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特許7365272同期機装置、可変速揚水発電装置、ならびに運転方法
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  • 特許-同期機装置、可変速揚水発電装置、ならびに運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】同期機装置、可変速揚水発電装置、ならびに運転方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/04 20060101AFI20231012BHJP
   H02J 3/08 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
H02P9/04 A
H02J3/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020041667
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021145434
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】511238158
【氏名又は名称】日立三菱水力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川添 裕成
(72)【発明者】
【氏名】菊池 輝
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 健太
(72)【発明者】
【氏名】中出 陽介
(72)【発明者】
【氏名】阪東 明
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-057735(JP,A)
【文献】特開2009-033798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/04
H02J 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電電動装置が、遮断器を備えたバイパス線路と電力変換器との並列回路を介して電力系統に接続される同期機装置であって、
前記発電電動装置が前記並列回路を介して前記電力系統に直結され、前記電力変換器が停止されている状態に置いて、系統事故が発生した際に、前記発電電動装置の電力と系統電圧とから前記発電電動装置の脱調を推定する推定手段と、前記脱調が推定されるときに電力変換器を起動して制御する制御手段を含む制御装置を備えることを特徴とする同期機装置。
【請求項2】
請求項1に記載の同期機装置であって、
前記推定手段は、系統事故が発生した際に、前記発電電動装置の電力と系統電圧に応じて前記発電電動装置の脱調判定閾値を算出する手段と、系統事故継続期間中に、系統事故直前の系統電圧と現時点での系統電圧とから脱調判定値Eを演算する手段と、前記脱調判定閾値と前記脱調判定値を比較する手段とを備えることを特徴とする同期機装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の同期機装置であって、
前記制御手段は、電力変換器起動後に前記バイパス線路の電流が所定値を下回ったことを判断して前記バイパス線路の遮断器を開放する手段を備えることを特徴とする同期機装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の同期機装置における発電電動装置は、ポンプ水車に接続されて可変速揚水発電運転を行う発電電動装置であることを特徴とする可変速揚水発電装置。
【請求項5】
発電電動装置が、遮断器を備えたバイパス線路と電力変換器との並列回路を介して電力系統に接続される同期機装置の運転方法であって、
前記発電電動装置が前記並列回路を介して前記電力系統に直結され、前記電力変換器が停止されている状態に置いて、系統事故が発生した際に、系統事故直前の前記発電電動装置の電力と系統電圧に応じて前記発電電動装置の脱調判定閾値を算出し、系統事故継続期間中に、系統事故直前の系統電圧と現時点での系統電圧とから脱調判定値Eを演算し、前記脱調判定閾値と前記脱調判定値を比較して脱調と判定して電力変換器を起動することを特徴とする同期機装置の運転方法。
【請求項6】
請求項5に記載の同期機装置の運転方法であって、
電力変換器起動後にバイパス線路の電流が所定値を下回ったことを判断して前記バイパス線路の遮断器を開放することを特徴とする同期機装置の運転方法。
【請求項7】
請求項2に記載の同期機装置であって、
前記発電電動装置の脱調判定閾値を算出する手段は、系統事故直前における前記発電電動装置の電力と系統電圧に応じて前記発電電動装置の脱調判定閾値を算出することを特徴とする同期機装置。
【請求項8】
請求項2に記載の同期機装置であって、
前記発電電動装置の脱調判定閾値を算出する手段は、系統事故直前における前記発電電動装置の電力と系統事故直後の系統電圧に応じて前記発電電動装置の脱調判定閾値を算出することを特徴とする同期機装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期発電電動装置が、電力変換器とバイパス線路の並列回路を介して電力系統に接続される同期機装置、可変速揚水発電装置、ならびに運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可変速揚水発電装置の実現形態としては、誘導発電電動機を使用してその二次励磁により可変速を実現する方式のものと、同期発電電動装置が、電力変換器とバイパス線路の並列回路を介して電力系統に接続され、電力変換器における周波数調整により可変速を実現する方式のものがある。
【0003】
本発明は、同期発電電動装置による方式の同期機装置、可変速揚水発電装置、ならびに脱調推定方法に係り、例えば特許文献1には、発電装置をバイパス線路で直接、電力系統に接続して運転するバイパス運転モードと、発電装置を電力変換器を介して運転する変換器運転モードとの切替えによって発電効率を向上させる可変速運転制御装置および水力発電システムの運転方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6246753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同期発電電動装置による方式の同期機装置、可変速揚水発電装置が電力系統の安定化に貢献するためには、系統事故時の運転継続性を確保する必要がある。しかしながら、バイパス運転と変換器運転を切替える可変速揚水発電装置においては、バイパス運転中に例えば、主保護失敗により系統事故の除去が遅延すると、発電電動装置が同期速度を大きく外れて脱調し、停止に至るといった問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明ではバイパス運転中に系統事故が発生した際の運転耐量を向上することができる同期機装置、可変速揚水発電装置、ならびに運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、「発電電動装置が、遮断器を備えたバイパス線路と電力変換器との並列回路を介して電力系統に接続される同期機装置であって、発電電動装置が並列回路を介して電力系統に直結され、電力変換器が停止されている状態に置いて、系統事故が発生した際に、発電電動装置の電力と系統電圧とから発電電動装置の脱調を推定する推定手段と、脱調が推定されるときに電力変換器を起動して制御する制御手段を含む制御装置を備えることを特徴とする同期機装置。」としたものである。
【0008】
また本発明は、「発電電動装置が、遮断器を備えたバイパス線路と電力変換器との並列回路を介して電力系統に接続される同期機装置の運転方法であって、発電電動装置が並列回路を介して電力系統に直結され、電力変換器が停止されている状態に置いて、系統事故が発生した際に、系統事故直前の発電電動装置の電力と系統電圧に応じて発電電動装置の脱調判定閾値を算出し、系統事故継続期間中に、系統事故直前の系統電圧と現時点での系統電圧とから脱調判定値Eを演算し、脱調判定閾値と脱調判定値を比較して脱調と判定して電力変換器を起動することを特徴とする同期機装置の運転方法。」としたものである。
【発明の効果】
【0009】
系統事故時の同期機装置、可変速揚水発電装置の運転耐量を向上することによって、装置の電力系統安定運用への貢献度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例に係る可変速揚水装置の構成例を示す図。
図2】脱調推定部101における演算処理の流れを示す図。
図3】発電電動装置の脱調判定閾値Ethの算出方法を示す図。
図4】バイパス線路開放判定部のブロック図。
図5】本発明を適用しない時の系統事故時の波形例示す図。
図6】本発明を適用した時の系統事故時の波形例示す図。
図7】他の脱調判定閾値Ethの算出方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を以下、図を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の実施例1に係る可変速揚水発電装置1の構成例を示す図である。可変速揚水発電装置1は、発電電動装置2が、遮断器5を備えるバイパス線路4と電力変換器3との並列回路、変圧器6を介して電力系統7に接続されている。制御装置100は、可変速揚水発電装置1の各部信号を入力して電力系統7の脱調を推定し、電力変換器3を制御する。
【0013】
図1では図示を簡便化しているが、発電電動装置2には、水の位置エネルギーを回転エネルギーに変換(または回転エネルギーを位置エネルギーに変換)する水車ポンプ、回転エネルギーを発電出力Pgに変換(または揚水入力Pgを回転エネルギーに変換)する同期発電電動機、水車ポンプの回転速度を制御する調速器(ガバナ)、回転子の励磁電圧を調整して発電機の端子電圧を制御する電圧調整器(AVR:Aautomatic Voltage Regulator)などが含まれる。
【0014】
ここで、本明細書における発電電動装置2は、いわゆる発電電動機ばかりでなく、同期発電機、同期電動機であってもよい。要は遮断器5を備えるバイパス線路4と電力変換器3との並列回路を介して電力系統に接続される同期機構成のものであれば、同期発電機、同期電動機といった単能のものであっても、発電と揚水の双方を担う発電機電動機であってもよい。本発明では、これらを総称して発電電動装置(発電電動機)と称している。
【0015】
また詳細は後述するが、本発明に係る電力系統7の脱調推定制御は、発電電動運転のいずれのモードにおいても適用が可能であり、要は発電電動装置2が、遮断器5を備えるバイパス線路4を介して電力系統に接続されている直結状態であれば適用可能である。
【0016】
発電運転モードを例にして説明すると、電力変換器3は、発電出力Pgを交流から直流に変換する第1の変換器と直流電力を商用周波の交流電力に変換する第2の変換器で構成される。各々の変換器には2レベルや3レベル、或いはマルチレベルの変換器を用いることができる。電力変換器3は、周波数変換機能を有し、周波数変換機能により同期発電電動機を用いた揚水発電運転における低速回転域から高速回転域への移行を可能としている。
【0017】
バイパス線路4は、発電電動装置2を変圧器6を介して直接、電力系統7に接続するための線路である。バイパス線路は遮断器5によって開閉される。同期発電電動機の起動完了後は電力変換器3側への接続を停止し、バイパス線路4側に移行し、直結運転とすることで高効率運転を可能とする。
【0018】
制御装置100には、発電電動装置2の電力(発電運転時は発電出力Pg、電動運転時は揚水入力Pg)と、可変速揚水発電装置が例えば電力系統に連係される連系点における交流電圧Vacとから発電電動装置2の脱調を推定して電力変換器2の起動指令Strを算出する脱調推定部101と、バイパス線路4の電流Ibと起動指令Strとから遮断器5の開閉指令SWocを算出するバイパス線路開放判定部102と、電力変換器3の電力Pcを制御する変換器制御部103とを有する。
【0019】
次に、脱調推定部101における演算処理の流れを、図2を用いて説明する。なおここでは、図1の発電電動装置2はバイパス線路4側を介して電力系統に接続されており、いわゆる直結運転状態にあることを前提とする。また、以後の考え方は発電運転時と電動運転時で全く同じであるので、以後の説明では発電電動装置2の電力として、発電運転時の発電出力Pgを代表事例として説明するものとする。
【0020】
図2の処理ステップS1では、交流電圧Vacが第1の閾値Vac1を下回った否かで系統事故発生の有無を判定する。系統事故の発生を検知した場合には処理ステップS2の処理に進み、検知しない場合には処理を終了する。図2の以降の処理では、系統事故が発生して電圧低下が生じたときにこの影響が将来の電力系統の脱調にまで進展するものか否かを推定し、脱調の可能性がある場合には電力変換器3を用いて早めの対策を実施しようとしている。
【0021】
処理ステップS2では、系統事故直前の発電電動装置2の電力Pg0と交流電圧Vac0に応じて脱調を判定するための閾値である脱調判定閾値Ethを算出する。脱調判定閾値Ethの算出方法については図3を用いて後述する。
【0022】
処理ステップS3では、脱調判定値Eを系統事故直前の交流電圧Vac0と現時点での交流電圧Vacの差分を積分して算出する。ここで脱調判定値Eとは、事故発生後事故継続期間中に発電電動装置2に加えられた機械的な入出力と電気的な入出力の差分を積分したものということができ、この値が大きいほど脱調に至る可能性が高くなるということができる。
【0023】
処理ステップS4では、脱調判定値Eと脱調判定閾値Ethとを比較し、脱調判定値Eが脱調判定閾値Ethを上回ると後に発電電動装置2が脱調すると判断し、処理ステップS5で電力変換器の起動指令Strを1にセットして電力変換器3を起動する。脱調判定値Eが脱調判定閾値Ethを下回る場合は処理ステップS6に進む。
【0024】
処理ステップS6では、交流電圧Vacが第2の閾値Vac2を上回った否かで系統事故が除去されたかどうかを判定する。系統事故が除去されていないと判断した場合は、処理ステップS3に戻って発電電動装置の脱調推定処理を継続する。系統事故が除去されたと判断した場合は処理ステップS7に進んで電力変換器の起動指令Strをゼロ、即ち電力変換器の停止を維持して処理を終了する。以上の発電電動装置の脱調推定方法を用いることで、バイパス運転と変換器運転の不要な運転切替えを防止することができる。
【0025】
上記一連の処理によれば、事故発生後、事故解除されるまでの期間である事故継続期間中は、脱調判定値Eと脱調判定閾値Ethとの比較処理が実施される。この結果、事故の大小(電圧低下の大小)と継続時間の長短に応じた脱調への影響を適切に評価することができる。
【0026】
処理ステップS2の脱調判定閾値Ethの算出方法について、図3を用いて説明する。処理ステップS2では、系統事故直前の発電電動装置2の電力Pg0と交流電圧Vac0に応じて図に示すようなテーブルを用いて脱調判定閾値Ethを算出する。発電電動装置2の電力Pg0が小さくなるほど、脱調判定閾値Ethは大きい値に設定する。また、発電電動装置2の電力Pg0が同じ値の場合でも交流電圧Vac0が小さくなるほど、脱調判定閾値Ethは小さい値に設定する。
【0027】
図4は、バイパス線路開放判定部102のブロック図である。比較器102aではバイパス線路の電流Ibが閾値Ibminを下回ったか否かを判定し、下回った場合には1を、下回っていない場合にはゼロを出力する。
【0028】
遮断器の開閉指令SWocからは、アンド論理回路102bで前述した電力変換器の起動指令Strが1(電力変換器が起動状態)であり、かつバイパス線路の電流Ibが閾値Ibminを下回った時に1(遮断器開放指令)が出力される。これにより、発電電動装置2の運転は、バイパス運転から変換器運転に移行する。
【0029】
次に図5図6を用いて本発明の適用の有無に応じた事故発生時の波形例について説明する。図5は、本発明を適用せずにバイパス運転を継続した場合の系統事故時の波形例である。図6は、バイパス運転から変換器運転に切替えた場合である。波形は、上段より系統電圧Vac、発電電動装置2の電力Pgと回転速度N、電力変換器の電力Pcと起動指令Str、バイパス線路の電流Ib、遮断器の開閉指令SWocを示している。事故条件は、図5図6ともに時刻t1において交流系統で3相平衡事故が発生し、時刻t2で事故が除去されたという条件である。
【0030】
図5のバイパス運転を継続した場合は、系統事故除去後に発電電動装置2の回転速度Nが同期速度の1[pu]を大きく外れて脱調し、装置が停止に至ることを示している。
【0031】
これに対し、図6は事故除去時刻t2以前の時刻t3で発電電動装置2の脱調を判断して電力変換器3を起動し、時刻t4でバイパス線路4の遮断器5を開放した場合である。運転モードをバイパス運転から変換器運転に切替えることによって、電力変換器3で発電電動装置2の電気トルクが制御できるようになるため、発電電動装置2の回転速度の上昇が抑えられている。過渡的に上昇した回転速度は発電電動装置2のガバナ制御、若しくは電力変換器3の電力制御によって調整が可能である。
【0032】
このように、本発明の実施例1を用いれば、バイパス運転中に系統事故が発生した際の発電電動装置2の脱調を回避できる。これにより、可変速揚水発電装置の運転耐量が向上し、装置の電力系統安定運用への貢献度を高めることが可能となる。
【0033】
なお、本実施例1においては発電運転を想定した場合の効果を示したが、本発明は揚水運転時にも適用できる。
【実施例2】
【0034】
実施例2では、脱調判定閾値Ethの算出方法の別手法について説明する。実施例1では、系統事故直前の発電電動装置2の電力Pg0と交流電圧Vac0から脱調判定閾値Ethを算出したが、実施例2では、図7に示すように、系統事故直前の交流電圧Vac0の代わりに系統事故直後の交流電圧Vac0’を用いても良い。なおこの場合にも、発電電動装置2の電力Pg0が小さくなるほど、脱調判定閾値Ethは大きい値に設定する。また、発電電動装置2の電力Pg0が同じ値の場合でも交流電圧Vac0が小さくなるほど、脱調判定閾値Ethは小さい値に設定する。
【符号の説明】
【0035】
1:可変速揚水発電装置
2:発電電動装置
3:電力変換器
4:バイパス線路
5:遮断器
6:変圧器
7:交流系統
100:制御装置
101:脱調推定部
102:バイパス線路開放判定部
102a:比較器、102b:アンド論理回路
103:変換器制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7