(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】アルファ化デンプン粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20231013BHJP
B02C 9/02 20060101ALI20231013BHJP
B02C 25/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
B02C9/02
B02C25/00 B
(21)【出願番号】P 2019154978
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2022-06-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 高分子学会予稿集67巻2号(2018),発表番号1Pe073において平成30年8月29日に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】西岡 昭博
(72)【発明者】
【氏名】香田 智則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孔明
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-144889(JP,U)
【文献】特開平01-174345(JP,A)
【文献】特開平08-009907(JP,A)
【文献】富山 秀樹,押出成形機の混練シミュレーション,日本ゴム協会誌,2016年,Vol.89, No.12,p.368-374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
B02C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕機構の回転軸と原料穀物の流れが平行になる構造を有する加熱せん断粉砕機を用いたアルファ化デンプン粉の製造方法であって、次式:
【数1】
で与えられるQ
E値を400以上と
し、加熱時に加水なしで進行する非晶質化によりアルファ化デンプン粉を製造するアルファ化デンプン粉の製造方法。
【請求項2】
前記Q
E値を600以上とする請求項1に記載のアルファ化デンプン粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルファ化デンプン粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物に含まれるデンプンをアルファ化(非晶質化)することで、アルファ化前に対して異なる特性が発現することが一般に知られている。例えば、予めアルファ化された米粉は、長期保存が可能である一方で、蒸煮を必要とせずに水や湯を加えるだけで美味しく食することができることが知られている。また、PLA(ポリ乳酸樹脂)等の生分解性樹脂への添加剤としてデンプンを用いる場合には、水やグリセリン等の可塑剤を同時に添加して高温で処理することにより、デンプンをアルファ化することでPLA等と複合化できることが知られている。
【0003】
本発明者らは、臼式粉砕機に原料穀物を投入し、原料穀物を80℃以上、特に100~200℃の温度に加熱しながらせん断条件下にて粉砕することで、高度にアルファ化したアルファ化デンプン粉を、水を加えずに容易に製造する技術を開発した(特許文献1~3)。イースト発酵により良好に膨張し、十分な成型性、保形性を有する米粉パン生地によって高品質な成形米粉パンを製造する技術への応用等(特許文献4)、食品分野をはじめとして各種の技術分野への普及が期待され、実用化もされている。
【0004】
本発明者らが開発した、上記アルファ化デンプン粉を製造するための従来の装置は、上臼と下臼を用いて、これらの間に形成された平面状のギャップに中央部の投入口から原料穀物を投入し、中央部から外周部へ原料穀物を移送、滞留させながら同時に加熱し上臼と下臼の相対回転によってせん断力を与えて粉砕し、外周部からアルファ化デンプン粉を排出している。相対回転する粉砕部の回転軸と材料の流れはこの場合垂直になっている。
【0005】
上記従来技術では、アルファ化を達成する技術に主眼を置いていたが、更なる段階として量産化、特に高吐出化に適した技術が望まれていた。
【0006】
このような状況に鑑みて、特許文献5ではQ=[加熱せん断粉砕機に置ける原料穀物の滞留時間(sec)]×[最大せん断速度(1/sec)]
で表されるQ値の条件を示すことで原料穀物を粉砕するアルファ化デンプン粉の製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4767128号公報
【文献】特許第5503885号公報
【文献】特開2009-213472号公報
【文献】特許第5769053号公報
【文献】特開2018-38368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献5では、相対回転する粉砕部の回転軸と材料の流れが垂直な場合の実施例があった。特許文献5には相対回転する粉砕部の回転軸と材料の流れが平行となる場合は特許文献5の方法の適用を類推想起できるものとして記述されているが、相対回転する粉砕部の回転軸と材料の流れが平行となる代表的な機構である2軸押出機のニーダー部分による粉砕を試みたところ、上記Q値による範囲の特定では良好な粉砕物が得られないことが分かった。
【0009】
上記をまとめると、従来のパラメータ範囲では、2軸押出機に代表される粉砕部の回転軸と材料の流れが平行となる場合には従来技術では対応できないという課題がある。
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、2軸押出機に代表される、粉砕機構の回転軸と原料穀物の流れが平行になる構造を有する加熱せん断粉砕機を用いた場合において、良好な粉砕物が得られるアルファ化デンプン粉の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために本発明者は鋭意検討した結果、2軸押出機に代表される、粉砕機構の回転軸と原料穀物の流れが平行になる構造を有する加熱せん断粉砕機を用いた場合には、特許文献5のQ値ではなく下記に定義されるQE値を用いることで良好な粉砕物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のアルファ化デンプン粉の製造方法は、粉砕機構の回転軸と原料穀物の流れが平行になる構造を有する加熱せん断粉砕機を用いたアルファ化デンプン粉の製造方法であって、次式:
【0013】
【数1】
で与えられるQ
E値を400以上とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、量産化に絶大な効果が見込める2軸押出機を利用し、加熱せん断粉砕による良好なアルファ化米粉の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の方法を実施するための構成装置の主要部の一例を示す概略図(上が上面図、下が側面図である)
【
図2】参考例となる特許文献5に記載された構成装置の一例(上が上面図、下が側面図である)
【
図3】本手法により製造した低結晶性米粉のX線回折実験の結果
【
図6】従来手法により得られる低結晶性米粉のX線回折実験の結果
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0017】
なお、最大せん断速度は次の記号:
【0018】
【数2】
で表されるが、出願書類作成の都合上、以下の記述においては便宜的にγ[・]と記載する場合がある。
【0019】
本発明のアルファ化デンプン粉の製造方法は、粉砕機構の回転軸と原料穀物の流れが平行になる構造を有する加熱せん断粉砕機を用いたアルファ化デンプン粉の製造方法である。
【0020】
なお、本明細書において原料穀物の流れとは、局所の流れではなく全体の平均の流れである。従って局所的な流れは粉砕機構のスクリュウ等により螺旋に沿っているため粉砕機構の回転軸と平行ではない場合でも、全体の平均の流れが粉砕機構の回転軸と平行な場合には本発明に含まれる。
【0021】
また本明細書において粉砕機構の回転軸と原料穀物の流れが平行とは、粉砕機構の回転軸と、原料穀物の流れ(上記した全体の平均の流れ)とが成す角度が40°以内であることを指し、特に30°以内が好ましい。
【0022】
本発明において加熱せん断粉砕機は、特に限定されないが、加熱装置と粉砕機構を有しスクリュウ式の押し出し機構を備え、送りながら加熱と同時に粉砕し吐出する押し出し式粉砕装置が挙げられる。その他に、例えばコニカルカッターを備えたミルに温度制御装置を実装したものや、内側の円柱部材と外側の円筒部材を備えた粉砕機等が挙げられる。ここで内側の円柱部材と外側の円筒部材を備えた粉砕機は、上下に延びる円筒部材と、この円筒部材に挿入された上下に延びる円柱部材とを備え、臼式構造の上部には、円筒部材と円柱部材との間で原料穀物の投入口が形成される。円筒部材の内周面と円柱部材の外周面との間で、投入口から上下に連続するギャップが形成され、臼式構造の下部には、円筒部材と円柱部材との相対的な回転により、ギャップにおいて原料穀物を粉砕およびアルファ化して生成したアルファ化デンプン粉の排出口がギャップから連続して形成された構造を有する。そして相対的に回転する臼式構造のギャップに原料穀物を投入し、加熱下にせん断力を与えることにより原料穀物を粉砕およびアルファ化する。
【0023】
このような加熱せん断粉砕機として、具体的には、2軸押出機が代表的なものとして挙げられる。その他に、例えば一軸式の連続式固相せん断混練機等が挙げられる。
【0024】
加熱せん断粉砕機におけるニーディング部の構造は、
図1のようにニーディングの歯を外周部に備えたニーディングユニットを回転軸の方向に複数設け、シリンダー部1の内周面との間で原料穀物をせん断する構造や、その他に、石臼状の特殊ブレードを備えた一軸混練機等が挙げられる。ただし、本発明のニーディング部の構造はこれに限るものではなく、せん断により粉砕される機構のものであればよい。
【0025】
本明細書においては、少なくともシリンダー部に投入されニーディング部を通過するまでの穀物を、「原料穀物」と称する。少なくとも加熱せん断粉砕機から本発明の方法に従ってシリンダー部を経て排出された穀物粉を「アルファ化デンプン粉」と称する。
【0026】
加熱せん断粉砕機におけるニーディング部のギャップは、原料とされる穀粒や処理後に得るべき所望の穀粉の大きさなどを考慮し、特に限定されないが、例えば0.4~0.1mm程度、特に0.2mm程度以下の範囲内で調整される。
【0027】
図1には本発明を実施するための粉砕機構の一例を示す。この粉砕機構は、加熱せん断粉砕機として2軸押出機を用いたものであり、粉砕機構の全体または部分の温度を調整する機構を備えたものである。原料穀物は投入口側から吐出口側に向かって
図1の7の矢印の方向に流れていく。1はシリンダー部で、第一スクリュウ2、第二スクリュウ3が回転中心4、5が平行となるように設置されている。第一スクリュウ2は、上流側より下流側へ投入口側フルフライト部2a、ニーディング部(開始点2bから終了点2cまで)、吐出口側フルフライト部2dが設置され、第二スクリュウ3は、上流側より下流側へ投入口側フルフライト部3a、ニーディング部(開始点3bから終了点3cまで)、吐出口側フルフライト部3dが設置されている。ニーディング部は、ニーディングの歯を外周部に備えたニーディングユニットが回転軸の方向に複数設けられ、シリンダー部1の内周面との間でクリアランス6を形成し、原料穀物をせん断するようになっている。
【0028】
ここで、アルファ化に関わる因子をいくつか検討する。その一つは最大せん断速度γ[・](1/sec) である。せん断歪みが生じることで材料は仕事を受ける。材料が粉砕機内で受ける仕事の総量は、総せん断歪み量として評価することができる。総せん断歪み量は、加熱せん断粉砕機における原料穀物の滞留時間τ(sec)との積で定義される次のQに関係する。
【0029】
【数3】
特許文献5では、アルファ化の指標となる結晶化度がQの減少関数になることが議論されている。結晶化度が低いほど非晶質化(アルファ化)の程度が高くアルファ化米粉の品質が良好であることから、特許文献5では、特定のQ以上の条件で粉砕することを見出していた。本発明は
図1に代表される粉砕機構によりヒーターによる加熱と同時にせん断を加えることで原料穀物を粉砕し非晶質化させるものであるが、特許文献5のQ値を
図1の粉砕機構に適用することができないことが分かった。
【0030】
検討の結果、その原因は、
図1の粉砕機構と
図2(特許文献5に対応する参考例)の粉砕機構の違いにあることが分かった。一つの原因は、
図2(特許文献5に対応する参考例)においては、上下の平板の臼間の数ミクロン程度のギャップの間で粉砕が行われるのに対し、
図1(本発明)においては、2b~2c間、3b~3c間のニーディング部で行われることにある。二つ目の原因は原料穀物の流れの方向である。
図2の機構では、上臼8と下臼9の間にギャップ14が形成され、上臼8の投入口10より原料穀物が投入されて回転中心11を軸として下臼が回転し、
図2の12および13に代表される回転軸と垂直の方向に材料は送られながら粉砕される。
【0031】
一方で
図1の場合は、スクリュウ軸の回転軸に平行となる矢印7の方向に材料が送られながら粉砕される。これらの違いを鑑みた結果、式(1)のQ値において考慮されていなかった因子であるニーディング部での材料の充填率φが重要であることが分かってきた。検討の結果、
図1に代表される回転軸と材料の流れが平行な場合には、式(1)のQ値ではなく次で定義されるQ
E値を用いることが妥当であることが分かった。
【0032】
【数4】
もちろん、式(1)のQ値を
図1の構成装置に対して計算することも可能であるが、特許文献5で示された結果にならない場合があることが判明した。
【0033】
本発明の方法では、式(2)のQE値が400以上の条件、好ましくは500以上の条件で原料穀物を粉砕する。QE値が400以上の条件であれば、加熱せん断粉砕機による粉砕後における穀物の結晶化度が、例えば15%程度まで下げられたアルファ化デンプン粉を得ることができ、結晶性米粉や増粘多糖類などを混ぜなくてもグルテンフリー食品の加工と製品化が可能となる。また、水や湯を加えるだけで食料とできる程度までアルファ化されたデンプン粉をはじめとして、非常に高い程度までアルファ化されたデンプン粉も得ることができ、アルファ化の程度を結晶化度の低い範囲で様々にコントロールしたアルファ化デンプン粉を得ることができる。
【0034】
結晶化度の低いアルファ化デンプン粉を得る点を考慮すると、上記QE値が600以上の条件で原料穀物を粉砕することが好ましく、上記QE値が800以上の条件で原料穀物を粉砕することが特に好ましい。このような条件であれば、結晶化度がより低いアルファ化デンプン粉を得ることができ、加熱せん断粉砕機による粉砕後における穀物の結晶化度が、例えば5%未満のアルファ化デンプン粉を得ることもできる。
【0035】
加熱せん断粉砕機からの穀物の吐出量が50kg/時間以上のような条件では、上記QE値が105以下の条件で原料穀物を粉砕することが好ましく、104以下の条件で原料穀物を粉砕することがより好ましい。
【0036】
加熱せん断粉砕機に原料穀物を投入し、原料穀物を所定の温度においてせん断条件下に粉砕する。アルファ化の程度を結晶化度の低い範囲で様々に制御したアルファ化デンプン粉を得ることができる点、つまり精密な結晶化度制御もQE値で制御できる点などを考慮すると、粉砕時の温度は、特に限定されないが、例えば常温以上とするか、あるいは40℃以上、好ましくは80℃以上に加熱しながらせん断条件下に粉砕する。粉砕時の温度上限は、特に限定されないが、200℃以下が好ましい。原料穀物の含水率は、特に限定されないが、10%以上が好ましい。
【0037】
本発明において、アルファ化デンプン粉は、デンプンが主成分である穀物類、たとえば米、小麦、大豆、小豆、そば、芋類、豆類、とうもろこし類などのすべてを対象としており、本発明により簡便かつ短時間でこれらをアルファ化製粉することができる。
【0038】
従来のアルファ化手法は加水し加熱によるアルファ化の後に乾燥させ粉砕するというものである。この手法によれば加水時の高温処理により、原料澱粉が脂質分子を含む場合には脂質分子がアミロースと複合化しアミロース脂質複合体を形成することが知られている。本発明で製造するアルファ化澱粉は加熱時に加水なしで進行する非晶質化により製造されるため、アミロースが脂質分子を包摂するための十分な分子運動が発生しない。そのため、脂質分子の存在下でもアミロースが脂質分子を包摂していない材料を得ることができる。具体的には、X線の回折強度において回折角20度付近における脂質複合体の回折ピークの割合が0%以上1%以下、さらには0%以上0.7%以下である前記アルファ化デンプン粉が得られる。
<実施例>
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
本発明を実現するための装置と実験手法、およびパラメータについて述べると以下の通りとなる。
[1] 使用した押出機
テクノベル社製2軸押出機KZW-30を用いて
図1に相当する投入口側フルフライト部、ニーディング部、吐出口側フルフライト部からなる2つのスクリュウで構成される装置を用いた。押出機吐出口側に15mmの右回り45°のニーディングの歯5個で構成されるニーディングユニットを5個設置し、他の部分をフルフライト部とした。
[2] 製造した米粉
上記[1]の押出機を用いて原料米を粉砕することで米粉を製造した。特許文献1~3にもとづき、加熱と同時に粉砕を行った。投入口の温度を80℃、ニーディング部の温度を130℃とし両者をつなぐ部分の温度は温度勾配をつけるために100℃に設定した。米を投入口から投入し押出機内を流すことで粉砕し米粉を製造した。回転数N
r(rpm)、投入量M(g/sec) をパラメータとして表1にまとめた。原料米は平成28年度産はえぬきとした。
[3] 結晶化度
広角X線回折の測定結果よりピークを結晶反射と非晶反射に分離した。得られた非晶散乱によるピークの積分値をS
a、結晶反射によるピークの積分値をS
cとする。次の関係式から粉砕した米粉の結晶化度を求めた。
【0040】
【数5】
各条件で製造した米粉の結晶化度を表1にまとめた。
【0041】
上記広角X線回折の実験仕様は次の通りである。
・測定機器 Rigaku社製 Ultima V
・測定条件
スキャンスピード 10°/min
測定角度 5~35°
X線源 Cu-Kα線
管電圧 40kV
管電流 40mA
図3には、表1の条件1、条件5、および、参考例として加熱せん断粉砕機を用いず粗粉砕によって得た米粉の広角X線回折強度の回折角依存性を示す。
[4] アミロース/脂質複合体が占める割合
上記広角X線回折の仕様で得た広角X線回折強度から、回折角度が約20度付近に現れるアミロース/脂質複合体による反射のピークの積分値をS
Lとして、
【0042】
【数6】
によって、アミロース/脂質複合体が占める割合を求めた。
【0043】
図3で広角X線回折の結果を示した表1の条件1、条件5、条件17については、アミロース/脂質複合体が占める割合は、それぞれ、0.3%、0.5%、0.3%であった。この結果を表2に記した。X線回折実験の実験仕様は上記[3]に記載のものとした。
[5] 最大せん断速度γ[・]
スクリュウの回転数N
r(rpm)、
図1の符号6で示されるギャップh、
図1のシリンダー径Dから、最大せん断速度γ[・]を、
【0044】
【数7】
で求めた。ただし、πは円周率である。
[6] 滞留時間τ
滞留時間は、ニーディング部を通り過ぎる原料穀物の速さとして、
【0045】
【数8】
によって求める。ただし、Lはニーディング部の長さであり、P
nはニーディング部におけるスクリュウの螺旋構造の一巻きの回転軸方向の長さである。P
nN
rは1分あたりにニーデ
ィングの螺旋構造が送り出す原料穀物の回転軸方向の最大進行距離を表す。ニーディング部に螺旋構造がない装置の場合には、その装置の送り出し機構に応じてニーディング部で
の滞留時間を計算すればよい。
[7] 充填率φ
理論的な充填率φ
*は、シリンダー中空部の単位長さあたりの体積v
c(cm
2)と、第一および第二スクリュウを合わせたニーダー部の単位長さあたりの体積v
n(cm
2)、また、材料の
投入量M
(g/min)、材料の密度ρ(g/cm
3)によって、
【0046】
【0047】
で与えられる。v
c(cm
2)は、例えば
図1のようにシリンダー中空部の断面が2つの円が重なった形状をしている時には、シリンダー径Dとシリンダー間距離Eで与えられる次式
【0048】
【数10】
によって求められるが、シリンダー部の形状によっては断面形状の測定などによって求められる。v
nはニーダー部分のサイズを測定することで求められる。本発明では、澱粉粉体の密度ρは材料によらずほぼ一定と仮定し、充填率φとして、
【0049】
【数11】
を用いることとした。
[8] ニーディングの歯の数 n
nは、ニーディングの歯の数であるが、同じ角度で連続して配置された歯の数は1つとして計算することとした。
[9] Q
E値
式(2)、(3)、(4)、(7)より得られる式(8)で与えられるQ
Eを用いる。
【0050】
【数12】
表1にn, M, L, D, v
c-v
n, P
n, N
r, hとともに、計算したQ
Eを記す。表1におけるQ
E値を横軸に、結晶化度を縦軸に記したものが
図4である。
<比較例>
[1] Q値
式(1)で与えられるQ値は特許文献5で示されているものである。実施例と同一の実験に対してこのQ値を計算したものを比較例とし、表1に記載した。その際、最大せん断速度γ[・]は式(3)を用いた。その際、滞留時間τ[sec]としては、
【0051】
【数13】
を用いた。ただし、吐出量は1秒あたりのグラム数として得たものである。Q値を各条件について表1にまとめた。表1におけるQ値を横軸に、結晶化度を縦軸に記したものが
図5である。
[2] アミロース/脂質複合体の割合
本発明による方法によらず、加水と加熱により糊化させた後に乾燥させ粉砕することで製造されたアルファ化米粉の代表としてアルファ化米粉J(フライスター社製)の広角X線回折の実験結果を
図6に示す。上記<実施例>[4]に記載の方法でこのX線回折の実験結果から求めたアミロース/脂質複合体の割合は1.3%であった。この結果を表2に実施例、参考例、とともにまとめた。
<参考例>
参考例として、粗粉砕した原料米を加熱せん断型粉砕機による処理前の原料米として考え評価した。結晶化度は上記[3]に記載の方法で求めた。アミロース/脂質複合体の割合は上記[4]に記載の方法で求めた。それぞれの結果を、表1、表2に記載した。
【0052】
【0053】
【表2】
以上に記載した、実施例、比較例、参考例を検討すると本発明の骨子を以下のようにまとめることができる。
図4から、Q
E値の増加に伴い結晶化度が減少し非晶質化が進むことが分かる。参考例となるQ
E=0の結晶化度も
図4のプロットにおいて他のデータとともにおよそ一つの直線上に位置することがわかる。これらは、本手法においてQ
E値が結晶化度の優れた制御パラメータであることを示している。一方で比較例である特許文献5のQ値で結晶化度をまとめた
図5においては、結晶化度はQ値の増加関数となる領域があることが分かる。特許文献5では結晶化度がQ値の減少関数として示されており、本発明の範囲では、特許文献5の発明で満たされる傾向とは明らかに異なることが分かる。さらに参考例となるQ=0の結晶化度はその他のデータを線型的に回帰して求めた直線からは大きく外れることが分かる。これは、特許文献5のQ値が粉砕機構の回転軸と材料の流れが垂直となる臼を用いた結果を基盤とし材料の粉砕部における充填率を考慮していないのに対し、本手法のQ
Eが回転軸と材料の流れが平行となる粉砕機構における充填率の重要性を鑑みた結果である。
【0054】
また、加熱せん断型粉砕による本手法で得た低結晶性米粉が、従来手法で製造されたものに比べアミロース/脂質複合体の割合が低いことが表2の結果から分かる。このことは、本手法によれば加熱時に十分な水が存在せず、複合体を作るための分子運動が十分に起こらないことに起因しており、本手法で製造する材料の構造上の大きな特徴といえる。
【符号の説明】
【0055】
1 シリンダー部
2 第一スクリュウ
2a 第一スクリュウの投入口側フルフライト部
2b 第一スクリュウのニーディング部開始点
2c 第一スクリュウのニーディング部終了点
2d 第一スクリュウの吐出口側フルフライト部
3 第二スクリュウ
3a 第二スクリュウの投入口側フルフライト部
3b 第二スクリュウのニーディング部開始点
3c 第二スクリュウのニーディング部終了点
3d 第二スクリュウの吐出口側フルフライト部
4 第一スクリュウの回転中心
5 第二スクリュウの回転中心
6 ニーディング部と1のシリンダーの間のクリアランス
7 原料の流れる方向
8 上臼
9 下臼
10 投入口
11 下臼の回転中心
12 材料の流れ方向の一例を示す矢印
13 材料の流れ方向の一例を示す矢印
14 ギャップ