(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】溶接機及びそれを備えた溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20231013BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20231013BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B23K9/095 501Z
B23K9/173 A
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021543639
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020026984
(87)【国際公開番号】W WO2021044731
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019161455
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】井原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】安 保宇
(72)【発明者】
【氏名】川島 紀之
(72)【発明者】
【氏名】野口 昂裕
(72)【発明者】
【氏名】永野 元泰
【審査官】落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-112631(JP,A)
【文献】特開平11-245038(JP,A)
【文献】特開2006-26640(JP,A)
【文献】特開2002-229863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 9/173
B25J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接部と、
データ取得部と、
データ処理部と、
第1記憶部と、
第2記憶部と、を少なくとも有し、
前記データ取得部は、所定のサンプリング周波数で前記溶接部の複数の出力電圧値を順次取得し、
前記第1記憶部は、前記データ取得部で順次取得された複数の前記出力電圧値を保存し、
前記データ処理部は、前記第1記憶部に保存された複数の前記出力電圧値に基づいて、前記溶接部とワークとの間で発生した微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値の少なくとも一方を算出して、算出された微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値の前記少なくとも一方を前記第2記憶部に保存することを特徴とする溶接機。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接機において、
前記第1記憶部は、第1一時記憶部と第2一時記憶部と第3一時記憶部とを有し、
前記データ処理部は、前記第1一時記憶部及び前記第2一時記憶部のうちの一方に対し、前記第1一時記憶部及び前記第2一時記憶部のうちの前記一方に保存された複数の前記出力電圧値のデータ量が前記第1一時記憶部及び前記第2一時記憶部のうちの前記一方の容量に達するまで前記データ取得部で順次取得された複数の前記出力電圧値を保存し、前記保存された複数の前記出力電圧値のデータ量が前記第1一時記憶部及び前記第2一時記憶部のうちの前記一方の容量に達した場合は、前記第1一時記憶部及び前記第2一時記憶部のうちの前記一方に保存された複数の前記出力電圧値を前記第3一時記憶部にコピーするとともに、前記データ取得部で取得した前記出力電圧値の保存先を前記第1一時記憶部及び前記第2一時記憶部のうちの他方に切り替えることを特徴とする溶接機。
【請求項3】
請求項2に記載の溶接機において、
前記データ処理部は、前記第1一時記憶部に保存された複数の前記出力電圧値のデータ量が前記第1一時記憶部の容量に達した場合か、または前記第2一時記憶部に保存された複数の前記出力電圧値のデータ量が前記第2一時記憶部の容量に達した場合に、微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値の前記少なくとも一方を算出することを特徴とする溶接機。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の溶接機において、
第3記憶部と、
表示部と、をさらに有し、
前記第3記憶部は、前記第2記憶部に保存された微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値の前記少なくとも一方に関連付けられた表示用データを保存し、
前記データ処理部は、前記表示用データを前記第3記憶部から呼び出して前記表示部に表示させることを特徴とする溶接機。
【請求項5】
請求項4に記載の溶接機において、
前記溶接部が取り付けられた溶接ロボットと、
前記溶接ロボットの動作を制御するロボット制御部と、をさらに備え、
前記データ処理部は、微小短絡の発生回数が所定値以上となった場合、前記溶接ロボットの制御情報と前記第3記憶部に保存された前記表示用データとを関連付けて、新たに別の表示用データを生成し、前記別の表示用データを前記表示部または前記ロボット制御部に設けられた別の表示部に表示させることを特徴とする溶接機。
【請求項6】
複数の溶接機と、
前記複数の溶接機のそれぞれに接続された中央制御部と、を少なくとも備えた溶接システムであって、
前記複数の溶接機のそれぞれは、請求項4または5に記載の溶接機であって、前記第1記憶部と前記データ処理部とが設けられ、
前記中央制御部に前記第2記憶部と前記第3記憶部とが設けられていることを特徴とする溶接システム。
【請求項7】
請求項6に記載の溶接システムにおいて、
前記中央制御部には別のデータ処理部がさらに設けられ、
前記別のデータ処理部は、前記複数の溶接機のうち一の溶接機において、微小短絡の発生回数が所定値以上となるか、あるいは微小短絡の発生回数の平均値が増加傾向にある場合、微小短絡の発生回数または微小短絡の発生回数の平均値に対応した表示用データを前記第3記憶部から呼び出して前記表示部に表示させることを特徴とする溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極方式のアーク溶接を行う溶接機及びそれを備えた溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アーク溶接中の各種出力データをモニターして、溶接時に発生した異常の原因究明を行う技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、サンプリングしたデータを保存する揮発性の第1記憶部と、サンプリングしたデータの所定時間間隔での平均値を保存する不揮発性の第2記憶部とを設け、異常発生時に第1記憶部に保存したデータを第2記憶部に保存し、異常要因の解析を行う構成が開示されている。
【0004】
特許文献2には、高速周期でデータのサンプリングを行う第1のデータ取得部と、低速周期でデータのサンプリングを行う第2のデータ取得部と、異常が検知された時点での両データの各時点を対応付ける対応付け部を有する構成が開示されている。
【0005】
特許文献3には、複数のデータ記憶領域を設け、異常が検知されない場合は所定の記憶領域に循環的にデータを書き込み、異常が検知された場合は、データを書き込む記憶領域を変更する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-010119号公報
【文献】特開2015-112631号公報
【文献】特開2016-022519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、消耗電極方式のアーク溶接では、ワークに形成される溶融プールの振動等に起因して、ワークの溶融領域が溶接ワイヤに接触する、いわゆる微小短絡が発生することがある。微小短絡はアーク期間中に非常に短い時間(2msec以下)で発生する。微小短絡が発生すると、アークが消滅して再度点弧されたときに、溶融された金属が爆発的に飛散しスパッタとなり、ワークの表面に付着する。
【0008】
通常、このような微小短絡が発生しないように溶接条件を設定するが、溶接中のワークや溶接ワイヤの状態変化によってはスパッタが発生することがある。
【0009】
しかし、特許文献1~3に開示される従来の構成では、データのサンプリング周期が長く、微小短絡の発生を適切に把握することができなかった。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、アーク溶接中の微小短絡の発生回数を把握し、スパッタの発生状態を推定可能な溶接機及びそれを備えた溶接システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る溶接機は、溶接部と、データ取得部と、データ処理部と、第1記憶部と、第2記憶部と、を少なくとも有する。前記データ取得部は、所定のサンプリング周波数で前記溶接部の複数の出力電圧値を順次取得する。前記第1記憶部は、前記データ取得部で順次取得された複数の前記出力電圧値を保存する。前記データ処理部は、前記第1記憶部に保存された複数の前記出力電圧値に基づいて、前記溶接部とワークとの間で発生した微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値の少なくとも一方を算出して、算出された微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値の前記少なくとも一方を前記第2記憶部に保存することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る溶接システムは、複数の溶接機と、前記複数の溶接機のそれぞれに接続された中央制御部と、を少なくとも備えた溶接システムである。前記複数の溶接機のそれぞれは、前記溶接機であって、前記第1記憶部と前記データ処理部とが設けられている。前記中央制御部に前記第2記憶部と第3記憶部とが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶接機によれば、溶接期間中に発生する微小短絡の発生回数を把握することができる。また、スパッタの発生状態を推定することができる。本発明の溶接システムによれば、溶接機に配置される記憶部を減らすことができ、溶接機の構成を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態1に係るアーク溶接機の構成概略図である。
【
図2】第1記憶部及び第2記憶部の概略構成図である。
【
図3】微小短絡の検出及び表示手順を示すフローチャートである。
【
図4】溶接電圧及び溶接電流の出力波形の一例である。
【
図5A】第1メモリの容量が満量になった場合の第1記憶部及び第2記憶部でのデータの流れを示す模式図である。
【
図5B】第2メモリの容量が満量になった場合の第1記憶部及び第2記憶部でのデータの流れを示す模式図である。
【
図5C】溶接期間終了時の第1記憶部及び第2記憶部でのデータの流れを示す模式図である。
【
図6A】表示部に表示されたメッセージの一例である。
【
図6B】表示部に表示されたメッセージの一例である。
【
図7】変形例1に係るアーク溶接機の構成概略図である。
【
図8】変形例2に係る溶接システムの構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0016】
(実施形態1)
[アーク溶接機の構成]
図1は、本実施形態に係るアーク溶接機の概略構成図を示し、
図2は、第1記憶部及び第2記憶部の概略構成図を示す。
【0017】
図1に示すように、アーク溶接機1000は、溶接用電源装置100とワイヤ送給装置200と溶接トーチ(溶接部)300とを有している。
【0018】
溶接用電源装置100は、電力変換部10と電流/電圧検出部(データ取得部)20と制御部30と第1~第3記憶部40~60と表示部70とデータ処理部90とを有している。また、溶接用電源装置100は、通信部80を有している。なお、溶接用電源装置100は、これら以外の構成部品を有しているが、説明の便宜上、図示及び説明を省略する。
【0019】
電力変換部10は、図示しない外部電源、例えば、200V電源から電力を受け取って、溶接ワイヤ400に供給するための溶接電圧及び溶接電流に変換する。
【0020】
電流/電圧検出部20は、所定のサンプリング周波数で、溶接電流の複数の出力電流値を順次検出する。電流/電圧検出部20は、さらに、所定のサンプリング周波数で、溶接電圧の複数の出力電圧値を順次検出する。
【0021】
制御部30は、所定のプログラムに従って、電力変換部10に制御信号を送り、電力変換部10から溶接ワイヤ400に出力される溶接電流波形及び溶接電圧波形を制御する。
【0022】
図2に示すように、第1記憶部40は、第1メモリ(第1一時記憶部)41と第2メモリ(第2一時記憶部)42と退避メモリ(第3一時記憶部)43とを有している。第1メモリ41と第2メモリ42と退避メモリ43とは、いずれもRAM(Random Access Memory)またはフラッシュメモリで構成されている。本実施形態において、第1メモリ41と第2メモリ42とはそれぞれ同じデータ容量に設定されている。退避メモリ43の容量は第1及び第2メモリ41,42の容量と同じかそれ以上の大きさに設定されている。
【0023】
後で述べるように、第1メモリ41及び第2メモリ42には、電流/電圧検出部20で順次検出された溶接電圧の複数の出力電圧値が保存される。また第1メモリ41及び第2メモリ42のいずれかで、保存された複数の出力電圧値のデータ量がそれぞれの容量に達した場合、データ処理部90は、その複数の出力電圧値を退避メモリ43にコピーする。なお、退避メモリ43に出力電圧値がコピーされる場合は、前の出力電圧値がすべて消去されてから出力電圧値がコピーされる。あるいは前の出力電圧値に対して次の出力電圧値が上書き保存される。
【0024】
第2記憶部50は、不揮発性メモリ、例えば、フラッシュメモリや磁気ハードディスク等で構成されている。
図2に示すように、第2記憶部50は複数の記憶領域に分かれている。データ処理部90で算出された微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値はそれぞれ異なる記憶領域に保存される。また、1回の溶接期間での溶接時間(以下、単に溶接時間という)も第2記憶部50のうち、微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値と異なる記憶領域に保存される。第2記憶部50へのデータ保存については後で詳述する。
【0025】
第3記憶部60は、定型の文字列データが複数保存されている。データ処理部90は、微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値に応じて、第3記憶部60から文字列データを読み出して、読み出した文字列データを表示部70に表示させる。なお、データ処理部90は、微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値を文字列データに組み込んで表示部70に表示させるようにしてもよい。
【0026】
表示部70は、第3記憶部60から読み出された文字列データを表示する。また、それ以外のデータを表示するようにしてもよい。例えば、設定された溶接電流や溶接電圧と実際に検出された溶接電流や溶接電圧とを時系列で表示するようにしてもよい。また、表示部70がタッチパネルである場合、溶接用電源装置100にデータを入力する入力部を兼ねるようにしてもよい。
【0027】
通信部80は、電流/電圧検出部20とデータ処理部90との間でのデータ通信を行う。また、制御部30と電力変換部10との間でのデータ通信を行う。また、データ処理部90と表示部70との間でのデータ通信を行う。
【0028】
データ処理部90は、電流/電圧検出部20で順次検出された複数の出力電流値及び複数の出力電圧値を第1記憶部40に保存する。データ処理部90は、さらに、第1記憶部40に保存された複数の出力電圧値に基づいて、微小短絡の発生回数を算出し、算出された発生回数を第2記憶部50に保存する。また、データ処理部90は、1回の溶接期間における単位時間当りの微小短絡の発生回数(以下、発生回数の平均値という)を算出し、算出された発生回数の平均値を第2記憶部50に保存する。
【0029】
データ処理部90は、例えば、CPU(Central Processing Unit)で構成されている。データ処理部90は、CPU上で所定のソフトウエアを実行することで、第1~第3記憶部40~60へのデータ保存やデータ読み出しを行う。また、データ処理部90は、ソフトウエアを実行することで、各種データを算出する。
【0030】
ワイヤ送給装置200は、溶接用電源装置100に接続されたパワーケーブルC1を介し、トーチケーブルC3の内部に収容された溶接ワイヤ400をワークWに向けて送給する。このときトーチ先端部(図示せず)にて溶接ワイヤ400に給電する。なお、溶接ワイヤ400の送給量、送給速度及び送給方向に関する指令は、制御部30から制御ケーブルC4内の図示しない制御線を介してワイヤ送給装置200に入力され、その指令に基づいてワイヤ送給装置200が駆動される。
【0031】
溶接トーチ300は、トーチケーブルC3に接続され、内部で溶接ワイヤ400を送給可能に保持している。また、シールドガスはガスボンベGBからガスホースC5およびトーチケーブルC3を介し供給される。
【0032】
アーク溶接を行う場合、溶接用電源装置100の負端子に母材ケーブルC2が、正端子にパワーケーブルC1がそれぞれ接続される。母材ケーブルC2はワークWに接続される。所定のプログラムに従って、溶接用電源装置100から溶接ワイヤ400に溶接電圧及び溶接電流が出力され、溶接ワイヤ400の先端とワークWとの間に図示しないアークが発生し、溶接が行われる。
【0033】
[微小短絡の検出及び表示手順]
図3は、微小短絡の検出及び表示手順を示す。
図4は、溶接電圧及び溶接電流の出力波形の一例を示す。また、
図5Aは、第1メモリの容量が満量になった場合の第1記憶部及び第2記憶部でのデータの流れを模式的に示す。
図5Bは、第2メモリの容量が満量になった場合の第1記憶部及び第2記憶部でのデータの流れを模式的に示す。
図5Cは、溶接期間終了時の第1記憶部及び第2記憶部でのデータの流れを模式的に示す。
【0034】
図3に示すように、電圧/電流検出部20は、データ処理部90からの要求に応じて、溶接電圧の出力電圧値をサンプリング周波数fsに基づき取得する(ステップS1)。データ処理部90は、取得された出力電圧値を第1メモリ41に保存する(ステップS2)。例えば、本実施形態では、サンプリング周波数fsを100kHz程度としている。これは、0.01msec程度の周期に相当し、2msec以下の周期で発生する微小短絡を検出するのに十分高い周波数である。また、一般的なCPUでの処理速度(数百MHz以上)に対して十分に低い周波数である。
【0035】
次に、データ処理部90は、第1メモリ41に保存された出力電圧値のデータ量が第1メモリ41の容量に達しているか、つまり、第1メモリ41は満量である否かを判定する(ステップS3)。データ処理部90は、その判定結果が否定的であれば、ステップS1に戻って、データ取得と第1メモリ41へのデータ保存を継続する。
【0036】
一方、第1メモリ41に保存された出力電圧値のデータ量が満量であれば、データ処理部90は、以降に取得された溶接電圧の出力電圧値を第2メモリ42に保存する(ステップS4)。データ処理部90は、さらに第1メモリ41に保存された出力電圧値をすべて退避メモリ43にコピーしてバックアップする(ステップS5)。なお、ステップS4,S5が実行される順番は、
図3に示す場合に限られず、例えば、ステップS4とステップS5とが同時に実行されてもよい。
【0037】
データ処理部90は、第1メモリ41に保存された出力電圧値を分析し、微小短絡の発生回数を算出する(ステップS6)。
図4に示すように、本来、アーク期間では、溶接ワイヤ400の先端とワークWとの距離に応じた出力電圧値が検出される。ただし、微小短絡が発生すると、大幅に低下した出力電圧値が検出される。なお、通常の短絡に比べて、微小短絡では溶接ワイヤ400とワークWとの間の電気抵抗が高い。そのため、溶接電流の出力電流値は急激に大きくならず、若干変動するのみである。
【0038】
データ処理部90は、予め設定された溶接条件と溶接電圧の出力電圧値とを比較する。データ処理部90は、アーク期間として設定されている期間で、所定値以下に溶接電圧の出力電圧値が低下している場合は、微小短絡が発生したと判定し、その回数をカウントする。カウントされた発生回数(ここではA回とする)は、第2記憶部50の第1記憶領域51と第2記憶領域52にそれぞれ保存される(ステップS7)。
【0039】
図5Aに示すように、第1記憶領域51には、第1メモリ41の出力電圧値を分析して算出される微小短絡の発生回数(A回)が保存される。また、後で述べるように、第2記憶領域52には、微小短絡の発生回数が加算して保存される。
図5Aでは、第2記憶領域52には第1記憶領域51と同じ値が保存される。
【0040】
また、データ処理部90は、第2記憶部50の第3記憶領域63に溶接時間として所定の値を保存する(ステップS8)。本実施形態では、所定の値として「1秒」が加算、保存される。なお、この値は、第1メモリ41に保存される出力電圧値の最大個数を10,0000個と設定し、サンプリング周期0.01msecを乗じた値である。また、この値は、特に本実施形態の値に限定されず、第1メモリ41や第2メモリ42の容量、また、サンプリング周波数fsに応じて適宜変更されうる。また、データ分析後、第1メモリ41の出力電圧値は消去されて、第1メモリ41は空となる。なお、出力電圧値を消去せずに、次に、第1メモリ41に出力電圧値が保存される際に、後から入力された出力電圧値が順次、第1メモリ41に書き込まれるようにしてもよい。
【0041】
以降、ステップS9~S13は、ステップS1~S5において、第1メモリ41と第2メモリ42とが置き換わっただけであり、その処理内容は同様であるため、説明を省略する。
【0042】
データ処理部90は、第2メモリ42に保存された出力電圧値を分析して算出された微小短絡の発生回数(ここではB回とする)を第2記憶部50の第2記憶領域52に加算して保存する(ステップS14)。また、データ処理部90は、第3記憶領域53に1秒を加算して保存する(ステップS15)。
【0043】
つまり、
図5Bに示すように、第2記憶領域52に保存される値は(A+B)となり、第3記憶領域53に保存される値は2(秒)となる。
【0044】
また、データ処理部90は、算出された発生回数(B回)が前回の算出値(A回)よりも大きいか否かを判定する(ステップS16)。データ処理部90は、その判定結果が肯定的(B>A)であれば、第1記憶領域51に保存された値を今回の算出値(B回)に書き換える(ステップS17)。一方、データ処理部90は、判定結果が否定的(B≦A)であれば、書き換えを行わず、次に進む。また、第2メモリ42に保存された出力電圧値はすべて消去されるか、あるいは、第2メモリ42に出力電圧値が保存される際に、後から入力された出力電圧値が順次、第2メモリ42に書き込まれる。
【0045】
データ処理部90は、溶接期間が終了したか否かを判定する(ステップS18)。データ処理部90は、溶接期間が終了していなければ、ステップS1に戻る。一方、溶接期間が終了していれば、
図5Cに示すように、データ処理部90は、微小短絡の発生回数の平均値(C1=(A+B)/2)を算出する。具体的には、データ処理部90は、第2記憶領域52に保存された加算値(=A+B)を第3記憶領域53に保存された加算値(=2)で除算する。データ処理部90は、算出された発生回数の平均値を第2記憶部50の第4記憶領域64に保存する(ステップS19)。
【0046】
1回の溶接期間が終了すると、別のワークがセットされて、次のアーク溶接が開始される。各溶接期間において、
図3に示すフローが実行され、発生回数の平均値(C1,C2,C3・・・)が順次、第2記憶部50の第4記憶領域54に保存される(
図5C参照)。
【0047】
なお、ステップS18の判定は、ステップS8の終了後にも行うようにしてもよい。この時点で、溶接期間が終了していれば、ステップS9~S17をスキップして、ステップS19に進む。また、第1メモリ41や第2メモリ42に保存された出力電圧値のデータ量がそれぞれの容量に達しないうちに、溶接期間が終了した場合は、それまでにそれぞれのメモリに保存された出力電圧値に基づいて、微小短絡の発生回数や積算値、また、溶接時間が算出される。さらに、これらに基づいて、発生回数の平均値が算出される。これらの値は、第2記憶部50の対応する記憶領域にそれぞれ保存される。
【0048】
また、データ処理部90は、第1記憶領域51に保存された1回の溶接期間における微小短絡の発生回数の最大値や第4記憶領域54に保存された各溶接期間における微小短絡の発生回数の平均値を分析し、これらに応じて、第3記憶部60から文字列データを読み出して、メッセージとして表示部70に表示させる(ステップS20)。
【0049】
図6A及び
図6Bは、表示部に表示されたメッセージの一例を示す。具体的には、
図6Aは、1回の溶接期間での短絡溶接の発生回数が許容値を超えている場合の例を示す。
図6Bは、複数回の溶接で発生回数の平均値が増加している場合の例を示す。
【0050】
例えば、1回の溶接期間で短絡溶接が100回以上発生しているような場合には、
図6Aに示すように、ワークの外観確認とスパッタの除去を行うようにメッセージを表示部70に表示する。また、溶接を繰り返し行う毎に、発生回数の平均値が増加している場合には、
図6Bに示すように、その旨の表示と、ワークや溶接で使用される治具の確認を行うようにメッセージを表示部70に表示する。溶接作業者は、これらのメッセージを確認して、必要な処置を行う。
【0051】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るアーク溶接機1000は、溶接ワイヤ400を保持する溶接トーチ(溶接部)300とワイヤ送給装置200と溶接用電源装置100とを有している。溶接用電源装置100は、電流/電圧検出部(データ取得部)20とデータ処理部90と第1記憶部40と第2記憶部50とを少なくとも有している。
【0052】
溶接用電源装置100は、溶接トーチ300に保持された溶接ワイヤ400に溶接電圧を出力する。電流/電圧検出部20は、サンプリング周波数fsで溶接電圧の複数の出力電圧値を順次取得する。第1記憶部40は、電流/電圧検出部20で順次取得された複数の出力電圧値を保存する。
【0053】
データ処理部90は、第1記憶部40に保存された複数の出力電圧値に基づいて、溶接ワイヤ400とワークWとの間で発生した微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値を算出して、算出された微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値を第2記憶部50に保存する。
【0054】
アーク溶接機1000をこのように構成することで、溶接期間中に発生する微小短絡の発生回数を確実に把握することができる。また、このことにより、溶接期間中のスパッタの発生状態を推定することが可能となる。なお、データ処理部90は、微小短絡の発生回数及び微小短絡の発生回数の平均値のいずれか一方だけを算出してもよい。
【0055】
第1記憶部40は、第1メモリ(第1一時記憶部)41と第2メモリ(第2一時記憶部)42と退避メモリ(第3一時記憶部)43とを有している。
【0056】
データ処理部90は、第1メモリ41及び第2メモリ42のうちの一方、例えば、第1メモリ41に対し、第1メモリ41に保存された出力電圧値のデータ量が第1メモリ41の容量に達するまで電流/電圧検出部20で取得された溶接電圧の出力電圧値を保存する。データ処理部90は、第1メモリ41に保存された出力電圧値のデータ量が第1メモリ41の容量に達した場合は、第1メモリ41に保存された出力電圧値を退避メモリ43にコピーする。それとともに、データ処理部90は、溶接電圧の出力電圧値の保存先を第2メモリ42に切り替える。また、データ処理部90は、第2メモリ42に対し、第2メモリ42に保存された出力電圧値のデータ量が第2メモリ42の容量に達するまで電流/電圧検出部20で取得された溶接電圧の出力電圧値を保存する。データ処理部90は、第2メモリ42に保存された出力電圧値のデータ量が第2メモリ42の容量に達した場合に、第2メモリ42に保存された出力電圧値を退避メモリ43にコピーする。それとともに、データ処理部90は、溶接電圧の出力電圧値の保存先を第1メモリ41に切り替える。
【0057】
このように、出力電圧値を保存するメモリを交互に切り替えることで、大量の出力電圧値を保存する大容量のメモリを不要とし、第1記憶部40の内部構成を簡素化できる。また、アーク溶接機1000のコストを低減できる。
【0058】
また、退避メモリ43に出力電圧値を都度バックアップコピーすることで、データ処理部90でのデータ処理時に何らかのトラブルが生じたり、通信部80等のトラブルで電流/電圧検出部20とデータ処理部90とのデータ通信に不具合が生じたりした場合も、微小短絡の発生回数等を後から評価することが可能となる。また、電流/電圧検出部20で取得された溶接電圧の出力電圧値を途切れることなく第1記憶部40に保存でき、微小短絡の見落としを防止できる。
【0059】
さらに、データ処理部90は、第1メモリ41に保存された出力電圧値のデータ量が第1メモリ41の容量に達した場合か、または第2メモリ42に保存された出力電圧値のデータ量が第2メモリ42の容量に達した場合に、微小短絡の発生回数及びその平均値を算出する。
【0060】
このようにすることで、1回のデータ演算に用いられるデータ量が少なくて済み、データ処理部90を構成するCPU等の処理負荷が軽減される。また、保存される出力電圧値のデータ量が、第1メモリ41または第2メモリ42の容量に達するまでの間に、データ処理部90で微小短絡の発生回数等を算出すればよいため、データ処理部90での処理速度を実用的な範囲とすることができる。このことにより、高価なCPU等を用いる必要が無くなり、アーク溶接機1000のコストを低減できる。
【0061】
また、本実施形態のアーク溶接機1000は、第3記憶部60と表示部70とをさらに有している。第3記憶部60は、第2記憶部50に保存された微小短絡の発生回数及びその平均値に関連付けられた表示用データを保存している。
【0062】
データ処理部90は、微小短絡の発生回数及びその平均値に対応した表示用データを第3記憶部60から呼び出して表示部70に表示させる。
【0063】
アーク溶接機1000をこのように構成することで、溶接期間中のスパッタの発生状態を推定することができ、その結果に基づいて、溶接作業者に対して、注意喚起または改善のための作業指示を与えることができる。また、溶接作業者が指示内容に従って溶接条件を変更することで、微小短絡、ひいては、ワークWに付着するスパッタを低減して、溶接品質を高められる。
【0064】
<変形例1>
図7は、本変形例に係るアーク溶接機の構成概略図を示す。なお、
図7において、実施形態1と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。また、トーチケーブルC3の図示を省略している。
【0065】
本変形例に示すアーク溶接機1100は、溶接トーチ300とワイヤ送給装置200とが取り付けられた溶接ロボット500と、溶接ロボット500の動作を制御するロボット制御部600と、を有している点で、実施形態1に示すアーク溶接機1000と異なる。なお、ロボット制御部600は、これに接続され、溶接ロボット500の移動軌跡を教示するためのティーチングペンダント610を含んでおり、ティーチングペンダント610には表示パネル(別の表示部)611が設けられている。
【0066】
本変形例に示すように、溶接トーチ300が溶接ロボット500に取り付けられている場合、アーク溶接時に溶接ロボット500が移動することで、溶接ワイヤ400の先端とワークWとの間の距離は、実施形態1に示す構成よりも変動しやすくなることがある。
【0067】
従って、溶接ロボット500の動作制御の形態、例えば、制御プログラムの内容によっては、微小短絡が生じやすくなり、その結果、大量のスパッタが発生することがある。
【0068】
一方、本変形例によれば、データ処理部90は、通信部80を介してロボット制御部600とデータ通信可能に構成されている。また、データ処理部90は、微小短絡の発生回数が所定値以上となった場合、溶接ロボット500の制御情報と第3記憶部60に保存された文字列データとを関連付けて、新たに別の文字列データを生成するように構成されている。さらに、データ処理部90は、別の文字列データを表示部70に表示させるように構成されている。例えば、制御プログラム番号が3番の場合に、微小短絡の発生回数が所定値以上となるようであれば、表示部70に「3番のプログラム使用時にスパッタが多く発生しています。」とメッセージを表示させる。
【0069】
このようにすることで、溶接ロボット500の動作を制御する制御プログラムのうち、特定のプログラムでの不具合をいち早く発見できる。また、溶接作業者等がその不具合を改善することで、ワークWに付着するスパッタを低減して、溶接品質を高められる。
【0070】
なお、メッセージは、ティーチングペンダント610の表示パネル611に表示するようにしてもよい。
【0071】
<変形例2>
図8は、本変形例に係る溶接システムの概略構成図を示し、具体的には、複数のアーク溶接機1000に1つの中央制御部700が接続された溶接システム1200の構成を示している。なお、
図8において、溶接用電源装置100のそれぞれの内部の図示を省略している。
【0072】
中央制御部700は、例えば、ワークWに応じて、各溶接用電源装置100に溶接電圧や溶接電流を制御するプログラムを送る。また、中央制御部700は、接続されるアーク溶接機1000の台数に対応した複数の第2記憶部720を有している。また、中央制御部700は、データ処理部(別のデータ処理部)710と第3記憶部730とを有している。
【0073】
各溶接用電源装置100のデータ処理部90で算出された微小短絡の発生回数及びその平均値は、所定のデータ回線を介して、中央制御部700に配置された複数の第2記憶部720にそれぞれ送られて保存される。一方、各溶接用電源装置100では第2記憶部50と第3記憶部60とが省略されている。
【0074】
微小短絡の発生回数及びその平均値が所定値以上であったり、発生回数の平均値が増加傾向にあったりした場合は、中央制御部700は、第3記憶部730から文字列データを読み出して、対応する溶接機1000の表示部70にメッセージを表示させる。
【0075】
溶接システム1200をこのように構成することで、各アーク溶接機1000の溶接用電源装置100に配置される記憶部を減らすことができ、溶接用電源装置100の構成を簡素化できる。また、1回の溶接期間における微小短絡の発生回数は、データ量が小さく、また、データ送信頻度も低いため、通常のシリアル通信方式で、各データ処理部90から中央制御部700にデータ送信できる。
【0076】
なお、各溶接用電源装置100のデータ処理部90からは微小短絡の発生回数のみを中央制御部700に送信し、中央制御部700のデータ処理部710で各アーク溶接機1000での微小短絡の発生回数の平均値を算出するようにしてもよい。このようにすることで、各溶接用電源装置100のデータ処理部90の処理負荷を低減できる。
【0077】
また、メッセージを表示させる表示部70を中央制御部700に直接、接続させるようにしてもよい。その場合、アーク溶接機1000毎に表示部70を設けるようにしてもよいし、1つの表示部を画面分割して、各分割部とアーク溶接機1000とを対応付けるようにしてもよい。また、メッセージにアーク溶接機1000の号機番号を付与した上で、1つの表示部で、都度切り替えてメッセージを表示させるようにしてもよい。
【0078】
なお、実施形態1や各変形例に示した示す各構成要素を適宜組み合わせて、新たな実施形態とすることもできる。例えば、
図8に示す溶接システム1200において、各アーク溶接機1000が
図7に示すように溶接ロボット500とロボット制御部600とを有するようにしてもよい。その場合、中央制御部700から各ロボット制御部600に溶接ロボット500の制御プログラムを送るようにしてもよい。
【0079】
なお、実施形態1において、溶接用電源装置100の内部にデータ処理部90や第1~第3記憶部40~60が配置される例を示したが、溶接用電源装置100の外部に図示しない演算処理装置を設け、その中にデータ処理部90や第1~第3記憶部40~60を配置するようにしてもよい。また、表示部70も溶接用電源装置100と別個に設けるようにしてもよい。
【0080】
また、制御部30とデータ処理部90とを別個に設けた例を示したが、これらを一体化して構成してもよい。
【0081】
また、第3記憶部60に保存されるデータは、文字列データ以外に画像データや音声データを含んでいてもよい。言い換えると、第3記憶部60には、表示用データが保存されている。このようにすることで、溶接作業者への注意喚起や作業指示をさらに的確に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の溶接機は、微小短絡の発生回数を検出し、スパッタの発生状態を推定できるため、消耗電極方式のアーク溶接機として有用である。
【符号の説明】
【0083】
10 電力変換部
20 電流/電圧検出部(データ取得部)
30 制御部
40 第1記憶部
41 第1メモリ(第1一時記憶部)
42 第2メモリ(第2一時記憶部)
43 退避メモリ(第3一時記憶部)
50 第2記憶部
51 第1記憶領域
52 第2記憶領域
53 第3記憶領域
54 第4記憶領域
60 第3記憶部
70 表示部
80 通信部
90 データ処理部
100 溶接用電源装置
200 ワイヤ送給装置
300 溶接トーチ
400 溶接ワイヤ
500 溶接ロボット
600 ロボット制御部
700 中央制御部
710 データ処理部(別のデータ処理部)
720 第2記憶部
730 第3記憶部
1000,1100 アーク溶接機
1200 溶接システム