(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】銀微粒子組成物
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20231012BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231012BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20231012BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20231012BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20231012BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20231012BHJP
B22F 9/18 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F1/00 K
B22F1/052
H01B1/22 A
H01B1/12 E
B22F1/10
B22F9/18
(21)【出願番号】P 2023519660
(86)(22)【出願日】2023-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2023010983
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2022054774
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松居 美紀
(72)【発明者】
【氏名】中島 尚耶
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087396(JP,A)
【文献】国際公開第2022/009754(WO,A1)
【文献】特開2021-098890(JP,A)
【文献】特開2020-29622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00 - 9/30
B22F 1/00 - 8/00
H01B 1/22
H01B 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀微粒子とアミンとジオールとを含む銀微粒子組成物であって、
前記銀微粒子の
数平均粒子径は、40nm以上100nm以下であり、
前記銀微粒子全体に占める粒子径100nm以下の銀微粒子の体積比率は、5%以上25%以下であり、
前記銀微粒子全体に占める粒子径500nm超えの銀微粒子の体積比率は、10%以上60%以下である、銀微粒子組成物。
【請求項2】
前記銀微粒子全体に占める粒子径300nm超えの銀微粒子の体積比率は、40%以上90%以下である、請求項1に記載の銀微粒子組成物。
【請求項3】
前記アミンは、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-プロポキシプロピルアミン、3-ブトキシプロピルアミン、2-エトキシプロピルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミン、2-メトキシ-2-メチルプロピルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、及び2-(2-アミノエトキシ)エタノールからなる群より選ばれる1種以上のアミンである、請求項1又は2に記載の銀微粒子組成物。
【請求項4】
前記ジオールは、1,2-オクタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、及び3-メチル-1,3-ブタンジオールからなる群より選ばれる1種以上のジオールである、請求項1又は2に記載の銀微粒子組成物。
【請求項5】
前記銀微粒子の含有量は、85重量%以上97重量%以下である、請求項1又は2に記載の銀微粒子組成物。
【請求項6】
せん断速度5s
-1で測定したせん断粘度は、100Pa・s以上である、請求項1又は2に記載の銀微粒子組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀微粒子組成物に関する。
本出願は、2022年3月30日出願の日本出願第2022-054774号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
銀微粒子の低温焼結性を利用した、接合用組成物や導電性インクが注目されている。接合後の銀微粒子は一般的な銀のバルク体とほぼ同程度の物性を有するため、非常に高い耐熱性を有し、かつ信頼性及び放熱性も良好である。
このような性質を利用して、銀微粒子を含む組成物をLED等の発光素子を基板に接合するための接合材、半導体チップを基板に接合するための接合材、これらの基板をさらに放熱部材に接合するための接合材などに、使用することが提案されている。
【0003】
特許文献1では、金属などの無機素材を接合する無機素材用接合材として、金属コロイド粒子及び溶媒を含むペーストで構成された無機素材用接合材であって、上記金属コロイド粒子が、金属ナノ粒子(A)と分散剤(B)とで構成されるとともに、上記金属ナノ粒子(A)が、数平均粒子径50nm以下であり、かつ粒子径100~200nmの金属ナノ粒子を含有する無機素材用接合材が提案されている。
【0004】
特許文献2では、電子部品を低温接合するための接合用組成物として、銀微粒子と、アルコキシアミンを含む分散剤と、分散媒と、を含み、上記分散剤の含有量が、上記銀微粒子の含有量に対して0.1~7.0質量%であり、室温から200℃まで加熱したときの重量損失が、含有する全有機成分の70質量%以上である銀微粒子組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-94223号公報
【文献】国際公開第2016/166948号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銀微粒子を低温で融着(低温焼結)させる場合、銀微粒子の粒子径が小さいほど、低い温度で焼結させることができるとされている。
一方、粒子径が小さい銀微粒子を焼結させた場合、塗布した銀微粒子組成物の体積に比べて、得られた銀の焼結体の体積が大きく減少する。そのため、形成された焼結層は空隙が多く、密な焼結層を得ることが難しい。
また、接合用組成物としての銀微粒子組成物を被接合部材の間に挟んで使用する場合に、使用する銀微粒子組成物が焼結後に体積の大きく減少する銀微粒子組成物であると、大面積(例えば、25mm2以上)の接合面同士を強固に接合することが難しくなる。
そのため、焼結後の体積の減少を抑制するならば、銀微粒子の粒子径を大きくする必要があるが、粒子径の大きな銀微粒子が多くなると低温で焼結することが難しくなり、接合できる被接合部材が制限されたり、接合時に必要となる熱エネルギーが増大したりしてしまう。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、低温焼結性を維持しつつ、空隙が少なく、接合強度に優れた焼結層を形成することができる銀微粒子組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の銀微粒子組成物は、
銀微粒子とアミンとジオールとを含む銀微粒子組成物であって、
上記銀微粒子の平均粒子径は、40nm以上100nm以下であり、
上記銀微粒子全体に占める粒子径100nm以下の銀微粒子の体積比率は、5%以上25%以下であり、
上記銀微粒子全体に占める粒子径500nm超えの銀微粒子の体積比率は、10%以上60%以下である。
【0009】
(2)上記(1)の銀微粒子組成物において、上記銀微粒子全体に占める粒子径300nm超えの銀微粒子の体積比率は、40%以上90%以下が好ましい。
【0010】
(3)上記(1)及び(2)の銀微粒子組成物において、上記アミンは、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-プロポキシプロピルアミン、3-ブトキシプロピルアミン、2-エトキシプロピルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミン、2-メトキシ-2-メチルプロピルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、及び2-(2-アミノエトキシ)エタノールからなる群より選ばれる1種以上のアミンである、ことが好ましい。
【0011】
(4)上記(1)~(3)の銀微粒子組成物において、上記ジオールは、1,2-オクタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、及び3-メチル-1,3-ブタンジオールからなる群より選ばれる1種以上のジオールである、ことが好ましい。
【0012】
(5)上記(1)~(4)の銀微粒子組成物は、上記銀微粒子の含有量が、85重量%以上97重量%以下である、ことが好ましい。
【0013】
(6)上記(1)~(5)の銀微粒子組成物は、せん断速度5s-1で測定したせん断粘度が、100Pa・s以上である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記銀微粒子組成物によれば、低温で焼成可能でありながら、緻密な焼結銀層を形成することができる。そのため、接合面積の大きい部材同士の接合であっても強固に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、実施例1の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例2の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、実施例2の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例3の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、実施例3の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例4の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、実施例4の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例6の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、実施例6の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例7の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図12】
図12は、実施例7の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図13】
図13は、比較例1の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図14】
図14は、比較例1の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図15】
図15は、比較例2の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図16】
図16は、比較例2の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図17】
図17は、比較例3の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図18】
図18は、比較例3の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図19】
図19は、比較例4の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図20】
図20は、比較例4の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図21】
図21は、比較例5の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図22】
図22は、比較例5の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図23】
図23は、比較例6の銀微粒子組成物の顕微鏡写真である。
【
図24】
図24は、比較例6の銀微粒子組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図25】
図25は、実施例1の銀微粒子組成物を用いて形成した焼結銀層の顕微鏡写真である。
【
図26】
図26は、比較例2の銀微粒子組成物を用いて形成した焼結銀層の顕微鏡写真である。
【
図27】
図27は、比較例4の銀微粒子組成物を用いて形成した焼結銀層の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係る銀微粒子組成物は、特定の粒子径を有する銀微粒子と、アミンと、ジオールとを含む。
【0017】
<銀微粒子>
本発明の実施形態では、銀微粒子が特定の粒子径を有することが極めて重要である。
具体的には、上記銀微粒子は、平均粒子径が40nm以上100nm以下であり、上記銀微粒子全体に占める粒子径100nm以下の銀微粒子の体積比率が5%以上25%以下であり、上記銀微粒子全体に占める粒子径500nm超えの銀微粒子の体積比率が10%以上60%以下である。
【0018】
上記銀微粒子組成物では、銀微粒子の平均粒子径が100nm以下に抑えられつつ、粒子径が500nm超える大きな粒子が体積基準で10%以上含有されている。即ち、上記銀微粒子組成物は、小粒子径の銀微粒子と、大粒子径の銀微粒子とをバランス良く含有している。
そのため、上記銀微粒子組成物によれば、低温で焼成可能でありながら、緻密な焼結銀層を形成することができる。
【0019】
上記銀微粒子は、銀微粒子の焼結に伴って生じる体積収縮を小さくする観点から、平均粒子径が40nm以上100nm以下である。
上記平均粒子径が40nm未満では、銀微粒子を安定に分散させるために必要なアミンの量が多くなるため、焼結に伴う体積収縮が大きくなり、その結果、焼成後の銀焼結層の空隙率増加や接合強度低下の原因となりうる。一方、上記平均粒子径が100nmを超えると比較的低温で銀微粒子を焼結させることが難しくなる。本発明において、比較的低温とは、200℃以下の温度をいう。
上記平均粒子径は、50nm以上80nm以下が好ましい。
【0020】
本発明において、上記平均粒子径は、銀微粒子の一次平均粒子径であり、数平均粒子径である。
上記平均粒子径は、走査型電子線顕微鏡(日立製S-4800型)を用いて5万倍の倍率で銀微粒子を観察、撮影した画像に含まれる微粒子について画像解析ソフト(MITANI CORPORATION製 WinROOF)で300点の粒子径を測定し、その数平均値を算出することで取得する。
【0021】
上記銀微粒子は、上記銀微粒子全体に占める粒子径100nm以下の銀微粒子の体積比率が5%以上25%以下である。
上記粒子径100nm以下の銀微粒子の体積比率が5%未満では、上述した平均粒子径との両立が難しく、低温焼結性が損なわれる。一方、上記粒子径100nm以下の銀微粒子の体積比率が25%を超えると、平均粒子径の小さな微粒子が多くなり過ぎるため、焼成に伴う体積収縮が大きくなる。そのため、被接合面の面積が大きい部材の接合に使用するのが難しくなる。
上記銀微粒子全体に占める粒子径100nm以下の銀微粒子の体積比率は、10%以上25%以下が好ましい。
上記体積比率は、上記画像解析ソフトを用いて算出する。
【0022】
上記銀微粒子は、更に、上記銀微粒子全体に占める粒子径500nm超えの銀微粒子の体積比率が10%以上60%以下である。
このように、粒子径の大きい銀微粒子を含有する銀微粒子組成物では、焼成時の体積収縮を抑制することができる。
上記粒子径500nm超えの銀微粒子の体積比率が10%未満では、焼成時の体積収縮を抑制することが難しくなる。一方、上記粒子径500nm超えの銀微粒子の体積比率が60%を超えると、上述した平均粒子径との両立が難しく、低温焼結性が損なわれる。
【0023】
上記銀微粒子は、銀微粒子全体に占める粒子径300nmを超える微粒子の体積比率が50%以上90%以下であることが好ましい。
上記粒子径300nmを超える微粒子の体積比率を50%以上とすることにより、焼成時により体積収縮しにくくなる。
上記粒子径300nmを超える微粒子の体積比率が50%未満の場合、焼成後の体積収縮が大きくなりやすく、被接合面の面積が大きい部材の接合に使用しにくくなる。一方、上記粒子径300nmを超える微粒子の体積比率が90%を超えると、上述した平均粒子径との両立が難しくなる。
銀微粒子全体に占める粒子径300nmを超える微粒子の体積比率は、50%以上80%以下がより好ましい。
【0024】
<アミン>
上記アミンは、銀微粒子の凝集を防止し、銀微粒子の分散安定性を高める成分である。上記アミンは、分散剤としての役割を有する。
上記銀微粒子組成物において、上記アミンは、少なくとも一部が銀微粒子に配位して存在し、これによって銀微粒子が凝集しないように保護していると考えられる。そのため、上記アミンとしては、極性基を有するアミンが用いられる。
このような機能を有するアミンとしては、炭素数4~8のアミンが好ましい。
【0025】
上記アミンとしては、上記銀微粒子組成物の低温焼結性を確保する観点から、沸点が180℃以下の第1級アミンが好ましい。
上記銀微粒子組成物が融着する際に、上記アミンが残存していると、銀微粒子同士の融着を阻害される。そのため、上記アミンは、焼成時には早期に蒸発又は分解され、銀微粒子の表面から離脱することが望まれる。この点から、上記アミンの沸点は、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
本発明において、沸点とは1気圧での沸点をいう。
【0026】
また、上記アミンとして、第1級アミンを選択した場合、第2級アミン、又は第3級アミンンを選択した場合と比較して、立体障害が少ないため銀微粒子へ吸着しやすくなり、銀微粒子の分散を安定化させる効果が高くなる点で有利である。
【0027】
上記アミンは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖を有していてもよい。
上記アミンは、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、アミン以外の官能基を含む化合物であってもよい。
【0028】
上記アミンの好ましい具体例としては、例えば、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-プロポキシプロピルアミン、3-ブトキシプロピルアミン、2-エトキシプロピルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミン、2-メトキシ-2-メチルプロピルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール等が挙げられる。これらのアミンは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記銀微粒子組成物における上記アミンの含有量は、0.1重量%以上5重量%以下が好ましい。
上記銀微粒子組成物におけるアミンの含有量が0.1重量%以上であると、分散剤としての効果が発揮され、上記銀微粒子組成物の分散安定性が良い傾向にある。また、上記アミンの含有量が5重量%以下であれば、焼成時に銀微粒子の融着を妨げるアミンが無くなるか、微量になりやすい。
上記アミンの含有量のより好ましい下限は0.2重量%であり、より好ましい上限は4重量%であり、更に好ましい下限は0.3重量%であり、更に好ましい上限は3重量%である。
【0030】
<ジオール>
ジオールは、上記銀微粒子組成物において、分散媒としての役割を有する。
ジオールを分散媒として使用した場合、銀微粒子組成物の粘度を調整しやすい。また、ジオールを分散媒として使用した場合は、銀微粒子組成物を塗布ペーストとして使用する際の寿命が確保しやすくなる。
上記ジオールとしては、接合用材料として被接合部材に塗布する際の取り扱いのしやすさの観点から、沸点が200℃以上のものが好ましい。
分散媒として役割を有するジオールとしては、炭素数5~9のジオールが好ましい。
【0031】
上記ジオールの好ましい具体例としては、例えば、1,2-オクタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール等が挙げられる。
これらのジオールは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記銀微粒子組成物は、分散媒として機能する成分として、更にジオール以外のアルコール(水酸基の個数が1個、又は3個以上のアルコール)を含んでいてもよい。
また、上記銀微粒子組成物は、分散媒として機能する成分として、イソトリデカノール、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオールモノイソブチラート(別名:テキサノール)等の化合物を含んでいてもよい。これらの成分を含有させると、銀微粒子組成物の粘度がより調整しやすくなる。
【0033】
上記銀微粒子組成物全体に対する上記ジオールの濃度は、2重量%以上15重量%以下が好ましい。
上記ジオールの濃度が上記の範囲にあると、銀微粒子とジオールとの分離を効果的に防止することができ、銀微粒子組成物の塗布安定性が向上する。
一方、上記ジオールの濃度が2重量%未満であると、銀微粒子組成物のせん断粘度が高すぎるため取り扱い性が悪く、被接合部材に塗工し難くなる。また、上記ジオールの濃度が、15重量%を超えると、銀微粒子組成物に含まれる流体の割合が上昇し、銀微粒子の沈降速度が上昇するため、銀微粒子組成物中のジオールと銀微粒子との分離が効果的に防止されず、銀微粒子組成物の安定性が低下する可能性がある。更には、銀微粒子組成物中の銀微粒子の含有量が少なくなるため、焼成によって得られた銀焼結体は、密度が低くなり、充分な強度が得られない場合がある。
上記ジオールのより好ましい濃度は、3重量%以上12重量%以下である。
【0034】
上記銀微粒子組成物において、上記銀微粒子以外の成分の合計量は銀微粒子組成物の性能が損なわれない範囲で少ないことが好ましい。
上記銀微粒子組成物全体に対する、上記銀微粒子の含有量は、85重量%以上97重量%以下が好ましい。
上記銀微粒子の含有量が85重量%未満では、焼成工程を経た際に、体積が大きく減少する懸念がある。また、焼成時に発生するガスの量が多くなり、銀焼結体に空隙が発生しやすくなる。一方、上記銀微粒子の含有量が97重量%を超えると、銀微粒子組成物がペーストとしての形状を保つことができず、銀微粒子が凝集して銀微粒子組成物の粘度が変化してしまうことがある。この場合、銀微粒子組成物を安定して塗布することができないことがある。
【0035】
上記銀微粒子組成物は、高分子分散剤を含有していてもよい。上記高分子分散剤は、銀微粒子の分散性をより向上させたり、銀微粒子の分散媒として機能したりすることができる。
【0036】
上記高分子分散剤としては、市販されているものを使用することができる。
上記市販品としては、例えば、ソルスパース(SOLSPERSE)11200、ソルスパース13940、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース20000、ソルスパース21000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(日本ルーブリゾール(株)製);ディスパービック(DISPERBYK)118、ディスパービック142、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック2155(ビックケミー・ジャパン(株)製);EFKA-46、EFKA-47、EFKA-48、EFKA-49(EFKAケミカル社製);ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453(EFKAケミカル社製);アジスパーPB711、アジスパーPA111、アジスパーPB811、アジスパーPW911(味の素社製);フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-17、フローレンTG-730W、フローレンG-700、フローレンTG-720W(共栄社化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0037】
上記銀微粒子組成物が、上記高分子分散剤を含有する場合、上記高分子分散剤の含有量は1重量%以下が好ましい。上記高分子分散剤の含有量が1重量%を超えると、焼成時に銀微粒子の融着が妨げられやすくなる。
【0038】
本実施形態の銀微粒子組成物は、上記の成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、使用目的に応じた適度な粘性を付与したり、密着性、乾燥性又は印刷性等の機能を付与したりするために、例えば、バインダーとしての役割を果たすオリゴマー成分、樹脂成分、有機溶剤(固形分の一部を溶解又は分散していてよい。)、界面活性剤、増粘剤又は表面張力調整剤等の任意成分を添加してもよい。かかる任意成分としては、特に限定されない。
【0039】
上記樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、メラミン系樹脂、テルペン系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、1,2,6-ヘキサントリオール、1-エトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、重量平均分子量が200以上1,000以下の範囲内であるポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、重量平均分子量が300以上1,000以下の範囲内であるポリプロピレングリコール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、グリセリン、アセトン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記有機溶剤を含む場合、当該有機溶剤は銀微粒子の分散媒としての役割を果たすこともある。
【0041】
上記増粘剤としては、例えば、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂又はブロックドイソシアネート等のエマルジョン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム又はグアーガム等の多糖類等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の何れかを用いることができ、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。少量の添加量で効果が得られるので、フッ素系界面活性剤が好ましい。
【0043】
上記銀微粒子組成物は、せん断速度5s-1で測定したせん断粘度が、100Pa・s以上である、ことが好ましい。
上記せん断粘度が100Pa・s以上であれば、被接合部材に銀微粒子組成物を塗布したときに、銀微粒子組成物がダレることがないため、銀微粒子組成物の塗布厚さを所望の厚さにすることができる。
また、上記銀微粒子組成物によって接合された被接合部材を、温度サイクル試験等の歪の大きい試験にも耐えうる部材とすることができる。
一方、せん断粘度が100Pa・s未満では、銀微粒子組成物を厚く塗布することが難しく、大きな歪にも耐えることができる接合層の形成が難しくなる。
【0044】
上記銀微粒子組成物のせん断粘度が高すぎると、塗布方法が制限されたり、被接合部材とのなじみが悪くなったりして、取扱いが不便になることがある。
これらの観点から、上記せん断粘度は、100Pa・s以上500Pa・s以下が好ましい。上記せん断粘度は、より好ましくは100Pa・s以上400Pa・s以下である。
【0045】
上記せん断粘度の測定は、コーンプレート型粘度計(Anton Paar製レオメーター Physica MCR301)を用いて行う。
ここでは、25℃条件下、コーンプレート(φ25mm、アングル 2°、ギャップ0.105mm)にて、始めに10s-1でプレシェアをかけた後、0.1~100s-1までせん断速度を変えたときの粘度挙動を27点測定し、5s-1時の値を読み取る。
【0046】
上記せん断粘度の調整は、銀微粒子の粒子径の調整、アミンの含有量の調整、ジオールや、その他の成分の添加量の調整、各成分の配合比の調整、増粘剤の添加等によって行うことができる。
【0047】
(銀微粒子組成物の製造方法)
上記銀微粒子を製造する方法としては、例えば、表面にアミンが付着した銀微粒子を調製した後、得られた銀微粒子をジオールと捏和し、ジオール中に分散させる方法が挙げられる。
【0048】
表面にアミンが付着した銀微粒子を調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、銀微粒子を含む分散液を調製し、次いで、その分散液の洗浄を行う方法等が挙げられる。
銀微粒子を含む分散液を調製する工程としては、例えば、下記のように、溶媒中に溶解させた銀塩(又は銀イオン)を還元させればよく、還元手順としては、化学還元法に基づく手順を採用すればよい。また、金属アミン錯体分解法を用いることもできる。
【0049】
具体的には、例えば、銀微粒子を構成する銀塩と、炭素数4~8のアミンと、必要に応じて配合する上記高分子分散剤と、分散溶媒(有機溶媒)と、を含む原料液を還元することにより調製することができる。なお、原料液は、成分の一部が溶解せず分散していてもよい。また、原料液には、水が含まれていてもよい。
この還元によって、アミンが表面の一部に付着した銀微粒子が得られる。
【0050】
表面の一部にアミンが付着した銀微粒子を得るための出発材料としては、種々の公知の銀塩又はその水和物を用いることができる。上記出発材料としては、例えば、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、シュウ酸銀、ギ酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀等の銀塩を挙げることができるが、適当な分散媒中に溶解可能で、かつ還元可能なものであれば特に限定されない。また、これらは単独で用いても複数併用してもよい。
【0051】
上記原料液においてこれらの銀塩を還元する方法は特に限定されず、例えば、還元剤を用いる方法、紫外線等の光、電子線、超音波又は熱エネルギーを照射する方法等が挙げられる。これらのなかでは、操作が容易な観点から、還元剤を用いる方法が好ましい。
【0052】
上記還元剤としては、例えば、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニドン、ヒドラジン等のアミン化合物;例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヨウ素化水素、水素ガス等の水素化合物;例えば、一酸化炭素、亜硫酸等の酸化物;例えば、硫酸第一鉄、酸化鉄、フマル酸鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、硫化鉄、酢酸スズ、塩化スズ、二リン酸スズ、シュウ酸スズ、酸化スズ、硫酸スズ等の低原子価金属塩;例えば、エチレングリコール、グリセリン、ホルムアルデヒド、ハイドロキノン、ピロガロール、タンニン、タンニン酸、サリチル酸、D-グルコース等の糖等が挙げられるが、分散媒に溶解し上記銀塩を還元し得るものであれば特に限定されない。上記還元剤を使用する場合は、光及び/又は熱を加えて還元反応を促進させてもよい。
【0053】
上記銀塩、上記アミン、分散溶媒及び上記還元剤を用いて、表面にアミンが付着した銀微粒子を調製する具体的な方法としては、例えば、上記銀塩を有機溶媒(例えばトルエン等)に溶かして銀塩溶液を調製し、当該銀塩溶液に上記アミンを添加し、ついで、ここに上記還元剤が溶解した溶液を徐々に滴下する方法等が挙げられる。
【0054】
上記のようにして得られた、表面にアミンが付着した銀微粒子を含む分散液には、銀微粒子の他に、銀塩の対イオン、還元剤の残留物や銀微粒子に付着していないアミンが存在しており、液全体の電解質濃度や有機物濃度が高い傾向にある。このような状態の液は、電導度が高いので、銀微粒子の凝析が起こり、沈殿し易い。そこで、上記銀微粒子を含む溶液を洗浄して余分な残留物を取り除くことが好ましい。
【0055】
上記洗浄方法としては、例えば、表面にアミンが付着した銀微粒子を含む分散液を一定時間静置し、生じた上澄み液を取り除いた上で、アルコール(メタノール等)を加えて再度撹枠し、更に一定期間静置して生じた上澄み液を取り除く工程を幾度か繰り返す方法、上記の静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外濾過装置やイオン交換装置等により脱塩する方法等が挙げられる。このような洗浄によって余分な残留物を取り除くと共に有機溶媒を除去することにより、上記銀微粒子組成物に適した、表面にアミンが付着した銀微粒子を得ることができる。
【0056】
表面にアミンが付着した銀微粒子は、金属アミン錯体分解法を用いて製造することもできる。
上記金属アミン錯体分解法を用いる場合は、例えば、極性基を有するアミンと、銀原子を含む銀化合物を混合して、当該銀化合物とアミンとを含む錯化合物を生成する第1工程と、当該錯化合物を加熱することで分解して銀微粒子を生成する第2工程と、により銀微粒子を製造すればよい。
【0057】
例えば、銀を含むシュウ酸銀等の金属化合物とアミンから生成される錯化合物をアミンの存在下で加熱して、当該錯化合物に含まれるシュウ酸イオン等の金属化合物を分解して生成する原子状の銀を凝集させることにより、アミンが表面に付着した銀微粒子を製造することができる。
【0058】
上記の金属アミン錯体分解法で銀微粒子を製造した場合には、製造される銀微粒子の表面に多数のアミン分子が比較的弱い力の配位結合を生じており、これらが銀微粒子の表面に緻密な保護被膜を形成するため、保存安定性に優れる表面の清浄な銀微粒子を製造することが可能となる。
また、当該被膜を形成するアミン分子は加熱等により容易に脱離可能であるため、得られた銀微粒子は非常に低温で焼結可能な銀微粒子となる。
【0059】
上記銀微粒子組成物は、上述した方法で得た、表面にアミンが付着した銀微粒子と、ジオールと、を捏和することにより得ることができる。
このようなアミンが付着した銀微粒子とジオールとの捏和方法は特に限定されるものではなく、攪拌機やスターラー等を用いて従来公知の方法によって行うことができる。スパチュラのようなもので撹拌したりして、適当な出力の超音波ホモジナイザーを当ててもよい。
【0060】
本発明の実施形態に係る銀微粒子組成物は、所定の粒子径分布を有している。
上記銀微粒子の粒子径分布は、例えば、原材料の配合比率を変えることによって調整することができる。
また、金属アミン錯体分解法で銀微粒子を製造する場合は、例えば、上記第2工程における加熱条件によって、銀微粒子の粒子径分布を調整することができる。上記銀微粒子が有する所定の粒子径分布を達成するためには、例えば、上記第2工程における昇温速度を3℃/分以上20℃/分以下の範囲内で調整する方法が採用できる。
上記昇温速度が20℃/分より速いと、銀微粒子の粒度分布が狭くなる傾向にある。また、上記昇温速度が3℃/分よりも遅いと、銀微粒子の平均粒子径が大きくなる傾向にある。
【0061】
このとき、加熱手段としては特に限定されず、恒温槽、オイルバス、各種ヒーター、マイクロ波、ホットプレート等が挙げられる。また、銀微粒子の複雑な粒子径分布を再現するためには、反応液の温度を実測しながら加熱条件を制御することができることが好ましい。更に、銀微粒子を安定して生産するためには、温度プログラムを設定できる加熱手段が好ましい。
【0062】
また、原材料の配合比率や、金属アミン錯体分解法の第2工程における加熱条件を変えて、異なる条件で別々に調製した銀微粒子を準備し、これらの銀微粒子を混合することによって、所定の粒子径分布を有する銀微粒子を製造することもできる。
【0063】
(銀微粒子組成物の使用方法)
上記銀微粒子組成物は、接合用組成物として用いることができる。
例えば、2つの被接合部材(第1の被接合部材と第2の被接合部材)を接合する場合には、
(1)上記接合用組成物(銀微粒子組成物)を第1の被接合部材と第2の被接合部材との間に塗布する塗布工程と、
(2)第1の被接合部材と第2の被接合部材との間に塗布した接合用組成物を、所望の温度(例えば、200℃以下、好ましくは150℃程度)で焼成する焼成工程と、
により、第1の被接合部材と第2の被接合部材とを接合することができる。
【0064】
この焼成工程の際には、第1の被接合部材と第2の被接合部材とが対向する方向に加圧することもできるが、特に加圧しなくとも十分な接合強度を得ることができるのも本発明の実施形態に係る銀微粒子組成物の利点のひとつである。また、焼成を行う際、段階的に温度を上げたり下げたりすることもできる。また、予め被接合部材表面に界面活性剤又は表面活性化剤等を塗布しておくことも可能である。
【0065】
上記塗布工程における「塗布」とは、接合用組成物を面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念である。塗布されて、加熱により焼成される前の状態の接合用組成物からなる塗膜の形状は、所望の形状にすることが可能である。
従って、焼成工程を経て形成される接合層には、面状の接合層や線状の接合層が含まれる。
【0066】
上記接合用組成物を用いて接合することのできる第1の被接合部材及び第2の被接合部材としては、接合用組成物を塗布して加熱により焼成して接合することのできるものであればよく、特に制限はないが、接合時の温度により損傷しない程度の耐熱性を具備した部材であるのが好ましい。
【0067】
このような被接合部材を構成する材料としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ビニル樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー、セラミックス、ガラス又は金属等を挙げることができる。
【0068】
上記被接合部材の形状は特に限定されず、例えば、板状、ストリップ状等の種々の形状が挙げられる。また、上記被接合部材は、リジッドでもフレキシブルでもよい。更に、被接合部材の寸法も適宜選択することができる。
上記被接合部材は、接合用組成物との接着性若しくは密着性の向上等の目的ために、プライマー層等の表面層が形成されたり、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理等の表面処理が施されたりしてもよい。
【0069】
上記第1の被接合部材及び上記第2の被接合部材としては、樹脂基板、金属板、LED等の発光素子、半導体チップ、電子回路が形成されたセラミック基板等が挙げられる。上記接合用組成物を用いて形成された接合層(焼結層)は、接合強度が高いため、LED等の発光素子、半導体チップ等と、金属基板、セラミック基板等との接合にも好適に用いることができる。
【0070】
接合用組成物を上記第1の被接合部材及び/又は上記第2の被接合部材に塗布する工程では、種々の方法を用いることができ、例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー式、バーコート式、スピンコート式、インクジェット式、ディスペンサー式、ピントランスファー法、スタンピング法、刷毛による塗布方式、流延式、フレキソ式、グラビア式、オフセット法、転写法、親疎水パターン法、シリンジ式、ピン転写、ステンシル印刷等を用いることができる。なかでも、上記接合用組成物は、固形分濃度が高いため、ディスペンサー式、ピン転写、ステンシル印刷に好適に用いることができる。
【0071】
上記焼成を行う方法は特に限定されるものではなく、例えば従来公知のオーブン等を用いて、被接合部材上に塗布または描画した上記接合用組成物の温度が、例えば200℃以下となる温度で加熱すればよい。上記加熱の温度の下限は必ずしも限定されず、被接合部材同士を接合できる温度であって、かつ、本発明の効果を損なわない範囲の温度であることが好ましい。
上記焼成工程を経て形成された焼結層は、なるべく高い接合強度を得るという点で、アミンやジオール等に由来する有機物の残存量は少ないほうがよいが、有機物の一部が残存していても構わない。
【0072】
上記接合用組成物によれば、例えば200℃以下の低温加熱による焼成でも十分な強度を有する焼結層(接合層)を形成することができるため、比較的熱に弱い被接合部材同士を接合することができる。また、焼成時間は特に限定されるものではなく、被接合部材同士を接合できる焼成時間であればよい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例によって本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明の実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
<銀微粒子(A)の製造>
3-メトキシプロピルアミン(東京化成工業製)35.0gと3-エトキシプロピルアミン(東京化成工業製)40.0gとデカノール(富士フイルム和光純薬製)33.0gとの混合溶液に、撹拌を行いながらシュウ酸銀(東洋化学工業製)30.0gを加え、粘性物質を得た。
次に、得られた粘性物質を12分かけて100℃まで昇温し、反応させた。
その後、反応液にメタノール(富士フイルム和光純薬製)150mlを加えて撹拌後、遠心分離によって銀微粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返し、表面にアミンが吸着した銀微粒子(A)を得た。
銀微粒子(A)5.0gに、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(富士フイルム和光純薬製)0.3gを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0075】
(実施例2)
<銀微粒子(B)の製造>
粘性物質の加熱を8分かけて100℃まで昇温としたこと以外は実施例1における銀微粒子(A)の製造と同様にして、銀微粒子(B)を得た。
銀微粒子(B)5.0gに、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール0.3gを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0076】
(実施例3)
<銀微粒子(C)の製造>
デカノールを30.0gとし、粘性物質の加熱を10分かけて100℃まで昇温としたこと以外は実施例1における銀微粒子(A)の製造と同様にして、銀微粒子(C)を得た。
銀微粒子(C)5.0gに、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール0.3gを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0077】
(実施例4)
<銀微粒子(D)の製造>
デカノールを35.0gとし、粘性物質の加熱を9分かけて100℃まで昇温としたこと以外は実施例1における銀微粒子(A)の製造と同様にして、銀微粒子(D)を得た。
銀微粒子(D)5.0gに、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール0.3gを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0078】
(実施例5)
2-エチル-1,3-ヘキサンジオールの代わりに2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール(富士フイルム和光純薬製)0.35gを加えたこと以外は実施例1と同様にして銀微粒子組成物を得た。
【0079】
(実施例6)
<銀微粒子(E)の製造>
3-エトキシプロピルアミン10.0gと2-(2-アミノエトキシ)エタノール(富士フイルム和光純薬製)20.0gとの混合溶液に、撹拌を行いながらシュウ酸銀10.0gを添加し、粘性物質を得た。
次に、得られた粘性物質を4分かけて100℃まで昇温し、反応させた。
その後、反応液にメタノール30mlを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返し、表面にアミンが吸着した銀微粒子(E)を得た。
【0080】
<銀微粒子(F)の製造>
3-メトキシプロピルアミン2.0gに、撹拌を行いながらシュウ酸銀3.0gを添加し、粘性物質を得た。
次に、得られた粘性物質を1.5分かけて100℃まで昇温し、反応させた。
その後、反応液にメタノール10mlを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返し、表面にアミンが吸着した銀微粒子(F)を得た。
銀微粒子(E)3.0g及び銀微粒子(F)2.0gに、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール0.4gと、1,2-オクタンジオール(富士フイルム和光純薬製)0.13gと、ソルスパース21000(ルーブリゾール製)0.02gとを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0081】
(実施例7)
<銀微粒子(G)の製造>
デカノールを40.0gとした以外は、実施例4における銀微粒子(D)の製造と同様にして、銀微粒子(G)を得た。
銀微粒子(G)5.0gに、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール0.2gと1,2-オクタンジオール0.1gとを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0082】
(比較例1)
実施例1の銀微粒子(A)2.5g、及び実施例6の銀微粒子(E)2.5gに、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール0.2gを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0083】
(比較例2)
<銀微粒子(H)の製造>
3-メトキシプロピルアミン9.0gとジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(富士フイルム和光純薬製)90.0gの混合溶液に、撹拌を行いながらシュウ酸銀30.0gを加え、粘性物質を得た。
次に、得られた粘性物質を10分かけて140℃まで昇温し、反応させた。
その後、3-メトキシプロピルアミン9.0gを加えて反応液を冷まし、3-エトキシプロピルアミン8.0gを加えた。
更に、反応液にメタノール100mlを加えて撹拌後、遠心分離によって銀微粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返し、表面にアミンが吸着した銀微粒子(H)を得た。
銀微粒子(H)5.0gに、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール0.56gを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0084】
(比較例3)
<銀微粒子(I)の製造>
3-メトキシプロピルアミン4.5gとジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート90.0gの混合溶液に、撹拌を行いながらシュウ酸銀30.0gを加え、粘性物質を得た。
次に、得られた粘性物質を10分かけて140℃まで昇温し、反応させた。
その後、3-メトキシプロピルアミン9.0gを加えて反応液を冷ました。
更に、反応液にメタノール100mlを加えて撹拌後、遠心分離によって銀微粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返し、表面にアミンが吸着した銀微粒子(I)を得た。
銀微粒子(I)5.0gに、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール0.56gを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0085】
(比較例4)
<銀微粒子(J)の製造>
3-メトキシプロピルアミン7.0gと、ドデシルアミン(富士フイルム和光純薬製)0.5gの混合溶液に、撹拌を行いながらシュウ酸銀6.0gを加え、粘性物質を得た。
次に、得られた粘性物質を3分かけて100℃まで昇温し、反応させた。
その後、反応液にメタノール20mlを加えて撹拌後、遠心分離によって銀微粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返し、表面にアミンが吸着した銀微粒子(J)を得た。
銀微粒子(J)6.0gに、イソトリデカノール1.2gと、ソルスパース21000(ルーブリゾール製)0.03gとを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0086】
(比較例5)
<銀微粒子(K)の製造>
3-エトキシプロピルアミン5.0gと3-メトキシプロピルアミン11.0gとの混合溶液に、撹拌を行いながらシュウ酸銀10.0gを加え、粘性物質を得た。
次に、得られた粘性物質を120℃の恒温槽で反応させた。
その後、反応液にメタノール30mlを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返し、表面にアミンが吸着した銀微粒子(K)を得た。
銀微粒子(K)4g、及び実施例6の銀微粒子(E)4gに、1-デカノール0.32gと、ソルスパース16000(ルーブリゾール製)0.06gとを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0087】
(比較例6)
<銀微粒子(L)の製造>
3-メトキシプロピルアミン3.0gに、撹拌を行いながらシュウ酸銀3.0gを加え、粘性物質を得た。
次に、得られた粘性物質を1.5分かけて100℃まで昇温し、反応させた。
その後、反応液にメタノール10mlを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返し、表面にアミンが吸着した銀微粒子(L)を得た。
【0088】
<銀微粒子(M)の製造>
2-(2-アミノエトキシ)エタノール6.0gに、撹拌を行いながらシュウ酸銀3.0gを加え、粘性物質を得た。
次に、得られた粘性物質を15分かけて100℃まで昇温し、反応させた。
その後、反応液にメタノール10mlを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返し、表面にアミンが吸着した銀微粒子(M)を得た。
銀微粒子(L)0.5g、及び銀微粒子(M)1.5gに、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール0.15gと、1,2-オクタンジオール0.06gと、ソルスパース21000(ルーブリゾール製)0.01gとを加えてよく捏和し、銀微粒子組成物を得た。
【0089】
[評価試験]
(1)粒径測定
上記のようにして得た銀微粒子組成物を走査型電子線顕微鏡(日立製 S-4800型)を用いて5万倍の倍率で銀微粒子を観察、撮影した画像に含まれる微粒子について、無作為に300点の粒子を抽出し、画像解析ソフト(MITANI CORPORATION製 WinROOF)で粒子径を測定し、数平均粒子径を算出した。
図1,3、5、7,9、11、13,15、17、19、21、及び23は、撮影した画像の一部である。
【0090】
銀微粒子の体積は、顕微鏡写真から算出した各粒子の粒子径に基づいて、各粒子が真球であると仮定して算出した。その結果に基づいて、体積比率を求めた。
結果は、
図2,4、6、8,10、12、14,16、18、20、22、及び24に示した。
【0091】
なお、結果を示した各図において、縦軸は体積比率の頻度(%)を表し、横軸は粒径(nm)を表す。また、横軸の各棒グラフにおける粒径の意義について、例えば、棒グラフが100nmである場合、「100nm」は、100nmより大きく200nm以下の粒径範囲を示し、棒グラフの高さは、その範囲にある粒子の合計の体積比率を示している。但し、「500nm」は500nmより大きい全ての粒子の合計の体積比率を示している。
【0092】
(2)熱分析
上記のようにして得た銀微粒子組成物に含まれる有機成分(銀微粒子以外の成分)の含有量を、熱重量分析法で測定した。具体的には、銀微粒子組成物を熱重量測定装置(リガク製TG-DTA8122)を用いて、大気雰囲気下、10℃/分の昇温速度で加熱し、30~500℃の重量減少率として有機成分の含有量(重量%)を特定した。100(重量%)から有機成分の含有量(重量%)を差し引いた値を銀微粒子の含有量(重量%)として表1、2に示した。
【0093】
(3)空隙率、及び接合強度の測定
上記のようにして得た銀微粒子組成物を表面に銀めっきを施した銅板(20mm×25mm×t1mm)にメタルマスク版を用いた手刷り印刷によって少量塗布し、その上にダミー炭化ケイ素チップ(底面積3mm×3mm×t0.2mm、表面膜構成Au200nm/Ni200nm/Ti200nm)を積層した。その際、部材を密着させるために30gf程度の外力を加えたが、必要以上に加圧することはしなかった。
その後、積層体を送風定温乾燥器(アドバンテック製FV-630)に入れ、大気雰囲気下で70℃40分に続いて200℃60分の焼成処理を施した。送風定温乾燥器が150℃以下になるまで放置した後、積層体を取り出し、超音波探傷装置(KJTD製)を用いて空隙率(%)を測定した。
その後、ボンドテスター(レスカ製)を用いて接合強度試験を行った。接合強度試験時には100kgfのロードセルを用いた。ダミーチップ剥離時の接合強度をチップの底面積で除した値を用いた。なお、接合強度の単位はMPaである。
結果は、表1、2に示した。
【0094】
更に、上述した方法で作製した接合サンプルについて、実施例1と比較例2、4の接合サンプルをチップの対角線で切断し、その断面を走査型電子線顕微鏡で観察した。
結果を
図25~27に示した。
図25~27に示した通り、100nm以下の微粒子が大半を占める比較例4(
図27)では比較的小さな空孔が多く、100nmより大きく200nm以下の微粒子が多い比較例2(
図26)では比較的大きな空孔が多数発生していた。
一方、実施例1(
図25)では焼結銀組織が密になっている様子が観察され、実施例1では部材を強固に接合する焼結銀組織が得られた。このことは、接合サンプルの超音波探傷装置で確認される空隙率が低く抑えられ、接合サンプルが高い接合強度が発現していることからも明らかであった。
なお、
図27では、Aの領域が焼結銀層であり、焼結銀層の上側がチップ、下側が銅板である。
【0095】
【0096】
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の実施形態に係る銀微粒子組成物は、例えば、電子材料等を接合する接合用組成物として好適に使用することができる。
【要約】
銀微粒子とアミンとジオールとを含む銀微粒子組成物であって、前記銀微粒子の平均粒子径は、40nm以上100nm以下であり、前記銀微粒子全体に占める粒子径100nm以下の銀微粒子の体積比率は、5%以上25%以下であり、前記銀微粒子全体に占める粒子径500nm超えの銀微粒子の体積比率は、10%以上60%以下である、銀微粒子組成物。