(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】ハロゲン化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20231013BHJP
C01F 17/36 20200101ALI20231013BHJP
H01B 1/06 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C01F17/36
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2020562319
(86)(22)【出願日】2019-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2019025436
(87)【国際公開番号】W WO2020136952
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2018243603
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 敬
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】上野 航輝
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105254184(CN,A)
【文献】国際公開第2018/025582(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0272585(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108004591(CN,A)
【文献】特表2016-522135(JP,A)
【文献】ASANO, T. et al.,Advanced Materials,2018年11月02日,Vol.30, No.44,p.1803075,ISSN 0935-9648
【文献】STEINER, H.-J. et al.,Zeitschrift fuer anorganische und allgemeine Chemie,1992年07月,Vol.613,p.26-30,ISSN 0044-2313
【文献】BOHNSACK, A. et al.,Zeitschrift fuer anorganische und allgemeine Chemie,1997年07月,Vol.623,p.1067-1073,ISSN 0044-2313
【文献】BOHNSACK, A. et al.,Zeitschrift fuer anorganische und allgemeine Chemie,1997年09月,Vol.623,p.1352-1356,ISSN 0044-2313
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 17/00-17/38
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 10/0562
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiXと、YZ
3と、LiX’とYZ’
3とのうち少なくとも一方と、が混合された材料である混合材料を、不活性ガス雰囲気下で、焼成する焼成工程、を包含し、
前記Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、
前記Zは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、かつ、前記Xとは異なる元素であり、
前記X’は、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、かつ、前記Xおよび前記Zのいずれとも異なる元素であり、
前記Z’は、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、かつ、前記Xおよび前記Zのいずれとも異なる元素であり、
前記焼成工程においては、前記混合材料は、200℃以上かつ650℃以下で、焼成される、ハロゲン化物の製造方法。
【請求項2】
前記混合材料は、LiX’が混合された材料である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合材料は、さらに、LiZが混合された材料である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混合材料は、YZ’
3が混合された材料である、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合材料は、さらに、YX
3が混合された材料である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程においては、前記混合材料は、200℃以上かつ500℃以下で、1時間以上かつ24時間以下、焼成される、請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程においては、前記混合材料は、200℃以上かつ500℃以下で、焼成される、請求項
1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程においては、前記混合材料は、380℃以上で、焼成される、請求項6
または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程においては、前記混合材料は、1時間以上かつ24時間以下、焼成される、請求項
1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程においては、前記混合材料は、10時間以下、焼成される、請求項
6または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記混合材料は、さらに、M
αA
βが混合された材料であり、
前記Mは、Na、K、Ca、Mg、Sr、Ba、Zn、In、Sn、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み、
前記Aは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、
α>0、かつ、β>0、が満たされる、請求項1から
10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記混合材料は、さらに、LiFとYF
3とのうちの少なくとも1種が混合された材料である、請求項1から
11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記混合材料は、ボールミルを使用することなく混合されている、請求項1から
12のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハロゲン化物固体電解質の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては、工業的に生産性の高い方法で、ハロゲン化物を製造することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一様態におけるハロゲン化物の製造方法は、LiXと、YZ3と、LiX’とYZ’3とのうちの少なくとも一方と、が混合された材料である混合材料を、不活性ガス雰囲気下で、焼成する焼成工程、を包含し、前記Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、前記Zは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、かつ、前記Xとは異なる元素であり、前記X’は、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、かつ、前記Xおよび前記Zのいずれとも異なる元素であり、前記Z’は、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、かつ、前記Xおよび前記Zのいずれとも異なる元素であり、前記焼成工程においては、前記混合材料は、200℃以上かつ650℃以下で、焼成される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、工業的に生産性の高い方法で、ハロゲン化物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態1における製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】実施の形態1における製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】実施の形態1における製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】イオン伝導度の評価方法を示す模式図である。
【
図5】ACインピーダンス測定によるイオン伝導度の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態が、図面を参照しながら、説明される。
【0009】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における製造方法の一例を示すフローチャートである。
実施の形態1における製造方法は、焼成工程S1000を包含する。
焼成工程S1000は、混合材料を、不活性ガス雰囲気下で、焼成する工程である。ここで、焼成工程S1000で焼成される混合材料は、LiXとYZ
3とが混合された材料である。このとき、Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素である。また、Zは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素である。焼成工程S1000においては、混合材料は、200℃以上かつ650℃以下で、焼成される。
【0010】
以上の構成によれば、工業的に生産性の高い方法(例えば、低コストで大量に生産できる方法)で、ハロゲン化物を製造することができる。すなわち、真空封管および遊星型ボールミルを使用すること無く、簡便な製造方法(すなわち、不活性ガス雰囲気下での焼成)により、Li(すなわち、リチウム)とY(すなわち、イットリウム)とを含むハロゲン化物を製造することができる。
【0011】
焼成工程S1000においては、例えば、混合材料の粉末が、容器(例えば、るつぼ)に入れられて、加熱炉内で焼成されてもよい。このとき、不活性ガス雰囲気中で混合材料が「200℃以上かつ650℃以下」まで昇温された状態が、所定時間以上、保持されてもよい。なお、焼成時間は、ハロゲン化物の揮発などに起因する焼成物の組成ずれを生じさせない(すなわち、焼成物のイオン伝導度を損なわない)程度の長さの時間であってもよい。
【0012】
なお、不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴン、など、が用いられうる。
【0013】
なお、焼成工程S1000の後に、焼成物が、容器(例えば、るつぼ)から取り出されて、粉砕されてもよい。このとき、焼成物は、粉砕器具(例えば、乳鉢、ミキサ、など)により、粉砕されてもよい。
【0014】
なお、本開示における混合材料とは、LiXとYZ3に加えて、LiXとYZ3とは異なる他の材料が、さらに混合された材料であってもよい。
【0015】
なお、本開示においては、混合材料は、さらに、MαAβが混合された材料であってもよい。ここで、Mは、Na、K、Ca、Mg、Sr、Ba、Zn、In、Sn、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。また、Aは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。また、α>0、かつ、β>0、が満たされる。
以上の構成によれば、本開示の製造方法により製造されるハロゲン化物の特性(例えば、イオン伝導性、など)を改善することができる。
【0016】
なお、「α=1」であるときに、「2≦β≦5」が満たされてもよい。
【0017】
なお、本開示においては、混合材料は、さらに、LiFとYF3とのうちの少なくとも1種が混合された材料であってもよい。
以上の構成によれば、本開示の製造方法により製造されるハロゲン化物の特性(例えば、イオン伝導性、など)を改善することができる。
【0018】
なお、本開示においては、混合材料は、LiXにおけるLiの一部(または、YZ3におけるYの一部)が、置換カチオン種(例えば、上述のM)で置換された材料が混合された材料であってもよい。また、混合材料は、LiXにおけるXの一部(または、YZ3におけるZの一部)が、F(すなわち、フッ素)で置換された材料が混合された材料であってもよい。
【0019】
図2は、実施の形態1における製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2に示されるように、実施の形態1における製造方法は、混合工程S1100を、さらに包含してもよい。
【0020】
混合工程S1100は、焼成工程S1000よりも前に、実行される工程である。
混合工程S1100は、原料となるLiXとYZ3とが混合されることで、混合材料(すなわち、焼成工程S1000において焼成される材料)が得られる工程である。
【0021】
なお、混合工程S1100においては、LiXとYZ3とが、所望のモル比となるように秤量されて、混合されてもよい。原料の混合方法としては、一般に公知の混合器具(例えば、乳鉢、ブレンダー、ボールミル、など)を用いる方法であってもよい。例えば、混合工程S1100においては、それぞれの原料の粉末が調整されて混合されてもよい。このとき、焼成工程S1000においては、粉末状の混合材料が焼成されてもよい。なお、混合工程S1100において得られた粉末状の混合材料が一軸加圧によりペレット状に成形されてもよい。このとき、焼成工程S1000においては、ペレット状の混合材料が焼成されることで、ハロゲン化物が製造されてもよい。
【0022】
なお、混合工程S1100においては、LiXとYZ3とに加えて、LiXとYZ3とは異なる他の原料(例えば、上述のMαAβ、LiF、YF3、など)がさらに混合されることで、混合材料が得られてもよい。
【0023】
なお、混合工程S1100においては、「LiXを主成分とする原料」と「YZ3を主成分とする原料」が混合されることで、混合材料が得られてもよい。
【0024】
図3は、実施の形態1における製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3に示されるように、実施の形態1における製造方法は、準備工程S1200を、さらに包含してもよい。
【0025】
準備工程S1200は、混合工程S1100よりも前に、実行される工程である。
準備工程S1200は、LiXおよびYZ3などの原料(すなわち、混合工程S1100において混合される材料)が準備される工程である。
【0026】
なお、準備工程S1200においては、材料合成を実施することで、LiXおよびYZ3などの原料が得られてもよい。もしくは、準備工程S1200においては、一般に公知の市販品(例えば、純度99%以上の材料)が用いられてもよい。なお、原料としては、乾燥した材料が用いられてもよい。また、原料としては、結晶状、塊状、フレーク状、粉末状、など、の原料が用いられてもよい。準備工程S1200において、結晶状または塊状またはフレーク状の原料が粉砕されることで、粉末状の原料が得られてもよい。
【0027】
なお、準備工程S1200においては、MαAβ(ここで、Mは、Na、K、Ca、Mg、Sr、Ba、Zn、In、Sn、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Aは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、「α=1」であるときに「2≦β≦5」が満たされる)、LiF、YF3のうちのいずれか1種または複数が添加されてもよい。これにより、本開示の製造方法により得られるハロゲン化物の特性(例えば、イオン伝導性、など)を改善することができる。
【0028】
なお、準備工程S1200においては、LiXにおけるLiの一部(または、YZ3におけるYの一部)が、置換カチオン種(例えば、上述のM)で置換された原料が準備されてもよい。また、準備工程S1200においては、LiXにおけるXの一部(または、YZ3におけるZの一部)が、F(すなわち、フッ素)で置換された原料が準備されてもよい。
【0029】
なお、本開示の製造方法により製造されたハロゲン化物は、固体電解質材料として、用いられうる。このとき、当該固体電解質材料は、例えば、リチウムイオン伝導性の固体電解質であってもよい。このとき、当該固体電解質材料は、例えば、全固体リチウム二次電池に用いられる固体電解質材料などとして、用いられうる。
【0030】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。上述の実施の形態1と重複する説明は、適宜、省略される。
【0031】
実施の形態2における製造方法は、上述の実施の形態1における製造方法の特徴に加えて、下記の特徴をさらに備える。
実施の形態2における製造方法においては、混合材料は、LiXとYZ3とに加えて、さらに、LiX’とYZ’3とのうちの少なくとも一方が混合された材料である。
【0032】
すなわち、実施の形態2における製造方法においては、混合材料は、LiXとYZ3とに加えて、さらに、LiX’が混合された材料であってもよい。このとき、X’は、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、かつ、XおよびZのいずれとも異なる元素である。さらに、Zは、Xとは異なる元素である。
【0033】
すなわち、実施の形態2における製造方法の焼成工程S1000で焼成される混合材料は、「LiCl(すなわち、塩化リチウム)とYBr3(すなわち、臭化イットリウム)とLiI(すなわち、ヨウ化リチウム)とが混合された材料」であるか、もしくは、「LiBr(すなわち、臭化リチウム)とYI3(すなわち、ヨウ化イットリウム)とLiClとが混合された材料」であるか、もしくは、「LiIとYCl3(すなわち、塩化イットリウム)とLiBrとが混合された材料」である。
【0034】
言い換えれば、実施の形態2における製造方法においては、焼成工程S1000は、「LiClとYBr3とLiIとが混合された材料である混合材料」または「LiBrとYI3とLiClとが混合された材料である混合材料」または「LiIとYCl3とLiBrとが混合された材料である混合材料」を、不活性ガス雰囲気下で、焼成する工程である。
【0035】
以上の構成によれば、工業的に生産性の高い方法で、ハロゲン化物を製造することができる。すなわち、真空封管および遊星型ボールミルを使用すること無く、簡便な製造方法(すなわち、不活性ガス雰囲気下での焼成)により、LiとYとを含むハロゲン化物(すなわち、ClとBrとIとを含む化合物)を製造することができる。
【0036】
なお、実施の形態2における製造方法においては、混合材料は、さらに、LiZが混合された材料であってもよい。
【0037】
言い換えれば、実施の形態2における製造方法においては、焼成工程S1000は、「LiClとYBr3とLiIとLiBrとが混合された材料である混合材料」または「LiBrとYI3とLiClとLiIとが混合された材料である混合材料」または「LiIとYCl3とLiBrとLiClとが混合された材料である混合材料」を、不活性ガス雰囲気下で、焼成する工程であってもよい。
以上の構成によれば、LiZの混合により、Yに対してLiをより過剰とする調整を、容易に実施できる。すなわち、製造されるハロゲン化物のLi過剰組成を、容易に実現できる。
【0038】
なお、実施の形態2における製造方法においては、混合材料は、LiXとYZ3とに加えて、さらに、YZ’3が混合された材料であってもよい。このとき、Z’は、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種の元素であり、かつ、XおよびZのいずれとも異なる元素である。さらに、Zは、Xとは異なる元素である。
【0039】
すなわち、実施の形態2における製造方法の焼成工程S1000で焼成される混合材料は、「LiClとYBr3とYI3とが混合された材料」であるか、もしくは、「LiBrとYI3とYCl3とが混合された材料」であるか、もしくは、「LiIとYCl3とYBr3とが混合された材料」である。
【0040】
言い換えれば、実施の形態2における製造方法においては、焼成工程S1000は、「LiClとYBr3とYI3とが混合された材料である混合材料」または「LiBrとYI3とYCl3とが混合された材料である混合材料」または「LiIとYCl3とYBr3とが混合された材料である混合材料」を、不活性ガス雰囲気下で、焼成する工程である。
【0041】
以上の構成によれば、工業的に生産性の高い方法で、ハロゲン化物を製造することができる。すなわち、真空封管および遊星型ボールミルを使用すること無く、簡便な製造方法(すなわち、不活性ガス雰囲気下での焼成)により、LiとYとを含むハロゲン化物(すなわち、ClとBrとIとを含む化合物)を製造することができる。
【0042】
なお、実施の形態2における製造方法においては、混合材料は、さらに、YX3が混合された材料であってもよい。
【0043】
言い換えれば、実施の形態2における製造方法においては、焼成工程S1000は、「LiClとYBr3とYI3とYCl3とが混合された材料である混合材料」または「LiBrとYI3とYCl3とYBr3とが混合された材料である混合材料」または「LiIとYCl3とYBr3とYI3とが混合された材料である混合材料」を、不活性ガス雰囲気下で、焼成する工程であってもよい。
以上の構成によれば、YX3の混合により、Yに対してLiをより欠損させる調整を、容易に実施できる。すなわち、製造されるハロゲン化物のLi欠損組成を、容易に実現できる。
【0044】
なお、実施の形態2における製造方法においては、混合材料は、LiXとYZ3とに加えて、さらに、LiX’とYZ’3との両方が混合された材料であってもよい。このとき、混合材料は、さらに、LiZとYX3とのうちの少なくとも一方が混合された材料であってもよい。例えば、混合材料は、さらに、LiZとYX3との両方が混合された材料であってもよい。
【0045】
なお、実施の形態2における製造方法の焼成工程S1000においては、混合材料は、200℃以上かつ500℃以下で、焼成されてもよい。
以上の構成によれば、工業的に生産性の高い方法で、高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造することができる。すなわち、焼成温度を200℃以上とすることで、「LiXとYZ3とLiX’」または「LiXとYZ3とYZ’3」を十分に反応させることができる。さらに、焼成温度を500℃以下とすることで、固相反応により生成したハロゲン化物の熱分解を抑制できる。これらにより、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度を、より高めることができる。すなわち、例えば、より良質なハロゲン化物の固体電解質を得ることができる。
【0046】
また、焼成温度を500℃以下とすることで、LiIの融点(すなわち、500℃)と同じか低い温度で焼成でき、LiIの分解を抑制できる(なお、LiBrの融点は550℃程度であり、LiBrの分解も抑制できる)。すなわち、固相反応が完了する前のLiBrおよびLiIの分解を抑制でき、所望の組成の化合物を合成できる。
【0047】
なお、実施の形態2における製造方法の焼成工程S1000においては、混合材料は、380℃以上(例えば、380℃以上かつ500℃以下)で、焼成されてもよい。
以上の構成によれば、工業的に生産性の高い方法で、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造することができる。すなわち、焼成温度を380℃以上とすることで、焼成物であるハロゲン化物の結晶性を、より高くできる。これにより、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度を、より高めることができる。すなわち、例えば、より良質なハロゲン化物の固体電解質を得ることができる。
【0048】
なお、実施の形態2における製造方法の焼成工程S1000においては、混合材料は、1時間以上かつ24時間以下、焼成されてもよい。
以上の構成によれば、工業的に生産性の高い方法で、より高いイオン伝導度を有するハロゲン化物を製造することができる。すなわち、焼成時間を1時間以上とすることで、「LiXとYZ3とLiX’」または「LiXとYZ3とYZ’3」を十分に反応させることができる。さらに、焼成時間を24時間以下とすることで、焼成物であるハロゲン化物の揮発を抑制でき、所望の構成元素の組成比を有するハロゲン化物を得ることができる(すなわち、組成ずれを抑制できる)。これらにより、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度を、より高めることができる。すなわち、例えば、より良質なハロゲン化物の固体電解質を得ることができる。
【0049】
なお、実施の形態2における製造方法の焼成工程S1000においては、混合材料は、10時間以下(例えば、1時間以上かつ10時間以下)、焼成されてもよい。
以上の構成によれば、焼成時間を10時間以下とすることで、焼成物であるハロゲン化物の揮発をさらに抑制でき、所望の構成元素の組成比を有するハロゲン化物を得ることができる(すなわち、組成ずれを抑制できる)。これにより、組成ずれに起因する、焼成物であるハロゲン化物のイオン伝導度の低下を、さらに抑制できる。
【0050】
なお、実施の形態2における製造方法の混合工程S1100において、「LiXとYZ3とLiX’」が所望のモル比となるように秤量されて混合されることで、「LiXとYZ3とLiX’」との混合モル比が調整されてもよい。同様に、実施の形態2における製造方法の混合工程S1100において、「LiXとYZ3とYZ’3」が所望のモル比となるように秤量されて混合されることで、「LiXとYZ3とYZ’3」との混合モル比が調整されてもよい。
【0051】
例えば、実施の形態2においては、LiBrとLiIとYBr3とYCl3とは、LiBr:LiI:YBr3:YCl3=1:2:0.33:0.67のモル比で、混合されてもよい。これにより、Li3YBr2Cl2I2の組成の化合物を製造することができる。
【0052】
なお、実施の形態2における製造方法の混合工程S1100においては、「LiXとYZ3とLiX’」または「LiXとYZ3とYZ’3」に加えて、MαClβ(すなわち、上述の実施の形態1におけるMαAβの「A」がClである化合物)またはMαBrβ(すなわち、上述の実施の形態1におけるMαAβの「A」がBrである化合物)またはMαIβ(すなわち、上述の実施の形態1におけるMαAβの「A」がIである化合物)が、さらに混合されることで、混合材料が得られてもよい。このとき、実施の形態2における製造方法の準備工程S1200においては、当該MαClβまたは当該MαBrβまたは当該MαIβが、原料の1つとして、準備されてもよい。
【0053】
なお、実施の形態2における製造方法の準備工程S1200においては、LiX’またはLiZにおけるLiの一部(または、YZ’3またはYX3におけるYの一部)が、置換カチオン種(例えば、上述の実施の形態1におけるM)で置換された原料が準備されてもよい。また、実施の形態2における製造方法の準備工程S1200においては、LiX’におけるX’の一部(または、YZ’3におけるZ’の一部)が、F(すなわち、フッ素)で置換された原料が準備されてもよい。また、実施の形態2における製造方法の準備工程S1200においては、LiZにおけるZの一部(または、YX3におけるXの一部)が、F(すなわち、フッ素)で置換された原料が準備されてもよい。
【0054】
(実施例)
以下、実施例および参考例を用いて、本開示の詳細が説明される。これらは例示であって、本開示を制限するものではない。
なお、以下の例示においては、本開示の製造方法により製造されるハロゲン化物は、固体電解質材料として製造され、評価されている。
【0055】
<実施例1>
(固体電解質材料の作製)
露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiBrとLiIとYBr3とYCl3とを、モル比でLiBr:LiI:YBr3:YCl3=1:2:0.33:0.67となるように、秤量した。これらをメノウ製乳鉢で粉砕して混合した。その後、アルミナ製るつぼに入れて、アルゴン雰囲気中で440℃まで昇温し、1時間保持した。焼成後、メノウ製乳鉢により粉砕し、実施例1の固体電解質材料を作製した。
【0056】
(イオン伝導度の評価)
図4は、イオン伝導度の評価方法を示す模式図である。
加圧成形用ダイス200は、電子的に絶縁性のポリカーボネート製の枠型201と、電子伝導性のステンレス製のパンチ上部203およびパンチ下部202とから構成される。
【0057】
図4に示す構成を用いて、下記の方法にて、イオン伝導度の評価を行った。
【0058】
露点-60℃以下のドライ雰囲気で、実施例1の固体電解質材料の粉末である固体電解質粉末100を加圧成形用ダイス200に充填し、300MPaで一軸加圧し、実施例1の伝導度測定セルを作製した。
加圧状態のまま、パンチ上部203とパンチ下部202のそれぞれから導線を取り回し、周波数応答アナライザを搭載したポテンショスタット(Princeton Applied Research社 VersaSTAT4)に接続し、電気化学的インピーダンス測定法により、室温におけるイオン伝導度の測定を行った。
【0059】
図5は、ACインピーダンス測定によるイオン伝導度の評価結果を示すグラフである。インピーダンス測定結果のCole-Cole線図が、
図5に示される。
【0060】
図5において、複素インピーダンスの位相の絶対値が最も小さい測定点(
図5中の矢印)のインピーダンスの実部の値を実施例1の固体電解質のイオン伝導に対する抵抗値とみなした。電解質の抵抗値を用いて、下記式(1)より、イオン伝導度を算出した。
σ=(R
SE×S/t)
-1 ・・・・ (1)
【0061】
ここで、σはイオン伝導度、Sは電解質面積(
図4中、枠型201の内径)、R
SEは上記のインピーダンス測定における固体電解質の抵抗値、tは電解質の厚み(
図4中、固体電解質粉末100の厚み)である。
【0062】
22℃で測定された、実施例1の固体電解質材料のイオン伝導度は、5.7×10-3S/cmであった。
【0063】
<実施例2~24>
(固体電解質材料の作製)
実施例2~16においては、実施例1と同様に、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiBrとLiIとYBr3とYCl3とを、モル比でLiBr:LiI:YBr3:YCl3=1:2:0.33:0.67となるように、秤量した。
実施例17においては、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiBrとLiClとLiIとYCl3とを、モル比でLiBr:LiCl:LiI:YCl3=4:1:4:1となるように、秤量した。
実施例18においては、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiIとYBr3とYCl3とYI3とを、モル比でLiI:YBr3:YCl3:YI3=1.5:0.67:0.67:0.17となるように、秤量した。
実施例19においては、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiBrとLiIとYBr3とYCl3とを、モル比でLiBr:LiI:YBr3:YCl3=1.35:1.65:0.33:0.67となるように、秤量した。
実施例20においては、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiBrとLiIとYCl3とを、モル比でLiBr:LiI:YCl3=2:1:1となるように秤量した。
実施例21においては、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiBrとLiClとLiIとYCl3とを、モル比でLiBr:LiCl:LiI:YCl3=4:1:1:2となるように、秤量した。
実施例22においては、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiBrとLiClとLiIとYCl3とを、モル比でLiBr:LiCl:LiI:YCl3=1:1:1:1となるように秤量した。
実施例23においては、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiBrとLiClとLiIとYCl3とを、モル比でLiBr:LiCl:LiI:YCl3=1:1.5:0.5:1となるように秤量した。
実施例24においては、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、LiBrとLiClとLiIとYCl3とを、モル比でLiBr:LiCl:LiI:YCl3=0.5:2:0.5:1となるように秤量した。
【0064】
これらをメノウ乳鉢で粉砕して混合した。その後、アルミナ製るつぼに入れ、アルゴン雰囲気中で200~500℃まで昇温し、1~24時間保持した。ここで、各実施例における「目的の組成」と「焼成温度」と「焼成時間」については、後述の表1に示される。
各焼成条件にて焼成後、メノウ製乳鉢で粉砕し、実施例2~24のそれぞれの固体電解質材料を作製した。
【0065】
(イオン伝導度の評価)
上記の実施例1と同様の方法で、実施例2~24のそれぞれの伝導度測定セルを作製し、イオン伝導度の測定を実施した。
【0066】
<比較例1>
(固体電解質材料の作製)
比較例1においては、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気下で、LiBrとLiIとYBr3とYCl3とを、モル比でLiBr:LiI:YBr3:YCl3=1:2:0.33:0.67となるように、秤量した。これらをメノウ製乳鉢で粉砕して混合した。その後、アルミナ製るつぼに入れて、アルゴン雰囲気中で150℃まで昇温し、1時間保持した。
焼成後、メノウ製乳鉢により粉砕し、比較例1の固体電解質材料を作製した。
【0067】
(イオン伝導度の評価)
上記の実施例1と同様の方法で、比較例1の伝導度測定セルを作製し、イオン伝導度の測定を実施した。
上述の実施例1~24および比較例1における各構成と各評価結果とが、表1に示される。
【0068】
【0069】
<考察>
比較例1のように、焼成温度が150℃の場合においては、室温付近において、3.4×10-8S/cmと低いイオン伝導性を示す。これは、焼成温度が150℃の場合では、固相反応が不十分であるためと考えられる。対して、実施例1~24は、室温近傍において、5.2×10-5S/cm以上の高いイオン伝導性を示すことがわかる。また、焼成温度が380~500℃の範囲の場合に、より高いイオン伝導性を示す。これは、高い結晶性の固体電解質が実現できているためと考えられる。
【0070】
以上により、本開示の製造方法により合成した固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導性を示すことがわかる。また、本開示の製造方法は、簡便な方法であり、工業的に生産性の高い方法である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示の製造方法は、例えば、固体電解質材料の製造方法として、利用されうる。また、本開示の製造方法により製造された固体電解質材料は、例えば、全固体リチウム二次電池などとして、利用されうる。
【符号の説明】
【0072】
100 固体電解質粉末
200 加圧成形用ダイス
201 枠型
202 パンチ下部
203 パンチ上部