IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特許7365253導電性樹脂組成物およびその製造方法、ならびに成形体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】導電性樹脂組成物およびその製造方法、ならびに成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20231012BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231012BHJP
   C08L 25/00 20060101ALI20231012BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20231012BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20231012BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08L25/00
C08L69/00
C08J3/22
H01B1/24 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020014853
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021121654
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金谷 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 庸祐
(72)【発明者】
【氏名】松永 幸治
(72)【発明者】
【氏名】川辺 邦昭
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0155965(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101759987(CN,A)
【文献】特開2010-209162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)と、
カーボンナノチューブ(B)と、
芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)と、
を含み、
前記熱可塑性樹脂(A)は、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)に相当する樹脂を含まず、
前記熱可塑性樹脂(A)、前記カーボンナノチューブ(B)、および前記重合体(C)の合計量100質量部に対し、前記熱可塑性樹脂(A)を74.9~99.4質量部、前記カーボンナノチューブ(B)を0.5~25質量部、前記重合体(C)を0.1~10質量部を含
前記重合体(C)が、下記(i)~(iv)を満たす、
導電性樹脂組成物。
(i)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が300~5000の範囲にある
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が9.0以下である
(iii)JIS K2207に従って測定される軟化点が70~170℃の範囲にある
(iv)JIS K7112に従って測定される密度が900~1200kg/m の範囲にある
【請求項2】
前記重合体(C)が、スチレン、α-メチルスチレン、およびイソプロペニルトルエンから選ばれる少なくとも1種の重合体である、
請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(A)が、環状構造を有する、
請求項1または2に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)が、シクロオレフィンポリマー、ポリエステル、およびポリカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂である、
請求項1~のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂(A)と、前記カーボンナノチューブ(B)と、前記重合体(C)と、を含むマスターバッチを用意する工程と、
前記マスターバッチと、前記熱可塑性樹脂(A)とを溶融混練する工程と、
を含む、
導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物から得られる、
成形体。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物およびその製造方法、ならびに導電性樹脂組成物から得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、優れた機械特性、耐熱性、成形性等の特徴により、自動車部品、電気電子部品、構造材料等の幅広い分野で利用されている。しかしながら、多くの熱可塑性樹脂は絶縁性である。そのため、熱可塑性樹脂に導電性を付与するには、熱可塑性樹脂と導電材料との複合化が必須である。導電材料としては、金属粉、金属繊維、およびカーボン材料が一般によく知られている。これらの中でも、カーボン材料によれば、成形体の軽量化が可能であり、様々な種類のカーボン材料が開発されている。導電材料として使用されるカーボン材料の例には、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が含まれる。そしてこれらのカーボン材料と熱可塑性樹脂との複合化は、押出機やニーダー等の混練機による強制的な混練・分散により行われる。
【0003】
しかしながら、カーボンナノチューブは、カーボン材料の中でも特に大きな比表面積を有する。そのため、熱可塑性樹脂との複合化の際に急激な粘度上昇を生じさせやすく、混練・分散が困難であった。そこで、カーボンナノチューブを含む導電性樹脂組成物に対して、様々な分散剤を使用することが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、カーボンナノチューブの分散剤として、石油樹脂が提案されている。また、特許文献2では、カーボンナノチューブの分散剤として、共役二重結合を有する炭素数6~22の芳香族含有炭化水素等が提案されている。さらに、特許文献3では、カーボンナノチューブの分散剤として、樹脂に対して特定の相容性を有する石油樹脂が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4913380号公報
【文献】特開2008-31461公報
【文献】特許第5558702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いずれの文献においてもカーボンナノチューブの表面に存在するπ電子と、分散剤の表面に存在するπ電子との相互作用が期待されており、カーボンナノチューブの分散性、ひいてはカーボンナノチューブ由来の導電性向上が期待される。ここで、電気電子部品の分野では、成形体の外観が良好であること(表面光沢性)も求められる。しかしながら、従来の組成物では、得られる成形体にフローマーク等が生じやすい。そこで、良好な導電性と、良好な外観とを兼ね備えた成形体を形成可能な、導電性樹脂組成物が求められている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高い導電性と優れた外観とを兼ね備えた成形体を形成可能な、導電性樹脂組成物およびその製造方法、ならびにこれを用いた成形体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造を50質量%以上含む重合体(C)と、カーボンナノチューブ(B)とを組み合わせることで、導電性と表面光沢性とを兼ね備えた成形体を形成可能な導電性樹脂組成物が得られることを見出した。すなわち本発明は、以下の導電性樹脂組成物を提供する。
【0009】
[1]熱可塑性樹脂(A)と、カーボンナノチューブ(B)と、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)と、を含み、前記熱可塑性樹脂(A)、前記カーボンナノチューブ(B)、および前記重合体(C)の合計量100質量部に対し、前記熱可塑性樹脂(A)を74.9~99.4質量部、前記カーボンナノチューブ(B)を0.5~25質量部、前記重合体(C)を0.1~10質量部を含む、導電性樹脂組成物。
【0010】
[2]前記重合体(C)が下記(i)~(iv)を満たす、[1]に記載の導電性樹脂組成物。
(i)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が300~5000の範囲にある
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が9.0以下である
(iii)JIS K2207に従って測定される軟化点が70~170℃の範囲にある
(iv)JIS K7112に従って測定される密度が900~1200kg/mの範囲にある
【0011】
[3]前記重合体(C)が、スチレン、α-メチルスチレン、およびイソプロペニルトルエンから選ばれる少なくとも1種の重合体である、[1]または[2]に記載の導電性樹脂組成物。
【0012】
[4]前記熱可塑性樹脂(A)が、環状構造を有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
[5]前記熱可塑性樹脂(A)が、シクロオレフィンポリマー、ポリエステル、およびポリカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【0013】
本発明は、以下の導電性樹脂組成物の製造方法および成形体も提供する。
[6]上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂(A)と、前記カーボンナノチューブ(B)と、前記重合体(C)と、を含むマスターバッチを用意する工程と、前記マスターバッチと、前記熱可塑性樹脂(A)とを溶融混練する工程と、を含む、導電性樹脂組成物の製造方法。
[7]上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物から得られる、成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い導電性と優れた表面光沢性とを兼ね備えた成形体を形成可能な導電性樹脂組成物およびその製造方法、ならびにこれから得られる成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「~」は、特に断りがなければ以上から以下を表す。
【0016】
1.導電性樹脂組成物
本発明の導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、および芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)を含有する。なお、本明細書では、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)を単に「重合体(C)」とも記載する。
【0017】
本発明の導電性樹脂組成物では、熱可塑性樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、および重合体(C)の合計を100質量部としたとき、熱可塑性樹脂(A)の量が74.9~99.4質量部であり、好ましくは80~99質量部であり、より好ましくは85~98.5質量部である。得られる成形体の表面光沢性を高めるとの観点では、熱可塑性樹脂(A)の含有量が高いこと好ましい。また、導電性樹脂組成物に特に高い加工性が必要とされる場合、熱可塑性樹脂(A)の下限が、好ましくは93質量部であり、より好ましくは95質量部であり、さらに好ましくは97質量部である。
【0018】
一方、熱可塑性樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、および重合体(C)の合計を100質量部としたときの、カーボンナノチューブ(B)の量は、0.5~25質量部であり、好ましくは1~20質量部であり、より好ましくは1.5~15質量部である。カーボンナノチューブ(B)を0.5質量部以上含むことで、導電性樹脂組成物、ひいてはその成形体の導電性が良好になる。また、カーボンナノチューブ(B)の量が25質量部以下であると、得られる成形体の表面光沢性が良好になる。なお、成形体において、高い導電性、すなわち低い体積固有抵抗値を得るには、カーボンナノチューブ(B)の量は多いほうが好ましい。成形体に特に高い導電性が必要とされる場合、カーボンナノチューブ(B)の下限が、好ましくは3質量部であり、より好ましくは5質量部であり、さらに好ましくは7質量部である。
【0019】
また、熱可塑性樹脂(A)、カーボンナノチューブ(B)、および重合体(C)の合計を100質量部としたとき、重合体(C)の量は、0.1~10質量部であり、好ましくは0.2~8質量部であり、より好ましくは0.3~5質量部である。重合体(C)を0.1質量部以上含むことで、上記カーボンナノチューブ(B)の分散性が良好になり、導電性樹脂組成物、ひいては成形体の導電性が良好になりやすく、さらには成形体の表面光沢性も良好になりやすい。一方、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)の含有量が10質量部以下であると、熱可塑性樹脂(A)が本来有する性質を損ない難く、得られる成形体の機械特性が良好になりやすい。
【0020】
ここで、導電性樹脂組成物(もしくは成形体)の導電性は、ASTM D257に準拠して測定される体積固有抵抗値で評価される。導電性樹脂組成物の好ましい体積固有抵抗値は、用途に応じて適宜選択される。例えば、本発明の導電性樹脂組成物がICトレー、シリコンウエハーケース、キャリアテープ等の半導体製品包装材料として用いられる場合、導電性樹脂組成物の体積固有抵抗値は1.0×10~1.0×10Ω・cmが好ましい。また、導電性樹脂組成物がクリーンルーム床材、ベルトコンベア、OA機器向け弱電部材、静電塗装下地材として用いられる場合、その体積固有抵抗値は、1.0×10~1.0×10Ω・cmが好ましい。さらに、導電性樹脂組成物がOA機器向け電磁波シールド部材として用いられる場合、その体積固有抵抗値は、1.0×10-1~1.0×10Ω・cmが好ましい。導電性樹脂組成物の体積固有抵抗値は、カーボンナノチューブ(B)の種類や含有量、さらには重合体(C)の種類や含有量によって調整される。
【0021】
さらに、導電性樹脂組成物のJIS K7171(ISO 178)に準拠して測定される曲げ弾性率は、当該導電性樹脂組成物が含む熱可塑性樹脂(A)単体の曲げ弾性率に対して、好ましくは100~400%であり、より好ましくは100~300%であり、さらに好ましくは100~250%である。導電性樹脂組成物の曲げ弾性率が上記範囲内であれば、カーボンナノチューブ(B)の添加による導電性樹脂組成物の曲げ弾性率の低下が少なく、導電性樹脂組成物を種々の用途に適用しやすくなる。ここで、導電性樹脂組成物の曲げ弾性率は、導電性樹脂組成物の組成(特に熱可塑性樹脂(A)の種類やカーボンナノチューブ(B)の含有量等)によって調整される。
【0022】
以下、導電性樹脂組成物が含む成分や導電性樹脂組成物の物性等について説明する。
【0023】
1-1.熱可塑性樹脂(A)
1-1-1.熱可塑性樹脂(A)の種類
導電性樹脂組成物が含む熱可塑性樹脂(A)は、導電性樹脂組成物の用途に応じて適宜選択される。導電性樹脂組成物に使用可能な熱可塑性樹脂(A)の代表例として以下の(1)~(16)の樹脂が挙げられる。導電性樹脂組成物は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。なお、本明細書において、熱可塑性樹脂(A)には、後述の芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)に相当するものは、含まないものとする。
【0024】
(1)オレフィン系重合体
(2)ポリアミド
(3)ポリエステル
(4)ポリアセタール
(5)スチレン系樹脂
(6)アクリル系樹脂
(7)ポリカーボネート
(8)ポリフェニレンオキサイド
(9)塩素系樹脂
(10)酢酸ビニル系樹脂
(11)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体
(12)エチレン-(メタ)アクリル酸樹脂やこれらのアイオノマー樹脂
(13)ビニルアルコール系樹脂
(14)セルロース樹脂
(15)熱可塑性エラストマー
(16)各種共重合ゴム
【0025】
上記(1)~(16)の熱可塑性樹脂について、それぞれ具体的に説明する。
【0026】
(1)オレフィン系重合体
オレフィン系重合体の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリメチルブテン等のオレフィン単独重合体;エチレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体等のオレフィン共重合体;等が含まれる。オレフィン系重合体は、上記の中でもエチレン(共)重合体またはプロピレン(共)重合体が好ましい。
【0027】
エチレン(共)重合体は、エチレン単独重合体(ポリエチレン)、またはエチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンとの共重合体であることが好ましい。エチレン単独重合体の具体例には、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が含まれる。
【0028】
一方、エチレン(共)重合体が、エチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンとの共重合体である場合、エチレン由来の構造単位の量(a)は、91.0~99.9モル%が好ましく、より好ましくは93.0~99.9モル%であり、さらに好ましくは95.0~99.9モル%であり、特に好ましくは95.0~99.0モル%である。一方、炭素原子数3以上のα-オレフィン由来の構造単位の量(b)は、0.1~9.0モル%が好ましく、より好ましくは0.1~7.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~5.0モル%であり、特に好ましくは1.0~5.0モル%である。ただし、(a)+(b)=100モル%である。上記エチレン共重合体の構造単位の含有割合は、13C-NMRスペクトルの解析により求められる。
【0029】
ここで、炭素原子数3~12のα-オレフィンの例には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれる。α-オレフィンは、好ましくは、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンである。さらに好ましくは炭素原子数が3~8のα-オレフィンであり、特に好ましくはプロピレンまたは1-ブテンである。エチレンと、プロピレンや1-ブテンとを共重合すると、導電性樹脂組成物の加工性が良好となり、さらには得られる成形体の外観(表面光沢性)や機械特性等も良好となる。なお、エチレン(共)重合体には、α-オレフィンを1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
エチレン(共)重合体のISO 1133に準拠して190℃、2.16kg荷重にて測定されるメルトフローレート(MFR)は、0.01~500g/10分が好ましく、0.1~100g/10分がより好ましい。エチレン(共)重合体のMFRが上記範囲内であると、成形時の流動性が良好になり、かつ機械特性が良好な成形体が得られやすい。
【0031】
一方、プロピレン(共)重合体は、プロピレン単独重合体(ポリプロピレン)、またはプロピレンと、エチレンもしくは炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。
【0032】
プロピレン(共)重合体をプロピレンとエチレンとの共重合体とする場合のプロピレン由来の構造単位の量は60~99.5モル%が好ましい。プロピレン由来の構造単位の量は、好ましくは80~99モル%であり、より好ましくは90~98.5モル%であり、さらに好ましくは95~98モル%である。ただし、プロピレン由来の構造単位の量とエチレン由来の構造単位の量との合計は100モル%である。プロピレン由来の構造単位量が多いプロピレン(共)重合体を用いると、得られる成形体の耐熱性や、外観(表面光沢性)、機械特性が良好になる。
【0033】
プロピレン(共)重合体を、プロピレンと炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体とする場合、炭素原子数4~12のα-オレフィンの例には、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれる。その中でも、1-ブテンが特に好ましい。また、プロピレン・α-オレフィン共重合体は、炭素原子数4~12以外のオレフィン由来の構造単位をさらに含んでいてもよく、例えばエチレン由来の構造単位を少量、例えば10モル%以下含んでいてもよい。一方で、エチレン由来の構造単位が含まない場合には、得られる成形体の耐熱性および機械特性のバランスが特に良好になりやすい。プロピレン(共)重合体には、α-オレフィンを、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記プロピレン(共)重合体がプロピレン・α-オレフィン共重合体である場合、プロピレン由来の構造単位の量(a’)は、60~90モル%が好ましく、より好ましくは65~88モル%であり、さらに好ましくは70~85モル%であり、特に好ましくは75~82モル%である。一方、炭素原子数4以上のα-オレフィン由来の構造単位の量(b’)は、10~40モル%が好ましく、より好ましくは12~35モル%であり、さらに好ましくは15~30モル%であり、特に好ましくは18~25モル%である。ただし、(a’)+(b’)=100モル%である。
【0035】
プロピレン・α-オレフィン共重合体の組成が上記範囲にあると、外観(表面光沢性)が優れる成形体が得られる。その理由は明らかではないが、上記組成であると結晶化速度が遅くなり、金型上、あるいは冷却工程において、導電性樹脂組成物の流動時間が長くなる。その結果、表面が滑らかになりやすいと考えられる。また、組成が上記範囲にあると、得られる成形体の機械特性および耐熱性が良好になる。
【0036】
なお、プロピレン・α-オレフィン共重合体の示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)は、60~120℃が好ましく、好ましくは65~100℃であり、さらに好ましくは70~90℃である。
【0037】
また、オレフィン系重合体は、エチレン・α-オレフィン・不飽和環状化合物または鎖状ポリエンとの重合体であってもよい。この場合、エチレンと、炭素原子数3~12のα-オレフィンと不飽和環状化合物または鎖状ポリエンとの共重合体が好ましく、これらがランダムに共重合したポリマーがより好ましい。α-オレフィンとしては、炭素原子数3~12のα-オレフィンが好ましく、その例には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が含まれる。
【0038】
また、不飽和環状化合物の例には、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、ノルボルナジエンおよびメチルテトラヒドロインデン、テトラシクロドデセン等が含まれる。鎖状ポリエンの例には、1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエンおよび4-エチリデン-1,7-ウンデカジエン等の鎖状非共役ポリエンが含まれる。これらの中でも、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、または5-ビニル-2-ノルボルネンが好ましい。不飽和環状化合物または鎖状ポリエンは、1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記エチレン・α-オレフィン・不飽和環状化合物または鎖状ポリエンランダム共重合体の具体例には、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)が含まれる。
【0040】
また、オレフィン系重合体として、プロピレン・α-オレフィン・不飽和環状化合物または鎖状ポリエンや、1-ブテン・α-オレフィン・不飽和環状化合物または鎖状ポリエン等を用いることもできる。
【0041】
さらに、オレフィン系重合体として、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体を用いることもできる。4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体の具体例には、国際公開第2011/055803号に開示の重合体が含まれる。4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体における4-メチル-1-ペンテン由来の構造単位の量は、5~95モル%が好ましく、4-メチル-1-ペンテンを除く炭素原子数2~20のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のα-オレフィン由来の構造単位の量は5~95モル%が好ましい。また、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体の一部には、不飽和環状化合物または鎖状ポリエン由来の構造が含まれていてもよく、不飽和環状化合物または鎖状ポリエン由来の構造単位の量は0~10モル%が好ましい。これらの合計量は100モル%である。
【0042】
なお、オレフィン系重合体の立体規則性に関しては、特に制限はないが、オレフィン系重合体がプロピレン(共)重合体である場合には、プロピレン(共)重合体が実質的にシンジオタクティック構造を有することが好ましい。例えば、プロピレン(共)重合体が、実質的にシンジオタクティック構造を有すると、同一分子量において絡み合い点間分子量(Me)が小さくなり、分子の絡み合いが多くなる。そのため、溶融張力が大きくなり液だれを起こし難くなる。また、プロピレン(共)重合体を含む導電性樹脂組成物を用いて成形体を製造する際、成形用の金型やロールに適度に密着しやすくなる。また、一般的なアイソタクティックポリプロピレン(共)重合体と比較してシンジオタクティック構造を有するプロピレン(共)重合体は、結晶化速度が遅いため、金型やロールでの冷却がゆっくりとなり、密着性が向上する。その結果、成形体の表面光沢性、耐摩耗性、耐傷付性、耐衝撃性等が高まると推察される。
【0043】
なお、プロピレン(共)重合体が、実質的にシンジオタクティック構造を有するとは、13C-NMRスペクトルにおける19.5~20.3ppmに相当するピーク面積が、検出される全ピーク面積に対して相対的に0.5%以上であることをいう。シンジオタクティシティーが上記範囲にあると、結晶化速度が十分に遅くなり、加工性が非常に良好になる。また、プロピレン由来の構造単位が、実質的にシンジオタクティック構造を有するプロピレン(共)重合体は、汎用ポリオレフィン系樹脂であるポリエチレン、ブロックポリプロピレン、アイソタクティックポリプロピレンよりも耐摩耗性や耐傷付性が非常に良好となる。なお、シンジオタクティック構造を有するプロピレン(共)重合体は、種々公知の製造方法で製造できる。
【0044】
また、オレフィン系重合体として、シクロオレフィンポリマーを挙げることもできる。シクロオレフィンポリマーとしては、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、テトラシクロドデセン等のシクロオレフィンに由来する構造単位を有する(共)重合体が挙げられる。共重合成分としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素数2~8の鎖状のα-オレフィンを挙げることができる。
【0045】
ここで、熱可塑性樹脂(A)が上記オレフィン系重合体であるとき、導電性樹脂組成物内でカーボンナノチューブ(B)の形状を保持し、優れた導電性を有する成形体を得るとの観点では、未変性のオレフィン系重合体好ましい。このとき、オレフィン系重合体の酸価は1mgKOHmg/g未満が好ましく、スチレン量は5質量%以下が好ましい。
【0046】
一方で、導電性樹脂組成物(もしくはその成形体)の耐熱性や機械特性を高めるとの観点では、オレフィン系重合体が、二重結合を含む極性化合物でグラフト変性されていてもよい。オレフィン系重合体がグラフト変性されていると、熱可塑性樹脂(A)とカーボンナノチューブ(B)との親和性が高まり、優れた耐熱性および機械特性を有する成形体が得られやすい。
【0047】
オレフィン系重合体のグラフト変性は、公知の方法で行うことができる。オレフィン系重合体を有機溶媒に溶解させ、次いで得られた溶液に不飽和カルボン酸等の二重結合を含む極性化合物およびラジカル重合開始剤等を加え、60~350℃(好ましくは80~190℃)で、0.5~15時間(好ましくは1~10時間)反応させる方法等であってもよい。
【0048】
上記の有機溶媒は、オレフィン系重合体を溶解可能な有機溶媒であれば特に制限ない。このような有機溶媒の例には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;が含まれる。
【0049】
また、別のグラフト変性方法として、押出機等を使用し、好ましくは溶媒を併用せずに、オレフィン系重合体と、不飽和カルボン酸等の二重結合を含む極性化合物とを反応させる方法が挙げられる。この場合、反応温度を、オレフィン系重合体の融点以上とすることが好ましく、具体的には100~350℃とすることが好ましい。反応時間は、通常0.5~10分間が好ましい。
【0050】
上記グラフト変性は、二重結合を含む極性化合物を、効率よくグラフト共重合させるために、ラジカル重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。ラジカル重合開始剤の例には、有機ペルオキシドや有機ペルエステル(例えばベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ペルオキシドベンゾエート)ヘキシン-3,1,4-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、t-ブチルペルアセテート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3,2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルベンゾエート、t-ブチルペルフェニルアセテート、t-ブチルペルイソブチレート、t-ブチルペル-sec-オクトエート、t-ブチルペルピバレート、クミルペルピバレートおよびt-ブチルペルジエチルアセテート)、アゾ化合物(例えばアゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレート)等が含まれる。
【0051】
これらの中でも、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3,2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,4-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン等のジアルキルペルオキシドが好ましい。ラジカル重合開始剤は、変性前のオレフィン系重合体100質量部に対して、通常、0.001~1質量部の割合で用いられる。
【0052】
なお、グラフト変性オレフィン系重合体の形状は特に制限されず、例えば粒子状であってもよい。粒子状のグラフト変性オレフィン系重合体を得るための好適な方法の一例として、炭素原子数2~18のα-オレフィンから選ばれる1種類または2種類以上のα-オレフィンからなり、かつ融点が50℃以上250℃未満である粒子と、エチレン性不飽和基および極性官能基を同一分子内に有する単量体とをグラフト反応させる方法が挙げられる。当該グラフト反応は、上述のラジカル重合開始剤を用い、オレフィン系重合体の粒子の融点(Tm)以下の温度で行うことができる。グラフト変性オレフィン系重合体の粒子の平均粒径は、例えば0.2mm~2.5mmとすることができるが、これに限定されない。また粒子状のグラフト変性オレフィン系重合体の調製に用いるオレフィン系重合体の粒子の融点は、通常50℃以上250℃未満であるが、これに限定されない。上記グラフト反応は、無溶媒で行うこともできるが、有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。
【0053】
(2)ポリアミド
ポリアミドの例には、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-10、ナイロン-11、ナイロン-12、ナイロン-46、ナイロン66、ナイロン-610、ナイロン-612等の脂肪族ポリアミド;芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンより製造される芳香族ポリアミド;等が含まれる。これらの中でも、ナイロン-6が好ましい。
【0054】
(3)ポリエステル
ポリエステルの例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族系ポリエステルや、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリエステル系エラストマー等が含まれる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族系ポリエステルが好ましい。
【0055】
(4)ポリアセタール
ポリアセタールの例には、ポリホルムアルデヒド(ポリオキシメチレン)、ポリアセトアルデヒド、ポリプロピオンアルデヒド、ポリブチルアルデヒド等が含まれる。これらの中でも、ポリホルムアルデヒドが特に好ましい。
【0056】
(5)スチレン系樹脂
スチレン系樹脂は、スチレンの単独重合体(ポリスチレン)であってもよく、スチレンと、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、α-メチルスチレン等との二元共重合体、例えばアクリロニトリル-スチレン共重合体であってもよい。また、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン樹脂、アクリロニトリル-エチレンゴム-スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン樹脂、あるいは各種スチレン系エラストマーであってもよい。ISO1133で測定されるスチレン系樹脂の好ましい分子量(MFR)は0.5~30g/10分であり、より好ましくは3~20g/10分であり、さらに好ましくは5~10g/10分である。スチレン系樹脂の分子量が上記範囲内にあると成形性と機械強度に優れた成形体が得られやすい。
【0057】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂は、アクリロニトリル由来の構造単位を20~35モル%、ブタジエン由来の構造単位を20~30モル%、スチレン由来の構造単位を40~60モル%含有することが好ましい。これらの構造単位の合計は100モル%である。
【0058】
また、スチレン系エラストマーとして、ポリスチレン相をハードセグメントとして有する公知のスチレン系エラストマーも使用できる。具体例には、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SEBS)、およびこれらの水素化物、スチレン・イソブチレン・スチレントリブロック共重合体(SIBS)、スチレン・イソブチレンジブロック共重合体(SIB)等が含まれる。これらの中でも好ましくはスチレン・イソブチレン・スチレントリブロック共重合体(SIBS)、スチレン・イソブチレンジブロック共重合体(SIB)である。
【0059】
(6)アクリル系樹脂
アクリル樹系脂の例には、ポリメタクリレートやポリエチルメタクリレートが含まれ、中でもポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましい。
【0060】
(7)ポリカーボネート
ポリカーボネートの例には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン等から得られるポリカーボネートが含まれる。これらの中でも2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから得られるポリカーボネートが好ましい。
【0061】
なお、ポリカーボネートのISO 1133に準拠して300℃、2.16kg荷重にて測定されるメルトフローレート(MFR)は、2~30g/10分が好ましく、5~20g/10分がより好ましい。ポリカーボネートMFRが当該範囲であると加工性が良好になる。
【0062】
(8)ポリフェニレンオキサイド
ポリフェニレンオキサイドとしては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)が好ましい。
【0063】
(9)塩素系樹脂
塩素系樹脂の例には、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等が含まれる。ポリ塩化ビニルは、塩化ビニルの単独重合体であってもよく、塩化ビニルと塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、プロピレン等との共重合体であってもよい。一方、ポリ塩化ビニリデンは、通常塩化ビニリデン由来の構造単位を85質量%以上含む樹脂であり、例えば塩化ビニリデンと、塩化ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、アリルエステル、不飽和エーテル、スチレン等との共重合体である。また、塩素系樹脂は、塩化ビニル系エラストマーであってもよい。
【0064】
(10)酢酸ビニル系樹脂
酢酸ビニル系樹脂の例には、酢酸ビニルの単独重合体(ポリ酢酸ビニル)や、酢酸ビニルと、エチレン、塩化ビニルとの共重合体が含まれる。これらの中でも、エチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましい。また、ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体、グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体等の変性エチレン-酢酸ビニル共重合体であってもよい。
【0065】
(11)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-エチルメタクリレート共重合体が好ましい。
【0066】
(12)エチレン-(メタ)アクリル酸樹脂やこれらのアイオノマー樹脂
エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、エチレンと各種(メタ)アクリル酸との共重合体である。これらは、さらに金属塩化させて、金属塩(アイオノマー)としてもよい。金属塩の金属元素は、K、Na、CaおよびZnから選ばれる、少なくとも1種類が好ましい。金属元素がK、Na、CaおよびZnであると、変性が容易であるためより好ましい。
【0067】
(13)ビニルアルコール系樹脂
ビニルアルコール系樹脂の例には、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール樹脂等が含まれ、エチレン-ビニルアルコール樹脂が好ましい。エチレン-ビニルアルコール樹脂は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合物の加水分解により得られる。エチレン-ビニルアルコール樹脂は、ポリビニルアルコールのハイガスバリア性や耐油性、透明性を有するとともに、エチレン成分の耐湿性や溶融押出加工性等の特性を併せ持つ。
【0068】
(14)セルロース樹脂
セルロース樹脂の例にはアセチルセルロースが含まれる。セルロース樹脂を使用する場合、フタル酸ジブチル等の可塑剤を併用することで、熱可塑性樹脂としての性質が得られる。
【0069】
(15)熱可塑性エラストマー
熱可塑性エラストマーの例には、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等が含まれ、これらの中でもウレタン系エラストマーが好ましい。
【0070】
ウレタン系エラストマーの例には、熱可塑性ポリウレタン材料が含まれる。熱可塑性ポリウレタン材料の構造は、高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する鎖延長剤およびジイソシアネートとからなる。
【0071】
ここで、原料となる高分子ポリオールは、公知の熱可塑性ポリウレタンと同様の材料を使用可能である。高分子ポリオールには、ポリエステル系およびポリエーテル系がある。これらの中でも反発弾性率が高く、低温特性に優れた熱可塑性ポリウレタン材料を合成できる点で、ポリエーテル系の方が好ましい。ポリエーテルポリオールの例にはポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が含まれ、反発弾性率と低温特性の点でポリテトラメチレングリコールが特に好ましい。また、高分子ポリオールの平均分子量は1000~5000が好ましく、特に反発弾性の高い熱可塑性ポリウレタン材料を合成するためには2000~4000がより好ましい。
【0072】
一方、鎖延長剤は、従来の熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものを使用でき、その例には1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等が含まれる。ただし、これらに限定されない。これらの鎖延長剤の平均分子量は20~15000が好ましい。
【0073】
ジイソシアネートは、従来の熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものを使用でき、その例には4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が含まれる。ただし、これらに限定されない。これらの中でも芳香族ジイソシアネートである4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが特に好ましい。
【0074】
上述した材料からなるウレタン系エラストマーとしては、市販品を好適に用いることができ、例えばディーアイシーバイエルポリマー社製パンデックスT-8290、T-8295、T8260や、大日精化工業社製レザミン2593、2597等が挙げられる。
【0075】
(16)各種共重合ゴム
熱可塑性樹脂は、上述のエラストマー以外の各種ゴムであってもよい。各種共重合ゴムの例には、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、天然ゴム、シリコーンゴム等が含まれる。これらのゴムは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合せて使っても良い。
【0076】
なお、熱可塑性樹脂(A)としては、上述の(1)~(16)の熱可塑性樹脂の中でも、(1)オレフィン系重合体(その酸グラフト変性体も含む)、(3)ポリエステル、(5)スチレン系樹脂、(7)ポリカーボネート、(9)塩素系樹脂、(12)エチレン-(メタ)アクリル酸樹脂やこれらのアイオノマー樹脂、(15)熱可塑性エラストマー、および(16)各種共重合ゴムからなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることが好ましい。また、オレフィン系重合体、ポリエステル、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル、およびポリカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂がより好ましく、ポリエチレン等のエチレン(共)重合体、ポリプロピレン等のプロピレン(共)重合体、ポリ-1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、および2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから得られるポリカーボネートから選ばれることがさらに好ましく、シクロオレフィンポリマー、ポリエステル、またはポリカーボネートであることが特に好ましい。
【0077】
熱可塑性樹脂(A)としてシクロオレフィンポリマーを用いると、導電性樹脂組成物の成形加工の際、臭気、発煙等が少なく、作業環境が良好になりやすい。また、焼け焦げが少ない良好な成形体を得ることができる。また、ポリエステルとポリカーボネートを用いると、導電性樹脂組成物を種々の用途に適用しやすくなる。
【0078】
さらに、上記熱可塑性樹脂(A)は、その分子構造内に環状構造を有することが好ましい。環状構造の例には脂環式構造や芳香環等が含まれる。熱可塑性樹脂(A)が環状構造を有すると、得られる成形体が透明性を有するため種々の用途に適用しやすくなる。
【0079】
1-1-2.熱可塑性樹脂(A)の物性
熱可塑性樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、6.0以下が好ましい。Mw/Mnは、より好ましくは4.0以下であり、さらに好ましくは3.0以下である。Mw/Mnが上記範囲内に含まれると、物性低下を引き起こす低分子量成分が少ないために、外観(表面光沢性)、耐熱性、機械特性に優れる。さらに混練時の溶融粘度上昇を引き起こす高分子量体が少ないために、加工性に優れる。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)共に、ポリスチレン換算により求められる。
【0080】
熱可塑性樹脂(A)の示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)は、250℃以下であるか、または観測されないことが好ましい。融点が観測される場合、融点の上限は、より好ましくは230℃であり、さらに好ましくは200℃であり、特に好ましくは170℃である。また、融点の下限は、好ましくは50℃であり、より好ましくは70℃であり、さらに好ましくは90℃であり、特に好ましくは130℃であり、より好ましくは150℃である。融点が上記範囲にあると、溶融混練による導電性樹脂組成物の調製時や、溶融成形による成形体の作製時に発煙、臭気等が生じ難い。また、ベタつきが生じ難く、耐熱性、機械特性、衝撃強度、衝撃吸収性のバランスに優れる成形体を得ることができる。
【0081】
熱可塑性樹脂(A)の示差走査熱量計(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)は、-140℃~50℃の範囲にあることが好ましく、より好ましくは-120℃~20℃であり、さらに好ましくは-100℃~-10℃である。ガラス転移温度が上記範囲にあると、得られる成形体の長期安定性、耐熱性、衝撃性、機械特性のバランスが良好になる。
【0082】
熱可塑性樹脂(A)の、ISO 1183に準拠し、密度勾配管法に従って測定される密度は、800~1800kg/mの範囲にあることが好ましい。樹脂(A)の密度の下限は、810kg/mがより好ましく、830kg/mがさらに好ましく、860kg/mが特に好ましく、900kg/mがより好ましい。また、樹脂(A)の密度の上限は、1300kg/mがより好ましく、1290kg/mがさらに好ましく、1270kg/mが特に好ましく、1240kg/mがより好ましく、1200kg/mがさらに好ましい。
【0083】
熱可塑性樹脂(A)のJIS K7171:94(ISO 178)に準拠して測定される曲げ弾性率は、1~10000MPaが好ましい。ここで上記曲げ弾性率が、500MPa以上である場合、曲げ弾性率は好ましくは500~7000MPaであり、より好ましくは700~5000MPaであり、特に好ましくは900~3000MPaであり、さらに好ましくは1000~2300MPaである。曲げ弾性率が上記範囲に入ると、導電性樹脂組成物の加工性が優れるだけでなく、得られる成形体の耐傷付き性、耐熱性、機械特性が良好になる。また、上記曲げ弾性率が500MPa未満の場合、好ましくは300MPa未満であり、より好ましくは100MPa未満であり、さらに好ましくは50MPa未満である。曲げ弾性率が上記範囲であると、柔軟性が優れるだけでなく、衝撃吸収性、軽量性、防振性、制振性、制音性に優れた成形体が得られる。さらには、金型転写性、シボ転写性等の意匠性、表面グリップ性に優れた成形体が得られる。
【0084】
1-2.カーボンナノチューブ(B)
カーボンナノチューブ(B)は、チューブ状の炭素同位体であればよい。カーボンナノチューブ(B)の外径は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。カーボンナノチューブ(B)の外径が100nm以下であると、導電性樹脂組成物中で、カーボンナノチューブ(B)によりネットワーク構造が形成されやすく、導電性が高まりやすい。一方、カーボンナノチューブ(B)の外径が1nm以上であると、カーボンナノチューブ(B)の分散が容易になる傾向がある。
【0085】
また、カーボンナノチューブ(B)の繊維長は、3~500μmが好ましく、より好ましくは5~300μmであり、さらに好ましくは7~100μmであり、特に好ましくは9~50μmである。繊維長が3μm以上であると、導電性樹脂組成物中で、カーボンナノチューブ(B)のネットワーク構造が十分に形成されやすく、導電性が十分になりやすい。一方、繊維長が500μm以下であると、カーボンナノチューブ(B)の分散性が良好になりやすい。なお、カーボンナノチューブ(B)の外径および繊維径は、電子顕微鏡観察(SEM)を用いて、100本のカーボンナノチューブの長さおよび外径を測定し、それぞれこれらの平均値を算出することで求められる。
【0086】
また、カーボンナノチューブ(B)のアスペクト比(繊維長/外径)は、30~50000が好ましく、50~30000がより好ましく、100~20000がさらに好ましい。カーボンナノチューブ(B)のアスペクト比が当該範囲であると、分散性が良好になりやすい。
【0087】
カーボンナノチューブ(B)の形状は、チューブ状であればよく、例えば針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン、カップ積層型)であってもよく、トランプ状(プレートレット)、コイル状等であってもよい。また、カーボンナノチューブ(B)は、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンフィブリル、カーボンナノファイバー等とすることができる。カーボンナノチューブ(B)の形状は上記の中でも円筒チューブ状が好ましい。
【0088】
円筒チューブ状のカーボンナノチューブ(B)は、1層以上のグラファイトを巻いて円筒状にした構造を有する。当該円筒チューブ状のカーボンナノチューブ(B)は、グラファイト層を1層のみを巻いた構造の単層カーボンナノチューブであってもよく、グラファイト層を2層以上巻いた多層カーボンナノチューブであってもよい。また、これらが混在していてもよい。ただし、コスト面から多層カーボンナノチューブが好ましい。また、カーボンナノチューブの側面がグラファイト構造ではなく、アモルファス構造であるカーボンナノチューブであってもよい。
【0089】
また、カーボンナノチューブ(B)は、各種表面処理されていてもよく、表面にカルボキシル基等の官能基を導入したカーボンナノチューブ誘導体であってもよい。また、有機化合物や金属原子、フラーレン等を内包させたカーボンナノチューブ等であってもよい。
【0090】
ここで、カーボンナノチューブ(B)は炭素の純度が高いことが好ましく、カーボンナノチューブ(B)100質量%中の炭素の量(以下「炭素純度」とも称する)は85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。炭素純度が85質量%以上であると、導電性樹脂組成物の導電性が高まりやすくなる。
【0091】
導電性樹脂組成物内でカーボンナノチューブ(B)は、二次粒子として存在していてもよい。二次粒子形状は、一次粒子であるカーボンナノチューブが複雑に絡み合った状態であってもよく、直線状のカーボンナノチューブが集合した状態であってもよい。これらの中でも直線状のカーボンナノチューブが集合した状態のほうが、導電性樹脂組成物の導電性が良好になりやすいとの観点で好ましい。
【0092】
上記カーボンナノチューブ(B)は、公知の方法、例えばレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法、燃焼法等で製造できる。ただし、ゼオライトを触媒の担体とし、アセチレンを原料とした熱CVD法が、精製を必要とせず、効率よく純度の高いカーボンナノチューブを製造できる観点で好ましい。
【0093】
カーボンナノチューブ(B)は、市販品であってもよい。市販品の例には、K-Nanos 100P、100T、200P(いずれもKumho Petrochemical社製)、FloTube9000、9100、(いずれもCNano社製)、NC7000(Nanocyl社製)等が含まれる。
【0094】
1-3.芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)
前述のように、導電性樹脂組成物のベースとなる熱可塑性樹脂(A)にカーボンナノチューブ(B)を単に配合しただけでは、熱可塑性樹脂(A)とカーボンナノチューブ(B)の分散性が悪く、均一に混練できないことがある。
【0095】
特に、熱可塑性樹脂(A)に対するカーボンナノチューブ(B)の配合量が多めであったり、カーボンナノチューブ(B)の比表面積が大きめであったりすると、混練時の粘度上昇によって、カーボンナノチューブ(B)が分散しにくいことが多い。そのため、導電性樹脂組成物を成形する際、加工性が低下したり、成形体の均一性が不足したりしやすい。その結果、得られる成形体において、導電性が十分に得られず、さらには得られる成形体の外観(表面光沢性)に問題が生じたり、耐熱性や機械特性、柔軟性(伸び)が十分でなかったりすることがあった。
【0096】
これに対し、本発明者らの検討により、熱可塑性樹脂(A)とカーボンナノチューブ(B)とを混練する際に、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造を50質量%以上含む重合体(C)を配合することで、導電性、外観(表面光沢性)、耐熱性、機械特性、柔軟性、および加工性が良好な導電性樹脂組成物が得られることが明らかとなった。
【0097】
その詳細な機構は明らかでないが、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造を50質量%以上含む重合体(C)は、芳香族構造がカーボンナノチューブ(B)の分子内に存在する二重結合と電気的に相互作用するため、カーボンナノチューブ(B)との親和性が高い。また、当該重合体(C)は、各種樹脂との親和性が高く、例えば熱可塑性樹脂(A)が極性樹脂である場合等にも、その相溶性が良好である。したがって、カーボンナノチューブ(B)が熱可塑性樹脂(A)内に均一に分散されやすくなり、その混練時の摩擦が減る。そして、導電性樹脂組成物の流動性が向上すると推定される。また、導電性樹脂組成物の流動性が向上することで、加工性が向上し、成形体の外観(表面光沢性)が良好になる。さらに、導電性樹脂組成物の流動性の向上により、カーボンナノチューブ(B)もしくはその凝集体の構造破壊が生じ難くなるため、十分な導電性が得られやすくなる。
【0098】
1-3-1.重合体(C)の物性
ここで、重合体(C)は、下記要件(i)~(iv)を満たすことが好ましく、さらに要件(v)や(vi)も満たすことがより好ましい。重合体(C)は、上述の熱可塑性樹脂(A)と異なる化合物であり、例えば以下の物性によって切り分けることができる。
【0099】
(i)重合体(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、300~5000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量(Mn)の上限は、より好ましくは4000であり、さらに好ましくは3000であり、特に好ましくは2000であり、さらに好ましくは1000である。重合体(C)の数平均分子量が上記範囲内にあると、導電性樹脂組成物中のカーボンナノチューブ(B)の分散性が高まり、得られる成形体の導電性、外観(表面光沢性)、機械特性が良好になる。また、導電性樹脂組成物の加工性も良好になる。
【0100】
(ii)芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンを50質量%以上含む重合体(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、9.0以下が好ましい。より好ましくは6.0以下であり、さらに好ましくは4.0以下であり、特に好ましくは3.0以下である。Mw/Mnが上記範囲内に含まれると、カーボンナノチューブ(B)の分散性が低い高分子量成分が少ないために、導電性樹脂組成物から得られる成形体の外観(表面光沢性)や、耐熱性、機械特性等が良好になる。なお、重量平均分子量(Mw)もポリスチレン換算値である。
【0101】
重合体(C)のMw/Mnは、重合時の触媒種や重合温度等により調整できる。一般に未変性ポリオレフィンワックスの重合にはチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒が用いられるが、所望のMw/Mnにするためには、メタロセン触媒を用いるのが好ましい。なお、未変性ポリオレフィンワックスの精製によっても重合体(C)のMw/Mnを調整できる。
【0102】
(iii)重合体(C)のJIS K2207に従って測定される軟化点は、70~170℃の範囲にあることが好ましい。軟化点の上限は、より好ましくは160℃であり、さらに好ましくは150℃であり、特に好ましくは145℃である。また、下限は、より好ましくは80℃であり、更に好ましくは90℃であり、特に好ましくは95℃であり、特に好ましくは105℃である。軟化点が上記上限値以下にあると、導電性樹脂組成物の加工性や、得られる成形体の外観(表面光沢性)、耐熱性、機械特性が良好になる。軟化点が上記下限値以上であると、得られる導電性樹脂組成物において、重合体(C)のブリードアウトが抑制されやすくなる。
【0103】
重合体(C)の軟化点は、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンの重合度により調整することができる。例えば重合体(C)が後述のイソプロペニルトルエンの重合体である場合、重合度を多くすることで、軟化点を上げられる。上記軟化点は、触媒種、重合温度、重合後の精製により調整してもよい。また後述のように、重合体(C)が、ポリオレフィンワックスを芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンで変性した化合物である場合、その軟化点は、未変性ポリオレフィンワックスの組成により調整できる。より具体的には未変性ポリオレフィンワックス中のα-オレフィンの含有量を多くすることで、軟化点を下げられる。また、未変性ポリオレフィンワックス調製時の触媒種や重合温度や、重合後の精製により、上記軟化点を調整することも可能である。
【0104】
(iv)重合体(C)の、JIS K7112に従って密度勾配管法で測定される密度は、900~1200kg/mの範囲にあることが好ましい。より好ましくは950~1150kg/mであり、さらに好ましくは1000~1100kg/mである。重合体(C)の密度が上記範囲内にあると、カーボンナノチューブ(B)の分散性が高まり、得られる成形体の導電性、外観(表面光沢性)、機械特性が良好になる。また、導電性樹脂組成物の加工性も良好になる。
【0105】
重合体(C)が、ポリオレフィンワックスを芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンで変性した化合物である場合、重合体(C)の密度は、後述の未変性ポリオレフィンワックスの組成や重合時の重合温度、水素濃度等によって調整できる。
【0106】
(v)重合体(C)の160℃、B型粘度計、ローター回転数60rpmで測定される溶融粘度は、100~5000mPa・sが好ましく、300~4500mPa・sがより好ましく、600~4000mPa・sがさらに好ましい。重合体(C)の160℃における溶融粘度が当該範囲であると、カーボンナノチューブ(B)の分散性が高まり、得られる成形体の導電性、外観(表面光沢性)、機械特性が良好になる。また、導電性樹脂組成物の加工性も良好になる。
【0107】
1-3-2.重合体(C)の構造および製造方法
芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)の構造は特に制限されず、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位は、主鎖に含まれていてもよく、側鎖に含まれていてもよい。
【0108】
重合体(C)は、例えば芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンのいずれか一方の単独重合体であってもよく、芳香族置換エテンおよび芳香族置換プロペンの共重合体であってもよく、芳香族置換エテンおよび/または芳香族置換プロペンと他のモノマーとの共重合体であってもよい。これらの場合、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位は、通常、主鎖に含まれる。
【0109】
一方で、重合体(C)は、未変性ポリオレフィンワックスを芳香族置換エテンおよび/または芳香族置換プロペンで変性した化合物であってもよい。この場合、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位は、通常、側鎖に含まれる。
【0110】
重合体(C)は、上記の中でも、主鎖に芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンに由来する構造単位を有することが好ましい。
【0111】
ここで、本明細書における、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンとは、エチレンに芳香環が結合した化合物、もしくは、プロペンに芳香環が結合した化合物である。芳香環の種類は特に制限されず、例えば複素環であってもよい。芳香環の例には、フェニル基、ピリジル基、キノリル基、カルバゾリル基、ピロリドン由来の基等が含まれるが、これらに限定されない。
【0112】
芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンの具体例には、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-クロロスチレン、m-クロロスチレンおよびp-クロロメチルスチレン等のスチレン系モノマー;4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、2-イソプロペニルピリジン等のピリジン系モノマー;2-ビニルキノリン、3-ビニルイソキノリン等のキノリン系モノマー;N-ビニルカルバゾール;イソプロペニルトルエン等が含まれる。
【0113】
これらの中でも特にスチレン系モノマーまたはイソプロペニルトルエンが好ましく、α-メチルスチレンまたはイソプロペニルトルエン由来の構造単位を主鎖に含む化合物が好ましい。
【0114】
重合体(C)中の芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位の量は、重合体(C)の質量に対して50質量%であればよく、より好ましくは60質量%であり、さらに好ましくは70質量%であり、特に好ましくは80質量%である。重合体(C)中の芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位の量が50質量%以上であると、重合体(C)とカーボンナノチューブ(B)との相溶性が良好となる。したがって、導電性樹脂組成物の加工性が良好になり、さらには得られる成形体の外観(表面光沢性)、耐熱性、機械特性のバランスが良好となる。
【0115】
芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位の量は、重合体(C)調製時の芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンの仕込み比等から算出される。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)等を用いて重合体(C)を抽出し、NMR等にてその構造を分析することによっても特定できる。
【0116】
(芳香族置換エテンおよび/または芳香族置換プロペンを重合して得られる重合体(C)の調製方法)
芳香族置換エテンおよび/または芳香族置換プロペンの重合体(C)は、触媒の存在下、上述の芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンを単独で、もしくは芳香族置換エテンおよび/または芳香族置換プロペンと、必要に応じて他のモノマーと重合させることで得られる。
【0117】
重合に用いる触媒としては、一般にフリーデルクラフツ触媒として知られているものなどが挙げられ、例えば塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ジクロルモノエチルアルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズ、三フッ化ホウ素等の各種錯体が含まれる。触媒の使用量は、モノマーの総量に対して0.01~5質量%、好ましくは0.05~3質量%である。
【0118】
また、重合反応の際に、反応熱の除去や反応混合物の高粘度化の抑制等のために、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素および脂環族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素溶媒を用いることが好ましい。好ましい炭化水素溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、クメン、シメン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;またはこれらの混合物が含まれる。炭化水素溶媒には、これらが一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。これらの反応溶媒の使用量は、反応混合物中のモノマーの初期濃度が10~80質量%となるような量が好ましい。
【0119】
重合温度は、使用するモノマーや触媒の種類および量等により適宜選択される。通常、-30~50℃が好ましい。一般的な重合時間は0.5~5時間程度であり、通常、1~2時間で重合がほとんど完結する。重合様式としては、回分式または連続式のいずれの方式を採用することもできる。また、多段重合を行うこともできる。
【0120】
重合終了後は、洗浄して触媒残渣を除去することが好ましい。洗浄液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等を溶解したアルカリ水溶液;メタノール等のアルコール;等が好ましく、特にメタノールによる洗浄脱灰が好ましい。洗浄終了後は、未反応モノマー、重合溶媒等を減圧留去して、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)を得ることができる。
【0121】
溶媒の除去方法は、常圧蒸留、減圧蒸留、水蒸気蒸留のような物質毎の蒸気圧の差を利用して濃縮する方法、オープンカラム、フラッシュカラムのようにシリカゲル等の充填剤に対する親和性や分子サイズの差を利用して濃縮する方法が挙げられる。中でも、重合体(C)の熱分解抑制や濃縮効率の観点から、減圧蒸留法が好ましい。
【0122】
(ポリオレフィンワックスを芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンで変性して得られる重合体(C)の調製方法)
上述のように重合体(C)は、未変性ポリオレフィンワックスを上述の芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンで変性した化合物であってもよい。以下、未変性ポリオレフィンワックスの構造およびその調製方法について先に説明し、その後、これらを芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンで変性する方法について説明する。
【0123】
・未変性ポリオレフィンワックスの構造
未変性ポリオレフィンワックスは、エチレンおよび炭素原子数3~12のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種の単独重合体もしくは共重合体が好ましい。炭素原子数3~12のα-オレフィンの例には、炭素原子数3のプロピレン、炭素原子数4の1-ブテン、炭素原子数5の1-ペンテン、炭素原子数6の1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、炭素原子数8の1-オクテン等が含まれ、好ましくはプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンである。未変性ポリオレフィンワックスは、1種単独の重合体からなるものでもよいし、2種以上の重合体を混合したものであってもよい。
【0124】
以下、未変性ポリオレフィンワックスの具体例として、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、4-メチル-1-ペンテン系ワックスについて説明するが、未変性ポリオレフィンワックスは、これらに限定されない。
【0125】
(1)ポリエチレン系ワックス
未変性ポリオレフィンワックスがポリエチレン系ワックスである場合、特開2009-144146号公報等に記載されているポリエチレン系ワックスが好ましい。以下簡単に記載する。
【0126】
ポリエチレン系ワックスは、例えば、エチレン単独重合体またはエチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンとの共重合体とすることができる。エチレン単独重合体の具体例には、高密度ポリエチレンワックス、中密度ポリエチレンワックス、低密度ポリエチレンワックス、直鎖状低密度ポリエチレンワックスが含まれる。
【0127】
一方、ポリエチレン系ワックスがエチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンとの共重合体である場合、エチレン由来の構造単位の量(a)は、91.0~99.9モル%が好ましく、より好ましくは93.0~99.9モル%であり、さらに好ましくは95.0~99.9モル%であり、特に好ましくは95.0~99.0モル%である。一方、炭素原子数3以上のα-オレフィン由来の構造単位の量(b)は、0.1~9.0モル%が好ましく、好ましくは0.1~7.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~5.0モル%であり、特に好ましくは1.0~5.0モル%である。ただし、(a)+(b)=100モル%である。ポリエチレン系ワックスの構造単位の割合は、13C-NMRスペクトルの解析により求められる。
【0128】
エチレンと共重合する炭素原子数3~12のα-オレフィンの例には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれ、好ましくは、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンであり、さらに好ましくは炭素原子数が3~8のα-オレフィンであり、特に好ましくはプロピレン、1-ブテンであり、さらに好ましくはプロピレンである。エチレンとプロピレンや1-ブテンとを共重合すると、重合体(C)が硬くなり、べたが少なくなる傾向にある。そのため、得られる成形体の表面性が良好となる。また得られる成形体の機械特性や耐熱性を高める点でも好ましい。その理由は明らかではないが、プロピレンや1-ブテンは、他のα-オレフィンと比較して、少量の共重合で効率的に融点を下げる。そのため、同じ融点で比べると結晶化度が高い傾向にあり、このことが要因と推察する。エチレンと共重合するα-オレフィンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0129】
上記ポリエチレン系ワックスは、熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン系樹脂である場合に特に好適に用いられる。これらを組み合わせると、熱可塑性樹脂(A)と重合体(C)との相容性が高まり、得られる成形体の外観(表面光沢性)、加工性、機械特性、耐熱性のバランスが良好となる。また、ポリエチレン系ワックスは、熱可塑性樹脂(A)がポリカーボネートである場合にも好適に用いられる。この場合、熱可塑性樹脂(A)(ポリカーボネート)とポリエチレン系ワックスとの適度な相溶性によって、半導体樹脂組成物の加工性や、得られる成形体の金型からの離型性、機械特性のバランス等が良好になりやすい。
【0130】
(2)ポリプロピレン系ワックス
未変性ポリオレフィンワックスは、ポリプロピレン系ワックスであってもよい。ポリプロピレン系ワックスは、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンの共重合体、あるいは、プロピレンと炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。
【0131】
プロピレンとエチレンとを共重合する場合は、プロピレン由来の構造単位を60~99
.5モル%とすることが好ましい。プロピレン由来の構造単位量は、より好ましくは80~99モル%であり、さらに好ましくは90~98.5モル%であり、特に好ましくは95~98モル%である。このようなポリプロピレン系ワックスを用いると、外観(表面光沢性)、機械特性、耐熱性のバランスに優れる成形体が得られやすい。
【0132】
ポリプロピレン系ワックスを、プロピレンと、炭素原子数4~12のα-オレフィンとを共重合体させた化合物とする場合、炭素原子数4~12のα-オレフィンの例には、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれる。これらの中でも、1-ブテンが特に好ましい。
【0133】
ポリプロピレン系ワックスがプロピレン・α-オレフィン共重合体である場合、プロピレン由来の構造単位の量(a’)は60~90モル%であることが好ましく、より好ましくは65~88モル%であり、さらに好ましくは70~85モル%であり、特に好ましくは75~82モル%である。一方、炭素原子数4以上のα-オレフィン由来の構造単位の量(b’)は10~40モル%が好ましく、より好ましくは12~35モル%であり、さらに好ましくは15~30モル%であり、特に好ましくは18~25モル%である。ただし、(a’)+(b’)=100モル%である。
【0134】
このようなポリプロピレンワックスは、熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレン系樹脂である場合に特に好適に用いられる。これらを組み合わせると、熱可塑性樹脂(A)と重合体(C)との相容性が高まり、得られる成形体の外観(表面光沢性)や、機械特性、耐熱性のバランスが良好となる。また、導電性樹脂組成物の加工性も良好になる。
【0135】
(3)4-メチル-1-ペンテン系ワックス
未変性ポリオレフィンワックスとしては、国際公開第2011/055803号に記載の4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体を熱分解して得たものや、特開2015-028187号公報に記載された、4-メチル-1-ペンテン系重合体が好適である。
【0136】
(4)未変性ポリオレフィンワックスの調製方法
上述の未変性ポリオレフィンワックスは、エチレンやプロピレン、4-メチル-1-ペンテン等を直接重合したものであってもよく、高分子量の(共)重合体を準備し、これらを熱分解して得てもよい。熱分解する場合、300~450℃で5分~10時間熱分解することが好ましい。この場合、未変性ポリオレフィンワックスには、不飽和末端が生じる。H-NMRにより測定される、1000個の炭素原子あたりのビニリデン基(不飽和末端)の個数が0.5~5個であると、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンを50質量%以上含む重合体(C)とカーボンナノチューブ(B)との親和性が高まりやすい。なお、未変性ポリオレフィンワックスは、溶媒に対する溶解度の差で分別する溶媒分別、または蒸留等の方法で精製されていてもよい。
【0137】
一方、エチレンやプロピレン、4-メチル-1-ペンテン等を直接重合して未変性ポリオレフィンワックスを得る場合、その方法は限定されない。種々公知の製造方法を適用でき、例えば、エチレン等をチーグラー/ナッタ触媒またはメタロセン系触媒により重合してもよい。
【0138】
(5)芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンによる変性方法
上記未変性モノマーを芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンを変性する方法は特に制限されない。使用する芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンは、上述の芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンのいずれであってもよいが、スチレン系モノマーが好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0139】
例えば、原料となる未変性ポリオレフィンワックスと、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン(例えばスチレン等)とを、有機過酸化物等の重合開始剤の存在下で溶融混練する方法であってもよい。また、原料となる未変性ポリオレフィンワックスと、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン(例えばスチレン等)とを有機溶媒に溶解した溶液に有機過酸化物等の重合開始剤を添加し、溶融混練する方法であってもよい。
【0140】
溶融混練には、オートクレーブ、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー、リボンブレンダー、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等、公知の装置を用いることができる。これらの中でも、オートクレーブ等のバッチ式溶融混練性能に優れた装置を使用すると、各成分が均一に分散・反応した重合体(C)が得られる。また連続式に比べ、バッチ式は滞留時間を調整しやすく、また滞留時間を長く取れるため、変性率や変性効率を高めることが比較的容易であるとの観点で好ましい。
【0141】
なお、未変性ポリオレフィンワックスを芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンで変性した後、これを導電性樹脂組成物の製造方法に合わせて、加工してもよい。例えば重合体(C)を、粉体状、タブレット状、ブロック状に加工してもよい。一方で、重合体(C)を水や有機溶媒中に分散させたり溶解させたりしてもよい。重合体(C)を水や有機溶媒に溶解もしくは分散させる方法は特に限定されない。例えば、攪拌によって重合体(C)を溶解させたり分散させてもよい。また、攪拌しながら加熱してもよい。
【0142】
さらに、水や有機溶媒中に溶解または分散させた後に析出させ、重合体(C)を微粒子化してもよい。重合体(C)を微粒子化する方法としては、例えば以下の方法がある。まず、重合体(C)が60~100℃で析出するように溶媒組成を調整する。そして、当該溶媒および重合体(C)の混合物を加熱して、溶媒中に芳香族置換エテンまたは重合体(C)を溶解または分散させる。そして当該溶液を、平均冷却速度1~20℃/時間(好ましくは2~10℃/時間)で冷却し、重合体(C)を析出させる。またこの後、貧溶媒を加えて、析出をさらに促進させてもよい。
【0143】
1-4.任意成分
本発明の導電性樹脂組成物には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、任意の成分を含んでいてもよい。任意成分の例には、臭素化ビスフェノール、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、トリフェニルホスフェート、ホスホン酸アミドおよび赤燐等のような難燃剤;三酸化アンチモンおよびアンチモン酸ナトリウム等のような難燃助剤;燐酸エステルおよび亜燐酸エステル等のような熱安定剤;ヒンダードフェノール等のような酸化防止剤;耐熱剤;耐候剤;光安定剤;離型剤;流動改質剤;着色剤;滑剤;帯電防止剤;結晶核剤;可塑剤;発泡剤等が含まれる。
【0144】
導電性樹脂組成物における任意成分の含有量は、熱可塑性樹脂(A)およびカーボンナノチューブ(B)の合計100質量部に対して好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以下である。
【0145】
2.導電性樹脂組成物の製造方法
本発明の導電性樹脂組成物は、種々の方法を利用して製造することができる。例えば、熱可塑性樹脂(A)と、カーボンナノチューブ(B)と、上記重合体(C)と、任意成分とを、同時にまたは任意の順序で、タンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、単軸或いは二軸の押出機等で混合する方法であってもよい。
【0146】
また、上記重合体(C)をカーボンナノチューブ(B)に含浸させた後、これらを熱可塑性樹脂(A)と混合してもよい。カーボンナノチューブ(B)に上記重合体(C)を含浸させる方法は、特に限定されない。例えば、溶融した上記重合体(C)とカーボンナノチューブ(B)とを接触させた状態で、カーボンナノチューブ(B)にロールやバーで張力をかけたり、カーボンナノチューブ(B)の拡幅と集束とを繰り返したり、カーボンナノチューブ(B)に圧力や振動を加えたりする方法が挙げられる。これらの方法によれば、上記重合体(C)をカーボンナノチューブ(B)の内部まで含浸させることができる。
【0147】
当該含浸方法は、加熱した複数のロールやバーの表面にカーボンナノチューブ(B)を接触させ、カーボンナノチューブ(B)を拡幅させた状態で上記重合体(C)と接触させる方法等であってもよい。また特に、絞り口金、絞りロール、ロールプレス、ダブルベルトプレスを用いて、上記重合体(C)をカーボンナノチューブ(B)に含浸させる方法が好適である。なお、本発明では、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む上記重合体(C)を使用するため、このような含浸作業を行うとしても、上記重合体(C)が容易にカーボンチューブ(B)の中に入りこみやすく、短時間で効率よく作業できる。
【0148】
また、本発明の導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)とカーボンナノチューブ(B)と上記重合体(C)とを含むマスターバッチを用意する工程と、マスターバッチと、熱可塑性樹脂樹脂(A)と、必要に応じてカーボンナノチューブ(B)または上記重合体(C)とを溶融混練する工程と、を経て製造してもよい。
【0149】
マスターバッチには、熱可塑性樹脂(A)とカーボンナノチューブ(B)と上記重合体(C)とが含まれる。本発明の導電性樹脂組成物において、カーボンナノチューブ(B)を熱可塑性樹脂(A)に均一に分散させにくい場合がある。そこで、熱可塑性樹脂(A)とカーボンナノチューブ(B)と上記重合体(C)とを含むマスターバッチを調製し、さらにマスターバッチと熱可塑性樹脂(A)とを混合させることで、均一に分散させることができる。マスターバッチを作製することで、上記重合体(C)がカーボンナノチューブ(B)を被覆しやすくなり、カーボンナノチューブ(B)が導電性樹脂組成物(ひいては成形体)の表面から突出しにくくなる。そのため、得られる成形体の表面光沢性が高まり、成形体の美観や意匠性が改善される。また、上記重合体(C)がカーボンナノチューブ(B)を被覆しやすくなることで、機械特性、耐熱性が改善される。
【0150】
マスターバッチにおけるカーボンナノチューブ(B)と上記重合体(C)との含有質量比(カーボンナノチューブ(B)/上記重合体(C))は、0.1~30が好ましく、1~25がより好ましく、2~20がさらに好ましい。含有質量比が30以下であると、カーボンナノチューブ(B)の割合が相対的に高すぎないので、マスターバッチの製造時にカーボンナノチューブ(B)の凝集構造が破壊されにくい。その結果、導電性樹脂組成物や成形体としたときに、十分な導電性が得られる。また、含有質量比が0.1以上であると、上記重合体(C)の割合が相対的に高すぎないため、溶融粘度が低くなりすぎず、マスターバッチを製造しやすい。さらに、カーボンナノチューブ(B)が少なすぎないため、高い導電性が得られやすい。
【0151】
なお、マスターバッチは、前述の任意成分を含んでいてもよい。マスターバッチは、各成分をタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、単軸或いは二軸の押出機等で混合して製造できる。
【0152】
3.導電性樹脂組成物の用途
本発明の導電性樹脂組成物は、例えば射出成形、押出成形、圧縮成形等により成形し、成形体として使用される。なお、これらの成形方法の中でも、意匠性と成形性の観点から射出成形法が好ましい。
【0153】
本発明の導電性樹脂組成物は、家庭用品から工業用品に至る広い用途の成形体の製造に使用される。用途の例には、電気部品、電子部品、自動車用部品、機械機構部品、食品容器、フィルム、シート、繊維等が挙げられる。その具体例には、プリンター、パソコン、ワープロ、キーボード、PDA(小型情報端末機)、電話機、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、WiFiルーター、ファクシミリ、複写機、ECR(電子式金銭登録機)、電卓、電子手帳、電子辞書、カード、ホルダー、文具等の事務・OA機器;洗濯機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、照明器具、ゲーム機、アイロン、炬燵等の家電機器;TV、VTR、ビデオカメラ、デジタルカメラ、一眼レフカメラ、携帯オーディオ端末、ラジカセ、テープレコーダー、ミニディスク、CDプレイヤー、スピーカー、液晶ディスプレイ等のAV機器;コネクター、リレー、コンデンサー、スイッチ、プリント基板、コイルボビン、半導体封止材料、電線、ケーブル、トランス、偏向ヨーク、分電盤、時計等の電気・電子部品および通信機器等が含まれる。
【0154】
また、用途の例には、座席(詰物、表地等)、ベルト、天井張り、コンパーチブルトップ、アームレスト、ドアトリム、リアパッケージトレイ、カーペット、マット、サンバイザー、ホイルカバー、タイヤ、マットレスカバー、エアバック、絶縁材、吊り手、吊り手帯、電線被服材、電気絶縁材、塗料、コーティング材、上張り材、床材、隅壁、デッキパネル、カバー類、合板、天井板、仕切り板、側壁、カーペット、壁紙、壁装材、外装材、内装材、屋根材、防音板、断熱板、窓材等の自動車、車両、船舶、航空機および建築用材料;衣類、カーテン、シーツ、合板、合繊板、絨毯、玄関マット、シート、バケツ、ホース、容器、眼鏡、鞄、ケース、ゴーグル、スキー板、ラケット、テント、楽器等の生活・スポーツ用品等も含まれる。
【0155】
さらに、用途の例には、シャンプーや洗剤等のボトル、食用油、醤油等の調味料ボトル、ミネラルウォーターやジュース等の飲料用ボトル、弁当箱、茶碗蒸し用椀等の耐熱食品用容器、皿、箸等の食器類、その他各種食品容器や、包装フィルム、包装袋等も含まれる。
【実施例
【0156】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0157】
1.原料の準備
[熱可塑性樹脂(A)]
熱可塑性樹脂(A)として、三菱エンジニアリングプラスチック社製ユーピロンS-2000F(ポリカーボネート、MFR10g/10分、密度1200kg/m、曲げ弾性率2300MPa)を用いた。なお、これらの物性はそれぞれ下記条件で測定した。
【0158】
<MFR>
ISO 1133に準拠し、300℃、2.16kg荷重で測定した。
【0159】
<密度>
ISO 1183に準拠し測定した。
【0160】
[カーボンナノチューブ(B)]
Kumho Petrochemical社製K-Nanos 100P(かさ密度20~40g/L、外径3~15nm、長さ10~50μm)を用いた。なお、これらの物性はそれぞれ下記条件で測定した。
【0161】
<かさ密度>
ASTM D1895に準拠し測定した。
【0162】
<外径および長さ>
電子顕微鏡観察(SEM)を用いて、100本のカーボンナノチューブの長さおよび外径を測定し、それぞれこれらの平均値を採用した。
【0163】
[重合体(C)および重合体(C’)]
芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造を50質量%以上含む重合体(C)として、表1に示す重合体O1~O3を使用した。また、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造を50質量%未満含む重合体(C’)として、表1に示す重合体O4~O6を用いた。当該重合体O1~O6は、後述の製造方法で製造した。また、下記方法で分析した結果を表1に示す。なお、下記表1において、C2はエチレンを表し、C3はプロピレンを表す。
【0164】
<組成および芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンの量>
重合体O1~O6の組成については、13C-NMRスペクトルの解析により求めた。なお、重合体O1~O6中の芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンの量は、仕込み比から特定した。
【0165】
13C-NMRの測定条件
装置:ブルカーバイオスピン社製AVANCEIII cryo-500型核磁気共鳴装置
測定核:13C(125MHz)
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:45°(5.00μ秒)
ポイント数:64k
測定範囲:250ppm(-55~195ppm)
繰り返し時間:5.5秒
積算回数:128回
測定溶媒:オルトジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1(体積比))
試料濃度:60mg/0.6mL
測定温度:120℃
ウインドウ関数:exponential(BF:1.0Hz)
ケミカルシフト基準:δδシグナル29.73ppm
【0166】
<数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)>
重合体O1~O6の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、GPC測定から求めた。測定は以下の条件で行った。そして、市販の単分散標準ポリスチレンを用いた検量線から、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を求めた。
装置:ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC2000型(Waters社製)
溶剤:o-ジクロロベンゼン
カラム:TSKgel GMH6-HT×2、TSKgel GMH6-HTLカラム×2(何れも東ソー社製)
流速:1.0ml/分
試料:0.15mg/mL o-ジクロロベンゼン溶液
温度:140℃
【0167】
<密度>
JIS K7112に準拠して測定した。
【0168】
<軟化点>
JIS K2207に準拠して測定した。
【0169】
<160℃での溶融粘度>
溶融粘度は、160℃、B型粘度計、ローター回転数60rpmで測定した。
【0170】
【表1】
【0171】
<重合体O1の調製>
攪拌翼を備えた実容量1270mlのオートクレーブに、モノマーとしてα-メチルスチレンおよび溶媒として脱水精製したトルエンの混合物(容量比:α-メチルスチレン/トルエン=1/1)と、脱水精製したトルエンで10倍に希釈したボロントリフロライドフェノラート錯体(フェノール1.7倍当量)とを連続的に供給し、反応温度を5℃で重合反応させた。α-メチルスチレンおよびトルエンの混合物の供給量は1.0リットル/時間、希釈した触媒の供給量は90ミリリットル/時間とした。引き続き、この反応混合物を2段目のオートクレーブに移送し、5℃で重合反応を続けさせた後、1段目と2段目のオートクレーブ中での合計滞留時間が2時間になった所で、連続的に反応混合物を排出し、滞留時間の3倍となった所で1リットルの反応混合物を採取し、重合反応を終了させた。重合終了後、採取した反応混合物に1規定のNaOH水溶液を添加し、触媒残さを脱灰した。更に、得られた反応混合物を多量の水で5回洗浄した後、エバポレーターで溶媒および未反応モノマーを減圧留去して、α-メチルスチレン重合体O1を得た。
【0172】
<重合体O2の調製>
モノマーをイソプロペニルトルエンに変更した以外は上記の重合体O1と同様の方法でイソプロペニルトルエン重合体O2を得た。
【0173】
<重合体O3の調製>
(1)触媒の調製
内容積1.5リットルのガラス製オートクレーブ内で、市販の無水塩化マグネシウム25gをヘキサン500mlで懸濁させた。これを30℃に保ち、撹拌しながらエタノール92mlを1時間かけて滴下し、1時間反応させた。続いて、ジエチルアルミニウムモノクロリド93mlを1時間かけて滴下し、さらに1時間反応させた。その後、四塩化チタン90mlを滴下し、反応容器を80℃に昇温し、1時間反応させた。そして、固体部をデカンテーションにより遊離のチタンが検出されなくなるまでヘキサンで洗浄した。その後、固形分(触媒)をヘキサンに懸濁させて、チタン濃度を滴定により定量し、未変性ポリオレフィンワックスの調製に供した。
【0174】
(2)エチレン・プロピレン共重合体(未変性ポリオレフィンワックス)の調製
充分に窒素置換した内容積2リットルのステンレス製オートクレーブにヘキサン930mlおよびプロピレン70mlを装入し、水素を20.0kg/cm(ゲージ圧)となるまで導入した。次いで、系内の温度を170℃に昇温させた後、トリエチルアルミニウム0.1ミリモル、エチルアルミニウムセスキクロリド0.4ミリモル、および上記の方法で得られた触媒のヘキサン懸濁液を、チタン成分の量が原子換算で0.008ミリモルとなるようにエチレンで圧入し、重合を開始させた。
その後、エチレンのみを連続的に供給することにより全圧を40kg/cm(ゲージ圧)に保ち、170℃で40分間重合させた。そして、少量のエタノールを系内に添加して重合を停止させ、未反応のエチレンおよびプロピレンをパージした。得られたポリマー溶液を、100℃、かつ減圧下で一晩乾燥させて、エチレン・プロピレン共重合体(未変性ポリオレフィンワックス)を得た。
【0175】
(3)未変性ポリオレフィンワックスのスチレン変性
上述の方法で得られた未変性ポリオレフィンワックス200gをガラス製反応器に仕込み、窒素雰囲気下160℃にて溶融させた。次いで、スチレンモノマー300gおよびジ-t-ブチルペルオキシド(以下「DTBPO」とも称する)30gを、反応系(温度160℃)に5時間かけて連続供給した。そして、1時間加熱反応させた後、溶融状態のまま10mmHg真空中で0.5時間脱気処理して揮発分を除去した。その後、反応物を冷却し、重合体O3を得た。
【0176】
<重合体O4~O5の調製>
未変性ポリオレフィンワックスを調製する際の反応時間を変更した以外は、上記の重合体O3と同様に、重合体O4および重合体O5を得た。
【0177】
<重合体O6の調製>
重合体O3を調製するに使用した未変性ポリオレフィンワックスを重合体O6とした。
【0178】
2.導電性樹脂組成物の調製
[実施例1]
熱可塑性樹脂(A)93.5質量部、カーボンナノチューブ(B)5質量部、および芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペン由来の構造単位を50質量%以上含む重合体(C)(重合体O1)1.5質量部を、同方向回転二軸押出機 HK25D(パーカーコーポレーション社製:φ25mm、L/D=41)を用いて溶融混練した。そして、シリンダー温度280℃のもと押出して、ペレット化した導電性樹脂組成物を得た。
【0179】
[実施例2~3、比較例1~3]
重合体O1を、表2に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に導電性樹脂組成物を得た。
【0180】
[比較例4]
重合体O1~O6を添加せず、熱可塑性樹脂(A)の量を95質量部とした以外は、実施例1と同様に導電性樹脂組成物を得た。
【0181】
3.導電性樹脂組成物の評価
各実施例および比較例で作製した導電性樹脂組成物について、以下の評価を行った。結果を表2に示す。なお、表2には、各導電性樹脂組成物の組成(質量比)も示す。
【0182】
<トルク>
上述の実施例および比較例において、導電性樹脂組成物を二軸押出機でペレット化した時のトルクを測定し平均値を算出した。
【0183】
<樹脂圧力>
上述の実施例および比較例において、導電性樹脂組成物を二軸押出機でペレット化した時の樹脂圧力を測定し、平均値を算出した。
<樹脂温度>
上述の実施例および比較例において、導電性樹脂組成物を二軸押出機でペレット化した時のダイス近傍の樹脂温度を測定した。
【0184】
<導電性(体積固有抵抗)>
各実施例および比較例で作製した導電性樹脂組成物のペレットを、120℃で8時間乾燥させた後、射出成形機(ニイガタマシンテクノ社製、ニイガタNN100)を用いて、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数60rpm、射出圧力130MPa、金型温度90℃の条件で射出成形し、試験片を作製した。試験片の形状は、JIS K7194に準拠した形状(100×100×3mm)とした。そして、当該試験片を用い、JIS K7194に準拠して体積固有抵抗を測定した。
【0185】
<光沢性(フローマーク)>
各実施例および比較例で作製した導電性樹脂組成物のペレットを、導電性試験と同様に射出成形し、試験片を作製した。なお、試験片の形状は、JIS K7161に準拠した形状とした。試験片表面を目視観察しフローマークの程度を以下の基準で判定した。
◎:フローマーク無し
○:突き出しピン跡の周辺に大きさが2mm未満のフローマークあり
△:突き出しピン跡の周辺に大きさが2mm以上5mm未満のフローマークあり
×:突き出しピン跡の周辺に大きさが5mm以上のフローマークあり
【0186】
<引張強度、引張伸び>
各実施例および比較例で作製した導電性樹脂組成物のペレットを、導電性試験と同様に射出成形し、試験片を作製した。なお、試験片の形状は、JIS K7161に準拠した形状とした。そして、射出成形した試験片(ISO万能試験片)を用いて、JIS K7161に基づき、チャック間距離115mm、試験速度50mm/分の条件で引張強度および引張伸びを測定した。
【0187】
<曲げ強度、曲げ弾性率>
各実施例および比較例で作製した導電性樹脂組成物のペレットを、導電性試験と同様に射出成形し、試験片を作製した。なお、試験片の形状は、JIS K7171に準拠した形状とした。当該試験片(ISO万能試験片)を用いて、JIS K7171に基づき、試験速度2mm/min、曲げスパン64mmの条件で曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。
【0188】
【表2】
【0189】
表2に示されるように、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンを50質量%以上含む重合体(C)を含む導電性樹脂組成物(実施例1~3)は、重合体(C)もしくは重合体(C’)を一切含まない導電性樹脂組成物(比較例4)と比較して、導電性が高く(体積固有抵抗が低く)、外観性が非常に優れていた。
【0190】
また、芳香族置換エテンまたは芳香族置換プロペンを50質量%未満含む重合体(C’)を含む場合には、重合体(C)もしくは重合体(C’)を一切含まない導電性樹脂組成物(比較例4)より導電性が低い(体積固有抵抗が高まる)ことがあった(比較例1および3)。さらに、重合体(C’)を含む場合には、いずれもフローマークが生じやすく、光沢性が劣っていた(比較例1~3)。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明の導電性樹脂組成物によれば、高い導電性と優れた外観とを兼ね備えた成形体が得られる。したがって、家庭用品から工業用品に至る広い用途に適用できる。