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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】蓄熱槽のスロッシング吸収機構
(51)【国際特許分類】
   B65D 90/22 20060101AFI20231012BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20231012BHJP
   B65D 88/34 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B65D90/22 E
F28D20/00 B
B65D90/22 D
B65D88/34 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020025379
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130469
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】澤井 淳司
(72)【発明者】
【氏名】津田 和夏希
(72)【発明者】
【氏名】金重 順一
(72)【発明者】
【氏名】阿知波 晃平
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-174458(JP,A)
【文献】特開昭60-243596(JP,A)
【文献】特開昭46-005039(JP,A)
【文献】実開平02-125034(JP,U)
【文献】実開昭56-168520(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 90/22
F28D 20/00
B65D 88/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面を掘削して内部に熱媒体を貯留可能に形成した蓄熱槽のスロッシング吸収機構であって、
前記地面の掘削部に接する耐熱遮水シートと、
貯留された前記熱媒体の表面に接する断熱蓋とを有し、
前記地面の地表面から前記表面までは、所定の余裕高を有し、
前記耐熱遮水シートと前記断熱蓋との外縁部は、前記余裕高に沿って重畳して接合される折返部を有し、
前記折返部には、前記蓄熱槽内部と外部とを連通する圧力抜を有し、
前記圧力抜は、前記折返部から延びる第1管部と、前記第1管部の先端から略直角に屈曲して形成された第2管部とを有することを特徴とする蓄熱槽のスロッシング吸収機構。
【請求項2】
請求項に記載の蓄熱槽のスロッシング吸収機構において、
前記第2管部の先端は前記折返部と逆方向に向いていることを特徴とする蓄熱槽のスロッシング吸収機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蓄熱槽のスロッシング吸収機構において、
前記圧力抜は、前記蓄熱槽内の圧力が所定の圧力を超えた場合に前記内部と外部とを連通させる解放機構を有することを特徴とする蓄熱槽のスロッシング吸収機構。
【請求項4】
請求項に記載の蓄熱槽のスロッシング吸収機構において、
前記解放機構は、前記圧力抜の先端に取り付けられた蓋体であることを特徴とする蓄熱槽のスロッシング吸収機構。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の蓄熱槽のスロッシング吸収機構において、
前記圧力抜は、前記断熱蓋の外縁部のうち、前記折返部に近接して形成されることを特徴とする蓄熱槽のスロッシング吸収機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に設置された蓄熱槽の耐震性確保に関するスロッシング吸収機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製油所に設置されている石油タンクや化学プラントに設置されている貯留タンクに地震によって揺れが作用すると、タンク内に貯留されている液体の液面が揺れることで液面が変動してタンク外に液体が漏洩する所謂スロッシングが発生することが知られている。
【0003】
このようなスロッシングの対策として、種々の構造が知られており、例えば、特許文献1に記載されているように、タンクに貯留された液体を覆う浮き屋根の下側に配置されるフロート構造体と、前記フロート構造体に支持され、前記液体の流速を減衰させる減衰体と、を備え、前記フロート構造体が、複数の棒状要素を組み合わせてなる平面架構と、前記浮き屋根との接触による前記平面架構の損傷を防止する緩衝材とを具備しているスロッシング減衰装置であって、前記緩衝材をリング状又はC字状に成形して前記棒状要素に外嵌したこと構造が知られている。
【0004】
このような特許文献1に記載されたスロッシング減衰装置によれば、緩衝材が棒状要素から脱落する可能性が極めて小さくなるので、浮き屋根との接触による損傷を長期間に亘って防止することが可能となる。特に、緩衝材を完全なリング状とすれば、引きちぎる等しない限り棒状要素から脱落することがなく、また、緩衝材をリング状又はC字状とすれば、接着剤やボルトなどを使用せずとも、棒状要素にしっかりと固定することが可能となるので、部品点数と組付工数とを削減することが可能となり、ひいては、スロッシング減衰装置の製作コストを削減することが可能となる。加えて、平面架構を複数の棒状要素に分解することが可能となるので、搬入経路が狭小な場合であっても、容易に搬入することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4787690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたスロッシング減衰装置によると、緩衝材をリング状又はC字状に成形して棒状要素に外嵌しているので、減衰構造が複雑となり、部品点数の増加による設置コストを抑えることが難しいという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、より簡易な構造で蓄熱槽のスロッシングを吸収することができる蓄熱槽のスロッシング吸収機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構は、地面を掘削して内部に熱媒体を貯留可能に形成した蓄熱槽のスロッシング吸収機構であって、前記地面の掘削部に接する耐熱遮水シートと、貯留された前記熱媒体の表面に接する断熱蓋とを有し、前記地面の地表面から前記表面までは、所定の余裕高を有し、前記耐熱遮水シートと前記断熱蓋との外縁部は、前記余裕高に沿って重畳して接合される折返部を有し、前記折返部には、前記蓄熱槽内部と外部とを連通する圧力抜を有し、前記圧力抜は、前記折返部から延びる第1管部と、前記第1管部の先端から略直角に屈曲して形成された第2管部とを有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構において、前記第2管部の先端は前記折返部と逆方向に向いていると好適である。
【0012】
また、本発明に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構において、前記圧力抜は、前記蓄熱槽内の圧力が所定の圧力を超えた場合に前記内部と外部とを連通させる解放機構を有すると好適である。
【0013】
また、本発明に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構において、前記解放機構は、前記圧力抜の先端に取り付けられた蓋体であると好適である。
【0014】
また、本発明に係る蓄熱層のスロッシング吸収機構において、前記圧力抜は、前記断熱蓋の外縁部のうち、前記折返部に近接して形成されると好適である。
【0015】
上記発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構によれば、地面の地表面から熱媒体の表面までに所定の余裕高を有し、耐熱遮水シートと断熱蓋とは、該余裕高に沿って折り返される折返部によって接合されているので、スロッシングが発生して貯留された熱媒体が揺れた場合でも余裕高によって熱媒体が蓄熱槽の外部へ漏洩することを防止することができ、また、余裕高を超える揺れが生じた場合であっても、折返部が延ばされることでスロッシングによる熱媒体の揺れを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構の断面図。
図2図1におけるA部拡大図。
図3】スロッシングにより水位が上昇した状態を示す図。
図4図3の状態からさらに水位が上昇した状態を示す図。
図5】本実施形態に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構の変形例を示す断面図。
図6図5におけるB部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本実施形態に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構の断面図であり、図2は、図1におけるA部拡大図であり、図3は、スロッシングにより水位が上昇した状態を示す図であり、図4は、図3の状態からさらに水位が上昇した状態を示す図であり、図5は、本実施形態に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構の変形例を示す断面図であり、図6は、図5におけるB部拡大図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る蓄熱槽1は、一辺が略90m程度の上面が矩形状の蓄熱槽であり、当該蓄熱槽1に熱水を供給する熱水生産部としての図示しない熱プラントが併設されている。この熱プラントは、熱媒体としての熱水を生産することができればどのような構成を採用しても構わないが、例えば太陽熱パネルを用いた太陽熱プラントとして構成すると好適である。
【0021】
本実施形態に係る蓄熱槽1は、図示しない熱プラントから熱水供給送水管4を介して熱水供給送水装置3へ供給されて蓄熱槽1内に熱媒体となる熱水Wが貯留されている。なお、熱水供給送水装置3は、支持杭5によって蓄熱槽1内に保持されていると好適である。
【0022】
蓄熱槽1は、地面Gを掘削して形成されていると好適であり、蓄熱槽1の側面は法面2に形成されると好適である。また、蓄熱槽1と地面Gとの境界面である法面2及び底面には、耐熱遮水シート11が被覆して取り付けられており、地面G内の地下水の侵入および熱交換を防止している。なお、地下水の水位が高く、蓄熱槽1に貯留された熱水Wの蓄熱に支障をきたす場合には、蓄熱槽1の近傍に遮水壁を形成し、ディープウェルなどの地下水揚水設備を用いて断熱を図っても構わない。なお、このように蓄熱槽1の側面を法面2に形成することで蓄熱槽1の掘削作業を容易に行うことができる。
【0023】
蓄熱槽1の法面2及び底面に被覆された耐熱遮水シート11は、蓄熱槽1内の熱水の断熱及び熱水が地面Gへ漏水することを防止するために設置されており、断熱性及び遮水性を有するシートであればポリエチレンシートなど種々の素材を採用することができる。
【0024】
また、蓄熱槽1の上面は、地面Gを掘削することで地表GLに開口を有しているが、当該開口は断熱性を有する断熱蓋20によって閉塞されている。断熱蓋20は、蓄熱槽1内に貯水した熱水を保温することができればどのような材質を適用しても構わないが、例えば、図2に示すように、発泡スチロールなどからなる断熱材21をポリエチレンなどからなる表皮22で積層した断熱シートを用いることができる。
【0025】
次に、本実施形態に係る蓄熱槽1のスロッシング吸収機構について説明を行う。蓄熱槽1に貯留された熱水Wの表面は、地面Gの地表GLから所定の高さ低くなるように余裕高hを有して貯留されている。余裕高hは、スロッシングによって熱水Wの表面が揺れた場合に熱水Wの揺れを吸収することができれば、適宜設定することができるが、例えば1.5m程度に形成されると好適である。
【0026】
また、耐熱遮水シート11の外縁部は、法面2に沿って余裕高h分延びる耐熱遮水シート側折返部32が形成され、断熱蓋20の外縁部は、法面2に沿って余裕高h分延びる断熱蓋側折返部31が形成されている。耐熱遮水シート側折返部32と断熱蓋側折返部31は、それぞれ法面2の余裕高hに沿って重畳しており、地表GLの位置で互いに接合されて折返部30を構成している。
【0027】
折返部30の断熱蓋側折返部31には、圧力抜40が取り付けられており、該圧力抜40によって蓄熱槽1の内部と外部とを連通可能としている。圧力抜40は、断熱蓋側折返部31から延びる管状の第1管部41と、該第1管部41の先端から略直角に屈曲して折返部30と逆方向に向くように形成された第2管部42とを備えており、第2管部42の先端には解放機構としての蓋体43が嵌め込まれて閉塞されている。なお、蓋体43は、蓄熱槽1内部の圧力が上昇した場合に、所定の圧力以上で容易に外れるように取り付けられている。
【0028】
なお、圧力抜40は、折返部30のうち、断熱蓋側折返部31と耐熱遮水シート側折返部32の接合部分に近接して形成されると好適である。また、圧力抜40は、断熱蓋20の外縁に沿って複数形成されると好適であり、例えば、10m間隔に形成されると好適である。
【0029】
さらに、圧力抜40の第2管部42の先端は、後述するスロッシングによる水位の上昇によって断熱蓋側折返部31が水平になった場合に、蓄熱槽1の中心方向に向くように形成されると好適である。このように先端の向きを配置することで、通常時は、第2管部42の先端が下側を向くことで異物の混入を防止することができ、スロッシングによって水位が上昇し、蓋体43が外れた場合でも蓄熱槽1内部の熱水Wが蓄熱槽1の断熱蓋20の上に排出されるので、蓄熱槽1の外部に熱水Wが漏出することによる近隣への被害を防止することができる。
【0030】
次に、図3及び4を参照して本実施形態に係る蓄熱槽1のスロッシング吸収機構の作用について説明を行う。図3に示すように、地震などにより蓄熱槽1内の熱水Wの水位が上昇すると、熱水Wが折返部30の断熱蓋側折返部31と耐熱遮水シート側折返部32との間に流入し、余裕高h分だけ揺れを吸収する。このとき、断熱蓋側折返部31と耐熱遮水シート側折返部32は、互いに接合されているので、熱水Wは断熱蓋20、耐熱遮水シート11及び折返部30内に保持されて蓄熱槽1の外部への漏出を防止している。
【0031】
さらに、熱水Wが大きく揺れると、図4に示すように、圧力抜40にかかる水圧が大きくなり、該水圧の上昇によって蓋体43が外れ、熱水Wが圧力抜40から蓄熱槽1の外部へ排出される。このとき、第2管部42の先端が蓄熱槽1の中心方向に向いているので、排出された熱水Wは断熱蓋20の上に排出される。
【0032】
なお、本実施形態に係る蓄熱槽1は、側面を法面2で形成した場合について説明を行ったが、図5に示すように、側面としてRC連壁50を打設して、地表GLに対して略垂直な面に形成しても構わない。このように形成した場合でも、熱水Wの水面は、地表GLから余裕高hを有するように位置しており、図6に示すように、断熱蓋20の外縁部に形成した断熱蓋側折返部31と耐熱遮水シート11の外縁部に形成した耐熱遮水シート側折返部32とを重畳した折返部30が余裕高hに沿って配置されている。
【0033】
また、この場合に、圧力抜40は、断熱蓋側折返部31に取り付けられ、先端が下方を向くように配置されている。この時、圧力抜40の先端に蓋体43を取り付けても構わないし、蓋体43を嵌め込まずに、圧力抜40の先端にワンウェイバルブを取り付けても構わない。
【0034】
このように、本実施形態に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構によれば、蓄熱槽1内の熱水Wの水面は、地表GLから所定の距離だけ離れた余裕高hを有しており、断熱蓋20と耐熱遮水シート11の外縁部はそれぞれ余裕高hに沿って折り返されて重畳する折返部30によって接合されているので、より簡素な構成で、地震などによって熱水Wが揺れて水位が変動した場合であっても、当該揺れを吸収することができる。
【0035】
また、上述した本実施形態に係る蓄熱槽のスロッシング吸収機構は、蓄熱槽1の開口が略矩形状の逆ピラミッド型又は直方体型に形成した場合について説明を行ったが、蓄熱槽1の形状はこれに限らず、例えば逆円錐状に形成しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0036】
1 蓄熱槽, 2 法面, 11 耐熱遮水シート, 20 断熱蓋, 21 断熱材, 22 表皮, 30 折返部, 31 断熱蓋側折返部, 32 耐熱遮水シート側折返部, 40 圧力抜, 41 第1管部, 42 第2管部, 43 蓋体, h 余裕高, G 地面, GL 地表。
図1
図2
図3
図4
図5
図6