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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】エピラム機械的部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/38 20060101AFI20231012BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20231012BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B05D1/38
B05D1/26 Z
B05D7/14 P
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022515690
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2020000166
(87)【国際公開番号】W WO2021063534
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】19200948.8
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ユオー-マルシャン,シルヴァン
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-281395(JP,A)
【文献】特開2012-072851(JP,A)
【文献】特表2004-510571(JP,A)
【文献】特表2019-500601(JP,A)
【文献】特開2018-069233(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0153677(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107793528(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D
B05B
B81B
B81C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(4)を含む機械的部品(2)を製造する方法であって、
前記基材(4)は、第1の材料によって作られ、この基材の表面張力を低下させるエピラム産生物(6)を含むことができ、
前記方法は、
第2の材料によって構成している前記エピラム産生物(6)を前記基材(4)上に堆積させる堆積ステップ(10)と、及び
前記基材(4)上の成分の凝集を確実にするように前記第2の材料に対して処理をする処理ステップ(11)とを行い、
前記堆積は、前記エピラム産生物(6)を含む材料の少なくとも1つの平行な又は局所化されたビーム(12、12A、12B)の前記基材(4)上への射出の形態で行われ、
前記堆積ステップにおいては、
液体材料の2つの平行な又は局所化されたビーム(12A、12B)を前記基材(4)上に射出し、かつ、少なくとも1つの前記液体材料が、前記エピラム産生物(6)を含み、かつ、前記ビーム(12A、12B)によって射出された2種類の液体材料が、互いに接触したときに凝固を発生するように選択されるか、あるいは
少なくとも1つの固定された射出ノズル(16、16A、16B)を用いて前記エピラム産生物(6)を含む材料の少なくとも1つの平行な又は局在化されたビーム(12、12A、12B)を前記基材(4)上に射出し、かつ、前記射出ノズル(16、16A、16B)の一部又はそれぞれが、材料の平行な又は局所化されたビーム(12、12A、12B)を上から下へと実質的に垂直方向に射出するように構成しており、かつ、前記基材(4)の空間における向き及び/又は位置が、前記堆積ステップ(10)の間に変更され、
前記処理ステップ(11)は、前記第2の材料を硬化させる硬化段階(28)を含み、
前記硬化段階(28)は、レーザー、又は光架橋及び/又は化学的架橋による重合を用いて前記第2の材料に対して照射することによって行う局所化された焼結工程を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記堆積ステップ(10)は、溶液又は粒子の懸濁液の形態の前記エピラム産生物(6)を含むインクを噴霧する噴霧段階(24)と、及び
噴霧された前記インクを前記部品(2)の前記基材(4)上に射出する射出段階(26)を含み、
前記処理ステップ(11)は、前記第2の材料を硬化させる硬化段階(28)を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硬化段階(28)は、前記局所的に焼結する工程を含む熱処理をする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記光架橋による重合は、前記エピラム産生物(6)を含む材料上に所定の波長の紫外線を照射することによって得られる
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の材料に対して処理をするステップ(11)は、
記エピラム産生物(6)を含む材料の化学構造を変える段階、
記エピラム産生物(6)を含む材料の結晶構造を変える段階、
前記エピラム産生物を含む材料の粗さを変える段階(6)、及び
レーザー処理によって、前記エピラム産生物(6)を含む材料の粗さを変える段階のうちの少なくとも1つの段階を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エピラム産生物(6)を含む材料の化学構造を変える段階は、イオン注入段階であり、
前記エピラム産生物(6)を含む材料の結晶構造を変える段階は、局在化されたレーザー熱処理段階である、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エピラム産生物(6)の堆積は、前記エピラム産生物(6)を含む材料の局在化ビード(14)の前記基材(4)上への射出の形態で行われ、
前記ビード(14)は、連続的又は不連続的なビードである
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記材料の局所化されたビード(14)は、10μm未満の幅を有する
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記材料の局所化されたビード(14)は、実質的に15μm未満の幅を有する
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記堆積ステップ(10)の間に、前記エピラム産生物(6)を含む材料の少なくとも1つの平行な又は局在化されたビーム(12、12A、12B)の前記基材(4)上への射出は、例えば多軸ロボットに取り付けられて、前記基材(4)に対して運動可能に取り付けられた少なくとも1つの射出ノズルを用いて行われ、
前記基材(4)は、前記堆積ステップ(10)の間に固定されるように維持される
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の材料は、単一の成分、によって構成される
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の材料は、ポリマーによって構成される
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の材料は、エポキシ樹脂によって構成される
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の材料は、複数の成分によって構成している
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記成分のそれぞれは、液体又は固体の形態である
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記成分のそれぞれは、界面活性剤成分と、溶媒と、物理的、化学的又は機械的な反発機能を有する成分と、美的機能を有する成分と、架橋を促進するように意図された機能を有する成分と、及びこれらの組み合わせからなる成分の群から選択される
ことを特徴とする請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記基材には、前記エピラム生成物を含むエピラム面があり、
前記面には、
前記基材の外側区画であって前記基材をすべての方向にて制限する前記基材の外面全体、又は
前記基材の外面全体の一部である前記外側区画の一部
がある
ことを特徴とする請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記機械的部品(2)は、エピラム機械的部品(2)である
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記エピラム機械的部品(2)は計時器の部品である
ことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピラム機械的部品を製造する方法に関する。
【0002】
本発明は、さらに、前記のような製造方法にしたがって得られるエピラム機械的部品に関する。エピラム機械的部品は、エピラム層が堆積された基材を含み、例えば、計時器の部品であり、典型的には、プレート、アンカーリフター、車、バランス、又は軸である。
【背景技術】
【0003】
互いに摩擦接触しており相対的に変位するような機械的部品の分野、例えば腕時計製造の分野、において、機械的部品が適切に動作するかどうかは、とりわけ、それらの潤滑に依存する。このようにして用いられる潤滑剤の主な機能は、エネルギー散逸と摩耗を減らしつつ相対的に変位するように接触している面どうしを分離することである。
【0004】
用いられる潤滑剤は、主に2つのカテゴリー、すなわち、流体潤滑剤と、機構の固体潤滑と呼ばれる潤滑を用いる固体潤滑剤と、に分類される。固体潤滑剤は、一般的に、ラメラ構造を有し、腕時計製造の分野では流体潤滑剤よりも用いられていない。なぜなら、固体潤滑剤は、生来的にくずの発生源だからである。したがって、このような固体潤滑剤には、多かれ少なかれ長期的に機械的摩耗を発生させてしまうという課題がある。しかし、このような摩耗の予測は難しく、このことによって、計時器用ムーブメントの信頼性に非常に悪い影響を与えてしまう。
【0005】
流体潤滑剤は、一般的には、多かれ少なかれ粘性のあるグリース又はオイルの形態である。流体潤滑剤には、固体潤滑剤よりも塗布が容易であり迅速であるという利点がある。また、用いる潤滑剤の量を容易に制御することができる。オイルの物理的特徴(粘度、湿潤性など)によって、機構が複雑であっても機構の複数の機能領域を潤滑することができる。加熱によって発生するエネルギーは、主にオイルによって放散される。一般的に、断裂した後でも少ない使用量でも、油膜が再び形成される。その流体は、自然に広がる傾向があるが、機能領域にできるだけ閉じ込めていなければならない。したがって、潤滑剤の耐久性は、その動作領域における保持性に依存する。しかし、腕時計技師であれば誰でも、きれいな部品上に一滴の潤滑剤が落とされるとすぐに広がることを観察している。この性質は機構の影響を受ける領域のすべてが有効にカバーされるために有益であることがわかっているが、アセンブリーの適切な動作に悪影響を与えることがある。実際に、重要な領域、典型的には部品どうしが接触し相対的に変位する領域(機能領域)におけるオイルの損失は、潜在的には過酷な動作条件下における部品の劣化によって大きくなって、不可逆的な損傷を発生させてしまうことがある。また、潤滑剤が望ましくない箇所に進入して、接着の問題、より一般的には美的問題を発生させる可能性がある。
【0006】
したがって、オイル又はグリースの形態であるかどうかにかかわらず、流体潤滑剤が広がることによって、計時器の機構の動作に大きな問題を発生させる。グリースの場合、セッケンと基油が分離することがよく観察される。したがって、この基油が部品の表面上にて移動して、機能領域を離れてしまう。このことによって、オイルの形態の流体潤滑剤についての上に記載した問題が発生してしまう。一般的には、流体潤滑剤は、堆積される支持体の表面張力よりも表面張力が高い場合にその箇所に保持される。潤滑剤の表面張力が低すぎると、オイルが広がり、その箇所に留まらない。
【0007】
この問題を克服するために、腕時計技師は、部品上にエピラムと呼ばれる被覆を施すことがある。このエピラムは、多くの場合、目に見えない疎油性分子層の形態であり、支持体の見かけの表面張力を低下させる産生物である。なお、エピラムが発生させる表面張力は、20~30mN/mのオーダーであり、計時器のオイルの表面張力は典型的には35mN/mである。この5~15mN/mの差によって、腕時計技師が許容できる接続角度のドロップ形状が得られる。この接続角度は、一般的には、25~60°のオーダーである。これによって、潤滑剤を所望の領域内に留まらせることができる。これよりも接続角度が大きいと、望まない変位が発生してしまう可能性がある(新しいGore-Tex(商標)面上の水のように、ボール状の潤滑剤が面を転がる)。
【0008】
このエピラムをいくつかの方法で堆積させることができるが、この目的のために主として知られている方法は、溶媒と特定の量の分子群によって構成する溶液にエピラム被覆される機械的部品を浸漬させることを伴う。この分子群が当該部品の表面上に堆積してその表面張力を変える。次のステップで溶媒を蒸発させ、分子群の分子層のみが残って堆積する。そして、エピラムは、部品の面全体を覆う。操作の初期の時点に、摩擦領域において、摩耗によってエピラムが除去され、潤滑剤が湿潤させることができる面が残る。エスケープのようないくつかの重要な機構に対しては、最小限の期間このエピラム摩耗を行い続けることができる。この操作が完了すると、新しい潤滑が行われる。そして、潤滑剤は、摩耗した表面の正確に摩耗した箇所において面を湿潤させる。
【0009】
しかし、このような浸漬被覆法の主な課題として、槽に部品の大部分を浸漬させる必要があるということに関連するものがある。この槽においては、「活性」分子の濃度が低下し、このことによって、定期的なプロセスの監視が必要となり、また、濃度が低下してエピラム効果が低すぎてしまうという技術的リスクが発生する。また、この方法によって実装されるフッ素化合物ベースのエピラム被覆溶媒は、特に温室効果ガスの排出を抑えるように意図されている、既存の基準に合わないことがよくある。最後に、この方法においては、特に、「活性」分子の濃度が高くなりすぎたり、環境にはやさしいが揮発性が低くエピラム被覆操作の間に汚れを発生させてしまう溶媒を用いたりする。しかし、機能領域から遠く離れた箇所においてはエピラム被覆は必要ない。
【0010】
また、このような方法は、溶媒の蒸発が不十分であるため、かつ/又はエピラムにおける濃度が低いために、部品に美的問題を発生させる可能性が高い。一般的には、このような全体的な浸漬堆積法は比較的不正確である。なぜなら、局所化されておらず、接触領域のために特化した処理を行わないためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、容易かつ低コストな形態で、潤滑剤の閉じ込めの領域を正確に定めて、部品にエピラムを局所的に堆積させるような、エピラム機械的部品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような状況で、本発明は、独立請求項1に記載されている特徴を有するエピラム機械的部品を製造する方法に関する。
【0013】
従属請求項2~17に、この方法の特定の実施形態が記載されている。
【0014】
エピラム産生物を含む材料の少なくとも1つの平行な又は局所化されたビームの基材上への射出の形態で堆積させる堆積ステップのおかげで、本発明に係る方法は、堆積させる流体の体積と局所化との両方において、部品上にエピラムを非常に正確に堆積させることを可能にする。したがって、従来技術の方法とは異なり、ここでは、細いエピラムビードが部品上に局所的に堆積され、これによって、堆積させたビードによって定められる領域内に潤滑剤を閉じ込めることが可能になることがわかる。このようにして定められた面は、潤滑剤によって完全に湿潤にされ、これによって、その定められた領域が少なくとも1つの目的機能領域に対応していれば、部品の完全な動作が確実にされる。なお、本発明に関連して、堆積されるエピラム産生物は、(いずれかを問わず)物理的効果、化学的効果、又はこれら2つの効果の組み合わせによって、潤滑剤の把持又は反発をもたらすようなエピラム産生物であることができる。
【0015】
好ましいことに、前記堆積ステップは、粒子の溶液又は懸濁液の形態のエピラム産生物を有するインクを噴霧する噴霧段階と、及び噴霧されたインクを前記部品の基材上に射出する射出段階を含む。前記第2の材料に対して処理をするステップは、前記第2の材料を硬化させる硬化段階を含む。この方法は、AJP(エアロゾルジェット印刷)法と呼ばれる方法に対応している。なお、例えば、代替的形態において、厳密に言えば架橋による、硬化ステップを必要としないインクもある。溶剤が蒸発し、樹脂が「すべて自身で」架橋するために、短時間屋外に配置することで十分であるものがある。このような方法は、エピラム産生物の堆積のための材料を広い範囲から選択することを可能にし、特に平坦であるがフレキシブルかつ/又は三次元的な部品に対する、マイクロメータースケールにおける、非常に正確な堆積を可能にする。
【0016】
本発明の特定の技術的特徴によると、前記硬化段階は、少なくとも、アニールステップ、及び/又は局所化された焼結ステップ、及び/又は真空化ステップを含む熱処理によって構成している。これによって、凝固プロセスが速くなる。固体状及び粉状の活性成分を含むエピラム産生物の場合、このような熱処理は、さらに、材料を溶融させて粒子間の結合を確実にすることを可能にする。
【0017】
本発明の別の特定の技術的特徴によると、前記局所的に焼結する工程は、レーザーを用いて前記第2の材料に照射することによって得られる。
【0018】
本発明の別の特定の技術的特徴によると、前記硬化段階は、光架橋及び/又は化学的架橋による重合を伴う。
【0019】
本発明の別の特定の技術的特徴によると、前記光架橋による重合は、前記エピラム産生物を含む材料上に所定の波長の紫外線を照射することによって得られる。
【0020】
本発明の別の特定の技術的特徴によると、前記第2の材料に対して処理をするステップは、
- 特にイオン注入によって、前記エピラム産生物を含む材料の化学構造を変える段階、
- 特に局所化されたレーザー熱処理によって、前記エピラム産生物を含む材料の結晶構造を変える段階、及び
- 特にレーザー処理によって、前記エピラム産生物を含む材料の粗さを変える段階
のうちの少なくとも1つの段階を行う。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記エピラム産生物の堆積は、前記エピラム産生物を含む材料の局在化ビードの基材上への射出の形態で行われ、前記ビードは、連続的又は不連続的なビードである。
【0022】
好ましいことに、前記材料の局所化されたビードは、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも15μm、の幅を有する。
【0023】
本発明の別の実施形態において、前記エピラム産生物の堆積が、液体材料の2つの平行な又は局所化されたビームを前記基材上に射出する形態で行われ、少なくとも1つの前記液体材料が、前記エピラム産生物を含み、前記ビームによって射出された2種類の液体材料が、互いに接触したときに凝固を発生するように選択される。
【0024】
本発明の第1の変形実施形態において、前記堆積ステップの間に、前記エピラム産生物を含む材料の少なくとも1つの平行な又は局在化されたビームの基材上への射出が、少なくとも1つの固定された射出ノズルを用いて行われ、前記射出ノズルの一部又はそれぞれが、材料の平行な又は局所化されたビームを上から下へと実質的に垂直方向に射出するように構成しており、前記基材の空間における向き及び/又は位置が、前記堆積ステップの間に変更される。このような上から下への材料の垂直方向射出を実装する構成は、エピラム産生物の堆積の精度を向上させる。これによって、部品上の目的の正確な位置にて堆積が行われることが確実にされる。
【0025】
本発明の第2の変形実施形態において、前記堆積ステップの間に、前記エピラム産生物を含む材料の少なくとも1つの平行な又は局在化されたビームの基材上への射出は、例えば多軸ロボットに取り付けられて、前記基材に対して運動可能に取り付けられた少なくとも1つの射出ノズルを用いて行われ、前記基材は、前記堆積ステップの間に固定されるように維持される。
【0026】
本発明の特定の技術的特徴によると、前記第2の材料は、単一の成分、特にポリマー、より具体的にはエポキシ樹脂、によって構成している。前記ポリマーは、典型的には、光硬化性ポリマー又は熱硬化性ポリマーである。
【0027】
代わりに、前記第2の材料は、複数の成分によって構成している。その各成分は、典型的には、液体又は固体の形態である。
【0028】
本発明の特定の技術的特徴によると、前記成分のそれぞれは、界面活性剤成分と、溶媒と、物理的、化学的又は機械的な反発機能を有する成分と、美的機能を有する成分と、架橋を促進するように意図された機能を有する成分と、及びこれらの組み合わせからなる成分の群から選択される。
【0029】
好ましいことに、前記基材には、前記エピラム生成物を含む面があり、前記面には、
- 前記基材の外側区画であって前記基材をすべての方向にて制限する前記基材の外面、又は
- 前記基材の外面の一部である前記外側区画の一部
がある。
【0030】
また、前記のような状況で、本発明は、さらに、上記の製造方法によって得られ従属請求項17に記載されている特徴を有するエピラム機械的部品に関する。
【0031】
従属請求項18において、エピラム機械的部品の特定の形態が定められている。
【0032】
本発明の特定の技術的特徴によると、前記エピラム機械的部品は、計時器の部品である。
【0033】
図示している少なくとも1つの実施形態に基づく以下の説明を読むことによって、本発明に係るエピラム機械的部品を製造する方法の目的、利点及び特徴が、より明確になる。なお、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係るエピラム機械的部品を製造する方法のいくかのステップを示しているフローチャートである。
図2】本発明の第1の実施形態に係る、図1の方法を実装するシステムの概略図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る、図2と同様の図である。
図4図1の方法によって得られるエピラム機械的部品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明に係るエピラム機械的部品2を製造する方法を示している。図2~4に示している前記のようなエピラム機械的部品2は、基材4を含む。この基材4は、エピラム産生物6が堆積される支持体である。エピラム産生物を受けることができる前記のような支持体には、この基材4のエピラム面と呼ばれる面がある。エピラム面は、
- 基材の外側区画であって、すべての方向においてこの基材の境界となるもの、すなわち、基材の外面全体、あるいは
- この外側区画の一部、又は基材の外面全体の一部を含む面であることができる。
【0036】
したがって、この面は、前記エピラム産生物6を受ける又は含むように意図されており、前記エピラム産生物6は、この面、したがって支持体、結果として基材、の表面張力を低下させることを目的としている。
【0037】
エピラム機械的部品2は、プレート、アンカーリフター、車、バランス、又は軸のような計時器の部品であることができる。また、部品2は、相対的に変位し、移動することができ、したがって、トライボロジー機能を変えるような流体潤滑剤で接触部分が潤滑されるような機械的要素又はマイクロメカニカル要素を用いる物の一部であることもできる。当然、本発明に係る前記のようなエピラム機械的部品2を製造する方法は、エピラムを用いるすべての用途に適していることができる。
【0038】
図1に戻ると、この方法は、初期に、エピラム産生物6を基材4上に堆積させる堆積ステップ10を行う。基材4は、第1の材料によって構成しており、エピラム産生物6は第1の材料とは異なる第2の材料によって構成している。第1の材料は、例えば、金属、セラミックス、ルビー、サファイア、プラスチック、ダイヤモンド、水晶、ガラス、炭化ケイ素、アモルファス材料(例えば、金属性ガラス)又はこれらの組み合わせによって構成していることができる。第2の材料は、ポリマーのような単一の成分によって構成していることができる。前記ポリマーは、典型的には、エポキシ樹脂のような光硬化性又は熱硬化性ポリマーである。代わりに、前記第2の材料は、いくつかの成分を含むことができる。各成分は、例えば、液体又は固体の形態である。前記成分を特にその成分の機能どうしが相補的であるように選択することができる。例えば、架橋を促進し、材料の局所化を促進し、潤滑剤の反発性に特有の機能を提供し、色やテクスチャーなどに関連する美的機能を提供し、堆積する材料に粗さを与え、又は有用な成分を最終的な機能へと輸送するようにである。このため、前記成分は、界面活性剤成分と、溶媒と、物理的、化学的又は機械的な反発機能を有する成分と、美的機能を有する成分と、及び架橋を促進するように意図された機能を有する成分とによって構成する成分の群から選択することができる。溶媒として選択される成分は、最終的な機能に有用な他の成分の輸送を促進することを可能にする。エピラム産生物6に目に見える色を形成するように選択される成分は、例えば潤滑剤に色を与えることによって、操作者によって行われる操作を視覚的に促進することを可能にする。
【0039】
この方法は、そして、部品2の基材4上の成分の凝集を確実にするように、エピラム産生物6を構成している第2の材料に対して処理をする処理ステップ11を行う。これらの成分は、第2の材料の成分であることができる。
【0040】
前記堆積ステップ10は、エピラム産生物6を含む材料の少なくとも1つの平行な又は局所化されたビーム12、12A、12Bの基材4上への射出の形態で行われる。図2に示している本発明の第1の実施形態において、前記堆積は、エピラム産生物6を含む単一ビーム12の基材4上への射出の形態で行われる。ビーム12は、例えば、エピラム産生物6を含む材料の連続的で局所化されたビード14を基材4上に射出するように構成している。この連続的なビード14は、典型的には少なくとも10μm、好ましくは少なくとも15μm、の幅を有する。なお、ビードの最大幅は、部品の形状と所望の美観に依存する。したがって、極端な場合、機能領域のみを除いて部品を完全に覆うことができる。図示していない変異形態において、ビーム12は、例えば、点又は線のような不連続な一連のパターンの形態である、エピラム産生物を含む材料の不連続的な局所化されたビードを基材4上に射出するように構成している。
【0041】
なお、閉じ込めるべき場合にはビードを閉じる必要がある。例として、ビーム12は、エピラム産生物を含む材料の閉じたビードを基材4上に射出するように構成しており、この基材4上に移動経路が描かれ、この移動経路を通して潤滑剤が制御された形態で移動する。これによって、容易にアクセスできる領域に潤滑剤を堆積させて、そこから潤滑剤が、アクセスが容易ではない目的機能領域の方へと動く。
【0042】
図3に示している本発明の第2の実施形態において、前記堆積は、液体材料の2つの平行な又は局所化されたビーム12A、12Bの基材4上への射出の形態で行われる。液体材料の少なくとも1つは、エピラム産生物6を含む。図3の特定の実施形態において、第1のノズル16Aによって射出される液体材料のみがエピラム産生物6を含む。ビーム12A、12Bによって射出される2種類の液体材料は、互いに接触すると凝固するものが選択される。これが、エポキシ樹脂と重合剤である1,4,7,10-テトラアザデカンによって構成している2成分型接着剤Araldite(商標)の原理である。これらの2つの成分が接触して、ポリエポキシドが形成される。
【0043】
好ましくは、図2及び3の2つの実施形態に示しているように、エピラム産生物6を含む材料の少なくとも1つの平行な又は局在化されたビーム12、12A、12Bの基材4上への射出は、少なくとも1つの固定された射出ノズル16、16A、16Bを用いて行われる。このために、ノズル16、16A、16Bに加えて、前記ノズルによって射出されるジェットを制御するためのデバイス20を備えるシステム18が用いられる。エピラム産生物6が堆積される機械的部品2は、ノズル16、16A、16Bの一部又はそれぞれの直接下に配置される。図2に示している第1の実施形態において、システム18は、単一の固定された射出ノズル16を備える。図3に示している第2の実施形態において、システム18は、2つの固定された射出ノズル16A、16Bを備え、前記ノズル16A、16Bのそれぞれは、液体材料の平行な又は局所化されたビーム12A、12Bの1つを射出する。両方の場合において、固定された射出ノズル16、16A、16Bの一部又はそれぞれは、材料の対応するビーム12、12A、12Bを上から下に実質的に垂直方向に射出するように構成している。機械的部品2、したがってエピラム産生物6が堆積される基材4、の空間における向き及び/又は位置は、前記堆積ステップ10の間に変えられる。このために、システム18は、例えば、制御デバイス20に接続され部品2を多軸的にポジショニングするためのデバイス22を備える。これによって、制御デバイス20を介して、機械的部品2の空間における向き及び/又は位置を正確に調整することができる。このような構成によって、エピラム産生物6の堆積の精度が向上する。これによって、機械的部品2上の所望の正確な位置にて堆積が行われることが確実にされる。
【0044】
図示していない変異形態において、多軸ポジショニングデバイス22を用いて、空間における可動性を射出ノズルの一部又はそれぞれに与える。そして、任意の既知の手段によって、機械的部品2、したがってエピラム産生物6が堆積される基材4が、前記堆積ステップ10の間に固定され続ける。前記ポジショニングデバイスは、例えば、空間の三次元にしたがって、ノズルの一部又はそれぞれの空間における向き及び/又は位置を変えることを可能にする多軸ロボットであり、このときに、このノズルの一部又はそれぞれは部品2のまわりを動く。
【0045】
好ましくは、本発明に関連して限定的ではなく、前記堆積ステップ10は、粒子の溶液又は懸濁液の形態である、エピラム産生物6を含むインクを噴霧する噴霧段階24と、噴霧されたインクを部品2の基材4上に射出する射出段階26とを含む。この場合、射出ノズル16、16A、16Bの一部又はそれぞれは、噴霧チャンバーに接続される。このようなチャンバーは、簡明性のために図示していない。そして、噴霧段階24が噴霧チャンバー内で行われ、射出段階26は、必要に応じて制御デバイス20によって制御されて、ノズル16、16A、16Bによって行われる。粒子は、典型的には、上記のタイプのアクティブな機能を有する、マイクロメーター規模、サブミクロン規模、又はナノメーター規模の粒子である。当然、本発明の範囲から逸脱することなく、堆積ステップ10の他の変異形態の実施形態が可能である。ここで記載された堆積ステップは、「エアロゾルジェット印刷(AJP)」に基づいている。しかし、デジタル印刷、互いに近いとビードを形成する液滴の吐き出しのような他の技術によっても材料を堆積させることが可能である。このように、前記堆積ステップは、AJP技術だけに限定されない。
【0046】
前記堆積ステップ10が、インクを噴霧する噴霧段階24と、噴霧されたインクを基材4上に射出する射出段階26を含む場合、前記処理ステップ11は、好ましくは、インクが必要とするときに、第2の材料を硬化させる硬化段階28を含む。「硬化」とは、粒子を直接的又は間接的に結合させて凝集させるプロセスを意味する。なお、特定のインクは、硬化ステップを必要としない。この硬化ステップは、例えば、厳密に言えば、架橋によるものである。溶剤が蒸発し、樹脂が「すべて自身で」架橋するには、屋外において短時間配置することで十分である。
【0047】
硬化段階28は、例えば、第2の材料を熱処理することによって構成している。この熱処理は、少なくとも、アニールステップ及び/又は局所化された焼結ステップ及び/又は真空化ステップを含む。これは特に、第2の材料が熱硬化性ポリマーによって構成している場合に用いる。なお、このアニールステップは、例えばマイクロ波エネルギーを与えることによって、この第2の材料を加熱するステップとも呼ぶことができる。このような熱処理によって、凝固プロセスを加速することができる。局所化された焼結は、例えば、赤外線レーザーのようなレーザーを用いて第2の材料を射出することによって行う。このような自然硬化段階は、さらに、実際の熱処理の前に、典型的には揮発性溶媒における粒子の懸濁液の場合に、自然乾燥ステップを含むことができる。
【0048】
変異形態の1つにおいて、前記硬化段階28は、光架橋及び/又は化学的架橋による重合を介して得られる人工硬化によって構成していることができる。これは、第2の材料が光植字ポリマーによって構成している場合に特に当てはまる。光架橋による重合は、典型的には、エピラム産生物6を含む材料上に所定の波長を有する紫外線を照射することによって得られる。
【0049】
別の変異形態において、一般的には、前記第2の材料に対して処理をするステップ11は、
- 特にイオン注入段階である、エピラム6産生物を含む材料の化学構造を変える段階、
- 特に局所化されたレーザー熱処理段階である、エピラム産生物6を含む材料の結晶構造を変える段階、及び/又は
- 特にレーザー処理段階である、エピラム産生物6を含む材料の粗さを変える段階
のうちの少なくとも1つを行う。
図1
図2
図3
図4