(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】船舶用プロペラ
(51)【国際特許分類】
B63H 1/26 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
B63H1/26 D
(21)【出願番号】P 2019222781
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000110435
【氏名又は名称】ナカシマプロペラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】蓮池 伸宏
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02473665(US,A)
【文献】特表平07-500549(JP,A)
【文献】特開2016-084081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転時に掛かる荷重によって弾性変形するブレードを備えた船舶用プロペラであって、
前記ブレードの内部に
非回転時において弛んだ状態で張られている補強線材が収められており、
前記補強線材は、断面中心から表面側に偏った位置に配置され、
前記ブレードが変形すると前記補強線材が引っ張られて緊張する、ことを特徴とした船舶用プロペラ。
【請求項2】
前記ブレードの変形が所定未満であるときは前記補強線材が緊張せず、
前記ブレードの変形が所定以上であるときは前記補強線材が緊張して当該ブレードの剛性に寄与する、ことを特徴とした請求項1に記載の船舶用プロペラ。
【請求項3】
複数本の前記補強線材が前記ブレードの基端側から先端側に向かって張られている、ことを特徴とした請求項2に記載の船舶用プロペラ。
【請求項4】
前記補強線材を収めた補強線敷設部分が前記ブレードにおける基端側から先端側の間で複数箇所に分けて設けられている、ことを特徴とした請求項3に記載の船舶用プロペラ。
【請求項5】
前記補強線材を収めた補強線敷設部分が前記ブレードにおける前縁側から後縁側の間で複数箇所に分けて設けられている、ことを特徴とした請求項3に記載の船舶用プロペラ。
【請求項6】
前記補強線材が無機繊維又は有機繊維若しくはこれらの複合繊維で構成されている、ことを特徴とした請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の船舶用プロペラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用プロペラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維強化プラスチック製のブレードを採用した船舶用プロペラが知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。かかる船舶用プロペラは、金属製のボスに対して繊維強化プラスチック製のブレードを直接的に取り付けた構造或いはパーム等を介して間接的に取り付けた構造となっている。
【0003】
このような船舶用プロペラは、ブレードに大きな荷重が掛かると、ブレードが変形してピッチ角が小さくなる。つまり、ブレードが倒れたり捩れたりしてピッチ角が小さくなるのである(
図13における矢印f・t参照)。なお、ピッチ角が小さくなると、キャビテーションの発生が抑えられる。但し、ピッチ角が小さくなりすぎると、プロペラ効率が低下して船速が上がらなくなってしまう。
【0004】
ところで、船種によっては、船舶用プロペラに対して低回転域と高回転域で異なる特性が求められる。具体的に説明すると、低回転域では音響機器等を使用するため、キャビテーションの発生を抑えることが求められ、十分な変形が必要となる。他方、高回転域では船速を重視して高いプロペラ効率が求められるため、過度な変形を防ぐ必要がある。しかし、回転速度の上昇に応じてブレードの変形量が大きくなることから、低回転域で十分な変形量を得ようとした場合に、高回転域で変形量が過大になってプロペラ効率の低下が避けられないという問題があった。そこで、このような問題を解決すべく、回転速度の上昇に応じてブレードの剛性が高まる船舶用プロペラが求められていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-66699号公報
【文献】特開2017-61237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回転速度の上昇に応じてブレードの剛性が高まる船舶用プロペラを提供する。即ち、低回転域ではキャビテーションの発生を抑えることができ、高回転域ではプロペラ効率が低下するのを抑えることができる船舶用プロペラを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の発明は、
回転時に掛かる荷重によって弾性変形するブレードを備えた船舶用プロペラであって、
前記ブレードの内部に非回転時において弛んだ状態で張られている補強線材が収められており、
前記補強線材は、断面中心から表面側に偏った位置に配置され、
前記ブレードが変形すると前記補強線材が引っ張られて緊張する、ものである。
【0008】
第二の発明は、第一の発明に係る船舶用プロペラにおいて、
前記ブレードの変形が所定未満であるときは前記補強線材が緊張せず、
前記ブレードの変形が所定以上であるときは前記補強線材が緊張して当該ブレードの剛性に寄与する、ものである。
【0009】
第三の発明は、第二の発明に係る船舶用プロペラにおいて、
複数本の前記補強線材が前記ブレードの基端側から先端側に向かって張られている、ものである。
【0010】
第四の発明は、第三の発明に係る船舶用プロペラにおいて、
前記補強線材を収めた補強線敷設部分が前記ブレードにおける基端側から先端側の間で複数箇所に分けて設けられている、ものである。
【0011】
第五の発明は、第三の発明に係る船舶用プロペラにおいて、
前記補強線材を収めた補強線敷設部分が前記ブレードにおける前縁側から後縁側の間で複数箇所に分けて設けられている、ものである。
【0012】
第六の発明は、第一から第五のいずれかの発明に係る船舶用プロペラにおいて、
前記補強線材が無機繊維又は有機繊維若しくはこれらの複合繊維で構成されている、ものである。
【発明の効果】
【0013】
第一の発明に係る船舶用プロペラは、ブレードの内部に補強線材が収められている。そして、ブレードが変形すると補強線材が引っ張られて緊張する。かかる船舶用プロペラによれば、回転速度の上昇に応じてブレードの剛性が高まる。即ち、低回転域ではキャビテーションの発生を抑えることができ、高回転域ではプロペラ効率が低下するのを抑えることができる。
【0014】
第二の発明に係る船舶用プロペラは、ブレードの変形が所定未満であるときは補強線材が緊張せず、ブレードの変形が所定以上であるときは補強線材が緊張してブレードの剛性に寄与する。かかる船舶用プロペラによれば、回転速度の上昇による変形が所定量を超えるとブレードの剛性が高まる。
【0015】
第三の発明に係る船舶用プロペラは、複数本の補強線材がブレードの基端側から先端側に向かって張られている。かかる船舶用プロペラによれば、回転速度の上昇に応じて補強線材にブレードの変形に抗する張力が生じるので、確実にブレードの剛性が高まる。
【0016】
第四の発明に係る船舶用プロペラは、補強線材を収めた補強線敷設部分がブレードにおける基端側から先端側の間で複数箇所に分けて設けられている。かかる船舶用プロペラによれば、補強線敷設部分がブレードの変形に応じた複数箇所に設けられるため、ブレードの変形態様を制御することができる。また、所望の剛性特性を実現することが容易となる。
【0017】
第五の発明に係る船舶用プロペラは、補強線材を収めた補強線敷設部分がブレードにおける前縁側から後縁側の間で複数箇所に分けて設けられている。かかる船舶用プロペラによれば、補強線敷設部分がブレードの変形に応じた複数箇所に設けられるため、ブレードの変形態様を制御することができる。また、所望の剛性特性を実現することが容易となる。
【0018】
第六の発明に係る船舶用プロペラは、補強線材が無機繊維又は有機繊維若しくはこれらの複合繊維で構成されている。かかる船舶用プロペラによれば、適宜なブレードの剛性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】ブレードが変形したときの補強線材の機能を示す図。
【
図6】ブレードが変形したときの補強線材の機能を示す図。
【
図12】その他の実施形態に係るブレードを示す図。
【
図13】従来の船舶用プロペラにおけるブレードの変形態様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、
図1を用いて、船舶用プロペラ1の構造について簡単に説明する。本願において、「径方向内側」とは、船舶用プロペラ1の回転軸Aに垂直に近づく方向を意味する。「径方向外側」とは、船舶用プロペラ1の回転軸Aから垂直に遠ざかる方向を意味する。
【0021】
船舶用プロペラ1は、エンジンの駆動力を推進力に変換するものである。船舶用プロペラ1は、主にボス2とブレード3とリテーナ4を備えている。なお、船舶用プロペラ1は、いわゆる四枚翼プロペラであるが、これに限定するものではない。また、船舶用プロペラ1は、いわゆるハイスキュープロペラであるが、これに限定するものではない。更に、船舶用プロペラ1におけるブレード3の取付・抜止構造については、以下に説明する構造に限定するものではない。
【0022】
ボス2は、プロペラシャフトに取り付けられる。ボス2は、金属製(例えばアルミニウム青銅)の形成物に切削加工などを加えて作成される。ボス2は、その外周面に溝部21が形成されている。また、ボス2には、後端面から前方へ向けて複数のボルト穴22が設けられている。
【0023】
ブレード3は、ボス2に取り付けられる。ブレード3は、繊維強化プラスチック製(例えば炭素繊維強化プラスチック)の形成物に表面加工などを加えて作成される。ブレード3は、その一端側に基部31が形成されている。かかる基部31は、ボス2の溝部21に挿入されることとなる。また、ブレード3には、基部31と一体的に翼体部32が形成されている。
【0024】
リテーナ4は、ボス2に取り付けられる。リテーナ4は、金属製(例えばアルミニウム青銅)の形成物に切削加工などを加えて作成される。リテーナ4は、中央に穴41が開いた円環形状となっている。また、リテーナ4には、その後端面から前方へ突き抜ける複数のボルト挿通穴42が設けられている。そのため、ボルト44をボルト挿通穴42に通してボルト穴22に螺合することにより、リテーナ4を取り付けることができる。こうして、ボス2の溝部21からブレード3の基部31が抜けるのを防いでいるのである。
【0025】
次に、
図2から
図4を用いて、第一実施形態に係るブレード3について説明する。
図2には、船舶用プロペラ1の回転方向を矢印Dで示している。以降において、ブレード3の任意部分を通る半径を「r」とする。また、ブレード3の先端部分を通る半径を「R」とする。
【0026】
本実施形態に係るブレード3は、その翼体部32の構成部材として複数本の補強線材51を有している。補強線材51は、炭素繊維からなる単糸材又は組糸材若しくはこれらを編んだ帯布材であって、樹脂が含浸されていないものである。なお、炭素繊維は、いわゆるPAN系或いはピッチ系などに区分されるが、これを限定するものではない。また、弾性率などについても限定するものではない。但し、ブレード3を形成する繊維強化プラスチックの繊維よりも高弾性率であることは明白である。
【0027】
本実施形態に係るブレード3において、補強線材51は、それぞれが所定程度に弛んだ状態で張られている。「所定程度に弛んだ状態」とするのは、船舶用プロペラ1の回転速度に応じて補強線材51が弛んでいる状態と緊張している状態を作り出すためである。また、補強線材51は、それぞれが基端側から先端側に向かって張られている。「基端側から先端側に向かって」とは、翼体部32の径方向内側から径方向外側に向かう全ての態様を含むものとする。
【0028】
更に、本実施形態に係るブレード3において、補強線材51は、その一端部が基端側固定具33に固定され、その他端部が先端側固定具34に固定される。基端側固定具33は、翼体部32における例えば0.1≦r/R≦0.7を満たす位置に埋め込まれている。他方、先端側固定具34は、翼体部32における例えば0.7≦r/R≦1.0を満たす位置に埋め込まれている。このように定めるのは、翼体部32の径方向全体に補強線材51を張る場合や翼体部32の径方向中途部よりも先端側に補強線材51を張る場合などが考えられるからである。
【0029】
以下に、補強線材51の機能について説明する。
【0030】
船舶用プロペラ1の回転速度が遅く、低回転域にあるときは、翼体部32に掛かる荷重が小さいので、当然に翼体部32の変形は小さいままである(
図3の(A)参照)。このとき、補強線材51は、依然として弛んだままで緊張しておらず、ひいては変形に抗する張力を生じていない。従って、低回転域における翼体部32の剛性は、補強線材51を有しないブレード3の剛性に等しくなる(
図4における低回転域Ls参照)。
【0031】
その後、船舶用プロペラ1の回転速度が徐々に上昇して高回転域に達すると、翼体部32に掛かる荷重が大きくなるので、当然に翼体部32の変形も大きくなる(
図3の(B)参照)。すると、補強線材51は、翼体部32の変形に応じて引っ張られ、緊張することとなり、ひいては変形に抗する張力Tを生じるのである。従って、高回転域における翼体部32の剛性は、低回転域のときの剛性よりも大きくなる(
図4における高回転域Hs参照)。
【0032】
ところで、補強線材51の収容構造に関して詳しく説明すると、本ブレード3においては、翼体部32の内部に空間32sが設けられている。空間32sは、翼体部32の厚さ方向に対して十分に薄く、キャンバーライン32cよりも前進面32f側で、かつ前進面32fに沿うように形成されている。そして、補強線材51は、空間32sの互いに対向する二つの壁面に弱く挟まれた状態で保持されるのである。このようにしたのは、補強線材51が弛んでいるときの動きを拘束するためである。なお、補強線材51が絡まないよう、隣り合う補強線材51の間に仕切板を設けてもよい。
【0033】
加えて、前述したように、補強線材51は、炭素繊維からなる単糸材又は組糸材若しくはこれらを編んだ帯布材である。しかし、ガラス繊維やセラミックス繊維、金属繊維などの無機繊維からなる単糸材又は組糸材若しくはこれらを編んだ帯布材であってもよい。また、アラミド繊維やポリエチレン繊維、ポリエステル繊維などの有機繊維からなる単糸材又は組糸材若しくはこれらを編んだ帯布材であってもよい。或いはこれらの複合繊維からなる単糸材又は組糸材若しくはこれらを編んだ帯布材であってもよい。つまり、補強線材51の原材料や材質について限定するものではない。
【0034】
このように、船舶用プロペラ1は、ブレード3(翼体部32)の内部に補強線材51が収められている。そして、ブレード3(翼体部32)が変形すると補強線材51が引っ張られて緊張する。かかる船舶用プロペラ1によれば、回転速度の上昇に応じてブレード3(翼体部32)の剛性が高まる。即ち、低回転域ではキャビテーションの発生を抑えることができ、高回転域ではプロペラ効率が低下するのを抑えることができるのである。
【0035】
この点について具体的に説明すると、船舶用プロペラ1は、ブレード3(翼体部32)の変形が所定未満であるときは補強線材51が緊張せず、ブレード3(翼体部32)の変形が所定以上であるときは補強線材51が緊張してブレード3(翼体部32)の剛性に寄与する。かかる船舶用プロペラ1によれば、回転速度の上昇による変形が所定量を超えるとブレード3(翼体部32)の剛性を高めることができる。
【0036】
また、本船舶用プロペラ1は、複数本の補強線材51がブレード3(翼体部32)の基端側から先端側に向かって張られている。かかる船舶用プロペラ1によれば、回転速度の上昇に応じて補強線材51にブレード3(翼体部32)の変形に抗する張力Tが生じるので、確実にブレード3(翼体部32)の剛性が高まる。
【0037】
更に、本船舶用プロペラ1は、補強線材51が無機繊維又は有機繊維若しくはこれらの複合繊維で構成されている。かかる船舶用プロペラ1によれば、適宜なブレード3(翼体部32)の剛性を実現することができる。
【0038】
次に、
図5から
図7を用いて、第二実施形態に係るブレード3について説明する。ここでは、第一実施形態に係るブレード3と異なる部分について説明する。
【0039】
本実施形態に係るブレード3は、その翼体部32の構成部材として、それぞれ複数本の補強線材61・62を有している。補強線材61・62は、それぞれが所定程度に弛んだ状態で張られている。但し、各補強線材61・62の弛み量は、僅かに異なるものとする。
【0040】
以下に、補強線材61・62の機能について説明する。
【0041】
船舶用プロペラ1の回転速度が遅く、低回転域にあるときは、翼体部32に掛かる荷重が小さいので、当然に翼体部32の変形は小さいままである(
図6の(A)参照)。このとき、補強線材61・62は、依然として弛んだままで緊張しておらず、ひいては変形に抗する張力を生じていない。従って、低回転域における翼体部32の剛性は、補強線材51を有しないブレード3の剛性に等しくなる(
図7における低回転域Ls参照)。
【0042】
その後、船舶用プロペラ1の回転速度が徐々に上昇して中回転域に達すると、翼体部32に掛かる荷重がやや大きくなるので、当然に翼体部32の変形もやや大きくなる(
図6の(B)参照)。すると、補強線材61は、翼体部32の変形に応じて引っ張られ、緊張することとなり、ひいては変形に抗する張力T1を生じるのである。従って、中回転域における翼体部32の剛性は、低回転域のときの剛性よりも大きくなる(
図7における中回転域Ms参照)。
【0043】
その後、船舶用プロペラ1の回転速度が徐々に上昇して高回転域に達すると、翼体部32に掛かる荷重が更に大きくなるので、当然に翼体部32の変形も更に大きくなる(
図6の(C)参照)。すると、補強線材61に加えて補強線材62も、翼体部32の変形に応じて引っ張られ、緊張することとなり、ひいては変形に抗する張力T2を生じるのである。従って、高回転域における翼体部32の剛性は、中回転域のときの剛性よりも大きくなる(
図7における高回転域Hs参照)。
【0044】
このようにしても、本船舶用プロペラ1は、回転速度の上昇に応じてブレード3(翼体部32)の剛性が高まる。従って、低回転域ではキャビテーションの発生を抑えることができ、高回転域ではプロペラ効率が低下するのを抑えることができる。また、本願に開示する技術的思想は、全て適用することができる。そのとき、同様の効果を得られる。なお、第二実施形態に係るブレード3は、各補強線材61・62の弾性率が異なるとしてもよい。
【0045】
次に、
図8及び
図9を用いて、第三実施形態に係るブレード3について説明する。ここでも、第一実施形態に係るブレード3と異なる部分について説明する。
【0046】
本実施形態に係るブレード3は、その翼体部32の構成部材として、それぞれ複数本の補強線材71・72・73・74・・・を有している。補強線材71・72・73・74・・・は、それぞれが所定程度に弛んだ状態で張られている。但し、各補強線材71・72・73・74・・・の弛み量は、僅かに異なるものとする。
【0047】
本実施形態に係るブレード3のように、多数の補強線材71・72・73・74・・・を備えた場合、翼体部32の剛性を滑らかに高めることができる。つまり、船舶用プロペラ1の回転速度が上昇して翼体部32の変形が大きくなるにつれ、補強線材71・72・73・74・・・が次々に緊張していくため、翼体部32の剛性を継ぎ目なく連続的に高めることができるのである。
【0048】
このようにしても、本船舶用プロペラ1は、回転速度の上昇に応じてブレード3(翼体部32)の剛性が高まる。従って、低回転域ではキャビテーションの発生を抑えることができ、高回転域ではプロペラ効率が低下するのを抑えることができる。また、本願に開示する技術的思想は、全て適用することができる。そのとき、同様の効果を得られる。なお、第三実施形態に係るブレード3は、各補強線材71・72・73・74・・・の弾性率が異なるとしてもよい。
【0049】
次に、
図10を用いて、第四実施形態に係るブレード3について説明する。ここでも、第一実施形態に係るブレード3と異なる部分について説明する。
【0050】
本実施形態に係るブレード3は、その翼体部32の構成部材として、それぞれ複数本の補強線材81・82を有している。補強線材81・82は、それぞれが所定程度に弛んだ状態で張られている。但し、各補強線材81・82の弛み量は、同じ或いは異なる場合が考えられる。
【0051】
本実施形態に係るブレード3において、補強線材81を収めた部分を「補強線敷設部分81A」と定義し、補強線材82を収めた部分を「補強線敷設部分82A」と定義した場合、かかる補強線敷設部分81Aと補強線敷設部分82Aは、それぞれが径方向(基端側から先端側へ向かう方向)に並べて設けられている。
【0052】
この点について具体的に説明すると、補強線敷設部分81Aは、補強線敷設部分82Aよりも翼体部32における基端側に設けられている。他方、補強線敷設部分82Aは、補強線敷設部分81Aよりも翼体部32における先端側に設けられている。但し、これら敷設部分81A・82Aの詳細な位置について限定するものではない。
【0053】
このように、本船舶用プロペラ1においては、補強線材81・82を収めた補強線敷設部分81A・82Aがブレード3(翼体部32)における基端側から先端側の間で複数箇所に分けて設けられている。かかる船舶用プロペラ1によれば、補強線敷設部分81A・82Aがブレード3(翼体部32)の変形に応じた複数箇所に設けられるため、ブレード3(翼体部32)の変形態様を制御することができる。また、所望の剛性特性を実現することが容易となる。
【0054】
もちろん、本船舶用プロペラ1は、回転速度の上昇に応じてブレード3(翼体部32)の剛性が高まる。従って、低回転域ではキャビテーションの発生を抑えることができ、高回転域ではプロペラ効率が低下するのを抑えることができる。また、本願に開示する技術的思想は、全て適用することができる。そのとき、同様の効果を得られる。なお、第四実施形態に係るブレード3は、各補強線材81・82の弾性率或いは弾性率に関わらず本数が異なるとしてもよい。
【0055】
次に、
図11を用いて、第五実施形態に係るブレード3について説明する。ここでも、第一実施形態に係るブレード3と異なる部分について説明する。
【0056】
本実施形態に係るブレード3は、その翼体部32の構成部材として、それぞれ複数本の補強線材91・92を有している。補強線材91・92は、それぞれが所定程度に弛んだ状態で張られている。但し、各補強線材91・92の弛み量は、同じ或いは異なる場合が考えられる。
【0057】
本実施形態に係るブレード3において、補強線材91を収めた部分を「補強線敷設部分91A」と定義し、補強線材92を収めた部分を「補強線敷設部分92A」と定義した場合、かかる補強線敷設部分91Aと補強線敷設部分92Aは、それぞれが周方向(前縁側から後縁側へ向かう方向)に並べて設けられている。
【0058】
この点について具体的に説明すると、補強線敷設部分91Aは、補強線敷設部分92Aよりも翼体部32における前縁側に設けられている。他方、補強線敷設部分92Aは、補強線敷設部分91Aよりも翼体部32における後縁側に設けられている。但し、これら敷設部分91A・92Aの詳細な位置について限定するものではない。
【0059】
このように、本船舶用プロペラ1においては、補強線材91・92を収めた補強線敷設部分91A・92Aがブレード3(翼体部32)における前縁側から後縁側の間で複数箇所に分けて設けられている。かかる船舶用プロペラ1によれば、補強線敷設部分91A・92Aがブレード3(翼体部32)の変形に応じた複数箇所に設けられるため、ブレード3(翼体部32)の変形態様を制御することができる。また、所望の剛性特性を実現することが容易となる。
【0060】
もちろん、本船舶用プロペラ1は、回転速度の上昇に応じてブレード3(翼体部32)の剛性が高まる。従って、低回転域ではキャビテーションの発生を抑えることができ、高回転域ではプロペラ効率が低下するのを抑えることができる。また、本願に開示する技術的思想は、全て適用することができる。そのとき、同様の効果を得られる。なお、第五実施形態に係るブレード3は、各補強線材91・92の弾性率或いは弾性率に関わらず本数が異なるとしてもよい。
【0061】
次に、
図12を用いて、その他の実施形態に係るブレード3について説明する。詳しくは、本願に開示した技術的思想に基づいて考え得るその他の実施形態に係るブレード3について説明する。
【0062】
図12の(A)及び(B)に示すブレード3は、補強線敷設部分101A・102A・・・がブレード3(翼体部32)における基端側から先端側の間及び前縁側から後縁側の間で複数箇所に分けて設けられている。かかるブレード3は、第四実施形態として説明したブレード3(
図10参照)並びに第五実施形態として説明したブレード3(
図11参照)に適用された技術的思想の及ぶ範囲に含まれる。
【0063】
最後に、本願に開示した技術的思想は、回転時に掛かる荷重によって弾性変形するブレードを備えた船舶用プロペラに対して適用できる。そのため、かかる技術的思想の及ぶ範囲は、ブレードが繊維強化プラスチック製であるものはもちろん、他の材質や他の工法によって作成されたものまで含まれる。例えばWAAM(Wire and Arc Additive Manufacturing)やEBAM(Electron Beam Additive Manufacturing)、LMD(Laser Metal Deposition)などの積層造形技術によって作成されたものまで含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 船舶用プロペラ
2 ボス
3 ブレード
4 リテーナ
31 基部
32 翼体部
33 基端側固定具
34 先端側固定具
51 補強線材
A 船舶用プロペラの回転軸
T 張力
Ls 低回転域
Hs 高回転域