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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】液体吐出具
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/03 20060101AFI20231012BHJP
   B43K 23/08 20060101ALI20231012BHJP
   B05C 17/00 20060101ALI20231012BHJP
   A45D 34/04 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B43K7/03
B43K23/08 110
B05C17/00
A45D34/04 555
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019236765
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104619
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】石川 淳
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115725(WO,A1)
【文献】実開昭52-035731(JP,U)
【文献】特開2015-164788(JP,A)
【文献】実開昭63-175517(JP,U)
【文献】特開平09-240190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 7/03
B43K 7/12
B43K 23/08
B05C 17/00
A45D 34/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の吐出具本体と、前記吐出具本体の前方及び後方に着脱可能で一端が開口し他端が閉塞するキャップとを具備し、
前記吐出具本体の前方に設けた先端チップより該吐出具本体の内部に収容した液体を吐出させる液体吐出具であって、
前記吐出具本体の内方に、前記液体を収容する液体収容管を有し、
前記液体収容管の後方部に、該液体収容管に収容された液体の後方に位置する第一空間部を有し、
前記吐出具本体と前記液体収容管との間に、前記第一空間部と連通する第二空間部を有し、
前記キャップの開口端側の内周面に、前記吐出具本体の外周面を摺接する円環状の凸部を有し、
前記吐出具本体の外周面又は前記キャップの内周面にキー突起を有し、
前記キャップの内周面又は前記吐出具本体の外周面に、前記キー突起に係合する軸心方向に沿って異なる長さで該キャップの内周面又は該吐出具本体の外周面の円周上に間隔を設けて形成された複数のキー溝を有し、
前記吐出具本体における、前記液体収容管の後端部より前方位置、且つ前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着した際において該キャップの円環状の凸部より後方位置に、前記第二空間部と連通する孔部を有し、
前記キー突起を前記複数のキー溝のいずれかに合わせて前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際、前記キー突起が前記キー溝を摺動しながら該キー溝の軸心方向における段部に当接するまで前進され、該キャップの円環状の凸部が該吐出具本体の外周面を摺接しながら前進することにより、前記液体が、前記第一空間部と前記第二空間部とで構成される密閉空間内の圧縮された空気を介して加圧される構造の液体吐出具。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出具であり、
前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際に、該キャップと該吐出具本体との間に、前記孔部を介して前記第二空間部と連通する気体収容部が形成され、
前記第一空間部と前記第二空間部と前記気体収容部とで前記密閉空間が構成される構造の液体吐出具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体吐出具であり、
前記キー突起と前記複数のキー溝との係合が、前記密閉空間の圧縮より前に開始される構造の液体吐出具。
【請求項4】
請求項1項ないし3のいずれか1項に記載の液体吐出具であり、
前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際に、前記吐出具本体の少なくとも外周面が軸径方向に変位する構造の液体吐出具。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の液体吐出具であり、
前記吐出具本体が先窄み形状の後方部を有し、
前記後方部に前記孔部が形成され、
前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際に、該キャップの円環状の凸部が該吐出具本体の外周面を圧接して内方へ変形させながら前進する構造の液体吐出具。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出具であり、
前記キャップの他端が平坦面状又は円弧面状である構造の液体吐出具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペンやマーカー等の筆記具やペン型の修正液や液体糊等の塗布具のように、軸体の前方に設けた先端チップから液体を流出させるものは知られており、さらに加圧により液体の流出量を増加できる構造も知られている。
例えば、筆記具では、特許文献1(特開2000-335173号公報)のように、インキ収容管の後方に加圧機構を設け、ノック体の押圧操作に連動させてインキタンク内のインキを加圧できる構造がある。この様な加圧機構を設けた筆記具では、ペン先からのインキの流出量を多くし、筆跡を太くあるいは濃くすることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-335173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の筆記具は、加圧を行うための加圧機構が必要であり、構造が複雑になることから、故障のリスクが増え、コストアップにも繋がる。また、前記特許文献1のボールペンは、ノック機構の押出し操作に連動させてインキを加圧する構造のため、加圧量を調整することができない構造であり、加圧力を小さくしたい場合や、加圧が不要の場合でも、インキが定常的に加圧がされてしまう。
また、インキを収容してあるレフィル(液体収容管)の後方空間の空気に対してのみ、加圧機構による圧縮が行える構造であることから、レフィル内のインキ(液体)が未使用でレフィルの後方空間の空気量が少ない時の圧縮力に比べて、インキが減ってレフィルの後方空間の空気が多くなった時の圧縮力が小さくなるため、結果、レフィルの後方空間の空気量が少なく、空気が圧縮され易いボールペンの使用開始時にはインキが多く吐出され、インキが消費されレフィルの後方空間の空気が多くなり、空気が圧縮され難くなった時にはインキの吐出量が減少することになり、インキの残量に当該インキの吐出量が影響を受け易い構造である。
【0005】
本発明の目的は、簡単な構造で、液体への加圧力を調整することができ、その加圧力が液体収容管内の液体の残量変化による影響を受け難い構造の液体吐出具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
「1.筒状の吐出具本体と、前記吐出具本体の前方及び後方に着脱可能で一端が開口し他端が閉塞するキャップとを具備し、
前記吐出具本体の前方に設けた先端チップより該吐出具本体の内部に収容した液体を吐出させる液体吐出具であって、
前記吐出具本体の内方に、前記液体を収容する液体収容管を有し、
前記液体収容管の後方部に、該液体収容管に収容された液体の後方に位置する第一空間部を有し、
前記吐出具本体と前記液体収容管との間に、前記第一空間部と連通する第二空間部を有し、
前記キャップの開口端側の内周面に、前記吐出具本体の外周面を摺接する円環状の凸部を有し、
前記吐出具本体の外周面又は前記キャップの内周面にキー突起を有し、
前記キャップの内周面又は前記吐出具本体の外周面に、前記キー突起に係合する軸心方向に沿って異なる長さで該キャップの内周面又は該吐出具本体の外周面の円周上に間隔を設けて形成された複数のキー溝を有し、
前記吐出具本体における、前記液体収容管の後端部より前方位置、且つ前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着した際において該キャップの円環状の凸部より後方位置に、前記第二空間部と連通する孔部を有し、
前記キー突起を前記複数のキー溝のいずれかに合わせて前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際、前記キー突起が前記キー溝を摺動しながら該キー溝の軸心方向における段部に当接するまで前進され、該キャップの円環状の凸部が該吐出具本体の外周面を摺接しながら前進することにより、前記液体が、前記第一空間部と前記第二空間部とで構成される密閉空間内の圧縮された空気を介して加圧される構造の液体吐出具。
2.前記1項に記載の液体吐出具であり、
前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際に、該キャップと該吐出具本体との間に、前記孔部を介して前記第二空間部と連通する気体収容部が形成され、
前記第一空間部と前記第二空間部と前記気体収容部とで前記密閉空間が構成される構造の液体吐出具。
3.前記1項又は2項に記載の液体吐出具であり、
前記キー突起と前記複数のキー溝との係合が、前記密閉空間の圧縮より前に開始される構造の液体吐出具。
4.前記1項ないし3項のいずれか1項に記載の液体吐出具であり、
前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際に、前記吐出具本体の少なくとも外周面が軸径方向に変位する構造の液体吐出具。
5.前記1項ないし4項のいずれか1項に記載の液体吐出具であり、
前記吐出具本体が先窄み形状の後方部を有し、
前記後方部に前記孔部が形成され、
前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際に、該キャップの円環状の凸部が該吐出具本体の外周面を圧接して内方へ変形させながら前進する構造の液体吐出具。
6.前記1項ないし5項のいずれか1項に記載の液体吐出具であり、
前記キャップの他端が平坦面状又は円弧面状である構造の液体吐出具。」である。
【0007】
本発明の液体吐出具は、キャップを吐出具本体の後方に装着することで、第一空間部と第二空間部とで構成される密閉空間内の圧縮された空気を介して、液体を加圧する構造であり、圧縮する空気を大気圧より高い気圧となるよう加圧することで、液体を吐出し易くできる構造である。さらに詳細には、キャップの開口端側の円環状の凸部が吐出具本体の外周面を摺接することで、キャップの内部と第一後方空間部と第二後方空間部とが密閉空間となり、その状態でキャップを前進させることによって、密閉空間内の空気が圧縮され、その圧縮された空気を介して液体が加圧される構造である。
したがって、キャップを液体塗布具の後方に装着し、キャップの開口端側の円環状の凸部を吐出具本体の外周面に摺接させながら、キャップを前進させる量を調整することにより、空気を圧縮する力が変化し、例えば、キャップを少しだけ前進させて液体を弱く加圧した場合には、ペン先からのインキの流出量が少し多くなり、筆跡を少し太くしたり濃くすることができ、キャップを大きく前進させて強く加圧した場合には、ペン先からのインキの流出量が多くなり、筆跡を太くしたり濃くしたりすることができる。
【0008】
また、キー突起を複数のキー溝のいずれかに合わせてキャップを吐出具本体の後方に装着する際、キー突起がキー溝を摺動しながら該キー溝の軸心方向における段部に当接するまで前進させることで、密閉空間内の空気を圧縮する量を一定にし易くすることができる。
尚、キャップを吐出具本体の後方に装着する際に、キャップの開口端側の円環状の凸部が吐出具本体の外周面に当接した時の状態で、それ以上、キャップを前進させない場合には、液体を加圧せずに大気圧での筆記を行うことが可能となる。
つまり本発明の液体吐出具は、キャップを吐出具本体の後方に装着することで、液体が加圧できる構造であり、使用者の目的に応じて、液体への加圧力を調整して、巾広い用途に用いることができ、キー突起を複数のキー溝のいずれかに合わせてキャップを吐出具本体の後方に装着することで、密閉空間の空気を圧縮する量を一定にし易くすることができる。
さらに、構造が簡単であることから、故障リスクが少なく、低コストの液体吐出具を提供することが可能となる。
また、吐出具本体における液体収容管の後端部より前方位置に、第二空間部と外部とを繋げる孔部を設けることから、液体が液体収容管の後端部から漏出した場合でも、液体は吐出具本体の後部内側の方へ流れ易く、液体が吐出具本体の外部には漏出し難いものとなる。
【0009】
また、本発明構造における液体吐出具は、第一空間部と第二空間部とで構成される密閉空間内の空気を圧縮することから、大きな容積の空気を加圧することができ、液体収容管内の液体が減少して液体収容管内の空気が増加しても、加圧力の変化が生じ難く、結果、液体の吐出量を安定させることができる。
さらに、キャップを吐出具本体の後方に装着する際に、キャップと吐出具本体との間に、孔部を介して第二空間部と連通する気体収容部が形成され、第一空間部と第二空間部と気体収容部とで密閉空間内が構成される構造とすることで、より大きな容積の空気を加圧することができ、液体収容管内の液体が減少して液体収容管内の空気が増加しても、より加圧力の変化が生じ難くなり、液体の吐出量を安定させることができる。
【0010】
さらに、キー突起と複数のキー溝との係合が、密閉空間の圧縮より前に開始される構造とすることで、キー突起を、キャップの内周面又は吐出具本体の外周面の円周上に間隔を設けて形成された複数のキー溝のいずれかに対して位置合わせ(係合)をするまでは、密閉空間の空気の圧縮が行われないので、位置合わせがし易く、その位置合わせを終えた後に、密閉空間の空気を圧縮することができるため、操作性がよい。
【0011】
さらに、キャップを吐出具本体の後方に装着する際に、吐出具本体の少なくとも外周面を軸径方向に変位させる構造とすることで、キャップの円環状の凸部を吐出具本体の外周面に密着させながら前進させることができ、密閉空間内の空気を効率よく圧縮することが可能となる。
この場合、吐出具本体の材質は、吐出具本体全体又はその表面のみを、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂などの軟質樹脂で成形したり、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどで成形することができる。また、吐出具本体を薄い肉厚で形成することでも、キャップの円環状の凸部で吐出具本体の少なくとも外周面を押圧して変形させることもできる。
また、キャップの材質は、キャップの円環状の凸部で吐出具本体を軸径方向に変位させるために、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、AS樹脂などの硬質樹脂で成形するとよい。
【0012】
さらに、吐出具本体が先窄み形状の後方部を有し、その後方部に前記孔部が形成され、キャップを吐出具本体の後方に装着する際に、キャップの円環状の凸部が吐出具本体の外周面を圧接して内方へ変形させながら前進する構造とすることで、空気の圧縮を開始する位置、つまり、キャップを吐出具本体の後方に装着する際に、キャップの円環状の凸部が吐出具本体の外周面と最初に当接する位置までは、容易にキャップを装着することができる。また、その位置からキャップを徐々に前進させることで、次第に圧縮された空気の反発力を受ける場合でも、徐々にキャップと吐出具本体との嵌め合いがきつくなることから、空気の反発力でキャップが後方へ押し戻され難い構造となる。
尚、吐出具本体の後方部を先窄み形状にする場合には、その側面を表面に凹凸がない緩やかな傾斜面で構成したり、緩やかな円弧状面で構成するとよい。また、先窄みの外径の変化量は、空気の圧縮を開始する地点から、圧縮を終了する地点までの外径差が0.05mm~1mmとなるようにすれば、吐出具本体の後方にキャップを装着した際にも、吐出具本体からキャップが滑り落ち難いものとなる。
【0013】
さらに、キャップの他端の表面が平坦面状又は円弧面状である構造とすることで、キャップの端面を指の腹で押圧して吐出具本体の後方に装着する時に指に掛かる負担が軽減される。その表面積は90mm以上とするとよい。
【0014】
吐出具本体の形状は特に限定されるものでないが、吐出具本体を握り易いように、筆記具のような棒状の形態が好ましい。
また、キャップの開口端側に設ける円環状の凸部は、キャップと一体で成形してもよく、あるいはキャップの内面にOリング等を固設して設けてもよい。
【0015】
先端チップは、筆記具の場合には、ボールペンチップやフェルトチップあるいは筆先やペン芯を備えた万年筆のペン体などがあげられ、塗布具の場合には、繊維収束体やスポンジなどがあげられる。先端チップは、収容管内の液体を外部に吐出させる最終的な経路になっていることから、液体流路の大きさや弁機構の有無などが、液体収容管に収容された液体の後端に接する空気の加圧状態に関係する。例えば液体流路が大きければ大気圧より少し高く加圧するだけでも液体が吐出し易くなる。先端チップに弁機構を設けることにより、気体収容部と第一空間部と第二空間部とで構成される密閉空間内の空気を大きく圧縮した場合でも、意図せずに液体が吐出してしまうことを防止できる。
【0016】
尚、大気圧を1000hPaとした場合、例えば粘度が低い筆記具用インキ(一例として20℃の環境下における粘度が1mPa・s~2000mPa・sの筆記具用インキ)では、前記密閉された空間の空気の気圧を前記大気圧である1000hPaを越え1500hPaの範囲となる加圧状態にすることで筆記具用インキを吐出し易くすることができるようになり、例えば粘度が高い液体(一例として20℃の環境下における粘度が3000mPa・s~50000mPa・sの筆記具用インキ)では、前記密閉された空間の空気の気圧を1100hPa~5000hPaの範囲となる加圧状態にすることで筆記用インキを吐出し易くすることができるようになる。しかしながら加圧する数値は特に限定されるものではなく、前述の通り液体の粘度などの特性や先端チップの構造により適宜設定すればよい。
【0017】
液体は、液体収容管に収容できるものであれば特に限定されるものではなく、筆記用インキや修正液、あるいは液状糊や化粧液など、液体吐出具の用途に応じて適宜選定すればよい。筆記用インキにおいては、油性インキや水性インキなど特に限定されず、剪断減粘性を有するインキを使用することもできる。
また、熱変色材料を含有したマイクロカプセル顔料を着色剤として用いた熱変色性インキは、カプセル内に色材を含有することから、一般的に筆跡濃度を高くし難い傾向にあるが、本発明構造の液体吐出具を用いることで、加圧によるインキ流出量の増加で筆跡濃度を高くすることが可能となる。
尚、マイクロカプセル顔料を含有した熱変色性インキの筆跡濃度を高くする方法としては、着色剤となるマイクロカプセル顔料の量を多くする場合や、マイクロカプセル顔料の粒径を大きくする場合もあるが、前記マイクロカプセル顔料の量を多くした場合にはインキの粘度が高くなって流出し難くなり、前記マイクロカプセル顔料の粒径を大きくした場合には当該顔料がインキ流路を通り難くなり、インキの流出がし難くなる虞がある。しかしながらこの様なインキでも、本発明構造の液体吐出具は、インキを加圧することで強制的に当該インキを吐出させることができることから使用可能である。
また、液中に酸化チタンや光輝性顔料などの比重が比較的大きい固形分を含み、その固形分が液中で沈降しないように静置時の粘度を高くしたインキでも、本発明構造の液体吐出具は、前記マイクロカプセル顔料を含有した熱変色性インキと同様に、インキを加圧することで強制的に当該インキを吐出させることができる。
また、修正液や液体糊のように、乾燥した液体が先端チップに付着してしまうような場合でも、液体を加圧して吐出し易くすることができる。
この様に本発明の液体吐出具は様々な液体の吐出具として適した構造である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単な構造で、液体への加圧力を調整することができ、その加圧力が液体収容管内の液体の残量変化による影響を受け難い構造の液体吐出具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のボールペンの縦断面図で、一部を側面図で示した図である。
図2図1のボールペンで、キャップを軸体の後方に装着する状態を示す図である。
図3図2の状態からキャップを前進させた状態を示す図である。
図4図3の状態からさらにキャップを前進させた状態を示す図である。
図5図2のキャップを180度回転させてからキャップを前進させた状態を示す図である。
図6図5の状態からさらにキャップを前進させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照しながら説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態では、液体吐出具として、キャップ式のボールペンについて説明を行うが、本発明構造の液体吐出具は、マーカーや万年筆などの筆記具や、修正ペンや液体糊のような塗布具、あるいは化粧具に採用することが可能である。
本実施形態においては、ペン先がある方を前方と表現し、その反対側を後方と表現する。説明を分かり易くするために、図面中の同様の部材、同様の部分については同じ符号を付してある。
【0021】
図1は、本実施形態のボールペンの縦断面図で、一部を側面図で示した図である。
図1に示すように、本実施形態のボールペン1(液体吐出具)は、軸体2(吐出具本体)を、前軸3と該前軸3に螺合した後軸4とで構成してある。軸体3の内方には、ボールペンレフィル5を配設してあり、ボールペンレフィル5には、インキ6(液体)を収容してあり、インキ6の後方にはグリース状のインキ追従体7を収容してある。インキ追従体7は、インキ6の後方への流出を防止し、インキ6の減少に伴い前方へ移動する。
ボールペンレフィル5は、インキタンク5a(液体収容管)の前方に配したボールペンチップ5b(先端チップ)を、前軸3の前端開口3aから突出させており、前軸3の前方内面に形成された縮径部3bと後軸4の後方内面に形成されたリブ4aとで挟持され、軸体2に固定されている。
【0022】
前軸3の前端開口3aとボールペンレフィル5のボールペンチップ5bとの隙間は、シリコンゴム(不図示)で密閉されている。また、前軸3と後軸4とは、前軸3の嵌合部3cの前方に設けた圧入部3dと、後軸4の嵌合受部4bの前方に設けた圧入受部4cとが圧入嵌合されることで密閉されている。
軸体2には、後軸4におけるインキタンク5aの後端部5cより10mm前方位置に中心がある直径1mmの丸孔状の孔部4dを設けてある。
インキタンク5aの後方部には、インキタンク5aに収容されたインキ6及びインキ追従体7の後方に位置する第一空間部K1を有し、軸体2とインキタンク5aとの間に、第一空間部K1と連通する第二空間部K2を有している。前記孔部4dは、第二空間部K2と外部とを連通させるが、インキ6がインキタンク5aの後端部5cから漏出した場合でも、孔部4dがインキタンク5aの後端部5cより前方に位置していることから、インキ6は、後軸4の後部の内側の方へ流れ易く、筒体2の外部へは漏出し難い構造である。
【0023】
前軸3には、キャップ8を装着して、ボールペンチップ5bの保護ができるようにしてある。キャップ8は、開口端8a側の内周面に円環状の凸部8bを設けてあり、凸部8bが、前軸3の外周面に形成した突起部3eを乗り越えることでキャップ8が軸体2に係止され、同時に、ボールペンチップ5bが、キャップ8に設けたエラストマー製の内キャップ8cに当接して、ボールペンチップ5bの乾燥が防止される。
本実施形態では、後軸4が軟質樹脂であるポリプロピレンで成形され、キャップ8が硬質樹脂であるポリカーボネートで成形されている。また、後軸4及びキャップ8は共に、透明な樹脂で成形されており内部が視認できる。
【0024】
インキ6は、まず、酸化チタン分散体20.0 質量部、溶剤(エチレングリコール)1.0質量部、水40.0質量部、分散剤(界面活性剤)1.0質量部を採取し、分散機を使用し、充分に分散した後、遠心分離を行い、粗大分を除去して酸化チタン分散体を得る。その後、作製した酸化チタン分散体62.0質量部、水24.4質量部、樹脂エマルジョン(アクリルエマルジョン)10 .0質量部、リン酸エステル系界面活性剤1.0質量部、pH調整剤(トリエタノールアミン)1.0質量部、防錆剤(ベンゾトリアゾール)1.0質量部、防カビ剤0.2質量部をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成した。その後、上記作製したベースインキを加温しながら、剪断減粘性付与剤(サクシノグリカン)0.4質量部を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌した後、濾紙を用い濾過を行って、白色のインキを得た。
【0025】
次に、図2から図4を用いて、キャップ8を軸体2の後方に装着して、インキ6を加圧する状態について説明する。図2は、本実施形態のボールペンで、キャップをボールペン本体の後方に装着する状態を示す図である。図3は、図2の状態からキャップを前進させた状態を示す図である。図4は、図3の状態からさらにキャップを前進させた状態を示す図である。
図2に示すように、本実施形態のボールペン1は、キャップ8を軸体2の後方に装着する際に、キャップ8の円環状の凸部8bが後軸4の外周面に当接することで、後軸4からキャップ8が脱落しないようになる。
【0026】
図2の状態から、軸体2に対してさらにキャップ8を前進させると、キャップ8の円環状の凸部8bが、後軸4の孔部4dの前端を越えた図3の位置まで前進し、キャップ8と軸体2との間に、孔部4dを介して第二空間部K2と連通する気体収容部K3が形成され、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで密閉空間MKが構成される。
【0027】
本実施形態では、キャップ8の内周面には、キー突起8kが一つ設けられ、軸体2の外周面には、キー突起8kに係合する軸心方向に沿って異なる長さで該軸体2の外周面の円周上に180度の間隔を設けて形成された二つのキー溝41m及びキー溝42mが設けられている。キー溝41mの軸心方向における前方段部41mdは、キー溝42mの軸心方向における前方段部42mdより2mm前方に形成されており、キー突起8kがキー溝42mに係合させる時よりも、キー突起8kがキー溝41mに係合させる時の方が、キャップ8を軸体2に対して2mm前方へ装着させることができる。
図2では、キャップ8のキー突起8kが、軸体2のキー溝41mに位置合わせされるようにして、キャップ8の開口端8aに軸体2の後方部を挿通させている。
図2の状態から図3の状態へと、キャップ8を前進させると、空気の圧縮が行われる前に、キャップ8のキー突起8kが軸体2のキー溝41mに係合して、軸体2に対するキャップ8の位置決めがされる。
【0028】
図3の状態から、図4の状態までキャップ8を前進させることにより、キャップ8の円環状の凸部8bが後軸4の外周面を摺接しながら前進して、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで構成された密閉空間MKの内部の空気が圧縮され、インキ6が加圧される。本実施形態の後軸4は、後方が後端に向かって縮径する緩やかな円弧状面を有する先窄み形状に形成してある。キャップ8を軸体2の後方に装着する際に、これにより、キャップ8の円環状の凸部8bが軸体2の外周面に最初に当接する位置、つまり図2の位置までは、容易にキャップ8を装着することができる。
また、前述の通り、後軸4が軟らかい樹脂で形成されていることから、軸体4の後方にキャップ8を装着させる際に、キャップ8の円環状の凸部8bが、後軸4の外周面を圧接して内方へ変形させながら嵌合されるように前進するので、密閉空間MKの気密性が高くなると共に、キャップ8が前進して圧縮された密閉空間MKの空気の反発力を強く受ける場合にも、キャップ8と軸体2との嵌合力も増加していることから、該キャップ8が軸体2から脱落することなく、空気の圧縮を確実に行うことができる。
【0029】
本実施形態では、キャップ8の円環状の凸部8bの内径を10mmとしてあり、密閉空間MKの空気の圧縮が開始される円環状の凸部8bが図3の位置における後軸4の外径を10.2mmとし、密閉空間MKの空気の圧縮が終了する円環状の凸部8bが図4の位置における後軸4の外径を10.4mmとし、図3の位置から図4の位置まで、円環状の凸部8bが前進する際の先窄み形状の後軸4の外径差が0.2mmとなるようにしてある。
【0030】
また、本実施形態のキャップ8は、開口端8aの反対側の端面8dを緩やかな円弧面状で形成してあり、その表面積を133mmで形成したことから、キャップ8の端面8dを指の腹で押圧して、キャップ8を軸体2の後方へ装着する時に指に掛かる負担が軽減される。
【0031】
尚、インキ6への加圧力は、インキタンク5aに収容されているインキ6の量により変化し、インキ6が多くインキタンク5a内の第一空間部K1が小さい場合には加圧力が大きく、インキ6が少なくインキタンク5a内の第一空間部K1が大きい場合には加圧力が小さくなる傾向がある。
しかしながら本実施形態は、前述の通り、キャップ8を軸体2に装着する際に圧縮される空気が、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで構成された密閉空間MKの内部の空気全体であることから、インキ6の残量により容積が変化する第一空間部K1の影響を受け難いようになっている。
具体的には、インキタンク5a内のインキ6が未使用である図3の状態では、第一空間部K1の容積が100mmであり、図示しないがインキ6が僅かとなった状態では、第一空間部K1の容積が1400mmとなり、容積変化の比率が大きい。これに対し、インキ6が未使用である図3の状態では、密閉空間MKの容積は2100mmであり、図示しないがインキ6が僅かとなった状態では、密閉空間MKの容積は3400mmとなり、容積変化の比率は小さい。
実際に、大気圧を1000hPaとした場合、図3に示す本実施形態のボールペン1は、インキタンク5a内のインキ6が未使用な状態で、キャップ8を図4に示す位置まで軸体2の後方に装着した際には、密閉空間MK内の空気の気圧を1300hPaに加圧することができ、インキタンク5a内のインキ6が僅かな状態でキャップ8を図4に示す位置まで軸体2の後方に装着した際には、密閉空間MK内の空気の気圧を1200hPaに加圧することができ、加圧量の変化が少ない。
【0032】
図4では、図3の状態、つまり円環状の凸部8bが後軸4の孔部4dの前端を越えた状態から、キー突起8kがキー溝41mの前方段部41mdに当接するまで前進され、キー突起8kが前方段部41mdに当接することで前進が規制されている。この状態で、キャップ8は、L1である4mmだけ前進して、密閉空間MK内の空気が圧縮され、気圧が1300hPaに加圧される。
【0033】
図5は、図2のキャップを180度回転させてからキャップを前進させた状態を示す図である。図6は、図5の状態からさらにキャップを前進させた状態を示す図である。
図5では、キャップ8のキー突起8kが軸体2のキー溝42mに係合して、軸体2に対するキャップ8の位置決めがされている。また、図6では、図5の状態、つまり円環状の凸部8bが後軸4の孔部4dの前端を越えた状態から、キー突起8kがキー溝42mの前方段部42mdに当接するまで前進され、キー突起8kが前方段部42mdに当接することで前進が規制されている。この状態で、キャップ8は、L2である2mmだけ前進して、密閉空間MK内の空気が圧縮され、気圧が1100hPaに加圧される。
【0034】
したがって、本実施形態のボールペン1は、インキタンク5a内のインキ6が未使用な状態で、キャップ8のキー突起8kを軸体2のキー溝41mに係合させる場合には、密閉空間MK内の気圧が1300hPaとなり、キャップ8のキー突起8kを軸体2のキー溝42mに係合させる場合には、密閉空間MK内の気圧が1100hPaとなる。この様に液体6を加圧するための、密閉空間MK内の気圧を調整することができ、キー突起8kを双方の前方段部41md、前方段部42mdに当接するまでキャップ8を軸体2に対して前進されることで、密閉空間の空気を圧縮する量が一定にし易くなる。
また、図1に示すように、軸体2からキャップ8が外された状態、あるいは、図2に示すように、軸体2の後方にキャップ8を緩く装着した状態では、インキ6が加圧されておらず、大気圧1000hPaで筆記を行うことができる。
【0035】
この様に、本実施形態のボールペン1は、インキ6への加圧力を調整することができ、その加圧力がインキタンク5aのインキ6の残量変化による影響を受け難い構造である。
【符号の説明】
【0036】
1…ボールペン(液体吐出具)、
2…軸体(吐出具本体)、
3…前軸、
3a…前端開口、3b…縮径部、3c…嵌合部、3d…圧入部、3e…突起部、
4…後軸、4a…リブ、4b…嵌合受部、4c…圧入受部、4d…孔部、
41m…キー溝、41md…前方段部、
42m…キー溝、42md…前方段部、
5…ボールペンレフィル、5a…インキタンク(液体収容管)、5b…ボールペンチップ(先端チップ)、5c…後端部、
6…インキ(液体)、
7…インキ追従体、
8…キャップ、8a…開口端、8b…円環状の凸部、8c…内キャップ、8d…端面、
8k…キー突起、
K1…第一空間部、K2…第二空間部、K3…気体収容部、MK…密閉空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6