂製のフィルム等である。プリンタ1は、印刷媒体2に向かってインクを吐出するインクジェットヘッド3(以下、「ヘッド3」とする。)と、ヘッド3が搭載されるキャリッジ4と、キャリッジ4を主走査方向(
図1等のY方向)へ移動させるキャリッジ駆動機構5と、キャリッジ4を主走査方向へ案内するためのガイドレール6と、ヘッド3に供給されるインクが収容される複数のインクタンク7とを備えている。
【0051】
また、プリンタ1は、ヘッド3の内部圧力を調整するための圧力調整機構11と、ヘッド3に供給されるインクを温めるためのインク加温機構12と、インクの温度を検知するための温度センサ13、14と、ヘッド3のメンテナンスを行うためのメンテナンスユニット15とを備えている。さらに、プリンタ1は、プリンタ1を制御する制御部10を備えている。以下の説明では、主走査方向(Y方向)を「左右方向」とし、上下方向(
図1等のZ方向)と主走査方向とに直交する副走査方向(
図1等のX方向)を「前後方向」とする。
【0052】
ヘッド3は、紫外線硬化型のインク(UVインク)を吐出する。また、ヘッド3は、下側に向かってインクを吐出する。ヘッド3の下面には、インクを吐出する複数のノズル3aが形成されている。複数のノズル3aは、前後方向に配列されており、前後方向に配列される複数のノズル3aによって、ノズル列3bが構成されている。本形態では、ヘッド3の下面に複数のノズル列3bが形成されている。複数のノズル列3bは、左右方向に配列されている。ヘッド3には、複数のノズル3aが繋がる複数のインク流路3c~3fが形成されている。本形態では、4本のインク流路3c~3fがヘッド3の内部に形成されている。4本のインク流路3c~3fのそれぞれでは、たとえば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(B)の4色のインクの中の1色のインクが流れる。
【0053】
ヘッド3は、複数のノズル3aのそれぞれからインクを吐出させる複数の圧電素子16~19を備えている。本形態のヘッド3は、インク流路3cに繋がる複数のノズル3aのそれぞれからインクを吐出させる複数の圧電素子16と、インク流路3dに繋がる複数のノズル3aのそれぞれからインクを吐出させる複数の圧電素子17と、インク流路3eに繋がる複数のノズル3aのそれぞれからインクを吐出させる複数の圧電素子18と、インク流路3fに繋がる複数のノズル3aのそれぞれからインクを吐出させる複数の圧電素子19とを備えている。圧電素子16~19は、制御部10に電気的に接続されている。本形態の圧電素子16~19は、吐出エネルギー発生素子である。
【0054】
ヘッド3の下側には、プラテン8が配置されている。プラテン8には、印刷時の印刷媒体2が載置される。プラテン8に載置される印刷媒体2は、図示を省略する媒体送り機構によって前後方向に搬送される。キャリッジ駆動機構5は、たとえば、2個のプーリと、2個のプーリに架け渡されるとともに一部がキャリッジ4に固定されるベルトと、プーリを回転させるモータとを備えている。
【0055】
圧力調整機構11には、インクタンク7からインクが供給される。具体的には、インクタンク7は、圧力調整機構11よりも上側に配置されており、水頭差によってインクタンク7から圧力調整機構11にインクが供給される。インク加温機構12は、ヘッド3へのインクの供給経路において圧力調整機構11とヘッド3との間に配置されている。インク加温機構12には、圧力調整機構11からインクが供給され、ヘッド3には、インク加温機構12からインクが供給される。圧力調整機構11には、インク加温機構12を介してヘッド3に供給されるインクが収容されている。圧力調整機構11およびインク加温機構12は、キャリッジ4に搭載されている。
【0056】
インク加温機構12は、ヘッド3の外部に配置されるヘッド外インク加温装置である。インク加温機構12は、ヘッド3に供給されるインクを温めることで、ヘッド3に供給されるインクの粘度を低下させる機能を果たしている。インク加温機構12は、ヘッド3の上側に配置されている。本形態では、1個のヘッド3に対して1個のインク加温機構12が設けられている。インク加温機構12は、ブロック状に形成される加温部本体20と、加温部本体20に貼り付けられるヒータ21とを備えている。
【0057】
加温部本体20は、全体として略直方体状に形成されている。また、加温部本体20は、熱伝導率の高い金属材料で形成されている。たとえば、加温部本体20は、アルミニウム合金で形成されている。加温部本体20の内部には、インクが流れるインク流路20aが形成されている。具体的には、4本のインク流路3c~3fのそれぞれに繋がる4本のインク流路20aが加温部本体20の内部に形成されている。本形態では、インク流路20aによってインクが通過するインク通過部が構成されている。
【0058】
ヒータ21は、シート状に形成されたシートヒータである。また、ヒータ21は、導電パターンと、導電パターンを両側から挟む絶縁シート(絶縁フィルム)とを備えるプリントヒータである。本形態では、1枚のヒータ21が加温部本体20に貼り付けられている。ヒータ21は、加温部本体20の左右の側面および前面に貼り付けられている。ヒータ21は、加温部本体20を加熱する。また、ヒータ21は、制御部10に電気的に接続されている。
【0059】
圧力調整機構11は、左右方向の厚さが薄い扁平な直方体状に形成されている。圧力調整機構11は、インク加温機構12に取り付けられている。本形態では、1個のインク加温機構12に2個の圧力調整機構11が取り付けられている。圧力調整機構11の下側部分は、加温部本体20に収容されている。1個のインク加温機構12に取り付けられる2個の圧力調整機構11は、左右方向で隣り合うように配置されている。圧力調整機構11は、機械式の圧力ダンパであり、圧力調整用のポンプを用いることなく、ヘッド3の内部圧力を機械的に調整する。また、圧力調整機構11は、ヘッド3の内部圧力(インク流路3c~3fの内部圧力)を負圧に調整する。
【0060】
圧力調整機構11は、内部にインク流路22が形成される本体フレーム23を備えている。本形態では、2本のインク流路22が本体フレーム23に形成されている。1個のインク加温機構12に取り付けられる2個の圧力調整機構11のうちの一方の圧力調整機構11の本体フレーム23に形成される2本のインク流路22のそれぞれは、加温部本体20に形成される4本のインク流路20aのうちの2本のインク流路20aのそれぞれに繋がり、他方の圧力調整機構11の本体フレーム23に形成される2本のインク流路22のそれぞれは、加温部本体20に形成される4本のインク流路20aのうちの残りの2本のインク流路20aのそれぞれに繋がっている。
【0061】
また、圧力調整機構11は、開放弁24および封止弁25を備えている。インク流路22は、開放弁24が収容される開放弁収容室26と、封止弁25が収容される封止弁収容室27とを備えている。開放弁収容室26と封止弁収容室27とは、連通孔28を介して繋がっている。開放弁収容室26には、ヘッド3に向かって流出するインクが収容され、封止弁収容室27には、インクタンク7から流入するインクが収容されている。開放弁収容室26と封止弁収容室27とは、左右方向で隣り合うように配置されている。
【0062】
2本のインク流路22のうちの一方のインク流路22では、開放弁収容室26が右側に配置され、封止弁収容室27が左側に配置されている。また、他方のインク流路22では、開放弁収容室26が左側に配置され、封止弁収容室27が右側に配置されている。なお、インク流路22は、インク流路22の入口と封止弁収容室27との間に配置されるフィルタ室を備えており、フィルタ室には、フィルタが収容されている。
【0063】
図8に示すように、封止弁25は、弁本体31と、弁本体31に固定されるゴム製のシール部材32とから構成されている。封止弁25は、圧縮コイルバネ33によって連通孔28を閉鎖する方向に付勢されている。すなわち、左側に配置される封止弁収容室27では、封止弁25は、圧縮コイルバネ33によって右側に付勢され、右側に配置される封止弁収容室27では、封止弁25は、圧縮コイルバネ33によって左側に付勢されている。封止弁25は、ヘッド3からインクが吐出されていないときに連通孔28を閉鎖している。
【0064】
開放弁収容室26は、本体フレーム23に固定される薄膜状の可撓膜34によって封止されている。可撓膜34は、左右方向における開放弁収容室26の外側の壁面を構成している。すなわち、右側に配置される開放弁収容室26では、可撓膜34は、開放弁収容室26の右側の壁面を構成し、左側に配置される開放弁収容室26では、可撓膜34は、開放弁収容室26の左側の壁面を構成している。開放弁24は、圧縮コイルバネ35によって連通孔28から離れる方向に付勢されている。すなわち、右側に配置される開放弁収容室26では、開放弁24は、圧縮コイルバネ35によって右側に付勢され、左側に配置される開放弁収容室26では、開放弁24は、圧縮コイルバネ35によって左側に付勢されている。
【0065】
可撓膜34は、左右方向において開放弁24の外側に配置されている。可撓膜34の中心部は、圧縮コイルバネ35に付勢される開放弁24によって、左右方向の外側に向かって押されている。すなわち、右側に配置される開放弁収容室26では、可撓膜34の中心部は、右側に向かって押され、左側に配置される開放弁収容室26では、可撓膜34の中心部は、左側に向かって押されている。また、可撓膜34の中心部は、開放弁収容室26の容積が大きくなる方向に押されている。
【0066】
圧力調整機構11では、ヘッド3からインクが吐出されると、ヘッド3のインク流路3c~3fの内部圧力、加温部本体20のインク流路20aの内部圧力および開放弁収容室26の内部圧力が低下するため、可撓膜34が左右方向の内側に向かって変形して、吐出量に応じたインクが開放弁収容室26から加温部本体20を介してヘッド3に供給される。所定量のインクがヘッド3から吐出されると、圧縮コイルバネ35の付勢力に抗して可撓膜34が左右方向の内側に向かって所定量変形するとともに開放弁24が左右方向の内側に向かって移動して、開放弁24の先端が封止弁25に接触し、連通孔28を開放する方向に封止弁25が移動する。
【0067】
連通孔28を開放する方向に封止弁25が移動して連通孔28が開放されると、連通孔28を介して封止弁収容室27から開放弁収容室26にインクが供給される。開放弁収容室26にインクが供給されて開放弁収容室26の内部圧力が上昇すると、圧縮コイルバネ35の付勢力で左右方向の外側に向かって可撓膜34が変形するとともに、開放弁24が封止弁25から離れる方向に移動する。開放弁24が封止弁25から離れる方向に移動すると、封止弁25によって連通孔28が閉鎖され、封止弁収容室27から開放弁収容室26へのインクの供給が停止される。
【0068】
温度センサ13は、たとえば、サーミスタである。温度センサ13は、加温部本体20の中のインクの温度を検知するためのセンサである。温度センサ13は、たとえば、加温部本体20の側面に取り付けられており、加温部本体20の温度を検知することで、インク流路20aの中のインクの温度を間接的に検知する。また、温度センサ13は、ヘッド3の内部のインクの温度(インク流路3c~3fのインクの温度)も間接的に検知する。温度センサ13は、制御部10に電気的に接続されている。なお、温度センサ13は、加温部本体21の内部に配置されていて、インク流路20aの中のインクの温度を直接、検知しても良い。
【0069】
温度センサ14は、たとえば、サーミスタである。温度センサ14は、ヘッド3の内部のインクの温度を検知するためのセンサである。温度センサ14は、たとえば、ヘッド3の内部に配置されており、ヘッド3の内部のインクの温度(インク流路3c~3fのインクの温度)を直接、検知する。あるいは、温度センサ14は、たとえば、ヘッド3の側面に取り付けられており、ヘッド3の温度を検知することで、ヘッド3の内部のインクの温度(インク流路3c~3fのインクの温度)を間接的に検知する。また、温度センサ14は、インク流路20aの中のインクの温度も間接的に検知する。温度センサ14は、制御部10に電気的に接続されている。
【0070】
主走査方向においてヘッド3による印刷が行われる領域を印刷領域PAとすると、メンテナンスユニット15は、主走査方向において印刷領域PAから外れた領域であるメンテナンス領域MAに設置されている。メンテナンスユニット15では、ヘッド3の複数のノズル3aの目詰まりが発生しないように、ヘッド3のクリーニングが行われる。具体的には、メンテナンスユニット15では、圧電素子16~19を駆動してノズル3aからインクを強制的に吐出させるフラッシングや、ノズル3aが形成されるノズル面をキャップで覆ってノズル3aの中のインクを強制的に吸引するインク吸引等が行われる。
【0071】
制御部10は、印刷媒体2の印刷を行うときに、温度センサ13で検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、ヘッド3からインクを吐出させて印刷を行う。たとえば、インク吐出適正温度は60℃であり、制御部10は、印刷媒体2の印刷を行うときに、温度センサ13で検知される温度が60℃未満になっていると、ヒータ21を起動してインクを加温する。また、ヒータ21を起動した後、温度センサ13で検知される温度が60℃になると、制御部10は、圧電素子16~19を駆動して、ヘッド3からインクを吐出させる。また、制御部10は、ヘッド3の中のインクの温度が低下している状態のプリンタ1を立ち上げて印刷を行うときの、ヘッド3のノズル3aからのインクの漏れを防止するために、以下に説明するようにプリンタ1を制御する。
【0072】
(ノズルからのインクの漏れ防止動作)
図9は、
図5に示すヘッド3のノズル3aからのインクの漏れ防止動作を説明するためのグラフである。
【0073】
プリンタ1では、たとえば、プリンタ1で印刷が行われていない印刷休止状態(印刷停止状態)が一定時間続いてヘッド3の内部のインクの温度が低下すると(すなわち、加温部本体20のインク流路20aのインクの温度および圧力調整機構11のインク流路22のインクの温度が低下すると)、インクが収縮してインクの体積が減り、ヘッド3の内部圧力、加温部本体20の内部圧力および開放弁収容室26の内部圧力が低下して、封止弁収容室27から開放弁収容室26にインクが流れ込む。
【0074】
その後、印刷媒体2の印刷を行うために、ヒータ21を起動してインク加温機構12によってインクを温めていくと、インクが膨張してインクの体積が増え、ヘッド3の内部圧力、加温部本体20の内部圧力および開放弁収容室26の内部圧力が高まっていく(
図9(B)参照)。開放弁収容室26の内部圧力が高まると、可撓膜34が左右方向の外側に向かって変形して、開放弁24が封止弁25から離れる方向に移動するため、開放弁収容室26の内部圧力が高まっても、連通孔28が開放されて開放弁収容室26から封止弁収容室27にインクが逆流することはない。
【0075】
また、インクの温度が低くなったときに封止弁収容室27から開放弁収容室26にインクが流れ込んでいるため、ヒータ21を起動してインク吐出適正温度までインクを温めていくと、ヘッド3の内部圧力、加温部本体20の内部圧力および開放弁収容室26の内部圧力が印刷休止状態となる前の内部圧力よりも高くなって、やがて、ヘッド3の内部圧力が正圧になる(
図9(B)参照)。また、ヘッド3の内部圧力が正圧になると、ヘッド3のノズル3aからのインクの漏れ(ボタ落ち)が発生する。
【0076】
そこで、本形態では、ノズル3aからのインクの漏れを防止するために、制御部10は、印刷媒体2の印刷を休止している印刷休止時に、温度センサ13で検知される温度がインク吐出適正温度よりも低い所定の第1基準温度未満となっている状態でヒータ21を起動する場合、ヒータ21の起動後、インク加温機構12によってインクが温められて温度センサ13で検知される温度が第1基準温度よりも高くかつインク吐出適正温度よりも低い所定の第2基準温度を超えると、キャリッジ4に搭載されたヘッド3をメンテナンス領域MAに移動させて、メンテナンス領域MAにおいてヘッド3からインクを強制的に排出させる。
【0077】
すなわち、制御部10は、温度センサ13で検知される温度が第1基準温度未満となった後に、インク加温機構12によってインクが温められて温度センサ13で検知される温度が第2基準温度を超えると、メンテナンス領域MAにヘッド3を移動させて、メンテナンス領域MAにおいてヘッド3からインクを強制的に排出させる。第2基準温度は、温度センサ13で検知される温度が第2基準温度になったときのヘッド3の内部圧力が負圧となるように設定されている。すなわち、第2基準温度は、温度センサ13で検知される温度が第2基準温度になったときのヘッド3の内部圧力が正圧にならない温度に設定されている。本形態では、制御部10は、メンテナンス領域MAにおいて、圧電素子16~19を駆動してヘッド3からインクを吐出させるフラッシングを行うことでヘッド3からインクを強制的に排出させる。
【0078】
たとえば、第1基準温度は、25℃~20℃程度の温度であり、第2基準温度は、40℃であり、制御部10は、印刷媒体2の印刷を休止している印刷休止時に、温度センサ13で検知される温度が25℃~20℃程度の第1基準温度未満となっている状態でヒータ21を起動する場合、ヒータ21の起動後、インク加温機構12によってインクが温められて温度センサ13で検知される温度が40℃に達すると、メンテナンス領域MAにヘッド3を移動させて、フラッシングを開始する(
図9(A))。
【0079】
また、制御部10は、所定回数のフラッシングを行う。たとえば、制御部10は、全ての圧電素子16~19を駆動して複数のノズル3aの全てからインクを吐出させるフラッシングを10回行う。その後、制御部10は、温度センサ13で検知される温度が、たとえば、60℃になると、印刷領域PAにおいて、ヘッド3からインクを吐出させて印刷媒体2の印刷を行う。なお、制御部10は、フラッシングを行う際に、複数のノズル3aの一部からインクを吐出させても良い。
【0080】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、印刷を休止している印刷休止時に、温度センサ13で検知される温度がインク吐出適正温度よりも低い第1基準温度未満となっている状態でヒータ21を起動する場合、ヒータ21の起動後、インク加温機構12によってインクが温められて温度センサ13で検知される温度が第1基準温度よりも高くかつインク吐出適正温度よりも低い第2基準温度を超えると、メンテナンス領域MAにヘッド3を移動させて、メンテナンス領域MAにおいてヘッド3からインクを強制的に排出させている。また、本形態では、第2基準温度は、温度センサ13で検知される温度が第2基準温度になったときのヘッド3の内部圧力が負圧となるように設定されている。
【0081】
そのため、本形態では、ヘッド3からインクの供給側にインクを逆流させることができなくても(具体的には、ヘッド3の中のインク、加温部本体20の中のインクおよび開放弁収容室26の中のインクを封止弁収容室27に逆流させることができなくても)、所定温度まで低下したインクを温めたときに、
図9(A)に示すように、ヘッド3の内部圧力が正圧になるのを防止することが可能になり、その結果、所定温度まで低下したインクを温めたときの、ヘッド3のノズル3aからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【0082】
本形態では、制御部10は、メンテナンス領域MAにおいて、フラッシングを行うことでヘッド3からインクを強制的に排出させている。そのため、本形態では、ヘッド3のノズル面をキャップで覆ってノズル3aからインクを強制的に吸引することでヘッド3からインクを強制的に排出させる場合と比較して、短時間で容易に、ヘッド3からインクを強制的に排出させることが可能になる。
【0083】
なお、本形態では、制御部10は、温度センサ13で検知される温度を利用して、ノズル3aからのインクの漏れを防止するためのプリンタ1の制御を行っているが、制御部10は、温度センサ14で検知される温度を利用して、ノズル3aからのインクの漏れを防止するためのプリンタ1の制御を行っても良い。温度センサ14で検知される温度を利用する場合のインク吐出適正温度は、温度センサ13で検知される温度を利用する場合のインク吐出適正温度と異なる。また、温度センサ14で検知される温度を利用する場合の第2基準温度は、温度センサ13で検知される温度を利用する場合の第2基準温度と異なる。また、温度センサ14で検知される温度を利用する場合の第1基準温度は、温度センサ13で検知される温度を利用する場合の第1基準温度と異なることがある。
【0084】
(プリンタの制御方法の変形例1)
上述した形態において、制御部10は、ノズル3aからのインクの漏れを防止するために、印刷媒体2の印刷を休止している印刷休止時に、温度センサ13で検知される温度が第1基準温度未満となっている状態でヒータ21を起動する場合、ヘッド3からインクを吐出させて印刷を行う前に、起動後のヒータ21の駆動時間が、ヒータ21の起動時に温度センサ13で検知される温度に基づいて設定される所定の第1基準時間を超えると、メンテナンス領域MAにヘッド3を移動させて、メンテナンス領域MAにおいてヘッド3からインクを強制的に排出させても良い。
【0085】
この場合には、インク加温機構12によってインクが温められてインクの温度が所定の基準温度となるときの、ヒータ21の駆動時間が第1基準時間となっている。この場合の基準温度は、上述した形態における第2基準温度であり、たとえば、40℃である。また、第1基準時間は、起動後のヒータ21の駆動時間が第1基準時間になったときのヘッド3の内部圧力が負圧となるように設定されている。すなわち、第1基準時間は、起動後のヒータ21の駆動時間が第1基準時間になったときのヘッド3の内部圧力が正圧にならないように設定されている。
【0086】
制御部10には、複数の温度のそれぞれに紐づけされた複数の基準時間が記憶されており、制御部10は、ヒータ21の起動時に温度センサ13で温度が検知されると、たとえば、ヒータ21の起動時に温度センサ13で検知される温度と同じ温度に紐づけされた基準時間を第1基準時間として設定する。なお、ヒータ21自身の温度であるヒータ温度が可変となっている場合には、複数の温度のそれぞれに紐づけされた複数の基準時間のそれぞれは、ヒータ温度にも紐づけされて制御部10に記憶されている。
【0087】
この場合であっても、上述した形態と同様に、ヘッド3からインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、所定温度まで低下したインクを温めたときに、ヘッド3の内部圧力が正圧になるのを防止することが可能になり、その結果、所定温度まで低下したインクを温めたときの、ヘッド3のノズル3aからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【0088】
なお、この変形例において、制御部10は、温度センサ14で検知される温度を利用して、ノズル3aからのインクの漏れを防止するためのプリンタ1の制御を行っても良い。また、プリンタ1の外部温度を測定するための温度センサをプリンタ1が備えている場合には、この変形例において、制御部10は、プリンタ1の外部温度を測定するための温度センサで検知される温度を利用して、ノズル3aからのインクの漏れを防止するためのプリンタ1の制御を行っても良い。プリンタ1の外部温度を測定するための温度センサは、たとえば、プリンタ1の本体フレームやキャリッジ4に取り付けられている。
【0089】
(プリンタの制御方法の変形例2)
プリンタ1では、印刷媒体2の印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路3c~3fに繋がる複数のノズル3aから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路3c~3fを除いたその他のインク流路3c~3fに繋がる複数のノズル3aから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときに、その他のインク流路3c~3fに繋がる複数のノズル3aからのインクの漏れが発生するおそれがある。すなわち、プリンタ1では、印刷条件によって、ノズル3aからのインクの漏れが発生するおそれがある。
【0090】
たとえば、特定のインク流路3c~3fの中のインクのみが続けて吐出されるが、その他のインク流路3c~3fの中のインクが所定時間、吐出されない場合に、その他のインク流路3c~3fに繋がるノズル3aからのインクの漏れが発生するおそれがある。たとえば、インク流路3cの中のインクのみが続けて吐出されるが、インク流路3d~3fの中のインクが所定時間、吐出されない場合(すなわち、インク流路3cに繋がるノズル3aからは続けてインクが吐出されるが、インク流路3d~3fに繋がるノズル3aからは所定時間インクが吐出されない場合)に、以下に説明する原因によって、インク流路3d~3fに繋がる複数のノズル3aからインクの漏れが発生するおそれがある。
【0091】
すなわち、インク流路3cに繋がるノズル3aから続けてインクが吐出されると、インク流路3cに繋がるノズル3aからインクを吐出させる圧電素子16の駆動回数が多くなるため、圧電素子16が発生する熱の影響で、インク流路3d~3fで所定時間、滞留するインクが過剰に温められる。インク流路3d~3fで滞留するインクが過剰に温められると、インクが膨張してインクの体積が増え、インク流路3d~3fの内部圧力、インク流路3d~3fに繋がるインク流路20aの内部圧力およびインク流路3d~3fに繋がる開放弁収容室26の内部圧力が過剰に高まる。
【0092】
また、インク流路3d~3fに繋がる開放弁収容室26の内部圧力が高まっても、連通孔28が開放されてこの開放弁収容室26から封止弁収容室27にインクが逆流することがないため、インク流路3d~3fの内部圧力、インク流路3d~3fに繋がるインク流路20aの内部圧力およびインク流路3d~3fに繋がる開放弁収容室26の内部圧力が過剰に高まると、インク流路3d~3fの内部圧力が正圧になり、その結果、印刷中に、インク流路3d~3fに繋がるノズル3aからのインクの漏れが発生する。
【0093】
そこで、制御部10は、温度センサ14で検知される温度が所定のインク吐出適正温度になると、圧電素子16~19を駆動しノズル3aからインクを吐出させて印刷を行うとともに、圧電素子16~19が発生する熱の影響によって、ヘッド3の中で所定時間、滞留するインクが過剰に温められたときの、ノズル3aからのインクの漏れを防止するために、プリンタ1を以下のように制御しても良い。
【0094】
すなわち、ノズル3aからインクを吐出させて印刷を行う印刷時における所定の第2基準時間の間に、1本のインク流路3c~3fに繋がる複数のノズル3aのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和を総和吐出量とすると、制御部10は、印刷媒体2の印刷を行う印刷時に、温度センサ14で検知される温度がインク吐出適正温度よりも高い所定の第3基準温度を超え、かつ、温度センサ14で検知される温度が第3基準温度を超えた時点から第2基準時間前まで遡ったときの総和吐出量が所定の第1基準量未満となるインク流路3c~3fである第1インク流路が存在すると、メンテナンス領域MAにヘッド3を移動させて、メンテナンス領域MAにおいて、第1インク流路に繋がるノズル3aからインクを強制的に排出させても良い。
【0095】
たとえば、印刷媒体2の印刷時に、インク流路3cに繋がるノズル3aから続けてインクが吐出されるが、インク流路3d~3fに繋がるノズル3aから所定時間インクが吐出されない場合には、温度センサ14で検知される温度が第3基準温度を超え、かつ、温度センサ14で検知される温度が第3基準温度を超えた時点から第2基準時間前まで遡ったときのインク流路3d~3fの総和吐出量が0(ゼロ)で第1基準量未満となり、インク流路3d~3fが第1インク流路となるため、制御部10は、メンテナンス領域MAにヘッド3を移動させて、メンテナンス領域MAにおいて、インク流路3d~3fに繋がるノズル3aからインクを強制的に排出させても良い。
【0096】
この場合には、制御部10は、プリンタ1の上位装置から制御部10に送信される印刷媒体2の印刷データに基づいて総和吐出量を算出する。また、この場合には、制御部10は、たとえば、メンテナンス領域MAにおいて、インク流路3d~3fのそれぞれに繋がる複数のノズル3aの全てからインクを強制的に排出させる。また、この場合には、制御部10は、たとえば、上述した形態と同様に、メンテナンス領域MAにおいて、圧電素子17~19を駆動して、インク流路3d~3fに繋がるノズル3aからインクを吐出させるフラッシングを行うことでインク流路3d~3fに繋がるノズル3aからインクを強制的に排出させる。なお、制御部10は、メンテナンス領域MAにおいて、インク流路3d~3fのそれぞれに繋がる複数のノズル3aの中の一部のノズル3aからインクを強制的に排出させても良い。
【0097】
この変形例では、印刷媒体2の印刷時に、温度センサ14で検知される温度がインク吐出適正温度よりも高い第3基準温度を超え、かつ、温度センサ14で検知される温度が第3基準温度を超えた時点から第2基準時間前まで遡ったときの総和吐出量が第1基準量未満となるインク流路3c~3fである第1インク流路が存在すると、メンテナンス領域MAにヘッド3を移動させて、メンテナンス領域MAにおいて、第1インク流路に繋がるノズル3aからインクを強制的に排出させている。
【0098】
たとえば、印刷中の所定時間の間に、インク流路3cに繋がる複数のノズル3aから吐出されるインクの吐出量の総和が多くて、インク流路3cに繋がるノズル3aからインクを吐出させる圧電素子16の駆動回数が多くなり、その結果、圧電素子16が発生する熱の影響で、温度センサ14で検知される温度が高くなったときに、総和吐出量が少ないインク流路3d~3fに繋がるノズル3aからインクを強制的に排出させている。
【0099】
そのため、この変形例では、インク流路3d~3fで滞留するインクが、圧電素子16が発生する熱によって温められても、インク流路3d~3fの内部圧力が正圧になるのを防止することが可能になる。したがって、この変形例では、内部に複数のインク流路3c~3fが形成されるヘッド3が使用され、かつ、ヘッド3からインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路3c~3fに繋がる複数のノズル3aから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路3c~3fを除いたその他のインク流路3c~3fに繋がる複数のノズル3aから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときの、ヘッド3のノズル3aからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【0100】
なお、この変形例において、たとえば、インク流路3cに繋がるノズル3aから続けてインクが吐出されるが、インク流路3d~3fに繋がるノズル3aから所定時間インクが吐出されず、温度センサ14で検知される温度が第3基準温度を超え、かつ、温度センサ14で検知される温度が第3基準温度を超えた時点から第2基準時間前まで遡ったときのインク流路3d~3fからの総和吐出量が第1基準量未満となる場合に、メンテナンス領域MAで、インク流路3cに繋がるノズル3aからもインクを強制的に排出させても良い。
【0101】
また、ヘッド3の中のインクの温度を温度センサ13によって適切に検知することができるのであれば、この変形例において、制御部10は、温度センサ13で検知される温度を利用して、ノズル3aからのインクの漏れを防止するためのプリンタ1の制御を行っても良いし、温度センサ13で検知される温度と温度センサ14で検知される温度とを利用して、ノズル3aからのインクの漏れを防止するためのプリンタ1の制御を行っても良い。
【0102】
(プリンタの制御方法の変形例3)
上述したプリンタ1の制御方法の変形例2において、制御部10は、印刷媒体2の印刷時に、所定の基準時点から所定の第3基準時間内に駆動する複数の圧電素子16~19の駆動回数が、基準時点において温度センサ14で検知される温度に基づいて設定される第1基準回数を超え、かつ、基準時点から第3基準時間を経過するまでに、1本のインク流路3c~3fに繋がる複数のノズル3aのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和である総和吐出量が所定の第2基準量未満となるインク流路3c~3fである第1インク流路が存在する場合に、メンテナンス領域MAにヘッド3を移動させて、メンテナンス領域MAにおいて、第1インク流路に繋がるノズル3aからインクを強制的に排出させても良い。
【0103】
たとえば、印刷媒体2の印刷時に、インク流路3cに繋がるノズル3aから続けてインクが吐出されるが、インク流路3d~3fに繋がるノズル3aから所定時間インクが吐出されない場合には、基準時点から第3基準時間内に駆動する圧電素子16の駆動回数が、基準時点において温度センサ14で検知される温度に基づいて設定される第1基準回数を超え、かつ、基準時点から第3基準時間を経過するまでに、インク流路3d~3fに繋がる複数のノズル3aのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和である総和吐出量が0(ゼロ)で第2基準量未満となるため、制御部10は、メンテナンス領域MAにおいてフラッシングを行うことで、インク流路3d~3fに繋がるノズル3aからインクを強制的に排出させても良い。
【0104】
この場合には、制御部10は、プリンタ1の上位装置から制御部10に送信される印刷媒体2の印刷データに基づいて圧電素子16の駆動回数を算出する。また、制御部10は、プリンタ1の上位装置から制御部10に送信される印刷媒体2の印刷データに基づいて総和吐出量を算出する。また、この場合には、制御部10は、たとえば、メンテナンス領域MAにおいて、インク流路3d~3fのそれぞれに繋がる複数のノズル3aの全てからインクを強制的に排出させる。ただし、制御部10は、メンテナンス領域MAにおいて、インク流路3d~3fのそれぞれに繋がる複数のノズル3aの中の一部のノズル3aからインクを強制的に排出させても良い。
【0105】
また、この場合には、圧電素子16が駆動時に発生する熱の影響によって温度センサ14で検知される温度が所定の基準温度となるときの、基準時点から第3基準時間経過するまでの圧電素子16の駆動回数が第1基準回数となっている。この場合の基準温度は、上述した変形例2における第3基準温度である。制御部10には、複数の温度のそれぞれに紐づけされた複数の基準回数が記憶されており、制御部10は、基準時点において温度センサ14で温度が検知されると、たとえば、基準時点において温度センサ14で検知される温度と同じ温度に紐づけされた基準回数を第1基準回数として設定する。
【0106】
この変形例では、たとえば、印刷中の所定時間の間に、インク流路3cに繋がる複数のノズル3aから吐出されるインクの吐出量の総和が多くて、インク流路3cに繋がるノズル3aからインクを吐出させる圧電素子16の駆動回数が多くなったときに(すなわち、圧電素子16が発生する熱の影響で、温度センサ14で検知される温度が高くなったときに)、総和吐出量が少ないインク流路3d~3fに繋がるノズル3aからインクを強制的に排出させている。
【0107】
そのため、この変形例においても、上述した変形例2と同様に、インク流路3d~3fで滞留するインクが、圧電素子16が発生する熱によって温められても、インク流路3d~3fの内部圧力が正圧になるのを防止することが可能になる。したがって、この変形例でも、内部に複数のインク流路3c~3fが形成されるヘッド3が使用され、かつ、ヘッド3からインクの供給側にインクを逆流させることができなくても、印刷中の所定時間の間に、特定のインク流路3c~3fに繋がる複数のノズル3aから吐出されるインクの吐出量の総和は多いが、特定のインク流路3c~3fを除いたその他のインク流路3c~3fに繋がる複数のノズル3aから吐出されるインクの吐出量の総和が少なくなったときの、ヘッド3のノズル3aからのインクの漏れを防止することが可能になる。
【0108】
なお、この変形例において、たとえば、インク流路3cに繋がるノズル3aから続けてインクが吐出されるが、インク流路3d~3fに繋がるノズル3aから所定時間インクが吐出されず、基準時点から第3基準時間内に駆動する圧電素子16の駆動回数が、基準時点において温度センサ14で検知される温度に基づいて設定される第1基準回数を超え、かつ、基準時点から第3基準時間を経過するまでに、インク流路3d~3fに繋がる複数のノズル3aのそれぞれから吐出されるインクの吐出量の総和である総和吐出量が第2基準量未満となる場合に、メンテナンス領域MAで、インク流路3cに繋がるノズル3aからもインクを強制的に排出させても良い。また、この変形例において、ヘッド3の中のインクの温度を温度センサ13によって適切に検知することができるのであれば、基準時点において温度センサ13で検知される温度に基づいて第1基準回数が設定されても良い。
【0109】
(他の実施の形態)
上述した形態および変形例は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0110】
上述した形態および変形例1~3において、制御部10は、メンテナンス領域MAでノズル3aからインクを強制的に排出させるときに、ヘッド3のノズル面をキャップで覆ってノズル3aからインクを強制的に吸引することでノズル3aからインクを強制的に排出させても良い。また、上述した形態および変形例1~3において、ヒータ21は、シートヒータ以外のヒータであっても良い。
【0111】
上述した形態および変形例1~3において、ヘッド3の内部に形成されるインク流路の数は、2本または3本であっても良いし、5本以上であっても良い。また、上述した形態および変形例1において、ヘッド3の内部に形成されるインク流路の数は1本であっても良い。さらに、上述した形態および変形例1~3において、圧力調整機構11の内部に形成されるインク流路22の数は1本であっても良い。また、上述した変形例2、3において、プリンタ1は、インク加温機構12を備えていなくても良い。
【0112】
上述した形態および変形例1~3において、インク流路20aに代えて、加温部本体20の内部に、インクが溜まるインク溜まり(インク室)が形成されていても良い。この場合には、インク溜まりによって、インクが通過するインク通過部が構成されている。また、上述した形態および変形例1~3において、インク流路20aに加えて、加温部本体20の内部にインク溜まりが形成されていても良い。この場合には、インク流路20aとインク溜まりとによって、インクが通過するインク通過部が構成されている。
【0113】
上述した形態および変形例1~3では、ノズル3aからインクを吐出させるための吐出エネルギー発生素子は、圧電素子11であるが、ノズル3aからインクを吐出させるための吐出エネルギー発生素子は、ヒータ(発熱素子)であっても良い。すなわち、上述した形態および変形例1~3では、プリンタ1は、ピエゾ方式によってノズル3aからインクを吐出させているが、プリンタ1は、サーマル方式によってノズル3aからインクを吐出させても良い。
【0114】
上述した形態および変形例1~3において、プリンタ1は、プラテン8に代えて、印刷媒体2が載置されるテーブルと、テーブルを前後方向に移動させるテーブル駆動機構とを備えていても良い。また、上述した形態および変形例1~3において、プリンタ1は、三次元造形物を造形する3Dプリンタであっても良い。また、上述した形態および変形例1~3において、ヘッド3が吐出するインクは、水系のインクであっても良いし、ソルベントインクであっても良い。
【符号の説明】
【0115】
1 プリンタ(インクジェットプリンタ)
3 ヘッド(インクジェットヘッド)
3a ノズル
3c~3f インク流路
4 キャリッジ
5 キャリッジ駆動機構
10 制御部
11 圧力調整機構
12 インク加温機構
13、14 温度センサ
16~19 圧電素子(吐出エネルギー発生素子)
20 加温部本体
20a インク流路(インク通過部)
21 ヒータ
MA メンテナンス領域
PA 印刷領域
Y 主走査方向