(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】屋根補修方法および屋根材
(51)【国際特許分類】
E04D 3/00 20060101AFI20231013BHJP
E04G 23/03 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
E04D3/00 M
E04G23/03
(21)【出願番号】P 2022064882
(22)【出願日】2022-04-11
(62)【分割の表示】P 2020026087の分割
【原出願日】2015-03-10
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】512079978
【氏名又は名称】エバー修栄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】小川 修二
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-073506(JP,A)
【文献】特開2007-170036(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102004042055(DE,A1)
【文献】特開2002-242370(JP,A)
【文献】特許第2759030(JP,B2)
【文献】意匠登録第0809785(JP,S)
【文献】特許第3763576(JP,B1)
【文献】特開2014-037708(JP,A)
【文献】特開2007-051425(JP,A)
【文献】特開2005-188197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/00-3/40
E04G 23/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のスレート屋根材を新規の屋根材でカバーして補修するための屋根補修方法であって、
前記既設のスレート屋根材に貼着剤を塗布する塗布工程と、
前記既設のスレート屋根材を前記新規の屋根材でカバーし、釘を使用せずに前記貼着剤で固定するカバー工程と、
前記塗布工程と前記カバー工程を前記新規の屋根材を葺いた補修済の屋根材上に登ることなく棟側から軒先側に向かって行う工程と、を備え、
前記新規の屋根材は、
前記棟側の端部と、前記軒先側の端部と、を有する板状本体と、
前記棟側の端部に形成される平坦な差し込み部と、
前記軒先側の端部から屹立する屹立片と、前記屹立片から折り返された平坦な折り返し片と、を有する断面コ字状の取り付け部と、を有し、
前記カバー工程は、
対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材
に対して前記棟側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記差し込み部を差し込む工程と、
前記対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材
に対して前記軒先側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記折り返し片を差し込む工程と、を有し、
前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部の端部が、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の端部よりも前記棟側に位置し、
前記折り返し片は、前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡し、
前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部は、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記軒先側の前記新規の屋根材がカバーした前記既設のスレート屋根材側に押される、屋根補修方法。
【請求項2】
前記屹立片は、前記新規の屋根材内に侵入した雨水を外部に排出する水抜け孔を有する、
請求項1記載の屋根補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既設のスレート屋根等の屋根をカバーして補修するための屋根補修方法および屋根材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、意匠性に優れ、耐久性や耐火性、耐腐食性が高いことから、スレート屋根材を用い、これを横一文字葺き等の横葺きにしたスレート屋根が施工されている。しかしながら、アスベストの使用規制から補強材としてのアスベストを使用できないためスレート屋根材の強度が不足し、経年使用によりスレート屋根材が破損して水漏れを起こしてしまうという問題が生じている。
そのような問題を解決するために、既設の屋根材をそのまま残して、その上に新たなる屋根を重ねて葺くという補修方法(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の補修方法はカバー工法とも呼ばれるが、カバー工法の場合、
図6に示すように、下地となる既設の屋根材10に釘12を打ち付けて補修用の屋根材11を固定していたため、施工が面倒で、その釘12の周りから漏水が生じることが指摘されていた。また、
図7に示すように、従来の補修方法では既設の屋根材の軒先側Xから棟側Yの方向に補修用の屋根材を葺いていく必要があり、作業員が補修済みの屋根材の上に登りながら作業をすることとなり、作業員の足跡による汚れや傷が新たに生ずることがあった。
そこで、施工が簡単で、漏水の心配もなく、作業中に傷や汚れが生ずることないカバー工法の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はかかる課題を解決するべく、既設の屋根材の上下に重なる屋根材の隙間を利用して、この隙間に新たな屋根材を差し込み、固定することにより、簡単に既設の屋根材の上面に新たな屋根材をカバーして補修できることを知見した。
【0006】
本発明の屋根補修方法はかかる知見に基づきなされたもので、既設のスレート屋根材を新規の屋根材でカバーして補修するための屋根補修方法であって、前記既設のスレート屋根材に貼着剤を塗布する塗布工程と、前記既設のスレート屋根材を前記新規の屋根材でカバーし、釘を使用せずに前記貼着剤で固定するカバー工程と、前記塗布工程と前記カバー工程を前記新規の屋根材を葺いた補修済の屋根材上に登ることなく棟側から軒先側に向かって行う工程と、を備え、前記新規の屋根材は、前記棟側の端部と、前記軒先側の端部と、を有する板状本体と、前記棟側の端部に形成される平坦な差し込み部と、前記軒先側の端部から屹立する屹立片と、前記屹立片から折り返された平坦な折り返し片と、を有する断面コ字状の取り付け部と、を有し、前記カバー工程は、対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記棟側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記差し込み部を差し込む工程と、前記対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記軒先側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記折り返し片を差し込む工程と、を有し、前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部の端部が、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の端部よりも前記棟側に位置し、前記折り返し片は、前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡し、前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部は、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記軒先側の前記新規の屋根材がカバーした前記既設のスレート屋根材側に押される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の屋根補修方法および屋根材は、差し込み屋根材を既設の屋根材の隙間に差し込むだけでスレート屋根の補修ができることから、作業において特殊技能を必要とせず、作業時間も短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】差し込み屋根材の更なる他の実施形態の正面図
【
図4】差し込みカバー工法の施工状態を示す説明断面図
【
図5】棟仕上げ部における本発明を用いた差し込みカバー工法の施工状態を示す説明断面図
【
図6】従来のスレート屋根の補修方法を示す説明断面図
【
図7】従来のスレート屋根の補修方法を示す説明斜視図
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は差し込み屋根材1の一実施形態の斜視図を示したもので、カラー鉄板からなる長方形状の板状本体2の一端側を差し込み部3とし、該差し込み部3に対向する他端側に屹立片4と折り返し片5を連接させて断面コ字状の取り付け部6を形成するようにしたものである。本実施形態では、板状本体2の長辺が907mm、短辺が230mm、屹立片4の高さが6mm、折り返し片5の幅が30mmに加工されている。
【0010】
図2は差し込み屋根材の他の実施形態の端面図を示したもので、本実施形態のものでは、折り返し片5を板状本体2から離れる方向に開拡させており、屹立片4と折り返し片5の折り曲げ角度は95度に加工されている。
このように、前記差し込み屋根材1の取り付け部6の折り返し片5を前記板状本体2から離れる方向に開拡させれば、既設の屋根材の隙間に差し込んだ際に板バネの如く弾発力が働き既設の屋根材に強固に密着し、外れにくくなる。
【0011】
図3は差し込み屋根材の更なる他の実施形態の正面図を示したもので、取り付け部6の屹立片4の両端および中心部に、差し込み屋根材に侵入した雨水を外部に排出するための水抜け孔7が設けられている。
【0012】
図4は、差し込み固定カバー工法(屋根補修方法)の施工状態を示したものである。既設のスレート屋根の屋根材10を高圧洗浄した後にシリコン等の貼着剤を塗布し、差し込み屋根材1の差し込み部3を既設の屋根材10とその上側に重なる屋根材10との隙間に差し込み、さらに、前記既設の屋根材10の下側に重なる屋根材10との隙間に差し込み屋根材1の折り返し片5を差し込み固定する。このような差し込み作業を既設の屋根材10に対して繰り返し、全ての既設の屋根材10を差し込み屋根材1でカバーすることで、差し込み固定カバー工法が施工される。差し込み屋根材1は、取り付け部6を断面をコ字状にしているため、上下に重なる屋根材の隙間から毛細管現象により雨水が引き込まれても、折り返し片5の先端で水が止まり、奥まで雨水が侵入することを防止できる。
【0013】
尚、最も軒先側Xに位置する屋根材10の補修においては、差し込み屋根材1の折り返し片5を、前記既設の屋根材10とその下に設置されているスターター14との隙間に差し込み固定する。尚、図中13は野地板を示す。
【0014】
また、
図5は、スレート屋根の棟側Yの棟仕上げ部における施工状態を示したものである。棟側Yの棟仕上げ部においては、差し込み屋根材1の差し込み部3を棟包み板金15と既設の屋根材10との隙間に差し込み、さらに、前記既設の屋根材10の下側に重なる屋根材10との隙間に折り返し片5を差し込み固定する。尚、図中16は棟仕上げ部の貫板を示す。
【0015】
尚、前記の通り、従来の補修方法では既設の屋根材の軒先側Xから棟側Yの方向に補修用の屋根材を葺いていく必要があり、作業員が補修済みの屋根材の上に登りながら作業をすることとなり、作業員の足跡による汚れや傷が新たに生ずることがあったが、屋根の差し込み固定カバー工法においては、前記した通り、既設の屋根材10に対して、差し込み屋根材を差し込むだけなので、棟側Yから軒先側Xへの施工も可能であり、前記従来の補修方法の不都合をなくすことができる。
【0016】
尚、既設のスレート屋根においては、屋根材の隙間に雪止め金具が差し込まれている場合がある。この場合、従来のカバー工法による補修の際には雪止め金具を取り外してから補修を行う必要があったが、差し込み固定カバー工法によれば雪止め金具を持ち上げて雪止め金具の下から差し込み屋根材を差し込むことができる。従って、雪止め金具を取り外す必要がなくなり、作業時間を短縮できる。
【0017】
本実施形態の屋根補修方法および屋根材は、差し込み屋根材を既設の屋根材の隙間に差し込むだけでスレート屋根の補修ができることから、作業において特殊技能を必要とせず、作業時間も短縮できる。
また、従来の方法とは異なり屋根の棟側から軒先側へ順に補修していくことが可能となり、作業員が補修後の屋根に登らずに作業を行うことができるため、補修後の屋根材に傷や汚れがつくことを防止できる。
また、釘を使用しないでも施工できるために釘周りからの漏水の心配がない。
また、差し込み屋根材の板状本体とこれに屹立する屹立片と折り返し片とで断面をコ字状にしているため、上下に重なる屋根材の隙間から毛細管現象により雨水が引き込まれても、折り返し片の先端で水が止まり、奥まで雨水が侵入することを防止できる。
また、前記差し込み屋根材を金属板で構成すれば、現場で自在に折り曲げ加工ができ、補修対象となる屋根材の大きさに合わせて切断するといった作業が可能となり、多種多様なスレート屋根の補修に利用できる。
また、前記差し込み屋根材の取り付け部の折り返し片を前記板状本体から離れる方向に開拡させれば、既設の屋根材の隙間に差し込んだ際に強固に密着し、外れにくくなる。
また、前記差し込み屋根材の屹立片に水抜け孔を形成すれば、屋根材の隙間から万一雨水が引き込まれ侵入したとしても、水抜け孔から水抜きがなされるため、長期間水が溜まることによる屋根材の腐食を防止できる。
【0018】
以上では屋根補修方法および屋根材の実施形態を添付図面に基づき説明したが、本発明は前記図示した実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
差し込み屋根材の素材としては、前記実施形態ではカラー鉄板を用いた例で説明したが、ガルバニウム鋼板等の金属板やポリカーボネートFRP等の合成樹脂板等各種素材の屋根材を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の屋根補修方法および屋根材は、スレート屋根の補修において熟練した技術を要することなく簡単に施工することを可能とするものであり、産業上有用である。
【符号の説明】
【0021】
1 差し込み屋根材
2 板状本体
3 差し込み部
4 屹立片
5 折り返し片
6 取り付け部
7 水抜け孔
10 屋根材
11 従来の補修用屋根材
12 釘
13 野地板
14 スターター
15 棟包み板金
16 貫板