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特許7365631ホスホン酸又はホスホン酸エステル構造を有するコア-シェル型高分子微粒子、粒子分散液、成形体及び前記微粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】ホスホン酸又はホスホン酸エステル構造を有するコア-シェル型高分子微粒子、粒子分散液、成形体及び前記微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 275/00 20060101AFI20231013BHJP
   C08F 271/02 20060101ALI20231013BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C08F275/00
C08F271/02
C08L51/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019159624
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021038296
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 伸治
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 雅大
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-515633(JP,A)
【文献】特表2007-531726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 275/00
C08F 271/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル部が、ビニルホスホン酸又はビニルホスホン酸エステルに由来する繰り返し単位(a)及び下記式(α)で表される繰り返し単位(b)を有する共重合体を含み、且つコア部が、疎水性重合体(c)を含疎水性重合体(c)が、線状重合体であり、且つオレフィン、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸アルキル、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、及び飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルから選ばれる1種又は2種以上の単量体に由来するものであり、前記共重合体の含有量が、シェル部を構成する重合体中90~100質量%であり、疎水性重合体(c)の含有量が、コア部を構成する重合体中90~100質量%であり、繰り返し単位(a)の含有量が、前記共重合体の全繰り返し単位中、30モル%以上であり、繰り返し単位(b)の含有量が、前記共重合体の全繰り返し単位中、30モル%以上であり、前記共重合体と疎水性重合体(c)との含有質量比が、10:1~1:10の範囲であり、平均粒子径が100~2000nmである、コア-シェル型高分子微粒子。
【化1】
[式(α)中、
aは、水素原子又はメチル基を示し、
bは、単結合又はカルボニル基を示し、
環Q1は、置換又は非置換の4~10員環の含窒素複素環を示す。]
【請求項2】
前記シェル部が、繰り返し単位(a)及び繰り返し単位(b)を有する共重合体から構成され、且つ前記コア部が、疎水性重合体(c)から構成されるものである、請求項1に記載の微粒子。
【請求項3】
繰り返し単位(a)が、下記式(1)
【化2】
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。但し、R1及びR2がともにアルキル基である場合、式(1)中の酸素原子及びリン原子と一緒になって環を形成していてもよい。]
で表されるものである、請求項1又は2に記載の微粒子。
【請求項4】
1 及びR 2 が、置換又は非置換の炭素数1~6のアルキル基である、請求項3に記載の微粒子。
【請求項5】
環Q1が、置換又は非置換のピロリドン環である、請求項1~のいずれか1項に記載の微粒子。
【請求項6】
繰り返し単位(a)の含有量が、前記共重合体の全繰り返し単位中、30~70モル%であり、繰り返し単位(b)の含有量が、前記共重合体の全繰り返し単位中、30~70モル%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の微粒子。
【請求項7】
繰り返し単位(a)及び繰り返し単位(b)を有し、繰り返し単位(a)の含有量が、共重合体の全繰り返し単位中、30モル%以上であり、繰り返し単位(b)の含有量が、共重合体の全繰り返し単位中、30モル%以上である共重合体と、オレフィン、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸アルキル、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、及び飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルから選ばれる1種又は2種以上の疎水性単量体とを水性媒体中で乳化重合させて得られるものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の微粒子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の微粒子が分散している粒子分散液。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の微粒子を含有する成形体。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の微粒子を製造する方法であって、ビニルホスホン酸又はビニルホスホン酸エステルに由来する繰り返し単位(a)及び下記式(α)で表される繰り返し単位(b)を有し、繰り返し単位(a)の含有量が、共重合体の全繰り返し単位中、30モル%以上であり、繰り返し単位(b)の含有量が、共重合体の全繰り返し単位中、30モル%以上である共重合体と、オレフィン、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸アルキル、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、及び飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルから選ばれる1種又は2種以上の疎水性単量体とを水性媒体中で乳化重合させる重合工程を含む、コア-シェル型高分子微粒子の製造方法。
【化3】
[式(α)中、
aは、水素原子又はメチル基を示し、
bは、単結合又はカルボニル基を示し、
環Q1は、置換又は非置換の4~10員環の含窒素複素環を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホン酸又はホスホン酸エステル構造を有するコア-シェル型高分子微粒子、粒子分散液、成形体及び前記微粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子微粒子は、優れた分散性を示すことが知られており、塗料や接着剤、化粧品等の分散剤として用いられている。中でも、コア-シェル型高分子微粒子が近年注目されており、粒子のコア部(中心部)とシェル部(表面部)を形成する高分子量体の種類をそれぞれ選定して、医療用途や触媒、電池用材料、樹脂改質剤等に応用することも検討されている。
【0003】
このようなコア-シェル型高分子微粒子として、例えば、ポリヒドロキシプロピルメタクリレートのコア部やポリ酢酸ビニルのコア部に、水中での安定性を向上させるために、シェル部としてポリ(N-ビニル-2-ピロリドン)を導入したものが知られている(非特許文献1、2)。
また、架橋構造を有するコア-シェル型高分子微粒子を、クロロスルホン酸を使用してスルホン化することでプロトン伝導性を付与する技術が提案されている(特許文献1)。
また、コア-シェル型高分子微粒子を電池用材料や樹脂改質剤等として使用する場合に難燃性が求められるが、最近では難燃性の更なる改善が要求されるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5464935号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Soft Matter,2007,3,1003-1013
【文献】Macromolecules,2014,47,3461-3472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、水性媒体に対して良好な分散性を示し、且つ優れた難燃性を有するコア-シェル型高分子微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ビニルホスホン酸又はビニルホスホン酸エステルに由来する繰り返し単位(a)及び含窒素複素環を側鎖にもつ特定の繰り返し単位(b)を有する共重合体をシェル部とし、且つ疎水性重合体(c)をコア部としたコア-シェル型高分子微粒子が、水性媒体に対して良好な分散性を示し、且つ優れた難燃性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<10>を提供するものである。
<1> シェル部が、ビニルホスホン酸又はビニルホスホン酸エステルに由来する繰り返し単位(a)及び下記式(α)で表される繰り返し単位(b)を有する共重合体を含み、且つコア部が、疎水性重合体(c)を含む、コア-シェル型高分子微粒子(以下、「本発明の微粒子」とも称する)。
【0009】
【化1】
【0010】
[式(α)中、
aは、水素原子又はメチル基を示し、
bは、単結合又はカルボニル基を示し、
環Q1は、置換又は非置換の4~10員環の含窒素複素環を示す。]
【0011】
<2> 前記シェル部が、繰り返し単位(a)及び繰り返し単位(b)を有する共重合体から構成され、且つ前記コア部が、疎水性重合体(c)から構成されるものである、前記<1>に記載の微粒子。
<3> 繰り返し単位(a)が、下記式(1)
【0012】
【化2】
【0013】
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。但し、R1及びR2がともにアルキル基である場合、式(1)中の酸素原子及びリン原子と一緒になって環を形成していてもよい。]
で表されるものである、前記<1>又は<2>に記載の微粒子。
【0014】
<4> 環Q1が、置換又は非置換のピロリドン環である、前記<1>~<3>のいずれかに記載の微粒子。
<5> 前記疎水性重合体(c)が、オレフィン、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、及び飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルから選ばれる1種又は2種以上の単量体に由来するものである、前記<1>~<4>のいずれかに記載の微粒子。
<6> 平均粒子径が100~2000nmである、前記<1>~<5>のいずれかに記載の微粒子。
<7> 繰り返し単位(a)及び繰り返し単位(b)を有する共重合体と、疎水性単量体とを水性媒体中で乳化重合させて得られるものである、前記<1>~<6>のいずれかに記載の微粒子。
【0015】
<8> 前記<1>~<7>のいずれかに記載の微粒子が分散している粒子分散液(以下、「本発明の粒子分散液」とも称する)。
<9> 前記<1>~<7>のいずれかに記載の微粒子を含有する成形体(以下、「本発明の成形体」とも称する)。
<10> ビニルホスホン酸又はビニルホスホン酸エステルに由来する繰り返し単位(a)及び下記式(α)で表される繰り返し単位(b)を有する共重合体と、疎水性単量体とを水性媒体中で乳化重合させる重合工程を含む、コア-シェル型高分子微粒子の製造方法(以下、「本発明の微粒子製造方法」とも称する)。
【0016】
【化3】
【0017】
[式(α)中、
aは、水素原子又はメチル基を示し、
bは、単結合又はカルボニル基を示し、
環Q1は、置換又は非置換の4~10員環の含窒素複素環を示す。]
【発明の効果】
【0018】
本発明の微粒子は、水性媒体に対して良好な分散性を示し、且つ優れた難燃性を有する。また、温和な条件下で安定的且つ効率的に製造可能である。
また、本発明の微粒子製造方法によれば、水性媒体に対して良好な分散性を示し、且つ優れた難燃性を有するコア-シェル型高分子微粒子を、温和な条件下で安定的且つ効率的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1で得られた微粒子のSEM像を示す図である。
図2】実施例1で得られた微粒子の重クロロホルム中での1H NMRスペクトルを示す図である。
図3】実施例1で得られた微粒子の重水中での1H NMRスペクトルを示す図である。
図4】実施例2で得られた微粒子のSEM像を示す図である。
図5】実施例3で得られた微粒子のSEM像を示す図である。
図6】実施例5で得られた微粒子のTEM像を示す図である。
図7】実施例6で得られた微粒子のSEM像を示す図である。
図8】実施例7で得られた微粒子のSEM像を示す図である。
図9】試験例2の燃焼試験時のサンプルの経時変化を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔高分子微粒子〕
本発明の微粒子は、シェル部が、ビニルホスホン酸又はビニルホスホン酸エステルに由来する繰り返し単位(a)及び上記式(α)で表される繰り返し単位(b)を有する共重合体(以下、「共重合体(X)」とも称する)を含み、且つコア部が、疎水性重合体(c)を含む、コア-シェル型高分子微粒子である。まず、本発明の微粒子について詳細に説明する。
【0021】
本発明の微粒子において、シェル部は、コア部表面の一部又は全部を覆うようにして設けられている。本発明の微粒子としては、分散性や難燃性等の機能性や製造容易性の観点から、共重合体(X)の含有量が、シェル部を構成する重合体中90~100質量%であり、疎水性重合体(c)の含有量が、コア部を構成する重合体中90~100質量%であるものが好ましく、シェル部が共重合体(X)から構成され、且つコア部が疎水性重合体(c)から構成されるものがより好ましい。
【0022】
(繰り返し単位(a))
繰り返し単位(a)は、ビニルホスホン酸又はビニルホスホン酸エステルに由来する繰り返し単位である。シェル部の重合体に繰り返し単位(a)を含有せしめることにより、優れた難燃性が得られる。また、金属化合物とともに分散媒に加えた場合に、金属化合物の分散性を微粒子が大幅に改善させることができるようになる。
【0023】
繰り返し単位(a)としては、微粒子の機能性や安定性、製造容易性等の観点から、下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0024】
【化4】
【0025】
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。但し、R1及びR2がともにアルキル基である場合、式(1)中の酸素原子及びリン原子と一緒になって環を形成していてもよい。]
【0026】
式(1)中のR1、R2としては、微粒子の機能性や安定性、製造容易性等の観点から、置換又は非置換の炭素数1~6のアルキル基が好ましい。R1及びR2が炭素数1~6のアルキル基である場合、少ない工程数で容易に製造が可能でありながらも、難燃性や水性媒体中での分散性に優れたものとなる。
式(1)中、R1、R2で示されるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~3であり、特に好ましくは1又は2である。アルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
【0027】
1、R2で示されるアルキル基は、置換基を有していても置換基を有していなくてもよい。当該置換基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子等が挙げられる。なお、置換基の置換位置及び置換個数は任意であり、置換基を2個以上有する場合、当該置換基は同一でも異なっていてもよい。
また、R1及びR2が式(1)中の酸素原子及びリン原子と一緒になって形成していてもよい環としては、ホスホン酸1,2-エタンジイル環、ホスホン酸2,3-ジメチル-2,3-ブタンジイル環、ホスホン酸1,3-プロパンジイル環、ホスホン酸2,2-ジメチル-1,3-プロパンジイル環等の総炭素数2~10(好ましくは総炭素数3~6)のホスホン酸アルカンジイル環が挙げられる。
【0028】
また、繰り返し単位(a)を与える単量体のうち、ビニルホスホン酸エステルとしては、例えば、ビニルホスホン酸メチル、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸エチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ビス(2-クロロエチル)、ビニルホスホン酸ジn-プロピル、ビニルホスホン酸ジイソプロピル、エテニルホスホン酸2,3-ジメチル-2,3-ブタンジイル、エテニルホスホン酸1,3-プロパンジイル、エテニルホスホン酸2,2-ジメチル-1,3-プロパンジイル等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、繰り返し単位(a)を与える単量体の中では、水性媒体中での分散性や製造容易性等の観点から、ビニルホスホン酸、ビニルホスホン酸ジメチルが好ましく、ビニルホスホン酸ジメチルが特に好ましい。
【0029】
繰り返し単位(a)の含有量としては、難燃性や水性媒体中での分散性等の観点から、共重合体(X)の全繰り返し単位中、10~90モル%が好ましく、20~80モル%がより好ましく、30~70モル%が特に好ましい。
なお、共重合体(X)に含まれる各繰り返し単位の含有量は、1H NMR等で測定された値をいう。
【0030】
(繰り返し単位(b))
繰り返し単位(b)は、式(α)で表されるものである。シェル部の重合体に繰り返し単位(b)を含有せしめることにより、水性媒体中での分散性が改善される。
【0031】
【化5】
【0032】
[式(α)中、
aは、水素原子又はメチル基を示し、
bは、単結合又はカルボニル基を示し、
環Q1は、置換又は非置換の4~10員環の含窒素複素環を示す。]
【0033】
環Q1で示される含窒素複素環は4~10員環であるが、5~7員環が好ましく、5~6員環がより好ましく、5員環が特に好ましい。
また、含窒素複素環は、置換基を有していても置換基を有していなくてもよい。当該置換基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子;水酸基;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1~3程度のアルキル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシn-プロピル基、ヒドロキシイソプロピル基等の炭素数1~3程度のヒドロキシアルキル基等が挙げられる。なお、置換基の置換位置及び置換個数は任意であり、置換基を2個以上有する場合、当該置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0034】
環Q1としては、置換又は非置換のピロリドン環、置換又は非置換のモルホリン環、置換又は非置換のピペリジン環、置換又は非置換のピロリジン環、置換又は非置換のピペリドン環、置換又は非置換のピペラジン環、置換又は非置換のカプロラクタム環等が挙げられる。
これらの中では、難燃性や水性媒体中での分散性等の観点から、置換又は非置換のピロリドン環、置換又は非置換のモルホリン環、置換又は非置換のピペリジン環、置換又は非置換のピロリジン環、置換又は非置換のピペリドン環、置換又は非置換のピペラジン環が好ましく、置換又は非置換のピロリドン環がより好ましく、置換又は非置換の2-ピロリドン環が特に好ましい。
【0035】
繰り返し単位(b)を与える単量体としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、1-(メタ)アクリロイルピペリジン-2-オン、1-(メタ)アクリロイルピロリジン-2-メタノール、1-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドン、1-(メタ)アクリロイル-4-メチルピペラジン等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
繰り返し単位(b)の含有量としては、難燃性や水性媒体中での分散性等の観点から、共重合体(X)の全繰り返し単位中、10~90モル%が好ましく、20~80モル%がより好ましく、30~70モル%が特に好ましい。
【0037】
また、共重合体(X)中の繰り返し単位(a)と繰り返し単位(b)とのモル比〔(a):(b)〕の範囲としては、難燃性や水性媒体中での分散性等の観点から、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、30:70~70:30が特に好ましい。
【0038】
共重合体(X)の数平均分子量は、好ましくは1000~50000、より好ましくは2000~25000である。
また、分子量分布は、好ましくは1.0~5.0、より好ましくは1.1~4.0である。
なお、本明細書における数平均分子量、分子量分布は、GPC等で測定された値をいう。
【0039】
なお、シェル部の繰り返し単位(a)は、ビニルホスホン酸又はビニルホスホン酸エステルに由来する繰り返し単位のうち1種を含んでいても2種以上を含んでいてもよい。また、繰り返し単位(b)は、式(α)で表されるもののうち1種を含んでいても2種以上を含んでいてもよい。
また、シェル部の共重合体(X)の繰り返し単位の配列の順序は特に限定されるものではなく、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体等が挙げられる。
【0040】
(疎水性重合体(c))
疎水性重合体(c)は、水との親和性が低い重合体であればよい。
疎水性重合体(c)を与える単量体としては、ラジカル重合性を有する疎水性単量体が好ましく、疎水性の単官能重合性化合物がより好ましい。
上記単量体としては、例えば、オレフィン、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステル等が挙げられる。これら単量体の中では、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、及び飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、水性媒体中での分散性等の観点から、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸誘導体、及び飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルから選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、ビニル芳香族化合物、及び飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルから選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、ビニル芳香族化合物が特に好ましい。疎水性重合体(c)がビニル芳香族化合物に由来するものである場合に、水性媒体中での分散性が特に優れたものとなる。
疎水性重合体(c)は、上記単量体より選ばれる1種の単独重合体でも2種以上を含む共重合体でもよい。なお、疎水性重合体(c)が共重合体の場合、当該共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体のいずれでもよい。
【0041】
上記オレフィンとしては、炭素数6~14のオレフィンが好ましい。また、オレフィンは鎖状オレフィンでも環状オレフィンでもよい。オレフィンとしては、具体的には、ヘキセン、オクテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ビニルシクロヘキセン等が挙げられる。
【0042】
上記ビニル芳香族化合物としては、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0043】
【化6】
【0044】
[式(2)中、環Q2は、芳香環を示し、R3は、水素原子又はメチル基を示し、R4は、アルキル基、アルコキシ基、水酸基又はハロゲン原子を示し、pは0~4の整数である。]
【0045】
式(2)中、環Q2としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環がより好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
式(2)中、R4で示されるアルキル基の炭素数としては、1~4が好ましく、1又は2がより好ましい。また、当該アルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
また、R4で示されるアルコキシ基の炭素数としては、1~4が好ましく、1又は2がより好ましい。また、当該アルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
また、R4で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
また、pは0~4の整数であるが、0又は1が好ましい。なお、pが2~4の整数の場合、p個のR4は同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
ビニル芳香族化合物としては、具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン(o、m、p体)、t-ブトキシスチレン(o、m、p体)、ヒドロキシスチレン(o、m、p体)、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0047】
上記(メタ)アクリル酸誘導体としては、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルがより好ましく、下記式(3)で表される化合物が特に好ましい。
【0048】
【化7】
【0049】
[式(3)中、R5は水素原子又はメチル基を示し、R6は、炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。]
【0050】
6で示されるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~8、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~4である。当該アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0051】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0052】
上記(メタ)アクリルアミド誘導体としては、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドが好ましく、N-C1-10アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジC1-10アルキル(メタ)アクリルアミドがより好ましい。
N-C1-10アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジC1-10アルキル(メタ)アクリルアミドにおけるアルキル基としては、R6で示されるアルキル基と同様のものが挙げられる。
(メタ)アクリルアミド誘導体としては、具体的には、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0053】
上記飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルとしては、下記式(4)で表される化合物が好ましい。
【0054】
【化8】
【0055】
[式(4)中、R7は、炭素数1~14の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。]
【0056】
7で示されるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~12、より好ましくは1~8、更に好ましくは1~4、特に好ましくは1又は2である。当該アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルとしては、具体的には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、ラウリル酸ビニル等が挙げられる。
【0057】
疎水性重合体(c)の数平均分子量は、好ましくは2500~250000、より好ましくは8500~130000である。また、分子量分布は、好ましくは1.0~5.0、より好ましくは1.1~3.5である。
【0058】
本発明の微粒子に含まれる共重合体(X)、疎水性重合体(c)は、線状重合体であるのが好ましい。線状重合体とは、線状の分子構造をもつ重合体をいい、長い直鎖状の主鎖とそれに結合した比較的短い側鎖とから構成される構造をもつ重合体を包含する概念である。
本発明の微粒子は、共重合体(X)と疎水性重合体(c)との一部又は全部が化学結合したものが好ましく、共重合体(X)の末端と疎水性重合体(c)の末端とが化学結合したものがより好ましい。
【0059】
また、本発明の微粒子の平均粒子径は、コア部の化学的特性の発現性の観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、更に好ましくは250nm以上、特に好ましくは300nm以上であり、また、経時的な分散安定性の観点から、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1500nm以下、更に好ましくは750nm以下、特に好ましくは500nm以下である。
粒子径分布(PDI)は、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、特に好ましくは0.02以上であり、また、経時的な分散安定性の観点から、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.7以下である。
変動係数(CV)は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.5%以上、特に好ましくは1%以上であり、また、経時的な分散安定性の観点から、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは9%以下である。
本明細書において、平均粒子径は、動的光散乱法で測定される体積平均粒子径を意味し、平均粒子径、粒子径分布(PDI)及び変動係数(CV)は、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0060】
共重合体(X)の含有量は、本発明の微粒子全質量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下である。
疎水性重合体(c)の含有量は、本発明の微粒子全質量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下である。
共重合体(X)と疎水性重合体(c)との含有質量比〔(X):(c)〕は、所望の粒子径や用途に応じて適宜選択すればよいが、分散性の観点からは、10:1~1:10の範囲が好ましく、8:1~1:8の範囲がより好ましく、5:1~1:5の範囲が特に好ましい。
なお、共重合体(X)と疎水性重合体(c)の含有量は、微粒子含有液を3000rpm程度の回転速度で遠心分離した後、その上澄み液に存在する非微粒子成分を1H NMR分析することにより測定することができる。
【0061】
そして、本発明の微粒子は、水性媒体に対して良好な分散性を示し、且つ優れた難燃性を有する。また、分散媒中で金属化合物を分散させる性能やプロトン伝導性にも優れる。
したがって、本発明の微粒子は、触媒を担持させるための担体、難燃性材料、金属化合物の分散剤、電解質膜材料等として有用である。
【0062】
〔微粒子の製造方法〕
次に、本発明の微粒子製造方法について詳細に説明する。
本発明のコア-シェル型高分子微粒子の製造方法は、共重合体(X)と疎水性単量体とを水性媒体中で乳化重合させる重合工程を含む。本発明の微粒子製造方法によれば、温和な条件下で安定的且つ効率的に、本発明の微粒子を製造できる。
【0063】
まず、共重合体(X)を得る手法としては、具体的には、繰り返し単位(a)を与える単量体、繰り返し単位(b)を与える単量体、水性媒体及びラジカル重合開始剤を容器中に含有せしめ重合反応を行う手法が挙げられる。
繰り返し単位(a)を与える単量体としては、ビニルホスホン酸、ビニルホスホン酸エステルとして挙げたものと同様のものが挙げられる。この中では、共重合体(X)合成反応の進行しやすさの観点から、ビニルホスホン酸エステルが好ましい。
繰り返し単位(b)を与える単量体としては、繰り返し単位(b)を与える単量体として挙げたものと同様のものが挙げられる。
繰り返し単位(b)を与える単量体の使用量は、繰り返し単位(a)を与える単量体と繰り返し単位(b)を与える単量体との合計100モル部に対して、好ましくは10モル部以上、より好ましくは20モル部以上、特に好ましくは30モル部以上であり、また、好ましくは90モル部以下、より好ましくは80モル部以下、特に好ましくは70モル部以下である。
【0064】
続いて、乳化重合によって本発明の微粒子を得る手法としては、具体的には、共重合体(X)、疎水性単量体、水性媒体及びラジカル重合開始剤を容器中に含有せしめ重合反応を行う手法が挙げられる。このようなラジカル重合開始剤を用いる手法の場合、共重合体(X)の末端の水素原子等がラジカル重合開始剤で引き抜かれて活性点が発生し、その活性点から疎水性重合体(c)が生成する。
【0065】
共重合体(X)の使用量は、共重合体(X)と疎水性単量体との合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、特に好ましくは15質量部以上であり、また、好ましくは95質量部以下、より好ましくは90質量部以下、特に好ましくは85質量部以下である。
疎水性単量体としては、疎水性重合体(c)を与える単量体として挙げたものと同様のものが挙げられる。
疎水性単量体の使用量は、共重合体(X)と疎水性単量体との合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは95質量部以下、より好ましくは90質量部以下、特に好ましくは85質量部以下である。
なお、共重合体(X)と疎水性単量体との合計使用量は、重合性化合物(なお、この重合性化合物は、重合体及び非重合体を含む。)全量に対して、90~100質量%が好ましく、95~100質量%がより好ましく、99~100質量%が特に好ましい。
【0066】
上記共重合体(X)の合成及び共重合体(X)と疎水性単量体との乳化重合に使用できるラジカル重合開始剤は特に限定されないが、熱によりラジカルを発生する水溶性重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等のアゾ系重合開始剤;クメンハイドロパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート等の有機過酸化物が挙げられる。ラジカル重合開始剤は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
ラジカル重合開始剤の使用量は、共重合体(X)の合成においては、繰り返し単位(a)を与える単量体と繰り返し単位(b)を与える単量体との合計100質量部に対して、好ましくは0.005~5質量部であり、より好ましくは0.01~3質量部であり、更に好ましくは0.05~1質量部である。
また、共重合体(X)と疎水性単量体との乳化重合においては、疎水性単量体100質量部に対して、好ましくは0.01~50質量部であり、より好ましくは0.1~10質量部であり、更に好ましくは0.5~5質量部であり、特に好ましくは0.5~2.5質量部である。本発明の微粒子製造方法によれば、このようにラジカル重合開始剤が低濃度の場合でも、本発明の微粒子を効率よく得ることができる。
【0068】
上記共重合体(X)の合成及び共重合体(X)と疎水性単量体との乳化重合に使用できる水性媒体としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の1価アルコール系溶媒;エチレングリコール等の多価アルコール系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒が挙げられ、これらのうち1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、混合溶媒の場合は、水性媒体全体積に対して水を50%(v/v)以上とすることが好ましい。
これら水性媒体の中では、水、水と1価アルコール系溶媒、多価アルコール系溶媒及びアミド系溶媒から選ばれる1種又は2種以上との混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。
水性媒体の使用量は、共重合体(X)の合成においては、繰り返し単位(a)を与える単量体と繰り返し単位(b)を与える単量体との合計100質量部に対して、好ましくは10~500質量部、より好ましくは20~200質量部である。
また、共重合体(X)と疎水性単量体との乳化重合においては、所望の粒子径や用途に応じて適宜選択すればよいが、共重合体(X)と疎水性単量体との合計100質量部に対して、好ましくは100~3000質量部、より好ましくは200~2500質量部である。
【0069】
また、共重合体(X)の合成において、各成分の使用割合は、重合反応液100質量部中、繰り返し単位(a)を与える単量体と繰り返し単位(b)を与える単量体との合計を25~80質量部、ラジカル重合開始剤を0.01~1質量部、水性媒体を15~70質量部とすることが好ましい。
共重合体(X)と疎水性単量体との乳化重合において、各成分の使用割合は、重合反応液100質量部中、共重合体(X)と疎水性単量体との合計を5~30質量部、ラジカル重合開始剤を0.1~3質量部、水性媒体を70~90質量部とすることが好ましい。
【0070】
また、それぞれの重合工程の反応温度は、好ましくは20~100℃であり、より好ましくは40~80℃である。
それぞれの重合工程の反応時間は、試薬の種類、量、反応温度によって異なるが、好ましくは2~50時間であり、より好ましくは3~30時間である。
また、共重合体(X)と疎水性単量体との乳化重合は、撹拌して行うのが好ましい。撹拌速度は重合反応液に大きなせん断力を与えるため可能な限り速い方が好ましい。例えば、シュレンク管中で撹拌子によって撹拌する場合は400rpm以上が好ましい。
【0071】
また、本発明の微粒子のうち、繰り返し単位(a)としてビニルホスホン酸に由来する繰り返し単位を有するものについては、例えば、繰り返し単位(a)としてビニルホスホン酸エステルに由来する繰り返し単位を有する微粒子を上記の乳化重合で得た後、加水分解する手法で得ることができる。
【0072】
そして、本発明の微粒子製造方法によれば、水性媒体に対して良好な分散性を示し、且つ優れた難燃性を有するコア-シェル型高分子微粒子を、温和な条件下で安定的且つ効率的に製造可能である。
【0073】
〔粒子分散液〕
本発明の粒子分散液は、本発明の微粒子が分散しているものである。
分散媒としては、上記重合工程で使用される水性媒体と同様のものが好ましい。微粒子の濃度は、粒子分散液全量に対して、0.01~30質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましく、5~20質量%が特に好ましい。
【0074】
〔成形体〕
本発明の成形体は、本発明の微粒子を含有するものである。
本発明の成形体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、フィルム、シート、プレート等が挙げられる。
本発明の成形体は、例えば、本発明の粒子分散液を型に流し込み、乾燥等により分散媒を除去する手法、スピンコーターを用いる手法等で製造することができる。
【実施例
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における測定は、次の測定方法に従った。
【0076】
1H NMR測定>
1H NMR測定は、JEOL社製JNM-ECX500IIを用いて行った。ビニルホスホン酸ジメチルとN-ビニル-2-ピロリドンとの共重合体の組成算出では、重水に共重合体を溶解させて測定した。一方、微粒子について1H NMR測定する場合には、微粒子を3000rpmで30分間遠心分離した後、沈降物を重クロロホルム中又は重水中に分散させたものをサンプルとして用いて測定した(実施例1)。
【0077】
<GPC分析>
ビニルホスホン酸ジメチルとN-ビニル-2-ピロリドンとの共重合体のMn及びMw/Mnは、GPCにて以下の条件で測定した。測定値はポリスチレン換算によるものである。
測定装置:デガスターSD-8022(ジーエルサイエンス社製)、CO-8020、CCPM-IIポンプ、RI-8020(東ソー株式会社製)からなる一連の装置
カラム:TSKgel guardcolumn HHR-L(東ソー株式会社製)1本とTSKgel G-MHHR-M(東ソー株式会社製)2本を結合して使用
移動相:10mmol/Lの臭化リチウムを添加したN,N-ジメチルホルムアミド
【0078】
<動的光散乱(DLS)による粒子径測定>
DLSによる粒子径測定は、Malvern社製Zetasizer Nano-ZSPを用い、173°の散乱角で行った。測定データはZeta Software Ver.7.02にてキュムラント法で解析し、粒子径(Dh)と粒子径分布(PDI)を算出した。また、得られた平均粒子径は9回以上の測定で得られた結果であり、その粒子径測定結果の標準偏差から変動係数(CV)を算出した。
【0079】
<走査型電子顕微鏡(SEM)測定>
SEM測定は、日立ハイテクノロジー社製S-2600Hを用い、カーボンテープを接着したアルミ試料台へサンプル(微粒子の水分散液)を投入し十分に風乾させた後に、金を蒸着して行った。
【0080】
<透過型電子顕微鏡(TEM)測定>
TEM測定は、JEOL社製JEM2100(Gatan ORIUS SC200D CCDカメラ付属)を用い、200kVの加速電圧にて行った。また、グロー放電により表面を親水処理したカーボンコート銅グリッド(応研商事社 ELS-C10)上に微粒子の水分散液5μLを滴下し、余分な分散液を除いた後、EMステイナー(日新EM社)にてネガティブ染色し、得られたグリッドを乾燥したものを、サンプルとして用いて測定した。
【0081】
<合成例1 ビニルホスホン酸ジメチルとN-ビニル-2-ピロリドンとの共重合体の合成>
試験管に、撹拌子と、モノマーとしてビニルホスホン酸ジメチル(以下、「P1M」と記載する。)とN-ビニル-2-ピロリドン(以下、「NVP」と記載する。)を後述する3通りのモル比で加え、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド(富士フイルム和光純薬(株)製「V-50」、以下、「AIBA」と記載する。)を0.020g(0.074mmol、モノマーの合計に対して0.1mol%)入れ、さらに、重合溶媒として、モノマー濃度(P1MとNVPと溶媒の合計質量に対するP1MとNVPの合計濃度)が50質量%となる量の水を加え、よく溶かした。
なお、P1M:NVP=70:30(合成例1、No.1)、50:50(合成例1、No.2)、30:70(合成例1、No.3)の3通りのモル比で仕込んだが、このときのP1MとNVPの使用量は、No.1が7.024g(51.6mmol)/2.459g(22.1mmol)、No.2が5.017g(36.9mmol)/4.098g(36.9mmol)、No.3が3.010g(22.1mmol)/5.737g(51.6mmol)である。この際、水はそれぞれ9.483g、9.115g、8.727g加えた。
ついで、凍結脱気を3回行った後、試験管を密閉し、60℃の油浴中で重合反応を開始した。反応開始から24時間経過後、冷却及び空気への暴露により重合を停止し、1H NMR分析及びGPC分析を行った。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
<実施例1 コア部がポリスチレン、シェル部がビニルホスホン酸ジメチルとN-ビニル-2-ピロリドンとの共重合体からなるコア-シェル型高分子微粒子の作製>
シュレンク管に、撹拌子と、合成例1で得たNo.2のビニルホスホン酸ジメチルとN-ビニル-2-ピロリドンとの共重合体(以下、「P(P1M-NVP)」と記載する。)0.05gと、スチレン(以下、「St」と記載する。)0.200g(1.92mmol)と、イオン交換水4.750g(264mmol)と、AIBA0.002g(0.007mmol、スチレン単量体100質量部に対して1質量部)を入れた。次に、凍結脱気を3回行った後、60℃、600rpmで24時間加熱しながら撹拌した。重合後、シュレンク管内に空気を導入し、冷却することにより重合を停止させることで、コア部がポリスチレン、シェル部がP(P1M-NVP)のコア-シェル型高分子微粒子を水中で得た。
DLSによる粒子径測定により得られた微粒子の粒子径(Dh)は355nm、粒子径分布(PDI)は0.06、変動係数(CV)は3.1%であった。また、得られた微粒子のSEM像を図1に示す。
【0084】
実施例1で得られた微粒子の重クロロホルム中及び重水中における1H NMRスペクトルを、図2及び図3にそれぞれ示す。重クロロホルム中(図2)では、3.8ppm付近にP(P1M-NVP)中のP1Mユニットのメチル基由来のシグナルが観測され、6.2~7.2ppm付近にポリスチレンのベンゼン環由来のシグナルが観測された。このように、重クロロホルム中では、微粒子中のP(P1M-NVP)とポリスチレンの存在が確認された。一方、重水中(図3)では、ポリスチレンのベンゼン環由来のシグナルは観測されず、4.2ppm付近にP(P1M-NVP)由来のシグナルのみが観測された。NMRシグナルは核の運動性に影響されるため、重水中で運動性の良いP(P1M-NVP)由来のシグナルのみが観測され、運動性の悪いポリスチレンは観測されなかった。この結果とSEM画像(図1)から、実施例1で得られた微粒子が、水中ではポリスチレンをコア部とし、P(P1M-NVP)をシェル部とするコア-シェル構造であることが確認された。
【0085】
<実施例2>
P(P1M-NVP)の種類を表1中のNo.1(P1M=68.2mol%、NVP=31.8mol%)に変更した以外は、実施例1と同様の手順によりコア-シェル型高分子微粒子を合成した。
DLSによる粒子径測定により得られた微粒子の粒子径(Dh)は348nm、粒子径分布(PDI)は0.07、変動係数(CV)は3.1%であった。また、得られた微粒子のSEM像を図4に示す。
【0086】
<実施例3>
P(P1M-NVP)の種類を表1中のNo.3(P1M=36.0mol%、NVP=64.0mol%)に変更した以外は、実施例1と同様の手順によりコア-シェル型高分子微粒子を合成した。
DLSによる粒子径測定により得られた微粒子の粒子径(Dh)は345nm、粒子径分布(PDI)は0.12、変動係数(CV)は0.6%であった。また、得られた微粒子のSEM像を図5に示す。
【0087】
<実施例4-1~実施例4-4>
Stの使用量を表2に示す量に変更し、それに伴いイオン交換水の使用量も変更した以外は、実施例1と同様の手順によりコア-シェル型高分子微粒子を合成した。表2にその結果を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
<実施例5 コア部がポリアクリル酸エチル、シェル部がP(P1M-NVP)のコア-シェル型高分子微粒子の作製>
スチレンをアクリル酸エチル0.200g(2.0mmol)に変更した以外は実施例1と同様の手順によりコア-シェル型高分子微粒子を合成した。
DLSによる粒子径測定により得られた微粒子の粒子径(Dh)は645nm、粒子径分布(PDI)は0.02、変動係数(CV)は3.4%であった。また、得られた微粒子のTEM像を図6に示す。
【0090】
<実施例6 コア部がポリメタクリル酸メチル、シェル部がP(P1M-NVP)のコア-シェル型高分子微粒子の作製>
スチレンをメタクリル酸メチル0.200g(2.0mmol)に変更した以外は実施例1と同様の手順によりコア-シェル型高分子微粒子を合成した。
DLSによる粒子径測定により得られた微粒子の粒子径(Dh)は1021nm、粒子径分布(PDI)は0.83、変動係数(CV)は14.5%であった。また、得られた微粒子のSEM像を図7に示す。
【0091】
<実施例7 コア部がポリ酢酸ビニル、シェル部がP(P1M-NVP)のコア-シェル型高分子微粒子の作製>
スチレンを酢酸ビニル0.200g(2.3mmol)に変更した以外は実施例1と同様の手順によりコア-シェル型高分子微粒子を合成した。
DLSによる粒子径測定により得られた微粒子の粒子径(Dh)は730nm、粒子径分布(PDI)は0.12、変動係数(CV)は3.4%であった。また、得られた微粒子のSEM像を図8に示す。
【0092】
<試験例1 微粒子の水分散安定性>
実施例1、5、6及び7で得られた微粒子の水分散液(微粒子の含有量:約5質量%)の表層より約0.5g分を採取し、この採取したサンプル(微粒子の水分散液)をアルミ皿に載せて、サンプル中に含まれる水分量を赤外線水分計(ザルトリウス社製MA35)により測定しておいた。
次いで、残余の微粒子分散液をそのまま25℃で1週間静置した後、上記と同様にして、この微粒子分散液表層より約0.5g分を採取し、この採取したサンプル(微粒子の水分散液)をアルミ皿に載せて、サンプル中に含まれる水分量を赤外線水分計(ザルトリウス社製MA35)により測定した。
そして、測定した静置前水分量と静置後水分量から、それぞれ静置前微粒子量と静置後微粒子量を求め、微粒子が凝固した割合(質量%)を下記式より算出した。
微粒子が凝固した割合(質量%) = [{(静置前微粒子量)-(静置後微粒子量)}/(静置前微粒子量)] × 100
結果を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
表3に示すとおり、実施例1、5、6及び7で得られた微粒子は、水分散安定性が良好であった。特に、実施例1、7で得られた微粒子は、凝固物の生成が確認されず、水分散安定性に特に優れるものであった。
さらに、実施例1の微粒子分散液について、静置期間を3ヵ月に変える以外は上記と同様にして水分散安定性試験を行ったところ、3ヵ月経過後も上記と同様に凝固物の生成が確認されず(微粒子が凝固した割合=0質量%)、また、目視でも分散していることが観察された。
【0095】
<試験例2 難燃性試験>
テフロンシート上に2cm×2cmの窪みを設け、その上から実施例1で得られた微粒子分散液の濃縮液(微粒子分散液を10000rpmで30分間遠心分離し、沈殿した微粒子を水に再分散させ、50質量%となるように調整したもの)をキャストし、室温で2日間静置した後、さらに70℃の乾燥器中で2日間静置し、平均0.75mmの厚さのフィルム(サンプルA)を作製した。同様に、微粒子分散液の代わりにポリスチレン(富士フイルム和光社製スチレンポリマー)のテトラヒドロフラン溶液(ポリスチレン含有量:50質量%)をキャストし、平均0.75mmの厚さの膜(サンプルB)を作製した。
サンプルAのフィルム、サンプルBの膜をピンセットで挟み、それぞれ下端部より3秒間接炎した。
サンプルAのフィルムは残炎がなく燃焼しなかったため、接炎終了から7秒間後(試験開始から10秒間後)に再度3秒間接炎したがそれでも燃焼せず、難燃性を示した。
一方、サンプルBの膜は接炎と同時に燃焼し、7秒後には有炎落下し、30秒後にはすべてが燃えた。
サンプルAのフィルム、サンプルBの膜の燃焼試験時の経時的な変化を図9に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9