(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】門型装柱および電車線切替え方法
(51)【国際特許分類】
B60M 1/12 20060101AFI20231013BHJP
E04H 12/00 20060101ALI20231013BHJP
H02G 1/02 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B60M1/12 D
E04H12/00 B
H02G1/02
(21)【出願番号】P 2019116053
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-05-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書提出
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595040629
【氏名又は名称】株式会社シントーコー
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岡 正英
(72)【発明者】
【氏名】出川 定弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 伸次
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-264099(JP,A)
【文献】特開2013-040497(JP,A)
【文献】特開昭59-150803(JP,A)
【文献】特開平07-193930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/12
E04H 12/00
H02G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道軌道の左右に立設された2本の電柱と、前記2本の電柱のうち一方の電柱の上部と他方の電柱の上部との間に横架されたビームと、を備えた門型装
柱であって、
前記一方の電柱の中間部および前記他方の電柱の中間部と前記ビームとの間にそれぞれ斜め方向に配設され電柱とビームの剛比が大きくなるように変化させる一対の補強用鋼材を備え、
前記一対の補強用鋼材は、下端が前記電柱の高さ方向中間点もしくはそれよりも下方にて対応する前記電柱に接続されているとともに、建築限界を支障しないような傾斜角度に設定されて配設され
、
前記ビームはV型をなすトラスビームであり、
前記一対の補強用鋼材は、前記一方の電柱の中間部および前記他方の電柱の中間部と前記トラスビームを構成する上側水平鋼材の左右両側部の第1節点もしくはそれよりも外側の部位との間にそれぞれ2本ずつ配設されていることを特徴とする
門型装柱。
【請求項2】
前記トラスビームを構成する下側水平鋼材の左右両側部の斜鋼材との結合部と、前記一方の電柱および前記他方の電柱との間に、それぞれ水平方向に配設された一対の突っ張り材を備えることを特徴とする請求項1に記載の
門型装柱。
【請求項3】
前記一対の突っ張り材の電柱側の端部は、電柱に卷回されるバンドを有する電柱接続金具によって前記電柱に接続され、
前記一対の突っ張り材の前記結合部の側の端部には、前記下側水平鋼材の端部と前記斜鋼材とを結合する結合金具を構成するプレートの両面に接触可能な断面コの字状をなす嵌合部が設けられ、前記嵌合部は前記プレートに相対移動可能に嵌合されていることを特徴とする請求項2に記載の
門型装柱。
【請求項4】
トラスビームを備えた門型装柱によって垂下されているき電線、吊架線およびトロリー線を、き電吊架線およびトロリー線に切り替える電車線切替え方法であって、
既設の門型装柱のうち、切替え前のき電線、吊架線およびトロリー線に加えて切替え後のき電吊架線およびトロリー線を垂下させた場合に、電柱の根際に作用する所定の大きさの曲げモーメントに対する耐力が不足するものを抽出するステップと、
所定の大きさの曲げに対する耐力が不足する門型装柱の一方の電柱の中間部および他方の電柱の中間部とビームとの間に、電柱とビームの剛比が大きくなるように変化させる一対の補強用鋼材を、それぞれ建築限界を支障しないような傾斜角度で斜め方向に配設するステップと、
前記トラスビームを構成する下側水平鋼材の左右両側部の斜鋼材との結合部と、前記一方の電柱および前記他方の電柱との間に、それぞれ水平方向に一対の突っ張り材を配設するステップと、
前記既設の門型装柱に、切替え前のき電線、吊架線およびトロリー線を残したまま新たにき電吊架線およびトロリー線を垂下させるステップと、
新たな門型装柱を設置して、前記新たなき電吊架線およびトロリー線を前記新たな門型装柱に移し替えるステップと、
前記既設の門型装柱および前記切替え前のき電線、吊架線およびトロリー線を撤去するステップと、
を含むことを特徴とする電車線切替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、き電線や吊架線、トロリー線等の電車線を支持する門型装柱および電車線切替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
き電線や吊架線、トロリー線等の架空電車線を支持する電車線支持構造物として、軌道の左右に立設される2本の電柱と電柱の上部間に横架されたビームとからなるラーメン構造を有する門型装柱がある。門型装柱の電柱にはコンクリート柱や鋼管柱、角鋼管柱などが、ビームにはトラス型ビームや鋼管ビームなどがある。
また、従来、首都圏における電車線路の架線設備は、コンパウンド架線(電線の本数が5本)やツインシンプル架線(電線の本数が6本)が主流であったが、これらの設備は部品点数が多いとともに、き電線の位置が高く保守点検が困難であるという課題があった。そこで、老朽化した設備の切替え時期に併せて、例えば機能は同じでありながら構成する設備の部品点数が少なくスリム化されたインテグレート架線(電線の本数が3本)に切り替える工事が行われている。
【0003】
ところで、インテグレート架線用の門型装柱は、コンクリート柱と鋼管ビームとから構成されている。一方、コンパウンド架線やツインシンプル架線用の門型装柱は、トラス型ビームを使用している。そのため、インテグレート架線への切替えに際しては、門型装柱の変更が必要となる。
一方、鉄道は社会にとって重要なインフラであるため、インテグレート架線への切替え工事は、列車の営業運転を止めることなく進める必要がある。そこで、本発明者らは、コンパウンド架線やツインシンプル架線からインテグレート架線へ切り替える工事の際に、先ず既存のき電線、吊架線およびトロリー線と並行してインテグレート架線用のき電吊架線およびトロリー線を、既存のトラス型ビームを備えた門型装柱を利用して配設しておいて、後から門型装柱をインテグレート架線用のものに順に切り替えて行く方法を考えた。
【0004】
しかしながら、上記のような方法の工事を行う場合、インテグレート架線用のき電吊架線を併設することで一時的に既存の門型装柱への荷重が増加するため、既設の門型装柱の中には、所定の耐力を維持できなくなるものがあることが明らかになった。具体的には、既設の門型装柱においては、基礎に近い電柱の根際に掛かる曲げモーメントに対する耐力が不足することが多い。
【0005】
そして、上記のように耐力が不足する門型装柱が、電車線に所定の大きさの張力を付与するために設定された所定の距離(例えば1600m)の区間に1本でもあると、当該区間において新しい電車線支持構造物がすべて完成するまで電車線の架設工事を進めることができない。ただし、門型装柱を補強することで、新しい電車線支持構造物の完成を待たずに電車線の架設工事を進めることができることが分かった。
従来、門型装柱に対する補強技術に関しては、地震発生時における電柱の揺れを抑制するために、電柱とビームとの間に斜め方向にダンパーを配設するようにした発明が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、門型装柱に掛かる荷重には地震の際の揺れの他に、風による荷重もある。上述した特許文献1の門型装柱の補強方法にあっては、地震の際の往復揺動によるエネルギーを、電柱とビームとの間に設けたダンパーが伸縮することによって吸収することはできる。しかし、風による荷重は長時間にわたり一方向へ作用し続けダンパーが伸縮しないため、電柱の根際に掛かる曲げモーメントによる応力をダンパーでは減らせないという課題がある。
【0008】
そこで、本発明者らは、門型装柱の補強構造について検討を行なった。その結果、既設の門型装柱は、ビームの許容曲げモーメントに余裕があるため、電柱とビームとの間に斜め方向に補強用の鋼材を配設することによって、電柱の根際に掛かる曲げモーメントによる応力を小さくして許容耐力を越えないようにすることができることを見出した。
しかし、単に斜め方向の鋼材を追加したのでは、今度はビームに掛かる曲げモーメントが増加してビームの特に電柱に近い部位で変形が起きてしまうおそれがあることが分かった。
【0009】
本発明は、上述したような課題に着目してなされたもので、既設の電柱の根際に掛かる曲げモーメントを小さくことができる門型装柱を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、補強鋼材を設けて既設の電柱の根際に掛かる曲げモーメントを小さくことでビームに掛かる曲げモーメントが増加したとしてもビームが変形を起こすのを防止することができる門型装柱を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、架線切替えまでの期間を短縮するとともに、列車の通常営業運転を中断することなく電車線の切替え工事を進めることができる電車線切替え方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る門型装柱は、
鉄道軌道の左右に立設された2本の電柱と、前記2本の電柱のうち一方の電柱の上部と他方の電柱の上部との間に横架されたビームと、を備えた門型装柱であって、
前記一方の電柱の中間部および前記他方の電柱の中間部と前記ビームとの間にそれぞれ斜め方向に配設され電柱とビームの剛比が大きくなるように変化させる一対の補強用鋼材を備え、
前記一対の補強用鋼材は、下端が前記電柱の高さ方向中間点もしくはそれよりも下方にて対応する前記電柱に接続されているとともに、建築限界を支障しないような傾斜角度に設定されて配設され、
前記ビームはV型をなすトラスビームであり、
前記一対の補強用鋼材は、前記一方の電柱の中間部および前記他方の電柱の中間部と前記トラスビームを構成する上側水平鋼材の左右両側部の第1節点もしくはそれよりも外側の部位との間にそれぞれ2本ずつ配設されているように構成した。
既存の門型装柱を補強するにあたり、補強用鋼材の取付位置によっては建築限界を支障し列車と衝突する危険があるためである。なお、ここで建築限界とは、軌道,鉄道上において障害となる工作物や構築物の設置が許されない空間範囲をいう。
【0011】
上記のような構成を有する門型装柱によれば、電柱とビームの剛比を変化させることで、電柱の根際に掛かる曲げモーメントを小さくすることができ、それによって電柱の根際に掛かる曲げモーメントによる応力を小さくして許容応力を越えないようにすることができる。また、それによって、すべての門型装柱を新しいものに置き換える前に電車線を切り替える作業を行うことができる。
【0013】
さらに、前記ビームはV型をなすトラスビームであり、前記一対の補強用鋼材は、前記一方の電柱の中間部および前記他方の電柱の中間部と前記トラスビームを構成する上側水平鋼材の左右両側部の第1節点もしくはそれよりも外側の部位との間にそれぞれ2本ずつ配設されているため、補強用鋼材が建築限界を支障しにくくすることができるとともに、ビームが変形を起こす部位をビームの上側水平鋼材の左右両側部の第1節点よりも外側に限定することができ、補強のための設計、検討を容易に行うことができる。
【0014】
また、望ましくは、前記トラスビームを構成する下側水平鋼材の左右両側部の斜鋼材との結合部と、前記一方の電柱および前記他方の電柱との間に、それぞれ水平方向に配設された一対の突っ張り材を備えるようにする。
かかる構成によれば、突っ張り材によって曲げモーメントに対抗することができ、それによってビームが変形を起こすのを防止することができる。
【0015】
さらに、望ましくは、前記一対の突っ張り材の電柱側の端部は、電柱に卷回されるバンドを有する電柱接続金具によって前記電柱に接続され、
前記一対の突っ張り材の前記結合部の側の端部には、前記下側水平鋼材の端部と前記斜鋼材とを結合する結合金具を構成するプレートの両面に接触可能な断面コの字状をなす嵌合部が設けられ、前記嵌合部は前記プレートに相対移動可能に嵌合されているようにする。
かかる構成によれば、結合金具を含む装柱側の部材に何ら加工を施すことなく突っ張り材をトラスビームに接続することができるため、既設の装柱の強度を低下させることがないとともに、突っ張り材の接続作業を短時間に終了することができる。
【0016】
また、本出願の他の発明は、
トラスビームを備えた門型装柱によって垂下されているき電線、吊架線およびトロリー線を、き電吊架線およびトロリー線に切り替える電車線切替え方法において、
既設の門型装柱のうち、切替え前のき電線、吊架線およびトロリー線に加えて切替え後のき電吊架線およびトロリー線を垂下させた場合に、電柱の根際に作用する所定の大きさの曲げモーメントに対する耐力が不足するものを抽出するステップと、
所定の大きさの曲げに対する耐力が不足する門型装柱の一方の電柱の中間部および他方の電柱の中間部とビームとの間に、電柱とビームの剛比が大きくなるように変化させる一対の補強用鋼材を、それぞれ建築限界を支障しないような傾斜角度で斜め方向に配設するステップと、
前記トラスビームを構成する下側水平鋼材の左右両側部の斜鋼材との結合部と、前記一方の電柱および前記他方の電柱との間に、それぞれ水平方向に一対の突っ張り材を配設するステップと、
前記既設の門型装柱に、切替え前のき電線、吊架線およびトロリー線を残したまま新たにき電吊架線およびトロリー線を垂下させるステップと、
新たな門型装柱を設置して、前記新たなき電吊架線およびトロリー線を前記新たな門型装柱に移し替えるステップと、
前記既設の門型装柱および前記切替え前のき電線、吊架線およびトロリー線を撤去するステップと、を含むようにした。
かかる方法によれば、すべての門型装柱を新しいものに置き換える前に電車線を切り替えることができるため、架線切替えまでの期間を短縮することができるとともに、列車の通常営業運転を中断することなく電車線の切替え工事を進めることができるようになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る門型装柱によれば、既設の電柱の根際に掛かる曲げモーメントを小さくすることができるとともに、補強鋼材を設けて既設の電柱の根際に掛かる曲げモーメントを小さくことでビームに掛かる曲げモーメントが増加したとしても、ビームが変形を起こすのを防止することができるという効果が得られる。
また、本発明に係る電車線の切替え方法によれば、工期を短縮するとともに列車の通常営業運転を中断することなく電車線の切替え工事を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る門型装
柱の一実施形態を示す正面図である。
【
図2】門型装柱が横風による力Pおよびピームの自重による荷重Wを受けた際の曲げモーメントの大きさを示すもので、(A)は補強前の曲げモーメント図、(B)は補強後の曲げモーメント図である。
【
図3】(A)は補強用鋼材を電柱に接続する接続金具の構成例を示す図、(B)は補強用鋼材をトラスビームに接続する接続金具の構成例を示す図である。
【
図4】(A)は突っ張り材の構成例を示す正面図、(B)は突っ張り材をトラスビームに接続する接続金具の構成例を示す正面図、(C)はその平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
先ず、本発明の実施形態に係る電車線支持構造物としての門型装
柱について、
図1を用いて説明する。なお、既設の門型装柱には、1線跨り、2線跨り、3線跨り、4線跨り等が存在するが、
図1には最も代表的な2線跨りの門型装柱に適用した例が示されている。
また、門型装柱には、
図1に示すような2本の電柱と1本のビームからなる基本的な門型装柱構造のもの(1層1径間)の他、3本の電柱と1本のビームからなる門型装柱(1層2径間)や、4本の電柱と1本のビームからなる門型装柱(1層3径間)などがあり、本実施形態の
門型装柱は、それら他の形態の門型装柱にも適用することができる。
【0020】
図1に示す門型装柱10は、2本の電柱11A,11B、該電柱11A,11Bによって水平に支持されたトラスビーム12、トラスビーム12の中央部から垂下された下束13、下束13もしくは電柱11A(または11B)に固定され吊架線14およびトロリー線15を支持する可動ブラケット16などから構成されている。
図1に示されているトラスビーム12は、側方から見たときにV字型をなすVトラスビームである。また、符号17が付されているのは電柱基礎、符号18が付されているのは絶縁用の碍子、符号CLが付されているのは建築限界を示す線である。
【0021】
上記Vトラスビーム12は、2本の上側水平鋼材(上弦材)12aと1本の下側水平鋼材(下弦材)12bを備え、上側水平鋼材12aと下側水平鋼材12bとの間に垂直方向や斜め方向の束材12cが配設されてトラス構造が構成されている。
なお、コンパウンド架線やツインシンプル架線の門型装柱には、トラスビームの上にき電線を吊架するためのやぐらと呼ばれる構造を備えているものや、電柱の上部に取り付けられた腕木からき電線を吊架する構成のものがあるが、
図1においては、き電線を吊架する構造については、図示を省略している。
【0022】
本実施形態の門型装柱においては、電柱11A,11Bのほぼ中間高さ位置とトラスビーム12を構成する上側水平鋼材12aの第1節点との間に、例えばステンレスやアルミなどの金属管(パイプ)からなる補強用鋼材21A,21Bが設けられている。
図1からは分からないが、補強用鋼材21Aと21Bは、それぞれ前後2本ずつ設けられており、下端は電柱金具および電柱バンドによって電柱に接続され、上端はビーム金具および三角ボルトによってトラスビームに接続されている。上記電柱金具とビーム金具は、それぞれ断面コ字状のチャンネル鋼を組み合わせることで構成されている。
ここで、上側水平鋼材12aの第1節点とは、Vトラスビームを構成する束材12cの端部が結合される節点のうち、左右方向最も外側のものを意味する。したがって、第1節点は、Vトラスビームの門型装柱には同一高さ位置に4つあることになる。
【0023】
上記補強用鋼材21A,21Bの電柱11A,11Bに対する結合高さ位置は、下方であるほど電柱根際に作用する曲げモーメントを小さくすることができるが、結合位置を下げ過ぎると建築限界を支障してしまう。そこで、本実施形態の門型装柱においては、例えばビームの上側水平鋼材12aから下方4mの位置に、補強用鋼材21A,21Bの下端を結合することとした。
なお、Vトラスビーム12を構成する上側水平鋼材12aの両端は、電柱11A,11Bの上から例えば1mの位置に固定されている。したがって、補強用鋼材21A,21Bの下端結合位置(高さ)は、Vトラスビーム12の上端結合高さのほぼ2分の1の位置(高さ)である。
【0024】
さらに、本実施形態の門型装柱においては、電柱11A,11BとVトラスビーム12を構成する下側水平鋼材12bの両端部の結合金具12fとの間に、例えばやアルミなどの金属管(パイプ)からなる補強用の突っ張り材22A,22Bがほぼ水平姿勢をなすように設けられている。突っ張り材22A,22Bは、左右それぞれ1本ずつである。下側水平鋼材12bの両端部の結合金具12fには、上方へ向かう斜鋼材12dと下方へ向かう斜鋼材12eの端部が結合されている。斜鋼材12dの他端は上側水平鋼材12aの端部に結合され、斜鋼材12eの他端は図示しない接続金具によって電柱に接続される。
Vトラスビーム12を構成する下側水平鋼材12bの両端部は、
図1では、上側水平鋼材12aの第1節点の真下に位置しており、突っ張り材22A,22Bの長さは、電柱11Aまたは11Bと第1節点との距離とほぼ同一長さになるように設計されている。
【0025】
門型装柱では,電柱根際だけではなくビームを含む門型構造で曲げモーメントを分担するため,単独柱と比べて荷重に対する耐力が向上する。この分担割合は電柱とビームの剛比で決まるため、ビームの断面二次モーメントを変更することで、電柱根際に掛かる曲げモーメントが変化する。
図2(A)に、所定の大きさの横荷重Pおよびビームの自重による縦荷重Wを、鋼管ビームを有する門型装柱に付与した際における曲げモーメントの大きさを示す。
図2(B)には、補強材を設けるなどして電柱とビームの剛比を大きくしたときの門型装柱の曲げモーメントの大きさを示す。
図2の(A)と(B)とを比較すると、電柱とビームの剛比を大きくすることで、電柱根際の曲げモーメントによる応力を小さくできることが分かる。
【0026】
一方、既設の門型装柱には、基礎に近い電柱の根際に掛かる曲げモーメントに対する耐力が不足するものがある。
本実施形態の門型装柱は、上記のような知見から、電柱11A,11BとVトラスビーム12との間に、補強用鋼材21A,21Bを設けることで電柱とビームの剛比を大きくすることによって、電柱の根際に掛かる曲げモーメントが許容応力を越えないようにしたものである。
【0027】
ただし、電柱11A,11BとVトラスビーム12との間に、補強用鋼材21A,21Bを追加しただけでは、トラスビーム12に掛かる曲げモーメントが増加してトラスビーム12の特に電柱に近い部位が変形してしまうおそれがあった。そこで、本実施形態の門型装柱は、上記のように電柱11A,11BとVトラスビーム12を構成する下側水平鋼材12bの両端部の結合金具12fとの間に、補強用の突っ張り材22A,22Bを設けている。
【0028】
このうち、右側の突っ張り材22Bは門型装柱に左方向からの風が作用した際にVトラスビーム12が変形しないように抵抗し、左側の突っ張り材22A,22Bは門型装柱に右方向からの風が作用した際にVトラスビーム12が変形しないように抵抗する機能を有する。つまり、突っ張り材22A,22Bはもっぱら圧縮する方向の力に耐えればよく、伸長する方向の力には耐えるように機能しなくてもよい。
そのため、突っ張り材22A,22Bは、以下に説明するような構造(
図4)によって、電柱11A,11BとVトラスビーム12との間に配設されている。
【0029】
次に、補強用鋼材21A,21Bを電柱11A,11Bに接続する接続金具と補強用鋼材21A,21BをVトラスビーム12に接続するビーム金具の構成例について、
図3を用いて説明する。
補強用鋼材21A,21Bの下端を電柱11A,11Bに接続するための電柱金具30は、
図3(A)に示すように、電車線と平行な方向の2本のチャンネル鋼材31A,31Bと、電車線と直角方向の2本のチャンネル鋼材31C,31Dの端部を溶接やボルト等で結合することで形成された矩形状の枠体31およびチャンネル鋼材31C,31Dの中央部に結合された電柱バンド32とによって構成されている。電柱バンド32は、既設の多くの電柱において可動ブラケットなどを取りけるために設けられているものと同様な構成を有しており、この電柱バンド32によって電柱金具30は電柱に固定される。
【0030】
また、枠体32には、チャンネル鋼材31C,31Dと所定の間隔をおいて平行に配設された補助鋼材33A,33Bが設けられている。そして、鋼材31Cと33Aとの間に一対の補強用鋼材21A(または21B)のうち一方の鋼材の下端部が、また鋼材31Dと33Bとの間に補強用鋼材21A(または21B)の他方の鋼材の下端部がそれぞれ挿入される。そして、鋼材31Cと33Aを貫通するボルト34Aによって、また鋼材31Dと33Bを貫通するボルト34Bによって、補強用鋼材21A(または21B)の下端部が枠体31に結合され、枠体31と一体の電柱バンド32によって電柱11A(または11B)に固定される。
【0031】
補強用鋼材21A,21Bの上端をVトラスビーム12に接続するためのビーム金具40は、
図3(B)に示すように、電車線と平行な方向の2本のチャンネル鋼材41A,41Bと、ビーム12と平行な方向の2本のチャンネル鋼材41C,41Dおよびチャンネル鋼材41C,41Dと所定の間隔をおいて平行に配設された補助鋼材43A,43Bとからなる矩形状の枠体42とによって構成されている。そして、チャンネル鋼材41A,41Bが、三角ボルトによってVトラスビーム12の2本の上弦材12aのそれぞれに結合される。
【0032】
さらに、鋼材41Cと43Aとの間に一対の補強用鋼材21A(または21B)のうち一方の鋼材の上端部が、また鋼材41Dと43Bとの間に補強用鋼材21Aの他方の鋼材の上端部がそれぞれ挿入される。そして、鋼材41Cと43Aを貫通するボルト44Aによって、また鋼材41Dと43Bを貫通するボルト44Bによって、補強用鋼材21A(または21B)の上端部が枠体42に結合され、枠体42が三角ボルトによって4個所でVトラスビーム12の2本の上弦材12aに結合されることで、補強用鋼材21A(または21B)の上端部がVトラスビーム12に固定される。
【0033】
次に、突っ張り材22A,22Bを電柱11A,11Bに接続する接続金具と突っ張り材22A,22BをVトラスビーム12に接続するビーム金具の構成例について、
図4を用いて説明する。
突っ張り材22A(22B)を電柱11A(11B)に接続する接続金具50は、
図4(A)に示すように、可動ブラケットなどを取りけるために設けられているものと同様な構成を有する電柱バンド51と、電柱バンド51に一体的に設けられた結合金具52とからなり、結合金具52に突っ張り材22A(または22B)の端部がボルト53等により結合されることで、電柱11A(11B)に固定される。
【0034】
突っ張り材22A(22B)の端部をVトラスビーム12に接続するためのビーム金具60は、
図4(B),(C)に示すように、突っ張り材22A(または22B)の端部にボルト61により結合される結合部60Aと、Vトラスビーム12側の結合金具12fの厚みと同一の間隔を有する嵌合部60Bとを備えている。
上記のように構成することによって、ビーム金具60の嵌合部60Bは結合金具12fに対して相対移動可能となり、突っ張り材22A,22Bは引っ張りに対してはあまり寄与することがなく、もっぱら圧縮に対して抗する部材として働くこととなる。
【0035】
なお、破線で示すように、嵌合部60Bの一部に結合金具12fの外側へはみ出すはみ出し部60Cを設け、このはみ出し部60Cにボルト62を挿通させるようにしても良い。このように構成することで、はみ出し部60Cおよびボルト62を設けることで、ビーム側の結合金具12fには何ら加工を行うことなくVトラスビーム12が大きく変形した際に、嵌合部60Bと結合金具12fとの嵌合が外れて、突っ張り材22A,22Bの端部がVトラスビーム12から脱落するのを防止することができる。なお、嵌合部の長さを充分に大きく設計しておけば、はみ出し部およびボルト62を設けずに、単に嵌合部60Bを結合金具12fに遊嵌させるように構成しても脱落のおそれを回避することができる。
【0036】
次に、上記実施形態の門型装柱を利用した電車線の切替え方法の手順について、き電線、吊架線およびトロリー線を備えるコンパウンド架線またはツインシンプル架線から、き電吊架線およびトロリー線を備えるインテグレート架線への切替えを例にとって説明する。
電車線の切替えに際しては、先ず既設の門型装柱のうち、切替え前のき電線、吊架線およびトロリー線に加えて切替え後のき電吊架線およびトロリー線を垂下させた場合に、電柱の根際に作用する所定の大きさの曲げモーメントに対する耐力が不足するものを抽出する(ステップ1)。既設の電柱の耐力は、設備管理システムの設備管理情報や現地の電柱の表示などを確認することで知ることができる。設備管理情報等がない場合には、電柱の根際の所定位置に歪ゲージを貼付して電柱の上部に所定の大きさの横荷重を付与し、そのときの歪ゲージの値(歪量)を読み取り、計算式を用いて算出しても良い。
【0037】
次に、所定の大きさの曲げモーメントに対する耐力が不足する門型装柱の一方の電柱11Aの中間部および他方の電柱11Bの中間部とビーム12との間に、電柱とビームの剛比を大きくするように変化させる一対の補強用鋼材21A,21Bを、それぞれ建築限界を支障しないような傾斜角度で斜め方向に配設する(ステップ2)。
続いて、上記トラスビームを構成する下側水平鋼材の左右両側部の斜鋼材との結合部(結合金具12f)と、上記一方の電柱および他方の電柱との間に、それぞれ水平方向に一対の突っ張り材22A,22Bを配設する(ステップ3)。
【0038】
次に、上記既設の門型装柱に、切替え前のき電線、吊架線およびトロリー線を残したまま新たにき電吊架線およびトロリー線を垂下させる(ステップ4)。これにより、電車線の切替えが終了し、インテグレート架線による列車運行を開始することができる。続いて、インテグレート架線用の新たな門型装柱を設置して、既設の門型装柱に仮垂下されているき電吊架線およびトロリー線を、新たな門型装柱に移し替える(ステップ5)。その後、上記既設の門型装柱および切替え前のき電線、吊架線およびトロリー線を撤去(ステップ6)して、一連の工事が完了する。あるいは、インテグレート架線への切替え後の荷重における、電柱根際に発生する曲げモーメントが既設電柱の許容応力を下回ることが確認できた場合、これらの装置を撤去することもできる。
【0039】
また、上記のような手順に従った電車線切替え方法によれば、すべての門型装柱を新しいもの(インテグレート架線用)に置き換える前に電車線を切り替えることができるので、架線切替えまでの期間を短縮することができるとともに、列車の通常営業運転を中断することなく電車線の切替え工事を進めることができる。なお、架線切替えまでの期間を短縮することで、切替え後はビームよりも高い位置にあるき電線の点検作業がなくなり、電車線の保守点検作業を早期に容易化することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、本発明を、Vトラスビームを備えた門型装柱に適用した場合を説明したが、本発明はそれに限定されず、例えば平面トラスビームなど他の形態のビームを備えた門型装柱にも適用することができる。
また、上記実施形態では、コンパウンド架線やツインシンプル架線からインテグレート架線への切替えを例にとって説明したが、本発明は他の形式の架線の切替えにも利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 門型装柱
11A,11B 電柱
12 Vトラスビーム
12a 上弦材(上側水平鋼材)
12b 下弦材(下側水平鋼材)
12c 束材
12d,12e 斜鋼材
13 下束
14 吊架線
15 トロリー線
16 可動ブラケット
17 電柱基礎
21A,21B 補強用鋼材
22A,22B 突っ張り材
CL 建築限界