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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ウエーブエンボス成形金型の加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/20 20060101AFI20231012BHJP
   B21D 22/02 20060101ALI20231012BHJP
   B23C 5/12 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B21D37/20 Z
B21D22/02 B
B23C5/12 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023123885
(22)【出願日】2023-07-28
【審査請求日】2023-07-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592015271
【氏名又は名称】テクノエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 翔真
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-82156(JP,A)
【文献】特開平6-218451(JP,A)
【文献】特開2004-181489(JP,A)
【文献】特許第6894038(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/20
B21D 22/02
B23C 5/12 - 5/14
B24B 7/00
B23D 79/00
B23B 5/00 - 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に沿って規則的に蛇行しつつ連続する連続凸部が一定の間隔で複数本並列させられたウエーブエンボス板をプレス成形するウエーブエンボス成形金型の加工方法であって、
前記連続凸部の山頂から隣接する前記連続凸部の山頂までの前記連続凸部間の凹断面形状に対応する凸形状を有する凹面切削切れ刃と、前記凹面切削切れ刃に続いて外周側へ連続する平坦な直線切れ刃とを有し、前記凹面切削切れ刃の中央を通る回転中心線まわりに回転駆動される凸状切刃切削工具を、用意する凸状切刃切削工具準備工程と、
前記凸状切刃切削工具を、前記凸状切刃切削工具の回転中心線を前記ウエーブエンボス成形金型の成形面に対して垂直とした状態で前記成形面に平行且つ前記連続凸部間の谷に沿って蛇行移動させる切削工程と、を含む
ことを特徴とするウエーブエンボス成形金型の加工方法。
【請求項2】
前記切削工程は、
前記ウェーブエンボス成形金型の前記成形面に形成すべき前記連続凸部及び前記連続凸部間の凹断面形状に対して、所定寸法の切削残りを形成する高さ位置で前記凸状切刃切削工具を保持しつつ、前記凸状切刃切削工具を前記成形面に平行且つ前記連続凸部間の谷に沿って蛇行移動させる粗加工工程と、
前記切削残りのない高さ位置で前記凸状切刃切削工具を保持しつつ、前記凸状切刃切削工具を前記成形面に平行且つ前記連続凸部間の谷に沿って蛇行移動させる仕上加工工程と、を含む
ことを特徴とする請求項1のウエーブエンボス成形金型の加工方法。
【請求項3】
前記凸状切刃切削工具は、前記直線切れ刃に続いて外周側へ連続し所定の曲率半径で前記ウエーブエンボス成形金型から離れる方向に曲成されたR切れ刃を有する
ことを特徴とする請求項1のウエーブエンボス成形金型の加工方法。
【請求項4】
前記凸状切刃切削工具は、前記凸状切刃切削工具の先端から前記凸状切刃切削工具の径よりも短い回転中心線方向寸法で形成されている切り屑排出溝を有する
ことを特徴とする請求項1のウエーブエンボス成形金型の加工方法。
【請求項5】
前記粗加工工程又は前記仕上加工工程において、前記凸状切刃切削工具は、3000rpm以下の回転速度で駆動され、850mm/min以下の送り速度で移動させられる。
ことを特徴とする請求項2のウエーブエンボス成形金型の加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、規則的に蛇行しつつ一方向連続する連続凸部が一定の間隔で複数本並列させられたウエーブエンボス板を成形するウエーブエンボス成形金型の製作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一方向に沿って規則的に蛇行しつつ連続する連続凸部が一定の間隔で複数本並列させられたウエーブエンボス板が知られている。たとえば、特許文献1の図2に記載されたウエーブエンボス板がそれである。このような、ウエーブエンボス板は、一対の金型を用いてプレス加工されることにより成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6894038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載のウエーブエンボス板を成形する成形金型の加工に際しては、切れ刃の回転軌跡が球状であるボールエンドミルを回転駆動しつつそのボールエンドミルを3軸方向にそれぞれ位置制御できる3軸切削盤を用いる。この場合、ボールエンドミルの位置を制御しつつ成形金型の表面を走査して切削するに際して、粗削り加工、3種類の中仕上げ加工、及び仕上げ加工毎に、切れ刃の径が異なる5種類の工具を必要とすると共に、それぞれの加工工程毎に多くの加工時間が必要となるという、欠点があった。また、それぞれの加工工程毎に3軸の位置制御に用いる大きなサイズの制御データを必要とし、その制御データの作成に多くの工数を必要とする欠点があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、少ない種類の工具を用いて短い加工時間でウエーブエンボス板をプレス成形するウエーブエンボス成形金型の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)一方向に沿って規則的に蛇行しつつ連続する連続凸部が一定の間隔で複数本並列させられたウエーブエンボス板をプレス成形するウエーブエンボス成形金型の加工方法であって、(b)前記連続凸部の山頂から隣接する前記連続凸部の山頂までの前記連続凸部間の凹断面形状に対応する凸形状を有する凹面切削切れ刃と、前記凹面切削切れ刃に続いて外周側へ連続する平坦な直線切れ刃とを有し、前記凹面切削切れ刃の中央を通る回転中心線まわりに回転駆動される凸状切刃切削工具を、用意する凸状切刃切削工具準備工程と、(c)前記凸状切刃切削工具を、前記凸状切刃切削工具の回転中心線を前記ウエーブエンボス成形金型の成形面に対して垂直とした状態で前記成形面に平行且つ前記連続凸部間の谷に沿って蛇行移動させる切削工程と、を含むことにある。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記切削工程は、(d)前記ウェーブエンボス成形金型の前記成形面に形成すべき前記連続凸部及び前記連続凸部間の凹断面形状に対して、所定寸法の切削残りを形成する高さ位置で前記凸状切刃切削工具を保持しつつ、前記凸状切刃切削工具を前記成形面に平行且つ前記連続凸部間の谷に沿って蛇行移動させる粗加工工程と、(e)前記切削残りのない高さ位置で前記凸状切刃切削工具を保持しつつ、前記凸状切刃切削工具を前記成形面に平行且つ前記連続凸部間の谷に沿って蛇行移動させる仕上加工工程と、を含むことにある。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第1発明において、(f)前記凸状切刃切削工具は、前記直線切れ刃に続いて外周側へ連続し所定の曲率半径で前記ウエーブエンボス成形金型から離れる方向に曲成されたR切れ刃を有することにある。
【0009】
第4発明の要旨とするところは、第1発明において、(g)前記凸状切刃切削工具は、前記凸状切刃切削工具の先端から前記凸状切刃切削工具の径よりも短い回転中心線方向寸法で形成されている切り屑排出溝を有する。
【0010】
第5発明の要旨とするところは、第2発明において、前記粗加工工程又は前記仕上加工工程において、前記凸状切刃切削工具は、2500rpm以下の回転速度で駆動され、850mm/min以下の送り速度で移動させられる。
【発明の効果】
【0011】
第1発明のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、前記凸状切刃切削工具を、前記凸状切刃切削工具の回転中心線を前記ウエーブエンボス成形金型の成形面に対して垂直とした状態で、前記成形面に平行且つ前記連続凸部間の谷に沿って蛇行移動させることで、規則的に蛇行しつつ一方向連続する前記連続凸部が一定の間隔で複数本並列させられたウエーブエンボス板をプレス成形するウエーブエンボス成形金型が得られる。この結果、切削時には、前記凸状切刃切削工具をその回転中心線方向に移動させず、ウエーブエンボス成形金型の成形面に沿った回転中心線方向に直交する面内の移動のみにより、前記成形面に、規則的に蛇行しつつ一方向連続する連続凸部が一定の間隔で複数本並列させられた複数の連続凸部が切削される。これにより、従来より少ない工具を用いて、切削工具の回転中心線に直交する面内の移動のみによる短い切削加工時間でウエーブエンボス成形金型を加工できる。
【0012】
第2発明のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、前記切削工程は、前記ウェーブエンボス成形金型の前記成形面に形成すべき前記連続凸部及び前記連続凸部間の凹断面形状に対して、所定寸法の切削残りを形成する高さ位置で前記凸状切刃切削工具を保持しつつ、前記凸状切刃切削工具を前記成形面に平行且つ前記連続凸部間の谷に沿って蛇行移動させる粗加工工程と、前記切削残りのない高さ位置で前記凸状切刃切削工具を保持しつつ、前記凸状切刃切削工具を前記成形面に平行且つ前記連続凸部間の谷に沿って蛇行移動させる仕上加工工程と、を含む。これにより、ウエーブエンボス成形金型において、形状精度の高い成形面が能率よく得られる。
【0013】
第3発明のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、前記凸状切刃切削工具は、前記直線切れ刃に続いて外周側へ連続し所定の曲率半径で前記ウエーブエンボス成形金型から離れる方向に曲成されたR切れ刃を有する。これにより、前記ウエーブエンボス成形金型の成形面において、きれいな仕上がりが得られる。また、R切れ刃の存在によって、R切れ刃に連なる直線切れ刃及び凹面切削切れ刃の強度が高められ、凸状切刃切削工具44の耐久寿命が向上する。
【0014】
第4発明のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、前記凸状切刃切削工具は、前記凸状切刃切削工具の先端から前記凸状切刃切削工具の径よりも短い回転中心線方向寸法で形成されている切り屑排出溝を有する。これにより、研削盤のチャックの凸状切刃切削工具の切り屑排出溝までの掴みしろが大きくなるので、切削加工時における凸状切刃切削工具44のビビリが抑制され、ウエーブエンボス成形金型の成形面の仕上がりが向上する。
【0015】
第5発明のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、前記粗加工工程又は前記仕上加工工程において、前記凸状切刃切削工具は、2500rpm以下の回転速度で駆動され、850mm/min以下の送り速度で移動させられる。これにより、前記ウエーブエンボス成形金型について±0.01mmの範囲内の面精度の仕上がりが得られ、前記凸状切刃切削工具の耐久性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施例の加工方法により加工されたウエーブエンボス成形金型を用いてプレス成形されたエンボス成形板から成る製品を説明する斜視図である。
図2図1のエンボス成形板のエンボス形状、及びそのエンボス成形板を成形するウエーブエンボス成形金型の成形面の凹凸形状を説明する要部拡大図であって、フィレット(円弧)をかけた図である。
図3図2のエンボス板の凹凸形状を説明するために、フィレットをかけないで1つの単位山形を拡大して説明する平面図である。
図4図2のエンボス板の断面を示す、図3のIV-IV視図である。
図5図2のエンボス板の断面を示す、図3のV-V視図である。
図6図2のエンボス板の断面を示す、図3のVI-VI視図である。
図7図2のエンボス板を示す、図3のVII矢視図である。
図8図2に示す成形面を有するウエーブエンボス成形金型を説明する断面図である。
図9】本発明の一実施例のウエーブエンボス成形金型の加工方法を説明する工程図である。
図10図9の凸状切刃切削工具準備工程で準備される凸状切刃切削工具を説明する図である。
図11図9の切削工程における図10の凸状切刃切削工具を用いた加工方法を説明する断面図である。
図12図9の切削工程において図10の凸状切刃切削工具を用いた加工方法を説明する斜視図である。
図13】ウエーブエンボス成形金型の従来の加工方法に用いたボールエンドミルを示す図である。
図14】ウエーブエンボス成形金型の従来の加工方法であって、ボールエンドミルを用いて加工する場合を示す斜視図である。
図15】ウエーブエンボス成形金型の従来の加工工程を説明する工程図である。
図16】本発明者が行なったウエーブエンボス成形金型の切削加工試験結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。
【実施例
【0018】
図1は、本発明の一実施例であるエンボス付半円筒状成形品10を示す写真である。エンボス付半円筒状成形品10は、L1方向に長手状を成し、たとえば、車両の排気管からの熱を遮断するヒートインシュレータとして用いられる。図2のエンボス付金属板(以下、エンボス成形板という)20の山線(稜線)32及び谷線34が、エンボス付半円筒状成形品10の幅方向すなわちW1方向に形成されている。
【0019】
エンボス付半円筒状成形品10は、図2に示すエンボス成形板20から型押し成形されたものである。エンボス成形板20は、例えば、JISH4000:2014に規定のアルミニウム合金A3004P(板厚tbが0.4mm)にて構成されており、たとえば図8に示す一対のプレス型(下型40及び上型42)を用いてプレス加工されることにより所定の凹凸パターンであるエンボスが設けられている。図2は、エンボス成形板20の要部拡大図であって、フィレット(円弧)をかけた図である。
【0020】
図3は、図2のエンボス成形板20のエンボスの凹凸形状を説明するためのフィレットをかけない平面図すなわちX-Y平面図であって、山線32及び谷線34が直線で示されている。図3は、X-Y-Z直交座標において図2の紙面をX-Y平面とし、そのX-Y平面と平行にエンボス成形板20を、Z軸方向である紙面の上方から見た平面図である。図8の下型40及び上型42の対向面である成形面にも、図2のエンボス成形板20に加工されたものと同様の凹凸形状が形成されている。
【0021】
図3には、エンボス成形板20に設けられた凹凸パターンの、長さa1である4つの辺をそれぞれ有する4つの四角形(平行四辺形)から成る基本単位である一つの単位山形30が太線で示され、その単位山形30にX方向及びY方向にそれぞれ隣接する単位山形30が太線より細い実線で示されている。図3では、第1横断線22、第2横断線24上の辺76の長さa1は、斜めの線であるため、山線32、谷線34上の辺74の長さa1よりも短く示されている。4つの四角形平面が側辺を挟んで山線32の方向に連続させられ、4つの四角形平面と他の4つの四角形平面とが、4つの四角形平面と他の4つの四角形平面との間の谷折りにより形成された谷線34を挟んで隣接する方向に連続させられることでX方向(低剛性方向)に凹凸が形成されている。
【0022】
図4は、図3のIV-IV矢視断面を示す図である。図5は、図3のV-V矢視断面を示す図である。図6は、図3のVI-VI矢視断面を示す図である。図7は、図3のVII矢視図である。図3に示すようにエンボス成形板20における単位山形30は、山線(稜線)32の一部を相互に構成する一対の平行四辺形と、山線32の一部に対して所定の折れ曲がり角度(開き角)αで連続する山線32の他の一部を相互に構成する他の一対の平行四辺形と、の4つの四角形によって構成された基本単位である。
【0023】
エンボス成形板20は、単位山形30が、山線32が連続するようにY方向において連続し、且つ、Y方向に直交するX方向において谷線34を挟んで連続するように、相互に連結されることで、構成されている。これにより、山線32は、一定周期のピッチP1でX-Y平面内で所定の折れ曲がり角度(開き角)αでジグザグに折れ曲がりながらY方向に延びる。同様に、谷線34は、一定周期のピッチP1でX-Y平面内で所定の折れ曲がり角度αでジグザグに折れ曲がりながらY方向に延びる。山線32及び谷線34は、X方向において一定の間隔で交互に位置している。谷線34は一定の間隔P2でX軸方向に離間して設けられているとともに、山線32は一定の間隔P2でX軸方向に離間して設けられている。谷線34と谷線34との間の、山線32を中心とする凸部がX方向に沿って規則的に蛇行しつつ連続する連続凸部28が形成されている。
【0024】
エンボス成形板20には、谷線34の折れ点38a,38b及び山線32の折れ点36a,36bのうちX軸(正)方向に突き出す折れ点36a,38aを結ぶようにX-Z平面内で折れ曲がりながらX軸方向に図3の平面図上では直線状に延びる第1横断線22と、谷線34の折れ点38a,38b及び山線32の折れ点36a,36bのうちX軸(正)方向に凹んだ折れ点36b,38bを結ぶようにZ軸方向に折れ曲がりながらX軸方向に図3の平面図上では直線状に延びる第2横断線24とが、Y軸方向に離間して交互に多数設けられている。
【0025】
第1横断線22のY軸方向の間隔、及び第2横断線24のY軸方向の間隔は、何れも谷線34、山線32の折れ線のピッチP1に応じて定まり、互いに同じ寸法で、ピッチP1と同じ寸法である。そして、谷線34に沿って谷折りの稜線が形成され、山線32に沿って山折りの稜線が形成されるように、谷線34、山線32、第1横断線22、及び第2横断線24で囲まれた多数の四角形平面が設けられ、その多数の四角形平面によって所定の凹凸パターンが形成されている。
【0026】
単位山形30は、図3に示すように、山線32を挟んで両側に隣接して位置する一対の四角形平面S1、S2と、その一対の四角形平面S1、S2に連続してY軸方向に設けられた一対の四角形平面S3、S4とを合わせた計4枚の四角形平面S1~S4によって基本単位が構成されており、平面視において横向きV字形状に折れ曲がった形状を成している。本実施例の場合には、単位山形30の平面視における谷線34及び山線32の横向きV字形状の折れ曲がり角度、すなわち谷線34及び山線32のX軸方向に突き出す折れ点38a,36aの折れ曲がり角度αは、互いに同じ角度であり、単位山形30を形成している4枚の四角形平面S1~S4は、一対の上辺72及び下辺74と一対の側辺76とが相互に等しい長さa1を有するそれぞれ形状が同じ平行四辺形である。
【0027】
図3のIV-IV矢視断面図を示す図4は、単位山形30の四角形平面S1とS3との間の稜線である第2横断線24のY-Z断面を示している。図3のV-V矢視断面図を示す図5は、四角形平面S2とS4との間の稜線である第2横断線24のY-Z断面を示している。図3のVI-VI矢視断面図を示す図6は、第2横断線24に沿って第2横断線24の折れ点38b,36bを通るX-Z断面を示している。図3におけるVII矢視図である図7は、エンボス成形板20の成形厚みすなわちエンボスパターンのZ軸方向の高さh1のY方向の連続性を示している。図4図6に示すように、谷線34、山線32、第1横断線22、及び第2横断線24に沿って形成される谷折りや山折りの稜線部分には、それぞれ稜線に対して直角な断面において曲率半径r1の円弧形状の丸み(フィレット)が設けられている。曲率半径r1は、例えば、3~3.5mmであり、四角形平面S1~S4の一辺の長さa1の37%~50%の寸法である。
【0028】
次に、このようなエンボスの凹凸パターンが設けられたエンボス成形板20の各部の寸法、角度の具体例を説明する。エンボス成形板20の板厚taは0.3mm~0.6mm程度の範囲内が適当であり、本実施例では0.4mmである。すなわち、素材であるアルミニウム合金の平板の板厚tbが0.3~0.5mmであり、この平板にエンボス加工が施されて凹凸パターンが形成されることによる伸びによって板厚が若干減少する。例えば、板厚tbが0.4mmである場合には、エンボス加工されるとそれよりも小さく、例えばエンボス成形板20の板厚taは0.38mm程度になる。山線に沿った断面において折れ点の曲率半径をr1としたとき、四角形平面S1~S4の相互に等しい一辺の長さa1は、6mm~8mmの範囲内である。エンボスパターンのZ軸方向の高さ(山線32と谷線34との間の高さ)h1は1.6mm~1.8mmの範囲内である。谷線34及び山線32のX軸方向に突き出す折れ点38a,36aの折れ曲がり角度(平面視において折れ点を中心とした山線32の開き角)αは、100°以上好適には110°~120°の範囲内である。
【0029】
このようなエンボス成形板20によれば、折れ線状の谷線34及び山線32と直交するようにX方向に設けられる第1横断線22及び第2横断線24が、平面視においてそれぞれZ方向にジグザグに折れ曲がった折れ線形状を成している。また、X方向では、図6のX-Z断面に示すように、山線32を稜線とする山と、谷線34を谷筋とする谷が交互に連続している。また、Y方向では、図7のY-Z面(側面)に示すように、山線32を稜線とする山と谷線34を谷筋とする谷とが連続している。このため、エンボス成形板20には、X方向の曲げ剛性が低く且つY方向において曲げ剛性が高い、曲げ剛性の異方性が備えられている。
【0030】
図8は、エンボス成形板20にプレスによりエンボス加工を施す、一対の下型40及び上型42から成るウエーブエンボス成形金型を示している。一対の下型40及び上型42の対向面である成形面には、図2のエンボス成形板20に加工されたものと同様の凹凸形状がそれぞれ切削加工により形成されている。金属板(素材)が下型40と上型42との間で挟圧されるプレス成形により、エンボス加工されたエンボス成形板20が得られる。
【0031】
図9は、エンボス成形板20にプレスによりエンボス加工を施すための一対の下型40及び上型42の加工方法すなわち製造方法の要部を説明する工程図である。図9において、凸状切刃切削工具準備工程P11では、たとえば図10に示す凸状切刃切削工具44が用意される。凸状切刃切削工具44は、その回転中心線C1まわりに回転駆動される軸状の回転切削工具である。
【0032】
図10に示すように、凸状切刃切削工具44は、連続凸部の山頂から隣接する連続凸部の山頂までの連続凸部間の凹断面形状に対応する凸形状を有する凹面切削切れ刃46と、凹面切削切れ刃46に続いて外周側へ連続する平坦な直線切れ刃48と、直線切れ刃48に続いて外周側へ連続し所定の曲率半径でウエーブエンボス成形金型から離れる方向に曲成されたR切れ刃50と、凹面切削切れ刃46よりも回転方向上流側に形成されたすくい面52と、凹面切削切れ刃46及び直線切れ刃48で発生した切り屑を排出する切り屑排出溝54と、凹面切削切れ刃46及び直線切れ刃48の回転方向後方に形成された0~5°の逃げ面56と、を有している。凸状切刃切削工具44は、切削に際しては、図示しないX-Y-Zの3軸切削盤のチャックに装着され、凹面切削切れ刃46の中央を通る回転中心線C1まわりに回転駆動される。凸状切刃切削工具44は、0~5°の逃げ面56を備えていて切れ刃の強度が高められるので、長い耐久寿命が得られている。
【0033】
凸状切刃切削工具44は、直線切れ刃48と外周面との間がピン角の場合に比較して、R切れ刃50の存在によって、切削負荷に強く破損が抑制されるので、高い研削加工能率が得られるとともに、ウエーブエンボス成形金型の成形面の凹凸を滑らかに切削することができる。また、切り屑排出溝54は、凸状切刃切削工具44の先端から凸状切刃切削工具44の径よりも短い回転中心線方向寸法で形成されている。これにより、3軸切削盤のチャックによる凸状切刃切削工具44の切り屑排出溝54までの掴みしろが大きくなるので、切削加工時における凸状切刃切削工具44のビビリが抑制され、ウエーブエンボス成形金型の成形面の仕上がりが向上する。
【0034】
次いで、図9の切削工程(粗加工工程P12及び仕上加工工程P13)では、ウエーブエンボス成形金型を構成する下型40又は上型42の合わせ面である成形面上において、図11及び図12に示すように、凸状切刃切削工具44が、凸状切刃切削工具44の回転中心線C1をウエーブエンボス成形金型の成形面に対して垂直とした状態で、回転中心線C1が前記成形面に平行且つ前記連続凸部間(山線32間)の谷線34又は山線32に沿って蛇行しつつ移動させられる。凸状切刃切削工具44は、Z方向の位置は変化させず、X-Y平面内で蛇行するように位置制御されることで下型40又は上型42の合わせ面の切削を実行する。このような切削加工が、谷線34又は山線32毎に繰り返される。
【0035】
切削工程に含まれる粗加工工程P12では、エンボス金型を構成する下型40又は上型42の合わせ面である成形面に形成すべき連続凸部28及び連続凸部28間の凹断面形状に対して、所定寸法の切削残りを形成する高さ位置で凸状切刃切削工具44が保持されつつ、凸状切刃切削工具44が成形面に平行且つ連続凸部28間の谷線34に沿って、谷線34毎に蛇行移動させられる。
【0036】
切削工程に含まれる仕上加工工程P13では、エンボス金型を構成する下型40又は上型42の合わせ面である成形面に形成すべき連続凸部28及び連続凸部28間の凹断面形状に対して、切削残りのない高さ位置で凸状切刃切削工具44が保持されつつ、凸状切刃切削工具が成形面に平行且つ連続凸部28間の谷線34に沿って、谷線34毎に蛇行移動させられる。このような本実施例の切削加工では、たとえば、図14図15の従来の工程と比較すると、下型40又は上型42の加工時間は83%減、工具費用は41%減、加工データ作成時間は90%減であった。
【0037】
因みに、従来では、たとえば図13に示すボールエンドミルを用いて、図14に示すように、ボールエンドミルをX方向、Y方向、及びZ方向の三次元で位置制御しつつ、ウエーブエンボス成形金型の下型40および上型42の成形面を切削し、図2に示すような、エンボス形状を加工していたので、大幅に長い加工時間を必要とするとともに、3軸の位置制御に用いる制御データのサイズが大きく、制御データの作成に多くの工数を必要としていた。また、先端の切れ刃の径が異なる複数種類のボールエンドミルを用いて、図15に示すように、複数種類の工程を必要としていたので、複数種類の工具を必要とするだけでなく、一層多くの加工時間と制御データの作成工数を必要としていた。図15では、30mmφのボールエンドミルを用いた粗取り工程B1と、20mmφのボールエンドミルを用いた中仕上工程B2と、16mmφのボールエンドミルを用いた中仕上工程B3と、10mmφのボールエンドミルを用いた中仕上工程B4と、6mmφのボールエンドミルを用いた仕上工程B5が、用いられている。
【0038】
本発明者は、以下の試験条件下において、凸状切刃切削工具44の回転数及び送り速度を変更して、エンボス成形板20を成形するウエーブエンボス成形金型の成形面の凹凸形状を切削加工する試験を行なった。図16は、その試験結果を示す。
(切削試験条件)
3軸切削加工盤:ニデックマシンツール株式会社製のMVR25Ex
凸状切刃切削工具: 16mmφ×100mm
金型の材質:工具鋼
切削油 :スギカット(スギムラ化学工業株式会社製)
【0039】
図16に示すように、上記ウエーブエンボス成形金型の切削試験によれば、凸状切刃切削工具44の回転数が高くなるほど、凸状切刃切削工具44の送り速度が高くなるほど、面仕上がりの不具合が増加し、工具状態も悪化する。好適には、凸状切刃切削工具44の回転数が3000rpm以下、凸状切刃切削工具44の送り速度が850mm/min以下が好適であり、凸状切刃切削工具44の回転数が2500rpm以下、凸状切刃切削工具44の送り速度が650mm/min以下がさらに好適であった。
【0040】
上述のように、本実施例のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、凸状切刃切削工具44を、凸状切刃切削工具44の回転中心線C1をウエーブエンボス成形金型の成形面に対して垂直とした状態で、前記成形面に平行且つ山線32(連続凸部28)間の谷線34に沿って蛇行移動させることで、規則的に蛇行しつつ一方向連続する連続凸部28が一定の間隔で複数本並列させられたエンボス成形板20をプレス成形するウエーブエンボス成形金型が得られる。この結果、切削時には、凸状切刃切削工具44をその回転中心線C1方向(Z方向)に移動させる必要がなく、ウエーブエンボス成形金型の成形面に沿った回転中心線C1方向に直交する面(X-Y平面)内の移動のみにより、成形面に、規則的に蛇行しつつ一方向連続する連続凸部28が一定の間隔で複数本並列させられた複数の連続凸部28が切削される。これにより、従来より少ない単一種の工具を用いて、凸状切刃切削工具44の回転中心線C1に直交する面内の移動のみによる短い切削加工時間でウエーブエンボス成形金型(下型40及び上型42)を加工できる。
【0041】
また、本実施例のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、凸状切刃切削工具44の切削工程(P12、P13)は、ウエーブエンボス成形金型の成形面に形成すべき連続凸部28及び連続凸部28間の凹断面形状に対して、所定寸法の切削残りを形成する高さ位置で凸状切刃切削工具44を保持しつつ、凸状切刃切削工具44を成形面に平行且つ連続凸部28間の谷線34に沿って蛇行移動させる粗加工工程P12と、切削残りのない高さ位置で凸状切刃切削工具44を保持しつつ、凸状切刃切削工具44を前記成形面に平行且つ連続凸部28間の谷線34に沿って蛇行移動させる仕上加工工程P13と、を含む。これにより、ウエーブエンボス成形金型において、形状精度の高い成形面が能率よく得られる。
【0042】
また、本実施例のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、凸状切刃切削工具44は、直線切れ刃48に続いて外周側へ連続し所定の曲率半径でウエーブエンボス成形金型から離れる方向に曲成されたR切れ刃50を有する。これにより、ウエーブエンボス成形金型において、きれいな仕上がりが得られる。また、R切れ刃50の存在によって、R切れ刃50に連なる直線切れ刃48及び凹面切削切れ刃46の強度が高められ、凸状切刃切削工具44の耐久寿命が向上する。
【0043】
また、本実施例のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、凸状切刃切削工具44は、凸状切刃切削工具44の先端から凸状切刃切削工具44の径よりも短い回転中心線方向寸法で形成されている切り屑排出溝54を有する。これにより、研削盤のチャックの凸状切刃切削工具44の切り屑排出溝54までの掴みしろが大きくなるので、切削加工時における凸状切刃切削工具44のビビリが抑制され、ウエーブエンボス成形金型の成形面の仕上がりが向上する。
【0044】
また、本実施例のウエーブエンボス成形金型の加工方法によれば、粗加工工程P12又は仕上加工工程P13において、凸状切刃切削工具44は、3000rpm以下の回転速度で駆動され、850mm/min以下の送り速度で移動させられる。これにより、ウエーブエンボス成形金型について±0.01mmの範囲内の面精度の仕上がりが得られ、凸状切刃切削工具44の耐久性が高められる。
【0045】
以上、ウエーブエンボス成形金型の加工方法を図面に基づいて説明したが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0046】
たとえば、前述の実施例において、ウエーブエンボス成形金型は下型40及び上型42から構成されていたが、水平方向に組合わせられる左型および右型から構成されていてもよい。
【0047】
また、前述の実施例の凸状切刃切削工具44には、必ずしもR切れ刃50が設けられていなくてもよい。
【0048】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例では、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
10:エンボス付半円筒状成形品、20:エンボス成形板、22:第1横断線、24:第2横断線、28:連続凸部、30:単位山形、32:山線(稜線)、34:谷線、36a,36b:山線の折れ点、38a,38b:谷線の折れ点、40:下型(ウエーブエンボス成形金型)、42:上型(ウエーブエンボス成形金型)、44:凸状切刃切削工具、46:凹面切削切れ刃、48:直線切れ刃、50:R切れ刃、52:すくい面、54:切り屑排出溝、60:ボールエンドミル、P11:凸状切刃切削工具準備工程、P12:粗加工工程(切削工程)、P13:仕上加工工程(切削工程)、C1:回転中心線
【要約】
【課題】少ない種類の工具を用いて短い加工時間でウエーブエンボスを成形する金型を加工できるウエーブエンボス成形金型の加工方法を提供する。
【解決手段】凸状切刃切削工具44を、凸状切刃切削工具44の回転中心線C1をエンボス金型の成形面に対して垂直とした状態で、前記成形面に平行且つ山線32(連続凸部28)間の谷線34に沿って蛇行移動させることで、規則的に蛇行しつつ一方向連続する連続凸部28が一定の間隔で複数本並列させられたエンボス成形板20をプレス成形するウエーブエンボス成形金型が得られる。切削時には、凸状切刃切削工具44をその回転中心線C1方向(Z方向)に移動させる必要がなく、X-Y平面内の移動のみにより、複数の連続凸部28が切削される。単一種の工具を用いて、短い切削加工時間でウエーブエンボス成形金型(下型40及び上型42)を加工できる。
【選択図】図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16