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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/26 20160101AFI20231013BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
H02P21/26
B25F5/00 C
B25F5/00 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019159081
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021040381
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】百枝 幸太郎
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-023212(JP,A)
【文献】特開2011-050150(JP,A)
【文献】特開2008-312298(JP,A)
【文献】特表2017-526539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/26
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動工具であって、
永久磁石及びコイルを有するモータと、
使用者からの操作を受け付ける操作部と、
前記操作部への操作に基づき、前記モータの駆動制御を行う制御部と、
前記モータの動力を出力軸に伝達する伝達機構と、
前記電動工具の動作モードを第1モードと第2モードとに切り替える切替機構と、
を備え、
前記第1モードでは、前記出力軸の出力トルクが単位量変化した場合の前記出力軸の回転速度の変化量が、前記第2モードよりも小さく、
前記制御部は、前記第1モードにおいて、前記永久磁石の磁束を弱める磁束を前記コイルに発生させるための弱め磁束電流を前記コイルに流させる弱め磁束制御を行う機能を有し、
前記制御部は、
第1回転速度と第2回転速度との差が閾値以下となる場合に、前記第1モードと前記第2モードとの切り替えを行い、
前記第1回転速度は、前記電動工具が前記第1モードで動作する場合における、前記出力トルクの現在値に対応する前記出力軸の回転速度であり、
前記第2回転速度は、前記電動工具が前記第2モードで動作する場合における、前記出力トルクの前記現在値に対応する前記出力軸の回転速度である、
電動工具。
【請求項2】
前記モータ又は前記出力軸にかかる負荷トルクを測定する負荷トルク測定部を、更に備え、
前記切替機構は、前記モータの回転速度に対する前記出力軸の回転速度の比である減速比を切り替えることで、前記第1モードと前記第2モードとを切り替え、
前記制御部は、前記負荷トルク測定部の測定結果に基づいて、前記切替機構により前記減速比を変更する、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記モータは、前記コイルと前記永久磁石との間の磁束が可変な可変界磁モータであり、
前記切替機構は、前記コイルと前記永久磁石との間の前記磁束を変化させることで、前記第1モードと前記第2モードとを切り替える、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項4】
前記制御部は、前記切替機構により前記動作モードが前記第2モードから前記第1モードへ切り替えられた後の前記第1モードでの動作時に、前記弱め磁束制御を行う、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記制御部は、前記切替機構により前記動作モードが前記第1モードから前記第2モードへ切り替えられる前の前記第1モードでの動作時に、前記弱め磁束制御を行う、
請求項1~4のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項6】
前記制御部は、前記切替機構により前記動作モードが前記第2モードから前記第1モードへ切り替えられた後の前記第1モードでの動作時及び前記第1モードから前記第2モードへ切り替えられる前の前記第1モードでの動作時に、前記弱め磁束制御を行う、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項7】
前記制御部は、前記弱め磁束制御において、前記出力軸の前記出力トルクに応じて、前記弱め磁束電流の大きさを変更する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項8】
前記使用者からの操作を受けて、前記弱め磁束制御を行う機能の有効と無効とを切り替える切替スイッチを更に備える、
請求項1~7のいずれか1項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に電動工具に関し、より詳細には、永久磁石及びコイルを有するモータを備える電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動工具が開示されている。この電動工具は、電池パックからの駆動電力の供給に基づいて駆動するモータと、モータの回転動力を減速して出力する動力伝達部と、モータを含み電動工具の統括的な制御を行う制御部とを有している。
【0003】
動力伝達部は、モータの回転動力を減速して出力軸に伝達する。動力伝達部は、2つの減速ギア(Hギア、Lギア)を備え、切替部材としてのリングギアを出力軸の軸方向に移動させていずれかの減速ギアと係合させることで、減速比が2段階に変速可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-054707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、工具による作業の効率化を図ることが可能な電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電動工具は、モータと、操作部と、制御部と、伝達機構と、切替機構と、を備える。前記モータは、永久磁石及びコイルを有する。前記操作部は、使用者からの操作を受け付ける。前記制御部は、前記操作部への操作に基づき、前記モータの駆動制御を行う。前記伝達機構は、前記モータの動力を出力軸に伝達する。前記切替機構は、前記電動工具の動作モードを第1モードと第2モードとに切り替える。前記第1モードは、前記出力軸の出力トルクが単位量だけ変化した場合の前記出力軸の回転速度の変化量が、前記第2モードよりも小さい。前記制御部は、前記第1モードにおいて、弱め磁束制御を行う機能を有する。前記弱め磁束制御において、前記制御部は、前記永久磁石の磁束を弱める磁束を前記コイルに発生させるための弱め磁束電流を前記コイルに流させる。前記制御部は、第1回転速度と第2回転速度との差が閾値以下となる場合に、前記第1モードと前記第2モードとの切り替えを行う。前記第1回転速度は、前記電動工具が前記第1モードで動作する場合における、前記出力トルクの現在値に対応する前記出力軸の回転速度である。前記第2回転速度は、前記電動工具が前記第2モードで動作する場合における、前記出力トルクの前記現在値に対応する前記出力軸の回転速度である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、工具による作業の効率化を図ることが可能となる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態の電動工具のブロック図である。
図2図2は、上記電動工具の制御部の詳細を示すブロック図である。
図3図3は、上記電動工具の変速機構部を含む要部の概略構成図である。
図4図4は、上記電動工具における変速機構部を示す正面図である。
図5図5は、上記電動工具のモータ制御部による制御の説明図である。
図6図6は、上記電動工具における、出力軸の出力トルクと出力軸の回転速度との間の関係を示す説明図である。
図7図7は、比較例の電動工具における、出力軸の出力トルクと出力軸の回転速度との間の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る電動工具100について、図面を用いて説明する。
【0010】
(1)概要
図1は、一実施形態の電動工具100の概略構成のブロック図を示す。本実施形態の電動工具100は、モータ1と、制御部3と、伝達機構4と、出力軸5と、操作部70と、切替機構9と、を備える。
【0011】
モータ1は、例えばブラシレスモータである。本実施形態のモータ1は、同期電動機であり、より詳細には永久磁石同期電動機(PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor))である。図2に示すように、モータ1は、永久磁石231を有する回転子23と、コイル241を有する固定子24と、を備えている。回転子23は、回転軸26(図1参照)を備えている。回転子23は、コイル241と永久磁石231との電磁的相互作用により、固定子24に対して回転する。
【0012】
出力軸5は、モータ1の動力により回転する部分である。出力軸5には、例えばチャック50を介して、先端工具が取り付けられる。
【0013】
伝達機構4は、モータ1の回転軸26と出力軸5との間に配される。伝達機構4は、モータ1の動力を出力軸5に伝達する。
【0014】
切替機構9は、電動工具100の動作モードを、第1モードと第2モードとに切り替える。第1モードは、出力軸5の出力トルクが変化した場合の出力軸5の回転速度の変化量が、相対的に小さい。第2モードは、出力軸5の出力トルクが変化した場合の出力軸5の回転速度の変化量が、相対的に大きい。
【0015】
より詳細には、切替機構9は、変速機構部90を備えている。変速機構部90は、伝達機構4に備えられており、モータ1と出力軸5との間に配されている。変速機構部90は、モータ1の回転軸26の回転速度を減速したうえで、回転軸26の回転を出力軸5に伝達する。変速機構部90は、回転軸26の回転速度に対する出力軸5の回転速度の比である減速比(変速比)を、切り替え可能に構成されている。電動工具100では、変速機構部90による減速比の切り替えに応じて、出力軸5の出力トルクも変化する。
【0016】
図7に、変速機構部90によって減速比が切り替えられる場合の、出力軸5の出力トルクTと出力軸5の回転速度(回転数)Nとの間の特性(以下、「TN特性」ともいう)の一例を示す。図7において、線L10は、モータ1の回転速度と出力軸5の回転速度との差が相対的に大きい状態(減速比が大きい状態;いわゆる「低速ギア」が用いられている状態)での、TN特性を示す。また、線L20は、モータ1の回転速度と出力軸5の回転速度との差が相対的に小さい状態(減速比が小さい状態;いわゆる「高速ギア」が用いられている状態)での、TN特性を示す。図7に示す例では、出力軸5の出力トルクが閾値Thとなる場合に、減速比の切り替えが行われている。
【0017】
本実施形態の電動工具100では、変速機構部90による減速比の切り替えが、動作モードの切り替えに対応する。すなわち、電動工具100では、変速機構部90により減速比が切り替えられると、動作モードが第1モードと第2モードとで切り替わる。具体的には、減速比が大きい状態(図7のL10参照)が、電動工具100の第1モードに相当し、減速比が小さい状態(図7のL20参照)が、電動工具100の第2モードに相当する。すなわち、第1モードは、出力軸5の回転速度が相対的に低速な動作モードであり、第2モードは、出力軸5の回転速度が相対的に高速な動作モードである。図7に示すように、第1モードでは、出力軸5の出力トルクTが単位量だけ変化した場合の出力軸5の回転速度Nの変化量が、第2モードよりも小さい。
【0018】
操作部70は、使用者からの操作を受け付ける。
【0019】
制御部3は、操作部70への操作に基づき、ベクトル制御により、モータ1の駆動制御を行う。
【0020】
制御部3は、第1モード(減速比が大きい状態)において、弱め磁束制御を行う機能を有する。弱め磁束制御では、制御部3は、永久磁石231の磁束を弱める磁束をコイル241に発生させるための弱め磁束電流を、コイル241に流させる。
【0021】
永久磁石同期電動機のようなモータ1を駆動すると、モータ1には、回転速度に比例した誘起電圧が発生する。この誘起電圧が電源の電圧と等しくなると、モータ1にそれ以上の電流が流せなくなるため、回転速度を上げることができなくなる。弱め磁束制御では、弱め磁束電流をコイル241に流させることで、モータ1で発生する誘起電圧を抑えることができ、モータ1の回転速度を上げることが可能となる。これにより、本実施形態の電動工具100では、第1モードにおいてモータ1の回転速度(回転軸26の回転速度)を増加させることで、出力軸5の回転速度を増加させることが可能となる。これにより、工具による作業の効率化を図ることが可能となる。
【0022】
(2)詳細
以下、本実施形態の電動工具100について、図面を参照して更に詳細に説明する。
【0023】
図1図2に示すように、本実施形態の電動工具100は、モータ1と、インバータ回路部2と、制御部3と、伝達機構4と、出力軸5と、負荷トルク測定部6と、入出力部7と、直流電源8と、切替機構9と、電流測定部110と、を備える。
【0024】
上述のように、モータ1は、ここでは同期電動機である。図2に示すように、モータ1は、永久磁石231を有する回転子23と、コイル241を有する固定子24と、を備えている。
【0025】
直流電源8は、モータ1の駆動に用いられる電源である。直流電源8は、本実施形態では、二次電池を有している。直流電源8は、いわゆる電池パックである。直流電源8は、インバータ回路部2及び制御部3の電源としても利用される。
【0026】
インバータ回路部2は、モータ1を駆動するための回路である。インバータ回路部2は、直流電源8からの電圧Vdcを、モータ1用の駆動電圧Vに変換する。本実施形態では、駆動電圧Vは、U相電圧、V相電圧及びW相電圧を含む三相交流電圧である。以下では、必要に応じて、U相電圧をv、V相電圧をv、W相電圧をvで表す。また、各電圧v,v,vは、正弦波電圧である。
【0027】
インバータ回路部2は、PWMインバータとPWM変換器とを利用して実現できる。PWM変換器は、駆動電圧V(U相電圧v、V相電圧v、W相電圧v)の目標値(電圧指令値)v ,v ,v に従って、パルス幅変調されたPWM信号を生成する。PWMインバータは、このPWM信号に応じた駆動電圧V(v,v,v)をモータ1に与えてモータ1を駆動する。より具体的には、PWMインバータは、三相分のハーフブリッジ回路とドライバとを備える。PWMインバータでは、ドライバがPWM信号に従って各ハーフブリッジ回路におけるスイッチング素子をオン/オフすることにより、電圧指令値v ,v ,v に従った駆動電圧V(v,v,v)がモータ1に与えられる。これによって、モータ1には、駆動電圧V(v,v,v)に応じた駆動電流が供給される。駆動電流は、U相電流i、V相電流i、及びW相電流iを含む。より詳細には、U相電流i、V相電流i、及びW相電流iは、モータ1の固定子24における、U相の電機子巻線の電流、V相の電機子巻線の電流、及びW相の電機子巻線の電流である。
【0028】
電流測定部110は、2つの相電流センサ11を備える。2つの相電流センサ11は、ここでは、インバータ回路部2からモータ1に供給される駆動電流のうちU相電流i及びV相電流iを測定する。なお、W相電流iは、U相電流i及びV相電流iから求めることができる。なお、電流測定部110は、相電流センサ11の代わりに、シャント抵抗等を利用した電流検出器を備えていてもよい。
【0029】
伝達機構4は、モータ1と出力軸5との間に配されている。伝達機構4は、モータ1の動力を出力軸5に伝達する。
【0030】
上述のように、本実施形態の電動工具100では、伝達機構4は、変速機構部90を備えている。出力軸5は、変速機構部90を介して、モータ1の回転軸26(回転子23)に連結されている。出力軸5には、チャック50が結合されている。チャック50には、ドリルビット、ドライバビット等の先端工具が着脱自在に取り付けられる。これにより、伝達機構4は、モータ1の動力を先端工具に伝達して先端工具を駆動する。
【0031】
変速機構部90は、モータ1の回転軸26の回転速度を減速したうえで、回転軸26の回転を出力軸5に伝達する。変速機構部90は、回転軸26の回転速度に対する出力軸5の回転速度の比である減速比を、切り替え可能に構成されている。変速機構部90の減速比は、制御部3が変速切替部91を制御することによって、切り替えられる。
【0032】
図3図4に示すように、変速機構部90は、ギアケース901と、リングギア902と、2つの減速ギア(図示せず;以下、それぞれ「Lギア」、「Hギア」ともいう)と、を備えている。
【0033】
ギアケース901は、円筒状に形成されている。ギアケース901の側面(図4の左右の側面)には、ギアケース901の軸方向(図4の紙面に垂直な方向)に延びる一対の長孔9011が形成されている。
【0034】
リングギア902は、円環状である。リングギア902は、リングギア902の軸方向とギアケース901の軸方向とが一致するように、ギアケース901内に収容されている。リングギア902は、ギアケース901内において、図3に二点鎖線で示す第1位置(モータ1から離れた位置)と、図3に破線で示す第2位置(モータ1に近い位置)と、の間で、軸方向(図3の左右方向)に移動可能となっている。リングギア902は、2つの減速ギアの外歯と噛み合う内歯を有している。
【0035】
2つの減速ギアは、ギアケース901内に収容されている。2つの減速ギアは、ギアケース内において、リングギア902の軸方向(図3の左右方向)に並んで配置されている。2つの減速ギアの各々は、例えば、太陽ギアと複数の遊星ギアとを含む遊星歯車機構を備えている。2つの減速ギアは、リングギア902の軸方向の移動に応じて、択一的にリングギア902と噛み合うように配置されている。2つの減速ギアのうちのLギアは、リングギア902が第1位置(図3に二点鎖線で示す位置)にある場合に、リングギア902と噛み合う。また、2つの減速ギアのうちのHギアは、リングギア902が第2位置(図3に破線で示す位置)にある場合に、リングギア902と噛み合う。
【0036】
2つの減速ギアは、リングギア902と噛み合った場合の減速比が、互いに異なっている。そのため、リングギア902を軸方向に移動させて、リングギア902の内歯をいずれか一方の減速ギアの外歯と噛み合わせることで、減速比が2段階に切り替え可能となっている。
【0037】
変速切替部91は、制御部3(後述の変速制御部32)の制御下で、変速機構部90の減速比を切り替える。変速切替部91は、リングギア902を移動させることで、変速機構部90の減速比を切替える。図3図4に示すように、変速切替部91は、カム部材911と、支持部材912と、変速用アクチュエータ913と、を備えている。
【0038】
カム部材911は、断面円弧状(図3図4の上側が欠けた半円筒状)である。カム部材911は、ギアケース901の外側において、ギアケース901と同心状に配置されている。カム部材911の側面(図3の前側及び後側の側面、図4の左右の側面)には、一対のカム孔9111が形成されている。カム孔9111は、カム部材911の軸方向及び周方向に対して傾斜する方向に延びる作動孔部と、作動孔部の両端部に作動孔部と連続して形成されカム部材911の周方向に沿って延びる一対の保持孔部と、を有している。カム部材911は、カム部材911の一対のカム孔9111とギアケース901の一対の長孔9011とが対向するように、ギアケース901の外側に配置されている。
【0039】
図4に示すように、リングギア902の外周面には、その周方向に沿って延びる円環状の溝が形成されており、この溝に、金属線材からなる支持部材912が配置されている。支持部材912は、リングギア902の溝の底部に沿う半円弧状の支持部9121と、支持部9121の両端から支持部9121の径方向外側へ直線状に延びる一対の突出部9122と、を有している。一対の突出部9122の各々は、ギアケース901の長孔9011及びカム部材911のカム孔9111に、通されている(図3図4参照)。
【0040】
変速用アクチュエータ913は、モータ(サブモータ)とギア9131とを備えている。変速用アクチュエータ913において、ギア9131は、モータの回転軸に結合されている。変速用アクチュエータ913の動作(モータの動作)は、制御部3(変速制御部32)によって制御される。
【0041】
カム部材911の下端には、変速用アクチュエータ913のギア9131に噛み合う歯部9112が設けられている。変速用アクチュエータ913のモータが正転又は逆転すると、ギア9131の回転に応じて、カム部材911がその軸周りで(図4の時計回り又は反時計回りに)回転する。カム部材911が回転すると、その回転に応じて、支持部材912の突出部9122が長孔9011及びカム孔9111内を移動する。突出部9122がカム孔9111の作動孔部内を移動することで、リングギア902が、第1位置と第2位置との間でリングギア902の軸方向(図3の左右方向)に沿って移動する。
【0042】
上述のように、本実施形態の電動工具100では、リングギア902は、第1位置(モータ1から離れた位置)において、Lギアと噛み合う。リングギア902がLギアと噛み合う場合、変速機構部90の減速比は相対的に大きくなり(出力軸5の回転速度が相対的に低速となり)、電動工具100の動作モードは第1モードとなる。また、リングギア902は、第2位置(モータ1に近い位置)において、Hギアと噛み合う。リングギア902がHギアと噛み合う場合、変速機構部90の減速比は相対的に小さくなり(出力軸5の回転速度が相対的に高速となり)、電動工具100の動作モードは第2モードとなる。
【0043】
すなわち、本実施形態の電動工具100では、変速機構部90及び変速切替部91が、電動工具100の動作モードを第1モードと第2モードとに切り替える切替機構9を構成する。
【0044】
なお、変速機構部90及び変速切替部91の構造は上述の構造に限られず、周知の機構を採用できる。
【0045】
負荷トルク測定部6は、出力軸5にかかる負荷トルクを測定する。ここでは、負荷トルク測定部6は、磁歪式歪センサを備える。磁歪式歪センサは、出力軸5にトルクが加わることにより発生する歪みに応じた透磁率の変化を、例えば電動工具100のハウジング(非回転部分)に設置したコイルで検出し、歪みに比例した電圧信号を制御部3へ出力する。
【0046】
入出力部7は、ユーザインタフェースである。入出力部7は、電動工具100の動作に関する表示、電動工具100の動作の設定、及び、電動工具100の操作に利用される装置(例えば、表示器、入力器、操作部70)を備える。本実施形態では、入出力部7は、モータ1の速度の目標値ω を設定する機能を有している。
【0047】
本実施形態では、入出力部7は、ユーザからの操作を受け付ける操作部70を備える。操作部70は、ここではトリガボリューム(トリガスイッチ)である。トリガボリュームは、押しボタンスイッチの一種である。トリガボリュームは、操作量(押し込み量)に応じて操作信号が変化する多段階スイッチ又は無段階スイッチ(可変抵抗器)である。入出力部7は、トリガボリュームからの操作信号に応じて目標値ω を決定し、制御部3(後述のモータ制御部31)に与える。
【0048】
制御部3は、例えば、1以上のプロセッサ(一例としてはマイクロプロセッサ)と1以上のメモリとを含むコンピュータシステムにより実現され得る。つまり、1以上のプロセッサが1以上のメモリに記憶された1以上のプログラムを実行することで、制御部3として機能する。1以上のプログラムは、メモリに予め記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通じて、又はメモリカード等の非一時的な記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0049】
制御部3は、モータ制御部31と、変速制御部32と、を備える。なお、モータ制御部31及び変速制御部32は、必ずしも実体のある構成を示しているわけではなく、制御部3によって実現される機能を示している。
【0050】
変速制御部32は、負荷トルク測定部6の測定結果に基づいて、変速切替部91の動作を制御する。すなわち、制御部3の変速制御部32は、負荷トルク測定部6の測定結果に基づいて、切替機構9により減速比を変更する。
【0051】
変速制御部32は、第1モードにおいて、負荷トルク測定部6で測定された負荷トルクが所定の第1閾値Th1(図6参照)よりも小さくなると、変速切替部91のモータを制御して、リングギア902がLギアと噛み合った状態からHギアと噛み合った状態へと変更させる。これにより、電動工具100の動作モードは、第1モードから第2モードへと変更される。
【0052】
また、変速制御部32は、第2モードにおいて、負荷トルク測定部6で測定された負荷トルクが所定の第2閾値Th2(図6参照)よりも大きくなると、変速切替部91のモータを制御して、リングギア902がHギアと噛み合った状態からLギアと噛み合った状態へと変更させる。これにより、電動工具100の動作モードは、第2モードから第1モードへと変更される。
【0053】
本実施形態の電動工具100では、第1閾値Th1と第2閾値Th2とは等しい。ただし、これに限らず、第1閾値Th1と第2閾値Th2とは互いに異なっていてもよい。
【0054】
本実施形態の電動工具100では、第1閾値Th1及び第2閾値Th2(以下、簡単のため「第1閾値Th1」で代表する)は、減速比が切り替えられた場合に出力軸5の回転速度が急激に変化しないように、定められている。具体的には、電動工具100では、第1回転速度と第2回転速度との差が所定範囲内の値となるように、第1閾値Th1が定められている。第1回転速度は、電動工具100が第1モードで動作する場合における、出力軸5の出力トルクが第1閾値Th1である場合の出力軸5の回転速度である。第2回転速度は、電動工具100が第2モードで動作する場合における、出力軸5の出力トルクが第1閾値Th1である場合の出力軸5の回転速度である。すなわち、出力軸5の出力トルクが第1閾値Th1(或いは第2閾値Th2)である場合に減速比が切り替わることで、出力軸5の回転速度は、第1回転速度から第2回転速度へ(或いは第2回転速度から第1回転速度へ)と変化する。そのため、第1回転速度と第2回転速度との差が所定範囲内の値となるように第1閾値Th1を設定することで、出力軸5の回転速度が急激に変化するのを抑制することが可能となる。
【0055】
要するに、制御部3は、出力軸5の出力トルクの現在値が、第1回転速度と第2回転速度との差が閾値以下となる値の場合に(のみ)、第1モードと第2モードとの切り替えを行う。第1回転速度は、電動工具100が第1モードで動作する場合における、出力トルクの現在値に対応する出力軸5の回転速度である。第2回転速度は、電動工具100が第2モードで動作する場合における、出力トルクの現在値に対応する出力軸5の回転速度である。
【0056】
モータ制御部31は、インバータ回路部2からモータ1に供給される駆動電圧Vを制御することで、モータ1の動作を制御する。モータ制御部31は、入出力部7から与えられるモータ1の速度の目標値ω に基づいて、モータ1の速度の指令値ω を求める。また、モータ制御部31は、モータ1の速度が指令値ω に一致するように、駆動電圧Vの目標値(電圧指令値)v ,v ,v を決定してインバータ回路部2に与える。
【0057】
以下、モータ制御部31について更に詳細に説明する。モータ制御部31は、ベクトル制御を利用して、モータ1の制御を行う。ベクトル制御は、モータ電流を、トルク(回転力)を発生する電流成分(q軸電流)と磁束を発生する電流成分(d軸電流)とに分解し、それぞれの電流成分を独立に制御するモータ制御方式の一種である。
【0058】
図5は、ベクトル制御におけるモータ1の解析モデル図である。図5には、U相、V相、W相の電機子巻線固定軸が示されている。ベクトル制御では、モータ1の回転子23に設けられた永久磁石231が作る磁束の回転速度と同じ速度で回転する回転座標系が考慮される。回転座標系において、永久磁石231が作る磁束の方向をd軸にとり、d軸に対応する制御上の回転軸をγ軸とする。また、d軸から電気角で90度進んだ位相にq軸をとり、γ軸から電気角で90度進んだ位相にδ軸をとる。実軸に対応する回転座標系はd軸とq軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をdq軸と呼ぶ。制御上の回転座標系はγ軸とδ軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をγδ軸と呼ぶ。
【0059】
dq軸は回転しており、その回転速度をωで表す。γδ軸も回転しており、その回転速度をωで表す。また、dq軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たd軸の角度(位相)をθで表す。同様に、γδ軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たγ軸の角度(位相)をθで表す。θ及びθにて表される角度は、電気角における角度であり、それらは一般的に回転子位置又は磁極位置とも呼ばれる。ω及びωにて表される回転速度は、電気角における角速度である。以下、必要に応じて、θ又はθを、回転子位置と呼び、ω又はωを単に速度と呼ぶことがある。速度ω及び回転子位置θは、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを用いてモータ1の回転角を測定するモータ回転測定部25(図1参照)の測定結果に基づいて、求めることができる。
【0060】
モータ制御部31は、基本的に、θとθとが一致するようにベクトル制御を行う。θとθとが一致しているとき、d軸及びq軸は夫々γ軸及びδ軸と一致することになる。なお、以下の説明では、必要に応じて、駆動電圧Vのγ軸成分及びδ軸成分を、それぞれγ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδで表し、駆動電流のγ軸成分及びδ軸成分を、それぞれγ軸電流iγ及びδ軸電流iδで表す。
【0061】
また、γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδの目標値を表す電圧指令値を、それぞれγ軸電圧指令値vγ 及びδ軸電圧指令値vδ により表す。γ軸電流iγ及びδ軸電流iδの目標値を表す電流指令値を、それぞれγ軸電流指令値iγ 及びδ軸電流指令値iδ により表す。
【0062】
モータ制御部31は、γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδの値がそれぞれγ軸電圧指令値vγ 及びδ軸電圧指令値vδ に追従しかつγ軸電流iγ及びδ軸電流iδの値がそれぞれγ軸電流指令値iγ 及びδ軸電流指令値iδ に追従するようにベクトル制御を行う。
【0063】
モータ制御部31は、所定の更新周期にて自身が算出(又は検出)して出力する指令値(iγ 、iδ 、vγ 、vδ 、v 、v 及びv )、状態量(i、i、iγ、iδ、θ及びω)を、更新する。
【0064】
モータ制御部31の制御は、通常制御と、弱め磁束制御と、を含む。
【0065】
モータ制御部31は、通常制御では、インバータ回路部2からコイル241にd軸電流を流させない。一方、モータ制御部31は、弱め磁束制御では、インバータ回路部2からモータ1のコイル241にd軸電流を流させる。弱め磁束制御において、インバータ回路部2からコイル241に流させるd軸電流の向きは、永久磁石231の磁束を弱める磁束(永久磁石231の磁束を打ち消す向きの磁束)をコイル241に発生させる向きである。そのため、本開示では、弱め磁束制御においてインバータ回路部2からコイル241に供給されるd軸電流を、「弱め磁束電流」ともいう。
【0066】
モータ制御部31は、所定の切替条件が満たされる場合に、コイル241に弱め磁束電流を流す。すなわち、切替条件が満たされる場合に、モータ制御部31の制御は弱め磁束制御となる。切替条件は、第1モードにおいて、モータ1が高速域で動作していることを含む。また、切替条件は、q軸電流の値が所定の閾値以下であることを含む。
【0067】
本実施形態の電動工具100では、「モータ1が高速域で動作している」とは、「モータ1の速度ωが閾値速度以上であること」を含む。なお、「モータ1が高速域で動作している」とは、「モータ1の速度ωが閾値速度以上であること」に代えて或いは加えて、「PWM制御のデューティがデューティ閾値以上であること」を含んでもよい。PWM制御のデューティは、PWM信号の一周期中のオン期間を一周期の長さで割った値である。
【0068】
モータ制御部31は、図2に示すように、座標変換器12と、減算器13と、減算器14と、電流制御部15と、磁束制御部16と、速度制御部17と、座標変換器18と、減算器19と、位置・速度推定部20と、脱調検出部21と、指令値生成部22と、を備える。なお、座標変換器12、減算器13,14,19、電流制御部15、磁束制御部16、速度制御部17、座標変換器18、位置・速度推定部20、脱調検出部21、及び指令値生成部22は、モータ制御部31によって実現される機能を示している。よって、モータ制御部31の各要素は、モータ制御部31内で生成された各値を自由に利用可能となっている。
【0069】
指令値生成部22は、モータ1の速度の指令値ω を生成する。指令値生成部22は、入出力部7から受け取った目標値ω に基づいて、指令値ω を求める。
【0070】
座標変換器12は、回転子位置θに基づいてU相電流i及びV相電流iをγδ軸上に座標変換することにより、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδを算出して出力する。ここで、γ軸電流iγは、d軸電流に対応し、励磁的な電流であり、トルクには殆ど寄与しない電流である。δ軸電流iδは、q軸電流に対応し、トルクに大きく寄与する電流である。回転子位置θは、位置・速度推定部20にて算出される。
【0071】
減算器19は、速度ωと指令値ω とを参照し、両者間の速度偏差(ω -ω)を算出する。速度ωは、位置・速度推定部20にて算出される。
【0072】
速度制御部17は、比例積分制御などを用いることによって、速度偏差(ω -ω)がゼロに収束するようにδ軸電流指令値iδ を算出して出力する。
【0073】
磁束制御部16は、γ軸電流指令値iγ を決定して減算器13に出力する。γ軸電流指令値iγ は、制御部3にて実行されるベクトル制御の種類、モータ1の速度ω等に応じて、様々な値をとりうる。
【0074】
モータ制御部31の制御が通常制御の場合、磁束制御部16で生成されるγ軸電流指令値iγ は、d軸電流を0にする(d軸電流を流させない)ための指令値となる。モータ制御部31の制御が弱め磁束制御の場合、磁束制御部16は、例えばデータテーブルを参照して、γ軸電流指令値iγ を決定(調整)する。データテーブルでは、例えば、速度ωとδ軸電流指令値iδ とに対して、γ軸電流指令値iγ が対応付けられている。そのため、制御部3のモータ制御部31では、弱め磁束制御において、q軸電流(トルクを発生する電流成分)及びモータ1の速度に応じて、弱め磁束電流(d軸電流)の大きさが変更される。
【0075】
減算器13は、磁束制御部16から出力されるγ軸電流指令値iγ より座標変換器12から出力されるγ軸電流iγを減算し、電流誤差(iγ -iγ)を算出する。減算器14は、速度制御部17から出力される値iδ より座標変換器12から出力されるδ軸電流iδを減算し、電流誤差(iδ -iδ)を算出する。
【0076】
電流制御部15は、電流誤差(iγ -iγ)及び(iδ -iδ)が共にゼロに収束するように、比例積分制御などを用いた電流フィードバック制御を行う。この際、γ軸とδ軸との間の干渉を排除するための非干渉制御を利用し、(iγ -iγ)及び(iδ -iδ)が共にゼロに収束するようにγ軸電圧指令値vγ 及びδ軸電圧指令値vδ を算出する。
【0077】
座標変換器18は、位置・速度推定部20から出力される回転子位置θに基づいて電流制御部15から与えられたγ軸電圧指令値vγ 及びδ軸電圧指令値vδ を三相の固定座標軸上に座標変換することにより、電圧指令値(v 、v 及びv )を算出して出力する。
【0078】
位置・速度推定部20は、回転子位置θ及び速度ωを推定する。より詳細には、位置・速度推定部20は、座標変換器12からのiγ及びiδ並びに電流制御部15からのvγ 及びvδ の内の全部又は一部を用いて、比例積分制御等を行う。位置・速度推定部20は、d軸とγ軸との間の軸誤差(θ-θ)がゼロに収束するように回転子位置θ及び速度ωを推定する。なお、回転子位置θ及び速度ωの推定手法として従来から様々な手法が提案されており、位置・速度推定部20は公知の何れの手法をも採用可能である。
【0079】
インバータ回路部2は、座標変換器18からの電圧指令値(v 、v 及びv )に応じた三相電圧を、モータ1に供給する。モータ1は、インバータ回路部2から供給された電力(三相電圧)により駆動され、回転動力を発生させる。
【0080】
この結果、モータ制御部31は、モータ1のコイル241に流れるd軸電流(弱め磁束電流)が、磁束制御部16で生成されたγ軸電流指令値iγ に対応した大きさとなるように、インバータ回路部2からモータ1に供給される電流を制御する。また、モータ制御部31は、モータ1の速度が、指令値生成部22で生成された指令値ω に対応した速度となるように、モータ1の速度を制御する。
【0081】
脱調検出部21は、モータ1が脱調しているか否かを判定する。より詳細には、脱調検出部21は、モータ1の磁束に基づいて、モータ1が脱調しているか否かを判定する。モータ1の磁束は、d軸電流及びq軸電流及びγ軸電圧指令値vγ 及びδ軸電圧指令値vδ から求められる。脱調検出部21は、モータ1の磁束の振幅が閾値未満であれば、モータ1が脱調していると判断してよい。なお、閾値は、モータ1の永久磁石231が作る磁束の振幅に基づいて適宜定められる。なお、脱調検出手法として従来から様々な手法が提案されており、脱調検出部21は公知の何れの手法をも採用可能である。
【0082】
上述のように、本実施形態の電動工具100では、制御部3のモータ制御部31が、第1モードにおいて弱め磁束制御を行う機能を有している。弱め磁束制御では、モータ制御部31は、弱め磁束電流をコイル241に流させる。これにより、永久磁石231からコイル241に作用する磁束が、実質的に弱められる。
【0083】
永久磁石同期電動機のようなモータでは、理想的には、トルクと回転速度との間にはトルクに対して回転速度が逆比例する関係(トルクの増加に対して、回転速度が線形に減少する関係)があることが知られている。この関係式の比例定数(トルクと回転速度との間の関係を示すグラフの傾き)は、モータ1の逆起電力定数Kとトルク定数Kとの積に反比例する。逆起電力定数K及びトルク定数Kの各々は、永久磁石からコイルに作用する磁束に比例する。そのため、上記関係式の比例定数は、磁束に応じて変化(磁束の二乗に反比例)する。
【0084】
そのため、本実施形態の電動工具100では、第1モードにおいて、永久磁石231からコイル241に作用する磁束を弱め磁束制御によって実質的に弱めることで、通常制御の場合と比べて、TN特性(上記関係式の比例定数)を変更することが可能となる。例えば、第1モードにおいて、TN特性を、図6に線L11で示す通常制御の場合(d軸電流が0の場合)の特性から、線L12で示す特性へと変更することが可能となる。
【0085】
なお、図6に示す例では、第1モードにおいて、出力軸5の出力トルク(負荷トルク測定部6の測定結果)が線L11と線L12との交点P1で示される値となったときに、通常制御と弱め磁束制御とが切り替えられている。出力トルクが交点P1での値よりも大きな場合に通常制御が行われ、出力トルクが交点P1での値よりも小さな場合に弱め磁束制御が行われる。
【0086】
また、図6に示す例では、出力軸5の出力トルクが閾値Th1、Th2となったときに、第1モードと第2モードとが切り替えられている。出力トルクが閾値Th1,Th2よりも大きな場合に第1モードとなり、出力トルクが閾値Th1,Th2よりも小さな場合に第2モードとなる。
【0087】
(3)利点
以下、本実施形態の電動工具100の有する利点について、比較例の電動工具との比較を交えて説明する。比較例の電動工具は、制御部が第1モードにおいて弱め磁束制御を行う機能を有さない点で、本実施形態の電動工具100と相違する。
【0088】
図7は、比較例の電動工具におけるTN特性を示す説明図である。図7における線L10は、比較例の電動工具の第1モードにおける特性を示す。図7における線L20は、比較例の電動工具の第2モードにおける特性を示す。
【0089】
図6は、本実施形態の電動工具100におけるTN特性を示す説明図である。図6における線L1は、電動工具100の第1モードにおける特性を示す。図6における線L2は、電動工具100の第2モードにおける特性を示す。上述のように、電動工具100では、第1モードにおける特性を示す線L1は、線L11(通常制御における特性)と線L12(弱め磁束制御における特性)とを含んでいる。
【0090】
図7に示すように、比較例の電動工具では、第1モードの全てのトルク領域において、出力軸の回転速度Nが出力軸の出力トルクTに比例している。一方、図6に示すように、本実施形態の電動工具100では、第1モードにおいて弱め磁束制御を行うことで、第1モードの低トルク領域において、出力軸5の回転速度を増加させることが可能となる(線L12参照)。これにより、工具による作業の効率化を図ることが可能となる。
【0091】
特に、制御部3は、切替機構9により動作モードが第2モード(線L2参照)から第1モード(線L1参照)へと切り替えられた後の第1モードでの動作時に、弱め磁束制御を行うことが好ましい。
【0092】
例えば、電動工具100により孔空け作業を行う場合、作業開始時の出力トルクは0であるため、電動工具100は、第2モードで動作を開始する。そして、孔空けの進行につれて出力軸5の出力トルクが0から徐々に増加していき、閾値Th2になると、電動工具100の動作モードが第2モードから第1モードへと切り替わる。電動工具100では、この第1モードへの切り替わりの時点で弱め磁束制御が行われれば、出力軸5の回転速度の変化量は、図6に示すN2とN1との差分となる。そのため、第1モードへの切り替わりの時点で弱め磁束制御が行われない場合の回転速度の変化量(図6に示すN2とN0との差分)に比べて、変化量を小さくすることが可能となる。
【0093】
同様に、制御部3は、切替機構9により動作モードが第1モード(線L1参照)から第2モード(線L2参照)へ切り替えられる前の第1モードでの動作時に、弱め磁束制御を行うことが好ましい。
【0094】
例えば、電動工具100によりネジを緩める作業を行う場合、作業開始時に所定の出力トルクが必要であるため、電動工具100は、第1モードで動作を開始する。そして、ネジを緩めるにつれて出力軸5の出力トルクが徐々に減少していき、閾値Th1になると、電動工具100の動作モードが第1モードから第2モードへと切り替わる。電動工具100では、この第2モードへの切り替わりの時点で弱め磁束制御が行われていれば、出力軸5の回転速度の変化量は、図6に示すN1とN2との差分となる。そのため、第2モードへの切り替わりの時点で弱め磁束制御が行われない場合の回転速度の変化量(図6に示すN0とN2との差分)に比べて、変化量を小さくすることが可能となる。
【0095】
もちろん、制御部3は、切替機構9により動作モードが第2モードから第1モードへ切り替えられた後の第1モードでの動作時及び第1モードから第2モードへ切り替えられる前の第1モードでの動作時の両方において、弱め磁束制御を行ってもよい。
【0096】
(4)変形例
本開示の実施形態は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0097】
以下、上述の実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0098】
切替機構9は、変速機構部90及び変速切替部91を備える構成に限られない。一変形例において、モータ1は、コイル241と永久磁石231との間の磁束が可変な可変界磁モータであってもよい。そして、切替機構9は、コイル241と永久磁石231との間の磁束を変化させることで、第1モードと第2モードとを切り替えてもよい。可変界磁モータとしては、例えば、回転子23(永久磁石231)と固定子24(コイル241のコア)との間の相対位置を、機械的に変更可能なモータが挙げられる。一具体例の可変界磁モータは、アウタロータ型の回転子23及び固定子24を備え、アクチュエータによって、回転子23の軸方向に沿って固定子24が移動可能であってもよい。
【0099】
一変形例において、電動工具100は、切替スイッチを更に備えてもよい。切替スイッチは、使用者からの操作を受けて、弱め磁束制御を行う機能の有効と無効とを切り替える。すなわち、弱め磁束制御を行う機能が有効な場合、電動工具100のTN特性は例えば図6の特性に従い、弱め磁束制御を行う機能が無効な場合、電動工具100のTN特性は例えば図7の特性に従うこととなる。
【0100】
一変形例において、負荷トルク測定部6は、モータ1にかかる負荷トルクを測定してもよい。この場合、制御部3は、負荷トルク測定部6の測定結果に基づいて、出力軸5にかかる負荷トルクを求めてもよい。
【0101】
一変形例において、制御部3は、第2モードにおいても弱め磁束制御を行ってもよい。
【0102】
一変形例において、切替機構9による切り替えは、三段階以上の多段階で行われてもよい。
【0103】
(5)まとめ
以上述べたように、第1の態様の電動工具(100)は、モータ(1)と、操作部(70)と、制御部(3)と、伝達機構(4)と、切替機構(9)と、を備える。モータ(1)は、永久磁石(231)及びコイル(241)を有する。操作部(70)は、使用者からの操作を受け付ける。制御部(3)は、操作部(70)への操作に基づき、モータ(1)の駆動制御を行う。伝達機構(4)は、モータ(1)の動力を出力軸(5)に伝達する。切替機構(9)は、電動工具(100)の動作モードを第1モードと第2モードとに切り替える。電動工具(100)において、第1モードでは、出力軸(5)の出力トルクが単位量変化した場合の出力軸(5)の回転速度の変化量が、第2モードよりも小さい。制御部(3)は、第1モードにおいて、永久磁石(131)の磁束を弱める磁束をコイル(141)に発生させるための弱め磁束電流をコイル(141)に流させる弱め磁束制御を行う機能を有する。
【0104】
この態様によれば、工具による作業の効率化を図ることが可能となる。
【0105】
第2の態様の電動工具(100)は、第1の態様において、負荷トルク測定部(6)を更に備える。負荷トルク測定部(6)は、モータ(1)又は出力軸(5)にかかる負荷トルクを測定する。切替機構(9)は、モータ(1)の回転速度に対する出力軸(5)の回転速度の比である減速比を切り替えることで、第1モードと第2モードとを切り替える。制御部(3)は、負荷トルク測定部(6)の測定結果に基づいて、切替機構(9)により減速比を変更する。
【0106】
この態様によれば、制御部(3)が切替機構(9)の減速比を切り替えることで、電動工具(100)の動作モードを第1モードと第2モードとに切り替えることが可能となる。
【0107】
第3の態様の電動工具(100)では、第1の態様において、モータ(1)は、コイル(241)と永久磁石(231)との間の磁束が可変な可変界磁モータである。切替機構(9)は、コイル(241)と永久磁石(231)との間の磁束を変化させることで、第1モードと第2モードとを切り替える。
【0108】
この態様によれば、可変界磁モータのコイル(241)と永久磁石(231)との間の磁束を変化させることで、電動工具(100)の動作モードを第1モードと第2モードとに切り替えることが可能となる。
【0109】
第4の態様の電動工具(100)では、第1~第3のいずれか1つの態様において、制御部(3)は、切替機構(9)により動作モードが第2モードから第1モードへ切り替えられた後の第1モードでの動作時に、弱め磁束制御を行う。
【0110】
この態様によれば、動作モードが第2モードから第1モードへ切り替えられた後の第1モードでの動作時に、弱め磁束制御が行われる。そのため、弱め磁束制御が行われない場合に比べて、第2モードから第1モードへの切り替え時における出力軸5の回転速度の変化量を小さくすることが可能となる。
【0111】
第5の態様の電動工具(100)では、第1~第4のいずれか1つの態様において、制御部(3)は、切替機構(9)により動作モードが第1モードから第2モードへ切り替えられる前の第1モードでの動作時に、弱め磁束制御を行う。
【0112】
この態様によれば、動作モードが第1モードから第2モードへ切り替えられる前の第1モードでの動作時に、弱め磁束制御が行われる。そのため、弱め磁束制御が行われない場合に比べて、第1モードから第2モードへの切り替え時における出力軸5の回転速度の変化量を小さくすることが可能となる。
【0113】
第6の態様の電動工具(100)では、第1~第3のいずれか1つの態様において、制御部(3)は、切替機構(9)により動作モードが第2モードから第1モードへ切り替えられた後の第1モードでの動作時及び第1モードから第2モードへ切り替えられる前の第1モードでの動作時に、弱め磁束制御を行う。
【0114】
この態様によれば、弱め磁束制御が行われない場合に比べて、第1モードから第2モードへの切り替え時及び第1モードから第2モードへの切り替え時における出力軸5の回転速度の変化量を、小さくすることが可能となる。
【0115】
第7の態様の電動工具(100)では、第1~第6のいずれか1つの態様において、制御部(3)は、弱め磁束制御において、出力軸(5)の出力トルクに応じて、弱め磁束電流の大きさを変更する。
【0116】
この態様によれば、第1モードにおいて、弱め磁束を変更することが可能となる。
【0117】
第8の態様の電動工具(100)では、第1~第7のいずれか1つの態様において、第1回転速度と第2回転速度との差が閾値以下となる場合に、第1モードと第2モードとの切り替えを行う。第1回転速度は、電動工具(100)が第1モードで動作する場合における、出力トルクの現在値に対応する出力軸(5)の回転速度である。第2回転速度は、電動工具(100)が第2モードで動作する場合における、出力トルクの現在値に対応する出力軸(5)の回転速度である。
【0118】
この態様によれば、第1回転速度と第2回転速度との差が大きすぎない範囲で、電動工具(100)の動作モードが切り替えられる。そのため、出力軸(5)の回転速度が急激に変化するのを抑制することが可能となる。
【0119】
第9の態様の電動工具(100)は、第1~第8のいずれか1つの態様において、切替スイッチを更に備える。切替スイッチは、使用者からの操作を受けて、弱め磁束制御を行う機能の有効と無効とを切り替える。
【0120】
この態様によれば、使用者が、電動工具(100)の用途等に応じて、弱め磁束制御を行う機能の有効と無効とを切り替えることが可能となる。
【符号の説明】
【0121】
1 モータ
231 永久磁石
241 コイル
3 制御部
4 伝達機構
5 出力軸
70 操作部
9 切替機構
100 電動工具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7