(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】メンテナンスシステムおよびメンテナンスシステムにおけるメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
H05K 13/04 20060101AFI20231013BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
H05K13/04 Z
G05B19/418 Z
(21)【出願番号】P 2018095227
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 道明
【審査官】大塚 多佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-117013(JP,A)
【文献】特許第5690117(JP,B2)
【文献】特許第5840103(JP,B2)
【文献】特開2010-350384(JP,A)
【文献】特開2005-157793(JP,A)
【文献】特開2010-250384(JP,A)
【文献】特開平07-007262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 13/00 - 13/08
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品実装用設備が配置された部品実装システムにおいてメンテナンス対象に対するメンテナンスの管理を行うメンテナンスシステムであって、
前記メンテナンス対象に対して過去のメンテナンスが実施された時期と前記過去のメンテナンスが実施された時期の前後における前記メンテナンス対象の状態を示す指標値を記憶する履歴記憶部と、
前記履歴記憶部に記憶された前記過去のメンテナンスの時期と前記過去のメンテナンスの時期の前後における前記指標値を基に前記メンテナンス対象に必要なメンテナンスの内容を決定するメンテナンス決定部と、
を備え、
前記メンテナンス決定部は、直近のメンテナンス前における前記指標値の推移を示す指標線の傾きを求め、求められた傾きに基づいて次回のメンテナンス実行時期を決定
し、
前記メンテナンス決定部は、求められた前記指標線の傾きでメンテナンス後の前記指標線を延長し、延長された前記指標線が所定の前記指標値と交差する時期を特定することにより、次回のメンテナンス時期を決定し、
前記メンテナンス後の前記指標線は、メンテナンスが実行されてメンテナンス後指標値まで回復した後の指標線を、直近のメンテナンス前における前記指標値の推移を示す指標線の傾きと同一の傾きで延長したものである、メンテナンスシステム。
【請求項2】
前記メンテナンス対象の状態を示す指標値は、前記メンテナンス対象の出荷時の指標値を基準とする、請求項
1に記載のメンテナンスシステム。
【請求項3】
前記メンテナンス決定部は、前記メンテナンス対象の状態が所定の閾値を良判定方向に超える前記指標値を維持するように、前記メンテナンス対象に必要なメンテナンスの内容を決定する、請求項1
または2に記載のメンテナンスシステム。
【請求項4】
前記必要なメンテナンスの内容は、メンテナンスの度合いを含む、請求項1から
3のいずれかに記載のメンテナンスシステム。
【請求項5】
前記必要なメンテナンスの内容は、前記メンテナンス対象の交換を含む、請求項1から
3のいずれかに記載のメンテナンスシステム。
【請求項6】
前記必要なメンテナンスの内容は、最後にメンテナンスを実施してから次にメンテナンスを実施するまでの期間を含む、請求項1から
5のいずれかに記載のメンテナンスシステム。
【請求項7】
前記メンテナンス決定部は、前記出荷時の前記指標値に対するメンテナンスの後の前記指標値の割合を
、メンテナンスの実行によってメンテナンス対象の機能がどのように改善したかを示す復旧率に基づき、前記必要なメンテナンスの内容を決定する、請求項
2に記載のメンテナンスシステム。
【請求項8】
前記指標値の経時的な変化を視覚的に表示する表示部を備えた、請求項1から
7のいずれかに記載のメンテナンスシステム。
【請求項9】
部品実装用設備が配置された部品実装システムにおいてメンテナンス対象に対するメンテナンスの管理を行うメンテナンスシステムにおけるメンテナンス方法であって、
前記メンテナンス対象に対して過去のメンテナンスが実施された時期と前記過去のメンテナンスが実施された時期の前後における前記メンテナンス対象の状態を示す指標値を履歴記憶部に記憶し、
メンテナンス決定部によって前記履歴記憶部に記憶された前記過去のメンテナンスの時期と前記過去のメンテナンスの時期の前後における前記指標値を基に前記メンテナンス対象に必要なメンテナンスの内容を決定し、
前記メンテナンス決定部は、直近のメンテナンス前における前記指標値の推移を示す指標線の傾きを求め、求められた傾きに基づいて次回のメンテナンス実行時期を決定
し、
前記メンテナンス決定部は、求められた前記指標線の傾きでメンテナンス後の前記指標線を延長し、延長された前記指標線が所定の前記指標値と交差する時期を特定することにより、次回のメンテナンス時期を決定し、
前記メンテナンス後の前記指標線は、メンテナンスが実行されてメンテナンス後指標値まで回復した後の指標線を、直近のメンテナンス前における前記指標値の推移を示す指標線の傾きと同一の傾きで延長したものである、メンテナンスシステムにおけるメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品実装用設備が配置された部品実装システムにおいてメンテナンスの管理を行うメンテナンスシステムおよびメンテナンスシステムにおけるメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に部品を実装して実装基板を製造する部品実装システムには、部品実装装置などの複数の部品実装設備が配置されている。これらの部品実装設備では、部品を吸着して保持するノズルなど、清掃などのメンテナンスや交換を要する消耗部品が用いられている。これらの部品を対象とするメンテナンスは日常的に必須作業として行う必要があることから、従来よりこのようなメンテナンス作業を効率的に実行するための各種の改善や対処策が提案されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献例に示す先行技術では、ノズル着脱治具に保持されたノズルを対象として、エアブローや超音波洗浄などを用いた清掃を行う例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上述の特許文献例に示す先行技術を含め、従来技術にはメンテナンス作業の管理において以下のような不都合があった。まず、従来技術では最後にメンテナンスを実行してから次にメンテナンスを実行すべき期間は、メンテナンス対象の状態にかかわらず予め経験や実績などに基づいて設定された固定期間が適用されていた。このため、メンテナンス対象が経時劣化などにより効果的なメンテナンスが不可能な状態になったような場合には、メンテナンス後に行われる確認計測において閾値越えとなって使用不可の判定がなされ、設備のエラー停止を多発することとなっていた。
【0005】
また従来よりメンテナンスの実行に際してはメンテナンス後の確認計測によって得られた結果に基づき、メンテナンス対象がどの程度復旧したかを示す復旧率を求めることが行われている。このような復旧率を求めることにより、メンテナンスの有効性を判断することができ、当該対象についてのメンテナンス実行の指針となる。この復旧率は出荷状態を基準としており、メンテナンス後の状態を示す指標値を出荷時の状態における指標値と比較することにより復旧率を算出していた。
【0006】
このようにして求められた復旧率は、メンテナンス後の時点におけるメンテナンス対象の状態が良好であるか否かの判定には用いることが可能であるものの、必ずしも実行されたメンテナンス作業そのものについての有効性の判断には結びつかなかった。すなわちメンテナンスの直前にメンテナンス対象の状態がある程度良好であれば、施したメンテナンス作業による効果がほとんどない場合あっても復旧率は良好な状態に応じた値となり、メンテナンス有効性についての適正な指針とはいい難いものであった。このように、従来技術のメンテナンスの管理においては、メンテナンスの期間の設定や復旧率の運用などが必ずしも合理的で適正ではなく、結果として品質の低下や生産性の低下を招く結果となっていた。
【0007】
そこで本発明は、適正なメンテナンスを行って製品の品質および生産性を確保することができるメンテナンスシステムおよびメンテナンスシステムにおけるメンテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のメンテナンスシステムは、部品実装用設備が配置された部品実装システムにおいてメンテナンス対象に対するメンテナンスの管理を行うメンテナンスシステムであって、前記メンテナンス対象に対して過去のメンテナンスが実施された時期と前記過去のメンテナンスが実施された時期の前後における前記メンテナンス対象の状態を示す指標値を記憶する履歴記憶部と、前記履歴記憶部に記憶された前記過去のメンテナンスの時期と前記過去のメンテナンスの時期の前後における前記指標値を基に前記メンテナンス対象に必要なメンテナンスの内容を決定するメンテナンス決定部と、を備え、前記メンテナンス決定部は、直近のメンテナンス前における前記指標値の推移を示す指標線の傾きを求め、求められた傾きに基づいて次回のメンテナンス実行時期を決定し、前記メンテナンス決定部は、求められた前記指標線の傾きでメンテナンス後の前記指標線を延長し、延長された前記指標線が所定の前記指標値と交差する時期を特定することにより、次回のメンテナンス時期を決定し、前記メンテナンス後の前記指標線は、メンテナンスが実行されてメンテナンス後指標値まで回復した後の指標線を、直近のメンテナンス前における前記指標値の推移を示す指標線の傾きと同一の傾きで延長したものである。
本発明のメンテナンスシステムにおけるメンテナンス方法は、部品実装用設備が配置された部品実装システムにおいてメンテナンス対象に対するメンテナンスの管理を行うメンテナンスシステムにおけるメンテナンス方法であって、前記メンテナンス対象に対して過去のメンテナンスが実施された時期と前記過去のメンテナンスが実施された時期の前後における前記メンテナンス対象の状態を示す指標値を履歴記憶部に記憶し、メンテナンス決定部によって前記履歴記憶部に記憶された前記過去のメンテナンスの時期と前記過去のメンテナンスの時期の前後における前記指標値を基に前記メンテナンス対象に必要なメンテナンスの内容を決定し、前記メンテナンス決定部は、直近のメンテナンス前における前記指標値の推移を示す指標線の傾きを求め、求められた傾きに基づいて次回のメンテナンス実行時期を決定し、前記メンテナンス決定部は、求められた前記指標線の傾きでメンテナンス後の前記指標線を延長し、延長された前記指標線が所定の前記指標値と交差する時期を特定することにより、次回のメンテナンス時期を決定し、前記メンテナンス後の前記指標線は、メンテナンスが実行されてメンテナンス後指標値まで回復した後の指標線を、直近のメンテナンス前における前記指標値の推移を示す指標線の傾きと同一の傾きで延長したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、適正なメンテナンスを行って製品の品質および生産性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態の部品実装システムの構成説明図
【
図2】本発明の一実施の形態の部品実装システムに配置された部品実装装置の部分断面図
【
図3】本発明の一実施の形態のメンテナンスシステムの構成を示すブロック図
【
図4】本発明の一実施の形態のメンテナンスシステムにおけるメンテナンス対象の説明図
【
図5】本発明の一実施の形態のメンテナンスシステムにおけるメンテナンス実行時期設定処理を示すフロー図
【
図6】本発明の一実施の形態のメンテナンスシステムにおける指標値の推移を示す指標線グラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。まず
図1を参照して、本実施の形態のメンテナンスシステムの適用対象となる部品実装システム1の構成について説明する。部品実装システム1は基板に部品を実装して実装基板を生産する機能を有している。本実施の形態では、複数(ここではラインML1~ML3)の部品実装ライン4を通信ネットワーク2を介して管理装置3に接続した構成となっている。各部品実装ライン4における各設備の稼働やメンテナンスなど作業は、管理装置3によって管理される。
【0012】
管理装置3には、実装管理部3a、メンテナンス管理部3b、表示部3cが付随して設けられている。実装管理部3aは部品実装ライン4に属する各設備によって実行される部品実装作業に必要なデータを各設備に送信し、各設備による処理結果は実装管理部3aに送信される。メンテナンス管理部3bは、部品実装システム1に配置された各部品実装用設備のメンテナンス対象に対して実行されるメンテナンス作業についての管理を行う。すなわちメンテナンス管理部3bは、部品実装システム1においてメンテナンス対象に対するメンテナンスの管理を行うメンテナンスシステムとして機能する。
【0013】
表示部3cは、実装管理部3a、メンテナンス管理部3bによる管理に必要な各種の報知画面や入力画面を表示する。この画面には、メンテナンス対象物の指標値の経時的な変化を視覚的に表示する指標線グラフ(
図6参照)が含まれる。
【0014】
それぞれの部品実装ライン4には複数の部品実装用設備、すなわち基板供給装置M1、基板受渡装置M2、半田印刷装置M3、部品実装装置M4、M5、リフロー装置M6および基板回収装置M7が直列に連結して配置されている。基板供給装置M1によって供給された基板13(
図2参照)は基板受渡装置M2を介して半田印刷装置M3に搬入され、ここで基板13に部品接合用の半田をスクリーン印刷する半田印刷作業が行われる。
【0015】
半田印刷後の基板13は部品実装装置M4、M5に順次受け渡され、ここで半田印刷後の基板13に対して電子部品を実装する部品実装作業が実行される。そして部品実装後の基板13はリフロー装置M6に搬入され、ここで所定の加熱プロファイルにしたがって加熱されることにより部品接合用の半田が溶融固化する。これにより電子部品が基板13に半田接合されて基板13に電子部品を実装した実装基板が完成し、基板回収装置M7に回収される。
【0016】
次に
図2を参照して、部品実装装置M4、M5の構成および機能を説明する。部品実装装置M4、M5の要部断面を示す
図2において、基台11上には基板搬送方向(X方向・・図において紙面垂直方向)に基板搬送機構12が配設されている。基板搬送機構12は基板13を搬送するコンベア12aを備えており、半田印刷装置M3から搬入された基板13を部品実装機構17による実装作業位置に位置決めして保持する。
【0017】
部品実装機構17は基板搬送機構12の両側(操作方向における手前側(1F)、背面側(1R))に配置されて、実装ヘッド19(ノズルヘッド)をヘッド移動機構18によってX方向、Y方向に水平移動する構成となっている。実装ヘッド19の下端部にはノズルホルダ19aが設けられており、ノズルホルダ19a装着されたノズル20によってテープフィーダ15から電子部品を取り出して基板13に移送搭載する。
【0018】
基板搬送機構12のY方向(X方向と直交する方向)の側方には、部品供給部14が配置されている。部品供給部14にはフィーダベース21aに設けられたフィーダ装着用の複数のスロット(図示省略)に予めテープフィーダ15が装着された状態の台車21がセットされる。台車21には、電子部品を保持したキャリアテープ23をそれぞれ巻回状態で収納するテープリール22が保持されている。テープリール22から引き出されたキャリアテープ23は、テープフィーダ15によってノズル20による部品取り出し位置までピッチ送りされる。
【0019】
部品供給部14と基板13との間には、部品認識カメラ16が配設されている。テープフィーダ15からノズル20によって電子部品を取り出した実装ヘッド19が部品認識カメラ16の上方を移動することにより、ノズル20に吸着保持された状態の電子部品が部品認識カメラ16によって撮像される。部品実装装置M4、M5はそれぞれ電源部24を備えており、電源部24は当該装置内の駆動部や制御装置に稼働用の電力を供給する。
【0020】
上述構成の部品実装装置M4、M5や、基板搬送機構のコンベア12a、部品実装機構17を構成する実装ヘッド19のノズルホルダ19a、ノズルホルダ19aに装着されるノズル20や、電源部24などは、それぞれ点検や清掃などのメンテナンス作業を定期的に実行するメンテナンス対象となる。本実施の形態に示す部品実装システム1では、上述のメンテナンス管理部3bの機能によって、これらのメンテナンス対象について実行されるべきメンテナンス作業の管理を効率的に実行するようにしている。
【0021】
そして部品実装ライン4を特定する符号(ML1、ML2、ML3)、部品実装装置M4、M5を特定する符号(M4、M5)、部品実装機構17を特定する(1F)や(1R)などの符号、ノズルヘッドである実装ヘッド19を特定する符号など、各部を特定する符号は、メンテナンス管理部3bによる管理実行の際に、上述のメンテナンス対象を特定するための識別符号として用いられる。
【0022】
次に
図3を参照して、管理装置3に付随して設けられたメンテナンス管理部3bの構成を説明する。
図3において、管理装置3に付随するメンテナンス管理部3bは、通信ネットワーク2を介して部品実装システム1と接続されている。これにより、メンテナンス管理部3bの各部と部品実装システム1の各設備との間で、各種信号やデータの送受信を行うことができるようになっている。
【0023】
なおここに示す構成では、メンテナンス管理部3bを管理装置3の有する処理機能の一部として構成した例を示しているが、部品実装システム1におけるメンテナンス管理部3bの所属および配置は任意である。例えば、メンテナンス管理部3bを管理装置3から独立した装置として構成してもよく、あるいは複数の部品実装ライン4のうちのいずれかの装置に、メンテナンス管理部3bと同等の機能を付与するようにしてもよい。
【0024】
メンテナンス管理部3bは、処理部31および記憶部32を備えている。処理部31は、記憶部32に記憶されたデータに基づいて、メンテナンス対象についての所定の処理を実行する。すなわち処理部31にはメ「ンテナンス内容」40を決定するメンテナンス決定部33およびメンテナンスの実行に必要な処理を行うメンテナンス実行処理部34が設けられている。また記憶部32はメンテナンス決定部33による「メンテナンス内容」40の決定に用いられる履歴データを記憶する履歴記憶部35および処理部31による処理結果を記憶するメンテナンス実行情報記憶部36を備えている。
【0025】
履歴記憶部35に記憶されたメンテナンスに関する履歴データについて説明する。履歴記憶部35は、「メンテナンス実行時期」46、「メンテナンス実行内容」47および「指標値データ」48を記憶する。「メンテナンス実行時期」46は、それぞれのメンテナンス対象に対して過去にメンテナンスが実施された時期を示すデータである。「メンテナンス実行内容」47は、それぞれのメンテナンス対象に対して実行されたメンテナンスの内容を示している。
【0026】
「指標値データ」48は、メンテナンス対象の状態を示す指標値に関するデータである。ここで指標値とは、メンテナンス対象である部品(例えばノズル)やユニット(例えばノズルホルダ)の機能状態を数値データで定量的に表す特性値である。例えば、ノズルの場合には、当該ノズルに規定状態で真空吸引させた場合の真空流量が指標値として用いられ、ノズルホルダの場合には保持したノズルを押圧する際の押し込み荷重が指標値として用いられる。
【0027】
ここでは、「指標値データ」48として、「出荷時指標値」48a、「メンテナンス時指標値」48bが記憶されている。「出荷時指標値」48aはメンテナンス対象の出荷時の初期値としての指標値であり、この出荷時の指標値がメンテナンス対象の状態を示す基準として用いられる。「メンテナンス時指標値」48bは、メンテナンス対象に対してメンテナンスを実行した後の状態を示す指標値である。この指標値においては、メンテナンス対象となる部品やユニットが正常に使用可能な状態を規定する閾値がメンテナンス対象ごとに設定されている。
【0028】
本実施の形態では、「出荷時指標値」48aに対する「メンテナンス時指標値」48bの割合を、メンテナンスの実行によってメンテナンス対象の機能がどのように改善したかを示す復旧率として定義している。本実施の形態においては、メンテナンス決定部33はこの復旧率の逐次変動に基づいて、実施されているメンテナンスの有効性を判断する。
【0029】
そしてこの判断に基づいて「メンテナンス対象」41についての「メンテナンス種類」42、「メンテナンス実行時期」43を決定する。このメンテナンス内容の決定において、メンテナンス決定部33は、メンテナンス対象の状態が、前述の閾値を良判定方向に超える指標値を維持するように、メンテナンス対象に必要なメンテナンスの内容を決定するようにしている(
図6に示す指標線グラフ参照)。
【0030】
換言すれば、メンテナンス決定部33は、履歴記憶部35に記憶された過去のメンテナンスの時期と過去のメンテナンスの時期の前後における指標値を基に、メンテナンス対象に必要な「メンテナンス内容」40を決定する。なおここで云うメンテナンスの時期の前における指標値とは、出荷時における指標値を意味している。
【0031】
上述の指標値の取得は、メンテナンス実行処理部34が指標値取得処理44を実行することにより行われる。すなわち対象となる設備が備えた計測機能によって、あるいはオペレータが持ち込んで外付けする専用の計測ユニットなどを用いて、所望の計測データを取得して指標値として取り込む。取り込まれた指標値は履歴記憶部35に「指標値データ」48として記憶される。そしてメンテナンスの実行の度に、メンテナンス実行処理部34によって復旧率算出処理45を実行することにより、当該メンテナンス対象の復旧率が算出される。算出された復旧率は、メンテナンス実行情報記憶部36に「復旧率算出データ」50として記憶される。
【0032】
ここで「メンテナンス内容」40の詳細について説明する。メンテナンス決定部33による「メンテナンス内容」40の決定においては、以下の「メンテナンス対象」41、「メンテナンス種類」42、「メンテナンス実行時期」43が決定の対象となる。ここで「メンテナンス対象」41は部品実装システム1においてメンテナンスの対象となる部品やユニットを特定するデータであり、
図4に示す項目によって特定される。メンテナンス決定部33によるメンテナンス内容の決定に際しては、「メンテナンス対象」41によって規定されるメンテナンス対象毎に、以下の項目が決定される。
【0033】
「メンテナンス種類」42は、実行されるメンテナンスの度合いを規定するデータである。すなわち
図4にて説明するように、比較的簡便な方法で実行される軽度メンテナンス、工具などを用いて軽度メンテナンスより入念に実行される重度メンテナンス、さらにはこのようなメンテナンスでは復旧が困難であると判断された場合に選択される新品との交換、の3つのメンテナンスの度合いが予め規定されている。メンテナンス決定部33によるメンテナンス内容の決定に際しては、「メンテナンス対象」41によって規定されるメンテナンス対象毎に、以下の項目が決定される。
【0034】
「メンテナンス実行時期」43は、「メンテナンス対象」41によって規定されるメンテナンス対象について、最後にメンテナンスを実施してから次にメンテナンスを実施するまで期間である。ここで期間としては、設備種類により稼動時間や使用回数などが適宜選択して用いられる。すなわち本実施の形態においてメンテナンス決定部33によって決定される必要なメンテナンスの内容には、メンテナンスの度合い、メンテナンス対象の交換、最後にメンテナンスを実施してから次にメンテナンスを実施するまで期間を含むものとなっている。このようにしてメンテナンス決定部33によって決定された「メンテナンス内容」40は、記憶部32のメンテナンス実行情報記憶部36に、「メンテナンス内容データ」49として記憶される。
【0035】
ここで「メンテナンス対象」41の例について、
図4を参照して説明する。なお、ここに示す例は部品実装システム1においてメンテナンス作業の対象となる部位の例示であり、部品実装ライン4を構成する各装置について本発明の適用対象となるメンテナンス対象が存在する。
【0036】
図4に示すように、「メンテナンス対象」41は、「ラインNO」41a、「ユニットID」41b、「設備ID」41c、「メンテナンス箇所」41d、「メンテナンス種類」42より構成される。「ラインNO」41aは、
図1に示す部品実装ライン4を特定する番号であり、「ラインNO」41aが指定されることにより、部品実装システム1においてメンテナンス対象となる部品実装ライン4が特定される。
【0037】
「ユニットID」41bは、メンテナンス作業の対象となる範囲を包括的に指定する項目である。ここでは、
図2に示す構成において実装ヘッド19を作業対象とする場合の包括範囲として「ノズルヘッド」1、「ノズルヘッド」2のような機構ユニット単位での包括範囲や、「装置」M5などのように、個別装置単位での包括範囲など、必要に応じて適宜設定された包括範囲が用いられる。
【0038】
「設備ID」41cは、メンテナンス対象を設備単位で特定するための識別符合であり、「ユニットID」41bとの関連で適宜設定される。ここでは、「ユニットID」41bとしての「ノズルヘッド」1、「ノズルヘッド」2において、これらが
図2に示す背面側(1R)に配置されていることを示しており、「M5」は、部品実装装置M5全体が包括されてメンテナンス作業対象となっていることを示している。
【0039】
「メンテナンス箇所」41dは、具体的にメンテナンス作業の実行対象となる箇所を示す。「メンテナンス種類」42は、「メンテナンス箇所」41dを対象として具体的に実行される作業の程度の区分を示している。すなわち、ここではメンテナンス対象について実行される作業を、その実行内容の程度に応じて、「軽度」(軽度メンテナンス)、「重度」(重度メンテナンス)および「交換」の3つに区分し、メンテナンス対象の状態に応じて3つの中から適正な区分のメンテナンス作業を実行させるようにしている。
【0040】
ここで「軽度メンテナンス」とは、当該対象部分を構成する部品の取り外しや分解を要することなく、エアブローやなどの簡単な作業により異物除去を行う軽清掃や、回転部・摺動部への給油など、長時間の設備停止を要することなく実行可能なメンテナンス作業を云う。また「重度メンテナンス」とは、例えば当該対象部分を分解して部品を取り外した後、超音波洗浄や研磨などによって異物除去を行う重清掃や、回転部・摺動部の摺り合わせなど、ある程度の作業時間の設備停止を要するメンテナンス作業を云う。そして「交換」とは、前述の重度メンテナンスを実行しても状態の改善が確認できない場合に提示される選択肢である。なお、「ユニットID」41b、「設備ID」41c、「軽度」、「重度」の定義は便宜的なものであり、メンテナンス作業の管理上の便宜に応じて適宜設定すればよい。
【0041】
次に
図5、
図6を参照して、メンテナンス実行時期設定処理について説明する。この処理は、メンテナンス決定部33が履歴記憶部35に記憶されたメンテナンスの履歴に基づいて実行される。本実施の形態においては、メンテナンス対象の指標値の推移を時系列で表示した指標線グラフ(
図6参照)上でメンテナンス実行時期を求めるようにしている。
【0042】
ここで、指標線グラフについて説明する。指標線グラフは部品実装システム1を構成する各設備において、個別のメンテナンス対象について所定のインターバルで計測を行って取得した計測値を、メンテナンス管理部3bのメンテナンス実行処理部34が取得することにより求められる。そして求められた計測値に基づいて作成された指標線グラフは、管理装置3が備えた表示部3cに表示される。これにより、オペレータはメンテナンス対象の状態の経時変化を視覚的に確認しながら、適正なメンテナンスの管理を行うことが可能となっている。
【0043】
図6(a)は、メンテナンス作業計画時の指標線グラフを示している。この指標線グラフでは、メンテナンス対象の稼動時間や回数を示す期間、回数を横軸に、対象となるメンテナンス対象についての指標値を縦軸に表している。なお、指標値の基準となる出荷時の指標値(初期値R0)を基準(100%)とすれば、
図6におけるメンテナンス後の指標値は、前述定義の復旧率に対応している。また
図6においては、計画時における項目については(括弧)を付して記載し、実際に実現されたものについては(括弧)を外して区別している。
【0044】
図6(a)に示す指標線グラフはメンテナンス作業計画時のものであり、理想的な仮想指標線(L1)、(L2)、(L3)が描かれている。ここでは、当初出荷時の状態に対応する初期値R0であった指標値が、設備稼動により時間の経過とともに低下して、予め設定されたインターバル(T0)が経過したタイミング(t1)にて閾値Rthとなるパターンが示されている。ここではタイミング(t1)にて所定のメンテナンスを実行することにより、指標値は初期値R0まで回復(復旧率100%)するという理想パターンとなっており、後続のタイミング(t2)、(t3)にて同様にメンテナンスを実行することにより、同様の理想パターンが反復実行されることを示している。
【0045】
本実施の形態に示すメンテナンス実行時期設定処理では、
図6(a)に示す理想パターンを実際の稼動状態を反映した現実のデータに則してモディファイすることにより、適正なメンテナンスの実行時期を求めるようにしている。
図6(b)は、
図6(a)に示す例と同様のメンテナンス対象において、初期値R0から同様の作業を継続して実行した状態における指標値の推移を示している。
【0046】
ここに示す例での実際の指標値の推移を示す指標線L1*では、予め計画されたインターバル(T0)よりも長いインターバルT1*が経過したタイミングt1*にて、指標値が閾値Rthとなっている。指標値が閾値Rthを下回ると設備稼動を継続することができないことから、このタイミングt1*にてメンテナンスが実行される。これにより、指標値が閾値Rthから上昇する。このとき、メンテナンスの効果によって指標値が初期値R0まで回復するとは限らず、復旧率が100%を下回るメンテナンス後指標値R1までしか到達しない場合が多い。このようなケースにおけるメンテナンス実行時期設定は、
図5に示すフローに沿って以下のようにして実行される。
【0047】
先ず、直近のメンテナンス前の指標線の傾きを求める(ST1)。すなわち
図6(b)に示す例において、実際の指標値の推移を示す指標線L1*の傾きを求める。次いで、求められた傾きで今回のメンテナンス後の指標線を延長する(ST2)。すなわちタイミングt1*にてメンテナンスが実行されて、指標値がメンテナンス後指標値R1まで回復した後の指標線を、指標線L1*の傾きと同一の傾きで延長する。
【0048】
そして延長された指標線(L2*)が所定の閾値Rthのレベルと交差する時期を特定する(ST3)。これにより、
図6(b)に示すように、メンテナンスが実行されたタイミングt1*からインターバル(T2)が経過したタイミング(t2)が特定される。そして特定された時期に基づき次回のメンテナンス実行時期を決定する(ST5)。すなわちタイミング(t2)を、次回のメンテナンス実行時期として決定し、決定されたメンテナンス実行時期をメンテナンス実行情報記憶部36に書き込む(ST6)。
【0049】
この後、指標値がメンテナンス後指標値R1まで回復した状態から作業が継続して実行される。そして実際の指標値の推移を示す指標線L2*が閾値Rthのレベルと交差するタイミングt2*にて、再度メンテナンスが実行される。このとき、タイミングt2*と予め予測されたタイミングt(2)とは必ずしも一致しないが、タイミングt(2)は実際の指標値の推移を示す指標線L1*の傾きに基づいて決定されているのでその差は小さく、予測精度に優れたメンテナンス計画が実現されている。なお上述の差が小さい場合には、予め予測されたタイミングt(2)にてメンテナンスを実行するようにしてもよい。
【0050】
そしてこの後においても、実際の指標値の推移に基づくインターバル実行時期の設定が反復して実行される。すなわち
図6(c)に示すように、実際の指標値の推移を示す指標線L2*の傾きを求める。次いで、求められた傾きで今回のメンテナンス後の指標線を延長する。すなわちタイミングt2*にてメンテナンスが実行されて、指標値がメンテナンス後指標値R2まで回復した後の指標線(L3*)を、指標線L2*の傾きと同一の傾きで延長する。
【0051】
そして延長された指標線(L3*)が所定の閾値Rthのレベルと交差する時期を特定する。すなわち、
図6(c)に示すように、メンテナンスが実行されたタイミングt2*からインターバル(T3)が経過したタイミング(t3)が特定される。そして特定された時期に基づき、同様に次回のメンテナンス実行時期を決定する。
【0052】
上述のメンテナンス実行時期設定処理に示すように、メンテナンス決定部33は、メンテナンス対象が所定の閾値である閾値Rthを良判定方向、すなわち初期値R0に近づく方向に超える指標値を維持するように、メンテナンス対象に必要なメンテナンスの内容を決定するようになっている。さらに本実施の形態においては、メンテナンスを実行する度に算出される復旧率の変動を加味してメンテナンスの管理を行うようにしている。
【0053】
すなわち各メンテナンスの都度、当該メンテナンスの実行によって指標値の改善の度合いが把握され、実行されたメンテナンスの有効性が評価される。そしてこの評価に基づき、実行すべきメンテナンスの適正なインターバルを設定するとともに、必要とされるメンテナンスの度合い、すなわち軽度メンテナンス、重度メンテナンス、部品やユニットの交換の要否の判断を適切に行うことが可能となっている。これにより、固定的に設定されたメンテナンスのインターバルを適用する従来技術と比較して、より適正なメンテナンスを行うことができる。
【0054】
上記説明したように、本実施の形態に示すメンテナンスシステムでは、メンテナンス対象に対して過去のメンテナンスが実施された時期と過去のメンテナンスが実施された時期の前後におけるメンテナンス対象の状態を示す指標値を記憶する履歴記憶部35と、履歴記憶部35に記憶された過去のメンテナンスの時期と過去のメンテナンスの時期の前後における指標値を基に、メンテナンス対象に必要なメンテナンスの内容を決定するメンテナンス決定部とを備える構成としている。そしてこのような構成により、適正なメンテナンスを行って製品の品質および生産性を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のメンテナンスシステムは、適正なメンテナンスを行って製品の品質および生産性を確保することができるという効果を有し、基板に部品を実装した実装基板を製造する分野において有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 部品実装システム
2 通信ネットワーク
4 部品実装ライン
M4、M5 部品実装装置
R0 初期値
R1,R2 メンテナンス後指標値
Rth 閾値
(L1)、(L2)、(L3)、L1*、L2*、L3* 指標線