(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】光励起磁気センサ及び光励起磁気測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/26 20060101AFI20231012BHJP
G01R 33/032 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
G01R33/26
G01R33/032
(21)【出願番号】P 2020036727
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】山田 将来
(72)【発明者】
【氏名】武宮 孝嗣
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-014708(JP,A)
【文献】特開2014-215151(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090169(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/015628(WO,A1)
【文献】米国特許第06054852(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属が封入されたセルと、
前記アルカリ金属の原子を励起するためのポンプ光を発生する第1光源と、
前記原子の励起状態における所望の特性を検出するためのプローブ光を発生する第2光源と、
前記セルを通過した後の前記プローブ光に基づいて、前記セルが受けた磁気に関する出力信号を得る信号出力部と、
前記第1光源の光軸に沿う静磁場を前記セルを配置した領域に発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場発生部の動作を制御する
と共に前記セルが受けた磁気に関する情報を得る制御部と、を備え、
前記制御部は、前記静磁場の強度を第1の強度に設定する第1の制御信号
を出力すると共に前記第1の制御信号を出力しているときに前記信号出力部が出力する信号を利用して前記セルが受けた磁気に関する情報を得る動作と、前記静磁場の強度を前記第1の強度とは異なる第2の強度に設定する第2の制御信号
を出力すると共に前記第2の制御信号を出力しているときに前記信号出力部が出力する信号を利用して前記セルが受けた磁気に関する情報を得る動作と、を行う、光励起磁気センサ。
【請求項2】
アルカリ金属が封入されたセルと、
前記アルカリ金属の原子を励起するためのポンプ光を発生する第1光源と、
前記原子の励起状態における所望の特性を検出するためのプローブ光を発生する第2光源と、
前記セルを通過した後の前記プローブ光に基づいて、前記セルが受けた磁気に関する出力信号を得る信号出力部と、
前記第1光源の光軸に沿う静磁場を前記セルを配置した領域に発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場発生部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記静磁場の強度を第1の強度に設定する第1の制御信号と、前記静磁場の強度を前記第1の強度とは異なる第2の強度に設定する第2の制御信号と、を出力し、
前記制御部は、前記第1の制御信号と前記第2の制御信号とを交互に出力する
、光励起磁気センサ。
【請求項3】
アルカリ金属が封入されたセルと、
前記アルカリ金属の原子を励起するためのポンプ光を発生する第1光源と、
前記原子の励起状態における所望の特性を検出するためのプローブ光を発生する第2光源と、
前記セルを通過した後の前記プローブ光に基づいて、前記セルが受けた磁気に関する出力信号を得る信号出力部と、
前記第1光源の光軸に沿う静磁場を前記セルを配置した領域に発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場発生部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記静磁場の強度を第1の強度に設定する第1の制御信号と、前記静磁場の強度を前記第1の強度とは異なる第2の強度に設定する第2の制御信号と、を出力し、
前記制御部は、前記静磁場の強度を前記第1の強度及び前記第2の強度とは異なる第3の強度に設定する第3の制御信号を出力し、
前記制御部は、前記第1の制御信号、前記第2の制御信号及び前記第3の制御信号の順に出力する動作を繰り返す
、光励起磁気センサ。
【請求項4】
アルカリ金属が封入されたセルと、
前記アルカリ金属の原子を励起するためのポンプ光を発生する第1光源と、
前記原子の励起状態における所望の特性を検出するためのプローブ光を発生する第2光源と、
前記セルを通過した後の前記プローブ光に基づいて、前記セルが受けた磁気に関する出力信号を得る信号出力部と、
前記第1光源の光軸に沿う静磁場を前記セルを配置した領域に発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場発生部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記静磁場の強度を第1の強度に設定する第1の制御信号と、前記静磁場の強度を前記第1の強度とは異なる第2の強度に設定する第2の制御信号と、を出力し、
前記制御部は、前記静磁場の強度を前記第1の強度及び前記第2の強度とは異なる第3の強度に設定する第3の制御信号を出力し、
前記制御部は、前記第1の制御信号、前記第2の制御信号、前記第3の制御信号、前記第2の制御信号、前記第1の制御信号の順に出力する動作を繰り返す
、光励起磁気センサ。
【請求項5】
アルカリ金属が封入されたセルと、
前記アルカリ金属の原子を励起するためのポンプ光を発生する第1光源と、
前記原子の励起状態における所望の特性を検出するためのプローブ光を発生する第2光源と、
前記セルを通過した後の前記プローブ光に基づいて、前記セルが受けた磁気に関する出力信号を得る信号出力部と、
前記第1光源の光軸に沿う静磁場を前記セルを配置した領域に発生させる静磁場発生部と、
前記静磁場発生部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記静磁場の強度を第1の強度に設定する第1の制御信号と、前記静磁場の強度を前記第1の強度とは異なる第2の強度に設定する第2の制御信号と、を出力し、
前記制御部は、
前記第1の制御信号を出力した状態で得た前記出力信号が磁気パルスを示す信号成分を含むか否かを判定する第1の動作と、前記第2の制御信号を出力した状態で得た前記出力信号が磁気パルスを示す信号成分を含むか否かを判定する第2の動作と、を繰り返し、
前記第1の動作において前記出力信号が前記磁気パルスを示す信号成分を含む場合には、前記第1の動作から前記第2の動作への切り替えを行うことなく前記第1の動作を継続し、前記第2の動作において前記出力信号が前記磁気パルスを示す信号成分を含む場合には、前記第2の動作から前記第1の動作への切り替えを行うことなく前記第2の動作を継続する
、光励起磁気センサ。
【請求項6】
アルカリ金属が封入されたセルに前記アルカリ金属の原子を励起するためのポンプ光を照射するとともに前記セルに前記原子の励起状態における所望の特性を検出するためのプローブ光を照射する工程と、
前記セルを配置した領域に第1の強度を有する静磁場を発生させた状態で、前記セルを通過した後の前記プローブ光に基づく出力信号を取得する工程と、
前記セルを配置した領域に前記第1の強度とは異なる第2の強度を有する静磁場を発生させた状態で、前記セルを通過した後の前記プローブ光に基づく出力信号を取得する工程と、を有する、光励起磁気測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光励起磁気センサ及び光励起磁気測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ポンピングを利用する光励起磁気センサは、光ポンピングによって励起されたアルカリ金属の原子のスピン偏極を検出することで微小な磁気を測定する。光励起磁気センサは、超伝導量子干渉計(superconducting quantum interference device, SQUID)に代わる新たな磁気測定の技術として注目されている。例えば、特許文献1は、光ポンピングを利用した磁力計を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光励起磁気センサは、蒸気状のアルカリ金属の原子にポンプ光を照射することによって、アルカリ金属を励起状態とする。励起状態のアルカリ金属はスピン偏極状態にあり、磁気を受けると、磁気に応じてアルカリ金属原子のスピン偏極軸の傾きが変化する。このスピン偏極軸の傾きは、ポンプ光とは別に照射されるプローブ光によって検出する。
【0005】
励起状態のアルカリ金属が受ける磁気の変化は、スピン偏極軸の回転角の変化として現れる。スピン偏極軸の回転角の変化は、プローブ光の偏光角度の変化として検出できるので、光励起磁気センサは、検出した偏光角度の変化を信号強度として出力する。磁気強度の変化が大きいほど、スピン偏極軸の回転角の変化が大きくなるので、結果的に信号強度も大きくなる。
【0006】
さらに、光励起磁気センサが出力する信号強度は、磁気の強度だけでなく、磁気の周波数成分の影響も受ける。つまり、磁気の強度が同じであっても、磁気の周波数が異なると光励起磁気センサが出力する信号強度は増減する。そうすると、磁気の周波数によって、信号強度が十分であることもあり得るし、信号強度が十分でない場合も生じ得る。その結果、十分なS/N比をもって測定可能な磁気の周波数の帯域が制限されてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することが可能な光励起磁気センサ及び光励起磁気測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態である光励起磁気センサは、アルカリ金属が封入されたセルと、アルカリ金属の原子を励起するためのポンプ光を発生する第1光源と、原子の励起状態における所望の特性を検出するためのプローブ光を発生する第2光源と、セルを通過した後のプローブ光に基づいて、セルが受けた磁気に関する出力信号を得る信号出力部と、第1光源の光軸に沿う静磁場をセルを配置した領域に発生させる静磁場発生部と、静磁場発生部の動作を制御する制御部と、を備え、制御部は、静磁場の強度を第1の強度に設定する第1の制御信号と、静磁場の強度を第1の強度とは異なる第2の強度に設定する第2の制御信号と、を出力する。
【0009】
この装置の静磁場発生部は、セルが配置された領域に静磁場を発生させる。蒸気化されるとともにポンプ光によって励起されたアルカリ金属の原子は、静磁場の強度に応じて歳差運動の周波数が決まる。その結果、第1の強度に応じた歳差運動が発生し、当該歳差運動の周波数に対応する磁気を良好に検出できる。さらに、制御部は、静磁場の強度を、第1の強度から第2の強度に切り替える。そうすると、第2の強度に応じて歳差運動の周波数が変化するので、良好に検出できる磁気も変化する。従って、制御部が、静磁場の強度を切り替えて測定を行うことにより、良好に検出できる磁気の周波数帯域が切り替わるので、結果として測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる。
【0010】
一形態において、制御部は、第1の制御信号と第2の制御信号とを交互に出力してもよい。この態様によれば、簡易な制御によって、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる。
【0011】
一形態において、制御部は、静磁場の強度を第1の強度及び第2の強度とは異なる第3の強度に設定する第3の制御信号を出力し、制御部は、第1の制御信号、第2の制御信号及び第3の制御信号の順に出力する動作を繰り返してもよい。この態様によれば、測定可能な磁気の周波数帯域をさらに拡大することができる。
【0012】
一形態において、制御部は、静磁場の強度を第1の強度及び第2の強度とは異なる第3の強度に設定する第3の制御信号を出力し、制御部は、第1の制御信号、第2の制御信号、第3の制御信号、第2の制御信号、第1の制御信号の順に出力する動作を繰り返してもよい。この態様によっても、測定可能な磁気の周波数帯域をさらに拡大することができる。
【0013】
一形態において、制御部は、第1の制御信号を出力した状態で得た出力信号が磁気パルスを示す信号成分を含むか否かを判定する第1の動作と、第2の制御信号を出力した状態で得た出力信号が磁気パルスを示す信号成分を含むか否かを判定する第2の動作と、を繰り返し、第1の動作において出力信号が磁気パルスを示す信号成分を含む場合には、第1の動作から第2の動作への切り替えを行うことなく第1の動作を継続し、第2の動作において出力信号が磁気パルスを示す信号成分を含む場合には、第2の動作から第1の動作への切り替えを行うことなく第2の動作を継続してもよい。この態様によれば、磁気パルスが確認された静磁場の状態を継続することにより、磁気パルスの測定に適した静磁場をセルが配置された領域に発生する。従って、磁気パルスの測定感度をさらに高めることができる。
【0014】
本発明の別の形態である光励起磁気測定方法は、アルカリ金属が封入されたセルにアルカリ金属の原子を励起するためのポンプ光を照射するとともにセルに原子の励起状態における所望の特性を検出するためのプローブ光を照射する工程と、セルを配置した領域に第1の強度を有する静磁場を発生させた状態で、セルを通過した後のプローブ光に基づく出力信号を取得する工程と、セルを配置した領域に第1の強度とは異なる第2の強度を有する静磁場を発生させた状態で、セルを通過した後のプローブ光に基づく出力信号を取得する工程と、を有する。
【0015】
この方法では、静磁場の強度を切り替えて測定を行うことにより、良好に検出できる磁気の周波数帯域が切り替わる。その結果、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる光励起磁気センサ及び光励起磁気測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態の光励起磁気センサの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す光励起磁気センサの動作を説明するための図である。
【
図3】
図3は、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大できる理由を説明するための図である。
【
図4】
図4(a)は磁気パルスの周波数と共振周波数とがずれているときに得られる出力信号の例示である。
図4(b)は磁気パルスの周波数と共振周波数とが近似しているときに得られる出力信号の例示である。
【
図5】
図5は、実施形態の光励起磁気測定方法の主要な工程を示すフロー図である。
【
図6】
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c)は、
図1に示す光励起磁気センサの具体的な動作を説明するための図である。
【
図7】
図7(a)は変形例1の光励起磁気センサの動作を説明するための図である。
図7(b)は変形例2の光励起磁気センサの動作を説明するための図である。
【
図8】
図8(a)は変形例3の光励起磁気センサの動作を説明するための図である。
図8(b)は変形例4の光励起磁気センサの動作を説明するための図である。
図8(c)は変形例5の光励起磁気センサの動作を説明するための図である。
【
図9】
図9は変形例6の光励起磁気センサの動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1及び
図2に示すように、光励起磁気センサ1は、セル2と、ポンプ光源3(第1光源)と、プローブ光源4(第2光源)と、信号出力ユニット5(信号出力部)と、コイルユニット6(静磁場発生部)と、コンピュータ10(制御部)と、を有する。
【0020】
セル2は、ガラス製の封入容器である。セル2を構成するガラス材料として、例えば、石英、サファイア、シリコン、コバールガラス、ホウケイ酸ガラス(パイレックス(登録商標)ガラス)を採用してよい。特に、コバールガラスは、パイレックス(登録商標)ガラスと比較すると、ヘリウム(He)の透過係数が一桁低い。従って、厚さを薄くでき、小型化に資する。このような材料によれば、後述するポンプ光LP及びプローブ光LBを良好に透過することができる。つまり、セル2は、ポンプ光LP及びプローブ光LBに対して光透過性を有する材料を採用してよい。
【0021】
セル2には、ヒータ7が取り付けられている。ヒータ7は、ヒータ電源9から供給される電流に応じて、発熱する。ヒータ7は、セル2に収容したアルカリ金属の蒸気を生成する。また、ヒータ7は、セル2の内部温度を制御することによりアルカリ金属の蒸気密度を制御する。また、ヒータ7は、セル2の側面2aに取り付けられている。この側面2aは、ポンプ光LP及びプローブ光LBが入射されない面である。
【0022】
セル2は、アルカリ金属の蒸気及び封入ガスを収容する。セル2に収容されるアルカリ金属は、カリウム(K)である。また、アルカリ金属として、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)を採用してもよい。また、アルカリ金属は、これらを少なくとも1種類以上含めばよい。例えば、アルカリ金属として、カリウムのみを採用してもよい。カリウムは、スピン破壊衝突(spin-destruction collision)緩和レートが光励起磁気センサで用いられるアルカリ金属の中でも比較的小さく、例えばセシウムやルビジウムよりも小さい。従って、カリウムを封入したセルを用いた光励起磁気センサは、セシウムやルビジウムを用いた光励起磁気センサよりも感度が高い。つまり、原子番号の小さなアルカリ金属ほど高感度化には好ましい。また、アルカリ金属として、カリウムとそのほかのアルカリ金属とを併せて採用してもよい。
【0023】
封入ガスは、アルカリ金属蒸気を制御する。より具体的には、封入ガスは、アルカリ金属蒸気のスピン偏極の緩和を抑制する。さらに、封入ガスは、アルカリ金属蒸気を保護するとともにノイズ発光を抑制する。封入ガスとしては、不活性ガスが好ましい。例えば、不活性ガスの原料として、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、窒素(N2)、水素(H2)を採用してよい。
【0024】
ポンプ光源3は、ポンプ光LPを生成する。ポンプ光源3は、例えばレーザ装置である。ポンプ光LPの波長は、アルカリ金属の蒸気を構成する原子の種類(より詳細には吸収線の波長)に応じる。例えば、アルカリ金属としてカリウムを採用し、D1吸収線を用いた場合には、ポンプ光LPの波長は、770.1ナノメートルである。セル2に収容されたアルカリ金属の蒸気は、ポンプ光LPを吸収することにより、所定のスピン状態を形成する。ポンプ光源3は、ポンプ光学系11を介して、ポンプ光軸APの方向にポンプ光LPを出射する。ポンプ光学系11は、例えば1/4波長板を含む。ポンプ光軸APは、セル2の側面2bに交差する。この側面2bは、ヒータ7が設けられた側面2aとは相違する。
【0025】
プローブ光源4は、プローブ光LBを生成する。プローブ光源4は、例えばレーザ装置である。プローブ光LBの波長は、アルカリ金属の蒸気を構成する原子の種類(より詳細には吸収線の波長)に応じる。例えば、アルカリ金属としてカリウムを採用した場合には、プローブ光LBの波長は、ポンプ光LPの波長である770.1ナノメートルから、若干、離調する。この離調によって、プローブ光LBがアルカリ金属に吸収されることを抑制する。プローブ光LBは、アルカリ金属の蒸気を通過するとき、アルカリ金属原子のスピン偏極の状態の影響を受ける。より詳細には、プローブ光LBは、アルカリ金属の蒸気を通過する前後において、偏光角Z1から偏光角Z2に変化する(
図2参照)。この偏光角の変化を検出することにより、スピン偏極の状態を知ることができる。プローブ光源4は、プローブ光学系12を介して、プローブ光軸ABの方向にプローブ光LBを出射する。プローブ光学系12は、例えば1/2波長板を含む。プローブ光軸ABは、ポンプ光軸APと交差(例えば直交)する。プローブ光軸ABは、セル2の側面2cに交差する。この側面2cは、ヒータ7が設けられた側面2a及びポンプ光軸APが交差する側面2bとは相違する。
【0026】
信号出力ユニット5は、セル2を通過したプローブ光LBの強度を取得する。取得した強度は、コンピュータ10に出力される。セル2を通過したプローブ光LBは、励起されたアルカリ金属原子の状態を示す情報を含む。より具体的には、セル2を通過したプローブ光LBは、アルカリ金属原子の励起状態における所望の特性、例えば、励起状態にあるアルカリ金属原子のスピン偏極およびスピン偏極軸の変位に関する情報を含む。信号出力ユニット5は、偏光ビームスプリッタ5aと、第1のフォトダイオード5bと、第2のフォトダイオード5cと、差動アンプ5dと、を有する。偏光ビームスプリッタ5aは、プローブ光LBに含まれる第1の偏光角度を有する第1の光成分を第1のフォトダイオード5bに出力する。第1のフォトダイオード5bは、第1の光成分の強度に応じた信号を発生するとともに、当該信号は差動アンプ5dに入力される。
【0027】
偏光ビームスプリッタ5aは、そのほかの偏光角度を有する第2の光成分を第2の出力面から出力する。例えば、第1の偏光角度は、プローブ光源4から出射されたプローブ光LBが有する偏光角度である。つまり、第1の偏光角度は、セル2を通過する前のプローブ光LBが有する。そして、第2の光成分は、プローブ光LBがアルカリ金属の蒸気を通過することにより生じる。つまり、第2の光成分は、励起されたアルカリ金属原子の状態(所望の特性)を示す情報を示す。第2の光成分は、第2のフォトダイオード5cに入射する。第2のフォトダイオード5cは、第2の光成分の強度に応じた第2の光信号を発生するとともに、当該信号は差動アンプ5dに入力される。
【0028】
差動アンプ5dは、第1のフォトダイオード5b及び第2のフォトダイオード5cから光信号の入力を受け、光信号の差分に応じた出力信号を生成する。当該出力信号は、コンピュータ10に入力される。
【0029】
コイルユニット6は、セル2が配置される領域に静磁場SM(
図2参照)を発生させる。コイルユニット6は、一対のコイル6A、6Bを有する。一対のコイル6A、6Bは、セル2を挟むように配置され、これら一対のコイル6A、6Bの間のセル2の配置領域に静磁場SMを発生させる。静磁場SMの方向は、例えば、一方のコイル6Aから他方のコイル6Bに向かう。コイルユニット6が生じる静磁場SMの向きを静磁場軸ASMとして規定すると、静磁場軸ASMは、ポンプ光軸APと同じ方向を向いている。つまり、静磁場軸ASMは、ポンプ光軸APに対して平行である。また、静磁場軸ASMは、プローブ光軸ABに対して交差している。静磁場SMの方向は、時間の経過とともに変化しない。なお、本実施形態における「静磁場」との意味は、時間の経過に応じてその強度が段階的及び/又は連続的に変化することを許容する。
【0030】
なお、静磁場発生部は、強度が切り替え可能な機能を奏するものであれば、コイル6A、6Bに限定されない。
【0031】
コイルユニット6は、コイル電源13から供給される直流電流に応じて、静磁場SMを発生させる。コイルユニット6が生じる静磁場SMの強度は、コイル電源13から供給される電流に応じる。コイル電源13は、コンピュータ10から出力される制御信号に応じて、所定の電流をコイルユニット6へ出力する。コイルユニット6が生じる静磁場SMの強度については、後に詳細に説明する。
【0032】
コンピュータ10は、物理的には、RAM、ROM等のメモリ、CPU等のプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスク等の格納部を備えて構成されている。かかるコンピュータ10としては、例えばパーソナルコンピュータ、クラウドサーバ、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末など)などが挙げられる。コンピュータ10は、メモリに格納されるプログラムをコンピュータシステムのCPUで実行することにより機能する。
【0033】
コンピュータ10は、機能的構成要素として、信号処理部10aと、コイル制御部10bと、を有する。信号処理部10aは、差動アンプ5dから入力された差分信号を利用して、セル2が受けた磁気に関する情報を得る。この磁気に関する情報とは、光励起磁気センサ1が測定対象とする磁気であり、コイルユニット6が発生するものは含まない。コイル制御部10bは、コイル電源13からコイルユニット6に供給する電流の大きさを制御するための制御信号を出力する。コイル制御部10bは、あらかじめ設定されたシーケンスに基づいて制御信号を出力してもよい。また、コイル制御部10bは、信号処理部10aの処理結果を利用して、制御信号を出力してもよい。なお、コンピュータ10は、ポンプ光源3の動作及びプローブ光源4の動作を制御することとしてもよい。
【0034】
以下、
図2等を参照しながら、コイルユニット6を備えた光励起磁気センサ1の測定原理について説明する。アルカリ金属の原子101は、ポンプ光LPを吸収すると回転軸102が所定の方向を向く。さらに、原子101は、外部から与えられる静磁場SMに起因する歳差運動を生じる。この歳差運動は、ラーモア歳差運動として知られている。そして、ラーモア歳差運動の角周波数は、ラーモア周波数と呼ばれる。
【0035】
例えば、セル2に入力される、測定対象が発生する磁気EMの周波数が、ラーモア周波数に近いとき、共振現象が生じる。
図3は、セル2に入力される磁気EMの周波数と信号出力ユニット5が出力する信号強度との関係を示す。横軸は磁気EMの周波数を示す。縦軸は、信号出力ユニット5が出力する信号強度を感度として示す。グラフG3a、G3b、G3cは、それぞれ原子101のラーモア周波数が異なる。つまり、コイルユニット6が発生する静磁場SMの強度が異なる。例えば、グラフG3aは、静磁場SMの強度を第1の強度としたときの周波数特性である。グラフG3bは、静磁場SMの強度を第2の強度としたときの周波数特性である。グラフG3cは、静磁場SMの強度を第3の強度としたときの周波数特性である。そして、第2の強度は、第1の強度よりも大きく、第3の強度は第2の強度よりも大きい。静磁場SMの強度が異なると、ピークである共振周波数が異なる。例えば、静磁場SMの強度が大きくなると、共振周波数は高くなる。
図3のグラフG3a、G3b、G3cに示す関係は、共振周波数をピークとするローレンツ分布として説明できる。そして、この関係は、コイルユニット6が発生する静磁場SMの強度によって制御することが可能である。なぜならば、磁気の周波数に対する原子101の共振周波数は、静磁場SMの強度に比例するからである。
【0036】
例えば、静磁場SMの強度を第2の強度に固定した場合(グラフG3b)では、0.4以上の感度を有する周波数は、60Hz~140Hz程度であり、帯域FB2でいえば80Hz程度である。
【0037】
図4(a)及び
図4(b)は、信号出力ユニット5が出力する出力信号の一例である。横軸は時間であり、縦軸は出力信号の強度を示す。磁気EMの入力がない期間T1、T2には、出力信号G4aは所定のノイズを含む。そして、パルス状の磁気EMが入力されると、信号成分P1が現れる。ここで、パルス状の磁気EMの周波数が共振周波数から遠いとき、信号成分P1の感度は弱い(
図3のグラフG3bの点N1参照)。従って、信号成分P1は、ノイズに埋もれる。換言すると、ノイズ強度と信号成分の強度との比率であるS/N比は小さくなる。
【0038】
ところで、信号成分P1がノイズに埋もれるようなデータにおいては、複数回の測定を行った後に平均化処理を行うことにより、信号成分P1の強調(S/N比の向上)を図ることも考えられる。パルス状の磁気EMがおおむね決まった周期及び条件で現れる場合は、複数のデータを取得できるので、平均化処理によって対応することも可能である。しかし、パルス状の磁気EMの出現が突発的で予測できないような場合には、平均化のための複数のデータを得ることは極めて難しい。
【0039】
一方、
図4(b)に示すように、パルス状の磁気EMの周波数が、共振周波数に近いとき、信号成分Pの強度は強い(
図3のグラフG3bの点N2参照)。従って、信号成分P2は、ノイズに埋もれない。換言すると、ノイズ強度と信号成分の強度との比率であるS/N比は大きくなる。つまり、本実施形態の光励起磁気センサ1では、平均化処理を要することなく、S/N比を高めた測定を行うことが可能である。
【0040】
上述したように、静磁場SMの強度を第2の強度に固定した場合(グラフG3b)では、帯域FB2は80Hz程度であった。そこで、静磁場SMの強度を第1~第3の強度に順次切り替える。そうすると、0.4以上の感度を有する帯域が拡大される。具体的には、帯域は、第1の強度とした場合(グラフG3a)の帯域FB1(0Hz~90Hz)と、第2の強度とした場合(グラフG3b)の帯域FB2(60Hz~140Hz)と、第3の強度とした場合(グラフG3c)の帯域FB3(110Hz~190Hz)と、の和集合であり、全体として190Hz程度である。従って、静磁場SMの強度を第1の強度、第2の強度及び第3の強度に順次切り替えることによって、感度を所定値(例えば0.4以上)に維持することができる。本実施形態では、感度(強度)をあらかじめ設定した値以上に維持されることを「測定可能」と規定する。そして、あらかじめ設定した値以上に感度を維持できる周波数の範囲を、「測定可能な磁気の周波数帯域」と規定する。
【0041】
次に、
図5を参照しながら、光励起磁気センサ1によって行われる光励起磁気測定方法ついて説明する。まず、セル2を準備する(工程S1)。具体的には、所定のアルカリ金属及び封入ガスをセル2に封入する。そして、当該セル2をコイル6A、6Bの間に配置する。そして、測定対象物を基準として光励起磁気センサ1を所定の位置に配置する(工程S2)。
【0042】
装置の配置が完了すると、コンピュータ10は、ヒータ電源9に対して電流を出力させる制御信号を提供する(工程S3)。その結果、ヒータ7に電流が提供されるので、ヒータ7の温度が上昇する。そして、セル2の内部に、アルカリ金属の蒸気が発生する。次に、コンピュータ10は、ポンプ光源3を制御して、ポンプ光LPの照射を開始する(工程S4)。
【0043】
次に、静磁場SMを発生させる(工程S5)。具体的には、コンピュータ10は、静磁場SMの強度を制御するための制御信号を出力する。
図6(a)のグラフG6aは、コイルユニット6が発生させる静磁場SMの強度の一例である。換言すると、グラフG6aは、コイル制御部10bがコイル電源13に出力する制御信号の一例であるともいえる。
図6(a)の横軸は、時間を示す。
図6(a)の縦軸は、静磁場SMの強度を示す。コイルユニット6が生じる静磁場SMの強度は、電流の大きさに比例するので、
図6(a)の縦軸は、コイルユニット6に提供される電流の大きさを示しているともいえる。
【0044】
次に、コンピュータ10は、プローブ光源4を制御して、プローブ光LBの照射を開始する(工程S6)。その結果、信号出力ユニット5は、出力信号をコンピュータ10に出力する。コンピュータ10は、信号処理部10aにおいて、出力信号を可視化等する処理を行う。
【0045】
次に、コンピュータ10は、静磁場SMの強度を切り替える(工程S7)。
図6(a)のグラフG6aに示すように、コイル制御部10bは、一定の時間間隔(0.05)ごとに、静磁場SMの強度を段階的に切り替える。静磁場SMの強度の増加分は、それぞれのステップにおいて一定(0.1)である。そして、コイル制御部10bは、静磁場SMの強度が最大(1)に達したのちに、静磁場SMの強度を最小値(0.1)に設定し、再び段階的に増加させる。コイル制御部10bは、静磁場SMの強度を最小値(0.1)から最大値(1)までステップ状に増加させる動作を繰り返す。
【0046】
例えば、測定対象から磁気パルスが出力されたとする。この磁気パルスは、
図6(b)のグラフG6bによって示す。
図6(b)では、磁気パルスが入力されている時間帯だけを示し、強度は一定値とする。さらに、磁気パルスの周波数も不明であるとする。
【0047】
図6(c)のグラフG6cは、出力信号を示す。この状況において、コイル制御部10bは、電流を大きくし、静磁場SMの強度を高める。そうすると、静磁場SMの強度が0.1のときには、出力信号の強度はゼロである。つまり、静磁場SMの強度が0.1のときには、歳差運動のラーモア周波数が、磁気パルスの周波数と大幅にずれているので感度が低く、出力として現れないことがわかる(
図4(a)参照)。そして、静磁場SMの強度が次第に高まると、ラーモア周波数も高まっていく。そして、静磁場SMが強度(0.5)となったとき、出力信号の強度は最大となる。静磁場SMの強度が0.5のときには、歳差運動のラーモア周波数が、磁気パルスの周波数に最も近いために感度が高く、強い出力として現れることがわかる(
図4(b)参照)。
【0048】
光励起磁気センサ1は、コイルユニット6が静磁場SMを発生させる。ヒータ7によって蒸気化されるとともにポンプ光LPによって励起されたアルカリ金属の原子101は、静磁場SMの強度に応じて歳差運動の周波数が決まる。その結果、第1の強度に応じた歳差運動が発生し、当該歳差運動の周波数に対応する磁気を良好に検出できる。そして、コンピュータ10は、静磁場SMの強度を、第1の強度から第2の強度に切り替える。そうすると、第2の強度に応じて歳差運動の周波数が変化するので、良好に検出できる磁気も変化する。従って、コンピュータ10が、静磁場SMの強度を切り替えながら測定を行うことにより、良好に検出できる磁気の周波数帯域が切り替わるので、結果として測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる。
【0049】
本発明の光励起磁気センサ及び光励起磁気測定方法は、上記の態様に限定されない。例えば、コンピュータ10により行われるセル2に与える静磁場SMの強度履歴は、
図6(a)に示す態様に限定されない。
【0050】
<変形例1>
実施形態では、静磁場SMの強度を一定の時間間隔で変化させた。例えば、
図7(a)のグラフG7aに示すように、静磁場SMの強度を変化させる時間間隔は、一定でなくてもよい。第1の強度(0.1)から第4の強度(0.4)までは、第1の時間間隔(0.05)とする。そして、第4の強度(0.4)から第7の強度(0.7)までは、第2の時間間隔(0.1)とする。
図7(a)の例では、第2の時間間隔は、第1の時間間隔の2倍である。この制御によっても、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる。
【0051】
<変形例2>
図7(b)に示すように、静磁場SMの強度の変化幅は、一定でなくてもよい。第1の強度(0.1)から第4の強度(0.4)までは、第1の強度幅(0.1)で増加させる。そして、第4の強度(0.4)から第7の強度(1)までは、第2の強度幅(0.2)で増加させる。
図7(b)の例では、第2の強度幅は、第1の強度幅の2倍である。この制御によっても、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる。
【0052】
なお、図示は省略するが、変形例1に示す時間間隔を変化させる態様と、変形例2に示す強度幅を変化させる態様と、を組み合わせてもよい。
【0053】
<変形例3>
図8(a)のグラフG8aに示すように、コンピュータ10は、セル2の配置領域に発生する静磁場SMの強度を、第1の強度(0.2)と第2の強度(0.8)とに交互に切り替えてもよい。具体的には、コイル制御部10bは、第1の電流を出力させる第1の制御信号を第1の期間に提供する。この制御によって、静磁場SMの強度が第1の強度に設定される。次に、コイル制御部10bは、第2の電流を出力させる第2の制御信号を第2の期間に提供する。この制御によって、静磁場SMの強度が第2の強度に切り替わる。この場合には、静磁場SMの強度を矩形波状に変化させるものともいえる。この制御によっても、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる。
【0054】
<変形例4>
実施形態では、静磁場SMの強度はステップ状に変化させた。換言すると、静磁場SMの強度変化は、不連続であった。例えば、
図8(b)のグラフG8bに示すように、コンピュータ10は、静磁場SMの強度を、連続的に変化させてもよい。具体的には、静磁場SMの強度を、第1の強度(0.1)から第2の強度(1)まで時間の経過とともに連続的に変化させる。この変化は、
図8(b)に示すように一次関数として示される直線的であってもよいし、2次関数などのように曲線的であってもよい。例えば、コイル制御部10bは、コイルユニット6に提供する電流の大きさを連続的に増加させる。この制御によって、静磁場SMの強度が第1の強度(0.1)から第2の強度(1)に連続的に増加する。そして、静磁場SMの強度は、第2の強度(1)に達した後に第1の強度(0.1)まで連続的に減少させてもよい。例えば、コイル制御部10bは、コイルユニット6に提供する電流の大きさを連続的に減少させる。この制御によって、静磁場SMの強度が第2の強度(1)から第1の強度(0.1)に連続的に減少する。つまり、静磁場SMの強度は、第1の強度(0.1)から第2の強度(1)に増加させたのちに、第2の強度(1)から第1の強度(0.1)まで減少させる。この動作を一つの単位として繰り返すこととしてもよい。この場合には、静磁場SMの強度を三角波状に変化させるものともいえる。この制御によっても、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる。
【0055】
<変形例5>
また、静磁場SMの強度を連続的に変化させる態様では、
図8(c)のグラフG8cに示すように、静磁場SMの強度を第1の強度(0.1)から第2の強度(1)に増加させる動作を一つの単位として繰り返してもよい。この場合には、静磁場SMの強度をノコギリ波状に変化させるものともいえる。この制御によっても、測定可能な磁気の周波数帯域を拡大することができる。
【0056】
<変形例6>
また、
図9に示すように、コンピュータ10は、測定の結果に基づいて静磁場SMの強度を設定することとしてもよい。つまり、磁界パルスが検出された状態に注目して、強度を変化させる範囲を段階的に制限してもよい。具体的には、コンピュータ10は、第1のフェーズPH1として、静磁場SMの強度を第1の強度(0.2)から第5の強度(1)まで変化させる。この第1のフェーズPH1は磁気パルスが検出されるまで繰り返し実行する。例えば、出力信号が磁気パルスを示す信号成分を含むか否かを判定し、第3の強度(0.6)において磁気パルスが検出されたとする。そうすると、コンピュータ10は、第2のフェーズPH2に移行する。第2のフェーズPH2では、コンピュータ10は、強度変化の幅を第1のフェーズPH1より狭くする。例えば、静磁場SMの強度は、第3の強度(0.6)を中心として最小を第2の強度(0.4)とし、最大を第4の強度(0.8)とする。そしてこの幅において、強度の変化幅を第1のフェーズPH1よりも小さく設定する。例えば、強度の変化幅を第1のフェーズPH1の1/2とする。そして、この第2のフェーズPH2において、さらに磁気パルスの検出を行う。第2のフェーズPH2も第1のフェーズPH1と同様に、所定の条件が満たされるまで繰り返し行うこととしてよい。そして、第3の強度(0.6)と第4の強度(0.8)との中間の強度(0.7)において、注目する磁気パルスが検出されたとする。そうすると、コンピュータ10は、さらに第3のフェーズPH3に移行する。第3のフェーズPH3では、コンピュータ10は、静磁場SMの強度を、第4の強度と第5の強度との中間の強度(0.7)に設定する。第3のフェーズPH3では、磁気パルスが得られる最も適した条件が明らかになっているといえるので、静磁場SMの強度を変化させなくてもよい。この制御によっても、測定可能な周波数帯域を拡大することができる。さらに、注目する磁気パルスの測定精度を高めることもできる。
【0057】
<実施例1>
実施例1では、3つの周波数成分を含む入力信号G10a(
図10(a))を設定し、静磁場SMの強度G10bを3段階に変化させながら、出力信号G10c(
図10(b))を得た。さらに、出力信号G10cを周波数応答の特性から得られる倍率を用いて補正出力信号G10d(
図10(c))を得た。入力信号G10aに対して出力信号G10cは、静磁場SMの強度G10bを変化させるごとに異なる波形を示した。また、出力信号G10cのピークの時間は、入力信号G10aの時間に対応するように見受けられたが、出力信号G10cのピークの強度は、入力信号G10aの強度とはずれていた。そこで、出力信号G10cに対してフーリエ変換を行い、周波数成分に分解したのちに、それぞれの成分に対して周波数応答の特性(
図3参照)から得られる倍率を用いて補正した。その結果、補正出力信号G10dに示すように、おおむね入力信号G10aと同等とみなせる波形を復元できた。
【0058】
<実施例2>
実施例2では、入力信号G11a(
図11(a))が含む周波数成分と、静磁場SMの強度に基づく共振周波数とのずれが大きい場合について、出力信号G11c(
図11(b))及び補正出力信号G11d(
図11(c))を確認した。出力信号G11c及び補正出力信号11dを得る処理の流れは、実施例1と同様である。その結果、入力信号G11aの周波数と共振周波数とのずれが極端に大きい場合には、出力信号G11cには、入力信号G11aに対応する成分をほとんど検出できない。しかし、静磁場SMの強度を変化させると共に補正を行うことによって、入力信号G11aにある程度対応する信号を得ることができた。
【符号の説明】
【0059】
1…光励起磁気センサ、2…セル、3…ポンプ光源(第1光源)、4…プローブ光源(第2光源)、5…信号出力ユニット(信号出力部)、6…コイルユニット(静磁場発生部)、10…コンピュータ(制御部)、LB…プローブ光、LP…ポンプ光、SM…静磁場。