(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】肝細胞への非肝細胞細胞のリプログラミングのための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20231013BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20231013BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20231013BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20231013BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20231013BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20231013BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20231013BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20231013BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20231013BHJP
C12N 9/99 20060101ALN20231013BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20231013BHJP
C12Q 1/04 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/071 ZNA
C12N5/074
C12N5/0775
C12N5/0797
C12N5/078
C12N5/0735
C12N15/113 Z
C12N15/63 Z
C12N9/99
C12N1/00 G
C12Q1/04
(21)【出願番号】P 2021549703
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 CN2019076180
(87)【国際公開番号】W WO2020172796
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】507232478
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.5, Yiheyuan Road, Haidian District, Beijing 100871, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】デン,ホンクイ
(72)【発明者】
【氏名】シェ,ビンキン
(72)【発明者】
【氏名】スン,ダ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ,ユアンユアン
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-511150(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056999(WO,A1)
【文献】Cell Stem Cell,2014年03月06日,Vol.14, No.3,pp.394-403
【文献】PLoS One,2014年06月25日,Vol.9, No.6, e100134,pp.1-11
【文献】Hepatology,2015年01月,Vol.61, No.1,pp.337-347
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)造血系で発現するホメオボックスタンパク質(HHEX)、肝細胞核因子4-α(HNF4A)、肝細胞核因子6-αA(HNF6A)、GATA4及びフォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)、MYCをアップレギュレートし、p53遺伝子発現及び/又はタンパク質活性をダウンレギュレートするために、非肝細胞細胞を処理すること;
(b)体細胞培地において非肝細胞細胞を培養すること;
(c)少なくとも1つのグリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)阻害剤及び少なくとも1つのTGFβ受容体阻害剤を含む肝細胞増殖培地(HEM)中で細胞を増殖させること;及び
(d)少なくとも1つの環状AMP(cAMP)アゴニスト及び少なくとも1つのTGFβ受容体阻害剤を含む肝細胞分化培地(2C培地)中で細胞を培養すること
を含む、非肝細胞細胞を肝細胞様細胞(iHep)に誘導する方法。
【請求項2】
p53siRNAを発現するベクターを用いて細胞をトランスフェクトすることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞が、少なくとも7日の期間、体細胞培養培地中で培養される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
細胞が、約15~30日、好ましくは20~30日、より好ましくは約20~25日の期間、HEM中で培養される、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
細胞が、少なくとも5日の期間、肝細胞分化培地中で培養される、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
非肝細胞細胞が、胚性幹細胞(ESC)、誘導多能性幹細胞(iPSC)、線維芽細胞、脂肪由来幹細胞(ADSC)、神経由来幹細胞、血液細胞、ケラチノサイト及び腸上皮細胞からなる群より選択される、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
非肝細胞細胞が、哺乳動物由来である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物が、ヒト、ラット、マウス、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウサギ、ウマ、ブタからなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物がヒトであり、そして細胞が、場合により、線維芽細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
TGFβ受容体阻害剤が、SB431542(4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド);E-616452([2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン])である、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
cAMPアゴニストが、フォルスコリン又はdbcAMPである請求項1~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
GSK阻害剤が、CHIR99021([6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル]-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル])である、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
2C培地中の培養の後、細胞はALB+であり、ここでALB+細胞は、FACS分析により測定して、細胞集団の90%超を構成する、請求項1~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
(a)非肝細胞細胞が得られた生物由来の、培養された初代肝細胞に類似した典型的な肝細胞形態;
(b)E-カドヘリン、アルブミン(ALB)、及び/又はHNF4A、HNF1A、CEBPA及びCEBPBからなる群より選択される肝転写因子の発現;
(c)重要な薬物代謝酵素であるCYP450、UGT1A1及びPORの発現;及び
(d)低密度リポタンパク質(LDL)取り込み、脂肪滴合成及びグリコーゲン合成の能力
からなる群から選択される少なくとも1つの特徴を用いて、iHepを同定することを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
HHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4、FOXA2及びMYC遺伝子をアップレギュレートするための因子及びp53をダウンレギュレートするための因子
からなる、非肝細胞細胞をiHepにリプログラミングするためのキット。
【請求項16】
HHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4、FOXA2及びMYC
遺伝子を過剰発現するレンチウイルス、並びにp53siRNAをコードするオリゴヌクレオチド
からなる、請求項15記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、真核細胞を肝細胞様特性を有する細胞にリプログラミングするための転写因子並びに小分子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な転写因子を用いたリプログラミングにおける最近の進歩は、成熟体細胞型間の変換を可能にした。
【0003】
以前の研究は、確定した細胞培養スキームを用いて非肝細胞の細胞から肝細胞様細胞を得るためのHNF1A、HNF4A、HNF6、ATF5、PROX1及びCEBPAの組み合わせを特定した。Du, et al., Cell Stem Cell, 14:394-403 (2014)。
【0004】
しかしながら、1つの細胞系統を別の細胞系統に直接変換しようとする現在のアプローチは、初期細胞の残留記憶及び標的細胞の限定された機能的変換(Cahan, et al., Cell, 158:903-915 (2014))を含むいくつかの欠点に苦しんでいる。Zaretらは、凝集したH3K9me3ヘテロクロマチンドメインなどの直接的なリプログラミングに対するエピジェネティックな障壁により、転写因子(TF)が標的細胞の組織特異的な遺伝子を活性化するためにアクセスすることが困難となり、不完全な細胞運命変換をもたらすことに注目した(Becker, et al., Trends in Genetics, 32:29-41 (2016))。他の研究では、直接線維芽細胞から肝細胞への変換戦略により、H3K9me3ドメインに位置する重要な肝遺伝子の限定的な活性化のみが観察された(Gao, et al., Stem Cell Reports, 9:1813-1824 (2017); Becker, et al., Mol. Cell., 68:1023-1037 e1015 (2017))。
【0005】
したがって、既知の誘導性肝細胞と比較して、改善された肝細胞の機能活性を示す機能的誘導性肝細胞に、非肝細胞の細胞を誘導する方法の要望が存在する。
【0006】
したがって、本発明の目的は、代謝機能を有する誘導性肝細胞(iHep)への非肝細胞の変換を誘導する方法を提供することである。
【0007】
また、本発明の目的は、代謝機能を有する誘導性肝細胞を提供することである。
【0008】
本発明の目的は更に、薬物開発、バイオ人工肝臓システム、並びにインビボ及びインビトロでの肝臓の適用に誘導性肝細胞を使用する方法を提供することである。
【0009】
本発明の更なる目的は、非肝細胞をiHepにリプログラミングするためのキットを提供することである。
【発明の概要】
【0010】
肝細胞ではない(すなわち、非肝細胞の)第1型の細胞の、機能的肝薬物代謝及び輸送能力によって示される、肝細胞様細胞へのリプログラミングを誘導する方法が開示される。本明細書では、これらの細胞を誘導性肝細胞(iHep)と表する。非肝細胞を、肝細胞誘導因子をアップレギュレートするように処理し、体細胞培養培地で培養し(形質転換相)、肝細胞培養培地で増殖させ(増殖相)、そして更に2C培地で十分な時間培養して(成熟相)、肝細胞様の性質を有する細胞に変換する。
【0011】
リプログラミングする方法は、肝前駆細胞生成相(第I相)及び誘導性肝細胞(iHep)生成相(第II相)の2つの相を含む。第I相は、(a)肝細胞誘導因子及びMYCをアップレギュレートし、及びp53をダウンレギュレートするように細胞を処理し、細胞培養培地中で細胞を培養すること(形質転換相)、及び(b)HEM(肝増殖培地)中で細胞を再播種及び培養すること(増殖相)、の工程を含む。第II相は、細胞を独自の分化培地中で、例えば本明細書に開示される2C培地中で培養することを含む。誘導性肝細胞(iHep)は、この細胞培養スキームに従って得られる。
【0012】
第I相(a)において、好ましくは、前記非肝細胞は、以下の肝細胞誘導因子:造血系で発現するホメオボックスタンパク質(HHEX)、肝細胞核因子4-α(HNF4A)、肝細胞核因子6-αA(HNF6A)、GATA4及びフォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)、MYCを過剰発現し、そしてp53遺伝子発現及び/又はタンパク質活性をダウンレギュレートするように形質転換される。次いで、(肝細胞誘導因子及びMYCをアップレギュレートし、及びp53をダウンレギュレートするように処理された)非肝細胞を培養し、HEM(肝増殖培地)中でインビトロで培養し増殖させ(増殖相)、そして第1相で肝前駆細胞を生成した。更に、これらの肝前駆細胞は、少なくとも1つの環状AMPアゴニスト及び少なくとも1つのTGFβ受容体阻害剤(2Cと称される)を補充した細胞培養培地中で成熟して、第II相(成熟相)においてiHepを得た。
【0013】
前記細胞は、肝細胞の既知の構造的及び機能的特性に基づいてiHepとして同定される。
【0014】
また、機能的誘導性肝細胞(iHep)も開示される。好ましい実施態様では、誘導性肝細胞は、ヒト誘導性肝細胞(hiHep)である。iHepは、アルブミン、チトクロムP450(CYP)3A4、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP1A2、CYP2A6、UGT1A1及びPORからなる群より選択される少なくとも1つの肝細胞マーカーを発現する。好ましい実施態様では、iHepは、CYP3A4、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP1A2、CYP2A6、UDPグルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)1A1及びPORの、10個全てのマーカーを発現する。
【0015】
iHepへの非肝細胞のリプログラミングを誘導するためのキットも開示される。前記キットは、本明細書中に開示される、肝細胞誘導因子及びMYCをアップレギュレートする因子、及びp53遺伝子発現及び/又はタンパク質のレベルをダウンレギュレートする因子を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】
図1A~Hは、定義された因子による線維芽細胞からのヒト肝前駆細胞様細胞(hHPLC)の生成を示す。
図1Aは、ツーステップのリプログラミングプロセスのスキームを示す。
【
図1B】
図1Bは、異なる肝前駆細胞(HPC)培養培地における15dpiでのリプログラミングされたALB+細胞の定量を示す。n=2。**p<0.01。
【
図1C】
図1Cは、異なる時点での、HEMにおいてリプログラミングされたALB+細胞の定量を示す。n=3。
【
図1D】
図1Dは、P7及びP27でのhHPLCにおけるALB陽性細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【
図1E】
図1Eは、hHPCマーカーについてのhHPLC、ヒト胚性線維芽細胞(HEF)及びヒト胎児肝細胞(hFLC)のRT-qPCR分析を示す。n=2。
【
図1F】
図1Fは、RT-qPCRによる、異なる時点でのリプログラミングされた細胞における、hHPCマーカーALB、AFP、EPCAM並びに線維芽細胞マーカーCOL1A1及びTHY1の動的遺伝子発現分析を示す。n=2。
【
図1G】
図1Gは、異なる継代でのHEF、hFLC、F-PHH及びhHPLCの全体の遺伝子発現の階層的クラスタリングを示す。
【
図1H】
図1Hは、P5及びP30でのhHPLCの集団倍加時間、並びにP3及びP10でのHEFの集団倍加時間を示す。n=3。スケールバー=50μm。データは平均±SEMとして示す。
【
図2A】
図2Aは、2Cで培養した肝細胞(n=3)、成体肝組織(AL、n=3)及びhepG2細胞(n=2)における重要な肝機能マーカー及び転写因子のRT-qPCR分析を示す。遺伝子発現レベルは、ALに対して正規化した(上のパネル)。下のパネルは、培養30日目の肝細胞の2つのバッチの薬物代謝活性分析を示す。質量分析を用いて、CYP3A4、CYP1A2、CYP2C9及びCYP2D6の活性を分析した。CYP450に特異的な基質として以下:CYP3A4-T(テストステロン)、CYP1A2(フェナセチン)、CYP2C9(ジクロフェナク)及びCYP2D6(デキストロメトルファン)を用いた。n=3。スケールバーは50μmを表す。データは平均±SEMとして示す。データが検出されずは「n.d」。
【
図2B】
図2Bは、HEF(n=3)、HepG2細胞(n=2)、hiHep(n=2)及びF-PHH(n=5)における肝転写因子のRT-qPCR分析を示す。相対的な発現はHEFに対して正規化した。
【
図2C】
図2Cは、hiHepにおけるALB+細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【
図2D】
図2Dは、HepG2細胞(n=2)、hHPLC(n=2)、hiHep(n=8)、及びF-PHH(n=5)及び成体肝組織(AL、n=4)における主要な成熟肝細胞機能遺伝子のRT-qPCR分析を示す。相対的な発現はF-PHHに対して正規化した。
【
図2E】
図2Eは、2C培地中で、40日まで培養したhiHepにおける重要な肝遺伝子の5日毎の、RT-qPCRによる動的発現を示す。n=3。
【
図2F】
図2Fは、hiHepにおける、40日まで5日毎のAFP分泌のELISA分析を示す線グラフである。n=3。
【
図2G】
図2Gは、ELISAによる、HEF、hiHep及びPHHにおけるアルブミン分泌を示す。n=3。
【
図2H】
図2Hは、hiHep及びPHHにおけるアルブミン分泌の動的モニタリングを示す。
【
図2I】
図2Iは、異なる継代での、hHPLCに由来する、HepG2細胞、HEF、F-PHH、AL及びhiHepの全体の遺伝子発現の階層的クラスタリングを示す。アスタリスクは同じドナーからのPHH及びALを表す。
【
図3A】
図3A~Dは、hiHepのPHHと同等なCYP薬物代謝活性及び毒性予測能を示す。
図3Aは、hiHep、HepG2細胞及びF-PHHにおける7つのCYP450の薬物代謝活性の質量分析を示す棒グラフである。n=3。
【
図3B】
図3Bは、リファンピン、β-ナフトフラボン、ランソプラゾール又はフェノバルビタールに対するCYP450の誘導活性を示す棒グラフである。n=3。
【
図3C】
図3Cは、hiHep、PHH及びHepG2細胞における25個の化合物のTC50値の比較を示す。(灰色領域:2.5倍未満の差。hiHep、PHH及びHepG2細胞における全ての化合物はn=3,ただしPHHにおけるアフラトキシンB1(AFB1)はn=2。r:ピアソン相関係数。)
【
図3D】
図3Dは、hiHepにおけるトログリタゾンの時間及び用量依存性慢性毒性を示す線グラフである。n=6。
【
図3E】
図3Eは、hiHep、F-PHH及びHEFの全体のCpGメチル化パターンの階層的なクラスタリングを示す。「n」は、hiHep、F-PHH及びHEFにおけるCpG部位及び異なってメチル化されたCpG部位の階層的クラスタリングの数を表す。
【
図3F】
図3Fは、HEF、HepG2細胞、hiHep、及びF-PHHにおける重要な肝マイクロRNAのRT-qPCRを示す。
【
図3G】
図3Gは、HEF、HepG2細胞、異なるドナーの線維芽細胞由来のhiHep、F-PHH及びALの全体の遺伝子発現の階層的なクラスタリングを示す。アスタリスクは同じドナーからのF-PHH及びALを表す。
【
図3H】
図3Hは、HEF、HepG2細胞、異なるドナーの線維芽細胞由来のhiHep、F-PHH及びALの全体の遺伝子発現の主成分分析を示す。アスタリスクは同じドナーからのF-PHH及びALを表す。
【
図3I】
図3Iは、HEF(n=3)、CRL-2097由来のhiHep(n=3)及びF-PHH(n=5)における主要な成熟肝細胞の機能遺伝子のRT-qPCR分析を示す。相対的な発現はF-PHHに対して正規化した。
【
図4A】
図4Aは、CRL-2097、HepG2細胞及びF-PHH由来のhiHepにおける7つのCYP450の薬物代謝活性のUPLC/MS/MS分析を示す棒グラフである。結果は百万細胞あたりのpmol/分として表す。n=3。
【
図4B】
図4Bは、UPLC/MS/MSによる、CRL-2097由来のhiHep、HepG2細胞及びPHHにおけるリファンピン、β-ナフトフラボン、ランソプラゾール及びフェノバルビタールに対するCYP3A4(テストステロン)、CYP1A2(フェナセチン)及びCYP2B6(ブプロピオン)の活性の誘導を示す棒グラフである。スケールバーは50μmを表す。データは平均値±SEMで示した。
【
図4C】
図4Cは、構造的に異なる誘導物質に反応したhiHepにおけるCYP3A4発現の倍数変化を示す。発現は、ビヒクル対照に対して正規化した。データは平均±SEMで示した。
【
図4D】
図4Dは、AFB1で処理したhiHep、F-PHH及びHepG2細胞の用量依存性生存率曲線を示す。細胞生存率の50%減少を引き起こすと算出された濃度(茶色の線)をTC50と決定した。全データをビヒクル対照で処理した培養物に対して標準化した。
【
図4E】
図4E及び4Fは、脂肪沈着/リン脂質沈着を引き起こす化合物(
図3E)、リファンピン(非脂肪沈着/リン脂質沈着を引き起こす化合物)又はDMSOへの曝露後のhiHepにおける用量依存的な脂肪沈着及びリン脂質沈着の定量化を示す。n=4;a.uは任意単位。
【
図4F】
図4E及び4Fは、脂肪沈着/リン脂質沈着を引き起こす化合物(
図3E)、リファンピン(非脂肪沈着/リン脂質沈着を引き起こす化合物)又はDMSOへの曝露後のhiHepにおける用量依存的な脂肪沈着及びリン脂質沈着の定量化を示す。n=4;a.uは任意単位。
【
図4G】
図4Gは、薬物-薬物相互作用を介した毒性を示す。DMSO、CYP3A4誘導剤リファンピン(RIF)又はRIF及びCYP3A4阻害剤ケトコナゾール(KC)の併用で処理した後の、hiHep及びHepG2細胞におけるAFB1(TC50値により示される)及びフルタミド(0.3mM又は3mMでの細胞生存率により示される)の毒性。両細胞型において、AFB1についてはn=3及びフルタミドについてはn=6。データは平均±SEMとして示す。1元配置分散分析を実施した。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。これらの図において、上部パネル(左及び右)は、hiHep又はHepG2の50%の細胞死をもたらす濃度を示し、そしてカラムは濃度を表した。下のパネル(左及び右)は、0.3mMのフルマイド(flumaide)でのhiHepについての細胞生存率及び3mMのフルマイドでのHepG2についての細胞生存率を示した。HepG2は、0.3mMのフルマイドでは、100%生存していたので、HepG2の死をもたらす可能性のある3mMでのHepG2の細胞生存率を示した。
【
図5A】
図5Aは、RT-qPCRによる、35日間のhiHepにおけるNTCPの動的遺伝子発現分析を示す。n=3。
【
図5B】
図5Bは、感染後7日及び非感染のhHPLC、hiHep、PHH及びHepG2-NTCP細胞におけるHBVマーカーの定量を示す。n=3。
【
図5C】
図5Cは、hiHepにおけるcccDNAのサザンブロット分析を示す。
【
図5D】
図5D~Gは、異なるHBVマーカーの動的発現を示す。HBVタンパク質(
図5D)、HBV-RNA(
図5E)、上清HBV-DNA(
図5F)及び細胞内HBV-DNA(
図5G)を、HBVに感染したhiHep及びETV、LAM及びIFN-αで処理したhiHepにおいて分析した。n=3。
【
図5E】
図5D~Gは、異なるHBVマーカーの動的発現を示す。HBVタンパク質(
図5D)、HBV-RNA(
図5E)、上清HBV-DNA(
図5F)及び細胞内HBV-DNA(
図5G)を、HBVに感染したhiHep及びETV、LAM及びIFN-αで処理したhiHepにおいて分析した。n=3。
【
図5F】
図5D~Gは、異なるHBVマーカーの動的発現を示す。HBVタンパク質(
図5D)、HBV-RNA(
図5E)、上清HBV-DNA(
図5F)及び細胞内HBV-DNA(
図5G)を、HBVに感染したhiHep及びETV、LAM及びIFN-αで処理したhiHepにおいて分析した。n=3。
【
図5G】
図5D~Gは、異なるHBVマーカーの動的発現を示す。HBVタンパク質(
図5D)、HBV-RNA(
図5E)、上清HBV-DNA(
図5F)及び細胞内HBV-DNA(
図5G)を、HBVに感染したhiHep及びETV、LAM及びIFN-αで処理したhiHepにおいて分析した。n=3。
【
図5H】
図5Hは、HBVに感染したhiHep、IFN-αで処理したHBVに感染したhiHep、非感染のhiHep及びIFN-αで処理した非感染のhiHepにおける重要なISGの遺伝子発現分析を示す。n=3。スケールバー=50μm。データは平均値±SEMとして示した。
【
図5I】
図5Iは、感染後30日における異なるHBVマーカーの動的発現を示す。HBVタンパク質、HBV-RNA,上清HBV-DNA及び細胞内HBV-DNAを、HBVに感染したhiHep及びウイルス侵入阻害剤であるN末端ミリストイル化ペプチド(MYR)で処理したhiHepにおいて分析した。n=3。スケールバーは50μmを表す。データは平均±SEMとして示す。
【
図6A】
図6Aは、RT-qPCRによる、凍結保存の前及び後のhHPLCにおける重要なhHPCマーカー(左)並びに凍結保存前及び凍結保存後のhHPLCに由来するhiHepにおける重要な肝細胞機能マーカー(右)の遺伝子発現分析を示す。n=3。データは平均±SEMとして示す。
【
図6B】
図6Bは、線維芽細胞における、サイレントであり及びH3K9me3によりマークされた、261個の肝遺伝子の活性化レベルを示すバイオリン図を含む。以前の線維芽細胞から肝細胞への直接の系統リプログラミング研究(左)及び新規なツーステップ系統リプログラミング戦略(右)を用いた本研究からのRNA-seqデータ(GSE103078)を分析した。2つの異なる戦略からのhiHepにおけるRNAレベルを、log2変換値を用いて、線維芽細胞レベル(0%)から初代ヒト肝細胞レベル(100%)までの相対的スケールにプロットした。相対的な遺伝子発現レベルが50%を超えることを活性化したとみなした。n=2。
【0017】
[発明の詳細な説明]
I.定義
本明細書で使用する場合、「2C培地」は、1つ以上のcAMPシグナル伝達活性化剤及び1つ以上のTGFβ受容体阻害剤で補充した肝細胞のための基礎細胞培養培地、例えば、フォルスコリン及びSB431542を補充した、2% B27、1% GlutaMAXを含有するHCM(肝細胞培養培地)又はウィリアムズE培地を指す。
【0018】
本明細書中で使用される場合、「培養」は、培地中で増殖され、場合により継代された細胞の集団を意味する。細胞培養は、初代培養(例えば、継代されていない培養)、又は二次培養又はその後の培養(例えば、継代培養した又は1回以上継代した細胞の集団)であってもよい。
【0019】
本明細書で使用される場合、「ダウンレギュレーション」又は「ダウンレギュレートする」は、細胞が、それにより外的変数に反応して、細胞成分、例えば、DNA、RNA又はタンパク質の量及び/又は活性を減少させるプロセスを指す。
【0020】
本明細書中で使用される場合、「機能的誘導性肝細胞(iHep)」は、肝臓から得られた単離したばかりの初代ヒト肝細胞(F-PHH)における同一酵素の発現と同等のレベルで、CYP3A4、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP1A2、CYP2A6、UGT1A1又はPORの少なくとも1つの発現を示す誘導性肝細胞を指す。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「宿主細胞」は、ベクターなどの組換えヌクレオチドが導入され得る非肝細胞の真核細胞を指す。
【0022】
本明細書で使用される用語「誘導性肝細胞」(iHep)は、天然に存在する肝細胞ではなく、非肝細胞から人工的に派生させた細胞を指す。
【0023】
用語「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、一般に、修飾されていないRNAもしくはDNA、又は修飾されたRNAもしくはDNAであり得る、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを指す。したがって、例えば、本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドは、とりわけ、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖領域及び二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、並びに一本鎖領域及び二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖又は、より典型的には二本鎖又は一本鎖領域及び二本鎖領域の混合物であり得るDNA及びRNAを含むハイブリッド分子を指す。用語「核酸」又は「核酸配列」はまた、上記で定義されたポリヌクレオチドも包含する。
【0024】
更に、本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドは、RNA、又はDNA、又はRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。このような領域の鎖は、同じ分子又は異なる分子に由来していてもよい。前記領域は、1つ以上の分子の全てを含み得るが、より典型的には、いくつかの分子の領域のみを含む。三重らせん領域の分子の1つは、オリゴヌクレオチドであることが多い。
【0025】
本明細書中で使用される場合、用語ポリヌクレオチドは、1以上の修飾塩基を含有する、上記のDNA又はRNAを含む。したがって、安定性又は他の理由のために修飾されたバックボーンを有するDNA又はRNAは、本明細書で意図されているように「ポリヌクレオチド」である。更に、2例のみを挙げると、イノシンなどの異常な塩基、又はトリチル化された塩基などの修飾された塩基を含むDNA又はRNAは、本明細書で使用される用語のポリヌクレオチドである。
【0026】
用語「パーセント(%)配列同一性」は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して、最大パーセント配列同一性を達成した後の、参照核酸配列中のヌクレオチド又はアミノ酸と同一である候補配列におけるヌクレオチド又はアミノ酸のパーセンテージとして定義される。パーセント配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの一般に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当分野の技術範囲内である様々な方法において達成することができる。比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータは、公知の方法により決定することができる。
【0027】
本明細書の目的のために、所与の核酸配列Dへの、との、又は、に対する所与のヌクレオチド又はアミノ酸配列Cのパーセント配列同一性(これは、代替的に、所与の配列Dへの、との、又は、に対する、あるパーセント配列同一性を有する、又は含む所与の配列Cとして表現することができる)は、以下のように算出される:
100×分数W/Z、
ここでWは、シーケンスアラインメントプログラムによって、C及びDのプログラムのアラインメントにおいて同一一致として採点されたヌクレオチド又はアミノ酸の数であり、そしてZは、Dにおけるヌクレオチド又はアミノ酸の総数である。配列Cの長さが配列Dの長さと等しくない場合、DへのCのパーセント配列同一性はDへのCのパーセント配列同一性と等しくないことが理解されよう。
【0028】
本明細書中で使用される場合、「形質転換された」及び「トランスフェクトされた」は、多くの当該技術分野で公知の技術による細胞への核酸(例えばベクター)の導入を包含する。
【0029】
本明細書中で使用される場合、「ベクター」は、挿入されたセグメントの複製がもたらされるように別のDNAセグメントを挿入できる、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどのレプリコンである。本明細書に記載されるベクターは、発現ベクターで有り得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、「発現ベクター」は、1つ以上の発現制御配列を含むベクターである。
【0031】
本明細書で使用される場合、「リプログラミング」は、ある特定の細胞型から別の細胞型への変換を指す。たとえば、肝細胞でない細胞は、形態的及び機能的に肝細胞に似た細胞にリプログラミングすることができる。
【0032】
本明細書で使用される場合、「細胞/細胞(複数)を処理する」は、細胞成分、例えばDNA、RNA又はタンパク質の量及び/又は活性をダウンレギュレート又はアップレギュレートするために、細胞を、本明細書で開示される核酸などの因子と接触させることを指す。このフレーズはまた、細胞を、関心対象の遺伝子/タンパク質をダウンレギュレート又はアップレギュレートすることができるタンパク質及び小分子を含む任意の因子と接触させることを包含する。
【0033】
用語「発現をアップレギュレートする」は、例えば、発現に影響を与えて、例えば、発現又は活性を誘導するか、又は未処理の細胞と比較して、増加した/より大きな発現又は活性を誘導することを意味する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「アップレギュレーション」又は「アップレギュレートする」は、細胞が、そのプロセスによって、外的変数に反応して、細胞成分、例えば、DNA、RNA又はタンパク質の量及び/又は活性を増加させるプロセスを指す。
【0035】
「変異体」は、参照ポリペプチド又はポリヌクレオチドとは異なるが、必須の特性を保持するポリペプチド又はポリヌクレオチドを指す。ポリペプチドの典型的な変異体は、他の参照ポリペプチドとアミノ酸配列が異なる。一般に、違いは、参照ポリペプチド及び変異体の配列が全体的によく類似しており、多くの領域において同一であるように制限される。変異体及び参照ポリペプチドは、1つ以上の改変(例えば、置換、付加及び/又は欠失)によってアミノ酸配列が異なっていてもよい。置換又は挿入されたアミノ酸残基は、遺伝コードによってコードされるものであっても、そうでなくてもよい。ポリペプチドの変異体は、対立遺伝子変異体などの天然に存在するものであってもよく、又は天然に存在することが知られていない変異体であってもよい。
【0036】
II.組成物
A.非肝細胞を肝細胞特性を有する細胞に誘導する因子
非肝細胞から完全に機能する肝細胞を得ることは、特に分化した細胞からは困難でなままである。機能的ヒト誘導性肝細胞(hiHep)は、以下の因子:造血系で発現するホメオボックスタンパク質であるHHEX;肝細胞核因子であるHNF4A、HNF6A;GATA結合性タンパク質であるGATA4及びフォークヘッドボックスタンパク質であるFOXA2、並びにMYC遺伝子のmRNAレベル(又はmRNAによりコードされるタンパク質のレベル)をアップレギュレートし、及び非肝細胞におけるp53発現レベルをダウンレギュレートした後に、本明細書に開示される定義された細胞培養プロトコルを行うことにより、線維芽細胞から生成することができる。本明細書に開示される肝細胞誘導因子の全ての既知の機能的変異体及びアイソフォームが企図される。
【0037】
これらの既知の配列は、アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)のGenebankデータベースから容易に入手できる。HHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4及びFOXA2のGenBankアクセッション番号を表1に列挙する。
【0038】
いくつかの実施態様では、前記方法は、FOXA2の代わりに、又はFOXA2と組み合わせて、アップレギュレートされるフォークヘッドボックスタンパク質遺伝子/タンパク質としてFOXA1又はFOXA3を選択することを含む。いくつかの好ましい実施態様は、FOXA2がアップレギュレートされる場合、FOXA1又はFOXA3の発現をアップレギュレートすること含まない。
【0039】
いくつかの実施態様では、前記方法は、GATA4の代わりに、又はGATA4と組み合わせて、アップレギュレートされるGATA結合性タンパク質遺伝子/タンパク質としてGATA6を選択することを含む。いくつかの好ましい実施態様は、GATA4がアップレギュレートされる場合、GATA6の発現をアップレギュレートすること含まない。
【0040】
好ましくは、p53活性は、p53遺伝子、mRNA及び/又はタンパク質レベルのダウンレギュレーションによって示されるように、更にダウンレギュレートされる。
【0041】
i.HHEX
HHEX遺伝子は、造血系で発現するホメオボックスタンパク質HHEXをコードする。
【0042】
HHEX転写因子は、ある場合にはプロモーターとして働き、そして別の場合には阻害剤として働く。この転移因子は、他の多くのシグナル分子と相互作用し、肝臓、甲状腺及び前脳などの複数の臓器の発生に重要な役割を果たす。この転写因子の重要性は、HHEXノックアウトマウスの胚が妊娠中に生存できないことから例証される。
【0043】
例示的なHHEX遺伝子は、NM_002729.4によって表される。
【化1】
【0044】
ii.HNF4A
肝細胞核因子4α(HNF4α、NR2A1、遺伝子記号HNF4A)はリガンド依存性転写因子の核受容体(NR)スーパーファミリーの高度に保存されたメンバーである(Sladeck, et al., Genes Dev., 4(12B): 2353-65 (1990))。HNF4A1は、肝臓(肝細胞)、腎臓、小腸などにおいて発現しており、HNF4A2は、肝臓において最も優勢なアイソフォームである。HNF4Aは肝臓においてアポリポタンパク質遺伝子の全てではないにしてもほとんどを調節し、多くのチトクロームP450遺伝子(例えば、CYP3A4、CYP2D6)及び第II相酵素の発現を調節し、従って薬物代謝の役割を果たし得る(Gonzalez, et al., Drug Metab. Pharmacokinet, 23(1):2-7 (2008))。
【0045】
例示的なHNF4A遺伝子は、NM_178849.2によって表される。HNF4Aをコードする核酸は、この配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有する配列、又はその機能性断片又はバリアントを含むことができる。
【0046】
HNF4A及びそれらの活性をコードする核酸の多くの天然に存在する変異体は当該技術分野で知られている。ヒト肝細胞核因子4遺伝子はNCBI GenBankのアクセッション番号BC137539.1として記載されている。
【0047】
iii.HNF6A
HNF6はもともと、6-ホスホフルクト-2-キナーゼ(pfk-2)遺伝子の肝臓プロモーターの転写活性化因子として特徴付けられており、肝臓、脳、脾臓、膵臓及び精巣において発現する。Lannoy, et al., J. Biol. Chem., 273:13552-13562 (1998)。選択的スプライシングにより複数の転写産物変異体が生じる。
【0048】
ホモ・サピエンス転写産物変異体mRNAは、Genbankアクセッション番号NM_004498.2として開示されている。
【0049】
HNF6をコードする核酸は、この配列、すなわちGenbankアクセッション番号NM_004498.2に示される配列の少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有する配列、又はその機能性断片又は変異体を含むことができる。
【0050】
HNF6をコードする核酸の多くの天然に存在する変異体及びそれらの活性は、当該技術分野で知られている。ヒト肝細胞核因子6(HNF6)遺伝子は、NCBI Genbankアクセッション番号AF035581として記載されている。HNF6Aはワンカットホメオボックス1(ONECUT1)としても知られている。
【0051】
iv.GATA4
GATA結合性タンパク質は、構造的に関連した転写因子の群であり、さまざまな細胞型において遺伝子の発現及び分化を制御する。このDNA結合性タンパク質ファミリーのメンバーは、多くの遺伝子のプロモーターにおいて重要なシス配列である、「GATA」モチーフとして知られるコンセンサス配列を認識する。GATA4は、成体脊椎動物の心臓、腸上皮、及び生殖腺で発現する。胎児の発育期の間、GATA4は、卵黄嚢内胚葉及び心臓形成に関与する細胞において発現する。例示的なGATA4遺伝子は、NM_002052により表される。
【0052】
v.FOXA2
FOXA2遺伝子は、肝細胞核因子3-β(HNF-3B)をコードし、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)又は転写因子3B(TCF-3B)としても知られている。フォークヘッドボックスタンパク質A2は、DNA結合性タンパク質のフォークヘッドクラスのメンバーである。これらの肝細胞核因子は、アルブミン及びトランスチレチンなどの肝臓に特異的な遺伝子のための転写活性化因子であり、クロマチンとも相互作用する。マウスにおける類似のファミリーメンバーは、代謝の調節及び膵臓及び肝臓の分化における役割を有する。FOXA2遺伝子はアカゲザル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、及びカエルにおいて保存される。
例示的なFOXA2遺伝子は、NM_021784により表される。
【0053】
vi.MYC
MYC(c-Myc)は、細胞周期の進行、アポトーシス及び細胞形質転換において役割を果たす多機能で、核リンタンパク質である転写因子をコードする調節遺伝子である。
【0054】
1つの実施態様では、MYCは以下の配列によって表される。
【化2】
【0055】
vii.p53(TP53)
リプログラミングされる細胞におけるp53の活性又はレベルは、当該技術分野で公知の任意の方法を用いてダウンレギュレートされる。p53レベル/発現をダウンレギュレートするために用いることができる組成物は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、EGS、リボザイム、及びアプタマーを含むが、これらに限定されず、以下で更に議論する。好ましくは、p53遺伝子発現は、siRNA、shRNA、又はmiRNAを用いて阻害される。
【0056】
好ましい実施態様では、前記組成物はsiRNAである。p53siRNAをコードするオリゴヌクレオチドの例は、5’-TGACTCCAGTGGTAATCTACTTCAAGAGAGTAGATTACCACTGGAGTCTTTTTTC-3’及び5’-CGAGAAAAAAGACTCCAGTGGTAATCTACTCTCTTGAAGTAGATTACCACTGGAGTCA-3’である。
【0057】
B.肝細胞誘導因子をコードするベクター
適切な形質転換ベクターを用いて、肝細胞誘導因子を宿主細胞に導入する。上記に述べたような核酸は、細胞における発現のためにベクターに挿入することができる。本明細書中で使用される場合、「ベクター」は、挿入されたセグメントの複製がもたらされるように別のDNAセグメントを挿入できる、プラスミド、ファージ、ウイルス又はコスミドなどのレプリコンである。ベクターは発現ベクターで有り得る。「発現ベクター」は、1つ以上の発現制御配列を含むベクターであり、そして「発現制御配列」は、別のDNA配列の転写及び/又は翻訳を制御及び調節するDNA配列である。
【0058】
ベクターにおける核酸は、1つ以上の発現制御配列に操作可能に連結することができる。例えば、発現制御配列が、関心対象のコーディング配列の発現を効果的に制御するように、制御配列を遺伝子構築物に組み込むことができる。発現制御配列の例には、プロモーター、エンハンサー、及び転写終結領域が含まれる。プロモーターは、典型的には転写が開始される点(一般的にはRNAポリメラーゼIIの開始部位の近く)の上流100ヌクレオチド以内の、DNA分子の領域で構成される発現制御配列である。コーディング配列をプロモーターの制御下に置くためには、ポリペプチドの翻訳リーディングフレームの翻訳開始部位をプロモーターの下流1~約50ヌクレオチドの間に置く必要がある。エンハンサーは、時間、位置、及びレベルに関して発現の特異性を提供する。プロモーターとは異なり、エンハンサーは、転写部位からさまざまな距離に位置して機能する。エンハンサーはまた、転写開始部位から下流に位置することもできる。コーディング配列は、RNAポリメラーゼがコーディング配列をmRNAに転写することができ、次いでコーディング配列によってコードされるタンパク質に翻訳することができる場合、細胞における発現制御配列に「機能的に連結され」、そしてその「制御下」にある。
【0059】
適切な発現ベクターは、例えばバクテリオファージ、バキュロウイルス、タバコモザイクウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス及びアデノ関連ウイルスに由来するプラスミド及びウイルスベクターを含むが、それらに限定されない。多数のベクター及び発現系は、Novagen (Madison, WI)、Clontech (Palo Alto, CA)、Stratagene (La Jolla, CA)、及びInvitrogen Life Technologies (Carlsbad, CA)などの企業から市販されている。
【0060】
C.誘導される細胞
リプログラミング可能な細胞には、胚性幹細胞(ESC)、誘導多能性幹細胞(iPSC)、線維芽細胞、脂肪由来幹細胞(ADSC)、神経由来幹細胞、血液細胞、ケラチノサイト、腸上皮細胞及び他の非肝細胞の体細胞が含まれる。好ましい実施態様では、非肝細胞は、線維芽細胞、例えば、ヒト胚線維芽細胞(HEF)又は包皮線維芽細胞である。細胞は好ましくは哺乳動物、例えばラット、マウス、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウサギ、ウマ、ブタから得られる。好ましくは、細胞はヒト被験体から得られる。
【0061】
D.誘導性肝細胞
例えば、非肝細胞細胞を処理して、肝運命変換因子であるHHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4及びFOXA2を過剰発現させることを含む方法により得られるiHepが開示される。
【0062】
誘導される細胞が上皮細胞でない、いくつかの実施態様では、iHepは、更に、少なくとも1つの上皮細胞マーカー、例えばE-カドヘリンを発現し、そして誘導される細胞が線維芽細胞である場合、本明細書に開示される方法を用いた線維芽細胞の誘導後に得られるiHepは、例えばRT-qPCRによって測定されるCOL1A1及び/又はTHY1などの線維芽細胞マーカー遺伝子を発現しない。
【0063】
成熟肝細胞に関連する機能特性に関して、iHepは、非肝細胞が得られた生物由来の培養した初代肝細胞に類似する典型的な肝細胞形態からなる群から選択される少なくとも1つの特徴を有する。例えば、非肝細胞がヒト細胞である場合、iHepは、培養した初代ヒト肝細胞(PHH)に類似した肝細胞形態を有する。iHepは、E-カドヘリン及び肝TFである、HNF4A,HNF1A,CEBPA,CEBPAに対して免疫陽性である。iHep細胞は、同様にALB+であり、例えば、フローサイトメトリー分析によって測定すると、第I相及び第II相細胞培養後に得られた細胞集団におけるALB+細胞は、細胞集団の90%以上を占める。第二に、iHepは、hHPLCと比較した場合、主要な成熟肝細胞の機能遺伝子のアップレギュレートされた発現レベルを示す;これらの発現レベルは、非肝細胞が得られた生物由来の単離したばかりの初代肝細胞(F-PHH)及び成体肝組織(AL)における発現レベルに匹敵する。例えば、非肝細胞がヒト細胞である場合、主要な成熟肝細胞機能遺伝子の発現レベルは、F-PHH及び成体肝組織(AL)における発現レベルと同等である(
図2B及び2D)。成体肝組織(AL)は、60%以上の肝細胞及び40%未満のクッパー細胞、内皮細胞、胆管細胞などの非肝細胞の混合物である。F-PHHは、ALから単離し、そして典型的には95%よりも多い肝細胞を含む。F-PHHは、消化の約2~4時間後にALから単離した。F-PHH及びALの両方は、インビトロで生成したhiHep又はその他の誘導性肝細胞の良好な対照と考えられる。
【0064】
第三に、機能遺伝子ALB及びCYP450の発現は、少なくとも40日間安定して維持され、その間、胎児マーカーAFPは消失し(例えば、ELISAアッセイ、RT-qPCR又は免疫蛍光染色において検出不能なレベルのAFP分泌として測定される)、DLK1及びEPCAMを含む他の胎児肝細胞マーカーもiHepにおいてダウンレギュレートされる。第四に、iHepは、CYP450、UGT1A1及びPORの重要な薬物代謝酵素を発現し、例えば、iHepはこれらの酵素に対して免疫陽性である。第五に、iHepは、低密度リポタンパク質(LDL)の取り込み、脂肪滴合成及びグリコーゲン合成を行う能力がある。最後に、iHepによるALB分泌は、PHHのそれと同等のレベルで少なくとも40日間維持できる。これらのデータは、hHPLCが機能性肝細胞を生じさせたことを示した。
【0065】
したがって、初代肝細胞と同様に、hiHepは、第I相及び第II相の薬物代謝酵素及び第III相薬物輸送体及びアルブミンの更なるスペクトルを発現する。iHepは、CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19、CYP2A6、CYP2C8、CYP2D6、CYP2B6、CYP1A2、UGT1A1、UGT1A8、UGT1A10、UGT2B7、UGT2B15及びPORからなる群より選択される少なくとも1つの薬物代謝酵素を発現する。
【0066】
CYP3A4、YP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP1A2、CYP2A6、UGT1A1及びPORの少なくとも1つの発現レベルは、iHepと単離したばかりの初代ヒト肝細胞との間で同等であった。好ましい実施態様では、iHepは、CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2D6、及びUGT1A1を発現し、そしてその発現は、単離したばかりの初代肝細胞及び/又は成体肝組織におけるレベルと同等である。いくつかの好ましい実施態様では、CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19、CYP2A6、CYP2C8、CYP2D6、CYP2B6、CYP1A2、UGT1A1、UGT1A8、UGT1A10、UGT2B7、UGT2B15、NTCP及びPORの少なくとも1つの発現レベルは、単離したばかりの初代肝細胞及び/又は成体肝組織における発現レベルよりも優れている。
【0067】
いくつかの実施態様では、iHepにおけるMYC発現レベルは、例えば、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)によって測定される、対応する生物における正常な肝細胞において検出されるレベルよりも低く、すなわち、誘導される非肝細胞のためのドナー生物がヒト被験体である場合、そのレベルは、ヒトにおいて見出される正常な肝細胞と比較される。
【0068】
重要なことに、iHepにおけるCYP450の代謝活性は、同じ生物由来のPHHにおける活性と同等であった(統計的有意差なしとして測定された)(
図3A)。
【0069】
III.作製方法
非肝細胞細胞を肝細胞様特性を有する細胞に変換するために開示される様々な方法は、重要な肝遺伝子の限定された活性化及び/又は機能性細胞の低い収率を伴う問題を認識しないか、又は対処しない。
【0070】
米国特許出願公開第2012/231490号は、SOX17、HHEX及びHNF4Aに加えて、GATA4、GATA6、HNF1A、HNF1B、FOXA1/HNF3A、FOXA2/HNF3B、FOXA3/HNF3G、CEBPA、CEBPB、TBX3及びPROX1などの1つ以上の遺伝子を導入することによってiPS細胞から肝細胞を得る方法を開示している。米国特許出願公開第2013/0251694号は、FOXA2、HNF4A、及びHHEX、HNF1A、FOXA1、TBX3-1、GATA4、NR0B2、SCML1、CEBPB、HLF、HLX、NR1H3、NR1H4、NR1I2、NR3、NR5A2、SEBOX、及びZNF391からなる群より選択される1つ以上の更なる肝細胞プログラミング因子遺伝子を含み得る外因性発現カセットを用いることを開示している。
【0071】
Huang, et al., Nature, 475:386-389 (2011)は、Gata4、Hnf1α及びFoxa3の形質導入及びp19(Arf)の不活性化による、マウス尾部線維芽細胞からの肝細胞様細胞の直接誘導を開示している。誘導された細胞は典型的な上皮形態を示す。Sekiya and Suzuki, Nature, 475:390-393 (2011))は、マウスの胎生の及び成体の線維芽細胞をインビトロで肝細胞に類似した細胞に変換することができる、2つ転写因子Hnf4α+Foxa1、Foxa2又はFoxa3の3つの特異的な組合せを同定した。以前の研究は、ワンステップの誘導戦略を用いて非肝細胞細胞から肝細胞様細胞を得るためのHNF1A、HNF4A、HNF6、ATF5、PROX1及びCEBPAの組み合わせを同定した。Du, et al., Cell Stem Cell, 14:394-403 (2014)。しかしながら、凝集したH3K9me3ヘテロクロマチンドメインのような直接的な再プログラミング化に対するエピジェネティックな障壁が存在し、転写因子(TF)が、標的細胞の組織特異的な遺伝子を活性化するためにアクセスすることを困難にし、不完全な細胞運命変換をもたらしている(Becker, et al., Trends in Genetics, 32:29-41 (2016))。一貫して、以前の直接的な線維芽細胞から肝細胞への変換研究では、H3K9me3ドメインに位置する重要な肝遺伝子の活性化は限定されていた(
図6B)(Gao, et al., Stem Cell Reports, 9:1813-1824 (2017); Becker, et al., Mol. Cell., 68:1023-1037 e1015 (2017)も参照のこと)。
【0072】
理論に拘束はされないが、本明細書に開示される研究は、再生中の間接的な細胞運命変換経路を介して系統障壁を克服することにより、この問題を解決する。この系では、先に議論した直接的な線維芽細胞-肝細胞変換(すなわち、ワンステップ方式)とは逆に、最終的に分化した細胞は、まず増殖性の前駆細胞に脱分化し、その後、ある種の発生プログラムを反復することにより、様々な分化シグナルに反応して、後成的風景(epigenetic landscape)に沿って高い能力の機能性細胞に再分化する。これは2つの原理に基づいている。すなわち、比較的開いたクロマチン構造を有する前駆細胞は、正確な細胞運命の誘導をより受けやすく、そしてこのような細胞の増殖は、豊富な機能性細胞の生成を可能にする。従って、本明細書に開示される方法は、増殖可能な増殖前駆細胞の可塑性の中間段階を、系統リプログラミングに導入することによって機能的能力のあるヒト肝細胞を生成するための新たなツーステップ戦略を調査した(
図1A)。
【0073】
本明細書に開示される方法では、MYCをアップレギュレートすること及びp53をダウンレギュレートすることを組み合わせて、細胞における肝細胞誘導因子をアップレギュレートすることによって、非肝細胞をiHepにリプログラミングし、そして本明細書に開示されるように細胞を十分な期間培養して、細胞を肝前駆細胞様細胞(HPLC)と呼ばれる細胞に変換し、次いで、肝細胞様特性を有する細胞(iHep)に変換する。誘導される非肝細胞細胞は、当該技術分野で公知の方法を用いてドナー動物から得られる。
【0074】
リプログラミングする方法は、肝前駆細胞生成相(第I相)及び誘導性肝細胞(iHep)生成相(第II相)の2つの相を含む。第I相は、リプログラミングする相であり、以下の工程を含む:(a)非肝細胞において肝細胞誘導因子をアップレギュレートして、形質転換細胞を得ること、及び細胞培養培地中で細胞を培養すること(形質転換相)、及び(b)HEM(肝増殖培地)中で形質転換細胞を再播種及び培養すること(増殖相)。第II相は、少なくとも1つのcAMPアゴニスト/cAMP類似体及びTGFβ受容体阻害剤を用いた独自の分化培地中で細胞を培養することを含む(成熟相)。開示される方法の概略図を
図1Aに示す。
【0075】
A.第I相
第I相(a)の最初の段階では、肝細胞誘導因子HHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4及びFOXA2をアップレギュレート/過剰発現するように細胞を処理する。好ましくは、MYCをアップレギュレート/過剰発現させ、及び/又はp53をダウンレギュレートするように、細胞を更に処理する。いくつかの実施態様では、SOX17、HNF1A、FOXA1、TBX3-1、NR0B2、SCML1、CEBPB、HLF、HLX、NR1H3、NR1H4、NR1I2、NR1I3、NR5A2、SEBOX、ZNF391、ATF5、PROX1、HNF1B、FOXA1/HNF3A、FOXA2/HNF3B、FOXA3/HNF3G、CEBPA、又はTBX3をアップレギュレート/過剰発現させるように、第I相において細胞を処理しない。
【0076】
肝細胞誘導因子をアップレギュレート/過剰発現させる処理は、好ましくは、細胞に遺伝子を導入するための当該技術分野で公知の任意の方法を用いて、HHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4、FOXA2及びMYCをコードする遺伝子、及びp53siRNAをコードするオリゴヌクレオチドを細胞に導入して、トランスフェクトされた細胞を得ることを含む。好ましくは、遺伝子は、当該技術分野で公知のアデノウイルス、レンチウイルス等の発現系を用いて導入される。
【0077】
従って、第I相(a)から得られる形質転換細胞は、本明細書に開示されるように細胞をトランスフェクトすることにより、又は当該技術分野における他の任意の非トランスフェクション方法(例えば小分子での処理)により、関心対象の遺伝子の発現をアップレギュレートすることによって得ることができる。
【0078】
(i)HEF細胞培養
第I相(a)では、HHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4、FOXA2及びMYCを過剰発現し、そしてp53をダウンレギュレートするようにトランスフェクト/処理された細胞(本明細書では、形質転換細胞)を、従来の細胞培養培地中、例えば、HEF(ヒト胚性線維芽細胞)培地中で5~10日間、好ましくは、この最初の段階で少なくとも7日間、例えば、7、8、9又は10日間培養する。最も好ましくは、細胞を約7日間HEF培地中で維持する。例示的なHEF培地は、10% ウシ胎児血清(FBS)、1% GlutaMAX、1% 非必須アミノ酸(NEAA)及び1% ペニシリン/ストレプトマイシン(PS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である。
【0079】
(ii)HEM中で培養された形質転換細胞
次いで、形質転換細胞を、HEM(補充された肝細胞維持/増殖培地である)中で約15~40日、好ましくは約20~30日、より好ましくは約20~25日の期間、再播種及び増殖させる(増殖相)。好ましい実施態様では、形質転換細胞は、トランスフェクションによって得られ、そしてトランスフェクトされた細胞を富化するための適切な薬剤、例えば、ピューロマイシンを用いて、再播種前に約24時間、処理される。ピューロマイシンは抗生物質である。感染した細胞は、ベクター中に耐性遺伝子があるため、ピューロマイシンに対して耐性がある。。
【0080】
好ましいHEMを表2Bに示す。
M10培地は、上皮成長因子(EGF)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3阻害剤(CHIR99021)、形質転換成長因子β受容体阻害剤(E-616452)、リゾホスファチジン酸(LPA)、スフィンゴシン1-リン酸(S1P);インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム(ITS)、ニコチンアミド及び2-ホスホ-L-アスコルビン酸(pVc)で補充したDMEM/F12である(表2A及び2B)。対照的に、特に好ましい実施態様では、HEMは、50% DMEM/F12、1% PS[[ペニシリン及びストレプトマイシン]]などの抗生物質を補充した50% ウイリアムズE培地、2% B27(VAなし)、5mM ニコチンアミド、200μM 2-ホスホ-L-アスコルビン酸、3μM CHIR99021、5μM SB431542、0.5μM スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、5μMリゾホスファチジン酸(LPA)、及び40ng/mL 上皮成長因子(EGF)を含む。
【0081】
好ましいGSK阻害剤は、約3μMの濃度で使用される、化学名[6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル]-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル]を有するCHIR99021であるアミノピリミジンである。他のGSK阻害剤もまた、本明細書に開示される方法において使用することができ、それらには、BIO-アセトキシム(例えば1μM);GSK3I阻害剤XV;SB-216763;CHIR99021の塩酸塩であるCHIR99021三塩酸塩;GSK-3阻害剤IX[((2Z,3E)-6’-ブロモ-3-(ヒドロキシイミノ)-[2,3’-ビインドリニリデン]-2’-オン];GSK3IX[6-ブロモインジルビン-3’-オキシム];GSK-3β阻害剤XII[3-[[6-(3-アミノフェニル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル]オキシ]フェノール];GSK-3阻害剤XVI[6-(2-(4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-ピリミジン-2-イルアミノ)エチル-アミノ)-ニコチノニトリル];SB-415286[3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン];及びBio[(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム]を含むがそれらに限定されない。
【0082】
TGFβ阻害剤は、好ましくは、いくつかの実施態様で、TGFβ1型受容体アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)5を阻害し、そして他の実施態様では、ALK4及び節性受容体1受容体ALK7を更に阻害することができる。TGFβ受容体阻害剤は、SB431542(4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド)、E-616452([2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン]);又は当該技術分野で公知であり、市販されている他のTGFβ阻害剤で有り得る。例としてはA83-01[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド]、SB505124[2-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-(1,1-ジメチルエチル)-1H-イミダゾール-5-イル]-6-メチル-ピリジン];GW788388[4-[4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-2-ピリジニル]-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-ベンズアミド];SB525334[6-[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-4-イル]キノキサリン]、及びドルソモルフィンが挙げられる。
【0083】
特に好ましい実施態様では、サプリメント、小分子及び成長因子の組み合わせは、同じ培養時間でM10を用いて得られたHPLCの収率よりも高いHPLCの収率を提供するように選択される。任意の所与の時点でのHPLCの収率は、第I相の終了時でALB+細胞の百分率として測定することができる。好ましくは、サプリメント、小分子及び成長因子の選択された組み合わせは、ALB+細胞の収率の2倍以上の増加、例えば、収率の少なくとも2倍~30倍の間の増加、好ましくは、収率の少なくとも10倍~30倍の増加、更により好ましくは、収率の少なくとも20倍~30倍の間の増加を提供する。例えば、収率の増加は、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30倍で有り得る。基礎培地、サプリメント、小分子及び成長因子の好ましい組み合わせは、表2Bに示されており、これは、本出願で例示されているように、M10培地(2.7% ALB+細胞)を用いた収量と比較した場合、15日目で200%を超えるALB+細胞(6.5% ALB+細胞)の増加した収量を提供する。SB431542は、1~10μMの間の、より好ましくは1~7μMの間の、そして更により好ましくは3~7μMの間の、そして最も好ましくは約5μMの濃度で使用される。
【0084】
ALB+細胞の百分率を決定するための方法は当該技術分野で公知であり、そして免疫蛍光の組み合わせを用いて本明細書で例示される。
【0085】
第I相の終了に続いて、場合により増殖/継代を行い、続いて、細胞を、第I相からの細胞を独自の分化培地中で培養することによって、第II相に供する。
【0086】
B.第II相
第I相から回収した細胞を、コンフルエントになるまでHEM培地中で培養し、更に、少なくとも1つのcAMPアゴニスト及びTGFβ受容体阻害剤、好ましくはSB431542を補充した培地(2C培地)中で、少なくとも5日の期間、好ましくは5~40日の期間、例えば5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15日間、そして40日間まで、培養し、続いて誘導性肝細胞を回収した。細胞が更なる用途のために生存し続ける(すなわち、それらが死なない)限り、より長い期間にわたって2C培地中で培養させることができるために、これらの期間は、限定されない。
【0087】
好ましいcAMPアゴニストは、フォルスコリンである。しかしながら、任意のcAMPアゴニストを使用することができる。例としては、プロスタグランジンE2(PGE2)、ロリプラム、ゲニステイン、及びdbcAMP又は8-ブロモ-cAMPなどのcAMP類似体が挙げられるが、これらに限定されない。cAMPアゴニストは、30μM~80μMの間、より好ましくは40μM~60μMの間、更により好ましくは45μM~55μMの間の濃度で使用される。
【0088】
SB431542は、5μM~20μMの間、より好ましくは5μM~15μMの間、更により好ましくは10μM~15μMの間、最も好ましくは約10μMの濃度で使用される。
【0089】
2C培地を作製するために使用することができる肝細胞のための基礎細胞培養培地の例としては、HCM(肝細胞培養培地);2% B27(Gibco)、1% GlutaMAXを含有するウイリアムズE培地;RPMI1640;ダルベッコ変法イーグル培地;ダルベッコ改変イーグル培地/栄養素混合物F-12イスコフ改変ダルベッコ培地が挙げられるが、これに限定されない。特に好ましい実施態様では、2C培地は、50μM フォルスコリン又は50μM dbcAMP、及び10μM SB431542を補充したHCMである。
【0090】
前記方法は、場合により(a)非肝細胞細胞が第I相後に肝細胞-前駆体様特性を獲得したことを確認する工程、及び(b)形態学的及び機能的特性並びに遺伝子発現を用いて、第II相後に、非肝細胞が肝細胞様特性を獲得したことを確認する工程を含む。
【0091】
形態学的確認方法は、肝細胞前駆細胞様(HPLC)及び成熟肝細胞様(iHEP)に特異的な形態学的特徴の確認を含む。
【0092】
HPLCは、hHPCの既知の役割を有する遺伝子、例えばALB、AFP、EPCAM、CK8、CK18、HNF1B、DLK1、及びMET、を含むhHPCにおいて富む遺伝子のアップレギュレーションに基づいて同定することができる。
【0093】
処理された細胞は、以下の特徴:(i)E-カドヘリン及び肝臓-TFのHNF4A、HNF1A、CEBPA、CEBPBに対する免疫陽性;(ii)主要な成熟肝細胞機能遺伝子の発現レベルがhHPLCと比較してhiHepにおいて劇的にアップレギュレートされたことが見出され、F-PHH及び成体肝組織(AL)における発現レベルと同等であった。(iii)初代ヒト肝細胞のレベルと同等のレベルでALBを発現する処理された細胞の能力、好ましくは機能遺伝子ALB及びCYP450の発現が、少なくとも40日間維持され、好ましくは胎児マーカーAFPが消失するまでの間PHHに匹敵するレベルで、安定して維持された。DLK1及びEPCAMを含む他の胎児肝細胞マーカーもhiHepにおいてダウンレギュレートされた。(iv)主なチトクロームP450酵素である、CYP3A4、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2D6、CYP2C9及びCYP2C19の1つ以上の発現;UGT1A1、POR、UGT1A3、UGT1A4、UGT1A6、UGT1A9、UGT2B7、UGT2515、NTCP、MRP6、MRP2、FMO5、MAOA、MAOB、EPHX1からなる群より選択される第II相酵素又は第II相輸送体の発現;(v)低密度リポタンパク質(LDL)取り込み、脂肪滴合成及びグリコーゲン合成の能力、の1つ以上を用いて、誘導性肝細胞として同定することができる。成功した誘導は、上皮マーカーの存在、及び誘導される細胞のマーカーの不在によって確認できる。例えば、誘導される細胞が線維芽細胞である場合、細胞が肝細胞様細胞に誘導されたことの更なる指標は、少なくとも1つの上皮細胞マーカー、例えばE-カドヘリンなどの発現、及び例えばRT-qPCRによって測定されるようなCOL1A1、THY1、及びα-フェトプロテインなどの線維芽細胞マーカー遺伝子の発現の欠如で有り得る。
【0094】
A.肝細胞誘導因子及びMYCのアップレギュレーション
肝細胞誘導因子及びMYCは、非肝細胞を、肝細胞誘導因子及びMYCの遺伝子発現及び/又はタンパク質レベル/活性をアップレギュレートする因子と接触させることによってアップレギュレートされる。これらの事実は、核酸、タンパク質及び小分子を含むが、これらに限定されない。
【0095】
例えば、アップレギュレーションは、肝細胞誘導因子(単数又は複数)及び場合によりMYCをコードする核酸を非肝細胞(宿主細胞)に外因的に導入することによって達成されてもよい。核酸は同種又は異種であってもよい。核酸分子は、DNA又はRNA、好ましくはmRNAで有り得る。好ましくは、核酸分子はレンチウイルス発現により非肝細胞細胞に導入される。
【0096】
宿主細胞は、形質転換されて、肝細胞を誘導するHHEX、HNF4A、GATA4、HNF6A、及びFOXA2を過剰発現する。好ましくは、細胞は、増殖因子MYCを過剰発現するように更に形質転換される。発現されるべき核酸を含有するベクターは、宿主細胞に導入することができる。核酸は、例えば、リン酸カルシウム共沈殿、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、又はマイクロインジェクションを含む技術によって哺乳動物細胞にトランスフェクトすることができる。本明細書に開示されるエクスビボ法は、例えば、被験体/ドナーから細胞を回収する工程、細胞を培養する工程、細胞に発現ベクターを形質導入する工程、及びコード化されたポリペプチドの発現に適した条件下で細胞を維持する工程を含むことができる。これらの方法は、分子生物学の技術分野で公知である。
【0097】
アップレギュレーションはまた、肝細胞誘導因子/MYCをコードする遺伝子の発現を増加させることが知られている因子及び/又は対応するタンパク質レベルを増加させることが知られている因子を用いて細胞を処理することによって達成されてもよい。例えば、Zhao, et al., Cell Res., 23(1):157-161 (2013)は、誘導因子FGF7、BMP2及びBMP4を用いて、hESCからのPROX1及びHNF6発現細胞の出現を促進する方法を開示する。肝細胞誘導因子の遺伝子発現又はタンパク質レベルをアップレギュレートする小分子及び/又はタンパク質を含む公知の因子もまた使用することができる。
【0098】
B.p53のダウンレギュレーション
p53は、p53遺伝子発現、mRNAレベル又はタンパク質レベルをダウンレギュレートするように細胞を処理することによりダウンレギュレートすることができる。この工程は、細胞を、p53遺伝子発現、mRNA又はタンパク質レベルをダウンレギュレートすることが知られる、核酸分子、小分子及びタンパク質を含むがこれらに限定されない、公知で任意の分子と接触させることを含む。
【0099】
p53遺伝子発現は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、EGS、リボザイム、及びアプタマーからなる群より選択される、機能性核酸、又はそれらをコードするベクターを用いて阻害することができる。好ましくは、p53遺伝子発現は、siRNA、shRNA、又はmiRNAを用いて阻害される。
【0100】
1.RNA干渉
いくつかの実施態様では、P53遺伝子発現は、RNA干渉を介して阻害される。遺伝子発現はまた、RNA干渉(RNAi)を介して高度に特異的な様式で効果的にサイレンシングすることができる。このサイレンシングはもともと二本鎖RNAの添加と共に観察された(Fire, et al. (1998) Nature, 391:806-11; Napoli, et al. (1990) Plant Cell 2:279-89; Hannon, (2002) Nature, 418:244-51)。一旦dsRNAが細胞内に入ると、RNaseIIIに似た酵素であるDicerによって切断され、3’末端に2ヌクレオチドのオーバーハングを含む、21~23ヌクレオチド長の2本鎖低分子干渉RNA(siRNA)になる(Elbashir, et al. (2001) Genes Dev., 15:188-200; Bernstein, et al. (2001) Nature, 409:363-6; Hammond, et al. (2000) Nature, 404:293-6)。ATPに依存する段階では、siRNAは、siRNAを標的RNA配列に導く、RNAi誘導サイレンシング複合体(RISC)として一般的に知られる多サブユニットタンパク質複合体に組み込まれる(Nykanen, et al. (2001) Cell, 107:309-21)。ある時点で、siRNA二本鎖は巻き戻され、そしてアンチセンス鎖は、RISCに結合したままで、エンドおよびエキソヌクレアーゼの組み合わせによる相補的なmRNA配列の分解を指向するようである(Martinez, et al. (2002) Cell, 110:563-74)。しかしながら、RNAi又はsiRNAの効果又はそれらの使用は、いずれのタイプのメカニズムにも限定されない。
【0101】
低分子干渉RNA(siRNA)は、配列に特異的な転写後の遺伝子サイレンシングを誘導し、それにより遺伝子発現を低下又は阻害さえもすることができる二本鎖RNAである。一例では、siRNAは、siRNAと標的RNAの両方の間の配列同一性の領域内で、mRNAのような相同なRNA分子の特異的分解を引き起こす。例えば、国際公開公報第02/44321号は、3’オーバーハング末端をもつ、塩基対向した場合、標的mRNAの配列に特異的な分解が可能なsiRNAを開示しており、これらのsiRNAを作製する方法については、参照により本明細書に組み込まれる。
【0102】
配列特異的な遺伝子のサイレンシングは、酵素Dicerによって産生されるsiRNAを模倣する、合成の短い二本鎖RNAを用いて、哺乳動物細胞において達成することができる(Elbashir, et al. (2001) Nature, 411:494 498) (Ui-Tei, et al. (2000) FEBS Lett 479:79-82)。siRNAは、化学的に又はインビトロで合成することができ、又は短い二本鎖ヘアピン様RNA(shRNA)が、細胞内でsiRNAに加工された結果であることもできる。合成siRNAは、一般に、アルゴリズム及び従来のDNA/RNAシンセサイザーを用いて設計される。サプライヤーには、Ambion (Austin, Texas)、ChemGenes (Ashland, Massachusetts)、Dharmacon (Lafayette, Colorado)、Glen Research (Sterling, Virginia)、MWB Biotech (Esbersberg, Germany)、Proligo (Boulder, Colorado)、及び Qiagen (Vento, The Netherlands)が挙げられる。siRNAは、Ambion’s SILENCER(登録商標) siRNA Construction Kitなどのキットを用いてインビトロでも合成できる。
【0103】
ベクターからのsiRNAの産生は、より一般的にはショートヘアピン型RNAse(shRNA)の転写を介して行われる。shRNAを含むベクターを産生するためのキットは、例えば、Imgenex社の GENESUPPRESSOR(商標) Construction Kits及びInvitrogen社のBLOCK-IT(商標) 誘導性RNAiプラスミド及びレンチウイルスベクターが利用可能である。
【0104】
2.アンチセンス
p53遺伝子発現を阻害するには、アンチセンス分子を用いることができる。アンチセンス分子は、標準的又は非標準的な塩基対形成のいずれかを介して標的核酸分子と相互作用するように設計される。アンチセンス分子と標的分子との相互作用は、例えば、RNAseH媒介RNA-DNAハイブリッド分解を介して、標的分子の破壊を促進するように設計される。あるいは、アンチセンス分子は、転写又は複製などの標的分子上で通常行われるプロセッシング機能を中断するように設計される。アンチセンス分子は、標的分子の配列に基づいて設計することができる。標的分子の最もアクセスしやすい領域を見つけることによってアンチセンス効率を最適化するための方法は、数多くある。例示的な方法は、インビトロでの選択実験及びDMS及びDEPCを用いるDNA修飾研究を含む。アンチセンス分子は、10-6、10-8、10-10又は10-12以下の解離定数(Kd)で標的分子に結合することが好ましい。
【0105】
「アンチセンス」核酸配列(アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、タンパク質をコードする「センス」核酸に相補的な、例えば、二本鎖cDNA分子のコーディング鎖に相補的な、又はp53をコードするmRNAに相補的なヌクレオチド配列を含むことができる。アンチセンス核酸配列及び送達方法は、当該技術分野において周知である(Goodchild, Curr. Opin. Mol. Ther., 6(2):120-128 (2004); Clawson, et al., Gene Ther., 11(17):1331-1341 (2004)。アンチセンス核酸は、標的配列のコーディング鎖全体又はその一部のみに相補的で有り得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、長さが約7、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80又はそれ以上のヌクレオチドであり得る。
【0106】
アンチセンス核酸配列は、p53mRNA配列全体に相補的であるように設計することができるが、p53mRNAの一部分のみにアンチセンスであるオリゴヌクレオチドであることもできる。アンチセンス核酸は、化学合成及び当該技術分野で公知の方法を用いた酵素的連結反応を用いて構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するヌクレオチド又は様々に修飾されたヌクレオチドを用いて化学的に合成することができ、これらのヌクレオチドは、分子の生物学的安定性を増大させるか、又はアンチセンス及びセンス核酸の間に形成される二重鎖の物理的安定性を増大させるように設計されており、例えば、ホスホロチオエート誘導体及びアクリジン置換されたヌクレオチドを使用することができる。アンチセンス核酸はまた、核酸がアンチセンス配向でサブクローニングされた発現ベクターを用いて生物学的に産生することもできる(すなわち、挿入された核酸から転写されたRNAは、次のサブセクションに更に説明される、関心対象の標的核酸に対するアンチセンス配向となる)。
【0107】
有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドの他の例では、α-異性体核酸が挙げられる。α異性体核酸分子は、相補的RNAと特異的な二本鎖ハイブリッドを形成し、通常のβユニットとは逆に、鎖は互いに平行に走る(Gaultier et al., Nucleic Acids. Res. 15:6625-6641 (1987))。アンチセンス核酸分子はまた、2’-o-メチルリボヌクレオチド(Inoue et al. FEBS Lett., 215:327-330 (1987))又はキメラRNA-DNA類似体(Inoue et al. FEBS Lett., 215:327-330 (1987))を含むことができる。
【0108】
3.アプタマー
いくつかの実施態様では、阻害分子は、アプタマーである。アプタマーは、標的分子と、好ましくは特定の方法で相互作用する分子である。アプタマーは非常に高い特異性で標的分子に結合することができる。例えば、標的分子と、その分子の単に1つの位置においてのみ異なる別の分子との間の結合親和性において、1万倍以上の差を有するアプタマーが単離されている。それらの強固な結合特性のため、及びアプタマー標的の表面形態がタンパク質標的の機能に関連する部分に多くの場合対応するために、アプタマーは強力な生物学的アンタゴニストであり得る。典型的には、アプタマーは、ステム-ループ又はG-カルテットのように定義された二次及び三次構造に折り畳まれる、長さが15~50塩基の範囲の小さい核酸である。アプタマーは、ATP及びテオフィリンなどの低分子、並びに逆転写酵素及びトロンビンなどの高分子に結合することができる。アプタマーは、標的分子に対し10-12M未満のKdで非常に強く結合することができる。アプタマーは、標的分子に10-6、10-8、10-10又は10-12未満のKdで結合することが好ましい。アプタマーは、標的分子とのKdが、バックグラウンド結合分子とのKdよりも、少なくとも10,100倍、1000倍、1万倍、又は10万倍低いことが好ましい。ポリペプチドのような分子について比較を行う場合、バックグラウンド分子は異なるポリペプチドであることが好ましい。
【0109】
4.リボザイム
p53遺伝子発現はリボザイムを用いて阻害することができる。リボザイムは、分子内又は分子間のいずれかで、化学反応を触媒することができる核酸分子である。リボザイムが分子間反応を触媒することが好ましい。ヌクレアーゼ又は核酸ポリメラーゼ型の反応を触媒するリボザイムには、ハンマーヘッドリボザイムなどの自然系で見いだせるリボザイムに基づく多くの異なるタイプがある。また、自然系では見いだせないが、特定のデノボ反応を触媒するように改変されたリボザイムも多数存在する。好ましいリボザイムは、RNA又はDNA基質を切断し、そしてより好ましくはRNA基質を切断する。リボザイムは、典型的には、標的基質の認識及び結合とそれに続く切断を介して、核酸基質を切断する。この認識は、多くの場合標準又は非標準の塩基対の相互作用に基づいている。標的基質の認識が標的基質配列に基づいているために、この特性は、リボザイムを、核酸の標的特異的切断のための特に良好な候補にしている。
【0110】
5.三本鎖形成オリゴヌクレオチド
p53遺伝子発現は、三重鎖形成分子を用いて阻害することができる。三本鎖形成機能性核酸分子は、二本鎖又は一本鎖核酸のいずれかと相互作用することができる分子である。三重鎖分子が標的領域と相互作用する場合、三本鎖と呼ばれる構造が形成され、そこにはワトソン-クリック塩基対及びフーグスティーン塩基対の両方に依存して複合体を形成するDNAの三本鎖が存在する。高い親和性及び特異性で標的領域に結合することができるので、三本鎖分子は好ましい。三重鎖形成分子は、10-6、10-8、10-10又は10-12未満のKdで標的分子と結合することが好ましい。
【0111】
6.外部ガイド配列
p53発現は、外部ガイド配列を用いて阻害することができる。外部ガイド配列(EGS)は、複合体を形成する標的核酸分子に結合する分子であり、RNasePによって認識され、その後標的分子が切断される。EGSは、選択したRNA分子を特異的に、適切に標的とするように設計することができる。RNAsePは、細胞内の転移RNA(tRNA)のプロセシングを助ける。細菌のRNAsePを、標的RNA:EGS複合体に天然のtRNA基質を模倣させるEGSを用いて、実質的に任意のRNA配列を切断するためにリクルートすることができる。同様に、真核生物EGS/RNAseP指向性のRNA切断を利用して、真核生物細胞内の所望の標的を切断することができる。種々の異なる標的分子の切断を容易にするために、EGS分子を作製及び使用する方法の代表的な例は、当該技術分野において公知である。
【0112】
7.shRNA
p53発現は、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、及びshRNAを発現するように改変された発現構築物を用いて阻害することができる。shRNAの転写は、ポリメラーゼIII(polIII)プロモーターで開始され、4-5-チミン転写終結部位の2位で終結すると考えられている。発現すると、shRNAは、3’UU-オーバーハングを有するステム-ループ構造に折りたたまれると考えられ;次いで、これらのshRNAの末端はプロセシングされ、shRNAは約21ヌクレオチドのsiRNA様分子に変換される(Brummelkamp et al., Science 296:550-553 (2002); Lee et al., Nature Biotechnol. 20:500-505 (2002); Miyagishi and Taira, Nature Biotechnol. 20:497-500 (2002); Paddison et al., Genes Dev. 16:948-958 (2002); Paul et al., Nature Biotechnol. 20:505-508 (2002); Sui (2002) supra; Yu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99(9):6047-6052 (2002)。
【0113】
C.送達ビヒクル
アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、EGS、リボザイム、及びアプタマーなどの機能性核酸のインビボ発現のためのベクターを作製及び使用する方法は、当該分野において公知である。
【0114】
例えば、送達ビヒクルは、ウイルスベクター、例えばアデノウイルスベクター(Quantum Biotechnologies, Inc. (Laval, Quebec, Canada)などの市販の製剤であり得る。ウイルスベクター送達は、組換えレトロウイルスゲノムをパッケージすることができるレトロウイルスベクター系などのウイルス系を介して行うことができる。次いで、組換えレトロウイルスを用いて感染させ、それにより、肝細胞誘導因子をコードする核酸を感染した細胞に送達することができる。改変された核酸を宿主細胞に導入する正確な方法は、もちろん、レトロウイルスベクターの使用に限定されない。アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、偽型レトロウイルスベクター、及びSoofiyani, et al., Advanced Pharmaceutical Bulletin, 3(2):249-255 (2013)に記載されているその他の使用を含む、他の技術がこの方法に広く利用可能である。ウイルスを改変して、安全性を高め、特異的な取り込みを増加させ、効率を改善することができる(例えば、Zhang, et al., Chinese J Cancer Res., 30(3):182-8 (2011), Miller, et al., FASEB J, 9(2):190-9 (1995), Verma, et al., Annu Rev Biochem., 74:711-38 (2005)を参照のこと)。
【0115】
リポソーム送達並びに受容体媒介性及び他のエンドサイトーシス機序などの、物理的形質導入技術を使用することもできる(例えば、Schwartzenberger et al., Blood, 87:472-478 (1996)を参照のこと)。LIPOFECTIN、LIPOFECTAMINE (GIBCO-BRL, Inc., Gaithersburg, Md.)、SUPERFECT (Qiagen, Inc. Hilden, Germany)及びTRANSFECTAM (Promega Biotec, Inc., Madison, Wis.)などの市販のリポソーム製剤、並びに当該技術分野において標準的な方法に従って開発された他のリポソームはよく知られている。更に、肝細胞誘導因子をコードする核酸又はベクターは、エレクトロポレーション並びにソノポレーションの方法によってインビボで送達することができる。エレクトロポレーションの間、電気パルスは、細胞膜を横切って印加されて、膜貫通電位差を生じさせ、不安定化された膜を介した核酸の一時的な膜透過及びトランスフェクションを可能にする(Soofiyani, et al., Advanced Pharmaceutical Bulletin, 3(2):249-255 (2013))。ソノポレーションは、超音波の局所的適用とガスマイクロバブルの血管内又は組織内への投与とを組み合わせて、血管及び組織の透過性を一時的に増加させる(Escoffre, et al., Curr Gene Ther., 13(1):2-14 (2013))。エレクトロポレーション及び超音波に基づく技術は、電気パルス又は超音波を標的組織又は器官に集中させることができ、したがって、遺伝子の送達及び発現がそれに限定されることから、標的トランスフェクション法である。これら又は他の一般的に使用される遺伝子導入方法のいずれかで達成される、開示された肝細胞誘導因子の発現又は過剰発現は、流体力学的注入、遺伝子銃の使用を含むが、それらに限定されない。
【0116】
IV.使用方法
本明細書に開示される研究は、薬物代謝機能を有するヒト肝細胞が、系統リプログラミングによって生成することができ、従って、医薬用途のための細胞資源を提供することを示す。
【0117】
A.インビトロ及び研究での用途
(i)薬物試験
肝臓が薬物の代謝活性において中心的役割を果たすため、肝実質細胞は、薬物開発において重要な役割を果たす。現在、薬物候補の失敗の主な原因は、そのADME(吸収、分布、代謝、排泄)が理想的でないことである。創薬研究の根幹は、薬物代謝の全てに関与するヒト肝実質細胞である肝細胞における候補薬物の、代謝及び毒性の効果に対するものである。現在、インビトロでの薬物開発に使用される主な肝細胞は、ヒト成体の初代肝細胞である。それらの限られた供給源、及び初代肝細胞の機能をインビトロで維持することの困難さのために、薬剤開発における薬剤候補の適用は極めて限られている。薬物代謝酵素を発現する、本明細書に開示されるhiHepは、インビトロの薬物代謝研究に使用することができる。
【0118】
(ii)研究
感染症に関する研究で遭遇する問題は、十分な動物モデルの欠如である。hHPLC及びhiHepの両方は、感染症、例えばB型及びC型肝炎感染症の研究のためのヒト化マウスモデルを構築するために使用することができる。これらの動物モデルは、感染症、特に肝臓を感染させる疾患を処置するためのワクチン及び薬物の開発において、信頼性の高いインビボプラットフォームを提供することができる。
【0119】
iHepは、HBV感染を再現するためのインビトロモデルとしての役割を果たすことができる。hiHepは、hiHepにおいてHBV受容体NTCPを発現する。HBVに感染したhiHepは、HBcAgに対して免疫陽性であった。HBsAg及びHBeAgの分泌、及びhiHepにおけるHBV-DNA、HBV-RNA、HBV-cccDNAの発現の分析は、hiHepにおけるHBVマーカーが、PHHにおけるそれらと同等であることを示す。HBsAg及びHBeAgの分泌は、徐々に増加し、そして20dpiでピークに達し;上清及び細胞内のHBV-DNAは少なくとも36日間それらの発現を保持した。まとめると、これは、本明細書に開示される方法に従って得られたhiHepが、インビトロで長期間HBV感染を支持し得ることを示す。
【0120】
B.インビボ用途
肝不全及び機能喪失は、肝疾患の最も重篤な結果の1つである。その急速な発症、急速な進行のため、肝移植は、これらの疾患の処置の主要な手段である。しかしながら、ドナー不足は、肝移植を待っている間に死亡する多くの患者において深刻な欠如を示す。
【0121】
したがって、iHepは、例えば、肝不全及び機能喪失疾患の処置に使用することができる。
【0122】
門脈への経皮又は経頸静脈注入、又は脾髄又は腹腔への注射による単離したiHep又はHPLCの移植は、肝移植と比較して侵襲性の低い方法である。iHepは、好ましくは、処置される同じ動物から得られる。宿主の肝臓は除去又は切除されないので、移植片機能の喪失が肝機能を悪化させることはない。更に、単離したiHepは、潜在的には、容易なアクセスのために凍結保存され得る。iHepは、例えば、肝腫瘍に対する放射線療法に起因する放射線誘発肝障害から患者を救済するためのエクスビボ遺伝子療法のビヒクルとして使用することができる。iHepは、肝細胞の移植のために知られているマトリックスなどの担体を用いて、レシピエントの生体内に移植することができる。例えば、Zhou, et al., Liver Transpl., 17(4):418-27 (2011)は、肝細胞移植のための担体としての脱細胞化肝マトリックス(DLM)の使用を開示している。Schwartz, et al., Int. J. Gastroentrol., 10(1)は、組織試料から肝臓及び膵臓細胞を単離し、ポリ-L-乳酸マトリックス上に播種し、同じ患者の腸間膜に再移植したことを開示している。
【0123】
iHepはまた、バイオ人工肝臓支持システムにおいて使用することができる。開示された細胞に基づくバイオ人工肝臓支持システムは、移植のための適切なドナー源が見つかるまでの間、肝不全の主な機能を一時的に代替して(有害物質を除去し、肝臓合成生理活性物質を供給して)、患者の内部環境を安定化及び改善するために構築される。バイオ人工肝臓の製造方法は、例えば、米国公開第2008/0206733号に開示されている。
【0124】
V.キット
機能性肝細胞代謝特性を有する誘導性肝細胞への非肝細胞のインビトロリプログラミングを誘導するためのキットが開示される。前記キットは、肝細胞誘導因子であるHHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4、FOXA2、MYCをアップレギュレートする因子、及びp53遺伝子発現及び/又はタンパク質活性をダウンレギュレートする因子を含む。1つの実施態様では、前記キットは、HHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4、及びFOXA2、MYCの任意のDNA配列、及びp53遺伝子発現をダウンレギュレートするためのDNA配列を含む。好ましい実施態様では、キットは、HHEX、HNF4A、HNF6A、GATA4、及びFOXA2、MYC遺伝子を過剰発現するレンチウイルス及びp53遺伝子発現を阻害する核酸を含む。
【実施例】
【0125】
ヒト胚線維芽細胞(HEF)からヒト肝前駆細胞(hHPC)を生成するために、スクリーニングのためのいくつかの候補TFを、(i)肝器官形成におけるそれらの重要性、及び(ii)ヒト胎児肝細胞(hFLC)、肝細胞を生じる特定のヒト肝前駆細胞の本発明者らのRNAシーケンスデータのコンピュータ分析に基づいて同定した(表1)。
【0126】
【表1】
増殖停止及び細胞死を克服するために、c-MYC及びP53小分子干渉RNA(P53siRNA)と組み合わせた、様々な候補TFの組合せをスクリーニングした(Du, et al., Cell Stem Cell, 16:119-134 (2015)。
【0127】
材料及び方法
ヒト初代細胞の単離及び培養
本研究は、日中友好病院臨床研究倫理委員会(倫理認可番号:2009-50)及び北京大学幹細胞研究監視委員会(SCRO201103-03)により承認され、ヘルシンキ宣言の原則に従って実施された。妊娠14週目のヒト胚皮膚及び胎児肝臓組織を、患者のインフォームドコンセントを得て堕胎した組織から入手した。ヒト胚皮膚組織を鉗子で細断し、1mg/mL コラゲナーゼIV(Gibco)中で37℃にて1~2時間インキュベートした。酵素処理後、遠心分離によって細胞を回収し、HEF培地(10% ウシ胎児血清(FBS, Ausbian)、1% GlutaMAX(Gibco)、1% 非必須アミノ酸(NEAA, Gibco)及び1% ペニシリン/ストレプトマイシン(PS, Gibco)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, Gibco))に再懸濁した。細胞を10cmの組織培養皿上にプレーティングし、HEF培地中で増殖させた。
【0128】
胎児肝細胞は、以前に記載されているように得た(Lilja et al., Transplantation 64, 1240-1248 (1997))。簡単に説明すると、胎児肝組織を1mg/mL コラゲナーゼIVを補充した10mL RPMI1640培地中で消化するために1~3mm3の断片に切断した。37℃で15~20分間、消化を実施して、低速の遠心により赤血球を除去した。細胞をRPMI1640培地で3回洗浄し、遠心分離によって回収した。
【0129】
インフォームドコンセントを受けた後、肝移植に使用されなかったヒトドナー肝からヒト初代肝細胞を単離した(Seglen, Preparation of isolated rat liver cells. Methods in cell biology 13, 29-83 (1976))。簡単に説明すると、肝組織を、組織が緻密でなくなるまで、コラゲナーゼIV及びディスパーゼ(Sigma-Aldrich)で灌流して、ピンセットで分離した。肝細胞をHCM(Lonza)で3回洗浄し、コラーゲンで被覆したプレートにプレーティングし、HCM中で培養した。長期間のPHH実験のために、PHHは、2C培地(基礎培地を、2% B27(Gibco)、1% GlutaMAXを含有するHCM又はウイリアムズE培地とし、cAMPシグナル伝達活性化因子(50μMフォルスコリン又は50μM dbcAMP)及び10μM SB431542を加えた)で培養した。サンドイッチ培養実験のために、PHHをプレーティングし、次いで、1% ITS(Gibco)、1% GlutaMAX、1% NEAA、1% PS及び10-7M デキサメタゾンを補充したDMEM中で、氷冷したMatrigel(BD Biosciences)を用いて、24時間重層した。培養及び更なる実験は全てこの培地で行った。
【0130】
HepG2細胞は、Hui Zhuang氏(北京大学健康科学センター)から寄贈されたものであり、10% FBS、1% GlutaMAX、1% PS及び1% NEAA(Gibco)を含有するDMEM中で培養した。
【0131】
分子クローニングとレンチウイルスの産生
転写因子の相補DNAをヒト完全長TrueClones(商標)(Origene)から増幅し、ユーザーマニュアルに従ってpCDH-EF1-MCS-T2A-Puro(System Biosciences)に挿入した。c-MYCをFu-tet-hOct4(hOct4をc-MYCで置換した)の誘導系にクローン化した。(Hou et al., Science 341, 651-654 (2013))。p53siRNAをコードするオリゴヌクレオチドは、5’-TGACTCCAGTGGTAATCTACTTCAAGAGAGTAGATTACCACTGGAGTCTTTTTTC-3’及び5’TCGAGAAAAAAGACTCCAGTGGTAATCTACTCTCTTGAAGTAGATTACCACTGGAGTCA-3’であった。オリゴヌクレオチドを、Lenti-Lox3.7(pLL3.7)ベクター(Obach, et al., Drug metab Dispos., 27(11): 1350-9 (1999))中のU6プロモーターの下流に連結した。レンチウイルスの産生及び回収については、以前に記載した(Obach, et al., Drug metab Dispos., 27(11): 1350-9 (1999))。
【0132】
hHPLC及びhiHepの生成
ヒト線維芽細胞を、5つの転写因子、Fu-tet-c-MYC、FUdeltaGW-rtTA及びP53siRNAを含有するレンチウイルスで、10μg/mLポリブレンを含有するHEF培地中で10-20のm.o.iで12時間感染させた。細胞をPBSで洗浄し、HEF培地中で7日間培養した。感染した細胞を2μg/mL ピューロマイシンで24時間処理し、次いで、全ての細胞が上皮形態に変換するまで、HEM(50% DMEM/F12、1% PSを補充した50% ウイリアムズE培地、2% B27(VAなし)、5mM ニコチンアミド、200μM 2-ホスホ-L-アスコルビン酸(pVc)、3μM CHIR99021、5μM SB431542、0.5μM スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、5μM リゾホスファチジン酸(LPA)、40ng/mL EGF及び2μg/mL ドキシサイクリン)中で5日毎に4~5回再播種した。hHPLCをHEM中で維持し、4日毎に1:5の比率で継代した。肝前駆細胞の維持又は増殖について試験した10種類の培地を表2Aに示す。
【0133】
【0134】
【0135】
hHPLCから機能性hiHepを更に生成するために、hHPLCをコンフルエントになるまで培養し、次いで2C培地(50μM フォルスコリン又は50μM dbcAMP、及び10μM SB431542を含むHCM)で7~10日間処理した。
【0136】
遺伝子発現分析
全RNAをDirect-zol RNA Miniprep (ZYMO RESEARCH)により単離し、次いで、TransScript First-Strand cDNA Synthesis SuperMix (TransGen Biotech)により逆転写した。RT-qPCRは、BIO-RAD CFX384(商標)Real-time SystemでKAPA SYBR(登録商標) FAST Universal qPCR Mix (KAPA Biosystems)を用いて実施した。定量値は2つのハウスキーピング遺伝子(RPL13A又はRRN18S)によって決定されたインプットに対して正規化した。RT-qPCRプライマー配列は、表3により提供される。
【0137】
【0138】
免疫蛍光(IF)染色
細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA, DingGuo)中で、室温にて15分間固定し、0.25% TritonX-100及び5% 正常ロバ血清(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)を含有するPBSで室温にて1時間ブロッキングした。サンプルを4℃で、一次抗体と共に一晩インキュベートし、PBSで3回洗浄し、次いで室温にて適切な二次抗体と共に暗所で1時間インキュベートした。核をDAPI(Roche)で染色した。IF染色に用いられる一次抗体を表4に示す。
【0139】
【表4】
免疫蛍光に用いた二次抗体は以下の通りであった:DyLight(登録商標)550ロバ抗ウサギ、DyLight(登録商標)550ロバ抗ヤギ、DyLight(登録商標)550ロバ抗マウス、DyLight(登録商標)550ロバ抗ウサギ、DyLight(登録商標)650ロバ抗ヤギ、DyLight(登録商標)650ロバ抗マウス及びDyLight(登録商標)650ロバ抗ウサギ(全てAbcamより)。ALB陽性細胞の定量化のために、Operetta High-Content Imaging System (PerkinElmer)を用いて同じ露光量で10倍と20倍の倍率で画像をランダムに撮影し、次いで、Columbus Image Data Storage and Analysis Systemによって分析した。
【0140】
フローサイトメトリー
アキュターゼ(Millipore)を用いて37℃で3~5分間処理することにより、細胞を単細胞懸濁液中に放出した。細胞を基礎培地で洗浄した。完全に再懸濁した細胞を、4℃で20分間、固定/透過溶液(BD,554714)中に加えた。1×BD透過/洗浄緩衝液中で細胞を2回洗浄した。その後、細胞を、2% 正常ヤギ血清を有する透過洗浄緩衝液からなる200μLの染色緩衝液中で、4℃で2時間一次抗体にコンジュゲートさせた。染色された細胞をBD洗浄緩衝液中で2回洗浄し、二次抗体を含有する200μL 染色緩衝液中でインキュベートした。BD洗浄緩衝液中で2回洗浄した後、細胞をBD洗浄緩衝液中に再懸濁し、BD FACSCalibur flow cytometry systemで分析した。データはFlowJoソフトウェアにより分析した。
【0141】
アルブミンELISA、α1-フェトプロテインイムノアッセイ、PAS染色、LDL取り込み、オイルレッドO染色
ヒトアルブミンの分泌は、ヒトアルブミンELISA定量キット(Bethyl Laboratory)を用いて、製造業者の指示に従って測定した。ヒトα1-フェトプロテインの分泌は、製造業者の指示に従って、cobas8000によるイムノアッセイ(Roche)を用いて測定した。PAS染色システムはSigma-Aldrichから購入した。培養物を4% パラホルムアルデヒド(DingGuo)で固定し、製造業者の指示に従って染色した。LDL取り込みアッセイのために、hiHepを、10μg/mL DiI-Ac-LDL(Invitrogen)で4時間、及び1μg/mL Hoechst33342(Thermo Fisher Scientific)で30分間、37℃でインキュベートし、次いで、3回洗浄し、その後、蛍光顕微鏡を用いたイメージングを行った。脂質の検出は、製造業者の指示に従って、Lipid (Oil Red O) Staining Kit (Sigma)を用いて実施した。
【0142】
チトクロムP450の活性の測定
CYP450の活性を測定する方法については既に述べた。簡単に説明すると、hiHeps及びHepG2細胞を、分離、懸濁して、それらのCYP450活性を測定し、F-PHHにおけるCYP450活性を単離直後に測定した。市販の凍結保存したPHHをRILD (Shanghai)から購入し、蘇生後すぐに使用した。1つの500μLの反応物は、2.5×105細胞及び示された基質を含んでいた。37℃のオービタルシェーカー中で15~30分間インキュベートした後、反応物の三倍容量のクエンチング溶媒(メタノール)を含有する試験管にサンプルのアリコートを加えることにより反応を停止させ、-80℃で凍結させた。同位体標識した参照代謝産物を、更なる質量分析(超高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析、UPLC/MS/MS)のための内部標準として用いた。基質の詳細、内部標準及びその他の関連情報を表5に示す。
【0143】
【0144】
UPLC/MS/MS分析は、Sciex API4500Q-trap Mass Spectrometer (SCIEX)と連結したACQUITY H-Class UPLC System (Waters)を用いて行った。分析カラムは、プリガードカラムと連結したACQUITY UPLC(登録商標) BEH C18 1.7 μm 2.1 * 50 mmであった。結果は、1分当たり及び100万細胞当たりの形成される代謝物のピコモルとして表される。hiHepを直接用いてCYP3A4、CYP2B6、CYP2C8及びCYP2D6の活性を測定した。CYP1A2の活性を測定するため、hHPLCを2C培地に3μM CHIR及び2μM U0126を加えて培養した。CYP2C9及びCYP2C19の活性を測定するために、hiHepを10μMのリファンピンと共に培養した。
【0145】
CYP3A4,CYP2B6及びCYP1A2の誘導活性を測定するために、hiHepを、更に、50μM リファンピン、1mM フェノバルビタール、50μM β-ナフトフラボン又は10μM ランソプラゾールと共にHCM中で3日間培養した。ビヒクルで処理した群を用いて基礎活性を測定した。PHHの誘導活性を測定するために、PHHをサンドイッチ法で培養し、誘導した。
【0146】
肝クリアランスの測定
クリアランスの測定は、以前に記載されているように実施した(McGinnity, et al. Drug metabolism and Disposition: The Biological Fate of Chemicals 32, 1247-1253 (2004); Obach, et al.. Drug metabolism and Disposition: The Biological Fate of Chemicals 36, 1385-1405 (2008))。簡単に説明すると、1×106細胞/mLの細胞懸濁液及び2×薬物溶液を、インキュベーション培地(ウイリアムズE培地、10mM HEPES[pH 7.4]、及び1% GlutaMAX)中で調製した。反応は、500μLの薬物溶液を500μLのhiHepに加える(1~2μMの最終基質濃度を得る)ことによって開始した。基質の詳細な情報を表6に示す。
【0147】
【表6】
これらの濃度は、ほとんどの基質に対してKm未満ではあるが、それでも十分な分析感度を有するように選択した。反応は、37℃にて、インキュベーター中のオービタルシェーカーにおいて実施した。次いで、80μLのアリコートを0、15、30、60、90,120,180及び240分で除去し、サンプルを、同位体標識した参照物質を含有する240μLのメタノール中でクエンチし、-80℃で凍結した。これらの基質を、上述の有効な従来のLC-MS/MS法を用いて定量した。アッセイは3回実施した。
【0148】
インビトロ内因性クリアランス(CLint)は、以前に記載されているように、親の消失速度を用いて測定した(Houston, Biochemical pharmacology 47, 1469-1479 (1994); Levy et al., Nature biotechnology 33, 1264-1271 (2015))。log[基質]対時間のプロットからの線形回帰の勾配(-k)を決定した。消失速度定数は、k=0.693/t1/2であったので、CLintを親の消失のt1/2で表す式を、次式:Clint=体積×0.693/t1/2として導出した。ヒト肝重量22g/kg体重、及び肝細胞密度120×106細胞/gの生理学的パラメータを用いて、肝細胞のCLint(単位、μL/分/106細胞)をインビボCLint(単位、mL/分/kg)にスケーリングした。ヒトのインビボ肝クリアランス(CLh)の予測は、非制限的な、wellstirredモデルの改変版を用いて次のように行った:CLh=(CLint×Qh)/(CLint×Qh)、式中、Qhは肝血流(ヒトQh=20mL/分/kg)である。インビトロ及びインビボの結合の任意の差についての補正係数は作成せず、血漿と血液の間の薬物分布は単一であると仮定した。
【0149】
毒性アッセイ
毒性アッセイのために、hiHep、HepG2細胞及びPHHを96ウェルプレート又は384ウェルプレート中で培養した。7~8の希釈濃度を有する化合物を、HepG2細胞を試験するために3% FBSを有するDMEM中で、又はPHH及びhiHepを試験するためにHCM中で調製した。すべての条件下で最終のDMSO濃度は一定であった。試験した化合物の詳細な情報を表7に列挙する((Seglen, et. Al., Methods in Cell Biology 13, 29-83 (1976)), Zhong et. Al., Clin Chim Acta. 412,1905-1911 (2011)))。
【0150】
【0151】
化合物を、半対数濃度増分による希釈系列において2群で試験した。細胞を化合物で24時間処理した後、上清を廃棄し、蛍光プローブを含有する改変WEM(2% B27及び1% GlutaMAXを補充したウィリアムズE培地)を細胞に加えた。以下の3つの蛍光プローブ:2μM CellTrace(商標) Calcein Red-Orange AM (Thermo Fisher Scientific)、0.1μM MitoTracker(商標) Deep Red FM (Thermo Fisher Scientific)及び1μg/mL Hoechst 33342 (Thermo Fisher Scientific)を、培養中の細胞をモニターするために同時に使用した。30分間インキュベートした後、上清を廃棄し、細胞を二回洗浄した。画像はOperetta High-Content Imaging System (PerkinElmer)を用いて10×対物レンズを用いて取得した。蛍光プローブを含有する上清を廃棄し、細胞を更に9.1% CCK-8(Dojindo)を含有する修飾したWEMを用いてインキュベートした。インキュベーター内での1~4時間の発色反応後、SpectraMax i3x (Molecular Devices)を用いて450nmでの吸光度を読み取った。画像データはColumbus Image Data Storage and Analysis System (PerkinElmer)を用いて以下の工程でオンラインで分析した:(1)核の同定及び計数;(2)CellTrace(商標) Calcein Red-Orange AMによって標識した生細胞の同定及び計数;(3)MitoTracker(商標) Deep Red FMによって標識した生細胞の同定と計数。画像データ及びCCK-8アッセイデータから変換した各パラメータの生存率をExcelに入力した。各パラメータの細胞生存率を生細胞比として表し、陰性対照に対して正規化した。これら4つのパラメータのTC50値を別々に算出し、最小TC50値を最終TC50として使用した。
【0152】
脂肪症及びリン脂質症アッセイ
細胞内脂質のイメージング及び定量は、製造業者の指示に従ってHCS LipidTOX(商標) Deep Red Neutral Lipid Stain (1000×) (Thermo Fisher Scientific)を用いて実施した。簡単に説明すると、hiHepを以下の濃度勾配:TC50の100%、80%、60%、40%、20%及び0%を有する化合物と共にインキュベートした。アミオダロン、テトラサイクリン塩酸塩及びリファンピンのTC50値は、それぞれ30μM,400μM及び100μMであり、使いやすいようにすべて丸めた。試験したウェル及び対照ウェルの全ての最終DMSO濃度は0.1%であった。化合物と24時間インキュベートした後、細胞を4% PFAで固定した。核はDAPIで染色し、脂質は1×Neutral Lipid Stainで染色した。画像はOperetta High-Content Imaging System (PerkinElmer)を用いて撮影し、Columbus Image Data Storage and Analysis Systemを用いて分析した。
【0153】
細胞内リン脂質の定量は、HCS LipidTOX(商標) Red Phospholipidosis Detection Reagent (1000×) (Thermo Fisher Scientific)を用いて、製造業者の指示に従って実施した。簡単に説明すると、hiHepを、1×リン脂質症検出試薬及び以下の試験化合物の最終濃度で培養した:アミオダロン(TC50≒30μM)、クロルプロマジン(TC50≒25μM)及びリファンピン(TC50≒100μM)。TC50値は、使いやすいようにすべて丸めた。化合物を以下の濃度勾配:TC50の80%、60%、40%、20%及び0%で試験した。試験したすべてのウェルの最終DMSO濃度は一定であった。化合物及び検出試薬を24時間インキュベートした後、細胞を4% PFAで固定し、核をDAPIで染色した。画像はOperetta High-Content Imaging Systemを用いて撮影し、Columbus Image Data Storage and Analysis Systemを用いて分析した。
【0154】
薬物-薬物相互作用アッセイ
DMSO群のhiHepを、DMSOを補充したHCM中で3日間培養した。RIF群中のhiHepを、20μMのリファンピンを補充したHCM中で3日間培養した。RIF+KC群中のhiHepを、20μMのリファンピンを補充したHCM中で3日間培養し、3日目にKCを加えた。これらの条件の各日の最終DMSO濃度は、これら3群の中の最高濃度に統一した。アフラトキシンB1及びフルタミドは、毒性アッセイに続いてこれらの細胞に対して更に試験を行った。
【0155】
HBV感染及びHBV複製中間体の分析
HBVを、遠心フィルター装置(Centricon Plus-70, Biomax 100.000, Millipore Corp., Bedford, MA)を用いて、HBV産生HepAD38細胞系の上清から濃縮し、HBV-DNA RT-qPCR (KHB, Shanghai, China)により力価を測定した。hiHep及びPHHを、2% DMSO及び4% PEG8000(Sigma Aldrich)を含有するHCM中で、約300の感染多重度(MOI)でHepAD38由来のHBVで16~20時間感染させた。感染後、細胞をPBSで9回洗浄し、高度2C培地で培養した。HepG2-NTCP細胞を2% FBS、2% DMSO及び4% PEG8000を含有するDMEM中、同じMOIで感染させ、2% FBS及び2% DMSOを補充したDMEM中で培養した。hHPLCを、4% PEG8000を含有するHEM中で感染させた。培地を3日毎に交換し、上清を採取した。HBVライフサイクルの阻害のために、ラミブジン(LAM)(TargetMol)及びエンテカビル(ETV)(TargetMol)を、感染中及び感染後にそれぞれ1μM及び0.5μMで使用した。ウイルス侵入阻害剤N末端ミリストイル化ペプチド(MYR(Hui Zhuang氏の研究室提供))を感染中に500μMで使用し、IFN-α(Genway)を感染後に1000U/mLで使用した。HBVウイルス抗原であるHBsAg及びHBeAgを、製造業者の指示に従って市販のELISAキット(Autobio, Henan, China)を用いて上清50μLを用いて試験した。細胞外HBV-DNAの定量を、HBV検出キット(中国上海市KHB)を用いたDNA抽出を介して実施した。細胞内HBV-DNAはDNeasy Blood & Tissue kit (QIAGEN)を用いて抽出し、次の特異的プライマーを用いてリアルタイムPCRにより定量した:5’-GAGTGTGGATTCGCACTCC-3’(順方向)及び5’-GAGGCGAGGGAGTTCTTCT-3’(逆方向)。ウイルスゲノム等価コピーは、既知のコピー数を有するサンプルから作成した標準曲線に基づいて算出した。リアルタイムPCRは、KAPA SYBR(登録商標) FAST Universal qPCR Mix (KAPA Biosystems)及びBIO-RAD CFX384(商標) Real-time Systemを用いて実施した。
【0156】
HBV特異的RNAを定量するために、Direct-zol RNA Miniprep kit (ZYMO RESEARCH)を用いて、HBVに感染した細胞から全RNAを単離した。HBV特異的RNAの定量を前述のように実施した。約400ngの全RNAを、TransScript First-Strand cDNA Synthesis SuperMix (TransGen Biotech)を用いて、cDNAに逆転写した。HBV3.5kb転写産物には以下のプライマーを使用した:5’-GAGTGTGGATTCGCACTCC-3’及び5-GAGGCGAGGGAGTTCTTCT-3’。以下のプライマーを、HBV特異的転写産物の全てに使用した:5’-TCACCAGCACCATGCAAC-3’及び5’-AAGCCACCCAAGGCACAG-3’。これらの転写産物の定量はリアルタイムPCRにより実施した。
【0157】
HBVcccDNAは、Yanwei Zhong et al.が以前に報告したように、ローリングサークル増幅とリアルタイムPCRを組み合わせて定量化した。一本鎖及び弛緩環状DNAは、DNAテンプレートをプラスミドセーフアデノシン三リン酸(ATP)依存性デオキシリボヌクレアーゼDNase(PSAD, Epicentre Technologies)で処理することにより増幅前に分解された。PSADで処理した試料は、cccDNA選択性プライマーによって媒介されるリアルタイムPCRに先駆けてローリングサークル増幅(RCA)に供した。RCAを媒介するために4対のプライマーを設計した。
RCA1 AATCCTCACAATA*C*C99-113
RCA2 ACCTATTCTCCTC*C*C1758-1744
RCA3 CCTATGGGAGTGG*G*C510-524
RCA4 CCTTTGTCCAAGG*G*C2689-2675
RCA5 ATGCAACTTTTTC*A*C1686-1700
RCA6 CTAGCAGAGCTTG*G*T29-15
RCA7 TAGAAGAAGAACT*C*C2240-2254
RCA8 GGGCCCACATATT*G*T2599-2585
【0158】
Phi29DNAポリメラーゼ(New England Biolabs, Worcester, MA)を用いて、30℃で16時間反応を行い、65℃、10分間で終了させた。テンプレートとしてRCA産物を用いて、HBVcccDNAを更に増幅し、cccDNA選択性プライマー対(5’-GGGGCGCACCTCTCTTTA-3’1521-1538;5’-AGGCACAGCTTGGAGGC-3’1886-1870)を介したリアルタイムPCRにより定量した。
【0159】
HBVcccDNAのサザンブロット分析については、Cai et al., (Methods in Molecular Biology 1030, 151-161 (2013))に記載された方法を修正して使用した。簡単に説明すると、修正したHirt法を、記載されたようにタンパク質非含有ウイルスDNAを抽出するために使用し、抽出したDNAサンプルの半分をSpe1(NEB)で処理した。サザンブロッティングのために、DNAを1.2% アガロースゲルで分離し、次いでHybond-XL膜に転写した。3.2kb及び2.0kbのHBV DNA断片も同じアガロースゲルで泳動し、分子マーカーとして用いた。サザンブロットは、「Roche Techniques for Hybridization of DIG-labeled Probes to a Blot」を参照して、DIG High Prime DNA Labeling and Detection Starter Kit II (Roche, 11 585 614 910)を用いて実施した。レーン1~4は、患者の血清からのHBVに感染したhiHep由来のHirtDNAであり、レーン5~6はHepAD38由来のHBVに感染したhiHep由来のHirtDNAであった。
【0160】
RNAシーケンシング及びバイオインフォマティクス分析
RNeasyMini kit (QIAGEN)を用いて、HEF、hHPLC、hiHep、胎児肝細胞、HepG2細胞、及びF-PHHから全RNAを単離した。RNAシーケンシングライブラリーは、製造業者の推奨に従って、NEBNext Ultra(商標) RNA Library Prep kit for Illumina (NEB, USA)を用いて調製した。断片化しランダムにプライミングした150bpのペアエンドライブラリーをIllumina Hiseq 4000 platform上でシーケンスした。生成されたシーケンスリードは、STARを用いてヒトゲノムビルドhg19に対してマッピングされ、各遺伝子についてのリードカウントは、フィーチャーカウントを用いて算出された。
【0161】
遺伝子発現はDESeq2により正規化し、全サンプルの総計カウントが1未満の低発現遺伝子は除外した。RNA-seqデータの教師なしの階層的クラスタリングは、R(R 3.4.3, https://www.r-project.org)のhclustパッケージにより行った。ヒートマップはpheatmapパッケージによって生成された。
【0162】
マイクロRNAシーケンシング及びqPCR分析
マイクロRNAシーケンシングのために、全RNAをTRNzol Universal (TIANGEN)を用いて抽出した。RNAシーケンシングライブラリーは、製造業者の推奨に従って、NEB Next(登録商標) Multiplex Small RNA Library Prep Set for Illumina (NEB, USA)を用いて調製した。断片化しランダムにプライミングした140~160bpのシングルエンドライブラリーをIllumina Hiseq 2500 platform上でシーケンシングした。最初に、生のマイクロRNAディープシーケンシングデータの品質をソフトウェアFastQCによってチェックした。その後、ヒトゲノムビルドhg19に対してマッピングされたシーケンサーから生成されたクリーンなfastaフォーマットのシーケンシングリードを生成し、miRDeep2によってリードカウントを算出した。同定されたmiRNAの全てを、miRBaseのリリース22(2018年3月) (Kubota, et al., PNAS, 97, 12132-12137 (2000))において公表されたものと比較した。そして次に、マイクロRNA発現はDESeq2により正規化した。ヒートマップは、R(R3.4.3)のpheatmapパッケージ(pheatmap1.0.8)によって実施した。重要な肝マイクロRNAは、以前の報告 (Szabo, et al., Nature Reviews. Gastroenterology &hepatology 10, 542-552 (2013); Willeit, et al., European Heart Journal 37, 3260-3266 (2016); Lazaro et al., Hepatology 38, 1095-1106 (2003))に従って選択した。
【0163】
マイクロRNAのqPCR分析のために、全RNAをTRNzol Universal (TIANGEN)を用いて抽出し、次いでmiRcute miRNA First-strand cDNA (TIANGEN)を用いてcDNAに逆転写した。qPCRは、下記に列挙したプライマーでmiRcute miRNA qPCR Detection (TIANGEN)を用いて実施した。マイクロRNAの相対的な発現は、U6スプライソソームRNAに対して正規化する。
miR-15a TAGCAGCACATAATGGTTTGTG
miR-378 TCCTGACTCCAGGTCCTGTGT
miR-30e TGTAAACATCCTTGACTGGAAG
miR-192-3p CTGCCAATTCCATAGGTCACAG
miR-122 TGGAGTGTGACAATGGTGTTTG
miR-194 TGTAACAGCAACTCCATGTGGA
miR-25 CATTGCACTTGTCTCGGTCTGA
miR-26b TTCAAGTAATTCAGGATAGGT
U6-順方向 CTCGCTTCGGCAGCACA
U6-逆方向 AACGCTTCACGAATTTGCGT
【0164】
DNAメチローム分析
細胞を細胞懸濁液中に放出し、PBSで洗浄した。DNAを、QIAamp DNA Mini Kit (Qiagen)を用いて抽出した。DNAメチル化のレベルはIllumina Infinium HD Methylation Assay (Illumina)を用いたIllumina 850K Genechipにより、製造業者の指示に従って、測定した。メチル化レベルの生データは、illumine 850k platformにより実施した。すべての部位およびプロモーター領域のCpGメチル化レベルは、RnBeads (RnBeads_1.12.1, 1, https://github.com/thomasvangurp/epiGBS/tree/master/RnBeads) R packageにより算出した。すべてのDNAメチル化部位およびプロモーターの教師なし階層的クラスタリングは、R(R3.4.3)のhclustパッケージにより実施した。ヒートマップはpheatmapパッケージによって生成した。全サンプルの特定領域の可視化は、ソフトウェアIGV(IGV_2.4.14, 4, https://github.com/igvteam/igv)により行った。
【0165】
増殖曲線と倍加時間
異なる継代での線維芽細胞及びhHPLCの細胞数を、12ウェルプレートで中に細胞を播種した後、0、2、3及び4日目にカウントした。増殖量の測定値が、0日目でq1(単位、細胞)そして時間t2(単位、時間)でq2だった場合、倍加時間Td(単位、時間)は次のように算出した。
Td=(t2×log2)/(log(q2/q1))。
【0166】
線維芽細胞におけるH3K9me3によりマークされたサイレントな肝細胞遺伝子の活性化に関するRNA-seqデータの分析
図6Bにおいて分析した参照RNA-seqの生データをGEO(アクセッション番号GSE103078)からダウンロードした。生のリードをtophat2によってhg19にマッピングし、そしてHTseqを用いて遺伝子発現レベルを算出した。GSE103078からの発現データ及び本発明者らの研究からのデータを、Rパッケージ(preprocessCore)を用いた分位法によって正規化した。遺伝子活性化レベルは、線維芽細胞においてH3K9me3によってマークされ、Kenneth S. Zaret (Becker et al., Molecular Cell 68, 1023-1037 e1015 (2017))によって定義されるサイレントな肝遺伝子を用いて算出した。上記の方法を用いて、hiHepのlog2遺伝子発現を、0%が線維芽細胞のlog2遺伝子発現を表し、100%が初代ヒト肝細胞のlog2遺伝子発現を表す、相対スケールで算出した。負の値(hiHepsの遺伝子発現が、線維芽細胞のそれより低かった)は0%に丸められた。GSE103078からの相対的な発現値、及び発明者らの研究からのデータの分布を、Rのggplot2パッケージを用いてバイオリンプロットにより可視化した。
【0167】
統計解析
サンプルサイズはいかなる統計的方法によっても事前決定されておらず、系統再プログラミング及び幹細胞生物学の分野における標準的な慣行に基づく、ならびに予備データに基づく実験タイプに依存していた。実験は無作為化されておらず、研究者らは、実験中の割り付け及び結果の評価について盲検化されていなかった。すべての測定において、「n」は生物学的反復の数を表す。実験は少なくとも2回、独立にして繰り返され、そして代表的なデータを示した。群比較のためのP値は1元配置分散分析を用いて算出した。相関は、ピアソン相関係数を用いて評価した。全てのグラフにおける有意水準は、以下のように表される:*P<0.05、**P<0.01、*** P<0.001。別途記載されていない限り、標準的な統計解析は、デフォルトパラメータを用いてGraphPadPrism7で実施した。エラーバーはすべてSEMを表す。
【0168】
コード及びデータの可用性
研究において示されたデータを分析するために用いたバイオインフォマティクススクリプトは、GitHubから入手可能である。RNAシーケンシングデータはGeneExpressionOmnibus(GEO)で、アクセッション番号GSE112330として入手可能である。すべての図は関連する生データを有し、本試験の結論を支持するデータは、合理的な要求に応じて対応する著者から入手可能である。
【0169】
結果及び考察
本研究は、HHEX、HNF6A、GATA4、HNF4A及びFOXA2を含有する5-TFカクテルが、アルブミン(ALB)及びα-フェトプロテイン(AFP)の陽性細胞の産生をもたらしたことを示し、HEFからの肝運命変換を示唆する(データーは図示せず)。
【0170】
肝前駆細胞の特性を有する細胞を取得し増殖させるために、5-TFを過剰発現するHEFが、10の異なる培地(M1~10;表2A)を用いて、HPCを培養するために報告され、そしてM10は、2.7% ALB+細胞(
図1B)の最高収率を与えた。M10(表2B)の更なる補充の後には、上皮性コロニーの生成及び拡大を促進する、肝拡大培地(HEM)が得られ、ALB+細胞は40dpiで全細胞の約75%を確実に占めた(データは図示せず及び
図1B~D)。リプログラミングの間、HPCマーカーである、ALB、AFP及びEpCAMは、大きくアップレギュレートされ、線維芽細胞マーカーである、COL1A1及びTHY1はダウンレギュレートされた(
図1F)。5-TF及びHEMの組み合わせは、線維芽細胞から増殖性肝細胞を生成するための確実なシステムを確立する。
【0171】
重要なhHPCマーカーは、リプログラミングされた細胞において、有意に発現した(データは図示せず及び
図1E)。全体的なトランスクリプトームプロファイリングは、リプログラミングされた細胞は、hFLCに近いが、HEF及び単離したばかりの初代ヒト肝細胞(F-PHH)とは異なっていることを明らかにした(
図1G;及びデータは図示せず)。更に、hHPCの既知の役割を有する遺伝子を含む、hHPCに豊富な遺伝子は、大幅にアップレギュレートされた(例えば、AFP、ALB、CDH1、DLK1、EPCAM、HES1、HNF1B、KRT18、KRT8、MET、PROX1、TTR(データーは図示せず)。まとめると、これらの結果は、これらのリプログラミングされた細胞が、hHPC同一性を獲得したことを示しており、これら細胞はヒト肝前駆細胞様細胞(hHPLC)と名付けられた。
【0172】
次に、hHPC様細胞(hHPLC)を誘導して、ヒト誘導性肝細胞(hiHep)と命名した機能性肝細胞に、更に分化させた。第一に、更なる研究によりcAMP活性化剤とTGFβ阻害剤の組み合わせがPHHの必須機能を維持できることが確認された(
図2A)。特に、hHPLCは、この培地で10日間培養した場合、培養したPHHに類似した典型的な肝細胞形態を示す分化した細胞を形成し、E-カドヘリン及び肝性TFであるHNF4A、HNF1A、CEBPA、CEBPBに対して免疫陽性であった(データは図示せず)。フローサイトメトリー分析により、ALB+細胞はhiHepの90%以上を数えた(
図2C)。第二に、主要な成熟肝細胞機能遺伝子の発現レベルは、hHPLCと比較してhiHepにおいて劇的にアップレギュレートされることが見出され、そしてそれはF-PHH及び成体肝組織(AL)の発現レベルと同等であった(
図2D及び2B)。第三に、機能遺伝子である、ALB及びCYP450の発現は少なくとも35日間安定して維持され、その間胎児マーカーAFPは消失した(データは図示せず;
図2E及び2F)。更に、DLK1及びEPCAMを含む他の胎児肝細胞マーカーも、hiHepにおいてダウンレギュレートされた(データは図示せず)。第四に、hiHepは、CYP450、UGT1A1及びPORの重要な薬物代謝酵素に対して免疫陽性であった(データは図示せず)。第五に、hiHepは低密度リポタンンパク質(LDL)取り込み、脂肪滴合成及びグリコーゲン合成の能力がある(データは図示せず)。最後に、hiHepのALB分泌は、PHHのALB分泌とと同程度のレベルで少なくとも35日間維持された(
図2G及び2H)。これらのデータは、hHPLCが機能性肝細胞を生じさせることを示した。
【0173】
全体的な遺伝子発現分析では、階層的クラスタリングは、hiHepがF-PHH及びALと密接にクラスター化することを明らかにした(
図2I)。重要なことに、肝の重要なTF及び肝代謝に関与する遺伝子は、アップレギュレートされたが、一方で線維芽細胞シグネチャー遺伝子発現は、hiHepにおいて検出できなかった(データは図示せず)。全体的なDNAメチロームのレベルでは、hiHepはF-PHHと密接にクラスター化され、HEFから分離された(データは図示せず、
図3E)。また、特定の遺伝子領域におけるメチル化の変化も生じた(データは図示せず)。更に、マイクロRNAプロファイリングは、hiHepがF-PHHと密接にクラスター化し(データーは図示せず)、そしてhiHepにおけるmiR122を含む主要な肝細胞関連のマイクロRNAの発現がF-PHHと同等であることを示した(
図3F)。全体として、肝細胞遺伝子調節ネットワークの活性化及びDNAメチル化パターンは、hiHepにおける肝細胞の同一性の確立を明確に反映した。
【0174】
リプログラミングの方法のドナー変動性を排除するために、3つの異なるドナーの線維芽細胞及び1つの市販のヒト線維芽細胞株HFF-CRL-2097からリプログラミングされた更なる4つのhiHep細胞株を確立した。すべてのhiHepは、類似した全体的な遺伝子発現プロファイル(
図3G及び3H)を示した。CRL-2097由来のhiHepは、典型的な肝細胞形態、肝遺伝子発現及び肝細胞機能分析により示される機能的表現型を獲得した(データは図示せず;
図3I;4A~4B)。hiHepsは、薬物代謝、毒性予測、肝疾患モデリングを含むいくつかのインビトロの用途において機能的にPHHに置き換わることができた。薬物代謝については、CYP450及びhiHepにおける7つの主要な薬物代謝CYP450の機能を、質量分析により測定した(
図3A)。重要なことに、hiHepにおけるこれらのCYP450の代謝活性は、PHHにおける代謝活性と同等であった(
図3A)。更に、hiHepはまた、薬物クリアランス予測の可能性も示し、スケール化したhiHepのインビボ肝クリアランス(CL
h)は、以前の報告で観察されたインビボCL
hと同等であった(表8)(Lilja et al., Transplantation 64:1240-1248 (1997))。
【0175】
【0176】
次に、データは、hiHepが核内受容体活性化を介してCYP450の活性を調節することを示す。CYP3A4、CYP1A2及びCYP2B6をそれぞれ誘導するために、hiHepをPXRアゴニスト(リファンピン)、AhRアゴニスト(β-ナフトフラボン及びランソプラゾール)及びCARアゴニスト(フェノバルビタール)に曝露した場合、これらのCYP450は、それらに対応する誘導剤により誘導することができ、PHHにおける結果とすべて同等であった(
図3B)。hiHepはまた、構造的に異なるCYP3A4誘導剤にも反応した(
図4C)。これらのデータは、hiHepのPHHに対して同等な元来のCYP450代謝活性、及びインビトロの薬物代謝研究のためのhiHepの適合性を示唆した。データはまた、hiHepが、PHHとして肝薬物毒性を予測するための優れたインビトロ系を提供することを示した。第一に、25個の肝毒性物質をhiHepで試験した(表7)(Seglen, et. Al., Methods in Cell Biology 13, 29-83 (1976))。化合物の毒性は、細胞生存率の50%減少を引き起こす濃度であるTC50により特徴付けられた(
図4D)。注目すべきことに、これらの化合物についてのhiHepのTC50プロファイルは、PHHのTC50プロファイルと区別されなかった(
図3C)。興味深いことに、生体内活性化化合物は、HepG2細胞におけるTC50プロファイルよりも、hiHeps及びPHHにおけるTC50プロファイルのほうがより低いことを示し、hiHepの強い薬物代謝活性と一致した(
図3C)。慢性肝毒性物質のトログリタゾンは、以前のPHH研究(Hou et al., Science 341, 651-654 (2013))に則して、非致死濃度で、延長された9日間の薬物曝露後に広範な細胞死を引き起こした(
図3D)。第二に、薬物誘発性の病理学的効果をhiHepを用いて再現できた。重篤な及び用量依存性の脂肪症及びリン脂質症が、病理学的原因となる肝毒性物質への曝露下のhiHepにおいて検出された(データは図示されず、及び、
図4E及び4F)。最後に、hiHepは、薬物-薬物相互作用(DDI)に起因する毒性を評価することができた。2種類の生体内活性化薬物、アフラトキシンB1(AFB1)及びフルタミドの毒性は、hiHepにおいてリファンピンによる誘導後に増加し、そして更にhiHepはCYP3A4阻害剤ケトコナゾールにより救済された(
図4G)。
【0177】
次に、前記研究は、hiHepが、HBV感染を再現するインビトロモデルとして役立つかどうかを検証した。第一に、hiHepにおけるHBV受容体NTCPの発現を確認した(
図2D及び5A)。特に、HBVに感染したhiHepは、HBcAgに対して免疫陽性であった(データは図示せず)。hiHepにおけるHBsAg及びHBeAgの分泌、及びHBV-DNA、-RNA、-cccDNAの発現も解析した。hiHepにおけるこれらのHBVマーカーは、PHH及びHepG2-NTCP細胞におけるそれらと同等であった(
図5B)。重要なことに、cccDNAの存在は、サザンブロットによって確認された(
図5C)。動的分析は、HBsAg及びHBeAgの分泌が、徐々に増加し、20dpiでピークに達し、HBV-RNA発現の動態と相関することを明らかにした(
図5D~E)。この上清及び細胞内HBV-DNAは、36日間それらの発現を保持した(
図5F~G)。これらの結果は、hiHepが、インビトロでの長期間のHBV感染に対して確実に許容的であることを示した。
【0178】
次の研究では、抗HBV化合物に対するhiHepの反応を評価した。ウイルス侵入阻害剤であるN末端ミリストイル化ペプチド(MYR)は、HBV-RNAの低発現と一致した、HBVタンパク質に対する有意な阻害を示した(
図5I)。核酸類似体であるエンテカビル(ETV)及びラミブジン(LAM)は、特に長期処理中に、HBV-DNAを大きく阻害した(
図5D~G)。更に、インターフェロン-α(IFN-α)は、多くのIFN刺激遺伝子、特に抗ウイルスエフェクターのアップレギュレーションと関連して、上記のすべての主要なHBVマーカーに対して阻害作用を示した(
図5H)。これはIFN-α処理下でのhiHepにおける元来の抗ウイルス免疫応答を示唆した。これらの結果は、hiHepが、抗HBV薬物スクリーニングのための価値あるモデル及び肝疾患モデリングのための潜在的プラットフォームとして役立つことができることを示した。
【0179】
最終的に、大規模な肝細胞の用途ための細胞量の要求を満たすために、hHPLCから大量の機能性hiHepを生成することができた。集団倍加時間は、1:5の比でhHPLCを連続的に継代した後、P10とP30の間で類似しており(
図1H)、P40までの10継代毎のhHPLCの全体的遺伝子発現プロファイルは、hFLCと共にクラスター化され、インビトロ増殖中でのトランスクリプトームの安定性を示唆した(
図1G、データは図示せず)。これらの結果は、hHPLCが、40回の継代において9×10
27倍に安定して拡張増殖できることを示した。注目すべきことに、機能性hiHepは、hHPLCの早期及び後期継代の両方から安定的に生成され、類似の遺伝子発現プロファイル及び肝細胞機能を示した(データは図示せず)。
【0180】
更に、凍結保存したhHPLCもまた、安定した遺伝子発現及び分化能力を示した(
図6A)。
【0181】
要約すると、インビトロの毒性試験、創薬及びHBVの宿主であることに関して、高度に適用可能な、機能的能力を有するヒト肝細胞を大量に産生することができる、新しいツーステップの系統リプログラミング戦略が記載される。本発明者らのツーステップ戦略の基礎となる方法論的進歩は、自然の細胞運命変化経路を模倣する、高度な機能的誘導のための増殖性で可塑的な前駆細胞を第一に生成する、導入された中間工程である。興味深いことに、このデータは、サイレントであり、従来のリプログラミング戦略によって活性化することが困難であった、線維芽細胞のH3K9me3ヘテロクロマチン領域における約50%の肝遺伝子が、本発明者らのhiHepにおいて、確実に発現したことを示している(
図6B)。これは、本発明者らの戦略が、標的細胞型の遺伝子調節ネットワークに対するエピジェネティックな障壁を効果的に除去できたことを示す。このツーステップ戦略の別1つの利点は、基礎的及び臨床的用途のための大量の能力のある細胞の生成を可能にすることである。本明細書に開示される細胞運命変換戦略は、インビトロでの用途及び再生医療に影響を及ぼし得る、複数の細胞型の細胞運命変換に適用することができる。