(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
C12C 5/02 20060101AFI20231012BHJP
C12G 3/021 20190101ALI20231012BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20231012BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20231012BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20231012BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20231012BHJP
C12C 12/02 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/021
C12G3/06
A23L2/00 B
A23L2/38 J
A23L2/56
C12C12/02
(21)【出願番号】P 2022066991
(22)【出願日】2022-04-14
(62)【分割の表示】P 2020102432の分割
【原出願日】2016-04-26
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】新開 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】松井 雄太
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-237983(JP,A)
【文献】米国特許第03717471(US,A)
【文献】特表2008-530979(JP,A)
【文献】特開昭56-117789(JP,A)
【文献】特開2006-325561(JP,A)
【文献】特開2009-131202(JP,A)
【文献】BRAUINDUSTRIE,1984年,Vol. 69,No.13,p.981-992
【文献】Bundesgesetzbkatt Teil I(der Bundesrepublik Deutschland),1952年
【文献】BRAUINDUSTRIE,1982年,Vol. 67, No.1/2,p.76-77
【文献】BRAUINDUSTRIE,1982年,Vol. 67, No.3,p.138-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,C12C,C12G,C12H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料中の麦原料の比率が50質量%以上であり、糖質含有量が
0.60g/100ml以下であり、酢酸イソアミル濃度が2ppm以下であ
り、アルコール濃度が8体積%以下である、ビールテイスト飲料
(但し、原料中の麦芽の比率が100質量%であるビールを除く。)。
【請求項2】
酢酸エチルを含有し、酢酸エチルに対する酢酸イソアミルの含有質量比が0.060以下である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
麦原料が麦芽及び大麦を含み、麦芽と大麦との比率が20:80~100:0である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
アルコールチルヘイズが0.2以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
アルコール濃度が3体積%以上
8体積%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
麦原料由来の食物繊維含有量が0.1g/100ml以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項7】
前記アルコールチルヘイズが一次ろ過後、48時間以内に測定された値である、請求項4に記載のビールテイスト飲料。
【請求項8】
原料中の麦原料の比率が50質量%以上であり、糖質含有量が1.0g/100ml未満、酢酸イソアミル濃度が2ppm以下、一次ろ過後48時間以内に測定されるアルコールチルヘイズが0.2以下となるように調整する工程を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料の製造方法及びビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
糖質含有量が低減されたビールテイスト飲料の需要が高まっている。ビールテイスト飲料の糖質含有量は、例えば、製造過程において発酵液中の非資化性糖の含有量を低下させることによって低減できる。発酵原料として、液糖等の非資化性糖の含有割合が元々低い原料の使用比率を高めることにより、最終製品中の糖質含有量を低減することは可能である。しかしながら、液糖等の原料の使用比率が高いと、十分良好な風味を有するビールテイスト飲料は得られない。
【0003】
穀物原料等の、非資化性糖を多く含む原料を発酵原料として用いる場合に発酵液中の非資化性糖量を減らす方法として、特許文献1には、仕込工程及び/又は発酵工程においてグルコアミラーゼを添加し、発酵工程においてトランスグルコシダーゼを添加する製造方法が開示されている。この製造方法により、最終製品中の糖質量に寄与する多糖の大部分を酵母が資化可能な糖に分解することができ、発酵原料として麦芽等の穀物原料を多く用いた場合でも、最終製品中の糖質含有量を低減することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、糖質含有量が低減された従来のビールテイスト飲料は、十分良好な香味を有するとはいえない。例えば、上記特許文献1に記載されたビールテイスト飲料は、酢酸イソアミル臭が強く、好ましい香味を有するものではない。
【0006】
本発明は、酢酸イソアミル臭が低減された、糖質含有量の低いビールテイスト飲料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、原料として麦原料を用い、発酵工程においてグルコアミラーゼ及びβ-アミラーゼを添加することを含む。当該製造方法により、酢酸イソアミル臭が低減された、糖質含有量の低いビールテイスト飲料を得ることができる。
【0008】
上記製造方法は、発酵工程において更にプルラナーゼを添加することを含むことが好ましい。また、上記製造方法は、仕込工程において多糖分解酵素を添加することを含むことが好ましい。これらの構成を備えることにより、更に効率的にビールテイスト飲料の糖質含有量を下げることができ、かつビールテイスト飲料の香味をより向上させることができる。
【0009】
本発明はまた、原料中の麦原料の比率が50質量%以上であり、糖質含有量が2.0g/100ml未満であり、酢酸イソアミル濃度が2ppm以下であるビールテイスト飲料を提供する。当該ビールテイスト飲料は、酢酸イソアミル臭が低減されている。
【0010】
上記ビールテイスト飲料は、酢酸エチルを含有し、酢酸エチルに対する酢酸イソアミルの含有質量比が0.060以下であることが好ましい。比が上記範囲であることにより、ビールテイスト飲料の酢酸イソアミル臭をより低減させ、香味をより向上させることができる。
【0011】
上記ビールテイスト飲料は、麦原料が麦芽及び大麦を含み、麦芽と大麦との比率が20:80~100:0であることが好ましい。麦芽と大麦との比率が上記範囲であることにより、ビールテイスト飲料の香味をより向上させることができる。
【0012】
上記ビールテイスト飲料は、アルコールチルヘイズが0.2以下であることが好ましい。
【0013】
上記ビールテイスト飲料は、アルコール濃度が3体積%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、酢酸イソアミル臭が低減された、糖質含有量の低いビールテイスト飲料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、原料として麦原料を用い、発酵工程においてグルコアミラーゼ及びβ-アミラーゼを添加することを含む。
【0017】
本明細書において、ビールテイスト飲料とは、ビールのような味及び香りを呈するものであって、飲用の際にビールを飲用したような感覚を飲用者に与える飲料をいう。ビールテイスト飲料は、アルコール飲料でもよく、ノンアルコール飲料であってもよい。ノンアルコールとは、実質的にアルコールが含まれていないことをいう。ノンアルコールビールテイスト飲料のアルコール含有量は、例えば1体積%未満であってよく、0.5体積%以下、0.1体積%以下、又は0.005体積%未満であってもよく、アルコールを全く含まないものとしてもよい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0018】
ビールテイスト飲料は、アルコール飲料であることが好ましい。ビールテイストアルコール飲料としては、例えば、日本国酒税法(昭和二十八年二月二十八日法律第六号)上のビール、発泡酒、その他の醸造酒、リキュールに分類されるものが挙げられる。アルコールビールテイスト飲料は、ビールであることが好ましい。ビールテイストアルコール飲料のアルコール濃度は、例えば1~30体積%、1~20体積%、3~20体積%、3~15体積%、又は4~8体積%であってよい。
【0019】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であってもよく、非発泡性であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であることが好ましい。本明細書において発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)以上であることをいい、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)未満であることをいう。
【0020】
本明細書において、麦原料とは、麦又は麦加工物をいう。麦は、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦等であってよく、大麦であることが好ましい。麦加工物としては、例えば、麦エキス、麦芽、モルトエキス等が挙げられる。麦エキスは、麦から糖分及び窒素分を含む麦エキス分を抽出することにより得られる。麦芽は麦を発芽させることにより得られる。モルトエキスは、麦芽から糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。麦原料は、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。麦原料は麦芽を含むことが好ましく、大麦麦芽を含むことが風味の点からより好ましい。本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法によれば、原料として麦原料を多く用いた場合であっても、糖質量が充分に低減されたビールテイスト飲料を製造することができる。
【0021】
原料中の麦原料の比率は50質量%以上であってよく、66%以上又は67%以上であってもよく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることがより更に好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。原料中の麦原料は100質量%であってもよい。原料中の麦原料の比率が上記範囲であると、よりビールテイスト飲料の香味を向上させることができる。なお、ここでいう「原料」とは、ビールテイスト飲料の製造に用いられる全原料の内、水及びホップ以外のものを指す。
【0022】
麦原料は、麦芽及び大麦を含むことが好ましい。麦芽と大麦との比率は、例えば20:80~100:0であってよく、25:75~100:0であることが好ましく、50:50~100:0であることがより好ましい。麦芽と大麦との比率が上記範囲であると、よりビールテイスト飲料の香味を向上させることができる。
【0023】
原料は、麦原料以外のものを含んでもよい。麦原料以外の原料は、例えば、トウモロコシ、米類、コウリャン等の穀類、馬鈴薯、サツマイモ等のイモ類、豆類等の植物原料であってよく、スターチ、グリッツ、液糖等の糖質原料であってもよい。
【0024】
本実施形態におけるビールテイスト飲料は、少なくとも仕込工程及び発酵工程を含む製造方法により得ることができる。仕込工程は、発酵に用いられる発酵前液を調製する工程である。仕込工程では、原料と水との混合が行われてもよく、原料と水とを混合した後、原料の糖化を行ってもよく、糖化後、更にろ過、煮沸、沈殿、冷却等を行ってもよい。
【0025】
発酵工程では、仕込工程で調製された発酵前液を発酵させる。本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法では、発酵工程においてグルコアミラーゼ及びβ-アミラーゼを添加する。本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法では、発酵工程においてグルコアミラーゼ及びβ-アミラーゼを添加することにより、原料中の糖質を酵母が資化可能な糖へ分解する反応を促進することができるとともに、ビールテイスト飲料の酢酸イソアミル臭を低減することができる。
【0026】
本実施形態に係る製造方法において用いられるグルコアミラーゼは、グルカン1,4-α-グルコシダーゼとも称され、アミロース及びアミロペクチンの非還元性末端からグルコース単位でα-1,4-グリコシド結合を逐次分解するエキソ型の酵素である。また、一般的にアミロペクチンにあるα-1,6結合も分解する。
【0027】
本実施形態に係る製造方法において用いられるβ-アミラーゼは、アミロース及びアミロペクチンの非還元性末端からマルトース単位でα-1,4-グリコシド結合を逐次分解するエキソ型の酵素である。
【0028】
本実施形態に係る製造方法では、発酵工程において更にプルラナーゼを添加してもよい。プルラナーゼは、アミロペクチン、デキストリン、プルラン等のα-1,6-グリコシド結合を切断するエンド型酵素である。発酵工程においてプルラナーゼを添加することにより、更に効率よくビールテイスト飲料中の糖質量を低減することができ、香味を向上させることができる。発酵工程においては、更に他の種類の多糖分解酵素、タンパク質分解酵素等の酵素を添加してもよい。
【0029】
β-アミラーゼ等の酵素は、麦、豆類、イモ類等の植物原料自体に含まれている場合があるが、本実施形態に係る製造方法では、上記各酵素は、原料としての植物原料又は糖質原料の他に、外来の酵素として別途添加される。
【0030】
上記酵素の添加量は、使用する酵素の種類、酵素活性、原料の種類等に応じて適宜調節することができる。グルコアミラーゼの添加量は、例えば、冷麦汁量に対して0.001~2w/v%、0.01~1w/v%、又は0.1~0.5w/v%としてよい。また、グルコアミラーゼの添加量は、例えば、冷麦汁量に対して2.50~5000U/ml、25~2500U/ml、250~1250U/mlとしてもよい。β-アミラーゼの添加量は、例えば、冷麦汁量に対して0.001~2w/v%、0.01~1w/v%、又は0.1~0.5w/v%としてよい。また、β-アミラーゼの添加量は、例えば、冷麦汁量に対して0.017~34U/ml、0.17~17U/ml、又は1.7~8.5U/mlとしてもよい。プルラナーゼの添加量は、例えば、冷麦汁量に対して0.001~2w/v%、0.01~1w/v%、又は0.05~0.2w/v%としてもよい。また、プルラナーゼの添加量は、例えば、冷麦汁量に対して0.03~60U/ml、0.3~30U/ml、又は1.5~6U/mlとしてもよい。
【0031】
グルコアミラーゼ及びβ-アミラーゼは、発酵工程開始から終了時までのいずれかの時点で発酵液中で加水分解活性を有する状態で存在するように、添加されればよい。各酵素は発酵工程開始時に発酵前液に添加されてもよく、発酵の途中で発酵液に添加されてもよい。添加は一度にまとめて行われてもよく、複数回に分けて行われてもよい。酵素が原料に作用する時間をより長くし、加水分解反応を十分に行うために、酵素は発酵工程のより早期に添加されることが好ましい。複数の酵素は一度にまとめて添加してもよく、任意の順で別々に添加してもよい。プルラナーゼ及び必要に応じてその他の種類の酵素を使用する場合も、添加の態様は上記酵素と同様の態様を適用できる。
【0032】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、上述のとおり酵素を使用する他は、発酵を伴う公知のビールテイスト飲料の製造方法と同様の方法を適用することができる。発酵工程では、酵母を添加してアルコール発酵が行われる。酵母による発酵の温度は、添加する酵素が加水分解作用を発揮し得る範囲であれば、通常のビールテイスト飲料における発酵温度を適用でき、例えば0~40℃とすることができる。発酵時間は、所望するビールテイスト飲料の性質に応じて適宜調節できる。発酵工程では、更に熟成を行ってもよい。熟成は、発酵後の発酵液を更に所定の時間所定の温度で維持することにより行うことができる。熟成を行うことにより、発酵液中の不要物を沈殿させて濁りを取り除き、また、香味を向上させることができる。
【0033】
発酵工程を経ることによって、酵母により生成されたアルコール等を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるアルコール濃度(アルコール度数)は、例えば、1~20体積%とすることができ、1~10体積%としてもよく、3~10体積%としてもよい。アルコール濃度を1体積%未満とする場合は、発酵工程での発酵時間を短くしたり、発酵温度を低くしたりするなど、発酵条件を適宜調節することにより、アルコール濃度を下げることができる。また、アルコール濃度が1~20体積%の発酵後液を適宜希釈することにより、アルコール濃度を1体積%未満とすることもできる。
【0034】
発酵工程後の発酵後工程として、最終的にビールテイスト飲料を得るために発酵後液に所定の処理を施してもよい。発酵後工程としては、例えば、発酵工程で得られた発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過に相当)が挙げられる。この一次ろ過により、発酵後液から不溶性の固形分や酵母を除去することができる。また、発酵後工程においては、更に発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過)を行ってもよい。二次ろ過により、発酵後液から雑菌や、残存する酵母を除去することができる。なお、精密ろ過に代えて、発酵後液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。発酵後工程における一次ろ過、二次ろ過、加熱は、ビールテイスト飲料を製造する際に使用される一般的な設備で行うことができる。
【0035】
上記ビールテイスト飲料の製造には、原料としてホップを用いてもよい。ホップを用いることにより、ビールテイスト飲料によりビール様の風味を付与することができる。ホップとしては、例えば、ホップペレット、ホップエキス等を用いることができる。ホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。ホップ等の添加は、仕込工程、発酵工程、発酵後工程のいずれにおいて行われてもよく、複数回行われてもよい。仕込工程においてろ過、煮沸を行う場合には、ろ過、煮沸の前に添加されることが好ましい。ホップの添加方法としては、例えば、ケトルホッピング、レイトホッピング、ドライホッピングを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ケトルホッピングとは、発酵前液の昇温中又は煮沸初期にホップを投入することをいい、レイトホッピングとは、煮沸の終了間際にホップを投入することをいう。また、ドライホッピングとは、発酵工程開始以降にホップを投入することをいう。ホップ加工品は、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等であってよい。
【0036】
発酵後液のアルコール濃度を高くしたい場合は、発酵後工程で上述のスピリッツ等のアルコールを添加してもよい。また、発酵後工程には、ビン、缶等の容器にビールテイスト飲料を充填する工程も含まれる。製造したビールテイスト飲料が非発泡性の場合や、発泡性が十分でない場合には、炭酸ガス含有水の添加、又はカーボネーションを行うことによって所望の発泡性を付与してもよい。
【0037】
本実施形態に係る製造方法においては、仕込工程において酵素を添加することが好ましい。仕込工程で添加される酵素は多糖分解酵素、タンパク質分解酵素等であってよく、多糖分解酵素であることが好ましい。仕込工程で添加される多糖分解酵素は、1種又は異なる複数種であってよく、異なる複数種であることが好ましい。仕込工程において多糖分解酵素を添加することにより、更に効率的にビールテイスト飲料中の糖質量を低減することができる。なお、仕込工程において、煮沸を行う場合は、酵素を十分に作用させるために、酵素を添加するタイミングは煮沸前であることが好ましい。
【0038】
グルコアミラーゼ、β-アミラーゼ、プルラナーゼ及びその他の発酵工程において添加される酵素は、発酵工程及び仕込工程の双方において添加されてもよい。グルコアミラーゼ、β-アミラーゼ、プルラナーゼ及びその他の発酵工程において添加される酵素は、仕込工程においてのみ添加した場合でも糖質低減効果を有するが、発酵工程において添加されることによって、より大きな糖質低減効果を得ることができる。
【0039】
本実施形態においては、原料を発酵させて得られたアルコールに加えて、必要に応じ、更にアルコールを添加してもよい。添加するアルコールは飲用アルコールであればよく、種類、製法、原料などは限定されない。例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカ等の各種スピリッツ、原料用アルコールなどを1種又は2種以上を組み合わせて添加することができる。また、原料を発酵させて得られたアルコールの濃度が高い場合は、必要に応じて所望のアルコール濃度となるよう希釈してもよい。
【0040】
上記ビールテイスト飲料の製造方法によって、酢酸イソアミル臭が低減された、糖質含有量の低いビールテイスト飲料が得られる。したがって、上述の方法は、ビールテイスト飲料の酢酸イソアミル臭を低減する方法ということもできる。
【0041】
本発明はまた、糖質含有量が2.0g/100ml未満であり、酢酸イソアミル濃度が2ppm以下であるビールテイスト飲料を提供する。当該ビールテイスト飲料は、酢酸イソアミル臭が低減されている。当該ビールテイスト飲料は、例えば上述のビールテイスト飲料の製造方法によって得ることができる。
【0042】
本明細書における糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分を除いたものをいう。また、食品中の糖質の量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分の量を控除することにより算定される。タンパク質、脂質、灰分、水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定する。アルコール分の量は、水分量とともに測定することができる。具体的には、タンパク質の量は改良デュマ法による全窒素(タンパク質)の定量法で測定し、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法又はレーゼゴットリーブ法で測定し、灰分の量は酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法又は硫酸添加灰化法で測定し、水分及びアルコール分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧加熱乾燥法、常圧加熱乾燥法又はプラスチックフィルム法で測定する。
【0043】
食物繊維を別途添加する場合を除き、ビールテイスト飲料に含まれる食物繊維量は、麦等の原料に由来すると考えられる。通常、本実施形態に係る製造方法で得られるビールテイスト飲料に含まれる食物繊維量は0.1g/100ml以下であることが分かっている。したがって、本明細書においては、ビールテイスト飲料中の食物繊維含有量を0.1g/100mlとみなして糖質量を算定する。本実施形態に係るビールテイスト飲料の、麦原料由来の食物繊維含有量は0.1g/100ml以下であることが好ましい。食物繊維の量は高速液体クロマトグラフ法又はプロスキー法で測定する。ビールテイスト飲料には、麦原料等の植物原料に由来するもの以外に食物繊維を別途添加してもよい。食物繊維を別途添加する場合には、0.1g/100mlに添加した食物繊維量を加算した値を、ビールテイスト飲料に含まれる食物繊維量として、糖質量を算定する。
【0044】
上記ビールテイスト飲料の糖質含有量は、1.5g/100ml未満であってよく、1.0g/100ml未満であってもよく、栄養表示基準における「糖質ゼロ」、すなわち0.5g/100ml未満であってもよい。糖質含有量は、0.5g/100ml以上であってよく、1.0g/100ml以上であってもよい。糖質含有量は、仕込工程及び/又は発酵工程における酵素添加量、原料の種類及び使用量等によって調節することができる。
【0045】
上記ビールテイスト飲料は、アルコールに対する糖質の含有質量比が、例えば0.4以下であってよく、0.3以下、0.2以下又は0.1以下であってもよい。
【0046】
上記ビールテイスト飲料の酢酸イソアミル濃度は、1.5ppm未満であることが好ましく、1.0ppm未満であることがより好ましい。ビールテイスト飲料の酢酸イソアミル臭は、後述する実施例に示すとおり、必ずしもビールテイスト飲料中の酢酸イソアミル濃度のみに依存するものではないが、酢酸イソアミル濃度が低いことにより、更にビールテイスト飲料の酢酸イソアミル臭を低減することができる。
【0047】
上記ビールテイスト飲料は、アルコールに対する酢酸イソアミルの含有質量比が、例えば0.00004以下であってよく、0.00003以下、0.00002以下又は0.00001以下であってもよい。
【0048】
上記ビールテイスト飲料の酢酸エチルに対する酢酸イソアミルの含有質量比は、0.060以下であることが好ましく、0.055以下であることがより好ましい。ビールテイスト飲料の酢酸エチルに対する酢酸イソアミルの濃度比が上記範囲であることによって、より確実に酢酸イソアミル臭を低減することができる。
【0049】
ビールテイスト飲料は、着色料、果汁、酸化防止剤、香料、塩類、酸味料、ミネラル等を含んでもよい。
【0050】
上記ビールテイスト飲料は、混濁耐久性に優れる。混濁耐久性は、アルコールチルヘイズを指標として評価することができ、アルコールチルヘイズの値が低いほど混濁耐久性が高いと評価することができるとされている(Alcohol Chill Haze in Beer (Test Chapon), Analytica EBC, 9.41)。アルコールチルヘイズは、ビールテイスト飲料サンプルにエタノールを添加して冷却し、チルヘイズ(寒冷混濁)を析出させてその濁度を測定することにより求められる。アルコールチルヘイズは、上記Analytica EBCの方法に基づいて測定される。上記ビールテイスト飲料のアルコールチルヘイズは、0.2以下であることが好ましく、0.18以下であることがより好ましく、0.15であることが更に好ましい。アルコールチルヘイズは、一次ろ過後、48時間以内に測定されることが望ましい。アルコールチルヘイズは、一次ろ過後、24時間以内に測定されることがより望ましく、12時間以内、6時間以内、3時間以内、又は1時間以内に測定されることが更に望ましい。
【0051】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、容器詰めされていてもよい。容器としては、ビールテイスト飲料に用いられる公知のものを用いることができ、例えば、缶、ビン、ペットボトル等のプラスチック容器、紙容器、パウチ容器、樽等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
麦原料として粉砕した大麦麦芽17kg、仕込水68L、大麦麦芽に対して約1.3w/w%の多糖分解酵素を含む原料を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)に、冷麦汁量に対して0.15w/v%(375U/ml)のグルコアミラーゼ、同0.15w/v%(2.55U/ml)のβ-アミラーゼ、同0.08w/v%(2.40U/ml)のプルラナーゼを投入した。ビール酵母を摂種し、所定期間発酵させ、アルコール濃度約5体積%のビールテイスト飲料を得た。
【0054】
比較例1では、発酵中にβ-アミラーゼ、グルコアミラーゼ及びプルラナーゼを添加せずにトランスグルコシダーゼ0.15w/v%を添加した他は、実施例1と同様の条件でビールテイスト飲料を製造した。比較例4では、発酵時に酵素をいずれも添加しなかった以外は実施例1と同様の条件でビールテイスト飲料を製造した。
【0055】
実施例2、比較例2、5では、原料中の麦芽使用比率を約50質量%(残部は大麦)とし、仕込工程における多糖分解酵素添加量を大麦に対して約2.65w/w%とした他は、それぞれ実施例1、比較例1、4と同様の条件でビールテイスト飲料を製造した。実施例3、比較例3、6では、原料中の麦芽使用比率を約25質量%(残部は大麦)とし、仕込工程における多糖分解酵素添加量を大麦に対して約2.65w/w%とした他は、それぞれ実施例1、比較例1、4と同様の条件でビールテイスト飲料を製造した。
【0056】
(糖質量)
得られたビールテイスト飲料の水分、アルコール分、タンパク質、灰分の量をそれぞれ測定した。水分とアルコール分は常圧加熱乾燥法により測定した。タンパク質量は、改良デュマ法により全窒素(タンパク質)の定量法により測定した。灰分量は、直接灰化法により測定した。ビールテイスト飲料中の脂質量を0g/100ml、食物繊維量を0.1g/100mlとみなし、ビールテイスト飲料の重量から、水分、アルコール分、タンパク質量、灰分量及び0.1g/100mlを引いた値をビールテイスト飲料の糖質量(g/100ml)として算定した。
【0057】
(酢酸エチル、酢酸イソアミル)
ビールテイスト飲料の酢酸エチル濃度及び酢酸イソアミル濃度を、BCOJビール分析法の「8.22 低沸点香気成分」の方法に従い、FID検出器付きガスクロマトグラフ(Agilent6890ガスクロマトグラフ、アジレントテクノロジー社製)を用いて測定した。また、酢酸エチルに対する酢酸イソアミルの濃度比を算出した。
【0058】
(アルコールチルヘイズ)
以下の手順によりビールテイスト飲料のアルコールチルヘイズを測定した。
キャップ付きキュベットに、サンプル200ml及びエタノール6mlを入れ、密栓して、混合した。混合したサンプル入りキュベットを速やかに-5℃の恒温水槽内に浸漬し、60分間浸漬冷却した。キュベットを恒温水槽から取り出し、濁度計により90°散乱光濁度を測定した。
【0059】
(官能評価)
得られたビールテイスト飲料の香味について、熟練のパネルにより官能評価を行った。香味の官能検査は、具体的には、酢酸イソアミル臭、飲用時のキレ及びスムースさの項目について、それぞれ1~5の5段階評価で行った。酢酸イソアミル臭は、数値が高いほど臭いがより感じられないことを示す。キレは、後味が口に残らない感覚であり、数値が高いほどよりキレを強く感じることを示す。スムースさは、雑味・渋味・収斂味が舌に感じられないことをいい、数値が高いほどよりスムースであると感じることを示す。
【0060】
【0061】
発酵時に添加する酵素としてトランスグルコシダーゼのみを用いた比較例1~3と比較して、実施例1~3で得られたビールテイスト飲料は、酢酸イソアミル臭が少なく、飲用時のスムースさ及びキレに優れていた。また、実施例1~3のビールテイスト飲料は、アルコールチルヘイズ値が低く、混濁耐久性に優れることが示された。実施例1~3の中では、原料中の麦芽使用比率が高いほど、官能評価結果がより良好であった。
【0062】
実施例1~3で得られたビールテイスト飲料に酢酸イソアミルを添加して、下記表2に示す濃度としたものをそれぞれ実施例4~6とし、上記と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
酢酸イソアミルの濃度を2ppm近くまで高めたビールテイスト飲料は、酢酸イソアミルを添加していないものに比べて酢酸イソアミル臭が強まったものの、官能評価結果が許容範囲内であることが確認された。