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  • 特許-封止用樹脂組成物及び半導体装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20231013BHJP
   C08G 59/06 20060101ALI20231013BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20231013BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20231013BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231013BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20231013BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20231013BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20231013BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08G59/06
C08G59/62
C09K3/10 L
C08K3/013
C08K5/09
C08L61/06
H01L23/30 R
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020048267
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147482
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 弘志
(72)【発明者】
【氏名】大石 雄亮
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-219756(JP,A)
【文献】特開2014-114426(JP,A)
【文献】特開2018-058960(JP,A)
【文献】特開2019-214666(JP,A)
【文献】特開2004-027005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00-63/10
C08G 59/00-59/72
C08L 61/06
C08K 3/013
C08K 5/09
C09K 3/10
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、
フェノール系硬化剤(B)、
無機充填材(C)、及び
80℃以上200℃以下の融点を有するカルボン酸(D)を含有し、
前記エポキシ樹脂(A)、前記フェノール系硬化剤(B)及び前記カルボン酸(D)の合計に対する、前記カルボン酸(D)中のカルボキシル基の総量の割合が、0.01質量%以上10質量%以下であ
前記カルボン酸(D)は、下記式(2)に示す化合物を含有し、
m+4 4 2m+4 (2)
前記式(2)におけるmは0以上3以下の数である、
封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記カルボン酸(D)は、一分子中に少なくとも二つのカルボキシル基を有する、
請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
前記カルボン酸(D)は、下記式(1)に示す化合物を更に含有し、
n+242n+2 (1)
記式(1)におけるnは0以上6以下の数であ
請求項1又は2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸(D)の前記融点が90℃以上140℃以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項5】
前記封止用樹脂組成物に対する前記カルボン酸(D)の割合は、0.1質量%以上2質量%以下である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項6】
前記フェノール系硬化剤(B)の少なくとも一部と前記カルボン酸(D)の少なくとも一部とを含有する溶融混合物を含有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項7】
前記封止用樹脂組成物を、最外層がニッケルからなる金属プレート上に配置して、175℃で120秒間加熱することで前記封止用樹脂組成物の硬化物を作製した場合の、前記金属プレートに対する前記硬化物の接着強度は、1MPa以上である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項8】
半導体素子と、
前記半導体素子を封止する封止材とを備え、
前記封止材は、請求項1から7のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物の硬化物である、
半導体装置。
【請求項9】
ニッケルを含有するメッキ層を有する導体を更に備え、
前記導体は前記封止材に接している、
請求項8に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物及び半導体装置に関し、詳しくはエポキシ樹脂を含有する封止用樹脂組成物、及び前記封止用樹脂組成物から作製された封止材を備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ、IC等の半導体素子の封止に当たり、生産性向上、コスト低減等の目的で、樹脂封止が行われることがある。樹脂封止は、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂系硬化剤、硬化促進剤、及び無機充填材を含有する封止用樹脂組成物を成形して封止材を作製することで行われている。
【0003】
封止材で封止された半導体装置は、例えば銅製のリードフレームと、リードフレームに搭載されている半導体素子(ディスクリート素子)とを備え、封止材が半導体素子を封止している(特許文献1参照)。このため、封止材はリードフレームに接している。特許文献1では、封止材とリードフレームとの密着性を向上するために、特定の構造を有するエポキシ樹脂を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-269248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車載用の半導体装置などの過酷な環境下で使用される半導体装置には高い信頼性が求められている。そのため、封止材とリードフレームとの間の密着性の更なる向上が求められている。特に、ニッケルメッキが施されたリードフレームとの密着性の向上が求められている。
【0006】
しかし、密着性向上のための添加剤を配合すると、添加剤によって組成物及び硬化物の特性に悪影響が及ぼされることがある。
【0007】
本発明の課題は、封止材を作製するために用いることができ、封止材のニッケルとの密着性を高めやすく、かつそれによる悪影響を生じさせにくい封止用樹脂組成物、及びこの封止用樹脂組成物の硬化物である封止材を備える半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、フェノール系硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び80℃以上200℃以下の融点を有するカルボン酸(D)を含有する。前記エポキシ樹脂(A)、前記フェノール系硬化剤(B)及び前記カルボン酸(D)の合計に対する、前記カルボン酸(D)中のカルボキシル基の総量の割合が、0.01質量%以上10質量%以下である。
【0009】
本発明の一態様に係る半導体装置は、半導体素子と、前記半導体素子を封止する封止材とを備える。前記封止材は、前記封止用樹脂組成物の硬化物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、封止材を作製するために用いることができ、封止材のニッケルとの密着性を高めやすく、かつそれによる悪影響を生じさせにくい封止用樹脂組成物、及びこの封止用樹脂組成物の硬化物である封止材を備える半導体装置を、提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態における半導体装置の概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
本実施形態に係る封止用樹脂組成物(組成物(X))は、エポキシ樹脂(A)、フェノール系硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び80℃以上200℃以下の融点を有するカルボン酸(D)を含有する。エポキシ樹脂(A)、フェノール系硬化剤(B)及びカルボン酸(D)の合計に対する、前記カルボン酸(D)中のカルボキシル基の総量の割合が、0.01質量%以上10質量%以下である。
【0014】
本実施形態によると、組成物(X)から封止材を作製した場合、カルボン酸(D)によって、封止材の、金属、特にニッケルとの密着性を、高めることができる。また、カルボン酸(D)の融点が上記のように80℃以上200℃以下であるため、組成物(X)の原料を溶融混練して組成物(X)を調製する場合、組成物(X)中にカルボン酸(D)が良好に分散しやすい。このため、カルボキシル基の割合が、0.01質量%以上10質量%以下であっても、封止材とニッケルとの密着性が高められうる。そのため、組成物(X)中のカルボン酸(D)の含有量を低く抑えることができ、組成物(X)及び封止材にカルボン酸(D)に起因する悪影響を生じにくくできる。
【0015】
これにより、本実施形態では、封止材を作製するために用いることができ、封止材のニッケルとの密着性を高めやすく、かつそれによる悪影響を生じさせにくい組成物(X)を、得ることができる。
【0016】
組成物(X)の組成について、更に詳しく説明する。
【0017】
エポキシ樹脂(A)について説明する。エポキシ樹脂(A)は、例えばグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂及びオレフィン酸化型(脂環式)エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。より具体的には、エポキシ樹脂は、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂といったアルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格といった骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格といった骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂といった多官能型エポキシ樹脂;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂;テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂といったビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ樹脂といったブロム含有エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸といったポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;並びにフタル酸、ダイマー酸といった多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、からなる群から選択される一種以上の成分を含有できる。
【0018】
組成物(X)全体に対する、エポキシ樹脂(A)の量は、5質量%以上35質量%以下であることが好ましい。この場合、成形時の組成物(X)の流動性及び封止材62の物性が向上する。
【0019】
フェノール系硬化剤(B)について説明する。フェノール系硬化剤(B)は、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂といったノボラック型樹脂;フェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂;フェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂といったアラルキル型樹脂;トリフェノールメタン型樹脂といった多官能型フェノール樹脂;ジシクロペンタジエン型フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック樹脂といったジシクロペンタジエン型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールFといったビスフェノール型樹脂;並びにトリアジン変性ノボラック樹脂、からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0020】
フェノール系硬化剤(B)の1当量に対して、エポキシ樹脂(A)の量は0.9当量以上1.5当量以下であることが好ましい。この場合、封止材62は高温時でも特に高い密着性を有することができ、かつ組成物(X)は良好な保存安定性を有しうる。エポキシ樹脂(A)の量が1.0当量以上1.3当量以下であればより好ましい。
【0021】
無機充填材(C)は、例えば溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。組成物(X)が無機充填材(C)を含有することで、封止材62の熱膨張係数が調整されうる。特に無機充填材(C)が溶融シリカを含有することが好ましい。この場合、組成物(X)中の無機充填材(C)の高い充填性と、成形時の組成物(X)の高い流動性とが得られやすい。
【0022】
無機充填材(C)の平均粒径は例えば0.2μm以上70μm以下である。平均粒径が0.5μm以上20μm以下であると、より好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から算出される体積基準のメディアン径であり、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて得られる。無機充填材(C)は、成形時の組成物(X)の粘度、封止材62の物性等の調整のために、平均粒径の異なる二種以上の成分を含有してもよい。
【0023】
無機充填材(C)の割合は、組成物(X)全量に対して60質量%以上93質量%以下であることが好ましい。無機充填材(C)の割合が60質量%以上であると封止材62の線膨張係数が十分に低められやすく、リフロー処理等により加熱されても半導体装置1に反りが生じにくい。無機充填材(C)の割合が93質量%以下であると、成形時の組成物(X)の十分な流動性が得られやすい。
【0024】
カルボン酸(D)は、組成物(X)の硬化物の、金属、特にニッケルとの高い密着性を、実現できる。なお、チオール系化合物も高い密着性を実現しうるが、チオール系化合物は硬化物と接触する金属の腐食を引き起こしやすく、そのため特に高温下で半導体装置1の信頼性を低下させやすい。しかし、カルボン酸(D)は、チオール系化合物と比べて、高温下での金属の腐食を引き起こしにくい。そのため、カルボン酸(D)は、硬化物の金属との高い密着性を実現しやすく、かつ金属の腐食を引き起こしにくい。
【0025】
カルボン酸(D)は、上述のとおり80℃以上200℃以下の融点を有する。このため、カルボン酸(D)は、溶融混練によって組成物(X)中に分散されやすく、そのためカルボン酸(D)による密着性向上の作用が良好に発現しやすい。カルボン酸(D)が複数種の化合物を含有する場合は、各化合物の融点が80℃以上200℃以下であることが好ましい。カルボン酸(D)の融点は、90℃以上140℃以下であればより好ましい。この場合、カルボン酸(D)による密着性向上の作用が特に発現しやすい。融点が90℃以上120℃以下であれば更に好ましい。
【0026】
上述のとおり、エポキシ樹脂(A)、フェノール系硬化剤(B)及びカルボン酸(D)の合計に対する、カルボン酸(D)中のカルボキシル基の総量の割合は、0.01質量%以上10質量%以下である。この割合が0.01質量%以上であることで、カルボン酸(D)に起因する組成物(X)の密着性が向上する。カルボキシル基の総量の割合が0.01質量%未満の場合は密着性向上の効果が極めて低い。また、カルボキシル基の総量の割合を10質量%以下に抑えることで、硬化物の成形性の悪化、硬化物特性の低下などの不具合が生じにくい。この割合は、0.05質量%以上2質量%以下であればより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であれば更に好ましい。
【0027】
組成物(X)の全量に対するカルボン酸(D)の割合が、0.002質量%以上2質量%以下であることも好ましい。カルボン酸(D)の割合が0.002質量%以上であれば、硬化物の密着性が特に向上しやすい。また、カルボン酸(D)の割合が2質量%以下であればカルボン酸(D)に起因する不具合が特に生じにくい。カルボン酸(D)の割合は、0.01質量%以上0.4質量%以下であればより好ましく、0.02質量%以上0.2質量%以下であれば更に好ましい。
【0028】
カルボン酸(D)は、一分子中に少なくとも二つのカルボキシル基を有することが好ましい。例えばカルボン酸(D)は、ジカルボン酸を含有することが好ましい。この場合、カルボン酸(D)の含有量を抑制しながら組成物(X)中のカルボキシル基の量を増大させやすい。このため、カルボン酸(D)に起因する不具合を特に生じにくくできる。
【0029】
カルボン酸(D)の分子量は205以下であることが好ましい。カルボン酸(D)が複数種の化合物を含有する場合は各化合物の分子量が205以下であることが好ましい。この場合、カルボン酸(D)の含有量を抑制しながら組成物(X)中のカルボキシル基の量を増大させやすい。このため、カルボン酸(D)に起因する不具合を特に生じにくくできる。分子量は175以下であればより好ましく、135以下であれば更に好ましい。
【0030】
カルボン酸(D)は、下記式(1)に示す化合物と、下記式(2)に示す化合物とのうち、少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合、硬化物の密着性を向上しながら、カルボン酸(D)に起因する不具合を特に生じにくくできる。
【0031】
n+242n+2 (1)
m+442m+4 (2)
式(1)におけるnは0以上8以下の数である。nは0以上6以下の数であれば更に好ましい。式(2)におけるmは0以上6以下の数である。mは0以上3以下の数であれば更に好ましい。
【0032】
式(1)に示す化合物は、例えばHOCO-(Cn2n)-COOHで表される少なくとも一種の化合物を含有する。Cn2nはnが0である場合は単結合であり、nが1以上6の場合は二価の飽和炭化水素基である。飽和炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐を有していてもよい。カルボキシル基は、飽和炭化水素基の末端に結合していてもよく、飽和炭化水素基に側鎖として結合していてもよい。
【0033】
式(2)に示す化合物は、例えばHOCO-(Cm+22m+2)-COOHで表される少なくとも一種の化合物を含有する。Cm+22m+2は不飽和炭化水素基である。不飽和炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐を有していてもよい。カルボキシル基は、不飽和炭化水素基の末端に結合していてもよく、不飽和炭化水素基に側鎖として結合していてもよい。
【0034】
特にカルボン酸(D)がHOCO-(Cm+22m+2)-COOHで表される少なくとも一種の化合物を含有すれば、硬化物の密着性を向上しながら、カルボン酸(D)に起因する不具合を特に生じにくくできる。
【0035】
組成物(X)は、フェノール系硬化剤(B)の少なくとも一部とカルボン酸(D)の少なくとも一部とを含有する溶融混合物を含有することも、好ましい。すなわち、組成物(X)を調製するに当たっては、フェノール系硬化剤(B)の少なくとも一部とカルボン酸(D)の少なくとも一部とを混合して加熱混練することで、溶融混合物を調製し、この溶融混合物と、組成物(X)の溶融混練物以外の成分とを混合することで、組成物(X)を調製してもよい。この場合、組成物(X)中にカルボン酸(D)が特に分散しやすくなり、このため硬化物の密着性が特に向上しやすい。
【0036】
組成物(X)は、本実施形態の効果を損なわない範囲内において、上記成分以外の添加剤を含有してもよい。添加剤は、例えば硬化促進剤、イオントラップ剤、カップリング剤、離型剤、難燃剤、着色剤、及び低応力化剤等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0037】
硬化促進剤は、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールとったイミダゾール類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5、5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等のシクロアミジン類;2-(ジメルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールといった第3級アミン類;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンとパラベンゾキノンの付加反応物、フェニルホスフィンといった有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートといったテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート;ボレート以外の対アニオンを持つ第4級ホスホニウム塩;並びに2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N-メチルモルホリン・テトラフェニルボレートといったテトラフェニルボロン塩等、からなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。硬化促進剤の割合は、例えば、組成物(X)に対して0.001質量%以上0.5質量%以下である。
【0038】
カップリング剤は、無機充填材(C)とエポキシ樹脂(A)及びフェノール系硬化剤(B)との親和性を向上させうる。カップリング剤は、リードフレーム52に対する封止材62の密着性も向上させうる。カップリング剤は、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、及びアルミニウム/ジルコニウムカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。シランカップリング剤は、例えばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等といったグリシドキシシラン;N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランといったアミノシラン;アルキルシラン;ウレイドシラン;並びにビニルシラン等、からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。無機充填材(C)とカップリング剤との合計量に対する、カップリング剤の割合は、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0039】
離型剤は、例えばカルナバワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィン、エステルワックス、酸化ポリエチレン、及び金属石鹸からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0040】
難燃剤は、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム及び赤リンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0041】
着色剤は、例えば、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン、フタロシアニン及びペリレンブラックからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0042】
低応力化剤は、例えば、シリコーンエラストマー、シリコーンレジン、シリコーンオイル及びブタジエン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することができる。ブタジエン系ゴムは、例えばアクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体及びメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体のうち少なくとも一方の成分を含有できる。
【0043】
上記のような組成物(X)の構成成分を混合することで、組成物(X)を調製できる。より具体的には、例えばエポキシ樹脂(A)、フェノール系硬化剤(B)、無機充填材(C)及びカルボン酸(D)を含む原料を、ミキサー、ブレンダーなどで十分均一になるまで混合し、続いて熱ロールやニーダーなどの混練機により加熱されている状態で溶融混合してから、室温に冷却する。これにより得られた混合物を公知の手段で粉砕することで、粉体状の組成物(X)を製造できる。組成物(X)は粉体状でなくてもよく、例えばタブレット状であってもよい。タブレット状である場合の組成物(X)は成形条件に適した寸法と質量を有することが好ましい。
【0044】
組成物(X)は、25℃で固体であることが好ましい。この場合、組成物(X)を射出成形法、トランスファ成形法、圧縮成形法などの加圧成形法で成形することで、封止材62を作製できる。組成物(X)が15℃以上25℃以下の範囲内のいずれの温度でも固体であればより好ましく、5℃以上35℃以下の範囲内のいずれの温度でも固体であれば特に好ましい。
【0045】
組成物(X)の170℃でのスパイラルフロー長さは50cm以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)の成形時の流動性が良好になる。このスパイラルフロー長さが80cm以上であることがより好ましい。スパイラルフロー長さの測定方法の詳細は、後掲の実施例の欄に詳しく示す。
【0046】
組成物(X)のゲルタイムは、組成物(X)をトランスファ成形法で成形する場合20秒以上40秒下であることが好ましく、組成物(X)を圧縮成形法で成形する場合40秒以上80秒以下であることが好ましい。この場合、封止材62を作製する場合の成形サイクルが特に短くなり、半導体装置1の生産性が特に高くなる。ゲルタイムの測定方法の詳細は、後掲の実施例の欄に詳しく示す。
【0047】
組成物(X)から作製された封止材62を備える半導体装置1、及びその製造方法の例について説明する。
【0048】
半導体装置1は、半導体素子と、半導体素子を封止する封止材とを備える。封止材は、組成物(X)の硬化物である。
【0049】
半導体装置1は、導体を備えてもよい。導体は、例えばリードフレームである。なお、導体は、リードフレームには限らず、例えばプリント配線板における導体配線であってもよい。導体は、ニッケルを含有するメッキ層を有してもよい。
【0050】
半導体装置1は、例えばMini、Dパック、D2パック、To22O、To3P、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)といった、挿入型パッケージ、又はクワッド・フラット・パッケージ(QFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)といった、表面実装型のパッケージである。
【0051】
図1に、半導体装置1の一例の断面図を示す。この半導体装置1は、導体である金属製のリードフレーム52と、リードフレーム52に搭載されている半導体素子50と、半導体素子50とリードフレーム52とを電気的に接続するワイヤ56と、半導体素子50を封止する封止材62とを備える。
【0052】
本実施形態では、リードフレーム52は、ダイパッド58、インナーリード521及びアウターリード522を備える。リードフレーム52は、例えば銅製又は42アロイなどの鉄合金製である。リードフレーム52はメッキ層54を備えることが好ましい。この場合、リードフレーム52の腐食が抑制される。メッキ層54は、例えば銀、ニッケル及びパラジウムのうち少なくとも一種の金属を含む。メッキ層54は、銀、ニッケル及びパラジウムのうちいずれか一種の金属のみを含んでもよく、銀、ニッケル及びパラジウムのうち少なくとも一種の金属を含む合金を含んでもよい。メッキ層54が積層構造を有してもよく、具体的には例えばパラジウム層、ニッケル層及び金層からなる積層構造を有してもよい。メッキ層54の厚みは例えば1μm以上20μm以下であるが、特にこれに制限されない。
【0053】
リードフレーム52のダイパッド58上に半導体素子50を適宜のダイボンド材60で固定する。これによりリードフレーム52に半導体素子50を搭載する。半導体素子50は、例えば集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード又は固体撮像素子である。半導体素子50は、SiC、GaN等のパワーデバイスであってもよい。
【0054】
続いて、半導体素子50とリードフレーム52におけるインナーリード521とを、ワイヤ56で接続する。ワイヤ56は、金製でもよいが、銅と銀のうち少なくとも一方を含んでもよい。例えばワイヤ56は銀製又は銅製でもよい。ワイヤ56が銅と銀のうち少なくとも一方を含む場合、ワイヤ56はパラジウムなどの金属の薄膜でコートされていてもよい。
【0055】
続いて、組成物(X)を成形することで、半導体素子50を封止する封止材62を形成する。封止材62はワイヤ56も封止している。封止材62はダイパッド58及びインナーリード521も封止し、そのため封止材62は、リードフレーム52と接しており、リードフレーム52がメッキ層54を備える場合はメッキ層54と接している。
【0056】
組成物(X)を加圧成形法で成形することで封止材62を作製することが好ましい。加圧成形法は、例えば射出成形法、トランスファ成形法又は圧縮成形法である。
【0057】
組成物(X)を加圧成形方で成形する際の成形圧力は3.0MPa以上であることが好ましく、成形温度は120℃以上であることが好ましい。この場合、未充填、いわゆるウェルドボイドや内部ボイド、が少なく均一な封止材62で半導体素子50が封止された、半導体装置1を得ることができる。特にトランスファ成形法の場合は、金型への組成物(X)の注入圧力が3MPa以上であることが好ましく、4MPa以上710MPa以下であれば更に好ましい。また、加熱温度(金型温度)は120℃以上であることが好ましく、160℃以上190℃以下であれば更に好ましい。また、加熱時間は30秒以上300秒以下であることが好ましく、60秒以上180秒以下であれば更に好ましい。
【0058】
トランスファ成形法では、金型内で封止材62を作製した後、金型を閉じたままで封止材62を加熱することにより後硬化(ポストキュア)を行ってから、金型を開いて半導体装置1を取り出すことが好ましい。後硬化のための加熱条件は、例えば加熱時間が160℃以上190℃以下、加熱時間が2時間以上8時間以下である。
【0059】
圧縮成形の場合は、圧縮圧力が3MPa以上であることが好ましく、5.0MPa以上10MPa以下であれば更に好ましい。加熱温度(金型温度)は120℃以上であることが好ましく、150℃以上185以下であれば更に好ましい。加熱時間は60秒以上300秒以下であることが好ましい。
【0060】
半導体装置1の構造は、図1に示すものに限られず、半導体装置1は、半導体素子50と、半導体素子2を封止する封止材62とを備えればよい。例えば半導体装置1は、プリント配線板等の基板と、基板に実装された半導体素子50と、基板上で半導体素子50を封止する封止材62とを備えてもよい。この場合、基板が封止材62に接する導体として導体配線を備え、かつ導体配線がメッキ層54を有すれば、封止材62のメッキ層54との高い密着性が実現しうる。
【実施例
【0061】
以下に、本実施形態の具体的な実施例を提示する。なお、本発明はこれらの実施例のみに制限されない。
【0062】
1.組成物の調製
表1の「原料」の欄に示す原料を配合し、ミキサーで均一に混合してから、ニーダーで90℃~140℃で加熱混練し、得られた混合物を冷却してから粉砕した。これにより得られた粉体を打錠することで、タブレット状の組成物を得た。
【0063】
なお、表1に示す原料の詳細は次の通りである。
-エポキシ樹脂:o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂。エポキシ当量200。
-フェノール系硬化剤:フェノールノボラック樹脂。水酸基当量105。
-難燃剤:水酸化アルミニウム。
-硬化促進剤:トリフェニルホスフィン。
-離型剤:カルナバワックス。
-着色剤:カーボンブラック。
-無機充填材:溶融シリカ。
-シランカップリング剤:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
-カルボン酸1:組成式C584。構造式HOCO(CH23COOH。融点96℃。
-カルボン酸2:組成式C564。構造式HOCOCH2CH=CHCOOH。融点130℃。
-カルボン酸3:組成式C8144。構造式HOCO(CH26COOH。融点143℃。
-カルボン酸4:組成式C464。構造式HOCO(CH22COOH。融点186℃。
-溶融混合物:C564とフェノールノボラック樹脂とを20:80の質量比で混合した混合物を150℃の条件で加熱攪拌することで得られた溶融混合物。
【0064】
2.評価組成物の調製
(1)スパイラルフロー長さ
組成物のスパイラルフロー長さを、ASTM D3123に準拠したスパイラルフロー測定金型を用いて、金型温度170℃、注入圧力6.9MPa、保持時間120秒の条件で測定した。
【0065】
(2)ゲルタイム
JSRトレーディング株式会社製のキュラストメータVPS型を用いて、組成物を1700℃で加熱しながらトルクを測定した。加熱開始時からトルクの測定値が0.1kgf・cm(9.81mN・m)に達するまでに要した時間を調査し、この時間をゲルタイムとした。
【0066】
(3)密着性
銅板にニッケルメッキ層を設けることで作製された基板を用意した。金型を用い、組成物をトランスファ成形法で金型温度170℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で成形することで、基板の上に硬化物を作製した。硬化物と基板との間の密着力を、Dage社製のボンドテスターで測定した。なお、比較例2ではトランスファ成形法で成形することができず、密着性を評価できなかった。
【0067】
【表1】
【符号の説明】
【0068】
1 半導体装置
50 半導体素子
54 メッキ層
62 封止材
図1