(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】車両用の窓ガラス及びDAB用ガラスアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/32 20060101AFI20231012BHJP
H01Q 1/22 20060101ALI20231012BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20231012BHJP
B60S 1/02 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
H01Q1/32 A
H01Q1/22 C
B60J1/00 B
B60S1/02 300
(21)【出願番号】P 2022097663
(22)【出願日】2022-06-16
(62)【分割の表示】P 2021003046の分割
【原出願日】2016-05-06
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2015104166
(32)【優先日】2015-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】新井 大介
(72)【発明者】
【氏名】森下 浩成
(72)【発明者】
【氏名】徳田 健己
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩輔
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-073771(JP,A)
【文献】特開2015-056716(JP,A)
【文献】特開2012-085153(JP,A)
【文献】特開2000-114839(JP,A)
【文献】特開2006-197184(JP,A)
【文献】国際公開第2011/105602(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/32
H01Q 1/22
B60J 1/00
B60S 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、
前記ガラス板のいずれかの面に形成されるDAB用ガラスアンテナと、
前記DAB用ガラスアンテナの下方に配置され、対向する一対のバスバー部、及び水平方向にそれぞれ延び、垂直方向に並べられる複数の熱線部であって、その両端部がそれぞれ前記一対のバスバー部それぞれに連結する複数の熱線部、を有するデフォッガと、
を備え、
前記DAB用ガラスアンテナは、
前記ガラス板
の上辺側に配置される給電部と、
前記給電部から垂直方向に延びる第1エレメントと、
水平方向に延び、前記第1エレメントと連結する第2エレメントと、
前記給電部の近傍に配置さ
れるアース接続部と、
前記アース接続部と接続され、当該アース接続部から前記給電部とは反対側に延びるアース線条部と、
を有し、
前記デフォッガは、前記複数の熱線部それぞれに交差するように垂直方向に延びる1又は複数の垂直線条部を更に有し、
前記1又は複数の垂直線条部は、前記バスバー部及び前記垂直線条部の間に挟まれた部分、並びに隣接する前記垂直線条部の間に挟まれた部分の距離が、以下の式1に示されるFの整数倍と等しくならないように配置される、
車両用のガラス。
【数1】
Fは、DABの電波の半波長を示し、
λ
0は、前記熱線部上におけるDABの電波の波長を示し、
Kは、前記熱線部上の波長短縮率を示し、
cは、光速を示し、
fは、DABの電波の周波数を示す。
【請求項2】
前記DAB用ガラスアンテナの前記第1エレメントは、垂直方向の長さが20mm以上である、
請求項
1に記載の車両用のガラス。
【請求項3】
前記車両用の窓ガラスは、水平方向から当該窓ガラスに平行光を当て、それにより生じた当該窓ガラスの投影面積が0.5m
2となり、水平方向を基準としたときの当該窓ガラスの取付角度が45度以上75度以下となるように車両の窓枠に取り付けられる、
請求項1
または2に記載の車両用のガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の窓ガラス及びDAB用ガラスアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に取り付けられる車両用の窓ガラス(特に、リアガラス)の表面には、結露又は氷結を除去するためのデフォッガ、所定の電波を受信するためのアンテナ等が設けられることがある。例えば、特許文献1では、DAB(Digital Audio Broadcasting。以下、「DAB」と称する)の放送を受信するためのガラスアンテナをデフォッガと共に設けた車両用の窓ガラスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ガラスアンテナの受信性能を向上させる技術の開発が進められている。
【0005】
特に、垂直偏波であるDABの放送を高感度で受信するためには、垂直方向にある程度の長さを有するガラスアンテナを設けることになる。一方、ガラスアンテナと共にデフォッガを設ける場合には、デフォッガの占める範囲の分だけ、ガラスアンテナを配置可能な範囲が狭くなる。そのため、ガラスアンテナを配設可能な垂直方向の長さが制限されてしまい、垂直偏波であるDABの放送を高感度で受信可能なガラスアンテナを設けるのは困難であった。
【0006】
更に、ハッチバックタイプの車のようにリアガラスの取付角度が垂直に近い又は比較的に大きい車種では、リアガラスのガラス面積が比較的に狭い。そのため、このリアガラスにデフォッガとガラスアンテナとを設ける場合には、ガラスアンテナを配置可能な範囲が非常に限られてしまい、DABの放送を高感度で受信可能なガラスアンテナを設けるのは困難であった。
【0007】
本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、DABの放送の受信性能を向上させることのできる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0009】
すなわち、本発明の一側面に係る車両用の窓ガラスは、ガラス板と、前記ガラス板のいずれかの面に形成されるDAB用ガラスアンテナと、を備え、前記DAB用ガラスアンテナは、前記ガラス板の下辺側に配置される給電部と、垂直方向に延びる第1エレメントと、を有する。
【0010】
一般的に、低所に設置するよりも高所に設置した方がアンテナは障害物の影響を受け難いため、アンテナの設置場所は高所の方が有利だと言われている。そのため、従来、DAB用ガラスアンテナは窓ガラスの上辺側に配置されていた。これに対して、本件発明者らは、鋭意努力の結果、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの下辺側に配置した方がガラス板の上辺側に配置するよりも、当該DAB用ガラスアンテナの感度がよくなることを見出した。そこで、当該構成では、DAB用ガラスアンテナの給電部をガラス板の下辺側に配置することで、当該DAB用ガラスアンテナは窓ガラスの下辺側に配置される。したがって、当該構成によれば、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの下辺側に配置することで、DABの放送の受信性能を向上させることができる。
【0011】
加えて、給電部と受信器との間にアンプを設ける場合、このアンプは、窓ガラスの下辺側に配置されるのが一般的である。そのため、給電部を窓ガラスの上辺側に配置すると、給電部からアンプに延びる配線のために車体のフレームを部分的に切り欠く必要が出てくる可能性があり、車体のフレームを部分的に切り欠いた場合には、車体の強度を低下させてしまう。これに対して、上記構成によれば、給電部を窓ガラスの下辺側に配置するため、上記のような可能性を排除することができる。また、アンプと給電部との距離が短くすることができ、DAB用ガラスアンテナの受信性能を高めることができる。
【0012】
また、上記一側面に係る窓ガラスの別の形態として、上記第1エレメントは、上記給電部から垂直方向上方に延びてもよい。当該構成によれば、第1エレメントが給電部にダイレクトに接続されるため、DAB用ガラスアンテナ全体の寸法をコンパクトにすることができる。
【0013】
また、上記一側面に係る窓ガラスの別の形態として、上記窓ガラスは、対向する一対のバスバー部と、水平方向にそれぞれ延び、垂直方向に並べられる複数の熱線部であって、その両端部がそれぞれ前記一対のバスバー部それぞれに連結する複数の熱線部と、を有するデフォッガを更に備えてもよい。そして、前記デフォッガは、前記DAB用ガラスアンテナの上方に配置されてもよく、前記DAB用ガラスアンテナは、水平方向に延び、前記第1エレメントと連結する第2エレメントを更に有してもよい。当該構成によれば、デフォッガが設けられるため、ガラス板の面において、DAB用ガラスアンテナを設置可能な範囲が制限される。そこで、当該構成では、DAB用ガラスアンテナに水平方向に延びる第2エレメントを設けることで、DABの放送の受信性能を保ちつつ、当該DAB用ガラスアンテナの垂直方向の長さを抑えることができる。したがって、当該構成によれば、デフォッガを設けた窓ガラスにおいて、受信性能の担保されたDAB用ガラスアンテナを設けることができる。
【0014】
また、上記一側面に係る窓ガラスの別の形態として、前記デフォッガは、前記複数の熱線部それぞれに交差するように垂直方向に延びる1又は複数の垂直線条部を更に有してもよい。本件発明者らは、デフォッガに垂直線条部を設けることで、DAB用ガラスアンテナの感度がよくなることを見出した。したがって、当該構成によれば、デフォッガに1又は複数の垂直線条部を設けることで、DABの放送の受信性能を向上させることができる。
【0015】
また、上記一側面に係る窓ガラスの別の形態として、DABの周波数帯の電波により前記デフォッガに定常波が発生しないように配置されてよい。本件発明者らは、垂直線条部の配置によっては、DABの周波数帯の電波によりデフォッガに当該電波の定常波が発生し、DAB用ガラスアンテナの感度が低下することを見出した。したがって、当該構成によれば、DAB用ガラスアンテナの感度が低下することを防止し、DABの放送の受信性能を向上させることができる。
【0016】
また、上記一側面に係る窓ガラスの別の形態として、前記デフォッガは、前記DAB用ガラスアンテナの上端から垂直方向上方に46mm以上離れるように配設されてもよい。本件発明者らは、DAB用ガラスアンテナをデフォッガ(特に、垂直線条部がない場合)から46mm未満の範囲に近付けると、デフォッガが干渉することによって当該DAB用ガラスアンテナの感度が低くなることを見出した。そこで、当該構成では、前記DAB用ガラスアンテナの上端から垂直方向上方に46mm以上離れるようにデフォッガを配設することで、DAB用ガラスアンテナは、デフォッガから46mm以上離される。したがって、当該構成によれば、DAB用ガラスアンテナをデフォッガから46mm以上離すことで、DABの放送の受信性能を向上させることができる。
【0017】
また、上記一側面に係る窓ガラスの別の形態として、前記DAB用ガラスアンテナの前記第1エレメントは、垂直方向の長さが20mm以上であってもよい。一般的には、垂直偏波であるDABの放送を受信するためには、垂直方向の長さの長いアンテナを用いるのが望ましい。ただし、デフォッガを設ける等、ガラスアンテナを設ける範囲が制限される場合があり、このような場合には、DAB用ガラスアンテナの垂直方向の長さを所望の長さに形成できない可能性がある。これに対して、本件発明者らは、DAB用ガラスアンテナの垂直方向の長さを20mm以上であれば、DABの放送の受信性能を保つことができることを見出した。したがって、当該構成によれば、DAB用ガラスアンテナの垂直方向の長さを短くしつつ、DABの放送の受信性能を保つことができる。
【0018】
また、上記一側面に係る窓ガラスの別の形態として、前記車両用の窓ガラスは、水平方向から当該窓ガラスに平行光を当て、それにより生じた当該窓ガラスの投影面積が0.5m2となり、水平方向を基準としたときの当該窓ガラスの取付角度が45度以上75度以下となるように車両の窓枠に取り付けられてよい。このような取付面積の狭い窓では、DAB用ガラスアンテナの設置可能な範囲が制限される。特に、デフォッガと共にDAB用ガラスアンテナを設ける場合には、DAB用ガラスアンテナの設置可能な範囲は制限される。しかしながら、本発明によれば、DAB用ガラスアンテナの感度を高めることができるため、このような取付面積の狭い窓においても設置可能である。つまり、本発明は、このような取付面積の狭い窓で特に効果を発揮する。なお、このような取付面積及び取付角度を有する窓ガラスは、例えば、ハッチバックタイプの自動車のリアガラスである。ここで、リアガラスは、一般的に湾曲している。窓ガラスが湾曲している場合には、窓ガラスの各点では取付角度が変動する。上記構成では、この湾曲している窓ガラスは、水平方向を0度としたときに、当該窓ガラスの任意の点で取付角度が45度以上75度以下となるように取り付けられる。
【0019】
また、本発明の一側面に係るDAB用ガラスアンテナは、車両用の窓ガラスとして用いられるガラス板のいずれかの面に形成されるDAB用ガラスアンテナであって、前記ガラス板の下辺側に配置される給電部と、垂直方向に延びる線条の第1エレメントと、を備える。上記の通り、当該構成によれば、DABの放送の受信性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、DABの放送の受信性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る窓ガラスを模式的に例示する。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る窓ガラスの使用例を模式的に示す。
【
図3A】
図3Aは、他の形態に係る窓ガラスを模式的に例示する。
【
図3B】
図3Bは、他の形態に係る窓ガラスを模式的に例示する。
【
図3C】
図3Cは、他の形態に係る窓ガラスを模式的に例示する。
【
図3D】
図3Dは、他の形態に係る窓ガラスを模式的に例示する。
【
図4】
図4は、他の形態に係る窓ガラスを模式的に例示する。
【
図5A】
図5Aは、DAB用ガラスアンテナをガラス板の下辺部側に設けた実施例を模式的に例示する。
【
図5B】
図5Bは、DAB用ガラスアンテナをガラス板の上辺部側に設けた比較例を模式的に例示する。
【
図6A】
図6Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例の感度(利得)の測定結果を示す。
【
図6B】
図6Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例の感度(利得)の平均値を示す。
【
図7A】
図7Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各比較例の感度(利得)の測定結果を示す。
【
図7B】
図7Bは、DABのバンド3の帯域における各比較例の感度(利得)の平均値を示す。
【
図8】
図8は、ガラス板の下辺部側にL字型のDAB用ガラスアンテナを設けた実施例を模式的に例示する。
【
図9A】
図9Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例の感度(利得)の測定結果を示す。
【
図9B】
図9Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例の感度(利得)の平均値を示す。
【
図10】
図10は、下辺部側にL字型のDAB用ガラスアンテナを設けたガラス板にデフォッガを設けた実施例を模式的に例示する。
【
図11A】
図11Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例の感度(利得)の測定結果を示す。
【
図11B】
図11Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例の感度(利得)の平均値を示す。
【
図12】
図12は、デフォッガに垂直線条部を設けた実施例を模式的に例示する。
【
図13A】
図13Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例の感度(利得)の測定結果を示す。
【
図13B】
図13Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例の感度(利得)の平均値を示す。
【
図14】
図14は、5本の垂直線条部を有するデフォッガを設けたガラス板の下辺部側に垂直エレメント及び水平エレメントの長さをそれぞれ調節したDAB用ガラスアンテナを設けた実施例を模式的に例示する。
【
図15A】
図15Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例の感度(利得)の測定結果を示す。
【
図15B】
図15Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例の感度(利得)の平均値を示す。
【
図16】
図16は、ガラス板の上辺部側にL字型のDAB用ガラスアンテナを設けた参考例を模式的に例示する。
【
図17A】
図17Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各参考例の感度(利得)の測定結果を示す。
【
図17B】
図17Bは、DABのバンド3の帯域における各参考例の感度(利得)の平均値を示す。
【
図18】
図18は、上辺部側にL字型のDAB用ガラスアンテナを設けたガラス板にデフォッガを設けた実施例を模式的に例示する。
【
図19A】
図19Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各参考例の感度(利得)の測定結果を示す。
【
図19B】
図19Bは、DABのバンド3の帯域における各参考例の感度(利得)の平均値を示す。
【
図20】
図20は、デフォッガに垂直線条部を設けた参考例を模式的に例示する。
【
図21A】
図21Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各参考例の感度(利得)の測定結果を示す。
【
図21B】
図21Bは、DABのバンド3の帯域における各参考例の感度(利得)の平均値を示す。
【
図22】
図22は、デフォッガに垂直線条部を設けた参考例を模式的に例示する。
【
図23A】
図23Aは、1本の垂直線条部を設けた参考例における170MHzの電波を受信した際の電流分布のシミュレーション結果を示す。
【
図23B】
図23Bは、1本の垂直線条部を設けた参考例における240MHzの電波を受信した際の電流分布のシミュレーション結果を示す。
【
図24A】
図24Aは、3本の垂直線条部を設けた参考例における170MHzの電波を受信した際の電流分布のシミュレーション結果を示す。
【
図24B】
図24Bは、3本の垂直線条部を設けた参考例における240MHzの電波を受信した際の電流分布のシミュレーション結果を示す。
【
図25】
図25は、DABのバンド3の各周波数に対する各参考例の感度(利得)のシミュレーション結果を示す。
【
図26】
図26は、側辺寄りに給電部を設けた実施例を模式的に例示する。
【
図27】
図27は、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例の感度(利得)の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0023】
§1 構成例
<窓ガラス>
まず、
図1を用いて、本実施形態に係る窓ガラス1について説明する。
図1は、本実施形態に係る窓ガラス1を模式的に例示する平面図である。なお、
図1は、車内側から見た窓ガラス1を模式的に例示する。すなわち、
図1の紙面奥側が車外側であり、
図1の紙面手前側が車内側である。以下、説明の便宜のため、
図1の上下方向を「上下」と、
図1の右方向を「左」と、
図1の左方向を「右」と称することとする。なお、
図1の左右方向は本発明の「水平方向」に相当し、
図1の上下方向は本発明の「垂直方向」に相当する。ここで、垂直方向は、例えば、窓ガラス1を車体に取り付けたときの地面に対して垂直な方向を指す。また、水平方向は、例えば、窓ガラス1を車体に取り付けたときの地面に対して平行な方向を指す。なお、面が傾いている場合には、垂直方向及び水平方向は、それぞれの方向の成分を有するおよその方向を含む。
【0024】
本実施形態に係る窓ガラス1は、自動車に取り付けられる車両用の窓ガラスであって、具体的には自動車のリアガラスである。ただし、本発明の窓ガラスの種類は、リアガラスに限定される訳ではなく、実施の形態に応じて適宜選択可能である。
図1に例示されるように、本実施形態に係る窓ガラス1は略台形状のガラス板2を備えており、自動車の後部に設けられる窓枠に取り付けられる。
【0025】
そして、
図1に例示されるように、このガラス板2の下辺側には、DABの放送を受信するためのDAB用ガラスアンテナ4が設けられており、このDAB用ガラスアンテナ4の上方には、所定のパターンを有する防曇用のデフォッガ3が設けられている。このデフォッガ3及びDAB用ガラスアンテナ4は、ガラス板2の車内側の面及び車外側の面のいずれに設けられてもよい。以下、これらの各構成要素について説明する。
【0026】
<ガラス板>
まず、ガラス板2について説明する。
図1に例示されるように、本実施形態に係るガラス板2は、左右方向に延びる上辺部21と、この上辺部21に下方側で対向する下辺部22と、上辺部21及び下辺部22の左端部同士を連結する左側辺部23と、上辺部21及び下辺部22の右端部同士を連結する右側辺部24と、を有している。
【0027】
本実施形態に係るガラス板2は、自動車の窓ガラスとして利用され、取り付けられる自動車の窓枠に応じた形状に構成される。ガラス板2の取り付けられる自動車のタイプは、実施の形態に応じて適宜選択されてもよく、例えば、ハッチバックタイプであってもよい。例えば、ガラス板2は、ハッチバックタイプの自動車のリアガラスとして利用されてよい。また、ガラス板2は、湾曲した形状に形成されてもよい。例えば、ガラス板2は、車内側の面が凹となり、車外側の面が凸となるように、周縁部から中央部にかけて湾曲した形状に形成されてもよい。
【0028】
このようなガラス板2は、実施の形態に応じて、種々の構成が可能である。また、このガラス板2には、自動車用の公知のガラス板を利用することができる。例えば、ガラス板2には、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラス若しくはグリーンガラス、又はUVグリーンガラスが利用されてもよい。ただし、このようなガラス板2は、日射吸収率、可視光線透過率などが安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラス組成の一例を示す。
【0029】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0030】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0031】
なお、ガラス板2の種類は、クリアガラス、熱線吸収ガラス等に限られず、実施の形態に応じて適宜選択可能である。例えば、ガラス板2は、アクリル系、ポリカーボネート系等の樹脂窓であってもよい。
【0032】
<デフォッガ>
次に、防曇用のデフォッガ3について説明する。
図1に例示されるように、本実施形態に係るデフォッガ3は、後述するDAB用ガラスアンテナ4の上方に配置されるようガラス板2の上辺部21側に設けられ、窓ガラス1の結露及び氷結を除去するために所定のパターンを有している。
【0033】
具体的には、デフォッガ3は、左右方向に対向する一対のバスバー部31と、左右方向にそれぞれ延び、上下方向に並べられる複数(
図1では6本)の熱線部32と、を備えている。各熱線部32の両端部はそれぞれ各バスバー部31に連結している。そして、各バスバー部31には、所定の接続端子を取り付けるための接続部34が設けられている。
【0034】
この接続部34には所定の接続端子が半田付け等により取り付けられ、自動車の電源からの配線(不図示)が接続端子を介してバスバー部31に連結される。そのため、自動車の運転手は、操作パネル(不図示)を操作することによって、デフォッガ3に電気を供給することができる。
【0035】
デフォッガ3に電気が供給されると、バスバー部31を介して各熱線部32に電流が生じる。そうすると、流れる電気のエネルギーによって各熱線部32は加熱され、この各熱線部32の形成された部分でガラス板2が温められる。これによって、ガラス板2の面についた結露及び氷結を除去することができる。
【0036】
また、本実施形態に係るデフォッガ3には、各熱線部32に交差するように上下方向にそれぞれ延びる複数(
図1では5本)の垂直線条部33が設けられる。デフォッガ3は、導電性を有する導電性材料により構成される。そのため、このデフォッガ3が後述するDAB用ガラスアンテナ4に近接する場合には、デフォッガ3は、当該DAB用ガラスアンテナ4の受信性能に影響を及ぼし得る。
【0037】
ここで、後述する各実験(特に、実験4及び実験8)で示されるように、各垂直線条部33によって各熱線部32を短絡することで、DAB用ガラスアンテナ4の受信性能を改善することができる。そこで、本実施形態では、複数の垂直線条部33をデフォッガ3に設けることによって、DAB用ガラスアンテナ4の受信性能を高めるように構成する。
図1の例では、1本の垂直線条部33がガラス板2の左右方向中央に配置されており、この1本の垂直線条部33を中心として左右方向にそれぞれ2本の垂直線条部33が左右対称に配置されている。これによって、本実施形態に係るデフォッガ3は、左右対称に形成されている。
【0038】
なお、バスバー部31の形状、本数及び配置、熱線部32の形状、本数及び配置、垂直線条部33の形状、本数及び配置、並びに接続部34の位置は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜設計可能である。例えば、垂直線条部33は、単一であってもよいし、省略されてもよい。ただし、後述する実験9で示されるように、本件発明者らは、垂直線条部33の配置によっては、DABの周波数帯の電波によりデフォッガ3に定常波が発生してしまい、DAB用ガラスアンテナ4の感度が低下することを見出した。そのため、垂直線条部33は、DABの周波数帯の電波によりデフォッガ3に当該電波の定常波が発生しないように配置されるのが好ましい。これによって、DAB用ガラスアンテナ4の感度が低下することを防止し、DABの放送の受信性能を向上させることができる。
【0039】
DABの電波の定常波が発生しないような垂直線条部33の配置とは、具体的には、次のとおりである。すなわち、各熱線部32において、バスバー部31と垂直線条部33との間に挟まれた部分、及び隣接する垂直線条部33の間に挟まれた部分の距離P(以下、この距離を「ピッチ」とも称してよい)が受信する電波の半波長の整数倍である場合に、各部分で当該電波の定常波が生じうる。そのため、各部分の距離Pが以下の数1に示すFの整数倍と等しくならないように、各垂直線条部33を配置することで、DABの周波数帯の電波による定常波がデフォッガ3に発生しないようにすることができる。
【0040】
【数1】
なお、Fは、DABの電波の半波長を示す。λ
0は、熱線部32上におけるDABの電波の波長を示す。Kは、熱線部32上の波長短縮率を示す。このK(波長短縮率)の値は、ガラスの物性(比誘電率)、ガラスの厚み、受信対象とする電波の周波数等に基づいて特定され得る。一般的なガラスでは、Kの値は、0.6~0.8の範囲で設定される。また、cは、光速を示す。fは、DABの電波の周波数を示す。
【0041】
仮に、DABのバンド3を想定したとして、上記数1のfには、170MHz~240MHzを代入したとする。また、光速cに3.0×108(m/s)を代入し、波長短縮率Kに0.7を代入したとすると、Fは、0.44mから0.62mまでの範囲の値となる。そのため、バスバー部31と垂直線条部33との間に挟まれた部分、及び隣接する垂直線条部33の間に挟まれた部分の距離Pが、0.44mから0.62mまでの値(及び、これの整数倍)と等しくならないように各垂直線条部33を配置すれば、バンド3の電波による定常波がデフォッガ3で発生しないようにすることができる。なお、上記計算は、説明の便宜のために、簡易的な数値で行った。各部分の距離Pが避けるべき値Fを定めるにあたり、K、f、及びcの値は、上記の値に限られず、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0042】
このデフォッガ3は、導電性を有する導電性材料をガラス板2の表面に所定のパターンを有するように積層することで形成される。デフォッガ3の材料は、導電性を有していればよく、実施の形態に適宜選択可能である。デフォッガ3の材料の一例として、銀、金、白金等を挙げることができる。このデフォッガ3は、例えば、銀粉末、ガラスフリット等を含む導電性の銀ペーストをガラス板2の表面に印刷し焼成することによって形成することができる。
【0043】
<DAB用ガラスアンテナ>
次に、DABの放送を受信するためのDAB用ガラスアンテナ4について説明する。DABは、ヨーロッパ等で採用されているデジタルラジオの放送規格である。DABでは、主に、周波数帯域が174MHz~240MHzのバンド3と周波数帯域が1452MHz~1492MHzのLバンドとが用いられている。DAB用ガラスアンテナ4は、受信する周波数帯域に応じて適宜構成されてよい。なお、自動車の仕様等に応じて、各周波数帯域は若干変更され得る。そのため、例えば、バンド3の174MHz~240MHzの帯域は170MHz~240MHzの帯域として取り扱ってもよい。本明細書では、説明の便宜上、DABのバンド3の周波数帯域として、170MHz~240MHzの帯域も利用する。
【0044】
本実施形態に係るDAB用ガラスアンテナ4は、ガラス板2の下辺部22側に配置された矩形状の給電部41と、この給電部41から垂直方向上方に延びる線条の垂直エレメント42と、垂直エレメント42に連結し、左方向(水平方向)に延びる線条の水平エレメント43と、を備えている。
図1に例示されるように、水平エレメント43は、右端部において、垂直エレメント42の上端部と連結している。これによって、垂直エレメント42及び水平エレメント43はL字型のアンテナを構成している。このL字型のアンテナのうち、垂直エレメント42は本発明の「第1エレメント」に相当し、水平エレメント43は本発明の「第2エレメント」に相当する。
【0045】
上記のとおり、従来のDAB用ガラスアンテナは、窓ガラスの上辺側に配置されていた。これに対して、本件発明者らは、後述する各実験(特に、実験1)に基づき、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの下辺側に配置した方がガラス板の上辺側に配置するよりも、当該DAB用ガラスアンテナの感度がよくなることを見出した。そこで、本実施形態では、DAB用ガラスアンテナ4の給電部41をガラス板2の下辺部22側に配置することで、DAB用ガラスアンテナ4を窓ガラス1の下辺側に配置する。これによって、DAB用ガラスアンテナ4によるDABの放送の受信性能を向上させることができる。
【0046】
ここで、垂直エレメント42の垂直方向(上下方向)の長さ及び水平エレメント43の水平方向(左右方向)の長さはそれぞれ受信する周波数帯域に応じて適宜設定されてよい。一般的には、DABのように垂直偏波の信号を受信するためには、垂直エレメント42の垂直方向の長さを出来るだけ長くした方がよい。
【0047】
しかしながら、本実施形態では、DAB用ガラスアンテナ4の上方にデフォッガ3が設けられているため、DAB用ガラスアンテナ4の設置可能な範囲が制限されている。換言すると、デフォッガ3の上下方向の長さの分だけ、形成可能な垂直エレメント42の垂直方向の長さが制限されている。
【0048】
そこで、本実施形態では、DAB用ガラスアンテナ4の長さを確保するため、垂直エレメント42に連結する水平エレメント43を設けている。これによって、本実施形態では、DAB用ガラスアンテナ4の受信性能を保ちつつ、垂直エレメント42の垂直方向の長さを抑えることができる。
【0049】
ただし、垂直エレメント42が著しく短い場合には、DAB用ガラスアンテナ4の受信性能が著しく低下してしまう。そのため、後述する各実験(特に、実験2、実験5及び実験6)に基づき、垂直エレメント42の垂直方向の長さは20mm以上に構成されるのが望ましい。また、垂直エレメント42及び水平エレメント43の合計の長さは、受信対象とする電波の1/2波長分の長さとなるように構成されるのが望ましい。
【0050】
また、
図1に例示されるように、本実施形態に係るDAB用ガラスアンテナ4は、当該DAB用ガラスアンテナ4の上端がデフォッガ3から距離D1だけ下方に離れるように配置されている。換言すると、デフォッガ3は、DAB用ガラスアンテナ4の上端から垂直方向上方に距離D1の位置に配置されている。本実施形態では、水平エレメント43が垂直エレメント42の上端部に連結しているため、垂直エレメント42の上端部と共に水平エレメント43の上辺部がガラスアンテナ4の上端に相当する。
【0051】
距離D1は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。ただし、距離D1が短すぎる場合には、導電性材料で構成されたデフォッガ3がDAB用ガラスアンテナ4の受信性能に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、後述する各実験(特に、実験3)に基づき、デフォッガ3がDAB用ガラスアンテナ4の受信性能に影響を及ぼすのを避けるためには、距離D1は、46mm以上に設定されるのが望ましい。なお、距離D1が長すぎる場合には、DAB用ガラスアンテナ4の設置可能な範囲が狭くなってしまい、垂直エレメント42の垂直方向の長さが大きく制限されてしまう。そのため、距離D1の上限値は、垂直エレメント42の垂直方向の長さに応じて適宜設定されてよい。
【0052】
なお、本実施形態に係るDAB用ガラスアンテナ4は、いわゆる双極型アンテナとして構成される。すなわち、DAB用ガラスアンテナ4は、更に、給電部41の近傍に配置された矩形状のアース接続部44と、このアース接続部44から左方向(水平方向)に延びる線条のアース線条部45と、を備えている。
【0053】
そして、自動車に搭載された受信機(不図示)に連結された同軸ケーブル(不図示)の内部導体は、給電部41に電気的に接続され、垂直エレメント42及び水平エレメント43で受信した信号を受け取る。一方、当該同軸ケーブルの外部導体は、アース接続部44に電気的に接続され、アースされる。給電部41と受信器との間にアンプ(不図示)を設けてもよい。これによって、自動車に搭載された受信機でDABの放送を受信することができる。なお、給電部41と受信器との間にアンプを設ける場合、このアンプは、窓ガラス1の下辺部22側に配置される。これにより、車体のフレームを切り欠くことなく、アンプと給電部41とを配線で接続することができる。また、アンプと給電部41との間の距離を短くすることができ、これによって、配線でのロスを抑え、DAB用ガラスアンテナ4の受信性能を高めることができる。
【0054】
ただし、DAB用ガラスアンテナ4の構成はこのような例に限定されなくてもよく、アース接続部44及びアース線条部45が省略されて、DAB用ガラスアンテナ4はいわゆる単極型アンテナとして構成されてもよい。この場合、同軸ケーブルの外部導体は、例えば、自動車の車体に直接接続されることで、アースされてもよい。
【0055】
このようなDAB用ガラスアンテナ4は、デフォッガ3と同様、導電性を有する導電性材料をガラス板2の表面に所定のパターンを有するように積層することで形成することができる。DAB用ガラスアンテナ4の材料は、導電性を有していればよく、実施の形態に適宜選択可能である。DAB用ガラスアンテナ4の材料の一例として、銀、金、白金等を挙げることができる。このDAB用ガラスアンテナ4は、例えば、銀粉末、ガラスフリット等を含む導電性の銀ペーストをガラス板2の表面に印刷し焼成することによって形成することができる。
【0056】
<製造方法>
次に、本実施形態に係る窓ガラス1の製造方法を説明する。本実施形態に係る窓ガラス1のガラス板2は、プレスによって成形するプレス成形工法、ガラス板2の自重で曲げる自重曲げ工法等によって成形することができる。
【0057】
ここで、それぞれの工法においてガラス板2を成形する際には、ガラス板2は加熱炉内で軟化点付近まで加熱される。この加熱炉内に搬入される前には、ガラス板2は、平板状に形成されており、銀粉末、ガラスフリット等を含む導電性の銀ペーストがこのガラス板2の表面に印刷される。そして、ガラス板2を加熱炉内に搬入することで、ガラス板2を成形すると共に、ガラス板2に印刷された銀ペーストを焼成して、デフォッガ3及びDAB用ガラスアンテナ4を形成することができる。
【0058】
<使用例>
次に、
図2を用いて、本実施形態に係る窓ガラス1の使用例を説明する。
図2は、本実施形態に係る窓ガラス1の使用例を模式的に示す。
図2に例示されるように、本実施形態に係る窓ガラス1は、ハッチバックタイプの車両8のリアガラスとして利用することができる。
【0059】
この車両8は、窓枠9をリア側に備えており、窓ガラス1がこの窓枠9に取り付けられる。例えば、窓ガラス1は、水平方向から平行光を当て、それにより生じた投影面積が0.5m2となり、水平方向を基準としたとき(水平方向を0度としたとき)の取付角度が45度以上75度以下となるように窓枠9に取り付けられる。なお、窓ガラス1が湾曲している場合、窓ガラス1の各点で取付角度は変動する。この場合、窓ガラス1は、当該窓ガラス1の任意の点で取付角度が45度以上75度以下となるように窓枠9に取り付けられる。また、投影面積は、例えば、次のようにして測定することができる。すなわち、窓ガラス1を車両の窓枠に取り付け、地面に対して平行な平行光を車内側から窓ガラス1に照射する。そして、地面に対して垂直に設置した車外のスクリーンに窓ガラス1の透過光を投影し、このスクリーンに投影された窓ガラス1の影の面積を測定する。これによって、窓ガラス1の投影面積を測定することができる。
【0060】
このような取付面積及び取付角度の窓枠9に窓ガラス1を取り付ける場合には、窓ガラス1の大きさは比較的に小さくなる。そのため、DAB用ガラスアンテナ4と共にデフォッガ3を窓ガラス1に設けると、DAB用ガラスアンテナ4の設置可能な範囲が制限されてしまう。しかしながら、上記のとおり、本実施形態によれば、DAB用ガラスアンテナ4の受信性能を保ちつつ、垂直エレメント42の垂直方向の長さを抑えることができる。すなわち、DAB用ガラスアンテナ4の設置可能な範囲が制限されても、DAB用ガラスアンテナ4の受信性能を維持することが可能である。したがって、本実施形態は、このような取付面積及び取付角度の窓で特に効果を発揮する。
【0061】
§2 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。窓ガラス1、ガラス板2、デフォッガ3及びDAB用ガラスアンテナ4の各構成要素に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、適宜説明を省略した。
【0062】
(ガラス板)
例えば、ガラス板2の上記具体的な構成に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の省略、変更、置換、及び追加が行われてもよい。上記ガラス板2は、例えば、前方側に湾曲した形状であってもよいし、平らな形状であってもよい。また、ガラス板2は、リアガラス以外の用途で利用されてもよい。
【0063】
また、上記ガラス板2は、1枚のガラス板により構成されている。しかしながら、上記ガラス板2は、外側ガラス板と内側ガラス板とを中間膜を介して互いに接合した合わせガラスにより構成されてもよい。更に、上記ガラス板2は、台形状に形成されている。しかしながら、ガラス板2の形状は、このような形状に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0064】
(デフォッガ及びDAB用ガラスアンテナ)
また、例えば、デフォッガ3及びDAB用ガラスアンテナ4それぞれの上記具体的な構成に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の省略、変更、置換、及び追加が行われてもよい。
【0065】
例えば、上記デフォッガ3は、左右対称に形成されなくてもよい。また、上記実施形態では、複数の(図では5本)垂直線条部33が左右対称に配置されている。しかしながら、複数の垂直線条部33は、このように左右対称に配置されなくてもよい。また、上記実施形態では、5本の垂直線条部33が設けられている。しかしながら、垂直線条部33の数は、5本に限定されなくてもよく、1本~4本であってもよいし、6本以上であってもよい。すなわち、垂直線条部33の配置及び数は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。ただし、隣接する垂直線条部33間のピッチ及びバスバー部31と当該バスバー部31に隣接する垂直線条部33との間のピッチが上記数1に示すFの整数倍と等しくならないように、垂直線条部33の配置及び数を選択するのが好ましい。また、熱線部32の上下方向の配置間隔は、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。更に、給電部41及びアース接続部44の形状は、矩形状に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0066】
また、例えば、上記DAB用ガラスアンテナ4において、垂直エレメント42及び水平エレメント43がそれぞれ連結する位置は、上記のような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、水平エレメント43は、中央部において、垂直エレメント42のいずれかの位置に連結してもよい。これによって、T字状又は十字状のアンテナを構成することができる。
【0067】
更に、
図3A及び
図3Bに例示される窓ガラス1A~1Cを構成してもよい。
図3Aは、上記窓ガラス1からデフォッガ3を省略した窓ガラス1Aを模式的に例示する。
図3Bは、上記窓ガラス1から垂直線条部33を省略した窓ガラス1Bを模式的に例示する。
【0068】
まず、
図3Aの例示する窓ガラス1Aについて説明する。
図3Aに例示されるように、上記デフォッガ3は省略されてもよい。この場合、デフォッガ3によるDAB用ガラスアンテナの設置範囲の制限がなくなる。そのため、
図3Aに例示されるように、上記DAB用ガラスアンテナ4から水平エレメント43を省略し、垂直エレメント42でアンテナを構成してもよい。
図3Aに例示されるDAB用ガラスアンテナ4Aは、水平エレメント43が省略されている点を除き、上記DAB用ガラスアンテナ4と同様である。
【0069】
次に、
図3Bの例示する窓ガラス1Bについて説明する。
図3Bに例示されるように、上記デフォッガ3における垂直線条部33は省略されてもよい。
図3Bに例示されるデフォッガ3Bは、垂直線条部33が省略される点を除き、上記デフォッガ3と同様である。なお、この場合、垂直線条部33によるDAB用ガラスアンテナ4の受信性能の改善の効果が期待できなくなる。そのため、この場合には、特に、デフォッガ3BがDAB用ガラスアンテナ4の受信性能に悪影響を及ぼさないように、距離D1は、46mm以上に設定されるのが望ましい。
【0070】
また、例えば、上記実施形態では、給電部41が水平方向中央に配置され、垂直エレメント42は給電部41にダイレクトに接続している。しかしながら、DAB用ガラスアンテナ4の給電部41の配置及び各エレメントの形状は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。給電部41は、左側辺部23寄り又は右側辺部24寄りに配置されてもよい。更に、垂直エレメント42は給電部41にダイレクトに接続していなくてもよい。一例として、
図3C及び
図3Dに示す変更が可能である。
【0071】
図3Cは、DAB用ガラスアンテナ4Dを右側辺部24寄りに設けた窓ガラス1Dを模式的に例示する。DAB用ガラスアンテナ4Dは、右側辺部24寄りに配置される給電部41Dと、給電部41Dから左側辺部23の方に延びる配線部46Dと、を備えている。配線部46Dは、給電部41D側から順に、給電部41Dからやや上方に延びる第1部分461D、第1部分461Dの上端部から左側に延びる第2部分462D、第2部分462Dの左端部からやや下方に延びる第3部分463D、及び第3部分463Dの下端部から左側に大きく延びる第4部分464Dにより構成されている。
【0072】
本変形例では、垂直エレメント42Dは、配線部46Dの第4部分464Dの左端部に連結し、当該第4部分464Dの左端部から垂直方向上方に延びている。また、水平エレメント43Dは、垂直エレメント42Dの上端部に連結し、当該垂直エレメント42Dの上端部から右側に延びている。この水平エレメント43Dは、配線部46Dの第4部分464Dよりも左右方向に短くなっている。
【0073】
また、給電部41Dの左側には、アース接続部44Dが配置されている。本変形例では、
図3Cに示すように、配線部46Dの第1部分461D~第3部分463Dがアース接続部44Dの上側を囲むように配置されているため、当該アース接続部44Dから下方に延びる線条部47Dが設けられている。アース線条部45Dは、この線条部47Dの下端部から水平方向に延びている。
【0074】
このほか、窓ガラス1Dは、上記窓ガラス1と同様の構成を有している。なお、配線部46Dは、各エレメント(42D、43D)と同様の材料で形成されてよい。そのため、配線部46Dの全部又は一部は、各エレメント(42D、43D)と同様の機能を発揮するように構成されてもよい。
【0075】
また、
図3Dは、
図3Cに示すDAB用ガラスアンテナ4Dとは形状の異なるDAB用ガラスアンテナ4Eを有する窓ガラス1Eを模式的に例示する。DAB用ガラスアンテナ4Eは、右側辺部24寄りに配置される給電部41Eと、この給電部41Eより右側に配置されるアース接続部44Eと、を備えている。
【0076】
給電部41Eからは、配線部46Eが水平方向に延びている。垂直エレメント42Eは、この配線部46Eの左端部に連結し、当該配線部46Eの左端部から垂直方向上方に延びている。また、水平エレメント43Eは、垂直エレメント42Eの上端部に連結し、当該垂直エレメント42Eの上端部から右側に延びている。この水平エレメント43Eは、配線部46Eよりも左右方向に短くなっている。上記変形例と同様に、この配線部46Eは、各エレメント(42E、43E)と同様の材料で形成されてよい。そのため、この配線部46Eの全部又は一部は、各エレメント(42E、43E)と同様の機能を発するように構成されてもよい。
【0077】
一方、アース接続部44Eからは、線条部47Eがやや下方に延びている。そして、アース線条部45Eは、この線条部47Eの下端部から水平方向に延びている。このアース線条部45Eは、垂直エレメント42Eよりも左側辺部23側まで延びている。このほか、窓ガラス1Eは、上記窓ガラス1と同様の構成を有している。
【0078】
以上のように、DAB用ガラスアンテナ4の給電部41の配置及び各エレメントの形状は、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0079】
<その他>
また、上記のとおり、垂直線条部33をデフォッガ3に設けることでDAB用ガラスアンテナ4の受信性能の改善を図ることができる。そのため、垂直線条部33をデフォッガ3に設けることで上記DAB用ガラスアンテナ4の受信性能の改善を図る場合には、上記DAB用ガラスアンテナ4は、ガラス板2の上辺部21側に配置されてもよい。以下、
図4を用いて、この例について説明する。
【0080】
図4は、DAB用ガラスアンテナ5をガラス板2の上辺部21側に設けた窓ガラス1Cを模式的に例示する。
図4に例示されるDAB用ガラスアンテナ5は、ガラス板2の上辺部21側に配置されている点を除き、上記DAB用ガラスアンテナ4と同様である。
【0081】
すなわち、DAB用ガラスアンテナ5は、ガラス板2の上辺部21側に配置される矩形状の給電部51と、この給電部51から垂直方向下方に延びる線条の垂直エレメント52と、垂直エレメント52に連結し、左方向(水平方向)に延びる線条の水平エレメント53と、を備えている。また、DAB用ガラスアンテナ5は、双極型アンテナとして構成されており、給電部51の近傍に配置された矩形状のアース接続部54と、このアース接続部54から左方向(水平方向)に延びる線条のアース線条部55と、を備えている。
【0082】
更に、
図4に例示されるデフォッガ3Cは、ガラス板2の下辺部22側に配置されている点を除き、上記デフォッガ3と同様である。ここで、DAB用ガラスアンテナ5の下端とデフォッガ3Cとの間の距離D2は実施の形態に応じて適宜設定されてよい。後述する各実験(特に、実験7)に基づき、距離D2は、85mm以上に設定されてよい。なお、本変形例では、水平エレメント53は、垂直エレメント52の下端部に連結している。そのため、垂直エレメント52の下端部及び水平エレメント53の下辺部がDAB用ガラスアンテナ5の下端に相当する。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定される訳ではない。本発明のDAB用ガラスアンテナの受信性能を調べるために、以下の実験1~9を行った。以下、各実験について説明する。
【0084】
(1)実験1:DAB用ガラスアンテナの配置
まず、本実験1では、
図5A及び
図5Bに例示されるように、DAB用ガラスアンテナをガラス板の上辺部側又は下辺部側に配置することによるDAB用ガラスアンテナの受信性能への影響を調べた。
図5Aは、DAB用ガラスアンテナ4Cをガラス板2の下辺部22側に配置した実施例1を模式的に例示する。また、
図5Bは、DAB用ガラスアンテナ5をガラス板2の上辺部21側に配置した比較例1を模式的に例示する。
【0085】
図5Aに例示されるように、上記
図3Aに例示される変形例の窓ガラス1Aと同様の構成を有する実施例1の窓ガラスを用意した。具体的には、ハッチバックタイプのワゴン車の湾曲したリアガラスを実施例1に係る窓ガラスとして用意した。そして、用意した実施例1に係る窓ガラスを、ハッチバックタイプのワゴン車におけるリア側の窓枠に取り付けた。ガラス板2を取り付けた窓枠の上辺の長さは920mmであり、窓枠の下辺の長さは1100mmであり、窓枠の上下方向の高さは415mmであった。この窓枠のサイズに合うようにガラス板2を公知の製造工程により形成した。また、窓枠の下辺から5mm上方に給電部41、アース接続部44及びアース線条部45が配置され、給電部41及び垂直エレメント42がガラス板2の左右方向の中央に配置されるように、DAB用ガラスアンテナ4Aを構成することで、実施例1に係る窓ガラスを得た。実施例1に係る給電部41及びアース接続部44はそれぞれ20mm×20mmの矩形状とした。また、垂直エレメント42の上下方向の長さは300mmとした。更に、アース線条部45の左右方向の長さは110mmとした。
【0086】
更に、
図5Aに例示されるように、この実施例1のDAB用ガラスアンテナ4Aを100mmピッチで右側辺部24側に移動させることで、実施例2~5に係る窓ガラスを得た。すなわち、実施例1のDAB用ガラスアンテナ4Aを右側辺部24側に100mm水平移動させることで、実施例2に係る窓ガラスを得た。同様に、実施例1のDAB用ガラスアンテナ4Aを右側辺部24側にそれぞれ200mm、300mm及び400mm水平移動させることで、実施例3、4及び5に係る窓ガラスを得た。なお、実施例2~4に係るDAB用ガラスアンテナ4Aではそれぞれ、実施例1と同様に、垂直エレメント42の上下方向の長さを300mmとした。一方、実施例5に係るDAB用ガラスアンテナ4Aの垂直エレメント42の上下方向の長さは290mmとした。この実施例5に係る窓ガラスでは、ガラス板2の右側辺部24から垂直エレメント42までの距離は141.5mmであった。
【0087】
これに対して、
図5Bに例示されるように、実施例1のDAB用ガラスアンテナ4Aをガラス板2の上辺部21側に配置することで、比較例1の窓ガラスを用意した。具体的には、上記実施例1と同様にガラス板2を形成した。また、窓枠の上辺から5mm下方に給電部51、アース接続部54及びアース線条部55が配置され、給電部51及び垂直エレメント52がガラス板2の左右方向の中央に配置されるように、DAB用ガラスアンテナ5を構成することで、比較例1に係る窓ガラスを得た。比較例1に係る給電部51及びアース接続部54は、実施例1と同様に、それぞれ20mm×20mmの矩形状とした。また、垂直エレメント52の上下方向の長さは310mmとした。更に、アース線条部55の左右方向の長さは110mmとした。
【0088】
また、
図5Bに例示されるように、この比較例1のDAB用ガラスアンテナ5を100mmピッチで右側辺部24側に移動させることで、比較例2~5に係る窓ガラスを得た。すなわち、比較例1のDAB用ガラスアンテナ5を右側辺部24側に100mm水平移動させることで、比較例2に係る窓ガラスを得た。同様に、比較例1のDAB用ガラスアンテナ5を右側辺部24側にそれぞれ200mm、300mm及び400mm水平移動させることで、比較例3、4及び5に係る窓ガラスを得た。なお、比較例2~4に係るDAB用ガラスアンテナ5それぞれの垂直エレメント52の上下方向の長さは300mmとした。一方、比較例5に係るDAB用ガラスアンテナ5の垂直エレメント52の上下方向の長さは290mmとした。この比較例2に係る窓ガラスでは、ガラス板2の右側辺部24から垂直エレメント52までの距離は60.5mmであった。
【0089】
このようにして得た実施例1~5及び比較例1~5の各窓ガラスを上記のとおりハッチバックタイプのワゴン車に取り付けた。そして、電波暗室内でDABのバンド3の電波を当該ワゴン車に対して放射し、各DAB用ガラスアンテナによって、当該DABのバンド3の信号を受信することで、各DAB用ガラスアンテナの感度を測定した。各DAB用ガラスアンテナの感度の測定にはネットワークアナライザー(アジレント社製、型版:E-5071C)を利用した。測定に当たっての具体的な条件は以下のとおりである。
・ガラス板の取付角度:水平方向に対して、上下方向の下辺の点で62度傾斜、上下方向
の中央の点で54度傾斜、上下方向の上辺の点で45度傾斜
・角度分解能:角度3度毎にワゴン車を360度回転させて測定
・周波数分解能:174MHz~240MHzの範囲で1MHz毎に測定
・電波の発信位置とアンテナとの仰角:1.7度(地面と水平方向を0度、天頂方向を90度とする)
なお、上記各条件は、以下の実験2~8においても、特に断りのない限り同じである。各DAB用ガラスアンテナの感度は、半波長ダイポールアンテナを基準とする相対利得(dBd)で定義した。受信機と各DAB用ガラスアンテナとの間にはアンプを設けず、スルーケーブルを利用した。
図6A、
図6B、
図7A及び
図7Bは、その結果を示す。
【0090】
図6Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例1~5の感度(利得)の測定結果を示す。また、
図6Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例1~5の感度(利得)の平均値を示す。一方、
図7Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各比較例1~5の測定結果を示す。また、
図7Bは、DABのバンド3の帯域における各比較例1~5の感度(利得)の平均値を示す。
【0091】
各実施例1~5の感度の平均値(
図6B)と各比較例1~5の感度の平均値(
図7B)とを比較すると、各実施例1~5は、各比較例1~5よりも1dBd程度感度が良好であった。すなわち、DAB用ガラスアンテナは、窓ガラスの上辺側に配置するよりも下辺側に配置したほうが、DABの放送(特に、バンド3)の受信性能が向上することが分かった。
【0092】
なお、各測定結果を参照すると、各実施例1~5では、実施例3の受信性能が最も良好であった。また、各比較例1~5では、比較例3の受信性能が最も良好であった。これは、各アース線条部(45、55)が左方向に延びていることに起因するものと推測される。すなわち、ガラス板の左右方向の中央からアース線条部の延びる方向とは反対方向にDAB用ガラスアンテナをアース線条部の長さ程度ずらすことで、当該DAB用ガラスアンテナの受信性能を高めることができることが分かった。
【0093】
(2)実験2:垂直エレメント及び水平エレメントの長さ
次に、本実験2では、
図8に例示されるように、DAB用ガラスアンテナにおける垂直エレメントの垂直方向の長さと水平エレメントの水平方向の長さとを変更することによる当該DAB用ガラスアンテナの受信性能への影響を調べた。
図8は、本実験2におけるL字型のアンテナを構成する各実施例7~11に係る窓ガラスを模式的に例示する。
【0094】
まず、上記実験1の実施例1における垂直エレメント42の長さL1を240mmとし、アース線条部45の水平方向の長さを300mmとすることで、当該実施例1と同様の構成を有する実施例6に係る窓ガラスを得た。すなわち、実施例6に係るDAB用ガラスアンテナ4では、水平エレメント43の長さL2は0mmである。なお、アース接続部44に接続される配線は、車体側に設けられた接続部の端子から150mmの位置でアースした。
【0095】
そして、実施例6の垂直エレメント42の長さL1を短くし、水平エレメント43の長さL2を長くすることで、実施例7~11の窓ガラスを得た。実施例7に係るDAB用ガラスアンテナ4では、垂直エレメント42の長さL1を100mmとし、水平エレメント43の長さL2を120mmとした。また、実施例8に係るDAB用ガラスアンテナ4では、垂直エレメント42の長さL1を80mmとし、水平エレメント43の長さL2を140mmとした。また、実施例9に係るDAB用ガラスアンテナ4では、垂直エレメント42の長さL1を60mmとし、水平エレメント43の長さL2を160mmとした。また、実施例10に係るDAB用ガラスアンテナ4では、垂直エレメント42の長さL1を40mmとし、水平エレメント43の長さL2を180mmとした。また、実施例11に係るDAB用ガラスアンテナ4では、垂直エレメント42の長さL1を20mmとし、水平エレメント43の長さL2を190mmとした。すなわち、実施例7~11では、垂直エレメント42及び水平エレメント43によりL字型のアンテナを構成した。各実施例6~11について、上記実験1と同様の方法で、各DAB用ガラスアンテナの感度を測定した。
図9A及び
図9Bは、その結果を示す。
【0096】
図9Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例6~11の感度(利得)の測定結果を示す。また、
図9Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例6~11の感度(利得)の平均値を示す。
図9A及び
図9Bに示されるように、垂直エレメントの長さL1を短くするのに応じて、DAB用ガラスアンテナの受信性能が低下することが分かった。
図9Bに示されるとおり、実施例11に係るDAB用ガラスアンテナの感度の平均値は-8.4dBdであった。これより感度が低下すると、DABの放送の受信に影響を与えるものと推測される。すなわち、これらの結果から、垂直エレメントの長さを20mm以上にすることで、DAB(特に、バンド3)の放送を受信するのに耐えうる受信性能を担保することができることが分かった。
【0097】
(3)実験3:デフォッガとDAB用ガラスアンテナとの距離
次に、本実験3では、
図10に例示されるように、垂直線条部の設けていないデフォッガとDAB用ガラスアンテナとの間の距離D1を変更することによる当該DAB用ガラスアンテナの受信性能への影響を調べた。
図10は、本実験3における2本の熱線部32が設けられる実施例14に係る窓ガラスを模式的に例示する。
【0098】
まず、上記実験2の実施例7における水平エレメント43の長さL2を120mmとすることで、当該実施例7と同様の構成を有する実施例12Aに係る窓ガラスを得た。すなわち、実施例12Aに係る窓ガラスは、DAB用ガラスアンテナ4の水平エレメント43の長さを除き、実施例7に係る窓ガラスと同一の構成である。また、実施例12Aの垂直エレメント42の長さL1を80mmとし、水平エレメント43の長さL2を140mmとすることで、実施例12Bに係る窓ガラスを得た。
【0099】
また、実施例12Aの水平エレメント43の長さL2を140mmとし、かつ、1本の熱線部32を有するデフォッガ3Bを実施例12に係る窓ガラスに設けることで、実施例13に係る窓ガラスを得た。実施例13に係る窓ガラスでは、デフォッガ3BとDAB用ガラスアンテナ4との距離D1は241mmであった。また、デフォッガ3Bのバスバー部31間の長さは、上端付近で900mmであり、下端付近で970mmであった。であった。そして、
図10に例示されるように、この実施例13に係るデフォッガ3Bの熱線部32を下方に32.5mmピッチで増やしていくことで、実施例14~実施例20に係る窓ガラスを得た。すなわち、実施例14~20に係る窓ガラスではそれぞれ、2~8本の熱線部32をそれぞれ有するデフォッガ3Bが形成され、デフォッガ3BとDAB用ガラスアンテナ4との距離D1はそれぞれ208.5mm、176mm、143.5mm、111mm、78.5mm、46mm及び13.5mmであった。各実施例12A、12B、13~20について、上記各実験と同様の方法で、各DAB用ガラスアンテナの感度を測定した。
図11A及び
図11Bは、その結果を示す。なお、
図11Aの「実施例12」は、実施例12A及び実施例12Bについて得られた測定値の平均値を示す。
【0100】
図11Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例12~20の感度(利得)の測定結果を示す。また、
図11Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例13~20の感度(利得)の平均値を示す。
図11A及び
図11Bに示されるように、DAB用ガラスアンテナの受信性能は、実施例12~19の間では大きな変化はなく、実施例20で悪化した。すなわち、デフォッガをDAB用ガラスアンテナから46mm未満の範囲に近付けると、デフォッガが干渉することによって当該DAB用ガラスアンテナの感度が低くなることが分かった。したがって、デフォッガとDAB用ガラスアンテナとの間の距離D1を46mm以上離間させることで、デフォッガによるDAB用ガラスアンテナの受信性能への影響を防ぐことができることが分かった。特に、デフォッガに垂直線条部を設けていない場合には、デフォッガとDAB用ガラスアンテナとの間の距離D1を46mm以上離間させることで、DAB用ガラスアンテナの受信性能の悪化を防ぐことができることが分かった。
【0101】
(4)実験4:垂直線条部
次に、本実験4では、
図12に例示されるように、垂直線条部を設けることによるDAB用ガラスアンテナの受信性能への影響を調べた。
図12は、5本の垂直線条部33を設けた実施例23に係る窓ガラスを模式的に例示する。
【0102】
まず、デフォッガが設けられておらず、直線状のアンテナが構成された上記実験2の実施例6に係る窓ガラスを用意した。また、デフォッガが設けられておらず、L字型のアンテナが構成された上記実験3の実施例12Aの垂直エレメント42の長さL1を100mmとし、水平エレメント43の長さL2を140mmとすることで、実施例12Cに係る窓ガラスを用意した。更に、デフォッガが設けられているが、垂直線条部が設けられていない上記実験3の実施例20のデフォッガ3Bの最下部に熱線部32を1本追加し、熱線部32の合計本数を9本とした。そして、最下部の熱線部32とDAB用ガラスアンテナ4との距離が13.5mmとなるように、デフォッガ3Bを上側にずらすことで、実施例20Aに係る窓ガラスを用意した。
【0103】
そして、
図12に例示されるように、この実施例20Aに係るデフォッガ3Bに垂直線条部33を設けることで、実施例21~23に係る窓ガラスを得た。実施例21に係る窓ガラスでは、左右方向の中央にのみ垂直線条部33を設けた。すなわち、実施例21に係る窓ガラスでは、合計1本の垂直線条部33を設けた。
【0104】
また、実施例22に係る窓ガラスでは、左右方向の中央に1本の垂直線条部33を設け、当該1本の垂直線条部33を中心として左右方向にそれぞれ1本の垂直線条部33を左右対称に配置した。すなわち、実施例22に係る窓ガラスでは、合計3本の垂直線条部33を設けた。なお、左右方向に配置した各垂直線条部33と中央に配置した垂直線条部33との間の距離W1は200mmとした。
【0105】
更に、実施例23に係る窓ガラスでは、左右方向の中央に1本の垂直線条部33を設け、当該1本の垂直線条部33を中心として左右方向にそれぞれ2本の垂直線条部33を左右対称に配置した。すなわち、実施例22に係る窓ガラスでは、合計5本の垂直線条部33を設けた。なお、左右方向内側に配置した各垂直線条部33と中央に配置した垂直線条部33との間の距離W1は200mmとした。また、左右方向外側に配置した各垂直線条部33と中央に配置した垂直線条部33との間の距離W2は300mmとした。各実施例6、12C、20A、21~23について、上記各実験と同様の方法で、各DAB用ガラスアンテナの感度を測定した。
図13A及び
図13Bは、その結果を示す。
【0106】
図13Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例6、12C、20A、21~23の感度(利得)の測定結果を示す。また、
図13Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例6、12C、20A、21~23の感度(利得)の平均値を示す。
図13A及び
図13Bに示されるように、複数の垂直線条部を設けた実施例22及び23は、デフォッガを設けていない実施例6とほぼ同等の受信性能を有していた。特に、実施例21~23を比較すると、垂直線条部の数を増やすに従って、DAB用ガラスアンテナの受信性能が改善される傾向にあった。
【0107】
ここで、実施例22及び23は、ほぼ上記実験3の実施例20におけるデフォッガに複数の垂直線条部を追加した形態である。すなわち、実施例22及び23では、上記実験3においてDAB用ガラスアンテナの受信性能を悪化させる範囲にデフォッガを配置したにも関わらず、当該DAB用ガラスアンテナの受信性能が改善された。したがって、本実験4から、DAB用ガラスアンテナの受信性能を悪化させる範囲にデフォッガを配置しても、当該デフォッガに垂直線条部(特に、複数本の垂直線条部)を設けることで、当該DAB用ガラスアンテナの受信性能を改善できることが分かった。よって、垂直線条部をデフォッガに設ける場合には、特に、複数本の垂直線条部をデフォッガに設ける場合には、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置しても、当該DAB用ガラスアンテナの受信性能を改善できる可能性があることが推測された。
【0108】
なお、実施例21では、210MHz当たりで、DAB用ガラスアンテナの受信性能が低下している。これは、当該周波数210MHz当たりの電波によりデフォッガ3に定常波が発生したことが影響していると想定される。
【0109】
すなわち、実施例21では、バスバー部31間の長さは、上端部付近で900mmであり、下端部付近で970mmであった。そして、左右方向中央にのみ垂直線条部33を追加したため、各バスバー部31と垂直線条部33との間のピッチは、450mm~485mm(0.45m~0.485m)となっていた。このピッチの範囲は、DABのバンド3を想定した上記F(0.44m~0.62m)の範囲に含まれる。つまり、上記数1の条件によると、実施例21では、デフォッガ3に定常波が発生すると想定された。
【0110】
そこで、数1のFに0.45m~0.485m(450mm~485mm)を代入し、光速cに3.0×108(m/s)を代入し、Kに0.7を代入すると、fの値は216MHz~233MHzとなる。このfの値は、受信性能の低下した周波数210MHzから多少ずれているが、これは、Kの値を0.7としたことが影響しているものと考えられる。
【0111】
これに対して、実施例22では、各ピッチは、200mm又は250mm~285mmであった。実施例23では、各ピッチは、100mm、150mm~185mm又は200mmであった。すなわち、実施例22及び23では、隣接する垂直線条部33の間のピッチ及びバスター部31とバスバー部31に隣接する垂直線条部33のピッチは、上記数1のFの整数倍に等しくなかった。そして、この実施例22及び23では、210MHz当たりで、実施例21のような受信性能の低下は生じなかった。したがって、デフォッガ3に定常波が発生し、DAB用ガラスアンテナの受信性能の低下する条件を上記数1から導けることが分かった。
【0112】
(5)実験5:複数の垂直線条部が設けられた場合における垂直エレメントの長さ
次に、本実験5では、
図14に例示されるように、5本の垂直線条部が設けられた場合に垂直エレメントの長さを変更することによるDAB用ガラスアンテナの受信性能への影響を調べた。
図14は、本実験5の様子を示す。
【0113】
まず、上記実験4の実施例23に係る窓ガラスを用意した。この実施例23に係る窓ガラスでは、デフォッガ3とDAB用ガラスアンテナ4との間の距離D1は13.5mmであり、窓ガラスの下辺からデフォッガ3までの距離は138.5mmであった。そして、この距離D1を維持したまま、DAB用ガラスアンテナ4の垂直エレメント42の長さL1を20mmずつ短くし、その短くした長さの分だけ下方に熱線部32を新たに設けることによって、実施例24~27に係る窓ガラスを得た。なお、実施例23~27に係る窓ガラスでは、垂直エレメント42の長さL1及び水平エレメント43の長さL2の合計は240mmで固定した。すなわち、実施例24~27に係る窓ガラスではそれぞれ、DAB用ガラスアンテナ4の垂直エレメント42の長さL1は80mm、60mm、40mm及び20mmであり、水平エレメント43の長さL2は160mm、180mm、200mm及び220mmであった。また、実施例24~27に係る窓ガラスではそれぞれ、窓ガラスの下辺からデフォッガ3までの距離は118.5mm、98.5mm、78.5mm及び58.5mmであった。各実施例23~27について、上記各実験と同様の方法で、各DAB用ガラスアンテナの感度を測定した。
図15A及び
図15Bは、その結果を示す。
【0114】
図15Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例23~27の感度(利得)の測定結果を示す。また、
図15Bは、DABのバンド3の帯域における各実施例23~27の感度(利得)の平均値を示す。上記
図9Bと
図11Bとを比較すると、デフォッガに垂直線条部を5本設けた場合には、DAB用ガラスアンテナの垂直エレメントの長さを20mmにしても、当該DAB用ガラスアンテナの受信感度を担保できることが分かった。また、
図11A及び
図11Bに示されるように、実施例23~25に係る窓ガラスではDAB用ガラスアンテナの受信感度が特に良好であり、実施例26に係る窓ガラスではDAB用ガラスアンテナの受信感度が若干低下した。そのため、窓ガラスの下辺からデフォッガまでの距離、換言すると、DAB用ガラスアンテナの設置可能な垂直方向の範囲を78.5mm以上(例えば、80mm)にすることで、良好な受信感度のDAB用ガラスアンテナを得られることが分かった。なお、各実施例24~27では、隣接する垂直線条部33の間のピッチ及びバスター部31とバスバー部31に隣接する垂直線条部33のピッチは上記実施例23と同様である。そのため、各実施例24~27では、各ピッチは上記数1のFの整数倍に等しくはなく、デフォッガ3における定常波の発生を避けることができたものと考えられる。
【0115】
(6)実験6:DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置したケース
次に、本実験6では、
図16に例示されるように、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置した場合に、DAB用ガラスアンテナにおける垂直エレメントの垂直方向の長さと水平エレメントの水平方向の長さとを変更することによる当該DAB用ガラスアンテナの受信性能への影響を調べた。
図16は、本実験6におけるL字型のアンテナを構成する各参考例2~6に係る窓ガラスを模式的に例示する。なお、本実験6は上記実験2に類似する。
【0116】
まず、上記実験1の比較例1における垂直エレメント52の長さL3を240mmとし、アース線条部55の水平方向の長さを310mmとすることで、当該比較例1と同様の構成を有する参考例1に係る窓ガラスを得た。すなわち、参考例1に係るDAB用ガラスアンテナ5では、水平エレメント53の長さL4は0mmである。
【0117】
そして、参考例1の垂直エレメント52の長さL3を短くし、水平エレメント53の長さL4を長くすることで、参考例2~6の窓ガラスを得た。参考例2~6に係るDAB用ガラスアンテナ5ではそれぞれ、垂直エレメント52の長さL3を100mm、80mm、60mm、40mm及び20mmとし、水平エレメント53の長さL4を130mm、150mm、170mm、190mm及び210mmとした。すなわち、参考例2~6では、垂直エレメント52及び水平エレメント53によりL字型のアンテナを構成した。各参考例2~6について、上記各実験と同様の方法で、各DAB用ガラスアンテナの感度を測定した。
図17A及び
図17Bは、その結果を示す。
【0118】
図17Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各参考例1~6の感度(利得)の測定結果を示す。また、
図17Bは、DABのバンド3の帯域における各参考例1~6の感度(利得)の平均値を示す。
図17A及び
図17Bに示されるように、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置した場合であっても、垂直エレメントの長さL3を短くするのに応じて、DAB用ガラスアンテナの受信性能が低下することが分かった。特に、上記実験2と同様に、DAB(特に、バンド3)の放送を受信するのに耐えうる受信性能を担保するためには、垂直エレメントの長さを20mm以上にした方がよいことが分かった。
【0119】
(7)実験7:窓ガラスの上辺側に配置したDAB用ガラスアンテナとデフォッガとの距離
次に、本実験7では、
図18に例示されるように、垂直線条部の設けていないデフォッガと窓ガラスの上辺側に設けたDAB用ガラスアンテナとの間の距離D2を変更することによる当該DAB用ガラスアンテナの受信性能への影響を調べた。
図18は、本実験7における2本の熱線部32が設けられる参考例7に係る窓ガラスを模式的に例示する。なお、本実験7は上記実験3に類似する。
【0120】
まず、上記実験6の参考例2に係る窓ガラスに2本の熱線部32を有するデフォッガ3Bを追加することで、参考例7に係る窓ガラスを得た。参考例7に係る窓ガラスでは、2本の熱線部32の間隔は32.5mmとした。このとき、参考例7に係る窓ガラスでは、デフォッガ3BとDAB用ガラスアンテナ5との距離D2は247.5mmであった。そして、
図18に例示されるように、この参考例7に係るデフォッガ3Bの熱線部32を上方に32.5mmピッチで増やしていくことで、参考例8~12に係る窓ガラスを得た。すなわち、参考例8~12に係る窓ガラスではそれぞれ、3~7本の熱線部32をそれぞれ有するデフォッガ3Bが形成され、デフォッガ3BとDAB用ガラスアンテナ5との距離D2はそれぞれ215mm、182.5mm、150mm、117.5mm及び85mmであった。各参考例7~12について、上記各実験と同様の方法で、各DAB用ガラスアンテナの感度を測定した。
図19A及び
図19Bは、その結果を示す。
【0121】
図19Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各参考例7~12の感度(利得)の測定結果を示す。また、
図19Bは、DABのバンド3の帯域における各参考例7~12の感度(利得)の平均値を示す。
図19A及び
図19Bに示されるように、DAB用ガラスアンテナの受信性能は、参考例7~10の間では大きな変化はなく、参考例11及び12で若干低下した。
図19Aを参照すると、参考例11では、周波数180MHz付近及び240MHz付近でDAB用ガラスアンテナの感度が低下していた。また、参考例12では、周波数180MHz~200MHzの範囲でDAB用ガラスアンテナの感度が大きく低下していた。
【0122】
そのため、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置した場合には、デフォッガをDAB用ガラスアンテナから85mm未満の範囲に近付けると、デフォッガが干渉することによって当該DAB用ガラスアンテナの感度が低くなることが分かった。したがって、上記実験3と本実験7とを比較することで、DAB用ガラスアンテナの信号の受信にデフォッガが干渉しないように設けるデフォッガとDAB用ガラスアンテナとの間の距離は、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの下辺側に配置した方が窓ガラスの上辺側に配置するよりも短くて済むことが分かった。つまり、これらの結果により、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置するよりも下辺側に配置した方が、DAB用ガラスアンテナの設置範囲が垂直方向に短くて済み、かつ、受信性能を向上させることができることが示された。
【0123】
(8)実験8:DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に設けた場合における垂直線条部の影響
次に、本実験8では、
図20に例示されるように、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置した場合に、垂直線条部を設けることによるDAB用ガラスアンテナの受信性能への影響を調べた。
図20は、5本の垂直線条部33が設けられる参考例18及び19に係る窓ガラスを例示する。なお、本実験8は上記実験4に類似する。
【0124】
まず、デフォッガが設けられておらず、直線状のアンテナが構成された上記実験6の参考例1を用意した。また、デフォッガが設けられておらず、L字型のアンテナが構成された上記実験6の参考例3を用意した。更に、上記実験7の参考例12に係るデフォッガ3Bとほぼ同様のデフォッガを参考例3に係る窓ガラスに設けることで、垂直線条部が設けられていない参考例13に係る窓ガラスを用意した。具体的には、参考例13に係る窓ガラスのデフォッガには、参考例12に係るデフォッガ3Bの最上位に熱線部32を20mmピッチで1本追加した。そのため、参考例13に係る窓ガラスでは、上記参考例12と同様に、デフォッガ3BとDAB用ガラスアンテナ5との間の距離D2は85mmであった。なお、この参考例13に係るデフォッガ3Bのバスバー部31間の長さは、上記実施例13と同様に、上端付近で900mmであり、下端付近で970mmであった。
【0125】
そして、
図20に例示されるように、この参考例13に係るデフォッガ3Bに垂直線条部33を設けることで、参考例14~19に係る窓ガラスを得た。具体的に、参考例14に係る窓ガラスでは、左右方向の中央にのみ垂直線条部33を設けた。すなわち、参考例14に係る窓ガラスでは、合計1本の垂直線条部33を設けた。
【0126】
また、参考例15~17に係る窓ガラスではそれぞれ、左右方向の中央に1本の垂直線条部33を設け、当該1本の垂直線条部33を中心として左右方向にそれぞれ1本の垂直線条部33を左右対称に配置した。すなわち、参考例15~17に係る窓ガラスではそれぞれ、合計3本の垂直線条部33を設けた。なお、参考例15~17に係る窓ガラスではそれぞれ、左右方向に配置した各垂直線条部33と中央に配置した垂直線条部33との間の距離W3は100mm、200mm及び300mmとした。
【0127】
更に、参考例18及び19に係る窓ガラスではそれぞれ、左右方向の中央に1本の垂直線条部33を設け、当該1本の垂直線条部33を中心として左右方向にそれぞれ2本の垂直線条部33を左右対称に配置した。すなわち、参考例18及び19に係る窓ガラスではそれぞれ、合計5本の垂直線条部33を設けた。なお、参考例18及び19に係る窓ガラスではそれぞれ、左右方向内側に配置した各垂直線条部33と中央に配置した垂直線条部33との間の距離W3は100mm及び200mmとした。また、参考例18及び19に係る窓ガラスでは共に、左右方向外側に配置した各垂直線条部33と中央に配置した垂直線条部33との間の距離W4は300mmとした。各参考例1、3及び13~19について、上記各実験と同様の方法で、各DAB用ガラスアンテナの感度を測定した。
図21A及び
図21Bは、その結果を示す。
【0128】
図21Aは、DABのバンド3の各周波数に対する各参考例3及び13~19の感度(利得)の測定結果を示す。また、
図21Bは、DABのバンド3の帯域における各参考例1、3及び13~19の感度(利得)の平均値を示す。
図21A及び
図21Bに示されるように、デフォッガに垂直線条部を設けた参考例15~19において、DAB用ガラスアンテナの受信性能(感度)が改善されていた。特に、デフォッガに垂直線条部を5本設けた参考例18及び19では、DAB用ガラスアンテナの受信性能(感度)が良好に改善されていた。
【0129】
ここで、上記実験1、6及び7によれば、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置した場合には、DABの放送の受信性能が悪化し、かつ、デフォッガによる影響が受けやすくなることが示されている。これに対して、参考例15~19は、上記実験7の参考例12におけるデフォッガに1又は複数の垂直線条部を追加した形態に類似する。すなわち、参考例15~19は、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置し、かつ、上記実験7においてDAB用ガラスアンテナの受信性能を悪化させる範囲にデフォッガを配置した形態である。それにも関わらず、参考例15~19では、DAB用ガラスアンテナの感度が改善され、デフォッガを設けない参考例1よりも良好な受信性能が得られた。したがって、本実験8から、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置し、かつ、上記実験7においてDAB用ガラスアンテナの受信性能を悪化させる範囲にデフォッガを配置しても、当該デフォッガに垂直線条部(特に、複数本の垂直線条部)を設けることで、当該DAB用ガラスアンテナの受信性能を改善できることが分かった。よって、垂直線条部をデフォッガに設ける場合には、特に、複数本の垂直線条部をデフォッガに設ける場合には、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの上辺側に配置しても、当該DAB用ガラスアンテナの受信性能を改善できることが示された。
【0130】
更に、上記参考例13では、垂直線条部が設けられていないため、バスバー部31間のピッチは、0.9m~0.97m(900mm~970mm)となっており、DABのバンド3を想定して上記数1より導出される上記F(0.44m~0.62m)の2倍の範囲に含まれていた。同様に、上記参考例14では、左右方向中央に1本の垂直線条部33が設けられているため、各パスバー部31と垂直線条部33との間のピッチは0.45m~0.485m(450mm~485mm)であった。つまり、参考例14では、各パスバー部31と垂直線条部33との間のピッチは、DABのバンド3を想定して上記数1より導出される上記F(0.44m~0.62m)の範囲に含まれていた。これに対して、参考例15~19では、上記のとおり各垂直線条部33を配置したため、バスバー部31とバスバー部31に隣接する垂直線条部33との間のピッチ、及び隣接する垂直線条部33の間のピッチがそれぞれ上記Fの整数倍になっていなかった。
【0131】
したがって、参考例13及び14で、DAB用ガラスアンテナの受信性能が参考例15~19に比べて低くなる周波数帯域が存在するのは、デフォッガに電波の定常波が発生してしまったためと想定された。加えて、このことから、上記実験4と同様に、上記数1によれば、デフォッガ3に定常波が発生することでDAB用ガラスアンテナの受信性能の低下する条件を導ける、すなわち、デフォッガに電波の定常波が発生するか否かの予測が可能であることが分かった。
【0132】
(9)実験9:垂直線条部の影響のシミュレーション
上記実験4の実施例21では、1本の垂直線条部をデフォッガに設けたにも関わらず、垂直線条部をデフォッガに設けなかった実施例20Aよりも、170MHz近辺で電波の受信性能が低下した。この原因を探るべく、本実験9では、垂直線条部を有するデフォッガを設けた窓ガラスでどのような電流分布が生じているかを調べた。
【0133】
まず、
図22に例示されるように、デフォッガ3Cに1本の垂直線条部33を設けた参考例20を設定した。参考例20に係る各構成要素の条件は以下のとおりである。
・ガラス板2の上辺部の長さ:1030mm
・ガラス板2の下辺部の長さ:1200mm
・ガラス板2の上下方向の高さ:600mm
・ガラス板2の取付角度:垂直方向に対して20度傾斜
・熱線部32の本数:12本
・熱線部32のピッチ:24mm
・デフォッガ3Cの水平方向の長さ(熱線部32の長さ):1100mm
・垂直線条部33の本数:1本
・垂直線条部33の位置:中央
・垂直エレメント52の長さ:160mm
・水平エレメント53の長さ:200mm
・DAB用ガラスアンテナ5とデフォッガ3Cとの距離D2:10mm
・デフォッガ3Cの線幅:1mm
・DAB用ガラスアンテナ5の線幅:1mm
なお、DAB用ガラスアンテナ5をガラス板2の中央から右側に400mmの位置に配置した。
【0134】
また、参考例20に更に2本の垂直線条部33を追加した参考例21を設定した。当該2本の垂直線条部33は、中央に配置した垂直線条部33の両側に300ピッチmm離れた位置に配置した。
【0135】
そして、このようにして設定した各参考例(20、21)の窓ガラスについて、タイムドメインの3次元電磁界解析ソフトウェアを用いて、以下のとおり、上記実験1~8と同様の条件でDABのバンド3の電波を放射したシミュレーションを行った。
・角度分解能:角度3度毎にワゴン車を360度回転させて測定
・周波数分解能:174MHz~240MHzの範囲で1MHz毎に測定
・電波の発信位置とアンテナとの仰角:1.7度(地面と水平方向を0度、天頂方向を90度とする)
図23A、
図23B、
図24A、
図24B及び
図25はその結果を示す。
【0136】
図23A及び
図23Bは、参考例20における電流分布を示す。具体的には、
図23Aは、170MHzの電波を参考例20に放射した時の電流分布を示す。また、
図23Bは、240MHzの電波を参考例20に放射した時の電流分布を示す。一方、
図24A及び
図24Bは、参考例21における電流分布を示す。具体的には、
図24Aは、170MHzの電波を参考例21に放射した時の電流分布を示す。また、
図24Bは、240MHzの電波を参考例21に放射した時の電流分布を示す。更に、
図25は、各周波数に対する各参考例(20、21)の感度(利得)のシミュレーション結果を示す。
【0137】
図23Aに示されるとおり、1本の垂直線条部33を設けた参考例20に170MHzの電波を放射した際には、当該参考例20のデフォッガにおいて当該電波の定常波が発生した。一方、
図23Bに示されるとおり、240MHzの電波を放射した際には、参考例20のデフォッガにはこのような定常波が発生しなかった。また、
図24A及び
図24Bに示されるとおり、3本の垂直線条部33を設けた参考例21では、170MHz及び240MHzの電波を放射しても、当該電波の定常波は発生しなかった。
【0138】
ここで、
図25を参照すると、参考例20では、定常波の発生した170MHz付近で感度が低下した。一方、定常波の発生しなかった周波数帯(例えば、240MHz)では、参考例20及び21の感度はそれぞれ同程度であった。すなわち、本実験9より、垂直線条部の配置によっては、デフォッガに電波の定常波が発生してしまい、これによって、DAB用ガラスアンテナの受信性能が低下することが分かった。したがって、本実験9より、DAB用ガラスアンテナの受信性能を低下させないためには、DABの周波数帯において、このような定常波が発生しないように垂直線条部を配置したほうがよいことが示された。
【0139】
具体的に、参考例20では、各バスバー部31と垂直線条部33との間のピッチは、0.55m(550mm)となっており、DABのバンド3を想定した上記0.44m~0.62mの範囲に含まれる。一方、参考例21では、バスバー部と垂直線条部との間に挟まれた部分、及び隣接する垂直線条部の間に挟まれた部分の距離はそれぞれ、250mm及び300mmであり、上記数1のFの整数倍と等しくなっていなかった。そして、参考例21では、上記のとおり、デフォッガに電波の定常波が発生しなかった。そのため、上記数1によれば、デフォッガに電波の定常波が発生するか否かの予測が可能であることが分かった。すなわち、バスバー部と垂直線条部との間に挟まれた部分、及び隣接する垂直線条部の間に挟まれた部分の距離が、上記数1のFの整数倍と等しくならないように垂直線条部を配置することで、DAB用ガラスアンテナの受信性能の低下を防ぐことができることが分かった。なお、この受信性能の低下は、デフォッガにDABの電波がトラップされることによるものと推測される。つまり、デフォッガがその周波数帯の電波を受信しやすい状態になり、これによって、DAB用ガラスアンテナによる電波の受信が妨害されるものと推測される。
【0140】
(10)実験10:その他の形態の受信性能
本実験10では、
図3Cで例示した形態のDAB用ガラスアンテナの受信性能を調べるため、
図26で示される実施例(28、29)を用意した。実施例(28、29)に係る構成要素の条件は以下のとおりである。
・ガラス板2の上辺部の長さ:1180mm
・ガラス板2の上下方向の高さ:340mm
・熱線部32の本数:9本
・熱線部32のピッチ:27mm(最下部のみ23mm)
・最下部の熱線部32の長さ:1072mm
・垂直線条部33の本数:3本。
・バスバー部31と垂直線条部33との間の距離(最上部):260mm
・中央の垂直線条部33と右側(左側)の垂直線条部33との間の距離:200mm
・デフォッガ3の上下方向の高さ:212mm
・水平エレメント43Dの長さ:150mm
・アース線条部45Dの長さ:485mm
なお、実施例28の窓ガラスでは、垂直エレメント43Dの長さを50mmとし、DAB用ガラスアンテナ4Dとデフォッガ3との間の距離D1を5mmとした。一方、実施例29の窓ガラスでは、垂直エレメント43Dの長さを30mmとし、DAB用ガラスアンテナ4Dとデフォッガ3との間の距離D1を25mmとした。そして、実施例(28、29)について、以下の2点の条件を除き上記実験1等と同様の方法で、各DAB用ガラスアンテナの感度を測定した。
・ガラス板の取付角度:水平方向に対して、上下方向の下辺の点で45度傾斜、上下方向
の中央の点で41度傾斜、上下方向の上辺の点で37度傾斜
・周波数分解能:174MHz~240MHzの範囲で3MHz毎に測定
【0141】
図27は、DABのバンド3の各周波数に対する各実施例(28、29)の感度(利得)の測定結果を示す。ガラス板が垂直から傾いているケース及び垂直エレメントの長さが短いケース(上記実験2)では、DAB用ガラスアンテナの受信性能は大きく低下し得る。しかしながら、各実施例(28、29)では、ガラス板が比較的に垂直から傾いており、かつ垂直エレメント43Dの長さが比較的に短いにも関わらず、ある程度の受信性能を担保することができた。これは、DAB用ガラスアンテナを窓ガラスの下辺側に配置したこと、バスバー部と垂直線条部との間及び隣接する垂直線条部の間のピッチを上記数1のFの整数倍と等しくならないようにしたこと等に起因しているものと想定される。つまり、本発明の各特徴によれば、DAB用ガラスアンテナの設置条件が悪い場合でも、ある程度の受信性能を確保することができることが分かった。
【符号の説明】
【0142】
1…窓ガラス、
2…ガラス板、21…上辺部、22…下辺部、23…左側辺部、24…右側辺部、
3…デフォッガ、31…バスバー部、32…熱線部、33…垂直線条部、
34…接続部、
4…DAB用ガラスアンテナ、41…給電部、
42…垂直エレメント(第1エレメント)、
43…水平エレメント(第2エレメント)、
44…アース接続部、45…アース線条部、
5…DAB用ガラスアンテナ、51…給電部、
52…垂直エレメント、53…水平エレメント、
54…アース接続部、55…アース線条部