(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】絶縁監視装置及びそれを有する電源装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/52 20200101AFI20231012BHJP
G01R 27/02 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
G01R31/52
G01R27/02 R
(21)【出願番号】P 2019230044
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】尾野 育未
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108333429(CN,A)
【文献】特開2015-141028(JP,A)
【文献】特開平06-102739(JP,A)
【文献】特開2010-182586(JP,A)
【文献】特開平07-203601(JP,A)
【文献】特表2018-508785(JP,A)
【文献】特表2019-512679(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103033729(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0047437(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧が印加される第1電源線及び第2電源線間に、複数の抵抗及び複数のスイッチ手段がブリッジ接続された不平衡ブリッジ回路からなる絶縁監視回路と、
前記複数のスイッチ手段により前記複数の抵抗を切り替え、前記第1電源線とグランドとの間の第1絶縁抵抗値と、前記第2電源線と前記グランドとの間の第2絶縁抵
抗値と、を演算により求めて監視する監視装置本体と、
を備える絶縁監視装置であって、
前記複数の抵抗として、第1抵抗、第2抵抗、第3抵抗及び第4抵抗を有し、
前記複数のスイッチ手段として、第1スイッチ手段及び第2スイッチ手段を有し、
前記第1抵抗は、前記第1電源線と前記グランドとの間に接続され、
前記第2抵抗は、前記第2電源線と前記グランドとの間に接続され、
前記第3抵抗は、前記第1電源線と前記グランドとの間に接続され、前記第1スイッチ手段により導通/遮断状態が切り替えられ、
前記第4抵抗は、前記第2電源線と前記グランドとの間に接続され、前記第2スイッチ手段により導通/遮断状態が切り替えられ、
前記第1スイッチ手段及び前記第2スイッチ手段は、それぞれ直列接続された複数のフォトリレーを含む無接点リレーにより構成されており、
前記無接点リレーには、コンデンサからなる電圧分担手段が並列に接続され、
前記コンデンサには、前記コンデンサの放電電流制限用の抵抗が直列に接続されている、
ことを特徴とする絶縁監視装置。
【請求項2】
前記第1抵抗、第2抵抗、第3抵抗及び第4抵抗
は既知の抵抗であり、
前記第1絶縁抵抗値は、未知の第1絶縁抵抗の抵抗値であり、
前記第2絶縁抵抗値は、未知の第2絶縁抵抗の抵抗値であり、
前記絶縁監視回路は、
前記第1抵抗と、
前記第2抵抗と、
前記第3抵抗と、
前記第4抵抗と、
前記第1絶縁抵抗と、
前記第2絶縁抵抗と、がブリッジ接続されて構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の絶縁監視装置。
【請求項3】
前記監視装置本体は、
前記直流電圧を測定すると共に、前記第1スイッチ手段と前記第2スイッチ手段とを交互に切り替え、前記第1抵抗の一部に印加される第1電圧と、前記第2抵抗の一部に印加される第2電圧と、を交互に測定し、
前記第1絶縁抵抗値及び前記第2絶縁抵抗値を演算により求めて監視する、
ことを特徴とする請求項
1又は2記載の絶縁監視装置。
【請求項4】
前記第2抵抗、前記第3抵抗、及び前記第4抵抗は、それぞれ、前記第1抵抗と同一の抵抗値を有し、
前記監視装置本体は、
前記第1スイッチ手段をオン状態且つ前記第2スイッチ手段をオフ状態にして、前記第1電圧を測定し、
前記第1スイッチ手段をオフ状態且つ前記第2スイッチ手段をオン状態にして前記第2電圧を測定する、
ことを特徴とする請求項
3記載の絶縁監視装置。
【請求項5】
前記監視装置本体は、
前記第1スイッチ手段及び前記第2スイッチ手段をオン状態とオフ状態に切り替えるスイッチ制御部と、
前記直流電圧、前記第1電圧及び前記第2電圧を測定する電圧測定部と、
前記第1絶縁抵抗値及び前記第2絶縁抵抗値を演算により求めて監視する演算判定部と
、
を有することを特徴とする請求項
3又は4記載の絶縁監視装置。
【請求項6】
前記コンデンサと、前記第3抵抗又は前記第4抵抗と、の直列回路によって時定数回路が構成されている、
ことを特徴とする請求項
1~
5のいずれか1項記載の絶縁監視装置。
【請求項7】
前記第1抵抗は、第1抵抗要素と第2抵抗要素との直列抵抗により構成され、
前記第2抵抗は、前記第1抵抗要素と前記第2抵抗要素との直列抵抗により構成され、
前記第3抵抗は、前記第1抵抗要素と前記第2抵抗要素との合成抵抗により構成され、
前記第4抵抗は、前記第1抵抗要素と前記第2抵抗要素との合成抵抗により構成され、
前記第1抵抗の一部は、前記第2抵抗要素であり、
前記第2抵抗の一部は、前記第2抵抗要素である、
ことを特徴とする請求項
1~
6のいずれか1項記載の絶縁監視装置。
【請求項8】
前記時定数回路は、
前記
無接点リレーの動作時間よりも大きい時定数を有する、
ことを特徴とする請求項
6記載の絶縁監視装置。
【請求項9】
前記コンデンサは、
前記
無接点リレーのオフ時の漏れ電流よりも大きい充電電流、及び、前記
無接点リレーの端子間容量よりも大きい容量を有する、
ことを特徴とする請求項
1~
8のいずれか1項記載の絶縁監視装置。
【請求項10】
前記直流電圧を出力する直流電源と、
前記直流電源と負荷との間に接続された請求項1~
9のいずれか1項記載の絶縁監視装置と、
を備えることを特徴とする電源装置。
【請求項11】
前記直流電源は、電気自動車用急速充電器を含む電源であり、
前記第1電源線及び前記第2電源線は、電力ケーブルであり、
前記負荷は、電気自動車用バッテリを含む負荷装置である、
ことを特徴とする請求項
10記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源から出力される直流電圧を、電源線を介して、負荷へ供給する電源装置において、電源線とグランドとの間の絶縁抵抗値を測定し、その絶縁抵抗値が所定の抵抗値より小さくなった時に、絶縁劣化故障と判断して電源線の漏電事故を防止するための絶縁監視装置と、それを有する電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、直流電源から供給される直流電圧を、直列接続された複数のスイッチによりスイッチングして、パルス電圧を発生させるパルス電源が開示されている。特に、直列接続された複数のスイッチにおいて、電圧分担が所定値よりも大きなスイッチのみ、コンデンサを並列に接続して、印加される電圧を下げるようにしている。
【0003】
特許文献2には、電気自動車用急速充電器の充電ケーブル絶縁試験装置が開示されている。電気自動車用急速充電器は、制御装置によって出力電流や出力電圧が制御される直流電源を有している。直流電源の出力電流や出力電圧は、平滑コンデンサで平滑された後、充電ケーブルを介して自動車の高電圧バッテリへ供給され、その高電圧バッテリを急速充電するようになっている。制御装置は、高電圧バッテリが要求する電流値や電圧値等を満たすように直流電源を制御する。制御装置内には、充電ケーブル絶縁試験装置が設けられている。充電ケーブル絶縁試験装置は、高電圧バッテリの充電開始前に、充電ケーブルの短絡(地絡)の健全性を確認するために絶縁試験を行う装置である。この充電ケーブル絶縁試験装置は、充電ケーブルに電圧を印加して平滑コンデンサを充電した後、その平滑コンデンサの電圧を測定し、その測定電圧と、充電ケーブルの絶縁が正常であるときの電圧基準信号と、を比較し、充電ケーブルの絶縁が正常であるか否かを判定するようになっている。その充電ケーブル絶縁試験装置では、広範囲の測定可能な電流計や、追加部品を用いることなく、簡便に充電ケーブルの健全性を判定できる。
【0004】
更に、特許文献3には、非接地回路の絶縁監視装置が開示されている。絶縁監視装置は、複数の抵抗を有し、その抵抗をスイッチにより切り替え、非接地回路における電源線とグランドとの間の絶縁抵抗値を算出して、地絡事故を防止するための装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-300732号公報
【文献】特開2011-38898号公報
【文献】特開2014-145754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、特許文献3の非接地回路の絶縁監視装置において、絶縁抵抗値の算出精度を向上させるために、その非接地回路(即ち、絶縁監視回路)を不平衡ブリッジ回路で構成することが考えられる。この不平衡ブリッジ回路では、例えば、既知の4つの抵抗と、2つのスイッチと、正極側電源線及びグランド間の未知の第1絶縁抵抗と、負極側電源線及びグランド間の未知の第2絶縁抵抗と、がブリッジ接続されて構成される。そして、2つのスイッチで不平衡ブリッジ回路を開閉して、既知の2つの抵抗の一部の端子間電圧を測定し、未知の第1及び第2絶縁抵抗の抵抗値を演算により求めて、その第1及び第2絶縁抵抗の絶縁状態を監視するようになっている。
【0007】
しかしながら、不平衡ブリッジ回路で構成された絶縁監視回路では、規格に準じたスイッチの開閉電極間の電位差に対する沿面距離を満足することが難しい、スイッチの省スペース化が難しい、更に、スイッチ箇所の製造工程数を抑制することが難しい、といった課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の絶縁監視装置は、直流電圧が印加される第1電源線及び第2電源線間に、複数の抵抗及び複数のスイッチ手段がブリッジ接続された不平衡ブリッジ回路からなる絶縁監視回路と、前記複数のスイッチ手段により前記複数の抵抗を切り替え、前記第1電源線とグランドとの間の第1絶縁抵抗値と、前記第2電源線と前記グランドとの間の第2絶縁抵値と、を演算により求めて監視する監視装置本体と、を備え、前記複数の抵抗として、第1抵抗、第2抵抗、第3抵抗及び第4抵抗を有し、前記複数のスイッチ手段として、第1スイッチ手段及び第2スイッチ手段を有し、前記第1電源線と前記グランドとの間に接続された前記第1抵抗と、前記第2電源線と前記グランドとの間に接続された前記第2抵抗と、前記第1電源線と前記グランドとの間に接続され、前記第1スイッチ手段により導通/遮断状態が切り替えられる前記第3抵抗と、前記第2電源線と前記グランドとの間に接続され、前記第2スイッチ手段により導通/遮断状態が切り替えられる前記第4抵抗と、を、含み、前記無接点リレーには、コンデンサからなる電圧分担手段が並列に接続され、前記コンデンサには、前記コンデンサの放電電流制限用の抵抗が直列に接続されていることを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の電源装置は、前記直流電圧を出力する直流電源と、前記直流電源と負荷との間に接続された前記絶縁監視装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の絶縁監視装置及び電源装置によれば、絶縁監視回路内のスイッチ手段を、小型部品のリレーを多数直列に接続して構成したので、特殊な製造工程なしに耐圧及び沿面距離規格を満足できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例2における絶縁監視装置を示す概略の構成図
【
図2】本発明の実施例1における電源装置を示す概略の構成図
【
図5】
図3の絶縁監視回路10における問題点をまとめた図
【
図7】
図3のスイッチ手段15を、直列接続された例えば2つのフォトリレーにより構成した、寄生成分を含めた回路図
【
図8】
図7の2つのフォトリレー31,32の端子間電圧V1,V2を示す波形図
【
図9】
図1(A)の絶縁監視装置4Aの動作を示すフローチャート
【
図10】
図1(B)のフォトリレー31,32の寄生成分を含めた時定数回路を示す回路図
【
図11】
図10の2つのフォトリレー31,32の端子間電圧V1,V2を示す波形図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0013】
(実施例1の電源装置の構成)
図2は、本発明の実施例1における電源装置を示す概略の構成図である。
【0014】
電源装置は、所定の直流電圧Voutを出力する直流電源1を有している。直流電源1は、電気自動車用急速充電器等のスイッチング電源装置等により構成されている。直流電源1の出力側には、電力ケーブル2を介して、負荷3が接続される。電力ケーブル2は、正極側の第1電源線2aと、負極側の第2電源線2bと、を有している。負荷3は、電力ケーブル2から供給される直流電圧Voutにより駆動する電気自動車用バッテリ等の負荷装置である。
【0015】
直流電源1と負荷3との間の電力ケーブル2には、絶縁監視装置4が接続されている。絶縁監視装置4は、電力ケーブル2における第1電源線2a及びグランド間の絶縁抵抗値と、第2電源線2b及びグランド間の絶縁抵抗値と、を演算により求め、それらの絶縁抵抗値が所定の値より小さくなった時に、絶縁劣化故障と判断してケーブル2の漏電事故を防止するための装置である。
【0016】
(実施例1の絶縁監視装置の構成)
図3は、実施例1の絶縁監視装置4を示す回路図である。
【0017】
本実施例1の絶縁監視装置4は、絶縁監視回路10と監視装置本体20とを備えている。絶縁監視回路10は、第1電源線2a及びグランド(例えば、フレームグランド)FG間の絶縁状態と、第2電源線2b及びフレームグランドFG間の絶縁状態と、を検出する回路である。監視装置本体20は、絶縁監視回路10の制御等を行い、電力ケーブル2の絶縁状態を監視するものである。
【0018】
絶縁監視回路10は、既知の複数の第1抵抗11、第2抵抗12、第3抵抗13及び第4抵抗14と、複数(例えば、2つ)の第1スイッチ手段15及び第2スイッチ手段16と、複数(例えば、2つ)の未知の第1絶縁抵抗17及び第2絶縁抵抗18と、を有し、それらがブリッジ接続された不平衡ブリッジ回路により構成されている。
【0019】
即ち、第1電源線2aとフレームグランドFGとの間には、第1抵抗11と、直列に接続された第3抵抗13及び第1スイッチ手段15と、第1絶縁抵抗17と、が並列に接続されている。更に、第2電源線2bとフレームグランドFGとの間には、第2抵抗12と、直列に接続された第4抵抗14及び第2スイッチ手段16と、第2絶縁抵抗18と、が並列に接続されている。
【0020】
第1抵抗11及び第2抵抗12は、それぞれ、抵抗要素R1及び抵抗要素R2の直列回路により構成されている。第3抵抗13及び第4抵抗14は、それぞれ、抵抗要素R1及び抵抗要素R2の合成抵抗により構成されている。そのため、各抵抗11,12,13,14は、同一の抵抗値を有している。第1スイッチ手段15は、監視装置本体20から供給されるスイッチ駆動信号S1によりオン状態/オフ状態が切り替えられる。同様に、第2スイッチ手段16も、監視装置本体20から供給されるスイッチ駆動信号S2によりオン状態/オフ状態が切り替えられる。
【0021】
監視装置本体20は、直流電圧Voutを測定すると共に、スイッチ駆動信号S1,S2を出力して第1スイッチ手段15と第2スイッチ手段16とを交互に切り替え、第1抵抗11の一部の抵抗要素R2に印加される第1電圧Vrpと、第2抵抗12の一部の抵抗要素R2に印加される第2電圧Vrnと、を交互に測定し、第1絶縁抵抗17の絶縁抵抗値Rfp及び第2絶縁抵抗18の絶縁抵抗値Rfnを演算により求め、その第1絶縁抵抗17及び第2絶縁抵抗18の絶縁状態を監視するものである。
【0022】
(実施例1の絶縁監視装置の動作)
図4(A),(B)は、
図3の絶縁監視装置4における動作説明図である。
【0023】
図4(A)に示すように、監視装置本体20から供給されるスイッチ駆動信号S1,S2により、スイッチ手段15をオン状態且つスイッチ手段16をオフ状態にし、その監視装置本体20にて、抵抗11の一部の抵抗要素R2に印加される第1電圧Vrpを測定する。更に、
図4(B)に示すように、監視装置本体20から供給されるスイッチ駆動信号S1,S2により、スイッチ手段15をオフ状態且つスイッチ手段16をオン状態にし、その監視装置本体20にて、抵抗12の一部の抵抗要素R2に印加される第2電圧Vrnを測定する。
【0024】
監視装置本体20は、電圧Vrp,Vrn、直流電源1の直流電圧Vout、及び抵抗11の値を用い、演算により、電源線2a及びフレームグランドFG間の未知の絶縁抵抗値Rfpと、電源線2b及びフレームグランドFG間の未知の絶縁抵抗値Rfnと、を求める。そして、監視装置本体20は、絶縁抵抗値Rfp,Rfnが設定値Rthよりも小さいか否かを判定し、絶縁抵抗値Rfp,Rfnが設定値Rthよりも小さい時には、絶縁劣化故障を報知する。
【0025】
(実施例1の絶縁監視回路の問題点)
図5は、
図3の絶縁監視回路10における問題点をまとめた図である。
【0026】
絶縁監視回路10の目的は、
図5のステップST1に示すように、規格に準じたスイッチ手段15,16の開閉電極間の沿面距離を満足すること、スイッチ手段15,16の省スペース化を図ること、更に、スイッチ手段15,16の製造工程数を抑制すること、である。
【0027】
この目的を達成するために、スイッチ手段15,16を、高耐圧、小電流、広沿面距離の素子により構成することが望ましい。例えば、
図5のステップST2に示すように、スイッチ手段15,16として、有接点リレー(「メカニカルリレー」とも言う。)を使用する場合、利点として、開閉電極間の沿面距離が長いこと、高耐圧品が多く市販されていること、が挙げられる。しかし、欠点として、大型化するので、採用が難しい。
【0028】
そこで、
図5のステップST3に示すように、スイッチ手段15,16として、無接点リレー(「半導体リレー」とも言う。)を使用することが考えられる。無接点リレーには、MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)等を用いたフォトリレーや、ソリッドステートリレー(以下「SSR」という。)等がある。例えば、フォトリレーを使用する場合、利点として、高耐圧且つ小型であること、高耐圧且つ小電流品が多く市販されていること、が挙げられる。しかし、欠点として、開閉電極間の沿面距離が狭いために、沿面距離が不足する。これを解決するためには、
図5のステップST4に示す沿面距離を長くする方法か、あるいは、
図5のステップST5に示す沿面距離を分散する方法(本実施例1の方法)が考えられる。
【0029】
図5のステップST4に示す沿面距離を長くする方法について考える。
【0030】
図6(A),(B)は、
図3のスイッチ手段15の実装例を示す図である。
図6(A)は、端子間に充填物(例えば、シリコン等の絶縁樹脂の充填物)を施したスイッチング部品の正面図、及び、
図6(B)は、
図6(A)の側面図である。
【0031】
図3のスイッチング手段15は、
図6(A)に示すように、例えば、パッケージに収納されたスイッチング部品21により構成されている。スイッチング部品21の側面からは、2つの端子21a,21bが突出している。2つの端子21a,21b間には、絶縁樹脂22が充填されている。
【0032】
図5のステップST4に示す沿面距離を長くする方法として、
図6(A)の2つの端子21a,21b間に空間を設ける、あるいは、絶縁樹脂22を充填する、ことが考えられる。しかし、欠点として、対策用部品の追加や、製造工程数等が増加する。例えば、絶縁樹脂22を充填する場合、製造工程時に絶縁樹脂22の充填工程が増え、絶縁樹脂22の硬化のための工程数増や、空隙の無い絶縁樹脂22の充填の施工及びその充填状態の検査が困難になる。このような欠点があるので、
図5のステップST4の方法を採用し難い。そのため、
図5のステップST5に示す沿面距離を分散する方法(本実施例1の方法)が望ましい。
【0033】
図5のステップST5に示す沿面距離を分散する方法としては、部品を多直列で使用することが考えられる。
【0034】
図7は、
図3のスイッチ手段15を、直列接続された例えば2つのフォトリレーにより構成した、寄生成分を含めた回路図である。
【0035】
スイッチ手段15は、直列接続された2つのフォトリレー31,32により構成されている。フォトリレー31は、発光ダイオード31aと、この発光ダイオード31aに対向する受光トランジスタ31bと、により構成されている。同様に、フォトリレー32は、発光ダイオード32aと、この発光ダイオード32aに対向する受光トランジスタ32bと、により構成されている。なお、各受光トランジスタ31b,32bは、オフ状態の時に、
図7の破線で示されるように、寄生容量Coff1,Coff2と寄生抵抗Roff1,Roff2とが存在する。
【0036】
電圧の印加によって発光ダイオード31a,32aが発光すると、これらと対向する受光トランジスタ31b,32bがオン状態になる。抵抗13とフレームグランドFGとの間に直流電圧Voutが印加されると、フォトリレー31の端子間に端子間電圧V1が掛かり、フォトリレー32の端子間に端子間電圧V2が掛かる。
【0037】
このように、2つフォトリレー31,32を直列接続して使用することで、沿面距離を加算して対処することができる。フォトリレー31,32の数を増やせば、沿面距離をより多く加算できる。そのため、本発明の実施例1として、各スイッチ手段15,16を、直列接続された複数のフォトリレー31,32,・・・によりそれぞれ構成することが望ましい。なお、有接点リレーが小型化できれば、これを多直列にて使用しても良い。
【0038】
しかし、
図5のステップST5の方法でも、
図8(A),(B)のような問題が生じる。
【0039】
図8(A),(B)は、
図7の2つのフォトリレー31,32の端子間電圧V1,V2を示す波形図である。
【0040】
図8(A),(B)の横軸は時間t、及び、縦軸は電圧Vである。
図8(A)には、
図7のフォトリレー31,32の動作が(1)と(2)にばらついた時の、フォトリレー31の端子電圧V1と、フォトリレー32の端子間電圧V2と、の動作波形が示されている。
図8(B)には、
図7のフォトリレー31,32の寄生容量Coff1,Coff2や寄生抵抗Roff1,Roff2がばらついた時の、フォトリレー31の端子間電圧V1と、フォトリレー32の端子間電圧V2と、の動作波形が示されている。
【0041】
図3の各スイッチ手段15,16を構成する複数のフォトリレーを直列接続して使用する場合、
図7のような2つのフォトリレー31,32の2直列接続を例にとると、部品のばらつきや、動作タイミングのずれによって、直列接続された各フォトリレー31,32の端子間電圧V1,V2に、
図8の(A)や(B)のような差が出てしまう。結果として、沿面距離決定時に想定していた想定電圧を保証できない、更に、その想定電圧を超過してしまい、沿面距離規格を満足できない、といった問題が生じる。
【0042】
そこで、多直列部品の電圧制限・電圧制御を行う
図5のステップST6,ST7を検討することがより望ましい。
【0043】
図5のステップST6は、多直列部品の電圧制限方法を示している。
【0044】
端子間電圧V1,V2の電圧値を制限するために、電子部品(例えば、バリスタ等)で、その端子間電圧V1,V2をクランプさせることが考えられる。しかし、欠点として、フォトリレー31,32のオフ電流よりも、クランプ部品の漏れ電流が大きくなる可能性があるため、採用し難い。
【0045】
これに対して、
図5のステップST7は、多直列部品の電圧制御方法(実施例2の方法)を示している。
【0046】
端子間電圧V1,V2の電圧値を制御するために、多直列部品より大きな電圧分担手段(例えば、コンデンサ等)を追加し、回路インピーダンスとその追加の電圧分担手段とにより、端子間電圧V1,V2を制御する。この電圧制御方法では、回路の動作速度が遅くなるものの、最良の方法であるので、本発明の実施例2として下記にて説明する。
【0047】
(実施例1の効果)
本実施例1によれば、絶縁監視回路10内のスイッチ手段15,16を、直列接続された複数のフォトリレー31,32で、それぞれ構成したので、開閉電極間の電圧が分散されることにより、沿面距離も分散できる。これにより、特殊な製造工程なしに耐圧・沿面規格を満足できる。
【実施例2】
【0048】
(実施例2の構成)
図1(A),(B)は、本発明の実施例2における絶縁監視装置を示す概略の構成図である。
【0049】
図1(A)は絶縁監視装置の全体の図、及び、
図1(B)は
図1(A)中のスイッチ手段を示す図である。なお、
図1(A),(B)において、実施例1を示す
図3、
図4及び
図7中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0050】
図1(A)に示すように、本実施例2の絶縁監視装置4Aは、
図3の実施例1と同様の絶縁監視回路10と、
図3の実施例1の監視装置本体20とは異なる構成の監視装置本体20Aと、を備えている。
【0051】
本実施例2の監視装置本体20Aは、絶縁監視回路10の制御等を行い、電力ケーブル2の絶縁状態を監視するものである。この監視装置本体20Aは、スイッチ制御部41、電圧測定部42、及び演算判定部43を有している。
【0052】
スイッチ制御部41は、第1スイッチ手段15及び第2スイッチ手段16を切り替えるためのスイッチ駆動信号S1,S2を生成するものである。電圧測定部42は、直流電圧Vout、第1電圧Vrp及び第2電圧Vrnを測定するものである。更に、演算判定部43は、第1電圧Vrp、第2電圧Vrn、直流電圧Vout、第1抵抗11、この第1抵抗11の一部の抵抗要素R2、及び第2抵抗12の一部の抵抗要素R2の値に基づいて、第1絶縁抵抗17の絶縁抵抗値Rfp及び第2絶縁抵抗18の絶縁抵抗値Rfnを演算により求め、その第1絶縁抵抗17及び第2絶縁抵抗18の絶縁状態を監視するものである。
【0053】
この監視装置本体20Aは、例えば、中央処理装置(CPU)を用いたデジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)等のプロセッサや、半導体個別回路等により構成されている。
【0054】
図1(B)に示すように、第1スイッチ手段15は、実施例1と同様に、直列に接続された2つのフォトリレー31,32により構成されている。一方のフォトリレー31は、発光ダイオード31aと、この発光ダイオード31aに対向する受光トランジスタ31bと、により構成されている。同様に、他方のフォトリレー32も、発光ダイオード32aと、この発光ダイオード32aに対向する受光トランジスタ32bと、により構成されている。
【0055】
一方の受光トランジスタ31bには、電圧分担手段(例えば、容量Cs1のコンデンサ)33aが並列に接続されている。コンデンサ33aと第3抵抗13とは、直列に接続され、この直列回路によって時定数回路が構成されている。その時定数回路は、フォトリレー31の動作時間よりも大きい時定数を有している。コンデンサ33aは、フォトリレー31のオフ時の漏れ電流よりも大きい充電電流、及びそのフォトリレー31の端子間容量よりも大きい容量Cs1を有している。コンデンサ33aには、抵抗値Rs1の抵抗33bが直列に接続されている。抵抗33bは、コンデンサ33aの放電電流を制限するためのものである。
【0056】
同様に、他方の受光トランジスタ32bにも、電圧分担手段(例えば、容量Cs2のコンデンサ)34aが並列に接続されている。コンデンサ34aと第3抵抗13とは、直列に接続され、この直列回路によって時定数回路が構成されている。その時定数回路は、フォトリレー32の動作時間よりも大きい時定数を有している。コンデンサ34aは、フォトリレー32のオフ時の漏れ電流よりも大きい充電電流、及びそのフォトリレー32の端子間容量よりも大きい容量Cs2を有している。コンデンサ34aには、抵抗34bが直列に接続されている。抵抗34bは、コンデンサ34aの放電電流を制限するためのものである。
【0057】
図1(B)に示されていないが、第2スイッチ手段16も、第1スイッチ手段15と同様の構成である。
【0058】
(実施例2の動作)
図9は、
図1(A)の絶縁監視装置4Aの動作を示すフローチャートである。
【0059】
図2の電力ケーブル2における電源線2a,2bの絶縁監視は、以下のステップST11~ST16により行われる。
【0060】
先ず、電源線2a,2bの絶縁監視が開始されると、ステップST11において、監視装置本体20A内のスイッチ制御部41から供給されるスイッチ駆動信号S1,S2により、
図1のスイッチ手段15がオン状態且つスイッチ手段16がオフ状態になる。ステップST12において、電圧測定部42は、抵抗11の一部の抵抗要素R2に印加される電圧Vrpを測定する。ステップST13において、スイッチ制御部41から供給されるスイッチ駆動信号S1,S2により、スイッチ手段15がオフ状態且つスイッチ手段16がオン状態になる。ステップST14において、電圧測定部42は、抵抗12の一部の抵抗要素R2に印加される電圧Vrnを測定する。
【0061】
次に、ステップST15において、演算判定部43は、電圧Vrp,Vrn、直流電源1の直流電圧Vout、及び抵抗11の値を用い、次式(1)の演算により、電源線2a及びフレームグランドFG間の未知の絶縁抵抗17の絶縁抵抗値Rfpと、電源線2b及びフレームグランドFG間の未知の絶縁抵抗18の絶縁抵抗値Rfnと、を求める。
【数1】
【0062】
その後、ステップST16において、演算判定部43は、絶縁抵抗値Rfp,Rfnが設定値Rthよりも小さいか否かを判定し、絶縁抵抗値Rfp,Rfnが設定値Rthよりも小さい(Rfp,Rfn≦Rth)時には、絶縁劣化故障を報知して、絶縁監視の処理を終了する。これにより、電力ケーブル2の漏洩事故を防止できる。
【0063】
図10は、
図1(B)のフォトリレー31,32の寄生成分を含めた時定数回路を示す回路図である。
【0064】
抵抗13とフレームグランドFGとの間に直流電圧Voutが印加されると、フォトリレー31の端子間に端子間電圧V1が掛かり、フォトリレー32の端子間に端子間電圧V2が掛かる。各受光トランジスタ31b,32bは、オフ状態の時に、
図10の破線で示されるように、寄生容量Coff1,Coff2と寄生抵抗Roff1,Roff2とが存在する。
【0065】
図11(A),(B)は、
図10の2つのフォトリレー31,32の端子間電圧V1,V2を示す波形図である。
【0066】
図11(A),(B)の横軸は時間t、及び、縦軸は電圧Vである。
図11(A)には、
図10のフォトリレー31,32の動作が(1)と(2)にばらついた時の、フォトリレー31の端子電圧V1と、フォトリレー32の端子間電圧V2と、の動作波形が示されている。
図11(B)には、
図10のフォトリレー31,32の寄生容量Coff1,Coff2の動作がばらついた時の、フォトリレー31の端子間電圧V1と、フォトリレー32の端子間電圧V2と、の動作波形が示されている。
【0067】
本実施例2では、各フォトリレー31,32に対し、電圧分担手段としてコンデンサ33a,34a及び抵抗33b,34bのCR直列回路が並列に接続されている。そのため、(CR直列回路の容量Cs1,Cs2≫フォトリレー31,32の端子間容量Coff1,Coff2)とすれば、フォトリレー31,32の端子間電圧V1,V2は、(抵抗13の抵抗値と容量Cs1,Cs2による電圧V1,V2の変化≫フォトリレー31,32の動作・駆動ばらつきによる電圧V1,V2の変化)となり、端子間電圧V1,V2を想定できる。従って、任意の端子間電圧V1,V2になるようなタイミングと、それに合った部品選定を行うことにより、沿面距離決定時の想定電圧を保証でき、更に、その想定電圧の超過を防止することにより、沿面距離規格を満足させることができる。
【0068】
なお、抵抗33b,34bは、フォトリレー31,32がオンした時に、コンデンサ33a,34aの放電電流を制限するものであるから、省略しても良い。又、フォトリレー31,32は2直列のみでなく、2直列以上の多直列でも適用できる。
【0069】
(実施例2の効果)
本実施例2によれば、絶縁監視回路10内の各スイッチ手段15,16を、直列接続された複数のフォトリレー31,32と、その各フォトリレー31,32に対して並列接続された電圧分担手段(例えば、コンデンサ33a,34a、あるいは、コンデンサ33a,34a及び抵抗33b,34bのCR直列回路)と、により構成したので、各直列フォトリレー31,32の端子間電圧V1,V2を制御できる。それにより、以下の(a)~(c)の効果がある。
【0070】
(a) 各直列フォトリレー31,32の端子間電圧V1,V2を予測できるので、電圧分担によっては定格電圧が直流電圧Vout以下のフォトリレー31,32を多直列で使用することができる。
【0071】
(b) 前記(a)で予測した電圧により、各フォトリレー端子間に必要な沿面距離を算出できるため、挟ピッチのフォトリレー31,32でも、多直列で使用することにより、沿面距離規定を満足することができる。
【0072】
(c) 前記(b)により、従来の挟ピッチ部品の沿面距離対策として必要な絶縁樹脂22の充填・硬化待ち・充填状態の検査等の特殊な製造工程が不要になり、製造工程数を減らすことができる。
【0073】
(実施例1,2の変形例)
本発明は、上記実施例1,2に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(i)~(iii)のようなものがある。
【0074】
(i) 絶縁監視回路10は、
図1以外の他の不平衡ブリッジ回路で構成しても良い。これに対応して、未知の絶縁抵抗値Rfp,Rfnを求めるための前記式(1)を、他の演算式に変更すれば良い。又、フレームグランドFGは、接地であるグランドでも良い。
【0075】
(ii) フォトリレー31,32は、SSR等の他の無接点リレーを使用しても良い。
【0076】
(iii) 監視装置本体20Aは、
図1以外の他の機能ブロックにより構成しても良い。
【符号の説明】
【0077】
1 直流電源
2 電力ケーブル
2a,2b 第1、第2電源線
3 負荷
4,4A 絶縁監視装置
10 絶縁監視回路
11,12,13,14 第1、第2、第3、第4抵抗
15,16 第1、第2スイッチ手段
17,18 第1、第2絶縁抵抗
20,20A 監視装置本体
31,32 フォトリレー
33a,34a コンデンサ
33b、34b 抵抗
41 スイッチ制御部
42 電圧測定部
43 演算判定部